(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064034
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】緊張材の定着構造およびプレストレストコンクリート構造物の製作方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/12 20060101AFI20220418BHJP
E01D 1/00 20060101ALI20220418BHJP
E04B 1/06 20060101ALI20220418BHJP
E04C 5/12 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
E04G21/12 104B
E01D1/00 D
E04G21/12 104C
E04B1/06
E04C5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172522
(22)【出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 良弘
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅樹
【テーマコード(参考)】
2D059
2E164
【Fターム(参考)】
2D059AA05
2D059BB39
2E164AA05
2E164BA06
2E164BA12
2E164DA01
2E164DA22
(57)【要約】
【課題】緊張材をコンクリート構造物にしっかりと定着させ、コンクリート構造物に効率よくプレストレスを導入する。
【解決手段】定着構造は、挿通孔4が形成されたコンクリート構造物2の端部に配置され、挿通孔につながる貫通孔が形成された支圧板3と、構造物2の挿通孔および支圧板3の貫通孔に通され、その一端部が構造物2の外に出されるスリーブ7と、スリーブ7内に挿入され、一端部が構造物2の外に出される緊張材1と、構造物2の外に位置するスリーブ7の一端部に係合され、支圧板3の外面に接するロックナット8と、挿通孔内およびスリーブ内に充填されるPCグラウト15を備える。緊張材1はPCグラウト15の充填前に緊張され、かつPCグラウト15の強度発現後に緊張が解かれたものである。緊張材1がポアソン効果によって径方向外向きに膨張し、PCグラウト15に圧縮応力が発生している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿通孔が形成されたコンクリート構造物の外端部に配置され、上記コンクリート構造物の挿通孔につながる貫通孔が形成された支圧板と、
上記コンクリート構造物の上記挿通孔および上記支圧板の貫通孔に通され、その一端部が上記コンクリート構造物の外に出される中空のスリーブと、
上記スリーブ内に挿入され、一端部が上記コンクリート構造物に固定されかつ他端部が上記コンクリート構造物の外に出される緊張材と、
上記コンクリート構造物の外に出された上記スリーブの他端部に係合され、上記支圧板の外面に接するロックナットと、
上記挿通孔内およびスリーブ内に充填されたPCグラウトと、を備え、
上記緊張材は、上記PCグラウトが充填される前に、その一端部が固定された状態においてその他端部が緊張装置を用いて外向きに引っ張られることによって緊張され、かつ上記PCグラウトに所定の強度が発現した後に上記緊張装置を用いた緊張が解かれたものであり、
上記緊張材がポアソン効果によって径方向外向きに膨張しており、膨張した上記緊張材と上記スリーブとの間に充填されているPCグラウトに圧縮応力が発生していることを特徴とする、
緊張材の定着構造。
【請求項2】
コンクリート構造物内の両端部のそれぞれに配置された、貫通孔が形成された一対のロックナット兼支圧板と、
上記一対のロックナット兼支圧板のそれぞれに係合され、上記貫通孔につながる中空を備えるスリーブと、
コンクリート構造物内の両端部の上記ロックナット兼支圧板の貫通孔および中空のスリーブに通されて、両端部がコンクリート構造物の外に出される緊張材と、
上記スリーブ内に充填されるPCグラウトと、を備え、
上記緊張材は、上記PCグラウトが上記スリーブに充填されかつ上記コンクリート構造物を形成するコンクリートが打設される前に、その一端部が固定装置を用いて固定された状態においてその他端部が緊張装置を用いて外向きに引っ張られることによって緊張され、かつ上記PCグラウトおよび上記コンクリートに所定の強度が発現した後に上記緊張装置を用いた緊張が解かれたものであり、
上記緊張材がポアソン効果によって径方向外向きに膨張しており、膨張した上記緊張材と上記スリーブとの間に充填されているPCグラウトに圧縮応力が発生していることを特徴とする、
緊張材の定着構造。
【請求項3】
上記緊張材が連続繊維補強材である、
請求項1または2に記載の緊張材の定着構造。
【請求項4】
上記コンクリート構造物に中空のシース管が埋設されており、
上記シース管の中空が上記挿通孔として用いられる、
請求項1に記載の緊張材の定着構造。
【請求項5】
上記緊張材の直径をφ、ポアソン比をν、保証破断荷重時の引張歪をεuとし、上記スリーブの内半径をR、肉厚をt、弾性係数をEとした場合に、以下の式1によって算出される上記PCグラウトに発生する圧縮応力pが20から60MPaである、
請求項1から4のいずれか一項に記載の緊張材の定着構造。
p=φ/2×ν×(0.7×εu)×(t×E)/(R×R)・・・式1
【請求項6】
上記スリーブの内面および外面の少なくともいずれか一方に凹凸が形成されていることを特徴とする、
請求項1から5のいずれか一項に記載の緊張材の定着構造。
【請求項7】
上記コンクリート構造物の外端部に配置される支圧板が複数枚ではなく連続した一枚からなることを特徴とする、
請求項1に記載の緊張材の定着構造。
【請求項8】
上記支圧板のコンクリート構造物に対向する面に複数の凸部形状のせん断キーが設けられており、上記コンクリート構造物の上記支圧板に対向する面の、上記せん断キーに対応する位置に、上記せん断キーが入る凹部が形成されていることを特徴とする、
請求項1または7に記載の緊張材の定着構造。
【請求項9】
上記スリーブに、上記PCグラウトを上記スリーブ内に充填するための充填孔および空気を排出する空気排出孔が形成されている、
請求項2に記載の緊張材の定着構造。
【請求項10】
ポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物の製作方法であって、
挿通孔が形成されたコンクリート構造物の端部に、上記コンクリート構造物の挿通孔につながる貫通孔を備える支圧板を配置し、
中空のスリーブの一端部にロックナットを係合し、
上記スリーブを、上記支圧板の貫通孔を通じて上記コンクリート構造物の挿通孔に挿入し、上記スリーブの一端部のロックナットを上記支圧板上に載せ、
上記スリーブの中空に緊張材を挿入し、
上記緊張材の一端部を固定し、
上記緊張材の他端部に緊張装置を装着し、
上記緊張材を緊張させた状態で、上記スリーブと上記スリーブの中空に挿入された緊張材の隙間にも充填されるように、上記コンクリート構造物の挿通孔内にPCグラウトを充填し、
上記PCグラウトが所定の強度に達した後に、上記緊張材の緊張を解除する、
プレストレストコンクリート構造物の製作方法。
【請求項11】
プレテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物の製作方法であって、
型枠を用意し、
型枠内の両側端部に、中空のスリーブおよび上記スリーブに係合されたロックナット兼支圧板を、上記ロックナット兼支圧板が上記型枠内の側端部に接するように設置し、
