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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063491
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】内燃機関の制御システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/40 20060101AFI20220415BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
F02D41/40
F02D45/00 368Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171783
(22)【出願日】2020-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 準也
【テーマコード(参考)】
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3G301HA02
3G301JA21
3G301LB11
3G301MA11
3G301MA19
3G301MA23
3G301NC01
3G301ND26
3G301PB03
3G301PB05
3G301PE01
3G384AA03
3G384BA13
3G384BA18
3G384DA14
3G384EA02
3G384FA14
3G384FA16
3G384FA34
3G384FA56
(57)【要約】
【課題】メイン噴射を行った後に、燃料を噴射するアフター噴射のアフター噴射量を確保して、排気ガスを効果的に昇温することができる内燃機関の制御システムを提供する。
【解決手段】排気ガスの昇温を必要とする昇温要求時に、気筒内に燃料を噴射するインジェクタにパイロット噴射を行わせた後、メイン噴射を行わせ、その後にアフター噴射を行わせるように制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記メイン噴射によって前記気筒内に噴射されたメイン燃料の着火遅れの目標である目標着火遅れを取得する目標着火遅れ取得部と、前記アフター噴射のアフター噴射量を確保できる前記パイロット噴射の目標パイロット噴射量を設定する目標パイロット噴射量設定部と、前記目標パイロット噴射量の前記パイロット噴射を行った際の、前記気筒内に噴射された前記メイン燃料が前記目標着火遅れで燃焼するメイン噴射時期を設定するメイン噴射時期設定部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒内に燃料を噴射するインジェクタを備えた圧縮自着火式の内燃機関を制御する内燃機関の制御システムにおいて、
排気ガスの昇温を必要とする昇温要求時に、前記インジェクタにパイロット噴射を行わせた後、メイン噴射を行わせ、その後にアフター噴射を行わせるように制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、
前記メイン噴射によって前記気筒内に噴射されたメイン燃料の着火遅れの目標である目標着火遅れを取得する目標着火遅れ取得部と、
前記アフター噴射のアフター噴射量を確保できる前記パイロット噴射の目標パイロット噴射量を設定する目標パイロット噴射量設定部と、
前記目標パイロット噴射量の前記パイロット噴射を行った際の、前記気筒内に噴射された前記メイン燃料が前記目標着火遅れで燃焼するメイン噴射時期を設定するメイン噴射時期設定部と、
を有する、
内燃機関の制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御システムにおいて、
前記インジェクタから噴射可能な最小噴射量を予め記憶する記憶装置を備え、
前記目標パイロット噴射量設定部は、
前記最小噴射量に前記パイロット噴射を噴射する回数を掛け算した噴射量を前記目標パイロット噴射量として設定する、
内燃機関の制御システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の制御システムにおいて、
前記制御装置は、
前記気筒内に噴射された前記メイン燃料の推定実着火遅れと前記目標着火遅れとに基づいて、前記メイン噴射時期における前記気筒内の筒内温度を前記目標着火遅れで燃焼する目標筒内温度まで昇温させるために必要なパイロット噴射量を算出するパイロット噴射量算出部を有し、
前記メイン噴射時期設定部は、
前記パイロット噴射量算出部を介して前記メイン噴射時期が圧縮上死点のときに前記目標筒内温度まで昇温させるために必要な第1パイロット噴射量を算出する第1噴射量算出部と、
前記パイロット噴射量算出部を介して前記メイン噴射時期が圧縮上死点から所定クランク角度だけリタードした最遅角時期のときに前記目標筒内温度まで昇温させるために必要な第2パイロット噴射量を算出する第2噴射量算出部と、
前記第1パイロット噴射量と前記第2パイロット噴射量を直線補間して前記目標パイロット噴射量となる再メイン噴射時期を算出する再メイン噴射時期算出部と、
前記再メイン噴射時期に対応する再パイロット噴射量を前記パイロット噴射量算出部を介して算出する再噴射量算出部と、
前記再パイロット噴射量と前記目標パイロット噴射量との差の絶対値が所定閾値以下となるまで、又は、前記再メイン噴射時期と前記再パイロット噴射量を算出する回数が所定回数に達するまで、繰り返し、前記再パロット噴射量と前記第2パイロット噴射量を直線補間して再度、前記再メイン噴射時期と前記再メイン噴射時期に対応する再パイロット噴射量を算出する反復算出部と、
を有し、
前記反復算出部を介して算出された前記再メイン噴射時期を前記メイン噴射時期として設定する、
内燃機関の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮自着火式の内燃機関を制御する内燃機関の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮自着火式の内燃機関を制御する内燃機関の制御システムに関する技術が種々提案されている。例えば、下記特許文献1に記載される内燃機関の制御装置では、指標算出部は、燃料の着火性を変化させる吸気温度、吸気圧、EGRガスの還流量、過給圧、機関冷却水の水温、外気温、外気圧などのパラメータを基に、気筒内での燃料噴射弁にシングル噴射を行わせた際における燃料の着火遅れである指標τ0を、アレニウスの式を用いて算出する。
【0003】
続いて、目標算出部は、燃料の着火性と指標τ0とから着火遅れ目標値τtrgを算出する。一方、過給圧、吸入空気量、水温、吸気温度、メイン噴射の開始時期、メイン噴射の燃料噴射量等のパラメータから着火遅れτが算出される。そして、着火遅れτが着火遅れ目標値τtrgよりも短い場合は、弁制御部は、パイロット噴射での燃料噴射量を減少させる。また、着火遅れτが着火遅れ目標値τtrgよりも長い場合は、弁制御部は、パイロット噴射での燃料噴射量を増大させて、燃焼騒音の大きさを一定値で保持する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-33921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された内燃機関の制御装置では、DPFの再生を行う再生燃焼のような排気ガスの昇温を目的とした燃料の噴射制御において、排気ガスの昇温のためにメイン噴射時期をリタードした場合には、メイン噴射時期の気筒内温度が断熱膨張で必要以上に低下してしまう。そのため、メイン噴射の着火遅れτを着火遅れ目標値τtrgにするためには、メイン噴射時の気筒内温度を高い目標温度に設定する必要があり、パイロット噴射量を増大させる必要が生じる。その結果、メイン噴射を行った後に、燃料を噴射するアフター噴射のアフター噴射量が減少して、排気ガスの昇温が難しいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、メイン噴射を行った後に、燃料を噴射するアフター噴射のアフター噴射量を確保して、排気ガスを効果的に昇温することができる内燃機関の制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明は、気筒内に燃料を噴射するインジェクタを備えた圧縮自着火式の内燃機関を制御する内燃機関の制御システムにおいて、排気ガスの昇温を必要とする昇温要求時に、前記インジェクタにパイロット噴射を行わせた後、メイン噴射を行わせ、その後にアフター噴射を行わせるように制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記メイン噴射によって前記気筒内に噴射されたメイン燃料の着火遅れの目標である目標着火遅れを取得する目標着火遅れ取得部と、前記アフター噴射のアフター噴射量を確保できる前記パイロット噴射の目標パイロット噴射量を設定する目標パイロット噴射量設定部と、前記目標パイロット噴射量の前記パイロット噴射を行った際の、前記気筒内に噴射された前記メイン燃料が前記目標着火遅れで燃焼するメイン噴射時期を設定するメイン噴射時期設定部と、を有する、内燃機関の制御システムである。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関の制御システムにおいて、前記インジェクタから噴射可能な最小噴射量を予め記憶する記憶装置を備え、前記目標パイロット噴射量設定部は、前記最小噴射量に前記パイロット噴射を噴射する回数を掛け算した噴射量を前記目標パイロット噴射量として設定する、内燃機関の制御システムである。
