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特開2022-63998スカーフユニットおよびスカーフ装置ならびに溶削方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022063998
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】スカーフユニットおよびスカーフ装置ならびに溶削方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/06 20060101AFI20220418BHJP
   F23D 14/56 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
B23K7/06 K
B23K7/06 H
B23K7/06 Z
F23D14/56 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172458
(22)【出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000229036
【氏名又は名称】日本スピング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】藤久保 力夫
【テーマコード(参考)】
3K017
【Fターム(参考)】
3K017CB02
(57)【要約】
【課題】スキッドがステライト製の従来品よりもコスト面で有利なスカーフユニットおよびスカーフ装置、さらには溶削方法を提供する。
【解決手段】ヘッドと、燃料ガス第1噴出口とシールド用酸素ガス噴出口を備えた上部予熱ブロックと、燃料ガス第2噴出口を備えた下部予熱ブロックと、被溶削物と接触するスキッドと該スキッドが取り付けられたシュー本体を備えたシューブロックを有しており、前記ヘッドの前面側に、前記上部予熱ブロックと前記下部予熱ブロックとが間を開けて溶削用酸素ガス噴出スロットを構成するように配設されているとともに、前記ヘッドの下面側に前記シューブロックが配設された、前記被溶削物を溶削するスカーフユニットであって、前記スキッドの材質がベリリウム銅であるスカーフユニット。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドと、燃料ガス第1噴出口とシールド用酸素ガス噴出口を備えた上部予熱ブロックと、燃料ガス第2噴出口を備えた下部予熱ブロックと、被溶削物と接触するスキッドと該スキッドが取り付けられたシュー本体を備えたシューブロックを有しており、
前記ヘッドの前面側に、前記上部予熱ブロックと前記下部予熱ブロックとが間を開けて溶削用酸素ガス噴出スロットを構成するように配設されているとともに、前記ヘッドの下面側に前記シューブロックが配設された、前記被溶削物を溶削するスカーフユニットであって、
前記スキッドの材質がベリリウム銅であることを特徴とするスカーフユニット。
【請求項2】
前記上部予熱ブロックと、前記下部予熱ブロックと、前記シュー本体の材質が銅であることを特徴とする請求項1に記載のスカーフユニット。
【請求項3】
被溶削物を載せて搬送するローラーテーブルと、該ローラーテーブルにより搬送される前記被溶削物を溶削する1つ以上のスカーフユニットを有するスカーフ装置であって、
前記スカーフユニットが、請求項1または請求項2に記載のスカーフユニットであることを特徴とするスカーフ装置。
【請求項4】
前記被溶削物の形状が直方体であり、
前記スカーフユニットが前記直方体の被溶削物における二面または四面に対して配設されており、該被溶削物における二面または四面を同時に溶削可能なものであることを特徴とする請求項3に記載のスカーフ装置。
【請求項5】
被溶削物を溶削する溶削方法であって、
請求項3または請求項4に記載のスカーフ装置を用い、
前記ローラーテーブルに載せた前記被溶削物に対し、前記スカーフユニットにおける前記燃料ガス第1噴出口および前記第2噴出口から燃料ガスを供給するとともに前記シールド用酸素ガス噴出口から酸素ガスを供給し、前記被溶削物を予熱して溶融ノロを発生させた後、
