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特開2022-63846ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物、並びにジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法
<図面はありません>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063846
(43)【公開日】2022-04-22
(54)【発明の名称】ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物、並びにジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20220415BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20220415BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20220415BHJP
【FI】
A61L9/01 H
A61L9/14
A61L9/01 Q
C11B9/00 C
C11B9/00 D
C11B9/00 B
C11B9/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021146139
(22)【出願日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2020171809
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】岡 桃子
(72)【発明者】
【氏名】九鬼 奈紀
(72)【発明者】
【氏名】三石 帆波
(72)【発明者】
【氏名】三好 一史
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【テーマコード(参考)】
4C180
4H059
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA03
4C180BB01
4C180BB02
4C180BB04
4C180BB06
4C180BB07
4C180BB11
4C180BB12
4C180BB13
4C180BB14
4C180BB15
4C180CA04
4C180EB03X
4C180EB04X
4C180EB06X
4C180EB07X
4C180EB12X
4C180FF01
4C180GG06
4H059BA01
4H059BA12
4H059BA30
4H059EA32
(57)【要約】
【課題】ジメチルトリスルフィドを含むガン性悪臭及び/又はジメチルジスルフィドを含む糞尿臭を効果的に消臭する技術を確立する。
【課題の解決手段】腐敗臭発生抑制剤を含有するジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物とし、腐敗臭発生抑制剤は、エステル類及び/又は炭素数が6~20のアルコール類を含有し、腐敗臭発生抑制剤は、メンタン類をさらに含有し、1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールをさらに含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐敗臭発生抑制剤を含有するジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項2】
前記腐敗臭発生抑制剤は、エステル類及び/又は炭素数が6~20のアルコール類を含有する請求項1に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項3】
前記エステル類は、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、及び酢酸ベンジルからなる群から選択される少なくとも一つを含み、
当該エステル類の含有量は、前記腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~70質量%である請求項2に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項4】
前記炭素数が6~20のアルコール類は、ジヒドロミルセノール、リナロール、ゲラニオール、及びフェネチルアルコールからなる群から選択される少なくとも一つを含み、
当該炭素数が6~20のアルコール類の含有量は、前記腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~60質量%である請求項2又は3に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項5】
前記腐敗臭発生抑制剤は、メンタン類をさらに含有する請求項2~4の何れか一項に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項6】
前記メンタン類は、テルピネオール、リモネン、及びメントールからなる群から選択される少なくとも一つを含み、
当該メンタン類の含有量は、前記腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~40質量%である請求項5に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項7】
前記腐敗臭発生抑制剤は、前記エステル類として少なくともアリルヘプタノエート及び/又は酢酸ベンジルを含み、前記炭素数が6~20のアルコール類として少なくともジヒドロミルセノールを含み、前記メンタン類として少なくともテルピネオール及び/又はリモネンを含む請求項5又は6に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項8】
1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールをさらに含有する請求項1~7の何れか一項に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項9】
剤型が、液剤、泡剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、又は薬剤含浸体である請求項1~8の何れか一項に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項10】
前記腐敗臭発生抑制剤は、微生物による腐敗の発生を防止するように機能する請求項1~9の何れか一項に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物を用いて処理するジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法。
【請求項12】
前記処理は、ジメチルトリスルフィド及び/又はジメチルジスルフィドの気中濃度を低減させる空間処理である請求項11に記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物、並びにジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活等の様々な分野において発生する臭い、例えば、トイレ臭、生ゴミ臭、室内臭、ペット臭、ペットの糞尿臭、病院臭、傷病や介護に伴う臭い等が問題となっている。近年、これらの臭いに対する消臭意識が高まりつつあり、それぞれの悪臭に対処するための消臭剤が種々提案されている。
【0003】
