IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 茂呂 徹の特許一覧 ▶ 田中 栄の特許一覧 ▶ 石原 一彦の特許一覧 ▶ 岡崎 祐司の特許一覧 ▶ 佐藤 和強の特許一覧 ▶ 程原 誠の特許一覧 ▶ 松本 卓也の特許一覧

<>
  • 特開-骨接合用医療機器 図1
  • 特開-骨接合用医療機器 図2
  • 特開-骨接合用医療機器 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063512
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】骨接合用医療機器
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/10 20060101AFI20220415BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20220415BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220415BHJP
   A61B 17/80 20060101ALI20220415BHJP
   A61B 17/82 20060101ALI20220415BHJP
   A61B 17/86 20060101ALI20220415BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20220415BHJP
   C08F 20/12 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
A61L31/10
A61L31/12 100
A61L31/16
A61B17/80
A61B17/82
A61B17/86
C08F20/34
C08F20/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171818
(22)【出願日】2020-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】520396555
【氏名又は名称】茂呂 徹
(71)【出願人】
【識別番号】520396566
【氏名又は名称】田中 栄
(71)【出願人】
【識別番号】520396577
【氏名又は名称】石原 一彦
(71)【出願人】
【識別番号】520396153
【氏名又は名称】岡崎 祐司
(71)【出願人】
【識別番号】520396164
【氏名又は名称】佐藤 和強
(71)【出願人】
【識別番号】520396175
【氏名又は名称】程原 誠
(71)【出願人】
【識別番号】520396588
【氏名又は名称】松本 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】茂呂 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 栄
(72)【発明者】
【氏名】石原 一彦
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 裕司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和強
(72)【発明者】
【氏名】程原 誠
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
【テーマコード(参考)】
4C081
4C160
4J100
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081BA14
4C081BB06
4C081CA082
4C081CA292
4C081CC01
4C081CE01
4C081DC03
4C081EA06
4C160LL33
4J100AL02Q
4J100AL03Q
4J100AL08P
4J100BA32P
4J100BA63P
4J100JA51
(57)【要約】
【解決課題】
細菌感染を防止することが可能な骨接合用の医療機器を提供すること。
【解決手段】
ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備える骨接合用の医療機器であって、当該部品のうち少なくとも1つが、その表面に、下記一般式(1):
で表されるモノマー単位を含有する重合体Aを含む被膜層を有する、該医療機器。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備える骨接合用の医療機器であって、
当該部品のうち少なくとも1つが、その表面に、下記一般式(1):
(式中、Xは、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、単結合あるいは置換基を有していてもよいフェニル基又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-S-、-CONH-、-NHCO-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、iは2から10の整数を表す。)
で表されるモノマー単位を含有する重合体Aを含む被膜層を有する、該医療機器。
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるモノマー単位が、下記一般式(2):
