(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063814
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】合成シリカ粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20220415BHJP
【FI】
C01B33/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020180012
(22)【出願日】2020-10-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】309011192
【氏名又は名称】合資会社 ナベショー
(72)【発明者】
【氏名】渡部 弘行
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072GG01
4G072HH14
4G072JJ21
4G072KK20
4G072LL06
4G072MM08
4G072MM12
4G072MM14
4G072MM21
4G072MM22
4G072MM24
4G072MM35
4G072MM36
4G072RR05
4G072RR12
4G072RR15
4G072UU01
(57)【要約】
【課題】 安価に合成シリカ粉を製造できるアルカリ金属ケイ酸塩を使用し、イオン交換法によりコロイダルシリカを調整し、ゲル化の後に塩酸などの酸処理を行い、仮焼した合成シリカ粉には鉄が多く含有量していた。
【解決手段】 本発明の高純度シリカ粉は、アルカリ金属ケイ酸塩を強酸性水素型陽イオン交換に通してコロイダルシリカを調整し、次にシリカゲルとし、解砕して冷凍・解凍し、そのシリカゲル粒子をフッ酸あるいはフッ化アンモニウム水溶液で処理し、摂氏1150度から1250度で焼成することで、低コストで鉄含有量が低く、かつ熔けやすい合成シリカ粉を作ることができる。また本発明の合成シリカ粉を使用して、既存の溶融石英の溶融装置で製造した合成石英ガラスは、気泡が少なく、透過率の高いものが得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属ケイ酸塩を強酸性水素型陽イオン交換樹脂に通したシリカゾルをゲル化させて調整したシリカゲル粒子をフッ酸あるいはフッ化アンモニウム水溶液で処理することによってシリカゲル粒子中の鉄含有量を0.03ppm以下とすることを特徴とする合成シリカ粉の製造方法
【請求項2】
含水シリカゲルの重量をW1、含水率をA重量%としたときに、加えるフッ酸の濃度が2から6重量%であり、そのフッ酸の重量をW2とした時に、シリカ;HFの比率が100:1.5から5とし、フッ酸およびフッ酸を含んだ水溶液による処理温度が摂氏70から90度であることを特徴とする特許請求項1記載の合成シリカ粉の製造方法
【請求項3】
特許請求項1記載のシリカゲルを摂氏1200から1300度で焼成した合成シリカ粉のシラノール基含有量が50ppm以下であることを特徴とする合成シリカ粉の製造方法
【請求項4】
特許請求項1記載のシリカゲルを焼成したのち、溶融した時に、塩酸などの酸処理で製造したものと比べて溶融速度が速いことを特徴とする合成シリカ粉の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成石英ガラス粉末の製造方法に関し、特には、半導体用部材、半導体単結晶引き上げ用ルツボ、光学用部材などの原料として使用される合成シリカ粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成シリカ粉を通常の溶融石英ガラスの溶融方法により、様々な合成石英ガラス製品が作られている。これは通常の溶融石英ガラスの溶融法を使用することにより、従来の四塩化ケイ素から製造された合成石英ガラスより安価にできることによる。この溶融石英ガラスの溶融法を用いた合成石英ガラスは、光学用レンズ、エッチャー部品などに展開されている。
【0003】
この製法で製造された合成石英製品は四塩化ケイ素から製造された合成石英と天然石英粉から製造された天然石英との中間の位置づけとなる。したがって、合成シリカ粉には、合成石英に近い純度と天然石英に近いコストが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-139818
【特許文献2】特開2002-173314
【特許文献3】特開2006-21948
【特許文献4】特開2015-20916
【特許文献5】特開2020-40868
【0005】
特開平11-139818にはケイ酸ソーダに酸を加えて水素イオン濃度を2未満とし、水素型陽イオン交換樹脂に通し、コロイダルシリカを調整し、アルカリ水溶液を添加して水素イオン濃度を4から7にしてゲル化させて、乾燥、塩酸処理、粉砕、焼成して合成シリカを製造する記述がある。
【0006】
特開2002-173314にはアルカリ金属ケイ酸塩水溶液を強酸性陽イオン交換樹脂に通液したあと、酸と過酸化水素を加え、再度強酸性陽イオン交換樹脂に通液し、シリカゾルを調整し、ゲル化させた後、シリカゲル粒子を塩酸、硝酸、硫酸及び過酸化水素水溶液で洗浄し、仮焼する工程が開示されている。
