(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064256
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20220418BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20220418BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20220418BHJP
A61Q 17/00 20060101ALI20220418BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20220418BHJP
A61K 8/29 20060101ALI20220418BHJP
A61K 8/27 20060101ALI20220418BHJP
A61K 8/23 20060101ALI20220418BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20220418BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20220418BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20220418BHJP
A61K 8/9706 20170101ALI20220418BHJP
A61K 8/9755 20170101ALI20220418BHJP
A61K 8/9783 20170101ALI20220418BHJP
【FI】
A61K8/19
A01P1/00
A01N59/16 Z
A61Q17/00
A61Q5/00
A61K8/29
A61K8/27
A61K8/23
A61K8/36
A61K8/73
A61K8/60
A61K8/9706
A61K8/9755
A61K8/9783
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020181901
(22)【出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】514113946
【氏名又は名称】沓掛 由利子
(72)【発明者】
【氏名】沓掛 由利子
【テーマコード(参考)】
4C083
4H011
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB191
4C083AB192
4C083AB211
4C083AB212
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4C083AB232
4C083AB241
4C083AB242
4C083AC121
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4C083AC241
4C083AC242
4C083AC301
4C083AC302
4C083AC891
4C083AC892
4C083AD041
4C083AD042
4C083AD191
4C083AD192
4C083AD221
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4C083AD251
4C083AD252
4C083AD261
4C083AD262
4C083AD331
4C083AD332
4C083AD341
4C083AD342
4C083AD431
4C083AD432
4C083AD491
4C083AD492
4C083BB48
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC24
4C083CC31
4C083DD16
4C083DD17
4C083DD21
4C083DD41
4C083EE07
4C083EE12
4C083EE13
4C083EE29
4H011AA04
4H011BB18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】肌荒れ防止と同時に汚れと細菌、ウイルスの剥離、殺菌・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ作用効果を常態持続させる塗擦保護剤、その保護膜および塗擦方法を提供する。
【解決手段】1種またはそれ以上の光触媒液と、前記光触媒液に分散した複数の担持金属または金属液および化合物、過酢酸製剤、複数のナノセルロース、砂糖を含む糖類、糖鎖、藻類、パルプ、を含有している塗擦保護剤とする。塗擦方法は、粒径の異なる2種以上の非親水性の微粒子パルプ摩擦による。酸素吸着作用を用い、過酢酸製剤で手肌等に付着する菌やウイルス等を瞬時に殺菌消毒し、手肌の隙間に吸着させた光触媒活性により菌の付着・増殖の発生し難い環境と銅イオン水、銅水溶液、酸化モリブデン等による恒常的な抗菌・抗ウイルス・殺菌力効果が得られる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種またはそれ以上の光触媒液と、前記光触媒液に分散した複数の担持金属または金属液および化合物、過酢酸製剤、複数のナノセルロース、砂糖を含む糖類、糖鎖、藻類、パルプ、を含有していることを特徴とした塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法。
【請求項2】
前記光触媒液が酸化チタン、酸化タングステン、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化鉄、ジルコニア、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化水銀またはこれらの2種以上の組み合わせである請求項1に記載の塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法。
【請求項3】
前記担持金属または金属液および化合物がバナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、スズ、タングステン、白金および金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、該金属の化合物またはこれらの組み合わせである請求項1に記載の塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法。
【請求項4】
前記過酢酸製剤は過酢酸、過酸化水素、酢酸、オクタン酸、過オクタン酸、1-ヒドロキシ エチリデン-1・1ジホスホン酸、水の平衡混合液で、少なくても2種以上の組み合わせである請求項1に記載の塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法。
【請求項5】
前記ナノセルロースがセルロース系高分子ファイバーを構成する高分子、グルカン構造を有する多糖類、高等植物由来のセルロース、天然セルロース繊維、動物由来のセルロース、バクテリア由来のセルロース、化学的に合成されたセルロースからなるセルロース・ナノセルロース、キチン、キトサンナノセルロース、シルクナノセルロースおよびカルボキシメチルセルロ―スから選ばれた少なくとも1種から2種以上の組み合わせである請求項1に記載の塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法。
【請求項6】
前記糖類がシクロデキストリン、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトースおよびグリセリン、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリセリンやブチレングリコール等のグリコール系溶媒、キシリトール・マルチトールなどの多価アルコール類、コンドロイチン硫酸・ヒアルロン酸などの多糖類、コラーゲンなどの蛋白質類、ヒドロキシジステアレートなどのステロールエステル類、乳酸ナトリウムなどの有機酸塩類及びジグリセリン付加物類の中から1種または2種以上の組み合わせである請求項1に記載の塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法。
【請求項7】
前記パルプは木材、植物、草、藁、稲、竹、麻、果実、古紙等の木材パルプ、非木材パルプ、古紙パルプ原料で、機械パルプ、化学パルプ製法から得られた異なる粒径の中から1種から2種以上の組み合わせである請求項1に記載の塗擦保護剤およびその保護膜と塗擦方法。
【請求項8】
前記塗擦保護剤組成物は液体、ゲル、ペースト、粒粉、固形化された請求項1から7に記載の塗擦保護剤組成物と塗擦方法。
【請求項9】
前記塗擦保護剤組成物を用いて殺菌・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ、抗アレルギー、保湿保水、速乾性、冷涼冷却、疼痛緩和、毛髪ケアの請求項1から8に記載の塗擦保護膜と塗擦方法。
【請求項10】
前記塗擦保護剤組成物を用いて人体、固定物、固体物に得られる請求項1から9に記載の塗擦保護膜と塗擦方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は恒常的に一定の条件を満たす事による抗菌作用と光触媒活性塗擦(殺菌・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ)およびナノセルロース等の保湿・保護と非親水性微粒子パルプによる手指の塗擦乾燥速乾性がある手肌および繊維または固体物の塗擦保護剤および塗擦方法とそれを用いて得られる塗擦保護膜に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は有害な薬品を使用することなく一定の条件である太陽光や可視光の光を当てるだけで種々の有害有機物質の分解等の化学反応を起こし、防曇性、防滴性、セルフクリーニング、水質浄化や空気浄化・脱臭・抗菌・抗ウイルス・防かび・防汚など環境分野での広範囲の応用が可能であるため環境浄化の切り札として注目されている。そもそも、超親水性の光触媒製品の多くは紫外線が確実に照射される外壁やガラス等の屋外用途で利用され、それらの実績と光触媒のイメージ効果もあり屋内壁やカーテン等の固定物、インテリア関連にも可視光応答光触媒として波及している。昨今の様々な細菌やウイルスの感染症により、現在はマスクや衣類、住居空間に対し光触媒の殺菌、抗菌力がより着目され数多くの商品が流通しているが、手指等の人体に対しては以前から使用されている抗菌剤や消毒剤のアルコールや次亜塩素酸等が多数をしめている。光触媒で最も使用されているのが歯磨き粉や化粧品にも使用され、食品添加物としても認められている安全無毒な物質である酸化チタンであり、水分中に光を当てても自己溶解現象が起こらず、非常に安定で特異な物質で、触媒(光触媒)として働くだけで自分は変化しないため、原理的には光があれば効き目が半永久的に使用でき、生物に有害なほどエネルギーの高い光は必要とせず、LEDや蛍光灯の中に含まれる比較的長波長側の近紫外線で反応が進行し幅広い応用が可能であり、安価で耐久性に優れた数多くの利点を持っている。
【0003】
また、酸化チタンに紫外光を当てると活性酸素が生じ、特にOHラジカルは、消毒や殺菌に広く使われている塩素や次亜塩素酸、過酸化水素、オゾンなどよりはるかに強い酸化力を持ち、炭酸ガスなどの無毒な物質に変える他、菌の細胞内のコエンザイムAなどの補酵素や呼吸系に作用する酵素や癌細胞などを破壊し、有機物の分解、菌やカビの出す毒素の分解、ウイルスの分解を行い、抗菌・抗ウイルス作用を発揮して菌やかびの繁殖、ウイルスの付着を止める事も出来る。これらの作用により、種々の有害な化学物質や悪臭物質のような空気中の化学物質や、繊維・人体に付着する細菌、ウイルス等、ほぼ全ての有害有機物質を光の照射によって簡単に分解・無害化することができる。近年では紫外光を必要とする光触媒の他に、室内光等でも光触媒効果が得られる可視光応答型光触媒も幅広く利用されるようになっている。
【0004】
その上、光触媒材料以外で水に難溶の金属化合物である銅化合物や金をはじめ白金や銀化合物の暗所下での抗菌・抗ウイルス活性を調べると、銅一価化合物は、銅イオンや銅二価化合物に比べ、抗菌効果のみならず、エンベロープをもつウイルス、エンベロープをもたないウイルスのどちらに対しても高い抗ウイルス活性を発揮することも[非特許文献12]に示され、銀イオンを溶出しない固体の銀化合物(たとえばAg2S)は、抗菌・抗ウイルス活性をほとんど発揮しないことも明らかにされている。さらに、銅イオンは、抗菌・防汚剤・殺菌剤として古くから生活の中でも広く使われる上、銅化合物も今日では酸化チタンや酸化タングステンに担持させ可視光応答型光触媒の材料としている中では安価で、有用であることが公知されている。
【0005】
また、皮膚の主な機能は水分の損失を減少させること及び摩耗的作用や微生物からの保護、環境に対し透過性のあるバリアとして働くことで、皮膚の基本的な構成は最も外側から内側の層への順で表面層(角質層・約10~20μmの厚み)、表皮層(厚さ約50=100μm)、真皮層(厚さ約1~2mm)、皮下組織(厚さ約1~2mm)と続き、経皮的吸収に対するバリアは皮膚の構成の中でも最も薄い角質層内にある。手の皮膚pHは本来酸性を保ち、細菌の発育を抑制する機能を備えているが、高頻度な手洗いや速乾性手指消毒剤等の使用により手荒れが起きるとその機能は十分に発揮せず、細菌の増殖やウイルスの定着を招くことが明らかである。医療の複雑化や高齢化が一段と進み、新たな医療関連感染や市中感染が次々に報告される中、感染対策の基本である手指衛生が改めて注目を集めている。[非特許文献19]で示されている通り、現行品手指消毒剤においては、皮膚かさつき、皮膚肥厚、紋消失が高く、潤い成分配合手指消毒剤の使用後は、発赤、皮薄化、亀裂、爪周囲亀裂、湿疹について報告され、特に医療従事者は手指に手荒れや皮膚炎等ができると黄色ブドウ球菌ばかりか本来一過性に付着するグラム陰性菌の定着を招くことがあり、それらを原因とする院内感染も多く報告されている。そのため人間の手荒れは感染予防対策上からおろそかにできない大きな問題であり、手荒れは人間にとって手洗いの遵守率の低下を招くことも指摘された為、手指の消毒後にローションの使用を行った結果、前後における手荒れの有無で比較すると有意差はみられなかったものの、潤い成分(リピジュア)配合手指消毒剤においては、手荒れ症状を比較するとわずかではあるが改善傾向が示され、使用感がよく乾燥も速いと効率的に使用可能と考えられ、手荒れ防止対策はとしては、保湿が一番効果的で、毎日のスキンケアも重要が必要であると言われている。
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2783339号公報
【特許文献2】特許第2517874号公報
【特許文献3】特許第6576996号公報
【特許文献4】特許第6184108号公報
【特許文献5】特開2002-308712号公報
【特許文献6】特開2014-113576号公報
【特許文献7】特願2020-46968号公報
【特許文献8】特開2016-10724号公報
【特許文献9】特許第6359865号広報
【特許文献10】特許第6427334号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】光触媒の材料開発と産業応用及び国際標準化 垰田博史
【非特許文献2】光触媒技術のバイオ関連応用 中田一弥 フジコー技研 技報「創る」No.26
【非特許文献3】新規技術により作成した二酸化チタン(TiO▲2▼)不織布の光触媒反応によるウイルス不活性化効果についての検討 国立感染症研究所バイオセーフティ管理室 高木弘隆 杉山和良 感染症学雑誌 第85巻 第3号 2011年2月28日
【非特許文献4】パルプの性質と紙の強度 十条製紙株式会社研究所 奥 杏一
【非特許文献5】熱帯樹林の成分と利用(2) 大原誠資 熱帯林業No39 1997年
【非特許文献6】タンニンの化学 最近の研究 西岡五夫 化学と生物Vol24、No.7
【非特許文献7】木本性植物の組織培養によるタンニン生産と生合成 谷口抄子、波多野力、矢崎一史 木材学会誌 Vol.52、No.2p.67-76
【非特許文献8】光触媒応用技術 橋本和仁 2007年7月25日 東京図書株式会社
【非特許文献9】光触媒のすべて 藤嶋昭 2017年11月22日 ダイヤモンド社
【非特許文献10】抗菌薬剤感受性試験結果に基づく銅イオン溶液の抗菌・殺菌作用過程 石田恒雄 日本微生物生態学会誌 31巻2号45-46 2016年
【非特許文献11】はじめて出会う細胞の分子生物学 伊藤明夫 株式会社岩波書店2006年8月29日
【非特許文献12】可視光下での金属酸化物の抗ウイルス活性に関する試験 砂田香矢乃、畑山靖佳、永井武、石黒斉 KISTEC研究報告2019 2019年7月
【非特許文献13】錯体粉末の熱分解による酸化タングステンナノ粒子の作製 山下洋子、原田智洋、牧野晃久 粉体および粉末治金 59 No6 P333 2012年
【非特許文献14】常識は覆るのか?!光触媒反応における酸素の還元機構 大谷文章、阿部竜 化学レビュー(第6回)光触媒化学 化学,63(9),19-23 2008年9月
【非特許文献15】光触媒標準研究法 光触媒反応系の開発と成果の発表 大谷文章 東京図書株式会社 2017年12月15日
【非特許文献16】人間の手指の摩擦特性の解析 嶋田明広 韓鉱庸 川村貞夫 計測自動制御学会論文集 1996年 Vo.32 No12
