(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063975
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】レーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/073 20060101AFI20220418BHJP
【FI】
B23K26/073
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172425
(22)【出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小森 一範
(72)【発明者】
【氏名】竹本 昌紀
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168CA01
4E168CA07
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168DA33
4E168DA36
4E168DA38
4E168EA13
4E168EA24
4E168KB03
4E168KB05
(57)【要約】
【課題】レーザ光をリング状にした場合でも、加工対象物の加工状態を、リアルタイムに精度良く観測することのできるレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのレーザビーム照射用光学ユニットであって、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー分布を定めるエネルギー分布制御用光学素子と、入射光を透過光と反射光とに分割するビームスプリッタとを備え、前記レーザ発振器から前記加工対象物までの前記レーザビームの照射軌道内において、前記エネルギー分布制御用光学素子は、前記ビームスプリッタよりも前記レーザ発振器側に配されるレーザビーム照射用光学ユニットを採用した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのレーザビーム照射用光学ユニットであって、
前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー分布を定めるエネルギー分布制御用光学素子と、
入射光を透過光と反射光とに分割するビームスプリッタとを備え、
前記レーザ発振器から前記加工対象物までの前記レーザビームの照射軌道内において、前記エネルギー分布制御用光学素子は、前記ビームスプリッタよりも前記レーザ発振器側に配されることを特徴とするレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項2】
前記エネルギー分布制御用光学素子は、前記スポットとして、点状の中心領域と環状の周辺領域とを含む形状のスポットを形成する請求項1に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項3】
前記周辺領域のエネルギーは、前記中心領域のエネルギーよりも高い請求項2に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項4】
前記周辺領域のエネルギーは、前記中心領域のエネルギーよりも低い請求項2に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項5】
前記エネルギー分布制御用光学素子は、前記スポットとして、環状の周辺領域からなる環状形状のスポットを形成する請求項1に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項6】
前記エネルギー分布制御用光学素子が備える光学有効面の少なくとも1面は、回折レンズ、アキシコンレンズ、又は非球面レンズのいずれかである請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項7】
前記ビームスプリッタは、前記ビームスプリッタの光学面に対して45度の角度で入射する入射光において、前記透過光の透過率は99%以上である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項8】
前記透過光の波長帯域は920nm以上1080nm以下である請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項9】
前記ビームスプリッタは、前記ビームスプリッタの光学面に対して45度の角度で入射する入射光において、前記反射光の反射率は99%以上である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項10】
前記反射光の波長帯域は920nm以上1080nm以下である請求項1から請求項6のいずれか一項又は請求項9に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項11】
前記レーザビームの前記照射軌道内に、前記レーザ発振器から出力される前記レーザビームの軌道を平行にするためのコリメートレンズを備える請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項12】
前記レーザ発振器から前記加工対象物までの前記レーザビームの前記照射軌道内において、前記ビームスプリッタの前記加工対象物側に、前記レーザビームを前記加工対象物の表面に集光する集光レンズを備える請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項13】
前記加工対象物の前記スポットが発する観測光を前記ビームスプリッタで前記分割し、前記分割した前記観測光を観測装置に導く観測用光路を有し、前記分割した前記観測光を観測する前記観測装置を備える請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニット。
【請求項14】
レーザ加工ヘッドに、請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のレーザビーム照射用光学ユニットを収容して得られることを特徴とするレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、レーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光が種々の製品の加工に広く用いられている。このレーザ光を用いることで、加工する部位に高エネルギー密度の微小な照射領域(スポット)が形成でき、各種微細加工を容易に行うことができるようになる。たとえば、金属板の切断、溶接等を行なえることが知られている。
【0003】
ところが、溶接の分野において、一般的レーザ加工技術を用いても、容易に実施できないものがある。その一つが、溶融亜鉛めっき鋼板を重ねて溶接する場合である。溶融亜鉛めっき鋼板を重ね合せてレーザで溶接すると、レーザビームの熱でめっき成分である亜鉛が蒸発、飛散し、溶接後の表面にブローホール、肌荒れ等の溶接欠陥が生じることになる。また、アルミ同士のレーザ溶接では、アルミが近赤外レーザ光の反射率が高いため、溶接後の表面にブローホール、肌荒れ等の溶接欠陥が生じやすく、良好な溶接を得ることが難しい。
【0004】
