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特開2022-644562-アセチル-1-ピロリンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064456
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】2-アセチル-1-ピロリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/20 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
C07D207/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173095
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 宗隆
(72)【発明者】
【氏名】小黒 大地
【テーマコード(参考)】
4C069
【Fターム(参考)】
4C069AB03
4C069BB02
4C069BB22
4C069CC05
(57)【要約】
【課題】2-アセチル-1-ピロリンを経済的かつ高収率で製造可能な2-アセチル-1-ピロリンの製造方法を提供する。
【解決手段】2-アセチル-1-ピロリンの製造方法は、(a)2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを酸化剤により酸化する工程、を含み、酸化剤が二酸化マンガンである。これにより、2-アセチル-1-ピロリンを経済的かつ高収率で製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを酸化剤により酸化する工程、
を含み、
前記酸化剤が二酸化マンガンである、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、
前記(a)工程を、20℃以上60℃未満で行う、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、
前記(a)工程では、無水硫酸マグネシウムまたは無水硫酸ナトリウムを前記酸化剤と併用する、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、
前記(a)工程では、珪藻土を前記酸化剤と併用する、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、
前記(a)工程では、反応溶媒としてエーテル系溶媒を用いる、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)で表される2-アセチル-1-ピロリンは、各種の天然植物精油の香気成分または米などの穀物もしくはその調理品に含まれる香気成分であることが知られている。2-アセチル-1-ピロリンは極めて特徴的な香りと非常に低い閾値を有していることから、食品等の香料素材として注目されている。
【0003】
【化1】
【0004】
一方で、2-アセチル-1-ピロリンは熱や酸素等により非常に分解されやすい不安定な化合物である。そのため、従来、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法についての研究がなされてきており、例えば特許文献1には、下記式(2)で表される2-アセチルピロールから水素化反応により下記式(3)で表される2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジン[別名:1-(ピロリジン-2-イル)エタノール]を得た後に、これを炭酸銀により酸化し、2-アセチル-1-ピロリンを得る方法が記載されている。
【0005】
【化2】
【0006】
【化3】
【0007】
特許文献2には、プロリンを出発原料として、エステル化反応、ハロゲン化反応、脱ハロゲン化水素反応およびグリニヤール反応を経て、2-アセチル-1-ピロリンを得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4522838号明細書
【特許文献2】特開2007-153785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載の製造方法は、収率が低く、かつ、貴金属を含む炭酸銀を酸化剤として用いており、反応に特殊な試薬を使用し操作が煩雑であるため経済的に有用でない。また、特許文献2に記載の製造方法は、プロリンを出発原料として、(1)エステル化反応、(2)ハロゲン化反応および脱ハロゲン化水素反応および(3)グリニヤール反応の工程を経て、2-アセチル-1-ピロリンのみを選択的に製造できるが、3工程で製造しており、工程数が多いため経済的に有用でない。
【0010】
以上より、本発明の課題は、2-アセチル-1-ピロリンを経済的かつ高収率で製造可能な2-アセチル-1-ピロリンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意研究したところ、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを二酸化マンガンにより酸化することで、2-アセチル-1-ピロリンを経済的かつ高収率で製造できることを見出した。
【0012】
かくして、本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0013】