【非特許文献17】粉体層の摩擦特性に及ぼす粒子形状および粒径の影響 廣田満昭他 粉体工学会誌/粉体工学会[編] 1986年 Vol.23 No.9
【非特許文献18】インフルエンザウイルスが結合する糖鎖分子の機能解明 高橋忠伸 ウイルス第66巻第1号 2016年
【非特許文献19】速乾性手指消毒剤と手荒れの評価 潤い成分配合手指消毒剤使用前後の比較 龍口さだ子 第V群19席 P73~76
【非特許文献20】手指消毒による手荒れと除菌効果の検討 高森スミ 久家智子 辻明良 日環感 1992年 Vo1.7 no.2
【非特許文献21】粉体粒子の形状 竹林敬 色材基礎講座第XI講 1995年 52-58
【発明が解決しようとしている課題】
【0009】
しかしながら、[特許文献1]から[特許文献6]に示される光触媒溶液や無光触媒溶液では、一般的に基板を想定した壁や床、住宅用や工業用途等の限定されたものであり、手肌や繊維、住居内で頻繁に使用する場所や不特定多数が使用する固定物を想定した光触媒は光の強度と吸着物質のバランスが重要となる。酸化チタン単独では数十μW/cm2から数百μW/cm2以上の紫外線が必要になる他、紫外線強度が屋外の約1000分の1になる屋内での微弱紫外線または可視光線の場合はそれらに応答する窒素ドープ酸化チタンや酸化タングステン、金属イオン等を使用しなければ光触媒の効果が発揮出来ず、使用環境応用や手肌等の人体へ使用するには改良の余地がある。その上、酸化分解力・殺菌力を示す一般的な光触媒液を手肌や繊維に付着させると、紫外線照射が安定的な場合は、細菌やウイルスを分解・殺菌するが、対象物質が表面に来なければ分解などの反応を起こすことができない光触媒は、吸着物質や使用する環境変化により人体や繊維等への適用が不可能であると言われていた。そもそも光触媒は光の照射がないと殺菌・抗菌・抗ウイルス作用を生じる事が無い上、OHラジカルなどの活性酸素は寿命が短く、菌が酸化チタンの近傍に来ないと抗菌効果が発揮されないため、酸化チタンが担体やバインダなどの中に埋もれていると、光が当たりにくく菌が接近し難く抗菌効果は低くなる事から、酸化チタン光触媒を繊維や手肌に被膜させることが必要不可欠となる。光触媒反応は対象物質が表面に来なければ分解などの反応を起こすことが出来ないという難点を持ち、対象物質を吸着によって吸い寄せ、それを光触媒で分解させる等、光触媒と活性炭などの吸着剤とのハイブリッド化も行われているが、活性炭は光を透過しないため光触媒が活性炭の陰にあると反応が起こらないという欠点があった。さらに、[非特許文献2]に示されているが、酸化タングステンは可視光下で光触媒活性能を発現する可視光応答型光触媒として知られ、光照射によって励起された電子によって自己還元され、タングステンイオンの価数が6価から5価へと変化することにより光触媒活性が低下するため、揮発性有機化合物の完全分解は困難であることが問題となる他、酸化タングステンの高活性化のため、白金やパラジウムを担持した酸化タングステンが作製され、揮発性有機化合物の完全分解への試みがなされているが、高活性化のための貴金属による高コスト化が問題となる上、夜間の無光状態の場合は、光触媒の安定した効果が確実に得られる事が困難である。そもそも光-化学エネルギー変換系である水の全分解(H2O→H2+1/2 O2)に効く可視光応答性光触媒は、有機化合物の酸化分解反応には使えず、バンド位置(構造)と標準電極電位の比較だけでは説明できない現象も起こることは[非特許文献14]にも記されている。また、消毒剤を頻繁に使用すると乾燥・硬化・亀裂・紋消失・紅斑・痒みの順で症状が現れ、刺激臭が伴う物が多い塩素系やアルコール類は脱水作用もあるため、皮膚表面の皮脂と水分の両方を奪ってしまう脱脂を行ってしまうことになり、手荒れが起こりやすく、病原菌を増殖させることにも繋がり、細菌繁殖の温床となってしまう。また、手肌クリームを塗布すると保湿性は保持できるが、殺菌・抗菌・抗ウイルス作用が弱くなる問題もあった。
【0010】
また、過酢酸は、無色透明な液体で刺激性の酢酸臭があり、CH3COOOH+H2O⇔CH3COOH+H2O2の平衡反応により生成され、酸化力の強い酸素ラジカルを放出して酢酸に変化し殺菌効果を有するが、過酢酸製剤としては主に医療器具の滅菌・殺菌・消毒に0.2%-0.3%の濃度で用いられている他、食品の表面殺菌、ペットボトル・プラスチックキャップ等の殺菌にも利用され、人体に対する感作性・アレルギー性、変異原性が低く、最も強力な抗菌効果を示す消毒薬で、細菌芽胞、結核菌、ウイルス、糸状真菌、一般細菌等のすべての微生物に有効であり、ウイルス等は5分間以内という短時間で殺滅できる。その過酢酸製剤は、過酢酸、過酸化水素、酢酸、オクタン酸(過オクタン酸)、1-ヒドロキシ エチリデン-1・1ジホスホン酸(以下、HEDPと省略)等を含有する混合物である。消毒剤に多く用いられている塩素系除菌剤に対し、過酢酸製剤は有機物接触による失活が少なく、残留性がない事が認められており、殺菌処理後の水洗いは必要とせず、ステンレスを腐食させないという長所を持っているが、酸化力が強いために鉄、銅、真鍮などにおいては腐食を発生させてしまう問題があるが[特許文献9]や[特許文献10]では鉄等の金属に対する腐食の発生を抑止する非腐食性過酸化製剤も開発されている。過酸化製剤は80ppmの濃度では、30秒の短時間で5桁以上の菌の減少があり、10ppm程度の低濃度でも1分間で3桁以上の減少が認められ、反応物である過オクタン酸を含む過酸化製剤として酸性触媒の存在下で酢酸と過酸化水素から生成されるが、過酢酸は加水分解をしやすいため、酢酸、過酸化水素及び水との平衡状態で存在し、低濃度、室温で迅速な殺菌効果があり、分解物の毒性や環境汚染がなく、カタラーゼで分解されずに効果が持続することが利点とされている。過酸化製剤は日本国内では関東化学株式会社社・パーサンシリーズ等で商品化されている他、米国メディベーター社(旧ミンテック社)によって開発された低濃度過酢酸製剤のアクトリルは希釈の必要がなく、日本国内の過酢酸系溶剤PBioアクトリルは唯一EPA(米国環境保護局)の認定を受けた除菌剤で細菌芽胞、結核菌、ウイルス等に優れた効果を持ちながら毒性が低く安全に使用できる。ただし、金属イオンに対しては、酢酸と酸素に分解、又は、加水分解して、酢酸と過酸化水素に分解される特徴がある。
【0011】
さらに、光触媒反応における酸素の還元を一考した場合、酸素を還元すると水になるが、
【数1】
ギブズ自由エネルギー変化が負で自発的反応の代表例は物質の酸素酸化反応であり、空気中での光触媒反応では正孔によって有機・無機の物質が酸化され、それと同時に励起電子が酸素分子を還元する事は今や公知であるが、光触媒反応によって水の全分解の一部である水を酸化して酸素にすることができる[数位1]の逆反応は、
【数2】
となる。この反応については、同位体ラベルした水(H
2
18O)を使った実験により、酸素の起源が水であること或いは光触媒中の格子酸素は確認されている。しかしながら[数1]の光触媒反応については、断定まで至らず程度であり、酸素が還元されて水になるという以外には過酸化水素が生成するという報告はなされているが、光触媒に関する初期の研究では、酸化亜鉛によるイソプロピルアルコールの酸素酸化反応により、酸素は2電子還元されて過酸化水素ができるとされている。
【数3】
したがって、酸化チタン光触媒膜が光を吸収することによって生じる比較的長寿命の活性種である過酸化水素が気相中を移動し、酸化チタンとは離れた場所で酸化反応が起こることが確認され、光触媒で良く言われる「励起電子は酸素を還元する」とは過酸化水素が比較的簡単に分解してしまい酸素の1電子還元であるとなるが、生成物はラジカルであり寿命があるため、この1電子還元反応と断言されるかを考慮しなくてはならないが、酸素活性種が出来たと仮定した場合、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2+
-)が光触媒反応によって生成することが確認されており、比較的長い寿命を持つと思われる。酸化チタン(アナタース結晶)の伝導帯下端(伝導帯の底)はだいたい-0.2V(アナタース;標準水素電極基準、pH=0)あたりと考えられている。
【数4】
【数5】
![](/Kouhou/img?c=P_A1&n=2022064256&FileName=2022064256000007.tif&ImageFormatCategory=tif)
[数5]の電極電位はpHによって変化するが、金属酸化物のバンド位置もおなじpH依存性を持つため結局のところ相対的な位置関係は変化せず、約150mVほど伝導帯下端の方が負側になる。一方、[数4]の電位はpHに依存しないので、pHを上昇させて伝導帯下端の電位を負側にシフトさせると逆転し、pH=7程度では約300mVほど伝導帯下端の方が負側となる。酸素への励起電子の移動が起こるエネルギー差というところでもあるが、実際に約0.2V正側に伝導帯があるとされるルチルの酸化チタンは酸素酸化活性が低いことが多い。また、金属酸化物の価電子帯は、おもに酸素の2p軌道から構成されているので金属の種類をかえてもバンドギャップと伝導帯位置が変化するだけで、価電子帯位置は変化しないと考えられており、可視光応答化、つまりバンドギャップが小さい金属酸化物を用いると伝導帯が下がってしまうことになり、酸化タングステンは水の還元による水素生成も酸素の還元も起こらない事になる。逆にいえば、酸化チタンの活性が比較的高いのは酸素を1電子還元するに十分な伝導帯位置を持つからであるとも言える。即ち、酸化チタンは「正孔の酸化力が強い」と言うより「励起電子が酸素を1電子還元できる」というのが大事である。したがって、光触媒反応による酸素酸化反応や水の全分解でも可視光を照射して反応を進行させるためには、酸化チタンに何かを混合するか複合酸化物を使うことによって、新たな電子のレベルを価電子帯に導入し、伝導帯の位置を変えずに価電子帯上端の位置を上昇させるということになる。これが「可視光応答化」の基本であるが、光触媒に格子欠陥がたくさんあると、そこで励起電子と正孔の再結合が起こってしまい活性が低下してしまう事は、結晶に格子欠陥を導入することにも成り得、複合金属酸化物では複数の金属イオンが量論どおりに入っていないとやはり格子欠陥が生成する。その意味では可視光応答性は出るが、紫外光照射下での活性が低下するという認識が広がったが、銅と比べ安価ではないが酸化タングステンに微量の白金ナノ粒子等を担持させると可視光照射下で水中や空気中の有機化合物を効率よく分解することが発見され、作用スペクトル(光反応の効率=みかけの量子収率の波長依存性)を測定すると、その形が酸化タングステンの拡散反射スペクトルとほぼ一致しているので酸化タングステンが光を吸収して反応が起こっていることは間違いないと確認はされている。しかし酸化タングステンは酸素を還元できないのは光触媒の常識であり、励起電子が光触媒のなかに蓄積するとバンド全体が押しあげられて伝導帯下端が上昇することが活性発現の理由かもしれないとも思われ、酸化タングステンに酸素還元を発揮させる為に酸化タングステンの電子が白金を介して酸素分子に移動し、速度を早め、白金を担持させても例えば脱気したメタノール水溶液からの水素発生は進行しないことから、白金担持酸化タングステン系では酸素の還元が1電子過程ではないと考えざるを得ないが、空気中での反応、即ち光触媒酸素酸化反応に限って言えば伝導帯下端が標準水素電極基準,pH=0で+1.23Vより卑(負側)であれば良いことになり、酸化チタンのバンドギャップは3eVくらいなので、酸素の4電子還元の過電圧を200mV程度まで小さくできると仮定すれば、伝導帯は1V下がって(正側)も良く、バンドギャップは約2eV以上あれば良いことになり金属酸化物の光触媒なら約600nmまでの可視光を利用できる。これは、ほぼ全部と言える程の金属酸化物となり、酸素の4電子還元をいかにうまく進行させるかという速度論的な問題になる。これは価電子帯の位置、つまり正孔の酸化力は金属の種類を変えても変化しないと考えられるからであり、白金を担持させた酸化タングステン光触媒において酸素が4電子還元されているという直接的な根拠はないが、二重励起光音響分光法などの結果から、酸化タングステン中の電子が白金を介して酸素分子に移動していることはほぼ間違いが無いと言える。
【0012】
また、室内や人体の手指等に光触媒を利用した製品では、主に抗菌・抗ウイルス、揮発性有機物(VOC)、脱臭を目的とされているが、抗菌効果を調べた場合、大腸菌を完全分解させるには紫外線1mW/cm2で6日間かかるが、菌の不活化には1時間弱の照射で良いが、室内の紫外線は1μW/cm2であるから1000倍の時間がかかる事になり、室内における抗菌効果を起こすには銀や銅の金属イオンを組み合わせ、酸化還元反応で酸化チタン上に金、白金、銀や銅の数nmメタルが存在するようになる。それらの金属イオンが細胞膜を透過して菌の中に入り抗菌性を発揮するが、対抗性のある細菌が大量に続出した場合、金属イオンの透過性が抑えられ効果が下がる為、1μW/cm2の紫外線を照射させれば対抗性菌が格段に減る事から、室内光の微弱な紫外線でも有効である。これは、耐性菌の変質した外膜が、光触媒によって生成されたO2
-やOHラジカルにより傷められ金属イオンが入りやすくなる、即ち光触媒と抗菌性のある金属イオンをハイブリッドにすれば膜透過性が上がり、抗菌性が発現する。ウイルスについては、空中浮遊菌やアエロゾルを宿主として入り込んでいる場合が多く、0.1mW/cm2の紫外光を4時間照射することで、ネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)やインフルエンザウイルスに対し、高い抗ウイルス効果が確認されているが、可視光下等や短時間で光触媒効果が得られる可視光型光触媒については現在、様々な金属を担持させた開発が進んでいるものの、それらは固体物に限定される評価でもある。
【0013】
また、酸化チタンに変わる可視光に対して効率よく機能する可視光応答型光触媒の開発が、工業的応用面という観点から重要な課題であり、多くの研究が報告されてきた。たとえば、酸化チタンのO原子の一部をN原子またはS原子で置換することにより可視光応答性を向上させる方法、酸化チタンに遷移金属やその金属酸化物などの助触媒を担持する方法あるいはInNbO4やInMTaO4(M=Cu、Ni、Co、Fe、Mn)などのd10電子状態(特に4,5,6族)イオンとd10電子状態(1,2,13族)イオンとからなる複酸化物などが報告されているがこれらの化合物は可視光下で必ずしも満足できる触媒特性を示すものではないため、6族の遷移金属であるMo(d0電子状態イオン)と13族のIn(d10電子状態イオン)とからなるIn2O3-MoO3系複酸化物も着目されている。
【0014】
さらに、インフルエンザA型ウイルスが宿主細胞の表面に結合するとき、その標的は糖鎖末端のシアル酸であり、IAVの表面糖タンパク質であるヘマグルチニンがシアル酸を認識する。IAVが結合するシアル酸の主要な分子種はN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)とN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)であり、IAVと結合するシアル酸はヒトで豊富に発現するNeu5Acのことを意味することが一般的で、ヒトを宿主とするIAVは、ヒトの上気道に多いNeu5Acα2、6Galで比較的長い糖鎖(特に5~7糖)と優先的に結合する。その上で、ウイルス側因子として、Neu5Ac、Neu5Gc及びスルファチドの糖鎖分子を認識して結合するIAV表面タンパク質HAに着目し、もう一方の、一つのIAV表面タンパク質NAについてもその酵素活性「シアリダーゼ」の性状解析や蛍光イメージング剤の開発が行われ、シアリダーゼは糖鎖末端からシアル酸を切断する酵素であるとされている。今後も糖鎖生物学の視点からウイルスにおける糖鎖分子の「結合」と「切断」の機能解明が重要になる事は明らかであり、様々な構造のアスパラギン結合型糖鎖や糖鎖ペプチド等が開発され販売されている。
【0015】
また、細菌やウイルス感染症が流行した場合、一般的に手指消毒がもっとも身近で簡便かつ重要な手段で、細菌等を相当数減少させれば実質的および非実質的な活性成分の何れでも持続活性を持つのは周知である。例えば、アルコールを皮膚に塗布した場合に即効の殺菌効果はあるが持続性(残留性)が無く、衛生状態を保つには頻繁な消毒剤の使用となり、手荒れを起こすことも多くアレルギー症状が伴う事も知られ、そのため消毒の使用を控える状況も見受けられる。手指消毒における消毒剤の殺菌効果や抗菌力については多く報告または周知されるが、手荒れと除菌等効果とを関連して報告されたものは少なく、検討の余地がある。[非特許文献20]でもレプリカ法による形態評価や経皮水分蒸散量測定、皮脂量測定などの物理化学的評価法が報告され、皮水分蒸散量経皮脂量の測定、画像解析を行ったが、十分な結果が得られず報告するに至っていないのが現状である。
【0016】
本発明の課題は、以上のような問題点に鑑み、消費者の使用環境に対応するため、殺菌・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ作用がある光触媒溶液と無光状態等の使用する環境に左右されず効果を恒常的に持続させる過酸化製剤、銅イオン、銅水溶液、酸化モリブデン等と電導性のある保湿・保護作用のナノセルロースおよび糖類または海藻類、藻類と抗アレルギー作用のアラントインを配合し、手肌や繊維の隙間へ入り込む光触媒の剥離性と内側(手肌、繊維側・以後バルク側)と表面側(以後表面)には分子間力が働き、バルク側の分子密度が圧倒的に高いため、表面に存在する分子は常にバルク側に引き込まれる現象を指す界面活性剤の1つである界面張力と粒径の異なる2種以上のパルプ微粉末の摩擦による速乾性と空中上の酸素吸着を利用し、手肌等の人体の他、繊維や固体物にも塗布または噴霧により、肌荒れ防止と同時に汚れと細菌、ウイルスの剥離、殺菌・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ作用効果を常態持続させる塗擦保護剤組成物および塗擦保護膜と塗擦方法を提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0017】