【0009】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明又は第2の発明に係る内燃機関の制御システムにおいて、前記制御装置は、前記気筒内に噴射された前記メイン燃料の推定実着火遅れと前記目標着火遅れとに基づいて、前記メイン噴射時期における前記気筒内の筒内温度を前記目標着火遅れで燃焼する目標筒内温度まで昇温させるために必要なパイロット噴射量を算出するパイロット噴射量算出部を有し、前記メイン噴射時期設定部は、前記パイロット噴射量算出部を介して前記メイン噴射時期が圧縮上死点のときに前記目標筒内温度まで昇温させるために必要な第1パイロット噴射量を算出する第1噴射量算出部と、前記パイロット噴射量算出部を介して前記メイン噴射時期が圧縮上死点から所定クランク角度だけリタードした最遅角時期のときに前記目標筒内温度まで昇温させるために必要な第2パイロット噴射量を算出する第2噴射量算出部と、前記第1パイロット噴射量と前記第2パイロット噴射量を直線補間して前記目標パイロット噴射量となる再メイン噴射時期を算出する再メイン噴射時期算出部と、前記再メイン噴射時期に対応する再パイロット噴射量を前記パイロット噴射量算出部を介して算出する再噴射量算出部と、前記再パイロット噴射量と前記目標パイロット噴射量との差の絶対値が所定閾値以下となるまで、又は、前記再メイン噴射時期と前記再パイロット噴射量を算出する回数が所定回数に達するまで、繰り返し、前記再パロット噴射量と前記第2パイロット噴射量を直線補間して再度、前記再メイン噴射時期と前記再メイン噴射時期に対応する再パイロット噴射量を算出する反復算出部と、を有し、前記反復算出部を介して算出された前記再メイン噴射時期を前記メイン噴射時期として設定する、内燃機関の制御システムである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、制御装置は、目標パイロット噴射量のパイロット噴射を行った際の、メイン噴射によって気筒内に噴射されたメイン燃料が目標着火遅れで燃焼するようにメイン噴射時期を設定することができ、燃焼ロバスト性を確保することができる。また、目標パイロット噴射量のパイロット噴射を行うことによって、アフター噴射量を確保でき、アフター噴射を多段化して排気ガス温度を効果的に昇温することができる。更に、目標パイロット噴射量のパイロット噴射を行った際のメイン噴射時期を目標着火遅れになるまで最大限リタードすることが可能となり、排気ガスを効果的に昇温することができる。
【0011】
第2の発明によれば、制御装置は、インジェクタから噴射可能な最小噴射量にパイロット噴射を噴射する回数を掛け算した噴射量を目標パイロット噴射量に設定する。これにより、制御装置は、パイロット噴射量の最小化を図り、アフター噴射量を確実に確保して、アフター噴射を複数回行うことができる。その結果、制御装置は、排気ガスを更に効果的に昇温することができる。
【0012】
第3の発明によれば、メイン噴射時期設定部は、反復算出部を介して、再パイロット噴射量と目標パイロット噴射量との差の絶対値が所定閾値以下となるまで、又は、再メイン噴射時期と再パイロット噴射量を算出する回数が所定回数に達するまで、再パロット噴射量と第2パイロット噴射量を直線補間して再メイン噴射時期を算出する。そして、メイン噴射時期設定部は、反復算出部を介して算出された再メイン噴射時期をメイン噴射時期として設定する。
【0013】
これにより、制御装置は、目標パイロット噴射量のパイロット噴射を行った際の、目標着火遅れでメイン燃料が燃焼するメイン噴射時期を迅速に設定することができると共に、燃焼ロバスト性を確実に確保することができる。更に、制御装置は、メイン噴射時期を目標着火遅れになるまで最大限リタードすることが可能となり、排気ガスを効果的に昇温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る内燃機関の制御システムの概略構成を説明する図である。
図2】本実施形態に係る制御装置が実行する燃料噴射時期設定処理の一例を示すメインフローチャートである。
図3図2に示す通常燃焼モード設定処理のサブ処理の一例を示すサブフローチャートである。
図4】通常燃焼モードのときのメイン噴射時期と目標メイン着火クランク角度とを説明する図である。
図5図2に示す昇温燃焼モード設定処理のサブ処理の一例を示す第1サブフローチャートである。
図6図2に示す昇温燃焼モード設定処理のサブ処理の一例を示す第2サブフローチャートである。
図7】昇温燃焼モードのときのメイン噴射時期を反復算出により求める方法を説明する図である。
図8】昇温燃焼モードのときのメイン噴射時期が圧縮上死点(0度CA)とクランク角30度CAのときの目標着火遅れを説明する図である。
図9】昇温燃焼モードのときの筒内温度とインジェクタの燃料噴射量と燃焼の変動の一例を示す図である。
図10】昇温燃焼モードのときの各メイン噴射時期に対するパイロット噴射量とアフター噴射量と、それぞれの排気ガスの温度を測定した実験の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る内燃機関の制御システムを具体化した一実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本発明に係る内燃機関の制御システムの概略構成について図1に基づいて説明する。図1に示すように、本実施形態に係る内燃機関の制御システム1は、エアクリーナ20と、吸気流量検出装置21と、車両に搭載された圧縮自着火式の内燃機関(例えば、ディーゼルエンジン)10と、ターボ過給機30と、インタークーラ16と、制御装置50等から構成されている。
【0016】
以下、内燃機関10について、吸気側から排気側に向かって順に説明する。図1に示すように、吸気管11Aの流入側には、エアクリーナ20で濾過された吸気流量を検出する吸気流量検出装置21(例えば、吸気流量センサ)が設けられている。吸気流量検出装置21は、内燃機関10が吸入した空気の流量に応じた検出信号を制御装置50に出力する。
【0017】
吸気管11Aの流出側はコンプレッサ35の流入側に接続され、コンプレッサ35の流出側は吸気管11Bの流入側に接続されている。ターボ過給機30は、コンプレッサインペラ35Aを有するコンプレッサ35と、タービンインペラ36Aを有するタービン36とを備えている。コンプレッサインペラ35Aは、排気ガスによって回転駆動されるタービンインペラ36Aにて回転駆動され、吸気管11Aから流入された吸気を吸気管11Bに圧送することで過給する。
【0018】
コンプレッサ35の上流側となる吸気管11Aには、コンプレッサ上流圧力検出装置24Aが設けられている。コンプレッサ上流圧力検出装置24Aは、例えば、圧力センサであり、コンプレッサ35の上流側となる吸気管11A内の圧力に応じた検出信号を制御装置50に出力する。コンプレッサ35の下流側となる吸気管11B(吸気管11Bにおけるコンプレッサ35とインタークーラ16との間の位置)には、コンプレッサ下流圧力検出装置24Bが設けられている。コンプレッサ下流圧力検出装置24Bは、例えば、圧力センサであり、コンプレッサ35の下流側となる吸気管11B内の圧力に応じた検出信号を制御装置50に出力する。
【0019】
吸気管11Bには、上流側にインタークーラ16が配置され、インタークーラ16よりも下流側にスロットル装置47が配置されている。インタークーラ16は、コンプレッサ下流圧力検出装置24Bよりも下流側に配置されており、コンプレッサ35にて過給された吸気の温度を下げる。インタークーラ16とスロットル装置47との間には、吸気温度検出装置28B(例えば、吸気温度センサ)が設けられている。吸気温度検出装置28Bは、インタークーラ16にて温度が低下された吸気の温度に応じた検出信号を制御装置50に出力する。
【0020】
スロットル装置47は、制御装置50からの制御信号に基づいて吸気管11Bの開度を調整するスロットルバルブ47Aを駆動し、吸気流量を調整可能である。制御装置50は、スロットル開度検出装置47S(例えば、スロットル開度センサ)からの検出信号と目標スロットル開度に基づいて、スロットル装置47に制御信号を出力して吸気管11Bに設けられたスロットルバルブ47Aの開度を調整可能である。制御装置50は、アクセルペダル踏込量検出装置25からの検出信号に基づいて検出したアクセルペダルの踏込量と内燃機関10の運転状態とに基づいて目標スロットル開度と各インジェクタ43A~43Dから各シリンダ(気筒)45A~45D内に噴射する燃料噴射量Qを求める。
【0021】
アクセルペダル踏込量検出装置25は、例えば、アクセルペダル踏込角度センサであり、アクセルペダルに設けられている。制御装置50は、アクセルペダル踏込量検出装置25からの検出信号に基づいて、運転者によるアクセルペダルの踏込量を検出することが可能である。
【0022】
吸気管11Bにおけるスロットル装置47よりも下流側には、吸気圧力検出装置24Cが設けられており、EGR配管13の流出側が接続されている。そして、吸気管11Bの流出側は吸気マニホールド11Cの流入側に接続されており、吸気マニホールド11Cの流出側は内燃機関10の流入側に接続されている。吸気圧力検出装置24Cは、例えば、圧力センサであり、吸気マニホールド11Cに流入する直前の吸気の圧力に応じた検出信号を制御装置50に出力する。また、EGR配管13の流出側(吸気管11Bとの接続部)からは、EGR配管13の流入側(排気管12Bとの接続部)から流入してきたEGRガスが、吸気管11B内に吐出される。
【0023】
内燃機関10は複数のシリンダ(気筒)45A~45Dを有しており、インジェクタ43A~43Dが、それぞれのシリンダ(気筒)45A~45Dに設けられている。インジェクタ43A~43Dには、コモンレール41と燃料配管42A~42Dを介して燃料が供給されており、インジェクタ43A~43Dは、制御装置50からの制御信号によって駆動され、それぞれのシリンダ(気筒)45A~45D内に燃料を噴射する。
【0024】
コモンレール41には、燃料圧検出装置41A(例えば、燃料圧センサ)が設けられている。燃料圧検出装置41Aは、コモンレール41に不図示の燃料ポンプを介して供給されたコモンレール41内のコモンレール圧に応じた検出信号を制御装置50に出力する。制御装置50は、燃料圧検出装置41Aからの検出信号に基づいてコモンレール41内のコモンレール圧を検出する。
【0025】