[1] (a)2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを酸化剤により酸化する工程、を含み、前記酸化剤が二酸化マンガンである、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
[2] [1]に記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、前記(a)工程を、20℃以上60℃未満で行う、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
[3] [1]または[2]に記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、前記(a)工程では、無水硫酸マグネシウムまたは無水硫酸ナトリウムを前記酸化剤と併用する、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
[4] [1]~[3]のいずれか1つに記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、前記(a)工程では、珪藻土を前記酸化剤と併用する、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法において、前記(a)工程では、反応溶媒としてエーテル系溶媒を用いる、2-アセチル-1-ピロリンの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2-アセチル-1-ピロリンを経済的かつ高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味する。
【0016】
(2-アセチル-1-ピロリンの製造方法)
以下、本発明の一実施の形態に係る2-アセチル-1-ピロリンの製造方法(以下、本件製造方法という場合がある。)について、詳細に説明する。
【0017】
本件製造方法は、(a)2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを酸化剤により酸化する工程(以下、(a)酸化工程という。)、を含み、前記酸化剤が二酸化マンガンである。本件製造方法によれば、2-アセチル-1-ピロリンを経済的かつ高収率で製造することができる。
【0018】
ここで、本発明者らの検討の経緯について説明する。特許文献1には、炭酸銀を酸化剤とする2-アセチル-1-ピロリンの製造方法が記載されているが、特許文献1に記載の製造方法は、収率が低く、かつ、貴金属を含む炭酸銀を酸化剤として用いており経済的に有用でないという問題がある。そこで、本発明者らは、炭酸銀に代わる安価な酸化剤を検討した。従来、2-アセチル-1-ピロリンを酸化する場合には、特許文献1およびJ.Argic. Food Chem (1983)pp823-826に記載の炭酸銀を用いるもの、特開2014-073999に記載のアルミニウム触媒存在下カルボニル化合物を用いるもの、WO2010/149744に記載のデス-マーチン・ペルヨージナンを用いるもののみが公知であった。そこで、本発明者らは、炭酸銀に代わる酸化剤として(1)過マンガン酸カリウムを検討したところ、2-アセチル-1-ピロリンがわずかに得られたに過ぎず、副生成物が多く得られるという結果になった。
【0019】
そこで、本発明者らは、炭酸銀に代わる酸化剤として、過マンガン酸カリウムよりも温和であるものをスクリーニングした。より具体的には、(2)塩化鉄(III)、(3)臭化銅(II)およびカリウムtert-ブトキシド、(4)二酸化マンガン(酸化マンガン(IV))を検討した(詳細は後述の実施例参照。)。その結果、(2)および(3)を用いた場合は2-アセチル-1-ピロリンが得られないという結果になった。一方、(4)の二酸化マンガンを用いた場合は、後述の実施例に示すように、2-アセチル-1-ピロリンが高収率で得られることがわかった。
【0020】
従来、二酸化マンガンは、有機合成化学分野において比較的温和な酸化剤として知られており、アリルアルコール、ベンジルアルコール、プロパルギルアルコールのみが選択的に酸化され、それ以外のアルコールの酸化反応は非常に遅く、特に第二級アルコールを酸化するには基質が限定され、大過剰の酸化剤を用いて長時間を要するため経済的でないと考えられていた。また、含窒素環状化合物の酸化においても、二酸化マンガンを複素脂環式化合物から複素芳香族化合物への酸化は知られているものの、ピロリジンから1-ピロリンへの酸化に適用するのは知られていない。
【0021】
したがって、本発明者らが、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを酸化して2-アセチル-1-ピロリンを効率的に得るための酸化剤として、二酸化マンガンが適用できることを発見したのは実に驚くべきことである。以上の経緯により、本発明者らは、本件製造方法に思い至った。
【0022】
本件製造方法中の(a)酸化工程において、二酸化マンガンの使用量は特に限定されるものではないが、5~40当量の範囲が好ましく、10~20当量の範囲がより好ましい。このように二酸化マンガンの使用量を規定することにより、2-アセチル-1-ピロリンの収率を向上させることができる。
【0023】
本件製造方法において、(a)酸化工程の際の温度は、限定されるものではないが、(a)酸化工程を、20℃以上60℃未満で行うことが好ましい。後述の実施例に示すように、(a)酸化工程を室温(20~30℃。以下同じ。)未満(例えば0℃)で行うと、酸化反応が遅くなり反応時間が長く工業的に製造するには向いておらず、(a)酸化工程を60℃以上で行うと、加熱によって、目的物である2-アセチル-1-ピロリンが分解し、収率低下を招くおそれがあるためである。後述するように、使用する溶媒の沸点が当該温度範囲にある場合には、(a)酸化工程を加熱還流条件としてもよい。
