(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063670
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】センサ装置、低圧空間装置および低圧空間システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/67 20060101AFI20220415BHJP
G08C 17/00 20060101ALI20220415BHJP
G08C 17/02 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
G01N21/67 C
G08C17/00 Z
G08C17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172037
(22)【出願日】2020-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業研究開発委託、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】520396832
【氏名又は名称】株式会社チェッカーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 道
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】登尾 一幸
(72)【発明者】
【氏名】田口 貢士
【テーマコード(参考)】
2F073
2G043
【Fターム(参考)】
2F073AA01
2F073AB11
2F073AB12
2F073BB01
2F073BC02
2F073CC03
2F073CD11
2F073DD01
2F073EE11
2F073FF01
2F073FH01
2F073FH05
2F073FH07
2F073GG01
2F073GG04
2F073GG09
2G043AA01
2G043CA02
2G043DA06
2G043EA09
2G043FA06
2G043JA02
2G043KA02
2G043LA03
(57)【要約】
【課題】低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができるセンサ装置を提供する。
【解決手段】大気圧より低い気体圧力の低圧空間内で動作するセンサ装置は、信号検出部と、データ処理部と、無線伝送部と、電源部とを備える。信号検出部は、低圧空間において特定の信号を検出する。データ処理部は、信号検出部で検出した信号に対して所定のデータ処理を行い、出力信号を生成する。無線伝送部は、データ処理部が生成した出力信号を低圧空間の外部に無線伝送する。電源部は、信号検出部、データ処理部および無線伝送部に電力を供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧より低い気体圧力の低圧空間内で動作するセンサ装置であって、
前記低圧空間における特定の信号を検出する信号検出部と、
前記信号検出部で検出した信号に対して所定のデータ処理を行い、出力信号を生成するデータ処理部と、
前記データ処理部が生成した前記出力信号を前記低圧空間の外部に無線伝送する無線伝送部と、
前記信号検出部、前記データ処理部および前記無線伝送部に電力を供給する電源部と、を備える、センサ装置。
【請求項2】
前記信号検出部、前記データ処理部、前記無線伝送部および前記電源部を配置する基板をさらに備え、
少なくとも前記基板は、コーティング部材により覆われている、請求項1に記載のセンサ装置。
【請求項3】
前記信号検出部が検出する信号は、気体プラズマに起因する信号である、請求項1または請求項2に記載のセンサ装置。
【請求項4】
前記気体プラズマに起因する信号は、前記気体プラズマの光の強度に関する信号である、請求項3に記載のセンサ装置。
【請求項5】
前記信号検出部、前記データ処理部、前記無線伝送部および前記電源部を収納する収納部をさらに備え、
前記収納部の少なくとも一部は、前記信号検出部が光の強度に関する信号を検出するために、光を透過する部材で構成される、請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【請求項6】
前記データ処理部は、前記信号検出部が検出した信号から得られる情報に対して演算処理を行い、前記出力信号として出力するため、教師データを用いた機械学習処理が施された学習済みニューラルネットワークを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【請求項7】
前記信号検出部は、光の強度に関する信号を検出し、
前記データ処理部は、前記学習済みニューラルネットワークを用いて光の強度に関する信号を補正した信号を前記出力信号として出力する、請求項6に記載のセンサ装置。
【請求項8】
前記信号検出部は、光の強度に関する信号を検出し、
前記データ処理部は、前記学習済みニューラルネットワークを用いて所定物質の密度に関する信号を前記出力信号として出力する、請求項6に記載のセンサ装置。
【請求項9】
前記気体圧力は、大気圧の1/10以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【請求項10】
前記気体圧力は、大気圧の1/100以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のセンサ装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のセンサ装置と、
内部に前記センサ装置を設置し、内部を前記低圧空間とする低圧空間容器とを備える、低圧空間装置。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載のセンサ装置と、
内部に前記センサ装置を設置し、内部を前記低圧空間とする低圧空間装置と、
前記無線伝送部が無線伝送した前記出力信号を、前記低圧空間装置の外部で受信する受信装置とを備え、
