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特開2022-64097二酸化炭素還元用の光触媒、及びメタンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064097
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元用の光触媒、及びメタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20220418BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20220418BHJP
   C07C 9/04 20060101ALI20220418BHJP
   C07C 1/12 20060101ALI20220418BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220418BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J23/755 M
C07C9/04
C07C1/12
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172619
(22)【出願日】2020-10-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載アドレス https://sec.tobutoptours.co.jp/web/evt/shokubai126kai/ 2.掲載日 令和2年9月9日 3.公開者 張宏偉、糸井貴臣、小西健久、泉康雄 〔刊行物等〕1.集会名 第126回触媒討論会 2.開催日 令和2年9月16日 3.公開者 張宏偉
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】泉 康雄
(72)【発明者】
【氏名】張 宏偉
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CC22
4G169HA01
4G169HA02
4G169HB06
4G169HC01
4G169HD03
4G169HE10
4H006AA02
4H006BA10
4H006BA21
4H006BA30
4H006BC11
4H006BE20
4H006BE41
4H039CB20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光照射により二酸化炭素を効率良く還元できる光触媒、及び該触媒を利用したメタンの製造方法を提供する。
【解決手段】金属酸化物半導体と、金属酸化物半導体に担持された、0価の金属ニッケル、及び0価の金属ニッケルを含む合金から選択される少なくとも1種とを含む、光触媒。前記光触媒と二酸化炭素及び水素ガスを含む混合ガスとを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を前記光触媒に照射して、メタンを生成させる工程を含む、メタンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物半導体と、
前記金属酸化物半導体に担持された、0価の金属ニッケル、及び0価の金属ニッケルを含む合金から選択される少なくとも1種と
を含む、光照射により二酸化炭素を還元するための光触媒。
【請求項2】
前記金属酸化物半導体が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、オキシ塩化ビスマス、バナジン酸ビスマス、酸化タングステン、酸化鉄、及びタンタル酸カリウムから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記金属酸化物半導体が、酸化ジルコニウムである、請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記金属ニッケルの担持量が、前記光触媒中、ニッケル原子換算で1~35質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の光触媒。
【請求項5】
前記金属ニッケルの担持量が、前記光触媒中、ニッケル原子換算で7~18質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の光触媒。
【請求項6】
光照射により二酸化炭素を還元してメタンを製造するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の光触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の光触媒と、二酸化炭素及び水素ガスを含む混合ガスとを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を前記光触媒に照射して、メタンを生成させる工程を含む、メタンの製造方法。
