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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063653
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】酸化ガリウム結晶の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20220415BHJP
   C30B 11/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172014
(22)【出願日】2020-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000236687
【氏名又は名称】不二越機械工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】干川 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓実
(72)【発明者】
【氏名】大塚 美雄
(72)【発明者】
【氏名】太子 敏則
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BB10
4G077CD01
4G077CD02
4G077EG01
4G077EG18
4G077HA06
4G077MB02
4G077MB04
4G077MB22
(57)【要約】
【課題】抵抗加熱発熱体を用いた結晶製造装置であって、低コストで且つ熱による変形や破損が抑制可能な発熱体を備えた酸化ガリウム結晶の製造装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る酸化ガリウム結晶の製造装置10は、耐熱材14aにより構成された炉本体14と、前記炉本体14内に配置されたるつぼ22と、前記るつぼ22の周囲に配設された発熱体34と、を備え、前記発熱体34は、発熱部34aと該発熱部34aよりも径が大きい導電部34bとが連結された抵抗加熱発熱体であって、前記発熱部34aは、1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成され、前記導電部34bは、1800[℃]の耐熱性を有する材質で構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱材により構成された炉本体と、
前記炉本体内に配置されたるつぼと、
前記るつぼの周囲に配設された発熱体と、を備え、
前記発熱体は、発熱部と該発熱部よりも径が大きい導電部とが連結された抵抗加熱発熱体であって、前記発熱部は1850℃の耐熱性を有する材質で構成され、前記導電部は1800℃の耐熱性を有する材質で構成されていること
を特徴とする酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項2】
前記発熱体は、前記発熱部が該発熱部よりも径が大きく前記導電部よりも径が小さく形成されて1850℃の耐熱性を有する材質で構成された接続部を介して前記導電部に接続されていること
を特徴とする請求項1記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項3】
前記発熱体は、前記発熱部の径(x)と、前記接続部の径(y)と、前記導電部の径(z)との比(x:y:z)において、
3≦x≦9、4≦y≦12、6≦z≦18(ただし、x<y<z)であること
を特徴とする請求項2記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項4】
前記発熱体は、前記発熱部の径(x)と、前記接続部の径(y)と、前記導電部の径(z)との比(x:y:z)において、
y≦3x、且つ、z≦2y、且つ、z≦4x(ただし、x<y<z)であること
を特徴とする請求項3記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項5】
前記発熱体は、MoSi2からなること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項6】
前記発熱体は、前記導電部が前記炉本体の上部を挿通して前記炉本体内で鉛直方向に設けられ、前記発熱部が前記炉本体内で前記導電部の先端に鉛直方向に延設されて、側面視直線状に形成されていること