前記低圧空間装置の外部は、前記気体圧力が大気圧である大気圧空間であり、
前記無線伝送部は、所定周波数で前記出力信号を無線伝送し、
前記低圧空間装置の前記大気圧空間との壁部の少なくとも一部は、前記センサ装置と前記受信装置との間で前記所定周波数で無線伝送される前記出力信号を遮らない部材である、低圧空間システム。
【請求項13】
前記壁部の少なくとも一部は、石英ガラスである、請求項12に記載の低圧空間システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧より低い気体圧力の低圧空間内で動作するセンサ装置、低圧空間装置および低圧空間システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空チャンバー内部で動作するセンサ装置が開発されている。例えば、特許文献1では、真空加工装置の真空チャンバー内部で動作する、構造がシンプルで、堅牢であり、かつ測定精度が高い小型の圧力センサが開示されている。また、特許文献2では、真空チャンバー内に情報を計測するためのセンサを設け、当該センサにより計測した情報を無線で真空チャンバー外へ送信するセンサ装置が開示されている。さらに、特許文献3では、センサ基板において、情報処理素子が、検出素子が検出した情報を無線でリアルタイムで真空処理装置に送信する送信素子を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5764723号公報
【特許文献2】特開平6-76193号公報
【特許文献3】国際公開第00/68986号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低圧力下のような特殊環境下で動作可能なセンサとしては、特許文献1~特許文献3に挙げられたものがある。しかしながら、特許文献1に記載のセンサ装置では、大気圧より減圧された空間内でプラズマを発生させた場合、プラズマ中では10000Kを超えるようなエネルギーを持つ電子など、高エネルギーの荷電粒子が存在し、内部の構造物がスパッタ現象等により不純物として容器内に拡散して動作が不安定となる可能性があった。また、特許文献2,3に記載のセンサ装置では、単に真空チャンバー内部で検出した信号を外部に出力するだけで、真空チャンバー内部の状況を把握するためには当該信号に対して所定の演算を行う必要があり、真空チャンバー内部の状況をリアルタイムに知ることができなかった。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができるセンサ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある局面に従うセンサ装置は、大気圧より低い気体圧力の低圧空間内で動作する。センサ装置は、信号検出部と、データ処理部と、無線伝送部と、電源部とを備える。信号検出部は、低圧空間における特定の信号を検出する。データ処理部は、信号検出部で検出した信号に対して所定のデータ処理を行い、出力信号を生成する。無線伝送部は、データ処理部が生成した出力信号を低圧空間の外部に無線伝送する。電源部は、信号検出部、データ処理部および無線伝送部に電力を供給する。
【0007】
本開示の別の局面に従う低圧空間装置は、センサ装置と、低圧空間容器とを備える。低圧空間容器は、内部にセンサ装置を設置し、内部を低圧空間とする。
【0008】
本開示の別の局面に従う低圧空間システムは、センサ装置と、低圧空間装置と、受信装置とを備える。低圧空間装置は、内部にセンサ装置を設置し、内部を低圧空間とする。受信装置は、無線伝送部が無線伝送した出力信号を、低圧空間装置の外部で受信する。低圧空間装置の外部は、気体圧力が大気圧である大気圧空間である。無線伝送部は、所定周波数で出力信号を無線伝送する。低圧空間装置の大気圧空間との壁部の少なくとも一部は、センサ装置と受信装置との間で所定周波数で無線伝送される出力信号を遮らない部材である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るセンサ装置を備える低圧空間システムの概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係るセンサ装置を備える低圧空間システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係るセンサ装置の概略構成図である。
【
図4】第1実施形態に係るセンサ装置のニューラルネットワークにおける入出力データを示す図である。
【
図5】第1実施形態に係るセンサ装置の信号出力結果を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係るセンサ装置を備える低圧空間システムの概略構成図である。
【
図7】第2実施形態に係るセンサ装置の信号出力結果を示す図である。
【
図8】第2実施形態に係る低圧空間におけるアンモニアの分解や反応についての概略の関係図である。
【
図9】第2実施形態に係るセンサ装置のニューラルネットワークにおける入出力データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
低圧力下においては、特許文献1(特許5764723号公報)にあるような、圧力状態の監視のためのセンサが開発されているが、このセンサは無線化されておらず有線にて信号伝送を行う必要があり、また雑音が発生する環境で信号/雑音比を高めるようなデータ処理機能も持ち合わせていない。
【0013】
低圧力下において動作可能なセンサが、データ処理機能と無線伝送機能を備えるためには、電気電子回路を内包することが不可欠であるが、電気電子回路の部品を低圧力下で動作可能である状態で備え、そしてその信号を無線伝送により取り出すことは、従来は、下記のような理由で困難であった。
【0014】
特に、大気圧の1/10以下の圧力の空間においては、もし気体を封入した自由に伸び縮みする部品が大気圧空間からその空間に投入された場合、部品の容積は10倍以上となり、部品内に包含される電気電子回路の配線は、銅配線は形状を保ったまま延伸できず、切断状態となって導通できず、動作が不可能となる。
