(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063464
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】転舵システム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220415BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220415BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20220415BHJP
B62D 137/00 20060101ALN20220415BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
B62D137:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171746
(22)【出願日】2020-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】特許業務法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓嗣
(72)【発明者】
【氏名】仁田野 雅秀
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】安樂 厚二
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC34
3D232CC38
3D232CC39
3D232DA03
3D232DA05
3D232DA63
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3D232DC34
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3D333CD16
3D333CE34
3D333CE39
3D333CE41
(57)【要約】
【課題】転舵システムの改良を図ることであり、例えば、電動モータに流れる電流を用いて変換装置の異常を検出可能とすることである。
【解決手段】本転舵システムにおいて、例えば、電動モータに流れる電流の大きさである電流値が設定値より大きい場合、または、転舵軸の移動量に関連する移動量関連量に対して大きい場合に、変換装置が異常であると検出される。例えば、変換装置に錆が生じたり、異物が混入したりする等した場合には、変換装置の作動時の摩擦力が大きくなり、電動モータに加えられる負荷が大きくなり、電動モータに流れる電流が大きくなる。このように、電動モータに流れる電流の電流値が、設定値より大きい場合、または、移動量関連量に対して大きい場合に、変換装置が異常であると検出することができるのであり、電動モータに流れる電流を用いることにより変換装置の異常を検出することができるのである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムであって、
前記転舵軸と、
電動モータと、
前記電動モータの回転を前記転舵軸の移動に変換する変換装置と、
前記電動モータに流れる電流を検出する電流センサと、
前記転舵軸の中立位置からの移動量または前記中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量を含む移動量関連量を取得する移動量関連量取得装置と、
前記電動モータを制御する制御装置と
を含み、
前記制御装置が、前記電流センサによって検出された前記電動モータに流れる電流の大きさである電流値が、前記移動量関連量取得装置によって取得された前記移動量関連量に対して大きい場合に、前記変換装置が異常であると検出する異常検出部を含む転舵システム。
【請求項2】
前記異常検出部が、前記移動量関連量が予め定められた設定値である設定移動量関連量に達した場合の前記電流値の前記移動量関連量に対する変化勾配を取得し、その変化勾配に基づいて前記電流値が設定電流値に達した場合の前記移動量関連量である推定最大移動量関連量を取得し、その推定最大移動量関連量が異常判定しきい値より小さい場合に、前記変換装置が異常であると検出するものである請求項1に記載の転舵システム。
【請求項3】
転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムであって、
前記転舵軸と、
電動モータと、
前記電動モータの回転を前記転舵軸の移動に変換する変換装置と、
前記電動モータに流れる電流を検出する電流センサと、
前記電動モータを制御することにより、前記転舵軸の移動量を制御し、前記車輪を転舵する転舵制御装置と、
前記転舵制御装置による制御中に、前記電動モータに流れる電流の電流値が許容上限値に達した場合に、前記変換装置が異常であると検出する異常検出部と