を特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項7】
前記発熱体は、前記導電部が前記炉本体の側部を挿通して前記炉本体内で鉛直方向に屈曲して設けられ、前記発熱部が前記炉本体内で前記導電部の先端に鉛直方向に延設されて、側面視L字状に形成されていること
を特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【請求項8】
前記発熱体は、先端がU字状に形成された前記発熱部に対して2本の前記導電部が接続されており、
前記発熱部の径が3mm~9mmであって、
前記発熱部の曲げ幅が40mm未満であること
を特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の酸化ガリウム結晶の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガリウム結晶の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス用ワイドギャップ半導体等として注目される酸化ガリウムの単結晶(以下、「酸化ガリウム結晶」と表記する場合がある)を製造する装置が知られている。そのような装置では、VB法(垂直ブリッジマン法)、VGF法(垂直温度勾配凝固法)、HB法(水平ブリッジマン法)、HGF法(水平温度勾配凝固法)等の方法によって酸化ガリウム結晶が製造される。
【0003】
一例として、VB法やVGF法では、垂直の温度勾配を利用する。具体的に、特許文献1(特開2017-193466号公報)記載の酸化ガリウム結晶の製造装置では、VB炉として設けられた炉本体内に酸化ガリウムの原料(結晶原料)を収容したるつぼが配置されると共に、るつぼの周囲には鉛直方向に延設された発熱体が複数配設されている。これによれば、炉本体内のるつぼ周辺に、上側の温度が高く、下側の温度が低くなるような垂直方向の温度勾配が形成される。発熱体によりるつぼが加熱されると、結晶原料が融解する。次いでるつぼを下降させることで原料融液を下側から結晶化させて酸化ガリウム結晶を得ることができる。
【0004】
なお、発熱体には、高周波誘導加熱発熱体または抵抗加熱発熱体が用いられる。このうち抵抗加熱発熱体は、発熱部と導電部とを備え、外部電源に接続された導電部を介して発熱部が通電されると発熱部が発熱してるつぼを加熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-193466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、酸化ガリウムの融点はβ-Ga23で約1795[℃]と非常に高く、抵抗加熱発熱体によって結晶原料を融解させるまでるつぼを加熱すると、発熱体の温度は1850[℃]近くにまで達する。そこで、従来、発熱体全体を1850[℃]程度の耐熱性を有する材質等で構成していた。
【0007】
しかしながら、このような構成であっても、装置を繰り返し使用することで発熱体は加熱による経時劣化によって変形や破損が進むため、発熱体の交換が必要になる。これに対して、当該発熱体は比較的高価であることから、今後、製造する結晶が大型化した場合に発熱体を含む装置全体の構成も大型化すること等を考慮すると、より低コストで熱による変形や破損が生じ難い発熱体が提供されることが強く望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、抵抗加熱発熱体を用いた結晶製造装置であって、低コストで且つ熱による変形や破損が抑制可能な発熱体を備えた酸化ガリウム結晶の製造装置を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
本発明に係る酸化ガリウム結晶の製造装置は、耐熱材により構成された炉本体と、前記炉本体内に配置されたるつぼと、前記るつぼの周囲に配設された発熱体と、を備え、前記発熱体は、発熱部と該発熱部よりも径が大きい導電部とが連結された抵抗加熱発熱体であって、前記発熱部は、1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成され、前記導電部は、1800[℃]の耐熱性を有する材質で構成されていることを特徴とする。
【0011】
これによれば、発熱して1850[℃]近くにまで達する発熱部については、1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成して熱による変形や破損を抑制でき、一方、発熱部ほどの高温には達しない導電部については、比較的安価な1800[℃]の耐熱性を有する材質で構成して発熱体全体の材料コストを低下させることができる。