そこで、本発明は上記課題を解決するために、超親水性の光触媒溶液とナノセルロースに混和させた非親水性の微粒子パルプ摩擦による塗擦方法と噴霧時の酸素吸着作用を用い、光触媒溶液を手肌の隙間に吸着させ、光触媒活性により手肌等に付着する菌やウイルス等を剥離分解し、殺菌・分解による菌やウイルスの死滅作用で簡易に取り除かれる塗擦漂白および菌の付着・増殖の発生し難い環境と衛生的に保つ事による殺菌・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ(以下塗擦作用)と、光触媒活性が得難い環境でも過酸化製剤による瞬時の殺菌、消毒と、銅イオン水、銅水溶液、酸化モリブデン等による抗菌・抗ウイルス・殺菌力効果を恒常的に得られると同時に、無味無臭で安全な親水性のナノセルロースおよび糖類による手肌の保湿・保護効果と、粒径の異なる2種以上の非親水性微粒子微パルプの摩擦による塗擦方法での浸潤、塗滅、速乾性や、アラントインによる抗アレルギー作用、クエン酸分散による冷涼冷却と痛みの緩和作用が得られる塗擦保護剤および保護膜(以下塗擦保護剤)と、繊維や固体物の塗擦作用による殺菌・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ(以下塗擦加工)をする塗擦保護剤および保護膜(以下塗擦保護膜)それらの塗擦方法を目的としている。
【0018】
さらに、刺激臭や一時的な効果しか得られない一般的な消毒剤または除菌・抗菌剤は皮膚表面の皮脂と水分の両方を奪ってしまう脱脂による手荒れで、病原菌を増殖させることにも繋がり、細菌繁殖の温床となる可能性が高い塩素系・アルコール類であるが、それらを使用する事無く、殺菌・消毒・菌滅・抗菌・抗ウイルス・除菌・防臭・防カビ等と、保湿・保水・粘着性等が塗擦方法を用いて同時に得られる塗擦保護剤は、日常的に塗布噴霧出来る状況では勿論の事、就寝中や寝たきり状態、仕事の作業中、看護中等の塗布噴霧が困難な状況でも塗布噴霧直後から継続的に効果が保持される塗擦保護剤および塗擦保護膜である。但し、常にヒトに住みつき、外からの侵入菌の増殖を防いでくれる常在細菌や紫外線から守り健康な肌を作り出す善玉常在菌は、健康であれば悪玉常在菌の増殖を防ぎ感染源にはならないが、抵抗力が落ちた状態では感染を起こすこともあり、過酢酸製剤や光触媒活性でそれらを死滅させたとしても、パルプの塗擦作用とナノセルロース等の保湿・保護作用が同時に得られる塗擦保護剤は体調に関係なく働くため、より安全で安定的な使用が可能になる。
【0019】
光触媒溶液に使用する酸化チタンはバンドキャップ3.2eV、波長換算で約388nmの光触媒活性の高い天然のアナターゼ型酸化チタン(以下光触媒溶液)またはブルッカイト型酸化チタンやルチル型酸化チタン(以下光触媒溶液)を利用する。光触媒溶液は不導体被膜を作る特性があり、これは耐食性に優れ、密着性も十分得られる。その上、光触媒酸化チタンの強い酸化力は、表面の汚れを分解・除去する事だけではなく、モラクセラ菌を含めた細菌やウイルス・糸状菌・ガン細胞等を不活性化できることも報告されており、特定の細菌に限定されることがない酸化チタンの抗微生物特性に着目した医学・医療・衛生材料分野への応用も活発に行われている。この効果は光触媒反応を活用するので、コーティングの基本的な考え方は分解活性を主に活用したセルフクリーニング用途と同様となるが、[非特許文献1]に示されている通り、光触媒には殺菌や抗菌・抗ウイルスが可能であると公知されており、酸化チタンは硝酸やクロム配に強い特徴を有し、酸化腐敗や手肌の隙間への薄い被膜を形成する事に特化できるもので、これにより十分な効果を示し、同時に付着した汚れの隙間に入り込む表面張力のエネルギーも加わり、菌やウイルスを殺菌や剥離分解し不要な物質を排除できる事により強い効果が得られる塗擦保護剤となる。
【0020】
また、太陽光には、紫外線は3~4%しか含まれておらず、蛍光灯の紫外線は0.1mW/cm2であり、室内用途で光触媒を効率良く利用するためには、可視光で働く光触媒が不可欠であり、可視光で働く光触媒として、酸素欠陥型や窒素ドープ型など様々な考案が為されており、本発明の塗擦保護剤で使用する光触媒溶液の1つとして使用するが、これに限定しない。
【0021】
本発明に使用する酸化チタンは光触媒活性の高い天然のアナターゼ型酸化チタンまたはブルッカイト型酸化チタンおよびルチル型酸化チタンの少なくとも1種以上であるが、限定しない。
【0022】
本発明に使用するナノセルロースは濃度約6%以下の微粒子粉体または液体であるが6%に限定はしない。
【0023】
本発明に使用するナノセルロースは平均繊維径(D)が3nm~100nmであるセルロース系高分子ファイバーと保湿液とを、セルロース系高分子ファイバー:保湿液=1:1~1:20の重量比で含有しているが、重量比は限定しない。
【0024】
本発明の塗擦保護剤は、例えば、セルロース繊維を分離抽出した紙パルプのマイクロサイズの微粉末、シクロデキストリン、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトースおよびグリセリン、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、数平均分子量120~20000)、ポリグリセリン(例えば、数平均分子量が120~20000)やブチレングリコール等のグリコール系溶媒、キシリトール・マルチトールなどの多価アルコール類、コンドロイチン硫酸・ヒアルロン酸などの多糖類、コラーゲンなどの蛋白質類、ヒドロキシジステアレートなどのステロールエステル類、乳酸ナトリウムなどの有機酸塩類及びジグリセリン付加物等が挙げられ、これらの中から一種または二種以上を組み合せて使用しても良い。これらの中でも多価アルコール類や、皮膚への親水性が強いナノセルロースに対し、微粒子のパルプを含有させる事で、保湿剤が噴霧箇所だけに局所浸潤させる事を防ぎ、手を擦り合わせると全体に保湿剤を行き渡らせるようにするのが好ましく、それらから選ばれる1種または2種以上が好適である。
【0025】
本発明に使用する海藻類・藻類は、例えばアカモク、モズクの粉体または液体の少なくても1種以上であるが限定しない。
【0026】
塗擦保護剤に使用する糖鎖は、市販品で良く、少なくても1種以上であるが限定せず、使用するかは任意である。
【0027】
本発明の塗擦保護剤に混合する無光触媒液はリン酸チタン、リン酸チタニア、酸化チタン、二価金属および四価金属のリン酸塩等の1種以上であるが限定しない。また、一般に製造販売されている無光触媒液でも良く、限定しない。
【0028】
本発明の塗擦保護剤に使用する酸化チタン、酸化タングステンは、一般に製造販売されている光触媒溶液でも良く、1種以上であるが限定しない。
【0029】
本発明の塗擦保護剤に使用するリン酸類は、リン酸塩、リン酸カルシウムであるが、一般に製造販売されている光触媒溶液中のリン酸類を使用しても良く、使用の有無は限定しない。
【0030】
本発明の塗擦保護剤に使用するにモリブデンは、モリブデンの他、モリブデン酸ナトリウム、三酸化モリブデンの粉体または液体の1種以上であるが限定しない。
【0031】
本発明の銅イオン水、銅液体濃度はそれぞれ0.2mg~0.3mgであるが限定しない。
【0032】
本発明の過酸化製剤は、一般に製造販売されている過酸化製剤液でも良く、例えば米国メディベーター社(旧ミンテック社)によって開発された低濃度過酢酸製剤のアクトリルまたは日本国内の過酢酸系溶剤PBioアクトリルであるが限定しない。
【0033】
本発明の過酢酸製剤に含有する安定剤である等は、有機系イオン封鎖剤のヒドロキシ・カーボネイト系、例えばクエン酸、グリコール酸、グルコン酸やその塩等、アミノ・カーボネイト系、例えばEDTA、アセテイト、エチレン、ジアミン、テトラ、トリニトリック酢酸等、ヒドロキシ・アミノカーボネイト系、例えばヒドロキシ、エチレン、ジアミン、四酢酸等であるが限定しない他、使用の有無も限定しない。
【0034】
本発明の塗擦保護剤の防腐剤としてはヘキサンジオール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸カルシウムの粉体または液体の1種以上であるが、溶液中の配合は100g中、0.005g以下とし、防腐剤の使用は任意である。
【0035】
本発明の塗擦保護剤の酸化防止剤としてはジプチルヒドロキシトルエン(BHT)・t-ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール類(ビタミンE)、アスコルビン酸類(ビタミンC)、エリソルビン酸類、クロロゲン酸、カテキン、没食子酸の粉体または液体の1種以上であるが、使用の有無は限定しない。
【0036】
本発明の塗擦保護剤で使用するアラントインは粉体または液体であるが使用の有無は限定しない。
【0037】
本発明の塗擦保護剤は手肌以外の人体、例えば足の踵に使用した場合、水虫等の白癬菌の改善、口腔内等に塗布または噴霧すると歯肉炎等の痛みの緩和も得られ、手以外の使用部位に対しての限定はしない。ただし、眼球以外とし、口腔内で使用する場合、光触媒の含有量は0.01%から0.004%の範囲が好ましく勿論、無害である。
【0038】
その上、クエン酸のピーリング効果は公知であるが、本発明の塗擦保護剤で酸化チタンを分散する際にクエン酸を使用した場合、塗擦保護剤を人体の肌に噴霧または塗布すると保湿保護と同時に塗擦保護膜による肩こりや関節痛などの痛みの緩和が一定時間得られる。さらに、塗擦保護剤に制汗成分であるクロルヒドロキシアルミニウムを含有させ、腋臭防止効果も得られるが、クロルヒドロキシアルミニウムの使用は任意である。但し、クロルヒドロキシアルミニウムは皮膚刺激性を考慮し2%濃度以下が好ましい。
【0039】
本発明の塗擦保護剤を塗布または噴霧して使用する繊維は、木や天然繊維の例えば植物繊維(セルロース高分子)、動物繊維(タンパク質高分子)、鉱物繊維や化学繊維の例えば無機繊維、精製繊維(天然高分子)、再生繊維(天然高分子)、半合成繊維(半合成高分子)、合成繊維(合成高分子)の(以後、繊維)素材および、それらで製造された製品や商品であるが、それらに限定しない。
【0040】
本発明の塗擦保護剤を塗布または噴霧する固体物のとしては、例えば口腔ケア用品の歯ブラシ・歯間ブラシ等、うがい液や金属類、例えば鍵や硬貨等、紙製品、例えば紙幣、新聞紙、文房具等、食器類、例えば箸やコップ等、住宅関連類、例えばドアノブ、トイレ、浴室、寝具等、オーディオ類、例えばCD、DVD等であるがそれらに限定しない。
【0041】
さらに[非特許文献11]で示された通り、無性生殖で増える単細胞生物は事故とも言える何らかの外傷がない限り無限増殖を繰り返すが、光触媒による有機物の酸化分解は、分解対象の選択性が無いのは公知であり、エンベローブの有無があるウイルスにも、当然、その種類に関わらず効果の発揮を求められている。インフルエンザやノロウイルス等のウイルスに対し、過酢酸製剤や光触媒作用により発生した活性化酸素種がウイルスの外膜であるエンベローブやカプシドを酸化分解する事で、ウイルス活性を抑制する。さらに、抗ウイルス作用は光触媒表面で起こり、気中で光触媒表面に接触したウイルスについて不活化作用が得られることが実験等で報告されている事から、本発明の塗擦保護剤を使用する事により塗擦作用が可能になる。
【0042】
また、酸化タングステンをナノ粒子で作製する方法の1つとして[非特許文献13]で示されているが、安価なタングステン(W)原料であるパラタングステン酸アンモニウム(APT)とクエン酸およびアンモニア水を混合撹拌することでW錯体溶液を調製し、乾燥させた後に酸素雰囲気中で熱分解する簡素なプロセスで20~80nmの比較的粒径の揃ったWO3ナノ粒子が得られており、本発明の塗擦保護剤の酸化タングステンに使用することで、液体への分散が容易になり、可視光応答光触媒のより高い効果を得られる。
【0043】
また、銅イオンの細菌細胞壁の抗菌反応として、グラム陰性菌細胞壁、外膜における抗菌反応では細菌細胞はCu2+に対して高い親和性を示し、Cu2+の大部分が細胞表面タンパク質のアミノ酸残基に結合していることが見出され、Cu2+が外膜タンパク質に結合する他、ラクタマーゼ酵素と結合することで、銅-タンパク質複合体を形成しタンパク質合成を阻害する。Cu2+は細菌細胞表層で硫黄、窒素、酸素などの電子密度が高い官能基と反応して、溶解度の小さい塩や銅錯体を形成する。特に呼吸系酵素群には-SH基を含む酵素が存在するため、Cu2+はこれらの-SH基を酸化することで失活させ、その上、無毒無害で水素ガスが発生する事は公知である。
【0044】
さらに、本発明の塗擦保護剤は、銅イオンと銅水溶液を併用する分子(非乖離)型とイオン型の物質で存在し、このイオン型の物質は、微生物の細胞を構成しているリン脂質を透過できないのに対して、分子型の物質は細胞内部に浸透し、微生物の細胞内にある酵素タンパク質やDNAなどの化学結合を破壊することによって遺伝子の活動を停止させ、その結果として強い殺菌効果を表す。分子型は瞬間的な殺菌力は弱いが、その一方で有機物が存在する環境下でも安定した殺菌力と長期間に及ぶ殺菌力が持続し、特に足裏等へ塗擦保護剤を塗布した場合、素足の状態での生活が長時間であるほど、より紫外線や可視光の照射を受け、周囲に汚れが存在している環境下でも、ターゲットである微生物類に長時間接触することで殺菌が可能になる。
【0045】
また、光触媒溶液にナノセルロースを配合させ使用するが、混合物質の許容濃度として、この数値は当該物質が単独で空気中に存在する場合のものであり、2種またはそれ以上の物質に曝露される場合には個々の物質の許容濃度のみによって判断してはならないとなっており、現実的には相加が成り立たない事を示す証明がない場合には、2種またはそれ以上の物質の毒性は相加されると想定し、次式によって計算されるIの値が1を越える場合に許容濃度を越える曝露と判断するのが適当であると示されている。
【数1】
この場合、Ciは各成分の平均曝露濃度を示し、Tiは各成分の許容濃度を示す。ただし、有害物質の許容濃度の基準は職場における環境原因による労働者の健康障害を予防するための手引きに用いられることを目的とし、日本産業衛生学会が勧告している。
【0046】
また、銅イオン水や銅水溶液は強い殺菌力で安定して殺菌効果を持続することができ、有機物が多く存在する汚れた環境下でも持続的に殺菌効果を発揮し、殺菌しにくく困難を要してきた耐性菌(芽胞を形成することで抵抗力が高まる耐熱性菌や抗生物質が効かなくなった薬剤耐性菌)、カビや酵母などの真菌類、さらにはウイルス類(ノンエンベローブウイルス含む)の不活化効果が期待できる。
【0047】
その上、酸化モリブデン(MoO3)は、高い抗菌・抗ウイルス活性が知られている銅化合物や銀化合物以外の金属化合物の中でも、抗菌・抗ウイルス活性を示す化合物の一つとして特に、エンベロープをもたないウイルス、エンベロープをもつウイルスのどちらに対しても抗ウイルス活性をもつと考えられている。さらに、モリブデン酸化物と酸化チタンを組み合わせた可視光応答形光触媒材料(Mo/TiO2)は、暗所下よりも白色蛍光灯照射下で、より高い抗ウイルス活性が公知されており、本発明の塗擦保護剤はそれらを加え充用し、光触媒による不活化が確実に得られる考案となる。
【0048】
また、過酢酸製剤のアクトリル▲R▼は過酢酸、過酸化水素、酢酸、水の平衡が保たれており、本発明の塗擦保護剤に混合後に噴霧すると、微生物と接触し、遊離した活性酸素が細胞内の酵素にあるーSH基やS-S結合を破壊して不活性化をしたり、発生したラジカルが膜組成を酸化し細胞膜を破壊して殺菌作用を起こし、反応後は酢酸・水・酸素に分解され残留毒性も無く安全に使用できる。過酢酸製剤は芽胞菌を含む細菌、真菌、ウイルス等、ほぼすべての微生物に対して幅広い効果を示し、過酸化水素よりも強い殺菌力を持つことが古くから知られ、アクトリル▲R▼は、他の過酢酸製剤と異なり、少ない過酸化水素及び過酢酸含有量で安定して高い効果を発揮する。過酸化水素が0.80%、過酢酸が0.06%であるため、医薬用外劇物に該当せず、使用前の希釈調製も不要となる。生分解性が有り、残留毒性がなく、人に対して高い安全性を持つアクトリル▲R▼は、FDAから透析装置のライン等の医療用具の滅菌消毒剤として認可されており皮膚毒性や感作性物質も無い事から本発明の塗擦保護剤で人体の手肌にも使用が可能となる。但し、過酢酸製剤は鉄や銅、真鍮に使用すると腐食する性質と金属イオン水に対し分解作用がある事から、塗擦保護剤中の銅イオンや銅水溶液等の濃度に対してキレート剤含有の過酢酸製剤またはキレート剤の混合使用している。
【0049】
その上、国内で流通している過酢酸製剤でも酢酸と過酸化水素が再度反応して過酢酸に生成し、この反応が継続的に起こる平衡状態の維持が得られ、アクトリル▲R▼同様の効果もある他、キレート剤の含有や濃度設定を任意に設定する事が可能な為、本発明の塗擦保護剤に混合して使用しても良い。
【0050】
キレート剤の使用については、銅イオン等の金属イオンが含有されている塗擦保護剤に過酢酸製剤を混合した際にも分解作用を防ぎ、平衡状態を維持する必要がある為、キレート状に金属イオンを挟み込む形で安定的な錯体を作り、封鎖・隠ぺい状態の作用により、塗擦保護剤中では金属イオンを不活化させておき、使用時の噴霧等でキレート状から解放され、過酢酸製剤や金属イオン本来の抗菌、抗ウイルス等の効果の有効性を示す。