【0024】
なお、本発明者らは、特許文献1に記載の2-アセチル-1-ピロリンの製造方法のように、酸化剤として炭酸銀を用いた場合には、本件製造方法のように20~60℃では反応が非常に遅く、例えば80℃で加熱還流することが適当であることを確認した。すなわち、本件製造方法は、従来の方法よりも低温で酸化反応を進行させることができるため、そのことが2-アセチル-1-ピロリンを分解することなく従来よりも高収率で製造できることにつながったものと考えられる。
【0025】
また、本件製造方法中の(a)酸化工程において、反応時間は特に限定されるものではなく、反応温度に応じて適宜調整することができるが、工業的(ラージスケール)の場合には、1~40時間の範囲が好ましい。高収率で2-アセチル-1-ピロリンを得るためには、(a)酸化工程において、室温(20~30℃)で4~16時間反応させることが好適である。
【0026】
また、本件製造方法において、(a)酸化工程では、無水硫酸マグネシウムまたは無水硫酸ナトリウム(以下、無水硫酸マグネシウム等という。)を前記酸化剤と併用することが好ましい。こうすることで、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを酸化して2-アセチル-1-ピロリンを得る際に副生成物として生じる水を無水硫酸マグネシウム等がトラップして、酸化反応を促進できる。さらに、(a)酸化工程は固液反応であるが、無水硫酸マグネシウム等を二酸化マンガンと併用することにより、二酸化マンガンが無水硫酸マグネシウム等に担持されるため、二酸化マンガンの分散性を確保することができる。その結果、本件製造方法をスケールアップした場合において、(a)酸化工程のスケール依存性を軽減することができる。
【0027】
本件製造方法中の(a)酸化工程において、無水硫酸マグネシウム等の使用量は特に限定されるものではないが、通常、反応基質の質量に対して、通常0.2~5倍量の範囲、好ましくは0.5~2倍量の範囲から適宜選択される。
【0028】
また、本件製造方法において、(a)酸化工程では、珪藻土を前記酸化剤と併用することが好ましい。前述したように、(a)酸化工程は固液反応であるが、珪藻土を二酸化マンガンと併用することにより、二酸化マンガンが珪藻土に担持されるため、二酸化マンガンの分散性を確保することができる。その結果、本件製造方法をスケールアップした場合において、(a)酸化工程のスケール依存性を軽減することができる。
【0029】
本件製造方法中の(a)酸化工程において、珪藻土の使用量は特に限定されるものではないが、反応基質の質量に対して、通常0.2~5倍量の範囲、好ましくは0.5~2倍量の範囲から適宜選択される。珪藻土の例としては、セライト(登録商標)が挙げられる。
【0030】
また、本件製造方法において、(a)酸化工程における溶媒は特に限定されるものではないが、溶媒としては非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル(以下、CPMEという。)またはメチルtert-ブチルエーテル(以下、MTBEという。)が挙げられ、中でもジエチルエーテル、CPMEおよびMTBE等のエーテル系溶媒がより好ましく、MTBEが最も好ましい。(a)酸化工程の溶媒としての適合性は、(i)沸点が前述した(a)酸化工程の好ましい反応温度の範囲内またはそれ以上であり、反応を十分に進行させることができること、(ii)沸点が低く、反応後の溶媒回収時に目的物の留出を防げること、(iii)反応に影響されない(具体的には酸化されない)ことの主に3つの観点から検討した。この点、ジエチルエーテルは、その沸点(34.6℃)が(a)酸化工程の好ましい反応温度の範囲内であり、沸点が比較的低く溶媒回収時に目的物のロスが少ないため、好ましい。CPMEは、その沸点(沸点106℃)が(a)酸化工程の好ましい反応温度以上であり、過酸化物が生じにくく安定性が高いため、好ましい。MTBEは、その沸点(沸点55.2℃)が(a)酸化工程の好ましい反応温度以上であり、その沸点が比較的低く溶媒回収時に目的物のロスが少なく、さらに、過酸化物が生じにくく安定性が高いため、より好ましい。
【0031】
本件製造方法中の(a)酸化工程において、溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、溶媒の使用量は、通常0.5~100倍容量(倍容量=溶媒[mL]/反応基質[g]、以下同様。)、好ましくは3~20倍容量の範囲から適宜選択される。
【0032】
本件製造方法において、原料である2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンは、任意の方法で入手することができるが、一例として、2-アセチルピロールを水素化(還元)して、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを得る(以下、(b)水素化工程という。)ことができる。本件製造方法では、必要に応じて、(b)水素化工程を(a)酸化工程の前に含めてもよい。
【0033】
