(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063572
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】放電加工装置
(51)【国際特許分類】
B23H 1/10 20060101AFI20220415BHJP
B23H 7/02 20060101ALI20220415BHJP
G01N 21/43 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
B23H1/10 A
B23H7/02 R
B23H7/02 S
G01N21/43
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020171905
(22)【出願日】2020-10-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦治
【テーマコード(参考)】
2G059
3C059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA02
2G059BB04
2G059DD12
2G059EE02
2G059GG02
2G059JJ12
2G059KK04
2G059MM12
2G059NN02
3C059AA01
3C059CB10
3C059CC07
3C059CF05
3C059CJ02
3C059CJ04
3C059EA02
3C059EC04
(57)【要約】
【課題】 正確かつ迅速に加工液中の腐食防止剤の濃度を検出することが可能な放電加工装置を提供すること。
【解決手段】 腐食防止剤が添加された加工液Lの臨界角θを検出する臨界角検出装置45を備えた放電加工装置100であって、臨界角検出装置45は、入射面453a、境界面453b、反射面453cおよび出射面453dを有するプリズム453と、境界面453bおよび反射面453cより反射した反射光R2を検出する複数の受光素子cnを備えたイメージセンサ459と、受光素子cnから出力された出力信号を演算処理して臨界角θを算出する電気回路を備え、プリズム453とイメージセンサ459の間の反射光R2の光軸上には散乱光を遮断するためのスリット458が設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食防止剤が添加された加工液の臨界角を検出する臨界角検出装置を備えた放電加工装置であって、
前記臨界角検出装置は、入射面、境界面、反射面および出射面を有するプリズムと、前記プリズムと前記加工液との境界面に前記入射面から入射光を照射する光源と、前記境界面および前記反射面より反射した反射光を検出する複数の受光素子を備えたイメージセンサと、前記受光素子から出力された出力信号を演算処理して前記臨界角を算出する電気回路を備え、
前記プリズムと前記イメージセンサの間の前記反射光の光軸上には散乱光を遮断するためのスリットが設けられていることを特徴とする放電加工装置。
【請求項2】
前記電気回路は、前記イメージセンサから前記出力信号を読み出すごとに閾値を決定する閾値決定回路と、前記閾値よりも前記出力信号が小さい前記受光素子の数をカウントして前記臨界角を算出する臨界角演算回路を有することを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項3】
前記閾値決定回路は、最初に読み出した前記受光素子の前記出力信号に定数を加算して前記閾値とすることを特徴とする請求項2記載の放電加工装置。
【請求項4】
前記閾値決定回路は、最初に読み出した複数の前記受光素子の前記出力信号を平均した値に定数を加算して前記閾値とすることを特徴とする請求項2記載の放電加工装置。
【請求項5】
前記電気回路は、前記受光素子から読み出した前記出力信号を多変量解析することにより前記臨界角を算出する臨界角演算回路を有することを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項6】
前記臨界角検出装置は、前記加工液の温度を検出する温度検出器を備え、前記電気回路は、前記温度検出器が検出した温度により前記腐食防止剤の濃度補正を行う温度補正回路を備えたことを特徴とする請求項2記載の放電加工装置。
【請求項7】