従来は、このような溶融亜鉛めっき鋼板の重ね溶接を行う場合には、重ね合せた鋼板に微小間隙を確保し、この微小間隙を用いて、めっき成分の蒸発により生じたガス(金属ヒューム)を逃がすことで溶接欠陥の発生を防止しようとしてきた。ところが、この重ね合せた鋼板に微小間隙を形成するためには、特許文献1、特許文献2等に開示されているように、重ね合せる二枚のめっき鋼板の少なくとも一方に、予め塑性加工等により突起部を形成する予備加工が必要で、形成できる微小間隙の寸法バラツキも大きく、優れた溶接品質を確保することが難しいという問題と、製造コストの上昇を招くという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題を解決するため、特許文献3、特許文献4では、光の進行方向に垂直な面内の光強度分布が中空部分を含むリング状となるレーザビームで亜鉛などのガス抜きを促進して溶接する方法が採用されている。
【0006】
また、特許文献5では、レーザビームスポットがカルデラ状で、スポット中心に周辺領域よりも強度が高くなる強度分布を備えるレーザビームを用いることが記載されている。この方法は、例えばアルミ同士の溶接が良好になる。
【0007】
しかしながら、以上の特許文献に開示のレーザ照射系では、レーザの焦点位置やレーザ照射時の照射状態を直接観察することができないため、レーザの焦点位置確認や、レーザの照射動作の途中でレーザ光の焦点や強度の微調整ができず、加工歩留まりを向上させることができなかった。
【0008】
そこで、特許文献6のように、円錐プリズム(アキシコンレンズ)を用いて光強度分布が中空部分を含むリング状とする方法が開示され、加工レーザビームと同軸のビームスプリッタを介し、レーザ照射時の照射状態を観察するための観察系が提唱されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10-216974号公報
【特許文献2】特公平6-73755号公報
【特許文献3】特開平7-214360号公報
【特許文献4】特開2003-305581
【特許文献5】特許第5602300号公報
【特許文献6】特開2010-194558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献6が開示の発明は、レーザ発振器から出力されたレーザビームがビームスプリッタを透過する際、ビームスプリッタの透過率が100%ではないことから、入射光の一部が反射(分割)されて観測系へ導かれる光学系である。すなわち、特許文献6が開示の発明は、レーザ発振器が出力するレーザビームの観測は可能だが、当該観測光には加工対象物の焦点合わせのための情報やスポットにおける加工状態に関する情報が含まれない。したがって、レーザの焦点位置確認やレーザの照射動作の途中におけるレーザ光の適切な微調整を行うことができない、という問題があった。
【0011】
また、特許文献6が開示の発明は、ビームスプリッタと加工対象物との間に、円錐プリズムを配する光学素子配置を採用している。したがって、加工対象物の表面におけるレーザビームのリング状の集光位置を観測しようとすると、観測光が円錐プリズムを通過してしまう。これによって、観測光の映像が球面収差の影響でボケてしまい、精度良く観測することができない、という問題もあった。
【0012】
本件発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光をリング状にした場合でも、レーザのリング状の集光位置の確認や、加工対象物の加工状態をリアルタイムに精度良く観測することのできるレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、鋭意研究の結果、以下のレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工装置に想到した。
【0014】
A.本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニット
本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのレーザビーム照射用光学ユニットであって、前記スポットにおける前記レーザビームのエネルギー分布を定めるエネルギー分布制御用光学素子と、入射光を透過光と反射光とに分割するビームスプリッタとを備え、前記レーザ発振器から前記加工対象物までの前記レーザビームの照射軌道内において、前記エネルギー分布制御用光学素子は、前記ビームスプリッタよりも前記レーザ発振器側に配されることを特徴としている。
【0015】
B.本件発明に係るレーザ加工装置
本件発明に係るレーザ加工装置は、レーザ加工装置のレーザ加工ヘッドに、上述のレーザビーム照射用光学ユニットを収容して得られることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザ発振器とビームスプリッタとの間に前記エネルギー分布制御用光学素子を配することで、加工対象物からの観測光をビームスプリッタで分離して観測機器で観測する際に、加工対象物と観測機器との間の光学系には観測光の映像をリング状にする光学素子が存在しないことから、加工対象物を精度良く観測することができるようになった。そのため、リアルタイムにリング状レーザ照射位置の確認や、レーザ照射中観測光確認による照射条件の微調整が可能となり、非常に精度の高いレーザ加工が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1のレーザビーム照射用光学ユニットの光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図である。
【
図2】実施形態1の変形例のレーザビーム照射用光学ユニットの光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図である。
【
図3】実施形態2のレーザビーム照射用光学ユニットの光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図である。
【
図4】実施形態3のレーザビーム照射用光学ユニットの光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図である。
【
図5】実施形態3の変形例のレーザビーム照射用光学ユニットの光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図である。
【
図6】比較例4のレーザビーム照射用光学ユニットの光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニット及びレーザ加工ヘッドの実施の形態に関して述べる。なお、以下に説明するものは、単に一態様を示したものであり、以下の記載内容に限定解釈されるものではない。
【0019】
A.レーザビーム照射用光学ユニット
本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、レーザ発振器から照射されるレーザビームを加工対象物にスポットを形成して照射しレーザ加工するためのものである。そして、このレーザビーム照射用光学ユニットは、スポットにおけるレーザビームのエネルギー分布を定めるエネルギー分布制御用光学素子と、入射光を透過光と反射光とに分割するビームスプリッタとを備える光学素子配列を採用している。本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットは、この光学素子配列において、「エネルギー分布制御用光学素子」は「ビームスプリッタ」よりもレーザ発振器側に配したことが特徴である。