従来、消臭剤における消臭メカニズムとしてはマスキング作用によるものが主流であった。しかしながら、マスキング作用は強い臭いで悪臭を目立たなくさせるものであり、根本的に消臭するものではない。一方、物理的、化学的消臭メカニズムとして、例えば、特許文献1には、アルカノールアミン化合物、ポリカルボン酸化合物、及び水を含有する消臭剤組成物が、生ゴミや変性油汚れに由来する悪臭の消臭に効果的である旨記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、4価金属リン酸塩とケイ酸アルミニウムより選ばれる少なくとも一種と、水和酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト化合物又はその焼成物、及び銅イオン、亜鉛イオン又はマンガンイオンのうち少なくとも一種の金属イオンを担持させた無機化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種とから構成される消臭剤組成物が記載され、当該消臭剤組成物は、ヒトやペットの糞尿又は生ゴミ等の悪臭に対して優れた消臭性能を示すとしている。
【0005】
さらに、近年では、特許文献3に記載されているように、臭気変調剤を適用するという、新しい消臭メカニズムも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-23090号公報
【特許文献2】特開2003-38623号公報
【特許文献3】特開2019-213676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
医療現場や介護における悪臭は、医療従事者や患者をはじめ、その周囲の人にとって大きな問題となっている。対策が望まれている悪臭として、進行性の乳ガンや皮膚ガン等に多く見られるガン性悪臭、おむつや人工肛門などに起因する糞尿臭などが挙げられる。
【0008】
ガン性悪臭は、皮膚に露出した患部の細菌感染により発生すると考えられ、最近、その悪臭の主要原因物質がジメチルトリスルフィドであることが明らかとなった。ジメチルトリスルフィドは、タマネギ臭、たくあん臭とも言われ、キャベツやブロッコリー等の野菜の加熱臭、微生物の代謝産物としても知られている。
【0009】
糞尿臭は、アンモニア、トリメチルアミンのようなアミン系の臭い、メチルメルカプタンやジメチルジスルフィドのような硫黄系の臭い、スカトールやインドールなど多岐にわたるものである。
【0010】
特許文献1に記載されているアルカノールアミン化合物やポリカルボン酸化合物のような高分子化合物、及び特許文献2に記載されている無機化合物は、ジメチルトリスルフィドを含むガン性悪臭及び/又はジメチルジスルフィドを含む糞尿臭を消臭するという本発明の目的に適合したものとはなり得ない。
【0011】
特許文献3に記載されている臭気変調剤は、悪臭の原因物質を臭気変調剤によって他の好ましい臭いに変調し、不快感を軽減させるものであるが、悪臭原因物質の濃度そのものを減少させるわけではない。
【0012】
これまで、ガン患部に抗菌剤を塗布したり、香水やエッセンシャルオイルによるマスキングなど、様々な消臭方法が行われてきたが、効果的な悪臭対策を確立するに至っていない。
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、ジメチルトリスルフィドを含むガン性悪臭及び/又はジメチルジスルフィドを含む糞尿臭を効果的に消臭する技術を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物の特徴構成は、
腐敗臭発生抑制剤を含有することにある。
【0015】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、腐敗臭発生抑制剤を含有するものであるため、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の発生源となる物質の腐敗を元から断つことができる。従って、本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物であれば、ジメチルトリスルフィドを含むガン性悪臭及び/又はジメチルジスルフィドを含む糞尿臭を効果的に消臭することができる。
【0016】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
前記腐敗臭発生抑制剤は、エステル類及び/又は炭素数が6~20のアルコール類を含有することが好ましい。
【0017】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、エステル類及び/又は炭素数が6~20のアルコール類を含有することで、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の発生源となる物質の腐敗防止効果に優れ、効果的にガン性悪臭及び/又は糞尿臭を低減することができる。
【0018】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
前記エステル類は、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、及び酢酸ベンジルからなる群から選択される少なくとも一つを含み、
当該エステル類の含有量は、前記腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~70質量%であることが好ましい。
【0019】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、エステル類として適切な種類の化合物を適切な含有量で含むので、より効果的にガン性悪臭及び/又は糞尿臭を低減することができる。
【0020】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
前記炭素数が6~20のアルコール類は、ジヒドロミルセノール、リナロール、ゲラニオール、及びフェネチルアルコールからなる群から選択される少なくとも一つを含み、
当該炭素数が6~20のアルコール類の含有量は、前記腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~60質量%であることが好ましい。
【0021】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、炭素数が6~20のアルコール類として適切な種類の化合物を適切な含有量で含むので、より効果的にガン性悪臭及び/又は糞尿臭を低減することができる。
【0022】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
前記腐敗臭発生抑制剤は、メンタン類をさらに含有することが好ましい。
【0023】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、メンタン類をさらに含有することで、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の発生源となる物質の腐敗防止効果にさらに優れ、効果的にガン性悪臭及び/又は糞尿臭を低減することができる。
【0024】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
前記メンタン類は、テルピネオール、リモネン、及びメントールからなる群から選択される少なくとも一つを含み、
当該メンタン類の含有量は、前記腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~40質量%であることが好ましい。
【0025】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、メンタン類として適切な種類の化合物を適切な含有量で含むので、より効果的にガン性悪臭及び/又は糞尿臭を低減することができる。
【0026】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
