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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064314
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】歯科補綴物を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 19/20 20110101AFI20220418BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20220418BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
G06T19/20
A61C13/08
A61C13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021166572
(22)【出願日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】20201553.3
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20215945.5
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】596032878
【氏名又は名称】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ ユッゼル
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリック ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ニードリッヒ
【テーマコード(参考)】
4C159
5B050
【Fターム(参考)】
4C159DD01
5B050AA02
5B050BA09
5B050BA13
5B050EA06
5B050EA13
5B050EA28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自然歯の外観に相当するような歯科補綴物の内部構造を決定する方法を提供する。
【解決手段】歯科補綴物を製造する方法は、第1の補綴物原料が配置される第1の空間的な領域と第2の補綴物原料が配置される第2の空間的な領域を有するデジタル歯モデルを作成し(S101)、デジタル歯モデルの光学的特性を再現する実データセットを作成するために前記デジタル歯モデルをレンダリングし(S102)、目標データセットと前記実データセットとの間の相違を判定し(S103)、第1の空間的な領域および/または第2の空間的な領域を変化させることによって、測定された目標データセットと再度レンダリングされたデジタル歯モデルの実データセットとの間でより小さな相違が得られるようにし(S104)、より小さな相違を有するデジタル歯モデルに基づいて歯科補綴物を製造する(S105)。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の補綴物原料(201-1)が配置される第1の空間的な領域(203-1)と第2の補綴物原料(201-2)が配置される第2の空間的な領域(203-2)を有するデジタル歯モデル(200)を作成し(S101);
前記デジタル歯モデル(200)の光学的特性を再現する実データセット(DS-I)を作成するために前記デジタル歯モデル(200)をレンダリングし(S102);
目標データセット(DS-S)と前記実データセット(DS-I)との間の相違(ΔES,I)を判定し(S103);
前記第1の空間的な領域(203-1)および/または第2の空間的な領域(203-2)を変化させることによって、測定された目標データセット(DS-S)と再度レンダリングされたデジタル歯モデル(200)の実データセット(DS-I)との間でより小さな相違(ΔES,I)が得られるようにし(S104);
前記より小さな相違を有するデジタル歯モデル(200)に基づいて歯科補綴物(100)を製造する(S105)、
ステップを有してなる歯科補綴物(100)を製造する方法。
【請求項2】
第1の空間的な領域を歯モデル(200)の外側領域とし、それが内側に向かって変形するような方式で変化(S104)が実行される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の空間的な領域を歯モデル(200)の内側領域とし、それが外側に向かって変形するような方式で変化(S104)が実行される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
デジタル歯モデル(200)が第1の空間的な領域(203-1)と第2の空間的な領域(203-2)の間の境界面を備えて作成される請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
境界面がデジタル歯モデル(200)の中央に位置する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
境界面(205)が適宜な歯の位置において歯列弓(211)に対して接線状に延在する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
境界面がデジタル歯モデル(200)の内面または外面に存在する請求項4に記載の方法。
