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特開2022-63749コンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063749
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】コンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20220415BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
E01D19/12
E01D22/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172145
(22)【出願日】2020-10-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】宮里 心一
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 尚文
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】武知 勉
(72)【発明者】
【氏名】福島 万貴
(72)【発明者】
【氏名】原 健悟
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG39
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】主桁のスターラップなどの引張抵抗材を有効に定着してプレキャスト床版へ取り替えることが可能なコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を提供する。
【解決手段】コンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替えるコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法において、コンクリート橋のRC床版と接合する主桁の上部を斫り取ってスターラップなどの引張抵抗材の上部を露出させ、露出させた当該引張抵抗材を途中で切断して機械式定着手段で有効に定着して前記主桁の有効成を減じた上、有効成を減じた主桁の上にプレキャスト床版を載置する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替えるコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法であって、
コンクリート橋のRC床版と接合する主桁の上部を斫り取ってスターラップなどの引張抵抗材の上部を露出させ、露出させた当該引張抵抗材を途中で切断して機械式定着手段で有効に定着して前記主桁の上にプレキャスト床版を載置すること
を特徴とするコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法。
【請求項2】
前記機械式定着手段は、前記引張抵抗材に鋼管が圧着された鋼管圧着式であり、
前記主桁の上に露出した前記引張抵抗材に鋼管を圧着して定着する引張抵抗材定着工程を有すること
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法。
【請求項3】
前記機械式定着手段は、前記引張抵抗材に鋼管が外嵌されてクサビで固定されたクサビ定着式であり、
前記主桁の上に露出した前記引張抵抗材に鋼管を外嵌してクサビで固定して定着する引張抵抗材定着工程を有すること
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法。
【請求項4】
前記機械式定着手段は、前記引張抵抗材の外周面に形成されたネジにナットが螺合されたネジ定着式であり、
前記主桁の上に露出した前記引張抵抗材の外周面にネジ溝を形成した後、前記ナットを前記引張抵抗材の前記ネジ溝に螺合させて定着する引張抵抗材定着工程を有すること
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法。
【請求項5】
露出した前記引張抵抗材の周囲の前記主桁の上面を不陸調整材で平滑となるように不陸調整を行った後、前記引張抵抗材に前記機械式定着手段を取り付けたこと
を特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート橋の現場打ちRC床版をプレキャスト床版へ取り替える取替方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路橋などの橋梁では、車両の通行による繰り返しの輪荷重によりコンクリート床版が損傷するために、一定期間が経過すると、橋桁から損傷した既設の古いRC床版を撤去して新たな床版に架け替えて更新することが行われている。また、近年、新たな床版をプレキャスト床版に更新することが行われている。プレキャスト床版は、周囲の環境が整った工場等で製造するために、高品質な製品を安定して供給することができ、且つ更新工事の工期が短くて済むからである。
【0003】