前記腐敗臭発生抑制剤は、前記エステル類として少なくともアリルヘプタノエート及び/又は酢酸ベンジルを含み、前記炭素数が6~20のアルコール類として少なくともジヒドロミルセノールを含み、前記メンタン類として少なくともテルピネオール及び/又はリモネンを含むことが好ましい。
【0027】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、エステル類、炭素数が6~20のアルコール類、及びメンタン類として、最適な組み合わせの化合物を含むため、さらに効果的にガン性悪臭及び/又は糞尿臭を低減することができる。
【0028】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールをさらに含有することが好ましい。
【0029】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールをさらに含有することで、悪臭成分に対して疎水的相互作用が生じ、ジメチルトリスルフィドを含むガン性悪臭及び/又はジメチルジスルフィドを含む糞尿臭をより効果的に消臭することができる。
【0030】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
剤型が、液剤、泡剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、又は薬剤含浸体であることが好ましい。
【0031】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、使用場所に応じて適当な剤型を用いることで、活性成分又は有効成分が適切に揮散することができ、使い勝手にも優れたものとなる。
【0032】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物において、
前記腐敗臭発生抑制剤は、微生物による腐敗の発生を防止するように機能することが好ましい。
【0033】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物によれば、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の発生源となる物質が微生物によって腐敗することが防止されるので、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の根本的な消臭が可能となる。
【0034】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法の特徴構成は、
上記の何れか一つに記載のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物を用いて処理することにある。
【0035】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法によれば、ガン性悪臭及び/又は糞尿臭に対して、効果的な消臭を行うことができる。
【0036】
本発明にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法において、
前記処理は、ジメチルトリスルフィド及び/又はジメチルジスルフィドの気中濃度を低減させる空間処理であることが好ましい。
【0037】
本構成のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法によれば、特に、病室、寝室、居間など、患者や介護者の生活空間を効果的に消臭することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明者らは、医療現場や介護の場面における悪臭、特に、ガン性悪臭及び糞尿臭の消臭という課題に取り組むにあたり、これら悪臭の重要成分であるジメチルトリスルフィド臭やジメチルジスルフィド臭の消臭を指標とした。
【0039】
<ガン性悪臭>
皮膚に湿潤した進行ガンの局所は、特有の悪臭を伴うことが知られ、「ガン性悪臭」と呼ばれている。ガン性悪臭は、ガン罹患人口全体の3~5%の患者で報告されており、乳ガンや皮膚ガン等に多く見られる。この悪臭は、皮膚に露出した患部の細菌感染により発生すると考えられ、最近、その悪臭の主要原因物質がジメチルトリスルフィドであることが明らかとなった。また、乳ガンの患部からは、環境省の悪臭防止法で悪臭物質に指定されているイソ吉草酸や酪酸等の短鎖脂肪酸も検出されている。
【0040】
<糞尿臭>
糞尿臭に含まれる成分としては、アンモニア、トリメチルアミンのようなアミン系の臭い、メチルメルカプタンやジメチルジスルフィドのような硫黄系の臭い、スカトールやインドール等、多岐にわたっている。このうち、アミン系の臭いは酸成分による中和消臭が比較的容易である。また、アルカリゲネス糞便菌と呼ばれるグラム陰性好気性桿菌がアンモニアの産生に関与しているという報告もある。
【0041】
本発明者らは、先ず、臭気を単にマスキングするだけでは不十分であり、物理的、化学的メカニズムによる消臭が好ましいこと、また、臭気発生源だけでなく室内空間全体にわたり処理する方が感覚的消臭効果をより体感できるとの認識に立ち、有効な揮散性消臭成分を探索した。
【0042】
従来、シネオール類が揮散性の低分子化合物でありながら立体構造的にジメチルトリスルフィドをはじめとする悪臭分子を物理的に取り込み、室内における悪臭分子の気中濃度を低減できることが知られていたが、本発明者らの評価試験によれば、そのシネオール類のジメチルトリスルフィド臭に対する消臭効果は十分であるとは言えなかった。
【0043】
そこで、本発明者らは、細菌感染と増殖に起因する悪臭の発生自体を抑える腐敗臭発生抑制剤に着目し、ガン性悪臭及び糞尿臭に対する消臭効果について鋭意検討を重ねた。その結果、腐敗臭発生抑制剤は、多くの医療現場で問題となっている上記悪臭の発生を低減させるだけでなく、発生したジメチルトリスルフィド臭やジメチルジスルフィド臭に対する消臭効果にも優れるとの知見を得、本発明の完成に至ったものである。
【0044】
以下、本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物について、詳細に説明する。なお、以降の説明では、「ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物」を「悪臭低減剤組成物」と称する場合がある。
【0045】
〔腐敗臭発生抑制剤〕
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、活性成分又は有効成分として腐敗臭発生抑制剤を含有する。ここで、腐敗臭発生抑制剤とは、細菌等の微生物による物質の腐敗そのものを前もって抑制することにより悪臭(腐敗臭)の発生を抑えようとするものであり、従来の既に発生した悪臭を消臭するものとは全く異なる概念である。本発明者らは、乳ガンや皮膚ガン等に多く見られる「ガン性悪臭」が皮膚に露出した患部の細菌感染により発生すること、及び糞尿臭においてもその発生に微生物の関与が想定されることを鑑み、腐敗臭発生抑制剤の有用性を検討したところ、微生物による物質の腐敗そのものを予防することにより、悪臭が発生するとしても主要臭気物質であるジメチルトリスルフィド及び/又はジメチルジスルフィドの発生量を少なく抑え得ることを突き止めた。加えて、この腐敗臭発生抑制剤が、発生したジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭効果をも示すとの知見を得、本発明を完成するに至ったのである。なお、腐敗臭発生抑制剤の消臭作用のメカニズムについては、未だ十分には解明されていないが、後述の実施例(予備試験)において、腐敗臭発生抑制剤には悪臭物質の気中濃度を低減させる作用が認められたことから、その消臭メカニズムは物理的消臭又は化学的消臭によるものと予想される。
【0046】