で示される構造を有する、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
前記重合体が、2ーメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、側鎖のアルキル基の炭素数が2~12であるアルキルメタクリレートとの共重合体である、請求項1又は2に記載の医療機器。
【請求項4】
前記アルキルメタクリレートがn-ブチルメタクリレートである、請求項3に記載の医療機器。
【請求項5】
前記被膜層が、消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項6】
前記消毒薬がエタノールである、請求項1~5のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項7】
前記被膜層は、前記重合体を含むエタノール溶液を、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品に適用することにより形成される、請求項1~6のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項8】
創外固定に用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項9】
前記被膜層が、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の刺入部の表面に設けられている、請求項8に記載の医療機器。
【請求項10】
内固定に用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の医療機器。
【請求項11】
ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備える、抗感染性の骨接合用の医療機器の製造方法であって、
当該部品のうち少なくとも1つの表面に、下記一般式(1):
(式中、Xは、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、単結合あるいは置換基を有していてもよいフェニル基又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-S-、-CONH-、-NHCO-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、iは2から10の整数を表す。)
で表されるモノマー単位を含有する重合体Aを含む被膜層を形成する工程を含む、該製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が抗感染性を有する医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国における医療の進歩と生活環境基盤の整備により長寿社会が達成されつつある一方で、運動器疾患の手術は増加の一途をたどっている。中でも骨折は、厚生労働省の診療行為統計によると、1カ月で1万8千件の手術が行われており、整形外科分野において、最も手術適応となる運動器疾患の一つである。
【0003】
骨接合手術は、大別して、金属製のプレート・スクリューによる内固定と、金属製のワイヤーやピンと創外固定器を組み合わせた外固定によって行われている(図1参照)。
【0004】
臨床エビデンスに基づいた治療指針の確立、手術方法、医療機器、リハビリテーションの進歩により、多くの症例で良好な臨床成績が得られるようになっている。一方で、創外固定については皮膚とピン、ワイヤーとの接触面における感染と、続発する癒合不全(遷延治療・偽関節)は、深刻な合併症である。皮膚とピン、ワイヤーとの接触面を毎日消毒しても、消毒液が接触面に残留しないため、感染を予防することができない。簡便な創外固定では4カ所、イリザロフ法では10カ所以上のピン、ワイヤーの刺入部が存在するため、50~85%前後の症例で感染を生じている。この感染が進行するとピンやワイヤーの弛みを生じ再手術が必要となる(図2参照)。
【0005】
また、感染リスクの高い開放骨折において創外固定→内固定という二期的な治療が行われることがあるが、ピン周囲感染があるときの内固定への変更では感染率が高いため、内固定に移行できないケースも散在する。このため、骨折治療における感染を阻止することは重要な課題であるが、これまでに有効な解決策は得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Magyar G, et al: Hemicallotasis open-wedge osteotomy for osteoarthritis of the knee. Complications in 308 operations. J Bone Joint Surg 81B: 449-451, 1999.