【0051】
さらに、化学物質としての酸素として、金属イオンの中で実際の化学反応の速度は、熱力学(平衡論)的な検討に加えて速度論的な問題にも大きく影響される。例えば、メチルビオロゲン32は電子受容体として多用される化学物質であるが、これと1電子還元体(カチオンラジカル)の酸化還元対の標準電極電位は-0.45V(vs.NHE)33である。したがって酸素の電子受容能の問題ではなく酸化チタン粒子、その中でもアナタース型結晶のものはその表面の酸素吸着能が高いという見方も大事である。自動酸化反応として、酸素存在下での有機化合物(RH)の酸化反応の機構としてよく知られている自動酸化反応は、開始反応と呼ばれ、ラジカル(R・)水素引き抜き反応でも1電子酸化とプロトン脱離でも良く、光触媒反応では正孔による1電子酸化とプロトン脱離、あるいは正孔から生じた水酸ラジカルによる水素引き抜きによって、このラジカルが生じうる。R・ラジカルの寿命は短いが、酸素があるとすばやく反応し、連鎖担体と呼ばれるペルオキシラジカル(RO2・)となり、これはもとのラジカルに比べて寿命が長く、基質から水素を引き抜いて新たにラジカルを生成するとともに、自らは成長反応のヒドロペルオキシドとなる。ヒドロペルオキシドは,自発的に分解して酸化生成物を与え、最初に1つのラジカルが生じると酸素がある限り反応が連鎖的に進む。一方、系内に発生するラジカル同士の反応、或いはラジカルと正孔または電子の反応が起こると、新たに連鎖担体を生じないため連鎖が途切れる停止反応なる。1つのラジカル(R・)を起点として生じるヒドロペルオキシドの数が連鎖長であり、以上のことから酸素が存在する条件下では酸素が関与する反応が支配的となり、塗擦保護剤を可視光下で使用する場合、酸化タングステン等に担持させる銅等の金属や塗擦保護剤を噴霧した際のパルプの酸素吸着にも効果を示す。
【0052】
また、光触媒を応用する分野は、光触媒反応だけに拘らず柔軟な発想で他の技術との組み合わせが試みられているが、本発明の塗擦保護剤は光触媒溶液等が、壁や床等の固体物以外でも殺菌抗菌等の光触媒効果を持続させる事に着目し、手肌に塗擦保護剤を噴霧・塗布をした状況に於ける微粒子パルプの粒径や手指の摩擦による塗擦方法を利用した場合、手肌への摩擦効果の指標である摩擦係数は接線力と法線力との比で表されるが、人間の指先においてはその柔軟性により静止摩擦係数は1.5以上、状況によっては2.5を超える。多くの金属間における摩擦係数が実験結果でほぼ0.6~1.2の間にあることと比較すると人間の指の摩擦係数はかなり大きいことがわかる。このことから人間は様々な角度の力を指先から発生でき、多くの冗長な解の中から最適解を選ぶことができると考えられる。その結果、指全体として巧妙な運動が実現され、一定の摩擦係数では説明できない現像が生じる。人間の指の摩擦特性は摩擦方向によって異なり、指が物体を引っかく方向の摩擦係数はその逆方向のそれに比べて大きくなることが見い出され、固体間の摩擦とは異なり人間の指は弾性を有しているために、指表面での摩擦は縦荷重以外に接触面積が影響すると考えられる。しかも人間の指の皮膚は一般の皮膚とは構造が異なり、特に指紋の存在は他の体部には見られない指独特のものである。人間の指先には爪が存在し、これにより指先の剛性を高め、指による作業の効率を高めているが、これら指独特の諸要素の働きかけは指先の作業により様々であり、一様ではなく指先の摩擦係数も測定方向によって指自身の物理的特性が変化すると考えられる。
【0053】
さらに、人間の指は比較的柔らかい組織が骨格を覆い、指の手背面には爪が存在し、これにより指先に圧縮応力が作用した時、指先部の剛性を高めていると考えられ、この爪の効果は皮膚内部が硬化される範囲が大きい。指姿勢に関しては、姿勢が大きいほど指先の内部組織を介して爪に作用する力は大きくなり、圧縮応力が作用し結果的に指先部の硬化の範囲は大きくなる。組織が硬化するとせん断強さが大きくなり、結果的に摩擦力は大きくなると予想される。すなわち、傾向の原因として指先の柔らかさ、爪の存在が関与し、これらの作用により指先表面及び内部組織の状態が変化するためであると考察される。したがって、人間の指の摩擦係数はほぼ0.5~3の範囲にあり、金属間摩擦と比較してかなり大きく、人間の指の摩擦係数は縦荷重が小さくなるにつれて大きくなる。さらに、人間の指の構造によるものであり、特に爪の存在、指先組織の柔らかさによるところが大きい人間の指の摩擦係数は、指姿勢によって変化し、姿勢が低いほど大きくなる他、人間の指の摩擦係数は摩擦方向によって変化し、方向により大きくなるが、この傾向は指姿勢が大きくなるほど顕著に現れ、人間の指の摩擦係数は、ほぼ縦荷重の約0.7乗に反比例する。
【0054】
本発明で使用するnmサイズ~μmサイズの微粒子パルプは、非親水性の水に馴染まない特性を活かし、液状にした親水性のナノセルロースは超親水性の光触媒溶液や過酢酸製剤を包み込み、混和した状態で非親水性のパルプを取り巻き付着して浸潤がなされており、それを塗布や噴霧される際にはパルプの微粒子は浸潤状態から解放され、本来の非親水性パルプ微粒子の働き、つまり長期間の混和であっても他成分の影響を受けずパルプの硬度を保つ事による微粒子パルプの摩擦を利用し、液体垂れの防止と手指の摩擦係数の大きさを鑑み、手肌の使用時の手指による擦り合わせで微粒子パルプが光触媒溶液の水分を乾燥させる塗擦方法を用いることは必須である。即ち、非親水性のパルプは分解殺菌をしたい細菌やウイルス等を吸着させるための担体であり、それらを手指の塗擦による分離・破壊と乾燥をさせながら光触媒活性成分の蒸着に重要な役割となるのが塗擦保護剤を利用した塗擦方法となる。
【0055】
そもそも、粉体粒子の形状係数については、粒子群の性質ないし現象を表わすある関数関係の中に、粒子形状に関係する因子が含まれる場合、これを一つの係数として取り出し一つの係数とするもので、粒状、球状、立方体状、板状、片状、柱状、棒状、針状、繊維状、塊状、海綿状、角状、圭角状、丸み状等がある。形状係数は均斉度、充足度、球形度、円形度、丸み度、表面指数、体積形状係数と表面積形状係数、比表面積形状係数等で求められる事や、形状に関係する粉体物性に基づいて具体的な目的に直接結びついた評価を行う嵩密度の測定、ストークスの測定がある事は[非特許文献21]に示されている。形状と粒子径はかなり密接な関係があり、その中でも等沈降速度球相当径は、流体中を粒子が沈降するときの終末速度と同じ沈降速度を有する球の直径によって示されるストークス径や立方体相がある。さらに、二次粒子の構造では、結晶的に単一と考えられる単位粒子(一次粒子)が数個もしくはそれ以上集合して複合粒子(二次粒子)を形成する。集合するときの粒子間の力は、化学的結合力による場合と物理的なファンデルワールスカや磁気的引力による場合に大別されるが、前者を分離させることが困難で単位粒子として扱う凝結粒子または凝集体、後者を比較的容易に一次粒子の分散をする集団粒子または集合体といわれ、両者の区別は顕微鏡による幾何学的形態のみからは困難であり、沈降法等の物理的方法に決められる。例えば、白色顔料に用いられる酸化チタンは約0.3μmの立方体の一次粒子が数個集合し、これのみでは凝集体か集合体かの区別ができないが、この粒度を沈降法で測定すると約0.8μmとなり、吸着法や透過法による平均値もほぼこれと同じ値が得られることから、単なる集合体ではなく凝集体であることがわかる。これは酸化チタン粉体の製造工程中の理によって一次粒子が凝結したと考えられ、一次粒子が結晶軸をそろえて集合して集合体や凝集体を形成することがある。五酸化バナジウム(V205)ゾルの粒子は糸状であり、これが繊維軸(長軸)をそろえて集まり、いわゆるタクトイドを作ることはよく知られ、このような平行凝集体は水酸化鉄(FeOOH)、水酸化アルミニウム(AlOOH)、三酸化タングステン(WO3)にも見られる。合成法で得られた炭酸カルシウムは通常2-3μmの紡錘形をしているが、特別な場合は0.05μmの立方形の超微粒子となり、この紡錘形の大粒子は超微粒子がまず集合し次第に凝結した単一粒子になると思われる。大きな結晶から分解、還元、酸化などの固体反応によって得られた粒子の場合、もとの結晶の外形をした集合形態を示すことがあり、このような凝集粒子をとくに形骸粒子ということもある。金属酸化物などの還元によって得られた金属粉体にはこのような粒子のものが多く、もとの結晶の中に新しい結晶の核ができ、それが新しい結晶粒子になるので大きく成長していく粒子の結晶軸は母結晶と一定の結晶学的関係があるトポタクティック反応、さらに、粒子の微細構造として粒子表面を簡便な工業試験上の電子顕微鏡により観察すると、粉体の焼成体ではその生成条件や添加物により結晶粒の大きさや形が異なり、物性に大きく影響し、粉体材料の形態学的検討は粉体材料を扱う上で避けて通れない問題で、粉体の粒度分布一つをとってみても粒子形を全く無視したやり方では粒度分布が不明となる事から、粉体の特性を活かし、手指の摩擦による塗擦方法や塗擦保護剤に粉体を用いるにはそれらに合わせた粉体を利用するのが好ましい。
【0056】
また、付着による粒子間力の接触する粒子同士やその付近の粒子の間には、粒子間に引っ張り合う力が働く他、液体によるブリッジ形成では、液体には粒子間をつなぐ効果がありキャピラリー結合を生み出し、粒子の独立性を低下させる。これらのメカニズムは粒子間の独立性を制限する効果があり、一般的にはその影響が強くなるほど、粉体の流動特性は低下する。したがって、乾燥し始め或いは水に濡れた肌や手のひら、指先等で粒子粉体が定位置量を確保した粒子は粒子同士で繋がり、払い落そうとしても強く抵抗し、複数回におよび払い落とす必要になる。さらに、粒径の小さな粉体は付着力が強いとの誤解が見受けられるが、これは必ずしも事実とは限らず、この場合、個々の粒子の質量が小さく、したがって重力に対する凝集力の相対的な規模が大きいため、凝集力の絶対値が小さくなる可能性はあるが、粒子に働く重力は小さくなる。つまり凝集力が大きいため、その集合である粉体は粒子同士、凝集集団に働きかけられ落ち難くなることから、粉体が手指等などで圧密された場合は、粒子が結合させられるため、摩擦力と物理的固着による荷重の方が常に優勢となり、このような状況下では、接触点の数、接触圧、および粒子自体の伸展性に応じて接触面積が増大し、付着性の高い粉体に合わせてプロセス設計および構成が最適化されている場合、そのような粉体を、効率的に接着性を高めることが出来るように、重要なプロセスや用途に適する粉体の特性を最適化することにある。さらに、粉体の摩擦特性は粒子形状、粒径とその分布、粒子の材質および表面吸着物質の有無など個々の粒子に関係する性質と、空間率や充填構造など粒子集合体としての層に関係する性質など多くの因子の影響は同時に受け、粉体層の摩擦挙動は非常に複雑であるとし、粒子集合体の特性である動摩擦角と、個々の粒子の性質である形状および粒径との関係について[非特許文献17]で考察されている。それによると、粉体層の内部摩擦角は粒子の形状や粒径などの影響を受けるが、同時に粒子の材質や表面の吸着物質などの影響も受ける。層の摩擦特性に及ぼす粒子の形状以外の因子の影響を避けるため、材質と粒径がほぼ等しく形状だけが異なる場合、粒子の材質や粒径が同じであれば粒子の摩擦特性はその形状によって決まるが、偏平な粒子の層を剪断した場合、剪断変位が大きい限界状態では粒子は剪断方向に配向するためφcが低くなりの形状以外に粒径の影響も受けることが考えられた結果、層の摩擦特性は粒子形状と強い相関関係を持っているものと考えられ、粒子形状および粒径の関係は粉体層の動摩擦角は粒径の影響をあまり受けず、粉体層の動摩擦角は円形度またはWadellの球形度からほぼ推定でき、摩擦は偏平な粒子ほど小さく、かさばった粒子ほど大きくなることが証明されている事から、塗擦保護剤では摩擦特性がより得られる粒径や粒子形状を考慮した微粒子パルプを1種または2種以上使用する場合もある。
【0057】
また、パルプの特徴である非親水性を活かしたnmサイズ~μmサイズの粒径の違う微粒子パルプは、超親水性の光触媒溶液を包み込んだ親水性のナノセルロースと混和した際に粒子全体が包み込まれ、塗布や噴霧時の液体垂れの防止の他、パルプの微粒子が親水成分から解放され手肌に付着した塗擦保護剤を手指により擦り合わせると、光触媒溶液成分を被膜させながら非親水性の微粒子パルプが光触媒溶液の塗擦作用をした水分を手指等の摩擦で乾燥させる塗擦方法により、塗擦保護剤をハンカチやタオル等の繊維物で拭き取る必要も無いため、衛
生的な上、どこでも使用が可能である。勿論、パルプ微粒子はnmサイズ~μmサイズの為、擦り合わせてもパルプ成分が目に見える形とは成り得ないが、非親水性のパルプは分解・破壊をしたい細菌やウイルス等を吸着させるための担体となり、手肌や繊維の塗擦による分離・破壊と乾燥時における光触媒活性成分の蒸着で、手肌や個体物の抗菌、抗ウイルス効果が持続可能となる。したがって、人間の指先において、その柔軟性により静止摩擦係数は1.5以上、場合によっては2.5を超え、多くの金属間における摩擦係数がほぼ0.6~1.2の間にあることと比較すると人間の指の摩擦係数はかなり大きく、塗擦保護剤のパルプを利用した塗擦方法は、より重要な事になる。
【0058】
また、本発明に使用される光触媒溶液の1つである酸化チタンは無害成分であるが、生産現場工場等での空気中飛沫微粉末に対しては、健康障害等の予防にも万全な対策を講じ、事故の報告も当然なく、塗擦保護剤が微粒子パルプを利用した塗擦方法を用いる手肌の皮膚への浸潤や、室内空間、繊維塗布等の液体塗布や噴霧に対しても、安全に利用が出来る。
【0059】
さらに、[非特許文献3]では、酸化チタン不織布の光触媒反応によるウイルス不活性化についても開発実験の結果で、一部で有効性も認められている中で、確定的な報告は検討中とされているが、本発明の液状化した塗擦保護剤を、衣類やマスク等の表面に塗布または噴霧させる場合も微粒子パルプの酸素吸着作用と手指等に付着させて使用する事で塗擦効果を遷移固定化させ、光触媒作用により菌やウイルス等の抑制が期待出来る。
【0060】
また、銅イオン水と銅酸化物である銅水溶液は、光触媒溶液の活性化を促す紫外線や可視光等の使用する環境に左右されずに抗菌・殺菌力が得られる事から、光触媒溶液に混入させ使用する事で、光触媒の活性が得られない就寝時等の環境でも銅イオン水と銅水溶液による殺菌・抗菌作用が得られる。
【0061】
さらに、酸化タングステン単独では光触媒活性が極めて低いことが知られ、銅化合物や銅イオン、銅水溶液を触媒活性促進剤とする事で、可視光照射400~600nmで3.8eV位のエネルギーを示す可視光応答型光触媒材料として有用であることが公知されており、酸化タングステンは、特に銅化合物と組み合わせることにより、有効な可視光応答型光触媒材料にもなる。銅化合物と酸化タングステンを組み合わせる方法としては、[特許文献8]に示されているが、例えば酸化タングステン粉末に対して、CuO粉末を0.1~3質量%程度混合する、あるいは酸化タングステン粉末に、銅二価塩(塩化銅、酢酸銅、硫酸銅、硝酸銅など)を含む極性溶媒溶液を加え混合して、乾燥処理後、500~600℃程度の温度で焼成し、酸化タングステン表面に銅イオンを担持させる方法等がある。この様に、銅化合物を担持させる事も酸化タングステンの触媒活性剤となるが、本発明では銅イオン水および銅水溶液を併用含有させ、酸化チタンや酸化タングステンの触媒活性以外でも、[0043]や[0044]に示したように銅イオン水および銅水溶液による抗菌・抗ウイルスを可能とした。
【0062】
その上、酸化モリブデン(MoO3)は、抗菌・抗ウイルス活性を示す化合物の一つであり、特にエンベロープをもたないウイルス、エンベロープをもつウイルスのどちらに対しても抗ウイルス活性をもつと考えられ、モリブデン酸化物と酸化チタンを組み合わせた可視光応答形光触媒材料(Mo/TiO2)は、暗所下よりも白色蛍光灯照射下で、より高い抗ウイルス活性が得られると示されており、本発明の塗擦保護剤でも酸化モリブデン(MoO3)を光触媒溶液等に含有させることで、継続的な抗菌・抗ウイルス作用が得られる。
【0063】
さらに、過酢酸製剤は、除菌主成分の過酢酸と酢酸、過酸化水素が平衡状態であり、酢酸と過酸化水素が再度反応すると過酢酸を生成し、この反応が継続的に起こる為、過酢酸濃度も安定している。その効果は細菌芽胞、結核菌、ウイルス、糸状真菌、一般細菌等のすべての微生物に有効であり、ウイルス等は5分間以内という短時間で殺滅させる事から光触媒の触媒反応が得難い環境や、瞬時の殺菌を求められる環境で、光触媒に代わり殺菌、抗菌、抗ウイルス、除菌、消毒等の作用をし、環境に左右されずに効果が得られる。ただし、金属イオンを含有させる場合は、キレート剤を混合させる。
【0064】
さらに、酸化チタンや酸化タングステン等の酸化物光触媒金属は大気中で非常に安定的であるが、一度に大量の有機分解は可能ではなく、それらに付着し自動酸化の恐れのある微小金属が、多量に汚染物質中に含まれた場合や、皮膚刺激等のアレルギー反応の原因となる過酸化物が創出することを防止するため、アラントインを単独または酸化防止剤と併用することで、組織修復賦活作用(お肌の組織の修復を活性化させる作用)と抗アレルギー作用が得られ、敏感肌の方や幼児まで使用が可能となる。
【0065】
