(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064615
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/08 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
E03D11/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173346
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】河津 拓
(72)【発明者】
【氏名】松原 光
(72)【発明者】
【氏名】神谷 昭範
【テーマコード(参考)】
2D039
【Fターム(参考)】
2D039AA02
2D039AC02
2D039AD01
(57)【要約】
【課題】流下水流を用いて汚物排出能力を高めることができる水洗大便器を提供する。
【解決手段】便鉢部と、少なくとも一つの吐水部と、を備える水洗大便器であって、便鉢部は、汚物受け面と、汚物受け面に対して下向きに窪む溜水部と、を備え、吐水部は、便鉢部に吐水孔から洗浄水を吐き出すことによって、便鉢部内を旋回する旋回流Fa2を形成し、便鉢部は、旋回流Fa2を上向きにガイドすることによって、汚物受け面から跳ね上がる跳ね上げ水流Fb1を形成するガイド面58を備え、跳ね上げ水流Fb1の少なくとも一部は、溜水部に前向きに流れ込む流下水流Fc1を形成する水洗大便器。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢部と、
少なくとも一つの吐水部と、を備える水洗大便器であって、
前記便鉢部は、
汚物受け面と、
前記汚物受け面に対して下向きに窪む溜水部と、を備え、
前記少なくとも一つの吐水部は、前記便鉢部に吐水孔から洗浄水を吐き出すことによって、前記便鉢部内を旋回する旋回流を形成し、
前記便鉢部は、前記旋回流を上向きにガイドすることによって、前記汚物受け面から跳ね上がる跳ね上げ水流を形成するガイド面を備え、
前記跳ね上げ水流の少なくとも一部は、前記溜水部に前向きに流れ込む流下水流を形成する水洗大便器。
【請求項2】
前記旋回流の一部は、平面視において、前記汚物受け面を流れる前記跳ね上げ水流と交差する交差水流となり、
前記跳ね上げ水流の少なくとも一部は、前記汚物受け面を流れる前記交差水流の上方を通る請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記便鉢部は、前記旋回流が衝突することによって、前記旋回流の流れ方向を前記溜水部側に転向させる転向部を備え、
前記ガイド面は、前記転向部に設けられ、前記転向部に前記旋回流が衝突するときに、前記旋回流を上向きにガイドする請求項1から2のいずれか記載の水洗大便器。
【請求項4】
前記便鉢部は、前記ガイド面の上方に設けられ、前記跳ね上げ水流を左右方向に折り返すようにガイドするオーバーハング部を備える請求項3に記載の水洗大便器。
【請求項5】
前記ガイド面の下端は、前記汚物受け面に設けられる水平面に接続される請求項4に記載の水洗大便器。
【請求項6】
前記吐水孔を通るように前記吐水孔の吐出方向に沿った切断面において、前記ガイド面の高さ寸法をHaとし、前記下端から前記オーバーハング部までの高さ寸法をHbとするとき、
前記高さ寸法Haは、前記高さ寸法Hbの1/3以上である請求項5に記載の水洗大便器。
【請求項7】
前記吐水孔を通るように前記吐水孔の吐出方向に沿った切断面において、前記下端から前記オーバーハング部までの高さ寸法をHbとし、前記下端上を通る前記旋回流の高さ寸法をHwというとき、
前記高さ寸法Hbは、前記高さ寸法Hwの2倍以上である請求項5から6のいずれか1項に記載の水洗大便器。
【請求項8】