【請求項8】
さらに水の存在下で前記工程を行う、請求項7に記載のメタンの製造方法。
【請求項9】
前記工程における雰囲気温度が、200℃未満である、請求項7又は8に記載のメタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素還元用の光触媒、及びメタンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、近年の地球温暖化の主な原因物質であると考えられており、二酸化炭素の排出量の削減又はその有効利用が検討されている。例えば、触媒を用いて、二酸化炭素を有用な化合物に変換する方法が検討されている。また、加熱により、二酸化炭素を、メタン等の燃料に変換しえる触媒及び方法が知られている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Kechao Zhao et al.;Journal of CO2 Utilization 16(2016)236-244
【非特許文献2】Xinyu Jia et al.;Applied Catalysis B:Environmental 244(2019)159-169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の触媒では、例えば紫外光及び可視光などの光を触媒に照射して二酸化炭素を還元する方法において、二酸化炭素の還元速度、特にメタンの生成速度が充分に高いとはいえず、触媒活性の観点から改良が必要である。なお、非特許文献1及び2には、ニッケル系触媒が開示されているが、光照射により二酸化炭素を還元することは何ら検討されていない。
【0005】
本開示の一つの課題は、光照射により二酸化炭素を効率良く還元でき、一実施形態において二酸化炭素をメタンに変換できる光触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の光触媒は、光照射により二酸化炭素を還元するための触媒であり、金属酸化物半導体と、金属酸化物半導体に担持された、0価の金属ニッケル、及び0価の金属ニッケルを含む合金から選択される少なくとも1種とを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、光照射により二酸化炭素を効率良く還元でき、一実施形態において二酸化炭素をメタンに変換できる光触媒を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において数値範囲を示す「A~B」は、「~」の前後に記載された数値A及び数値Bを、下限値及び上限値、又は上限値及び下限値として含む。例えば「1~10」は、1以上10以下の数値範囲を意味する。
【0009】
本開示の光触媒は、
光照射により二酸化炭素を還元するための触媒であり、
金属酸化物半導体と、
金属酸化物半導体に担持された、0価の金属ニッケル、及び0価の金属ニッケルを含む合金から選択される少なくとも1種(以下「金属ニッケル類」とも記載する)と
を含む。
【0010】
一実施形態において、本開示の光触媒の存在下に、二酸化炭素及び水素ガスを含む混合ガスを流通させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を該光触媒に照射することにより、安定的に長期間にわたって、二酸化炭素を燃料として有用なメタンに変換できる。以下、この変換を「二酸化炭素の光還元反応」とも記載する。上記光触媒は、二酸化炭素の光還元反応において、高い触媒活性と、メタンへの高い選択性とを有する。
【0011】
このため、例えば、本開示の光触媒の存在下に、空気に水素ガスを流通させながら、例えば太陽光を該光触媒に照射することにより、空気中の二酸化炭素をメタンに効率良く変換できる。このように、地球温暖化の主な原因物質であると考えられている二酸化炭素の濃度を、本開示の光触媒、水素ガス及び太陽光を用いて低減できる。
【0012】
すなわち、本開示の光触媒は、光照射により二酸化炭素を還元するための光触媒であり、光照射により二酸化炭素を還元してメタンを製造するための光触媒であることが好ましい。
【0013】
金属酸化物半導体は、金属ニッケル類を担持する担体である。
金属酸化物半導体としては、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化ニオブ(Nb)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、オキシ塩化ビスマス(BiOCl)、バナジン酸ビスマス(BiVO)、酸化タングステン(WO)、酸化鉄(Fe)、及びタンタル酸カリウム(KTaO)が挙げられる。金属酸化物半導体としては、二酸化炭素を良好に還元できるという観点から、25℃で2.0~5.5eVのバンドギャップを有する金属酸化物半導体が好ましく、25℃で3.0~5.5eVのバンドギャップを有する金属酸化物半導体がより好ましく、25℃で4.5~5.5eVのバンドギャップを有する金属酸化物半導体がさらに好ましい。