を含む転舵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載され、転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、転舵軸の移動により車輪を転舵する転舵システムが記載されている。この転舵システムは、転舵軸と、電動モータと、電動モータの回転を転舵軸の移動に変換する変換装置と、電動モータの回転角を検出する回転角センサと、転舵軸の移動量を検出する移動量検出装置と、変換装置の異常を検出する異常検出部とを含む。異常検出部により、電動モータが作動させられた場合の、電動モータの回転角と転舵軸の移動量とが検出され、これら電動モータの回転角と転舵軸の移動量との関係が予め定められた関係から外れた場合に、変換装置が異常であると検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、転舵システムの改良を図ることであり、例えば、電動モータに流れる電流を用いて変換装置の異常を検出可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る転舵システムにおいて、例えば、電動モータに流れる電流の大きさである電流値が、設定値より大きい場合、または、転舵軸の移動量に関連する移動量関連量に対して大きい場合に、変換装置が異常であると検出される。例えば、変換装置に錆が生じたり、異物が混入したりする等した場合には、変換装置の作動時の摩擦力が大きくなり、電動モータに加えられる負荷が大きくなり、電動モータに流れる電流が大きくなる。このように、電動モータに流れる電流の電流値が、設定値より大きい場合、または、移動量関連量に対して大きい場合に、変換装置が異常であると検出することができる。換言すれば、電動モータに流れる電流を用いることにより変換装置の異常を検出することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の実施例1に係る転舵システムを概念的に示す図である。
【
図2】上記転舵システムの構成要素である電動モータに流れる電流値と移動量関連量との関係を示す図である。
【
図3】上記ステアリングECUの記憶部に記憶された異常検出プログラムを表すフローチャートである。
【
図4】上記記憶部に記憶された転舵制御プログラムを表すフローチャートである。
【
図5】上記記憶部に記憶された別の移動検出プログラムを表すフローチャートである。
【本発明の実施の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態である車両の車輪を転舵する転舵システムについて図面に基づいて説明する。
【実施例0008】
図1に示すように、実施例1に係る転舵システムは、いわゆる、ステアバイワイヤ式のものであり、ハウジング8、車両の幅方向に伸びた転舵軸(ラックバーと称することができる)10、駆動源としての電動モータ14、電動モータ14の回転を転舵軸10の車両の幅方向(以下、転舵軸10の軸方向、または、単に軸線方向と称する場合がある。
図1において、軸線に符号Lを付した)の移動に変換する変換装置16等を備えた転舵装置20を含む。
【0009】
転舵軸10は、軸線方向の移動により車輪を転舵させる軸(バー)であり、ハウジング8に相対回転不能かつ軸線方向に相対移動可能に保持される。転舵軸10には、タイロッド23,24が連結されるとともに、図示しないナックルアームを介して車輪25,26が連結され、転舵軸10の軸線方向の移動により車輪25,26が転舵される。
【0010】
電動モータ14は、本体14hにおいてハウジング8に保持される。また、電動モータ14の出力軸(回転軸と称することもできる)12は転舵軸10と平行に伸びた姿勢にある。
【0011】
変換装置16は、本実施例においては、回転伝達部30、運動変換機構としてのねじ機構32等を含む。回転伝達部30は減速機の機能を備えたものであり、電動モータ14の出力軸12の回転速度を減速し、出力軸12のトルクを倍力してナット部材40に伝達するものである。回転伝達部30は、電動モータ14の出力軸12に一体的に回転可能に嵌合された小径プーリ38と、ナット部材40に一体的に回転可能に嵌合された大径プーリ44と、これら小径プーリ38と大径プーリ44とに掛け渡されたベルト46とを含む。
【0012】
大径プーリ44は、ハウジング8に、軸線Lの周りに回転可能にベアリング装置52を介して保持される。また、大径プーリ44の内周側にナット部材40が取り付けられる。小径プーリ38、大径プーリ44、ベルト46は、いずれも歯付きのものであり、歯同士の噛合により、小径プーリ38の回転が、ベルト46を介して、大径プーリ44に伝達され、ナット部材40に伝達される。
【0013】
ベアリング装置52は、本実施例においては、軸線方向に並んで設けられた2つのベアリング53,54と、ベアリング53,54の両側に位置する一対の皿ばね55,56とを含む。皿ばね55,56は、軸線方向に作用する力により弾性変形可能なものであり、ベアリング53,54の組付け誤差を吸収したり、転舵軸10の移動に伴って生じる音を低減したりする機能を有する。
【0014】
ねじ機構であるボールねじ機構32は、ナット部材40の回転を直線移動に変換して転舵軸10に出力するものである。ボールねじ機構32は、転舵軸10の外周部に形成された雄ねじ部28と、ナット部材40の内周部に形成された雌ねじ部48と、これらの間に介在させられた多数個のボール50とを含み、雌ねじ部48と雄ねじ部28とがボール50を介して螺合させられる。