また、動物から分離されるウイルスはおよそ570種であると言われ、それらのおよそ2/3は宿主細胞膜と同様の膜(エンベロープ)を持ち、この膜には宿主由来のリン脂質や糖脂質、コレステロールなどの複合脂質の他、そこに埋め込まれているウイルス特異的糖タンパク質スパイクが存在する。このスパイクは、ウイルスが宿主に吸着したり、ウイルスが宿主から発芽により遊離したりする上で必須の役割を果たし、そこに付加される糖鎖は、ウイルスのスパイクの3次元構造の維持、機能発現に必須である。一方、宿主細胞膜上の糖鎖は、極めて多様であると同時に、極めて高い種特異性を持ち、全てのウイルスは、宿主細胞中でのみ増殖するため、必ず宿主(細胞)域、宿主特異性を持っている。ウイルスが宿主特異性を発揮する機構は、宿主細胞膜糖鎖の特異性、多様性を反映している場合が極めて多く、エンベロープウイルスが宿主細胞膜の糖鎖を特異的受容体として認識・結合する事実が明らかになっている。抗原決定領域の変異が起こりやすい、例えば、インフルエンザウイルスの場合でも、受容体糖鎖への結合に関わるスパイクタンパク質上の受容体結合ポケット内の変異は起こりにくいことも見い出され、受容体糖鎖の疑似化合物による受容体結合ポケットのブロックは、変異を克服出来る画期的抗ウイルス薬のシーズとなり得ることを意味し、様々なウイルス感染において、糖鎖の役割は極めて大きく、且つ多様であり、糖鎖を標的とした開発は非常に有効と言われている。本発明の塗擦保護剤では、手肌を含む人体の傷口等の粘膜から侵入するウイルス等の予防に対した糖鎖の利用を一考したが、より詳細な糖鎖の働きの解明を待ち、それに応じた開発を続けたい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【
図1】光触媒反応による抗ウイルス効果を示した図である。
【
図2】光触媒反応によるウイルス不活化の仕組みを示した図である。
【
図3】繊維の空間および繊維にパルプ粒子が付着している状態に光触媒酸化チタンが付着した状態を示した図である。
【
図4】光触媒で大腸菌を死滅させる仕組みを示した図である。
【
図5】金属酸化物の抗ウイルス活性を示した図である。
【
図6】方向による摩擦係数の比較を示した図である。
【
図7】接触圧力に対するせん断強度の依存性を示した図である。
【
図9】人の指の接触において弾性接触実験値との誤差の最小二乗近似を行った結果を示した図である。
【
図10】摩擦係数の法線への依存性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0067】
光触媒は太陽光からの紫外線照射により作用する事は既に公知され、光触媒の反応の速さは、光強度×吸収強度×反応効率である。現在では[特許文献6]に示されたように可視光応答型でも様々な開発が為され、光触媒作用が認められている。その中の光触媒材料の1つとして、酸化タングステンは可視光化で光触媒活性能を発現する可視応答型光触媒として知られているのは公知であるが、光照射により励起された電子で自己還元され、タングステンイオンの価数が6価から5価へと変化する事で、光触媒活性が低下する為、揮発性有機化合物の完全分解は困難となる。酸化タングステン高活性化をさせる方法として、[非特許文献2]に記載のとおり、その上、植物から作製される植物灰の添加による酸化タングステンの揮発性有機化合物分解性能への影響を考え、植物灰としてバジル葉を燃焼し酸化タングステン粉末に混合し、アセトアルデヒドを用いた光触媒活性実験をした結果、酸化タングステン単独では難しい完全分解を、可視光照射4時間後にはアセトアルデヒドの完全分解に成功し、バジル灰の添加量の最適化を求めたところ、2.5wt%添加したものが最も高活性であった為、その理由を明らかにするよう、バジル灰の主成分を粉末X線回析した結果、主にCa(OH)2、MgO、KHCO3である事から、酸化タングステンにそれぞれを添加した結果、MgOは低活性、Ca(OH)2とKHCO3の両方は高活性化し、アセトアルデヒドは完全分解されたが、KHCO3もしくはCa(OH)2の片方の場合は高活性化が見られず、両方の成分が必要である事は証明された。したがって、植物灰に含有されるCa(OH)2とKHCO3が、酸化タングステン表面を塩基処理し、タングステン酸カルシウムまたはタングステン酸カリウム等の薄い層が形成され、光触媒活性向上につながったと推察されるとの検証報告から、塗擦保護剤では、植物灰を添加した酸化タングステンを利用し、より光触媒効果が高活性化するようにした。ただし、添加する植物灰に利用する植物についてはバジル葉の他、南天葉等での実験で考察中であり、植物灰の種類は限定しない。
【0068】
さらに、[非特許文献8]で示されているが、光触媒では塗擦効果が室内の可視光でも有効に効く材料の開発がされた。感染症を引き起こす細菌とウイルスの大きさは、細菌が1~10μm、ウイルスは0.02~0.2μmであり、大きな違いがある。細菌は単細胞の微生物で自己増殖し、ウイルスは核酸とそれを包む膜というシンプルな構造の他、ミミウイルスの様な糖タンパク質を主成分とした表面繊維と呼ばれる繊維状の物質もあり、人体を含む他の生物(借宿)に寄生して自己繁殖する。これらのウイルス表面にあるタンパク質のヘマグルチニン(HA)が人体(宿主)細胞に吸着、侵入、脱殻、合成、成熟、放出する繰り返しにより体内で増殖するが、光触媒反応の酸化分解効果により、ウイルス表面のタンパク質に変性が起こるため吸着出来なくなり、人体(宿主)に侵入し核酸を増殖する事も無い。したがって、この段階でウイルスが光触媒反応によって、ウイルスの不活化(感染が出来ない状態)がされる。つまり、これら侵入メカニズムを防ぐため、手指等への滅菌、殺菌、消毒、或いは抗菌、除菌をし、ウイルス等の侵入を防御する事である。但し、人為的に目や口、鼻の中や傷口等にウイルス等を挿入させる場合は別とする。その上、
図2のように光触媒反応は、ウイルスの膜構造を分解し、中に入っている遺伝情報である核酸(RNA)にも損傷を与え、最終的にはウイルス由来の有機物は完全分解に至る他、ウイルスの10倍以上の大きさのある細菌に対しても光触媒の強い酸化分解力により、菌が不活化されるだけでなく、最終的には有機物として完全分解される。例えば、薬剤耐性菌に対し、光触媒反応による不活化効果を調べると、10分~2時間以内には何れも検出限界近くまで減少した結果から、可視光応答型の光触媒によって得られたものであり、太陽光の届かない室内環境における光触媒活用の重要性を示した。上述の通り、光触媒の反応機構は、他の除菌・抗菌・抗ウイルス剤と異なり、
図4に示した大腸菌を例えたように、細菌・ウイルス等、相手を選ばない非選択性で効果を得て、結果として耐性菌の出来難さにも繋がる事から、光触媒溶液を使用した本発明の塗擦保護剤は、塗擦作用に対し有効且つ、ナノセルロースやパルプ、糖類により、手肌に光触媒溶液の蒸着や保湿保護を可能とした。
【0069】
また、ウイルスの飛沫は屋内外の床にも付着し、足裏や靴により感染をする場合も考えられるが、スプレー等で噴霧された塗擦保護剤は重量により床等に着床し、その微粉末は床材に対し半永久的に抗菌性を保持する事で、ウイルスに対しての滅菌性も失われず発揮する。既に光触媒としては、住宅のタイルや壁面、ガラスでも多く活用され、菌由来の汚れに対しての防汚効果、病院での手術室では表面の細菌以外にも空中に浮遊する菌の数まで激減し、細菌数やアンモニア量が90%以上抑制維持され、塗擦効果があり、光触媒ガラスについては、銅酸化物を用いて有機物分解活性に加え、可視光応答性、高い抗ウイルス性を示している。この様に室内空間でも光触媒の塗擦作用は認められており、手肌に限定せずに室内の壁や寝具等に噴霧または塗布して使用する事も可能な本発明の塗擦保護剤の光触媒効果は大きい。
【0070】
その上、酸化チタンの粒子形状を金平糖型等にした上で、骨や歯を構成している物質で生体親和性に優れ、表面に光触媒活性を持たないアパタイトを金平糖のツノのようにつけて被覆させ、この金平糖型の粒子は、人間の体液に近い組成を持つ疑似体液に酸化チタン粒子を浸漬し、体温に近い温度に保つことにより酸化チタンの表面に骨や歯ができるようにアパタイトが自然に生成して調製される光触媒溶液を利用する事で、可視光の環境でも塗擦保護剤を使用出来る。
【0071】
また、微弱な紫外線や可視光でも応答する超親水性光触媒の一例として、固体表面の濡れ性は表面自由エネルギーを与える化学的性質の他、表面粗さという物理的な性質によっても支配される。固体表面のラフネスが大きくなり、表面積がr倍になったとすると、固体表面の表面自由エネルギー、固液界面の界面自由エネルギーもそれぞれr倍になる。したがって、表面積がr倍となった時の接触角θはYoungの式から次式となる。
【数7】
ここで、γ
S、γ
SLはそれぞれ平滑な固体表面における固体表面の表面自由エネルギー、固液界面の界面エネルギーである。これを平滑な表面での接触角θを用いて表すとWenzelの式が得られる。
【数8】
この式から表面粗さが大きくなると、接触角θ
rはθ<90°のときにはθより小さくなり、θ>90°のときには逆に大きくなる。即ち、固体表面のラフネスが大きくなることで、親水的な表面はより親水的になり、撥水的な表面はより撥水的になる。酸化チタン表面に微構造を付与することにより、光誘起親水化特性が向上したり、暗所における超親水性状態の維持性向上が公知されている。さらに、異種金属酸化物光触媒との複合化による高活性化として、酸化チタンと酸化タングステンを積層した薄膜の光誘起親水化は、酸化タングステンを下地にして酸化チタンを積層した薄膜では、酸化チタン単独では親水化しないような光照射条件下でも超親水性状態が得られる。酸化タングステンの伝導帯の下端および価電子帯の上端は、酸化チタンに比べてそれぞれエネルギー的により深い位置にある。そのため、光照射を行うと酸化チタンで生じた励起電子は酸化タングステン側に、酸化タングステンで生じた正孔は酸化チタン側にそれぞれ電荷移動する。このことは酸化チタン自体の光電荷分離効率の向上に繋がるとともに酸化チタン表面で利用できる正孔が増えることになり、光誘起親水化反応が促進されたものになる他、酸化タングステンのハンドキャップは2.8eVで可視光も一部利用できることが高活性化につながり、酸化タングステンをアイランド状に酸化チタン表面に析出させた系でも高活性化が達成されている。一般的に、光触媒酸化分解反応の量子効率は数~数十%であるのに対し、光誘起親水化反応は0.1%にも満たない非常に低い数値が出され、酸化チタン表面の親水化の有利となる条件を付与させることで、光誘起親水化に利用される正孔の数を倍加させても酸化分解反応の量子効率は低下させずに維持ができる。
【0072】
一方、窒素ドープは2001年に酸化チタンや酸化亜鉛、酸化タンタル(Ta2O5)等の紫外線活性を持つ酸化物に対し行い、固体物に対しての可視光応答型として数多く作製し、その製造方法も報告され、それを解析すると、可視光照射下での量子効率は紫外線照射下に比べて極めて低く、実使用で効果を実感できるほどの高い性能は得られなかった。酸化チタンに窒素をドープすると価電子帯を構成する酸素の2p軌道の上に窒素2p軌道の孤立準位が形成され、この窒素の準位から伝導帯への遷移によって可視光を吸収することができるが、窒素の準位にある正孔の表面への移動度と酸化力が低く、光誘起分解の性能が高くない上、本発明の塗擦保護剤は手肌等の人体に特化したものであり、より安全面を考慮すると窒素ドープを行ったものは人体に対しての使用を避ける必要がある。但し、窒素ドープをしない紫外光活性をもつ酸化物、例えば塩化チタン(三塩化チタン・四塩化チタン)、チタンテトライソプロポキシド、窒素源とした抱水ヒドラジンの使用は一考する。現在では、酸化チタンの深い価電子帯を維持したまま可視光を吸収しうる新しい原理に基づく光触媒反応も見いだされ、酸化チタンの表面に銅イオンや鉄イオンからなるアモルファス状のクラスター助触媒を担持することで、可視光の照射下で界面電荷移動遷移によって価電子帯にある電子が表面の助触媒に励起することができる。ところがこの光吸収を起こすだけでは十分な光触媒活性が得られず、助触媒に遷移した電子が有効な還元反応に使われる必要がある。そこで二つ目の作動原理である「多電子還元反応」が重要となり、大気中の酸素を過酸化酸素までに還元させることができた。即ち、助触媒を担持した酸化チタンはIFCTによる可視光吸収を可能にし、多電子還元により電子の還元反応も促進され深い酸化力を有する価電子帯の正孔を光触媒反応に用いることができた事で、極めて活性の高い可視光応答型光触媒が開発されている。その銅イオンないし鉄イオン担持酸化チタンは、結晶性の高いルチル型酸化チタンの表面に1~3nmの大きさのCu(II)やFe(III)クラスターが担持され、これらのクラスターの構造をシンクロトロン(SPring-8)による吸収端領域X線吸収微細構造(XENES)スペク トルなどで詳細に解析したところ、銅イオン,鉄イオンともアモルファス状の酸化物ないし水酸化物クラスターであることが明らかになり、酸化チタン粒子を温和な雰囲気にてCuCl2ないしFeCl3水溶液に浸漬するといった極めて単純な方法で合成することが出来る。当然ながら、助触媒を担持しないTiO2には可視光の吸収は無いが、Fe(III)クラスターを担持することで400~550nmの波長領域に新たな吸収が発現し、この吸収はフリーのFe(III)イオンでは見られず、酸化チタンの表面に担持した場合に限って観察される。この400~550nmの波長領域に現れた新たな吸収は、酸化チタンの価電子帯にある電子が表面に担持されたFe(III)イオンへ遷移すること、即ちIFCT遷移に起因する。また、これらの助触媒が酸素の還元反応を起こすことも実験的に明らかになっており、Cu(II)やFe(III)助触媒がドープした光触媒に対しても有効に作用することもわかっている。つまり、この助触媒を担持することで、これまで可視光活性が低かった材料が性能の高い光触媒になる。
【0073】
さらに、可視光応答型光触媒を生活空間のホルムアルデヒドやトルエンなどの揮発性有機化合物(VOC)や病院や学校内など大きな施設に存在する細菌やウイルスによる感染症に対しては既に壁や床、天井といった内装材に施工をされている他、空気清浄機のフィルターに担持することで光誘起分解反応による室内VOC濃度の低下等がなされている。
【0074】
一般的な除菌・抗菌剤および殺菌剤は、薬効成分を溶出などによって放出して菌の発育を阻止あるいは死滅させているのに対し、光触媒反応は表面で反応がおこり、表面積が大きいほど効率が向上する事に着目し、粒子径が小さくて表面積の大きな超微粒子の高活性化チタン光触媒も開発されており、塗擦保護剤は、繊維や手肌に塗布・噴霧して表面が全て光触媒溶液として、接触してくる化学物質を効率良く分解させる事で、塗擦作用が得られる。
【0075】
また、反応性の高い求電子付加反応(電子を奪う酸化反応)は、試験室や研究室などのクリーンな環境下では瞬時に高い殺菌効果を得られるが、実際の現場などの有機物が多く存在している汚れが酷い環境下では、有機物が速やかに反応し殺菌力が消失する可能性もあり、その結果、各種微生物に対する殺菌効果は十分に発揮されずに効果を得られない場合や殺菌処理を施したにも関わらず、二次感染による感染症が発生する原因にもなる事から、瞬間的な殺菌力より長期的に殺菌力が持続する銅イオン水や銅水溶液が有用である。
【0076】
過酢酸製剤に含有される過酢酸の安定性は、JECFA及びFSANZによれば、食品中で速やかに水、酸素及び酢酸に分解され、その半減期は数分とされている。仮に食品表面に過酢酸が残留し、ヒトが摂取したとしても、口腔内で分解され、さらに消化管内に入ったとしても、pHの低い胃内では安定であるが、腸管内や細胞内では非酵素的に分解されると考えら、過酢酸は生体にとって特段問題となるような遺伝毒性はないと考えられている。その上で、過酢酸について急性毒性、反復投与毒性及び生殖発生毒性の試験成績を検討した結果、過酢酸に胃粘膜刺激性があるとは認められず、ラット13週間強制経口投与試験において少なくとも0.25mg/kg 体重/日(過酢酸として)では毒性影響が認められず、発がん性についても判断できる知見は認められていない。したがって、過酢酸の安定性、体内動態のメカニズム、各種毒性試験における結果及び実際の摂取量を考慮するとともに、分解物である酢酸については食品由来の摂取量が多く、ADIを特定する必要はないと考えていることから、添加物「過酢酸」が添加物として適切に使用される場合、安全性に懸念がないとされ、ADIを特定する必要はないと判断されている。
【0077】
また、過酢酸製剤は過酢酸、酢酸、過酸化水素が平衡されその反応により継続的な過酢酸で芽胞菌を含む細菌、真菌、ウイルス等、ほぼすべての微生物に対して短時間で幅広い効果を示すが、この平衡状態を塗擦保護剤での金属イオン下で維持するにはキレート剤を含有する事が必要となる。一般的に、キレート剤には有機系イオン封鎖剤のヒドロキシ・カーボネイト系、例えばクエン酸、グリコール酸、グルコン酸やその塩等、アミノ・カーボネイト系、例えばEDTA、アセテイト、エチレン、ジアミン、テトラ、トリニトリック酢酸等、ヒドロキシ・アミノカーボネイト系、例えばヒドロキシ、エチレン、ジアミン、四酢酸等があるが、有機リン系のキレート剤は分散系でスケールの付着防止等に使用され、アミノカルボン酸系に比べ酸性領域での水溶性が高く本発明の塗擦保護剤でも使用する。
【0078】
一般的な化粧品にはごく微量でも金属イオンが混入すると、化粧品の劣化を促進するがこの金属イオンによる化粧品の劣化を防ぐのも金属封鎖剤で、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)ナトリウム塩やポリリン酸のナトリウム塩などが用いられている。金属イオンによる劣化としては、油脂類の酸化を促進することによる化粧品の変臭、変色があり、中でも鉄イオンや銅イオンは、非常に微量でも油脂類の酸化を促進する。これ以外にもカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどが化粧品中の成分と結びついて、その作用を阻害したり、沈殿を生じさせることもあり、金属封鎖剤はこれらの金属イオンと結合し、化粧品の劣化や品質低下を防ぐ他、化粧品のpHを調整するために配合されるクエン酸や酒石酸にも金属封鎖剤としての作用がある事から、銅イオンを使用している塗擦保護剤には、キレート剤を混合させ使用する。
【0079】