【0015】
また、特に、大気圧の1/100以下の圧力の空間においては、部品の内部の構造物の一部が容易に気体化して、不純物として容器内に拡散してしまう可能性があり、動作が不可能となる。さらに、大気圧より減圧された空間内でプラズマを発生させる場合、プラズマ中では10000Kを超えるようなエネルギーを持つ電子など、高エネルギーの荷電粒子が存在する。
【0016】
プラズマ中の高エネルギーの荷電粒子に対して部品の内部の構造物の耐性が弱い場合、スパッタ現象等により構造物が不純物として容器内に拡散してしまう可能性があり、動作が不安定となる。また別の例として、特許文献2(特開平6-76193号公報)に示されているように、ここで検討しているような低圧力下で動作可能なデータ処理と無線伝送が可能なセンサが報告されている。しかし、ここで行われているデータ処理機能は、無線伝送を行うための信号の前処理機能であり、比較的小規模な電気電子回路構成で実現される。
【0017】
一方、特許文献2では、IoT(Internet of Things)分野を支える技術である、信号対雑音比を改善するためのデータ処理機能や、データに対する学習能力を備えてデータを有用な形に変えたりデータの圧縮を行ったりするためのエッジコンピューティング機能を含んでおらず、そのような大規模かつ複雑な電気電子回路が低圧力下で動作可能とする手段については明示されていない。
【0018】
特許文献3(国際公開第00/68986号)についても、無線伝送可能あることで信号伝送線が不要であることが示されているものの、大規模かつ複雑な電気電子回路が低圧力下で動作可能とする手段については明示されていない。
【0019】
以下に説明する第1実施形態~第3実施形態に係るセンサ装置は、データ処理機能と無線伝送機能をもたらす電気電子回路において、銅配線の切断の抑制、構造物の気体化の抑制、プラズマ耐性の保持、を備えた部品により構成することにより、所望のセンサ装置を製作することができる。そして、大気圧よりも低圧力の状態、大気圧の1/10以下の圧力の空間、大気圧の1/100以下の圧力の空間、ならびに低圧力下で気体プラズマが存在する空間において、センサの動作が可能となる。さらに、無線伝送経路の設計により、統合的にセンサデータを取得できるシステムが実現される。以下、図を用いて詳細に説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係るセンサ装置を備える低圧空間システムの概略構成図である。
図1に示すように、低圧空間システム1000は、センサ装置1と、低圧空間装置100と、受信装置200とを備える。センサ装置1は、大気圧より低い気体圧力の低圧空間内で動作する装置である。センサ装置1は、低圧空間における特定の信号を検出し、当該信号に対して所定のデータ処理を行い、生成した出力信号を無線伝送する装置である。
図1の例において、低圧空間における特定の信号は、光の強度に関する信号である。
【0021】
低圧空間装置100は、内部にセンサ装置1を設置し、内部を低圧空間とする。気体圧力は、たとえば、大気圧の1/10以下であり、センサ装置1は、少なくともこの気体圧力の低圧空間内で動作可能である。また、たとえば、気体圧力は、大気圧の1/100以下であり、センサ装置1は、この気体圧力の低圧空間内で動作可能である。
【0022】
低圧空間装置100は、低圧空間容器(「真空容器」とも称する)40と、光源41と、光ファイバー42と、ガス容器51と、圧力計52と、真空ポンプ53とを含む。低圧空間容器40は、上部が石英ガラス容器で構成され、下部がステンレス容器で構成されている。
【0023】
上記において、低圧空間装置100はセンサ装置1を備えないものであるが、これに限らず、低圧空間装置100はセンサ装置1を備えるものであってもよい。この場合、低圧空間装置100は、少なくともセンサ装置1と低圧空間容器40とを備えるものであればよい。低圧空間システム1000は、センサ装置1を備える低圧空間装置100と、受信装置200とを備える。
【0024】
低圧空間容器40には、低圧空間容器40に接続されたガス容器51から所定のガス(たとえば、アンモニアを含んだガス)が供給される。低圧空間容器40内部は、低圧空間容器40に接続された真空ポンプ53が、低圧空間容器40内の気体を排出することで、低圧空間となる。低圧空間容器40の気体圧力は、圧力計52によって計測可能である。
【0025】
低圧空間容器40へは、光ファイバー42を介して接続された光源41から光が取り込まれる。そして、センサ装置1は、光の強度に関する信号を検出し、当該信号に対して所定のデータ処理を行い、生成した出力信号を所定周波数で無線伝送する。本実施の形態においては、所定周波数は、2.4GHzである。
【0026】
低圧空間装置100の外部は、気体圧力が大気圧である大気圧空間である。受信装置200は、たとえば、ノートパソコンであり、低圧空間装置100の外部に設置されている。受信装置200(ノートパソコン)は、センサ装置1が無線伝送した出力信号を受信可能な構成となっている。受信装置200においては、センサ装置1から受信した出力信号をリアルタイムで確認することができる。
【0027】
低圧空間システム1000においては、低圧空間装置100の内部(低圧空間)と外部(大気圧空間)とを隔てる壁部の少なくとも一部は、所定周波数(2.4GHz)で無線伝送される出力信号を遮らない部材である。本実施の形態においては、所定周波数(2.4GHz)で無線伝送される出力信号を遮らない部材として、石英ガラスを用いている(低圧空間容器40の上部は石英ガラス容器である)。
【0028】
図2は、第1実施形態に係るセンサ装置を備える低圧空間システムの機能構成を示すブロック図である。上述のように、低圧空間システム1000は、センサ装置1と、低圧空間装置100と、受信装置200とを備える。センサ装置1は、光の強度に関する信号に対してデータ処理を行って生成した出力信号を無線伝送する。無線伝送された出力信号は、低圧空間装置100の外部に設置された受信装置200によって受信される。