【0015】
転舵軸10の軸線方向の変換装置16から離れた部分には、ねじ部60が設けられる一方、ハウジング8には、ねじ部60に螺合可能なピニオン62が保持される。ピニオン62は、転舵軸10のハウジング8に対する軸線方向の相対移動に伴って回転させられる。
本実施例においては、電動モータ14の回転に伴ってベルト46が移動させられ、それにより、ナット部材40が回転させられ、転舵軸10が軸線方向に移動させられる。また、転舵軸10のハウジング8に対する軸線方向の相対移動により、ピニオン62が回転させられる。そのため、ピニオン62の回転角に基づけば、転舵軸10の移動量を推定することができ、電動モータ14の回転角を推定することができる。この場合において、変換装置16が正常である場合には、電動モータ14の0点位置からの回転角とピニオン62の0点位置の回転角とが同じになるように、転舵システムの諸元が設定されている。
【0016】
本転舵システムには、コンピュータを主体とするステアリングECU70が設けられる。ステアリングECU70は、実行部70a、記憶部70b、入出力部70c等を備えたものである。入出力部70cには、運転者によって操作される操作部材72の操作状態を検出する操作状態検出装置74、車両の走行速度を検出する車速センサ76、周辺環境取得装置78、電動モータ14に流れる電流を検出する電流センサ79、電動モータ14の0点位置からの回転角を検出するモータ回転角センサ80、ピニオン62の0点位置からの回転角を検出するピニオン回転角センサ82、外気温度を検出する外気温度センサ84、電動モータ14に設けられ、電動モータ14の温度を検出するモータ温度センサ86、車両のメインスイッチ88等が接続されるとともに、報知装置90、電動モータ14等が接続される。
【0017】
操作部材72は、ステアリングホイールとすることができるが、その他、ジョイスティック、マウス状グリップ等とすることもできる。操作状態検出装置74は、操作部材72に加えられる操作力や操作量等を検出するものであり、操作力センサや操作量センサ等を含むものとすることができる。車速センサ76は、車両の走行速度を検出するものである。周辺環境取得装置78は、レーダ装置、カメラ等を含み、当該転舵システムが搭載された車両である自車両の周辺の物体等を検出し、その物体と自車両との相対位置関係を取得したり、区画線を認識して、自車両と区画線との間の距離を取得したりするものである。
【0018】
モータ回転角センサ80、ピニオン回転角センサ82は、本実施例においては、いずれも、絶対角センサであり、0点位置は、車両の出荷前の、転舵システムの温度が予め定められた設定温度(例えば、20℃)にある場合において、車輪25,26の転舵角が0である場合の電動モータ14の位置、ピニオン62の位置として設定される。換言すると、電動モータ14、ピニオン62が0点位置にある場合には、転舵軸10の位置が中立位置にあり、車輪25,26の転舵角が0であり、自車両は直進する。本実施例において、モータ回転角センサ80がモータ回転角取得装置に対応し、ピニオン回転角センサ82がピニオン回転角取得装置に対応する。
【0019】
また、ピニオン62は転舵軸10の軸線方向の移動に伴って回転させられるため、ピニオン62の0点位置からの回転角θpは、転舵軸10の中立位置からの移動量に1対1に対応する。そのため、ピニオン62の0点位置からの回転角θpは移動量関連量の一例であり、ピニオン回転角センサ82は移動量関連量取得装置の一例であると考えることができる。また、ピニオン62の0点位置からの回転角θpは車輪25,26の転舵角に対応し、ピニオン62の0点位置からの回転角θpの変化速度は転舵速度に対応する。そのため、本実施例においては、ピニオン62の0点位置からの回転角θpを、車輪25,26の転舵角と1対1に対応する物理量として採用し、ピニオン62の0点位置からの回転角の変化速度dθpを転舵軸10の移動速度、すなわち、転舵速度と1対1に対応する値として採用する。
【0020】
さらに、ピニオン62の0点位置からの回転角θpと電動モータ14の0点位置からの回転角θmとの間には予め定められた関係(例えば、同じである関係)が成立するため、ピニオン62の0点位置からの回転角θpに基づいて電動モータ14の0点位置からの回転角θmを推定することができる。そのため、移動量関連量取得装置は電動モータ14の回転角を推定する回転角推定装置であると考えることもできる。
以下、ピニオン62の0点位置からの回転角θp、電動モータ14の0点位置からの回転角θmを、単に、ピニオン62の回転角θpまたはピニオン回転角θp、電動モータ14の回転角θmまたはモータ回転角θmと称する場合がある。また、転舵軸10の中立位置からの移動量も、単に、転舵軸10の移動量と称する場合がある。
【0021】
外気温度センサ84は、外気温度を検出するものであり、モータ温度センサ86は、電動モータ14の内部の温度を検出するものである。モータ温度センサ86によれば、電動モータ14の発熱状態等が分かる。メインスイッチ88は、運転者等の操作により、自車両を始動させる場合等にONとされるスイッチである。報知装置90は、転舵システムの異常等を報知するものであるが、視覚的に報知するものであっても、聴覚的に報知するものであってもよく、ディスプレイ、光源、音声発生装置、ブザー等のうちの1つ以上を含むものとすることができる。