例えば、特許文献1には、T型合成桁のコンクリート橋の現場打ちRC床版をPC合成桁用プレキャスト床版に取り替えるPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0034]~[0041]、図面の図5図14等参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載のPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法では、一体化された合成桁のRC床版との接合部分において、主桁3のズレ止め鉄筋12やスターラップ13を残置する必要があるため、ブレーカーやウォータージェットなどの超高圧水で大量のコンクリートを斫らなければならず、作業時間がかかるという問題があった。
【0005】
また、特許文献1に記載のPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法では、主桁上に配置されたズレ止め鉄筋12やスターラップ13を残置するため、プレキャスト床版に埋設された鋼板と鉄筋が干渉してしまい、適切な位置にプレキャスト床版を設置することが困難、又は設置に時間がかかるという問題があった。
【0006】
その上、特許文献1に記載のPC合成桁用プレキャスト床版の取替方法では、PC合成桁用プレキャスト床版下にズレ止め鉄筋12やスターラップ13を定着するための空間と、その空間上部には横締めPC鋼材を配置するための床版厚さが必要となるため、更新後の床版の厚さが更新前より厚くなり、存置する主桁及び下部構造物に負担がかかるという問題もあった。
【0007】
このような問題を解決するべく、ズレ止め鉄筋やスターラップを途中で切断することも考えられる。しかし、道路示方書の考え方に従えば、合成桁の引張抵抗材であるスターラップは、トラス理論に基づいて設計する必要があり、圧縮弦材に定着されないと耐荷機構が成立せず、主桁のウェブ部分が有効に機能しなくなるという問題がある。このため、このような問題を解決して、合成桁からなるコンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替える際に、切断したスターラップを有効に定着させた上、RC床版をプレキャスト床版に更新する方法が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-132070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、主桁のスターラップなどの引張抵抗材を有効に定着してプレキャスト床版へ取り替えることが可能なコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法は、コンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替えるコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法であって、コンクリート橋のRC床版と接合する主桁の上部を斫り取ってスターラップなどの引張抵抗材の上部を露出させ、露出させた当該引張抵抗材を途中で切断して機械式定着手段で有効に定着して前記主桁の上にプレキャスト床版を載置することを特徴とする。
【0011】
第2発明に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法は、第1発明において、前記機械式定着手段は、前記引張抵抗材に鋼管が圧着された鋼管圧着式であり、前記主桁の上に露出した前記引張抵抗材に鋼管を圧着して定着する引張抵抗材定着工程を有することを特徴とする。
【0012】
第3発明に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法は、第1発明において、前記機械式定着手段は、前記引張抵抗材に鋼管が外嵌されてクサビで固定されたクサビ定着式であり、前記主桁の上に露出した前記引張抵抗材に鋼管を外嵌してクサビで固定して定着する引張抵抗材定着工程を有することを特徴とする。
【0013】
第4発明に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法は、第1発明において、前記機械式定着手段は、前記引張抵抗材の外周面に形成されたネジにナットが螺合されたネジ定着式であり、前記主桁の上に露出した前記引張抵抗材の外周面にネジ溝を形成した後、前記ナットを前記引張抵抗材の前記ネジ溝に螺合させて定着する引張抵抗材定着工程を有することを特徴とする。
【0014】
第5発明に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法は、第1発明ないし第4発明のいずれかの発明において、露出した前記引張抵抗材の周囲の前記主桁の上面を不陸調整材で平滑となるように不陸調整を行った後、前記引張抵抗材に前記機械式定着手段を取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明~第5発明によれば、コンクリート橋の主桁のスターラップなどの引張抵抗材を有効に定着して、古くなって損傷した既存のRC床版を新設の高品質なプレキャスト床版へ取り替えることができる。このため、既存のコンクリート橋を安価に且つ短期間で更新することができ、既存のコンクリート橋を適切にメンテナンスして長寿命化を達成することができる。
【0016】
特に、第2発明~第4発明によれば、大きな装置を現場に運び込む必要がなく、コンクリート橋の床版更新現場において、簡単かつ容易にスターラップなどの引張抵抗材の定着が可能となる。
【0017】