キレート剤(金属封鎖剤)の添加量については、塗擦保護剤の金属イオン量とキレート剤の種類とよって異なり、例えば、EDTA・4ナトリウム塩・4水和物(キレスト株式会社社製・キレストD)とカルシムイオンの場合、水の全硬度が40ppm(1リットル中に炭酸カルシウムが40mg存在する)の場合、キレストDで金属イオンを封鎖するにはキレストDのC.V.(キレート剤1gで封鎖できる炭酸カルシウムの量をあらわす)が221mgCaCO3/gなので40/221=0.18g/リットルの添加量が必要となり、1リットルで0.18gの数値を目安として使用するが、条件により若干異なる場合がある。
【0080】
さらに、
図1は、紫外線のみと、酸化チタンによる光触媒反応時にウイルスの減少を示したが、ウイルスの大きさは菌に対して1桁小さく、菌より小さいウイルスを殺すことは光触媒にとり簡単ではあるが、0.4mW/cm
2の紫外線でウイルスを分解するのに1~2分かかるため、室内では更に時間のかかる可能性がある。これらの事から、光触媒溶液に酸化チタンの他、酸化タングステンやリン酸類を使用する事で、室内の可視光でも紫外線と同様に効果を求められる補助的役割となり、屋内外の場所を限定する事無く使用が出来る本発明の塗擦保護剤の高い有効性を示すものである。
【0081】
また、常温の空気中で比較的容易に揮発するVOCとしてトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、酢酸エチルなど様々な化合物があげられ、これらは溶剤またはプラスチック合成の原料や添加物などとして使用されている、種々の産業活動や生活に関連する代表的な環境化学物質であり、規制値は1m3あたり300μg~3000μgである。この条件下での光触媒の効果は、300μg/m3は、濃度では2ppmで、例えばホルムアルデヒドで計算すると、分子量は1モルあたり30gで、8畳部屋(30m3)を仮定すると30m3にホルムアルデヒドが2ppmある時、粒子の数は10の21乗個になる。分解の反応式としては、HCHO+H2O+4h+→CO2+4H+で示され、ホルムアルデヒドが分解して二酸化炭素になる為には4個の正孔(光)が必要で効率では30%、これらを反応式に当てはめると8畳の空中の2ppmホルムアルデヒドを分解出来るのは、10の22乗個の光となる。これを室内光のみの場合、1μW/cm2光の数は1秒間に1m34あたり10の16乗個となる。これらの数値から、分解に必要な時間は、1022/1017=105秒、約1日になるが、上述した事はあくまでも部屋の中にあるホルムアルデヒドで計算した。さらに、トルエンで計算式に当てはめると、C6H5CH3+14H2O+36h+→7CO2+36H+、ホルムアルデヒドと比較すると光触媒反応の効率は1/10倍で、分解に必要な光の数は30倍になるが、窓からの紫外線を含めると、ホルムアルデヒドは20分、トルエンは10時間で光触媒分解が出来る事になり、これらを考察すると、室内にある光だけでは効果は少ないが、外から入ってくる紫外線を利用出来る環境作りも一考である事から、銅イオン水や銅液体等と酸化タングステンおよびモリブデンを混合し、光の環境に左右されずに使用ができる塗擦保護剤となる。
【0082】
また、バクテリアが形成する炭酸塩種は、炭酸塩とひと言でいっても、様々な種類があり、例えば石灰石である炭酸カルシウム(CaCO3)、研磨剤や滑り止めに使われる炭酸マグネシウム(MgCO3)、菱鉄鉱であるシデライト(FeCO3)などがあり、更に炭酸カルシウム(CaCO3)の中にも、同じ化学式を持つが結晶構造の異なるカルサイト(方解石)、アラゴナイト(霰石)、ヴァテライトなどがある。地球上に存在する炭酸塩岩ほとんど
はカルサイト、アラゴナイト、そしてマグネシウムが含まれる炭酸カルシウムであるドロマイト(CaMg(CO3)2)の3種で占められると言われ、環境中で無機的にどの炭酸塩種が形成されるのかは、塩分・温度・種々のイオン濃度などにより決定されることが明らかになっているので、これらについても、光触媒溶液の有効性とあわせて一考する。
【0083】
さらに、銅は水分と反応し、強い酸化力をもつ活性酸素分子種が生成し、細菌種により抗菌性能の強弱はあるが細菌等の分子を分解し、抗菌性試験で実証された抗菌効果としてやレジオネラ菌やクリプトスポリジウム、O-157の他、銅に接触したウイルスも感染性が不活化される。その上、銅は人の体内にも70~100mg含まれ、健康に不可欠な栄養成分でもあり、新生児の粉ミルクに添加されているほど安全である為、本発明で使用する銅イオン水や銅水溶液を含有した塗擦保護剤を人体に使用しても無害で抗菌、抗ウイルスの効果が得られ、高価な装置を購入する必要も、酸を併用して使用時に調整する必要もなく殺菌力や消毒・消臭効果を持ち、効率良くしかも安全に利用できる。しかし、沈殿物や白色混濁がある場合は使用場所、対象物等により濾過の必要性も有するが、効果の有効性を考慮した場合、必ずしも濾過は必要としない。
【0084】
また、ウイルスにはタンパク質の殻の中にカプシドを有する核酸があるが、そのタンパク質の一部を破壊する事でウイルスを不活化する事から、光触媒の強い酸化・還元力によってウイルス膜タンパク質の一部に損傷を与え、感染力を低下させることが重要である。紫外線や可視光により光触媒液活性をさせ、ウイルスが細胞に吸着することが出来なくさせ、宿主への細胞に感染する能力を失うが、銅イオン水や酸化銅水溶液による抗ウイルス効果で全てのウイルスではないが、不活化させる事も可能となる。
【0085】
さらに、塗擦保護剤の光触媒溶液に、酸化タングステンやリン酸類を混合する事で蛍光光源等も増加するが、使用する環境を考慮すると、銅イオン水や銅水溶液により抗菌・抗ウイルス作用があるため必ずしも強い光源は必要としない。ただし、無光触媒溶液を使用した場合は、光源の必要も無く、光触媒同様の効力を有する。
【0086】
金属酸化物についてのバクテリオファージを対象に抗ウイルス活性評価が行われているが、モリブデン酸化物であるMoO3が高い抗ウイルス活性をもつことを明らかになっている。中でもインフルエンザウイルスやノロウイルス代替のネコカリシウイルスを対象にMoO3の抗ウイルス活性を調べたところ、バクテリオファージを対象とした時と同様に高い抗ウイルス活性をもつことが明らかとなった。MoO3は、抗菌性をもつことは知られていたが、高い抗ウイルス活性も示すという新たな知見が得られ、MoO3のもっ高い抗ウイルス活性を活かして、酸化チタンとモリブデン酸化物を組み合わせた可視光応答型光触媒材料を浸漬法にて作製したが、酸化チタンをルチル型に変えるなど作製方法を改良し、酸化チタンとモリブデン酸化物を組み合わせた材料(以下、Mo/TiO2)を新たに作製し、バクテリオファージ、並びにインフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスを対象に作製した材料の抗ウイルス活性を調べたところ、暗所下でも低い抗ウイルス活性が認められたが、1000lxの可視光照射下では、さらにウイルス感染価が低下し、高い抗ウイルス活性が観察された。これらの結果は、Mo/TiO2が可視光応答性をもちながら、抗ウイルス活性を示すことを示唆されている。
【0087】
モリブデンは、ヒトを含む全ての生物種で必須な微量元素であり、人体には体重1kgあたり約0.1mg含まれていると見積もられ、骨、皮膚、肝臓、腎臓に多く分布している。モリブデンは、食品の中やサプリメントでも使用され、過剰摂取した場合でも尿中に排泄されるため健康に害を及ぼす報告はない。
【0088】
抗菌活性を持つことが知られている金属イオンを含む酸化物のFe2O3,MnO2,CeO2,MoO3,SnO2,NiO,ZnOの抗ウイルス活性値を
図5に示したが、白色蛍光灯照射下、暗所下ともに、酸化亜鉛(ZnO)で弱い抗ウイルス活性があり、さらに、酸化モリブデン(MoO3)においては、非常に高い抗ウイルス活性が認められている。また、バクテリオファージφ6についても、酸化モリブデンが高い抗ウイルス活性が示されている事から、エンベロープをもたないバクテリオファージQβ、エンベロープをもつバクテリオファージφ6のどちらに対しても高い抗ウイルス活性を示したのは7種の金属酸化物の中では酸化モリブデンである事から、本発明の塗擦保護剤では、光触媒材料として、モリブデンまたはモリブデン酸ナトリウムを使用し、酸化タングステン、酸化チタンとの組み合わせにより高い抗菌・抗ウイルス活性が得られる事になる。
【0089】
さらに酸化モリブデンは、暗所下でも高い抗ウイルス活性を示しており、光照射効果すなわち可視光応答性は低いものである。その上、インフルエンザウイルスやネコカリシウイルスを対象に抗ウイルス活性は、バクテリオファージと同様に高い抗ウイルス活性を持つ事から、酸化モリブデンは、抗菌性の他、高い抗ウイルス活性もある。抗菌・抗ウイルス活性のある酸化モリブデンを可視光応答形光触媒材料として利用する為、実験としてモリブデン酸ナトリウム水溶液に酸化チタン粉末を浸漬し、約80℃に加温して3時間攪拌しながら作製後、酸化タングステン粉末を混合させ、濾過後の溶液500mlに対し0.001mgの過酸化水素を混合し、暗所下でも抗ウイルス活性が観察された。また、ネコカリシウイルス、インフルエンザウイルスに対しても、バクテリオファージQβの場合と同様に、暗所下より光照射下でより高い抗ウイルス活性を示した結果から、Mo/TiO2が可視光応答性をもつことが考察されている事から、本発明の塗擦保護剤でも、モリブデンまたはモリブデン酸ナトリウムを使用し、より高い抗菌・抗ウイルス活性が有効となる。ただし、可視光応答性の更なる詳細については今後の検証が必要となる。
【0090】
過酢酸(PAA)は、沸点110℃、融点-0.2℃、弱酸性(20℃におけるPKα8.2)、無色、刺激臭のある液体で、水とはPAA56.4%のとき最低共沸混合物(45mmHg 34℃)を作り、溶液状態では比較的安定で、20℃以下では徐々に、20℃以上ではかなり急速に分解して酢酸に、100℃付近では速やかに分解してAcHとPAAになることが知られている他、PAAのイオン分解は痕跡程度の金属イオンなどによって急速に分解することも公知であり、Achの存在しない系ではCo以外の金属イオンのPAA分解力はあまり大きくないが、AcHが存在する見かけの分解力は大幅に増大し、Mnでは5分間でPAAの90%以上が分解することが認められている。そのため、過酢酸の(PAA)の安定剤としてキレート剤やリン酸塩などであり、ピコリン酸,キノリン誘導体、ピロリン酸塩、ピロリン酸のアルキルエステル、ポリアミノカルボン酸、ロダンカリ、エチレンジアミン四酢酸などを含む多数の処方が特許として発表されている。
【0091】
また、過酢酸製剤でも含有されている過酸化水素は、酸化チタンに混合すると、酸化チタン粉末を分散することが可能であるが、沈殿物を完全に分散させるのは出来ないため、クエン酸水和物で500mlに対し25gまでを混合し実験した結果、2時間経過後の酸化チタン、酸化タングステンの溶解が見られ、より安全性を考慮すると塗擦保護剤はクエン酸水和物を採用した。ただし、クエン酸水和物の混合で上澄み液を得た後、それを濾過して酸化タングステンやモリブデンの触媒の働きで光触媒の効果を維持させた無色透明で無害な溶液としても良い。
【0092】
一方、ナノセルロースは乳状で粘性・粘着性があり、乳剤的な役割と水溶性でもあることから手肌に浸潤し易く、保湿・保護剤の役割を果たす効果が大きい事は、ナノセルロースの混入有無の実施試験でも認められている。その上、木材由来からなるナノセルロースとパルプの相性は非常に良く有効となる。
【0093】
さらに、セルロースシングルナノファイバーを使うとゲルの調製が出来、塗擦保護剤が液体の場合、スプレー等で付着性向上等の効果が期待され、スプレー容器に充填した場合、逆さまにしても使用出来るという効果もあり、価格的にも圧倒的に安価である。
【0094】
セルロース系高分子ファイバーを構成するセルロース系高分子としては、β-1,4-グルカン構造を有する多糖類である限り特に制限されず、例えば、高等植物由来のセルロース、例えば、杉等の木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプ等)の天然セルロース繊維(パルプ繊維)や動物由来のセルロース、バクテリア由来のセルロース、化学的に合成されたセルロース(再生セルロース;誘導体含む)などのセルロース・ナノセルロース、キチン、キトサン、シルクなどが挙げられる。なお、前記セルロースは、用途に応じてα-セルロース含有量の高い高純度セルロース、例えば、α-セルロース含有量70~100wt%程度であってもよい。前記セルロースは、単独又は二種以上組み合わせて使用してもよく、セルロース系高分子のうち、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)コットンリンターなどの種子毛繊維などが好ましい。その上、セルロースを原料として得られるアニオン系水溶性高分子のカルボキシメチルセルロ―スも優れた増粘性・吸水性・保水性を有するため使用が可能であるが、ナノセルロースと併用でも良い。
【0095】
また、一般的なパルプの利用は紙での使用が多く、これはパルプの軽くて一定の強度が保てる事が1つの理由とも言える。そのパルプを微粉体にして、指先で擦り合わせると指紋の中に入り込み指先同士で動かしてもパルプ微粉体の微分がぶつかり合い、指先は微粒子パルプの乾燥時に滑らなくなる程の抵抗力である事から、塗擦保護剤の微粒子パルプは、ナノセルロースや光触媒溶液を手指の摩擦により手肌の角質に擦り込ませ、被膜して塗擦作用をすると同時にナノセルロースの保湿成分も浸潤させる事をパルプ微粒子による塗擦方法とした。しかも、塗擦保護剤がスプレーボトル等に水溶液状で充填された場合、上部から中間部に浮遊しているパルプ微粒子はスプレーポンプで吸い込まれやすく、噴霧時の手肌等に必ず塗布され摩擦効果が安定的に得られる事となる。但し、本発明の塗擦保護剤を噴霧または塗布する場合、必ず容器を振り塗擦保護剤を良く混和させた上で使用する事である。
【0096】
また、パルプ微粉末を添加することにより、塗擦保護剤の塗擦性能、特に二次塗擦性能に対するセルラーゼの作用を向上させることである。パルプ粒子は、少なくとも部分的に機械圧力により得られる圧縮で破断、次いで顆粒化形態で好ましくはセルロースを含有し、特に微小な物質として形づくられ、塗擦性能に対するセルラーゼの作用を刺激するためにパルプ粒子を含有するが、当然、パルプ粒子のサイズは小さい事が適しており塗擦保護剤のパルプ粒子はμm以下とする。
【0097】
本発明の塗擦保護剤は微粒子パルプによる塗擦方法を用いているため、それを有効化させる人間の手指による摩擦係数は重要であり、固体間の摩擦とは異なり人間の指は弾性を有しているために指表面での摩擦は縦荷重以外に接触面積が影響する。[非特許文献16]では人間の指の摩擦測定等の実験が行われ、指表面に汗や汚れなどが付着して摩擦面の状態が変わらないように十分洗浄し乾燥させ、最大静止摩擦力は同じ縦荷重下においては動摩擦力よりも大きいことが知られているので、得られた一連の接線力データのうち、最大値を最大静止摩擦力とした結果、人間の指の場合は広範囲にわたって金属よりもかなり大きく、縦荷重によってかなり変動し、低荷重域の摩擦係数も高荷重域に比べはるかに大きく、ほぼ0.5~2.5の範囲にあることがわかった。また摩擦係数は指姿勢θが小さいほど大きくなることも確認できた。その上、人間の指の皮膚は一般の皮膚とは構造が異なっており、特に指紋の存在は他の体部には見られない指独特のものである。また、人間の指先には爪が存在し、これにより指先の剛性を高め指による作業の効率を高めているが、指独特の諸要素の働きかけは指先の作業によりさまざまであり、一様ではなく、指先の摩擦係数も測定方向によって指自身の物理的特性が変化すると考えられる事から、指に対して接触板が指付け根部から指先部に向かって滑る方向をBW方向(Backward)、その逆方向をFW方向(Forward)とし、逆方向の測定も行い違いを調べた結果、[
図6]に示したように低荷重域で摩擦係数は大きく、高荷重になるにつれて減少していくことがわかった。また、指姿勢に関しては姿勢θが小さいほど摩擦係数は大きくなることが確認できた。この実験の興味ある結果として、BW方向の摩擦係数のほうがFW方向のそれよりも大きくなっていることが挙げられ、比較的指姿勢が低いときは、摩擦方向による摩擦係数の変化はそれほど顕著には見られないが、指姿勢が大きくなるにつれて、その格差がはっきりと現れた。
【0098】
さらに、人間の指の摩擦解析をそれぞれ行った。真実接触面積を正確に推定することは困難であるため、実験システムのCCDカメラから得られる見かけの接触面積に基づいて解析を進め、摩擦モデルを考え、見かけの接触面積Aと真実接触面積A
tが
【数9】
【数10】
となる。ここでs=λ
stは見かけの接触面積に対するせん断強さで、実際に測定可能である。そこで、このせん断強さについては、多くの材料においてせん断力sは接触圧力pに依存することが知られているが、ここで用いる見かけの接触面積に対するせん断力sと平均圧力pとの関係は明確でないため、計測システムのCCDカメラによって計測された接触面積を用いて平均圧力pは
【数11】
として求めた。また、接触面における圧力が均一に平均圧力であると仮定して以下の解析を行い人間の指が乾燥アクリル面、水濡れアクリル面で接触したときのpとsの測定した結果を[
図7]に示したが、近似的にせん断強さは接触圧力に比例しており次の関係が成立することが明らかになった。
【数12】
ここでs
o、αは定数でありαは接触圧力pに対するせん断強さsの増加率s