【0012】
また、前記発熱体は、前記発熱部が該発熱部よりも径が大きく前記導電部よりも径が小さく形成されて1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成された接続部を介して前記導電部に接続されていることが好ましい。これによれば、発熱部と導電部とを、発熱部と同じ1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成しながら発熱部よりも径を大きく形成した接続部を介して連結することによって、炉本体内の最高温域に位置して最も高温になり易い発熱部の基端から導電部との連結部位までを熱から保護することができる。その結果、発熱体の変形や破損をさらに抑制できる。
【0013】
また、前記発熱体は、前記発熱部の径(x)と、前記接続部の径(y)と、前記導電部の径(z)との比(x:y:z)において、3≦x≦9、4≦y≦12、6≦z≦18(ただし、x<y<z)であることが好ましく、より好適にはy≦3x、且つ、z≦2y、且つ、z≦4x(ただし、x<y<z)であることが好ましい。また、前記発熱体は、二珪化モリブデン(MoSi2)からなることが好ましい。
【0014】
また、前記発熱体を、前記導電部が前記炉本体の上部を貫通して前記炉本体内で鉛直方向に設けられ、前記発熱部が前記炉本体内で前記導電部の先端に鉛直方向に延設されて、側面視直線状に形成される構成とすることができる。あるいは、前記導電部が前記炉本体の側部を貫通して前記炉本体内で鉛直方向に屈曲して設けられ、前記発熱部が前記炉本体内で前記導電部の先端に鉛直方向に延設されて、側面視L字状に形成される構成とすることができる。
【0015】
そして、前記発熱体は、先端がU字状に形成された前記発熱部に対して2本の前記導電部が接続されており、前記発熱部の径が3[mm]~9[mm]であって、前記発熱部の曲げ幅が40[mm]未満であることが好ましい。これによれば、発熱部の曲げ幅を小さくすることによって、発熱体の取付けに係る部材同士の干渉を防止できる。また、発熱体をるつぼから遠ざけることなく増やすことが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストで且つ熱による変形や破損が抑制可能な抵抗加熱発熱体を備えた酸化ガリウム結晶の製造装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置の例を示す概略図(垂直断面図)である。
図2図1に示す酸化ガリウム結晶の製造装置における発熱体の例を示す概略図(正面図)である。
図3図1に示す酸化ガリウム結晶の製造装置における発熱体の発熱部の曲げ幅について説明する説明図(図1(a)のIII-III線断面図)である。
図4】β-Ga23結晶を製造した後の実施例1に係る発熱体の写真である。
図5】β-Ga23結晶を製造した後の実施例2に係る発熱体の写真である。
図6】β-Ga23結晶を製造した後の参考例に係る発熱体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本実施形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置10の例を示す概略図(垂直断面図)である。このうち、図1(a)は、側面視直線状の発熱体34を備える酸化ガリウム結晶の製造装置10であり、図1(b)は、側面視L字状の発熱体34を備える酸化ガリウム結晶の製造装置10である。なお、視認し易いように、通常はより多数設けられる発熱体34を、ここでは左右の位置に2本示している。
【0019】
本実施形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置10は、発熱体34によりるつぼ22(炉本体14内)を加熱して酸化ガリウム結晶の原料を融解させ、所定の速度で冷却することによる過冷却を駆動力として結晶成長させる酸化ガリウム結晶(単結晶)の製造装置である。以下、酸化ガリウム結晶の製造装置10の炉本体14が大気雰囲気におけるVB炉である例で説明するが、炉本体14が例えばVGF炉、HB炉またはHGF炉であってもよい。
【0020】
図1に示す酸化ガリウム結晶の製造装置10は、基体12上に炉本体14を備えている。炉本体14は、耐熱材14aにより構成された所要高さを有するリング部材が鉛直方向に複数層に積層されて筒状をなすことによって内部に炉空間15が形成されている(リング部材の積層構造は不図示)。炉空間15の底面には、炉本体14の中心軸に沿って凹んだ凹部15aが形成されている。
