(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064222
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】インドリルベンゾチアジアゾール誘導体、有機蛍光材料および硬化膜
(51)【国際特許分類】
C07D 417/04 20060101AFI20220418BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C07D417/04 CSP
C09K11/06
C09K11/06 655
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020172831
(22)【出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】森永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 傑
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 昌平
【テーマコード(参考)】
4C063
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB01
4C063CC67
4C063DD06
4C063EE10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】機械的刺激により発光強度が変化し、室温付近で自発的に元の発光強度に戻る蛍光性有機分子、該蛍光性有機分子を含む有機蛍光材料並びにその硬化物の提供。
【解決手段】式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。(式中、R
1~R
4、及び、R
6~R
8は、H又は特定の置換基;R
5は、1個以上のフッ素原子で置換されたアルキル基;R
9は、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【化1】
式(1)中、
R
1~R
4、及び、R
6~R
8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、
R
5は、1個以上のフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、
R
9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
【請求項2】
下記式(2)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【化2】
式(2)中、
R
5は、1個以上のフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、
R
9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
【請求項3】
前記式(1)又は前記式(2)中のR5が、1個以上のフッ素原子で置換された炭素原子数4以上のアルキル基である請求項1又は2に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【請求項4】
前記式(1)又は前記式(2)中のR5が、パーフルオロアルキル基である請求項1~3のいずれか1項に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【請求項5】
前記式(1)又は前記式(2)中のR9が、アルキル基である請求項1~4のいずれか1項に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【請求項6】
前記式(1)又は前記式(2)中のR9が、メチル基、エチル基またはイソプロピル基である請求項1~5のいずれか1項に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を含む有機蛍光材料。
【請求項8】
蛍光パターニング材料、蛍光スイッチング材料または蛍光センサー材料として用いられる請求項7に記載の有機蛍光材料。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の有機蛍光材料からなる硬化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インドリルベンゾチアジアゾール誘導体、有機蛍光材料および硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
固体蛍光性の有機分子が機械的刺激により発光特性を変化させ、その後元の発光特性に戻る現象について近年徐々に報告例が増えている。その多くは機械的刺激により発光色が変化するメカノクロミズムに関するものであり、例えば、特許文献1および2には、機械的刺激により発光色を変化させ、その後元の発光色に戻る固体蛍光性の有機分子が開示されている。
【0003】
機械的刺激を加えることにより発光特性が変化する固体蛍光性の有機分子は、通常、元の状態に戻すために加熱や溶媒蒸気にさらす必要があり、この点で不便である。また、固体状態で高い蛍光量子収率を示す蛍光性有機分子は限られている。
【0004】
特許文献3には、機械的刺激により発光色が変化し、その後室温付近で自発的に元の発光色に戻ることができ、且つ、固体状態で高い蛍光量子収率を示す固体蛍光性の有機分子が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5697030号公報
【特許文献2】国際公開第2012/039508号
【特許文献3】特許第6663820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械的刺激によって発光特性を変化する蛍光有機分子は、上述した通り、その多くが機械的刺激により発光色を変化させるメカノクロミズムを示すものであり、発光強度が変化する蛍光有機分子に関する報告例は殆どない。機械的刺激により発光強度が変化し、その後変化した発光強度が室温付近で自発的に元の発光強度に戻ることができる蛍光性有機分子が開発されれば、当該蛍光有機分子を用いた有機蛍光材料の用途が更に広がることが期待される。