【0020】
レーザビーム照射用光学ユニットは、レーザ発振器から加工対象物表面までのレーザビームの照射軌道における、「エネルギー分布制御用光学素子」と「ビームスプリッタ」と位置関係が、少なくとも上述の関係を満たすことが必要である。加工対象物からの観測光を歪み無く観測し、加工対象物をリアルタイムに精度良く観測できるようにするために、この関係を満たすことが好ましい。以下、レーザビーム照射用光学ユニットを構成する光学素子と、レーザビーム照射用光学ユニットの実施形態に関して述べる。
【0021】
A-1.レーザビーム照射用光学ユニットの構成要素
〔レーザビーム〕
レーザ発振器からレーザビーム照射用光学ユニットに入射されるレーザビームは、レーザ加工用に用いることができるレーザビームであれば、いかなるレーザビームであっても用いることができる。特に、YAGレーザ(波長1064nm)、ファイバーレーザ(波長1070nm)、ディスクレーザ(波長1030nm)、半導体レーザ(波長935nm、940nm、980nm、940~980nm、940~1025nm)に代表される発振波長が約920~1080nmの近赤外レーザビームであることが好ましい。以降では、このレーザビームを加工レーザ光とも記載する。
【0022】
〔ビームスプリッタ〕
ビームスプリッタは、入射される光を波長に応じて透過光と反射光とに分割する。後述する各実施形態では、ビームスプリッタは、光学面に対して約45度の角度でレーザ発振器から入射される近赤外線の加工レーザ光を透過する。そして、ビームスプリッタは、光学面に対して約45度の角度で入射される可視光の一部を透過し、加工対象物で反射して入射する可視光を反射する。別の形態のビームスプリッタは、光学面に対して約45度の角度でレーザ発振器から入射される近赤外線の加工レーザ光を反射する。そして、ビームスプリッタは、光学面に対して約45度の角度で入射される可視光の一部を反射し、加工対象物で反射して入射する可視光を透過する。
【0023】
以下の実施形態では、ビームスプリッタは、当該ビームスプリッタへの入射光を波長によって透過光と反射光とに分離する際、次の2点の特性を有する。第1に、近赤外波長帯域のレーザビームの入射光(加工レーザ光)を99%以上透過する。第2に、約400~700nmの可視光波長帯域の入射光を30%以上98以下の範囲で反射する。なお、ビームスプリッタが加工レーザ光を透過する割合、及び可視光を反射する割合についてはこれに限定されるものではないが、例えば、ビームスプリッタは、上記の透過の割合を満たすことで、レーザ発振器から入射されるレーザビームをほぼ損失なくレーザ加工に利用することができると共に、光学対象面で反射した可視光のほとんどを反射することができる。このようなビームスプリッタを、本明細書においては「第1のビームスプリッタ」と称するものとする。
【0024】
ビームスプリッタとして、第1のビームスプリッタを用いることが好ましい。レーザビームを加工用レーザビームとして加工対象物へ導き、観察光を観測装置へ導く役割を果たすからである。即ち、レーザ発振器から出力されたレーザビームはビームスプリッタを透過して加工用レーザビームとして加工対象物の加工に用いることができる。また、加工対象物からの観測光は、ビームスプリッタで反射され、観測機器に入射して加工対象物の観測に用いることができる。
【0025】
また、以下の実施形態では、ビームスプリッタとして、第1のビームスプリッタとは異なる次の2点の特性を有することも可能である。第1に、近赤外波長帯域のレーザビームの入射光(加工レーザ光)を99%以上反射する。第2に、約400~700nmの可視光波長帯域の入射光の30%以上98以下を透過する。ビームスプリッタは、上記の透過の割合を満たすことで、レーザ発振器から入射されるレーザビームをほぼ損失なくレーザ加工に利用することができると共に、光学対象面で反射した可視光のほとんどを透過することができる。このようなビームスプリッタを、本明細書においては「第2のビームスプリッタ」と称するものとする。
【0026】
ビームスプリッタとして、第2のビームスプリッタを用いることも好ましい。レーザビームを加工用レーザビームとして加工対象物へ導き、観察光を観測装置へ導く役割を果たすからである。即ち、レーザ発振器から出力されたレーザビームはビームスプリッタで反射して加工用レーザビームとして加工対象物の加工に用いることができる。また、加工対象物からの観測光は、ビームスプリッタで透過され、観測機器に入射して加工対象物の観測に用いることができる。
【0027】
また、レーザ発振器は、レーザビームに加えてレーザビームの加工対象物表面における焦点位置を確認するための可視光の観察光をレーザビーム照射用光学ユニットに入射することができる。この観測光は、例えばエイミング光、ガイド光などと呼ばれることもある。観察光は、その一部がビームスプリッタを透過して加工対象物表面で反射し、ビームスプリッタに入射する。ビームスプリッタは、入射された観察光を反射し、後述する観測装置に観察光を導く。これにより、ユーザは加工対象物における加工レーザ光の焦点位置をビームスプリッタから観測装置に導かれた可視光である観察光を用いて観察することができる。
【0028】
第1のビームスプリッタを用いる場合は、入射した観測用可視光線は第1のビームスプリッタを透過した分割光が加工対象物に照射される。加工対象物の表面において、観測用可視光線は、本件発明のレーザビーム照射用光学ユニットと加工対象物との位置関係に応じた焦点状態の像を結ぶ。この、加工対象物の表面で像を結んだ観測用可視光線は、加工対象物の表面で反射する。そして、加工対象物表面からの反射光において、第1のビームスプリッタで反射した分割光が、観察光として観測装置に入射する。観測装置で観測光を観測することによって、加工対象物の表面における観測光の結像状態を観測することができ、本件発明のレーザビーム照射用光学ユニットの焦点位置を確認し、調整することができる。
【0029】
第2のビームスプリッタを用いる場合は、入射した観測用可視光線は第2のビームスプリッタを反射した分割光が加工対象物に照射される。加工対象物の表面において、観測用可視光線は、本件発明のレーザビーム照射用光学ユニットと加工対象物との位置関係に応じた焦点状態の像を結ぶ。この、加工対象物の表面で像を結んだ観測用可視光線は、加工対象物の表面で反射する。そして、加工対象物表面からの反射光において、第2のビームスプリッタで透過した分割光が、観察光として観測装置に入射する。観測装置で観測光を観測することによって、加工対象物の表面における観測光の結像状態を観測することができ、本件発明のレーザビーム照射用光学ユニットの焦点位置を確認し、調整することができる。
【0030】
〔エネルギー分布制御用光学素子〕
エネルギー分布制御用光学素子は、レーザビームを加工対象物の表面に照射したときに、加工対象物表面でのスポットにおけるエネルギー分布を定めるための光学素子である。
【0031】
ここで、本件発明に係るエネルギー分布制御用光学素子は、形状が少なくとも環状のスポットを形成するようにレーザビームを変換することが好ましい。このとき、環状のスポットのエネルギー強度は、環状の中心部のエネルギー強度よりも高いことが好ましい。スポットの形状が環状となることによって、加工対象物の表面において、スポットの中心領域からどの向きにも均一にレーザビームのエネルギーが照射されるからである。
【0032】