【請求項8】
境界面(205)によってシード領域が形成され、それを起点にして第1の空間的な領域(203-1)および/または第2の空間的な領域(203-2)を変化させる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第1の空間的な領域(203-1)と第2の空間的な領域(203-2)が相互に層状に配置される請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
相違が予め設定された数値未満になるまで、第1の空間的な領域(203-1)および/または第2の空間的な領域(203-2)を変化させる請求項1ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
相違が最小値に到達するまで、第1の空間的な領域(203-1)および/または第2の空間的な領域(203-2)を変化させる請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
目標データセット(DS-S)が自然歯に基づいて取得される請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
目標データセット(DS-S)が自然歯の光学的特性および/またはジオメトリを再現する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法を実行するために適した製造装置を使用して歯科補綴物(100)を製造するコンピュータ装置。
【請求項15】
請求項1ないし13のいずれかに記載の方法ステップを実行するように請求項14に係るコンピュータ装置を動作させる命令を含んだコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、歯科補綴物を製造する方法と、歯科補綴物を製造するためのコンピュータ装置と、コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ式およびデジタル式の歯科補綴物の加工方法において、補綴物原料、例えば色等の選択は、使用者によってアナログ式のカラーキーを使用して主観的に実施される。その後、層状の補綴物構築が手動式に実行される。補綴物構築は、天然の見本から歯構造を取り込んで実施される。
【0003】
その見本は、データバンクあるいはライブラリ内に用意することができる。それに代えて、歯科技工士が専門家知見に基づいて手動式あるいはCAD支援によって層構築を実行する。そのプロセスは不正確で、しばしば所要の自然の外観を不十分にしか再現しない。加えて、経験豊富な歯科技工士のみが自然の外観を達成する能力を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の技術的な課題は、所要の自然歯の外観に相当するような歯科補綴物の内部構造を決定することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の技術的な課題は、独立請求項の対象によって解決される。技術的に好適な実施形態が、従属請求項、発明の詳細な説明、および添付図面の対象である。
【0006】
第1の態様によれば、第1の補綴物原料が配置される第1の空間的な領域と第2の補綴物原料が配置される第2の空間的な領域を有するデジタル歯モデルを作成し;前記デジタル歯モデルの光学的特性を再現する実データセットを作成するために前記デジタル歯モデルをレンダリングし;目標データセットと前記実データセットとの間の相違を判定し;前記第1の空間的な領域および/または第2の空間的な領域を変化させることによって、測定された目標データセットと再度レンダリングされたデジタル歯モデルの実データセットとの間でより小さな相違が得られるようにし;前記より小さな相違を有するデジタル歯モデルに基づいて歯科補綴物を製造する、ステップを有してなる、歯科補綴物を製造する方法によって前述した技術的な課題が解決される。前記の第1および第2の空間的な領域は、歯モデルのサブボリュームを形成する。各空間的な領域の補綴物原料は、方法の進行中にわたって不変に保持される。
【0007】
この方法によって、患者の歯の全体像に適合する全体印象が形成されるような方式で、歯科補綴物の内部アーキテクチャを自動的に形成することができる。加えて、歯科補綴物の光学的な全体印象から使用者の主観による影響を排除することができ、歯科補綴物を製造する際の高い精度と再現性を達成することができる。
【0008】
この方法の技術的に好適な実施形態によれば、第1の空間的な領域を歯モデルの外側領域とし、それが内側に向かって変形するような方式で変化が実行される。第2の空間的な領域が表面から内側に偏倚して変形することができる。その場合に、前記の表面に対して定義された間隔を有する新しい境界面が第1の空間的な領域の内部に形成される。前記の間隔は点式に変化させることができる。それによって例えば、この方法を広い空間範囲で実行して良好な結果を得ることができるという技術的な利点が達成される。
【0009】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、第2の空間的な領域を歯モデルの内側領域とし、それが外側に向かって変形するような方式で変化が実行される。それによっても例えば、この方法を広い空間範囲で実行して良好な結果を得ることができるという技術的な利点が達成される。