【0007】
本発明は、機械的刺激により発光強度が変化し、室温付近で自発的に元の発光強度に戻る新規な蛍光性有機分子を提供することを目的とする。本発明はまた、上記蛍光性有機分子を含む有機蛍光材料並びにその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1側面によると、下記式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体が提供される。
【化1】
【0009】
式(1)中、
R1~R4、及び、R6~R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表し、
R5は、1個以上のフッ素原子で置換されたアルキル基を表し、
R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
【0010】
一形態において、上記インドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記式(2)で表される化合物であってよい。
【化2】
式(2)中、R
5およびR
9は、それぞれ、上記式(1)中のR
5およびR
9と同義である。
【0011】
他の形態において、上記式(1)又は上記式(2)中のR5は、1個以上のフッ素原子で置換された炭素原子数4以上のアルキル基であってよい。
【0012】
他の形態において、上記式(1)又は上記式(2)中のR5は、パーフルオロアルキル基であってよい。
【0013】
他の形態において、上記式(1)又は上記式(2)中のR9は、アルキル基であってよい。
【0014】
他の形態において、上記式(1)又は上記式(2)中のR9は、メチル基、エチル基またはイソプロピル基であってよい。
【0015】
本発明の第2側面によると、上記式(1)又は上記式(2)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を含む有機蛍光材料が提供される。
【0016】
一形態において、上記有機蛍光材料は、蛍光パターニング材料、蛍光スイッチング材料または蛍光センサー材料として用いられる。
【0017】
本発明の第3側面によると、上記有機蛍光材料からなる硬化膜が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、機械的刺激により発光強度が変化し、その後室温付近で自発的に元の発光強度に戻る新規な蛍光性有機分子を提供することが可能となった。また、本発明により、上記蛍光性有機分子を含む有機蛍光材料並びにその硬化膜を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る化合物1aの機械的刺激付与による発光強度変化を示す相対蛍光分光スペクトル図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る化合物1aの機械的刺激付与による発光強度変化を示す画像図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る化合物1aを含む硬化膜A(熱硬化膜)の機械的刺激付与による発光強度変化を示す相対蛍光分光スペクトル図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る化合物1aを含む硬化膜A(熱硬化膜)の機械的刺激付与による発光強度変化を示す画像図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る化合物1aを含む硬化膜B(光硬化膜)の機械的刺激付与による発光強度変化を示す相対蛍光分光スペクトル図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る化合物1aを含む硬化膜B(光硬化膜)の機械的刺激付与による発光強度変化を示す画像図である。
【
図7】
図7は、比較化合物2aの蛍光メカノクロミズムを示す相対蛍光分光スペクトル図である。
【
図8】
図8は、比較化合物2aの蛍光メカノクロミズムを示す画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<インドリルベンゾチアジアゾール誘導体>
本発明の第1の実施形態は、下記式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体(以下において、「本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体」という。)である。
【化3】
【0021】
式(1)において、R1~R4、及び、R6~R8は、それぞれ、互いに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
R5は、1個以上のフッ素原子で置換されたアルキル基を表す。
R9は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アラルキルオキシ基、アリールオキシ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ホルミル基、シアノ基、アルキル基、シクロアルキル基、アラルキル基またはアリール基を表す。
【0022】
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、電子供与基としてのインドリル基と電子求引基としてのベンゾチアジアゾール基とが単結合を介して直接結合したドナー・アクセプター型構造を有し、電子豊富なインドリル基から電子不足なベンゾチアジアゾール環への電荷移動に基づく蛍光を示す有機蛍光分子である。本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、インドール環又はベンゾチアジアゾール環の置換基を変更するのみで蛍光発光色の異なる各種誘導体を簡便に合成することができる。
【0023】