oは表面力による接触部分(荷重ゼロにおける有限な大きさの接触部分)の単位面積当たりのせん断力である。両者とも指姿勢、摩擦方向によって変化し、一般に乾燥した清浄な指ほど大きくなっている。[数12]のように人間の指についてせん断強さと圧力の関係が線形関係にあるという発見は種々の解析や設計にとって重要である。例えば摩擦係数μの変化が[数12]を基にして簡単にモデル化され、[数10][数12]を用いて次式を得る。
【数13】
[
図7]より求めたS
o、αを用いて[数13]から摩擦係数を計算し、その計算値と実験から得た摩擦係数の比較を[
図8]に示したが、接触圧力が増加するにつれて摩擦係数が低下することが[数13]よりわかる。
【0099】
また、[0098]では摩擦係数がs
0とαというパラメータと圧力pによってモデル化出来ることを示したが、人間の指の場合は接触面積Aは荷重Wの関数として表現できるように思われる事から、摩擦係数を荷重の関数として表すと、指先の摩擦係数が指先に加わる荷重のみによって予想されれば運動計画などにも役立つと考えられ、弾性接触ではHertzの解析が有名である。人間の指も粘弾性要素をもつが指形状は完全な球形ではなく、指表面は滑らかではないため必ずしもHertzの式が成り立つとはかぎらない。ただし、多くの種類の弾性接触において仮定されているように人間の指の接触面積Aが荷重Wのべき数乗に比例し、Aを次式で表す。
【数14】
ただし、a、bは荷重によらない定数であり、[数14]より実験値との誤差の最小二乗近似を行った結果を[
図9]に示す。これにより人間の指の接触において、aは65~170、bは0.2~0.4の範囲にあることがわかる。[数11]に[数14]を代入すると摩擦力Fは次のようになる。
【数15】
ただし、pは接触圧力でW/Aに等しい。よって、摩擦係数μは次のようになる。
【数16】
したがって摩擦係数μはW
b-1に比例する。ここでs
0とαは[数12]から得られる定数でありaとbは[数14]から得られた定数であるので摩擦係数は荷重Wのみによって決定される。[数14]の正当性を検証するために、実際の人間の指に関して、横軸にWb-1、縦軸に摩擦係数μをとり、実験値をプロットしたものが[
図10]である。ここで、bは[
図9]における値をそれぞれ用いた。これより、摩擦係数はほぼW
b-1に比例しており近似的に[数14]の関係が成立していることがわかる。
【0100】
さらに、人間の指の摩擦特性を調べた結果、指姿勢角θが小さいほど摩擦係数は大きく、摩擦方向に関して、BW方向の摩擦係数はFW方向のそれよりも大きいと言う傾向があることを見い出した。人間の指は比較的柔らかい組織が骨格を覆い、指の手背面には爪が存在し、これにより指先に圧縮応力が作用したとき、指先部の剛性を高めていると考えられこの爪の効果はBW方向のほうがFW方向よりも大きく、皮膚内部が硬化される範囲も大きい。また、指姿勢に関しては姿勢が大きいほど指先の内部組織を介して、爪に作用する力は大きくなり、特にBW方向においては大きな圧縮応力が作用し、結果的に指先部の硬化の範囲は大きくなる。組織が硬化するとせん断強さが大きくなり、結果的に摩擦力は大きくなると予想され、上述の傾向の原因として指先の柔らかさ、爪の存在が関与し、これらの作用により指先表面及び内部組織の状態が変化するためであると考えられるが、人間の指の内部組織について直接的に硬さを調べことは困難でもある。しかしながら、その検証をするべく、人工指等を利用した実験結果として、爪がある場合、無い場合ともに高荷重域に比べ低荷重域の摩擦係数が2~3倍程度にまで大きくなっており、人間の指の摩擦特性と近い傾向を示していることがわかった。摩擦係数の最大値も約2.0と比較的大きな値をとっており、全体としてほぼ0.2~2.0の範囲内にある。また、爪のない場合のBW方向の摩擦係数がほかに比べて極端に小さいことも大きな特徴であった。摩擦方向に関しては爪のない場合はFW方向のほうがBW方向に比べて広い荷重範囲でかなり大きくなり、これに対し爪のある場合はかなりの範囲でBW方向のほうがFW方向を上回っており、特に低荷重域でこの傾向が著しく現れている。全体として爪の存在の影響を見てみると、FW方向においては若干摩擦係数が大きくなる程度で、さほど影響は現れていない。しかし、BW方向に関しては広い荷重範囲で極端に摩擦係数が大きくなっており、特に高荷重域ではμ=0.2からμ=0.6と摩擦係数が跳ね上がり、硬度15の人工指においては爪によりBW方向の摩擦係数がFW方向のそれと同程度またはそれ以上まで向上されることが確認できる。その上、指紋とは別に面積の広い手のひらの皺も加わり、手のひら上での指による摩擦スピードの増力、或いは腕の力も加味されると、より大きい摩擦が得られる事から、パルプ微粒子を利用した塗擦方法は有効となる。
【0101】
また、頻繁に消毒液を使用した際の手荒れ部位については、[非特許文献20]による検証結果で、どの消毒剤においても爪周辺が最も多手荒れ症が認められ、次いで指間、手背、指先、手掌とされ、爪周辺の表皮は柔らかく爪半月と爪周囲とに僅かな陥没があり、その部分の消毒液が表皮角層へ浸透しやすく、十分拭き取りきれずに残留する薬剤によって表皮剥離や亀裂が生じやすくなると考えられているが、塗擦保護剤は低濃度の過酸化製剤の上、微粒子パルプによる塗擦方法の拭き取り効果とナノセルロース等の保湿成分で手荒れの防止が可能になる。
【0102】
塗擦保護剤に使用するナノセルロースは,全ての植物の基本骨格物質であり,セルロース繊維を微細化することで得られ、一般的にサイズとしては直径が100nm以下,アスペクト比100以上のファイバーと言われている。木材の断面の一部を電子顕微鏡で1,000倍に拡大してチップ断面として観察し,更にチップから取り出した幅20μm程度のパルプを2,500倍で観察すると、このパルプは,セルロース分子鎖、ミクロフィブリル、フィブリルと階層的に構築された構造を有し、幅10nmのセルロースナノファイバーの場合、数本のミクロフィブリルが集合した状態まで微細化された状態のものを指す。パルプの繊維からセルロースナノファイバーまで1,000分の1のダウンサイジングであり、電子顕微鏡(SEM)写真では、パルプ繊維の表面を観察したものでセルロースナノファイバーが集まってできている沢山の繊維のヒダがわかる。代表的なナノテク素材のカーボンナノチューブでは,ファンデルワールス力によって複数本凝縮してしまうが、セルロースナノファイバーではセルロース分子が6本×6本程度集まって3~4nm径のナノセルロースを形成し、この場合セルロース分子間の結合は主として水素結合によるものでミクロフィブリル、フィブリルと太く成るにしたがってフォンデルワールス力やリグニンによる接着剤効果が効いてくる。カーボンナノチューブの場合,分散されたナノチューブは放っておくと互いにくっついてしまって使い物にならなくなってしまうが,セルロースナノファイバーの場合は解繊して水中に入れておいても直ぐには接着せず、繊維をほぐして微細化する技術と共にできたセルロースナノファイバーを如何にして規則正しく並べるか、あるいは別の材料に如何にして分散して混合させるかの加工利用技術も世界中で開発されている。一般的に使用する様々な材料にもナノ化は必然となりつつあり、塗擦保護剤は石鹸に混合している重曹塩等も考慮する事も必要である。
【0103】
木材は炭素50%、水素6%、酵素44%からなり、ブドウ糖などの多糖類であるセルロース・ヘミセルロースとベンゼン環を有し疎水性で複雑な構造のリグニンの3つの主成分からなり、セルロースは主成分の約50%以上を占め、セルロースミクロフィブリルはさらに集合してフィブリルの束を形成し、幅0.02~0.04mmで、長さ数mmの植物繊維を形成している。植物繊維間はリグニンによって強固に接着され、植物繊維集合体を形成している繊維がパルプであり紙の原料となる。植物繊維は中心が空洞の微小なパイプのような構造で、根から吸収した水を、このパイプを通し重力に逆らって樹木の先端の葉まで送り二酸化炭素を吸収して光合成し酸素を放出するが、樹木の細胞壁はリグニンの疎水性と、鉄筋のような高強度ナノファイバーであるセルロースミクロフィブリル、セルロースミクロフィブリルとリグニンの間隙を埋める非晶性のヘミセルロース成分によってセルロースミクロフィブリル単位、あるいはその集合体として幅が数十nm以下にまで分離・分散した植物由来のナノ素材である。また、セルロースは紙製品の他、食品や化粧品および医薬品でも使用され、有効成分を含む錠剤が体内で崩壊するための成形剤としても広く使用されている。
【0104】
また、パルプやセルロース繊維に対する様々な前処理方法や多くの優れた特性が見出され、ナノテクノロジーの発展に伴い、バイオマス由来のナノ素材として注目されているが、ナノセルロースには形状に基づき、長さ150nm以下の棒状あるいは紡錘形をしたセルロースナノクリスタル(CNC、あるいはナノ結晶性セルロースNCC)と、ミクロンレベルの長さを含む繊維状のセルロースナノファイバー(あるいはセルロースナノフィブリルCNF、またはナノフィブリル化セルロースNFC)に大別される。
【0105】
木材パルプの水分散液を処理して得られる微細化された繊維、ミクロフィブリル化セルロースの処理条件の概要は、原料スラリー濃度4~7%、オリフィス径0.4~6mm、処理圧力34,450~55,120kPa(オリフィス通過線速約750km/h)、オリフィス通過回数1~80回となり、この処理によって繊維径6~100μm、繊維長1~4mmの木材パルプは微細化され、繊維径0.02~0.06μm(20~60nm)、繊維長数μm(数千nm)のMFCが得られるが、セルロースのフィブリル化の程度に依存することがわかっており、例えば、填料の歩留り向上効果や透気度の増加効果は、フィブリル化を進めたセルロースほど効果が大きくなることは確認している。
【0106】
また、塗擦保護剤に使用するナノセルロースは特に限定はしていないが、国立森林総合研究所より1.6%および6%液体を提供され実施例とし2016年より実験を重ねた他、株式会社スギノマシン社製のセルロースナノファイバーBiNFi-sを使用した実験も行った。
【0107】
さらに、塗擦保護剤の成分構成例として、パルプ粒子15%、ナノセルロース25%、光触媒酸化チタン2.5%、砂糖9%を精製水30%で70~80℃で溶解した。溶液が得られた後、冷却して脂肪酸ナトリウム1%を加え混合した。溶液中41%をセルロースとし、全ての原材料が天然由来とした塗擦保護剤となる。但し、あくまでも実験での数値設定であり、これらに限定する事は無く、実施例の1つとして示した。当然、仕上げの際は、濾過する事により、溶液を作る為の数値であり%程度の誤差は生じた。
【0108】
図3に示したが、マスクやハンカチ等の布帛繊維には、光触媒溶液である酸化チタンは表面精が小さい緻密で平滑な表面より、凹凸があり表面積が大きいホーラスな表面であり吸着量が多い事から、塗擦保護剤を塗布・噴霧する事で塗擦作用が有効となる。
【0109】
一方、光触媒酸化チタンは、日本曹達製酸化チタンコーティング材であるビストレイタH2:アナターゼ型酸化チタンで造られている他、圧倒的多数の石原産業(株)製コーティング剤の光触媒で、その導因はナノセルロースの増粘性を混成させる事である。しかも、手洗いや水分を拭き取っても施しても、同時に塗擦保護剤の強酸性が物理的・化学的に固定化され、光触媒活性により手肌や繊維に付着する菌やウイルス等が反応し、殺菌・分解による塗擦作用で簡易に取り除かれる他、新たな菌やウイルスの付着・増殖の発生し難い環境と衛生的に保つ塗擦効果が期待出来る。本発明は、数多くの臨床試験データを待つ事が必要なため試験を継続中である。
【0110】
また、光触媒は有機物であれば相手を選ばず最終的には二酸化炭素を水にまで分解してしまう非選択的性の反応であり、多機能、酸化分解力以外にも超親水性という性質がある事から、例えば[特許文献7]の洗濯物の衣類等に遷移・固定化された親水性の高い光触媒ナノセルロース洗剤や添加剤は、光や紫外線、可視光線の照射で必ずしもバインダを必要とせず光触媒が浸透すると殺菌性を発生させる事を知見し、菌の発生の原因を作らない事により可能とした。一般的に洗濯後は雑菌やウイルス等が洗い流されているが、悪天候や湿気の多い部屋内での乾燥等の条件や環境により、モラクセラ・オスロエンシス菌が洗濯物に付着・増殖後、水分や皮脂等を栄養分にして糞のようなものを出し、この糞が所謂、雑巾のような悪臭を発する事から、それを抑止する1つの選択肢として[特許文献7]の光触媒ナノセルロース洗剤や添加剤を既成洗剤に混入し洗濯をする方法が好ましい。但し、洗濯機内の雑菌により洗濯直後でも菌の増殖を招く場合もある為、光触媒溶液や塗擦保護剤を噴霧または塗布する事で、それらの殺菌も可能となる。
【0111】
また、繊維や紙、プラチックなどに酸化チタンをほどよく触れるように使用する方法で公知された市販品の光触媒溶液を塗擦保護剤で使用しても、光触媒反応による基材の分解反応を遅らせる又は短時間で済むと、汚れ落としに必要とする濃度で飽和し、防ぐ事が出来る。これは、材質の中や表面に浸透させる方法であり、液状の塗擦保護剤を繊維の隙間に入り込ませる為、LEDライトの他、可視光線や紫外線について計算式で求められる事も併せて説明する。可視光線visibie(v)や紫外線Ultraviolet(UV)の光はX線、マイクロ波或は電波と同様に電場と磁場を繰り返しながら進行する波、即ち電磁波である。可視光以外では色の相違は見えないが波長wavelenght(λ)と振動数frequencynumber(ν)を持っており、波長によって単位はメートル(m)で表され、物質はその化学構造と関係して電子遷移に応じ紫外線から可視部の光を吸収する事が計算出来る。それにより、紫外可視吸光度測定法がある。電子遷移に伴う光の吸収を利用するもので、通常200nm~800nmの波長の光紫外線、可視光線を測定する方法である。光が厚さのある布地繊維ιの層を通過する場合を仮に想定し、入射光の強さをIo、透過光の強さをIとした時、両者の比率を(I/Io)を透過度t(transmittance)で、これを100分率で透過率(Percenttransmission)T
【数17】
また、透過度tの逆数(l/t)の常用対数を吸光度A(absorbance)
A=-Iogt=2-Iogt吸光度Aは試料濃度に比例し、これはBeer法則である。吸光度Aは試料溶液の濃度及び層長に比例すると表現され、これはLambert-Beerの法則でA=R・C・ιであり、Rは比例定数、C・ιはそれぞれ濃度、層長を表す。CをmoI/Lで表しRをεと表記、モル吸光係数molarabsorptivity A=ε、c、ι 試料溶液濃度1mol/Lのとき吸光度εに相当する事になり、同一測定条件下で物質に固有の値となる。また、cを%(w/
これが比吸光度specificabsorptionで試料溶液の濃度が1
%(w/v)の吸光度に相当する事になる。
【数18】
この値もまた物質固有の値となり、医薬品の示性値や紫外可視吸光度測定法を用い、上記の2式は測定対象化合物の分子量をMとし、試料溶液のモル濃度をXmol/Lとすると、そのパーセント濃度はX、M/
10%(w/v)となり
【数19】
これらを考慮した一例として、例えばLEDライトを付帯させた容器に本発明の塗擦保護剤を充填し、保管時や塗布噴霧直前または手肌に塗布噴霧後にLEDライトを照射すると光触媒が活性され、効果も持続させられる。
【0112】
また、可視光応答型の酸化タングステンやリン酸類の他、光があたらなくても銅イオン水や銅水溶液により、有害有機物質、臭いやカビ、ウイルス、細菌などの物質を分解して塗擦作用をする事も可能である。容器の形状やLEDライトの個数等は任意であり、これらの容器を使用するのも限定しない。
【0113】
また、酸化タングステンは酸化チタンと同様の特徴を有しつつ、バンドギャップエネルギーが2.8eV(約460nm)程度であるため可視光応答型光触媒として期待されるが,価電子帯端位置が酸化チタンよりも卑であるため酸化能が劣る。このため、貴金属や他の半導体による表面修飾、各種金属との合金化、ナノチューブ構造などによる光触媒特性の改善による表面活性向上が為され、光触媒として有用な潜在力を有する酸化タングステンの光触媒特性を向上させる助触媒として微量の銅による酸化物表面修飾を用いて太陽光の紫外線には及ばないが、効率のよい光触媒となる。
【0114】
さらに、塗擦保護剤は、光触媒溶液により手指等の摩擦時に菌やウイルス等の中にナノサイズの微粒子が潜り込み、飛躍的な塗擦作用が可能になる。但し、摩擦時に菌やウイルス等の塗擦作用をするが、皮膚や粘膜等の摩耗はナノセルロースやパルプ微粒子、糖類により保護される。また、その他の雑菌に対しても、光触媒の働きによりそれらを殺菌する効力を持つ事は公知されている。
【0115】
さらに、光触媒の毒性・無害性については既に詳細は公知されおり、塗擦保護剤はその範囲で製造するが、例えば、金魚や熱帯魚等を入れたまま飼育槽内に光触媒溶液を挿入すると、槽内に繁茂する苔や藻類は死滅し、金魚や熱帯魚等には影響を与えない事等も安全性の証明と言える。しかしながら、金魚の排泄物等までは排除出来ず、水の濁りの改善は完全では無い事から、銅イオンを補助的役割として用いるとそれらの違いは確認できる。一方で、光触媒は一般的に壁などの固定物であり固体物に対し有効とされてきたが、現在では手術等にも使用されている体内差し込みカテーテルチューブや歯科治療にも光触媒が使用され公知となっている事から、本発明の塗擦保護剤についても同様の効果が得られる。
【0116】
また、酸化チタンに代表される光触媒溶液は、物理的には光伝導性物質の一種で、通常は電気を通さず光があたると導電性が生じ、光を吸収して触媒となるが、光触媒溶液はナノミクロの粒子である為、吸着量が多く効果も大きく、人体の一部である手肌や繊維に塗擦保護剤の被膜をコーティング形成するようになるが、手洗い後等でも塗擦保護剤のコーティング作用は継続される。
【0117】
