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特開2022-64141水稲栽培用培土及びそれを用いる水稲栽培方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064141
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】水稲栽培用培土及びそれを用いる水稲栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/48 20180101AFI20220418BHJP
   A01G 24/10 20180101ALI20220418BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20220418BHJP
【FI】
A01G24/48
A01G24/10
A01G22/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172689
(22)【出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】510040363
【氏名又は名称】株式会社鳥取再資源化研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 裕明
(72)【発明者】
【氏名】竹内 義章
(72)【発明者】
【氏名】中野 惠文
(72)【発明者】
【氏名】馬場 貴志
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022BA01
2B022BB01
(57)【要約】
【課題】お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる)水稲栽培用培土、及び何ら特殊な水位調整等を必要とすることなく、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない、容易に可能な水稲栽培方法を提供する。
【解決手段】沈降性を有する多孔質体を含む、水稲栽培用培土である。更に、多孔質体が、0.4以上の比重を有する、水稲栽培用培土である。そのような水稲栽培用培土を用いて水稲を栽培することを含む水稲栽培方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈降性を有する多孔質体を含む、水稲栽培用培土。
【請求項2】
多孔質体が、0.4以上の比重を有する、請求項1記載の水稲栽培用培土。
【請求項3】
多孔質体が、無機物を含む、請求項1又は2に記載の水稲栽培用培土。
【請求項4】
多孔質体が、二酸化ケイ素を主成分とする発泡体を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の水稲栽培用培土。
【請求項5】
発泡体が、発泡ガラスを含む、請求項4に記載の水稲栽培用培土。
【請求項6】
多孔質体のサイズが、30mm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水稲栽培用培土。
【請求項7】
多孔質体は、0.1~1000μmの孔を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の水稲栽培用培土。
【請求項8】
5~30体積%の多孔質体を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の水稲栽培用培土。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の水稲栽培用培土を用いて、水田で水稲を栽培することを含む、水稲栽培方法。
【請求項10】
水稲用栽培用培土と、水稲の根を絡ませて、水稲を栽培することを含む、請求項9に記載の水稲栽培方法。
【請求項11】
水稲栽培用培土を用いて、水稲の苗を育てること;
水稲栽培用培土と一緒に苗を、水田に植えること;
苗を水田で育てて、水稲を栽培すること
を含む、請求項9又は10に記載の水稲栽培方法。
【請求項12】
水稲栽培用培土に籾をまいて、水稲の苗を育てることを含む、請求項11に記載の水稲栽培方法。
【請求項13】
水稲栽培用培土を用いて、水稲の苗を育てて、苗の根を水稲栽培用培土と絡ませることを含む、請求項11又は12に記載の水稲栽培方法。
【請求項14】