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、機械的刺激(例えば、擦るなどの物理的な力による変形等)により発光強度が変化し、その後室温に放置するだけで元の発光強度に戻る自己回復性の発光特性を示す。これに対し、特許文献3に開示されたインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、同じく自己回復性の発光特性を示すが、機械的刺激に対する発光特性の変化が、発光波長の長波長化による発光色の変化である点で、発光強度が変化する(小さくなる)本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体と異なる。本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体が機械的刺激に対して示す上記の発光特性変化のメカニズムを以下のように推測している。特許文献3に開示されたインドリルベンゾチアジアゾール誘導体との対比において説明する。
【0024】
本発明の実施形態に係るインドリルベントチアジアゾール誘導体として、下記化合物1a(N-パ―フルオロオクチル-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール)(後掲の実施例1参照)と、特許文献3に開示されたインドリルベンゾチアジアゾール誘導体として、下記比較化合物2a(N-Boc-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール)(後掲の比較例1参照)とを対比する。化合物1aと比較化合物2aとは、式(1)中のR5に対応する置換基が、前者はパーフルオロオクチル基(C8F17)であり、後者はtert-ブトキシカルボニル基(以下、「Boc基」という。)である点で異なり、その他の置換基は共通している。
【0025】
【0026】
まず、粉末状態の比較化合物2aは微結晶の集合体であり、結晶状態において2分子がベンゾチアジアゾール環部位を逆平行にスタッキング(積層)した構造を有している。比較化合物2aは、固体でも量子収率が高い(濃度消光が起こらない)という特性を有するが、これはこの2分子間のスタッキング構造により、多分子間でのスタッキングが抑制されるためと推測されている。
【0027】
そして、比較化合物2aは、インドール環の3位(R
9)にメチル基を有するため、これが側面に位置するベンゾチアジアゾール環に対し立体障害となり、2分子のベンゾチアジアゾール環は水平方向にずれてスタッキングされた状態になっている(特許文献3の[0020]、
図3等参照)。このため比較化合物2aは結晶構造が不安定であり、機械的刺激を加えた際に結晶構造が崩壊して非晶質状態となり、発光波長が長波長化する。その後は速やかに自己回復により結晶状態に戻るという可逆的な変化を示す。比較化合物2aにおいて、機械的刺激に応じて結晶構造が非晶質化することにより発光波長が長波長化するのは、複素環同士の分子間相互作用が結晶状態よりも増大し、励起状態が安定化するためと考えられる。なお、後掲の比較例1において実証されているとおり、比較化合物2aは機械的刺激により発光強度は変化しない。
【0028】
本実施形態に係るインドリルベントチアジアゾール誘導体である化合物1aも、比較化合物2aと同様に、インドール環の3位(R9)にメチル基を有し、結晶状態において2分子のベンゾチアジアゾール環は水平方向にずれてスタッキングされた状態にある。このため本実施形態に係る化合物1aも結晶構造が不安定であり、機械的刺激により非晶質状態となり、その後は速やかに自己回復により結晶状態に戻るという可逆的な変化を示す。しかしながら、化合物1aは、上述した通り、比較化合物2aとは異なり機械的刺激に応じて結晶構造が非晶質化することにより発光強度が弱くなるという特性を示す。
【0029】
そのメカニズムについては必ずしも定かではないが、インドール環の窒素原子に置換する基R5がフッ化アルキル基(パーフルオロオクチル基)である場合、非晶質状態で分子運動が増大し、これに伴い無輻射失活が増大することが要因と推測される。すなわち、R5がフッ化アルキル基の場合、フッ化アルキル基同士の相互作用(凝集など)により複素環同士の分子間相互作用は妨げられ、非晶質状態において分子全体として運動性が増大する。この分子運動性の増大に伴い無輻射失活(熱としてエネルギーの失活)が増大したことが、機械的刺激により結晶構造が非晶質化することにより発光強度が小さくなる要因と推測される。
【0030】
上述したR5で表されるフッ化アルキル基同士の相互作用は炭素原子が多いほど強いため、本発明の実施形態において、R5で表されるフッ化アルキル基は、炭素原子数が4個以上のフッ化アルキル基であることが好ましく、炭素原子数が6個以上のフッ化アルキル基であることがより好ましい。炭素原子数の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、12個以下であってよい。また、本発明の実施形態において、R5で表されるフッ化アルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0031】
また、色素合成の簡便さのため、本発明の実施形態において、R9で表される上掲の置換基はアルキル基であることが好ましく、アルキル基の好ましい具体例として、メチル基、エチル基又はイソプロピル基等が挙げられる。
【0032】
本発明の実施形態において、式(1)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、下記式(2)で表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体であってよい。
【化5】
式(2)中、R
5およびR
9は、それぞれ、上記式(1)中のR
5およびR
9と同義であり、好ましい形態も同様である。
【0033】
(インドリルベンゾチアジアゾール誘導体の製造方法)
本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、例えば、以下の方法で製造することができる。まず、下記式(3)で表されるN-Boc-インドール-2-ボロン酸と、下記式(4)で表されるブロモベンゾチアジアゾールとを、パラジウム触媒を用いた鈴木-宮浦クロスカップリング反応等の公知の方法で反応させて式(5)で表されるN-Boc-インドリルベンゾチアジアゾールを得る。次いで、公知の方法により脱Boc化を行うことにより(特許文献3の[0041]参照)、式(6)で表されるインドリルベンゾチアジアゾールを得る。次いで、脱Boc化したインドール環の窒素原子上にフッ化アルキル基(R
