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特開2022-63419スイープ超音波スキャン式ウイルス不活化装置
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  • 特開-スイープ超音波スキャン式ウイルス不活化装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063419
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】スイープ超音波スキャン式ウイルス不活化装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/00 20060101AFI20220415BHJP
【FI】
A61B17/00 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171686
(22)【出願日】2020-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】720008944
【氏名又は名称】尾崎 仁志
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 仁志
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ33
(57)【要約】
【課題】人間に感染したウイルスを、生化学的な薬剤療法を使用することなく、超音波振動を患者の体表面から体内に向けて照射し、体内のウイルスを不活化(破壊)させる、安全な理学的治療装置の提供を企図した。
【解決手段】ウイルスを固体微粒子とみなし、個々の固体が持つ固有振動数(共振振動数、固有周波数ともいう)をMinnaertの式で求め、その固有振動数を発振する超音波を体内に照射してウイルスを共振振動させることで、感染ウイルスを不活化(破壊)する。しかし、ウイルスの大きさはすべてが均一ではなく、その大きさから求められる固有振動数も一定とはならず、そのために、照射する超音波の周波数をスイープ(掃引)させて、図1に示すシステムで感染患者の体表面をスキャンし、感染したウイルスを不活化(破壊)する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスに感染した患者の体表面から体内に向けて超音波を照射することで、体内のウイルスを不活化(破壊)する装置。
【請求項2】
ウイルスを不活化(破壊)するために、請求項1に記載した装置から照射される超音波の周波数(ウイルスの固有振動数)を図5のMinnaertの式によって求め、そこから得られた固有振動数を中心としたスイープ周波数の幅を2に入力し、6から発振されたスイープ信号を7のスキャナーで超音波振動に変換し、患者の体表面をスキャンすると、患者に感染したウイルスはその固有振動数で共振し、その結果として、ウイルスを不活化(破壊)することができる超音波の発振と照射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間に感染したウイルスを、感染患者の体表面にスイープ超音波発振スキャナーを走査することで、ウイルスを不活化(破壊)する装置である。
【背景技術】
【0002】
生物の定義は、その基本構造は細胞で、自己複製ができる、とされている(非特許文献1)。
【0003】
ウイルスの基本的な構造は、核酸(RNAまたはDNA)と、それを包み込む蛋白質の殻(カプシド)で構成されている。さらに、その周りを脂質と蛋白質からできた被膜(エンベロープ)で覆われている種類もあり、また、被膜の表面に糖蛋白質の突起(スパイク)を有するウイルス(コロナウイルスなど)も存在する。
【0004】
ウイルスは細胞よりもはるかに細かい固体微粒子である。ウイルスが増殖するためには、他生物の細胞に感染して核酸(複製情報の本体)を複製するしかほかに手段がない。したがって、細胞を構成せず、自己複製もできないウイルスは、生物の定義から外れる。
【0005】
ウイルス感染症に対する現在のところの治療法は、予防としてのワクチン接種と、感染してからの抗ウイルス薬投与が一般的な選択肢であるが、これらはウイルスを生物もしくは準生物とみなした生化学的な治療戦略といえる。
【0006】
しかし、ウイルスが感染して複製増殖しようとする患者(宿主)も生物であることから、生化学的戦略には宿主をも傷つけてしまう副作用(副反応)も多くみられ、かつウイルスは複製の度に変異を繰り返しているため、生化学的に開発されたワクチンや抗ウイルス薬が無効になるケースが多い。
【0007】
本発明は、前述したようにウイルスを非生物の固体微粒子とみなし、生化学的な不活化以外の方略を求めたものである。
【0008】
さて、あらゆる固体の物体には固有振動(共振振動あるいは共鳴ともいう)が存在している。固有振動とは、その物体が最も振動しやすい振動数で与えられた振動のことで、このときの振動数を固有振動数(共振振動数、固有周波数)という。この固有振動数に一致した振動を物体に与えると、物体は与えられた振動よりも大きな振幅で振動し、破壊されたり損壊されたりすることが知られている。固有振動(共振振動)による破壊で有名な例としては、人の声でワイングラスを割る実験がある。これはワイングラスの固有振動数に一致した音声を発することで、ワイングラスを共振(共鳴)させて割ることができるのである。