前記ローラーテーブルにより前記予熱した被溶削物を前記スカーフユニット側に向かって搬送するとともに、前記シューブロックの前記スキッドを前記被溶削物に接触させつつ前記溶削用酸素ガス噴出スロットから酸素ガスを供給して前記被溶削物を溶削することを特徴とする溶削方法。

前記被溶削物の形状が直方体であり、
前記スカーフユニットが前記直方体の被溶削物における二面または四面に対して配設されており、該被溶削物における二面または四面を同時に溶削可能なものであること
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスカーフユニットおよびスカーフ装置ならびに溶削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶削(スカーフィング)とは、通常、被溶削物(例えば鋼片)の脱炭層及び表面の疵(キズ)を酸素と燃料ガスの熱化学的酸化反応により除去する工程である(特許文献1)。製鉄所では鋼片の圧延前に行う表面処理である。この溶削を行う装置はスカーフ装置(またはスカーフィング装置)と呼ばれ、世界各地の製鉄所に設けられている。
【0003】
スカーフ装置は、主には、鋼片等の被溶削物を載せて搬送するローラーテーブルと、該ローラーテーブルにより搬送される被溶削物を溶削するためのスカーフユニットから構成されている。このスカーフユニットから予熱のための炎(予熱炎)を被溶削物の表面に当てて予熱を行い、溶融ノロを発生させる。その後、溶削のための炎(溶削炎)に切り替えて、溶融ノロに大量の酸素を吹付けると同時に、ローラーテーブルを用いて被溶削物をスカーフユニットに向かって前進させて、酸化反応による溶融ノロを発生させながら溶削を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-76060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スカーフユニットは、溶削時に被溶削物と対向するシューブロックを有しており、該シューブロックのスキッドと被溶削物とを接触させながら溶削が行われる。この被溶削物との接触部であるスキッドとして、従来、コバルトを主成分とし、クロムやタングステンなどからなる合金であるステライトが用いられている。なおステライトには種類があり、その種類によってクロム等の含有率が異なる。例えばステライト#21ではタングステンの含有は無い。
【0006】
しかしながら、このコバルト基合金であるステライトの材料費はレアメタルであるコバルトの価格に左右されやすく、コバルトの価格高騰の場合にコスト面で厳しくなる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、スキッドがステライト製の従来品よりもコスト面で有利なスカーフユニットおよびスカーフ装置、さらには溶削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、ヘッドと、燃料ガス第1噴出口とシールド用酸素ガス噴出口を備えた上部予熱ブロックと、燃料ガス第2噴出口を備えた下部予熱ブロックと、被溶削物と接触するスキッドと該スキッドが取り付けられたシュー本体を備えたシューブロックを有しており、
前記ヘッドの前面側に、前記上部予熱ブロックと前記下部予熱ブロックとが間を開けて溶削用酸素ガス噴出スロットを構成するように配設されているとともに、前記ヘッドの下面側に前記シューブロックが配設された、前記被溶削物を溶削するスカーフユニットであって、
前記スキッドの材質がベリリウム銅であることを特徴とするスカーフユニットを提供する。
【0009】
このようなものであれば、スキッドに関して、レアメタルであるコバルトをベースとするステライト製の従来品に比べてコスト面で有利に用意することができる。コバルトの価格が高騰化してもコストアップするのを防止することができる。これらの結果、鋼片等の溶削コストの低減を図ることができる。
また、ベリリウム銅であればステライトと遜色ない硬度が確保出来る。そのためスキッドが割れて被溶削物を損傷してしまうのを効果的に防ぐことができる。
また、ベリリウム銅は優れた冷却効果を持つため(熱伝導率が優れているため)、熱損傷を受ける量を減らすことができる。更に非磁性の為、溶融ノロやスケールを吸着することなく硬度の面からアグレッシブ摩耗に対しての効果もある。このように、耐熱性、耐摩耗性に優れたものとなる。