【0021】
また、炉本体14の中心軸に沿って基体12および炉本体14の底部を貫通すると共に凹部15aを経て炉空間15の中央高さ付近まで上下方向に延設されるるつぼ受軸16が設けられている。るつぼ受軸16は、図示しない駆動機構により上下動自在且つ軸回転自在に構成されている(図1の矢印参照)。また、るつぼ受軸16内には、熱電対18が配設され、るつぼ22の温度が計測可能となっている。るつぼ受軸16もまた耐熱材により構成されている。
【0022】
また、るつぼ受軸16上(るつぼ受軸16の上端)には、るつぼ22を支持するアダプタ20が設けられており、アダプタ20上にるつぼ22が配置される。β-Ga23結晶を育成するるつぼ22には、ロジウム(Rh)含有量が10[wt%]~30[wt%]の白金(Pt)-ロジウム(Rh)合金等の白金系合金を好適に使用できる。アダプタ20もまた耐熱材により構成されている。
【0023】
なお、凹部15aの底面から中央高さ付近までるつぼ受軸16の周囲は耐熱材14aにより構成されたリング部材により囲まれて、炉本体14の下部が断熱されている。炉本体14におけるるつぼ22の出し入れは、このリング部材を取外して凹部15aの底部を開放するか、または炉本体14の積層構造に係るリング部材を所要高さ位置で取外して炉空間15を開放すればよい(不図示)。
【0024】
また、炉本体14の底部には吸気管24が設けられて炉本体14内外を連通している。また、炉本体14の上部には排気管26が設けられて炉本体14内外を連通している。これによって、炉本体14内が大気雰囲気に構成されているが、吸気管24から積極的に所定のガスを導入して酸化雰囲気にしてもよい。
【0025】
また、炉本体14内には、るつぼ22およびるつぼ受軸16を囲む炉心管28が設けられている。炉心管28は、凹部15aの底面から炉空間15の最上面まで延設されると共に上部には天板28aが設けられて、るつぼ22およびるつぼ受軸16の側方および上方を覆っている(ただし、前述の排気管26が天板28aを貫通している)。炉心管28によれば、るつぼ22と発熱体34とを隔離することができる。したがって、仮に発熱体34の一部が高温により熔解した場合でも、るつぼ22内(すなわち、生成される酸化ガリウム結晶)への不純物の混入を防止できる。
【0026】
また、炉本体14内には、炉心管28を囲む管状の炉内管30が設けられている。炉内管30は、炉空間15の底面から最上面まで延設されて炉心管28の中央高さ付近から上部までの側方を覆っている。また、炉空間15の底面にはリング状の支持部材32が設けられて、炉内管30を支持している。炉内管30によれば、後述する発熱体34と炉空間15の外壁を構成する耐熱材14aとの間を遮断して、耐熱材14aの熱による焼結や変形やひび割れを防止できる。また、発熱体34の熱を炉心管28側へ反射して炉空間15内を加熱でき、無駄なく熱を利用できる。炉心管28および炉内管30もまた耐熱材により構成されている。
【0027】
また、炉本体14内における炉心管28と炉内管30との間には、発熱体34が設けられている。発熱体34は、発熱部34aと導電部34bとを有する抵抗加熱発熱体であって、導電部34bを介して発熱部34aが通電されることにより発熱部34aが高温の熱を発する構成となっている。発熱体34(発熱部34aおよび導電部34b)は、炉本体14内に設けられると共に、導電部34bの一部が炉本体14(耐熱材14a)を貫通して炉本体14外で外部電源に接続されている(外部電源は不図示)。
【0028】
より詳しくは、図1(a)に示す発熱体34は、導電部34bが炉本体14の上部を貫通して炉本体14内で鉛直方向に設けられ、発熱部34aが炉本体14内で導電部34bの先端に鉛直方向に延設されて、側面視直線状に形成されている。一方、図1(b)に示す発熱体34は、導電部34bが炉本体14の側部を貫通して炉本体14内で鉛直方向に屈曲して設けられ、発熱部34aが炉本体14内で導電部34bの先端に鉛直方向に延設されて、側面視L字状に形成されている。なお、図1には発熱体34を2本示したが、通常は、図3に示すように、炉本体14内の中心軸上に位置するるつぼ22の周囲を円形に囲むようにして複数(ここでは、先端がU字状の発熱体34が10本)配設されている(ただし、発熱体34の数は特に限定されない)。このように発熱体34を配設することにより、発熱部34aをるつぼ22の周囲に鉛直方向に延設することができるため、炉本体14内のるつぼ周辺に、上側の温度が高く、下側の温度が低くなるような垂直方向の温度勾配を形成することが可能になる。