前記放電加工装置は、前記腐食防止剤を前記加工液に添加する添加装置を備え、前記臨界角検出装置により検出した前記腐食防止剤の濃度が低い場合は前記添加装置を駆動して前記腐食防止剤を前記加工液に添加することを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項8】
前記臨界角検出装置は、前記臨界角検出装置の内部を流れる前記加工液の前記臨界角を検出することを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【請求項9】
前記放電加工装置は、機械本機と、加工液供給装置から構成され、前記臨界角検出装置は前記加工液供給装置の前記加工液を循環させるための管路に設けられていることを特徴とする請求項1記載の放電加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水槽と清水槽とを有する加工液供給槽を備えた放電加工装置および放電加工方法に関し、特に、放電加工の際に生じるワークの電気腐食を防止する放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水系加工液にワークを浸漬して放電加工する場合、鉄系や超硬合金(焼結合金)のワークに電気腐食が生じることが知られている。ワークにおける電気腐食は、黄銅のワイヤ電極を負極、鉄系や超硬合金のワークを正極として、負極と正極の電位差から負極と正極との間に腐食電流が流れて、正極側のワークが溶出して生じると考えられている。また、水系加工液中の腐食性イオンが作用してワークに腐食を生じさせることもある。
そこで従来から、ワークの腐食を防止するために、加工液に腐食防止剤を添加し、加工液中の腐食防止剤の濃度を検出して規定範囲内に調整する管理が行われていた。
【0003】
特許文献1には、防錆剤と呈色試薬とからなる金属錯体の発色を利用し、その色の変化に伴う特性の変化を一定時間ごとに検出器で検出する技術が開示されている。防錆剤の濃度が一定値より下回ると加工液の色が薄くなり、防錆剤の濃度が一定値より上回ると加工液の色が濃くなるため、その変化を光センサで検出して、制御装置に防錆剤または加工液を添加する指令を出すことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、粉末状のアデニンを腐食防止剤として使用した技術が開示されている。オペレータがアデニン濃度を入力すると、アデニン添加制御手段がアデニン添加装置のポンプの吐出量を所定に設定し加工液中のアデニン濃度を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6208723号公報
【特許文献2】特許第4623756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
加工液中の腐食防止剤は所定の濃度範囲にある場合には効果を発揮するが、濃度範囲から外れると防錆効果が減少することが知られている。よって、加工液中の腐食防止剤の濃度をリアルタイムに検出して適切な範囲内に調整する管理が重要となる。
液中の濃度は様々な手法により検出することができ、例えば透過濃度計や反射濃度計等の光を用いる検出方法が用いられる(特許文献1)。しかしながら、このような濃度検出方法においては組立時の設置誤差、計器の経年劣化や計器の汚れ等による検出誤差、加工液の温度が変化する等の外部環境の変化によって、測定値にばらつきが生じ、正確な濃度を検出することが難しい。
【0007】
上記を解決する策として特許文献1においては呈色試薬や蛍光試薬等を添加して測定光を検出しやすくする工夫がなされている。しかしながら、試薬を添加する必要があるため作業が煩雑になるうえ、試薬を別途購入する必要があるため濃度検出のためのコストが増加してしまう。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、正確かつ迅速に加工液中の腐食防止剤の濃度を検出することが可能で、加工液の温度変化等、外的要因により測定光が減少する場合であっても適切に腐食防止剤の濃度を規定範囲内に管理することができる放電加工装置を提供することを目的とする。さらに、放電加工装置の腐食防止剤の添加装置と組み合わせることで、無人で腐食防止剤の濃度管理が可能な放電加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、腐食防止剤が添加された加工液の臨界角を検出する臨界角検出装置を備えた放電加工装置であって、前記臨界角検出装置は、入射面、境界面、反射面および出射面を有するプリズムと、前記プリズムと前記加工液との境界面に前記入射面から入射光を照射する光源と、前記境界面および前記反射面より反射した反射光を検出する複数の受光素子を備えたイメージセンサと、前記受光素子から出力された出力信号を演算処理して前記臨界角を算出する電気回路を備え、