上記型枠の両側端部に形成された取付穴を通じて緊張材を型枠内に挿入し、上記緊張材の両端部を型枠の両側端部からそれぞれ外に出し、型枠内においては上記緊張材を上記型枠内の両側端部に設置されたスリーブ内に挿入し、
型枠の一方側端部から型枠の外に出ている上記緊張材の一端部に固定装置を装着し、
型枠の他方側端部から型枠の外に出ている上記緊張材の他端部に緊張装置を装着し、
上記緊張材の他端部を緊張装置を用いて緊張し、
上記緊張材を緊張させた状態で、上記型枠内の両側端部のスリーブ内にPCグラウトを充填し、
上記型枠内にコンクリートを打設し、
上記PCグラウトおよび上記コンクリートが所定の強度に達した後に、上記緊張材の緊張を解く、
プレストレストコンクリート構造物の製作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊張材の定着構造およびプレストレストコンクリート構造物の製作方法に関する。本発明の緊張材の定着構造は、ポストテンション方式によって製作されるプレストレストコンクリート構造物およびプレテンション方式によって製作されるプレストレストコンクリート構造物の両方に適用できる。
【背景技術】
【0002】
従来、連続繊維補強材をプレストレストコンクリート構造物の緊張材として適用するメリットは、従来のPC鋼ストランドを緊張材として適応するよりも、多くのメリットがあるとされていた。最大のメリットは、連続繊維補強材は錆びることがなく、また厳しい環境下においても劣化リスクが少ないことである。また、連続繊維補強材の中で、素線の材質が炭素繊維を用いた素線をロープ状に加工した炭素繊維補強材の破断応力の70%は、約3600N/mm2であるのに対して、PC鋼ストランドの場合は約1300N/mm2となり、約2.8倍の高い引張強度を有する。また、単位破断荷重および単位長さ当たりの炭素繊維補強材の自重は0.76g/m/kNに対して、PC鋼ストランドの場合は4.23g/m/kNとなり、約1/5.6と軽量であることがわかる。そのために、コンクリートにプレストレスを導入するにあたり、PC鋼ストランドに比較して少ない断面積の緊張材を配置することができ、また緊張材の施工にあたり施工手間が低減できる。
【0003】
最近、プレストレストコンクリート構造物の耐久性保持の観点から、初期の建設投資費用の他に、維持管理費用まで含めたライフサイクルコストで施設の利用計画を行うようになり、このような観点からは、緊張材として連続繊維補強材を適用することも検討の視野に入れるような傾向がある。
【0004】
しかしながら、連続繊維補強材を主要な緊張材料として適用するためには、解決しなければならない課題がある。その一つが連続繊維補強材の緊張時における定着構造に関する課題である。従来のPC鋼ストランドでは、鋼製クサビとアンカーヘッドにより、直接、PC鋼ストランドの任意の位置を把持して緊張ジャッキを使用して緊張力の導入や、アンカーヘッドを介して支圧板に定着する工法を採用してきた。この工法の最大のメリットは、鋼製クサビはPC鋼ストランドの任意の位置で把持と開放ができること、また、鋼製クサビとアンカーヘッドは、コンパクトな装置で大きな緊張力をプレストレストコンクリート構造物に導入することができるなど、優れた技術であり、PC鋼ストランドを適用したプレストレストコンクリート構造物の施工にあたり、多大な貢献をしてきた。
【0005】
つまり、PC鋼ストランドと鋼製クサビの組合せでは、鋼製クサビのPC鋼ストランドに接する部分には、鋼製クサビ表面にクサビ効果によりPC鋼ストランドの表面に食い込むような凹凸が加工されていて、これにより、PC鋼ストランドと鋼製クサビはグリップした状態を保持することができ、緊張力をアンカーヘッドに伝達することが可能となる。
【0006】
一方、緊張材として優れた特徴を有する連続繊維補強材の定着構造として、PC鋼ストランドに適用する鋼製クサビとアンカーヘッドをそのまま適用することは不可能である。仮に、PC鋼ストランドに適用する同等の鋼製クサビを連続繊維補強材に適用した場合には、鋼製クサビ表面はクサビ効果により連続繊維補強材の表面に食い込むことは可能であるが、連続繊維補強材の食い込み部におけるせん断抵抗は期待することができない。それは、連続繊維補強材の表面は、非常に柔らかく、食い込み部の連続繊維補強材表面は、すぐに削り取られてしまうか、あるいは、クサビの食い込みを大きく取ると連続繊維補強材が切断されるなど、グリップ効果は期待できず、定着構造として適用不可能である。
【0007】
現在、連続繊維補強材の定着構造として、実務的に実施されている技術は、以下の2種類の定着構造に限定されている。その1つは、緩衝材を連続繊維補強材に巻き付けて、その外側にクサビを適用する方式の定着構造である。鋼製クサビを適用するが、クサビテーパ角度を調整するために、PC鋼ストランド用の鋼製クサビよりは長くなり、また、鋼製クサビは専用のジャッキを使用してアンカーヘッドに押込む必要があるなど、施工上に制約条件がある。そのために、ポストテンション用緊張材として適用することはできなく、プレテンションのPC鋼ストランドと連続繊維補強材の接続治具として使用されている。
【0008】
連続繊維補強材をポストテンション用緊張材として用いるときに実績のある定着構造は、鋼管スリーブ内に膨張剤を充填して製造した、膨張剤充填方式の定着構造である。この定着構造の基本的原理は、連続繊維補強材と鋼管スリーブ内に充填した膨張剤の膨張圧縮応力を利用して、連続繊維補強材と鋼管スリーブのせん断抵抗力の向上を図ったものである。この定着方式は、ポストテンションのために緊張材を緊張する時の、固定定着と緊張定着の両方に適用することが可能である。しかし、膨張剤の充填後の強度発現と膨張量制御のための温度および湿度管理が必要であり、このため工場生産が必要とされる。工場出荷時には連続繊維補強材の長さや膨張剤方式の定着構造の定着位置が固定されている。
【0009】
本発明に関連する既往の特許文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9-53325号公報
【特許文献2】特開2005-76388号公報
【特許文献3】特願2011-526788号公報
【0011】
特許文献1は、従来の大型接続部材で接続して牽引することにより、モルタル注入量が増大する課題を解決することを開示する。つまり、繊維複合線状材の中間部にソケット内に硬化する合成樹脂材又は定着用膨張材を注入して、硬化した合成樹脂材又は定着用膨張材で繊維複合線条材に一体化した定着体を設けて、緊張後に中間定着体により構造物に定着するものである。
【0012】
定着体の構造としてソケットと繊維複合線状材の隙間に合成樹脂材又は定着用膨張材を注入する方法は、公知の事実である。特許文献1の方法では、緊張前に中間定着体の位置を特定して装着しておく必要があるが、実際の緊張作業においては、構造物の長さが設計図と異なることや、緊張時の種々の摩擦抵抗により、繊維複合線状材の緊張による伸び量が変化する。従って、予め中間定着体を設置する必要がある特許文献1の発明は、現実的ではない。
【0013】
特許文献2は、高強度繊維複合材ケーブルの端末定着体として、工場ではなく現場で加工できるようにするために、スリーブの中間部に膨張性充填材通過用孔とケーブル挿通孔を貫設した可縮性の緩衝間仕切り材を設けて、膨張性充填材の膨張圧を長さ方向に均一にしたものを開示する。しかしながら、特許文献2の理論展開に疑問視される諸点が散見される。その一つは、[0017]に記述されている、「そのためには膨張圧を50MPa以上にさせる必要があるが、・・・設備と温度管理が必要である。」の記述である。膨張性材料による膨張圧縮応力は、膨張材料に膨張歪が内在し、その膨張歪を拘束するスリーブの内径、スリーブの厚み、スリーブの弾性係数が決まって、初めて発生するものである。極論すると、スリーブのような拘束するものがなければ、膨張性材料には膨張圧が発生しない。
