(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064520
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】予冷装置、極低温装置および予冷方法
(51)【国際特許分類】
H01L 39/04 20060101AFI20220419BHJP
F25B 9/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01L39/04
F25B9/00 Z ZAA
F25B9/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173206
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【テーマコード(参考)】
4M114
【Fターム(参考)】
4M114AA40
4M114BB04
4M114BB07
4M114BB10
4M114CC03
4M114CC12
4M114CC16
4M114DA03
4M114DA15
(57)【要約】
【課題】被冷却物への入熱を抑制する予冷装置を提供する。
【解決手段】予冷装置100は、極低温冷凍機20によって冷却される被冷却物を予冷する。予冷装置100は、内部に貯留される液体冷媒によって被冷却物を冷却する液体冷媒貯留部110を備える。液体冷媒貯留部110は、冷却位置と待機位置との間で移動可能であり、冷却位置にあるとき被冷却物を液体冷媒によって冷却し、待機位置にあるとき極低温冷凍機20から被冷却物への伝熱経路から物理的に離れて配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温冷凍機によって冷却される被冷却物を予冷する予冷装置であって、
内部に貯留される液体冷媒によって前記被冷却物を冷却する液体冷媒貯留部を備え、
前記液体冷媒貯留部は、冷却位置と待機位置との間で移動可能であり、前記冷却位置にあるとき前記被冷却物を前記液体冷媒によって冷却し、前記待機位置にあるとき前記極低温冷凍機から前記被冷却物への伝熱経路から物理的に離れて配置されることを特徴とする予冷装置。
【請求項2】
前記極低温冷凍機は、第1冷却温度に冷却される第1冷却ステージと、前記被冷却物と熱的に結合され、前記第1冷却温度よりも低い第2冷却温度に冷却される第2冷却ステージと、を備え、
前記液体冷媒貯留部は、前記冷却位置にあるとき前記第2冷却ステージから前記被冷却物への前記伝熱経路に物理的に接触することを特徴とする請求項1に記載の予冷装置。
【請求項3】
前記液体冷媒貯留部は、前記待機位置にあるとき前記第1冷却ステージまたは前記第1冷却ステージと熱的に結合された部材に物理的に接触することを特徴とする請求項2に記載の予冷装置。
【請求項4】
前記第1冷却ステージまたは前記部材には開口部が設けられ、
前記液体冷媒貯留部は、前記待機位置にあるとき前記開口部を塞ぐようにして前記第1冷却ステージまたは前記部材に物理的に接触することを特徴とする請求項3に記載の予冷装置。
【請求項5】
前記液体冷媒貯留部は、可撓性伝熱要素を介して前記第1冷却ステージと熱的に結合されていることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の予冷装置。
【請求項6】
液体冷媒口を前記液体冷媒貯留部の下部に有し、前記液体冷媒口を通じて前記液体冷媒が前記液体冷媒貯留部から排出されるように前記液体冷媒貯留部に接続されている液体冷媒配管と、
前記液体冷媒貯留部に接続されているガス配管であって、前記液体冷媒を前記液体冷媒貯留部から排出するためのパージガスが前記液体冷媒貯留部に供給されるようにパージガス源に接続可能であるガス配管と、をさらに備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の予冷装置。
【請求項7】
前記液体冷媒配管は、前記液体冷媒が前記液体冷媒口を通じて前記液体冷媒貯留部に供給されるように液体冷媒源に接続可能であり、
前記ガス配管は、前記液体冷媒貯留部で気化した液体冷媒の前記液体冷媒貯留部からの排出経路として設けられていることを特徴とする請求項6に記載の予冷装置。
【請求項8】
閉鎖により前記液体冷媒貯留部への流体の流入を遮断する真空バルブが、前記液体冷媒貯留部に接続されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の予冷装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の予冷装置と、前記極低温冷凍機と、を備え、
前記極低温冷凍機は、前記被冷却物を伝導冷却により冷却するように前記被冷却物と熱的に結合されていることを特徴とする極低温装置。
【請求項10】
極低温冷凍機によって冷却される被冷却物の予冷方法であって、
前記被冷却物を冷却する冷却位置に液体冷媒貯留部を移動させることと、
前記液体冷媒貯留部に液体冷媒を供給することと、
前記液体冷媒貯留部に前記液体冷媒を貯留することによって前記被冷却物を冷却することと、
前記被冷却物の冷却後に、前記液体冷媒貯留部から前記液体冷媒を排出することと、