内燃機関10には、回転検出装置22、クーラント温度検出装置28C等が設けられている。回転検出装置22は、例えば、回転角度センサであり、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)や、クランク軸の回転角度(例えば、各気筒の圧縮上死点タイミング)等に応じた検出信号を制御装置50に出力する。制御装置50は、回転検出装置22からの検出信号に基づいて、内燃機関10のクランク軸の回転数や回転角度等を検出することが可能である。クーラント温度検出装置28Cは、例えば、温度センサであり、内燃機関10内に循環されている冷却用クーラントの温度を検出し、検出した温度に応じた検出信号を制御装置50に出力する。
【0026】
内燃機関10の排気側には排気マニホールド12Aの流入側が接続され、排気マニホールド12Aの流出側には排気管12Bの流入側が接続されている。排気管12Bの流出側はタービン36の流入側に接続され、タービン36の流出側は排気管12Cの流入側に接続されている。
【0027】
排気管12Bには、EGR配管13の流入側が接続されている。EGR配管13は、排気管12Bと吸気管11Bとを連通し、排気管12B(排気経路に相当)の排気ガスの一部を吸気管11B(吸気経路に相当)に還流させることが可能である。また、EGR配管13には、経路切替装置14A、バイパス配管13B、EGRクーラ15、EGR弁14Bが設けられている。
【0028】
経路切替装置14Aは、排気管12BからEGR配管13へと流れてきたEGRガスを、EGRクーラ15を経由させて吸気経路に戻すEGRクーラ経路と、バイパス配管13BにてEGRクーラ15をバイパスさせて吸気管11Bに戻すバイパス経路とを、制御装置50からの制御信号に基づいて切り替える経路切替弁である。バイパス配管13Bは、EGRクーラ15をバイパスするように設けられており、流入側は経路切替装置14Aに接続され、流出側はEGR弁14BとEGRクーラ15の間となるEGR配管13に接続されている。
【0029】
EGR弁14Bは、EGR配管13におけるEGRクーラ15の下流側、かつ、EGR配管13とバイパス配管13Bとの合流部の下流側、に設けられている。そして、EGR弁14Bは、制御装置50からの制御信号に基づいて、EGR配管13の開度を調整することで、EGR配管13内を流れるEGRガスの流量を調整する。
【0030】
EGRクーラ15は、EGR配管13とバイパス配管13Bとの合流部と、経路切替装置14Aとの間となるEGR配管13に設けられている。EGRクーラ15は、いわゆる熱交換器であり、冷却用のクーラントが供給され、流入されたEGRガスを冷却して吐出する。
【0031】
排気管12Bには、排気温度検出装置29が設けられている。排気温度検出装置29は、例えば、排気温度センサであり、排気温度に応じた検出信号を制御装置50に出力する。制御装置50は、排気温度検出装置29を用いて検出した排気温度とEGR弁14Bの制御状態と内燃機関10の運転状態等に基づいて、EGR配管13及びEGRクーラ15(またはバイパス配管13B)及びEGR弁14Bを経由して吸気管11Bに流入されるEGRガスの温度を推定可能である。
【0032】
排気管12Bの流出側は、タービン36の流入側に接続され、タービン36の流出側は、排気管12Cの流入側に接続されている。タービン36には、タービンインペラ36Aへ導く排気ガスの流速を制御可能な可変ノズル33が設けられており、可変ノズル33は、ノズル駆動装置31によって開度が調整される。制御装置50は、ノズル開度検出装置32(例えば、ノズル開度センサ)からの検出信号と目標ノズル開度に基づいて、ノズル駆動装置31に制御信号を出力して可変ノズル33の開度を調整可能である。
【0033】
タービン36の上流側となる排気管12Bには、タービン上流圧力検出装置26Aが設けられている。タービン上流圧力検出装置26Aは、例えば、圧力センサであり、タービン36の上流側となる排気管12B内の圧力に応じた検出信号を制御装置50に出力する。タービン36の下流側となる排気管12Cには、タービン下流圧力検出装置26Bが設けられている。タービン下流圧力検出装置26Bは、例えば圧力センサであり、タービン36の下流側となる排気管12C内の圧力に応じた検出信号を制御装置50に出力する。
【0034】
排気管12Cには排気ガス浄化装置61が配置されている。例えば、内燃機関10がディーゼルエンジンの場合、排気ガス浄化装置61の内部には、上流側から、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)61A、DPF(Diesel Particulate Filter)61Bが設けられている。酸化触媒61Aは、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等を酸化して除去する。DPF61Bは、セラミックス材料等からなる多孔質な部材によって円柱状等に形成され、上流側から各小孔に流入する排気ガスを多孔質材料に通すことで粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集し、排気ガスのみを下流側へと流出させる。また、排気管12Cには、排気ガス浄化装置61の下流側に不図示の選択還元触媒等が配置されている。
【0035】
制御装置(ECU:Electronic Control Unit)50は、少なくとも、プロセッサ51(CPU、MPU(Micro-Processing Unit)等)、記憶装置53(DRAM、ROM、EEPROM、SRAM、ハードディスク等)を有している。制御装置50(ECU)は、図1に示す検出装置やアクチュエータに限定されず、上記の検出装置を含めた各種の検出装置からの検出信号に基づいて内燃機関10の運転状態を検出し、上記のインジェクタ43A~43D、EGR弁14B、経路切替装置14A、ノズル駆動装置31、スロットル装置47を含めた各種のアクチュエータを制御する。記憶装置53は、例えば、各種処理を実行するためのプログラムやパラメータ等を記憶する。
【0036】
大気圧検出装置23は、例えば、大気圧センサであり、制御装置50に設けられている。大気圧検出装置23は、制御装置50の周囲の大気圧に応じた検出信号を制御装置50に出力する。車速検出装置27は、例えば、車両速度検出センサであり、車両の車輪等に設けられている。車速検出装置27は、車両の車輪の回転速度に応じた検出信号を制御装置50に出力する。
【0037】
[燃料噴射時期設定処理]
次に、上記のように構成された内燃機関の制御システム1において、制御装置50によって実行される処理であって、各インジェクタ43A~43Dから各シリンダ(気筒)45A~45D内に噴射する燃料の燃料噴射時期及び燃料噴射量を設定する「燃料噴射時期設定処理」について図2乃至図10に基づいて説明する。尚、制御装置50は、起動されるとクランク軸の回転角度が所定クランク角度になる毎に図2に示す処理を起動し、ステップS11へと処理を進める。
【0038】
図2に示すように、先ず、ステップS11において、制御装置50は、各種パラメータを取得して記憶装置53に記憶した後、ステップS12に進む。各種パラメータは、例えば、アクセルペダルの踏込量と、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neと、インタークーラ16にて温度が低下された吸気の吸気温度Thと、吸気マニホールド11Cに流入する直前の吸気圧Piと、EGRガスの還流量と、コンプレッサ35による過給圧BPと、内燃機関10内に循環されている冷却用クーラントの水温Twと、大気圧等である。
【0039】
ステップS12において、制御装置50は、上記ステップS11で取得したアクセルペダルの踏込量と、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neとを記憶装置53から読み出し、不図示のマップから1回の燃焼行程で噴射する燃料の総噴射量Qaを取得して記憶装置53に記憶した後、ステップS13に進む。
【0040】
ステップS13において、制御装置50は、クランク軸の回転数(エンジン回転数)Neと燃料の総噴射量Qとの二次元マップ(不図示)から、上記ステップS12で取得した総噴射量Qaと内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neとに対応するメイン噴射によってシリンダ45A~45D内に噴射されたメイン燃料の目標着火遅れτtrgを取得して、記憶装置53に記憶した後、ステップS14に進む。尚、メイン燃料の目標着火遅れτtrgを取得するクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neと燃料の総噴射量Qとの二次元マップ(不図示)は、実機試験によって作成されて、予め記憶装置53に記憶されている。
【0041】
ステップS14において、制御装置50は、排気ガスの昇温を必要とする昇温要求があるか否かを判定する。具体的には、制御装置50は、記憶装置53から昇温要求フラグを読み出し、昇温要求フラグが「ONに」設定されているか否かを判定する。尚、制御装置50の起動時に、昇温要求フラグは「OFF」に設定されて記憶装置53に記憶されている。そして、昇温要求フラグは、例えば、排気ガス浄化装置61の酸化触媒61A等の活性化が必要なときや、DPF61Bに捕集された粒子状物質(PM)を燃焼してDPF61Bを再生するとき等の排気ガスの昇温が必要なときに、「ON」に設定されて記憶装置53に記憶される。
【0042】
そして、排気ガスの昇温を必要とする昇温要求がないと判定した場合、つまり、昇温要求フラグがOFFに設定されていると判定した場合には(S14:NO)、制御装置50は、ステップS15に進む。ステップS15において、制御装置50は、パイロット噴射とメイン噴射を行って、アフター噴射を行わない通常時の各燃料噴射時期及び各燃料噴射量を設定する「通常燃焼モード設定処理」のサブ処理(図3参照)を実行した後、当該処理を終了する。従って、後述のように、「通常燃焼モード設定処理」のサブ処理では、制御装置50は、パイロット噴射の段数、各パイロット噴射量、各パイロット噴射時期と、メイン噴射のメイン噴射量、メイン噴射時期と、を設定して、記憶装置53に記憶する。
【0043】