特に、第5発明によれば、より適切にスターラップなどの引張抵抗材を有効に定着することができ、さらに既存のコンクリート橋の長寿命化を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を適用する橋梁を橋軸直角方向に鉛直に切断した状態を示す鉛直横断面図である。
図2図2は、図1のA部拡大図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の床版撤去工程を橋軸直角方向Yに沿って切断した全体横断面図で示す工程説明図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の主桁上部斫り工程を図2と同様に拡大断面図で示す工程説明図であり、(a)が主桁上部斫り工程前を示し、(b)が主桁上部斫り工程後を示している。
図5図5は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の不陸調整工程を図4のB部を拡大した拡大断面図で示す工程説明図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の引張抵抗材定着工程を示す拡大断面図である。
図7図7は、第2実施形態に係る機械式定着手段を用いて、引張抵抗材定着工程を行う場合を示す工程説明図である。
図8図8は、第3実施形態に係る機械式定着手段を用いて、引張抵抗材定着工程を行う場合を示す工程説明図である。
図9図9は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法のプレキャスト床版載置工程を橋軸直角方向Yに沿って切断した全体横断面図で示す工程説明図である。
図10図10は、本発明を箱桁橋に適用した場合の工程説明図であり、(a)が更新前、(b)が床版撤去時、(c)が更新後を示している。
図11図11は、本発明を中空床版(ホロースラブ)の床版橋に適用した場合の工程説明図であり、(a)が更新前、(b)が床版撤去時、(c)が更新後を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を実施するための一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1図11を用いて、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法について説明する。本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を適用する橋梁としてT桁橋を例示して説明する。
【0021】
<橋梁>
先ず、図1図2を用いて、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を適用する橋梁について簡単に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法を適用する橋梁を橋軸直角方向に鉛直に切断した状態を示す鉛直横断面図であり、図2は、図1のA部拡大図である。
【0022】
本発明を適用する橋梁B1は、道路橋として使用される鉄筋コンクリート造(RC造)の橋梁であり、図1図2に示すように、4本の鉄筋コンクリート製(プレストレストコンクリート製のPC桁を含む。以下同じ)の主桁であるT桁G1~G4と、これらのT桁G1~G4の上部と接合された合成床版である現場打ちのRC床版F1など、から構成されている。また、RC床版F1の両脇の縁沿いには、壁高欄W1と車止めとして地覆部W2が形成されている。但し、壁高欄W1、地覆部W2の上方に設置される施設やアスファルト舗装等は、必ずしも設置しないので省略している。
【0023】
なお、図中のX方向は、橋梁B1のT桁G1~G4の軸方向に沿った橋軸方向を指し、Y方向は、橋梁B1の橋軸方向X直交する水平方向である橋軸直角方向を指している。また、Z方向は、鉛直方向である上下方向を指している。
【0024】
また、図2に示すように、主桁であるT桁G2(G1,G3,G4)の引張抵抗材であるスターラップSrは、上部がRC床版F1まで延び、フック付きの定着長さを確保してRC床版F1の主桁上部F1a内に定着されている。また、橋梁B1のT桁G2と接合する主桁上部F1aには、コの字状のずれ止め鉄筋S1が配筋されている。そして、RC床版F1のハンチ部分には、T桁G2まで連続する斜筋S2が配筋されている。このように、橋梁B1は、T桁G2とRC床版F1とが一体となって外力に対抗する現場製作の合成桁橋である。
【0025】
次に、図3図9を用いて、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の具体的な手順について説明する。
【0026】
(床版撤去工程)
図3は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の床版撤去工程を橋軸直角方向Yに沿って切断した全体横断面図で示す工程説明図である。先ず、本実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法では、図3に示すように、RC床版F1を切断撤去する床版撤去工程を行う。
【0027】
具体的には、ウォールソーやダイヤモンドカッターなどと呼ばれる大型の回転切削装置を用いて、図中の▽で示すT桁G1~G4の脇のRC床版F1を橋軸方向X沿って切断するとともに、RC床版F1を橋軸直角方向Yに沿って切断し、RC床版F1を小分けにする。その後、クレーンなどの揚重機で揚重して小分けにしたRC床版F1を搬出し、別の場所でブレーカー等を用いてコンクリートを砕いて解体撤去する。
【0028】
(主桁上部斫り工程)