【0014】
同様な記述が、[0019]においても、「・・・実験によれば、自然条件の条件においては、ケーブルの断面積の1~3倍の空隙があれば、30MPaの膨張圧を得ることができることが確認された。・・・・」とある。この記述の場合でも、自然条件(現場での養生)では、膨張材料の膨張歪がどのようになっているかの記述ではなく、膨張圧が30MPaであることを示している。ケーブル断面積の1~3倍の記述は、膨張歪を拘束するスリーブの内径情報を示しているのみであり、スリーブの厚み、スリーブの弾性係数、膨張材料の膨張歪の情報がないので、理論的な整合性が欠ける。
【0015】
特許文献3は、繊維強化プラスチック製ケーブルに、研磨粒子が付着した摩擦シートとその上にスチール製ブレードネットチューブを被せて、クサビ定着を可能としたものを開示する。従来、連続繊維補強材に対する定着体として実用化されている、スリーブと膨張性材料の膨張圧縮応力との組み合わせにおる定着体は、工場生産が前提であるために、定着体の位置が固定されていた。この方式では緊張の固定端部の定着体としては、問題ない。しかし、緊張端部については、あらかじめ工場内で製作された定着体の位置が変動するために、適用することが難しいことがある。特許文献3の発明では、任意の位置で摩擦シートとブレードネットを巻き付けることにより、クサビを装着できるので、緊張ジャッキにより緊張する位置は任意で設定できる。しかし、現実的には、PC鋼ストランドで適用している鋼製クサビは、クサビによりPC鋼ストランドを把持する位置を任意にすることができる。一方、特許文献3の方法では、摩擦シートとスチール製ブレードネットチューブで補強されている位置でしか把持することはできない。また、クサビを摩擦シートとブレードネットを巻き付けられた連続繊維補強材に把持させるためには、別途、クサビ押し込みジャッキによる補助が必要であり、実質的に緊張ジャッキによる緊張作業を行うには課題がある。そのために、特許文献3による方法では、緊張側の端部定着体として使用することは困難である。本技術は、プレテンションによる緊張において、連続繊維補強材と緊張端部に設置する従来のPC鋼ストランドとの接続治具として利用されている。
【0016】
コンクリート構造物にPC鋼ストランドの緊張力を利用してプレストレスを導入する方式には、ポストテンション方式とプレテンション方式がある。連続繊維補強材を適用した緊張導入方式についても、同様に、ポストテンション方式とプレテンション方式ある。以下に、それぞれの方式に対する連続繊維補強材を利用した従来方式に対する課題を示す。
【0017】
ポストテンション方式の場合
(1)支圧板と膨張材スリーブのロックナットによる定着
現在、連続繊維補強材の定着方法として、最も適用されている方法としては、連続繊維補強材とスリーブとの隙間に膨張材(セメント系膨張材を使用する)を充填して、その膨張材の水和反応過程で、膨張する膨張圧縮応力を利用する方法である。定着のメカニズムは、連続繊維補強材とスリーブとの間に働く膨張圧縮応力を利用し、連続繊維補強材外側表面とスリーブ内側表面の間に働く、ずれせん断力の接触圧縮応力を向上させることにより、連続繊維補強材とスリーブ内に確実に定着させるものである。
【0018】
上記の膨張材スリーブを適用した、緊張側において緊張後に構造物端部に設けられた支圧板に緊張力を定着する方法が、一般的に多く適用されている。この方法では、膨張材スリーブの外側にロックナットを装着して最終的に緊張力を支圧板に伝達する。そのため、スリーブの外側にはねじ切りをして、ロックナットが機能できるようにする。また、膨張材スリーブを緊張ジャッキにより緊張するために、緊張側端部にはテンションバーをねじ込むことができる、ネジ穴を設けておく。センターホールジャッキによりテンションバーを介して、膨張材スリーブに緊張力を与え、所定の緊張力に達したら、予め膨張材スリーブに装着したロックナットを支圧板に締め付けて、緊張力は支圧板に伝達され、コンクリート構造物に緊張応力が発生する。その後、シース内にPCグラウトを充填し、強度発現したら一連の緊張作業は終了する。
【0019】
問題点1:現状の膨張材スリーブのロックナットを介して、支圧板に緊張力を定着する方法では、緊張するコンクリート構造物の長さに制限が生ずる。一般的に連続繊維補強材の緊張時の緊張力は、保証破断荷重の70%以下とすることが設計で定められている。つまり、使用する連続繊維補強材の直径に関係なく、緊張時の連続繊維補強材の引張歪は、11,000μ~12,000μとなり、緊張部材の長さがL=10mの場合には、緊張による伸び量ΔL=110mm~120mmとなる。一方、膨張材スリーブの長さは、長くても300~400mmが一般的であるので、定着時のハンドリングを考慮すると、緊張部材の長さは、せいぜい15m~20m程度となる。
【0020】
問題点2:一般的にロックナットを装着する膨張材スリーブの外径は、シース管径よりも大きい。そのために、緊張開始時には膨張材スリーブの支圧板側の端部は、支圧板よりも外側にある。そのために、緊張後にロックナットを支圧板に固定した際には、緊張端部から膨張材スリーブが300~400mm突出することとなる。従来のPC鋼ストランドの端部定着においても、アンカーヘッドが端部よりも突出することがある。一般的には、緊張端部から緊張管理に重要な役割を果たす部材が、大きく突出することは望ましいことではない。当然ながら、管理用のカバー装置の装備が必要である。
【0021】
問題点3:膨張材スリーブは、膨張性のセメント系材料を充填して水和反応中の膨張を制御して商品化される。そのために、工場における温度および湿度管理などの品質管理が要求されるために、工場生産に限定される。緊張材の緊張力を利用してプレストレスが導入される構造物は、コンクリート構造物であり、例えば橋梁では30m~50mの規模が多くあり、仮に長さに0.5%の誤差が発生した場合、150mm~250mmの長さの誤差が発生する。また、プレキャスト製品をジョイントする場合では、プレキャスト製品の製品精度は非常に高いが、ジョイント部では現場作業であるために、誤差が蓄積される可能性もある。このような、プレストレスが導入される対象構造物の長さに誤差が発生した場合に、工場において膨張材スリーブの事前生産は困難となる。なお、従来のPC鋼ストランドでは、基本的にくさび定着であるために、緊張材の切断は現地で行い、また、定着位置は任意の位置で可能であるために、上記のような課題は発生しない。
【0022】
(2)緊張端部定着を行わない方法
通常のPC鋼ストランドによるポストテンション方式の定着では、実施しない方法であるが、連続繊維補強材を使用した緊張材方式では、緊張後に緊張力を保持した状態で、シース管内にPCグラウトを充填し、強度発現後に、連続繊維補強材の緊張材の端部を切断する方法がある。この考え方の基本は、プレテンション方式の緊張力の導入方法に基づいている。プレテンション方式では、緊張材の緊張力を保持した状態で、構造体のコンクリートを打設して、コンクリートの強度発現後に、緊張材をリリースして、コンクリート構造物にプレストレスを導入する方法である。この場合、PC鋼ストランドの緊張力をリリースすることにより、PC鋼ストランドに作用していた軸方向(縦方向)の引張歪がPC鋼ストランドのリリースによりポアソン効果が働き、緊張材の直径方向(横方向)に緊張前の状態に戻ろうとする膨張歪が発生する。これに対して、PC鋼ストランドの周囲に打設されたコンクリートは拘束材料として働くために、PC鋼ストランド表面とコンクリートとの間に拘束効果の反力として圧縮応力が発生して、結果として、コンクリートとPC鋼ストランドとのすべりに対するせん断抵力が増大する。
【0023】