田植え機を用いて、水稲栽培用培土と一緒に苗を水田に植えることを含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の水稲栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水稲栽培用培土及びそれを用いる水稲栽培方法に関し、さらに詳しくは、特定の多孔質体を含む水稲栽培用培土及びそれを用いる水稲栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲栽培における機械化技術の発達は、農家の直接労働時間の減少、稲作の低コスト化と共に収量の増加に寄与した。しかし、近年、収量増加が停滞している。この一因として、農家の高齢化に伴う水田管理労働の低下(簡略化)が考えられる。本来、水稲収穫後に家畜ふん堆肥による元肥を施すことで、地力(その土地の持つ植物を育てる力)が回復し、次年度の収量増が期待される。しかし、近年、農業従事者が高齢化し、重くて扱いが面倒な家畜ふん堆肥が敬遠され、水田での堆肥使用量が30年間で約4分の1に減少した。従って、地力が低下した土壌又は栄養バランスが悪化した土壌が増加傾向にあり、水稲の単位面積当たりの収量の伸びは鈍化していると言われている。
【0003】
一般的に、収量を増加させるために窒素肥料(例えば、堆肥及び化学肥料)を多く使用すると、玄米中のタンパク質含有量が増加することが指摘されている。玄米中のタンパク質含有量が高い場合、お米の食味が低下することが知られている。
【0004】
そこで、収量を増加させるためにケイ素(Si)含有肥料が注目されている。茎葉中のケイ素含有量が高いほど、稲の葉が直立し、受光態勢が良くなることが知られている。更に、稲の生長において茎や葉の細胞の発達が促進されると、組織がより丈夫になるので、病害虫による被害の軽減や倒状軽減が期待できる。そして、根の酸化力が向上するため、根腐れを防止できる等の利点が挙げられる。
しかし、水稲のケイ素の吸収量は窒素の約10倍、リン酸の約20倍に達するといわれるので、現実には、近年増加しつつある地力が低下した土壌のケイ素不足は深刻である。100kgの玄米を生産するために必要なケイ酸は、約20kgであるといわれるので、ケイ素含有肥料の使用は、不可欠と考えられる。
【0005】
特許文献1は、ケイ酸カリウムを含む水溶液を、水稲の少なくとも一部に接触させる、水稲栽培方法を開示し、その水稲栽培方法を用いると、食味を維持しつつ、お米の収量を向上させることができることを示す(特許文献1請求項1、[0004]~[0006]、[0016]~[0017]参照)。
【0006】
特許文献2は、ガラス質発泡体及び少なくとも1種の他の資材を含む水稲育苗培土を開示し、その水稲育苗培土は、適度な重量を有する(同一容量の造粒培土の約40%)ため、持ち運び作業が容易に行え、流亡しづらく、播種機械による播種作業に適し、健全な育苗を可能とし、ガラス由来のリサイクル資材を用いるため環境保全に資することを示す(特許文献2要約、請求項1、[0009]、[0013]、[0058]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-212703号公報
【特許文献2】特開2012-165657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、ケイ酸カリウムを含む水溶液を使用することで、お米の食味を維持しつつ、収量を向上させることを開示するが、その水稲栽培方法の水田の水位調整等は煩雑である。例えば、水田の水位を地面が露出するほど一旦下げて、その約2週間後に、ケイ酸カリウムを含む水溶液を水田に供給することが必要である(特許文献1請求項3、[0013]、[0015]~[0016]参照)。
【0009】
特許文献2は、ガラス質発泡体を含む水稲育苗培土を使用すると、持ち運び作業を容易に行うことができ、健全な育苗が可能であり、環境保全に資することを開示するが、その苗を水田に植えて水稲を栽培して、収穫されるお米の収量及び食味について何ら開示も教示もするものではない。本願発明者らは、特許文献2の実施例で使用されたガラス質発泡体(特開平11-236232号公報記載と対応するガラス発泡体であり、実質的に独立泡のみを有する)を使用して苗を育て、その苗を水田に植えたところ、苗と一緒に水田に移行した水稲育苗培土が、水に沈降せず、水の流出と一緒に、水田から流出することに気づいた。従って、特許文献2記載の水稲育苗培土は、育苗期間は使用できるが、水田で水稲栽培のために使用できないことが明らかである。
【0010】