【0029】
なお、図1(b)の側面視L字状の発熱体34を適用する場合、一例として、前述の炉本体14を構成するリング部材の積層構造において、上方のリング部材の下面、および下方のリング部材の上面にそれぞれ半円溝を設け、当該半円溝同士を突合せることによって導電部34bが挿通する貫通孔13を形成できる。同じく炉内管30もリング部材の積層構造とすることで、炉内管30にも同様に貫通孔31を形成できる。このようにすれば、導電部34bを、炉本体14の貫通孔13および炉内管30の貫通孔31を貫通するようにして、すなわち炉本体14および炉内管30の上下のリング部材に挟み込むようにして、炉本体14および炉内管30に取り付けることができる。
【0030】
続いて、本実施形態に特徴的な構成である発熱体34についてさらに詳しく説明する。発熱体34は、発熱部34aと発熱部34aよりも径が大きい導電部34bとが連結された構成となっている。発熱部34aと導電部34bとは同一またはほぼ同一である材料で構成されており、径の大きさの相違から生ずる電気抵抗の差異によって、通電されて高温の熱を発する発熱部34aと、発熱部34aへの電流を供給する導電部34bとで作用を分ける構成となっている。発熱体34(発熱部34aおよび導電部34b)を構成する材料として、二珪化モリブデン(MoSi2)等を好適に使用できる。
【0031】
ここで、本実施形態に係る発熱体34は、発熱部34aが1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成され、導電部34bが1800[℃]の耐熱性を有する材質で構成されていることを特徴とする。炉本体14内においてβ-Ga23の焼結体等の酸化ガリウム結晶の原料や種子結晶の一部を融解させるまで発熱部34aを通電すると、発熱部34a自体は1850[℃]近くにまで達する(β-Ga23の融点は約1795[℃])。したがって、発熱部34aを1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成することによって熱による発熱部34aの変形や破損を抑制することができる。一方、発熱部34aほどの高温には達しない導電部34bについては、比較的安価な1800[℃]の耐熱性を有する材質で構成することによって発熱体34全体の材料コストを低下させることができる。
【0032】
また、本実施形態に係る発熱体34は、発熱部34aが、発熱部34aよりも径が大きく導電部34bよりも径が小さく形成されて1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成された接続部34cを介して、導電部34bに接続されていることを特徴とする。VB炉である炉本体14においては、発熱部34aをるつぼ22の周囲に鉛直方向に延設して、炉本体14内のるつぼ周辺に、上側の温度が高く、下側の温度が低くなるような垂直方向の温度勾配を形成させている。したがって、発熱体34において発熱部34aの基端乃至導電部34bとの連結部位が炉本体14内の最高温域に位置して最も高温になり易い。したがって、発熱部34aと導電部34bとを、発熱部34aと同じく1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成しながら発熱部34aよりも径を大きく形成した接続部34cを介して連結することによって、発熱部34aの基端から導電部34bとの連結部位までを熱から保護することができる。その結果、発熱体34の変形や破損をさらに抑制できる。
【0033】
また、導電部34b、接続部34c、発熱部34aの順で径が次第に小さくなるため、外部電源から導電部34bを介して、さらに接続部34cを介して発熱部34aに通電して発熱部34aを高温に発熱させることができる。ここで、発熱部34aの径(x)と、接続部34cの径(y)と、導電部34bの径(z)との比(x:y:z)において、3≦x≦9、4≦y≦12、6≦z≦18(ただし、x<y<z)となるように各径を形成することが好ましく、より好適には上記の比(x:y:z)において、3≦x≦9、6≦y≦12、9≦z≦18(ただし、x<y<z)としたり、若しくはy≦3x、且つ、z≦2y、且つ、z≦4x(ただし、x<y<z)とすることが好ましい。具体的には、例えば「x=3、y=6、z=9」、「x=3、y=6、z=12」、「x=3、y=9、z=12」、「x=4、y=6、z=9」、「x=4、y=9、z=12」、「x=6、y=9、z=12」、「x=6、y=9、z=18」、「x=6、y=12、z=18」、「x=9、y=12、z=18」等とするとよい。ただし、本実施形態によれば、従来よりも低コストで発熱体34を製造できるとはいえ、一般的には発熱体34は高価なものであり、上記のようなあらゆる組み合わせの発熱体34を製造して適正を試験することは著しく過大な経済的支出を要するため実際的ではなく、後述する実施例では、特にx=6、y=9、z=12とした発熱体34を用いた(実施例2)。
