(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063494
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】輸送機用圧縮機部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/04 20060101AFI20220415BHJP
B22F 3/20 20060101ALI20220415BHJP
B22F 3/17 20060101ALI20220415BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220415BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20220415BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220415BHJP
F04D 29/28 20060101ALN20220415BHJP
【FI】
C22C1/04 C
B22F3/20 C
B22F3/17 C
B22F1/00 N
C22C21/00 M
C22F1/00 687
F04D29/28 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171789
(22)【出願日】2020-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 将人
(72)【発明者】
【氏名】杉山 知平
(72)【発明者】
【氏名】小鉄 泰生
(72)【発明者】
【氏名】荒山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】内田 友生
【テーマコード(参考)】
3H130
4K018
【Fターム(参考)】
3H130AA13
3H130AB07
3H130AB27
3H130AB47
3H130AC13
3H130BA23C
3H130BA24C
3H130CB01
3H130CB05
3H130EC02C
3H130EC05C
3H130EC12C
3H130EC13C
3H130EC14C
3H130ED01C
4K018AA15
4K018BA08
4K018BB04
4K018EA31
4K018EA41
4K018FA06
4K018KA12
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】優れた機械的特性を有する輸送機用圧縮機部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】輸送機用圧縮機部品1は、熱間押出が施されたアルミニウム合金材から構成されている。アルミニウム合金材は、Fe:5.0質量%以上9.0質量%以下、V:0.1質量%以上3.0質量%以下、Mo:0.1質量%以上3.0質量%以下、Zr:0.1質量%以上2.0質量%以下、Ti:0.02質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。輸送機用圧縮機部品1の表面硬さは140HV以上であり、押出方向に対して平行な断面における空隙の円相当径は400μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間押出が施されたアルミニウム合金材からなる輸送機用圧縮機部品であって、
前記アルミニウム合金材は、
Fe:5.0質量%以上9.0質量%以下、V:0.1質量%以上3.0質量%以下、Mo:0.1質量%以上3.0質量%以下、Zr:0.1質量%以上2.0質量%以下、Ti:0.02質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
表面硬さが140HV以上であり、
押出方向に平行な断面における空隙の円相当径が400μm以下である、輸送機用圧縮機部品。
【請求項2】
押出方向に対して直角な方向における前記アルミニウム合金材の比疲労強度が45MPa/(g/cm3)以上である、請求項1に記載の輸送機用圧縮機部品。
【請求項3】
押出方向に対して直角な方向における前記アルミニウム合金材の伸びが1%以上である、請求項1または2に記載の輸送機用圧縮機部品。
【請求項4】
前記アルミニウム合金材は、Al母相中にAl-Fe系金属間化合物が分散した金属組織を有しており、前記Al-Fe系金属間化合物の平均円相当径が0.1μm~3.0μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の輸送機用圧縮機部品。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の輸送機用圧縮機部品の製造方法であって、
前記化学成分を有するアルミニウム合金粉末を押し固めて圧粉体を作製し、
前記圧粉体に押比7以上の熱間押出を行ってアルミニウム合金材を作製し、
前記アルミニウム合金材を所望の形状に成形する、輸送機用圧縮機部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の輸送機用圧縮機部品の製造方法であって、
前記化学成分を有するアルミニウム合金粉末を押し固めて圧粉体を作製し、
前記圧粉体に熱間押出を行ってアルミニウム合金材を作製し、
前記アルミニウム合金材に据え込み率50%以上の据込鍛造を行って鍛造材とし、
