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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064316
(43)【公開日】2022-04-25
(54)【発明の名称】輪荷重推定装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/13 20120101AFI20220418BHJP
   B66F 9/24 20060101ALI20220418BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
B60W40/13
B66F9/24 J
B60T8/172 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166855
(22)【出願日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2020172729
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】森 大輝
(72)【発明者】
【氏名】服部 義和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 徳祥
(72)【発明者】
【氏名】服部 達哉
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
3F333
【Fターム(参考)】
3D241BA19
3D241BA50
3D241CA18
3D241DB05Z
3D241DB09Z
3D241DB12Z
3D241DB15Z
3D241DB16Z
3D241DB23Z
3D241DB24Z
3D241DB46Z
3D241DB48Z
3D246AA14
3D246HA82A
3D246HA97A
3D246HA98B
3F333AA02
3F333DB10
3F333FD06
(57)【要約】
【課題】剛体の重心が変動する場合でも、剛体の剛性を下げることなく、輪荷重を精度良く推定する。
【解決手段】重心慣性値算出部36が、積載物を含む車両の重心に関する情報を算出すると共に、車両の重心周りの慣性主軸及び慣性乗積を含む慣性テンソルJallを算出し、輪荷重変動推定部40が、慣性テンソルJall、積載物を含む車両の3軸周りの角速度P、Q、R、角加速度P、Q、R、車両の前後及び横加速度GxCG、GyCG、積載物を含む車両の重量Mall、及び積載物を含む車両の重心に関する情報h、hCG、t、t、l、lに基づいて、輪荷重の変動分を推定し、輪荷重算出部42が、輪荷重の変動分と静荷重とに基づいて、輪荷重を算出する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重心に変動を与える要素を含む剛体の3軸周りの角速度、角加速度、前記剛体の進行方向である前後方向及び前記剛体の幅方向である横方向の加速度、前記要素の重量、並びに、前記要素の高さを含む位置を取得する取得部と、
前記剛体の重心に関する情報を算出すると共に、前記剛体の重心周りの慣性主軸を含む慣性値を算出する重心慣性値算出部と、
前記取得部により取得された前記角速度、前記角加速度、並びに、前記前後方向及び横方向の加速度と、前記重心慣性値算出部により算出された前記剛体の重心に関する情報及び前記慣性値とに基づいて、前記剛体を支持する複数の車輪の各々に作用する輪荷重の変動分を推定する輪荷重変動推定部と、
前記輪荷重変動推定部により推定された輪荷重の変動分と、前記車輪の各々に作用する静荷重とに基づいて、前記輪荷重を算出する輪荷重算出部と、
を含む輪荷重推定装置。
【請求項2】
前記重心慣性値算出部は、前記取得部により取得された前記要素の重量及び位置と前記剛体を構成する複数の構成部位の各々の構造とに基づいて、前記要素を含む剛体及び前記構成部位の各々の重心位置を算出し、前記要素を含む剛体の重心位置と、前記構成部位の各々の重心位置との差分を用いて、前記慣性値を算出する
請求項1に記載の輪荷重推定装置。
【請求項3】
前記重心慣性値算出部は、慣性乗積をさらに含む前記慣性値を算出する請求項1又は請求項2に記載の輪荷重推定装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記車輪に作用する横力及び前後力を取得し、
前記輪荷重変動推定部は、前記取得部により取得された前記横力及び前記前後力に基づいて算出される前記剛体の重心周りのヨーモーメントをさらに用いて、前記輪荷重の変動分を推定する
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の輪荷重推定装置。
【請求項5】
前記輪荷重変動推定部は、前記複数の車輪の各々についての前記輪荷重の変動分の総和が0になるとの制約、及び前後輪のロール合成配分と荷重変動との関係式の下、前記輪荷重の変動分と共に、前記剛体の重心周りのヨーモーメントを推定する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の輪荷重推定装置。
【請求項6】
前記剛体は車両であり、前記重心に変動を与える要素は、前記車両に積載される積載物である請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の輪荷重推定装置。
【請求項7】
前記車両はフォークリフトであり、前記積載物は上下に稼働可能なフォークに積載される請求項6に記載の輪荷重推定装置。
【請求項8】
前記剛体の重心に関する情報は、前記剛体の重心位置と前記剛体のロールセンタとの上下方向の距離、前記剛体の重心位置の横方向の位置、及び前記複数の車輪の各々と前記剛体の重心位置との横方向の距離を含む請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の輪荷重推定装置。
【請求項9】
コンピュータを、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の輪荷重推定装置を構成する各部として機能させるための輪荷重推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪荷重推定装置及び輪荷重推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積載物をリフトして走行するフォークリフト等の車両において、車両重心の偏りによる車輪の浮き上がり、車両転倒等の危険性を回避するため、車両を支持する各輪の荷重を推定することが行われている。
【0003】