【0007】
特開2006-21948には特開2002-173314の欠点である鉄含有量を下げるために、仮焼の時に塩素を含むガスで処理する記述がある。
【0008】
特開2015-20916には、原料として高純度のフュームドシリカを使用し、アルカリ金属ケイ酸塩を調整し、強酸性陽イオン交換樹脂に通液し、シリカゾルをゲル化し、シリカゲル粒子を塩酸で処理した後、仮焼する方法が記述されている。
【0009】
特開2020-40868には親水性シリカと水溶性アルカリとを反応させ、強酸性陽イオン交換樹脂に通液し、シリカゾルを調整し、ゲル化させた後、塩酸、硝酸、硫酸及び過酸化水素で処理し、仮焼することが開示されている。
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アルカリ金属ケイ酸塩を原料とする方法は、合成シリカ粉の製造コストを下げるためには非常に有効な方法である。しかし、前もって蒸留操作などで超高純度化が可能なメトキシシランなどと違い、不純物を多く含むため、精製処理によって高純度化処理することが必要である。特に半導体製造工程で問題となる鉄の除去は困難となっていた。
【0011】
鉄含有量を下げるために、仮焼時に塩素ガスを使用する方法は装置が高くなること、生産性が悪いこと、コストが高くなることから問題がある。
【0012】
高純度と言われるフュームドシリカは、その製品を分析してみると、鉄を1から6ppm程度含み、従来特許記載の方法では0.03ppm以下とすることは不可能だった。
【0013】
本発明の解決しようとする課題は、アルカリ金属ケイ酸塩を原料として、鉄含有量の極めて低い合成シリカ粉を製造するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、アルカリ金属ケイ酸塩から調製したシリカゲル粒子をフッ酸あるいはフッ化アンモニウム水溶液で処理することで、鉄の含有量を0.03ppmとすることを特徴とする合成シリカ粉である。
【発明の効果】
【0015】
本発明者は、シリカゲル粒子中の鉄の結合について英意研究して解明し、それによって鉄含有量を0.03ppm以下にすることができる技術を発明したものである。
【0016】
従来、シリカゲル中の鉄は二価と三価が良く知られている。酸と良く反応し、塩酸では塩化第二鉄として溶解する。しかし、塩酸などの酸や酸に過酸化水素水を加えた酸で処理しても、強酸性陽イオン交換樹脂でも除去することはできない。この原因はシラノール基の水素と鉄が置換しているためであった。この結合は強く、酸をもってしても切断することはできない。
【0017】
この切断ができるのは、フッ酸やフッ化アンモニウムのようなフッ化物水溶液である。フッ酸は、シラノール基と反応し、ケイ素‐フッ素結合を形成する。しかし、従来はシリカゲルをフッ酸やフッ化アンモニウム水溶液でエッチングすれば、非常に不規則な構造であるシリカゲルは過激に反応しシリカゲルがケイフッ化水素酸になり収率が悪いと思われていた。
【0018】
本発明者は、適度なフッ酸濃度と処理温度を見つけて、鉄分の含有量を上げると同時に歩留まりも良い条件を発見した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
高純度シリカゲル粒子は、既存の技術で製造することが可能である。すなわち、アルカリ金属ケイ酸塩、すなわち市販のケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムである。またはフュームドシリカをアルカリ水溶液と反応させたものでもよい。それを希釈した後、強酸性陽イオン交換樹脂に通液し、必要とあれば酸と過酸化水素を加えて、もう一度強酸性陽イオン交換樹脂に通液して、高純度シリカゾルを得、アンモニア水などを加えてゲル化させ、冷凍―融解法によってシリカゲル粒子を作ればよい。
【0020】
次に、含水シリカゲルの重量をW1、含水率をA重量%としたときに、加えるフッ酸の濃度が2から6重量%であり、そのフッ酸の重量をW2とした時に、シリカ;HFの比率が100:1.5から5とし、処理温度を摂氏70から90度とする。この時、シリカ;HFの比率が1.5より小さいと鉄濃度は0.03ppm以下にすることはできないし、シリカ;HFの比率が5重量%以上の濃度にすれば、シリカゲルの収率が低くなってコスト的に不利となる。フッ酸単独でも良いが、これに他の酸を加えるのでもよい。この時の酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などの酸を使用する。ただし、シリカ:HFの比率は100:1.5から5とする。また処理温度は70度から90度で行う。70度以下では鉄濃度は下がらないし、90度以上では水分の蒸発が激しく、処理が不安定となる。この時、シリカゲルはフッ酸蒸気により攪拌され、反応が均一となる。
【0021】
このシリカゲル粒子は超純水煮沸により、余計な酸を取り除き、脱水して乾燥される。そのあと、1200から1250度で乾燥ガスをいれて熱処理を行い、気孔の閉孔およびシラノール基の除去を行う。乾燥ガスとしては窒素以外のガス、空気、酸素などを使用する。窒素は窒素‐ケイ素結合を作り、粘度が高くなり、溶融時に気泡を生じやすい。本発明のシリカゲルは、従来の塩酸などによる製造方法と比べ、シラノール基が短時間に低下する。例えば、塩酸処理したシリカゲル粒子のシラノール基含有量を50ppmにまで低下させるには、1250度で20時間保持することが必要だったが、フッ酸で処理したシリカゲル粒子は、1220度で10時間保持で50ppm以下となった。これはシリカゲルの一部のシラノール基がフッ素に置き換わっているためと推定される。