連続繊維補強材によるポストテンション方式においても、シース管内に充填したPCグラウトが拘束材として作用するために、緊張力をリリース(連続繊維補強材の緊張先端を切断)することにより、連続繊維補強材の表面には拘束圧縮応力が発生して、せん断抵抗力が増大する。従来のPC鋼ストランドにおけるポストテンション方式において、支圧板やアンカーヘッドによる緊張定着を行わないで、PC鋼ストランドの先端を切断する方法を採用しない一つの理由は、PC鋼ストランドの表面は平滑であるためにPCグラウトとの付着特性が良くないことがある。一方、連続繊維補強材とPCグラウトの付着は、異形鉄筋よりは良くないがPC鋼ストランドよりは良いことがあげられる。
【0024】
問題点1:緊張導入後、ロックナットを介して支圧板に緊張力が伝達されないので、緊張端部付近のコンクリートにプレストレスが発生しない。上記で記述したポアソン効果により連続繊維補強材とPCグラウトとのせん断抵抗力が働いても、緊張端部から50φ~60φ(φは連続繊維補強材の直径)の範囲では、プレストレスを期待できない。そのために、コンクリート構造物の端部付近までプレストレスを必要とする場合では適用が困難である。
【0025】
問題点2:上記の問題点1は、具体的には小型寸法のコンクリート構造物に対して、緊張応力を導入することは困難であることと意味している。具体的には、例えばφ=15.2mmの連続繊維補強材を使用した場合、緊張応力が十分に期待できない範囲は、60φ=912mmとなり、例えば、長さ3m~4mの構造物では、上記の定着方法は適用できない。
【0026】
プレテンション方式の場合
プレテンション方式による、緊張応力が導入されるメカニズムは、前述の説明の通りである。従って連続繊維補強材を緊張材として使用した場合でも、緊張後に打設したコンクリートが所定の強度に達して緊張応力を導入した場合、緊張端部付近(50φ~60φの距離)においては緊張応力が導入されない課題がある。そのために、従来のPC鋼ストランドを使用したプレテンション方式の場合も含めて、短い部材にプレテン方式でプレストレスを導入するのは、困難であった。
【0027】
従来、緊張材としてPC鋼ストランドが多く適用されてきた。PC鋼ストランドの利点は、鋼製クサビとアンカーヘッドにより、直接、PC鋼ストランドの任意の位置を把持して緊張ジャッキを使用して緊張力の導入や、アンカーヘッドを介して支圧板に定着することによる緊張端部付近までプレストレス導入が可能であることである。
【0028】
一方、本発明の対象となる連続繊維補強材とは、たとえば、素線の材質が炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などを用いた素線をロープ状に加工した補強材である。そのために、連続繊維補強材の横方向の剛性や強度が低く、従来のような鋼製クサビ定着は不可能である。
【0029】
そのために、現状では、連続繊維補強材の定着は、スリーブと連続繊維補強材の隙間に膨張材を充填しかつ養生することにより膨張材の膨張圧縮応力を利用した定着方法が最も適用例が多く、実用的な方法として普及している。
【0030】
その他に、連続繊維補強材の周囲に摩擦増強シートとスチール製ブレードネットチューブにより補強をおこない、その外側に従来の鋼製クサビよりもクサビ角度の緩い鋼製クサビを適用した定着方法も適用されているが、操作方法に制限があり緊張端部に適用するには課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
このような現状に対して、本発明は、現場施工上の制約や、施工コストの増大はなく、また、その定着機構は単純であり、スリーブ、ロックナット、支圧板の設計も通常の構造計算で可能となる構造を備える定着構造を提供することを課題とする。
【0032】
この発明はまた、緊張材をコンクリート構造物にしっかりと定着させ、コンクリート構造物に効率よくプレストレスを導入することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
この発明は、ポストテンション方式によってプレストレスが導入されるコンクリート構造物における緊張材の定着構造を提供する。第1の発明による緊張材の定着構造は、挿通孔が形成されたコンクリート構造物の外端部に配置され、上記コンクリート構造物の挿通孔につながる貫通孔が形成された支圧板と、上記コンクリート構造物の上記挿通孔および上記支圧板の貫通孔に通され、その一端部が上記コンクリート構造物の外に出される中空のスリーブと、上記スリーブ内に挿入され、一端部が上記コンクリート構造物に定着されかつ他端部が上記コンクリート構造物の外に出される緊張材と、上記コンクリート構造物の外に出された上記スリーブの他端部に係合され、上記支圧板の外面に接するロックナットと、上記挿通孔内およびスリーブ内に充填されるPCグラウトと、を備え、上記緊張材は、上記PCグラウトが充填される前にその一端部が固定された状態でその他端部が緊張装置を用いて外向きに引っ張られることによって緊張され、かつ上記PCグラウトに所定の強度が発現した後に上記緊張装置を用いた緊張が解かれたものであり、上記緊張材がポアソン効果によって径方向外向きに膨張しており、膨張した上記緊張材と上記スリーブとの間に充填されているPCグラウトに圧縮応力が発生していることを特徴とする。
【0034】
緊張材の一端部(固定端)がコンクリート構造物に固定され、かつ緊張材の他端部(緊張端)が緊張装置を用いて外向きに引っ張られる。緊張材の一端部はコンクリート構造物の外において固定装置を用いて定着してもよいし、上記挿通孔内においてたとえばPCグラウト等によりコンクリート構造物に定着してもよい。
【0035】
この発明は、プレテンション方式によってプレストレスが導入されるコンクリート構造物における緊張材の定着構造も提供する。第2の発明による緊張材の定着構造は、コンクリート構造物内の両端部のそれぞれに配置された、貫通孔が形成された一対のロックナット兼支圧板と、上記一対のロックナット兼支圧板のそれぞれに係合され、上記貫通孔につながる中空を備えるスリーブと、コンクリート構造物内の両端部の上記ロックナット兼支圧板の貫通孔および中空のスリーブに通されて、両端部がコンクリート構造物の外に出される緊張材と、上記スリーブ内に充填されるPCグラウトと、を備え、上記緊張材は、上記PCグラウトが上記スリーブに充填されかつ上記コンクリート構造物を形成するコンクリートが打設される前に、その一端部が固定装置を用いて固定された状態においてその他端部が緊張装置を用いて外向きに引っ張られることによって緊張され、かつ上記PCグラウトおよび上記コンクリートに所定の強度が発現した後に上記緊張装置を用いた緊張が解かれたものであり、上記緊張材がポアソン効果によって径方向外向きに膨張しており、膨張した上記緊張材と上記スリーブとの間に充填されているPCグラウトに圧縮応力が発生していることを特徴とする。
【0036】
緊張材には、好ましくは連続繊維補強材が用いられる。連続繊維補強材とは、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などの連続繊維を数万本束ね、これにエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、ポリカーボネートやポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂を含浸して硬化させたものである。複数本の連続繊維を束にし、複数本の連続繊維束を撚り合わせることによって連続繊維補強材を構成してもよい。
【0037】
好ましくは上記コンクリート構造物に中空のシース管が埋設されており、上記シース管の中空が上記挿通孔として用いられる。
【0038】
この発明によると、ポアソン効果によって緊張材が径方向外向きに膨張することによって、緊張材とその周囲のスリーブとの間に充填されたPCグラウトに圧縮応力が発生しているので、緊張材は、上記スリーブによって囲まれている範囲においてその全周囲にわたってしっかりとスリーブ内に拘束されかつ定着される。