【0029】
センサ装置1は、信号検出部21と、データ処理部22と、無線伝送部23と、電源部24とを備える。以下、
図3を用いてこれらを具体的に説明する。
図3は、第1実施形態に係るセンサ装置の概略構成図である。
【0030】
図3(a)に示すように、センサ装置1は、基板11を備えている。基板11上には、信号検出部21、データ処理部22、無線伝送部23および電源部24が配置されている。
【0031】
信号検出部21は、低圧空間における特定の信号(光の強度に関する信号)を検出する。本実施の形態において、信号検出部21は、フォトダイオードアレイである。信号検出部21においては、光の強度に関する信号として、赤色、緑色、青色の波長帯域(赤色:600~700nm、緑色:500~600nm、青色:400~500nm)にのみ感度を持つフォトダイオードアレイを用いることで、それぞれの3つの信号値を検出する。
【0032】
データ処理部22は、信号検出部21で検出した信号に対して所定のデータ処理を行い、出力信号を生成する。本実施の形態において、データ処理部22は、マイクロコントローラである。所定のデータ処理については、後述する。
【0033】
無線伝送部23は、データ処理部22が生成した出力信号を低圧空間の外部に無線伝送する。無線伝送部23は、所定周波数(2.4GHz)で出力信号を無線伝送する。本実施の形態において、無線伝送部23は、は周波数が2.4GHz帯のBluetooth(登録商標)モジュールである。なお、これに限らず、無線伝送部23は、所定周波数でデータを無線伝送できるものであればよい。
【0034】
信号検出部21と、データ処理部22と、無線伝送部23とは、それぞれ別々の集積回路としてセラミックあるいは樹脂のパッケージの中に収納されている電子部品である。パッケージ化する過程においては、パッケージ内の圧力と外部の圧力が異なっても圧力差に耐えうるように、シール材を用いた気密封止を行った。
【0035】
電源部24は、信号検出部21、データ処理部22および無線伝送部23に電力を供給する。本実施の形態において、この電気回路全体を動作させる電源部24として、リチウムイオン電池を用いた。リチウムイオン電池についても、信号検出部21、データ処理部22、無線伝送部23と同様に、液体成分を電池内部に注入するにあたって、内部を真空化することにより液体を注入しつつ、シール材により気密封止している。
【0036】
受信装置200は、無線伝送部23が無線伝送した出力信号を、低圧空間装置100の外部で受信する(
図1、
図2参照)。
【0037】
また、少なくとも基板11は、コーティング部材により覆われている。電気電子回路を構成するにあたり、基板としてはガラスエポキシ基板、銅端子部分としては水溶性フラックス(イミダゾール化合物)、その他の領域はレジスト(solder mask)で被覆した。
【0038】
センサ装置1は、
図3(a)のように構成されてもよいが、さらに、センサ装置1は、
図3(b)に示すように、収納部31を備えてもよい。収納部31の少なくとも一部は、信号検出部21が光の強度に関する信号を検出するために、あるいは、無線伝送する出力信号を遮らないために、光を透過する部材で構成される。具体的には、収納部31の一部は、部材31Aと部材31Bとで構成される。部材31Aや部材31Bは、たとえば、石英ガラスである。
【0039】
図3(a)の例とは異なり、
図3(c)に示すように、センサ装置1は収納部31を備え、信号検出部21、データ処理部22、無線伝送部23および電源部24は収納部31に収納される。収納部31内の圧力と外部の圧力が異なっても圧力差に耐えうるように、シール材を用いた気密封止を行う。光は、部材31Aを通過して信号検出部21によって検出される。無線伝送部23から出力される出力信号は、部材31Bを通過して出力される。
【0040】
本実施の形態においては、センサ装置1は、プラズマ空間のような特殊環境下で動作可能なものを想定している。このような環境下においてセンサ装置1を保護するために、収納部31として金属ケースを用いることが有効である。金属ケースは、接地電位に接続する。これにより、外部の電磁波を遮蔽して内部のセンサ装置1を保護する。また、上述のように、収納部31の少なくとも一部は、信号検出部21が光の強度に関する信号を検出するために、あるいは、無線伝送する出力信号を遮らないために、光を透過する部材で構成されるようにしてもよいし、収納部31が穴部を有するようにしてもよい。
【0041】
次に、データ処理部22が行う所定のデータ処理について説明する。先に説明したように、データ処理部22は、信号検出部21で検出した信号に対して所定のデータ処理を行い、出力信号を生成する。
【0042】
本実施の形態においては、データ処理部22は、教師データを用いた機械学習処理が施された学習済みニューラルネットワークを有する。学習済みニューラルネットワークは、信号検出部21が検出した信号から得られる情報に対して演算処理を行い、出力信号として出力するために、あらかじめ学習されたニューラルネットワークである。
【0043】
図4は、第1実施形態に係るセンサ装置1のニューラルネットワークにおける入出力データを示す図である。データ処理部22は、学習済みニューラルネットワークを用いて光の強度に関する信号を補正した信号を出力信号として出力する。
【0044】
図4に示すように、学習済みニューラルネットワークに入力される入力データは、光強度を特定可能な赤信号、緑信号、青信号である。これに対し、学習済みニューラルネットワークから出力される出力データは、補正された赤信号、補正された緑信号、補正された青信号である(それぞれ、赤信号(補正)、緑信号(補正)、青信号(補正)とも称する)。
【0045】
まず、信号検出部21からデータ処理部22に信号が送られることで、信号はアナログ信号から無線伝送に適切な大きさのディジタル信号(赤信号、緑信号、青信号)に変換される。さらに、有用なデータ値とするために、データ処理部22において各色の信号値の補正処理を行う。
【0046】