一方、排気ガスの昇温を必要とする昇温要求があると判定した場合、つまり、昇温要求フラグがONに設定されていると判定した場合には(S14:YES)、制御装置50は、ステップS16に進む。ステップS16において、制御装置50は、パイロット噴射とメイン噴射とアフター噴射を行って排気ガスの昇温を行う際の燃料噴射時期及び燃料噴射量を設定する「昇温燃焼モード設定処理」(図4及び図5参照)を実行した後、当該処理を終了する。従って、後述のように、「昇温燃焼モード設定処理」のサブ処理では、制御装置50は、パイロット噴射の段数、各パイロット噴射量、各パイロット噴射時期と、メイン噴射のメイン噴射量、メイン噴射時期と、アフター噴射の段数、各アフター噴射量、各アフター噴射時期と、を設定して、記憶装置53に記憶する。
【0044】
尚、上記「噴射時期設定処理」で設定して記憶装置53に記憶したパイロット噴射の段数、各パイロット噴射量、各パイロット噴射時期に基づいて、実際に各シリンダ45A~45Dにパイロット噴射を実行する「パイロット噴射処理」と、記憶装置53に記憶したメイン噴射のメイン噴射量、メイン噴射時期に基づいて、実際に各シリンダ45A~45Dにメイン噴射を実行する「メイン噴射処理」と、記憶装置53に記憶したアフター噴射の段数、各アフター噴射量、各アフター噴射時期に基づいて、実際に各シリンダ45A~45Dにアフター噴射を実行する「アフター噴射処理」とは、上記「噴射時期設定処理」とは別のタイミングで実行される公知の処理であるので、これらの処理の説明は省略する。また、アフター噴射処理を行わない旨が設定されている場合には、制御装置50は、「アフター噴射処理」を実行しない。
【0045】
[通常燃焼モード設定処理]
次に、排気ガスの昇温を必要としないときに(S14:NO)、上記ステップS15で、制御装置50が実行する「通常燃焼モード設定処理」のサブ処理について図3及び図4に基づいて説明する。図3に示すように、先ず、ステップS111において、制御装置50は、上記ステップS11で取得した内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neと、上記ステップS12で取得した燃料の総噴射量Qaとを記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、この燃料の総噴射量Qaに対応するメイン噴射によってシリンダ45A~45D内に噴射されたメイン燃料の燃焼が開始される目標メイン着火クランク角度を、クランク軸の回転数(エンジン回転数)Neと燃料の総噴射量Qとの二次元マップ(不図示)から取得して、記憶装置53に記憶した後、ステップS112に進む。
【0046】
例えば、図4に示すように、目標メイン着火クランク角度は、圧縮上死点(TDC)から約5度CAだけ遅角したクランク角度である。尚、メイン噴射によってシリンダ45A~45D内に噴射されたメイン燃料の燃焼が開始される目標メイン着火クランク角度を取得するクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neと燃料の総噴射量Qとの二次元マップ(不図示)は、実機試験によって作成されて、予め記憶装置53に記憶されている。
【0047】
図3に示すように、ステップS112において、制御装置50は、上記ステップS13で取得した目標着火遅れτtrgを記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、上記ステップS111で取得した目標メイン着火クランク角度と、この目標着火遅れτtrgとからメイン噴射時期Ainjaのメイン噴射クランク角度を算出して、記憶装置53に記憶した後、ステップS113に進む。具体的には、制御装置50は、クランク軸の回転数(エンジン回転数)Neからクラン軸の回転速度を算出する。そして、制御装置50は、目標メイン着火クランク角度からクランク軸の回転速度に目標着火遅れτtrgを掛け算した回転角度を引き算して、メイン噴射時期Ainjaのメイン噴射クランク角度を算出する。
【0048】
ステップS113において、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjaのメイン噴射クランク角度におけるシリンダ45A~45Dの筒内温度Tcylを気体の状態方程式より算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS114に進む。また、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjaのメイン噴射クランク角度における筒内温度Tcylは、上記ステップS11で取得した吸気温度Thや水温Twを基に推定することもできる。
【0049】
ステップS114において、制御装置50は、先ず、下記に示すアレニウスの式(1)を用いて推定実着火遅れτを算出する。アレニウスの式(1)において、「Fuel」は、メイン噴射の終了時点のシリンダ45A~45D内の燃料分圧であり、「O2」は、メイン噴射の終了時点のシリンダ45A~45D内の酸素分圧であり、「Tcyl」は、上記ステップS113で算出した メイン噴射時期Ainjaの筒内温度Tcylである。
【0050】
τ=1/{A[Fuel]B[O2Cexp(-D/Tcyl)} ・・・(1)
【0051】
また、上記アレニウスの式(1)における「A」、「B」、「C」及び「D」は、モデル定数であり、実験及びシミュレーションを通じて予め設定された値であり、記憶装置53に予め記憶されている。具体的には、モデル定数「B」は、燃料分圧「Fuel」が高いほど推定実着火遅れτを小さくできるような値に設定されている。モデル定数「C」は、酸素分圧「O2」が高いほど推定実着火遅れτを小さくできるような値に設定されている。
【0052】
モデル定数「D」は、 メイン噴射時期Ainjaの筒内温度Tcylが高いほど推定実着火遅れτを小さくできるような値に設定されている。例えば、モデル定数「B」、「C」及び「D」は、正の値に設定されている。そして、モデル定数「A」は、燃料分圧「Fuel」のB乗と、酸素分圧「O2」のC乗と、「exp(-D/Tcyl)との積が大きいほど推定実着火遅れτを小さくできるような値に設定されている。例えば、モデル定数「A」は正の値に設定されている。
【0053】
また、燃料分圧「Fuel」は、シリンダ45A~45D内における燃料濃度Cfuelと筒内圧力Pcyとの積として算出される。燃料濃度Cfuelは、メイン噴射の終了時点における噴霧内等量比Φaに応じた値となる。メイン噴射の終了時点における噴霧内等量比Φaは、メイン噴射をインジェクタ43A~43Dに行わせる際における噴射量の指示値を基に算出される。また、酸素分圧「O2」は、シリンダ45A~45D内における酸素濃度Coxと筒内圧力Pcyとの積として算出される。
【0054】
続いて、制御装置50は、上記ステップS13で取得した目標着火遅れτtrgと、上記ステップS113で算出したメイン噴射時期Ainjaにおける筒内温度Tcylとを記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、目標着火遅れτtrgと、メイン噴射時期Ainjaにおける筒内温度Tcylと、上記アレニウスの式(1)によって算出した推定実着火遅れτとから下記式(2)を用いて、メイン噴射時期Ainjaにおける目標筒内温度Ttrgを算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS115に進む。
【0055】
Ttrg=Tcyl/{1+Tcyl/D×ln(τ/τtrg)} ・・・(2)
【0056】
ステップS115において、制御装置50は、上記ステップS113で算出した筒内温度Tcylと、上記ステップS114で算出した目標筒内温度Ttrgとを記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、下記式(3)を用いて、メイン噴射時期Ainjaの筒内温度Tcylを目標筒内温度Ttrgまで昇温させるために必要な総パイロット噴射量Qplを算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS116に進む。
【0057】
Qpl=(Ttrg-Tcyl)×Gcyl×cv/ρf/Ef ・・・(3)
【0058】
ここで、「Gcyl」は筒内ガス量であり、「cv」は筒内ガス比熱であり、「ρf」は燃料密度であり、「Ef」は燃料単位発熱量である。筒内ガス量「Gcyl」は、上記ステップS112で算出したメイン噴射時期Ainjaのメイン噴射クランク角度を用いて不図示のマップから取得する。また、筒内ガス比熱「cv」と、燃料密度「ρf」と、燃料単位発熱量「Ef」とは、予め記憶装置53に記憶されている。
【0059】
ステップS116において、制御装置50は、上記ステップS112で設定したメイン噴射時期Ainjaに基づいてパイロット噴射回数(段数)と、各パイロット噴射時期Apiを設定する。例えば、制御装置50は、パイロット噴射回数を2回として、1段目のパイロット噴射時期Api1のクランク角度をメイン噴射時期Ainjaのクランク角度からなるべく進角させて設定する。また、制御装置50は、2段目のパイロット噴射時期Api2のクランク角度をメイン噴射時期Ainjaのクランク角度に近接するように、つまり、メイン噴射時期Ainjaから小さいクランク角度だけ進角させて設定する。
【0060】
そして、制御装置50は、上記アレニウスの式(1)から算出される各パイロット噴射時期Api1、Api2における推定実着火遅れτp1、τp2に基づいて、上記ステップS115で算出した総パイロット噴射量Qplを1段目のパイロット噴射量Qpla1と、2段目のパイロット噴射量Qpla2とに振り分けて算出し、各パイロット噴射時期Api1、Api2に対応させて記憶装置53に記憶した後、ステップS117に進む。例えば、制御装置50は、総パイロット噴射量Qplを1段目のパイロット噴射量Qpla1と、2段目のパイロット噴射量Qpla2とに、6:4の割合で振り分けて算出し、各パイロット噴射時期Api1、Api2に対応させて記憶装置53に記憶する。
【0061】