【0010】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、デジタル歯モデルが第1の空間的な領域と第2の空間的な領域の間の境界面を備えて作成される。それによって例えば、第1および第2の空間的な領域を同時に変化させるために境界面を移動させ得るという技術的な利点が達成される。
【0011】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、境界面がデジタル歯モデルの中央に位置する。それによって例えば、この方法が小さな相違に達するまで高速に収束するという技術的な利点が達成される。
【0012】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、適宜な歯の位置において歯列弓に対して接線状に境界面が延在する。それによって例えば、この方法が小さな相違に達するまでさらに高速に収束するという技術的な利点が達成される。
【0013】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、境界面がデジタル歯モデルの内面または外面に存在する。それによって例えば、歯モデルを内側あるいは外側から変化させ得るという技術的な利点が達成される。
【0014】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、境界面によってシード領域が形成され、それを起点にして第1の空間的な領域および/または第2の空間的な領域を変化させることができる。それによって例えば、サブボリュームが形成され、そこから空間的な領域が延伸し得るという技術的な利点が達成される。
【0015】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、第1の空間的な領域と第2の空間的な領域が相互に層状に配置される。それによって例えば、天然の歯構造を模倣して少ないステップで小さな相違に到達できるという技術的な利点が達成される。
【0016】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、目標データセットと実データセットの間の相違が予め設定された数値未満になるまで、第1の空間的な領域および/または第2の空間的な領域を変化させる。それによって例えば、所定の精度で歯科補綴物を製造し得るという技術的な利点が達成される。
【0017】
この方法の技術的に好適な別の実施形態によれば、目標データセットと実データセットの間の相違が最小値に到達するまで、第1の空間的な領域および/または第2の空間的な領域を変化させる。それによって例えば、歯科補綴物を目標データセットに最大に適合させて製造し得るという技術的な利点が達成される。
【0018】
この方法の別の技術的に好適な実施形態によれば、目標データセットが自然歯に基づいて取得される。それによって例えば、歯科補綴物を自然歯に適合させ得るという技術的な利点が達成される。
【0019】
この方法の別の技術的に好適な実施形態によれば、目標データセットが自然歯の光学的特性および/またはジオメトリを再現する。それによって例えば、歯科補綴物の再現忠実性がさらに改善されるという技術的な利点が達成される。
【0020】
第2の態様によれば、上記の第1の態様に係る方法を実行するために適した製造装置を使用して歯科補綴物を製造するコンピュータ装置によって前述の技術的な課題が解決される。それによって、第1の態様に係る方法と同様な技術的な利点が達成される。
【0021】
第3の態様によれば、前記第1の態様に係る方法ステップを実行するように前記第2の態様に係るコンピュータ装置を動作させる命令を含んだコンピュータプログラムによって、前述した技術的な課題が解決される。それによっても、第1の態様に係る方法と同様な技術的な利点が達成される。
【0022】
本発明の種々の実施例が添付図面に示さており、後述する説明中においてより詳細に記述される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】デジタル歯モデルを示した概略説明図である。
図2】歯モデルの空間的な領域の変化を示した説明図である。
図3】目標データセットと実データセットの間の比較を示した説明図である。
図4】目標データセットと実データセットの間の相違の計算を示した概略説明図である。
図5】歯科補綴物を製造する方法のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1には、残存歯209上に装着されたデジタル歯モデル200が概略的に示されている。デジタル歯モデル200によって、後の歯科補綴物100の外形と内部の空間的構造が予め定義される。その際外形はCADプログラム内で作成することができる。CADプログラム内における歯科補綴物100のモデリングによって外形が決定される。
【0025】
デジタル歯モデル200の内部の空間的構造は、計算するかあるいはデータバンクから取り込むことができ、例えば自然歯の構造から導出するか、または歯科補綴物100あるいは自然歯の外形から導出して計算することができる。所与の歯科補綴物100の外形において、歯モデル200によって内部の層構造を決定することができ、個々の層203-1,203-2および203-3に対してそれぞれ所与の光学的物質パラメータを有する固有の補綴物原料201-1,201-2および201-3を割り当てることができる。補綴物原料201-1,201-2および201-3の間には、境界面205-1および205-2が存在する。空間的な領域203-1,…,203-3内の異なった補綴物原料201-1,…,201-3は、境界面205-1および205-2によって相互に分離される。
