(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064522
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】スリングならびに斜管修正方法および管搬送方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/18 20060101AFI20220419BHJP
B66C 1/12 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
B66C1/18 Z
B66C1/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173209
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山田 真一
(72)【発明者】
【氏名】久保 祐三
(72)【発明者】
【氏名】岡部 哲昇
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 圭
(72)【発明者】
【氏名】宗田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 正弥
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004LB05
(57)【要約】
【課題】クレーン作業者だけで、スリングのあだ巻き掛けの作業が可能なスリングならびに、そのスリングを用いての斜管修正方法および管搬送方法を提供する。
【解決手段】クレーン2のフック3に吊り下げられて鋼管4を吊り上げる柔軟性を備えたスリングベルト10と、弾性を有する芯材20と、を備えたスリング1であって、スリングベルト10は、フック3に吊り下げられる両端部と、両端部の間であって、少なくとも鋼管4の外周に一周以上巻かれる螺旋状部13と、を有し、芯材20は、螺旋状部13に取り付けられて、スリングベルト10が、フック3に鋼管4の荷重が加わらずに吊り下げられた状態において、芯材20は螺旋状部13を螺旋形状に保持するスリング1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンのフックに吊り下げられて荷役物を吊り上げる柔軟性を備えたスリングベルトと、弾性を有する芯材と、を備えたスリングであって、
前記スリングベルトは、前記フックに吊り下げられる両端部と、前記両端部の間であって、少なくとも前記荷役物の外周に一周以上巻かれる螺旋状部と、を有し、
前記芯材は、前記螺旋状部に取り付けられて、
前記スリングベルトが、前記フックに前記荷役物の荷重が加わらずに吊り下げられた状態において、前記芯材は前記螺旋状部を螺旋形状に保持することを特徴とするスリング。
【請求項2】
前記芯材は、螺旋状に形成されて前記荷役物の外周に一周以上巻かれる螺旋部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のスリング。
【請求項3】
前記芯材は、回転角が540度あるいはそれ以上の前記螺旋部を備えていることを特徴とする請求項2に記載のスリング。
【請求項4】
所定間隔をおいて配置された複数のバンドによって、前記芯材は前記スリングベルトの前記螺旋状部に取り付けられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のスリング。
【請求項5】
斜めに配置された管の配置を修正する斜管修正方法であって、
斜めに配置された前記管の一端側を、請求項1から4のいずれか1項に記載のスリングの前記螺旋状部で把持して吊り上げ、
吊り上げた前記管の一端を移動する、ことを特徴とする斜管修正方法。
【請求項6】
クレーンのフックと略直線状の管との間にスリングを掛けて、前記管を搬送する管搬送方法であって、
前記フックに、請求項1から4のいずれか1項に記載のスリングを二つ掛け、
一方の前記スリングの前記螺旋状部に、前記管の一端側を通し、
他方の前記スリングの前記螺旋状部に、前記管の他端側を通し、
