(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064549
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】医療用剪刀
(51)【国際特許分類】
A61B 17/3201 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
A61B17/3201
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173256
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】598024226
【氏名又は名称】株式会社高山医療機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷川 緑野
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160FF14
4C160FF15
4C160MM32
(57)【要約】
【課題】手術部位を切断する際の術者の負担を小さくする。
【解決手段】上刃部を備えた部材と、下刃部を備えた部材とがピンによって互いに回動可能に接続され、前記ピンの回転軸方向に見たときに、前記上刃部は、直線で形成された上側刃線部を備え、前記下刃部は、前記回転軸に垂直な線に対して平行、又は前記回転軸に垂直な線に対して一方の側に所定の角度で傾斜した直線で形成され、かつ、前記上側刃線部と外形が共通するように形成された下側峰部と、前記回転軸に垂直な線に対して他方の側に前記所定の角度よりも大きい角度で傾斜した直線で形成された下側刃線部とを備えることを特徴とする医療用剪刃である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上刃部を備えた部材と、下刃部を備えた部材とがピンによって互いに回動可能に接続され、
前記ピンの回転軸方向に見たときに、
前記上刃部は、
直線で形成された上側刃線部を備え、
前記下刃部は、
前記回転軸に垂直な線に対して平行、又は前記回転軸に垂直な線に対して一方の側に所定の角度で傾斜した直線で形成され、かつ、前記上側刃線部と外形が共通するように形成された下側峰部と、
前記回転軸に垂直な線に対して他方の側に前記所定の角度よりも大きい角度で傾斜した直線で形成された下側刃線部と
を備えることを特徴とする医療用剪刃。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用剪刃であって、
前記上刃部は、
直線で形成された上側峰部と、
前記上刃部の先端側において前記上側峰部と前記上側刃線部との間に設けられ、外側に湾曲した線で形成された上側湾曲部と
を備えることを特徴とする医療用剪刃。
【請求項3】
請求項2に記載の医療用剪刃であって、
前記ピンの回転軸方向に見たときに、
前記上側刃線部と前記上側峰部との間の角度は、前記下側峰部と前記下側刃線部との間の角度よりも大きい
ことを特徴とする医療用剪刃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用剪刀に関する。
【背景技術】
【0002】
主に脳神経外科領域の手術で使用される手術器具について、特許文献1及び特許文献2には、左右一対の刃部で手術部位を切断する医療用剪刃が記載されている。特許文献1及び特許文献2に記載の医療用剪刃では、一方の刃部の刃線が直線で形成され、他方の刃部の刃線が一対の刃部の内側に湾曲して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-109928号公報
【特許文献2】特開2017-121310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載の医療用剪刃で手術部位を切断する際、一対の刃部が閉じるにつれて、湾曲して形成された刃線が手術部位を切断せずに、前側(刃部の先端側)に手術部位を押し出してしまうことがある。このため、一対の刃部を1回閉じる動作で手術部位を切断できる距離は、手術部位が前側に押し出される分だけ短くなってしまう。