図4は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の主桁上部斫り工程を図2と同様に拡大断面図で示す工程説明図であり、(a)が主桁上部斫り工程前を示し、(b)が主桁上部斫り工程後を示している。次に、本実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法では、図4に示すように、橋梁B1のRC床版F1の主桁上部F1aを斫り取る主桁上部斫り工程を行う。
【0029】
具体的には、ウォータージェットなどの斫り装置を用いて、T桁G1~G4以外の前床版撤去工程で撤去したRC床版F1の残部である主桁上部F1aのコンクリートを斫り取るとともに、内部補強鉄筋も切断して撤去する。但し、図4に示すように、スターラップSrは、後述の機械式定着手段を取り付けるのに必要な所定の長さ(実施形態では50mm~100mm程度)だけ上部を残して露出させ、残りは取替作業に支障のある他の内部補強鉄筋と一緒に撤去する。
【0030】
なお、ずれ止め鉄筋S1や斜筋S2の切断後の外部に露出する端面は、防錆樹脂を塗布するなど防錆上の端面処理を施す。
【0031】
(不陸調整工程)
図5は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の不陸調整工程を図4のB部を拡大した拡大断面図で示す工程説明図である。次に、本実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法では、図5に示すように、T桁G1~G4の上面を不陸調整材Pで平滑となるように不陸調整する不陸調整工程を行う。
【0032】
具体的には、前主桁上部斫り工程で斫り取って凹凸が形成されたT桁G2上面を清掃して、コンクリート用のプライマーを塗布した上、少なくとも露出させたスターラップSrの周囲のT桁G1~G4の上面にパテ状の不陸調整材Pを塗布して平滑となるように不陸調整する。
【0033】
プライマーとしては、エポキシ系プライマー、アクリル系プライマー、ウレタン系プライマー等が挙げられる。また、不陸調整材Pは、無機系、有機系(例えば、エポキシ系、アクリル系、ウレア系、ウレタン系)、樹脂モルタルなど、が挙げられる。しかし、本発明に用いる不陸調整材は、所定の粘度を有し、コンクリートにプライマーを介して接着可能なパテ状のものであれば、適用することができる。
【0034】
また、本工程でスターラップSrの周囲だけでなく、T桁G1~G4の上面全面を平滑にしても構わない。後工程であるプレキャスト床版設置工程の実行が容易となるからである。但し、本工程は、実施せず、次工程をいきなり行うことも可能である。不陸調整を行わなくても次工程を実行すればスターラップSrの定着は可能だからである。
【0035】
(引張抵抗材定着工程)
図6は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法の引張抵抗材定着工程を示す拡大断面図である。次に、本実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法では、引張抵抗材であるスターラップSrに、図6に示す第1実施形態に係る機械式定着手段1を固着して引張抵抗材が材軸方向にずれないように定着する引張抵抗材定着工程を行う。
【0036】
具体的には、図6に示すように、前主桁上部斫り工程で残置したスターラップSrのT桁G1~G4の主桁上露出部分に円筒鋼材P1を外嵌して油圧装置などで圧着する。つまり、第1実施形態に係る機械式定着手段1は、引張抵抗材である異形鋼棒(鉄筋)に円筒鋼材P1を圧着する鋼管圧着式の鉄筋定着手段である。勿論、圧着する鋼材は、円筒状に限られず、ナットのような多角形の筒状体や角筒状の鋼材であっても構わない。
【0037】
次に、図6の実施形態とは別の第2実施形態に係る機械式定着手段2を用いて、引張抵抗材定着工程を行う場合について説明する。図7は、第2実施形態に係る機械式定着手段を用いて、引張抵抗材定着工程を行う場合を示す工程説明図である。図7に示すように、本工程では、前主桁上部斫り工程で残置したスターラップSrのT桁G1~G4の主桁上露出部分に円筒鋼材P2を外嵌して、円筒鋼材P2とスターラップSrとの間の隙間にクサビK1を打ち込んで固定する。つまり、第2実施形態に係る機械式定着手段2は、引張抵抗材である異形鋼棒(鉄筋)に円筒鋼材P2をクサビK1を用いて固定するクサビ定着式の鉄筋定着手段である。
【0038】
次に、第3実施形態に係る機械式定着手段3を用いて、引張抵抗材定着工程を行う場合について説明する。図8は、第3実施形態に係る機械式定着手段を用いて、引張抵抗材定着工程を行う場合を示す工程説明図である。図8に示すように、本工程では、前主桁上部斫り工程で残置したスターラップSrのT桁G1~G4の主桁上露出部分の外周面にネジ溝を切削し、そのネジ溝と螺合する長ナットP3をネジ止めする。つまり、第3実施形態に係る機械式定着手段3は、引張抵抗材である異形鋼棒(鉄筋)に長ナットP3を螺合するネジ定着式の鉄筋定着手段である。勿論、長ナットの形状等は、特に限定されるものではなく、内周面に切削したネジ溝と螺合するネジ山が形成された筒状体とすることができる。
【0039】
以上、引張抵抗材であるスターラップSrの定着手段として、第1~第3実施形態に係る機械式定着手段1~3を例示して説明したが、本発明に適用可能なその他の機械式定着手段としては、スターラップに筒状鋼材を外嵌してその間に経時硬化材からなる充填材を充填硬化させて定着する機械式定着手段、又は、これらの機械式定着手段1~3と充填材の組み合せた機械式定着手段とすることもできる。なお、この経時硬化材からなる充填材は、前述の不陸調整材Pと同様に、無機系、有機系(例えば、エポキシ系、アクリル系、ウレア系、ウレタン系)、樹脂モルタルなど、を採用することができる。