前記被冷却物の冷却後に、前記極低温冷凍機から前記被冷却物への伝熱経路から物理的に離れた待機位置に前記液体冷媒貯留部を移動させることと、を備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予冷装置、極低温装置および予冷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クライオスタットに、極低温冷凍機を用いて冷媒ガスにより被冷却物を冷却する主冷却系統と、極低温液体を用いて被冷却物を冷却する副冷却系統を設けた極低温冷却装置が知られている。被冷却物が極低温に冷却されている場合などの極低温冷却装置が通常の運転状態のときには主冷却系統によって被冷却物が冷却される。極低温冷却装置の運転開始時など被冷却物の温度が上昇しており極低温までの冷却が必要である場合には主冷却系統と副冷却系統によって被冷却物が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の極低温冷却装置では、通常の運転状態で副冷却系統は動作しないから、副冷却系統を構成する極低温液体の配管は、周囲環境を被冷却物につなぐ伝熱経路として働き、この配管を通じた被冷却物への入熱は、極低温に維持されるべき被冷却物の温度を上昇させうる。また、この入熱は主冷却系統にとって熱負荷となり、被冷却物の温度上昇を抑えるために、主冷却系統にはより高い冷却能力が求められることになる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、被冷却物への入熱を抑制する予冷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機によって冷却される被冷却物を予冷する予冷装置は、内部に貯留される液体冷媒によって被冷却物を冷却する液体冷媒貯留部を備え、液体冷媒貯留部は、冷却位置と待機位置との間で移動可能であり、冷却位置にあるとき被冷却物を液体冷媒によって冷却し、待機位置にあるとき極低温冷凍機から被冷却物への伝熱経路から物理的に離れて配置される。
【0007】
本発明のある態様によると、極低温装置は、上述の態様の予冷装置と、極低温冷凍機と、を備え、極低温冷凍機は、被冷却物を伝導冷却により冷却するように被冷却物と熱的に結合されている。
【0008】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機によって冷却される被冷却物の予冷方法は、被冷却物を冷却する冷却位置に液体冷媒貯留部を移動させることと、液体冷媒貯留部に液体冷媒を供給することと、液体冷媒貯留部に液体冷媒を貯留することによって被冷却物を冷却することと、被冷却物の冷却後に、液体冷媒貯留部から液体冷媒を排出することと、被冷却物の冷却後に、極低温冷凍機から被冷却物への伝熱経路から物理的に離れた待機位置に液体冷媒貯留部を移動させることと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、被冷却物への入熱を抑制する予冷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る極低温装置を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係る予冷方法を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係る予冷方法を概略的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係る予冷方法を概略的に示す図である。
【
図5】実施の形態に係る予冷方法を概略的に示す図である。
【
図6】実施の形態に係る予冷装置の他の例を概略的に示す図である。
【
図7】実施の形態に係る予冷装置の他の例を概略的に示す図である。
【
図8】実施の形態に係る予冷装置の他の例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、実施の形態に係る極低温装置10を概略的に示す図である。極低温装置10は、被冷却物の一例としての超伝導コイル12を室温から極低温に冷却するとともに、超伝導コイル12の使用中、超伝導コイル12を極低温に維持するように構成される。また、極低温装置10は、超伝導コイル12を予冷する予冷装置100を備える。
【0013】
超伝導コイル12は、例えばNMRシステム、MRIシステム、サイクロトロンなどの加速器、核融合システムなどの高エネルギー物理システム、またはその他の高磁場利用機器(図示せず)の磁場源として高磁場利用機器に搭載され、その機器に必要とされる高磁場を発生させることができる。超伝導コイル12は、超伝導転移温度以下の極低温に冷却された状態で超伝導コイル12に通電することにより強力な磁場を発生するように構成される。
【0014】
極低温装置10は、極低温冷凍機20と、真空容器30と、輻射熱シールド40とを備える。この実施の形態では、極低温装置10は、超伝導コイル12を液体ヘリウムなどの極低温液体冷媒に浸して冷却する浸漬冷却式ではなく、超伝導コイル12を極低温冷凍機20で直接冷却する伝導冷却式として構成される。極低温冷凍機20は、超伝導コイル12を伝導冷却により冷却するように超伝導コイル12と熱的に結合されている。なお、
図1では例として、1台の極低温冷凍機20を示しているが、例えば超伝導コイル12が大型の場合など、必要に応じて、極低温装置10は、一つの同じ被冷却物を冷却する複数台の極低温冷凍機20を備えてもよい。
【0015】
極低温冷凍機20は、物体を伝導冷却により冷却する冷却ステージ22、より具体的には、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bを備える。極低温冷凍機20は、真空容器30に設置され、第1冷却ステージ22aと第2冷却ステージ22bは、真空容器30の中に配置される。
【0016】
極低温冷凍機20は、作動ガス(たとえばヘリウムガス)の圧縮機(図示せず)と、コールドヘッドとも呼ばれる膨張機とを備え、圧縮機と膨張機により極低温冷凍機20の冷凍サイクルが構成され、それにより第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bがそれぞれ所望の極低温に冷却される。第1冷却ステージ22aは、第1冷却温度、例えば30K~80Kに冷却され、第2冷却ステージ22bは、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~20Kに冷却される。第2冷却温度は、超伝導コイル12の超伝導転移温度より低い温度である。第1冷却ステージ22aおよび第2冷却ステージ22bは、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0017】