したがって、医療用剪刃を使用して手術部位を切断する際に、術者が一対の刃部を開閉させる動作が増えてしまい、術者の負担が大きかった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、手術部位を切断する際の術者の負担を小さくする医療用剪刃を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の幾つかの実施形態は、上刃部を備えた部材と、下刃部を備えた部材とがピンによって互いに回動可能に接続され、前記ピンの回転軸方向に見たときに、前記上刃部は、直線で形成された上側刃線部を備え、前記下刃部は、前記回転軸に垂直な線に対して平行、又は前記回転軸に垂直な線に対して一方の側に所定の角度で傾斜した直線で形成され、かつ、前記上側刃線部と外形が共通するように形成された下側峰部と、前記回転軸に垂直な線に対して他方の側に前記所定の角度よりも大きい角度で傾斜した直線で形成された下側刃線部とを備えることを特徴とする医療用剪刃である。
【0007】
本発明の他の特徴については、後述する明細書および図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の幾つかの実施形態によれば、手術部位を切断する際の術者の負担を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態の剪刃10の斜視図である。
【
図2】
図2Aは、本実施形態の剪刃10の平面図である。
図2Bは、本実施形態の剪刃10の側面図である。
【
図3】
図3Aは、剪刃10の一対の刃部20を開いた状態を示す図である。
図3Bは、剪刃10の一対の刃部20を閉じた状態を示す図である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、参考例の剪刃10によって対象物1を切断する様子を示す説明図である。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、本実施形態の剪刃10によって対象物1を切断する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
後述する明細書および図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
上刃部を備えた部材と、下刃部を備えた部材とがピンによって互いに回動可能に接続され、前記ピンの回転軸方向に見たときに、前記上刃部は、直線で形成された上側刃線部を備え、前記下刃部は、前記回転軸に垂直な線に対して平行、又は前記回転軸に垂直な線に対して一方の側に所定の角度で傾斜した直線で形成され、かつ、前記上側刃線部と外形が共通するように形成された下側峰部と、前記回転軸に垂直な線に対して他方の側に前記所定の角度よりも大きい角度で傾斜した直線で形成された下側刃線部とを備えることを特徴とする医療用剪刃が明らかとなる。このような医療用剪刃によれば、手術部位を切断する際の術者の負担を小さくすることができる。
【0012】
前記上刃部は、直線で形成された上側峰部と、前記上刃部の先端側において前記上側峰部と前記上側刃線部との間に設けられ、外側に湾曲した線で形成された上側湾曲部とを備えることが望ましい。これにより、手術部位を切断する際に、切断箇所以外の手術部位を損傷してしまうことを抑制することができる。
【0013】
前記ピンの回転軸方向に見たときに、前記上側刃線部と前記上側峰部との間の角度は、前記下側峰部と前記下側刃線部との間の角度よりも大きいことが望ましい。これにより、刃部を閉じた状態のとき、下側刃線部を保護することができる。
【0014】
===本実施形態===
<構成>
・全体構成
図1は、本実施形態の剪刃10の斜視図である。
図2Aは、本実施形態の剪刃10の平面図である。
図2Bは、本実施形態の剪刃10の側面図である。
【0015】
以下では、剪刃10の構成および動作を説明する際、図に示す方向に従って説明を行うことがある。剪刃10の一対の半部材の一方(ここでは、半部材10A)の把持部12の長手方向を「前後方向」とし、把持部12から見て刃部20の側を「前」とし、逆側(把持部12から見てばね部11の側)を「後」とする。なお、前側を「先端側」、後側を「基端側」と呼ぶことがある。また、前後方向に直交する方向であって、剪刃10の半部材10Aと半部材10Bとが並ぶ方向を「左右方向」とする。また、「前後方向」及び「左右方向」と直交する方向を「上下方向」とする。なお、上下方向は、ピン23の回転軸方向である。
【0016】
剪刃10は、手術部位を切断するための医療用剪刀である。本実施形態の剪刃10は、脳外科領域における手術用として使用される。但し、剪刃10は、血管外科等の他の各種医療領域における手術用として使用されても良い。また、剪刃10は、例えばマイクロ剪刀である。但し、剪刃10は、マイクロ剪刃以外の医療用剪刀であっても良い。