【非特許文献2】Gordon JE, et al: Pin site care during external fixation in children: results of a nihilistic approach. J Pediatr Orthop 20: 163-165, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細菌感染を防止することが可能な骨接合用の医療機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、骨接合用の医療機器の部品の表面に、薬剤のキャリアとして用いることができ、細菌付着・バイオフィルム形成抑制効果を有する、薬剤担持被膜を形成させることにより、上記課題を解決できないかを鋭意検討を行った結果、ホスホリルコリン基を有する特定の重合体からなる被膜層を、骨接合用の医療機器のピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイル等の部品の表面に形成させることにより、当該医療機器を手術に用いて、骨折部・骨切り部の固定を行った場合に、抗菌・殺菌効果を持続できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、
[1]ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備える骨接合用の医療機器であって、
当該部品のうち少なくとも1つが、その表面に、下記一般式(1):
(式中、Xは、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、単結合あるいは置換基を有していてもよいフェニル基又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-S-、-CONH-、-NHCO-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、iは2から10の整数を表す。)
で表されるモノマー単位を含有する重合体Aを含む被膜層を有する、該医療機器。
[2]前記一般式(1)で表されるモノマー単位が、下記一般式(2):
で示される構造を有する、[1]に記載の医療機器。
[3]前記重合体が、2ーメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、側鎖のアルキル基の炭素数が2~12であるアルキルメタクリレートとの共重合体である、[1]又は[2]に記載の医療機器。
[4]前記アルキルメタクリレートがn-ブチルメタクリレートである、[3]に記載の医療機器。
[5]前記被膜層が、消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を含有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の医療機器。
[6]前記消毒薬がエタノールである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の医療機器。
[7]前記被膜層は、前記重合体を含むエタノール溶液を、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品に適用することにより形成される、[1]~[6]のいずれか1項に記載の医療機器。
[8]創外固定に用いられる、[1]~[7]のいずれか1項に記載の医療機器。
[9]前記被膜層が、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の刺入部の表面に設けられている、[8]に記載の医療機器。
[10]内固定に用いられる、[1]~[7]のいずれか1項に記載の医療機器。
[11]ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備える、抗感染性の骨接合用の医療機器の製造方法であって、
当該部品のうち少なくとも1つの表面に、下記一般式(1):
(式中、Xは、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、単結合あるいは置換基を有していてもよいフェニル基又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-S-、-CONH-、-NHCO-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、iは2から10の整数を表す。)
で表されるモノマー単位を含有する重合体Aを含む被膜層を形成する工程を含む、該製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の骨接合用の医療機器においては、ホスホリルコリン基を有する特定の重合体の薬剤担持機能を応用することで、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイル等の部品の表面での抗菌・殺菌能を発揮することができる。
また、本発明の骨接合用の医療機器、特に本発明の創外固定用の医療機器では、体内ではなく、ワイヤー等の部品と皮膚との接触面表面に設けられた重合体Aを含む被膜層から薬剤を徐放させるため、長期の臨床経過においても、定期的に簡便な消毒操作を行うことで、薬剤の徐放を維持することができる。
更に、本発明の骨接合用の医療機器では、骨折部で既に感染を起こしている症例、開放骨折などで骨折部に細菌が残存し経過中に感染を生じる症例、経過中で菌種が変わる症例等においても、それぞれの細菌種にあわせて、経過中に薬剤を変更することで、感染を制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】プレート固定法と創外固定法の概略図。
図2】創外固定で合併症が起こるプロセスの概略図。