前記鍛造材を所望の形状に成形する、輸送機用圧縮機部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機用圧縮機部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の輸送機には、ターボチャージャ等の圧縮機が組み込まれることがある。この種の圧縮機は、150℃程度の高い温度で作動するため、圧縮機部品には高温における機械的特性に優れていることが求められる。特に、圧縮機部品の中でも、例えばインペラなどの回転する部分に用いられる部品は、作動時に10000rpmを超える高速回転が与えられるため、高温における剛性に優れていることに加え、高速回転に耐え得る強度を有することが求められている。
【0003】
圧縮機部品に適用するためのアルミニウム合金材の例として、特許文献1には、Cu(銅):3.4~5.5%(質量%、以下同じ)、Mg(マグネシウム):1.7~2.3%、Ni(ニッケル):1.0~2.5%、Fe(鉄):0.5~1.5%、Mn(マンガン):0.1~0.4%、Zr(ジルコニウム):0.05~0.3%、Si(シリコン):0.1%未満、Ti(チタン):0.1%未満を含み、残部Al(アルミニウム)及び不可避不純物からなることを特徴とする高温強度及び高温疲労特性に優れた耐熱アルミニウム合金押出材が記載されている。
【0004】
しかし、特許文献1の耐熱アルミニウム合金押出材のように、溶製法、つまり、所望の化学成分を有するアルミニウム合金の溶湯を鋳造する方法により得られるアルミニウム合金材では、実現し得る化学成分の範囲に限界がある。そこで、近年では、粉末冶金法、つまり、所望の化学成分を有するアルミニウム合金の粉末を用いてアルミニウム合金材を作製する方法により圧縮機部品の素材となるアルミニウム合金材を作製することが検討されている。
【0005】
粉末冶金法によるアルミニウム合金材の作製方法は、例えば、所望の化学成分を備えたアルミニウム合金粉末を押し固めて圧粉体を作製する工程と、圧粉体に熱間押出を行う工程と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、粉末冶金法により得られるアルミニウム合金材は、引張強さや伸び、疲労強度などの機械的特性が、外力の加わる方向によって変動しやすいという問題がある。特に、粉末冶金法により得られるアルミニウム合金材においては、押出方向に対して直角な方向における伸びや疲労強度が押出方向に対して平行な方向における伸びや疲労強度に比べて低くなりやすい。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、優れた機械的特性を有する輸送機用圧縮機部品及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、熱間押出が施されたアルミニウム合金材からなる輸送機用圧縮機部品であって、
前記アルミニウム合金材は、
Fe(鉄):5.0質量%以上9.0質量%以下、V(バナジウム):0.1質量%以上3.0質量%以下、Mo(モリブデン):0.1質量%以上3.0質量%以下、Zr(ジルコニウム):0.1質量%以上2.0質量%以下、Ti(チタン):0.02質量%以上2.0質量%以下を含有し、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、
表面硬さが140HV以上であり、
押出方向に対して平行な断面における空隙の円相当径が400μm以下である、輸送機用圧縮機部品にある。
【0010】
本発明の他の態様は、前記の態様の輸送機用圧縮機部品の製造方法であって、
前記化学成分を有するアルミニウム合金粉末を押し固めて圧粉体を作製し、
前記圧粉体に押比7以上の熱間押出を行ってアルミニウム合金材を作製し、
前記アルミニウム合金材を所望の形状に成形する、輸送機用圧縮機部品の製造方法にある。
【0011】
本発明のさらに他の態様は、前記の態様の輸送機用圧縮機部品の製造方法であって、
前記化学成分を有するアルミニウム合金粉末を押し固めて圧粉体を作製し、
前記圧粉体に熱間押出を行ってアルミニウム合金材を作製し、
前記アルミニウム合金材に据え込み率50%以上の据込鍛造を行って鍛造材とし、
前記鍛造材を所望の形状に成形する、輸送機用圧縮機部品の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
前記輸送機用圧縮機部品(以下、「圧縮機部品」という。)は、前記特定の化学成分を有し、熱間押出が施されたアルミニウム合金材から構成されている。また、前記アルミニウム合金材の表面硬さ及び押出方向に対して平行な断面における空隙の円相当径は、それぞれ前記特定の範囲内にある。前記アルミニウム合金材は、化学成分、表面硬さ及び空隙の円相当径をそれぞれ前記特定の範囲とすることにより、押出方向に直角な方向における機械的特性を向上させ、押出方向に平行な方向における機械的特性に近づけることができる。
【0013】
それ故、前記特定のアルミニウム合金材を用いて圧縮機部品を作製することにより、圧縮機部品の機械的特性を向上させることができる。
【0014】
また、前記輸送機用圧縮機部品の製造方法の第一の態様においては、前記アルミニウム合金粉末の圧粉体に、押比が前記特定の範囲となるようにして熱間押出を行う。熱間押出における押比を前記特定の範囲とすることにより、圧粉体を十分に圧縮し、圧粉体内部に存在する空隙を縮小することができる。その結果、前記圧縮機部品を容易に得ることができる。
【0015】
また、前記輸送機用圧縮機部品の製造方法の第二の態様においては、前記アルミニウム合金粉末の圧粉体に熱間押出を行った後、据え込み率が前記特定の範囲となるようにして据込鍛造を行う。据込鍛造における据え込み率を前記特定の範囲とすることにより、熱間押出後のアルミニウム合金材を十分に圧縮し、アルミニウム合金材の内部に存在する空隙を縮小することができる。その結果、前記圧縮機部品を容易に得ることができる。
【0016】
以上のように、前記の態様によれば、優れた機械的特性を有する輸送機用圧縮機部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1における輸送機用圧縮機部品の斜視図である。