例えば、4輪の車両を対象とし、前後及び横加速度と、ロール角速度及びピッチ角速度とを計測する技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術では、各輪の上下剛性、前後方向挙動、ロール慣性主軸の傾き、ジャイロ効果を考慮したピッチモーメントと、横方向挙動を考慮したロールモーメントとに基づき、各輪の荷重を推定する。
【0004】
また、例えば、4輪の車両を対象とし、前後及び横加速度、ロール角加速度及びピッチ角加速度を計測する技術が提案されている(特許文献2参照)。この技術では、前後方向挙動によるピッチモーメント、及び横方向挙動によるロールモーメントと、車両のピッチ慣性、及びロール慣性とに基づき、各輪の荷重を推定する。
【0005】
また、例えば、フォークリフトを対象とし、各輪荷重、及び駆動2輪の車輪速を計測する技術が提案されている(特許文献3参照)。この技術では、車輪速は、旋回半径の算出に用い、いずれかの輪荷重計測値の低下に応じて、操舵量、制駆動トルクを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-58960号公報
【特許文献2】特開2013-216278号公報
【特許文献3】特開2001-63991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2に記載の技術は、4輪の一般的な車両を対象としており、例えばフォークリフトのように、重量の大きな積載物を様々な状態で積載して走行する場合は考慮されていない。そのため、特許文献1及び2に記載の技術では、重量の大きな積載物を様々な状態で積載して走行する車両の輪荷重を適切に推定することができないという問題がある。
【0008】
また、特許文献3に記載の技術では、輪荷重を計測するために、積載物の積載箇所の歪を利用しているが、歪を得るためには、積載物の積載箇所の剛性を下げる必要があり、安全上のリスクが生じる問題がある。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みて成されたものであり、剛体の重心が変動する場合でも、剛体の剛性を下げることなく、輪荷重を精度良く推定することができる輪荷重推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る輪荷重推定装置は、重心に変動を与える要素を含む剛体の3軸周りの角速度、角加速度、前記剛体の進行方向である前後方向及び前記剛体の幅方向である横方向の加速度、前記要素の重量、並びに、前記要素の高さを含む位置を取得する取得部と、前記剛体の重心に関する情報を算出すると共に、前記剛体の重心周りの慣性主軸を含む慣性値を算出する重心慣性値算出部と、前記取得部により取得された前記角速度、前記角加速度、並びに、前記前後及び横方向の加速度と、前記重心慣性値算出部により算出された前記剛体の重心に関する情報及び前記慣性値とに基づいて、前記剛体を支持する複数の車輪の各々に作用する輪荷重の変動分を推定する輪荷重変動推定部と、前記輪荷重変動推定部により推定された輪荷重の変動分と、前記車輪の各々に作用する静荷重とに基づいて、前記輪荷重を算出する輪荷重算出部と、を含んで構成される。
【0011】
本発明に係る輪荷重推定装置によれば、取得部が、重心に変動を与える要素を含む剛体の3軸周りの角速度、角加速度、剛体の進行方向である前後方向及び剛体の幅方向である横方向の加速度、要素の重量、並びに、要素の高さを含む位置を取得し、重心慣性算出部が、剛体の重心に関する情報を算出すると共に、剛体の重心周りの慣性主軸を含む慣性値を算出し、輪荷重変動分推定部が、取得部により取得された角速度、角加速度、並びに、前後及び横方向の加速度と、重心慣性値算出部により算出された剛体の重心に関する情報及び慣性値とに基づいて、剛体を支持する複数の車輪の各々に作用する輪荷重の変動分を推定し、輪荷重算出部が、輪荷重変動推定部により推定された輪荷重の変動分と、車輪の各々に作用する静荷重とに基づいて、輪荷重を算出する。これにより、剛体の重心が変動する場合でも、剛体の剛性を下げることなく、輪荷重を精度良く推定することができる。
【0012】
また、前記重心慣性値算出部は、前記取得部により取得された前記要素の重量及び位置と前記剛体を構成する複数の構成部位の各々の構造とに基づいて、前記要素を含む剛体及び前記構成部位の各々の重心位置を算出し、前記要素を含む剛体の重心位置と、前記構成部位の各々の重心位置との差分を用いて、前記慣性値を算出することができる。これにより、重心の変動に応じた慣性値を適切に算出することができる。
【0013】
また、前記重心慣性値算出部は、慣性乗積をさらに含む前記慣性値を算出することができる。これにより、重心の変動に応じた慣性値をより適切に算出することができ、輪荷重をより精度良く推定することができる。
【0014】
また、前記取得部は、前記車輪に作用する横力及び前後力を取得し、前記輪荷重変動推定部は、前記取得部により取得された前記横力及び前記前後力に基づいて算出される前記剛体の重心周りのヨーモーメントをさらに用いて、前記輪荷重の変動分を推定することができる。これにより、剛体の重心周りのヨーモーメントを考慮して輪荷重を推定することができる。
【0015】
また、前記輪荷重変動算出部は、前記複数の車輪の各々についての前記輪荷重の変動分の総和が0になるとの制約、及び前後輪のロール合成配分と荷重変動との関係式の下、前記輪荷重の変動分と共に、前記剛体の重心周りのヨーモーメントを算出することができる。これにより、取得部で取得される情報に基づいて、輪荷重と共に、ヨーモーメントも算出することができる。
【0016】
また、前記剛体は車両であり、前記重心に変動を与える要素は、前記車両に積載される積載物とすることができる。また、前記車両はフォークリフトであり、前記積載物は上下に稼働可能なフォークに積載されるものとすることができる。これにより、例えばフォークリフトのように、様々な状態で積載物を積載して走行する車両について、精度良く輪荷重を推定することができる。
【0017】
また、前記剛体の重心に関する情報は、前記剛体の重心位置と前記剛体のロールセンタとの上下方向の距離、前記剛体の重心位置の横方向の位置、及び前記複数の車輪の各々と前記剛体の重心位置との横方向の距離を含むことができる。
【0018】
また、本発明に係る輪荷重推定プログラムは、コンピュータを、上記の輪荷重推定装置の各部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の輪荷重推定装置及びプログラムによれば、剛体の重心が変動する場合でも、剛体の剛性を下げることなく、輪荷重を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】積載物のリフト高さの違いによる慣性主軸の違いを概略的に示したイメージ図である。
図2】地上座標系に対する車両座標系を説明するための図である。
図3】4輪フォークリフトについてのロールモーメント、ピッチモーメント、及びヨーモーメントの各々に関わる作用力を示す図である。