【0009】
ウイルスの大きさは種類によって異なるが、範囲で表すと数十nm~数百nmで、これは生物細胞(数千nm~数万nm)の100~1000分の1ぐらいの大きさである(非特許文献2)。おもなウイルスの大きさと特徴は図2(非特許文献3)のとおりである。
【0010】
図3にSARS-CоV-2(新型コロナウイルス)の電子顕微鏡写真(非特許文献4)を、図4にSARS-CоV-2(新型コロナウイルス)の構造(非特許文献5)を示す。
【0011】
図2図3図4で、ウイルスのおおよその大きさと形状が把握できる。そこで、固体微粒子としてのウイルスの固有振動数(共振振動数)を求めるためにMinnaertの式(非特許文献6)を用いて計算したところ、図5のような振動数が得られた。
【0012】
図2で示したように、例えばコロナウイルスの大きさは直径が80~120nmで、この大きさの固体微粒子の固有振動数(共振振動数)は82~55MHzとなる(図5参照)。
【0013】
しかし、この計算結果は、あくまでも理想値あって、ウイルスの大きさは均一ではなく、内部構造も一様ではないため、戦略上の概数とみなさなければならない。
【0014】
本発明装置の外観と使用方法は、既存の超音波診断装置(特許文献1)に似ている。
【0015】
本発明装置と超音波診断装置の相違点は以下の2つである。(a)超音波診断装置のプローブ(探触子)は、超音波信号を体内に発信し、体内からの反射波(エコー)を画像化するため、送受信器と画像モニターを備えている。一方、本発明装置のスキャナー(超音波診断装置のプローブに相当する)は、体内に超音波振動を送振する送振器のみで、受信器やモニターは必要がない。(b)超音波診断装置の目的は、体内情報を画像化するためであることから、発信超音波の周波数は2~10MHzで、どの周波数を選択するかは、得られる解像度(画質)と超音波の深達度(目標臓器の体表面からの深さ)で決められる。一方、本発明装置が使用する超音波の周波数は、Minnaertの式から得られたウイルスの固有振動数に合わせるため、50~100MHzが選ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開昭53-142072
【特許文献2】実全昭47-024042
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】バイオのプロが解説 ウイルスとは?―生き物との違いとコロナウイルスの増殖機構―。ちとせグループホームぺージ<URL: https://modia.chitose-bio.com/articles/virus_01/>
【非特許文献2】今さら聞けない「ウイルスと細菌と真菌の違い」。近畿大学病院ホームページ<URL:https://www.med.kindai.ac.jp/transfusion/ketsuekigakuwomanabou-252.pdf>
【非特許文献3】ウイルスの一般的特徴。佐賀大学医学部病因病態学講座生体防御学分野ホームページ。<URL: http://www.microbio.med.saga-u.ac.jp/Lecture/kohashi-inf1/part8/1.html>
【非特許文献4】2019-nCоVの電子顕微鏡写真。国立感染症研究所ホームページ<URL:https://www.niid.go.jp/niid/ja/multimedia/9368-2019-ncov.html>
【非特許文献5】AC Walls et al. セル181, 281(2020). Natureホームページ<URL:https://www.nature.com/articles/d41586-020-01444-z>
【非特許文献6】石原謙. BME, vol.6, No.1, 1992, p.47.
【非特許文献7】日本超音波医学会機器及び安全に関する委員会(翻訳)。診断用超音波の安全な使用(Gail ter Haar編)。2012。日本超音波医学会ホームページ<URL:https://www.jsum.or.jp/committee/uesc/pdf/download.PDF>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記0012から、直径が80~120nmのウイルスなら、超音波の周波数が55~82MHzでウイルスは共振振動することが求められたが、ターゲットとするウイルスを不活化(破壊)するためには、個々のウイルスの固有振動数に一致した周波数で超音波を発振しなければならない。しかし、前述したようにウイルスの直径はすべてが均一ではなく、同じ種類のウイルスでも直径は異なっており、当然、ウイルスの直径から求められる固有振動数にも幅が生じてしまう。
【0019】
また、人体内に発振された超音波は、人体の深部に入れば入るほど、周波数が高くなればなるほど、そのエネルギーが減衰してしまう(非特許文献7)。
【0020】
なお、超音波は人体に対してほとんど害を及ぼさないとされているが、出力が大きいと発熱やキャビテーション(空洞現象のことで、気泡の発生と消滅)を発生させる可能性があるため(非特許文献7)、安全のために生体でのデータ収集が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0021】