腐敗臭発生抑制剤は、エステル類及び/又は炭素数が6~20のアルコール、好ましくはさらにメンタン類を加えた化合物群を含むように構成され、その含有量は、消臭したい室内の臭気程度にもよるが、悪臭低減剤組成物100質量%中において、0.5~70質量%であることが好ましく、15~45質量%がより好ましい。含有量が0.5質量%未満である場合、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭効果が不足する虞がある。含有量が70質量%を超える場合、悪臭低減剤組成物の製剤化に支障を来たす虞がある。
【0047】
<エステル類>
本発明において、腐敗臭発生抑制剤として有用なエステル類は、アリルエステル、ベンジルエステル、及びフェニルエステル等が挙げられる。これらのエステル類は、単独で又は複数種を混合して用いることができる。
【0048】
アリルエステルとしては、飽和脂肪酸アリルエステル(ここで、脂肪酸としては炭素数1~10のものが好ましく、炭素数3~8のものがより好ましい。)、芳香族カルボン酸アリルエステル、イソチオシアン酸アリルエステル等が挙げられる。飽和脂肪酸アリルエステルの例として、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルペンタノエート等が挙げられる。芳香族カルボン酸アリルエステルの例として、アントラニル酸アリルエステル、安息香酸アリルエステル等が挙げられる。
【0049】
ベンジルエステルとしては、酢酸ベンジル、ベンジルプロピオネート、ベンジルブタノエート、安息香酸ベンジルエステル、ニコチン酸ベンジルエステル、4-メチルベンジルアセテート、2,4-ジメチルベンジルアセテート、クミニルアセテート、4-メトキシベンジルプロピオネート、2-アセチル-ブト-2-エン二酸 1-ベンジルエステル 4-エチルエステル、2-オクチリデン-マロン酸ジベンジルエステル、炭酸ベンジルエステルフェネチルエステル、炭酸ベンジルエステルヘクス-3-エニルエステル、炭酸ベンジルエステルデス-9-エニルエステル等が挙げられる。
【0050】
フェニルエステルとしては、飽和脂肪酸フェニルエステル(ここで、脂肪酸としては炭素数1~10のものが好ましく、炭素数3~8がより好ましい。)が挙げられる。飽和脂肪酸フェニルエステルの例として、フェニル酢酸、フェニルヘキサノエート、フェニルヘプタノエート等が挙げられる。
【0051】
上記のエステル類のうち、アリルエステル、ベンジルエステルが好ましく、具体的には、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、及び酢酸ベンジルを例示でき、特に、アリルヘプタノエート、及び酢酸ベンジルが好適である。
【0052】
上記のエステル類において、不斉炭素に基づく光学異性体や二重結合に基づく幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物であってもよい。
【0053】
エステル類の含有量は、腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~70質量%であることが好ましく、5~70質量%がより好ましく、20~60質量%がさらに好ましい。
【0054】
<アルコール類>
本発明において、腐敗臭発生抑制剤として有用なアルコール類は、炭素数が6~20のアルコール類であり、脂肪族アルコール、芳香族アルコール等が挙げられる。これらのアルコール類は、単独で又は複数種を混合して用いることができる。
【0055】
脂肪族アルコールには、不飽和脂肪族アルコール、及び飽和脂肪族アルコールがあるが、不飽和脂肪族アルコールが好ましく、不飽和脂肪族アルコールの第3級アルコールがより好ましい。
【0056】
不飽和脂肪族アルコールとしては、ジヒドロミルセノール、リナロール、エチルリナロール、ジヒドロリナロール、ネロール、ゲラニオール、シトロネロール、ミルセノール、ラバンジュロール、オクタ-1-エン-3-オール、(2E,6Z)-ノナ-2,6-ジエン-1-オール、(Z)-ノナ-6-エン-1-オール、(E)-3,3-ジメチル-5-(2,2,3-トリメチル-3-シクロペンテン-1-イル)-4-ペンテン-2-オール、cis-ヘキサ-3-エン-1-オール、オレイルアルコール等が挙げられる。これらの不飽和脂肪族アルコールのうち、ジヒドロミルセノール、リナロール、ゲラニオール、エチルリナロール、ジヒドロリナロール、ミルセノールが好ましく、ジヒドロミルセノール、リナロール、ゲラニオールがより好ましい。
【0057】
飽和脂肪族アルコールとしては、1-デカノール、ノニルアルコール、2-ノナノール、1-オクタノール、2-オクタノール、テトラヒドロリナロール、テトラヒドロミルセノール、3-オクタノール、1-ヘプタノール、1-ウンデカノール、2-ウンデカノール、2,6-ジメチルヘプタン-2-オール、1-ドデカノール等が挙げられる。
【0058】
芳香族アルコールとしては、フェネチルアルコール、サリチルアルコール等が挙げられる。これらの芳香族アルコールのうち、フェネチルアルコールが好ましい。
【0059】
上記のアルコール類において、不斉炭素に基づく光学異性体や二重結合に基づく幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物であってもよい。
【0060】
アルコール類の含有量は、腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~60質量%であることが好ましく、5~60質量%がより好ましく、20~50質量%がさらに好ましい。
【0061】
<メンタン類>
本発明において、腐敗臭発生抑制剤として有用なメンタン類は、芳香族メンタン、脂肪族メンタン、下記化学式(I)で示されるp-メンタン骨格を有するものが含まれる。なお、メンタン類は、後述するように置換基で置換されている場合もあるが、本発明では、置換基の有無に関わらずメンタン類として取扱い、例えば、水酸基を有するメンタン類は、アルコール類ではなくメンタン類に含めるものとする。
【0062】
【化1】
【0063】
芳香族メンタンとしては、チモール、カルバクロール等が挙げられる。
【0064】
脂肪族メンタンとしては、その炭素原子に結合する少なくとも一つの水素原子が置換基で置換されてもよい飽和脂肪族メンタン(置換基としては、水酸基、アミノ基、アルキル基、カルボキシル基、アシル基、エステル基、アミド基等が挙げられる。)、p-メンタン骨格の単結合の少なくとも一つが二重結合に置き換えられた不飽和脂肪族メンタン等が挙げられる。脂肪族メンタンは、ケトン体に誘導された化合物であってもよい。
【0065】
飽和脂肪族メンタンとしては、p-メンタン-3,8-ジオール、メントール、酢酸メンチル、p-メンタン等が挙げられる。不飽和脂肪族メンタンとしては、d-リモネン等のリモネン、α-テルピネオール等のテルピネオール、カルベオール、ペリルアルデヒド、メントン、d-カルボン、l-カルボン等のカルボン、ピノカルボン、ピノカルベオール、ピペリトン、ピペリテノン、プレゴン、ジヒドロカルボン等が挙げられる。
【0066】
メンタン類としては、d-リモネン等のリモネン、α-テルピネオール等のテルピネオール、及びメントールからなる群から選択される少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0067】
上記のメンタン類において、不斉炭素に基づく光学異性体や二重結合に基づく幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物であってもよい。
【0068】
メンタン類の含有量は、腐敗臭発生抑制剤100質量%中において1~40質量%であることが好ましく、5~40質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。
【0069】
〔追加の成分〕
腐敗臭発生抑制剤には、追加の成分(化合物)として、アセタール類、アルデヒド類、ケトン類をさらに配合することも可能である。
【0070】
<アセタール類>