前記転向部は、平面視において、前記吐水孔の中心線の延長線上に設けられ、
前記転向部は、平面視において、前記延長線に対して垂直に設けられる請求項4から7のいずれか1項に記載の水洗大便器。
【請求項9】
前記溜水部に流れ込む前記跳ね上げ水流の水量は、前記少なくとも一つの吐水部から吐き出される全水量の半分以上である請求項1から8のいずれか1項に記載の水洗大便器。
【請求項10】
前記少なくとも一つの吐水部の前記吐水孔は、前記便鉢部の後部に開口する請求項1から9のいずれか1項に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、便鉢部と吐水部を備える水洗大便器を開示する。この便鉢部は、汚物受け面と、汚物受け面に対して下向きに窪む溜水部とを備える。この吐水部は、便鉢部内に洗浄水を吐き出すことによって、便鉢部内に旋回流を形成する。この水洗大便器は、便鉢部の後部に設けられ、旋回流を溜水部に向けて流れ込む流下水流とする凹部を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溜水部に前向きに流れ込む流下水流を用いて汚物排出能力を高めるための手法に関して検討する。これを実現するうえでは、流下水流の下向きの速度を増大することが望まれる。本願発明者は、このような観点から、特許文献1の技術に関して改良の余地があるとの認識を得た。
【0005】
本開示の目的の1つは、流下水流を用いて汚物排出能力を高めることができる水洗大便器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の水洗大便器は、便鉢部と、少なくとも一つの吐水部と、を備える水洗大便器であって、前記便鉢部は、汚物受け面と、前記汚物受け面に対して下向きに窪む溜水部と、を備え、前記吐水部は、前記便鉢部に吐水孔から洗浄水を吐き出すことによって、前記便鉢部内を旋回する旋回流を形成し、前記便鉢部は、前記旋回流を上向きにガイドすることによって、前記汚物受け面から跳ね上がる跳ね上げ水流を形成するガイド面を備え、前記跳ね上げ水流の少なくとも一部は、前記溜水部に前向きに流れ込む流下水流を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の水洗大便器の側面断面図である。
【
図2】第1実施形態の水洗大便器の平面断面図である。
【
図3】第1実施形態の水洗大便器の一部の平面図である。
【
図5】前鉢領域、横鉢領域及び後鉢領域の説明図である。
【
図7】第1実施形態の洗浄水の流れ方を説明する平面断面図である。
【
図9】第1実施形態の洗浄水の流れ方を説明する斜視断面図である。
【
図11】第1実施形態の洗浄水の流れ方を説明する側面断面図である。
【
図14】一般的な形状のリム部を
図12と同じ視点から見た図である。
【
図19】
図7の一部の主流を説明する平面断面図である。
【
図20】第1実施形態の洗浄水の流れ方を説明する他の側面断面図である。
【
図22】第1実施形態の第2給水路内での洗浄水の流れ方を説明する図である。
【
図23】第2実施形態の便器を
図21と同じ視点から見た図である。
【
図24】第2実施形態の第2給水路内での洗浄水の流れ方を説明する図である。
【
図25】第3実施形態の水洗大便器を
図21と同じ視点から見た図である。
【
図26】第3実施形態の第2給水路内での洗浄水の流れ方を説明する図である。
【
図27】第4実施形態の便器を
図8と同じ視点から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。切断線を付した図中の断面は、その切断線によって特定される断面図において表示しない。
【0009】
(第1実施形態)
図1、
図2を参照する。