【0039】
緊張材はまた、緊張が解かれることで長手方向に収縮する(元の長さに戻ろうとする)。緊張材としっかりと定着しているスリーブの一端部にはロックナットまたはロックナット兼支圧板が係合されているので、緊張材の緊張が解かれることで緊張材が長手方向に収縮すると、緊張材にしっかりと定着したスリーブの一端部のロックナットが支圧板に強く押しつけられる(ポストテンション方式)、またはコンクリート構造物内の両端部のロックナット兼支圧板に互いに近づく方向の力が加わる(プレテンション方式)ことになり、コンクリート構造物にプレストレスを効率よく導入することができる。
【0040】
本発明による定着原理
本発明による緊張材の定着メカニズムを簡単に言及する。緊張材に緊張力を与えることにより緊張材には緊張方向(緊張材の長手方向)に引張歪が発生すると同時に、緊張方向に直交する緊張材の周方向にはポアソン効果により圧縮歪が発生する。この状態を維持して、スリーブと緊張材との隙間に、PCグラウトを充填する。その後にPCグラウトを養生することで、PCグラウトは所定の強度が発現する。PCグラウトに強度が発現した後、緊張材の緊張を解放する(緊張力を解除する)と、緊張材に存在している周方向の圧縮歪が解放される。緊張材の圧縮歪が解放されることで緊張材は径方向外向きに膨張する(ポアソン効果、ポアソン現象)。膨張した緊張材とスリーブとの間に挟まれているPCグラウトに圧縮応力が発生し、これによって緊張材とスリーブとが強く定着される。
【0041】
定着スリーブに係合したロックナットは、緊張反力を分担し、その力は、コンクリート構造物端部に設けられた支圧板を介して、コンクリート構造物端部も含む全長に渡り有効なプレストレスとしてコンクリート構造物に導入される。
【0042】
緊張材とスリーブの隙間にあるPCグラウトに圧縮応力が発生することにより、緊張材とスリーブとの間の定着機構が発生することは、膨張材充填スリーブの実績において、実務的に実証されている。では、定量的に上記の理論展開が正しいかどうかを、緊張材が炭素繊維複合ケーブル(CFCC)を使用した場合にPCグラウトに発生する圧縮応力を計算することで以下に考察する。
【0043】
本発明によるPCグラウトの発生圧縮応力
連続繊維補強材として炭素繊維を適用した、連続炭素繊維補強材を対象として具体的にPCグラウトに発生する圧縮応力を計算することにより、定着のメカニズムを説明する。例題の連続炭素繊維補強材(以下、CFCC(Carbon Fiber Composite Cable)と称する)およびスリーブの形状や特性は以下の通りである。
【0044】
1)連続炭素繊維補強材(CFCC)データ:
CFCCの直径φ=17.2mm、CFCCの有効断面積Acf=151.1mm2、CFCCの弾性係数Ecf=150kN/mm2、CFCCの保証破断荷重Pu=385kN、CFCCのポアソン比ν=0.06(島津製作所による、炭素繊維強化プラスチックの試験データより)である。
【0045】
2)スリーブのデータ:
スリーブの材質STKM13A、スリーブの内半径R=11.4mm、肉厚t=4.5mm、スリーブの弾性係数E=210kN/mm2
【0046】
CFCCを緊張する場合にCFCCに加えることができる最大の緊張力は、CFCCの保証破断荷重の70%以下と規定されている。従って、緊張時の引張ひずみεu=0.7×Pu/(Acf×Ecf)=11,890μとなる。
【0047】
CFCCの緊張を解除すると、ポアソン効果によりCFCCにはポアソン比に比例して横方向(周方向)の膨張ひずみが発生し、CFCCの直径は大きくなる。横方向の膨張ひずみをεluとすると、膨張ひずみεlu=ν×εu=713μとなる。従って、緊張が解除されたCFCCにおいてポアソン効果が発生し、その結果、CFCCが膨張することによりスリーブ内の内半径Rが膨張する量を、ΔRとすると、ΔR=φ/2×εlu=6,132×10-6mmとなる。
【0048】
スリーブ内の内半径がΔRの長さで膨張すると、「薄肉リングに作用する内圧の理論解析」の理論解を適用すると、PCグラウトに発生する圧縮応力pは、
p=ΔR×t×E / R2=44.6 MPa の解を得ることができる。
【0049】
PCグラウトの圧縮応力が上昇することと、PCグラウトを介してCFCCがスリーブに定着されることの関係を以下に説明する。定着の性能は、CFCCとスリーブとの間にあるPCグラウト自身のせん断破壊応力、あるいは、PCグラウトとCFCCの境界面に作用する摩擦力と付着力、あるいは、PCグラウトとスリーブ内側の境界面に作用する摩擦力と付着力の組合せの中で、最小の組合せの抵抗能力で決定される。
【0050】
まず、PCグラウト自身の抵抗せん断応力については、圧縮応力が作用した状態で、しかも非常に薄いために、せん断破壊することは考えられない。一方、PCグラウトとCFCCの境界面とPCグラウトとスリーブの内側の境界面との比較では、前者は後者に比べて抵抗面積が小さいので摩擦力が小さくなる傾向にあるが、PCグラウトとCFCCの境界面の付着応力は大きくなる傾向にある。一方、後者については、上述とは逆の関係にある。いずれにしても、PCグラウトとの境界面に作用するせん断力については、主に、摩擦力による抵抗が支配的であり、その主要因がPCグラウトの圧縮応力となる。摩擦抵抗応力は、摩擦係数と境界面に作用する圧縮応力の積で表現できるために、PCグラウトの圧縮応力pが大きい方が有利となる。
【0051】
従来の膨張材充填スリーブの膨張材の発生圧縮応力
従来の膨張材充填スリーブの場合は、本発明のようなポアソン効果を適用するものではない。しかし、最終的な定着メカニズムは、PCグラウトの代わりに、膨張する材料を配合して得られる膨張性充填材(膨張セメントグラウト)を使用して、グラウト材が水和反応する過程で膨張する膨張圧縮応力を利用するものであり、結果として、定着装置として使用する際には、同じメカニズムを適用している。
【0052】
本発明の妥当性を評価する上でも、既に実用化されている、膨張材充填スリーブの発生圧縮応力pを、本発明の場合と同じCFCC緊張材とスリーブの形状材質で、発生する膨張材圧縮応力pを試算する。
【0053】
1)連続炭素繊維補強材(CFCC)データ:
CFCCの直径φ=17.2mm、CFCCの有効断面積Acf=151.1mm2、CFCCの弾性係数Ecf=150kN/mm2、CFCCの保証破断荷重Pu=385kN、CFCCのポアソン比ν=0.06である。
【0054】
2)膨張性充填材料:膨張ひずみεe=600μ(管理された養生温度条件下の無拘束状態でのひずみ)
【0055】
3)スリーブのデータ:
スリーブの材質STKM13A、スリーブの内半径R=11.4mm、肉厚t=4.5mm、スリーブの弾性係数E=210kN/mm2
【0056】
膨張性グラウトは、スリーブの内の半径内に充填される。スリーブの中心部には直径φ17.2mmのCFCCがある。膨張性グラウトは、CFCC素線の間にも充填されるために、膨張材の膨張範囲は、スリーブの内半径内であると考える。その結果、スリーブ内の内半径Rが膨張する量を、ΔRとすると、ΔR=εe×R=6,840×10-6mmとなる。
【0057】
スリーブ内の内半径がΔRの長さで膨張すると、「薄肉リングに作用する内圧の理論解析」の理論解を適用すると、膨張性グラウトに発生する圧縮応力:pは、p=ΔR×t×E / R2=49.7 MPa の解を得ることができる。
【0058】
以上、本発明によるPCグラウトに発生する圧縮応力と、従来の膨張性スリーブ内の膨張性グラウトに発生する圧縮応力は、ほぼ同等であり、本発明による定着効果が理論的にも検証された。
【0059】