【0010】
このとき、前記上部予熱ブロックと、前記下部予熱ブロックと、前記シュー本体の材質が銅であるものとすることができる。
【0011】
このように上部予熱ブロック等として、冷却効果を考慮して、熱伝導率が優れている材質として銅が好ましい。
【0012】
また本発明は、被溶削物を載せて搬送するローラーテーブルと、該ローラーテーブルにより搬送される前記被溶削物を溶削する1つ以上のスカーフユニットを有するスカーフ装置であって、
前記スカーフユニットが、上記の本発明のスカーフユニットであることを特徴とするスカーフ装置を提供する。
【0013】
このようなものであれば、コスト面で有利なスカーフ装置となり、鋼片等の溶削コストの低減を図ることができる。
また、スカーフ装置自体の品質としても、従来品と同等、あるいはそれ以上のものとすることができる。
【0014】
また、前記被溶削物の形状が直方体であり、
前記スカーフユニットが前記直方体の被溶削物における二面または四面に対して配設されており、該被溶削物における二面または四面を同時に溶削可能なものとすることができる。
【0015】
このようなものであれば、鋼片等の被溶削物を効率良く溶削可能なものとなる。
【0016】
また本発明は、被溶削物を溶削する溶削方法であって、
上記の本発明のスカーフ装置を用い、
前記ローラーテーブルに載せた前記被溶削物に対し、前記スカーフユニットにおける前記燃料ガス第1噴出口および前記第2噴出口から燃料ガスを供給するとともに前記シールド用酸素ガス噴出口から酸素ガスを供給し、前記被溶削物を予熱して溶融ノロを発生させた後、
前記ローラーテーブルにより前記予熱した被溶削物を前記スカーフユニット側に向かって搬送するとともに、前記シューブロックの前記スキッドを前記被溶削物に接触させつつ前記溶削用酸素ガス噴出スロットから酸素ガスを供給して前記被溶削物を溶削することを特徴とする溶削方法を提供する。
【0017】
このようにすれば、鋼片等の被溶削物を、コスト面でより有利に、かつ、高品質に溶削することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明のスカーフユニットおよびスカーフ装置ならびに溶削方法であれば、ステライト製のスキッドを用いる従来に比べてコスト面で有利に用意することができ、その結果、スカーフユニット、スカーフ装置、溶削に要するコストを低減することができる。また、スカーフユニット、スカーフ装置自体の品質も良いものとすることができ、そのため高品質に溶削された製品を得ることができる。本発明であれば、スキッドが十分な硬度を確保できる上に、冷却効果、耐熱性、耐摩耗性が優れており、また非磁性による溶融ノロ等の吸着防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のスカーフ装置の一例を示す説明図である。
図2】被溶削物とその二面に対して配設したスカーフユニットの位置関係を示す説明図である。
図3】被溶削物とその四面に対して配設したスカーフユニットの位置関係を示す説明図である。
図4】本発明のスカーフユニットの一例を示す説明図である。
図5】被溶削物の表面側の主面と対向して配設されるシューブロックの下面の一例を示す説明図である。
図6】スカーフユニット周りの一例を示す説明図である。
図7】予熱工程の様子を示す説明図である。
図8】溶削工程の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について図面を参照して実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1に本発明のスカーフ装置の一例を示す。溶削に関わる主要な箇所を図示している。なお、ここでは被溶削物として鋼片Sを例に挙げて説明する。より具体的には板状(直方体)のもの(鋼板)を例に挙げて説明するが、本発明のスカーフ装置1の溶削対象やその形状はこれに限定されない。
【0021】
本発明のスカーフ装置1は、鋼片Sを載せて搬送するローラーテーブル2と、該ローラーテーブル2により搬送される鋼片Sを溶削する1つ以上の本発明のスカーフユニット3を備えている。なお、図1ではスカーフユニット3を簡単に直方体で図示しているが、より具体的な形状、構成例については後述する図4に示す。