【0017】
剪刃10は、半部材10Aと、半部材10Bと、ピン23とを有する。
【0018】
半部材10Aと、半部材10Bとは、剪刃10を構成する一対の部材である。半部材10Aと、半部材10Bとを、それぞれ単に「部材」と呼ぶことがある。
図1に示すように、半部材10Aと、半部材10Bとは、上下方向に重ねて、かつ交差して配置され、ピン23によって接続されている。
【0019】
ピン23は、半部材10Aと、半部材10Bとを互いに回動可能に接続する部材である。前述したように、半部材10Aと、半部材10Bとは、上下方向に重ねて、かつ交差して配置されている。したがって、半部材10A及び半部材10Bの基端側を互いに内側に近接する向きに移動させる(閉じる)と、半部材10A及び半部材10Bの先端側も互いに内側に近接する向きに移動する(閉じる)。また、半部材10A及び半部材10Bの基端側を互いに外側に離間する向きに移動させる(開く)と、半部材10A及び半部材10Bの先端側も互いに外側に離間する向きに移動する(開く)。そこで、以下の説明では、半部材10A及び半部材10B(及び、後述するばね部11や刃部20等の各部位)が移動する近接方向及び離間方向のことを、「開閉方向」と呼ぶことがある。また、近接方向及び離間方向のことを、それぞれ、「閉じる方向」及び「開く方向」と呼ぶことがある。また、近接方向及び離間方向のことを、それぞれ、「内側方向」及び「外側方向」と呼ぶことがある。
【0020】
一対の半部材10A及び半部材10Bは、それぞれ、ばね部11と、把持部12と、刃部20とを有する。以下の説明では、ばね部11と、把持部12とについて、半部材10Aの部材・部位には、符号に添え字「A」を付け、半部材10Bの部材・部位には、符号に添え字「B」を付けている。また、半部材10A及び半部材10Bに共通の部材・部位を指すときには、添え字を付けないことがある。例えば、ばね部11A及びばね部11Bの両方のことを指して単に「ばね部11」と呼ぶことがある。
【0021】
ばね部11は、把持部12Aと把持部12Bとの位置関係を復元させるための弾性部材である。
図1及び
図2Aに示すように、ばね部11Aは、把持部12Aの後側に設けられている。また、ばね部11Bは、把持部12Bの後側に設けられている。そして、
図1~
図2Bに示すように、ばね部11Aとばね部11Bとは、後端において互いに接続されている。本実施形態では、ばね部11は、板ばねで構成されている。但し、ばね部11は、板ばね以外で構成されても良い。例えば、ばね部11は、コイルばねで構成されても良い。また、ばね部11が設けられなくても良い。術者が把持部12を握って力を加えることで把持部12A及び把持部12Bがそれぞれ内側に移動すると、ばね部11A及びばね部11Bが内側に変形する。変形したばね部11A及びばね部11Bが復元して外側に変形すると、把持部12A及び把持部12Bがそれぞれ外側に移動して元の位置に戻ることになる。
【0022】
把持部12は、術者が把持する部材である。把持部12は、ピン23を介して刃部20の後側に設けられている。
【0023】
刃部20は、手術部位を切断する部材である。刃部20は、ピン23に対して把持部12とは反対側(前側)に設けられている。
【0024】
・刃部20
図3Aは、剪刃10の一対の刃部20を開いた状態を示す図である。
図3Bは、剪刃10の一対の刃部20を閉じた状態を示す図である。なお、
図3Bに示すように、上下方向(ピン23の回転軸方向)に見たときに、剪刃10の一対の刃部20を閉じた状態では、一対の刃部20の先端同士(後述する上側先端部21Dと下側先端部22D)が重なっている。
【0025】
前述したように、半部材10Aと、半部材10Bとは、上下方向に重ねて、かつ交差して配置されている。したがって、剪刃10が備える一対の刃部20も、上下方向(ピン23の回転軸方向)において重ねて配置されることになる。以下では、
図3A及び
図3Bに示すように、一対の刃部20のうち、上側に位置する刃部20を上刃部21と呼んで説明を行う。また、一対の刃部20のうち、下側に位置する刃部20を下刃部22と呼んで説明を行う。上刃部21は、半部材10Aの先端側に設けられた刃部20である。また、下刃部22は、半部材10Bの先端側に設けられた刃部20である。ピン23を中心に上刃部21及び下刃部22が開閉することにより、内側に設けられた刃線(後述する上側刃線部21A及び下側刃線部22A)により手術部位を切断する。但し、本実施形態では、術者が上刃部21及び下刃部22を開いた状態で、手術部位を内側に挟んだまま、前側に移動させることによっても手術部位を切断することができる。