具体的には、事前に1600色のカラーサンプルを用いて、赤色、緑色、青色の正規の値とそれらに対応する検出値の間で隠れ層1層、中間変数4つの階層型ニューラルネットワークにより補正プロセスを構築した。その補正プロセスを実現するための四則演算とシグモイド関数演算と条件分岐処理と繰り返し処理を行った。学習済みニューラルネットワークから出力された補正後の赤信号と緑信号と青信号は、無線伝送部23で無線信号として送信される。
【0047】
(実験結果)
図5は、第1実施形態に係るセンサ装置の信号出力結果を示す図である。
図5において、縦軸は、光出力信号強度(任意単位)を示す。横軸は、時間(分)を示す。光源41からの光に適用した。
【0048】
図1のような配置において、センサ装置1を低圧空間容器40内に設置して動作させたところ、
図5に示すような結果が得られた。
図5において、A1のタイミングで、光源41をオンにしている。光学フィルターの波長は、550nmである。このとき、低圧空間容器40内は100kPa(大気圧)である。次に、A2のタイミングで、真空ポンプ53による排気をオンにしている。このとき、たとえば、緑信号の出力値はおよそ50である。
【0049】
A3のタイミングで200Paになり、A4のタイミングで30Paになっている。この場合においても、A2~A4において、各色の信号出力(補正後の各信号)は変化していない。A4のタイミングで真空ポンプ53による排気をオフにし、大気を開放している。その後、A5のタイミングで200Paになり、A6のタイミングで100kPa(大気圧)になっている。また、A7のタイミングで、光源41をオフにしている。A4~A7においても、各色の信号出力は変化していない。
【0050】
このように、センサ装置1は、大気圧から30Paまで動作が可能であった。すなわち、真空状態と大気雰囲気を隔てている石英ガラスを通して入射した光の信号が、圧力変化に関わらずにセンサで検出され、外部に設置した受信装置200(パソコン)で受信できた。
【0051】
ここで、低圧力状態と大気圧状態は、厚み3mm合成ガラスで隔てられている構造となっており、この厚みの間に圧力状態の変化が一気に生じている。この場合、圧力ポイントとして指摘した1/10気圧(10kPa)および1/100気圧(1000Pa)においても信号出力に変化はなく、それらより十分低い圧力で動作可能であることが示された。
【0052】
また、
図1~
図3に示したセンサ装置1は、次の点で有線によりデータを伝送するセンサより優れている。本実施の形態における低圧空間容器40内部から外部への信号の取り出しは、無線伝送機能により実現されている。前述したように、この場合、低圧力状態から大気圧状態への空間的変化は、たった数mmの間に生じており、そのような場合に有線型伝送を想定する場合には、真空状態を保ちつつ信号伝送を行う特殊なコネクタを必要とする。
【0053】
しかし、我々の場合には、無線伝送機能を搭載することにより、そのような特殊なコネクタは必要としない。アナログ信号による有線伝送の場合と比較して、どの程度伝送データ量を削減できたか、信号対雑音比がどの程度改善したかについて、以下に説明する。
【0054】
無線通信にBluetooth(登録商標)規格を採用した場合、実際にデータ転送が行われる時間はせいぜい数分の1であり、残りの時間は情報伝送がなされない。一方で、アナログ信号は、基本的にはリアルタイムで連続的に信号伝送を行い続けないといけない。
【0055】
また、受信側で送信信号に同期した信号処理を行うことで間欠的にデータ伝送を行うことも可能ではあるものの、そのような特殊な信号処理を必要とする。すなわち、アナログ信号による有線伝送を用いる場合に比べて、データ量は数分の1となった。
【0056】
また、
図1~
図3に示したセンサ装置1は、次の点で宇宙探査で用いられるシステムより優れている。従来、宇宙探査で用いられるセンサの場合は、センサ装置1と同様に検出データを無線伝送により行っているが、基本的には空気以外には何もない空間を伝送しており、距離は長いものの、無線電波信号の反射や吸収などが発生する物体を考慮する必要はない。
【0057】
それに対して、我々の無線伝送においては、低圧空間容器40の中で使用することを想定している。その場合、外部の大気圧の空間との間で、ごく短い長さの間に大きく変化する圧力に対する耐性をもたせつつ無線電波を透過させる必要がある。
【0058】
図1~
図3に示したセンサ装置1においては、その部分に石英ガラスを使用しており、無線電波の周波数において反射や吸収が発生しない窓材料を選定する必要がある。
【0059】
この実施形態において使用した無線電波の周波数は2.4GHzであり、石英ガラスはこの周波数において屈折率が約1.89、誘電体損失角が約0.0001であるので、反射も吸収も少ない材質と言える。このようなシステム設計によって、低圧力下にある低圧空間容器40から大気圧の空間へ向けて、無線伝送の効率が高まるシステムが実現できた。
【0060】
以上説明したように、センサ装置1は、大気圧より低い気体圧力の低圧空間内で動作する。信号検出部21は、低圧空間における特定の信号を検出する。データ処理部22は、信号検出部21で検出した信号に対して所定のデータ処理を行い、出力信号を生成する。無線伝送部23は、データ処理部22が生成した出力信号を低圧空間の外部に無線伝送する。これにより、低圧空間内における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。このように、低圧空間のような過酷な環境下において、所定のデータ処理を行い無線伝送を行うことで、外部において必要な情報(低圧空間内の内部状態など)だけをリアルタイムで取得することができる。このようにすれば、外部において、必要な情報を算出する演算を行うための専用装置を設けたり専用ソフトウェアをインストールするような必要がなく、また、有線で接続するために配線を行う必要もないため、工場内の管理が容易になるとともに外部設備のコストダウンを図ることができる。