一方の前記スリングと他方の前記スリングを、前記クレーンの前記フックで吊り上げ、前記クレーンを移動させる、ことを特徴とする管搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンで荷を吊り上げる場合に、吊り具として使用するスリングならびに、そのスリングを用いての斜管修正方法および管搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のベルト状のスリングを用いて、鋼管を吊り上げ下げをする場合、鋼管を吊っていない状態では、ベルト状のスリングは、その柔軟性により、無負荷の状態においては下方に垂れ下ってしまうため、鋼管の底部にベルト状のスリングを通して吊り上げるには、玉掛作業員が治具を介するなどして押し広げて鋼管を通す作業が必要となる。そのため、作業性が悪く、また、治具などの必要性から経済性も悪かった。
【0003】
このため、特許文献1に示すように、クレーンのフックに掛けることによって、輪状にして吊り下げられたスリングの両側部の治具を固定端として棒バネを取り付け、さらにスリング底部の両側部の治具を固定端として板ばねを固着して、スリングの上部と下部が、これらのバネの弾性力によって押し広げられて展張し一定の形状を保つ荷役用スリングが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されている荷役用スリングは、鋼管等の荷の下側半分にだけスリングを掛ける、いわゆる、半掛けの吊り方に使用されるものであって、荷にスリングを1回巻きつけて掛ける、いわゆる、あだ巻き掛けの吊り方については開示されていない。あだ巻き掛けは、つり角度によって、引き寄せられようとするワイヤロープの滑りを防止するために最も効果的な掛け方で、特に長尺物に有効である。そのため、あだ巻き掛けによって鋼管等の荷を吊るす機会はあるものの、その場合には、依然として、無負荷の状態においては、1回巻きつけたスリングの上側部分が下方に垂れ下ってしまうため、玉掛作業員が手でスリングを輪状に押し広げて鋼管を通す必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、スリングのあだ巻き掛けにおいて、玉掛け作業が容易に行えるスリングならびに、そのスリングを用いての斜管修正方法および管搬送方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、クレーンのフックに吊り下げられて荷役物を吊り上げる柔軟性を備えたスリングベルトと、弾性を有する芯材と、を備えたスリングであって、スリングベルトは、フックに吊り下げられる両端部と、両端部の間であって、少なくとも荷役物の外周に一周以上巻かれる螺旋状部と、を有し、芯材は、螺旋状部に取り付けられて、スリングベルトが、フックに荷役物の荷重が加わらずに吊り下げられた状態において、芯材は螺旋状部を螺旋形状に保持するスリングである。
本発明の他の態様は、一態様のスリングを用いての斜管修正方法および管搬送方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、玉掛け作業が容易に行えるスリングを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るスリングを示す概略構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスリングに用いられる芯材を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係るスリングを示す概略構成図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るスリングを用いて斜めに配置された管の修正方法の概略を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るスリングを用いて管を移動させる搬送方法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0011】
図1は、実施形態に係るスリングを示す概略構成図である。
図1に示すように、スリング1は、クレーン2のフック3と荷役物としての鋼管4との間に掛けられ、鋼管4の外周に少なくとも一周以上巻かれる、いわゆる、あだ巻き掛けに用いるスリングである。
【0012】
スリング1は、合成繊維を素材として形成されて柔軟性を有するスリングベルト10と、弾性を有する芯材20とを備えている。スリングベルト10は、両端部を備えたベルトであって、両端部に配置されて輪状に形成された環状部11と、両方の環状部11の間に配置する帯状のベルト部12とを有しており、両方の環状部11はクレーン2のフック3に引っかけられ、ベルト部12は搬送対象となる鋼管4に巻き付けられて鋼管4を支持する部分を有している。