また、本件発明に係るエネルギー分布制御用光学素子が形成するスポットの形状は特に限定されるものではなく、例えば、環状と環状の中心部における点状とからなるものであっても良いし、トップハット型の形状などであっても良い。このとき、環状の中心部における点状のスポットのエネルギー強度は、環状部のエネルギー強度よりも高いことが好ましい。光の反射率が高いアルミなどでは、エネルギー強度の弱い環状部で金属を溶融させて反射率を下げ、エネルギー強度の高い中心部で加工対象物を深く溶融させることなどができるため、レーザ加工がより容易になるからである。
【0033】
前述のスポット形状を形成するために、本件発明に係るエネルギー分布制御用光学素子が備える光学有効面の少なくとも1面は、回折レンズ、アキシコンレンズ、非球面レンズのいずれかであることが好ましい。レーザビームのスポット形状を、環状、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなるものにすることができるからである。
【0034】
A-2.レーザビーム照射用光学ユニットの各形態
〔実施形態1〕
以下に、
図1を参照して、本件発明の実施形態1に係るレーザビーム照射用光学ユニット1について説明する。
図1は、レーザビーム照射用光学ユニット1の光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図を示している。ここで、レーザビーム照射用光学ユニット1において、
図1aは加工対象物の表面でスポットを形成するレーザビームの略照射軌道を示し、エネルギー分布制御用光学素子21が加工対象物の表面14にスポット15を形成する際のレーザビームの変換の概要を、ハッチングを付けた略軌道で示している。また、
図1bは、観測光の概要を、ハッチングを付けた略軌道で示している。
【0035】
レーザビーム照射用光学ユニット1は、
図1(a)に示すように、レーザ発振器(レーザビームを出力点へ導く光ファイバーを含む)13から順に、レーザビームを平行光にするためのコリメートレンズ41と、エネルギー分布制御用光学素子21と、近赤外線波長の加工レーザ光を透過し、加工対象物表面で反射した観察光を反射させるビームスプリッタ31(上述の第1のビームスプリッタ)とを、照射軌道の光軸11に沿って備える光学素子配列を採用している。
【0036】
また、レーザビーム照射用光学ユニット1は、観測光をビームスプリッタ31により軌道変更して観測装置17に導く観察光路を備えている。このとき、照射軌道の光軸11に対して、観測光路の光軸12は垂直に位置している。そして、観測光路の光軸12に沿って集光レンズ51を配している。このとき、ビームスプリッタ31は、レーザビームの照射軌道の光軸11と、観測光路の光軸12とに対して、ビームスプリッタ31の光学面がそれぞれ45度の角度になるよう配置されている。
【0037】
このとき、ビームスプリッタ31は第1のビームスプリッタを用いることが好ましい。レーザビームを加工用レーザビームとして加工対象物の表面14へ導き、観察光を観測装置17へ導く役割を果たすからである。即ち、レーザ発振器13から出力されたレーザビームはビームスプリッタ31を透過して加工レーザ光として加工対象物の加工に用いることができる。また、加工対象物の表面14からの観測光は、ビームスプリッタ31で反射され、観測機器17に入射して加工対象物の観測に用いることができる。
【0038】
そして、レーザビーム照射用光学ユニット1は、レーザビームの照射軌道内に、エネルギー分布制御用光学素子21を備えている。エネルギー分布制御用光学素子21は、スポット15として、形状が環状のスポットを形成するようにレーザビームを変換する。このとき、エネルギー分布制御用光学素子21が備える光学有効面の少なくとも1面は、アキシコンレンズ、非球面レンズ、回折レンズのいずれかを採用するものである。
【0039】
また、レーザビーム照射用光学ユニット1は、レーザビームの照射軌道内に、コリメートレンズ41を備えている。レーザ発振器13から発散して出力されるレーザビームを、コリメートレンズ41を用いて平行光にすることができるからである。また、第1のビームスプリッタのレーザ発振器13側に、コリメートレンズ41とエネルギー分布制御用光学素子21とが配置されている。さらに、エネルギー分布制御用光学素子21よりレーザ発振器13側に、コリメートレンズ41が配置されている。この配置を用いることによって、レーザビーム照射用光学ユニット1の光学系の偏芯感度が低くなり、レーザビーム照射用光学ユニット1の組み立てを容易にすることができる。
【0040】
また、エネルギー分布制御用光学素子21は、コリメート機能を併せ持っても良い。このとき、レーザビーム照射用光学ユニット1は、レーザ発振器13側から順に、コリメート機能を併せ持ち、かつ、スポットにおけるレーザビームのエネルギー分布を定めるエネルギー分布制御用光学素子と、入射光を透過光と反射光とに分割するビームスプリッタとを備える光学素子配列となる。
【0041】
また、ビームスプリッタ31で反射し観測光路に導かれた観測光を集光して観測装置17に入射するための集光レンズ51を、ビームスプリッタ31と観測装置17との間で、かつ、加工レーザ光が照射されない位置に配置することが好ましい。
【0042】
レーザ発振器13から照射されるレーザビームの発振波長は920~1080nmである。
【0043】
レーザビームの加工対象物表面における焦点位置の確認と調整について説明する。レーザビーム照射用光学ユニット1におけるレーザ発振器13から、観測用可視光線(400~700nm)を入射する。入射した観測用可視光線は、コリメートレンズ41によって平行光に変換される。そして、当該平行光は、エネルギー分布制御用光学素子21によって、加工対象物の表面14における観測用可視光線のスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなるものとなる。このようなスポット形状を形成する観測用可視光線は、ビームスプリッタ31を透過する。そしてビームスプリッタ31の透過光が加工対象物の表面14に照射される。
【0044】
加工対象物の表面14において、観測用可視光線は、レーザビーム照射用光学ユニット1と加工対象物との位置関係に応じた焦点状態の像を結ぶ。この、加工対象物の表面14で像を結んだ観測用可視光線は、加工対象物の表面14で反射する。そして、加工対象物の表面14からの反射光において、第1形態のビームスプリッタ31で反射した分割光が、集光レンズ51を介して、観察光として観測装置17に入射する。観測装置17で観測光を観測することによって、加工対象物の表面14における観測光の結像状態を観測することができ、レーザビーム照射用光学ユニット1の焦点位置を確認し、調整することができる。
【0045】
次に、レーザビームの動きについて説明する。レーザ発振器13からレーザビーム照射用光学ユニット1に入射されるレーザビームは、コリメートレンズ41によって平行光に変換される。そして、当該平行光は、エネルギー分布制御用光学素子21によって、加工対象物の表面14におけるレーザビームのスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなるものとなる。このようなスポット形状を形成するレーザビームは、ビームスプリッタ31を透過して加工対象物の表面14に集光しスポット15を形成する。加工対象物のスポット15では、加工対象物の表面14がレーザビームのエネルギーによって、加熱溶解する。
【0046】