【0014】
金属酸化物半導体の中でも、より高い触媒活性を示す光触媒が得られることから、酸化ジルコニウム、酸化チタン及び酸化亜鉛が好ましく、酸化ジルコニウムがより好ましい。
【0015】
本開示の光触媒は、1種又は2種以上の金属酸化物半導体を含むことができる。
金属酸化物半導体は、多結晶及び単結晶等のいずれであってもよい。
金属酸化物半導体の形状は、例えば、粒子状である。
【0016】
金属酸化物半導体の算術平均粒子径は、より高い触媒活性が得られるという観点から、好ましくは1~500nmであり、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。平均粒子径は、金属酸化物半導体の透過電子顕微鏡法(TEM)により得られた画像において、無作為に選んだ100個の金属酸化物半導体粒子の長軸径を測定し、算術平均することにより算出できる。
【0017】
金属酸化物半導体の比表面積は、より高い触媒活性が得られるという観点から、好ましくは1~300m/gであり、より好ましくは10m/g以上、さらに好ましくは50m/g以上であり、より好ましくは200m/g以下、さらに好ましくは150m/g以下である。比表面積は、BET法により測定できる。
【0018】
金属酸化物半導体に担持されている金属ニッケル類に含まれるニッケルは、0価の金属ニッケル(以下「Ni」とも記載する)である。本開示において、金属酸化物半導体に担持されているニッケルをNiに保った状態で二酸化炭素の光還元反応を行うことで、例えば、二酸化炭素をメタンに良好に変換できる。
【0019】
金属ニッケル類は、0価の金属ニッケル、及び0価の金属ニッケルを含む合金から選択される少なくとも1種であり、好ましくは0価の金属ニッケルである。合金に含まれる他の金属としては、例えば、金、銀、銅、鉄、コバルト及びモリブデンが挙げられる。合金は、例えば、コアシェル構造を有する合金であってもよい。例えば、コアシェル構造の外殻が0価の金属ニッケルであり、外殻により被覆された物質が他の金属である。
【0020】
金属酸化物半導体に担持されている金属ニッケル類は、好ましくは粒子状である。また、二酸化炭素の光還元反応を良好に進められることから、金属ニッケル類の粒子に含まれるニッケルは、該粒子の表面において0価の金属ニッケルであることが好ましく、該粒子の表面及び内部のいずれにおいても0価の金属ニッケルであることがより好ましい。
【0021】
金属酸化物半導体に担持されている金属ニッケル類の算術平均粒子径は、より高い触媒活性が得られるという観点から、好ましくは0.3~50nmであり、より好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは1.0nm以上であり、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは10nm以下、特に好ましくは5.0nm以下である。金属ニッケル類の平均粒子径は、高角度散乱暗視野(走査透過電子顕微鏡)法(HAADF-STEM)又は高分解能TEM(HR-TEM)により得られた画像において、無作為に選んだ100個のニッケル粒子の長軸径を測定し、算術平均することにより算出できる。
【0022】
金属酸化物半導体の算術平均粒子径に対する金属ニッケル類の算術平均粒子径の比は、好ましくは0.01~0.9であり、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.8以下、さらに好ましくは0.6以下である。
【0023】
本開示の光触媒において、金属ニッケル類の担持量は、ニッケル原子換算で、好ましくは1~35質量%、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、特に好ましくは7質量%以上であり、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは18質量%以下、特に好ましくは13質量%以下である。担持量が下限値以上であると、金属ニッケル類による触媒作用がより良好に発揮される。担持量が上限値以下であると、金属酸化物半導体による触媒作用がより良好に発揮される。したがって、担持量が上記範囲にあると、より優れた還元性能が得られ、具体的にはメタンの高い生成速度を達成できる。
【0024】
