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特開2022-64159バイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064159
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】バイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220418BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20220418BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220418BHJP
   C08L 83/10 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C12M1/00 A
B29C45/00
C08L101/00
C08L83/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172725
(22)【出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】392034746
【氏名又は名称】吉川化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】三原 一記
(72)【発明者】
【氏名】獅山 尚史
(72)【発明者】
【氏名】黒川 優也
(72)【発明者】
【氏名】松永 哲兵
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛司
(72)【発明者】
【氏名】篠原 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 順治
【テーマコード(参考)】
4B029
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029AA27
4B029BB01
4B029BB15
4B029GA01
4B029GA02
4F206AA33
4F206AH63
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ81
4J002AA01W
4J002BB12W
4J002BG06W
4J002BK00W
4J002CE00W
4J002CG00W
4J002CP17X
4J002FD20X
4J002GB01
4J002GE00
(57)【要約】
【課題】シリコーンとプラスチック高分子の無機・有機ハイブリッド構造を有するシロキサン共重合樹脂添加剤を使用し、少ない添加量で必要な機能性を発現するバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品を提供すること。
【解決手段】熱可塑性プラスチックをベース材料とし、熱可塑性プラスチックにシロキサン共重合樹脂を添加、混合したプラスチック材料を用いて成形された成形品であって、成形品の「表面のXPS分析によるシロキサン成分の元素比率(wt%)」/「内部のXPS分析によるシロキサン成分の元素比率(wt%)」が、7以上であるバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性プラスチックをベース材料とし、該熱可塑性プラスチックにシロキサン共重合樹脂を添加、混合したプラスチック材料を用いて成形された成形品からなるバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品であって、前記成形品の「表面のXPS分析によるシロキサン成分の元素比率(wt%)」/「内部のXPS分析によるシロキサン成分の元素比率(wt%)」が、7以上であることを特徴とするバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品。
【請求項2】
プラスチックをベース材料とし、該熱可塑性プラスチックにシロキサン共重合樹脂を添加、混合したプラスチック材料を用いるバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品の製造方法であって、成形条件の冷却時間を20秒以下に、金型温度を一般成形条件の温度より20℃以上高く、それぞれ設定するようにしたことを特徴とするバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子分析(PCR)、細胞培養等のバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子分析、各種医療・創薬における細胞培養等の分野において使用されるプラスチック成形品からなるシングルユース製品(使い捨て製品)は、一般的に不純物(コンタミ)を含有しない透明でナチュラルベースのプラスチック材料が用いられている。
透明であるのは、肉眼における視認性と顕微鏡等による光学分析に対応するためであり、不純物を嫌うのは分析する上での弊害をより少なくし、分析・培養対象である細胞に害を与える可能性をより低くするという目的がある。それゆえ、これらの製品は純粋な素材をクリーンな環境で加工するというプロセスで生産されてきた。
【0003】
しかし、分析技術・培養技術の高度化により製品の高度化が求められるようになり、遺伝子・血液においては、より少ない試料で正確な解析を、再生医療・創薬においては、均一でバラツキがなく歩留まりの高い細胞培養プロセスのニーズが高まっている。