前記プリズムと前記イメージセンサの間の前記反射光の光軸上には散乱光を遮断するためのスリットが設けられていることを特徴とする。
また、本発明の前記電気回路は、前記イメージセンサから前記出力信号を読み出すごとに閾値を決定する閾値決定回路と、前記閾値よりも前記出力信号が小さい前記受光素子の数をカウントして前記臨界角を算出する臨界角演算回路を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工液の臨界角を検出する臨界角検出装置を設け、臨界角検出装置の内部にスリットを設置することで散乱光を適切に除去して計測を行い、さらに臨界角を決定する閾値を1回の読み出しごとに変更して外部環境の変化による濃度値のずれを吸収するため、より正確に加工液中の腐食防止剤の濃度を検出することが可能となる。
また放電加工装置の腐食防止剤の添加装置と組み合わせることで、無人で腐食防止剤の濃度管理が可能な放電加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る放電加工装置100の外観を示す概略図である。
【
図2】上記実施形態に係る加工液供給装置40の外観を示す背面側斜視図である。
【
図3】上記実施形態に係る加工液供給装置40の装置構成を示す系統図である。
【
図4】上記実施形態に係る腐食防止剤の添加装置44の構成を示す模式図である。
【
図6】上記実施形態に係る臨界角検出装置45の内部構成を示す模式図である。
【
図8】上記実施形態に係る臨界角検出装置45の入射光R1および反射光R2を説明するための説明図である。
【
図9】上記実施形態に係る臨界角検出装置45のスリット458を示す模式図である。
【
図10】上記実施形態に係る加工液供給装置40の構成を示すブロック図である。
【
図11】上記実施形態に係る臨界角検出回路456eaの臨界角検出処理を示す説明図である。
【
図12】イメージセンサ459の受光素子の位置と各受光素子の出力電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る放電加工装置100の外観を示す概略図である。放電加工装置100は、機械本機10と、機械本機10に隣接して設けられた加工液供給装置40を具備する。
【0013】
機械本機10は、ワイヤ電極EとワークWとの間に形成される極間に放電を発生させて放電加工を行う装置であり、ベース2と、ベース2の後部から立設するコラム3と、コラム3の前面上部に装着される加工ヘッド4と、ベース2の前部に載置される加工槽1と、加工槽1に収容されワークWを保持するワークテーブル6と、を有する。加工ヘッド4に上側ガイド組体7が、コラム3の前面下部に下側ガイド組体8が、ワークWを挟むように備えられており、上側ガイド組体7と下側ガイド組体8との間に工具電極としてのワイヤ電極Eを連続的に供給し、ワークWを加工槽1において水系加工液L(以下、水系加工液を単に加工液とする)に浸漬しつつワイヤ電極EとワークWとの間に形成される極間に電圧を印加して放電を発生させて放電加工を行う構成となっている。
【0014】
図2は、上記実施形態に係る加工液供給装置40の外観を示す背面側斜視図であり、
図3は、上記実施形態に係る加工液供給装置40の装置構成を示す系統図である。
加工液供給装置40は、腐食防止剤を添加した加工液Lを加工槽1に連続的に循環供給する装置であり、加工槽1から排出された汚れた加工液Lを貯留する汚水槽41aと、汚れた加工液Lを清澄化するろ過フィルタ41bと、ろ過フィルタ41bを介して清澄化された加工液Lを貯留する清水槽41cと、イオン交換樹脂42と、加工液温度設定装置43と、腐食防止剤の添加装置44と、加工液の臨界角検出装置45と、加工液供給装置40の全体の制御を行う制御部46と、加工液Lを循環させるための管路47を備える。ここで、汚水槽41aと清水槽41cとを併せて加工液供給槽41と称する。
【0015】