極低温冷凍機20は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。所望の冷却温度を提供できるのであれば、極低温冷凍機20は、単段式のGM冷凍機またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0018】
真空容器30は、真空領域32を外部環境14から隔てるように構成される。真空領域32は、真空容器30内に定められる。真空容器30は、例えばクライオスタットであってもよい。超伝導コイル12、極低温冷凍機20の冷却ステージ22、輻射熱シールド40は、真空領域32に配置され、外部環境14から真空断熱される。
【0019】
例示的な構成として、真空容器30は、上壁30a、側壁30b、下壁30cを有する。真空容器30は、床面16に設置されてもよく、例えば、真空容器30の下壁30cが適宜の支持部材34を介して床面16に設置されてもよい。
【0020】
輻射熱シールド40は、第1冷却ステージ22aと熱的に結合され第1冷却温度に冷却される。輻射熱シールド40は、第2冷却温度に冷却される超伝導コイル12、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22b、およびその他の低温部を囲むように配置され、外部からの輻射熱からこれら低温部を熱的に保護することができる。輻射熱シールド40は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。
【0021】
輻射熱シールド40は、第1冷却ステージ22aに直接取り付けられ、第1冷却ステージ22aと熱的に結合される。あるいは、輻射熱シールド40は、可撓性または剛性をもつ伝熱部材を介して第1冷却ステージ22aに取り付けられてもよい。
【0022】
超伝導コイル12は、伝熱部材24を介して第2冷却ステージ22bと熱的に結合される。一例として、伝熱部材24は、
図1に示されるように、超伝導コイル12の底面に取り付けられるが、超伝導コイル12の側面または上面など他の部位に取り付けられてもよい。伝熱部材24は、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよく、銅などの高熱伝導材料で形成されてもよい。伝熱部材24は、例えばロッド状またはプレート状など、剛性の伝熱部材であってもよい。あるいは、超伝導コイル12は、伝熱部材24を介することなく、第2冷却ステージ22bに直接取り付けられてもよい。
【0023】
超伝導コイル12の表面には、追加の伝熱部材が装着されてもよい。例えば、
図1に示されるように、超伝導コイル12の上面に装着されるコイル上面伝熱プレート26aと、超伝導コイル12の外周面に装着されるコイル側面伝熱プレート26bが設けられてもよい。超伝導コイル12の内周面に伝熱プレートが設けられてもよい。こうした追加の伝熱部材は、伝熱部材24を介して、または直接に、第2冷却ステージ22bと熱的に結合されてもよい。
【0024】
次に、予冷装置100について説明する。予冷装置100は、真空容器30内に配置された可動式の液体冷媒貯留部110と、真空容器30の外からの操作により液体冷媒貯留部110を真空容器30内で移動させるための移動機構120と、液体冷媒貯留部110に接続され真空容器30外へと引き出されている液体冷媒配管130およびガス配管140と、を備える。
【0025】
詳細は後述するが、液体冷媒貯留部110は、真空容器30内において冷却位置と待機位置との間で移動可能であり、冷却位置にあるとき超伝導コイル12を液体冷媒によって冷却し、待機位置にあるとき極低温冷凍機20から超伝導コイル12への伝熱経路から物理的に離れて配置される。
【0026】
図1では、液体冷媒貯留部110は、待機位置にある。図示されるように、この実施の形態では、待機位置にあるとき、液体冷媒貯留部110は、輻射熱シールド40に物理的に接触し、より具体的には、輻射熱シールド40に設けられた開口部42を塞ぐようにして輻射熱シールド40に物理的に接触する。液体冷媒貯留部110は、待機位置にあるとき、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22b、伝熱部材24、超伝導コイル12、または第2冷却温度に冷却されるその他の部材と接触しないように配置される。
【0027】
液体冷媒貯留部110は、冷却位置にあるとき第2冷却ステージ22bから超伝導コイル12への伝熱経路に物理的に接触する。この伝熱経路は、第2冷却ステージ22b、超伝導コイル12、これらをつなぐ伝熱部材24、およびこれら部材のいずれかと熱的に結合され第2冷却温度に冷却される部位を含みうる。
【0028】
液体冷媒貯留部110は、一例として、液体冷媒(例えば液体窒素)を内部に貯留することのできる液体冷媒タンクとして構成され、タンク上壁110a、タンク側壁110b、タンク底壁110cを有する。待機位置では、液体冷媒貯留部110は、例えばタンク上壁110a(及び/またはタンク側壁110bの上部)の外周部が開口部42を塞ぐようにして輻射熱シールド40に接触する。また、冷却位置では、液体冷媒貯留部110は、タンク底壁110cが伝熱部材24と接触する。この液体冷媒タンクは、例えば、ステンレス鋼またはその他適宜の金属材料で形成されている。
【0029】
液体冷媒貯留部110は、他の部材と接触したとき当該部材との接触熱抵抗を小さくするために、その外表面の少なくとも一部が伝熱層112で被覆されていてもよい。伝熱層112は、伝熱部材24など第2冷却温度に冷却される部材と接触する液体冷媒貯留部110の外表面、この実施の形態では例えばタンク底壁110cに設けられていてもよい。伝熱層112は、液体冷媒貯留部110を形成する材料よりも熱伝導率が高い材料(例えば銅などの高熱伝導の金属材料)で形成されたシートまたはプレートであってもよい。あるいは、伝熱層112は、例えばインジウムなど、液体冷媒貯留部110を形成する材料よりも熱伝導率が高い軟質金属で形成されたシートまたはプレートであってもよい。