こういったニーズがある中、少ない試料を効率的に回収するため、製品の表面に遺伝子・血液等のタンパク質が付着しにくい機能加工(二次加工)を施すことで回収効率を上げるという方法が採用されている。この方法として、例えば、プラスチック成形品の表面にフッ素やシリコーンを塗布する工法が挙げられる。また、これら機能材料をベースとなるプラスチック材料に練り込むことで表面を機能化する方法も提案されている(例えば、特許文献1~2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-177541号公報
【特許文献2】特開平9-165519号公報
【0005】
しかしながら、上記の方法は少量の試料を回収するという目的は果たしているが、不純物の溶出などの問題を解決しておらず、試料自体の純粋性を害する危険性を残している。
実際に再生医療の現場では、細胞培養における不純物の溶出の問題が報告されており、純粋かつ機能性を有した培養のためのプラスチック製品が求められている。また、同時に前述の機能を有したままコスト的には安価な製品であることが同時に求められ、今後の市場要求・拡大を見据えた上で早期に解決されるべき問題と捉えられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、シリコーンとプラスチック高分子の無機・有機ハイブリッド構造を有するシロキサン共重合樹脂添加剤を使用し、少ない添加量で必要な機能性を発現するバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の工法を採用する。
本発明は既に公知であるシロキサン共重合樹脂の特性を最大限に引き出すための加工プロセス、特に、射出成形法や押出成形法に係るものであって、使用する熱可塑性プラスチック(PP、PC、PMMA、COP、COC等)の成形条件が、機能性発現の重要なパラメータになることを見出した。
【0008】
そして、本発明は、熱可塑性プラスチックをベース材料とし、該熱可塑性プラスチックにシロキサン共重合樹脂を添加、混合したプラスチック材料を用いて成形された成形品からなるバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品であって、前記成形品の「表面のXPS分析によるシロキサン成分の元素比率(wt%)」/「内部のXPS分析によるシロキサン成分の元素比率(wt%)」が、7以上であることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明は、プラスチックをベース材料とし、該熱可塑性プラスチックにシロキサン共重合樹脂を添加、混合したプラスチック材料を用いるバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品の製造方法であって、成形条件の冷却時間を20秒以下に、金型温度を一般成形条件の温度より20℃以上高く、それぞれ設定するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、プラスチック成形品の表面改質が実現できる。具体的には、プラスチック表面の撥水・撥油効果が向上し、シリコーン素材を塗布した場合と同等の機能が発現できる。従来はプラスチック表面にシリコーン素材を塗布することでシリコーン素材がもつ機能を発現させていたが、本発明では少量のシロキサン共重合樹脂をプラスチック素材にあらかじめ混練し、特殊な成形条件で加工することにより、シリコーン素材を後に塗布することなく撥水・撥油効果を発現させ、DNAやタンパク質が付着しにくい、バイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一般成形条件でシロキサン共重合樹脂の含有率を変えることによる表面機能(精製水の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図2】樹脂温度を変えることによる表面機能(精製水の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図3】樹脂温度を変えることによる表面機能(植物油の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図4】保圧値を変えることによる表面機能(精製水の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図5】保圧値を変えることによる表面機能(植物油の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図6】冷却時間を変えることによる表面機能(精製水の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図7】冷却時間を変えることによる表面機能(植物油の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図8】金型温度を変えることによる表面機能(精製水の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図9】金型温度を変えることによる表面機能(植物油の接触角)の変化の測定結果を示すグラフである。
図10】X線光電子分光分析装置を用いた分子レベルでの表面状態の確認試験の測定結果を示すグラフである。
図11】成形品をスパッタリングにより掘り込んだデータを示すグラフである。
図12】X線光電子分光分析装置を用いた分子レベルでの成形品の深さ方向の解析結果を示すグラフである。
図13】PPチューブ押出成形品の表面と内側におけるSiO存在率の測定結果を示すグラフである。