本開示の光触媒が上記効果を奏する理由について、本発明者らは、FT-IR等の結果から、以下の通り推測している。まず、二酸化炭素が、金属酸化物半導体に重炭酸塩として吸着される。光照射エネルギーによる、金属酸化物半導体における電荷分離の作用により、重炭酸塩は、ギ酸塩に変換され、続いて該ギ酸塩は、Ni表面で一酸化炭素に、そして金属酸化物半導体表面でヒドロキシ基に変換される。ギ酸塩は、金属酸化物半導体とNi表面との界面において重炭酸塩の2電子還元により形成される。また、Niが光照射エネルギーにより加熱され、Ni表面で水素ガスを活性化して水素ガスの解離を促進する。このため、一酸化炭素は、Ni表面においてメチルに還元され、さらにメタンに還元される。このような効果、特にメタンの高い生成速度は、例えば対流加熱のみでは得られず、光照射により初めて得られるものである。なお、以上の説明は推測であって、本開示の光触媒を何ら限定するものではない。
【0025】
[光触媒の製造方法]
本開示の光触媒の製造方法は、金属ニッケル類が担持された金属酸化物半導体を製造できれば特に限定されない。金属酸化物半導体に担持されたニッケルがNiIIである場合は、Niに還元する必要がある。
一実施形態において、本開示の光触媒の製造方法は、金属酸化物半導体とニッケル含有化合物とを混合して混合物を得る工程と、混合物に対して還元処理を行う工程とを含む。
【0026】
還元処理としては、例えば、還元剤を用いる液相還元法、及び水素ガスを用いる接触還元法が挙げられる。液相還元法及び接触還元法のいずれか一方を用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0027】
液相還元法におけるニッケル含有化合物としては、溶媒中に溶解可能であれば特に限定されず、例えば、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル及び塩化ニッケルなどのニッケル塩、並びにこれらの水和物が挙げられる。これらの中でも、硝酸ニッケル及びその水和物が好ましい。
上記溶媒としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられ、水が好ましい。
ニッケル含有化合物は1種又は2種以上用いることができる。
【0028】
液相還元法における還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素リチウム等の水素化ホウ素化合物、水素化シアノホウ素化合物、ジメチルアミノボラン等のボラン化合物、ヒドラジン化合物、金属ナトリウム、並びに金属ヒドリドが挙げられる。これらの中でも、水素化ホウ素化合物が好ましく、水素化ホウ素ナトリウムがより好ましい。
還元剤は1種又は2種以上用いることができる。
【0029】
還元剤の添加量は、ニッケル原子1モルに対して、好ましくは0.2~100モル、より好ましくは0.5~20モルである。これにより、良好にニッケルを還元できる。
【0030】
液相還元法の具体例としては、金属酸化物半導体及びニッケル含有化合物を溶媒中に浸漬し、還元剤を加え、必要に応じて撹拌してニッケルを還元し、ろ過及び乾燥処理等により溶媒を除去する方法が挙げられる。これにより、0価の金属ニッケル(Ni)が担持された金属酸化物半導体が得られる。
【0031】
0価の金属ニッケルは空気中において酸化されやすいため、一実施形態において、金属酸化物半導体とニッケル含有化合物との混合物に対して、液相還元法による処理を行った後、水素ガスを用いる接触還元法による処理をさらに行うことが好ましい。
【0032】
接触還元法では、例えば、水素ガス、及び水素ガスと不活性ガス(例:窒素ガス、アルゴンガス)との混合ガスが用いられる。混合ガス中の水素ガスの割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。
【0033】
水素ガスを用いる接触還元法において、雰囲気温度は、好ましくは200~600℃であり、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは400℃以上であり、より好ましくは550℃以下、さらに好ましくは500℃以下である。接触還元法による処理時間は、例えば、1分~10時間である。これにより、NiIIをNiに良好に還元できる。
【0034】
0価の金属ニッケルの酸化を避けるという観点から、本開示の光触媒を、その使用直前まで非酸化性雰囲気下に保管することが好ましい。非酸化性雰囲気としては、例えば、窒素ガス及びアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気、並びに、水素ガスなどの還元ガス雰囲気が挙げられる。
【0035】
[メタンの製造方法]
一実施形態において、本開示のメタンの製造方法は、本開示の光触媒と、二酸化炭素及び水素ガスを含む混合ガスとを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を光触媒に照射して、メタンを生成させる工程(以下「工程(1)」とも記載する)を含む。
【0036】
二酸化炭素(CO)1モルに対する水素ガス(H)の供給量は、好ましくは0.1~40モルであり、より好ましくは1モル以上、さらに好ましくは2モル以上であり、より好ましくは30モル以下、さらに好ましくは20モル以下である。これにより、金属酸化物半導体に担持されたニッケルを0価に維持しながら、二酸化炭素を還元できる。