【0030】
液体冷媒貯留部110は、液体冷媒配管130を通じて、真空容器30外の液体冷媒源(例えば、
図2に示されるデュワー150)から液体冷媒を受入可能であるとともに、液体冷媒を排出可能である。また、液体冷媒貯留部110は、ガス配管140を通じて、液体冷媒貯留部110で気化した液体冷媒を外部環境14に排出可能である。後述するが、液体冷媒貯留部110は、ガス配管140を通じて、液体冷媒を液体冷媒貯留部110から排出するためのパージガスを受入可能である。
【0031】
移動機構120は、操作部材121と、支持構造122とを備える。操作部材121は、真空容器30内において輻射熱シールド40を貫通している。輻射熱シールド40の開口部42は、操作部材121を通すために設けられている。操作部材121の一端(この実施の形態では下端)には液体冷媒貯留部110が固定される一方、操作部材121の他端(例えば上端)には支持構造122が設けられる。操作部材121の一端は例えば、タンク上壁110aに固定される。操作部材121は、支持構造122によって真空容器30の壁(例えば上壁30a)に支持され、液体冷媒貯留部110を移動させるように真空容器30の外から操作可能である。
【0032】
操作部材121は、たとえば繊維強化プラスチック(FRP)などの断熱材料で形成される。あるいは、操作部材121は、たとえばステンレス鋼など、極低温装置10において伝熱経路を形成する高熱伝導材料よりも熱伝導率が小さい材料で形成されてもよい。操作部材121は、例えば、直線的に延在するロッドである。操作部材121は、中実のロッドであってもよい。あるいは、操作部材121は、中空構造を有してもよい。この場合、操作部材121が中実のロッドである場合に比べて、操作部材121の断面積が小さくなり、操作部材121を通じた熱伝導による真空容器30の外部環境から真空容器30内の低温部への侵入熱を低減することができる。
【0033】
支持構造122は、ベローズ123と支持フランジ124を有する。ベローズ123は真空容器30の壁(例えば上壁30a)を支持フランジ124に接続する。ベローズ123内において、操作部材121は支持フランジ124に固定されている。操作部材121は、真空容器30の壁に形成された挿通孔を通じて支持フランジ124から真空容器30内に延出している。支持フランジ124は、操作部材121を真空容器30の外から操作するために設けられた操作部材121の一部分であるとみなされてもよい。
【0034】
支持構造122には、支持フランジ124を移動させるように構成される加圧装置125が設けられてもよい。加圧装置125を利用して真空容器30の外から操作部材121を操作することができる。加圧装置125は、例えば押しねじ式などの可動機構を有してもよく、この可動機構を手動により作動させて支持フランジ124を移動させてもよい。可動機構を作動させるために、加圧装置125は、油圧、空圧、電動モーター、電磁石など適宜の駆動源を有してもよい。
【0035】
液体冷媒配管130は、液体冷媒貯留部110内に液体冷媒口131を有する。液体冷媒口131は、液体冷媒貯留部110内に配置された液体冷媒配管130の管端部であってもよい。液体冷媒配管130は、液体冷媒が液体冷媒口131を通じて液体冷媒貯留部110に供給されるように液体冷媒源に接続可能である。
【0036】
液体冷媒配管130は、液体冷媒口131から液体冷媒貯留部110内を延び、例えばタンク上壁110a、またはタンク側壁110bの上部で液体冷媒貯留部110を気密に貫通して、液体冷媒貯留部110の外へと続く。液体冷媒貯留部110から外に延びる液体冷媒配管130は、輻射熱シールド40の開口部42を通じて輻射熱シールド40の外に引き出され、さらに真空容器30(例えば上壁30a)を貫通して外部環境14へと引き出されている。液体冷媒配管130は、真空フィードスルー配管であってもよい。液体冷媒配管130は、真空容器30の外で液体冷媒源に接続されることができる。
【0037】
この実施の形態では、液体冷媒配管130は、液体冷媒貯留部110への液体冷媒の供給だけでなく、液体冷媒貯留部110からの液体冷媒の回収にも使用される。液体冷媒配管130は、液体冷媒口131を通じて液体冷媒が液体冷媒貯留部110から排出されるように液体冷媒貯留部110に接続される。
【0038】
1つの液体冷媒配管130を液体冷媒の供給と回収の両方に使用することにより、供給管と回収管をそれぞれ設ける場合に比べて、予冷装置100の構造を簡素にすることができる。また、こうした配管は予冷装置100が使用されていないとき外部環境14から真空容器30内への入熱経路となりうるが、1つの液体冷媒配管130を用いることにより、配管を通じた入熱量を低減することができる。
【0039】
ガス配管140は、液体冷媒貯留部110内にガス口141を有する。ガス口141は、液体冷媒貯留部110に開口したガス出入口であってもよく、液体冷媒貯留部110の上部に配置され、例えば、タンク上壁110a、またはタンク側壁110bの上部に設けられていてもよい。ガス配管140は、液体冷媒貯留部110で気化した液体冷媒の液体冷媒貯留部110からの排出経路として設けられている。液体冷媒貯留部110から外に延びるガス配管140は、輻射熱シールド40の開口部42を通じて輻射熱シールド40の外に引き出され、さらに真空容器30(例えば上壁30a)を貫通して外部環境14へと引き出されている。ガス配管140は、真空フィードスルー配管であってもよい。
【0040】