図2は、便器装置10の構成図でもある。便器装置10は、洋風大便器を構成する水洗大便器12(以下、便器12ともいう)と、便器12に洗浄水を供給する給水装置14と、を備える。本実施形態の便器12は、陶器を素材とする。便器12の素材は特に限定されず、例えば、樹脂等でもよい。給水装置14は、例えば、フラッシュバルブ、ポンプ付きタンク等である。
【0010】
便器12は、便鉢部16と、便鉢部16の上端開口部16aが開口する上面部18と、便鉢部16の後方に形成される空洞部20と、を備える。空洞部20は、便器12の上面部18に開口する。上面部18には、便鉢部16と空洞部20との間に凹部22が設けられる。空洞部20及び凹部22には、衛生洗浄装置等の内部機器を収容するケーシング(不図示)が配置される。衛生洗浄装置は、ユーザの肛門を洗浄可能である。
【0011】
便器12は、便鉢部16の底部に接続される便器排水路24を備える。便器排水路24は、便鉢部16の底部に形成される入口24aを通して、便鉢部16の内周側に設けられる内周側空間に連通する。便器排水路24は、建物に設置される排水管(不図示)に接続される。便器排水路24は、便鉢部16内から排水管に排出される汚物等の通り道となる。便器排水路24には、封水26を貯留する封水貯留部28が設けられる。封水26は、便器排水路24内での空気の流れを遮断する。
【0012】
便器12は、吐水孔30A、30Bから便鉢部16内に洗浄水を吐き出すことによって、便鉢部16内を旋回する旋回流Fa1、Fa2(
図7も参照)を形成する吐水部32A、32Bを備える。便器12は、旋回流Fa1、Fa2を棚面34A、34Bによって受けて旋回方向Da1に導く導水路36A、36Bを備える。吐水部32A、32Bは、リム部44(後述する)の内周面に開口する吐水孔30A、30Bと、給水装置14から供給された洗浄水を吐水孔30A、30Bに供給する給水路38A、38Bと、を備える。
【0013】
便器12の主な特徴は、(1)便鉢部16内での洗浄水の流れ方に関する第1及び第2の工夫点と、(2)給水路38B内での洗浄水の流れ方に関する第3の工夫点とにある。以下、これらの前提となる構成を説明してから、これらを順に説明する。
【0014】
以下、各構成要素の位置関係に関して、次の概念を用いて説明する。この概念とは、互いに直交する前後方向X、左右方向Y及び上下方向Zである。便器12をトイレ室に設置した状態にあるとき、理想的には、前後方向X及び左右方向Yは水平方向となり、上下方向Zは鉛直方向となる。前後方向X及び左右方向Yは、便器12に搭載される便座(不図示)に通常の姿勢で座るユーザの前後左右と対応する。
【0015】
図3を参照する。この他には、便鉢部16の前後中心線Lxと、便器12の左右中心線Lyと、便鉢部16の周方向、径方向を用いる。前後中心線Lxは、便鉢部16の上端開口部16aの最大前後寸法Laを二等分するとともに左右方向Yに沿って延びる線をいう。左右中心線Lyは、便器12の最大左右寸法Lbを二等分するとともに前後方向Xに沿って延びる線をいう。「周方向」は、平面視において、便鉢部16の中心Ca周りを回る方向をいい、「径方向」は、その中心Caを通る鉛直線に直交する方向をいう。便鉢部16の中心Caは、前後中心線Lxと左右中心線Lyの交点をいう。
【0016】
図1、
図4を参照する。便鉢部16は、汚物を受けるための鉢状の汚物受け面40と、汚物受け面40に対して下向きに窪む溜水部42と、便鉢部16の上端側部分を形成するリム部44と、を備える。
【0017】
溜水部42は、汚物受け面40よりも下方に形成される。溜水部42の上端縁部は、溜水部42の立壁面42b、42c(後述する)によって構成される。溜水部42の上端縁部は、汚物受け面40の内周端縁部に連続しており、汚物受け面40の内周端縁部よりも急勾配となる。溜水部42の上端縁と汚物受け面40の内周端縁との境界Baは変曲点となる。本明細書での「変曲点」とは、曲率の変化する点をいう。この「変曲点」には、例えば、曲率の異なる一対の曲線間の境界、曲線と直線の境界等が含まれる。