従って、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる。好ましくは食味を向上できる)水稲栽培用培土、及び何ら特殊な栽培方法(例えば、特定の水位調整等)を必要とすることなく、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる。好ましくは食味を向上できる)、水稲栽培方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の多孔質体を含む水稲栽培用培土を用いて苗を育て、その苗の根にその水稲栽培用培土が付着したままその苗を水田に植えると、お米の収量を増加しつつ、食味を著しく低下させないことを見出した。更に、その水稲栽培用培土は、水田で流出することはないこと、水稲の栽培期間に特殊な水位調整等は不要であることも見出して、本発明を完成した。
【0012】
本明細書は、下記の実施形態を含む。
1.沈降性を有する多孔質体を含む、水稲栽培用培土。
2.多孔質体が、0.4以上の比重を有する、上記1記載の水稲栽培用培土。
3.多孔質体が、無機物を含む、上記1又は2に記載の水稲栽培用培土。
4.多孔質体が、二酸化ケイ素を主成分とする発泡体を含む、上記1~3のいずれか1つに記載の水稲栽培用培土。
5.発泡体が、発泡ガラスを含む、上記4に記載の水稲栽培用培土。
6.多孔質体のサイズが、30mm以下である、上記1~5のいずれか1つに記載の水稲栽培用培土。
7.多孔質体は、0.1~1000μmの孔を有する、上記1~6のいずれか1つに記載の水稲栽培用培土。
8.5~30体積%の多孔質体を含む、上記1~7のいずれか1つに記載の水稲栽培用培土。
9.上記1~8のいずれか1つに記載の水稲栽培用培土を用いて、水田で水稲を栽培することを含む、水稲栽培方法。
10.水稲用栽培用培土と、水稲の根を絡ませて、水稲を栽培することを含む、上記9に記載の水稲栽培方法。
11.水稲栽培用培土を用いて、水稲の苗を育てること;
水稲栽培用培土と一緒に苗を、水田に植えること;
苗を水田で育てて、水稲を栽培すること
を含む、上記9又は10に記載の水稲栽培方法。
12.水稲栽培用培土に籾をまいて、水稲の苗を育てることを含む、上記11に記載の水稲栽培方法。
13.水稲栽培用培土を用いて、水稲の苗を育てて、苗の根を水稲栽培用培土と絡ませることを含む、上記11又は12に記載の水稲栽培方法。
14.田植え機を用いて、水稲栽培用培土と一緒に苗を水田に植えることを含む、上記11~13のいずれか1つに記載の水稲栽培方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態の水稲栽培用培土を用いると、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる、より好ましくは食味を向上できる)。更に、本発明の実施形態の水稲栽培方法を用いると、何ら特殊な栽培方法(例えば、水位調整等)を必要とすることなく、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させないで(好ましくは食味を維持し、より好ましくは食味を向上した)、水稲を栽培することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一の実施形態において、沈降性を有する多孔質体を含む、水稲栽培用培土を提供する。
本明細書において、「水稲栽培用培土」とは、水稲を栽培するための培土(又は培養土)をいい、水稲を栽培することが出来る限り特に制限されることはない。水稲栽培用培土は、苗床で水稲の育苗に使用することができるのみならず、水田で水稲を栽培するために使用することができる。水稲栽培用培土は、水田全体に使用することができるが、水田の中で、水稲の苗が植えられる部分に選択的に使用することが好ましい。
【0015】
本明細書において、「水稲」とは、水田で栽培される稲をいい、より具体的には、例えば、水を張った水田で栽培される稲をいう。本明細書において、一般に水稲と呼ばれ、水田で栽培される稲であり、本発明の実施形態の水稲栽培用培土を使用できる限り、水稲は、特に制限されることはない。
【0016】
そのような「稲」は、日本型(subsp. japonica Kato)とインド型(subsp. indica Kato)の2亜種を含む。日本型は日本、朝鮮半島、台湾、中国大陸北部などのほか、ブラジル、アメリカのカリフォルニア州など比較的高緯度地域で栽培され、米粒は丸く短く、炊くと粘り気がある。インド型は日本で普通、インディカ米、タイ米、南京米(ナンキンまい)などと称され、東南アジアを中心にアフリカ、アメリカ南部、イタリアのロンバルディア地方に代表される地中海沿岸など、主として低緯度地域に栽培される。