【0013】
スリング1は、ベルト部12に形成された螺旋状部13を備える。螺旋状部13は、玉掛において、いわゆる、あだ巻き掛けをするために、鋼管4の外周に一周巻かれる部分である。より詳しくは、螺旋状部13は、鋼管4の外周に一周半(540度、以下、これを回転角が540度という。)、螺旋状に巻かれる部分である。なお、本実施形態の螺旋状部13は、鋼管4の外周に一周半巻かれる螺旋形状であるが、鋼管4の外周に一周半以上巻かれれば、螺旋部21の回転角は540度以上、例えば、回転角が900度(2周半)の螺旋形状であっても構わない。
【0014】
芯材20は、φ16mmから成る材質SS400であって熱処理済のピアノ線によって弾性を有し、
図2に示すように、中心側に空間を有する螺旋状に形成されている。芯材20は、螺旋状に形成される螺旋部21と、螺旋部21の両方の端部22から直線状に伸びる直線部23を有しており、直線部23は互いに略平行である。螺旋部21は、ベルト部12に形成された螺旋状部13の径と長さが略同じである螺旋状に形成されている。従って、螺旋部21の回転角は540度である。なお、本実施形態の螺旋部21は、搬送対象となる鋼管4の外周に一周半巻かれる部分であるが、螺旋状部13の径と長さが略同じである螺旋状に形成されていれば、螺旋部21の回転角は540度あるいはそれ以上であって、螺旋部21は搬送対象となる鋼管4の外周に一周半あるいはそれ以上巻かれる部分である。
【0015】
芯材20の螺旋部21は、複数の取付バンド6によって、ベルト部12の螺旋状部13に一体的に取り付けられ、芯材20の直線部23の一方は、ベルト部12の一方の端部側に、芯材20の直線部23の他方は、ベルト部12の他方の端部側に、取付バンド6によって、取り付けられる。なお、本実施形態では、芯材20は直線部23を有しているが、直線部23を有さず螺旋部21だけであっても構わない。ただし、直線部23を有することが望ましい。直線部23を有することによって、クレーン2のフック3に引っかけられたスリングベルト10が鋼管4に干渉することを抑制できるからである。
【0016】
芯材20は弾性を有し、螺旋部21がベルト部12の螺旋状部13に一体的に取り付けられるため、フック3にスリング1が、鋼管4の荷重が加わらずに吊り下げられ状態において、螺旋状部13は螺旋形状を保持することができる。従って、あだ巻き掛けの吊り方で鋼管4を吊る場合に、玉掛作業員によってスリング1を輪状に押し広げる作業を行わなくても、クレーン作業者だけで、スリング1の螺旋状部13に鋼管4を通すことができ、あだ巻き掛けするこが可能であるので、玉掛け作業の経済性、作業性の効率化が図れる。また、治具を用いてスリングを輪状に押し広げる従来の作業と異なり、治具の取り付け作業、取り外し作業がないため、玉掛け作業の経済性、作業性の効率化が図れる。
【0017】
また、芯材20は弾性を有して螺旋状に形成され、直線部23の一方は、ベルト部12の一方の端部側に、直線部23の他方は、ベルト部12の他方の端部側に、取付バンド6によって、取り付けられているため、あだ巻き掛けの吊り方で鋼管4を吊り上げた場合に、鋼管4の自重によって芯材20の螺旋部21が変形して鋼管4を締め付けるので、鋼管4がスリング1から抜け落ちることを抑制することができる。すなわち、芯材20は、端部が無い閉じた輪状ではなく、両端部を備えた螺旋状に形成されているため、端部が無い閉じた輪状の場合に比べて変形が容易である。従って、鋼管4を締め付けるのに適している。
【0018】
なお、
図1に示すように、芯材20の螺旋部21はベルト部12に取付バンド6によって取り付けられているが、例えば、
図3に示すように、ベルト部12を袋状に形成し、ベルト部12の内部に納めて取り付けても構わない。この場合、芯材20は、例えば、直線部23を有しない、螺旋部21だけで構成されていても構わない。こうすることによって、芯材20が剥き出しにならないため、鋼管等の荷役物に傷がつくことを防止することができる。
【0019】
次に、
図4を参照して、スリング1を用いた、あだ巻き掛けの吊り方で、土台の上に斜めに配置された鋼管4を正しい向きに置換える斜管修正方法について、以下に、説明する。
(1)
図4の(a)に示すように、斜めに配置された鋼管4の一端側の位置まで、クレーン2を移動させ、フック3に吊り下げられたスリング1の螺旋状部13の高さが鋼管4の高さと同じ位置になるまでフック3を下げる。