図4】車両全体の各構成要素の概略、重心、及び座標原点を示す図である。
図5】第1実施形態に係る輪荷重推定装置、及び輪荷重推定装置に接続する各構成を示すブロック図である。
図6】第1実施形態に係る輪荷重推定装置の機能ブロック図である。
図7】輪荷重推定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図8】第1実施形態における輪荷重推定処理の一例を示すフローチャートである。
図9】第1実施形態の変形例に係る輪荷重推定装置の機能ブロック図である。
図10】第2実施形態に係る輪荷重推定装置、及び輪荷重推定装置に接続する各構成を示すブロック図である。
図11】第2実施形態に係る輪荷重推定装置の機能ブロック図である。
図12】第2実施形態における輪荷重推定処理の一例を示すフローチャートである。
図13】第2実施形態の変形例に係る輪荷重推定装置の機能ブロック図である。
図14】3輪フォークリフトについてのヨーモーメントに関わる作用力を示す図である。
図15】輪荷重推定結果の一例を示す図である。
図16】リフト高による慣性値変更の効果を説明するための図である。
図17】慣性乗積の考慮の有無による輪荷重の推定結果の比較を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0022】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態の原理について説明する。第1実施形態では、重心に変動を与える要素を含む剛体の一例として、上下に稼働可能なフォークに積載物を積載して走行する、前後左右4つの車輪を備えたフォークリフトについて、各輪荷重を推定する場合について説明する。また、第1実施形態では、フォークリフトの前後加速度、横加速度、ロール角速度、ピッチ角速度、及びヨー角速度を含む車両挙動が計測されることを前提とする。また、第1実施形態では、積載物の重量、リフト高さ、フォークに対する積載物の積載位置が検知できることを前提とする。
【0023】
フォークリフトは乗用車とは異なり、重量の大きな積載物を様々なリフト高さで持ち上げた状態で走行する。また、積載物の積載位置が、フォークリフトの重心位置に対してy方向(フォークリフトの横方向)にずれる場合もある。このような積載物の積載状態によって、ロール、ピッチ、及びヨーの各回転軸に対して、慣性主軸の向きが変化する。そこで、第1実施形態では、慣性主軸及び慣性乗積を、積載物の積載状態に応じて設定する。図1は、積載物のリフト高さの違いによる慣性主軸の違いを概略的に示したイメージ図である。図1(A)のように、積載物を積載したリフトの高さが低い場合と、図1(B)のように、リフトの高さが高い場合とでは、慣性主軸の向きが変化する。
【0024】
図1に示すような積載物の積載状態の違いに対応するため、図2、及び下記(1)~(3)式に示す車両の6自由度モデルを用いて、車両運動を記述する。なお、(1)式は車両の回転運動、(2)式は車両の並進運動、(3)式は地上座標系(図2中のx、y、zの座標系)に対する車両座標系(図2中のx、y、zの座標系)の姿勢を表した式である。なお、車両座標系において、車両の前後方向(走行方向)がx軸方向、車両の横方向(幅方向)がy軸方向、鉛直方向がz軸方向である。
【0025】
【数1】
【0026】
(1)~(3)式において、P、Q、及びRはロール、ピッチ、及びヨーの各角速度[rad/s]、L、M、及びNはロール、ピッチ、及びヨーの各モーメント[Nm]である。また、U、V、及びWは車両座標系におけるx、y、及びz軸の各方向の速度[m/s]、φ、θ、及びψは地上座標系に対する車両座標系の姿勢角[rad]である。また、X、Y、及びZは車両に作用する前後力、横力、及び上下力[N]である。また、Jallはx、y、及びz軸の各方向の慣性主軸及び慣性乗積から成る慣性テンソル[kg・m]、Mallは積載物及び車両質量を合わせた総質量[kg]である。なお、慣性テンソルは、本発明の「慣性値」の一例である。
【0027】
また、図3に、(1)式のロールモーメントL、ピッチモーメントM、及びヨーモーメントNの各々に関わる作用力を示す。図3(A)のA点はロール回転中心であり、静止時の車両全体の重心を通る鉛直線とロール軸とが交わる点としている。図3(B)のB点はピッチ回転中心であり、静止時の車両全体の重心を通る鉛直線と地上面とが交わる点としている。また、CGallは積載物を含むフォークリフト(以下、「車両全体」という)の重心、GxCG及びGyCGは車両全体の重心CGallにおける前後加速度及び横加速度[m/s]、gは重力加速度[m/s]である。また、ΔFL、ΔFR、ΔRL、及びΔRRは前後左右各輪の輪荷重の変動分[N]、FLFx及びFRFxは左右前輪のタイヤ前後力[N]、FLFy、FRFy、RLFy、及びRRFyは各輪のタイヤ横力[N]である。また、hCGは地上面とCGallとのz軸方向の距離(重心高)[m]、hは地上面とA点とのz軸方向の距離(ロールセンタ)[m]、t及びtはCGallに対する左右各輪のy軸方向の距離[m]、l及びlはCGallに対する前後各輪のx軸方向の距離[m]である。
【0028】
第1実施形態では、(1)式の車両の回転運動に関わる部分を利用する。図4を参照して、(1)式の慣性テンソルJallの設定について説明する。図4は、車両全体100の各構成部位の概略と共に、各構成部位の重心、車両全体の重心、及び座標原点を示している。図4の例では、フォークリフトの構成部位として、車体102、積載物104、フォーク106、アウターマスト108、及びインナーマスト110を想定している。なお、構成部位には、IMU(慣性計測装置、Inertial Measurement Unit)112も含まれるが、ここでは、IMU112は、極めて軽量であり、車両全体100の重心に影響を与えないものとして考える。図4では、各構成部位の重心位置に、重心位置を示すマークを、各構成部位の符号の末尾に「A」を付加した符号で示している。なお、重心位置を示す円の大きさは、各構成部位の重量の大小を概略的に表している。
【0029】
下記(4)式に慣性テンソルJallの構成を示す。(4)式右辺において、対角項が慣性主軸、非対角項が慣性乗積である。
【0030】
【数2】
【0031】
(4)式において、添え字jは各構成部位を特定する変数であり、Nは構成部位の総数、mは構成部位jの重量である。車両全体100の重心CGallの位置(xCG,yCG,zCG)は、積載物104の重量、リフト高さ、フォーク106に対する積載物104の積載位置を用いて算出することができる。(4)式において、Δx、Δy、及びΔzは車両全体100の重心CGallの位置100Aと、構成部位jの重心の位置(x,y,z)102A、104A、106A、108A、110Aの各々との各軸方向の差分であり、下記(5)式により算出される。
【0032】