図3】本発明の創外固定用のピン刺入部へ応用した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.骨接合用の医療機器
本発明の1つの実施態様は、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備える骨接合用の医療機器であって、
当該部品のうち少なくとも1つが、その表面に、下記一般式(1):
で表されるモノマー単位を含有する重合体Aを含む被膜層を有する、該医療機器である(以下「本発明の骨接合用の医療機器」又は「本発明の医療機器」ともいう)。
【0013】
本発明の骨接合用の医療機器は、一般式(1)で表されるようにホスホリルコリン基を含む側鎖を有するモノマー単位を含有する重合体(以下「重合体A」ともいう。)を含有する被膜層を表面に有する部品を備えることにより、部品表面へのタンパク質の吸着、細胞の接着、細菌付着・バイオフィルム形成を抑制することが可能である。更に、当該被膜層に薬剤を担持させると、殺菌が可能である。
【0014】
前記の通り、骨接合手術は、大別して、金属製のプレート・スクリューによる内固定と、金属製のワイヤーやピンと創外固定器を組み合わせた外固定によって行われている。従って、本発明の骨接合用の医療機器は、創外固定に用いることができる。創外固定用に用いられる本発明の医療機器を、以下「本発明の創外固定用の医療機器」とも言う。
また、本発明の骨接合用の医療機器は、内固定にも用いることができる。内固定用に用いられる本発明の医療機器を、以下「本発明の内固定用の医療機器」とも言う。
【0015】
一般式(1)において、Xは、重合した状態の重合性原子団を表し、Rは、単結合あるいは置換基を有していてもよいフェニル基又は-C(O)-、-C(O)O-、-O-、-S-、-CONH-、-NHCO-若しくは-NHCOO-で示される基を表し、iは2から10の整数を表す。
【0016】
一般式(1)中、Xは、重合した状態の重合性原子団を表すものであればよく、限定はされないが、具体的には、例えば、ビニル系モノマー残基、アセチレン系モノマー残基、エステル系モノマー残基、アミド系モノマー残基、エーテル系モノマー残基及びウレタン系モノマー残基等が好ましく、これらの中でも、ビニル系モノマー残基がより好ましい。ビニル系モノマー残基としては、限定はされないが、例えば、ビニル部分が付加重合している状態のメタクリルオキシ基、メタクリルアミド基、アクリルオキシ基、アクリルアミド基、スチリルオキシ基及びスチリルアミド基等が好ましく、これらの中でも、メタクリルオキシ基、メタクリルアミド基、アクリルオキシ基及びアクリルアミド基がより好ましい。
【0017】
一般式(1)で表されるモノマー単位としては、更に好ましくは、下記一般式(2)で示される構造を有する。
上記式(2)の構造のモノマー単位は、2-メタクリロキシエチルホスホリルコリン(MPC)ともいい、当該モノマー単位を有する重合体を「MPCポリマー」ともいう。
【0018】
上記重合体A又はMPCポリマーは、式(1)又は(2)で表されるモノマー単位のみからなる重合体であってもよいが、他のモノマーとの共重合体であってもよい。このような他のモノマーとして、n-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルシルメタクリレート、n-ドデシルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート等のアルキルメタクリレート等が挙げられるが、好ましくは、溶解と成膜性の観点からn-ブチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルシルメタクリレート、n-ドデシルメタクリレートである。
【0019】
本発明の1つの好ましい側面として、重合体Aは、MPCと、側鎖のアルキル基の炭素数が2~12であるアルキルメタクリレートとの共重合体である。ここで、当該共重合体におけるアルキルメタクリレートの含有量は、好ましくは10mol%から50mol%である。10mol%を下回ると疎水性と成膜性が欠如し、安定な被覆膜が得られないばかりか、表面のホスホリルコリン基密度が生体親和性を発現するに至らない。一方で50mol%以上では、MPCポリマーが水溶性となるために安定性に欠ける。
n-ブチルメタクリレートとしてはn-ブチルメタクリレートが特に好ましい。
【0020】
本発明の骨接合用の医療機器は、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備え、当該部品のうち少なくとも1つが、その表面に、上記した重合体Aを含む被膜層を有する。
【0021】
被膜層の厚みは、本発明の医療機器を用いる適応症の種類や、被膜層が形成される部品の種類などによって任意に定めることができるが、通常1~1000nm、好ましくは5~100nmである。被膜層の厚みが5nm未満では被膜層の安定性、耐久性および薬剤含有性能や被覆した医療機器の感染防止性能が低下する。
【0022】
被膜層は、部品の全面に亘って形成されていてもよく、また、部分的に形成されていてもよい。
創外固定において合併症が最も多く発生するのは、ピン等の部品の刺入部での感染によるものであることから、本発明の骨接合用の医療機器を創外固定用に用いる場合においては、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の刺入部に被膜層が形成されていることが好ましい。