ステップS117において、制御装置50は、上記ステップS12で算出した燃料の総噴射量Qaと、上記ステップS115で算出した総パイロット噴射量Qplとを記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、燃料の総噴射量Qaから総パイロット噴射量Qplを減算した噴射量をメイン噴射量Qmaとして、上記ステップS112で設定したメイン噴射時期Ainjaに対応させて記憶装置53に記憶した後、ステップS118に進む。
【0062】
ステップS118において、制御装置50は、アフター噴射フラグを記憶装置53から読み出し、「OFF」に設定して再度、記憶装置53に記憶して、アフター噴射量を行わない旨を設定した後、当該サブ処理を終了して、メインフローチャートに戻り、燃焼噴射時期設定処理を終了する。尚、アフター噴射フラグは、制御装置50の起動時に、「OFF」に設定されて記憶装置53に記憶される。
【0063】
[昇温燃焼モード設定処理]
次に、排気ガスの昇温を必要とする昇温要求時に(S14:YES)、上記ステップS16で、制御装置50が実行する「昇温燃焼モード設定処理」のサブ処理について図5乃至図10に基づいて説明する。尚、排気ガスの昇温が必要な場合には、パイロット噴射とメイン噴射を行った後、アフター噴射が行われて、排気ガスが昇温される。
【0064】
図5に示すように、先ず、ステップS211において、制御装置50は、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neに対するパイロット噴射回数のマップ(不図示)から、上記ステップS11で取得した内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Ne応じたパイロット噴射回数を取得して記憶装置53に記憶する。尚、クランク軸の回転数(エンジン回転数)Neに対するパイロット噴射回数のマップ(不図示)は、実機試験やシミュレーションを通じて予め作成されて、記憶装置53に記憶されている。
【0065】
続いて、制御装置50は、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminを記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、この最小噴射量Qiminにパイロット噴射回数を掛け算した噴射量を目標パイロット噴射量Qpltrgとして記憶装置53に記憶した後、ステップS212に進む。尚、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminは、内燃機関の制御システム1毎に実測されて、記憶装置53に予め記憶されている。
【0066】
例えば、図9の中段に示すように、パイロット噴射を2回行う場合には、制御装置50は、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminに「2」を掛け算した噴射量を目標パイロット噴射量Qpltrgとして記憶装置53に記憶する。従って、目標パイロット噴射量Qpltrgは、インジェクタ43A~43Dからシリンダ(気筒)45A~45D内に噴射される総パイロット噴射量Qplの最小値となる。
【0067】
ステップS212において、制御装置50は、図7及び図8に示すように、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)に設定したときの総パイロット噴射量Qplであるパイロット噴射量Qpltdc(第1パイロット噴射量)を算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS213に進む。具体的には、制御装置50は、先ず、メイン噴射時期Ainjbの圧縮上死点(TDC)におけるシリンダ45A~45Dの筒内温度Tcylを気体の状態方程式より算出して記憶装置53に記憶する。そして、制御装置50は、この筒内温度Tcylと上記アレニウスの式(1)とを用いて、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)に設定したときの推定実着火遅れτを算出して記憶装置53に記憶する。
【0068】
続いて、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)に設定したときの推定実着火遅れτ及びメイン噴射時の筒内温度Tcylと、上記ステップS13で取得した目標着火遅れτtrgと、上記式(2)とを用いて、メイン噴射時期Ainjbが圧縮上死点(TDC)における目標筒内温度Ttrgを算出して記憶装置53に記憶する。そして、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjbが圧縮上死点(TDC)における筒内温度Tcylと、目標筒内温度Ttrgと、上記式(3)とを用いて、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)に設定したときの総パイロット噴射量Qplであるパイロット噴射量Qpltdcを算出して記憶装置53に記憶する。
【0069】
ステップS213において、制御装置50は、上記ステップS212で算出した総パイロット噴射量Qplであるパイロット噴射量Qpltdcが、上記ステップS211で算出した目標パイロット噴射量Qpltrg以上であるか否かを判定する。そして、パイロット噴射量Qpltdcが目標パイロット噴射量Qpltrg以上であると判定した場合には(S213:YES)、制御装置50は、ステップS214に進む。
【0070】
ステップS214において、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)のクランク角度位置に設定して記憶装置53に記憶した後、ステップS215に進む。この結果、図7及び図8に示すように、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)のクランク角度位置に設定した場合には、目標着火遅れτtrgだけ経過した時点で、メイン噴射で噴射されたメイン燃料の燃焼が開始される。
【0071】
ステップS215において、制御装置50は、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neに対するメイン噴射量Qmbのマップ(不図示)から、上記ステップS11で取得した内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Ne応じたメイン噴射量Qmbを取得して記憶装置53に記憶した後、ステップS216に進む。尚、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neに対するメイン噴射量Qmbのマップ(不図示)は、実機試験やシミュレーションを通じて作成されて、記憶装置53に予め記憶されている。
【0072】
ステップS216において、制御装置50は、上記ステップS211で設定したパイロット噴射回数を記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、図9に示すように、上記ステップS214で設定したメイン噴射時期Ainjbの圧縮上死点(TDC)において、シリンダ45A~45D内に噴射されたメイン燃料が、上記ステップS13で取得した目標着火遅れτtrgで燃焼開始されるように、各パイロット噴射時期Apinを設定する。そして、制御装置50は、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminをパイロット噴射量として各パイロット噴射時期Apinに対応させて記憶装置53に記憶する。
【0073】
そして、制御装置50は、上記ステップS12で取得した燃料の総噴射量Qaから、上記ステップS211で設定した目標パイロット噴射量Qpltrgと、上記ステップS215で設定したメイン噴射量Qmbとを減算して、総アフター噴射量Qafを算出して記憶装置53に記憶する。続いて、制御装置50は、アフター噴射の回数(段数)と、総アフター噴射量Qafを振り分けた各段のアフター噴射量と、各アフター噴射時期Afinとを設定して記憶装置53に記憶する。そして、制御装置50は、アフター噴射フラグを記憶装置53から読み出し、「ON」に設定して再度、記憶装置53に記憶して、アフター噴射を行う旨を設定した後、当該サブ処理を終了して、メインフローチャートに戻り、燃焼噴射時期設定処理を終了する。
【0074】
一方、上記ステップS213で、総パイロット噴射量Qplであるパイロット噴射量Qpltdcが目標パイロット噴射量Qpltrg未満であると判定した場合には(S213:NO)、制御装置50は、ステップS217に進む。ステップS217において、制御装置50は、図7及び図8に示すように、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)に設定したときの総パイロット噴射量Qplであるパイロット噴射量Qplamx(第2パイロット噴射量)を算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS218に進む。尚、最遅角時期は、30度CAのクランク角度位置に限らず、25度CA~40度CAのいずれか任意のクランク角度に設定してもよい。
【0075】
具体的には、制御装置50は、先ず、メイン噴射時期Ainjbの圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)におけるシリンダ45A~45Dの筒内温度Tcylを気体の状態方程式より算出して記憶装置53に記憶する。そして、制御装置50は、この筒内温度Tcylと上記アレニウスの式(1)とを用いて、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)に設定したときの推定実着火遅れτを算出して記憶装置53に記憶する。
【0076】