5基)を公知の方法でアルキル化反応により導入することで式(1)により表されるインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を得ることができる。
【化6】
【0034】
上記式(3)~(6)中、R1~R4およびR6~R9は、それぞれ、式(1)中のR1~R4およびR6~R9と同義である。
【0035】
<有機蛍光材料および硬化膜>
有機蛍光色素である本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、第2の実施形態として、高分子材料、ポリマーなどの他の材料と混合され、有機蛍光材料として様々な用途に応用することができる。本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体を含有する有機蛍光材料は、固体状態や液体状態において機械的刺激を加えることで発光強度が小さくなり、放置することで元の発光強度に戻る発光特性を示すものである。
【0036】
また、本発明のインドリルベンゾチアジアゾール誘導体は、第3の実施形態として、上記有機蛍光材料からなる硬化膜として様々な用途に応用することができる。硬化膜の形態は特に限定されるものではなく、例えば、熱硬化膜であってもよく光硬化膜であってもよい。
【0037】
本実施形態に係る有機蛍光材料又は硬化膜の用途として、具体的には、高感度な蛍光検出を利用した下記の用途に応用することができる。
・書き込み、消去可能な蛍光記憶材料
・材料中の部分的な歪みの検出(自発的に発光色が戻ることで繰り返し利用可能)
・蛍光パターニング材料
・蛍光スイッチング材料
・蛍光センサー材料
【実施例0038】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0039】
比較例1:N-Boc-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール(比較化合物2a)の合成とその蛍光メカノクロミズム
特許文献3(特許第6663820号公報)の実施例1で合成された上記N-Boc-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール(比較化合物2a)を、同実施例に記載の方法に準じた方法で、下記に示す合成反応式に従い合成した。
【化7】
【0040】
比較化合物2aの粉体をスパチュラで擦ることにより機械的刺激を加え、固体発光色素としての蛍光メカノクロミズムを確認した。比較化合物2aは、擦った直後に発光色が青緑色から黄緑色に変化し、その後室温で20秒程度放置することで自発的に元の発光色へ戻った。比較化合物2aについての測定結果を
図7及び
図8に示す。
【0041】
図7は、固体発光色素としての比較化合物2aのブラックライト下における相対蛍光分光スペクトルである。
図7から、比較化合物2aは、擦った直後に発光色が青緑色(最大極大波長:486nm)から黄緑色(最大極大波長:518nm)へと長波長シフトし、その後、室温下で放置することで10分後には既に自発的に元の発光色へ戻っていることが確認された。また、
図7から、比較化合物2aの発光強度は、機械的刺激を加える前後でほぼ変化していないことも確認された。
【0042】
図8は、固体発光色素としての比較化合物2aの蛍光メカノクロミズムを示す画像である。
図8の左側の画像における点線で囲まれた比較化合物2aの粉体をスパチュラで擦った部分が、擦り直後に変色し(中央の画像)、その後室温で20秒放置したときには既に元の発光色に戻っていることがわかる(右側の画像)。
【0043】
実施例1:N-パ―フルオロオクチル-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール1aの合成とその蛍光発光特性
<合成>
特許文献3(特許第6663820号公報)の実施例2([0041])を参考に、比較例1で合成した比較化合物2aを脱Boc化することにより、下記に示す化合物2b(4-(3-メチル-1H-インドール-2-イル)-2,1,3-ベンゾチアジアゾール)を合成した。さらに、得られた2bに対し、2当量の水素化ナトリウム存在下、ヘプタデカフルオロ-n-オクチルヨージド(2当量)をDMF(ジメチルホルムアミド)中室温で15時間反応させることで、式(1)中のR
5にパーフルオロオクチル基を有する下記化合物1a(N-パ―フルオロオクチル-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール)を収率19%で得た。
【化8】
【0044】
以下に化合物1aの融点、赤外線吸収スペクトル(KBr法):IR(KBr)、1H NMRスペクトル、およびHRMS-ESIの測定結果を示す。
(i)融点:106.3~108.1℃.
(ii)IR(KBr):νmax 2927, 1533, 1459, 1370, 1328, 1255, 1213, 1149, 964, 813, 750, 653cm-1.
(iii)1H NMR(300MHz,CDCl3):δ 8.16 (dd, J = 8.8, 1.0 Hz, 1H), 7.94 (d, J = 7.0 Hz, 1H), 7.84 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.71 (dd, J = 8.8, 7.0 Hz, 1H), 7.57 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.53 (dt, J = 7.8, 1.0 Hz, 1H), 7.40 (dt, J = 7.8, 1.0 Hz, 1H), 2.04 (s, 3H) (ppm).
(iv)HRMS-ESI(m/z):[M+H]+ C23H10F17N3Sの計算値, 684.0397; 実測値, 684.0387.