図14-1】液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%)の測定結果を示すグラフである。
図14-2】液切れ試験(グリセリン30wt%)の測定結果を示すグラフである。
図14-3】DNA吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
図14-4】タンパク質吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
図15-1】液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%)の測定結果を示すグラフである。
図15-2】液切れ試験(グリセリン30wt%)の測定結果を示すグラフである。
図15-3】DNA吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
図15-4】タンパク質吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
図16-1】液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%)の測定結果を示すグラフである。
図16-2】液切れ試験(グリセリン30wt%)の測定結果を示すグラフである。
図16-3】DNA吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
図16-4】タンパク質吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
図17-1】液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%)の測定結果を示すグラフである。
図17-2】液切れ試験(グリセリン30wt%)の測定結果を示すグラフである。
図17-3】DNA吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
図17-4】タンパク質吸着性試験の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック成形品及びその製造方法の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明で使用するシロキサン共重合樹脂は、シリコーンとプラスチック高分子の無機・有機ハイブリッド添加材で、無機素材と有機素材が化学的に重合しており、異種材同士の単なる混合物でないところが従来の機能添加材と異なるところである。すなわち、機能を有する無機部が有機高分子と化学重合しているため物理的に分離しにくく、成形加工後の溶出(不純物の発生)を回避することができる。
具体的には、このシロキサン共重合樹脂をベースとなる熱可塑性プラスチックに添加すると、シロキサン共重合樹脂内の有機高分子(プラスチック)部はベースとなるプラスチックと相溶性があるため非常に馴染みやすい。一方、無機(シロキサン)部は相溶性がないため反発しやすく、この材料が溶融状態にある場合、相溶部である有機高分子側がベースとなる熱可塑性プラスチックと結びつき、相溶性がない無機(シロキサン)部が表面部へ押しやられるという現象を起こす。
これにより、プラスチック成形品の表面において、無機(シロキサン)部分が表面に浮き出ることになる一方で有機高分子(プラスチック)部がベースとなるプラスチックと相溶しているので溶出することなく無機部の機能を発現させることができる。
本発明では、このシロキサン共重合樹脂の特性に注目し、高分子中の無機(シロキサン)部を最も表面に浮かび上がらせる成形条件(熱可塑性プラスチックの樹脂温度、保圧、冷却時間、金型温度等)の相関性を見出した。
また、シリコーン塗布製品と同様の表面機能をプラスチック成形品単体で実現させることができた。
【0014】
[射出成形法]
まず、熱可塑性プラスチック射出成形におけるシロキサン共重合樹脂のシロキサン部(無機部)を表面に析出させる最適条件を見出すため、熱可塑性プラスチックとしてポリプロピレン樹脂(PP)をベースに試験を実施した。
【0015】
[一般的な成形条件]
試験には、50mm角、厚さ1mmの試験片を成形できる試験金型を使用した。
成形条件は、一般的なポリプロピレン樹脂の条件を基準とし、樹脂温度、保圧、冷却時間、金型温度の条件を振ることで表面機能の変化を確認するようにした。表面機能は精製水と植物油による接触角を測定した。
使用する材料は、シロキサン共重合樹脂(三井化学ファイン社製、シロキサン共重合樹脂「イクスフォーラ」(登録商標))を使用し、ポリプロピレン樹脂への混練を行った。混練は二軸押出混練機(東芝機械社製)を用いて行った。混練においてシロキサン共重合樹脂とポリプロピレン樹脂の重量パーセントで、シロキサン共重合樹脂:3%+ポリプロピレン樹脂:97%〔3%含有材料〕、シロキサン共重合樹脂:5%+ポリプロピレン樹脂:95%〔5%含有材料〕、シロキサン共重合樹脂:10%+ポリプロピレン樹脂:90%〔10%含有材料〕の3種類を製作し、この材料を使用してパラメータでの機能検証をするため、射出成形機で成形を行った。初期成形条件は表1のとおりで、一般的な成形条件(本明細書において、「一般成形条件」という場合がある。)の下、シロキサン共重合樹脂の含有率(本明細書において、単に、「含有率」という場合がある。)を変えることによる表面機能(精製水の接触角)の測定した。
その測定結果を、表1及び図1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
以上のように、一般的な成形条件においてシロキサン共重合樹脂の含有率を増やすことで成形品の撥水性が向上することが分かる。