【0061】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態に係るセンサ装置を備える低圧空間システムの概略構成図である。第2実施形態に係るセンサ装置1は、低圧空間容器40の内部でプラズマを生成する。以下、第1実施形態と異なる点について説明し、共通する部分については説明を省略する。
【0062】
図6(a)は低圧空間システム全体を説明する図であり、
図6(b)はプラズマ生成部を説明する図であり、
図6(c)はプラズマ生成部の各大きさを説明する図である。
【0063】
図6(a)に示すように、第2実施形態に係るセンサ装置1は、第1実施形態に係るセンサ装置1と異なり、低圧空間容器40の内部に、プラズマ生成部71を備える。なお、光ファイバー42および光源41は備えない。
【0064】
図6(b)に示すように、プラズマ生成部71は、プラズマ生成用電源61に接続されている。プラズマ生成部71は、接地された接地電極72と、プラズマ生成用電源61に接続された放電電極73とを有する。そして、放電電極73と接地電極72との間に電圧を印加して、プラズマを生成させる。
【0065】
図6(c)に示すように、接地電極72と放電電極73との距離d3は25mmである。円筒状である放電電極73の直径d2は20mmであり、長さd4は50mmである。円筒状のプラズマ生成部71の直径はd1+d2+d1である。プラズマ生成部71の壁面から放電電極73までは距離d1(37mm)離れている。
【0066】
プラズマ生成部71によりプラズマが生成されると、信号検出部21は、低圧空間の環境状態として気体プラズマを特定する。具体的には、信号検出部21は、プラズマ生成部71が生成した気体プラズマに起因する信号を検出する。本実施の形態において、気体プラズマに起因する信号は、気体プラズマの光の強度に関する信号である。そして、データ処理部22が当該信号に対してデータ処理を行って生成した出力信号を、無線伝送部23が無線伝送する。無線伝送された出力信号は、低圧空間装置100の外部に設置された受信装置200によって受信される。
【0067】
第2実施形態においては、
図1~
図3に示した第1実施形態に係るセンサ装置1の一部について、以下のように機能を付加して構成した。信号検出部21においては、赤色、緑色、青色の波長帯域にのみ感度を持つフォトダイオードアレイに加えて、紫外線(波長帯域:300~400nm)と赤外線(波長帯域:700~900nm)のみに感度を持つフォトダイオードアレイを追加することで、それぞれの5つの信号値を検出する。このセンサ装置1を用いて行ったプラズマ生成空間に設置した場合の、動作検証の実験について説明する。
【0068】
(実験結果)
図7は、第2実施形態に係るセンサ装置の信号出力結果を示す図である。
図7において、縦軸は、光出力信号強度(任意単位)を示す。横軸は、時間(分)を示す。本実施の形態においても、学習済みニューラルネットワークにより、各信号はそれぞれ補正が行われている。
【0069】
図6のような配置において、センサ装置1を低圧空間容器40内に設置して動作させた。低圧空間容器40内は100Paである。本実験では、0分から1分ごとにプラズマ生成電力を増加させている。プラズマ生成用電源61(周波数13.56MHz)を用い、レベル0からレベル15(電力換算:45W)まで投入電力を変化させたとき、どのように検出信号が変化するかを調べた。
【0070】
すると、
図7に示すように、6分経過時に赤信号、緑信号、青信号が検出され、7分経過後に、それぞれがさらに強い強度で検出され、以降、1分ごとにそれぞれ段階的に強度が増している。このように、圧力100Paにおいて生成されたプラズマからの発光信号が、センサにより検出できた。
【0071】
低圧空間容器40内で発生したプラズマからの光は、低圧空間容器40内に設置したセンサ装置1で検出され、外部に設置した受信装置200で受信できた。電力レベル0から5までの間は、投入電力がプラズマ生成電力に届かず、プラズマは生成しなかった。レベル6のとき、はじめてプラズマが生成し、それに合わせてセンサも信号を検出した。
【0072】
検出した信号がプラズマ発光による信号かどうかを確認するため、
図6のように、大気側の石英ガラス壁のすぐそばに設置した光ファイバー44から取り込んだ光信号を分光器43で検出した強度と比較したところ、両者の信号がほぼ比例関係にあることが確認され、プラズマの発光強度の検出に成功した。
【0073】
ここで、赤信号は分光器43で得られるスペクトルのうちの600~700nmの領域、緑信号は分光器43で得られるスペクトルのうちの500~600nmの領域、青信号は分光器43で得られるスペクトルのうちの400~500nmの領域に対応すると仮定した。
【0074】
アナログ信号による有線伝送の場合と比較して、信号対雑音比がどの程度改善したかについて、以下に説明する。
図6の配置において、プラズマが生成されているとき、低圧空間容器40内には30Vから60Vの交流電圧が発生していた。これは、通常の信号伝送に使用されるアナログ信号のレベルである5Vあるいは12Vと比較して数倍の大きさがあり、適切なフィルター処理を行わない限り、信号対雑音比は0.25以下となる。
【0075】
一方で、センサ装置1を利用した場合は、周波数シフトによるディジタル信号が伝送される様式であり、アナログ的な雑音の影響は受けない。つまり、信号対雑音比はほぼ無限大であり、
図1~
図3に示した第1実施形態に係るセンサ装置1の場合と比較しても、同様の信号が問題なく受信が可能であった。
【0076】
さらに、得られた各信号(紫外線信号、青色信号、緑色信号、赤色信号、赤外線信号)を用いたり、あるいは各信号をデータ処理部22において以下のように処理することで、プラズマ空間において生成された生成粒子の密度推定を行う方法について、
図8、
図9を用いて以下に説明する。
図8は、第2実施形態に係る低圧空間におけるアンモニアの分解や反応についての概略の関係図である。
【0077】
図8では、
図6に示す低圧空間容器40内にアンモニア(NH
3)気体を供給した時に、プラズマの中の電子(e