【0022】
ステアリングECU70の記憶部70bには、
図3のフローチャートで表される異常検出プログラム、
図4のフローチャートで表される転舵制御プログラム、
図2の実線が示す正常時マップ等が記憶される。
【0023】
以上のように構成された転舵システムにおいて、操作部材72の操作状態、周辺環境取得装置78によって取得された自車両の周辺にある物体と自車両との相対位置関係等に基づき、車輪25,26の目標転舵角が取得され、実際の転舵角が目標転舵角に近づくように、電動モータ14が作動させられ、車輪25,26が転舵される。転舵制御プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
【0024】
ステップ101(以下、単にS101と略称する。他のステップについても同様とする)において、操作状態検出装置74によって検出された操作部材72の操作状態を表す値、周辺環境取得装置78によって取得された周辺の物体等と自車両との相対位置関係等が取得される。S102において、これらに基づいて車輪25,26の目標転舵角、本実施例においては、車輪25,26の目標転舵角に対応する転舵軸10の目標移動量が取得される。S103において、ピニオン回転角θpに基づいて取得される実際の転舵軸10の移動量が目標移動量に近づくように、電動モータ14が作動させられる。それにより、転舵軸10が軸線方向に移動させられ、車輪25,26が転舵される。
【0025】
本実施例においては、転舵制御プログラムの実行と並行して、変換装置16の異常が検出される。例えば、変換装置16において、ボールねじ機構32に錆が生じたり、異物が混入したりすると、ナット部材40と転舵軸10との間の摩擦力が大きくなる。そのため、転舵軸10を移動させる際に、転舵軸10に大きな力が加えられ、電動モータ14に加えられる負荷が大きくなり、流れる電流が大きくなる。その結果、移動量関連量に対して電動モータ14に流れる電流が大きくなるのである。
【0026】
その場合の一例を
図2に示す。
図2において、破線Aは、変換装置16が異常である場合、例えば、変換装置16において、ある程度以上に錆が生じた場合における転舵軸10の中立位置からの移動量sと電動モータ14に流れる電流値Iとの関係を示し、実線Bは、変換装置16が正常である場合、例えば、錆が生じていない場合または錆が少ない場合におけるこれらの関係を示す。電動モータ14に流れる電流値は、移動量関連量が同じであっても、横G、路面の摩擦係数、車両の走行速度等によって異なるが、実線Bは、変換装置16が正常である場合において、車輪25,26に加えられる抵抗が大きく、大きな電流値が流れた場合のこれらの関係を示す。実線Bが表す関係である正常時マップは、記憶部70bに記憶されている。
【0027】
破線A、実線Bから、変換装置16が異常である場合には正常である場合より、転舵軸10の移動量sが同じ場合の、電動モータ14に流れる電流が大きくなることが明らかである。
【0028】
また、
図2の破線Aから明らかなように、転舵軸10の中立位置からの移動量sが大きくなると、電流値Iは急激に大きくなる。そのため、本実施例においては、電流値Iが大きな勾配で増加し始める転舵軸10の移動量sを設定移動量scとし、転舵軸10の移動量sが設定移動量scに達した場合の電流値Iの転舵軸10の移動量sに対する変化勾配dI/dsを取得し、変化勾配dI/dsに基づいて電流値Iが許容上限値Imaxに達した場合の転舵軸10の移動量sである推定最大移動量s*を推定する。そして、推定最大移動量s*が異常判定しきい値s*thより小さい場合に、変換装置16が異常であると検出されるようにした。
【0029】
許容上限値Imaxは、電動モータ14の規格等で決まる、その電動モータ14への供給が許容される電流の上限値である。また、異常判定しきい値s*thは、転舵軸10のフルストロークの場合の移動量に基づいて設定することができる。理論的に、電動モータ14に許容上限値Imaxの電流が供給された場合には、転舵軸10の移動量はフルストロークの場合の移動量より大きくなるのが普通である。
なお、本実施例においては、転舵軸10の中立位置からの移動量sを、ピニオン62の0点位置からの回転角θpで表す。ピニオン62の回転角θpと転舵軸10の移動量sとは1対1に対応し、かつ、比例関係にあるからである。また、設定移動量scに対応するピニオン回転角である設定ピニオン回転角をθpsとし、異常判定しきい値s*thに対応するピニオン回転角をθp*tとする。
【0030】
本実施例においては、異常検出プログラムが予め定められた設定時間毎に、転舵制御プログラムと並行して実行される。
S1において、電動モータ14に流れる電流値が電流センサ79によって検出され、S2において、ピニオン回転角θpがピニオン回転角センサ82によって検出され、S3において、ピニオン62の回転角θpが設定回転角θpsに達したか否かが判定される。判定がYESである場合には、S4において、その場合の電流値Iが実線Bで表す正常時の電流値の設定移動量sに対応する電流値Irより大きいか否かが判定される。
【0031】