【
図2】
図2は、試験材1における押出方向に対して平行な断面のマイクロスコープ像である。
【
図3】
図3は、試験材2における押出方向に対して平行な断面のマイクロスコープ像である。
【
図4】
図4は、試験材3における押出方向に対して平行な断面のマイクロスコープ像である。
【
図5】
図5は、実施例3における試験材4~試験材6のS-N曲線を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(輸送機用圧縮機部品)
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材の化学成分、金属組織及び機械的特性について説明する。
【0019】
・Fe(鉄):5.0質量%以上9.0質量%以下
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材には、5.0質量%以上9.0質量%以下のFeが含まれている。アルミニウム合金材中のFeの含有量を前記特定の範囲とすることにより、アルミニウム合金材内に、高い融点を備え、高温においても安定して存在するAl-Fe系金属間化合物を形成することができる。その結果、例えば200℃以上350℃以下の温度範囲における静的強度やクリープ特性等の、前記圧縮機部品の高温における機械的特性を向上させることができる。
【0020】
アルミニウム合金材中のFeの含有量が5.0質量%未満の場合には、前記圧縮機部品の強度の低下を招くおそれがある。一方、アルミニウム合金材中のFeの含有量が9.0質量%よりも多い場合には、前記圧縮機部品の延性の低下を招くおそれがある。前記圧縮機部品の強度と延性とをバランスよく向上させる観点からは、アルミニウム合金材中のFeの含有量を7.0質量%以上8.0質量%以下とすることが好ましい。
【0021】
・V(バナジウム):0.1質量%以上3.0質量%以下
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材には、0.1質量%以上3.0質量%以下のVが含まれている。アルミニウム合金材中のVの含有量を前記特定の範囲とすることにより、アルミニウム合金材内に、Al-Fe系金属間化合物としてのAl-Fe-V-Mo系金属間化合物を形成することができる。その結果、例えば200℃以上350℃以下の温度範囲における静的強度やクリープ特性等の、前記圧縮機部品の高温における機械的特性を向上させることができる。
【0022】
アルミニウム合金材中のVの含有量が0.1質量%未満の場合には、前記圧縮機部品の強度の低下を招くおそれがある。一方、アルミニウム合金材中のVの含有量が3.0質量%よりも多い場合には、前記圧縮機部品の延性の低下を招くおそれがある。前記圧縮機部品の強度と延性とをバランスよく向上させる観点からは、アルミニウム合金材中のVの含有量を1.0質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
・Mo(モリブデン):0.1質量%以上3.0質量%以下
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材には、0.1質量%以上3.0質量%以下のMoが含まれている。アルミニウム合金材中のMoの含有量を前記特定の範囲とすることにより、アルミニウム合金材内に、Al-Fe系金属間化合物としてのAl-Fe-V-Mo系金属間化合物を形成することができる。その結果、例えば200℃以上350℃以下の温度範囲における静的強度やクリープ特性等の、前記圧縮機部品の高温における機械的特性を向上させることができる。
【0024】
アルミニウム合金材中のMoの含有量が0.1質量%未満の場合には、前記圧縮機部品の強度の低下を招くおそれがある。一方、アルミニウム合金材中のMoの含有量が3.0質量%よりも多い場合には、前記圧縮機部品の延性の低下を招くおそれがある。前記圧縮機部品の強度と延性とをバランスよく向上させる観点からは、アルミニウム合金材中のMoの含有量を1.0質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。
【0025】
・Zr(ジルコニウム):0.1質量%以上2.0質量%以下
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材には、0.1質量%以上2.0質量%以下のZrが含まれている。Zrは、アルミニウム合金材内に形成されるAl-Fe系金属間化合物を微細化する作用を有している。また、Zrは、Alマトリクス中でのAlの自己拡散を抑制し、クリープ特性を向上させる作用を有している。アルミニウム合金材中のZrの含有量を前記特定の範囲とすることにより、アルミニウム合金材の内部にAl-Fe系金属間化合物を微細に析出させ、Al-Fe系金属間化合物による析出強化及び分散強化の効果をより高めることができる。また、アルミニウム合金材中のZrの含有量を前記特定の範囲とすることにより、前記圧縮機部品のクリープ特性をより向上させることができる。
【0026】
アルミニウム合金材中のZrの含有量が0.1質量%未満の場合には、析出強化及び分散強化の効果が低下するおそれがある。一方、アルミニウム合金材中のZrの含有量が2.0質量%よりも多い場合には、アルミニウム合金材内にZrを含む粗大な金属間化合物が形成されやすくなり、機械的特性の悪化を招くおそれがある。粗大な金属間化合物の形成を回避しつつZrによる作用効果をより高める観点からは、アルミニウム合金材中のZrの含有量を0.5質量%以上1.5質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
・Ti(チタン):0.02質量%以上2.0質量%以下