-)によりどのように気体分子が分解したり反応したりするかの概略の関係図を示している。実際の実験検討としては、圧力が5kPaから100kPaにおいて実験を行った。ここで、名称に下線を付けた粒子は低圧空間容器40の設定パラメータよりその密度を特定可能である。すなわち、アンモニア分子密度は圧力計52により検出でき、電子密度はプラズマ生成用電源61からの投入電力により特定できる。
【0078】
また、二重丸で示した粒子の相対密度は信号検出部21の出力で直接表現できる。すなわち、NHラジカルは300~350nmの波長領域に複数の発光スペクトルを持つためその密度の値は紫外線信号に現れ、アンモニア分子(NH3)は564nmの波長に発光スペクトルを持つためその密度の値は緑色信号に現れ、そして水素原子(H)は656nmの波長に発光スペクトルを持つためその密度の値は赤色信号に現れる。それらをデータ処理なしに用いることで、それぞれの粒子の密度量を特定できた。
【0079】
また、その他の発光スペクトルを持たない粒子についても、電子密度(絶対値)とアンモニア分子密度(絶対値および相対値)NHラジカル密度(相対値)と水素原子(相対値)を入力とし、ヒドラジン(N2H4)密度とヒドラジル(N2H3)密度とを出力とする、階層型およびリカレント型の3層ニューラルネットワークを構成して、150通りの教師データにより計算を行った。
【0080】
図9は、第2実施形態に係るセンサ装置のニューラルネットワークにおける入出力データを示す図である。データ処理部22は、学習済みニューラルネットワークを用いて所定物質の密度に関する信号を前記出力信号として出力する。
【0081】
図9に示すように、上述のように、投入電力から電子密度(絶対値)が特定され、圧力からNH
3密度(絶対値)が特定され、緑信号からNH
3密度(相対値)が特定され、紫外信号から(相対値)が特定され、赤信号からH密度(相対値)が特定される。そして、特定されたこれらの値が、学習済みニューラルネットワークに入力される入力データとなる。これらが入力されると、学習済みニューラルネットワークにより、N
2H
4密度、N
2H
3密度が出力データとして出力される。
【0082】
ニューラルネットワークを構成するために、データ処理部22では、四則演算とシグモイド関数演算と条件分岐処理と繰り返し処理を行った。そして、ヒドラジン(N2H4)密度については、以下の文献Aに基づいて測定したところ、この密度推定計算について、妥当な推定が行われたことを確認した。
【0083】
文献A:Urabe, K., Hiraoka, Y. & Sakai. O. Hydrazine generation for the reduction process using small-scale plasmas in an argon/ammonia mixed gas flow. Plasma Sources Science and Technology 22, 032003-1-4 (2013).
ヒドラジンは、強い還元性を持つ物質で、金属イオンを含む溶液をヒドラジンを含んだ気流に晒すことで、金属ナノ粒子を抽出することができ、実際に我々は銀ナノ粒子の合成に成功した。
【0084】
センサ装置1は、これらの例で示す通り、光の信号に対して特に有効に作用する。すなわち、光は、通常の工場内の空間においては、低圧空間容器40の内外に多く存在しているため、低圧空間容器40の外から透明な真空窓などを通した測定を行うとどうしても雑音成分(いわゆる迷光)が紛れ込んでしまう。
【0085】
また、低圧空間容器40内の環境によっては、低圧空間容器40内の気体成分による光の吸収も発生する。低圧空間容器40内にセンサを設置することで、このような迷光の影響と光吸収の影響を除去することが可能となり、実際の発光信号を直接測定することが可能となった。しかし、光以外の信号についても、センサ装置1を応用可能である。
【0086】
例えば、信号検出部として2本の円筒形状のタングステン(直径300nm、長さ1mmなど)を用いて、そこに-50Vから+50Vの交流電圧を印加することで、ラングミュアプローブ特性を得ることができる。より詳しくは、1秒ごとに1V刻みに電圧を変化させ、1秒ごとに検出信号としてタングステン部分に流れる電流値をデータ処理部で記憶させて、全部の電圧値に対応する電流値をデータ処理することでプラズマのパラメータである電子密度と電子温度と空間電位を得ることができる。
【0087】
[第3実施形態]
第1実施形態および第2実施形態においては、
図3に示したように、信号検出部21と、データ処理部22と、無線伝送部23とは、それぞれ別々の集積回路としてセラミックあるいは樹脂のパッケージの中に収納した。これに対して、第3実施形態においては、信号検出部21、データ処理部22、無線伝送部23を一体化してワンチップ化する。
【0088】
このようにワンチップ化して、
図1~3に示したセンサ装置1と同様の機能を実現する。このようにすることで、低圧空間容器40の中の空間の機能を損なわない大きさの小型のセンサ装置を実現することができる。その他の構成については、第1実施形態や第2実施形態と同じであるので、説明は省略する。
【0089】
なお、第1実施形態~第3実施形態においては、センサとして信号検出部21を1つ設置する構成としたが、これに限らず、信号検出部は複数のセンサにより構成されてもよい。たとえば、低圧空間容器40の複数箇所にセンサを設置し、各位置におけるデータを検出するようにしてもよい。このようにすることで、たとえば、設置位置による光強度などの違い(分布)を確認することが可能となる。
【0090】
[態様]
上述した実施の形態およびその変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0091】
(第1項)一態様に係るセンサ装置は、大気圧より低い気体圧力の低圧空間内で動作する。センサ装置は、信号検出部と、データ処理部と、無線伝送部と、電源部とを備える。信号検出部は、低圧空間における特定の信号を検出する。データ処理部は、信号検出部で検出した信号に対して所定のデータ処理を行い、出力信号を生成する。無線伝送部は、データ処理部が生成した出力信号を低圧空間の外部に無線伝送する。電源部は、信号検出部、データ処理部および無線伝送部に電力を供給する。