【0018】
溜水部42は、底壁面42aと、底壁面42aから立ち上がる複数の立壁面42b、42cとを備える。溜水部42の底壁面42aの後部には便器排水路24の入口24aが開口する。立壁面42b、42cは、溜水部42の左右方向の一方側(本実施形態では左側)に設けられる第1立壁面42bと、溜水部42の左右方向の他方側(本実施形態では右側)に設けられる第2立壁面42cとを含む。第1立壁面42bと第2立壁面42cは、後述する誘導流Ffを形成するため、前方に向かうに連れて先細りする形状である。
【0019】
溜水部42には封水26の一部となる溜め水48が溜められる。最高水位にある溜め水48の水面を溜水面50という。ここでの「最高水位」とは、静止した状態にある溜め水48の水位であって、溜水部42内に溜めることができる最高の水位をいう。溜め水48の最高水位は、封水貯留部28の下流側端部に設けられる溢れ縁28aによって定められる。便器排水路24内に溢れ縁28aを超える水が入り込んだとき、その水が溢れ縁28aから下流側に溢れ出ることで、溜水部42内に残る溜め水48の最高水位が定められる。
【0020】
図5を参照する。便鉢部16は、平面視において、溜水部42に対して左右方向Yに重なる位置にある横鉢領域46L、46Rと、溜水部42及び横鉢領域46L、46Rに対して前方に位置する前鉢領域46Fと、溜水部42及び横鉢領域46L、46Rに対して後方に位置する後鉢領域46Bとを備える。横鉢領域46L、46Rは、左右方向Yの一方側(本実施形態では左側)に位置する第1横鉢領域46L(以下、左鉢領域46Lともいう)と、左右方向Yの他方側(本実施形態では右側)に位置する第2横鉢領域46R(以下、右鉢領域46Rともいう)とを含む。右鉢領域46Rは、後鉢領域46Bと旋回方向Da1に隣り合わせとなり、左鉢領域46Lは、後鉢領域46Bと反旋回方向Da2に隣り合わせとなる。ここでの「反旋回方向Da2」とは、周方向において旋回方向Da1とは反対側をいう。便鉢部16は、平面視において、溜水部42を除く箇所において、横鉢領域46L、46R、前鉢領域46F及び後鉢領域46Bに分けられる。
【0021】
図6を参照する。溜水部42は、溜水面50の前後中心Cbから前方の前半領域42Aと、前後中心Cbから後方の後半領域42Bと、を備える。溜水部42は、側面視において、溜水面50の前後中心Cbを境界として前半領域42Aと後半領域42Bに二分されることになる。ここでの「前後中心Cb」とは、平面視において左右中心線Ly上にある溜水面50の前後方向Xでの中心をいう。
【0022】
図1、
図2に戻る。リム部44の内周面は、便鉢部16の上端開口部16aから汚物受け面40の外周端縁部40aまでの範囲に設けられる。リム部44は、汚物受け面40の外周端縁部40aから立ち上がる立ち面52A、52Bと、リム部44において内周側に向けて突き出るオーバーハング部54と、を備える。各図では、汚物受け面40と立ち面52A、52Bとの境界Bbを示す。立ち面52A、52Bは、便鉢部16の上端開口部16aと汚物受け面40とを接続する第1立ち面52Aと、オーバーハング部54と汚物受け面40とを接続する第2立ち面52Bとを含む。第1立ち面52Aは、便鉢部16の上端開口部16aから汚物受け面40までの範囲において、オーバーハング部54を形成することなく連続するように設けられる。
【0023】
本実施形態のオーバーハング部54は、便鉢部16の後部においてリム部44に設けられる。オーバーハング部54は、オーバーハング部54の下面を形成する上側水平面54aと、オーバーハング部54の外周側において上側水平面54aに接続される上側凹曲面54cと、を備える。ここでの「水平面」とは、幾何学的に厳密に水平な面の他にも、ほぼ水平な面も含まれる。ここでの「ほぼ水平」とは、例えば、水平線に対してなす角度が0°超10°以下をなす場合をいう。