【0037】
上記混合ガスは、窒素ガス及びアルゴンガス等の不活性ガスを含んでもよい。
【0038】
工程(1)は、さらに水の存在下に行うこともできる。水も、二酸化炭素を還元するための水素供給源となりえる。二酸化炭素1モルに対する水の供給量は、金属酸化物半導体に担持されたニッケルを0価に維持しながら、二酸化炭素を還元するという観点から、一実施形態において、0.01~50モルであり、好ましくは0.1~10モルである。
【0039】
工程(1)において光触媒に照射される光は、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む。紫外光が金属酸化物半導体における電荷分離を誘起して、二酸化炭素を一酸化炭素に還元し、可視光がNiを加熱して水素ガスを活性化し、一酸化炭素をメタンに変換すると推測されることから、光触媒に照射される光は、紫外光及び可視光を含むことが好ましい。
【0040】
上記光は、例えば、波長200~800nmの光を含む。上記光は、波長200~715nmの光を少なくとも含むことが好ましい。上記光は、波長200~320nmの光と、波長320nm超520nm以下の光、及び/又は波長520nm超715nm以下の光とを少なくとも含むことがさらに好ましい。
【0041】
上記光の照射量は、好ましくは1~1000mW/cmであり、より好ましくは10mW/cm以上であり、より好ましくは500mW/cm以下である。上記光として、例えば太陽光を用いてもよい。
【0042】
工程(1)における雰囲気温度は、特に限定されず、常温で行うことができる。一実施形態において、工程(1)における雰囲気温度は、好ましくは200℃未満、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは100℃以下、よりさらに好ましくは50℃以下であり、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上である。このような温度範囲であっても、本開示のメタンの製造方法では、光照射により、メタンの高い生成速度を達成できる。
【0043】
反応形式は、本開示の光触媒と二酸化炭素及び水素ガスを含む混合ガスとを効率的に接触できれば特に制限はなく、例えば、固定床、流動床及び移動床で反応を行わせることができる。本開示の光触媒は、粉末のまま用いてもよく、成型して用いてもよい。反応圧力については、特に制限されない。
【0044】
本開示の光触媒を用いた二酸化炭素の光還元反応(水素化反応)における生成物は、主としてメタンであるが、一酸化炭素及び水等の副生成物を含んでもよい。
【0045】
本開示の光触媒を用いることにより、既存の化石燃料の使用に伴う不可逆な二酸化炭素の生成に対して、該二酸化炭素を燃料に戻すカーボン・ニュートラル・サイクルを形成できる。したがって、本開示の光触媒は、地球温暖化及びエネルギー問題の解決に寄与できる。
【0046】
本開示は、例えば以下の[1]~[9]に関する。
[1]金属酸化物半導体と、金属酸化物半導体に担持された、0価の金属ニッケル、及び0価の金属ニッケルを含む合金から選択される少なくとも1種とを含む、光照射により二酸化炭素を還元するための光触媒。
[2]金属酸化物半導体が、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム、オキシ塩化ビスマス、バナジン酸ビスマス、酸化タングステン、酸化鉄、及びタンタル酸カリウムから選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載の光触媒。
[3]金属酸化物半導体が、酸化ジルコニウムである、上記[1]又は[2]に記載の光触媒。
[4]金属ニッケルの担持量が、光触媒中、ニッケル原子換算で1~35質量%である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の光触媒。
[5]金属ニッケルの担持量が、光触媒中、ニッケル原子換算で7~18質量%である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の光触媒。
[6]光照射により二酸化炭素を還元してメタンを製造するための、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の光触媒。
[7]上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の光触媒と、二酸化炭素及び水素ガスを含む混合ガスとを接触させながら、紫外光及び可視光のいずれか一方又は双方を含む光を光触媒に照射して、メタンを生成させる工程を含む、メタンの製造方法。
[8]さらに水の存在下で上記工程を行う、上記[7]に記載のメタンの製造方法。