続いて、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)に設定したときの推定実着火遅れτ及びメイン噴射時の筒内温度Tcylと、上記ステップS13で取得した目標着火遅れτtrgと、上記式(2)とを用いて、メイン噴射時期Ainjbが圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)における目標筒内温度Ttrgを算出して記憶装置53に記憶する。そして、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjbが圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)における筒内温度Tcylと、目標筒内温度Ttrgと、上記式(3)とを用いて、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)に設定したときの総パイロット噴射量Qplであるパイロット噴射量Qplamxを算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS218に進む。
【0077】
ステップS218において、制御装置50は、上記ステップS217で算出した総パイロット噴射量Qplであるパイロット噴射量Qplamxが、上記ステップS211で算出した目標パイロット噴射量Qpltrg以下であるか否かを判定する。そして、総パイロット噴射量Qplamxが目標パイロット噴射量Qpltrg以下であると判定した場合には(S218:YES)、制御装置50は、ステップS219に進む。
【0078】
ステップS219において、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)に設定して記憶装置53に記憶した後、ステップS220に進む。この結果、図7及び図8に示すように、メイン噴射時期Ainjbを圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)に設定した場合には、目標着火遅れτtrgだけ経過した時点で、メイン噴射で噴射されたメイン燃料の燃焼が開始される。
【0079】
ステップS220において、制御装置50は、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neに対するメイン噴射量Qmbのマップ(不図示)から、上記ステップS11で取得した内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Ne応じたメイン噴射量Qmbを取得して記憶装置53に記憶した後、ステップS221に進む。
【0080】
ステップS221において、制御装置50は、上記ステップS211で設定したパイロット噴射回数を記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、図9に示すように、上記ステップS219で設定したメイン噴射時期Ainjbの圧縮上死点(TDC)から30度CAだけ遅角したクランク角度位置(最遅角時期)において、シリンダ45A~45D内に噴射されたメイン燃料が、上記ステップS13で取得した目標着火遅れτtrgで燃焼開始されるように、各パイロット噴射時期Apinを設定する。そして、制御装置50は、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminをパイロット噴射量として各パイロット噴射時期Apinに対応させて記憶装置53に記憶する。
【0081】
そして、制御装置50は、上記ステップS12で取得した燃料の総噴射量Qaから、上記ステップS211で設定した目標パイロット噴射量Qpltrgと、上記ステップS220で設定したメイン噴射量Qmbとを減算して、総アフター噴射量Qafを算出して記憶装置53に記憶する。続いて、制御装置50は、アフター噴射の回数(段数)と、総アフター噴射量Qafを振り分けた各段のアフター噴射量と、各アフター噴射時期Afinとを設定して記憶装置53に記憶する。そして、制御装置50は、アフター噴射フラグを記憶装置53から読み出し、「ON」に設定して再度、記憶装置53に記憶して、アフター噴射を行う旨を設定した後、当該サブ処理を終了して、メインフローチャートに戻り、燃焼噴射時期設定処理を終了する。
【0082】
他方、上記ステップS218で、総パイロット噴射量Qplamxが目標パイロット噴射量Qpltrgより大きいと判定した場合には(S218:NO)、制御装置50は、図6に示すステップS222に進む。図6に示すように、ステップS222において、制御装置50は、メイン噴射時期を直線補間して算出した回数を表す算出回数Nを記憶装置53から読み出し、算出回数Nに1回目を表す「1」を代入して、再度記憶装置53に記憶した後、ステップS223に進む。尚、算出回数Nは、制御装置50の起動時に、「0」が代入されて、記憶装置53に記憶される。
【0083】
ステップS223において、制御装置50は、図7の上側に示す、メイン噴射時期Ainjbに対する目標着火遅れτtrgを実現する総パイロット噴射量Qplを表す総パイロット噴射量マップM1から、算出回数Nが「N」の場合には、「N」回目のメイン噴射時期AinjbN(再メイン噴射時期)とパイロット噴射量QplbN(再パイロット噴射量)を算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。例えば、算出回数Nが「1」の場合には、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から算出回数Nが「1」回目のメイン噴射時期Ainjb1とパイロット噴射量Qplb1を算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。
【0084】
具体的には、例えば、算出回数Nが「1」の場合には、図7の上側に示すように、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1の圧縮上死点(TDC)と上記ステップS212で算出したパイロット噴射量Qpltdcとからなる点R1と、(TDC+30度CA)と上記ステップS218で算出したパイロット噴射量Qplamxとからなる点R2と、を結ぶ直線Y1から、総パイロット噴射量Qplが目標パイロット噴射量Qpltrgとなる、「1」回目のメイン噴射時期Ainjb1を直線補間によって算出して、記憶装置53に記憶する。
【0085】
続いて、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から算出回数Nが「1」回目のメイン噴射時期Ainjb1に対応する点R3のパイロット噴射量Qplb1を算出して、記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。尚、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjb1に対応するパイロット噴射量Qplb1を、上記ステップS212と同様に、上記アレニウスの式(1)と上記式(2)と上記式(3)とを用いて、パイロット噴射量Qplb1を算出してもよい。
【0086】
ステップS224において、制御装置50は、算出回数Nが「N」回目のパイロット噴射量QplbNと目標パイロット噴射量Qpltrgを記憶装置53から読み出し、パイロット噴射量QplbNから目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値以下になったか否か、例えば、0.1[mm3/st]以下になったか否かを判定する。
【0087】
例えば、算出回数Nが「1」回目のときには、パイロット噴射量Qplb1と目標パイロット噴射量Qpltrgを記憶装置53から読み出し、パイロット噴射量Qplb1から目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値以下になったか否か、例えば、0.1[mm3/st]以下になったか否かを判定する。また、例えば、算出回数Nが「2」回目のときには、パイロット噴射量Qplb2と目標パイロット噴射量Qpltrgを記憶装置53から読み出し、パイロット噴射量Qplb2から目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値以下になったか否か、例えば、0.1[mm3/st]以下になったか否かを判定する。
【0088】
そして、パイロット噴射量QplbNから目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値よりも大きいと判定した場合、例えば、0.1[mm3/st]よりも大きいと判定した場合には(S224:NO)、制御装置50は、ステップS225に進む。例えば、算出回数Nが「1」回目のときには、パイロット噴射量Qplb1から目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値よりも大きいと判定した場合、例えば、0.1[mm3/st]よりも大きいと判定した場合には(S224:NO)、制御装置50は、ステップS225に進む。
【0089】
ステップS225において、制御装置50は、記憶装置53から算出回数Nを読み出し、算出回数Nが所定回数であるか否か、例えば、「5」であるか否か、つまり、メイン噴射時期を直線補間して算出した回数が所定回数に達したか否か、例えば、「5」回目に達したか否かを判定する。尚、「5」回に限らず、4回~10回の任意の回数に予め設定してもよい。そして、算出回数Nが所定回数、例えば、「5」でないと判定した場合、つまり、メイン噴射時期を直線補間して算出した回数が所定回数に達していない、例えば、「5」回目に達していないと判定した場合には(S225:NO)、制御装置50は、ステップS226に進む。
【0090】
ステップS226において、制御装置50は、算出回数Nを記憶装置53から読み出し、この算出回数Nに「1」加算して、再度記憶装置53に記憶した後、ステップS223以降の処理を再度、実行する。
【0091】
従って、例えば、算出回数Nに「1」加算した値が「2」の場合には、図7の上側に示すように、再度、ステップS223において、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から、算出回数Nが「2」回目のメイン噴射時期Ainjb2とパイロット噴射量Qplb2を算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。