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材には、0.02質量%以上2.0質量%以下のTiが含まれている。Tiは、アルミニウム合金材中にZrとともに存在することにより、Alマトリクス中にL12構造のAl-(Ti,Zr)系金属間化合物を形成することができる。そして、アルミニウム合金材中のTiの含有量を前記特定の範囲とすることにより、Al-(Ti,Zr)系金属間化合物による析出強化及び分散強化の効果を得ることができる。また、Tiは、Alマトリクス中での拡散係数が小さいため、アルミニウム合金材中のTiの含有量を前記特定の範囲とすることにより、圧縮機部品のクリープ特性を向上させることができる。
【0028】
アルミニウム合金材中のTiの含有量が0.02質量%未満の場合には、Al-(Ti,Zr)系金属間化合物による析出強化及び分散強化の効果が低くなるおそれがある。一方、アルミニウム合金材中のTiの含有量が2.0質量%よりも多い場合には、前記圧縮機部品の延性の低下を招くおそれがある。前記圧縮機部品の強度と延性とをバランスよく向上させる観点からは、アルミニウム合金材中のTiの含有量を0.5質量%以上1.0質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
・B(ホウ素):0.0001質量%以上0.03質量%以下
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材には、任意成分として、B:0.0001質量%以上0.03質量%以下が含まれていてもよい。この場合には、アルミニウム合金材における結晶粒をより微細化することができる。その結果、前記圧縮機部品の機械的特性をより向上させることができる。
【0030】
・金属組織
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材は、Al母相中に、第二相粒子としてのAl-Fe系金属間化合物が分散した金属組織を有していてもよい。前述したAl-Fe系金属間化合物とは、Al及びFeを含む金属間化合物をいう。Al-Fe系金属間化合物は、例えば、AlとFeとからなる二元化合物であってもよいし、Al及びFeに加えて、VやMo等の元素を含む三元以上の化合物であってもよい。
【0031】
前記アルミニウム合金材に含まれる前記Al―Fe系金属間化合物の平均円相当径は、0.1μm以上3.0μm以下であることが好ましい。この場合には、Al-Fe系金属間化合物による析出強化及び分散強化の効果をより高めることができる。その結果、前記圧縮機部品の機械的特性をより向上させることができる。圧縮機部品の機械的特性をより向上させる観点からは、Al―Fe系金属間化合物の平均円相当径は、0.3μm以上2.0μm以下であることがより好ましく、0.4μm以上1.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
前記アルミニウム合金材に含まれるAl―Fe系金属間化合物の平均円相当径の算出方法は、具体的には以下の通りである。まず、圧縮機部品の中心部から、一辺10mmの立方体状を呈し、6枚の表面のうち一対の表面が押出方向に垂直な面である試料を採取する。断面試料作成装置(例えば、クロスセクションポリッシャ(登録商標))を用いてこの試料の表面を研磨した後、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて試料の表面を観察し、SEM像を取得する。なお、SEM観察における視野面積や観察位置、取得するSEM像の数は特に限定されることはない。
【0033】
その後、SEM像に現れたAl―Fe系金属間化合物のそれぞれについて、SEM像におけるAl―Fe系金属間化合物の面積と等しい面積を有する円の直径を算出し、この値を個々のAl―Fe系金属間化合物の円相当径とする。このようにして得られた個々のAl―Fe系金属間化合物の円相当径の算術平均値を、アルミニウム合金材におけるAl―Fe系金属間化合物の平均円相当径とする。より精確な平均円相当径を算出する観点からは、平均円相当径の算出に用いるAl-Fe系金属間化合物の数を十分に多くすることが好ましい。より具体的には、例えば、10個以上のAl-Fe系金属間化合物の円相当径を算出し、これらの算術平均値をアルミニウム合金材におけるAl―Fe系金属間化合物の平均円相当径とすることが好ましい。
【0034】
前記圧縮機部品は、少なくとも熱間押出が施されたアルミニウム合金材から構成されている。前記圧縮機部品が、熱間押出が施されたアルミニウム合金材から構成されているか否かは、例えば、前記圧縮機部品の種々の断面を観察した際に、押出方向に沿って延在している筋状の模様が存在しているか否かによって判断することができる。
【0035】
また、前記圧縮機部品は、粉末冶金法により作製されたアルミニウム合金材、つまり、前記特定の化学成分を有するアルミニウム合金粉末から作製された圧粉体に熱間加工を施してなるアルミニウム合金材から構成されていることが好ましい。前記圧縮機部品が、粉末冶金法により作製されたアルミニウム合金材から構成されているか否かは、例えば、前記圧縮機部品の種々の断面を観察した際の平均結晶粒径によって判断することができる。より具体的には、前記圧縮機部品の任意の断面における平均結晶粒径が3μm以下である場合には、前記圧縮機部品は、粉末冶金法によって作製されたアルミニウム合金材から構成されていると判断することができる。
【0036】
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材の内部には、製造過程において形成された空隙が存在していてもよい。例えば、前記圧縮機部品が粉末冶金法により作製されたアルミニウム合金材から構成されている場合、圧縮機部品の内部には、アルミニウム合金粉末同士の隙間に由来する空隙が存在している。
【0037】