稲は、種々の品種を含み、例えば、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、ななつぼし、はえぬき、キヌヒカリ、まっしぐら、あさひの夢、ゆめぴりか等を含む。本発明の実施形態の水稲栽培用培土を使用できる限り、稲の品種は特に制限されることはない。
【0017】
本明細書において、「水田」とは、主として水稲を栽培するために周囲にあぜをつくり,水をたたえることができるようにした耕地をいい、本発明の実施形態の水稲栽培用培土を使用して水稲を栽培することができる限り、特に制限されることはない。
【0018】
本発明の実施形態において、多孔質体(多孔質材料ともいう)とは、多くの細孔が存在する材料であり、水を保持し及び/又は水を透過することができ、肥料となりえる有機物及び/又は無機物を保持することができ、本発明が目的とする水稲栽培用培土を得ることができる限り、特に制限されることはない。
【0019】
本発明の実施形態において、多孔質体は、沈降性を有することが好ましい。
多孔質体の沈降性は、実施例で説明するように、100mLの体積の多孔質体を、1Lの蒸留水に入れて、24時間後に、その多孔質体が蒸留水に浮いているか、沈んでいるかを目視観察することで、評価することができる。
多孔質体の5割以上が、24時間後に蒸留水に沈んでいる場合、沈降性を有すると考えられる。この場合、本発明の実施形態の水稲栽培用培土を用いることで、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる、より好ましくは食味を向上できる)という有利な効果を奏する。
【0020】
多孔質体の比重は、0.4以上であることが好ましく、0.6~1.2であることがより好ましく、0.6~1.1であることが更により好ましく、0.7~1.0であることが特に好ましい。
比重は、JIS Z8807記載の方法に準じて測定することができる。
多孔質体の比重が、0.4以上である水稲栽培用培土を用いることで、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる、より好ましくは食味を向上できる)という有利な効果を奏することができる。
【0021】
本発明の実施形態において、多孔質体は、透水性を有することが好ましい。
多孔質体の透水性は、実施例で説明するように、約5×約5×約5cmの直方体の塊状多孔質体を、200mLの蒸留水が通過する時間を測定することで、評価することができる。200mLの蒸留水の少なくとも1部が、発泡ガラスを通過する時間が、24時間以内である場合、透水性を有すると考えられる。この場合、本発明の実施形態の水稲栽培用培土を用いることで、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる、より好ましくは食味を向上できる)という有利な効果を奏する。
【0022】
多孔質体として、例えば、ダイアトマイト、ゼオライト、軽石、れき、シリカゲル、発泡ガラス等の無機物を例示することができる。多孔質体は無機物を含むことが好ましい。多孔質体が無機物を含む場合、多孔質体はその形態を1年間維持することができ、多孔質体はその効果を1年間奏することができる。
【0023】
多孔質体は、二酸化ケイ素を主成分とする発泡体(例えば、発泡煉石、発泡ガラス等)を含むことが好ましく、発泡ガラスを含むことがより好ましい。多孔質体は、二酸化ケイ素を主成分とする発泡体を含む場合、二酸化ケイ素は、土壌と実質的に同じ成分なので、土壌にもどり、土壌を不要に汚染する恐れが小さい。
【0024】
多孔質体のサイズは、例えば、30mm以下であり、例えば、25mm以下であり、例えば、20mm以下であり、例えば、15mm以下であり、例えば、10mm以下であり、例えば、7mm以下である。多孔質体のサイズは、例えば、30mm以下であり、例えば、25mm以下であり、例えば、20mm以下であり、例えば、0.5mm以上であり、例えば、1mm以上であり、例えば、2mm以上であり、3mm以上である。多孔質体のサイズは、篩の目開きがXmmである篩を通りぬけるか否かで示す。
【0025】
多孔質体の細孔径は、例えば、0.1~1000μmであり、0.3~500μmであることが好ましく、0.6~100μmであることがより好ましく、1~50μmであることが特に好ましい。
【0026】
本発明の実施形態において、発泡ガラスとは、多数の細孔を有するガラスをいい、一例では、粉砕したガラスと発泡剤との混合物を焼成することによって製造することができる。発泡ガラスの製造方法について詳細に説明する。
【0027】