【0092】
具体的には、図7の上側に示すように、制御装置50は、前回のステップS223で算出した「1」回目のメイン噴射時期Ainjb1と、「1」回目のメイン噴射時期Ainjb1に対応するパイロット噴射量Qplb1と、を記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1のメイン噴射時期Ainjb1とパイロット噴射量Qplb1とからなる点R3と、(TDC+30度CA)と上記ステップS218で算出したパイロット噴射量Qplamxとからなる点R2と、を結ぶ直線Y2から、総パイロット噴射量Qplが目標パイロット噴射量Qpltrgとなる、「2」回目のメイン噴射時期Ainjb2を直線補間によって算出して、記憶装置53に記憶する。
【0093】
続いて、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から算出回数Nが「2」回目のメイン噴射時期Ainjb2に対応する点R4のパイロット噴射量Qplb2を算出して、記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。尚、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjb2に対応するパイロット噴射量Qplb2を、上記ステップS212と同様に、上記アレニウスの式(1)と上記式(2)と上記式(3)とを用いて、パイロット噴射量Qplb2を算出してもよい。
【0094】
また、例えば、算出回数Nに「1」加算した値が「3」の場合には、図7の上側に示すように、再度、ステップS223において、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から、算出回数Nが「3」回目のメイン噴射時期Ainjb3とパイロット噴射量Qplb3を算出して記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。
【0095】
具体的には、図7の上側に示すように、制御装置50は、前回のステップS223で算出した「2」回目のメイン噴射時期Ainjb2と、「2」回目のメイン噴射時期Ainjb2に対応するパイロット噴射量Qplb2と、を記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1のメイン噴射時期Ainjb2とパイロット噴射量Qplb2とからなる点R4と、(TDC+30度CA)と上記ステップS218で算出したパイロット噴射量Qplamxとからなる点R2と、を結ぶ直線Y3から、総パイロット噴射量Qplが目標パイロット噴射量Qpltrgとなる、「3」回目のメイン噴射時期Ainjb3を直線補間によって算出して、記憶装置53に記憶する。
【0096】
続いて、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から算出回数Nが「3」回目のメイン噴射時期Ainjb3に対応する点R5のパイロット噴射量Qplb3を算出して、記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。尚、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjb3に対応するパイロット噴射量Qplb3を、上記ステップS212と同様に、上記アレニウスの式(1)と上記式(2)と上記式(3)とを用いて、パイロット噴射量Qplb3を算出してもよい。
【0097】
また、同様に、例えば、算出回数Nに「1」加算した値が「4」の場合には、図7の上側に示すように、制御装置50は、前回のステップS223で算出した「3」回目のメイン噴射時期Ainjb3と、「3」回目のメイン噴射時期Ainjb3に対応するパイロット噴射量Qplb3と、を記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1のメイン噴射時期Ainjb3とパイロット噴射量Qplb3とからなる点R5と、(TDC+30度CA)と上記ステップS218で算出したパイロット噴射量Qplamxとからなる点R2と、を結ぶ不図示の直線Y4から、総パイロット噴射量Qplが目標パイロット噴射量Qpltrgとなる、「4」回目のメイン噴射時期Ainjb4を直線補間によって算出して、記憶装置53に記憶する。
【0098】
続いて、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から算出回数Nが「4」回目のメイン噴射時期Ainjb4に対応する不図示の点R6のパイロット噴射量Qplb4を算出して、記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。尚、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjb4に対応するパイロット噴射量Qplb4を、上記ステップS212と同様に、上記アレニウスの式(1)と上記式(2)と上記式(3)とを用いて、パイロット噴射量Qplb3を算出してもよい。
【0099】
また、同様に、例えば、算出回数Nに「1」加算した値が「5」の場合には、制御装置50は、前回のステップS223で算出した「4」回目のメイン噴射時期Ainjb4と、「4」回目のメイン噴射時期Ainjb4に対応するパイロット噴射量Qplb4と、を記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1のメイン噴射時期Ainjb4とパイロット噴射量Qplb4とからなる不図示の点R6と、(TDC+30度CA)と上記ステップS218で算出したパイロット噴射量Qplamxとからなる点R2と、を結ぶ不図示の直線Y5から、総パイロット噴射量Qplが目標パイロット噴射量Qpltrgとなる、「5」回目のメイン噴射時期Ainjb5を直線補間によって算出して、記憶装置53に記憶する。
【0100】
続いて、制御装置50は、総パイロット噴射量マップM1から算出回数Nが「5」回目のメイン噴射時期Ainjb5に対応する不図示の点R7のパイロット噴射量Qplb5を算出して、記憶装置53に記憶した後、ステップS224に進む。尚、制御装置50は、メイン噴射時期Ainjb5に対応するパイロット噴射量Qplb5を、上記ステップS212と同様に、上記アレニウスの式(1)と上記式(2)と上記式(3)とを用いて、パイロット噴射量Qplb3を算出してもよい。
【0101】
他方、上記ステップS224において、パイロット噴射量QplbNから目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値以下であると判定した場合、例えば、0.1[mm3/st]以下であると判定した場合には(S224:YES)、制御装置50は、ステップS227に進む。例えば、算出回数Nが「3」回目のときに、パイロット噴射量Qplb3から目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値以下であると判定した場合、例えば、0.1[mm3/st]以下であると判定した場合には(S224:YES)、制御装置50は、ステップS227に進む。
【0102】
ステップS227において、制御装置50は、上記ステップS224で目標パイロット噴射量Qpltrgに対する差の絶対値が所定閾値以下となったパイロット噴射量QplbNに対応するメイン噴射時期AinjbNをメイン噴射を実行するメイン噴射時期として記憶装置53に記憶した後、ステップS228に進む。これにより、制御装置50は、目標パイロット噴射量Pltrgに対応するメイン噴射時期AinjbNを、上記ステップS13で設定した目標着火遅れτtrgとなるメイン噴射時期として設定できる。
【0103】
例えば、算出回数Nが「3」回目のときにパイロット噴射量Qplb3から目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値以下、例えば、0.1[mm3/st]以下であると判定した場合には、パイロット噴射量Qplb3に対応するメイン噴射時期Ainjb3を、上記ステップS13で設定した目標着火遅れτtrgとなるメイン噴射時期として記憶装置53に記憶した後、ステップS228に進む。
【0104】
また、一方、上記ステップS225において、算出回数Nが所定回数に達したと判定した場合、例えば、「5」であると判定した場合、つまり、メイン噴射時期を直線補間して算出した回数が「5」回目に達したと判定した場合には(S225:YES)、制御装置50は、ステップS227に進む。
【0105】
ステップS227において、制御装置50は、所定回数目で、例えば、「5」回目で算出したパイロット噴射量Qplb5に対応するメイン噴射時期Ainjb5をメイン噴射を実行するメイン噴射時期として記憶装置53に記憶した後、ステップS228に進む。これにより、目標パイロット噴射量Pltrgに最も近づいたパイロット噴射量Qplb5に対応するメイン噴射時期Ainjb5を、上記ステップS13で設定した目標着火遅れτtrgとなるメイン噴射時期として設定できる。尚、「5」回に限らず、4回~10回の任意の回数に予め設定してもよい。
【0106】
ステップS228において、制御装置50は、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neに対するメイン噴射量Qmbのマップ(不図示)から、上記ステップS11で取得した内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Ne応じたメイン噴射量Qmbを取得して記憶装置53に記憶した後、ステップS229に進む。尚、内燃機関10のクランク軸の回転数(エンジン回転数)Neに対するメイン噴射量Qmbのマップ(不図示)は、実機試験やシミュレーションを通じて作成されて、記憶装置53に予め記憶されている。
【0107】