レーザビーム照射用光学ユニット1は、以下に示す条件式(1)、(2)のうち、少なくとも1つを満足することが好ましい。
0<NA・φ・(f1/f2)<0.036 ・・・(1)
但し、NA:レーザ発振器13から出力されるレーザ光線の開口数。
φ:レーザ発振器13の光ファイバーの直径(mm)。
f1:コリメートレンズの焦点距離(mm)。
f2:エネルギー分布制御用光学素子の焦点距離(mm)。
【0047】
100<(f1-2・21/2・NA・f2)<400 ・・・(2)
【0048】
条件式(1)において、NA・φ・(f1/f2)の値が0.036以上になると、スポットにおけるレーザビームの径が大きくなり、その2倍に比例して環状形状の径も大きくなる。この環状形状の径が大きいと、環状部の面積が大きくなるのでスポットにおける単位面積当たりのレーザビームのエネルギー強度が弱くなってしまう。したがって、加工対象物の溶融ができなくなり、好ましくない。
【0049】
条件式(2)において、f1-2・21/2・NA・f2は、実施形態1におけるビームスプリッタの加工対象物側の端から加工対象物の間の距離(ワーキングディスタンスと称する)を示している。f1-2・21/2・NA・f2の値が100以下であると、レーザビームで加工対象物を加工中に発生するスパッタが、実施形態1におけるビームスプリッタと加工対象物との間に配置している保護ガラスに付着してしまう。この保護ガラスにスパッタが付着すると、レーザビームの透過率が低下してしまい好ましくない。一方、f1-2・21/2・NA・f2の値が400以上であると、コリメートレンズの焦点距離f1が大きい。つまり、当該コリメートレンズの径、エネルギー分布制御用光学素子の径、ビームスプリッタが大きいことであり、実施形態1のサイズが大きすぎてしまい好ましくない。
【0050】
実施形態1は、上述した条件式(1)、(2)を同時に満足することがより好ましい。
【0051】
以上のレーザビーム照射用光学ユニット1は、レーザビームを用いて加工対象物を加熱溶解して加工することができる。さらに、観測装置を用いて、レーザビーム照射用光学ユニット1の焦点位置を確認し、調整することができる。また、加工対象物のスポット部から放射される観測光を観測することができる。このとき、加工対象物から観測装置までの光路に観測光の映像をリング状にボケさせる光学素子が存在しないことから、レーザのリング状の集光位置の確認や、加工対象物の加工状態をリアルタイムに精度良く観測することができる。
【0052】
〔実施形態1の変形例〕
次に、実施形態1の変形例を
図2に示す。
図2は、実施形態1の変形例のレーザビーム照射用光学ユニット2の光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図を示している。レーザビーム照射用光学ユニット1との違いは、エネルギー分布制御用光学素子21とは異なるレーザビームの変換を行うエネルギー分布制御用光学素子22を用いていることである。これによって、
図2aに示すように、エネルギー分布制御用光学素子22が加工対象物の表面14にスポット15を形成する際のレーザビームの変換の概要を示すハッチングを付けた略軌道が、
図1aが示す略軌道とは異なっている。
【0053】
レーザビーム照射用光学ユニット2において、エネルギー分布制御用光学素子22が、レーザビーム照射用光学ユニット1で用いているエネルギー分布制御用光学素子21と異なる以外は、実施形態1で説明した光学素子の配置構成と、同じ光学素子を用いている。そして、レーザビーム照射用光学ユニット2において、レーザビームの加工対象物表面における焦点位置の確認と調整についての説明、及び、レーザビームと観測光の動きについての説明は、実施形態1と同じである。
【0054】
レーザビーム照射用光学ユニット2は、上述の条件式(1)、(2)のうち、少なくとも1つを満足することが好ましい。
【0055】
条件式(1)において、NA・φ・(f1/f2)の値が0.036以上になると、スポットにおけるレーザビームの径が大きくなり、その2倍に比例して環状形状の径も大きくなる。この環状形状の径が大きいと、環状部の面積が大きくなるのでスポットにおける単位面積当たりのレーザビームのエネルギー強度が弱くなってしまう。したがって、加工対象物の溶融ができなくなり、好ましくない。
【0056】
条件式(2)において、f1-2・21/2・NA・f2は、実施形態1の変形例におけるビームスプリッタの加工対象物側の端から加工対象物の間の距離(ワーキングディスタンスと称する)を示している。f1-2・21/2・NA・f2の値が100以下であると、レーザビームで加工対象物を加工中に発生するスパッタが、実施形態1の変形例におけるビームスプリッタと加工対象物との間に配置している保護ガラスに付着してしまう。この保護ガラスにスパッタが付着すると、レーザビームの透過率が低下してしまい好ましくない。一方、f1-2・21/2・NA・f2の値が400以上であると、コリメートレンズの焦点距離f1が大きい。つまり、当該コリメートレンズの径、エネルギー分布制御用光学素子の径、ビームスプリッタが大きいことであり、実施形態1の変形例のサイズが大きすぎてしまい好ましくない。
【0057】
実施形態1の変形例は、上述した条件式(1)、(2)を同時に満足することがより好ましい。
【0058】
〔実施形態2〕
以下に、
図3を参照して、本件発明の実施形態2に係るレーザビーム照射用光学ユニット3について説明する。
図3は、レーザビーム照射用光学ユニット3の光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図を示している。ここで、レーザビーム照射用光学ユニット3において、
図3aは加工対象物の表面でスポットを形成するレーザビームの略照射軌道を示し、エネルギー分布制御用光学素子23が加工対象物の表面14にスポット15を形成する際のレーザビームの変換の概要を、ハッチングを付けた略軌道で示している。また、
図3bは、観測光の概要を、ハッチングを付けた略軌道で示している。
【0059】
レーザビーム照射用光学ユニット3の光学素子の配置構成は、コリメートレンズを用いていないことが、実施形態1と異なっている。以下に具体的に説明する。
【0060】
レーザビーム照射用光学ユニット3は、
図3(a)に示すように、レーザ発振器(レーザビームを出力点へ導く光ファイバーを含む)13から順に、エネルギー分布制御用光学素子23と、近赤外線波長の加工レーザ光を透過し、加工対象物表面で反射した観察光を反射させるビームスプリッタ31(上述の第1のビームスプリッタ)とを、照射軌道の光軸11に沿って備える光学素子配列を採用している。
【0061】
また、レーザビーム照射用光学ユニット3は、観測光をビームスプリッタ31により軌道変更して観測装置17に導く観察光路を備えている。このとき、照射軌道の光軸11に対して、観測光路の光軸12は垂直に位置している。そして、観測光路の光軸12に沿って集光レンズ51を配している。このとき、ビームスプリッタ31は、レーザビームの照射軌道の光軸11と、観測光路の光軸12とに対して、ビームスプリッタ31の光学面がそれぞれ45度の角度になるよう配置されている。
【0062】
このとき、ビームスプリッタ31は第1のビームスプリッタを用いることが好ましい。レーザビームを加工用レーザビームとして加工対象物の表面14へ導き、観察光を観測装置17へ導く役割を果たすからである。即ち、レーザ発振器13から出力されたレーザビームはビームスプリッタ31を透過して加工レーザ光として加工対象物の加工に用いることができる。また、加工対象物の表面14からの観測光は、ビームスプリッタ31で反射され、観測機器17に入射して加工対象物の観測に用いることができる。