【数3】
【0033】
(4)式中のJ及びJ図3のA点及びB点の各々からみた慣性の補正値であり、下記(6)式及び(7)式で表す。
【0034】
【数4】
【0035】
(1)式におけるロールモーメントL及びピッチモーメントMは、図3(A)及び(B)に基づき、タイヤ横力及び前後力により車両に作用するモーメントと、タイヤばね(上下ばね)反力によるモーメントとの和として、下記(8)式及び(9)式で表される。
【0036】
【数5】
【0037】
(8)式及び(9)式は、車両全体100の重心CGall周りのモーメントを表しており、各輪のタイヤ前後力和及び横力和を車両重心CGallの前後加速度GxCG及び横加速度GyCGと質量Mallとを用いて表している。図4に示すように、IMU112が車体102の任意の位置に取り付けられている場合、IMU112の計測値G及びGは、車両全体100の重心CGallの位置の加速度に変換されるものとする。ヨーモーメントNは、図3(C)に基づき、駆動2輪のタイヤ前後力FLFx、FRFx、及び各輪のタイヤ横力FLFy、FRFy、RLFy、RRFyによるモーメントの和として、下記(10)式で表される。
【0038】
【数6】
【0039】
IMU112によりロール、ピッチ、及びヨーの各加速度(P、Q、及びR)と、車両全体100の重心CGallにおける前後加速度及び横加速度が計測でき、タイヤ前後力FLFx、FRFx、及び横力FLFy、FRFy、RLFy、RRFyの検出によりヨーモーメントNが得られるとする。また、(1)式のP(数式内では「P」の上に「・(ドット)」、以下のQ及びRも同様)、Q、及びRは、サンプリング毎に計測されたP、Q、及びRの近似微分等で算出するとする。この場合、(1)式は輪荷重のみが未知パラメータとなる。(4)式~(10)式を用いて(1)式を表し、未知パラメータである各輪荷重の変動分を求めると、下記(11)式が成り立つ。
【0040】
【数7】
【0041】
(11)式において、右辺第1項の右肩の‘+’は疑似逆行列を表し、左辺の輪荷重の変動は近似値として得られる。そのため、(11)式の左辺と右辺との関係は‘≒’として表している。以後、疑似逆行列の使用時は、左辺と右辺との関係は全て‘≒’として表すこととする。添え字iはサンプリング刻みを表す。右辺第1項の第3行目の要素が0である理由は、上下方向の各輪荷重の変動はヨー回転運動に寄与しないためである。これに関して、Jall、R (i)、Nv(i)は、各輪荷重の変動に影響しないことから、任意の値でよいことになる。各輪荷重は、静荷重と、(11)式により推定される輪荷重の変動分との和により算出される。
【0042】
また、(11)式の変形として、各輪荷重の変動分とヨーモーメントとを未知パラメータとして推定することも可能である。この場合、(11)式は下記(12)式に示すように変形される。
【0043】
【数8】
【0044】
また、(12)式に対し、下記2つの条件を追加する。サンプリング時刻i毎の各輪荷重の変動分の総和は0として、下記(13)式が成り立つ。
【0045】
【数9】
【0046】
また、前後輪の上下剛性k、kを用い、前後輪のロール剛性配分をa(=k/(k+k))、a(=k/(k+k))として表すと、各輪荷重変動とロール剛性配分との間に(14)式が成り立つ。
【0047】
【数10】
【0048】
(13)式及び(14)式の関係を(12)式に追加すると、下記(15)式が成り立ち、(15)式を用いて、各輪荷重の変動分及びヨーモーメントを推定することが可能である。(15)式の右辺第1項の右肩の‘-1’は逆行列を表す。
【0049】
【数11】
【0050】
ただし、(15)式において、Jall は、(4)式を変形した下記(16)式となる。
【0051】
【数12】
【0052】
次に、第1実施形態に係る輪荷重推定装置の構成について説明する。
【0053】
図5に示すように、第1実施形態に係る輪荷重推定装置10には、IMU112と、圧力センサ114と、エンコーダ116と、操作量センサ118とが接続される。輪荷重推定装置10は、車両(フォークリフト)の任意の位置に設置される。
【0054】
IMU112は、上述したように、車両(フォークリフト)の任意の位置に設置され、車両座標系の3軸の各軸周りの角加速度、及び各軸方向の加速度を検出し、検出値を出力する。圧力センサ114は、積載物104が積載されるフォーク106の積載面全面に設けられる、例えばシート状のセンサであり、積載面の各位置にかかった圧力を検出し、検出値を出力する。エンコーダ116は、インナーマスト110を上下させるための荷揚げ油圧モータの回転角を検出し、検出値を出力する。操作量センサ118は、アクセルペダル踏み込み量、ブレーキペダル踏み込み量、及び操舵角の各々を検出し、検出値を出力する。
【0055】
図6に示すように、輪荷重推定装置10は、機能的には、前後加速度取得部12と、横加速度取得部14と、ロール角速度取得部16と、ピッチ角速度取得部18と、ヨー角速度取得部20とを含む。また、輪荷重推定装置10は、積載荷重取得部22と、積載位置取得部24と、リフト高取得部26と、タイヤ前後力取得部28と、タイヤ横力取得部30とを含む。また、輪荷重推定装置10は、角加速度算出部32と、車両諸元DB(Database)34と、重心慣性値算出部36と、ヨーモーメント算出部38と、輪荷重変動推定部40と、輪荷重算出部42とを含む。
【0056】
前後加速度取得部12は、IMU112から出力された検出値を受け取り、検出値に含まれるx軸方向の加速度Gを、車両全体100の重心CGallにおける前後加速度GxCGとして取得する。同様に、横加速度取得部14は、IMU112から出力された検出値を受け取り、検出値に含まれるy軸方向の加速度Gを、車両全体100の重心CGallにおける横加速度GyCGとして取得する。
【0057】
ロール角速度取得部16は、IMU112から出力された検出値を受け取り、検出値に含まれるx軸周りの角速度を、ロール角速度Pとして取得する。ピッチ角速度取得部18は、IMU112から出力された検出値を受け取り、検出値に含まれるy軸周りの角速度を、ピッチ角速度Qとして取得する。ヨー角速度取得部20は、IMU112から出力された検出値を受け取り、検出値に含まれるz軸周りの角速度を、ヨー角速度Rとして取得する。
【0058】
積載荷重取得部22は、圧力センサ114から出力された検出値を受け取り、圧力を示す検出値を重量に換算することにより、フォーク106に積載された積載物104の重量Mαを取得する。積載位置取得部24は、圧力センサ114から出力された検出値を受け取り、フォーク106の積載面上で最も大きい検出値が検出されている位置を、フォーク106に積載された積載物104の位置として取得する。リフト高取得部26は、エンコーダ116から出力された検出値を受け取り、検出値が示す荷揚げ油圧モータの回転角から、基準位置(例えば最下部)に対するフォーク106の高さを算出し、この高さをリフト高として取得する。