【0034】
ここでいう「径」とは、「断面の直径φ(ファイ)」を意味する。なお、材質の相違する導電部34b、接続部34cおよび発熱部34aは、溶接等により接合させることができる。
【0035】
また、図2に示すように、発熱体34は、先端がU字状に形成された発熱部34aに対して2本の導電部34bが接続されて形成されており、発熱部34aに所定の曲げ幅(各発熱部34aの中心間の距離で、符号Aで示す長さ)を有している。ここで、本実施形態に係る発熱体34は、発熱部34aの曲げ幅Aが小さく形成されていることを特徴とする。
【0036】
図3に、上記の曲げ幅Aについて説明する説明図として、図1(a)のIII-III線断面図を示す。ただし、図3は、説明に必要な、炉内管30よりも内周側だけを示している。前述の通り、炉本体14内の中心軸上にるつぼ22(るつぼ受軸16)が配置され、るつぼ22の周囲を円形に囲むようにして複数の発熱体34が配設されている。ここで、図3(a)に示すように、発熱部34aの曲げ幅Aが大きいと発熱体34の取付けに係る部材36(例えば、発熱体34を炉本体14(耐熱材14a)に固定する部材)同士が干渉してしまう。したがって、干渉を回避するために、発熱体34をるつぼ22が位置する中心軸からより外周側にずらしたり、発熱体34の数を減らしたりする必要があり、加熱時間の延長、生成される結晶の品質低下等の問題が生じ易くなる。これに対して、本実施形態では、図3(b)に示すように、発熱部34aの曲げ幅Aを小さくすることによって、発熱体34の取付けに係る部材36同士の干渉を防止できる。また、発熱体34をるつぼ22から遠ざけることなく増やすことが可能になる。
【0037】
なお、具体的には、例えば発熱部34aの径を3[mm]~9[mm]程度に形成する場合、発熱部34aの曲げ幅Aを40[mm]未満に形成することが好ましく、より好適には30[mm]程度に形成するのが好ましい。
【実施例0038】
炉本体14がVB炉として設けられた本実施形態に係る酸化ガリウム結晶の製造装置10を用いてβ-Ga23結晶の育成を試みた。発熱体34を、正面視U字状の抵抗加熱発熱体として、図1(a)に示すように側面視直線状に形成して炉本体14内にるつぼ22の周囲を円形に囲むようにして等間隔に8本配設した。ただし、各実施例に係る発熱体34として以下の構成としたものを用いた。
【0039】
実施例1の発熱体34として、二珪化モリブデン(MoSi2)を材料とした2段階構成(発熱部34aおよび導電部34b)の抵抗加熱発熱体(JX金属製)であって、発熱部34aを、材質:1900グレード、φ:6[mm]とし、導電部34bを、材質:1800グレード、φ:12[mm]として構成したものを用いた。
実施例2の発熱体34として、二珪化モリブデン(MoSi2)を材料とした3段階構成(発熱部34aおよび接続部34cおよび導電部34b)の抵抗加熱発熱体(JX金属製)であって、発熱部34aを、材質:1900グレード、φ:6[mm]とし、接続部34cを、材質:1900グレード、φ:9[mm]とし、導電部34bを、材質:1800グレード、φ:12[mm]として構成したものを用いた。
なお、「1900グレード」とは1850[℃]の耐熱性を有することを表す規格であり、「1800グレード」とは1800[℃]の耐熱性を有することを表す規格である。
【0040】
Pt:80[wt%]、Rh:20[wt%]の組成のPt-Rh合金製のるつぼ22(φ:100[mm])に種子結晶およびβ-Ga23の焼結体(結晶原料)を充填し、β-Ga23の融点(約1795[℃])近傍の温度勾配が2~10[℃/cm]になるように温度分布を設定した1800[℃]以上の大気雰囲気下の炉本体14内で融解させた。次いでるつぼ22の下降移動と炉本体14内の温度降下とを併用して一方向凝固を行った。その後、冷却させたるつぼ22を剥離して成長結晶を取出した。このようにして4[in]サイズのβ-Ga23結晶の製造を一定回数実施した後、冷却した発熱体34の状態を確認した。
【0041】