粉末冶金法によるアルミニウム合金材の作製過程では、アルミニウム合金粉末の圧粉体に熱間押出を行う際に、圧粉体が押出方向に引き伸ばされると同時に、径方向、つまり、押出方向に対して直角な方向の寸法が縮小される。圧粉体の内部に存在する空隙は、この熱間押出中のメタルフローにより、押出方向に引き伸ばされると同時に径方向に縮小される。それ故、粉末冶金法により作製されたアルミニウム合金材から構成された圧縮機部品の内部には、押出方向に沿って延在する、細長い形状の空隙が形成されやすい。
【0038】
前記アルミニウム合金材の押出方向に対して平行な断面における空隙の円相当径は、400μm以下とする。前記アルミニウム合金材は、押出方向に対して平行な断面における空隙の円相当径を前記特定の範囲とすることにより、押出方向に対して直角な方向における機械的特性を向上させ、押出方向に対して平行な方向における機械的特性との差を小さくすることができる。それ故、かかるアルミニウム合金材を用いて前記圧縮機部品を作製することにより、圧縮機部品の機械的特性を向上させることができる。
【0039】
前述した作用効果が得られる理由としては、例えば、以下の理由が考えられる。圧縮機部品に応力が加わった場合、応力の向きに対して垂直な断面における空隙の断面積が小さいほど、空隙を起点とする亀裂等の発生を抑制することができる。一方、熱間押出が施されたアルミニウム合金材においては、前述したように、熱間押出時のメタルフローにより、内部に存在する空隙が押出方向に引き伸ばされやすい。そのため、押出方向に対して平行な断面における空隙の断面積は、押出方向に対して垂直な断面における空隙の断面積よりも大きくなりやすいと考えられる。
【0040】
これに対し、前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材は、押出方向に対して平行な断面、つまり、空隙の断面積が最も大きくなるような断面において、円相当径400μmを超える空隙を有さない。このように、押出方向に対して平行な断面における空隙の大きさを前記特定の範囲に規制することにより、押出方向に平行な断面における亀裂等の発生を効果的に抑制することができる。その結果、圧縮機部品の内部に空隙が存在する場合であっても、押出方向に平行な方向における機械的特性と、押出方向に直角な方向における機械的特性との差を小さくすることができると考えられる。
【0041】
前述した作用効果をより高める観点からは、アルミニウム合金材の押出方向に平行な断面における空隙の円相当径は、300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0042】
圧縮機部品内に存在する空隙の円相当径の算出方法は、例えば以下の通りである。まず、前述したAl―Fe系金属間化合物の平均円相当径の算出方法と同様の方法により、圧縮機部品から試料を採取する。そして、SEMを用いて試料における押出方向に平行な面を観察し、SEM像を取得する。
【0043】
その後、SEM像に現れた空隙のそれぞれについて、SEM像における空隙の面積と等しい面積を有する円の直径を算出し、この値を個々の空隙の円相当径とする。SEM観察における視野面積や観察位置、取得するSEM像の数は特に限定されることはないが、空隙の円相当径のより精確な最大値を算出する観点からは、SEM像中に現れる空隙の数を十分に多くすることが好ましい。より具体的には、例えば、SEM像の視野面積の合計が1mm2以上となるように、SEM像を取得することが好ましい。
【0044】
前記圧縮機部品を構成するアルミニウム合金材の表面硬さは140HV以上である。アルミニウム合金材の表面硬さを140HV以上、好ましくは150HV以上とすることにより、圧縮機部品の耐久性を向上させることができる。アルミニウム合金材の表面硬さが140HV未満の場合には、圧縮機部品の表面に凹凸が形成されやすくなり、圧縮機の性能が低下しやすくなるおそれがある。なお、前述したアルミニウム合金材の表面硬さは、ビッカース硬度計を用いて圧縮機部品の表面を測定することにより得られるビッカース硬さである。
【0045】
押出方向に対して直角な方向における前記アルミニウム合金材の比疲労強度は、45MPa/(g/cm3)以上であることが好ましく、50MPa/(g/cm3)以上であることがより好ましい。この場合には、前記圧縮機部品の機械的特性をより向上させることができる。なお、前述した比疲労強度は、常温環境下におけるアルミニウム合金材の疲労強度を密度で除した値である。また、アルミニウム合金材の疲労強度の値は、JIS Z2273:1978に準じた方法により引張圧縮疲労試験を行った結果得られる両振り引張圧縮疲れ限度σwの値とする。
【0046】
前述した引張圧縮疲労試験の具体的な試験条件は以下の通りとする。
・繰返し周期:40Hz
・疲労試験中の応力の繰返し数n:1×107回
・試験片形状:長手方向が押出方向に対して直角になるようにして圧縮機部品から採取した、標点間距離7mm、平行部直径4mmのダンベル試験片
【0047】
押出方向に対して直角な方向における前記アルミニウム合金材の伸びは、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましい。この場合には、圧縮機部品の機械的特性をより向上させ、ひいては耐久性をより向上させることができる。なお、前述したアルミニウム合金材の伸びは、常温環境下において、JIS Z2241:2011に規定された方法により引張試験を行った結果得られる引張破断伸びの値とする。
【0048】
前記圧縮機部品は、例えば、ターボチャージャにおける圧縮機のインペラとして構成されていてもよい。前述したように、前記圧縮機部品は、押出方向に直角な方向における機械的特性を向上させ、押出方向に平行な方向における機械的特性と押出方向に平行な方向における機械的特性との差を小さくすることができる。そのため、前記アルミニウム合金材は、インペラ等の、使用中に高速回転によって遠心力が加わる回転体に好適である。