【0059】
タイヤ前後力取得部28は、操作量センサ118から出力された検出値を受け取り、検出値が示すアクセルペダル踏み込み量、ブレーキペダル踏み込み量に基づく制駆動力、及び操舵角の各々を、予め定義されたタイヤ特性モデルに入力することにより、タイヤ前後力FLFx、FRFxを取得する。同様に、タイヤ横力取得部30は、操作量センサ118から出力された検出値を受け取り、検出値が示すアクセルペダル踏み込み量、ブレーキペダル踏み込み量に基づく制駆動力、操舵角、車速、ヨーレート等を、予め定義されたタイヤ特性に入力することにより、タイヤ横力FLFy、FRFy、RLFy、RRFyを取得する。
【0060】
角加速度算出部32は、ロール角速度取得部16、ピッチ角速度取得部18、及びヨー角速度取得部20の各々においてサンプリング毎に取得されたロール角速度P、ピッチ角速度Q、及びヨー角速度Rの各々を近似微分等することにより、ロール角加速度P、ピッチ角加速度Q、及びヨー角加速度Rの各々を算出する。
【0061】
車両諸元DB34には、車両に関する各種データが記憶されている。具体的には、ロールセンタh、重量Mβ、各輪の静荷重FLz0、FRz0、RLz0、RRz0、各構成部位の形状、重量m等を含む構造、各輪の配置を含む情報が記憶されている。
【0062】
重心慣性値算出部36は、積載荷重取得部22で取得された積載物104の重量Mαと、車両諸元DB34に記憶された車両の重量Mβとを合算して、積載物104を含む車両全体100の重量Mallを算出する。また、重心慣性値算出部36は、積載荷重取得部22、積載位置取得部24、及びリフト高取得部26の各々で取得された情報に基づいて、積載物の重心の位置104Aを算出する。積載物の重心の位置104Aの算出方法としては、例えば、特開2020-93741号公報に記載の方法を採用することができる。
【0063】
また、重心慣性値算出部36は、積載物の重心の位置104A、及び車両諸元DB34に記憶された各構成部位の構造に基づいて、車両全体100の重心CGallの位置100Aと、構成部位jの重心の位置102A、106A、108A、110Aとを算出する。そして、重心慣性値算出部36は、(5)式により、車両全体100の重心CGallの位置100Aと、構成部位jの重心の位置102A、104A、106A、108A、110Aとの各軸方向の差分(Δx、Δy、及びΔz)を算出する。また、重心慣性値算出部36は、算出したΔx、Δy、及びΔzと、車両諸元DB34に記憶された構成部位jの重量mとを用いて、(4)式により慣性テンソルJallを算出する。
【0064】
また、重心慣性値算出部36は、算出した車両全体100の重心CGallの位置100Aのうち、z軸方向の位置をhCGとする。
【0065】
ヨーモーメント算出部38は、重心慣性値算出部36で算出された車両全体100の重心CGallの位置100Aと、車両諸元DB34に記憶された各輪の配置の情報とに基づいて、CGallに対する左右各輪のy軸方向の距離t及びtと、CGallに対する前後各輪のx軸方向の距離l及びlとを算出する。そして、ヨーモーメント算出部38は、算出したt、t、l、lと、タイヤ前後力取得部28及びタイヤ横力取得部30で取得されたタイヤ前後力FLFx、FRFx、及びタイヤ横力FLFy、FRFy、RLFy、RRFyとを用いて、(10)式により、ヨーモーメントNを算出する。
【0066】
輪荷重変動推定部40は、重心慣性値算出部36で算出されたhCGと、車両諸元DB34に記憶されたロールセンタの位置hとから、CGallとロールセンタh間のz軸方向の距離(hCG-h)を算出する。そして、輪荷重変動推定部40は、前後加速度取得部12で取得された前後加速度GxCGと、横加速度取得部14で取得された横加速度GyCGと、ロール角速度取得部16で取得されたロール角速度Pと、ピッチ角速度取得部18で取得されたピッチ角速度Qと、ヨー角速度取得部20で取得されたヨー角速度Rと、角加速度算出部32で算出されたロール角加速度P、ピッチ角加速度Q、ヨー角加速度Rと、重心慣性値算出部36で算出された車両全体100の重量Mall、慣性テンソルJall、CGallのz軸方向の位置hCGと、算出したCGallとロールセンタh間のz軸方向の距離(hCG-h)と、ヨーモーメント算出部38で算出されたヨーモーメントN、CGallに対する各輪のx及びy軸方向の距離t、t、l、lとを用いて、(11)式により、各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、ΔRL、及びΔRRを推定する。
【0067】
輪荷重算出部42は、輪荷重変動推定部40により推定された各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、ΔRL、及びΔRRと、車両諸元DB34に記憶された各輪の静荷重FLz0、FRz0、RLz0、及びRRz0との和により、各輪荷重FL、FR、RL、及びRRを算出し、推定結果として出力する。
【0068】
図7は、第1実施形態に係る輪荷重推定装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。図7に示すように、輪荷重推定装置10は、CPU(Central Processing Unit)52、メモリ54、記憶装置56、入力装置58、出力装置60、記憶媒体読取装置62、及び通信I/F(Interface)64を有する。各構成は、バス66を介して相互に通信可能に接続されている。
【0069】
記憶装置56には、輪荷重推定処理を実行するための輪荷重推定プログラムが格納されている。CPU52は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各構成を制御したりする。すなわち、CPU52は、記憶装置56からプログラムを読み出し、メモリ54を作業領域としてプログラムを実行する。CPU52は、記憶装置56に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。
【0070】
メモリ54は、RAM(Random Access Memory)により構成され、作業領域として一時的にプログラム及びデータを記憶する。記憶装置56は、ROM(Read Only Memory)、及びHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0071】
入力装置58は、例えば、キーボードやマウス等の、各種の入力を行うための装置である。出力装置60は、例えば、ディスプレイやプリンタ等の、各種の情報を出力するための装置である。出力装置60として、タッチパネルディスプレイを採用することにより、入力装置58として機能させてもよい。記憶媒体読取装置62は、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、ブルーレイディスク、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の各種記憶媒体に記憶されたデータの読み込みや、記憶媒体に対するデータの書き込み等を行う。