【0063】
そして、レーザビーム照射用光学ユニット3は、レーザビームの照射軌道内に、エネルギー分布制御用光学素子23を備えている。エネルギー分布制御用光学素子23は、スポット15として、形状が環状のスポットを形成するようにレーザビームを変換する。このとき、エネルギー分布制御用光学素子23が備える光学有効面の少なくとも1面は、アキシコンレンズ、非球面レンズ、回折レンズのいずれかを採用するものである。
【0064】
ここで、エネルギー分布制御用光学素子23は、略コリメート機能を併せ持つことが好ましい。ワーキングディスタンスを広くできるからである。
【0065】
また、ビームスプリッタ31で反射し観測光路に導かれた観測光を集光して観測装置17に入射するための集光レンズ51を、ビームスプリッタ31と観測装置17との間で、かつ、加工レーザ光が照射されない位置に配置することが好ましい。
【0066】
レーザ発振器13から照射されるレーザビームの発振波長は920~1080nmである。
【0067】
レーザビームの加工対象物表面における焦点位置の確認と調整について説明する。レーザビーム照射用光学ユニット3におけるレーザ発振器13から、観測用可視光線(400~700nm)を入射する。入射した観測用可視光線は、エネルギー分布制御用光学素子23によって、加工対象物の表面14における観測用可視光線のスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなるものとなる。このようなスポット形状を形成する観測用可視光線は、ビームスプリッタ31を透過する。そしてビームスプリッタ31の透過光が加工対象物の表面14に照射される。
【0068】
加工対象物の表面14において、観測用可視光線は、レーザビーム照射用光学ユニット3と加工対象物との位置関係に応じた焦点状態の像を結ぶ。この、加工対象物の表面14で像を結んだ観測用可視光線は、加工対象物の表面14で反射する。そして、加工対象物の表面14からの反射光において、第1形態のビームスプリッタ31で反射した分割光が、集光レンズ51を介して、観察光として観測装置17に入射する。観測装置17で観測光を観測することによって、加工対象物の表面14における観測光の結像状態を観測することができ、レーザビーム照射用光学ユニット3の焦点位置を確認し、調整することができる。
【0069】
次に、レーザビームの動きについて説明する。レーザ発振器13からレーザビーム照射用光学ユニット3に入射されるレーザビームは、エネルギー分布制御用光学素子23によって、加工対象物の表面14におけるレーザビームのスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなるものとなる。このようなスポット形状を形成するレーザビームは、ビームスプリッタ31を透過して加工対象物の表面14に集光しスポット15を形成する。加工対象物のスポット15では、加工対象物の表面14がレーザビームのエネルギーによって、加熱溶解する。
【0070】
レーザビーム照射用光学ユニット3は、上述の条件式(1)、(2)のうち、少なくとも1つを満足することが好ましい。
【0071】
条件式(1)において、NA・φ・(f1/f2)の値が0.036以上になると、スポットにおけるレーザビームの径が大きくなり、その2倍に比例して環状形状の径も大きくなる。この環状形状の径が大きいと、環状部の面積が大きくなるのでスポットにおける単位面積当たりのレーザビームのエネルギー強度が弱くなってしまう。したがって、加工対象物の溶融ができなくなり、好ましくない。
【0072】
条件式(2)において、f1-2・21/2・NA・f2は、実施形態2におけるビームスプリッタの加工対象物側の端から加工対象物の間の距離(ワーキングディスタンス)を示している。f1-2・21/2・NA・f2の値が100以下であると、レーザビームで加工対象物を加工中に発生するスパッタが、実施形態2におけるビームスプリッタと加工対象物との間に配置している保護ガラスに付着してしまう。この保護ガラスにスパッタが付着すると、レーザビームの透過率が低下してしまい好ましくない。一方、f1-2・21/2・NA・f2の値が400以上であると、コリメートレンズの焦点距離f1が大きい。つまり、当該コリメートレンズの径、エネルギー分布制御用光学素子の径、ビームスプリッタが大きいことであり、実施形態2のサイズが大きすぎてしまい好ましくない。
【0073】
実施形態2は、上述した条件式(1)、(2)を同時に満足することがより好ましい。
【0074】
以上のレーザビーム照射用光学ユニット3は、レーザビームを用いて加工対象物を加熱溶解して加工することができる。さらに、観測装置を用いて、レーザビーム照射用光学ユニット3の焦点位置を確認し、調整することができる。また、加工対象物のスポット部から放射される観測光を観測することができる。このとき、加工対象物から観測装置までの光路に観測光の映像を歪ませる光学素子が存在しないことから、レーザのリング状の集光位置の確認や、加工対象物の加工状態をリアルタイムに精度良く観測することができる。
【0075】
〔実施形態3〕
以下に、
図4を参照して、本件発明の実施形態3に係るレーザビーム照射用光学ユニット4について説明する。
図4は、レーザビーム照射用光学ユニット4の光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図を示している。ここで、レーザビーム照射用光学ユニット4において、
図4aは加工対象物の表面でスポットを形成するレーザビームの略照射軌道を示し、エネルギー分布制御用光学素子24が加工対象物の表面14にスポット15を形成する際のレーザビームの変換の概要を、ハッチングを付けた略軌道で示している。また、
図4bは、観測光の概要を、ハッチングを付けた略軌道で示している。
【0076】
レーザビーム照射用光学ユニット4の光学素子の配置構成は、コリメートレンズを用いていないこと、集光レンズを用いていることが、実施形態1と異なっている。以下に具体的に説明する。
【0077】
レーザビーム照射用光学ユニット4は、
図4(a)に示すように、レーザ発振器(レーザビームを出力点へ導く光ファイバーを含む)13から順に、エネルギー分布制御用光学素子24と、近赤外線波長の加工レーザ光を透過し、加工対象物表面で反射した観察光を反射させるビームスプリッタ31(上述の第1のビームスプリッタ)と、加工対象物表面にレーザビームを集光する集光レンズ61とを、照射軌道の光軸11に沿って備える光学素子配列を採用している。
【0078】
また、レーザビーム照射用光学ユニット4は、観測光をビームスプリッタ31により軌道変更して観測装置17に導く観察光路を備えている。このとき、照射軌道の光軸11に対して、観測光路の光軸12は垂直に位置している。そして、観測光路の光軸12に沿って集光レンズ51を配している。このとき、ビームスプリッタ31は、レーザビームの照射軌道の光軸11と、観測光路の光軸12とに対して、ビームスプリッタ31の光学面がそれぞれ45度の角度になるよう配置されている。
【0079】