【0049】
(輸送機用圧縮機部品の製造方法)
前記圧縮機部品は、例えば、粉末冶金法によって得られたアルミニウム合金材から作製することができる。例えば、前記圧縮機部品の製造方法の第一の態様は、
前記化学成分を有するアルミニウム合金粉末を押し固めて圧粉体を作製する粉末圧縮工程と、
前記圧粉体に押比7以上の熱間押出を行って押出材を作製する押出工程と、
前記押出材を所望の形状に成形する機械加工工程と、を有している。
【0050】
・粉末圧縮工程
粉末圧縮工程においては、化学成分を有するアルミニウム合金粉末を押し固めることにより、圧粉体を作製する。粉末圧縮工程に用いられるアルミニウム合金粉末の平均粒子径は、30μm以上70μm以下であることが好ましい。
【0051】
粉末圧縮工程に用いられるアルミニウム合金粉末は、例えば、アトマイズ法などにより作製されていてもよい。アトマイズ法においては、前記化学成分を有するアルミニウム合金の溶湯に窒素ガス等のガスを吹き付け、アルミニウム合金溶湯の微細な液滴を作製しつつ急冷して凝固させることによりアルミニウム合金粉末を得ることができる。液滴の冷却速度は、例えば、102℃/秒以上105℃/秒以下の範囲とすることができる。
【0052】
粉末圧縮工程の具体的な態様は、例えば以下の通りである。まず、アルミニウム合金粉末を250℃以上300℃以下の温度に加熱し、230℃以上270℃以下の温度を有する金型に充填する。次いで、金型内のアルミニウム合金粉末に、例えば0.5トン/cm2以上3.0トン/cm2以下(つまり、49MPa以上290MPa以下)の圧力を加えて圧縮することにより、圧粉体を作製する。金型の形状は特に限定されることはないが、押出工程における加工性等の観点から、金型は、円柱状または円盤状の圧粉体を作製可能な形状を有していることが好ましい。また、圧粉体の相対密度は、60%以上90%以下であることが好ましい。
【0053】
・押出工程
押出工程においては、圧粉体に押比7以上の熱間押出を行って押出材を作製する。押出工程に用いられる圧粉体は、粉末圧縮工程において得られた圧粉体そのものであってもよいし、粉末圧縮工程において得られた圧粉体に面削等の機械加工が施されたものであってもよい。
【0054】
押出工程の具体的な態様は、例えば以下の通りである。まず、圧粉体に脱ガス処理を施す。次いで、予め300℃以上450℃以下の温度に加熱した圧粉体を、300℃以上400℃以下の温度を有するコンテナ内に配置する。その後、コンテナ内の圧粉体をラムで加圧し、ダイスから押し出すことによりアルミニウム合金材を得ることができる。押出工程における押出圧力は、例えば、10MPa以上25MPa以下の範囲から適宜設定することができる。また、アルミニウム合金材の形状は、例えば、円柱状とすることができる。
【0055】
熱間押出における押比、つまり、押出方向に垂直な断面におけるコンテナの断面積をアルミニウム合金材の断面積で除した値は、7以上とする。熱間押出における押比を7以上とすることにより、熱間押出中に圧粉体を十分に塑性変形させ、アルミニウム合金粉末の間に存在する空隙を小さくすることができる。その結果、空隙の小さいアルミニウム合金材を得ることができる。
【0056】
アルミニウム合金材内の空隙をより小さくし、圧縮機部品の機械的特性をより向上させる観点からは、熱間押出における押比は、8以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
【0057】
・機械加工工程
機械加工工程においては、押出工程において得られたアルミニウム合金材を所望の形状に成形することにより圧縮機部品を作製する。機械加工工程におけるアルミニウム合金材の加工方法は特に限定されることはなく、所望する圧縮機部品の形状に応じて、旋盤加工、切削加工などの種々の機械加工を採用することができる。
【0058】
前記圧縮機部品の製造方法の第二の態様は、前記化学成分を有するアルミニウム合金粉末を押し固めて圧粉体を作製する粉末圧縮工程と、
前記圧粉体に熱間押出を行って押出材を作製する押出工程と、
前記押出材に据え込み率50%以上の据込鍛造を行って鍛造材とする鍛造工程と、
前記鍛造材を所望の形状に成形する機械加工工程と、を有している。
【0059】
・粉末圧縮工程
圧縮機部品の製造方法の第二の態様における粉末圧縮工程は、前述した第一の態様の粉末圧縮工程と同様である。
【0060】
・押出工程
圧縮機部品の製造方法の第二の態様における押出工程は、熱間押出における押比が前記特定の範囲を満たしていなくてもよい点を除き、前述した第一の態様の押出工程と同様である。
【0061】
・鍛造工程
鍛造工程においては、押出工程において得られたアルミニウム合金材に据込鍛造を行うことにより、アルミニウム合金材を鍛造材とする。鍛造工程に用いられるアルミニウム合金材は、押出工程において得られたアルミニウム合金材そのものであってもよいし、押出工程において得られたアルミニウム合金材を適当な長さに切断したものであってもよい。
【0062】
鍛造工程においては、例えば予め300℃以上450℃以下の温度に加熱したアルミニウム合金材を押出方向に圧縮することによって鍛造材を得ることができる。鍛造工程における鍛造方法としては、例えば、自由鍛造、つまり、アルミニウム合金材の表面を拘束せずに行う鍛造方法や、型鍛造、つまり、金型等を用いてアルミニウム合金材の表面の少なくとも一部を拘束して行う鍛造方法を採用することができる。また、鍛造材の形状は、例えば、円柱状や円盤状とすることができる。
【0063】
据込鍛造における据え込み率、つまり、鍛造前のアルミニウム合金材の高さと鍛造材の高さとの差を鍛造前のアルミニウム合金材の高さで除した値は、50%以上とする。据込鍛造における据え込み率を50%以上とすることにより、据え込み鍛造中にアルミニウム合金材を十分に塑性変形させ、アルミニウム合金材の内部に存在する空隙を縮小させることができる。その結果、空隙の小さいアルミニウム合金材を得ることができる。