(b)水素化工程は、水素化触媒を用いることが好ましい。水素化触媒としては、特に限定されないが、不均一系触媒であるロジウムアルミナ、ロジウムカーボンが好ましく、5%ロジウムカーボンがより好ましい。また、(b)水素化工程は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、特に限定されないが、プロトン性溶媒が好ましい。具体的にはギ酸、n-ブタノール、2-プロパノール、ニトロメタン、エタノール、メタノール、酢酸、水が挙げられる。中でもアルコール類が好ましく、エタノールがより好ましい。溶媒の使用量は、通常0.5~100倍容量、好ましくは1~10倍容量の範囲から適宜選択される。
【0034】
(b)水素化工程の反応温度は例えば25~100℃であり、好ましくは50~60℃である。(b)水素化工程の反応時間は例えば8~77時間であり、好ましくは8~16時間である。(b)水素化工程の水素圧は例えば0.1~10MPaであり、好ましくは2~4MPaである。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンの合成例
2-アセチルピロール50gと5%Rhカーボン粉末(含水品)5gをオートクレーブに入れ、窒素置換した後にエタノール200mLを投入した。その後、オートクレーブ内を水素で置換し、水素圧3MPa、50℃の条件下で8時間撹拌した。ろ過により固形物を除去し、エタノール100mLを用いて反応溶液を回収して、減圧下にて濃縮し、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジン(収率78%)を得た。
【0037】
[実施例2]2-アセチル-1-ピロリンの合成例(ラボスケール)
50mL二口フラスコに対し、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジン0.57g、メチルtert-ブチルエーテル20mLを加え、窒素雰囲気下とした。二酸化マンガン4.35gを加え、室温(20~30℃)下4時間撹拌した後、反応液を濾過しGC(ガスクロマトグラフィー)分析した。その後、反応液から溶媒を留去した後減圧蒸留することにより、2-アセチル-1-ピロリンを得た(0.064g,単離収率12%)。得られた2-アセチル-1-ピロリンは、1%トリアセチン溶液として60日以上安定して存在することを確認した。
【0038】
[実施例3]2-アセチル-1-ピロリンの合成例(ラージスケール)
5L四口フラスコに、二酸化マンガン(434.7g)、無水硫酸マグネシウム(120.4g)、セライト(登録商標)(115.2g)およびMTBE(2.5L)を入れ、窒素雰囲気下とした。フラスコ中の撹拌したスラリーに対し、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジン(57.6g)のMTBE(100mL)溶液を滴下し、室温で10時間撹拌した。反応液を濾過しGC分析(装置:SHIMADZU社製 GC-2014 カラム:ジーエルサイエンス社製 TC-1)したところ、36%の原料残留が認められた。5L四口フラスコに対し再度二酸化マンガン(434.7g)、無水硫酸マグネシウム(120.4g)およびセライト(登録商標、115.2g)を加え、窒素雰囲気下6時間撹拌した。反応液を濾過しGC分析したところ原料の消失を確認した。反応液から溶媒を留去した後減圧蒸留することにより、2-アセチル-1-ピロリンを得た(6.44g,単離収率12%)。得られた2-アセチル-1-ピロリンは、1%トリアセチン溶液として60日以上安定して存在することを確認した。
【0039】
[実施例4]酸化剤の種類の検討
2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを酸化して2-アセチル-1-ピロリンを得る場合における酸化剤の種類について検討した。
【0040】
<サンプル4-1>
50mL二口フラスコに対し、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジン(0.57g)、MTBE(20mL)を加え窒素雰囲気下とした。ここに、二酸化マンガン(4.35g)を加え、加熱還流下4時間撹拌した後、反応液を濾過し、2-アセチル-1-ピロリンを得た。
【0041】
<サンプル4-2>
反応条件を加熱還流下ではなく室温とした以外は、サンプル4-1と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0042】
<サンプル4-3>
酸化剤として二酸化マンガンの代わりに炭酸銀を用い、溶媒としてMTBEの代わりにシクロヘキサンを用いた以外は、サンプル4-1と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。なお、炭酸銀はセライト(登録商標)担持されたものを3.4g用いた。
【0043】
<サンプル4-4>
反応条件を加熱還流下でなく室温とした以外は、サンプル4-3と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0044】
<サンプル4-5>
酸化剤として二酸化マンガンの代わりに過マンガン酸カリウムを用い、溶媒としてMTBEの代わりにアセトンを用いた以外は、サンプル4-2と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。なお、過マンガン酸カリウムは1.8g用いた。
【0045】
<サンプル4-6>
酸化剤として二酸化マンガンの代わりに塩化鉄(III)を用い、溶媒としてMTBEの代わりにシクロヘキサンを用いた以外は、サンプル4-2と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。なお、塩化鉄(III)は4.1g用いた。
【0046】
<サンプル4-7>