まず、発泡ガラスの原料となるガラス(以下、「原料ガラス」と称する)を粉砕する。本発明の実施形態の水稲栽培用培土を得られる限り、原料ガラスの種類は特に限定されないが、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラスなどが例示される。原料のガラスには、ブラウン管、液晶、プラズマディスプレイなどに由来する廃ガラスを用いてもよい。原料ガラスの粉砕方法は特に限定されず、市販の振動ミルなどを用いて粉砕することができる。粉砕後のガラス(以下、「粉砕ガラス」と称する)の粒径は、特に限定されないが、粉砕ガラスと後述する発泡剤とが均一に混合されるように小さい方が好ましい。一例では、原料ガラスの粉砕後に目開きが500μm以下である篩を用いて粒度選別を行って、粉砕ガラスの粒径が500μm以下になるようにすることが好ましい。
なお、本明細書において、「粒径がXμm以下である」とは、篩の目開きがXμmである篩を通りぬけることを意味する。
【0028】
次に、粉砕ガラスと発泡剤とを混合する。本発明の実施形態の水稲栽培用培土を得られる限り、発泡剤の種類は、特に限定されないが、例えば、Si、CaCO、及びCaCOを含む材料(例えば、貝殻)等を用いることができる。このような発泡剤は、ガラスが軟化する温度でガスを発生させるので、その結果、ガラス内部に多数の細孔が形成されて、発泡ガラスが製造される。また、発泡剤の含有量は、特に限定されないが、0.1~5質量%であることが好ましく、0.2~2.0質量%であることが特に好ましい。上述の含有量である場合、発泡がより十分に起こるので、より強度が向上した発泡ガラスが得られるので好ましい。
発泡剤は、炭酸カルシウムを(好ましくは主成分として)含むことが好ましい。
発泡剤は、貝殻を(好ましくは主成分として)含むことが好ましい。
【0029】
次に、粉砕ガラスと発泡剤の混合物を焼成する。本発明の実施形態の水稲栽培用培土を得られる限り、焼成温度及び焼成時間は、特に限定されることはなく、ガラスが適切に発泡するように、ガラスや発泡剤の種類に応じて適宜設定することができる。焼成温度は、一例では、600~1150℃である。さらに例えば、700~1100℃である。焼成温度は、ソーダ石灰ガラスについては、800~1000℃が好ましい。このような焼成温度の場合、ガラスがより十分に軟化して細孔がより適切に形成され、より好ましい発泡ガラスを製造することができる。また、焼成時間は、一例では、1~60分であり、一例では、3~25分であり、好ましくは、5~20分である。このような焼成時間の場合、発泡がより十分に起こり、より好ましい発泡ガラスを製造することができる。
【0030】
製造された発泡ガラスは、塊状のまま用いてもよいが、粉砕したものを用いてもよい。粉砕後の発泡ガラスの粒径は、特に限定されないが、例えば、30mm以下であり、例えば、25mm以下であり、例えば、20mm以下であり、例えば、15mm以下であり、例えば、10mm以下であり、例えば、7mm以下である。
【0031】
本発明の実施形態の水稲栽培用培土は、2~30体積%の多孔質体を含むことが好ましく、5~28体積%の多孔質体を含むことがより好ましく、8~25体積%の多孔質体を含むことが更により好ましく、10~23体積%の多孔質体を含むことが特に好ましい。
本発明の実施形態の水稲栽培用培土は、2~30体積%の多孔質体を含む場合、本発明の実施形態の水稲栽培用培土は、水による流出がより少なくなり、培土との配合割合をより小さくできるという有利な効果を奏する。
【0032】
本発明の実施形態の水稲栽培用培土は、一般に水稲栽培用培土が含む材料を含むことができる。そのような材料として、例えば、土(赤土、粘土質(田土)、腐葉土など)、堆肥(たいひ)、有機物、肥料などを例示することができ、本発明の実施形態の水稲栽培用培土を得ることができる限り、特に制限されることはない。
本発明の実施形態の水稲栽培用培土は、例えば、市販の培土を使用することができ、例えば、JAみい専用培土(黒土焼成用土)、有限会社そるち製水稲育苗培土(化成入りタイプ)(https://www.yaki-akatsuchi.com/product_category/farmers-items/参照)、松阪興産株式会社製育苗培土サンバイド及び軽量サンバイド(https://www.matsusaka-kosan.co.jp/agriculture/index.php)等を例示できる。
【0033】
本発明は、本発明の実施形態の水稲栽培用培土を用いて、水田で水稲を栽培することを含む、水稲栽培方法を提供することができる。
本発明の実施形態の水稲栽培用培土を用いることができ、水田で水稲を栽培することを含む限り、水稲栽培方法は特に制限されることはない。