ワークWを浸漬しながら放電加工を行うことにより汚れた加工液Lは、機械本機10の加工槽1から加工液供給装置40の汚水槽41aに排出され、汚水槽41aに貯留される。汚水槽41aに貯留された加工液Lは、ポンプ41dを作動することによりろ過フィルタ41bを介して清澄化されて清水槽41cに貯留される。加工液供給槽41内の加工液Lは、ポンプ42a,43aを作動することによりイオン交換樹脂42、加工液温度設定装置43に循環供給され、加工液LのpH、温度、および比抵抗値が所定の値に設定される。さらに臨界角検出装置45により加工液Lの臨界角θが検出され、臨界角θから加工液L中の腐食防止剤の濃度を演算し、必要があれば腐食防止剤が添加装置44により加工液Lに添加される。
【0016】
イオン交換樹脂42は、加工液Lを供給することによりイオン交換を行い、所定の比抵抗値に調整することで放電加工の加工媒体として必要な絶縁性を加工液Lに与えるものである。ポンプ42aを作動させて清水槽41c内の加工液Lを管路47内からイオン交換樹脂42に供給し、イオン交換された加工液Lを再び清水槽41cに戻す。
【0017】
加工液温度設定装置43は、加工液Lの温度を所定の値に調整する装置である。ポンプ43aを作動させて清水槽41c内の加工液Lを加工液温度設定装置43に供給し、加工液Lの温度を上昇または下降させたのち汚水槽41aに排出することで、加工液供給槽41内の加工液Lを温度調整しながら循環する。
【0018】
図4は、上記実施形態に係る腐食防止剤の添加装置44の構成を示す模式図である。
腐食防止剤の添加装置44は、清水槽41c内の加工液Lに腐食防止剤を所定量添加して汚水槽41aに循環供給する装置である。
腐食防止剤の添加装置44は、ポンプ44aおよび溶解槽44bを備えている。溶解槽44bは、網状の仕切り44cにより下部側に形成される加工液流入部44dと中間部から上部側にかけて形成される溶解部44eに区画されており、加工液流入部44dを介して清水槽41cからの加工液Lが溶解部44eに供給される。
溶解部44eには不織布等の通水性のある包装材44fに包装された粉末状の腐食防止剤44gが備えられており、溶解部44eにおいて腐食防止剤44gを加工液Lに溶解しながら添加する。加工液L中の腐食防止剤の濃度は、ポンプ44aの吐出量を所定に設定することにより調節可能となっている。
腐食防止剤は、粉末状のアデニン(6-アミノプリン)〔CAS登録番号73-24-5〕を使用することができる。
【0019】
腐食防止剤の臨界角検出装置45は、加工液Lの臨界角θを検出する装置である。清水槽41c内の加工液Lは、ポンプ45aを作動することにより臨界角検出装置45の測定空間452に供給される。臨界角検出装置45は、測定空間452内を流れる加工液Lの臨界角θを計測し、再び清水槽41c内に加工液Lを排出するものである。
【0020】
制御部46は、加工液供給装置40全体の制御を行う装置であり、図示しない入力部461、記憶部462、処理部463および表示部464からなる。
入力部461は、例えば、キーボード、マウス、或いはタッチパネル等で構成されており、入力部461を介してオペレータが処理部463における各種処理に必要な操作や情報の入力を行う。入力部461を介してオペレータが腐食防止剤の濃度を計測する時間間隔を変更することができる。
表示部464は例えばモニタ等であり、各種処理に必要な情報の表示を行う。
【0021】
記憶部462は、ハードディスク、CD-ROM等で構成されており、機械本機10から回収した加工液Lを加工槽1に連続的に循環供給する際に必要なプログラムおよびデータを記憶する機能を有している。
【0022】
処理部463は、記憶部462に記憶されているプログラムやデータに基づいて、ポンプ41d,42a,43a,44a,45aを駆動するとともにイオン交換樹脂42、加工液温度設定装置43、添加装置44および臨界角検出装置45の制御を行う。
例えば、所定の時間間隔で臨界角検出装置45を駆動し、加工液Lの臨界角θを計測し、臨界角θから演算した腐食防止剤の濃度が低い場合は、添加装置44を駆動して腐食防止剤を添加する。
【0023】
図5は、
図2に示されたA拡大図であり、
図6は、上記実施形態に係る臨界角検出装置45の内部構成を示す模式図である。
図7は、
図6に示されたB拡大図であり、
図8は、上記実施形態に係る臨界角検出装置45の入射光R1および反射光R2を説明するための説明図である。
腐食防止剤の臨界角検出装置45は、屈折率計等により使用される臨界角法を利用して加工液Lの臨界角θを測定するものである。加工液Lとプリズム453の境界面453bでの臨界角θが加工液Lの腐食防止剤の濃度に依存することから、光量の明暗で示される臨界角θの境界(臨界角θの位置)をイメージセンサ459によって読み取ることにより臨界角θを検出するものである。
【0024】