【0092】
このような構成によれば、低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0093】
(第2項)第1項に記載のセンサ装置において、基板をさらに備える。基板は、信号検出部、データ処理部、無線伝送部および電源部を配置する。少なくとも基板は、コーティング部材により覆われている。
【0094】
このような構成によれば、低圧空間内において適切にセンサ装置を保護することができる。
【0095】
(第3項)第1項または2項に記載のセンサ装置において、信号検出部が検出する信号は、気体プラズマに起因する信号である。
【0096】
このような構成によれば、低圧空間内で生成されるプラズマの発生空間において、気体プラズマに起因する信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0097】
(第4項)第3項に記載のセンサ装置において、気体プラズマに起因する信号は、気体プラズマの光の強度に関する信号である。
【0098】
このような構成によれば、低圧空間内で生成されるプラズマの発生空間において、発生したプラズマの光の強度に関する信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0099】
(第5項)第1~第4項のいずれか1項に記載のセンサ装置において、収納部をさらに備える。収納部は、信号検出部、データ処理部、無線伝送部および電源部を収納する。収納部の少なくとも一部は、信号検出部が光の強度に関する信号を検出するために、光を透過する部材で構成される。
【0100】
このような構成によれば、低圧空間内、あるいは、低圧空間内で生成されるプラズマの発生空間において、収納部により適切にセンサ装置を保護することができるとともに、適切に信号を検出することができる。
【0101】
(第6項)第1~第5項に記載のセンサ装置において、データ処理部は、信号検出部が検出した信号から得られる情報に対して演算処理を行い、出力信号として出力するため、教師データを用いた機械学習処理が施された学習済みニューラルネットワークを有する。
【0102】
このような構成によれば、低圧空間内、あるいは、低圧空間内で生成されるプラズマの発生空間において、ニューラルネットワークによる複雑なデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0103】
(第7項)第6項に記載のセンサ装置において、信号検出部は、光の強度に関する信号を検出する。データ処理部は、学習済みニューラルネットワークを用いて光の強度に関する信号を補正した信号を出力信号として出力する。
【0104】
このような構成によれば、低圧空間内、あるいは、低圧空間内で生成されるプラズマの発生空間において、データ処理によって検出精度の高い出力信号を外部に伝送することができる。
【0105】
(第8項)第6項に記載のセンサ装置において、信号検出部は、光の強度に関する信号を検出する。データ処理部は、学習済みニューラルネットワークを用いて所定物質の密度に関する信号を前記出力信号として出力する。
【0106】
このような構成によれば、低圧空間内、あるいは、低圧空間内で生成されるプラズマの発生空間において、データ処理によって有用なデータを得るとともにこれを外部に伝送することができる。
【0107】
(第9項)第1~第8項のいずれか1項に記載のセンサ装置において、気体圧力は、大気圧の1/10以下である。
【0108】
このような構成によれば、大気圧の1/10以下の低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0109】
(第10項)第1~第8項のいずれか1項に記載のセンサ装置において、気体圧力は、大気圧の1/100以下である。
【0110】
このような構成によれば、大気圧の1/100以下の低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0111】
(第11項)一態様に係る低圧空間装置は、センサ装置と、低圧空間容器とを備える。低圧空間容器は、内部にセンサ装置を設置し、内部を低圧空間とする。
【0112】
このような構成によれば、低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0113】
(第12項)一態様に係る低圧空間システムは、センサ装置と、低圧空間装置と、受信装置とを備える。センサ装置は、請求項1~10のいずれか1項に記載のセンサ装置である。低圧空間装置は、内部にセンサ装置を設置し、内部を低圧空間とする。受信装置は、無線伝送部が無線伝送した出力信号を、低圧空間装置の外部で受信する。低圧空間装置の外部は、気体圧力が大気圧である大気圧空間である。無線伝送部は、所定周波数で出力信号を無線伝送する。低圧空間装置の大気圧空間との壁部の少なくとも一部は、センサ装置と受信装置との間で所定周波数で無線伝送される出力信号を遮らない部材である。
【0114】
このような構成によれば、低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0115】
(第13項)第12項に記載の低圧空間システムにおいて、壁部の少なくとも一部は、石英ガラスである。
【0116】
このような構成によれば、低圧空間における特定の信号を検出することができ、検出した信号に対してデータ処理を行った結果を好適に外部に伝送することができる。
【0117】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0118】
1 センサ装置、11 基板、21 信号検出部、22 データ処理部、23 無線伝送部、24 電源部、31 収納部、31A 部材、31B 部材、40 低圧空間容器、41 光源、42 光ファイバー、43 分光器、44 光ファイバー、51 ガス容器、52 圧力計、53 真空ポンプ、61 プラズマ生成用電源、71 プラズマ生成部、72 接地電極、73 放電電極、100 低圧空間装置、200 受信装置、1000 低圧空間システム。