【0026】
歯モデル200は、例えば3つの異なった補綴物原料201-1,201-2,および201-3から層状に形成された歯科補綴物100を再現する。外側の層203-1に補綴物原料201-1が使用され、中央の層203-2に補綴物原料201-2が使用され、内側の層203-3には補綴物原料201-3が使用される。それぞれ割り当てられた補綴物原料201-1,…,201-3の光学的および物理的特性、例えば色値、分散数値、反射数値、透過数値、および/または吸収数値等は既知である。
【0027】
異なった補綴物原料201-1,…,201-3を有する歯モデル200の外形および内部構造が既知であれば、それから後の歯科補綴物100の外観を計算することができる。放射線追跡(レイトレーシング)を使用したレンダリング(光シミュレーション法)によって、作成された歯モデル200に基づいて歯科補綴物100の色および半透明性が計算される。この方式によって、歯モデル200から後の生体模倣型の歯科補綴物、例えばクラウン、部分クラウン、インレイ、オンレイ、あるいはベニア等の外観ならびに視覚的印象を精密に計算することができる。
【0028】
光と使用される補綴物原料201-1,…,201-3との相互作用の物理的補正シミュレーションを使用して、レンダリングが実行される。その際、コンピュータ支援された歯科補綴物100の外観を作成するために、個々の補綴物原料201-1,…,201-3の既知の光学的パラメータが使用される。
【0029】
そのため追加的に、歯科補綴物100を取り付ける既存の天然の歯材料、例えば残存歯209を考慮することができる。レンダリングに際して、所与の内部構造および選択された補綴物原料201-1,…,201-3に関して後の歯科補綴物100の光学的印象が計算される。レンダリングのために、可視領域における少なくとも3つの波長について反射数値、透過数値、および吸収数値の計算をコンピュータ支援によって実行することができる。
【0030】
製造方法のために、まず目標データセットが判定される。目標データセットは、隣接歯の光学的測定および評価によって取得することができる。そのため、自然歯の色値、反射数値、透過数値、および/または吸収数値と空間的形状あるいは画像を測定することができる電子カメラあるいは3Dスキャナを使用することができる。加えて、8個の自然の色空間に基づいて、色測定、または半透明性スキームを使用した半透明性測定を実行することもできる。それらのデータに基づいて、可能な限り同一の特性を有する歯科補綴物100が策定される。
【0031】
そのため歯科補綴物100に対して初期の歯モデル200が作成され、それによって歯モデル200の外形と、割り当てられた補綴物原料201-1,201-2および201-3を有する内部空間領域203-1,…,203-3が決定される。その初期の歯モデル200に基づいて歯科補綴物100の光学的な外観がレンダリングされ、それによって光学的な特性を再現する実データセットが作成される。
【0032】
理想的には比較のために、自然歯に基づいて目標データセットを取得した際と同じ視野角あるいは同じ遠近状態から歯科補綴物100のレンダリングを実行する。結果を向上させるために、異なった視野角からレンダリングを実行することもできる。任意の全ての視野角ならびに任意に選択可能な周囲環境、例えば所与の照明環境に対して、隣接歯、口腔内における歯科補綴物100の位置、あるいは作成すべき残りの歯の形状および光学的特性を考慮しながら、レンダリングを実行することができる。レンダリングに際して、その他の影響を及ぼす要件、例えばセメント、複合材、および/または接着剤層等の既知の光学データを考慮することもできる。
【0033】
その後、実データセットに従ってレンダリングされた実画像と撮影された目標画像との比較(マップマッチング)を実行して相違、例えば平均相違、最小値あるいは最大値が判定される。相違は、実データセットと目標データセットの差を定量化する数値である。
【0034】
後の歯科補綴物100の外観をさらに調整ために、歯モデル200の空間的な領域203-1,…,203-3を変化させることができる。その場合、個々の空間的な領域203-1,…,203-3の境界面205-1および205-2およびサブボリュームの両方を変化させることができる。相違が大きい場合は、空間的な領域203-1,…,203-3だけでなく、使用される補綴物原料201-1,…,201-3も追加的に調整することができる。空間的な領域203-1,…,203-3の調整によって、歯モデル200の外形を維持しながら、例えば切端と象牙質の間の境界面205-1のトポグラフィの変更が可能になる。
【0035】
その後、新しい相違を判定するために、変更された歯モデル200の再度のレンダリングと、レンダリングされた実データセットと撮影された目標データセットとの間の再度の比較が実行される。歯モデルを変更して相違を判定するステップは、相違が所与の値未満になるまで繰り返される。
【0036】
従って、空間的な領域203-1,…,203-3を調整することによって、歯モデル200の反復的な調整が実行される。歯科補綴物100の全体的な光学的外観を最適化するために、歯モデル200の内部アーキテクチャの調整が実行される。
【0037】