(2)
図4の(b)に示すように、クレーン2を移動させて、螺旋状部13を鋼管4の一端側に通す。
(3)
図4の(c)、(d)に示すように、フック3を上昇させ、鋼管4の一端側を吊り上げる。
(4)クレーン2を移動させて、斜めに配置された鋼管4の一端側の位置を正しい位置に移動させる。
(5)
図4の(e)に示すように、鋼管4の一端側を正しい位置に移動させた後、フック3を下降させて鋼管4の一端側を吊り下げ、鋼管4の一端側を所定位置に置く。
(6)
図4の(e)の矢印で示すように、螺旋状部13の螺旋形状が緩んで、鋼管4の一端側から抜ける状態になったことを確認してからクレーン2を移動させて、螺旋状部13を鋼管4の一端側から外す。
【0020】
スリング1は、弾性を有する芯材20によって、スリング1がクレーン2のフック3に鋼管4の荷重が加わらずに吊り下げられ状態において、螺旋状部13を螺旋形状に保持することができるので、玉掛作業員によってスリング1を輪状に押し広げる作業を行わなくても、クレーン作業者だけでスリング1を鋼管4にあだ巻き掛けするこが可能である。また、あだ巻き掛けの吊り方で鋼管4の一端側だけを吊り上げて、鋼管4が高さ方向で斜めの状態になっても、鋼管4の自重によって芯材20の螺旋部21が変形して鋼管4を締め付けるため、鋼管4がスリング1から抜け落ちることがない。また、鋼管4を移動させて所定位置に置くと、スリング1に鋼管4の荷重が加わらなくなるため、螺旋部21の締め付けが緩み、クレーン作業者だけで鋼管4からスリング1を外すことができる。従って、斜めに配置された鋼管4を正しい向きに置換える斜管修正の作業を、クレーン作業者だけで行うことができる。そのため、経済性、作業性の効率化が図れると共に、災害リスクを軽減することができる。
【0021】
次に、
図5を参照して、スリング1を用いて、鋼管4を移動させる搬送方法について、以下に説明する。
第1工程:クレーン2のフック3に2本のスリング1を吊り下げ、鋼管4の位置まで、クレーン2を移動させ、フック3に吊り下げられた2本のスリング1の螺旋状部13の高さが鋼管4の高さと同じ位置になるようにフック3を降下させる。(
図5(a))
第2工程:一方のスリング1の螺旋状部13に、鋼管4の一端側を通す。
第3工程:他方のスリング1の螺旋状部13に、鋼管4の他端側を通す。(
図5(b))
第4工程:フック3を上昇させて、一方のスリング1と他方のスリング1によって吊り下げられた鋼管4を吊り上げる。
第5工程:クレーン2を移動させて鋼管4を移動させる。(
図5(c))
第6工程:所定の位置でフック3を下降させて、鋼管4を吊り下げ、鋼管4を所定位置に置く。(
図5(d))
第7工程:螺旋状部13の螺旋形状が緩んで、鋼管4から抜ける状態になったことを確認する。
第8工程:一方のスリング1の螺旋状部13を、鋼管4の一端側から外す。
第9工程:他方のスリング1の螺旋状部13を、鋼管4の他端側から外す。
【0022】
スリング1は、弾性を有する芯材20によって、スリング1がクレーン2のフック3に鋼管4の荷重が加わらずに吊り下げられ状態において、螺旋状部13を螺旋形状に保持することができるので、簡易な作業でスリング1を鋼管4にあだ巻き掛けするこが可能である。そのため、経済性、作業性の効率化が図れると共に、災害リスクを軽減することができる。
【0023】
本発明の実施形態では、芯材20は、φ16mmから成る線材で形成されているが、弾性を有していれば、線材ではなく帯状部材で形成されていても構わない。たとえば、本実施態様では、芯材20としてピアノ線を用いた例を示したが、ピアノ線以外の材料として、ばね用鋼線として広く用いられる各種のオイルテンパー線など、各種の鋼線を適用してもよい。芯材20としては鋼線に限定されず、各種の金属材料や非金属材料を使用してもよい。芯材20の径(太さ)は芯材の強度や弾性率、および、目標とする螺旋形状の曲率半径などを考慮して適宜選択してよい。なお、芯材20は、中空の線材や帯状部材であってもよい。
【0024】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
【符号の説明】
【0025】
1…スリング、2…クレーン、3…フック、4…鋼管、6…取付バンド、10…スリングベルト、11…環状部、12…ベルト部、13…螺旋状部、20…芯材、21…螺旋部、22…端部、23…直線部