[9]上記工程における雰囲気温度が、200℃未満である、上記[7]又は[8]に記載のメタンの製造方法。
【実施例0047】
以下、本開示の光触媒を実施例に基づきより詳細に説明する。
【0048】
[調製例1]
担体として0.500gのZrO粉末(JRC-ZRO-3、触媒学会参照触媒;平均粒子径7nm、比表面積94.4m/g)を、80mLの水(電気伝導率0.055μS/cm未満)に浸漬した。0.129~0.995gの硝酸ニッケル(II)六水和物(純度99.9%超、和光純薬(株)製)をそこに加えた。
【0049】
得られた混合物を超音波(430W、38kHz)により20分間撹拌し、マグネティックスターラーを用いて900rpmで1時間撹拌した。0.129~1.04gの水素化ホウ素ナトリウム(純度95%超、和光純薬(株)製)を20mLの水に溶かした溶液をそこに加え、マグネティックスターラーを用いて900rpmで撹拌した。
【0050】
次いで、得られた懸濁液を、ポリテトラフルオロエチレン系メンブレンフィルター(メルクミリポア社製、オムニポア、JVWP04700;細孔径0.1μm)を用いてろ過し、得られた固体残渣を250mLの水を用いて洗浄した。得られた粉末を100℃で一晩乾燥した。得られた粉末を「Ni-ZrO」と記載する。
【0051】
Ni担持量は5.0質量%、10質量%、15質量%又は30質量%であった。Ni担持量が5.0質量%の粉末は薄緑色を呈しており、Ni担持量が10質量%、15質量%又は30質量%の粉末は灰黒色を呈していた。
【0052】
[調製例2]
担体としてZrO粉末にかえてSiO粉末(MCM-41、シグマアルドリッチ社製;細孔径2nm、比表面積1000m/g)を用いたこと以外は調製例1と同様に行った。得られた粉末を「Ni-SiO」と記載する。得られた粉末は灰色を呈しており、Ni担持量は10質量%であった。
【0053】
[調製例3]
0.500gのZrO粉末及び0.260gの硝酸ニッケル(II)六水和物を水中で混合して、80℃で水を留去した。得られた粉末を100℃で乾燥し、空気中、450℃で2時間焼成した。得られた粉末を「NiO-ZrO」と記載する。得られた粉末は灰色を呈しており、Ni担持量は10質量%であった。なお、この段階では、粉末は水素化ホウ素ナトリウムにより処理されておらず、また空気中で粉末を焼成しているので、ZrOに担持されているニッケルはNiIIであった。
【0054】
[水素ガスを用いた還元処理]
それぞれ20mgのZrO、Ni-ZrO、Ni-SiO又はNiO-ZrOを、パイレックス(登録商標)ガラス循環システムに接続された、内容積46.0mLのU字型石英管に入れ、ロータリーポンプ及び拡散ポンプの両方を用いて、10-6Paの真空中で1時間処理した。次いで、20kPaのH(純度99.99%超)を系中に導入し、昇温速度15℃/分で450℃に昇温し、当該温度で10分間保持した。このようにして処理された触媒サンプルを、それぞれ「還元ZrO」、「還元Ni-ZrO」、「還元Ni-SiO」、「還元NiO-ZrO」と記載する。還元ZrOは白色、還元Ni-ZrOは茶黒色、還元Ni-SiOは茶黒色、還元NiO-ZrOは茶黒色を呈していた。
【0055】
[粒子径]
透過電子顕微鏡法(TEM)により、電界放出銃(加速電圧200kV)を備えた型番「JEM-2100F」(日本電子(株)製)を用いて、触媒サンプルのTEM画像を取得した。高角度散乱暗視野(走査透過電子顕微鏡)法(HAADF-STEM)及び高分解能TEM(HR-TEM)により、JEM-2100Fを用いて、触媒サンプルの画像を取得した。
【0056】
還元Ni(10質量%)-ZrOのTEM画像から、長軸径が10nm以下の結晶が観察された。HAADF-STEM画像及びHR-TEM画像から、Niの粒子径分布を得た。Niの算術平均粒子径は、約2.2nmであった。
【0057】
[CO の光還元試験]
13CO13C:99.0%、17O:0.1%、18O:0.7%、純度99.9%超、 Cambridge Isotope Lab)の光還元試験を、各調製例で得られた触媒サンプル20mgを用いて行った。13COは、光還元試験で得られる還元化合物と、大気中の12CO由来の還元化合物(例えばCH)とを区別するために用いた。
【0058】
13COの光還元試験では、2.3kPaの13CO及び21.7kPaのH(純度99.99%超)の混合ガスを反応器に導入した。また、水を用いた13COの光還元試験では、2.3kPaの13CO、2.3kPaのHO又はDO(D:99.9%、化学的純度99.5%超、Cambridge Isotope Lab)、及び実験によってはさらに21.7kPaのHを反応器に導入した。各反応は常温で行った。
【0059】