ここで、刺入部とは、ピン、ワイヤー等の部品が皮膚から体内に刺入される際の、部品と皮膚との接触面である。刺入部の全面(全周)に被膜層が形成されていること、または、刺入部より遠位(体内方向)の全面(全周)に被膜層が形成されていることが好ましい。これにより、長期の臨床経過においても、刺入部において定期的に消毒操作を行う際に、被覆層を再形成すること、被膜層に薬剤を添加することが可能である。
【0023】
また、本発明の骨接合用の医療機器を内固定用に用いる場合においては、被膜層は、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の全面に亘って形成されていてもよく、また、部分的に形成されていてもよい。
【0024】
ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の表面に被膜層を形成する方法として、浸漬法(ディップ・コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンコーティング法などの公知の膜形成方法を用いることができる。本発明においては、上記部品が三次元形状を有することから、重合体Aを溶媒に溶解した溶液に部品を浸漬する浸漬法(ディップ・コーティング法)を好適に用いることができる。
【0025】
溶媒としては、重合体Aを溶解できる溶媒であれば任意に使用することができるが、エタノール、エタノールとトルエンの混合溶媒(エタノール:トルエン=1:2~1:6(体積比))、を好適に使用することができる。
重合体Aの濃度は、適宜定めることができるが、通常0.01~5重量%である。より好ましくは 0.5~5重量%である。
【0026】
本発明の医療機器の好ましい側面においては、重合体Aを含有する被膜層は、更に、消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤(以下、単に「薬剤」ともいう)を含有する。
重合体Aは、薬剤担持能を有することから、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品に、重合体A、消毒薬及び/又は抗菌剤を含む被膜層を設けることにより、初期における生体反応を抑制するとともに、薬剤を保持し、当該被膜層から薬剤を徐放することで、抗菌・殺菌効果を持続することができる。
【0027】
また、本発明の医療機器、特に本発明の創外固定用の医療機器においては、被験者の体内ではなく、皮膚表面の重合体Aを含む被膜層から薬剤を徐放させるため、長期の臨床経過においても、定期的に簡便な消毒操作を行うことで、被覆層を再形成すること、被膜層に薬剤を添加することが可能となり、薬剤の徐放を維持することができる。
【0028】
消毒薬としては、例えば、グルタラール(グルタルアルデヒド)、オキシドール(過酸化水素)、ポビドンヨード、ポロクサマーヨード、消毒用エタノール、70%イソプロパノール、0.5%クロルヘキシジン含有の消毒用エタノール(ヒビテンアルコール)等を用いることができる。特に本発明の創外固定用の医療機器においては、低分子の薬剤が残存し、それが局所的に濃縮されて生体組織に影響することを避けるために、消毒用エタノールが好ましい。
消毒薬としては、1種類でも2種類以上を用いてもよい。
【0029】
抗菌剤としては、例えば、ペニシリン系(β-ラクタム系)、より具体的には、ペニシリンG、アンピシリン、メチシリン等;セフェム系(β-ラクタム系)、より具体的には、セファゾリン、セファレキシン、セファクロル、セフォチアム、セフメタゾール、フルモキセフ、セフジニル、セフジトレン、セフカペン、等;カルバペネム系(β-ラクタム系)、より具体的には、イミペナム、バニペネム等;アミノグリコシド系、より具体的には、カナマイシン、ストレプトマイシン、ゲンタシン等;グリコペプチド系、より具体的には、バンコマイシン等;キノロン系、より具体的には、レボフロキサシン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、トスフロキサシン、シプフロキサシン、スパルフロキサシン、ロメフロキサシン、フレロキサシン、エノキサシン等;テトラサイクリン系、より具体的には、テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、デメチルクロルテトラサイクリン等を用いることができる。本発明の医療機器においては、手術部位感染(surgical site infection: SSI)の予防の点から、ペニシリン系、セフェム系が、多剤耐性菌による難治性感染の治療の点から、グリコペプチド系が好ましい。
抗菌剤としては、1種類でも2種類以上を用いてもよい。
【0030】
本発明の医療機器においては、1種又はそれ以上の消毒薬と、1種又はそれ以上の抗菌剤の組み合わせを用いてもよい。
【0031】
被膜層に薬剤を含有させる方法としては、重合体A及び薬剤を溶媒に溶解した溶液を、部品に適用することにより、重合体A及び薬剤を含有する被膜層を部品の表面に設けることができる。部品の表面に被膜層を形成する方法として、浸漬法(ディップ・コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンコーティング法などの公知の膜形成方法を用いることができるが、浸漬法(ディップ・コーティング法)を好適に用いることができる。