この発明による定着構造が成立するために必要な要素は、コンクリート構造物端部に配置した支圧板、緊張材、スリーブ、スリーブ端部に係合されるロックナット、及び、PCグラウトである。これらの要素は、特別に高度な加工を必要とするものではない。唯一、機械加工が必要なのは、スリーブ端部にロックナットをねじ固定するためのねじ加工と、支圧板の穴加工である。PCグラウトは、通常のプレテンション方式で、緊張後にシース管内に充填されるものと同じ材料を適用できる。また、PCグラウトの充填作業についても、従来のグラウト充填の施工方法で、十分に連続繊維補強材とスリーブの隙間にPCグラウトを充填することが可能である。
【0060】
本発明の定着のメカニズムによれば、同じスリーブ形状と連続繊維補強材を対象とした試算結果から、本発明のPCグラウトに発生する圧縮応力は、膨張材スリーブと同じレベルであることは証明された。
【0061】
定着装置としての完成品は、施工の過程や、施工の容易さ、品質管理の手間、定着効果、施工コスト、施工製品としての性能などの点で優位性は多大である。
【0062】
一実施態様では、上記緊張材の直径をφ、ポアソン比をν、保証破断荷重時の引張歪をεuとし、上記スリーブの内半径をR、肉厚をt、弾性係数をEとした場合に、以下の式1によって算出される上記PCグラウトに発生する圧縮応力pが、20から60MPaである。
p=φ/2×ν×(0.7×εu)×(t×E)/(R×R)・・・式1
【0063】
定着性能に寄与すると考えらえる要因の中から、定着メカニズムに直接関係する要因を選定して、これらのデータを使用しての簡単な計算から得られる、PCグラウト材に作用する圧縮応力の範囲を示すことにより、定着性能の定量的な判定基準を示すものである。つまり、本発明において、適用される構成要素の組合せにおいて、定着性能が発揮できる定量的な範囲は20~60MPaである。
【0064】
好ましくは、上記スリーブの内面に凹凸が形成されている。たとえば、スリーブの内面にねじ切り加工をすることによってスリーブの内面に凹凸を形成することができる。前述の説明に示すように、PCグラウトに発生する圧縮応力は、スリーブ内側とPCグラウト間のせん断応力として相互に伝達される。せん断応力はスリーブ内側に働く圧縮応力に摩擦係数を乗じたものであり、この摩擦係数の向上にスリーブの内面の凹凸が寄与する。
【0065】
好ましくは、上記スリーブの外面にも凹凸が形成されている。スリーブ外側とスリーブ外側に接しているPCグラウト間には付着応力による抵抗力が発生する。その抵抗力はスリーブに係合しているロックナットに伝達されるために、この付着応力の向上にスリーブ外面の凹凸が寄与する。
【0066】
他の実施態様では、上記コンクリート構造物の端部に配置される支圧板が複数枚ではなく連続した一枚からなる。コンクリート構造物の端部に配置される支圧板を複数枚ではなく連続した一枚の支圧板とすることにより、送電線鉄塔基礎における支圧板としての役割と、鉄塔基礎トラス材を固定して、鉄塔基礎トラス材に作用する断面力をコンクリート基礎に伝達する役割を持たせることができる。
【0067】
好ましくは、上記支圧板のコンクリート構造物に対向する面に複数の凸部形状のせん断キーが設けられており、上記コンクリート構造物の上記支圧板に対向する面の、上記せん断キーに対応する位置に、上記せん断キーが入る凹部が形成されている。基礎のベースプレートに作用する水平力に対して、効率的かつ経済的に抵抗するせん断キーを設けることで、わずかな追加で多大なせん断抵抗効果が期待できる。
【0068】
一実施態様では、上記ロックナットと支圧板が一体成形されている。短い寸法部材のプレテンション部材製作も可能となる。
【0069】
他の実施態様では、上記スリーブに、上記PCグラウトを上記スリーブ内に充填するための充填孔および空気を排出する空気排出孔が形成されている。スリーブ内に確実にPCグラウトを充填することができる。
【0070】
この発明は、ポストテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物の製作方法も提供する。この方法は、挿通孔が形成されたコンクリート構造物の端部に、上記コンクリート構造物の挿通孔につながる貫通孔を備える支圧板を配置し、中空のスリーブの一端部にロックナットを係合し、上記スリーブを、上記支圧板の貫通孔を通じて上記コンクリート構造物の挿通孔に挿入し、上記スリーブの一端部のロックナットを上記支圧板上に載せ、上記スリーブの中空に緊張材を挿入し、上記緊張材の一端部をコンクリート構造物に固定し、上記緊張材の他端部に緊張装置を装着し、上記緊張材を緊張させた状態で、上記スリーブと上記スリーブの中空に通された緊張材の隙間にも充填されるように、上記コンクリート構造物の挿通孔内にPCグラウトを充填し、上記PCグラウトが所定の強度に達した後に、上記緊張材の緊張を解除するものである。
【0071】
この発明はさらに、プレテンション方式によるプレストレストコンクリート構造物の製作方法も提供する。この方法は、型枠を用意し、型枠内の両側端部に、中空のスリーブおよび上記スリーブに係合されたロックナット兼支圧板を、上記ロックナット兼支圧板が上記型枠内の側端部に接するように設置し、上記型枠の両側端部に形成された取付穴を通じて緊張材を型枠内に挿入し、上記緊張材の両端部を型枠の両側端部からそれぞれ外に出し、型枠内においては上記緊張材を上記型枠内の両側端部に設置されたスリーブ内に挿入し、型枠の一方側端部から型枠の外に出ている上記緊張材の一端部に固定装置を装着し、型枠の他方側端部から型枠の外に出ている上記緊張材の他端部に緊張装置を装着し、上記緊張材の他端部を緊張装置により緊張し、上記緊張材を緊張させた状態で、上記型枠内の両側端部のスリーブ内にPCグラウトを充填し、上記型枠内にコンクリートを打設し、上記PCグラウトおよび上記コンクリートが所定の強度に達した後に、上記緊張材の緊張を解くものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】ポストテンション方式によってコンクリート構造物にプレストレスを導入する様子を示す断面図である。
【
図2】ポストテンション方式によってコンクリート構造物にプレストレスを導入する様子を示す断面図である。
【
図3】(A)は緊張状態の緊張材をその周囲のスリーブおよびスリーブ内に充填されたPCグラウトとともに示す拡大断面図を、(B)は緊張が解かれた状態の緊張材をその周囲のスリーブおよびスリーブ内に充填されたPCグラウトとともに示す拡大断面図を、それぞれ示す。
【
図4】ポストテンション方式によりコンクリート構造物にプレストレスを導入する様子を示す第1実施例の断面図である。
【
図5】ポストテンション方式によりコンクリート基礎構造物にプレストレスを導入する様子を示す第2実施例の断面図である。
【
図6】ポストテンション方式によりPCコンポジット橋梁にプレストレスを導入する様子を示す第3実施例の断面図である。
【
図7】プレテンション方式によりプレストレストコンクリート構造部材を製造する工程を示す。
【
図8】プレテンション方式によりプレストレストコンクリート構造部材を製造する工程を示す。
【
図9】プレテンション方式によりプレストレストコンクリート構造部材を製造する工程を示す。
【
図10】
図8に示すコンクリート構造部材の一端部を拡大して示す一部拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
図1および
図2はポストテンション方式によってコンクリート構造物にプレストレスを導入する様子を示す断面図である。プレストレスが導入されたコンクリート構造物は、プレストレストコンクリート構造物と呼ばれる。
図3(A)は後述する緊張状態の緊張材を模式的に示すもので、緊張状態の緊張材を、その周囲のスリーブおよびスリーブ内に充填されたPCグラウトとともに示す拡大断面図である。