【0072】
通信I/F64は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0073】
次に、第1実施形態に係る輪荷重推定装置10の作用について説明する。フォークリフトが走行を開始すると、輪荷重推定装置10において、図8に示す輪荷重推定処理が実行される。
【0074】
ステップS10で、重心慣性値算出部36、ヨーモーメント算出部38、輪荷重変動推定部40、及び輪荷重算出部42の各々が、車両諸元DB34から必要な情報を取得する。ステップS12で、積載荷重取得部22が、圧力センサ114の検出値から、フォーク106に積載された積載物104の重量Mαを取得し、積載位置取得部24が、圧力センサ114の検出値から積載物104の位置を取得し、リフト高取得部26が、エンコーダ116の検出値からリフト高を取得する。
【0075】
次に、ステップS14で、重心慣性値算出部36が、上記ステップS10及びS12で取得された情報に基づいて、車両全体100の重量Mall及び重心CGallの位置100Aと、構成部位jの重心の位置102A、104A、106A、108A、110Aとを算出し、(4)式により慣性テンソルJallを算出する。
【0076】
次に、ステップS16で、タイヤ前後力取得部28及びタイヤ横力取得部30が、操作量センサ118の検出値と、予め定義されたタイヤ特性モデルとに基づいて、タイヤ前後力FLFx、FRFxと、タイヤ横力FLFy、FRFy、RLFy、RRFyとを取得する。
【0077】
次に、ステップS18で、前後加速度取得部12、横加速度取得部14、ロール角速度取得部16、ピッチ角速度取得部18、及びヨー角速度取得部20の各々が、IMU112の検出値から、前後加速度GxCG、横加速度GyCG、ロール角速度P、ピッチ角速度Q、及びヨー角速度Rをそれぞれ取得する。
【0078】
次に、ステップS20で、角加速度算出部32が、上記ステップS18で取得されたロール角速度P、ピッチ角速度Q、及びヨー角速度Rの各々を近似微分等することにより、ロール角加速度P、ピッチ角加速度Q、及びヨー角加速度Rの各々を算出する。
【0079】
次に、ステップS22で、ヨーモーメント算出部38が、CGallに対する左右各輪のy軸方向の距離t及びtと、CGallに対する前後各輪のx軸方向の距離l及びlとを算出する。そして、ヨーモーメント算出部38が、算出したt、t、l、lと、上記ステップS16で取得されたタイヤ前後力FLFx、FRFx、及びタイヤ横力FLFy、FRFy、RLFy、RRFyとを用いて、(10)式により、ヨーモーメントNを算出する。
【0080】
次に、ステップS24で、輪荷重変動推定部40が、CGallとロールセンタh間のz軸方向の距離(hCG-h)を算出する。そして、輪荷重変動推定部40が、上記ステップS10~S22で取得又は算出されたGxCG、GyCG、P、Q、R、P、Q、R、Mall、Jall、hCG、N、t、t、l、lと、算出した(hCG-h)とを用いて、(11)式により、各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、ΔRL、及びΔRRを推定する。
【0081】
次に、ステップS26で、輪荷重算出部42が、上記ステップS24で推定された各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、ΔRL、及びΔRRと、上記ステップS10で取得した各輪の静荷重FLz0、FRz0、RLz0、RRz0との和により、各輪荷重を算出し、推定結果として出力する。そして、処理はステップS12に戻り、フォークリフトが走行している間、ステップS12~S26の処理が繰り返し実行される。出力された輪荷重の推定結果は、フォークリフトの転倒防止等の制御に利用される。
【0082】
以上説明したように、第1実施形態に係る輪荷重推定装置によれば、積載物の積載状態に応じて慣性主軸及び慣性乗積を設定して各輪荷重を推定することにより、輪荷重を精度良く推定することができる。また、IMU等の軽微なセンサを装着するだけで輪荷重を推定することができるため、一般的な歪ゲージ、ロードセル等を用いた荷重計測を行う必要がない。したがって、フォーク部分の剛性を下げることなく、輪荷重を推定することができるため、剛性低下のリスクを回避することができる。
【0083】
また、第1実施形態に係る輪荷重推定装置によれば、各輪荷重の変動分の和が0になることを利用して、各輪荷重に加えて、ヨーモーメントを推定することもできる。推定されたヨーモーメントは、トルクベクタリングの制御に使用することができる。
【0084】
<第1実施形態の変形例>
第1実施形態に係る輪荷重推定装置10の輪荷重変動推定部40において、各輪荷重の変動分及びヨーモーメントを推定してもよい。図9に、第1実施形態の変形例に係る輪荷重推定装置10Aの機能ブロック図を示す。以下、輪荷重推定装置10Aにおいて、輪荷重推定装置10と異なる点について説明する。
【0085】
輪荷重推定装置10Aでは、第1実施形態に係る輪荷重推定装置10のタイヤ前後力取得部28、タイヤ横力取得部30、及びヨーモーメント算出部38が省略されている。
【0086】
重心慣性値算出部36Aは、重心慣性値算出部36と同様に、積載物104を含む車両全体100の重量Mall、慣性テンソルJall、及び車両全体100の重心CGallのz軸方向の位置hCGを算出する。さらに、重心慣性値算出部36Aは、車両全体100の重心CGallの位置100Aと、車両諸元DB34に記憶された各輪の配置の情報に基づいて、CGallに対する前方左右各輪のy軸方向の距離t及びtと、CGallに対する前後各輪のx軸方向の距離l及びlとを算出する。
【0087】
輪荷重変動推定部40Aは、輪荷重変動推定部40と同様に、CGallとロールセンタh間のz軸方向の距離(hCG-h)を算出する。そして、輪荷重変動推定部40Aは、前後加速度GxCGと、横加速度GyCGと、ロール角速度Pと、ピッチ角速度Qと、ヨー角速度Rと、ロール角加速度Pと、ピッチ角加速度Qと、ヨー角加速度Rと、車両全体100の重量Mallと、慣性テンソルJallと、CGallのz軸方向の位置hCGと、算出した(hCG-h)と、CGallに対する各輪のx及びy軸方向の距離t、t、l、lと、前後輪のロール合成配分α、αとを用いて、(15)式により、各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、ΔRL、及びΔRと、ヨーモーメントNとを推定する。