本発明の実施形態の水稲栽培方法は、特別な工程を要することなく、本発明の実施形態の水稲栽培用培土を使用する以外、通常行われている水稲栽培方法を用いて行うことができ、何ら特殊な栽培方法(例えば、水位調整等)を必要とすることなく、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させないで(好ましくは食味を維持し、より好ましくは食味を向上した)、水稲を栽培することができる。
【0034】
本発明の実施形態の水稲栽培方法は、水稲用栽培用培土と、水稲の根を絡ませて、水稲を栽培することを含むことが好ましい。水稲用栽培用培土と、水稲の根を絡ませることで、水稲の根と水稲栽培用培土がより密接に接触して、水稲は水稲栽培用培土が保持する水及び肥料などの有用な材料及び成分などをより効率的に吸収することができ、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させないで(好ましくは食味を維持し、より好ましくは食味を向上した)、水稲を栽培することができる。
【0035】
本発明の実施形態の水稲栽培方法は、
水稲栽培用培土を用いて、水稲の苗を育てること;
水稲栽培用培土と一緒に苗を、水田に植えること;
苗を水田で育てて、水稲を栽培すること
を含むことが好ましい。
本発明の実施形態の水稲栽培用培土を使用して、水稲の苗を育て、その苗を水稲栽培用培土と一緒に水田に植えるので、苗を栽培するときから水稲栽培用培土を用いてより長期に渡り栽培することができ、更に、水田に植えたのちも、そのまま継続して水稲は水稲栽培用培土の保持する水、肥料等を有効に利用することができ、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させないで(好ましくは食味を維持し、より好ましくは食味を向上した)、水稲を栽培することができる。
【0036】
本発明の実施形態の水稲栽培方法において、水稲栽培用培土に籾をまいて、水稲の苗を育てることを含むことが好ましい。水稲栽培用培土に籾をまいて、水稲の苗を育てるので、発芽のときから水稲栽培用培土を用いて水稲を栽培するので、より長期に渡り水稲栽培用培土を用いて栽培することができるので、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させないで(好ましくは食味を維持し、より好ましくは食味を向上した)、水稲を栽培することができる。
【0037】
本発明の実施形態の水稲栽培方法において、水稲栽培用培土を用いて、水稲の苗を育てて、苗の根を水稲栽培用培土と絡ませることを含むことが好ましい。水稲の苗を育てることで苗の根を水稲栽培用培土と絡ませるので、無理なく自然な形態で水との根と水稲栽培用培土が絡み、より無理なくより効率的に水稲栽培用培土に保持される水及び肥料等が水稲に吸収されて、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させないで(好ましくは食味を維持し、より好ましくは食味を向上した)、水稲を栽培することができる。
【0038】
本発明の実施形態の水稲栽培方法において、田植え機を用いて、水稲栽培用培土と一緒に苗を水田に植えることを含むことが好ましい。本発明の実施形態において、水稲栽培用培土を用いて、育てた苗を、田植え機を用いて、水田に植えることができ、その際に、水稲栽培用培土と一緒に苗を水田に植えることを含むことが好ましい。本発明の実施形態の水稲栽培方法が、人手を要する田植えにおいても、田植え機を使用することで、省力化を行うことができて、特別な作業を必要としない。更に、水稲栽培用培土と一緒に苗を水田に植えることで、水稲栽培用培土と絡まった苗の根を傷つける恐れを減少させることができ、更に、水田においても水稲栽培用培土を稲の根が届く範囲に自動的に配置することができるので、水稲栽培用培土を水田においても有効に利用することができる。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
本実施例で使用した材料及び水稲栽培方法等を以下に示す。
栽培品種として、ヒノヒカリを使用した。
水稲用培土として、JAみい専用培土(黒土焼成用土)を使用した。
その水稲用培土に、多孔質体として、下記の発泡ガラス1~5の各々を、10体積%又は30体積%の割合で混合して、実施例1~10の水稲栽培用培土を準備した。尚、比較のために、発泡ガラス6を準備した。
JAみい専用培土(黒土焼成用土)そのものを、比較例1の水稲栽培用培土として、準備した。
種子(籾)を、60℃のお湯に約10分間浸漬して、消毒した。
JAみい専用培土は、1kg当たり、窒素0.28g、リン酸0.28g、カリウム0.28gを含む