アセタール類には、脂肪族アルデヒド由来アセタール、及び芳香族アルデヒド由来アセタール等があるが、脂肪族アルデヒド由来アセタールが好ましい。脂肪族アルデヒド由来アセタールとしては、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタール等が挙げられる。芳香族アルデヒド由来アセタールとしては、ベンズアルデヒドジメチルアセタール等が挙げられる。
【0071】
なお、アセタール類は、ジメチルアセタール、ジエチルアセタール等の鎖状アセタールと、ジオキソラン構造等を有する環状アセタールとに分類されることもある。
【0072】
上記のアセタール類において、不斉炭素に基づく光学異性体や二重結合に基づく幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物であってもよい。
【0073】
<アルデヒド類>
アルデヒド類には、飽和又は不飽和アルキルアルデヒド、芳香族アルデヒド、テルペン系アルデヒド等が含まれる。これらのうち、炭素数5~20の飽和アルキルアルデヒドが好ましい。
【0074】
飽和アルキルアルデヒドとしては、ノナナール、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、6-メトキシ-2,6-ジメチルオクタナール、ヘプタナール、フェニルアセトアルデヒド、フェニルプロピルアルデヒド、シクラメンアルデヒド、ヘリオナール、(3-イソプロピルフェニル)ブタナール等が挙げられる。
【0075】
不飽和アルキルアルデヒドとしては、9-デセナール、2,6-ジメチルヘプタ-5-エナール、2,4-ジメチルシクロヘキサ-3-エンカルボアルデヒド、(2E,6Z)-ノナ-2,6-ジエナール、3-(6,6-ジメチルビシクロ[3.1.1]ヘプタ-2-エン-2-イル)プロパナール、(Z)-デカ-4-エナール、(E)-デカ-4-エナール、4-ビニルシクロヘキサ-1-エンカルボアルデヒド、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2-カルボキシアルデヒド等が挙げられる。
【0076】
芳香族アルデヒドとしては、炭素数が6~20の芳香族アルデヒドが好ましく、例えば、バニリン、クミンアルデヒド、シンナミックアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、エチルバニリン、4-メトキシベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0077】
上記のアルデヒド類のうち、ノナナール、フェニルアセトアルデヒドが好ましい。
【0078】
上記のアルデヒド類において、不斉炭素に基づく光学異性体や二重結合に基づく幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物であってもよい。
【0079】
<ケトン類>
ケトン類には、セスキテルペン系ケトン等が含まれる。ケトン類としては、α-ヨノン、β-ヨノン等のヨノン、α-イソメチルヨノン等のメチルヨノン、α-ダマスコン、β-ダマスコン等のダマスコンが好ましく、β-ヨノンがより好ましい。
【0080】
上記のケトン類において、不斉炭素に基づく光学異性体や二重結合に基づく幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物であってもよい。
【0081】
〔腐敗臭発生抑制剤の配合〕
上述したように、本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物に配合される腐敗臭発生抑制剤は、エステル類及び/又は炭素数が6~20のアルコールにさらにメンタン類を加えた三種すべての化合物群を含むように構成されることが好ましい。また、アセタール類、アルデヒド類、ケトン類が配合されても構わない。
【0082】
腐敗臭発生抑制剤の配合としては、エステル類として少なくともアリルヘプタノエート及び/又は酢酸ベンジルを、炭素数が6~20のアルコール類として少なくともジヒドロミルセノールを、メンタン類として少なくともテルピネオール及び/又はリモネンを含むことが好ましい。このような配合とされた腐敗臭発生抑制剤は、細菌感染に起因するジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の発生自体を抑える一方、発生した当該スルフィド臭に対しても十分な消臭効果を奏し得る。
【0083】
<1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオール>
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、上記の腐敗臭発生抑制剤に加えて、1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールをさらに配合することが好ましい。
【0084】
1,8-シネオールは、ユーカリ精油に多く含まれる。1,4-シネオールは、アオモジ精油に多く含まれる。1,8-シネオール及び1,4-シネオールは、何れも清涼感のある香りを有している。1,8-シネオール及び1,4-シネオールは、一般に、鎮咳剤や抗ウィルス剤として使用され、人体への安全性は、低毒性、非刺激性、非感作性とされている。1,8-シネオール及び1,4-シネオールは、何れも水に殆ど溶解しない(水溶解度:1,8-シネオール 0.022g/L、1,4-シネオール 0.058g/L)。この1,8-シネオール及び1,4-シネオールの疎水性及び立体構造が主な要因となって、疎水性の悪臭ガスとファンデルワールス力に基づく疎水的相互作用を生じ、悪臭ガス、特にジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭効果に寄与するものと考えられる。1,8-シネオール及び1,4-シネオールは、ジメチルトリスルフィド、ジメチルジスルフィド、ノルマル酪酸、イソ吉草酸、メチルメルカプタンのような疎水性の悪臭分子を効果的に抑制できる。一方、アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素のような水溶性の悪性分子に対しては、抑制効果は低い。
【0085】
1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールは、化合物単体として使用してもよいし、これら化合物を多く含むユーカリ精油やアオモジ精油を使用してもよい。例えば、1,8-シネオールの含有量が70質量%以上のユーカリ精油は、市販品として広く入手可能である。
【0086】
1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールの含有量は、腐敗臭発生抑制剤の含有量を(A)とし、1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールの含有量を(B)としたとき、両成分の比率(A/B)が、0.1~7.0の範囲に設定されることが好ましく、0.3~5.0の範囲に設定されることがより好ましく、0.5~4.0の範囲に設定されることがさらに好ましい。
【0087】
<ハーモナイズド香料>
人がよい香りと感じる香気は様々な香り成分の複合であるが、悪臭と言われる成分もいわゆる芳香を構成する成分として存在することが知られている。ハーモナイズド香料(特許文献3の臭気変調剤に相当する。)は、これらの悪臭成分を芳香成分として利用して悪臭として感じさせなくするものである。特定の悪臭、例えば、スカトールを含む糞便臭などに対して、ハーモナイズド香料を使用するハーモナイズド消臭(調和消臭)が試みられており、このようなハーモナイズド香料を本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物に配合してもよい。
【0088】
<他の成分>