【0088】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。まず、第2実施形態の原理について説明する。第2実施形態では、前輪2つ、後輪1つの3輪のフォークリフトの各輪荷重を推定する場合について説明する。また、前提条件は第1実施形態と同様である。
【0089】
3輪のフォークリフトの場合、後輪は後軸中央に配置されるため、ロール挙動に寄与せず、ピッチ挙動のみに寄与することを考慮し、第1実施形態における(11)式を下記(17)式のように書き換える。
【0090】
【数13】
【0091】
また、第1実施形態における(12)式を、上記と同様に書き換えると、下記(18)式となる。
【0092】
【数14】
【0093】
また、(13)式の後輪荷重に関する記述(ΔRL+ΔRR)をΔRと置き直して(18)式に追加すると、下記(19)式となる。
【0094】
【数15】
【0095】
上記のように、3輪のフォークリフトの場合も、第1実施形態で説明した4輪のフォークリフトの場合と同様に、各輪荷重を推定することができる。
【0096】
次に、第2実施形態に係る輪荷重推定装置の構成について説明する。なお、第2実施形態に係る輪荷重推定装置において、第1実施形態に係る輪荷重推定装置10と同様の構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0097】
図10に示すように、第2実施形態に係る輪荷重推定装置210には、IMU112と、圧力センサ114と、エンコーダ116とが接続される。輪荷重推定装置210は、車両(フォークリフト)の任意の位置に設置される。
【0098】
図11に示すように、輪荷重推定装置210は、機能的には、前後加速度取得部12と、横加速度取得部14と、ロール角速度取得部16と、ピッチ角速度取得部18と、ヨー角速度取得部20とを含む。また、輪荷重推定装置210は、積載荷重取得部22と、積載位置取得部24と、リフト高取得部26とを含む。また、輪荷重推定装置210は、角加速度算出部32と、車両諸元DB34と、重心慣性値算出部236と、輪荷重変動推定部240と、輪荷重算出部242とを含む。
【0099】
重心慣性値算出部236は、第1実施形態における重心慣性値算出部36と同様に、積載物104を含む車両全体100の重量Mall、慣性テンソルJall、及び車両全体100の重心CGallのz軸方向の位置hCGを算出する。さらに、重心慣性値算出部236は、車両全体100の重心CGallの位置100Aと、車両諸元DB34に記憶された各輪の配置の情報に基づいて、CGallに対する前方左右各輪のy軸方向の距離t及びtと、CGallに対する前後各輪のx軸方向の距離l及びlとを算出する。
【0100】
輪荷重変動推定部240は、第1実施形態における輪荷重変動推定部40と同様に、CGallとロールセンタh間のz軸方向の距離(hCG-h)を算出する。そして、輪荷重変動推定部240は、前後加速度GxCGと、横加速度GyCGと、ロール角速度Pと、ピッチ角速度Qと、ヨー角速度Rと、ロール角加速度Pと、ピッチ角加速度Qと、ヨー角加速度Rと、車両全体100の重量Mallと、慣性テンソルJallと、CGallのz軸方向の位置hCGと、算出した(hCG-h)と、CGallに対する各輪のx及びy軸方向の距離t、t、l、lとを用いて、(19)式により、各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、及びΔRと、ヨーモーメントNとを推定する。
【0101】
輪荷重算出部242は、輪荷重変動推定部240により推定された各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、及びΔRと、車両諸元DB34に記憶された各輪の静荷重FLz0、FRz0、及びRz0との和により、各輪荷重FL、FR、及びRを算出する。そして、輪荷重算出部242は、算出した各輪荷重と、輪荷重変動推定部240により推定されたヨーモーメントNとを推定結果として出力する。
【0102】
第2実施形態に係る輪荷重推定装置210のハードウェア構成は、図6に示す、第1実施形態に係る輪荷重推定装置10のハードウェア構成と同様であるため、説明を省略する。
【0103】
次に、第2実施形態に係る輪荷重推定装置210の作用について説明する。フォークリフトが走行を開始すると、輪荷重推定装置210において、図12に示す輪荷重推定処理が実行される。なお、第2実施形態における輪荷重推定処理において、第1実施形態における輪荷重推定処理と同様の処理については、同一のステップ番号を付して、詳細な説明を省略する。
【0104】
ステップS10及びS12を経て、次のステップS214で、重心慣性値算出部236が、積載物104を含む車両全体100の重量Mall、慣性テンソルJall、車両全体100の重心CGallのz軸方向の位置hCG、CGallに対する前方左右各輪のy軸方向の距離t及びt、並びに、CGallに対する前後各輪のx軸方向の距離l及びlを算出する。
【0105】
次に、ステップS18及びS20を経て、次のステップS224で、輪荷重変動推定部240が、CGallとロールセンタh間のz軸方向の距離(hCG-h)を算出する。そして、輪荷重変動推定部240が、上記ステップS10~S20で取得又は算出されたGxCG、GyCG、P、Q、R、P、Q、R、Mall、Jall、hCG、t、t、l、lと、算出した(hCG-h)とを用いて、(19)式により、各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、及びΔRと、ヨーモーメントNとを推定する。
【0106】
次に、ステップS226で、輪荷重算出部242が、上記ステップS224で推定された各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、及びΔRと、静荷重FLz0、FRz0、及びRz0との和により、各輪荷重を算出し、上記ステップS224で推定されたヨーモーメントNと共に、推定結果として出力する。そして、処理はステップS12に戻り、フォークリフトが走行している間、ステップS12~S226の処理が繰り返し実行される。出力された輪荷重の推定結果は、第1実施形態と同様に、フォークリフトの転倒防止等の制御に利用され、出力されたヨーモーメントは、トルクベクタリング等の制御に利用される。
【0107】
以上説明したように、第2実施形態に係る輪荷重推定装置によれば、3輪のフォークリフトに対しても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0108】
<第2実施形態の変形例>