ローラーテーブル2は複数のローラー4が並んで配置されており、不図示の駆動源によりローラー4を回転させることができ、該ローラー4の回転により、ローラー4上の搬送物(鋼片S)をスカーフユニット3に対して前後方向に自在に搬送可能になっている。
【0022】
また、スカーフユニット3が鋼片Sの二面に対して配設されている。より具体的には、スカーフユニット3は鋼片Sの上面(表側の主面)と左側面(1つの側面)に対して配設されている。図2は、図1での矢印Aの方向に沿って見た、被溶削物(鋼片S)とその二面に対して配設したスカーフユニット3の位置関係を示す説明図である。鋼片Sの上面側に3つのスカーフユニット3が位置するようにして構成されている(4つ並べて配設されており、そのうちの3つで上面を覆っている)。また鋼片Sの左側面の側に1つのスカーフユニット3が位置している。このような配設のものは、鋼片Sの二面を同時に溶削可能なものである。なお、鋼片Sの各面ごとに配設するスカーフユニット3の数は特に限定されず、各面のサイズに応じて適宜決定することができる。1つしか配設しないこともできるし、複数を並べて配設することも可能である。
他の実施形態として、図3にスカーフユニット3を鋼片Sの四面に対して配設した場合の例を示す。直方体の鋼片Sの上下面(表側と裏側の主面)の他、2つの側面側(左側面、右側面)にも各々スカーフユニット3が配設されており、鋼片Sを囲った状態となっている。具体的には、上面、下面に対して、各々4つ並べて配設しており、そのうちの3つで覆っている。また、左側面、右側面に対して、各々1つ配設している。このような構成のものは、鋼片Sの四面を同時に溶削可能なものである。
なお、これらに限定されず、鋼片Sの一面に対してのみスカーフユニット3を配設し、一面のみ溶削する構成とすることもできる。
溶削すべき面が複数である場合は、図2、3のようにスカーフユニット3を複数配設して複数面を同時溶削可能な構成としておくと効率良く溶削できるので好ましい。
【0023】
これらのスカーフユニット3の動作とローラーテーブル2の動作は連動可能になっている。またスカーフユニット3はシリンダーを有する機構(不図示)で支持されており、自在に上下左右に動くことができるようになっている。スカーフユニット3はローラーテーブル2で搬送されて送り出されてくる鋼片Sの表面と接触しつつ溶削を行うことになるが、上記のシリンダー機構によってその鋼片Sの表面形状に沿って滑らかに上下方向や左右方向に動くようになっている。
【0024】
以下では、上記の本発明のスカーフユニット3について詳述する。図4に本発明のスカーフユニット3の一例を示す。鋼片Sに対して酸素と燃料ガスを供給して熱化学的反応によって鋼片Sの表面に存在する脱炭層や疵を除去するための機構を備えたものである。
まず本発明のスカーフユニット3は大きく分けて、ヘッド5と、上部予熱ブロック6と、下部予熱ブロック7と、シューブロック8とからなっている。
なお、ヘッド5としては例えば真鍮製のものが挙げられる。また上部予熱ブロック6、下部予熱ブロック7、シューブロック8としては、例えば銅製のものとすることができる。銅製であれば、熱伝導率が優れており、高い冷却効果を発揮することができるので好ましい。ただし、これらの材質は特に限定されるものではない。
【0025】
ヘッド5は、酸素ガスや燃料ガスを、後述する各ブロックの噴出口や溶削用酸素ガス噴出スロットに送るための集合配管を備えた構造となっている(マニホールド構造)。なお、この他、各ブロックの水冷用の水も送れるようになっている。
【0026】
このヘッド5の前面側には、上部予熱ブロック6が配設されていると共に下部予熱ブロック7が配設されている。なお、これらの2つのブロックは間を開けるようにして配設されている。この2つのブロックの間が溶削用酸素ガス噴出スロット9を構成しており、酸素ガスを噴出可能になっている。
また上部予熱ブロック6には、燃料ガス第1噴出口10とシールド用酸素ガス噴出口11が備えられている。また下部予熱ブロック7には燃料ガス第2噴出口12が備えられている。各々、酸素ガスまたは燃料ガスが噴出可能になっている。