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物には、助剤として、さらに、炭素数が2~3の低級アルコールを配合することが好ましい。低級アルコールとしては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)等が挙げられる。これらの低級アルコールを配合することによって、その作用機序は不明ながら、腐敗臭発生抑制剤に基づく当該スルフィド臭の消臭効果が増大することが認められた。炭素数が2~3の低級アルコールの含有量は、それが溶剤として使用される場面をも加味し、質量ベースで腐敗臭発生抑制剤に対して0.2~50倍量程度が好ましい。
【0089】
<液剤、泡剤、エアゾール剤、ジェル剤、又は薬剤含浸体等>
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、その剤型として、液剤、泡剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、薬剤含浸体等、様々な形態を採用することができる。
【0090】
剤型が液剤又は泡剤である場合、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物に含まれる各成分は、溶媒中に分散していることが好ましい。これにより、スルフィド臭を効果的に低減することができる。溶媒の種類は、水性溶媒でもよいし、油性溶媒でもよい。溶媒としては、水、炭素数が2~3の低級アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒(ヘキサン、キシレン、トルエン、ケロシン、石油ベンジン、ノルマルパラフィン、及びイソパラフィン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル系溶媒(テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等)、グリコール系溶媒(プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、ベンジルグリコール、トリプロピレングリコール、ヘキシレングリコール等)、炭素数が3~10のグリコールエーテル系溶媒(ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、フェノキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール等)、エステル系溶媒(酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、ギ酸エステル、トリアセチン、クエン酸トリエチル、炭素数の総数が16~20の高級脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ブチル、ラウリン酸ヘキシル、パルミチン酸イソプロピル)等)が挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は複数種を混合して用いることができる。なお、上述のように、炭素数が2~3の低級アルコールは、スルフィド臭の消臭助剤としての効果も兼備するので、剤型によっては低級アルコールの使用が有用となる。
【0091】
上記の溶媒には、さらに、通常の界面活性剤、乳化剤、分散剤、展着剤、湿潤剤、安定剤、噴射剤等の添加剤を配合することができる。これにより、本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、塗布形態、接着剤形態、乳剤、分散剤、懸濁剤、エアゾール剤、ローション、ペースト、クリーム、マイクロエマルジョン等の形態で利用することができる。
【0092】
界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル)、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン系界面活性剤や、ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等の高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤等が挙げられる。
【0093】
剤型がスプレー剤又はエアゾール剤である場合、トリガー式やポンプ式のスプレー容器に充填し噴射剤を要しないスプレー形態や、耐圧製容器に充填し噴射剤を配合してなるエアゾール剤形態が挙げられる。エアゾール剤形態は、エアゾール容器にエアゾール原液を入れ、噴射剤を加圧充填して製造されるが、水性エアゾール又は油性エアゾールの何れも可能である。噴射剤としては、ジメチルエーテル、液化石油ガス(LPG)、ハイドロフルオロオレフィン等の液化ガス、窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガス等が挙げられる。
【0094】
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物をエアゾール剤として調製する場合、例えば、ハーモナイズド香料の添加により臭気を変調させて感覚的消臭効果を増強させたり、あるいは「みどりの香り」を配合してリラックス効果を付与させたりすることが可能である。また、定量噴射バルブを採用し、ワンプッシュするだけで所定の効果を奏し得る、利便性の高い定量噴射型の消臭用エアゾールとすることも可能である。
【0095】
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、吸液芯を備えた容器に、腐敗臭発生抑制剤等を含む薬液を充填し、吸液芯を介して徐々に揮散成分を室内に放散させる、いわゆるリキッド形態にも適用し得る。吸液芯は、薬液に対して安定でかつ毛細管現象で薬液を吸液するものが用いられる。吸液芯としては、クレー、タルク、パーライト、珪藻土等の無機質材料を焼成した焼成芯、多孔質セラミック芯、フェルト芯、ポリエステル系繊維及び/又はポリアミド系繊維からなるプラスチック芯等が挙げられる。
【0096】
なお、リキッド形態においては、非加熱方式であってもよいし、吸液芯上部の周囲に間隙を設けてヒータを配し、吸液芯上部を適正な温度(50~120℃間の所定温度)に加熱して薬液の揮散を高める加熱方式であってもよい。
【0097】
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、ゲル剤の形態にも適用し得る。ゲル剤は、リキッド形態に比べると容器が倒れても薬液が漏出しにくいというメリットを有し、また、スルフィド臭の消臭効果をより長期にわたって持続させることが可能な点で優れている。ゲル剤は、当分野における従来公知の方法に基づき、公知のゲル化剤を用いて調製し得る。ゲル化剤としては、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、ゼラチン、オクチル酸アルミニウム、12-ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
【0098】
ゲル剤の形態には、ビーズタイプ(ゲルビーズ)が含まれる。ゲルビーズは、水性ゲルビーズ又は油性ゲルビーズの何れも使用可能であるが、水性ゲルビーズが好ましい。水性ゲルビーズは、吸水性ポリマーに所定の薬液と水とを吸液させ、ビーズ状に膨潤させて調製し得る。吸水性ポリマーとしては、アクリル酸系、イソブチレン-無水マレイン酸系、ポリビニルアルコール系等が挙げられ、アクリル酸系吸水性ポリマーが好ましく、特に、アクリル酸/アクリル酸塩共重合体(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム塩共重合体、アクリル酸/アクリル酸カリウム塩共重合体等)、アクリルアミド/アクリル酸又はその塩の共重合体がより好ましい。
【0099】