図3(B)は緊張が解かれた状態の緊張材を模式的に示すもので、緊張が解かれた緊張材を、その周囲のスリーブおよびスリーブ内に充填されたPCグラウトならびにPCグラウトに生じる圧縮応力(両端矢印)とともに示す拡大断面図である。
【0074】
以下に詳述するように、コンクリート構造物にプレストレスを導入するために、コンクリート構造物内に緊張材が設けられる。緊張材の一端(固定端)を固定し、かつ他端(緊張端)を外向きに引っ張ることによって緊張材は長手方向に緊張される。緊張材の一端を固定しておくための固定装置は
図1および
図2において概略的に示されている。緊張材の他端を引っ張るための緊張装置は
図1および
図2においては図示が省略されている。固定装置および緊張装置の具体例は後述する。
【0075】
図1を参照して、コンクリート構造物2に円筒状の金属製またはポリエチレン製のシース管5が埋設されている。シース管5の中空が、後述するスリーブ7が通される挿通孔4として用いられる。シース管5にはたとえばその内外周面に凹凸を有するスパイラル・シースを用いることができる。
【0076】
コンクリート構造物2の上面に金属製の支圧板3が設けられている。支圧板3にはコンクリート構造物2に設けられるシース管5の外径と同等の直径を有する円筒形の貫通孔3aが形成されており、シース管5は支圧板3の貫通孔3aにも通されている。挿通孔4(シース管5の中空)は支圧板3の上端面において外に開口する。支圧板3の貫通孔3aの直径はシース管5の外径よりもやや大きく形成してもよい。
【0077】
挿通孔4に、金属製の剛性の高い円筒状のスリーブ7が通されている。スリーブ7の外径は挿通孔4(シース管5の内径)よりも小さい。シース管5とスリーブ7との間には横断面において環状の隙間が形成される。スリーブ7の内外周面にも凹凸(たとえばネジ切り)が形成されていてもよい。スリーブ7の内周面または外周面のいずれか一方でもよいが,好ましくはスリーブ7の内外周面の両方に凹凸は形成される。
【0078】
スリーブ7の上端部は支圧板3の上方にまでのびており、支圧板3の上方にのびるスリーブ7の上端部の外周面にねじ山11が形成されている。外周面にねじ山11が形成されたスリーブ7の上端部には内周面にねじ溝が形成されたロックナット8がねじ止めされ、ロックナット8は支圧板3の上面に接するようにしてスリーブ7の外周面に固く係合されている。
【0079】
ロックナット8から支圧板3を通りコンクリート構造物2内にまでのびるスリーブ7の中空6内に、スリーブ7の内径よりも小さい直径を持つ緊張材1が通されている。緊張材1とスリーブ7の内周面との間にも横断面において環状の隙間が形成される。
【0080】
緊張材1には、1本の心線と、その周囲に撚り合わされた複数本、たとえば6本の側線とから構成される連続繊維補強材を用いることができる。断面で見ると(図示略)、緊張材1、緊張材1を構成する心線および側線は、いずれもほぼ円形の形状を持つ。また、断面で見て、緊張材1はその中心に心線が配置され、心線を取り囲むように複数本の側線が位置する。緊張材1はたとえば5mm~40mm程度の直径を持つ。
【0081】
緊張材1を構成する心線および側線は、いずれも熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含浸させかつ硬化させた多数本たとえば数万本の長尺の連続する炭素繊維を断面円形に束ねた樹脂含有繊維束であり、緊張材1の全体には数十万本の炭素繊維が含まれる。炭素繊維のそれぞれは非常に細く、たとえば5μm~7μmの直径を持つ。緊張材1は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製のものと言うこともできる。炭素繊維に代えてアラミド繊維またはガラス繊維を用いてもよい。熱硬化性樹脂には、たとえばエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂には、たとえばポリカーボネートやポリ塩化ビニルが用いられる。
【0082】
コンクリート構造物2の下面から下にのびる緊張材1の一端(
図1における下端、固定端)は固定装置12によって固定される。ロックナット8から上方にのびる緊張材1の他端(
図1における上端、緊張端)は緊張装置(図示略)を用いて上方に引っ張られる(これを「緊張する」、とも言う)。緊張材1の一端(固定端)が固定されているので、緊張材1の他端(緊張端)を引っ張ると、緊張材1にはその長手方向に引張力(緊張力とも言う)が加わり、これに対応する応力が緊張材1の内部に発生する。緊張材1は応力に比例した伸びを生じるとともに、断面の収縮(緊張材1の直径の縮小)が発生する。
図3(A)には緊張材1を長手方向に引っ張る前の緊張材1(その太さ)が破線によって示されている。
【0083】
図2および
図3(A)に示すように、緊張材1の緊張状態を保った状態でスリーブ7内にPCグラウト15が充填される。
図2を参照して、PCグラウト15はスリーブ7内のみならず、シース管5内にも充填される。
【0084】
図2および
図3(B)を参照して、PCグラウト15を養生し、所定の強度が発現した後、緊張装置を用いた緊張材1の緊張が解かれる。緊張装置を用いて緊張材1を緊張しているときの緊張材1には長手方向(軸方向)に伸びが生じ、長手方向に引張歪が生じる。緊張材1の緊張が解かれると、緊張材1にはポアソン効果が作用して、緊張材1の周面外向き(軸直角方向)にポアソン比分の膨張歪みが発生し、緊張材1は周方向外向きに膨張する。すなわち
図3(A)および
図3(B)を対比して、緊張材1の緊張を解くことによって、緊張材1は長手方向に縮み(L1>L2)、かつ径方向に膨張する(D1<D2)。なお、
図3(A)および(B)には緊張材1の縮みおよび膨張の様子がかなり強調して描かれている。その結果、
図3(B)に模式的に示すように、緊張材1とスリーブ7との隙間に充填されているPCグラウト15内に所定の圧縮応力18が発生する。この圧縮応力18によって緊張材1はスリーブ7にしっかりと定着される。また、緊張材1の緊張が解かれることで緊張材1に長手方向の縮みが生じることから、スリーブ7の上端部にねじ結合されているロックナット8が支圧板3に押し付けられる(緊張反力)ので、コンクリート構造物2にプレストレスが生じる。このようにして、コンクリート構造物2の内部に緊張材1がしっかりと定着されるとともに、導入されるプレストレスによってコンクリート構造物2の構造性能が向上する。
【0085】
以下、
図4から
図10を参照して、プレストレスが導入されるコンクリート構造物の具体例を説明する。
【実施例0086】
図4は実施例1を示すもので、緊張材を緊張するための固定装置および緊張装置の一例を詳細に示している。
図4では、コンクリート構造物内に挿通孔を確保するために設けられるシース管の図示は省略されている。
【0087】
図4の左側を参照して、固定装置は、コンクリート構造物22の一端(
図4の左端)に設けられた支圧板23A、ロックナット28A、ラムチェアー38、アンカーヘッド39、摩擦シートおよびブレードネット41、ならびにクサビ40を含む。コンクリート構造物22に埋設されたシース管内(挿通孔)にスリーブ27Aが通され、このスリーブ27A内に緊張材21が通されている。スリーブ27Aは支圧板23Aの貫通孔に通されその先端部分が支圧板23Aから外に出ている。支圧板23Aの外に出ているスリーブ27Aの先端部分にロックナット28Aがねじ止めされている。
【0088】
支圧板23Aにはさらに、ロックナット28Aを取り囲むようにしてラムチェアー38が設置されている。ラムチェアー38はその中心に緊張材21が通る挿通孔を備え、ラムチェアー38の挿通孔に緊張材21の先端部分が通され、緊張材21の先端部分(固定端)はラムチェアー38の外に出ている。