図2には、製造方法の枠内における歯モデル200の空間的な領域の変化が示されている。最初は均等である歯モデル200の容積内において、追加的な内部層の形成のためにシード面が定義される。シード面は歯モデル200の容積内の任意の位置に配置することができ、例えば歯の基質(プレパラート)への境界面上、歯科補綴物の口唇側表面上、歯列211に対して接線状の中心面213内、または歯モデル200の垂直な中心軸の回転対称な包絡線内に配置することができる。
【0038】
出発点は、補綴物原料、例えば人工の象牙質材料等の、歯科補綴物100全体の空間的な領域中における均等な配分である。第1の空間的な領域の口唇側の表面(切端)を起点にして第2の空間的な領域が形成され、それが歯科補綴物100の内部を変形して後に切端層を形成する。その第2の空間的な領域には、別の光学的および物理的特性を有する補綴物原料が割り当てられる。第2の空間的な領域は、第1の空間的な領域に対して境界面205-1を有する。
【0039】
エナメル質材料からなる均質な領域内で象牙質材料からなる新しい層を成長させるために、歯モデル200の表面からシード層が開始することも可能である。歯モデル200内においてシード層が空間的に中央面213上に存在することも可能であり、例えば適宜な歯の位置において歯列弓211に対して接線状に存在することができる。
【0040】
複数の層からなり所与の外形と内部アーキテクチャを有する歯モデル200を用意することもできる。その場合、全体としての光学的な外観を的確に目標条件に近似させるために、層の境界面205を反復的に三次元に変形させることができる。
【0041】
新たに形成された境界面205を起点にして、さらに追加的な層を同じ方法で付加することができる。その場合、各回の境界面205の変形は、所与の閾値に到達するまでの目標データセットと実データセットの反復的な比較によって実行される。
【0042】
図3には、目標データセットDS-Sと実データセットDS-Iの間の相違ΔES,Iが概略的に示されている。目標データセットDS-Sは、例えば電子カメラ101によって取得される。
【0043】
デジタル生成された歯モデル200は、歯科補綴物100の空間的ジオメトリとその歯科補綴物100を形成するように割り当てられた補綴物原料201-1,…,201-3とそれらの補綴物原料201-1,…,201-3が配置される空間的な領域203-1,203-2および203-3に関するデータを含む。レンダリングのために必要な補綴物原料201-1,…,201-3の光学的および物理的特性は、レンダリングソフトウェア中で既知である。それらは、常に新しい原料が追加されるパラメータテーブルから取り込むことができる。
【0044】
実データセットDS-Iは、選択された原料の組み合わせを有するデジタル歯モデル200のレンダリングを実行することによって取得される。レンダリングに際しては、歯科補綴物100の空間的なジオメトリと存在し得る多様な補綴物原料201-1,…,201-3の光学的および物理的特性が考慮される。追加的に結合材料と残根を含めて考慮することができる。
【0045】
歯モデル200内における光の伝搬は、マクスウェル方程式によって表すことができる。レンダリングは例えば放射伝達式(RTE)を使用し、それによれば伝搬媒体が吸収係数、散乱係数、屈折率、および散乱位相関数によって示される。
【0046】
デジタル歯モデル200は、歯科補綴物100の空間的ジオメトリと内部アーキテクチャ、ならびに各補綴物原料201-1,…,201-3の吸収係数と散乱係数と屈折率と散乱位相関数に関するデータを含む。散乱位相関数は、歯モデル200に基づいたレンダリングの際に上述したパラメータを使用してモンテカルロシミュレーション(波線追跡)によって任意の所要の精度で数値的に解くことができ、それにおいては多数の光子が歯モデル200を介してランダム経路上で伝搬する。
【0047】
その結果、使用される原料と歯モデル200の外形および内部アーキテクチャを考慮した、歯科補綴物100の外観に対する実データセットDS-Iを、レンダリングによって計算することができる。その後この計算された実データセットDS-Iを、隣接歯に基づいて取得された目標データセットDS-Sと比較することができる。比較を単純化するために、二次元の導関数(二次元画像)において実行することができる。しかしながら、一般的に三次元の方法を使用することもできる。実データセットDS-Iと目標データセットDS-Sの間の相違ΔES,Iの尺度として数値が計算される。
【0048】
図4には、目標データセットDS-Sと実データセットDS-Iの間の相違ΔES,Iの計算が概略的に示されている。例えば、データセットDS-Sは所与の投象における歯の表示を含む。それに対して歯モデル200からレンダリングされたデータセットDS-Iは、同じ投象における歯モデル200の表示を含む。目標データセットDS-Sと実データセットDS-Iからの両方の画像は、同じ大きさに縮尺されて並べて配置される。
【0049】
目標データセットDS-Sと実データセットDS-Iの間のユークリッド差ΔES,Iは、比較ライン207に沿ったピクセルの色値における差を、例えばLab(L)色空間において、累計することによって計算することができる。比較ライン207は、例えば歯の各半分を同時に動かすことによって任意にシフトさせることができる。しかしながら、一般的に比較ライン207がその他の軌跡を有することもできる。比較は、最小解像度としてピクセルレベルで実行することができる。
【0050】
【数1】
【0051】
比較ライン207に沿った色変化の差が大きいほど、数値的な相違ΔES,Iが大きくなる。目標データセットDS-Sと実データセットDS-Iの間で完全に色一致する際に、相違ΔES,Iがゼロになる。しかしながら一般的に、例えばスペクトル情報に基づくもの等の別の方法を相違ΔES,Iの計算に採用することもできる。