この結果を基準とし、成形条件を変化させ、その成形条件での接触角を測定することで、表面機能の向上を図ることができる成形条件を見出すようにした。
【0018】
[成形条件試験]
・樹脂温度
樹脂温度は、一般成形条件である170℃を基準に220℃まで10℃きざみで成形を行った。
その測定結果(含有率10%のデータ)を、図2及び図3に示す。
この結果から、樹脂温度が表面機能に与える影響は少ないと判断できる。
【0019】
・保圧
保圧は、一般成形条件である40MPaを基準に30MPaから100MPaまで成形を行った。
その測定結果(含有率10%のデータ)を、図4及び図5に示す。
この結果から、精製水では保圧の変化はほとんどないが、植物油において保圧が高くなるほど撥油機能の低下がみられた。したがって、保圧については圧力が低い条件、具体的には、一般成形条件の保圧値を挟んで、-10MPa~+30MPaの範囲、好ましくは、-10MPa~+20MPaの範囲が表面機能の向上につながると判断できる。
【0020】
・冷却時間
冷却時間は、一般成形条件である30sを基準に3sから60sまで成形を行った。
その測定結果(含有率10%のデータ)を、図6及び図7に示す。
この結果から、精製水、植物油共に冷却時間が長くなるほど機能の低下がみられた。したがって、冷却時間については冷却時間が短いほど、具体的には、一般成形条件の30sより短い、20s以下、好ましくは、12s以下、より好ましくは、数秒(3s)程度が表面機能の向上につながると判断できる。
【0021】
・金型温度
金型温度は、一般成形条件である40℃を基準に40℃から100℃まで成形を行った。
その測定結果(含有率10%のデータ)を、図8及び図9に示す。
この結果から、精製水、植物油共に金型温度が高くなるほど機能の向上がみられた。したがって、金型温度については金型温度が高いほど、具体的には、一般成形条件の40℃より高い、一般成形条件の金型温度に対して、+20℃以上(~+60MPa)、好ましくは、+30℃以上、より好ましくは、+50℃以上が表面機能の向上につながると判断できる。
【0022】
以上の試験の検証結果より、シロキサン共重合樹脂による撥水・撥油性の機能向上には一般に推奨されている成形条件を基準にすると、金型温度〔一般成形条件より高温に設定〕及び冷却時間〔一般成形条件より短く設定〕に加えて、保圧〔一般成形条件と同程度かより低く設定〕、樹脂温度〔一般条件とほぼ同等〕の順で設定し、各成形品の形状に合わせて成形条件を最適化するのが有効であることが分かる。
したがって、シロキサン共重合樹脂の高機能化製品加工において、一般的な成形条件で条件設定を行うのではなく、上記のパラメータを効果のある順番に設定することが望ましい。
【0023】
これらの機能上のデータを踏まえ、実際にシロキサン共重合樹脂の無機(シロキサン)部が成形品表面に存在していることを、X線光電子分光分析装置(XPS:アルバック・ファイ社製)を用い、分子レベルでの表面状態を確認した試験の測定結果を表2及び図10に、最適条件で成形した成形品の内部の構造をスパッタリングによる深さ解析を実施した試験の測定結果を図11及び図12に示す。
ここで、試験は、表面機能の向上に効果のある成形条件である金型温度について、40℃から100℃まで変化させて成形を行った。他の成形条件は、冷却時間:3s、保圧:50MPa、樹脂温度:170℃とした。
【0024】
【表2】
【0025】
この結果から、表面機能を向上させる最適成形条件に近づくほど、高分子中の無機(シロキサン)部が表面に浮かび上がらせることで、成形品の表面のSi(ケイ素)及びO(酸素)原子の比率が上がり、多くのシロキサンが成形品の表面に存在していることが分かる。
ここで、シロキサンが成形品の表面に存在している指標として、成形品の「表面のXPS分析によるシロキサン成分(Si2p+O1s)の元素比率(wt%)」/「内部(成形品の表面から1000nm~)のXPS分析によるシロキサン成分(Si2p+O1s)の元素比率(wt%)」を算出し、表2の「Si2p+O1s含有比」の欄に記載した(実施例で、7.1~10.4。比較例で、6.3。)。
また、図11及び図12は、成形品の表面から深さ2000nmまでをスパッタリングで掘り込み、SiとOの元素比率を確認したものであるが、表面の31.2%から600nm掘り込んだだけでSiとOの元素比率が3.5%にまで落ち込み、それ以降は元素比率3%程度で落ち着いている。このことから、成形品の内部において、シロキサンは一様に分散して存在しているが、本発明による成形工法によって成形品表面だけにシロキサンを著しく顕在化させることができること、成形品の内部のシロキサン元素比率と成形品表面のシロキサン元素表面比率では約10倍の違いが生じることを確認した。
【0026】
次に、シロキサン共重合樹脂の含有率を3%及び5%に変化させた場合の試験の測定結果を表3に示す。
ここで、試験は、シロキサン共重合樹脂の含有率を3%及び5%に変化させた以外の他の成形条件は、表2の比較例及び実施例4に準拠した。
【0027】
【表3】
【0028】
この結果から、シロキサン共重合樹脂の含有率を3%及び5%に変化させた場合も、含有率が10%の場合と同様のことがいえることを確認した。
【0029】
[押出成形法]
ところで、上記の射出成形法と同様に、押出成形法においても本発明の方法は有効である。
このことを、シロキサン共重合樹脂の含有率5%のポリプロピレンを使用し、外径Φ2.5mm、内径Φ1.5mmのチューブを押出成形した結果を、図13に示す。
図13において、左側のグラフは一般的な押出成形法によって、右側のグラフは本発明方法によって、それぞれチューブを製作し、製作したチューブの表面と内面をそれぞれXPSによって元素比率を測定したものである。