【0022】
ここで評価方法について述べる。鉄の定量は合成シリカ粉をフッ酸で溶解し、蒸発乾固したのち硝酸で溶解してICP-MSにて定量した。合成シリカ粉中のシラノール基はIRセルに四塩化炭素を加えて赤外分光器により測定した。シリカ中のフッ素濃度は、KOHを加えてテフロン加圧容器で溶解し、イオン電極選択型電極で測定した。また熔けやすさは、アーク放電で石英ルツボを作り、目視観察にて判断した。
酸水素溶融法で制作したインゴットの気泡等級は、縦50mm横50mm厚さ5mmを光学研磨して透過で拡大写真を撮り、その気泡の面積の合計を8倍として100cm3当たりの面積mm2を算出した。気泡等級は日本光学硝子工業会規格に準じた。
また190nmでの透過率は縦50mm横15mm厚さ10mmの試料を切り出し、光学研磨して紫外分光器により測定した。
【実施例0023】
実施例について説明する。なお本発明はこの実施例に限ったものではない。
加熱装置と攪拌装置を取り付けた、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂をコーティングしたステンレス製反応槽(内容積2m3)にELグレード水酸化カリウム40重量%124kgと純水726Lを入れて、浙江富士特硅材料有限公司の気相反応シリカ(商品名FST150、比表面積150m2/g)150kgを投入した。これを攪拌しながら摂氏90度で2時間反応した。この珪酸カリウム水溶液を摂氏50度まで放冷し、ダイヤフラムポンプで、撹拌機付きのポリプロピレン製タンクに移送した。そこに大阪ガスケミカル株式会社の商品名WH2xの活性炭を1kg入れて30分攪拌した。そのあと、5Cろ紙を使用して減圧濾過した。
ろ過された珪酸カリウム水溶液のシリカ濃度は15重量%であり、SiO2/K2Oのモル比は5.6であった。この珪酸カリウム水溶液を冷蔵庫で摂氏5度まで冷却した。それを強酸性水素型陽イオン樹脂2.5m3を詰めたイオン交換塔を摂氏10度に冷却し、SV値7で通液した。できたコロイダルシリカの水素イオン濃度は2.7、最高温度は摂氏25度であった。
このコロイダルシリカを摂氏35度まで温めるとコロイダルシリカが一時間でゲル化した。このシリカゲルをポリプロピレン製の1mm角の格子に通し、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂をコーティングしたステンレスバットにいれて、摂氏-30度の冷凍庫で3時間かけて冷凍した。その後この冷凍シリカゲルを摂氏80度の温水に投入して解凍した。この時シリカゲルは粒子状となり、脱水後の重量は254kgであった。重量はこの時の水分量は45重量%であった。
このシリカゲル粉体を34インチ石英ルツボに移し、55Lの5%フッ酸を加えて摂氏80から90度で1時間煮沸した。超純水を加えてダイヤフラムポンプで洗浄槽に移し、さらに超純水を加えて10分間オーバーフローし、ダイヤフラムポンプでポリプロピレン製の300メッシュのろ紙を使用し、減圧濾過して脱水した。またシリカゲル粉を34インチの石英ルツボに戻し、超純水100Lを加えて1時間煮沸した。1時間後、超純水を加えてダイヤフラムポンプで洗浄槽に移し、さらに超純水を加えて10分間オーバーフローし、ダイヤフラムポンプでポリプロピレン製の300メッシュのろ紙を使用し、減圧濾過して脱水した。
このシリカゲル粉体をいったん摂氏500度の石英ガラス管内で乾燥し、30インチの石英ルツボに移し、電気炉に投入し、乾燥空気中、摂氏1240度で20時間焼成した。冷却後、ナイロン製の樹脂網で60から100メッシュ、100メッシュから180メッシュに篩別した。この時の粒度は、60メッシュ上が3重量%、60から100メッシュが25重量%、100から180メッシュが65重量%、180メッシュ以下が7重量%であった。総重量は112kgであった。
この合成シリカ中の不純物はアルミニウムが0.01ppm、鉄が0.01ppm、ナトリウム、カリウムが0.01ppm、カルシウムが0.02ppm、その他の不純物元素は0.01ppm未満であった。フッ素は67ppmであった。また赤外吸収分光器でシラノール基を求めたところ、32ppmであった。この60メッシュから100メッシュ粉を使用して、三相アーク放電により、28インチの石英ルツボを溶融した。底部に10kgの合成シリカ粉を成形し、その他の部所には天然石英粉を成形した。アーク放電開始から底部が溶融し始めた時間を測定したところ、約30秒であった。
またこの100から180メッシュを用いて酸水素溶融にてインゴットを製作した。水素ガスは20m3/H、酸素ガスは10m3/Hで、合成シリカ粉の供給量は3kg/Hとした。原料粉投入量は60kg、インゴット径は約380mmでインゴット重量は52kgであった。それを切り出し、気泡を検査したところ、0.021mm2/100cm3となり、1等級であった。紫外吸収分光器で190nmの透過率を調べた結果、89%であった。