【0064】
・機械加工工程
圧縮機部品の製造方法の第二の態様における機械加工工程は、前述した第一の態様における機械加工工程と同様である。
【実施例0065】
前記圧縮機部品及びその製造方法の実施例を以下に説明する。
【0066】
(実施例1)
本例は、押出工程における押比を種々変更して得られるアルミニウム合金材の比疲労強度を評価した例である。本例では、まず、Fe:8.0質量%、V:2.0質量%、Mo:2.0質量%、Zr:1.0質量%及びTi:0.1質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、温度が1000℃であるアルミニウム合金の溶湯を準備した。次いで、このアルミニウム合金溶湯からガスアトマイズ法、つまり、アルミニウム合金溶湯にガスを吹き付け、アルミニウム合金の微細な液滴を形成しつつ急冷して凝固させる方法によってアルミニウム合金粉末を作製した。アルミニウム合金粉末の平均粒子径は50μmであった。
【0067】
得られたアルミニウム合金粉末を加熱して温度を280℃とした後、温度280℃の金型内にアルミニウム合金粉末を充填した。そして、金型内のアルミニウム合金粉末を1.5トン/cm2(つまり、145MPa)の圧力で押し固めることにより、直径210mm、長さ250mmの円柱状を呈する圧粉体を作製した(粉末圧縮工程)。その後、金型から取り出した圧粉体の側周面を面削し、圧粉体の直径を203mmとした。
【0068】
次に、表1に示すいずれかの内径を有するダイスを内径210mmのコンテナに取り付けた。このコンテナを400℃まで加熱した後、予め400℃の温度まで加熱した圧粉体をコンテナ内に配置した。そして、間接押出法によって圧粉体をダイスから押し出し、表1に示す試験材1~試験材3を得た(押出工程)。試験材1~試験材3を作製する際の熱間押出の押比は、それぞれ表1に示した通りである。
【0069】
その後、試験材1~試験材3に旋盤加工及び切削加工を施すことにより、輸送機用圧縮機部品1としてのインペラ10(
図1参照)を得た。インペラ10は、略円錐台状を呈するハブ部2と、ハブ部2における側周面に設けられた複数の翼部3とを有している。ハブ部2は、その回転軸を貫通する貫通孔21を有している。貫通孔21は、圧縮機のシャフト(図示略)を挿入することができるように構成されている。また、インペラ10は、ハブ部2の回転軸がアルミニウム合金材の押出方向と平行になるように作製されている。
【0070】
次に、インペラ10における表面硬さ、空隙の円相当径及び比疲労強度を以下の方法により評価した。
【0071】
・表面硬さ
ビッカース試験機を用いてインペラ10の表面のビッカース硬さを測定した。各試験材のビッカース硬さは、表1の「表面硬さ」欄に示した通りであった。
【0072】
・空隙の円相当径
インペラ10におけるハブ部2の貫通孔21の近傍から、一辺10mmの立方体状を呈し、6枚の表面のうち一対の表面が押出方向に対して垂直な面である試料を採取した。断面試料作成装置を用いてこの試料の表面を研磨した後、マイクロスコープを用い、試料における押出方向に対して平行な表面を観察し、マイクロスコープ像を取得した。なお、マイクロスコープ像の視野面積は、1.5815mm2とした。
【0073】
図2~
図4に、それぞれ、試験材1~試験材3のマイクロスコープ像を示す。なお、試験材1~試験材3の押出方向は、
図2~
図4の上下方向である。
図2~
図4に示したように、試験材1~試験材3から作製した試料における押出方向に平行な面には、押出方向と平行な方向に引き伸ばされた結晶粒からなる筋状の模様が現れている。また、試験材中に存在する空隙V(
図4参照)は、試験材よりも黒い色調で表されている。
【0074】
本例では、空隙の円相当径を以下の方法により算出した。まず、マイクロスコープ像に現れた空隙Vのうち、目視にて断面積が大きいと判断される空隙を複数選択し、各空隙の円相当径を算出した。そして、これらの空隙の円相当径のうち最大の値を、インペラ10における空隙の円相当径として表1に示した。
【0075】
・比疲労強度
インペラ10のハブ部2から、長手方向がハブ部2の回転軸方向(つまり、アルミニウム合金材の押出方向)に対して平行になるようにして、標点間距離7mm、平行部直径4mmのダンベル状を呈するL試験片を採取した。これとは別に、インペラ10のハブ部2から、長手方向がハブ部2の回転軸方向に対して直角になるようにして、標点間距離7mm、平行部直径4mmのダンベル状を呈するLT試験片を採取した。これらの試験片を用い、JIS Z2273:1978に準じた方法により、常温環境下において引張圧縮疲労試験を行った。
【0076】
引張圧縮疲労試験における具体的な試験条件は以下の通りとした。
・繰返し周期:40Hz
・疲労試験中の繰返し数n:1×107回
【0077】
表1の「比疲労強度」欄に、各試験片の両振り引張圧縮疲れ限度σwを試験片の密度ρ[g/cm3]で除した値(単位:MPa/(g/cm3))を示す。なお、本例において用いた試験片の密度ρは、2.97g/cm3である。
【0078】
・比引張強さ
インペラ10のハブ部2から、長手方向がハブ部2の回転軸方向(つまり、アルミニウム合金材の押出方向)に対して平行になるようにして、標点間距離20mm、平行部直径4mmのダンベル状を呈するL試験片を採取した。これとは別に、インペラ10のハブ部2から、長手方向がハブ部2の回転軸方向に対して直角になるようにして、標点間距離20mm、平行部直径4mmのダンベル状を呈するLT試験片を採取した。
【0079】
これらの試験片を用い、常温環境下において、JIS Z2241:2011に規定された方法により引張試験を行った。表1に、引張試験により得られた各試験片の比引張強さ、つまり、引張強さσBを試験材の密度ρ[g/cm3]で除した値を示す。