このとき、ビームスプリッタ31は第1のビームスプリッタを用いることが好ましい。レーザビームを加工用レーザビームとして加工対象物の表面14へ導き、観察光を観測装置17へ導く役割を果たすからである。即ち、レーザ発振器13から出力されたレーザビームはビームスプリッタ31を透過して加工レーザ光として加工対象物の加工に用いることができる。また、加工対象物の表面14からの観測光は、ビームスプリッタ31で反射され、観測機器17に入射して加工対象物の観測に用いることができる。
【0080】
そして、レーザビーム照射用光学ユニット4は、レーザビームの照射軌道内に、エネルギー分布制御用光学素子24を備えている。エネルギー分布制御用光学素子24は、スポット15として、形状が環状のスポットを形成するようにレーザビームを変換する。このとき、エネルギー分布制御用光学素子24が備える光学有効面の少なくとも1面は、アキシコンレンズ、非球面レンズ、回折レンズのいずれかを採用するものである。
【0081】
また、エネルギー分布制御用光学素子24は、略コリメート機能を併せ持つことが好ましい。ワーキングディスタンスを広くとれるからである。
【0082】
実施形態3のレーザビームの照射軌道内には、レーザビームを加工対象物の表面14に結像させるための集光レンズ61を備えるのが好ましい。より具体的には、ビームスプリッタ31より加工対象物の表面14側に集光レンズ61を備えるのが好ましい。エネルギー分布制御用光学素子24の焦点距離と集光レンズ61の焦点距離との比で求められるレーザビーム照射用光学ユニットの実施形態3の光学系の倍率を小さくしたまま、ビームスプリッタ31から加工対象物の表面14までのワーキングディスタンスを適切に設定することができるからである。このことによって、レーザビーム照射用光学ユニット4の光学素子の加工対象物の表面14側に配する保護ガラスへの、レーザビーム照射時に発生する加工対象物の溶融スパッタの付着を抑制できる。さらに、観測光を観測光路へ導く光路がフォーカル系となり、観測光の球面収差が優れるからである。
【0083】
また、ビームスプリッタ31で反射し観測光路に導かれた観測光を集光して観測装置17に入射するための集光レンズ51を、ビームスプリッタ31と観測装置17との間で、かつ、加工レーザ光が照射されない位置に配置することが好ましい。
【0084】
レーザ発振器13から照射されるレーザビームの発振波長は920~1080nmである。
【0085】
レーザビームの加工対象物表面における焦点位置の確認と調整について説明する。レーザビーム照射用光学ユニット4におけるレーザ発振器13から、観測用可視光線(400~700nm)を入射する。入射した観測用可視光線は、エネルギー分布制御用光学素子24によって、加工対象物の表面14における観測用可視光線のスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなる略平行光に変換される。この略平行光の観測用可視光線は、ビームスプリッタ31を透過する。そしてビームスプリッタ31の透過光は、集光レンズ61で集光され加工対象物の表面14に照射される。
【0086】
加工対象物の表面14において、観測用可視光線は、レーザビーム照射用光学ユニット4と加工対象物との位置関係に応じた焦点状態の像を結ぶ。この、加工対象物の表面14で像を結んだ観測用可視光線は、加工対象物の表面14で反射する。そして、加工対象物の表面14からの反射光は、集光レンズ61を介して略平行光に変換され、ビームスプリッタ31で反射される。この反射光が、集光レンズ51を介して、観察光として観測装置17に入射する。観測装置17で観測光を観測することによって、加工対象物の表面14における観測光の結像状態を観測することができ、レーザビーム照射用光学ユニット1の焦点位置を確認し、調整することができる。
【0087】
次に、レーザビームの動きについて説明する。レーザ発振器13からレーザビーム照射用光学ユニット4に入射されるレーザビームは、エネルギー分布制御用光学素子21によって、加工対象物の表面14におけるレーザビームのスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなる略平行光に変換される。この略平行光のレーザビームは、ビームスプリッタ31を透過する。そしてビームスプリッタ31の透過光は、集光レンズ61で集光され加工対象物の表面14にスポット15を形成する。加工対象物のスポット15では、加工対象物の表面14がレーザビームのエネルギーによって、加熱溶解する。
【0088】
そして、レーザビーム照射用光学ユニット4は、以下に示す条件式(3)、(4)のうち、少なくとも1つを満足することが好ましい。
0<NA・φ・(f2/f3)<0.036 ・・・(3)
但し、NA:レーザ発振器から出力されるレーザ光線の開口数。
φ:レーザ発振器の光ファイバーの直径(mm)。
f2:エネルギー分布制御用光学素子の焦点距離(mm)。
f3:エネルギー分布制御用光学素子と加工対象物との間に配される集光レンズの焦点距離(mm)。
【0089】
100<f3<400 ・・・(4)
【0090】
条件式(3)において、NA・φ・(f2/f3)の値が0.036以上になると、スポットにおけるレーザビームの径が大きくなり、その2倍に比例して環状形状の径も大きくなる。この環状形状の径が大きいと、環状部の面積が大きくなるのでスポット15における単位面積当たりのレーザビームのエネルギー強度が弱くなってしまう。したがって、加工対象物の溶融ができなくなり、好ましくない。
【0091】
条件式(4)において、f3は、レーザビーム照射用光学ユニット4において、ビームスプリッタ31と加工対象物の表面14との間に配される集光レンズ61の焦点距離(ワーキングディスタンス)を示している。f3の値が100以下であると、レーザビームで加工対象物を加工中に発生するスパッタが、レーザビーム照射用光学ユニット4における集光レンズの加工対象物の表面14側に配される保護ガラスに付着してしまう。保護ガラスにスパッタが付着すると、レーザビームの透過率が低下してしまい好ましくない。一方、f3の値が400以上であると、f3/f2、つまり倍率が大きくなり、スポット15におけるレーザビームの環状の線幅が大きくなってしまい、スポット15における単位面積当たりのレーザビームのエネルギー強度が弱くなってしまう。したがって、加工対象物の溶融ができなくなり、好ましくない。
【0092】
実施形態3は、上述した条件式(3)、(4)を同時に満足することがより好ましい。
【0093】
以上のレーザビーム照射用光学ユニット4は、レーザビームを用いて加工対象物を加熱溶解して加工することができる。さらに、観測装置を用いて、レーザビーム照射用光学ユニット1の焦点位置を確認し、調整することができる。また、加工対象物のスポット部から放射される観測光を観測することができる。このとき、加工対象物から観測装置までの光路に観測光の映像を歪ませる光学素子が存在しないことから、レーザのリング状の集光位置の確認や、加工対象物の加工状態をリアルタイムに精度良く観測することができる。
【0094】
〔実施形態3の変形例〕
次に、実施形態3の変形例を
図5に示す。
図5は、実施形態3の変形例のレーザビーム照射用光学ユニット5の光学素子の配置構成とレーザビーム及び観測光の略軌道を示す断面図を示している。レーザビーム照射用光学ユニット4との違いは、ビームスプリッタ31とは異なるビームスプリッタ32(上述の第2のビームスプリッタ)を用いることである。以下、レーザビーム照射用光学ユニット4との違いについて説明する。
【0095】