ステップS229において、制御装置50は、上記ステップS211で設定したパイロット噴射回数を記憶装置53から読み出す。そして、制御装置50は、図9に示すように、上記ステップS227で設定したメイン噴射時期AinjbNで、シリンダ45A~45D内に噴射されたメイン燃料が、上記ステップS13で取得した目標着火遅れτtrgで燃焼開始されるように、各パイロット噴射時期Apinを設定する。そして、制御装置50は、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminをパイロット噴射量として各パイロット噴射時期Apinに対応させて記憶装置53に記憶する。
【0108】
そして、制御装置50は、上記ステップS12で取得した燃料の総噴射量Qaから、上記ステップS211で設定した目標パイロット噴射量Qpltrgと、上記ステップS228で設定したメイン噴射量Qmbとを減算して、総アフター噴射量Qafを算出して記憶装置53に記憶する。これにより、目標パイロット噴射量Qpltrgは、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminにパイロット噴射回数を掛け算した噴射量であるため、総アフター噴射量Qafを最大化することができ、アフター噴射の多段化を効果的に図ることができる。
【0109】
続いて、制御装置50は、アフター噴射の回数(段数)と、総アフター噴射量Qafを振り分けた各段のアフター噴射量Qafjnと、各アフター噴射時期Afinとを設定して記憶装置53に記憶する。そして、制御装置50は、アフター噴射フラグを記憶装置53から読み出し、「ON」に設定して再度、記憶装置53に記憶して、アフター噴射を行う旨を設定した後、当該サブ処理を終了して、メインフローチャートに戻り、燃焼噴射時期設定処理を終了する。
【0110】
次に、上記昇温燃焼モード設定処理のサブ処理によって設定した目標パイロット噴射量Qpltrgと、メイン噴射時期AinjbNと、メイン噴射量Qmbと、総アフター噴射量Qaf等に基づいて、上記「噴射時期設定処理」とは別のタイミングで実行される「燃料噴射処理」を実行した際の、目標筒内温度Ttrgが昇温される一例について図9に基づいて説明する。
【0111】
図9に示すように、上記昇温燃焼モード設定処理によって設定して記憶装置53に記憶したパイロット噴射の段数が、例えば、2段の場合には、各パイロット噴射時期Api1、Api2において、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminが噴射されて、それぞれ所定着火遅れで燃焼が開始される。従って、目標パイロット噴射量Qpltrgは、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminの2倍の噴射量となり、最小化することができ、アフター噴射を多段化する総アフター噴射量Qafを確保することができる。
【0112】
続いて、圧縮上死点(TDC)から最もリタードされたメイン噴射時期AinjbNにおいて、インジェクタ43A~43Dからメイン噴射量Qmbのメイン燃料が噴射されて、目標着火遅れτtrgで燃焼が開始される。そして、アフター噴射の段数が、例えば、2段の場合には、各アフター噴射時期Afi1、Afi2において、総アフター噴射量Qafを振り分けた各アフター噴射量Qafj1、Qafj2がインジェクタ43A~43Dから噴射されて、それぞれ所定着火遅れで燃焼が開始される。これにより、図9の上段に示すように、メイン噴射で噴射されたメイン燃料の燃焼に続いて、2段のアフター噴射によってインジェクタ43A~43Dからシリンダ(気筒)45A~45D内に噴射された各燃料の燃焼によって筒内温度を昇温して、排気ガスの温度を確実に昇温することができる。
【0113】
次に、昇温燃焼モードのときの各メイン噴射時期に対するパイロット噴射量とアフター噴射量と、それぞれの排気ガスの温度を測定した実験の一例を図10に基づいて説明する。尚、メイン噴射時期を圧縮上死点(TDC)から上記昇温燃焼モード設定処理のサブ処理によって設定したメイン噴射時期AinjbNまで所定クランク角度ずつリタードして、それぞれにおいて、上記ステップS211で設定した目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行う。その後、パイロット噴射量Qplを所定量ずつ増量して、メイン噴射時期AinjbNよりも更に所定クランク角度ずつリタードしたメイン噴射を行って、排気ガス温度を測定した。
【0114】
図10の上段に示すように、メイン噴射時期を圧縮上死点(TDC)から上記昇温燃焼モード設定処理のサブ処理によって設定されたメイン噴射時期AinjbNまで所定クランク角度ずつリタードして、上記ステップS211で設定した目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行った。これにより、アフター噴射を多段化する総アフター噴射量Qafが確保されている。
【0115】
その結果、図10の下段に示すように、アフター噴射によってインジェクタ43A~43Dから噴射された各燃料の燃焼によって筒内温度が昇温されて、排気ガスの温度が約320~330[℃]まで昇温されている。また、目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行うことによって、メイン噴射をメイン噴射時期AinjbNまでリタードして、総アフター噴射量Qafのアフター噴射を行ったときの排気ガスの温度が最大値約330[℃]まで昇温されている。
【0116】
また、図10の上段に示すように、パイロット噴射量Qplを所定量ずつ増量して、メイン噴射時期AinjbNよりも更に所定クランク角度ずつリタードしたメイン噴射を行った場合には、総アフター噴射量Qafが所定量ずつ減少されて無くなっている。その結果、図10の下段に示すように、総アフター噴射量Qafの減少に伴って、アフター噴射による筒内温度の昇温が低下し、排気ガスの温度が約230[℃]まで低下している。
【0117】
従って、この実験例では、上記昇温燃焼モード設定処理のサブ処理によって設定された目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行って、メイン噴射をメイン噴射時期AinjbNまでリタードして、総アフター噴射量Qafのアフター噴射を行うことによって、排気ガスの温度は、アフター噴射を行わない場合と比較して、約100[℃]昇温されている。これより、目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行うことによって、メイン噴射をメイン噴射時期AinjbNまでリタードして、総アフター噴射量Qafのアフター噴射を行うことによって、排気ガスの温度を最も昇温させることができると考えられる。
【0118】
ここで、制御装置50は、目標着火遅れ取得部、目標パイロット噴射量設定部、メイン噴射時期設定部、パイロット噴射量算出部、第1噴射量算出部、第2噴射量算出部、再メイン噴射時期算出部、再噴射量算出部、反復算出部の一例として機能する。
【0119】
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係る内燃機関の制御システム1では、制御装置50は、目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行った際の、メイン噴射によってシリンダ(気筒)45A~45D内に噴射されたメイン燃料が目標着火遅れτtrgで燃焼するようにメイン噴射時期AinjbNを設定することができ、燃焼ロバスト性を確保することができる。
【0120】
また、制御装置50は、インジェクタ43A~43Dから噴射可能な最小噴射量Qiminにパイロット噴射を噴射する回数(段数)を掛け算した噴射量を目標パイロット噴射量Qpltrgに設定する。これにより、制御装置50は、パイロット噴射量Qplの最小化を図り、アフター噴射量Qafを確実に確保して、アフター噴射を複数回行う(多段化する)ことができる。その結果、制御装置50は、アフター噴射を多段化して排気ガス温度を効果的に昇温することができる。更に、制御装置50は、目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行うことによって、パイロット噴射量Qplの最小化を図りつつ、メイン噴射時期AinjbNを目標着火遅れτtrgになるまで最大限リタードすることが可能となり、排気ガスを更に効果的に昇温することができる。
【0121】
また、制御装置50は、図7の上側に示す、メイン噴射時期Ainjbに対する目標着火遅れτtrgを実現する総パイロット噴射量Qplを表す総パイロット噴射量マップM1から、直線補間によってメイン噴射時期AinjbNとパイロット噴射量QplbNを算出する。そして、制御装置50は、パイロット噴射量QplbNから目標パイロット噴射量Qpltrgを減算した値の絶対値が所定閾値以下(例えば、0.1[mm3/st]以下)になった場合、若しくは、直線補間してメイン噴射時期AinjbNとパイロット噴射量QplbNを算出した回数が所定回数(例えば、N=5[回])に達した場合には、メイン噴射時期AinjbNでメイン噴射を行うように設定する。
【0122】
これにより、制御装置50は、目標パイロット噴射量Qpltrgのパイロット噴射を行った際の、目標着火遅れτtrgでメイン燃料が燃焼するメイン噴射時期AinjbNを迅速に設定することができると共に、燃焼ロバスト性を確実に確保することができる。
【0123】
尚、本発明は前記実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形、追加、削除が可能であることは勿論である。
【0124】
また、前記実施形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。また、以上(≧)、以下(≦)、より大きい(>)、未満(<)等は、等号を含んでも含まなくてもよい。
【符号の説明】
【0125】
1 内燃機関の制御システム
10 内燃機関
43A~43D インジェクタ
45A~45D シリンダ
50 制御装置
53 記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10