キセノンアークランプ(SX-UID502XAM、疑似太陽光、ウシオ電機(株)製;500W)を用いて、紫外光及び可視光を、Y型石英ファイバーライトガイドを介して、上記触媒サンプルを含む反応器の上部及び下部から照射した。ファイバーライト出口(Φ=5mm)と触媒サンプルとの距離は20mmであった。触媒サンプルの中心位置における光の強度は90.2mW/cmであった。キセノンアークランプの波長に対する光強度分布を、光源から20mmの位置に置かれた分光放射照度計(USR45DA、ウシオ電機(株)製)を用いて測定した。
【0060】
光照射に用いた光の波長カットは、各々のファイバーライト出口に設置されたカットフィルターを用いて行った。型番「UV32」、「Y52」及び「WR715」(厚さがそれぞれ2.0mm、2.0mm及び2.5mm;HOYA(株)製)を、それぞれ、波長λ>320nm、λ>520nm及びλ>715nmの光を透過させるために用いた。比較のために、上記試験を、反応器がアルミニウム箔で完全に覆われた暗条件でも行った。
【0061】
13COの光還元試験において、生成物の分析には、オンラインガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS、JMS-Q1050GC、日本電子(株)製)を用いた。また、分子篩「13X-S」(長さ3m、内径3mm;ジーエルサイエンス(株)製)の充填カラムを用いた。ヘリウム(0.40MPa、純度99.9999%超)を、搬送ガスとして用いた。パイレックス(登録商標)ガラスシステムからなるサンプリングループ(4.6mL)を、1.5mの不活性化石英ガラス管(内径250μm)を介してGC-MSに接続されたロータリーポンプ及び拡散ポンプを用いて、10-6Paの真空下に維持した。石英ガラス管は、分析中の気体の吸着を避けるため、120℃に維持した。
【0062】
評価結果を表1~表3に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
表1に、13COの光還元反応の結果を示す。
で還元処理されていないZrO又はNiO-ZrOを光触媒として用いた場合は、主にCOのみが生成した。還元ZrOを用いた場合も、主にCOのみが生成した。これに対して、還元Ni-ZrO又は還元NiO-ZrOを用いた場合は、生成物のうち98モル%超でCHが生成し、COは微量生成物であった。以上の結果から、Hによる高温前処理が、還元NiO-ZrOを用いたCOの光還元において重要であると考えられる。
【0067】
還元ZrOを用いた場合は、CO生成速度は、反応時間18時間まではほぼ一定であり、反応時間28時間で14%減少した。還元Ni(10質量%)-ZrOを用いた場合は、13CHが320μmol/h・gcatの生成速度で2日間にわたり安定的に生成し、反応時間48~49時間でやや減少した。還元Ni(10質量%)-ZrOを用いた場合の、反応時間48時間後のCH生成速度の減少は、光触媒の不活性化によるものではなく、反応物である13COがほぼすべて消費されたためであると考えられる。
【0068】
還元ZrO又は還元Ni(5.0~30質量%)-ZrOを用いて得られた炭素含有生成物(CO及びCH)中の12Cの割合は、2.0~4.3モル%であり、13CO反応ガス中に含まれる12Cの割合(1.0モル%)よりも大きかった。これは、光還元反応試験前の触媒サンプル中に吸着されていた12COに起因すると考えられる。
【0069】
表2に、還元Ni(10質量%)-ZrOを用いた場合の、照射光の波長の影響を示す。波長320nm超、波長520nm超、及び波長715nm超の光照射を行った場合の炭素含有生成物の生成速度は、それぞれ、波長カットをせずに光照射を行った場合の、21%、5.6%、及び0.086%であった。暗条件下での炭素含有生成物の生成速度は、波長カットをせずに光照射を行った場合の0.024%であった。したがって、COの光還元に対する照射光の波長による寄与は、79%(λ≦320nm)、15%(320nm<λ≦520nm)、5.5%(520nm<λ≦715nm)、0.06%(λ>715nm)、及び0.02%(熱反応)であった。
【0070】
暗条件下での炭素含有生成物の生成速度は、反応開始10時間後に低下した。これは、COにより金属ニッケル表面が酸化されたためであると考えられる。
【0071】
表3に、水素供給物質として水を用いた場合のCOの光還元反応の結果を示す。
反応器への水及びHの添加に伴い、Ni状態が維持され、13CO13CHに2日間にわたり安定的に変換された。還元Ni(10質量%)-ZrOを用いた場合は、炭素含有生成物の全生成速度は130μmol/h・gcatであった。
【0072】
13CO(2.3kPa)、H(21.7kPa)及びDO(2.3kPa)の条件下において、13CHが主生成物であり、13CH13CHD、13CH13CHD及び13CDが安定的に2日間にわたり生成した。水素ガスの同位体標識(D)により、水及び水素ガスの双方が二酸化炭素のメタンへの光還元に寄与していることが確認された。具体的には、メタン中の水素原子の8.9%がDO由来の重水素であり、導入したH,D比に対応して生成メタンにH及びDが含まれていた。