図1に、本発明システム全体の概略を示す。1は本体(超音波発振装置)、8は体表面から体内に超音波を送振するスキャナー、7はケーブルである。9は患者(ベッド上で伏臥位または仰臥位)、10はスキャナーの体表面での軌跡である。なお、スキャナーから発振された超音波が体内に伝達するさい、人体とスキャナーの音響インピーダンスの差から超音波が体表で反射してしまうため、超音波診断装置のときと同じように、体表面に超音波ゼリーを塗布する必要がある。
【0022】
上記0018の問題は、発振する超音波の周波数をスイープ(掃引)することで解決できる。周波数スイープの一例としてオーディオチェック用の信号がある。これは、オーディオアンプやスピーカーのチェックに使われる音源信号で、人間の可聴域である20Hzからスタートして連続的に20000Hzまで出力し、機器の異常を調べる方法で、オーディオマニアのあいだでは一般的である。
【0023】
スイープ信号の発振と制御についての知財情報は、特許文献2などを参考することができる。図6図7に、2つの異なるスイープ周波数幅とスイープ周期で出力したときの波形イメージのグラフを示す。
【0024】
上記0019の問題は、スイープ周波数の変動(高低の移動)に合わせて出力を増減することで解決できる。つまり、出力は一定ではなく、周波数が低ければ小出力、周波数が高ければ大出力になるよう制御する。深達度による減衰は、安全性を加味した最大出力で解決する。
【0025】
上記0020の問題は、非特許文献7で開示されているサーマルインデックス(TI)およびメカニカルインデックス(MI)が参考になる。本発明装置の対象はウイルスという有害微粒子であるため、装置使用による患者の安全性を担保するためには、高度な専門施設との共同研究が不可欠となる。現時点での共同研究施設は未定。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、人間に感染したウイルスの固有振動数を、前述したMinnaertの式から求め、その固有振動数に合わせた超音波振動を発振して体表面をスキャンし、体内のウイルスを不活化(破壊)するという、従来にはなかった発想から生まれた。本発明は、これまでの生化学的治療法(ワクチンや抗ウイルス薬)よりも圧倒的に安価かつ安全で簡便、しかもウイルスの変異にも影響を受けないという利点がある。そのため、医療政策面でも有利であり、本治療法が定着すれば、これまでのウイルス治療とは一線を画することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明装置のシステム概要と実施イメージ
図2】おもなウイルスの種類と大きさ(抜粋)
図3】SARS-CоV-2(新型コロナウイルス)の電子顕微鏡写真
図4】SARS-CоV-2(新型コロナウイルス)のイラスト。突起(スパイク)は宿主細胞に侵入するときのカギとなるが、図3の電子顕微鏡写真やこのイラストで判断する限り、ウイルスに振動を与えれば容易に剥脱しそうである
図5】Minnaertの式とそこから求められる共振振動数
図6】スイープ信号の設定例1:スイープ周波数幅を30~100MHz、スイープ周期を2サイクル/sで設定したときの波形イメージ
図7】スイープ信号の設定例2:スイープ周波数幅を40~80MHz、スイープ周期を7サイクル/sで設定したときの波形イメージ
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明装置の構造と使用方法は、既存の超音波診断装置のそれと比較して単純であるが、相手が感染性のウイルスであることから、その使用にあたっては十分な配慮と対策が必要である。施術者(医師または技師)は感染防御対策を徹底し、日本医師会のガイドラインなどを参考にして、治療にあたることが望ましい。
【0029】
しかし、ウイルスは本発明装置で不活化(破壊)できるため、万が一、医療者が感染しても本発明装置で治療すれば治癒可能となり、免疫力も獲得することが期待できる。したがって、感染が広がって治療を受ける患者が増えれば増えるほど、地域全体が集団免疫状態となり、感染治癒が優勢となる。楽観視はできないが、麻疹ウイルスと同じレベルで扱えることも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明装置は、構造的に超音波診断装置よりも低コストで製作でき、需要は全世界であることから、必要数を以下のように試算してみた。
【0031】
必要数を、人口1000人に1台として、わが国(人口1.3億人)では13万台、全世界(70億人)では70万台、となる。ちなみに、AED(自動体外式除細動器)は、わが国での累計販売台数(2017年時点)は約100万台で、人口130人に1台という計算になる。
【符号の説明】
【0032】
1 本体(超音波発振装置)。
2 入力値の設定、ここでスイープ周波数の幅と周期、出力値を入力する。
3 周波数による減衰を補正するための出力調整を行う。
4 スイープ振動の制御。
5 3で計算された出力値の制御。
6 4と5を統合してスイープ超音波を発振させる。
7 ケーブル。
8 体表面から体内に超音波を送振するスキャナー。
9 患者はベッド上で、伏臥位または仰臥位で治療を受ける。
10 体表面でのスキャナーの軌跡イメージ。
11 スイープ周波数幅を30~100MHz、スイープ周期を2サイクル/sに設定したときの出力波形イメージ。
12 スイープ周波数幅を40~80MHz、スイープ周期を7サイクル/sで設定したときの波形イメージ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7