一般的な押出成形法の場合、SiOの比率が表面側が13.24%に対し、内面側が33.71%と高いのは押出成形機によりチューブが成形された直後、チューブを冷却水によって冷却していることによる。この現象は、射出成形法において金型表面温度が高機能化の重要なパラメータであったのと同様に、押出成形法において、表面と内側のSiOの比率の差は、押出成形の際の温度、すなわち、押し出されたチューブが冷却水の中を通るときに、表面側が直接冷却水に当たり冷却されるため、内面側よりもSiOの比率が低くなる。
一方、本発明方法の場合、押し出されたチューブの冷却を大気圧化で空冷で実施することによって、SiOの比率が表面側が29.98%、内面側が42.49%と、一般的な押出成形法と比較して格段に比率が上がるという結果を得た。
したがって、押出成形チューブの場合、製品の冷却温度、冷却法を変えることで高機能化を実現でき、特に、チューブの場合、製品の特性上、チューブの内側に液体が流れるため、チューブの内面側の高機能化を図る際には、従来機能材を内面に塗布する工法やプラズマ等を応用した表面改質が行われているが、本発明方法であれば押し出されたチューブの冷却制御をすることで機能性を向上でき、低コストの製造法といえる。
【実施例0030】
以上の工法上の成果を踏まえ、実際の遺伝子分析で使用されるシングルユース製品を射出成形法(成形条件は表2の実施例4に準拠した。)により製作し、その機能確認を実施した。
以下にその結果を示す。
【0031】
[ピペットチップ(ポリプロピレン樹脂製)]
遺伝子分析や培養において試薬を吸引する際に使用される200μlピペットチップ(ポリプロピレン製)について、既存商品とシロキサン共重合樹脂を使用した本発明における新規成形法で製作した製品との機能比較を実施した。
図14-1~図14-4に、「液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%、グリセリン30wt%)」、「DNA吸着性試験」及び「タンパク質吸着性試験」の結果を示す。
比較対象製品として、ノンコーティングのポリプロピレンによるピペットチップ2種類(A社、B社)、コーティングによる高機能ピペットチップ2種類(C社:MPCポリマーコーティング、D社:シリコーンコーティング)を選定し、シロキサン共重合樹脂10%含有のピペットチップと比較した。
【0032】
[マイクロチューブ(ポリプロピレン樹脂製)]
同様に、マイクロチューブ(ポリプロピレン製)について、既存商品とシロキサン共重合樹脂を使用した本発明における新規成形法で製作した製品との機能比較を実施した。
図15-1~図15-4に、「液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%、グリセリン30wt%)」、「DNA吸着性試験」及び「タンパク質吸着性試験」の結果を示す。
【0033】
[培養ディッシュ(ポリプロピレン樹脂製)]
同様に、培養ディッシュ(ポリプロピレン製)について、既存商品とシロキサン共重合樹脂を使用した本発明における新規成形法で製作した製品との機能比較を実施した。
図16-1~図16-4に、「液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%、グリセリン30wt%)」、「DNA吸着性試験」及び「タンパク質吸着性試験」の結果を示す。
【0034】
[培養ディッシュ(ポリカーボネート樹脂製)]
同様に、培養ディッシュ(ポリカーボネート製)について、既存商品とシロキサン共重合樹脂を使用した本発明における新規成形法で製作した製品との機能比較を実施した。
ここで、成形条件は表4の実施例に準拠した。
図17-1~図17-4に、「液切れ試験(BSA:ウシ血清アルブミン3wt%、グリセリン30wt%)」、「DNA吸着性試験」及び「タンパク質吸着性試験」の結果を示す。
【0035】
【表4】
【0036】
いずれの成形品についても、液切れにおいてはシロキサン共重合樹脂による新工法の製品が最もよい結果を得た。DNA及びタンパク質の吸着性においては、A/B/C社の製品は製品表面への吸着による残存量が多い数値となったが、D社のシリコーンコーティング品とシロキサン共重合樹脂では残存量が少なく、効果が得られた。特にシロキサン共重合樹脂はD社と同等に近い数値を示したため、溶出の弊害がないコーティングなしでの高機能化を実現できていることを確認した。
【0037】
以上、本発明のバイオテクノロジ分野で用いられる成形品及びその製造方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のバイオテクノロジ分野で用いられる成形品及びその製造方法は、シリコーンとプラスチック高分子の無機・有機ハイブリッド構造を有するシロキサン共重合樹脂添加剤を使用し、少ない添加量で必要な機能性を発現することから、撥水性、撥油性及びDNAやタンパク質低付着性を備えることが要求されるバイオテクノロジ分野で用いられる成形品からなるプラスチック製品、例えば、細胞培養容器、シリンジ、ノズル、マイクロチューブ等の遺伝子分析(PCR)、細胞培養等のバイオテクノロジ分野で用いられるプラスチック製品の製造に好適に適用でき、これらの成形品を、簡易に、かつ、低コストで製造することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図14-3】
図14-4】
図15-1】
図15-2】
図15-3】
図15-4】
図16-1】
図16-2】
図16-3】
図16-4】
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図17-4】