また、液体冷媒貯留部110には、第1真空バルブ132と第2真空バルブ142が接続されている。第1真空バルブ132は、真空容器30の外で液体冷媒配管130に設けられ、第2真空バルブ142は、真空容器30の外でガス配管140に設けられている。第1真空バルブ132と第2真空バルブ142はそれぞれ、閉鎖により液体冷媒貯留部110への流体の流入を遮断し、液体冷媒貯留部110の内部が真空であるとき液体冷媒貯留部110を真空保持することができる。第1真空バルブ132が開かれたときには液体冷媒配管130での液体冷媒流れが許容され、第2真空バルブ142が開かれたときにはガス配管140でのガス流れが許容される。
【0041】
図2から
図5は、実施の形態に係る予冷方法を概略的に示す図である。実施の形態に係る予冷方法は、超伝導コイル12を冷却する冷却位置に液体冷媒貯留部110を移動させることと、液体冷媒貯留部110に液体冷媒190を供給することと、液体冷媒貯留部110に液体冷媒190を貯留することによって超伝導コイル12を冷却することと、超伝導コイル12の冷却後に、液体冷媒貯留部110から液体冷媒190を排出することと、超伝導コイル12の冷却後に、極低温冷凍機20から超伝導コイル12への伝熱経路から物理的に離れた待機位置に液体冷媒貯留部110を移動させることと、を備える。
【0042】
この予冷方法を開始する前に、
図2に示されるように、デュワー150、真空ポンプ160、パージガス源180など、予冷方法に使用される予冷装置100の付属品が予冷装置100に取り付けられる。
【0043】
デュワー150は、液体冷媒配管130に接続される。デュワー150には、液体冷媒として例えば液体窒素が保管されている。デュワー150は、第1開閉弁151を介して第1真空バルブ132に接続される。第1開閉弁151(および第1真空バルブ132)を開くことにより、デュワー150から液体冷媒配管130を通じて液体冷媒貯留部110に液体冷媒を供給し、または、液体冷媒貯留部110から液体冷媒配管130を通じてデュワー150に液体冷媒を回収することができる。デュワー150と液体冷媒貯留部110の間で液体冷媒の供給または回収をしないときは、第1開閉弁151は閉じられる。
【0044】
真空ポンプ160も液体冷媒配管130に接続される。真空ポンプ160は、第2開閉弁152を介して第1真空バルブ132に接続される。真空ポンプ160と第2開閉弁152は、第1開閉弁151と第1真空バルブ132の間で液体冷媒配管130に接続される。第2開閉弁152(および第1真空バルブ132)を開き真空ポンプ160を作動させることにより、液体冷媒貯留部110を真空排気することができる。第1開閉弁151と第2開閉弁152は、一方を開くとき他方を閉じるように構成されまたは操作可能であり、それによりデュワー150または真空ポンプ160のいずれか一方のみを液体冷媒貯留部110に作用させることができる。なお、真空ポンプ160と第2開閉弁152は、液体冷媒配管130ではなく、ガス配管140に接続されてもよい。
【0045】
真空容器30から外部環境14に引き出されたガス配管140の端部は、外部環境14へのガス出口170として設けられている。ガス出口170には第3開閉弁153が設けられている。第3開閉弁153(および第2真空バルブ142)を開くことにより、液体冷媒貯留部110で気化した液体冷媒をガス配管140を通じてガス出口170から外部環境14に排出することができる。
【0046】
また、ガス配管140は、液体冷媒を液体冷媒貯留部110から排出するためのパージガスが液体冷媒貯留部110に供給されるようにパージガス源180に接続可能である。パージガス源180には、例えば窒素ガス、空気、またはその他のパージガスが蓄えられている。パージガス源180は、第4開閉弁154を介して第2真空バルブ142に接続される。第4開閉弁154(および第2真空バルブ142)を開くことにより、パージガス源180からガス配管140を通じて液体冷媒貯留部110にパージガスを供給することができる。パージガスを供給しないときは、第4開閉弁154は閉じられる。
【0047】
パージガス源180と第4開閉弁154は、第3開閉弁153と第2真空バルブ142の間に接続される。第3開閉弁153と第4開閉弁154は、一方を開くとき他方を閉じるように構成されまたは操作可能であり、それにより、液体冷媒貯留部110へのパージガスの供給と、液体冷媒貯留部110からの気化した液体冷媒の排出とを切り替えることができる。
【0048】
1つのガス配管140をガス排出とパージガス供給の両方に使用することにより、排出管と供給管をそれぞれ設ける場合に比べて、予冷装置100の構造を簡素にすることができる。また、こうした配管は予冷装置100が使用されていないとき外部環境14から真空容器30内への入熱経路となりうるが、1つのガス配管140を用いることにより、配管を通じた入熱量を低減することができる。
【0049】
なお、パージガス源180を予冷装置100に設けることは必須ではない。パージガス源180と第4開閉弁154がガス配管140に接続されない場合には、第3開閉弁153もガス配管140に設ける必要はない。
【0050】
ガス配管140またはガス出口170には、圧力計143が設けられてもよい。液体冷媒貯留部110内に液体冷媒が存在する場合には、そこから気化され排出される冷媒により測定圧力は比較的高くなる。この圧力計143によって測定される圧力をモニタすることによって、液体冷媒貯留部110内の液体冷媒の有無を把握することができる。あるいは、液体冷媒の液位を測定するための液位計が液体冷媒貯留部110に設けられてもよい。あるいは、温度計が液体冷媒貯留部110に設けられてもよい。このようにしても、液体冷媒貯留部110内の液体冷媒の有無を把握することは可能である。
【0051】
実施の形態に係る予冷方法では、まず、液体冷媒貯留部110が、
図1に示される待機位置から、