【0026】
上刃部21は、上側刃線部21Aと、上側峰部21Bと、上側湾曲部21Cと、上側先端部21Dとを有する。上側刃線部21Aは、刃線が設けられる部位である。上側峰部21Bは、刃線に対して背にあたる部位である。上側湾曲部21Cは、外側に湾曲した線で形成される部位である。なお、上側湾曲部21Cは、上刃部21の先端側において上側峰部21Bと上側刃線部21Aとの間に設けられる。上側湾曲部21Cが設けられることにより、手術部位を切断する際に、切断箇所以外の手術部位を損傷してしまうことを抑制することができる。上側先端部21Dは、刃部20の先端の部位である。
【0027】
下刃部22は、下側刃線部22Aと、下側峰部22Bと、下側先端部22Dとを有する。下側刃線部22Aは、刃線が設けられる部位である。下側峰部22Bは、刃線に対して背にあたる部位である。下側先端部22Dとは、刃部20の先端の部位である。
【0028】
本実施形態の剪刃10の刃部20では、
図3Aに示すように、上下方向(ピン23の回転軸方向)に見たときに、上側刃線部21Aと下側刃線部22Aとは、直線で形成されている。また、
図3Aに示すように、上下方向(ピン23の回転軸方向)に見たときに、上側峰部21Bと下側峰部22Bとは、直線で形成されている。
【0029】
また、本実施形態の剪刃10の刃部20では、
図3Bに示すように、下側峰部22Bと上側刃線部21Aとは、外形が共通するように形成されている。すなわち、本実施形態の剪刃10の刃部20では、
図3Bに示すように、上刃部21と下刃部22とを閉じたとき、下側峰部22Bの外形と上側刃線部21Aの外形とが一致するように形成されている。
【0030】
ピン23の回転軸方向に見たときに、上側刃線部21Aと上側峰部21Bとの間の角度は、下側峰部22Bと下側刃線部22Aとの間の角度よりも大きい。これにより、
図3Bに示す刃部20を閉じた状態のとき、上下方向に見て、下刃部22の下側刃線部22Aが、上刃部21の上側峰部21Bから飛び出さないように配置されることになる。したがって、刃部20を閉じた状態のとき、下側刃線部22Aを保護することができる。
【0031】
図4A及び
図4Bは、刃部20のオフセット形状について説明する図である。
【0032】
図4Aは、参考例の剪刃10の刃部20を示す図である。
図4Aでは、上刃部21と下刃部22とを閉じた状態を実線で示しており、上刃部21に対して90度の角度で開いた下刃部22を破線で示している。参考例の剪刃10の刃部20では、上下方向(ピン23の回転軸方向)に見たときに、上刃部21と下刃部22とは、外形が共通して形成されている。すなわち、参考例の剪刃10の刃部20では、上刃部21と下刃部22とを閉じたとき、上刃部21の外形と下刃部22の外形とが一致するように形成されている。但し、参考例の剪刃10の刃部20では、上側刃線部21A及び下側峰部22Bが直線で形成されているのに対し、上側峰部21B及び下側刃線部22Aが内側に湾曲して形成されている。したがって、
図4Aに示すように、上側刃線部21Aの長さ(L1)よりも、下側刃線部22Aの長さ(L2)の方が長くなる(L2>L1)。
【0033】
ところで、本願発明者は、参考例の剪刃10で手術部位(以下では、「対象物」と呼ぶことがある)を切断する際、上刃部21と下刃部22とで対象物の切断に対する役割が異なっていることを発見した。すなわち、上刃部21及び下刃部22を閉じる動作によって対象物を切断する際、主に上刃部21は対象物が刃線方向に対して滑らないように保持し、主に下刃部22だけで対象物を切断している。したがって、このように、対象物を保持する側の刃を静刃と呼び、静刃によって保持された対象物を切断する側の刃を動刃と呼ぶことがある。なお、本明細書における説明では、便宜的に上刃部21を静刃とし、下刃部22を動刃としているが、上刃部21が動刃で、下刃部22が静刃であっても良い。
【0034】
参考例の剪刃10の刃部20では、静刃(上側刃線部21A)の刃線の長さ(L1)よりも、動刃(下側刃線部22A)の刃線の長さ(L2)の方が長く(L2>L1)形成されている。このため、上刃部21及び下刃部22を閉じる動作によって対象物を切断する際、静刃(上側刃線部21A)に保持された対象物から見て、対象物は動刃(下側刃線部22A)の刃線上を滑るようにして切断されることになる。つまり、動刃は対象物を引いて切断することになる。仮に、静刃(上側刃線部21A)の刃線の長さ(L1)と、動刃(下側刃線部22A)の刃線の長さ(L2)とが同じ(L2=L1)場合、対象物を切断する際、静刃(上側刃線部21A)に保持された対象物から見て、対象物は動刃(下側刃線部22A)の刃線上に対して滑らず、動刃(下側刃線部22A)が対象物を押し潰すようにして切断することになる。このように動刃が対象物を押し潰すようにして切断する際、切れ味も良くなく、刃毀れが発生することがある。しかし、参考例の剪刃10の刃部20では、動刃が対象物を引いて切断するので、動刃が対象物を押し潰すようにして切断する場合と比べて、対象物を切断する際の切れ味を増し、刃毀れの発生も抑制することができる。