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、薬剤含浸体の形態にも適用し得る。薬剤含浸体は、吸液性の担体に薬液を浸み込ませ、これを載置したり吊下げたりして揮散成分を徐々に放散させるものである。担体としては、パルプ製不織布、フェルト、薬液を吸収可能なスポンジ、紙、繊維集合体、プラスチック樹脂等が挙げられる。また、担体は、薄手のパルプ製不織布、フェルト等を複数枚積層したり、繊維集合体を複数個集合させることで、その厚みを調整することも可能である。また、形状を保持しつつ薬液を効率よく吸収するために、スパンレース法で表面にウェブを形成したり、エンボス加工を施すことも可能である。
【0100】
こうして得られた本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物は、活性成分又は有効成分である腐敗臭発生抑制剤が、細菌感染に起因するジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭、例えば、進行性の乳ガンや皮膚ガン等に多く見られるガン性悪臭、糞尿臭やペット臭等の発生自体を抑える一方、発生した悪臭に対しても十分な消臭効果を示す。また、この腐敗臭発生抑制剤に、1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールを加えた場合には、相乗的な協働作用によって一層優れた消臭効果が得られる。そして、本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物を用いたジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法は、医療現場や介護の場面などで極めて実用的なものとなる。
【実施例0101】
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物、及びジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法について、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0102】
〔予備試験〕
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物に配合される腐敗臭発生抑制剤が、既に存在している悪臭に対してどの程度の消臭効果を示すかを確認するため、腐敗臭発生抑制剤を単独で使用した消臭試験(予備試験)を実施した。
【0103】
表1の試験番号1~16に示す供試検体を500mLのフラスコに所定量入れ、フラスコの開口部をパラフィルムで覆った。マイクロシリンジを使用し、パラフィルムを通して悪臭物質濃度が1ppmとなるように当該悪臭物質をフラスコ内に注入し、パラフィルムで再度密封して25℃で60分間放置した。注入直後、及び60分経過後に、フラスコ内のヘッドスペースから2mLの空気を採取し、ガスクロマトグラフィを用いて悪臭物質の気中濃度を測定した。下記の計算式に基づき、それぞれの悪臭物質に対する各種供試検体の気中濃度低減率を求めた。
気中濃度低減率(%) = (X-Y)/X × 100
(X:注入直後の気中濃度、Y:60分経過後の気中濃度)
【0104】
【表1】
【0105】
予備試験の結果、供試検体である腐敗臭発生抑制剤は、ガン性悪臭や糞尿臭の重要な臭気成分であるジメチルトリスルフィド及び/又はジメチルジスルフィド、並びにイソ吉草酸のような悪臭が既に存在している雰囲気において、当該悪臭の気中濃度低減効果(消臭効果)を示すことが判明した。特に、腐敗臭発生抑制剤として、エステル類及び/又は炭素数が6~20のアルコール類を使用した検体が消臭効果に優れ、これにメンタン類を加えることによって悪臭の気中濃度低減効果が増強されることが判明した。そして、悪臭の気中濃度低減効果は、試験3と試験5との対比からシネオール類を配合することによっても増強されることが判明し、高い消臭効果を奏し得ることが確認された。さらに、試験5と試験6との対比から、エタノールのような低級アルコールは、臭気成分の気中濃度低減のための助剤として有効であった。
【0106】
また、別途実施した試験によれば、シネオール類(1,8-シネオール、1,4-シネオール)は、アンモニアやトリメチルアミンのような水溶性の悪臭に対して悪臭の気中濃度低減効果を殆ど示さなかった。
【0107】
〔悪臭低減確認試験〕
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物を使用し、消臭効果を含めた悪臭に対する低減効果を確認するため、悪臭低減確認試験を実施した。
【0108】
[実施例1~8、比較例1~3]
表2に示す組成に従って、実施例1~8にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(薬液)を調製し、各薬液2.0gをパルプ製含浸体(三和インセクティサイド株式会社製、製品名Papermat、50mm×96mm×1.0mmの長方体状、2.6g)に滴下し、薬剤含浸体形態の組成物(製剤)を作製した。比較例1~3の組成物(薬液)についても、実施例と同様に薬剤含浸体形態の組成物(製剤)とした。表2中の数値は各成分の配合量(g)であり、カッコ書きの数値は腐敗臭発生抑制剤中における各成分の含有量(質量%)である。
【0109】
乳ガン患者の病室の空間(広さ15m)に薬剤含浸体を3個吊るし、2日後に被験者5人で室内空間のガン性悪臭に対する官能試験を行った。官能試験の評価は、下記の評価基準に基づく5段階評価(1~5)とし、5人の平均値を求めた。
5:原因物質の臭いを全く感じず、非常によい匂いだと感じた。
4:原因物質の臭いを殆ど感じず、よい匂いだと感じた。
3:原因物質の臭いを若干感じたが、不快でないと感じた。
2:原因物質の臭いを感じ、よい匂いだと感じなかった。
1:原因物質の臭いを強く感じ、不快な臭いだと感じた。
【0110】
【表2】
【0111】
悪臭低減確認試験の結果、腐敗臭発生抑制剤を用いた実施例1~実施例8は、乳ガン患者の病室空間で感じられるジメチルトリスルフィド及び/又はジメチルジスルフィド、並びにイソ吉草酸のようなガン性悪臭に対して極めて高い消臭効果を示し、不快感を低減させた。この高い消臭効果は、腐敗臭発生抑制剤が細菌等の微生物による物質の腐敗そのものを前もって抑制することで「ガン性悪臭」の発生をある程度抑えたことに加え、発生した悪臭に対しては、この腐敗臭発生抑制剤の消臭作用が寄与したものと考えられる。そして、腐敗臭発生抑制剤に1,8-シネオール及び/又は1,4-シネオールを配合した場合には、相乗的な協働作用により消臭効果が増強することも確認された。なお、腐敗臭発生抑制剤の効果は、実施例3と実施例4との対比から、エステル類、炭素数が6~20のアルコール類、及びメンタン類の三種すべての化合物群を含むように構成されたものが、二種の化合物群を含むように構成されたものより好ましかった。また、エタノールやIPAのような低級アルコールの配合が消臭効果の増強の点で有効なことが認められた。
【0112】
一方、比較例2及び3に示されるように、「ガン性悪臭」に対処する上で、シネオール類だけでは十分な効果が得られなかった。
【0113】
[実施例9、比較例4]
実施例4にかかるジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(薬液)0.5gをパルプ製含浸体(三和インセクティサイド株式会社製、製品名Papermat、25mm×47mm×2.8mmの長方体状、0.9g)に滴下して、薬剤含浸体形態のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物を調製し、これを実施例9とした。また、比較例2にかかる組成物(薬液)についても同様の手順にて薬剤含浸体形態の組成物を調製し、これを比較例4とした。そして、夫々の供試体を、開口部を有するプラスチックケースに入れ、貼着部材を取り付けて簡易仮設トイレ用消臭製品とした。
【0114】