図2に示される冷却位置に移動される。具体的には、手動により、または加圧装置125を作動させて、支持フランジ124を真空容器30に接近させるとベローズ123が収縮し、操作部材121が真空容器30内に押し込まれる。液体冷媒貯留部110は、輻射熱シールド40から離れ、伝熱部材24に向かって移動し、タンク底壁110cの伝熱層112を伝熱部材24に接触させる。こうして、液体冷媒貯留部110は、待機位置から冷却位置に移動される。
【0052】
液体冷媒貯留部110が冷却位置に移動されると、
図3に示されるように、液体冷媒貯留部110に液体冷媒190が供給される。第1開閉弁151(および第1真空バルブ132)が開かれ、デュワー150から液体冷媒配管130を通じて液体冷媒貯留部110に液体冷媒190が供給される。液体冷媒190は、液体冷媒口131から液体冷媒貯留部110に流入する。このとき、液体冷媒貯留部110で気化した液体冷媒190は、ガス口141からガス配管140に流入する。第3開閉弁153(および第2真空バルブ142)が開かれることにより、気化した液体冷媒はガス配管140を通じてガス出口170から外部環境14に排出される。第2開閉弁152と第4開閉弁154は閉鎖されている。なお、液体冷媒貯留部110が待機位置にあるとき液体冷媒190が供給され、その後に液体冷媒貯留部110が冷却位置に移動されてもよい。
【0053】
このようにして、液体冷媒貯留部110に液体冷媒190を貯留することによって、超伝導コイル12が冷却される。冷却中、液体冷媒190の気化によって液体冷媒貯留部110から液体冷媒190は徐々に減っていく。そこで、冷却中にデュワー150から液体冷媒貯留部110に液体冷媒190が補充されてもよい。
【0054】
超伝導コイル12が目標温度まで予冷されると(例えば、液体冷媒190の温度まで冷却されると)、
図4に示されるように、液体冷媒貯留部110から液体冷媒190が排出される。第4開閉弁154(および第2真空バルブ142)が開かれ、パージガス源180からガス配管140を通じて液体冷媒貯留部110にパージガスが供給される。このとき第3開閉弁153は閉じられる。パージガスが液体冷媒貯留部110に供給されることにより、液体冷媒貯留部110の内部は加圧される。パージガスに押し出されるようにして、液体冷媒貯留部110に残っている液体冷媒190が液体冷媒口131から液体冷媒配管130に流入し、液体冷媒配管130を通じてデュワー150に回収される。パージガスを用いて液体冷媒貯留部110を加圧することにより、液体冷媒貯留部110に残っている液体冷媒190をすばやく液体冷媒貯留部110から排出することができる。
【0055】
液体冷媒口131は、液体冷媒貯留部110の下部に配置され、例えばタンク底壁110cに近接または隣接して設けられている。液体冷媒口131が位置する高さは、ガス口141が位置する高さよりも低くなっている。このようにすれば、液体冷媒貯留部110内での液体冷媒190の液位が下がり、タンク底壁110cに接近したときでも、液体冷媒口131は液体冷媒190に浸される。そのため、液体冷媒口131が液体冷媒貯留部110の上部に位置する場合に比べて、より多くの液体冷媒190を液体冷媒貯留部110から液体冷媒配管130に流入させデュワー150に回収することができる。
【0056】
こうして液体冷媒貯留部110から液体冷媒190が排出されると、
図5に示されるように、第2開閉弁152が開かれ、液体冷媒貯留部110が真空ポンプ160によって真空排気されてもよい。このとき、第2真空バルブ142は閉じられる。液体冷媒貯留部110が真空排気されると、第1真空バルブ132も閉鎖される。こうして、液体冷媒貯留部110内が真空に保持される。
【0057】
そして、液体冷媒貯留部110が、冷却位置から待機位置に移動される。手動により、または加圧装置125を作動させて、支持フランジ124を真空容器30から引き上げるとベローズ123が伸展され、操作部材121とともに液体冷媒貯留部110が持ち上げられる。液体冷媒貯留部110は、伝熱部材24から離れ、輻射熱シールド40に接触する。液体冷媒貯留部110と伝熱部材24は真空領域32に配置されるので、両者の間にわずかでも隙間ができれば熱伝導は遮断される。このようにして、液体冷媒貯留部110は、冷却位置から待機位置に移動される。なお、まず液体冷媒貯留部110を冷却位置から待機位置に移動させ、その後に液体冷媒貯留部110から液体冷媒190が排出されてもよい。
【0058】
デュワー150、真空ポンプ160、パージガス源180などの予冷装置100の付属品は取り外され、
図1に示される状態に戻る。本予冷方法は終了する。
【0059】
超伝導コイル12の予冷が完了すると、極低温冷凍機20が起動される。極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aは第1冷却温度に冷却され、第2冷却ステージ22bは第2冷却温度に冷却される。超伝導コイル12は、第2冷却ステージ22bによって、液体冷媒190による予冷温度から第2冷却温度に冷却される。図示されない電源から超伝導コイル12に通電することにより、超伝導コイル12は、強力な磁場を発生することができる。このようにして、極低温装置10の定常運転を開始することができる。
【0060】
なお、超伝導コイル12の予冷中も、極低温冷凍機20が動作していてもよい。超伝導コイル12を予冷装置100と極低温冷凍機20の両方で冷却することができる。ただし、この場合、液体冷媒貯留部110が冷却位置にあるとき極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22bによって過剰に冷却され、液体冷媒貯留部110内の液体冷媒190が凝固することが懸念される。これを避けるために、温度計を用いて液体冷媒貯留部110の温度をモニタし、測定温度が液体冷媒の凝固点を下回る前に、予冷装置100による予冷が終了されてもよい。温度計は、液体冷媒貯留部110に設置されてもよく、または、第2冷却ステージ22bや伝熱部材24など第2冷却温度に冷却されるべき部位に設置されてもよい。