【0045】
<蛍光スペクトルの測定>
化合物1aの固体状態における発光特性を測定したところ、固体状態において発光極大波長485nmで発光した。さらに、スパチュラで擦ることにより機械的刺激を加えたところ、その発光色は変化しないが、擦った直後に発光強度が低下した。擦った後室温下で2分間放置することにより自発的に元の発光強度に戻った。化合物1aについての測定結果を
図1及び
図2に示す。
【0046】
図1は、固体発光色素としての化合物1aのブラックライト下における相対蛍光分光スペクトルである。
図1より、化合物1aは、機械的刺激を加えても発光色は変化しないが、擦った直後に発光強度が低下し、その後、室温下で放置することで10分後には既に自発的に元の発光強度へ戻っていることが確認できた。
【0047】
図2は、固体発光色素としての化合物1aの機械的刺激による発光強度の変化を示す画像である。
図2の左側の画像における点線で囲まれた化合物1aの粉体をスパチュラで擦った部分が、擦り直後に変色し(中央の画像)、その後室温で2分間放置したときには既に元の発光強度に戻っていることが確認された(右側の画像)。
【0048】
実施例2:
実施例1で得た化合物1a(N-パ―フルオロオクチル-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール)を1質量部、ポリビニルアルコール(クラレ社製)を10質量部および水を90質量部の割合で混合し、化合物1aを含む塗液Aを調整した。塗液AをPET基材に塗工し、60℃で乾燥することにより、膜厚10μmの硬化膜Aを得た。
【0049】
硬化膜Aの発光特性を測定したところ、発光極大波長473nmで発光した。さらに、硬化膜Aの表面をスパチュラで擦ることにより機械的刺激を加えたところ、その発光色は変化しないが擦った直後に発光強度が低下し、その後室温下で10分程度放置することで自発的に元の発光強度へ戻った。硬化膜Aについての測定結果を
図3及び
図4に示す。
【0050】
図3は、硬化膜Aのブラックライト下における相対蛍光分光スペクトルである。
図3より、硬化膜Aは、機械的刺激を加えても発光色は変化しないが、擦った直後に発光強度が低下し、その後、室温下で10分放置することで自発的に元の発光強度へ戻っていることが確認できた。
【0051】
図4は、硬化膜Aの機械的刺激による発光強度変化を示す画像である。
図4において、硬化膜Aの表面をスパチュラで擦った部分である左側の画像の点線で囲まれた部分の発光強度が、擦り直後に低下していることが右側の画像からわかる。
【0052】
実施例3:
実施例1で得た化合物1a(N-パ―フルオロオクチル-3-メチルインドリルベンゾチアジアゾール)を5質量部、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカル社製)を99質量部、および光重合開始剤としてOmnirad TPO H(IGM Resins B.V.社製)を1質量部の割合で混合し、化合物1aを含む塗液Bを調整した。
塗液Bを塗布量20g/m2になるように紙基材に塗布した。つづいて、塗膜に光を照射し、塗膜を硬化することで硬化膜Bを得た。このとき、光として紫外線を照射し、紫外線の照射は、コンベア式紫外線硬化装置を用い、高圧水銀ランプにより露光量は300mJ/cm2で行った。
【0053】
硬化膜Bの発光特性を測定したところ、発光極大波長495nmで発光した。さらに、硬化膜Bの表面をスパチュラで擦ることにより機械的刺激を加えたところ、その発光色は変化しないが擦った直後に発光強度が低下し、その後室温下で10分程度放置することで自発的に元の発光強度へ戻った。硬化膜Bについての測定結果を
図5及び
図6に示す。
【0054】
図5は、硬化膜Bのブラックライト下における相対蛍光分光スペクトルである。
図5より、硬化膜Bは、機械的刺激を加えても発光色は変化しないが、擦った直後に発光強度が低下し、その後、室温下で放置することで10分後には既に自発的に元の発光強度へ戻ることが確認できた。
【0055】
また、
図6は硬化膜Bの機械的刺激による発光強度変化を示す画像である。
図6において、硬化膜Bの表面をスパチュラで擦った部分である左側の画像の点線で囲まれた部分の発光強度が、擦り直後に低下していることが右側の画像からわかる。
【0056】
上掲の実施例2および3より、固体蛍光色素1aを含む硬化膜においても、機械的刺激により発光強度が変化し、その後自発的に元の発光強度に戻る発光特性の変化を示すことが確認された。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。