第2実施形態に係る輪荷重推定装置210において、ヨーモーメントを算出したうえで、輪荷重変動推定部240において、各輪荷重の変動分を推定してもよい。図13に、第2実施形態の変形例に係る輪荷重推定装置210Aの機能構成の一例を示す。以下、輪荷重推定装置210Aにおいて、輪荷重推定装置210と異なる点について説明する。なお、輪荷重推定装置210Aは、輪荷重推定装置10と同様に、操作量センサ118とも接続される(図5参照)。
【0109】
輪荷重推定装置210Aでは、第1実施形態に係る輪荷重推定装置10と同様に、タイヤ前後力取得部28、タイヤ横力取得部30A、及びヨーモーメント算出部38Aが含まれる。タイヤ横力取得部30Aは、操作量センサ118から出力された検出値を受け取り、検出値が示すアクセルペダル踏み込み量、ブレーキペダル踏み込み量に基づく制駆動力、操舵角、車速、ヨーレート等を、予め定義されたタイヤ特性に入力することにより、タイヤ横力FLFy、FRFy、RFyを取得する。
【0110】
ここで、図14に、前輪2つ、後輪1つの3輪のフォークリフトの場合における、(1)式のヨーモーメントNに関わる作用力を示す。ヨーモーメント算出部38Aは、図14に基づいて、(RLFy+RRFy)をRFyに置き換えた(10)式により、ヨーモーメントを算出する。
【0111】
輪荷重変動推定部240Aは、輪荷重変動推定部240と同様に、CGallとロールセンタh間のz軸方向の距離(hCG-h)を算出する。そして、輪荷重変動推定部240Aは、前後加速度GxCGと、横加速度GyCGと、ロール角速度Pと、ピッチ角速度Qと、ヨー角速度Rと、ロール角加速度Pと、ピッチ角加速度Qと、ヨー角加速度Rと、車両全体100の重量Mallと、慣性テンソルJallと、CGallのz軸方向の位置hCGと、算出した(hCG-h)と、CGallに対する各輪のx及びy軸方向の距離t、t、l、lと、ヨーモーメントNとを用いて、(17)式により、各輪荷重の変動分ΔFL、ΔFR、及びΔRを推定する。
【0112】
また、上記各実施形態では、エンコーダ116で検出した荷揚げ油圧モータの回転角からリフト高を取得する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、フォークにワイヤを設け、荷揚げ時のワイヤの長さの変化を計測することにより、リフト高を取得するようにしてもよい。また、各取得部により取得される他の値も、上記各実施形態の方法で取得される場合に限定されず、他の方法により取得されてもよい。
【0113】
また、上記各実施形態では、輪荷重推定装置をフォークリフトに搭載する場合について説明したが、これに限定されず、外部装置として構成してもよい。この場合、フォークリフトに、IMU112、圧力センサ114、エンコーダ116、及び操作量センサ118の各々の検出値を輪荷重推定装置へ送信する通信部を設け、外部装置として構成された輪荷重推定装置は、フォークリフトの通信部から送信された各種情報を取得して、上記各実施形態と同様の処理により輪荷重を推定してもよい。
【0114】
また、上記各実施形態では、車両がフォークリフトの場合について説明したが、本発明は、積載物を様々な状態で積載して走行する車両、例えばトラック等にも適用することができる。
【0115】
ここで、図15に、3輪のフォークリフトを用いて前進右旋回を行った場合の輪荷重推定結果の一例を示す。図15では、(19)式により各輪荷重を推定した推定値と、輪荷重を実際に計測した計測値とを比較している。図15に示すように、輪荷重の推定値と計測値とが略一致しており、精度良く輪荷重が推定できている。
【0116】
また、リフト高による慣性値変更の効果を確認した結果について説明する。図16は、積載荷重800kg、リフト高1.5m、後進制動で3輪のフォークリフトを走行させた場合に、各輪荷重を(19)式により推定した結果である。図16(A)は、実際のリフト高を考慮せず、リフト高を0.2mとして慣性テンソルJallを設定した場合であり、図16(B)は、実際のリフト高と同じ1.5mとして慣性テンソルJallを設定した場合である。図12に示すように、リフト高を0.2mに設定した場合のJallで輪荷重を推定した場合、推定誤差が大きい。一方、実際と同じリフト高1.5mに設定した場合のJallで輪荷重を推定した場合、推定誤差が小さい。このことから、リフト高に応じて慣性値を変更する効果が確認できる。
【0117】
次に、図17に、図15の場合と同様の走行を行った場合における、慣性乗積の考慮の有無による輪荷重の推定結果の比較について説明する。図16(A)が慣性乗積項無しの場合、図17(B)が慣性乗積項有りの場合である。いずれの場合も、慣性テンソルJall算出時のリフト高は1.5mとし、慣性乗積項の設定の影響のみを比較している。図17に示すように、慣性乗積項の設定により、輪荷重の推定誤差を小さくすることができる。なお、慣性乗積項無の場合でも、ある程度精度良く輪荷重が推定できるため、本発明は、慣性乗積を考慮することを必須とするものではない。なお、慣性乗積を考慮しない場合には、上記各実施形態において、慣性テンソルJallの非対角項を0とすればよい。
【0118】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した輪荷重推定処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、輪荷重推定処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0119】
また、上記各実施形態では、輪荷重推定プログラムが記憶装置に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、ブルーレイディスク、USBメモリ等の記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0120】
10、10A、210、210A 輪荷重推定装置
12 前後加速度取得部
14 横加速度取得部
16 ロール角速度取得部
18 ピッチ角速度取得部
20 ヨー角速度取得部
22 積載荷重取得部
24 積載位置取得部
26 リフト高取得部
28 タイヤ前後力取得部
30、30A タイヤ横力取得部
32 角加速度算出部
34 車両諸元DB
36、36A、236 重心慣性値算出部
38、38A ヨーモーメント算出部
40、40A、240、240A 輪荷重変動推定部
42、242 輪荷重算出部
44 通信I/F
52 CPU
54 メモリ
56 記憶装置
58 入力装置
60 出力装置
62 記憶媒体読取装置
66 バス
100 車両全体
102 車体
104 積載物
106 フォーク
108 アウターマスト
110 インナーマスト
114 圧力センサ
116 エンコーダ
118 操作量センサ
図1
図2
図3
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図5
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