臨界角検出装置45は、筐体451と、筐体451の内部に設けられた測定空間452と、プリズム453と、光源454と、温度検出器455と、電気回路456と、レンズ457と、スリット458と、イメージセンサ459から構成される。
測定空間452に流入した加工液Lとプリズム453との境界面453bにプリズム453の入射面453a側に設けられた光源454から入射光R1を照射し、境界面453bで反射する反射光R2をプリズム453の反射面453cでさらに反射させ、レンズ457およびスリット458を介してイメージセンサ459でその反射光R2を受光する。
【0025】
測定空間452は、清水槽41c内の加工液Lを一時的に流入させる領域であり、流入口および流出口が管路47に接続されている。清水槽41c内の加工液Lは、ポンプ45aを作動することで管路47を介して流入口から測定空間452に流入し、測定空間452内を流れる加工液Lの臨界角θを計測後、測定空間452内を流れて流出口から排出され、清水槽41c内に戻る。
【0026】
プリズム453は、光源454の入射光R1が照射する入射面453a、加工液Lとの境界面453b、反射面453c、反射光R2を出射する出射面453dを有し、入射面453aには乱反射防止のためのすりガラス加工が施されている。
【0027】
光源454は、プリズム453の入射面453aに設けられたLED等の発光体である。
【0028】
温度検出器455は、臨界角測定時の加工液Lの温度を検出する温度センサであり、例えば測温抵抗体が使用される。屈折率は温度に依存するため、加工液Lの腐食防止剤の濃度と臨界角θの関係も温度によって変化する。よって、温度検出器455を測定空間452に近接して設けることで加工液Lの温度を検出し、その検出値を利用して濃度補正を行うことで正確な濃度を算出することが可能となる。
【0029】
レンズ457は、プリズム453から出射された反射光R2をイメージセンサ459に結像させるための凸レンズである。
【0030】
図9は、上記実施形態に係る臨界角検出装置45のスリット458を示す模式図である。
スリット458は、散乱光がイメージセンサ459に入射するのを防止するための部材であって、長尺状の通孔が形成されており、レンズ457の出射面側で、プリズム453とイメージセンサ459の間の反射光R2の光軸上に設けられている。
【0031】
イメージセンサ459は、加工液Lとプリズム453の境界面453bの反射光R2を受光するための受光センサであって、複数の受光素子c1,c2,・・・,cn,・・・,cNを直線状に配設したラインセンサが使用できる。
イメージセンサ459は、プリズム453から出射される反射光R2が垂直に入射するように配設されており、またスリット458の通孔の水平方向の位置とイメージセンサ459の水平方向の位置が一致するように配置されている。
【0032】
図10は、上記実施形態に係る加工液供給装置40の構成を示すブロック図である。
電気回路456は、イメージセンサ459および温度検出器455からの出力を演算処理する回路であり、温度検出器455に接続された増幅回路456aと、増幅回路456aに接続されたA/D変換回路456cと、イメージセンサ459に接続された増幅回路456bと、増幅回路456bに接続されたA/D変換回路456dと、A/D変換回路456c,456dに接続された演算回路456eを含む。
【0033】
増幅回路456aは、温度検出器455が検出した温度の出力信号を増幅する回路である。増幅回路456bは、イメージセンサ459からの出力信号を差動増幅するオペアンプである。
【0034】
A/D変換回路456cは、増幅回路456aが出力した温度の出力信号をデジタル信号に変換する。A/D変換回路456dは、増幅回路456bが出力した各受光素子cnの出力信号である出力電圧をデジタル信号に変換する。
【0035】
演算回路456eは、A/D変換回路456dから出力された出力電圧のデジタル信号Vc1,・・・,Vcn,・・・,VcNから臨界角θの位置を検出する臨界角検出回路456eaと、A/D変換回路456cから出力された温度のデジタル信号を温度補正値に変換する温度補正回路456ebを備える。
【0036】
図11は、上記実施形態に係る臨界角検出回路456eaの臨界角検出処理を示す説明図であり、
図12は、イメージセンサ459の受光素子の位置と各受光素子の出力電圧との関係を示すグラフである。
ここで、臨界角検出回路456eaで行われる臨界角検出処理の概要について説明を行う。
【0037】