溶媒としては、重合体Aを溶解できる溶媒であれば任意に使用することができるが、エタノール、エタノールとトルエンの混合溶媒(エタノール:トルエン=1:2~1:6(体積比))、を好適に使用することができる。
重合体Aの濃度は、前記した通りである。
【0032】
薬剤の濃度としては、使用する薬剤の種類、適応する症例等により適宜定めることができるが、通常重合体に対して0.1~5重量%である。
【0033】
本発明の1つの好ましい側面においては、重合体Aを、消毒用エタノールに溶解し、このエタノール溶液に、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を浸付けし、当該部品の表面に被膜層を形成することが好ましい。
上記エタノール溶液中での重合体Aの濃度は、好ましくは0.01~5重量%、より好ましくは0.5~5重量%である。
【0034】
本発明の骨接合用の医療機器は、ピン(例えば、固定ピン)、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備え、当該部品のうち少なくとも1つが、その表面に、重合体A、及び、場合により消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を含む被膜層を有する。
骨接合用の医療機器が、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される2以上の部品を備えている場合は、これら全ての部品の表面に上記被膜層を設けてもよく、一部の部品の表面に上記被膜層を設けてもよい。
【0035】
本発明の創外固定用医療機器は、ピン(例えば、固定ピン)、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備えるが、これら部品以外に、例えば、リング、ロッド、クランプアッセンブリ、連結器などから選択される1以上の部品を備えることができる。
創外固定用医療機器として一般に使用されているものには、例えば、リング、ロッド、スクリュー、ピン及びワイヤーから構成されるイザロフ創外固定器(例えば、ケイセイ医科工業株式会社製造)、ロッド、クランプアッセンブリ、連結器、ピン、ワイヤーから構成される創外固定器(例えば、ストライカー社(スイス)製造)がある。
また、内固定用医療機器として一般に使用されているものには、例えば、スクリュー及びプレートから構成させる骨折内固定システム(例えばDePuy Synthes社(米国)製造)、スクリュー及びネイルから構成されるロッキングネイルシステム(例えばストライカー社(スイス)製造)、等がある。
【0036】
本発明の骨接合用の医療機器は、これらの医療機器の主要な構成部品である、固定ピン等のピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の表面に、重合体A、及び、場合により消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を含む被膜層が形成されている。
【0037】
本発明の1つの実施態様は、スクリュー、ピン及びワイヤーからなる群の少なくとも1つの部品の表面に、重合体A、及び、場合により消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を含む被膜層が設けられているイザロフ創外固定器である。
【0038】
本発明の1つの実施態様は、ピンの表面に、重合体A、及び、場合により消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を含む被膜層が設けられている創外固定用ピンである。
【0039】
本発明の1つの実施態様は、プレート、スクリュー及びネイルからなる群の少なくとも1つの部品の表面に、重合体A、及び、場合により消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を含む被膜層が設けられている骨折内固定システム及びネイリングシステム手術手技である。
【0040】
本発明の骨接合用の医療機器の主要な構成部品である、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルの材質は、基本的にステンレス合金、チタン合金である。
【0041】
本発明の骨接合用の医療機器は、対象(被験者)の手術に用い、骨折部や骨切り部の外固定を行うのに用いることができる。
本発明の医療機器は、固定ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品が皮膚と接触する接触面表面に、重合体A又はMPCポリマー、消毒薬及び/又は抗菌剤を含む被膜層を設けることにより、初期における生体反応を抑制するとともに、薬剤を保持し、当該被膜層から薬剤を徐放することで、抗菌・殺菌効果を持続することができる。
【0042】
また、本発明の骨接合の医療機器、特に本発明の創外固定用の医療機器は、皮膚表面の被膜層から薬剤を徐放させることができるため、長期の臨床経過においても、定期的に簡便な消毒操作により、被覆層を再形成すること、被膜層に薬剤を添加することが可能となり、薬剤の徐放を維持することができる。
このような消毒操作は、医療機関だけでなく、患者が自宅などで行うことも可能である。
【0043】
本発明の骨接合用の医療機器が適用できる症例としては、骨折、例えば、粉砕骨折、開放骨折、骨盤骨折、橈骨遠位端骨折;骨折以外として、例えば、関節固定術、四肢の延長術、変形矯正術、腫瘍手術、骨癒合遷延等が挙げられる。