さらに、抗生物質も効かないようなバクテリアを死滅させ且つ安全で無害な殺菌技術としては光触媒以外に候補が無く、多くの病院の手術室で光触媒が試され、その効果が実証された事から、この後種々の商品分野への展開が進み、その意味で健康医療技術は現在の光触媒の応用端緒であり、経口避妊薬等に用いられる人工女性ホルモン等の多くの化合物についても光触媒分解が試みられており、女性ホルモン活性を完全にゼロにするのを出来るのがわかっている事から、塗擦保護剤は医薬部外品も視野に入れる。
【0118】
ただし、光触媒が短時間で効果が出ない或は出来難い場合を仮定しても、一般的な習慣として、手肌の水洗いは数分~数時間の定期的に行われるが、塗擦保護剤をその都度利用しなくても被膜された光触媒の塗擦効果は紫外線や可視光で保持される。ただし、保湿・保護性を重視する点を鑑みると水洗い後に塗擦保護剤を使用する事は、結果として手肌の保湿・保護が得られる他、光触媒をより多く物理的、化学的刺激を働かせる事にもなる。
【0119】
光触媒溶液は手肌や繊維に練り込むと、光触媒作用で分解されてしまうため、基板以外の手肌や繊維の適用に対し敬遠されていたが、これらもアパタイト被覆二酸化チタン等で、手肌や繊維への利用を可能とする防止剤または補助剤も公知されている製品を使用する事により解決している。その上、短時間の使用では、光触媒の反応速度や分解速度と併せ、ナノセルロースや非親水性のパルプ微粒子および糖類による手肌接触時の肌荒れを防ぐ保湿・保護構造で手指の擦り合わせる圧力等も付加されるため手肌の適用も有効である。
【0120】
一方、糖類の塗擦能力は、糖類の持つ親和性に関係している。例えば抗菌性が公知されている砂糖はグルコース(ブドウ糖)とフルクトース(果糖)の2種類であるスクロースで構成され、主な成分は炭素と水素となり、油の成分である炭素と水素、酸素で構成されている事から類似した成分は混ざりやすく、皮膚よりも砂糖の成分が油に近いためこのような現象が起こるが、水との相性も良い事で効果的に作用し、手荒れの心配もない。また、砂糖はセルロースに比し、分子量が遥かに小さく、8つの水酸基を持ち水に良く溶け、化合物の分子内の小部分が変化した各種の誘導体を与える等、多様な化学的機能を持ち、優れた抗菌・防腐作用と細胞を回復させる作用があると臨床結果も出ている事から、塗擦保護剤に混合させ可視光照度が極めて低い場所等で光触媒の塗擦効果を保持するため使用する。
【0121】
また、手肌の他、顔(目や目の周囲は除く)や人体に塗擦保護剤を使用する場合、ナノセルロースの他に、藻類や海藻類により保湿性や保水性が得られる。その中でもアカモクは褐藻類に属した海藻の1つであり、類似種にシダモクがあるが、気胞の形状がアカモクは円柱状でシダモクは球形から楕円体となり、葉は長さ7cmから幅1.5cmで生命力も強い事から日本各地および海外に分布し、葉の形状等は地域差がある。アカモクは強い粘りを持つことが特徴で、この粘性物質はフコースを主な構成糖とした硫酸多糖の1つであるフコイダンと海藻の構成糖として知られているアルギン酸である。中国では古くからアカモクを消炎用の漢方薬で利用されているが、フコイダンには抗腫瘍効果等、アルギン酸は整腸作用等の様々な機能を有する可能性が多く報告されている。例えば、福岡県宗像市で採取したアカモクと比較対象とした福岡県志摩町産・糸島町産、沖縄県久米島産のモズクを凍結乾燥させ粉砕機で粉末化した結果、アカモクのフコイダン量は約500から700mg程度あり、原藻と比較しても7割から5割もフコイダンを保持する事が明らかになった。さらに加工条件を検討する事で、塗擦保護剤ではフコイダンをより多く保持させたフコイダンの微粉末を使用し、塗擦作用の他、ナノセルロースやパルプの補助的または代用として皮膚の保水性、弾力性維持、吸湿性等の美肌作用や保湿保護成分となる。但し、海藻類の消臭として次亜塩素酸を併用する場合もあるが、当然、次亜塩素酸は消臭の目的で使用する事を限定したものではない。
【0122】
さらに、アカモクの試料を加熱処理した場合、一般成分(水分・灰分、タンパク質、脂肪、炭水化物)は、アカモクの原藻との間には大差が認められず、第5訂日本食品成分表に記載されている他の褐藻類の一般成分と同程度の組成になることがわかり、炭水化物が豊富に含有しているのは、食物繊維のアルギン酸やフコイダン等が主成分と考えられる事から、微粉末化の加工をする場合、乾燥等により加熱処理を施しても塗擦保護剤に使用するには問題が無い。また、ミネラルの供給源としても有用であるという結果から、有効性も含め、安定した材料であると考えられると同時に、その粘性を利用し、噴霧スプレー容器に充填した塗擦保護剤の液垂れ防止にもなる。
【0123】
その上、熱水抽出物の抽出実験の結果、昆布属の海藻には水溶性アルギンがアカモクは1%以下、真昆布で4%、ホソメ昆布で9%を含有しており、熱水抽出で精製されたフコース含有量(以下フコイダン)に於いては粗影響されず、その構成成分を分析した結果フコイダンの他にウロン酸および硫酸根が含有され、フコダイン含有量は褐藻類で10%以上、最高値はアカモクの44.5%にもなる。また、精製により混在するアルギン酸を完全に除去してもウロン酸や硫酸根は含有されており、構成成分として考えられたフコイダン・ウロン酸・硫酸根をモル比で見ると、フコダインのみを構成糖とするフカン硫酸では、フコダインと硫酸根のモル比1:2と考えてよく、これ以上の場合にはフコダイン以外の構成糖を持っていなければならない。そこで、硫酸モル比が2以下を示す例はアカモクを含め4種類ありこれらはフカン硫酸と考えられるが、他の大部分はフコイダンとそれ以外の単糖で構成される多糖であると報告されている。それらを鑑みると、当然の事ながら褐藻類を含む海藻は熱処理を施しても組成に問題は無く、安全性も認められた原料と成り得、塗擦保護剤として有効性を示している。
【0124】
さらに、アカモクは昆布やもずく、わかめ、ひじき等と同じ形成の褐藻類で、硫酸化多糖の一種で粘質物であるフコダインを多く含有している。このフコダインには抗酸化作用、アポトーシス誘導によるアレルギーを抑える等の抗菌作用があり、特にもずくフコダインの化学構造については、1996年に琉球大学農学部グループ等による報告で、4つのフコース、1つのグルクロン酸と2つの硫酸基からなる構造を一つの単位(分子量約1,000、5つの糖からなる)として繰り返し構造をしているとされ、高分子のもずくフコダインは分子量約10,000以上の多糖類である事から、塗擦保護剤の糖類の1つとして褐藻類を含有させ、フコダイン成分を利用した粘着性で手肌や布帛繊維の保湿・保護を得る事が可能となる。
【0125】
さらに、塗擦保護剤の使用環境や保存環境、使用期間を考慮した場合、防腐剤や酸化防止剤を含有させる事も一考する。ソルビン酸カリウムは、細菌やカビの発生・増殖を抑える働きがあり、腐敗防止として食品等に頻繁に使用されている他、歯磨き粉やシャンプー、化粧品の防腐剤としても使用されている。ソルビン酸カリウムの代謝・排泄に関しては、生体内にソルビン酸として取り込まれ、ソルビン酸は不飽和脂肪酸であることから通常の脂肪酸と同様に最終的に二酸化炭素と水に分解され尿排泄されると考えられているため塗擦保護剤に含有しても安全に利用できる。また、ソルビン酸カルシウムは食品の保存料として広く欧米諸国などにおいて使用されている食品添加物で、米国においては、ソルビン酸、同カリウム塩、同カルシウム塩及び同ナトリウム塩はGRAS物質(一般に安全とみなされる物質)として安全性評価がなされており、適正製造規範(GMP)による管理のもと、一般の食品に必要量用いることができる。ソルビン酸とその塩類は、広範な抗菌スペクトラムを有しており、カビ、酵母及び細菌に対し、静菌的に働き、安全性が高いことから、カルシウム塩を含めて各国において広範な食品に保存料として使用が認められており、ソルビン酸カリウム同様、塗擦保護剤の防腐剤として利用が出来る。ソルビン酸以外の防腐剤としては、さっぱりした感触と優れた抗菌性を有する多価アルコール(二価アルコール:グリコール)の1,2-ヘキサンジオールで、高い抗菌性を有する多価アルコールの一種のアルカンジオールでもある。グリセリンやソルビトールなどでは効果が無いが、プロピレングリコールのようなグリコール類にグラム陰性菌の抗菌作用が認められている。これらグリコール類の抗菌性は、グリコール類が自分自身を溶解させることで、微生物から水分を奪い取ってしまう作用から起こっており、微生物は増殖が不可能になるうえに死滅してしまうと考えられている。その上、アルカンジオール類は、他の多価アルコール類と比較して顕著に大腸菌の増殖を抑制することが示されており、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、クロカビにも1,2-ヘキサンジオールが優れた抗菌性が示されている。さらに1,2-ヘキサンジオールとペンチレングリコールまたはカプリリルグリコールの併用により相乗的な抗菌性を示すことも公知され、塗擦保護剤でも防腐剤として皮膚刺激性も略無く、安全に使用する事が出来る。但し、使用については任意となる。
【0126】
また、酸化防止剤のジプチルヒドロキシトルエンは、p-クレゾールとiso-ブチレンから化学的合成により製造され、脂溶性で他の酸化防止剤に比べて安定性が優れている他、ビタミンEであり脂溶性ビタミンの一種のトコフェロールは水に溶けず、アルコールやオイルに溶ける性質をもち、αトコフェロール、βトコフェロール、γ(ガンマ)トコフェロール、δ(デルタ)トコフェロールの4種類あり、医薬品や食品添加物の酸化防止剤として広く使用されているが、一部では健康有害性も指摘されているため、本発明で使用する事は一考する。その他、アスコルビン酸(ビタミンC)、クロロゲン酸、カテキンについても塗擦保護剤の酸化防止剤として利用が出来る。但し、使用については任意となる。
【0127】
塗擦保護剤で酸化防止剤を使用する場合の考察点は、水溶性成分の酸化防止剤として、アスコルビン酸類(ビタミンC)は、ビタミンとしての栄養強化の目的で使われることも多いが、一方では、酸化防止剤として広く使用され、ビタミンC類には、水に溶けるL-アスコルビン酸とL-アスコルビン酸ナトリウム、油脂類に溶け易いL-アスコルビン酸ステアリン酸エステルとL-アスコルビン酸パルミチン酸エステルが使われているが、熱安定性の良い水溶性のビタミンCとしてL-アスコルビン酸2-グルコシドがあり、目的に合わせて使用出来る。トコフェロール(ビタミンE)類のビタミンEは、生体の過酸化物生成を防止する効果を有し、細胞膜や生体膜の機能を維持する効果を持つ油脂類に溶け易いビタミンであり、ビタミンとしての効果の強いα-トコフェロール、酸化防止の効果が強いδ-トコフェロールがあり、他にβ-トコフェロール、γ-トコフェロールなどがある。これらの中で酸化防止の目的で使用するのに適したものは、d-δ-トコフェロールおよびミックストコフェロールである。指定添加物のdl-α-トコフェロールは、使用基準で酸化防止の目的で使用することに限られているが、その効果は、上記した既存添加物の2種類のトコフェロール類に及ばない。さらに、エリソルビン酸類は、アスコルビン酸の異性体であり、イソアスコルビン酸と呼ばれることもある代表的な酸化防止剤で、欧米でも広く使用されているが、エリソルビン酸には、ビタミンCとしての効果はないといわれ、酸化防止の目的のみで使われる。その酸化防止の作用は、ビタミンC類と同様である。BHA(t-ブチルヒドロキシアニソール)とBHT(ジt-ブチルヒドロキシトルエン)は、化学的な合成で得られた酸化防止作用を有する代表的な物質である。いずれも酸化防止作用を有するt-(ターシャリー)ブチルフェノールの効果をより発揮できるように合成された誘導体であるが、一時期、BHAの安全性に疑問が生じたとの理由で使用基準の改正が行われ、改正使用基準の実施時期が定められなかったため、特に輸入食品に関しての実効性は乏しく、この使用基準は、前回の改正前の使用基準に戻る形で改正されたため、BHAは油脂や魚介加工品などに、広く使用することが可能となっている。エチレンジアミン四酢酸を骨格とする塩類がEDTA類であり、2種類が食品添加物として指定され、EDTA類は、酸化を促進する金属イオンを捕捉する力が高いため、酸化を抑える効果を持ち、幅広い食品での使用が考えられるが、日本では、缶詰食品や瓶詰食品での遊離金属イオンを捕捉してその活動を封鎖する金属封鎖剤としてのみ使用が認められており、最終食品に残存する場合は、カルシウム二ナトリウム塩の形にすることが義務づけられている。没食子酸は、ボッショクシサンともモッショクシサンとも呼ばれる植物系の既存添加物である。日本では、五倍子から得られる五倍子タンニンが主要原料であり、ヨーロッパでは、没食子を原料とする没食子タンニンが主体になっているが、いずれも古くから使われてきたものであり、その酸化防止効果は、没食子酸を構成する、ポリフェノール系のトリヒドロキシ安息香酸のさようである。没食子酸プロピルは、没食子酸とプロピルアルコールとのエステル化反応で得られた指定添加物であり、欧米を中心に油脂とバターの酸化防止剤として使用されている。その他の天然系の酸化防止剤として、ルチン類は、クエルセチンの配糖体で、熱に強く、抗酸化作用があるため酸化防止剤として使われている。これらには、「ルチン(抽出物)」、「クエルセチン」、「ルチン酵素分解物」、「酵素処理ルチン(抽出物)」や「酵素処理イソクエルシトリン」などがある他、「チャ抽出物」や、リンゴの果実を酵素で分解した「酵素分解リンゴ抽出物」などもあるが、これらを使用する場合の選択は任意である。
【0128】
また、塗擦保護剤に使用するアラントインには、組織修復賦活作用(お肌の組織の修復を活性化させる作用)と抗刺激剤作用、消炎鎮静作用、抗アレルギー作用があり、これらの作用から肌荒れやニキビに効果があり、敏感肌の人や赤ちゃんにも使用出来る。空気に触れると酸化チタンや酸化タングステン等の金属は過酸化物が作られる場合もある為、酸化防止剤とアラントインを併用することにより抗アレルギー不活作用が得られる。ただし、酸化防止剤の併用は任意である。
【0129】
さらに、汗の臭いは、汗に含まれる皮脂等の成分が皮膚常在菌(細菌)により分解されて発生し、その臭いを防ぐためには、衣類に対する損傷やヒト腋窩皮膚に対する刺激が少なく、皮膚表面に近い部位で作用し、表皮内の導管(汗管)にアルミニウムを含む水酸化物のゲルが形成され、表皮内汗管が物理的に閉塞することによって発汗の減少が起こるクロルヒドロキシアルミニウムを塗擦保護剤に混合させると、臭いの元を発生させる細菌の殺菌と収れん剤とのダブル効果で、腋臭等の防止が可能になる。
【0130】
塗擦保護剤を濾過する場合、その溶液中に有効成分を残存させるため、それぞれの物質が完全分散された状態の溶液であることが必要であり、その上で濾過をすると、それらの抽出液には効果成分の維持が為されており、高い有効性を示す事が出来る。また、一定時間を要した濾過をすればさらに安定的な効果成分が抽出される。
【0131】
また、糖鎖は200種類ある単糖のうち、8種類の単糖が数100万個も鎖上に結合し、細胞内のたんぱく質や脂肪とつながって糖鎖を構成し、その組み合わせは無限で分かっているだけで数千種類の糖鎖が存在している。糖鎖は、栄養素から細菌まで体内のあらゆるものを感知し、その情報を体中の細胞と情報交換をして交換された情報をもとに、免疫から自然治癒力まで必要な機能に適切な対処を働きかけ、それにより人の体は良いことも悪いことも把握し、迅速に対応することで健康な心身を維持している。その上、細胞表面にもシアル酸を含むガングリオシドなどの糖鎖は存在しており、これらは細胞接着、抗原抗体反応、ウイルスの感染など細胞のコミュニケーションに重要な役割を担い、例えば血液型(ABO式)の違いを作り出しているのも、糖鎖の構造の差である。また生理活性を持つ低分子の中にも糖鎖を持つものがあり、これらはDNAの特定の配置を認識して結合するなどしてその作用をアシストしている。したがって、細胞同士を結合・分離するのも糖鎖の役割で体内に侵入するウイルス等を判断し、細胞間で対処するが、糖鎖の異常や不足が起こると免疫機能が働かなくなる。これらを鑑み、人体皮膚の粘膜から侵入するウイルスを塗擦保護剤で殺菌消毒してウイルスと糖鎖の結び付きを阻止する他、噴霧塗布した塗擦保護剤の糖鎖成分が粘膜から浸潤し細胞表面の健全な糖鎖の維持をアシストする役割であるが、これについては糖鎖の詳細な働きの解明を待ち、引き続き検証する。
【0132】
一方、ゲル状の塗擦保護剤の場合、スプレー容器や、スポンジキャップ付き容器、ローラキャップ付き容器等に充填させ、手肌へ極度に付着した菌やウイルスを剥離分解する際も、アルエーテルや硫酸エーテル等を添加しなくても、光触媒の濃度の数%を上げた溶液を使用し、より塗擦作用や保湿・保護力が高くなる。また、繊維に対してもゲル状にする事で塗擦作用が大きく上がる他、塗擦効果が多く得られる。
【0133】
さらに、塗擦保護剤を人体の肌に噴霧または塗布すると、肌の表面に対し塗擦保護膜が被膜され、クエン酸のピーリング効果等により、湿布を貼る等の煩わしさや、皮膚の炎症もなく、無臭で痛みの緩和が一定時間得られた。ただし、クエン酸の添加量の調整をする事が必須となる。
【0134】
さらに、本発明の塗擦保護剤を水虫による白癬菌に罹患した爪や足裏に噴霧または塗布を実施した結果、足裏の白癬菌は3ヶ月後、爪に入り込む水虫は1年後に治癒した結果は目視で得られている。但し、これらは塗布噴霧の回数、例えば2日に1回や毎日というように頻繁に使用した場合は早い完治が考えられる。
【0135】
また、手肌等の人体以外に塗擦保護剤を使用した実施結果として、画像のブレや音の変調が生じているCDおよびDVDのディスク表面に塗擦保護剤を塗布した後、拭き取ると画像や音の変調が無くなり視聴する事が可能となった。
【0136】
また、塗擦保護剤に香料成分や溶液の着色成分を混合させることは任意である。
【0137】
なお、本発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であることは言うまでもない。