【0089】
ラムチェアー38にアンカーヘッド39が設置される。アンカーヘッド39は緊張材21の先端部分が通される挿通孔と、クサビ40が押し入れられるクサビ用テーパー形状の中空を持つ。ラムチェアー38から外に出ている緊張材21の先端部分は、アンカーヘッド39の挿通孔および中空を通り、アンカーヘッド39の外にまでのびている。アンカーヘッド39の外に出ている緊張材21の先端部分に摩擦シートおよびブレードネット41を巻き付けて、その外側にクサビ40が被せられ、クサビ40によって覆われた緊張材21の先端部分がアンカーヘッド39の中空に押し入れられる。緊張材21の先端部分がアンカーヘッド39のクサビ用テーパー形状の中空内にしっかりと定着される。
【0090】
クサビ40による緊張材21に対する締め付け力を緩衝するために、クサビ40が被せられる緊張材21の先端部分の外周面に摩擦シートおよびブレードネット41が被せられる。
【0091】
図4の右側を参照して、緊張装置は、コンクリート構造物22の他端(
図4の右端)に設けられた支圧板23B、ロックナット28B、ラムチェアー31、32、リングナット33、膨張材充填スリーブ34、テンションバー35、センターホール緊張ジャッキ36、クサビ42およびアンカーヘッド43を備えている。
【0092】
コンクリート構造物22の挿通孔にスリーブ27Bが通され、このスリーブ27B内に緊張材21が通されている。スリーブ27Bは支圧板23Bの貫通孔を通されて支圧板23Bから外に出ている。支圧板23Bの外に出ているスリーブ27Bの先端部分にロックナット28Bがねじ止めされている。
【0093】
支圧板23Bにはさらにロックナット28Bを取り囲むようにして第1のラムチェアー31が設置されている。第1のラムチェアー31はその中心に緊張材21が通る挿通孔を備えるもので、この第1のラムチェアー31の挿通孔に緊張材21が通され、緊張材21の先端部分(緊張端)が第1のラムチェアー31の外に出ている。
【0094】
第1のラムチェアー31から外に出ている緊張材21の先端部分には膨張材充填スリーブ34が工場製作により設けられている。膨張材充填スリーブ34内には膨張材が充填されており、この膨張材の膨張圧によって膨張材充填スリーブ34が緊張材21の先端部分にしっかりと定着されている。膨張材充填スリーブ34の外周面にはネジが形成されており、このネジを用いて膨張材充填スリーブ34にはリングナット33が固定されている。
【0095】
リングナット33および膨張材充填スリーブ34を囲むように、第2のラムチェアー32が第1のラムチェアー31に重ねられている。第2のラムチェアー32もその中心に緊張材21が通る挿通孔を備えるもので、この第2のラムチェアー32の挿通孔に緊張材21が通され、緊張材21の先端部分(緊張端)が第2のラムチェアー32の外に出ている。
【0096】
第2のラムチェアー32にセンターホール緊張ジャッキ36が設置される。センターホール緊張ジャッキ36が設置された後、テンションバー35が膨張材充填スリーブ34の内ネジに係合される。緊張材21の先端部分はセンターホール緊張ジャッキ36を通過し、クサビ42およびアンカーヘッド43によりセンターホール緊張ジャッキ36のラムの先端に定着される。センターホール緊張ジャッキ36を作動させて緊張材21を緊張すると、センターホール緊張ジャッキ36は第2のラムチェアー32から離れる向きに移動する。センターホール緊張ジャッキ36は上述した膨張材充填スリーブ34とテンションバー35によって接続されており、テンションバー35を介して膨張材充填スリーブ34も第1のラムチェアー31から離れる向きに移動する。所定の緊張力が緊張材21に作用したところで、膨張材充填スリーブ34の外周面に装備されているリングナット33を締め付けて第1のラムチェアー31に固定しかつ定着する。リングナット33を閉め付けることによって、緊張端においては、第1のラムチェアー31、膨張材充填スリーブ34およびリングナット33が用いられて、その緊張力が保持される。その後は、センターホール緊張ジャッキ36の作動を停止させ、センターホール緊張ジャッキ36、テンションバー35および第2のラムチェアー32は撤去可能である。撤去されたセンターホール緊張ジャッキ36、テンションバー35および第2のラムチェアー32は、別の位置の緊張材21の緊張に用いることができる。
【0097】
緊張材21の緊張状態を保持した状態で、コンクリート構造物22の挿通孔(シース管内)にPCグラウトが充填される。PCグラウトはスリーブ27A、27B内にも充填される。PCグラウトの充填の前に、支圧板23A、23Bの周辺からPCグラウトの漏れが生じないように、支圧板23A、23Bの周囲をシールしておくとよい。PCグラウトを養生し、所定の強度が発生した後、ロックナット28A、28B近傍の緊張材21が切断され、これによって緊張が開放される。上記したように、緊張力開放により、緊張材21とスリーブ27A、27Bとの隙間に充填されているPCグラウトに所定の圧縮応力が発生し、この圧縮応力によって緊張材21はスリーブ27A、27Bにしっかりと定着される。また、支圧板23A、23Bを介して、緊張応力がコンクリート構造物22に導入される。
従来、鉄塔基礎トラス材を基礎へ定着する方法としては、鉄塔基礎トラス材先端のいかり基礎と称する、いかりのような形状をした、せん断プレートにより補強された鉄骨トラス材を、直接、場所打ちコンクリート基礎の中に埋め込んで、その周囲を鉄筋により補強することにより、鉄塔基礎トラス材とコンクリート基礎を一体化する構造形式が採用されてきた。
従来のいかり基礎形式では、いかり部分がコンクリート基礎躯体の内部に傾斜角を有して設置するために、設置精度を保持して設置することが非常に困難であった。特に、基礎トラス材は、鉛直ではなく傾斜角度を有して設置する必要があり、さらに、設置精度も3~5mmと高精度に設置する必要がある。そのために、特殊な設置技術が要求されて、施工できる業者が限定されることや、設置費用が高くなるなどの問題がある。
コンクリート基礎構造物52に設けられるシース管内(挿通孔)に緊張材51の一端(固定端)を定着させる定着構造として、解撚型定着具(特許第6442104号)があり、実用化されている。解撚型定着具53は、緊張材51を構成する撚り合わされた側線を所定長にわたって解撚し(側線の撚り合わせを解き)、解撚によって形成される隙間(空間)に樹脂モルタルまたはセメントモルタルを充填したものである。緊張材51は、その一端に形成された解撚型定着具53からコンクリート基礎構造物52に設けられたシース管内に挿入される。緊張材51を緊張する前に、解撚型定着具53の周囲にPCグラウト56が充填され、その後に養生される。PCグラウト56に強度が発現することによって、緊張材51の一端部(固定端)がコンクリート基礎構造物52にしっかりと定着(固定)される。
緊張材51をシース管に挿入する前に、基礎ベースプレート55が設置される。基礎ベースプレート55は、支圧板としての役割と、鉄塔基礎トラス材を固定して、鉄塔基礎トラス材に作用する断面力をコンクリート基礎に伝達する役割がある。つまり、基礎ベースプレート55には、せん断力や引抜力が作用する。
次に、せん断力による基礎ベースプレート55の抵抗メカニズムである。緊張力により基礎ベースプレート55とコンクリート基礎構造物52の上面との間には、圧縮応力が働いているので、圧縮応力と両者間の摩擦係数の積が、せん断抵抗力として働く。さらに、せん断抵抗力の増大させる方法として、基礎ベースプレート55の下面にせん断キー59となる例えば丸鋼などの凸部を突出させて、受け側のコンクリート基礎構造物52の上面には凹部を設けて、凸部と凹部が係合するようにする。これにより、凸部の断面積×凸部のせん断抵抗応力の和をせん断抵抗力(設計抵抗力)として考慮することができる。