本発明の臨界角検出処理は、液体の屈折率が可溶性物質の含有量によって変化するため、屈折率の違いを濃度に換算して加工液L中の腐食防止剤の濃度を測定する原理を利用したものである。
具体的には、加工液Lと屈折率が既知であるプリズム453との境界面453bにおける臨界角θから加工液Lの屈折率を演算するというものである。加工液Lからプリズム453に向かって入射光R1を入射させると、境界面453bにおいて臨界角θで屈折した反射光R2がプリズム453から出射する方向に、明暗の境界線を生じさせる。この明暗の境界線である臨界角θの位置をイメージセンサ459で検出したデジタル信号Vcnから演算回路456eによって算出する。
【0038】
臨界角検出回路456eaは、閾値決定回路と臨界角演算回路から構成される。
図12に示す通り、A/D変換回路456dにおいて変換されたイメージセンサ459からのデジタル信号Vcnは受光素子cnごとに変化している。明暗の境界線である臨界角θの位置を決定するためにデジタル信号Vcnが閾値Vthよりも大きい受光素子とデジタル信号Vcnが閾値Vthよりも小さい受光素子cnに分け、閾値Vthよりもデジタル信号Vcnが小さい受光素子cnの数(以下、有効受光素子と記す。)をカウントすることで臨界角θの位置を算出する。
臨界角θは加工液Lの腐食防止剤の濃度に依存するため、算出された臨界角θの位置から加工液L中の腐食防止剤の濃度を算出することができる。
【0039】
閾値決定回路では閾値Vthを算出する。閾値Vthは、最初に読み出す受光素子c1のデジタル信号Vc1に対して定数Cthを加算することで算出する方法や、受光素子cnを複数読み出してデジタル信号Vcnを平均したものに定数Cthを加算して算出する方法を適用することができる。閾値決定回路は、イメージセンサ459から出力信号を1回読み出すごとに、具体的には受光素子cnから出力信号を読み出すごとに閾値を決定する。
【0040】
臨界角演算回路では、閾値Vthよりもデジタル信号Vcnが小さい受光素子cnの数をカウントすることで、臨界角θの位置を算出する。
【0041】
演算回路456eでは閾値Vthを使用して有効受光素子を算出したが、例えば閾値決定回路を設けることなく臨界角演算回路にて判別分析等の多変量解析を使用して算出し、臨界角θの位置を算出してもよい。
【0042】
また、臨界角θは加工液Lの温度に依存するため、加工液Lの温度によって濃度の補正を行う必要がある。温度検出器455が検出した温度および臨界角検出回路456eaが算出した臨界角θを温度補正回路456ebに入力し、温度補正を行う。
【0043】
温度補正後の加工液Lの臨界角θは、制御部46に送られる。制御部46では臨界角θから加工液L中の腐食防止剤の濃度を算出して表示部464に表示するとともに、腐食防止剤の濃度が低い場合は、添加装置44を駆動して腐食防止剤を添加する。
【0044】
このように臨界角θの位置を決定する閾値Vthを1回の読み出しごとに変更することや、温度検出器455を設けて加工液Lの温度により腐食防止剤の濃度を補正することで、外部環境の変化による濃度値のずれを吸収し、より正確に加工液L中の腐食防止剤の濃度を検出することが可能となる。
【0045】
本実施形態においては、制御部46にて臨界角θから加工液L中の腐食防止剤の濃度を算出していたが、放電加工装置100の全体の制御を行うNC制御装置に臨界角θを送信して、NC制御装置にて濃度を算出してもよい。
また本実施形態では、温度補正回路456ebにより臨界角θの温度補正を行っていたが、温度補正回路456ebを設けないことも可能である。その場合は、温度補正前の臨界角θおよび温度検出器455が検出した温度を制御部46またはNC制御装置に送信することで、制御部46またはNC制御装置にて温度補正および濃度の算出を行う。
【符号の説明】
【0046】
1 加工槽
2 ベース
3 コラム
4 加工ヘッド
6 ワークテーブル
7 上側ガイド組体
8 下側ガイド組体
10 機械本機
40 加工液供給装置
41 加工液供給槽
41a 汚水槽
41b ろ過フィルタ
41c 清水槽
42 イオン交換樹脂
43 加工液温度設定装置
44 添加装置
45 臨界角検出装置
451 筐体
452 測定空間
453 プリズム
453a 入射面
453b 境界面
453c 反射面
453d 出射面
454 光源
455 温度検出器
456 電気回路
457 レンズ
458 スリット
459 イメージセンサ
46 制御部
47 管路
E ワイヤ電極
W ワーク
L 加工液
100 放電加工装置