図4に実施例1に係るβ-Ga23結晶育成後発熱体34、図5に実施例2に係るβ-Ga23結晶育成後発熱体34を示す。それぞれ、図4(a)および図5(a)は炉本体14内に設置された状態、図4(b)および図5(b)は炉本体14内から取外した状態である。破損箇所を実線矢印、変形箇所を破線矢印で指し示す。また、本文中、「16箇所(ここでは、1本のU字状の発熱部34aを2箇所と数える)有する発熱部34aのうち何箇所の発熱部34aで破損が生じたか」を破損の発生頻度として表し、また、「8本有する発熱体34のうち何本の発熱体34で変形が生じたか」を変形の発生頻度として表す。
【0042】
また、図6に、参考例に係る発熱体34として、二珪化モリブデン(MoSi2)を材料とした従来の抵抗加熱発熱体(サンドビック製)であって、全体(発熱部34aおよび導電部34b)を1850[℃]の耐熱性を有する材質で構成した発熱体34(発熱部34a:φ4[mm]、導電部34b:φ9[mm])を、炉本体14内に10本配設してβ-Ga23結晶を製造した後の発熱体34を示す。
【0043】
実施例1に係る発熱体34を用いた場合、結晶育成後発熱体34では、図4(a)に示すように、1本の発熱体34が変形し(変形頻度:1/8)、3箇所の発熱部34aが破損した(破損頻度:3/16)。この発熱体34を炉本体14内から取外したところ、各発熱体34(発熱部34a)はやや脆く、図4(b)に示すように、炉本体14内から取外すと最終的に8箇所の発熱部34aが破損した(破損頻度:8/16)。ただし、発熱体34を交換する(取外す)ことなく図4(a)に示す状態で、さらにβ-Ga23結晶を製造することも可能である。また、導電部34bにおいて表層の一部が熔解したとみられる粉体の付着が確認された。このように、実施例1に係る発熱体34の変形および破損の程度は、従来の発熱体34(図6の実線矢印で示すように、発熱体34が炉本体14内に設置された状態で6箇所が破損)と比較して同程度であった。したがって、実施例1に係る発熱体34を用いた場合でも、導電部34bはやや劣化するものの、熱による発熱体34の変形や破損を従来と同程度に抑制でき、さらに低コスト化できることが示された。
【0044】
なお、参考例に係る炉本体14には炉内管30が設けられておらず、炉空間15の外壁を構成する耐熱材14aが変形し易くなっていた。そのため、参考例に係る発熱体34では、導電部34bが十分に支持されずに発熱部34aが位置ずれを起こした結果、主として発熱部34aの先端に破損が生じた。
【0045】
また、実施例2に係る発熱体34を用いた場合、結晶育成後発熱体34では、図5(a)に示すように、1本の発熱体34が変形し(変形頻度:1/8)、1箇所の発熱部34aが破損した(破損頻度:1/16)。この発熱体34を炉本体14内から取外したところ、各発熱体34はしっかりとした強度が維持されており、図4(b)に示すように、炉本体14内から取外すと最終的に2箇所の発熱部34aが破損した(破損頻度:2/16)。このように、実施例2に係る発熱体34では、参考例に係る従来の発熱体34や実施例1に係る発熱体34と比較してさらに発熱体34の変形や破損を大幅に抑制できることが示された。図5に示す発熱体34はβ-Ga23結晶を複数回製造した後のものであるが、発熱体34を交換する(取外す)ことなく図5(a)に示す状態で、さらにβ-Ga23結晶を製造することも可能である。また、図5(b)に示すように、実施例2に係る発熱体34では、導電部34bに粉体の付着はほぼ生じておらず、接続部34cによって発熱部34aの基端乃至導電部34bとの連結部位が保護されることにより導電部34bの劣化も防止できることが示された。
【0046】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変形可能である。特に、ここではVB炉を例に挙げて説明したが、同じく垂直方向の温度勾配を利用するVGF炉にも当然に適用可能である。また、水平方向の温度勾配を利用するHB炉およびHGF炉に対しても抵抗加熱発熱体の変形や破損が生じやすい箇所は共通するため、本発明の適用が可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 製造装置、12 基体、14 炉本体、16 るつぼ受軸、18 熱電対、20 アダプタ、22 るつぼ、24 吸気管、26 排気管、28 炉心管、30 炉内管、34 発熱体、34a 発熱部、34b 導電部、34c 接続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6