【0052】
図5には、歯科補綴物100を製造する方法のブロック線図が示されている。第1のステップS101において、第1の補綴物原料201-1が配置された第1の空間的な領域203-1と、第2の補綴物原料201-2が配置された第2の空間的な領域203-2を有するデジタル歯モデル200が作成される。歯モデル200はこの方法の開始点として機能する。ステップS102において、デジタル歯モデル200の光学的特性を再現する実データセットDS-Iを作成するために、初期のデジタル歯モデル200がレンダリングされる。歯モデル200の計算およびシミュレーションは、物理的補正シミュレーションツールを用いて物理的-光学的材料固有特性値に基づいて実行される。ステップS103において、目標データセットDS-Sと実データセットDS-Iの間の相違が判定される。
【0053】
ステップS104において、第1の空間的な領域203-1および/または第2の空間的な領域203-2を変化させ、その結果測定された目標データセットDS-Sと再度レンダリングされたデジタル歯モデル200の実データセットDS-Iの間により小さな相違ΔES,Iが得られるようにする。そのため、変形された領域203を用いた歯モデル200のレンダリングのステップS103と、目標データセットDS-Sと実データセットDS-Iの間の相違の計算のステップS104が再度実行される。例えば、所与の相違の閾値を下回った場合、補綴物原料201-1,…,201-3を有する歯モデル200の内部造形が凍結される。
【0054】
その後ステップS105において、判定された小さな相違を有するデジタル歯モデル200に基づいて歯科補綴物100が製造される。歯科補綴物100は、3D印刷方法あるいはその他の適宜な方法により、計算された空間的な領域とそれぞれ対応する補綴物原料201-1,…,201-3を有する歯モデル200に基づいて製造することができる。
【0055】
その場合、計算ステップを実行するとともにその後製造装置を使用して歯科補綴物100を製造するコンピュータ装置を使用することができる。そのため前記コンピュータ装置は、そのコンピュータ装置に必要な方法ステップを実行させるように動作する命令を含んだコンピュータプログラムを実行する。前記のコンピュータ装置がプロセッサとデジタルメモリを備え、前記デジタルメモリ内にデータセットと方法ステップを実行して製造装置を適宜に制御するコンピュータプログラムが記憶される。製造装置は、例えば多様な補綴物原料を用いて歯科補綴物100を印刷する3Dプリンタである。しかしながら、一般的に多様な補綴物原料を用いて歯科補綴物を製造することができる他の製造装置を使用することもできる。
【0056】
そのようにして製造された歯科補綴物100を適用した後、生体模倣型の歯科補綴物の光学的な外観が所要の自然な外観に最適に近似する。
【0057】
この方法は、歯科補綴物100のモデリングおよびシミュレーションによって可能な限り患者口内の自然の外観に近似させる、反復式で閉鎖式のデジタルプロセスに係る。物理的および光学的なパラメータが既知である補綴物原料201-1,…,201-3を使用して空間的な領域203-1,203-2および203-3内でシミュレーションするため、自然に忠実なコンピュータ支援された歯科補綴物100の外観を得ることができる。
【0058】
この製造方法によって、歯モデル200の内部の多層式の構造の最適な設計を達成し、同時に後の歯科補綴物100の最適な美観を確立することができる。そのため、個々の空間的な領域203-1,…,203-3の最適な厚みおよび空間的な位置を検出することが可能になる。歯科補綴物100を製造するための、多層式の歯科補綴物100を形成する補綴物原料201-1,…,201-3とそれらの配置は既知である。
【0059】
従ってこの方法は、歯科補綴物100の最適な内部アーキテクチャを自動的に形成する、反復的なプロセスに係る。このことは、歯モデル200についての構造的な要件に依存せずに達成することができる。実データセットと目標データセットの間の一致(ベストマッチ)によって、再現可能な最適な結果が使用可能な補綴物原料201-1,…,201-3によって達成され、かつ歯科補綴物100の最適な美観が達成される。その場合、使用者の主観による光学的な全体印象への影響を排除することができる。この方法の客観的な精度と再現性のため、使用者の空間的な設計によるミスが排除される。
【0060】
本発明の個々の実施形態に関連して説明および図示した全ての特徴を、多様な組み合わせで本発明の対象とすることができ、それによって同時に有効な利点が達成される。
【0061】
全ての方法ステップは、各方法ステップを実行するために適した装置を使用して実行することができる。対象である特徴によって実行される全ての機能は、この方法における方法ステップとすることができる。
【0062】
本発明の保護範囲は添付の特許請求の範囲によって定義され、説明中に記述されたあるいは図示された特徴によって限定されるものではない。
【符号の説明】
【0063】
100 歯科補綴物
101 電子カメラ
200 歯モデル
201 補綴物原料
203 空間的な領域/層
205 境界面
207 比較ライン
209 残根
211 歯列弓
213 中央面

DS-I 実データセット
DS-S 目標データセット
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】