【0040】
要するに、本発明に適用可能な機械式定着手段は、鋼材の径より拡大した部分を有し、鋼材の軸方向に作用する引張力に対抗してコンクリートとの付着力を高める定着体が強固に固着された機械式定着であればよい。
【0041】
(プレキャスト床版載置工程)
図9は、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法のプレキャスト床版載置工程を橋軸直角方向Yに沿って切断した全体横断面図で示す工程説明図である。次に、本実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法では、主桁の上にプレキャスト床版を載置するプレキャスト床版載置工程を行う。
【0042】
具体的には、クレーンなどの揚重機を用いてT桁G1~G4上にプレキャスト床版5を載置し、前引張抵抗材定着工程でT桁G1~G4の上面に定着させた機械式定着手段1~3の周り、及び、プレキャスト床版5とT桁G1~G4との間に無収縮モルタルなどの充填材Mを充填して硬化させる。そして、本工程の終了により本実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法によるプレキャスト床版への更新作業が完了する。
【0043】
以上述べた本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法によれば、橋梁B1の主桁であるT桁G1~G4のスターラップSrを機械式定着手段1~3等で有効に定着して、古くなって損傷した既存のRC床版F1を新設の高品質なプレキャスト床版5へ取り替えることができる。このため、既存のコンクリート橋である橋梁B1の床版を安価に且つ短期間で更新することができ、適切にメンテナンスして橋梁B1の長寿命化を達成することができる。
【0044】
また、本実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法によれば、スターラップSrに機械式定着手段1~3等で定着する前にT桁G1~G4の上面を平滑となるように不陸調整する不陸調整工程を行うので、より適切にスターラップなどの引張抵抗材を有効に定着することができ、さらに既存のコンクリート橋の長寿命化を達成することができる。また、不陸調整工程において、T桁G1~G4の上面全面を平滑にすることにより、プレキャスト床版設置工程の実行が容易に短時間で行うことができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0046】
特に、本発明を適用する橋梁としてT桁橋を例示して説明したが、T桁橋に限られない。例えば、図10に示すように、本発明は、箱桁橋のコンクリート床版のプレキャスト床版への更新にも適用することができる。また、図11に示すように、本発明は、中空床版(ホロースラブ)を有する床版橋のコンクリート床版のプレキャスト床版への更新にも適用することができる。要するに、本発明は、コンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替える際には、適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1,2,3:機械式定着手段
P1:円筒鋼材
P2:円筒鋼材
K1:クサビ
P3:長ナット
M:充填材
P:不陸調整材
5:プレキャスト床版
B1:橋梁
G1~G4:T桁(主桁)
S1:ずれ止め鉄筋
S2:斜筋
Sr:スターラップ(引張抵抗材)
F1:RC床版
F1a:主桁上部
W1:壁高欄
W2:地覆部
P1:舗装
W1,W2:地覆部
X:橋軸方向
Y:橋軸直角方向
Z:上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2020-12-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
コンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替えるコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法であって、
コンクリート橋のRC床版と接合する主桁の上部を斫り取って鉄筋からなる引張抵抗材の上部を露出させ、露出させた当該引張抵抗材を途中で切断して機械式定着手段を切断した前記引張抵抗材に固着して前記引張抵抗材が材軸方向にずれないように定着して前記主桁の上にプレキャスト床版を載置すること
を特徴とするコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
第1発明に係るコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法は、コンクリート橋のRC床版をプレキャスト床版へ取り替えるコンクリート橋のプレキャスト床版への取替方法であって、コンクリート橋のRC床版と接合する主桁の上部を斫り取って鉄筋からなる引張抵抗材の上部を露出させ、露出させた当該引張抵抗材を途中で切断して機械式定着手段を切断した前記引張抵抗材に固着して前記引張抵抗材が材軸方向にずれないように定着して前記主桁の上にプレキャスト床版を載置することを特徴とする。