【0061】
ところで、超伝導システムにおいては、システムの起動に際して室温または例えば200K以上の高温から目標冷却温度(多くの場合例えば10K以下)に超伝導機器を冷却する初期冷却が行われる。超伝導システムの定常運転は初期冷却の完了後に可能となる。超伝導機器を早く利用可能とするためには、初期冷却の所要時間をなるべく短くすることが望まれる。
【0062】
しかしながら、既存の超伝導システムでは、超伝導機器、とくに、大型の超伝導コイルの初期冷却にはかなり長い時間を要するケースが多いのが実情である。その理由の一つは、超伝導機器を冷却する極低温冷凍機は通例、定常運転で冷凍能力を発揮するように設計されるが、この場合、極低温冷凍機の冷凍能力は初期冷却に望まれる冷凍能力に比べて不足することが多いからである。また、システムを構成する種々の部材の材料の比熱が高い温度ほど大きくなることも挙げられる。場合によっては、初期冷却に数日または一週間以上かかることもある。
【0063】
実施の形態によると、予冷装置100を利用して、超伝導コイル12を予冷することができる。したがって、極低温冷凍機20のみを用いて超伝導コイル12を予冷する場合に比べて、極低温装置10の初期冷却にかかる時間を短くすることができる。
【0064】
また、初期冷却に備えて極低温冷凍機20の冷凍能力を増強したり、極低温冷凍機20の台数を増やすことの必要性は低くなる。したがって、実施の形態に係る極低温装置10は、極低温冷凍機20を定常運転に最適化するように設計することができ、例えば、より低い冷凍能力の極低温冷凍機20を極低温装置10に搭載したり、極低温装置10に搭載される極低温冷凍機20の台数を少なくすることができる。
【0065】
本書の冒頭で言及したように、極低温冷却装置に極低温液体を用いて被冷却物を冷却する副冷却系統を設け、これを極低温冷却装置の通常の運転状態で動作させない場合には、極低温液体の配管は、周囲環境を被冷却物につなぐ伝熱経路として働く。この配管を通じた被冷却物への入熱は被冷却物を加熱しうる。また、この入熱は主冷却系統すなわち極低温冷凍機にとって熱負荷となるから、被冷却物の温度上昇を抑えるために、主冷却系統にはより高い冷却能力が求められることになる。加えて、この極低温冷却装置は、副冷却系統を動作させているとき、被冷却物の適正な温度調整のために極低温液体流を調節し続けなければならない。これは面倒であるか、または、調節のための制御機構を要する等、装置構成が複雑になりうる。
【0066】
しかしながら、実施の形態に係る予冷装置100では、液体冷媒貯留部110は、真空容器30内において冷却位置と待機位置との間で移動可能であり、冷却位置にあるとき超伝導コイル12を液体冷媒によって冷却し、待機位置にあるとき極低温冷凍機20から超伝導コイル12への伝熱経路から物理的に離れて配置される。したがって、予冷装置100は、予冷完了後の極低温装置10の定常運転において、超伝導コイル12への入熱を抑制することができる。また、液体冷媒貯留部110は、内部に貯留される液体冷媒によって超伝導コイル12を冷却するので、簡便である。液体冷媒が液体窒素である場合には、気化した冷媒を外部環境14に放出することが許されるので、取り扱いが容易である。液体窒素は安価でもある。
【0067】
また、実施の形態に係る予冷装置100では、待機位置にあるとき、液体冷媒貯留部110は、輻射熱シールド40に物理的に接触する。そのため、極低温装置10の定常運転中、液体冷媒貯留部110は輻射熱シールド40によって冷却され第1冷却温度に維持される。液体冷媒貯留部110を輻射熱シールド40の一部として利用することができ、超伝導コイル12および第2冷却温度に冷却されるその他の部位への入熱を抑制することができる。
【0068】
さらに、実施の形態では、液体冷媒貯留部110は、輻射熱シールド40に設けられた開口部42を塞ぐようにして輻射熱シールド40に物理的に接触する。このようにすれば、真空容器30または外部環境14から開口部42を通じて入射しうる輻射熱を液体冷媒貯留部110で遮蔽することができる。よって、超伝導コイル12および第2冷却温度に冷却されるその他の部位への入熱を抑制することができる。
【0069】
また、実施の形態では、液体冷媒貯留部110は、待機位置にあるとき、液体冷媒貯留部110に接続された第1真空バルブ132と第2真空バルブ142によって真空保持される。真空断熱により、液体冷媒貯留部110を通じた入熱を抑制することができる。
【0070】
予冷装置100、とくに液体冷媒貯留部110は、ほかにも様々な構成をとりうる。
図6から
図8を参照して、実施の形態に係る予冷装置100の他の例をいくつか述べる。
【0071】
図6に示されるように、液体冷媒貯留部110は、可撓性伝熱要素50を介して極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22aと熱的に結合されていてもよい。可撓性伝熱要素50は、銅などの高熱伝導材料で形成され、可撓性をもつように例えば細線の束または箔の積層として形成されてもよい。あるいは、可撓性伝熱要素50は、ばね形状に形成されてもよい。液体冷媒貯留部110が可撓性伝熱要素50により例えば輻射熱シールド40など、第1冷却ステージ22aによって第1冷却温度に冷却される部位に取り付けられる。こうして、液体冷媒貯留部110を当該部位に対して移動可能とすることができる。また、液体冷媒貯留部110は、冷却位置にあるとき、内部に貯留された液体冷媒190を利用して、超伝導コイル12や第2冷却ステージ22bだけでなく、輻射熱シールド40などの第1冷却温度に冷却されるべき部位も可撓性伝熱要素50を介して予冷することができる。
【0072】
逆に、液体冷媒貯留部110が待機位置にあるときには、液体冷媒貯留部110を第1冷却ステージ22aによって可撓性伝熱要素50を介して冷却することもできる。そのため、液体冷媒貯留部110は、待機位置にあるとき、輻射熱シールド40など、第1冷却ステージ22aによって第1冷却温度に冷却される部位に物理的に接触しなくてもよい。