下記表1に、発泡ガラス1~6を示した。
【0041】
【表1】
【0042】
発泡ガラスの製造
発泡ガラス1~6の製造は、具体的には、下記のように行った。
発泡ガラス1について記載する。まず、ソーダ石灰ガラスを、粒径が0.5mm以下になるように粉砕した。1.2質量%の発泡剤CaCO3を添加して、十分に混合した。その混合物を、900℃の温度で8分間焼成することによって発泡ガラスを得た。この発泡ガラスを粒径が1mm以下になるように粉砕して、発泡ガラス1を得た。
表1に記載した発泡剤及び焼成条件等に変えたことを除いて、発泡ガラス1の製造方法と同様の方法を使用して、発泡ガラス2~6を製造した。
【0043】
比重
比重は、JIS Z8807記載の方法に準じて測定した。
【0044】
沈降性
発泡ガラス1~6の各々100mLを、1Lの蒸留水を入れた容器に加えて、24時間静置して、発泡ガラスの水中での状態を観察した。
発泡ガラス3及び5については、蒸留水に加えた直後に、ほとんどは容器の底面に沈降し、24時間後でも、ほとんどが沈降したままであった。
発泡ガラス6については、蒸留水に加えた直後に、大多数は水面に浮遊し、24時間後でも、大多数は水面に浮遊したままであった。
沈降性の評価基準は、下記の通りである。
優:24時間後に、9割以上の発泡ガラスの粒子が、容器底面に沈降している。
可:24時間後に、5割以上の発泡ガラスの粒子が、容器底面に沈降している。
不可:24時間後に、5割以上の発泡ガラス粒子が、容器底面に沈降していない。
【0045】
透水性
発泡ガラス1~6を得るための、粉砕する前の塊状の発泡ガラスを、約5×約5×約5cmのおよそ直方体に整形した。発泡ガラス1~3を得るための塊状の発泡ガラスは、いずれもほぼ同じであり、代表して、発泡ガラス3を得るための塊状発泡ガラス(3)を調べた。発泡ガラス4~5を得るための塊状の発泡ガラスは、いずれもほぼ同じであり、代表して発泡ガラス5を得るための塊状発泡ガラス(5)を調べた。発泡ガラス6については、それを得るための塊状の発泡ガラス(6)を調べた。
一方、それらの整形した塊状発泡ガラスを、納めることができる、逆四角すい形の本体に足が付けられている市販の漏斗を準備した。この漏斗の本体部分に整形した塊状発泡ガラスを配置し、塊状発泡ガラスの4つの側面と漏斗本体との間の隙間をシリコン充填材で封入した。塊状発泡ガラスの上面と下面を、シリコン充填材で封じないようにした。約2日間静置して、シリコン充填材を完全に乾燥させた。漏斗に200mLの蒸留水を充填して、漏斗下部からの透水の有無を目視で観察した。
塊状発泡ガラス(5)は、直ちに、塊状発泡ガラス(5)の中央部から透水が観察された。200mLの蒸留水は、24時間で、ほぼ通過した。尚、漏斗とシリコン充填材との間からの透水は、認められなかった。
これに対し、塊状発泡ガラス(3)及び(6)では、24時間経過しても、透水を全く観察することが出来なかった。
透水性の評価基準は、下記の通りである。
優:24時間後に、全ての水が、塊状発泡ガラスを通過した。
可:24時間後に、一部の水が、塊状発泡ガラスを通過した。
不可:24時間後に、水は全く、塊状発泡ガラスを通過しなかった。
【0046】
下記表2に、実施例1~10の水稲栽培用培土と比較例1の水稲栽培用培土を示した。発泡ガラスとJAみい専用培土との混合割合は、体積%である。尚、発泡ガラス6は、沈降性を有さないので、水に浮いて流出するため、水稲栽培用培土中で使用することができないことが明らかであることから、水稲栽培用培土として調べなかった。
【表2】
【0047】
水稲栽培方法
本明細書で使用した、水稲栽培方法を以下に示す。その方法は、日本国内で一般的に行われている水稲栽培方法に準ずる。
育苗箱(容量:4L、横580mm×縦280mm×高さ30mm、底面に直径2.45mmの穴が96個設けられている。)を用意した。播種機(種まき機)を用いて、実施例1~10及び比較例1の各々の水稲栽培用培土を、育苗箱に床土後(育苗箱に敷き詰めた後)、籾(ヒノヒカリ)を植えて、更に、水稲栽培用培土で覆土した(籾の上を覆った)。種子まきは、例えば、5月下旬に行った。より具体的には、5月17日又は20日に行った。
育苗期間中は、1日に2回潅水を行った(水を注いだ)。
種子の発芽を確認後、寒冷紗で育苗箱を覆って、日焼け防止を行った。
種子まきから約1月間、より具体的には、35日間又は32日間育苗した。得られた苗の性状を、下記の表3に示した。
【0048】
【表3】
【0049】
苗の性状は、苗の平均の長さ、苗の色、苗の根の張り具合を、評価した。