S4の判定がYESである場合には、S5において、電流値Iのピニオン回転角θpに対する変化勾配dI/dθpが取得され、S6において、電流値Iが許容上限値Imaxに達した場合のピニオン62の回転角である推定最大ピニオン回転角θp*が取得される。そして、S7において、推定最大ピニオン回転角θp*が異常判定しきい値θp*thより大きいか否かが判定され、判定がNOである場合には、変換装置16が異常であると判定され、S8において、そのことが報知装置90により報知される。
【0032】
このように、本実施例においては、電動モータ14に流れる電流値と転舵軸10の移動量sとの関係に基づいて変換装置16の異常が検出されるのであり、電流値を用いて変換装置16の異常を検出することができる。
また、転舵軸10の移動量sが設定移動量scに達した場合の電動モータ14に流れる電流値Iの転舵軸10の移動量sに対する変化勾配dI/dsが取得され、変化勾配に基づいて電流値Iが許容上限値Imaxに達した場合の移動量である推定最大移動量s*が取得され、推定最大移動量s*が異常判定しきい値s*thより小さいか否かが判定されるのであり、早期に、変換装置16の異常を検出することができる。すなわち、実際に電動モータ14に流れる電流が許容上限値Imaxに達する前に、または、実際の転舵軸10の移動量がフルストロークに達する前に、変換装置16の異常を検出することができるのである。
【0033】
上記実施例において、ステアリングECU70等により制御装置が構成され、そのうちの
図3のフローチャートで表される異常検出プログラムを記憶する部分、実行する部分等により異常検出部が構成され、
図4のフローチャートで表される転舵制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により転舵制御装置、転舵制御部が構成される。
【0034】
なお、S4のステップと、S5,6のステップとの両方を設けることは不可欠ではなく、いずれか一方でもよい。
換言すると、移動量関連量が同じ場合に、電動モータ14に流れる電流値が、変換装置16が正常である場合の電流値Irより大きい場合に、変換装置16が異常であると検出されるようにしたり、移動量関連量が設定移動量関連量に達した場合の変化勾配に基づいて取得された許容上限値の電流が供給された場合の移動量関連量である最大推定移動量関連量が異常判定しきい値より小さい場合に、変換装置16が異常であると検出されるようにしたりすること等ができる。
【0035】
また、上記実施例においては、異常検出プログラムが、転舵制御と並行して行われる場合について説明したが、異常検出プログラムは、イニシャルチェック時等、転舵制御が行われていない場合に実行されるようにすることもできる。その場合には、変換装置16の異常を検出するために、電動モータ14が作動させられることになる。
【0036】
さらに、変換装置16の異常は、
図5のフローチャートで表される異常検出プログラムの実行により検出されるようにすることもできる。本実施例においては、電動モータ14に流れる電流値が許容上限値に達した場合に、変換装置16が異常であると検出される。
本異常検出プログラムは、転舵制御と並行して行われる。
S21において、電流値Iが検出され、S22において、電流が許容上限値Imaxに達したか否かが判定される。S22における判定がYESである場合には、変換装置16が異常であると検出されて、S23において、そのことが報知される。
【0037】
図2に示すように、変換装置16が正常である場合には、仮に、転舵軸10の移動量がフルストロークに達しても、電動モータ14に許容上限値Imaxの電流が流れることはない。それに対して、錆等により変換装置16の摩擦力が大きくなると、目標転舵角を実現するために、電動モータ14に大きな電流が供給される場合がある。そこで、転舵制御において、電動モータ14に流れる電流値が許容上限値Imaxに達した場合には、変換装置16が異常であると検出されるようにすることができる。
【0038】
その他、本発明は、上記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
8:ハウジング 10:転舵軸 14:電動モータ 16:変換装置 20:転舵装置 60:ねじ部 62:ピニオン 70:ステアリングECU 79:電流センサ 82:ピニオン回転角センサ 90:報知装置
移動量関連量取得装置は、例えば、転舵軸の中立位置からの移動量または前記中立位置からの移動量と1対1に対応する物理量を直接検出するものであっても、転舵軸の前回位置から今回位置までの移動量または移動量の変化量と1対1に対応する物理量を検出するセンサを含み、そのセンサの検出値に基づいて中立位置からの移動量またはその移動量に関連する物理量を取得するものであってもよい。
(2)前記異常検出部が、前記移動量関連量が予め定められた設定値である設定移動量関連量に達した場合の前記電流値の前記移動量関連量に対する変化勾配を取得し、その変化勾配に基づいて前記電流値が設定電流値に達した場合の前記移動量関連量である推定最大移動量関連量を取得し、その推定最大移動量関連量が異常判定しきい値より小さい場合に、前記変換装置が異常であると検出するものである(1)項に記載の転舵システム。