【0080】
【0081】
試験材1及び試験材2は、前記特定の化学成分を有するとともに、表1に示したように、前記特定の範囲内の表面硬さ及び空隙の円相当径を有している。それ故、試験材1及び試験材2は、空隙の円相当径が前記特定の範囲外である試験材3に比べてLT試験片の比疲労強度を向上させることができる。また、各試験片におけるL試験片とLT試験片との比較から、試験材1及び試験材2における押出方向に対して直角な方向の機械的特性は、押出方向に対して平行な方向の機械的特性により近くなっていることが理解できる。
【0082】
(実施例2)
本例は、熱間押出の後に据込鍛造を行う製造方法の例である。なお、本例以降において使用される符号のうち既出の例と同一の符号は、特に説明のない限り、既出の例における構成要素等と同一の構成要素を示す。本例においては、まず、実施例1に記載した方法と同様の方法により、直径203mmの圧粉体を作製した(粉末圧縮工程)。次いで、内径83mmのダイスを内径210mmのコンテナに取り付けた。このコンテナを400℃まで加熱した後、予め400℃の温度まで加熱した圧粉体をコンテナ内に配置した。そして、間接押出法によって圧粉体をダイスから押し出し、アルミニウム合金材を得た(押出工程)。本例における熱間押出の押比は、6.4である。
【0083】
得られたアルミニウム合金材を切断し、直径83mm、高さ30mmの円盤状とした。その後、アルミニウム合金材を押出方向に対して平行な方向、つまり、アルミニウム合金材の高さ方向に圧縮して据込鍛造を行い(鍛造工程)、表2に示す試験材4を得た。据込鍛造における鍛造温度は450℃とし、鍛造条件は自由鍛造、つまり、アルミニウム合金材の側周面を拘束せずに行う鍛造とした。また、アルミニウム合金材の据え込み率、つまり、鍛造前のアルミニウム合金材の高さに対する鍛造によるアルミニウム合金材の高さの減少量の比率を百分率で表した値は、表2に示す値とした。据込鍛造後の試験材4の寸法は、直径117mm、高さ15mmである。
【0084】
その後、試験材4に旋盤加工及び切削加工を施すことにより、輸送機用圧縮機部品としてのインペラ10(
図1参照)を得た。
【0085】
本例では、インペラ10の機械的特性を以下の方法により評価した。また、試験材4との比較のため、据込鍛造を行わない以外は試験材4と同様の方法により試験材5を作製し、試験材5からなるインペラ10の引張強さ、0.2%耐力及び引張破断伸びを評価した。
【0086】
・引張強さ、0.2%耐力及び引張破断伸び
インペラ10のハブ部2から、長手方向がハブ部2の回転軸方向(つまり、アルミニウム合金材の押出方向)に対して平行になるようにして、標点間距離20mm、平行部直径4mmのダンベル状を呈するL試験片を採取した。これとは別に、インペラ10のハブ部2から、長手方向がハブ部2の回転軸方向に対して直角になるようにして、標点間距離20mm、平行部直径4mmのダンベル状を呈するLT試験片を採取した。なお、試験材4からなるインペラについては、L試験片の採取は行わなかった。
【0087】
これらの試験片を用い、常温環境下において、JIS Z2241:2011に規定された方法により引張試験を行った。表2に、引張試験により得られた各試験片の引張強さ、0.2%耐力及び引張破断伸びの値を示す。
【0088】
【0089】
表2に示したように、熱間押出の後、前記特定の範囲の据え込み率で据込鍛造を行った試験材4のLT試験片は、据込鍛造を行わない試験材5のLT試験片に比べて引張強さ、0.2%耐力及び引張破断伸びの値が高くなった。また、試験材4のLT試験片と試験材5のL試験片との比較から、試験材4における押出方向に対して直角な方向の機械的特性は、押出方向に対して平行な方向の機械的特性により近くなっていることが理解できる。
【0090】
(実施例3)
本例は、鍛造工程における据え込み率を種々変更して得られたアルミニウム合金材の比疲労強度を評価した例である。本例では、据え込み率を60%とした以外は、実施例2の試験材4と同様の方法により、直径131mm、高さ12mmの円盤状を呈する試験材6を作製した。そして、この試験材6に機械加工を施し、インペラ10を得た。
【0091】
本例では、前述した試験材6、実施例2における試験材4及び試験材5を用い、以下の方法により疲労強度の評価を行った。
【0092】
・疲労強度
インペラ10のハブ部2から、長手方向がハブ部2の回転軸方向(つまり、アルミニウム合金材の押出方向)に対して直角になるようにして、標点間距離7mm、平行部直径4mmのダンベル試験片を採取した。このダンベル試験片を用い、JIS Z2273:1978に準じた方法により、130℃の環境下において引張圧縮疲労試験を行った。
【0093】
引張圧縮疲労試験における具体的な試験条件は以下の通りとした。
・繰返し周期:40Hz
【0094】
図5に、各試験材のS-N曲線を示す。
図5の縦軸は応力振幅σ
a[MPa]であり、横軸は応力の繰り返し数Nである。なお、横軸の目盛は対数目盛である。
【0095】
図5に示したように、熱間押出の後、前記特定の範囲の据え込み率で据込鍛造を行った試験材4及び試験材6は、据込鍛造を行わない試験材5に比べて同一の応力振幅σ
aに達するまでに要する繰り返し回数が多くなった。これらの結果から、熱間押出の後、前記特定の範囲の据え込み率で据込鍛造を行った試験材4及び試験材6は、据込鍛造を行わない試験材5に比べて高い疲労強度を有していることが理解できる。
【0096】
本発明に係る輸送機用圧縮機部品及びその製造方法の具体的な態様は、前述した実施例1~3に記載した態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。例えば、前述した実施例1~3においては、圧縮機部品としてのインペラ10の例を示したが、圧縮機部品は、インペラ以外であってもよい。