燃料ガスの例としては、LPGやLNG、コークスガスが挙げられる。
【0027】
また、ヘッド5の下面側にはシューブロック8が配設されている。このシューブロック8はその本体(シュー本体13)にスキッド14が取り付けられている。図5に、鋼片Sの表面側(上面側)の主面と対向して配設されるシューブロック8の下面(鋼片Sとの接触面)の一例を示す。スキッド14は溶削時などにおいて鋼片Sと接触する箇所であり、5つのスキッド14がシュー本体13に設けられているが、その数や形状は特に限定されるものではない。
【0028】
そして、本発明のスカーフユニット3においてはスキッド14がベリリウム銅(例えば、ベリリウム銅アロイ25(C1720))からなっている。
従来のスカーフユニットではスキッドの材質は、コバルトが基合金であるステライト(例えばステライト♯21)であった。しかしながら、レアメタルであるコバルトはコストがかさみ、特に高騰した場合にコスト面で対応が難しい。
本発明のようにベリリウム銅製であれば、コバルトに比べて銅やベリリウムは入手しやすく、コスト面で極めて有利である。スキッドの材料費として、従来に比べてコストカットを図ることも可能である。
しかも、硬度に関しては従来品のようなステライトと比較しても遜色ない。例えばステライト#21の硬度はHRC35程度(HV350)であるのに対して、ベリリウム銅はHV190~330、さらにはスキッド作製時の時効処理効果によってHV400程度の硬度も期待できる。したがってスキッドが割れたり欠けたりして、鋼片Sの損傷が発生するのを十分に防止することが期待できる。
【0029】
この他、ベリリウム銅であれば熱伝導率が優れており、冷却効率も高い(鉄の7倍)ため、スキッド自体が熱損傷の発生防止に効果的である。すなわち、スキッドのヒートクラックの発生の低減につなげることができる。耐熱性、耐摩耗性に優れているため有用である。
【0030】
上記のベリリウム銅製のスキッド14のシュー本体13への作製方法は特に限定されないが、例えば作業員による溶接により作製することができる。この場合、ベリリウム銅ということで毒性があるため、溶接時のヒュームを作業員が吸引しないように管理する。具体例としては排気口(バキューム)を作業スペース近傍に設けて局所排気するなどし、作業員によるヒュームの吸引を防ぐと良い。
また、ベリリウム銅はステライトと異なり、ブロック状で市販等されており入手可能であるため、そのブロックをスキッドの形状に加工し、ビス留めによりシュー本体13に固定したり、シュー本体13に差込口等を形成してそこにブロックをはめ込むなどして固定することも可能である。
【0031】
ところで本発明のスカーフ装置1(ここでは例として図3の形態)においては、図6に示すように、上記のスカーフユニット3の傍には、溶削前の予熱開始時に点火の役割を果たすイグナイター15や、高圧水ノズル16、16’、スモークフード17が配設されている。スモークフード17は鋼片S周りを囲っている。高圧水ノズル16は、予熱、溶削時に発生する溶融ノロ(鋼片Sの上下面から発生)を鋼片Sの周囲から高圧水を水平方向に噴出することにより吹き飛ばすものである。その吹き飛ばされた溶融ノロは高圧水と共に、高圧水ノズル16の反対側に配設されているスモークフード17の内壁に当たり、スモークフード17内の高圧水により下方へ落とされ、不図示のスケールピットに流れるようになっている。
また上記説明は、鋼片Sの上下面からの溶融ノロを高圧水ノズル16からの水平方向の高圧水により吹き飛ばす仕組みに関するものだが、この他に、垂直方向に高圧水を噴出し、鋼片Sの左右の2つの側面からの溶融ノロを吹き飛ばす別の高圧水ノズル16’を設けることもできる。この垂直方向の高圧水ノズル16’により、2つの側面からの溶融ノロをスケールピットに落とすことができる。
【0032】
以上のような本発明のスカーフユニット3、また、これを備えたスカーフ装置1であれば、スキッド14、さらには装置全体として、従来品に比べてコスト的に優れたものとすることができる。その結果、溶削に要するコストを低減することができ、ひいては製品(溶削物)価格の面でも有利である。またコスト面で有利なだけでなく、従来に比べて装置自体も製品も同程度の品質、あるいはより高品質なものを提供することができる。