容積約2m3の簡易仮設トイレの天井に当該消臭製品2個を取り付けたものを処理区(実施例9、比較例4)とし、何も取り付けていない仮設トイレを無処理区とした。略同様な条件、頻度で使用された両仮設トイレにつき、7日後、表2に示す試験に準じて官能評価を行った。さらに、仮設トイレ内から2mLの空気を採取し、ジメチルジスルフィド及びイソ吉草酸についてはガスクロマトグラフィにより、トリメチルアミンについてはガス検知管(株式会社ガステック製)により臭気濃度を測定した。測定結果から無処理区に対する臭気濃度低減率(%)を算出し、A;80%以上100%未満、B;60%以上80%未満、C;30%以上60%未満、D;30%未満の4段階で評価した。評価結果を表3に示す。
【0115】
【表3】
【0116】
活性成分または有効成分として腐敗臭発生抑制剤と、1,8-シネオールとを含有するジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤(実施例9)は、ジメチルジスルフィド及びイソ吉草酸、並びにトリメチルアミンの臭気濃度を同時に低減し、官能評価で優れた消臭効果を示した。これに対し、比較例4のように、1,8-シネオールのみでは、各種の悪臭に対する消臭効果は低かった。実施例9の顕著な消臭効果は、腐敗臭発生抑制剤が細菌等の微生物による物質の腐敗そのものを前もって抑制することで腐敗臭の発生をある程度抑えたことに加え、発生した悪臭に対しては、この腐敗臭発生抑制剤と1,8-シネオールとが協働作用により相乗的な消臭効果を奏した結果によるものと考えられる。
【0117】
簡易仮設トイレからはジメチルジスルフィド及びイソ吉草酸等の他、アンモニア及びトリメチルアミンのようなアミン系の糞尿臭等、様々な悪臭が発生することが知られており、これらあらゆる種類の悪臭に対して同時に臭気濃度を低減できる本発明品(実施例9)の有用性は極めて高いと考えられる。
【0118】
[実施例10]
腐敗臭発生抑制剤50質量部(アリルヘプタノエート、酢酸ベンジル、シトロネリルアセテート、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、d-リモネン、テルピネオール、ラウリルアルデヒド、β-ヨノンからなる混合物)に、1,8-シネオール30質量部と、エタノール20質量部とを配合し、全体を100質量部として、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(薬液)を得た。
【0119】
次に、この薬液4.5質量部に、界面活性剤としてのポリオキシエチレン硬化ヒマシ油1.2質量部と、ラウリルアミンオキシド1.4質量部とを加え、さらに溶剤としてエタノール3.0質量部、安定剤としてBHT0.2質量部、微量のイソチアゾリン系防腐剤、微量の苦味剤(ビトレックス)、及び適量の水を配合し、全体を100質量部として含浸液を調製した。
【0120】
上面に総面積24cmの開口部を有し、容量が500mLの円筒状のプラスチック容器(φ:8cm、高さ:10cm)に、吸水性ポリマーとして粒径が約2mmのアクリル酸/アクリル酸ナトリウム塩共重合体12gを入れた。これに上記含浸液388gを注ぎ込むと吸水性ポリマーが粒径約10mmに膨張し、実施例10の水性ゲルビーズタイプのジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(製剤)を得た。なお、本製剤中における腐敗臭発生抑制剤の含有量は2.3質量%であり、1,8-シネオールの含有量は1.3質量%であり、腐敗臭発生抑制剤の配合量は1,8-シネオールに対して1.8倍量であった。
【0121】
実施例10の組成物(製剤)を皮膚ガン患者がいる病室のサイドテーブル上に置いて使用したところ、約2ヶ月間にわたり、病室内のガン性悪臭に伴う不快感が軽減された。この水性ゲルビーズは時間の経過とともに徐々に縮小したが、変質や離液を伴うことがなくゲル安定性に優れ、使用の終点も明確に視認でき、極めて実用性の高いものであった。
【0122】
[実施例11]
腐敗臭発生抑制剤(アリルヘプタノエート、酢酸ベンジル、ジヒドロミルセノール、リナロール、d-リモネン、テルピネオール、フェニルアセトアルデヒドジメチルアセタールからなる混合物)0.68g(1.5w/v%)に、ハーモナイズド香料(糞尿模擬臭に対する調和香料)0.68g(1.5w/v%)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル22.5g(50w/v%)とを配合し、精製水で全量を45mLに調整し、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(薬液)を得た。
【0123】
次に、この薬液を、吸液芯として多孔質セラミック芯が装填されたプラスチック容器に充填し、当該容器を加熱蒸散器具に取り付けることにより、実施例11のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(蒸散製品)を得た。この蒸散製品は、吸液芯上部をヒータにより約110~120℃で加熱して薬液を揮散させる加熱蒸散型リキッド形態(例えば、特開2005―95107号公報の図1記載の装置参照。)である。
【0124】
実施例11の組成物(蒸散製品)を糞尿臭が感じられる病室で1日あたりおよそ12時間使用したところ、約2ヵ月間にわたり消臭効果が継続し、病室内の糞尿臭に伴う不快感が軽減された。また、乳ガン患者の病室で使用した場合でも同様に部屋の環境改善に役立ち、本発明の腐敗臭発生抑制剤を含有するジメチルトリスルフィド臭および/またはジメチルジスルフィド臭低減剤組成物が、異なる医療現場の空間にも同様に有効であることが示唆された。
【0125】
[実施例12]
腐敗臭発生抑制剤(アリルヘキサノエート、酢酸ベンジル、4-メトキシベンジルプロピオネート、ジヒドロミルセノール、リナロール、d-リモネン、メントール、ノナナール、α-ダマスコンからなる混合物)0.8g(5.9w/v%)に、ユーカリオイル1.4g[1,8-シネオールとして1.0g(7.4w/v%)]と、ハーモナイズド香料0.4g(3.0w/v%)とを配合し、溶剤としてエタノールで全量を13.5mLに調整し、ジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(薬液)を得た。
【0126】
次に、この薬液(エアゾール原液)13.5mLを、定量噴射バルブ(0.2mL/プッシュ)付の耐圧容器に入れ、噴射剤(主剤としてLPGガス)31.5mLを内圧0.46MPaで充填することにより、実施例12のエアゾール原液と噴射剤との容量比率が30/70で全量が45mLであるエアゾール形態のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物(エアゾール製品)を得た。なお、本エアゾール製品の原液中における腐敗臭発生抑制剤の含有量は2.8質量%であり、1,8-シネオールの含有量は3.5質量%であり、腐敗臭発生抑制剤の配合量は1,8-シネオールに対して0.8倍量であった。
【0127】
実施例12の組成物(エアゾール製品)を一般病室にて糞尿臭が感じられた際に、部屋の広さと臭気の強さに応じて複数回プッシュして使用したところ、瞬時に病室内の糞尿臭に伴う不快感が軽減された。また、乳ガン患者の病室において定期的に使用すると、同様に部屋の臭気環境の改善に役立った。
【0128】
さらにはペットの猫が頻繁に出入りする一般住居のリビングで、実施例12の組成物(エアゾール製品)を4プッシュ処理したところ、ペット特有の臭いが軽減され、十分な消臭効果を体感できた。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭低減剤組成物、並びにジメチルトリスルフィド臭及び/又はジメチルジスルフィド臭の消臭方法は、進行性の乳ガンや皮膚ガン等に多く見られるガン性悪臭や、糞尿臭又はペット臭等の消臭効果に優れるだけでなく、食品由来の生ゴミ臭、汚水、汚泥、塗料などのあらゆる臭気対策に適用可能である。