ビームスプリッタ32は、第1のビームスプリッタとは異なり、近赤外波長帯域のレーザビームの入射光(加工レーザ光)を99%以上反射し、約400~700nmの可視光波長帯域の入射光の30%以上98以下を透過する。したがって、ビームスプリッタ32を用いるレーザビーム照射用光学ユニット5は、加工レーザ光の照射軌道において、照射軌道の光軸16はビームスプリッタ32の表面で直角に軌道を変更し、照射軌道の光軸18となる。
【0096】
すなわち、レーザビーム照射用光学ユニット5は、レーザ発振器13側にエネルギー分布制御用光学素子25と、加工対象物の表面14側にビームスプリッタ32とを、照射軌道の光軸16に沿って配している。そして、照射軌道の光軸16は、ビームスプリッタ32の表面で直角に軌道を変更し、照射軌道の光軸18となる。そして、集光レンズ61を照射軌道の光軸18に沿って配している。
【0097】
また、ビームスプリッタ32を透過した観測光を観測装置17に導く観察光路を備えている。このとき、観測光路の光軸12は、照射軌道の光軸16に対して垂直に位置しており、かつ、照射軌道の光軸18と同じ直線上に位置している。そして、観測光路の光軸12に沿って集光レンズ51を配している。
【0098】
エネルギー分布制御用光学素子25は、スポット15として、形状が環状のスポットを形成するようにレーザビームを変換する。そして、エネルギー分布制御用光学素子25は、略コリメート機能も備えている。このとき、エネルギー分布制御用光学素子25が備える光学有効面の少なくとも1面は、アキシコンレンズ、非球面レンズ、回折レンズのいずれかを採用するものである。
【0099】
レーザビームの加工対象物表面における焦点位置の確認と調整について説明する。レーザビーム照射用光学ユニット5におけるレーザ発振器13から、観測用可視光線(400~700nm)を入射する。入射した観測用可視光線は、エネルギー分布制御用光学素子25によって、加工対象物の表面14における観測用可視光線のスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなる略平行光に変換される。この略平行光の観測用可視光線は、ビームスプリッタ32で反射され、90度軌道変更される。そしてビームスプリッタ32の反射光は、集光レンズ61で集光され、加工対象物の表面14に照射される。
【0100】
加工対象物の表面14において、観測用可視光線は、レーザビーム照射用光学ユニット4と加工対象物との位置関係に応じた焦点状態の像を結ぶ。この、加工対象物の表面14で像を結んだ観測用可視光線は、加工対象物の表面14で反射する。そして、加工対象物の表面14からの反射光は、集光レンズ61で略平行光に変化される。集光レンズ61で略平行光に変換された加工対象物の表面14からの反射光は、ビームスプリッタ32を透過し、集光レンズ51を介して、観察光として観測装置17に入射する。観測装置17でこの観測光を観測することによって、加工対象物の表面14における観測光の結像状態を観測することができ、レーザビーム照射用光学ユニット5の焦点位置を確認し、調整することができる。
【0101】
次に、レーザビーム照射用光学ユニット5における、レーザビームの動きについて説明する。レーザ発振器13からレーザビーム照射用光学ユニット5に入射されるレーザビームは、エネルギー分布制御用光学素子25によって、加工対象物の表面14におけるレーザビームのスポット形状が、環状となるもの、もしくは、環状と環状の中心部における点状とからなる略平行光に変換される。この略平行光のレーザビームは、ビームスプリッタ32で反射され、90度軌道変更される。そしてビームスプリッタ32の反射光は、集光レンズ61で集光されて、加工対象物の表面14に集光しスポット15を形成する。加工対象物のスポット15では、加工対象物の表面14がレーザビームのエネルギーによって、加熱溶解する。
【0102】
そして、レーザビーム照射用光学ユニット5は、上述の条件式(3)、(4)のうち、少なくとも1つを満足することが好ましい。
【0103】
条件式(3)において、NA・φ・(f2/f3)の値が0.036以上になると、スポットにおけるレーザビームの径が大きくなり、その2倍に比例して環状形状の径も大きくなる。この環状形状の径が大きいと、環状部の面積が大きくなるのでスポット15における単位面積当たりのレーザビームのエネルギー強度が弱くなってしまう。したがって、加工対象物の溶融ができなくなり、好ましくない。
【0104】
条件式(4)において、f3は、レーザビーム照射用光学ユニット5において、ビームスプリッタ31と加工対象物の表面14との間に配される集光レンズ61の焦点距離(ワーキングディスタンス)を示している。f3の値が100以下であると、レーザビームで加工対象物を加工中に発生するスパッタが、レーザビーム照射用光学ユニット5における集光レンズの加工対象物の表面14側に配される保護ガラスに付着してしまう。保護ガラスにスパッタが付着すると、レーザビームの透過率が低下してしまい好ましくない。一方、f3の値が400以上であると、f3/f2、つまり倍率が大きくなり、スポット15におけるレーザビームの環状の線幅が大きくなってしまい、スポット15における単位面積当たりのレーザビームのエネルギー強度が弱くなってしまう。したがって、加工対象物の溶融ができなくなり、好ましくない。
【0105】
実施形態3の変形例は、上述した条件式(3)、(4)を同時に満足することがより好ましい。
【0106】
B.本件発明に係るレーザ加工装置
本件発明に係るレーザ加工装置は、レーザ加工装置のレーザ加工ヘッドに、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットの実施形態1から実施形態3、及びその変形例のいずれか1つのレーザビーム照射用光学ユニットを収容して得られるものである。
【0107】
また、本件発明に係る観測装置は、前述の観察光を観測できるものであれば、いかなる観測装置も用いることができる。
【0108】
以上のことから、本件発明に係るレーザ加工装置は、レーザ加工装置のレーザ加工ヘッドに、本件発明に係るレーザビーム照射用光学ユニットの実施形態1から実施形態3、及びその変形例のいずれか1つのレーザビーム照射用光学ユニットを収容しているので、加工対象物にレーザビームを照射して、加熱溶解による加工対象物の加工を行うことができる。また、レーザビーム照射用光学ユニットの焦点位置を確認し、調整することができる。さらに、加工対象物のスポット部から放射される観測光を観測することができる。このとき、加工対象物から観測装置までの光路に観測光の映像を歪ませる光学素子が存在しないことから、レーザのリング状の集光位置の確認や、加工対象物の加工状態をリアルタイムに精度良く観測することができる。
【0109】
以上説明した本件発明に係る実施の形態は、本件発明の一態様であり、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、以下実施例を挙げて本件発明をより具体的に説明するが、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0110】
実施例1は、実施形態1のレーザビーム照射用光学ユニット1において、以下の数値を採用した。
NA=0.12
φ=0.1mm
f1=200mm
f2=200mm
【0111】
このとき、条件式(1)のNA・φ・(f1/f2)と、条件式(2)のf1-2・21/2・NA・f2を計算した結果を以下に示す。この計算結果から、実施例1は、条件式(1)、(2)を満足することを確認した。
NA・φ・(f1/f2)=0.012
f1-2・21/2・NA・f2=132