【0035】
図4Bは、本実施形態の剪刃10の刃部20を示す図である。
図4Bでも、
図4Aと同様、上刃部21と下刃部22とを閉じた状態を実線で示しており、上刃部21に対して90度の角度で開いた下刃部22を破線で示している。また、上刃部21と下刃部22とを閉じた状態において、上刃部21に覆われて上側から見えない下刃部22の外形線(下側刃線部22A)も破線で示している。前述の参考例の剪刃10の刃部20では、上側刃線部21Aが直線で形成され、下側刃線部22Aが内側に湾曲して形成されていたが、本実施形態の剪刃10の刃部20では、上側刃線部21Aと下側刃線部22Aとの両方が直線で形成されている。
【0036】
また、本実施形態の剪刃10の刃部20では、
図4Bに示すピン23の回転軸に垂直なA線に対して、下側峰部22Bが一方の側(ここでは、下側先端部22Dを中心に時計回りの方向)に所定の角度(α1)で傾斜している。また、
図4Bに示すピン23の回転軸に垂直なA線に対して、下側刃線部22Aは、他方の側(ここでは、下側先端部22Dを中心に反時計回りの方向)に所定の角度(α2)で傾斜している。本実施形態の剪刃10の刃部20では、下側峰部22Bの傾き角(α1)よりも、下側刃線部22Aの傾き角(α2)の方が大きく形成されている(α2>α1)。
【0037】
前述したように、本実施形態の剪刃10の刃部20では、下側峰部22Bと上側刃線部21Aとは、外形が共通するように形成されている。すなわち、本実施形態の剪刃10の刃部20では、上刃部21と下刃部22とを閉じたとき、下側峰部22Bの外形と上側刃線部21Aの外形とが一致するように形成されている。
【0038】
したがって、本実施形態の剪刃10の刃部20では、上側刃線部21Aの刃線の長さ(L1)よりも、下側刃線部22Aの刃線の長さ(L2)の方が長く形成される(L2>L1)。これにより、本実施形態の剪刃10の刃部20でも、参考例の剪刃10の刃部20と同様に、動刃が対象物を引いて切断することができる。したがって、本実施形態の剪刃10の刃部20でも、動刃が対象物を押し潰すようにして切断する場合と比べて、対象物を切断する際の切れ味を増し、刃毀れの発生も抑制することができる。
図4Bに示す刃部20の形状をオフセット形状と呼ぶことがある。なお、本実施形態では、下側峰部22Bの傾き角(α1)が0、すなわち、下側峰部22Bがピン23の回転軸に垂直なA線に対して平行に形成されても良い。
【0039】
<参考例の剪刃10による切断について>
図5A及び
図5Bは、参考例の剪刃10によって対象物1を切断する様子を示す説明図である。なお、
図5A及び
図5Bに示す参考例の剪刃10は、
図4Aに示す参考例の剪刃10と同一の剪刃である。
【0040】
参考例の剪刃10で対象物を切断する際、一対の刃部20が閉じるにつれて、湾曲して形成された下側刃線部22Aが対象物を切断せずに、前側(刃部20の先端側)に対象物を押し出してしまうことがある。以下の説明では、このような対象物の押し出しについて説明する。
図5Aは、剪刃10の一対の刃部20を開いて、対象物1を切断し始める時の様子を示している。このとき、一対の刃部20の開き角度(仰角)は、A1である。ここで、刃部20の開き角度(仰角)とは、
図5Aに示すように、一対の刃部20の交差部分における上側刃線部21Aの接線と下側刃線部22Aの接線との角度である。術者が剪刃10の把持部12を握ることにより、
図5Bに示すように、刃部20が閉じる方向に一対の部材(半部材10A及び半部材10B)が回動する。このとき、一対の刃部20の開き角度(仰角)はA2(>A1)となる。
【0041】
参考例の剪刃10では、上側刃線部21Aが直線で形成され、下側刃線部22Aが内側に湾曲して形成されている。このため、
図5Aに示すように、上側刃線部21Aの対象物1に対する接線と、下側刃線部22Aの対象物1に対する接線との角度A1´は、開き角度(仰角)A1より大きくなる(A1´>A1)。言い換えれば、下側刃線部22Aは、対象物1の切断方向(前後方向)に対して垂直な方向に立った状態である。同様に、