【0033】
次に、上記の本発明のスカーフ装置1を用いた本発明の溶削方法について説明する。ここでは簡単のため、スカーフユニット3を鋼片Sの表面側(上面側)にのみ配設する場合を例に挙げて説明する。なお、本発明はこれに限定されず、当然、前述したように鋼片Sの二面または四面に対して配設し、鋼片Sの二面または四面を同時溶削することも可能である。
まず、ローラーテーブル2上に鋼片Sを載置し、スカーフユニット3側に向かって搬送する。このとき、スカーフユニット3はローラーテーブル2や鋼片Sに対して十分に上方の位置に配設されている。
鋼片Sの端部がスカーフユニット3の下にまで搬送された後、スカーフユニット3を鋼片Sへ向かって動かし(この場合、下降させて)、スキッド14を鋼片Sの表面(上面)に接触させる(クロージング工程)。
【0034】
接触後、スカーフユニット3を鋼片Sの表面から離す。この離す間隔はおよそ1/2インチ(約12.5mm)とすることができる。そしてローラーテーブル2により鋼片Sを少し引き(すなわち、スカーフユニット3から離れる方向に搬送する)、次の予熱工程においてスカーフユニット3からの予熱炎が鋼片Sの表面の端部にあたるように位置取りをする。
【0035】
次に、スキッド14が鋼片Sの表面に対して非接触の状態のまま、燃料ガス第1噴出口10と燃料ガス第2噴出口12から燃料ガスを高圧で噴出するとともに、シールド用酸素ガス噴出口11から大流量(例えば300~350kPa程度)の酸素ガス、溶削用酸素ガス噴出スロット9から小流量(例えば2kPa程度)の酸素ガスを噴出しつつ、イグナイター15により点火し、予熱炎を発生させ、鋼片Sの表面に溶融ノロを発生させる(予熱工程)。この予熱工程の様子を図7に示す。このときの予熱炎は、鋼片Sの幅方向に線状の集中炎となる。
予熱時間としては、例えば、鋼片Sが熱片の場合は5秒ほど、冷片の場合は60秒ほどとすることができる。
【0036】
溶融ノロが発生後、ガスの流量切り替えを行い、予熱炎から溶削炎へと切り替える。すなわち、溶削用酸素ガス噴出スロット9からは大流量(例えば200kPa程度)の酸素ガスを噴出する一方で、シールド用酸素ガス噴出口11からは噴出口保護のみのため小流量の酸素ガス、また、燃料ガス第1噴出口10と燃料ガス第2噴出口12からは小流量の燃料ガスを噴出するに留める。同時に、スカーフユニット3を鋼片Sへ向かって動かし(下降させて)、スキッド14を鋼片Sの表面に接触させつつ、ローラーテーブル2によって、鋼片Sをスカーフユニット3側へと搬送させる。このように溶融ノロに大量の酸素を吹き付けるとともに鋼片Sをスカーフユニット3に向かって前進させることで、酸化反応による溶融ノロを発生させながら次々と鋼片Sの表面を溶削していくことができる(溶削工程)。この溶削工程の様子を図8に示す。
【0037】
なお、鋼片Sには反りや曲りがあるが、上記のようにスカーフユニット3のスキッド14を鋼片Sの表面に接触させて密着させつつ溶削を行うことで(すなわち、スカーフユニット3と鋼片Sの距離を一定にしながら溶削を行うことで)、溶削代を鋼片Sの溶削面の全体において均一とすることができる。この溶削代としては、例えば1.5~4mm程度とすることができる。
また、溶削時には、図6で説明したような高圧水ノズル16、16’からの高圧水により不要な溶融ノロをスモークフード17の内壁へ向かって吹き飛ばしつつ溶削することができる。
以上のような本発明の溶削工程によって、高品質の溶削物をコスト面で有利に得ることができる。
【0038】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0039】
1…本発明のスカーフ装置、 2…ローラーテーブル、
3…本発明のスカーフユニット、 4…ローラー、 5…ヘッド、
6…上部予熱ブロック、 7…下部予熱ブロック、 8…シューブロック、
9…溶削用酸素ガス噴出スロット、 10…燃料ガス第1噴出口、
11…シールド用酸素ガス噴出口、 12…燃料ガス第2噴出口、
13…シュー本体、 14…スキッド、 15…イグナイター、
16、16’…高圧水ノズル、 17…スモークフード、
S…鋼片。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8