酸化剤として二酸化マンガンの代わりに臭化銅(II)および添加剤としてカリウムtert-ブトキシドを用い、溶媒としてMTBEの代わりにテトラヒドロフランを用いた以外は、サンプル4-2と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。なお、臭化銅(II)は6.6g、およびカリウムtert-ブトキシドは2.8g用いた。
【0047】
以上のサンプル4-1~4-7の酸化剤、溶媒、温度および結果を表1にまとめた。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、サンプル4-1,4-2では、サンプル4-3(特許文献1に記載の方法に相当)に比べて収率が向上していることが確認できた。サンプル4-2は、サンプル4-1に比べて収率が高く、かつ加熱による不純物生成がなく純度が高いことが判明している。
【0050】
また、表1に示すように、サンプル4-4は、サンプル4-3を加熱還流下ではなく室温下としたものであるが、反応が遅く目的物はほとんど得られなかった。このことから、酸化剤を炭酸銀ではなく二酸化マンガンとするメリットとして、室温で反応させることができるため、加熱による不純物生成がなく、純度を高められることが挙げられる。
【0051】
表1に示すように、サンプル4-5は、酸化剤を過マンガン酸カリウムとしたものであるが、2-アセチル-1-ピロリンがわずかに得られたに過ぎず、副生成物が多く得られるという結果になった。
【0052】
また、表1に示すように、サンプル4-6は、酸化剤を塩化鉄(III)としたものであり、サンプル4-7は、酸化剤を臭化銅(II)としたものであるが、いずれの場合も2-アセチル-1-ピロリンが得られないという結果になった。
【0053】
以上より、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを二酸化マンガンにより酸化することで、2-アセチル-1-ピロリンを高収率で得られることがわかった。
【0054】
[実施例5]溶媒・反応温度・反応時間の検討
2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを二酸化マンガンにより酸化して2-アセチル-1-ピロリンを得る場合における、溶媒、反応温度および反応時間を検討した。
【0055】
<サンプル5-1>
50mL二口フラスコに対し、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジン(0.57g)、シクロヘキサン(20mL)を加え窒素雰囲気下とした。ここに、二酸化マンガン(4.35g)を加え、0℃で3時間撹拌して、2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0056】
<サンプル5-2>
反応条件を0℃ではなく室温として、反応時間を4時間とした以外は、サンプル5-1と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0057】
<サンプル5-3>
溶媒をシクロヘキサンではなくヘキサンとし、反応温度を加熱還流下とし、反応時間を4時間とした以外は、サンプル5-1と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0058】
<サンプル5-4>
溶媒をシクロヘキサンではなくMTBEとし、反応温度を室温とし、反応時間を10時間とした以外は、サンプル5-1と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0059】
<サンプル5-5>
反応温度を加熱還流下とし、反応時間を4時間とした以外は、サンプル5-4と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0060】
<サンプル5-6>
溶媒をMTBEではなくCPMEとした以外は、サンプル5-4と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0061】
<サンプル5-7>
反応温度を加熱還流下とし、反応時間を4時間とした以外は、サンプル5-6と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0062】
<サンプル5-8>
溶媒をMTBEではなくジエチルエーテルとした以外は、サンプル5-4と同様の方法により2-アセチル-1-ピロリンの合成を試みた。
【0063】
以上のサンプル5-1~5-8の溶媒およびその沸点、反応温度、反応時間および収率を表2にまとめた。
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示すように、サンプル5-1~5-8では、表1のサンプル4-3(特許文献1に記載の方法に相当)に比べて収率が向上しており、酸化剤に二酸化マンガンを用いた場合には、溶媒の種類による問題は特に発見できなかった。
【0066】
サンプル5-2,5-5,5-6,5-8がサンプル5-1,5-3,5-7よりも高収率となったのは、反応温度の適切な範囲が20℃(室温)以上60℃(MTBEの加熱還流温度)未満であることを示している。すなわち、これらの結果から、サンプル5-1のように反応温度が0℃であると反応が遅くなること、および、サンプル5-3のように68℃で加熱還流すると分解され収率低下を招くことがわかる。なお、溶媒の沸点が高いと、GC収率が高い場合でも溶媒除去の際に溶媒とともに留去され収率が低下する可能性がある。このことから、2-(1-ヒドロキシエチル)ピロリジンを二酸化マンガンにより酸化する際の溶媒は、MTBEが適しているとわかった。