図5Bに示すように、上側刃線部21Aの対象物1に対する接線と、下側刃線部22Aの対象物1に対する接線との角度A2´も、開き角度(仰角)A2より大きくなる(A2´>A2)。言い換えれば、
図5Bに示す状態でも、下側刃線部22Aは、対象物1の切断方向(前後方向)に対して垂直な方向に立った状態である。したがって、一対の刃部20を閉じる動作において、下側刃線部22Aは、対象物1の切断方向(前後方向)に対して垂直な方向に立った状態である。このとき、
図5Bに示すように、下側刃線部22Aによって対象物1を前側に押し出してしまうことがある。このため、一対の刃部20を1回閉じる動作で対象物1を切断できる距離は、対象物1が前側に押し出される分だけ短くなってしまう。したがって、参考例の剪刃10の場合、対象物1を切断する際に、術者が一対の刃部20を開閉させる動作が増えてしまい、術者の負担が大きくなってしまう。
【0042】
<本実施形態の剪刃10による切断について>
図6A及び
図6Bは、本実施形態の剪刃10によって対象物1を切断する様子を示す説明図である。前述したように、上側刃線部21A及び下側刃線部22Aが直線で形成されている。このため、
図6A及び
図6Bに示すように、上側刃線部21Aの対象物1に対する接線と、下側刃線部22Aの対象物1に対する接線との角度A3及びA4は、開き角度(仰角)と同じになる。そうすると、参考例の剪刃10と比べると、下側刃線部22Aは、対象物1の切断方向(前後方向)に対して垂直な方向に立った状態となることを抑制できる。そして、一対の刃部20を閉じようとするときに、下側刃線部22Aによって対象物1を前側に押し出してしまうことを抑制することができる。したがって、一対の刃部を1回閉じる動作で手術部位を切断できる距離が短くなってしまうことを抑制でき、医療用剪刃を使用して手術部位を切断する際に、手術部位を切断する際の術者の負担を小さくすることができる。
【0043】
本実施形態の剪刃10の刃部20は、
図4Bに示すオフセット形状で形成されているので、参考例の剪刃10の刃部20と同様に、動刃が対象物を引いて切断するので、動刃が対象物を押し潰すようにして切断する場合と比べて、対象物を切断する際の切れ味を増し、刃毀れの発生も抑制することができる。また同時に、参考例の剪刃10の刃部20と比べると、一対の刃部20を1回閉じる動作で手術部位を切断できる距離が短くなってしまうことを抑制でき、剪刃10を使用して対象物1を切断する際に、対象物1を切断する際の術者の負担を小さくすることができる。
【0044】
<小括>
図1~
図4Bに示すように、本実施形態は、上刃部21を備えた部材10Aと、下刃部22を備えた部材10Bとがピン23によって互いに回動可能に接続される医療用の剪刃10である。また、ピン23の回転軸方向(上下方向)に見たときに、上刃部21は、直線で形成された上側刃線部21Aを備えている。また、ピン23の回転軸方向(上下方向)に見たときに、下刃部22は、ピン23の回転軸に垂直な線(A線)に対して平行、又はピン23の回転軸に垂直な線(A線)に対して一方の側に所定の角度α1で傾斜した直線で形成され、かつ、上側刃線部21Aと外形が共通するように形成された下側峰部22Bと、ピン23の回転軸に垂直な線(A線)に対して他方の側に所定の角度よりも大きい角度α2で傾斜した直線で形成された下側刃線部22Aとを備えている。これにより、対象物1を切断する際の術者の負担を小さくすることができる。
【0045】
図1~
図4Bに示すように、上刃部21は、直線で形成された上側峰部21Bと、上刃部21の先端側において上側峰部21Bと上側刃線部21Aとの間に設けられ、外側に湾曲した線で形成された上側湾曲部21Cとを備えている。これにより、対象物1を切断する際に、切断箇所以外の対象物1を損傷してしまうことを抑制することができる。
【0046】
図1~
図4Bに示すように、ピン23の回転軸方向に見たときに、上側刃線部21Aと上側峰部21Bとの間の角度は、下側峰部22Bと下側刃線部22Aとの間の角度よりも大きい。これにより、刃部20を閉じた状態のとき、下側刃線部22Aを保護することができる。
【0047】
===その他===
前述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 対象物、10 剪刃、10A・10B 半部材、
11 ばね部、12 把持部、20 刃部、
21 上刃部、21A 上側刃線部、21B 上側峰部、
21C 上側湾曲部、21D 上側先端部、
22 下刃部、22A 下側刃線部、
22B 下側峰部、22D 下側先端部、23 ピン