【0073】
図7に示されるように、液体冷媒貯留部110は、冷却位置にあるとき極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22bと熱的に結合され、待機位置にあるとき第1冷却ステージ22aと熱的に結合されるフランジ部52を備えてもよい。フランジ部52は、液体冷媒貯留部110の例えばタンク側壁110bの外側で全周にわたって形成されていてもよい。フランジ部52は、タンク底壁110cと同じ高さに設けられていてもよい。フランジ部52は、液体冷媒貯留部110が待機位置にあるとき開口部42を塞ぐようにして輻射熱シールド40に物理的に接触する。
図7に破線で示されるように、冷却位置にあるときには、液体冷媒貯留部110は、フランジ部52とタンク底壁110cで伝熱部材24に接触する。このようにすれば、予冷が完了して液体冷媒貯留部110が待機位置にあるとき、液体冷媒貯留部110の少なくとも一部またはその大部分を輻射熱シールド40の外側に収納し、第2冷却ステージ22b側への突出を避けることができる。
【0074】
図8に示されるように、液体冷媒貯留部110は、輻射熱シールド40の開口部42を通じて真空容器30側に突出していてもよい。このようにすれば、液体冷媒貯留部110の液体冷媒190の容量を増すことができ、予冷中に液体冷媒貯留部110に液体冷媒190を補充する回数を減らすことができる。
【0075】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0076】
上述の実施の形態では、液体冷媒貯留部110は、冷却位置にあるとき、伝熱部材24に物理的に接触しているが、これに限られない。液体冷媒貯留部110は、冷却位置にあるとき、極低温冷凍機20の第2冷却ステージ22b、超伝導コイル12、または、第2冷却ステージ22bと熱的に結合され第2冷却温度に冷却されるその他の部材に物理的に接触するように構成されてもよい。
【0077】
上述の実施の形態では、液体冷媒貯留部110は、待機位置にあるとき、輻射熱シールド40に物理的に接触しているが、これに限られない。液体冷媒貯留部110は、待機位置にあるとき、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22a、または第1冷却ステージ22aと熱的に結合され第1冷却温度に冷却されるその他の部材に物理的に接触するように構成されてもよい。
【0078】
上述の実施の形態では、開口部42は、輻射熱シールド40に形成される貫通孔である。しかしながら、開口部42は、極低温冷凍機20の第1冷却ステージ22a、または第1冷却ステージ22aと熱的に結合され第1冷却温度に冷却されるその他の部材に形成されてもよい。開口部42は、こうした複数の部材間に設けられてもよく、例えば、輻射熱シールド40と第1冷却ステージ22aの間に設けられてもよい。
【0079】
上述の実施の形態では、予冷装置100の移動機構120が真空容器30の上壁30aに設けられ、液体冷媒貯留部110は移動機構120によって上下方向に移動可能とされているが、これに限られない。例えば、移動機構120は、真空容器30の側壁30bに設けられ、液体冷媒貯留部110は移動機構120によって水平方向に移動可能とされてもよい。
【0080】
上述の実施の形態では、1つの液体冷媒配管130が液体冷媒の供給と回収の両方に使用されているが、予冷装置100は、供給用の液体冷媒配管と回収用の液体冷媒配管を個別に備えてもよい。また、上述の実施の形態では、1つのガス配管140がガス排出とパージガス供給の両方に使用されているが、予冷装置100は、排出用のガス配管とパージガス供給用のガス配管を個別に備えてもよい。
【0081】
液体冷媒貯留部110の形状、構造も上述の特定の形態には限定されない。例えば、液体冷媒貯留部110が液体冷媒タンクとして構成されることは必須ではない。液体冷媒貯留部110は、真空容器30内で可動式の液体冷媒配管の形で構成されてもよく、真空容器30内において冷却位置と待機位置との間で移動可能であり、冷却位置にあるとき超伝導コイル12を液体冷媒によって冷却し、待機位置にあるとき極低温冷凍機20から超伝導コイル12への伝熱経路から物理的に離れて配置されてもよい。
【0082】
上述の実施の形態では、被冷却物として超伝導コイル12を例に挙げて説明したが、本発明は、これに限られない。極低温装置10は、超伝導機器、センサ、またはその他の極低温機器など、被冷却物を室温から極低温に冷却するとともに、こうした被冷却物の使用中、当該被冷却物を極低温に維持するように構成されてもよい。よって、極低温冷凍機20は、被冷却物を冷却するように構成され、予冷装置100は、被冷却物を予冷するように構成されてもよい。
【0083】
極低温装置10は、比較的少量の極低温冷媒(例えば液体ヘリウム)を冷媒配管により被冷却物に循環させることによって、被冷却物を極低温に冷却する冷却方式を採用することもできる。冷媒配管は被冷却物の表面または内部に設けられる。極低温冷凍機20は、被冷却物との熱交換によって昇温した極低温冷媒を再び冷却するように冷媒配管と熱的に結合されていてもよい。実施の形態に係る予冷装置100は、このようにして極低温冷凍機20によって冷却される被冷却物を予冷するために、極低温装置10に組み込まれてもよい。
【0084】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0085】
10 極低温装置、 20 極低温冷凍機、 22 冷却ステージ、 22a 第1冷却ステージ、 22b 第2冷却ステージ、 42 開口部、 100 予冷装置、 110 液体冷媒貯留部、 130 液体冷媒配管、 131 液体冷媒口、 140 ガス配管、 180 パージガス源、 190 液体冷媒。