【0044】
本発明の医療機器が用いられる対象には、ヒト、及びヒト以外の哺乳類(マウス、犬、ネコ、牛、ブタ、馬(競走馬を含む)など)が含まれる。
【0045】
2.抗感染性の骨接合用の医療機器の製造方法
本発明のもう1つの実施態様は、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を備える、抗感染性の骨接合用の医療機器の製造方法であって、
当該部品のうち少なくとも1つの表面に、下記一般式(1):
で表されるモノマー単位を含有する重合体Aを含む被膜層を形成する工程を含む、該製造方法である(以下「本発明の製造方法」ともいう)。
本発明の製造方法で製造される骨接合用の医療機器には、創外固定用の医療機器及び内固定用の医療機器が含まれる。
【0046】
一般式(1)における、X、R、iは、本発明の骨接合用の医療機器について詳述した通りである。
【0047】
一般式(1)で表されるモノマー単位としては、更に好ましくは、下記一般式(2)で示される構造を有する。
【0048】
本発明の1つの好ましい側面として、重合体Aは、MPCと、側鎖のアルキル基の炭素数が2~12であるアルキルメタクリレートとの共重合体である。ここで、当該共重合体におけるアルキルメタクリレートの含有量は、好ましくは10mol%から50mol%である。n-ブチルメタクリレートとしてはn-ブチルメタクリレートが特に好ましい。
【0049】
ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の表面に被膜層を形成する方法として、浸漬法(ディップ・コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンコーティング法などの公知の膜形成方法を用いることができる。本発明においては、上記部品が三次元形状を有することから、重合体Aを溶媒に溶解した溶液に部品を浸漬する浸漬法(ディップ・コーティング法)を好適に用いることができる。
【0050】
溶媒としては、重合体Aを溶解できる溶媒であれば任意に使用することができるが、エタノール、エタノールとトルエンの混合溶媒(エタノール:トルエン=1:2~1:6(体積比))、を好適に使用することができる。
重合体Aの濃度は、適宜定めることができるが、通常0.01~5重量%、より好ましくは 0.5~5重量%である。
【0051】
重合体Aを含む溶液を部品に適用した後、室温で、または、加温(35~50℃)して乾燥させる。
【0052】
創外固定用の医療機器を製造する場合には、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の刺入部に被膜層を形成することが好ましい。
また、内固定用の医療機器を製造する場合には、被膜層は、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品の全面に亘って形成することができ、また、部分的に形成することもできる。
【0053】
本発明の製造方法の好ましい側面においては、重合体Aを含有する溶液に、更に、消毒薬、抗菌剤、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤(以下、単に「薬剤」ともいう)を含有させる。
消毒薬、抗菌剤については、上記で詳述した通りである。
【0054】
薬剤の濃度としては、使用する薬剤の種類、適応する症例等により適宜定めることができるが、通常重合体に対して0.1~5重量%である。
【0055】
本発明の1つの好ましい側面においては、重合体Aを消毒用エタノールに溶解した溶液に、ピン、ワイヤー、プレート、スクリュー及びネイルからなる群から選択される少なくとも1つの部品を浸付けし、当該部品の表面に被膜層を形成させる。
上記エタノール溶液中での重合体Aの濃度は、好ましくは0.01~5重量%である。より好ましくは 0.5~5重量%である。
【実施例0056】
以下本発明を実施例を用いて説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0057】
方法
(1)5種類のチタン合金製円板状試験片を用意した。
(2)MPCポリマーを、0、0.1、0.25、0.5、1.0重量%で溶解したエタノール溶液に、チタン合金製円板状試験片を浸付けし、表面に被膜層を形成させた。
(3)0.5 mLのPBSに懸濁した3.3×10個の黄色ブドウ球菌UOEH6株を試験片上に接種し、37℃で1時間静置培養した。
(4)PBSで未付着菌を洗浄した後、表面の蛍光顕微鏡観察(10倍)、走査型電子顕微鏡(SEM(SM-200:トプコン))観察(4500倍)及び蛍光顕微鏡(IX71:オリンパス)観察により、各MPCポリマー濃度による付着抑制効果を評価した。
【0058】
結果
1.0重量%のMPCポリマーで表面処理した群では、蛍光顕微鏡観察、SEM観察ともに、付着菌はほとんど認められなかった。生菌数では、98%以上の付着抑制が認められた。
0.5重量%のMPCポリマーで表面処理した群では、蛍光顕微鏡観察でみると未処理表面に比べて付着菌の密度がやや低下しているように見えた。生菌数では、50%程度の付着抑制が認められた。
0.1、0.25重量%のMPCポリマーで表面処理した群では、蛍光顕微鏡で見ると未処理表面に比べて付着菌の密度がやや低下しているようにみえるが、付着生菌数の差ははっきりしなかった。
図1
図2
図3