苗の長さは、苗の地上部分の長さを、定規を用いて測定した。苗の色は、目視で評価した。根の張り具合は、目視で評価した。○は、良好、△は、ふつう、×は、不良を意味する。発泡ガラスの割合が10体積%のものは、いずれも苗の長さは、約10cm、苗の色は、黄緑、根の張り具合は、良好であった。発泡ガラスの割合が30体積%のものは、いずれも苗の長さは、約8.5cm、苗の色は、黄緑、根の張り具合は、通常であった。苗について、実施例と比較例(発泡ガラスを使用せず)で、顕著な差異を認めなかった。
【0050】
冬季に、水田に、予め下記の汚泥堆肥を一反あたり、500kg施した。
汚泥堆肥は、20kg当たり、窒素2.9質量%、リン酸5.5質量%、カリウム0.5質量%、石灰5.9質量%、苦土0.9質量%、有機物40.4質量%、水分28.6質量%(pH7.8)を含む。
その水田に、田植え前に、除草剤を散布した。上述の各々の苗を、例えば、6月下旬に、より具体的には、6月21日に、田植え機を使用して、上述の水田に植えた。以下、実施例1~10の水稲栽培用培土を使用して育てた苗を植えた栽培区画を実施区といい、比較例1の水稲栽培用培土を使用して育てた苗を植えた栽培区画を比較区ともいう。
その後、田植えから稲刈りまでの間、タニシ害及び風倒害等の被害確認観察を行った。
田植えから約3月半後、例えば、10月上旬に、より具体的には、10月13日に、コンバインを使用して、稲刈りを行った。実施区及び比較区において、倒れの少ない南端から約15mの箇所をそれぞれ任意で10株ずつ手で刈って、平均稲の立数及び平均籾量を計測するための試料とした。
【0051】
平均稲の立数及び平均籾量の評価
上述の実施例1~10及び比較例1の各々の手刈りの稲を、10日間掛け干し乾燥後、手作業で脱穀し、株ごとに、稲の立ち数、籾の質量を測定した。各々の10株の中で、最大値と最小値を除いた、各々の8株の平均値を、目的の稲立数(本/株)及び籾量(g/株)の平均値とした。
結果は、下記表4に示した。
【0052】
【表4】
【0053】
食味の評価
遠赤外線分析機を用いて、実施例1~10及び比較例1の各々の白米のアミロース、タンパク質、水分、脂肪酸度を測定し、食味方程式を用いて食味を算出した。%は、質量%である。結果を、表5に示した。
【0054】
【表5】
【0055】
食べ比べによる評価
実施例1~10及び比較例1の水稲栽培用培土の各々を用いて栽培したお米を炊飯して、13名のパネラーによって食べ比べを行った。食べ比べは、パネラーが、実施例1~10及び比較例1とお米との対応がわからないようにして行った。評価項目として、「旨い」、食感が「スッキリ」、「柔らか」、「もちもち」、「しっかり」と感じるか、「薫り」がよいと感じるか評価して、13名のパネラーが評価項目のように感じたら1票を投じた。13名のパネラーは、何度でも票を投じることができ、票数に制限はない。これに収穫量の「籾の収穫量」を考慮した。従って、評価項目は、7項目である。
各項目について上位2番までに、1点を与えた。
「旨い」は、実施例1、8、9が、1点であった。
「スッキリ」は、実施例1、6、7、9が、1点であった。
「やわらか」は、実施例2、3、5が、1点であった。
「もちもち」は、実施例8、10、比較例1が、1点であった。
「しっかり」は、実施例6、9が、1点であった。
「薫り良い」は、実施例1、9が、1点であった。
「収穫量」は、実施例5、9が、1点であった。
実施例9が5点で1番良好であり、実施例1が3点で2番目に良好であり、実施例6及び8が2点で3番目に良好であった。
【0056】
【表6】
【0057】
実施例1~10の水稲栽培用培土を用いても、比較例1の水稲栽培用培土を用いても、籾から苗を育てる際に、大きな相違を見出すことはできなかった。いずれも、苗の長さ、苗の色、苗の根の張り具合等、ほぼ同等であった。
【0058】
実施例1~10の水稲栽培用培土を根に付着させたまま、水田に苗を植えて、水稲を栽培すると、食味をほとんど低下させることなく、収量を増加させることができた。特に、実施例9、1、6、8は、比較例1の水稲栽培用培土を用いた場合と比較して、収量を1割以上増加させつつ、食べ比べ評価では、より旨いという結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の実施形態の水稲栽培用培土を用いると、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる)。更に、本発明の実施形態の水稲栽培方法を用いると、何ら特殊な水位調整等を必要とすることなく、お米の収量を向上しつつ、食味を著しく低下させない(好ましくは食味を維持できる)、水稲を容易に栽培することができる。