【0024】
本実施形態の便器12は、複数の吐水部32A、32Bを備える。複数の吐水部32A、32Bは、第1吐水孔30Aから洗浄水を吐き出すことによって、第1旋回流Fa1(後述する)を形成する第1吐水部32Aと、第2吐水孔30Bから洗浄水を吐き出すことによって、第2旋回流Fa2(後述する)を形成する第2吐水部32Bとを含む。第1吐水孔30Aは、左右中心線Lyに対して左右方向Yの他方側(本実施形態では右側)に設けられる。第2吐水孔30Bは、溜水部42よりも後方において、左右中心線Lyに対して左右方向Yの一方側(本実施形態では左側)に設けられる。
【0025】
導水路36A、36Bは、棚面34A、34Bの他に、前述した立ち面52A、52Bによって構成される。棚面34A、34Bは、汚物受け面40において、汚物受け面40の外周端縁部40aから内周側に向けて連続する一部の径方向範囲に設けられる。本実施形態の棚面34A、34Bは、汚物受け面40の外周端縁部40aから内周端縁部までの範囲に設けられ、便鉢部16の全周に亘る範囲で連続する。
【0026】
導水路36A、36Bは、第1旋回流Fa1を導く第1導水路36Aと、第2旋回流Fa2を導く第2導水路36Bとを含む。第1導水路36Aの棚面34Aは、第1吐水孔30Aの内下面に滑らかに連続する。第1導水路36Aの終端部36aは、第2吐水孔30Bの径方向内側に設けられ、その棚面34Aは第2導水路36Bの棚面34Bに滑らかに連続する。第2導水路36Bの棚面34Bは、第2吐水孔30Bの内下面に滑らかに連続する。第2導水路36Bの終端部36bは、第1吐水孔30Aの径方向内側に設けられ、その棚面34Bは第1導水路36Aの棚面34Aに滑らかに連続する。
【0027】
図4を参照する。第2吐水孔30Bは、平面視において、互いに向き合う一対の内側面30a、30bを備える。一方の内側面30aは、後述する第1内周壁部112の周方向端部112aによって形成され、他方の内側面30bは、後述する第2内周壁部126によって形成される。第2吐水孔30Bの上流端から下流端に向かって、第2吐水孔30Bの重心(幾何中心)を連ねた実際の中心線を実中心線CL0とする。本実施形態において、一方の内側面30aは他方の内側面30bに向かって凸となる曲面状をなし、他方の内側面30bは直線状をなす。第2吐水孔30Bの内幅は、上流側から下流側に向かって連続的に変化することになる。ここでの第2吐水孔30Bの内幅とは、平面視において、実中心線CL0に直交する方向での寸法をいう。
【0028】
以上の便器装置10による洗浄方法を説明する。
図7を参照する。
図7では、主な主流の流れ方向に矢印を付す。本明細書での「主流」とは、洗浄水の一部が部分的に集まった状態で流れるすじ状の流れをいう。
【0029】
本実施形態の便器装置10は、水の落差を用いて汚物を押し流す洗い落とし式の洗浄方式によって汚物を排出する。給水装置14は、所定の洗浄開始条件を満たすと、所定の設定水量の洗浄水を便器12の吐水部32A、32Bに供給する。吐水部32A、32Bに供給される洗浄水は、給水路38A、38Bを経由して、吐水孔30A、30Bから便鉢部16内に吐き出される。吐水孔30A、30Bから吐き出される洗浄水によって、便鉢部16内に前述の旋回流Fa1、Fa2が形成される。旋回流Fa1、Fa2によって便鉢部16内が洗浄され、便鉢部16内の汚物が便器排水路24を通して排出される。以上の一連の動作を経ることで一回の便器洗浄が行われる。
【0030】
第1旋回流Fa1は、便鉢部16の前鉢領域46Fを経由して左鉢領域46Lを後向きに流れる。このとき、第1旋回流Fa1は、第1導水路36Aによって、第2吐水孔30Bの近傍まで導かれる。第1旋回流Fa1の一部は、便鉢部16の左鉢領域46Lを経由する過程で溜水部42側に流れ落ちることで、溜水部42に流入する主流としての分流Fgを形成する。
【0031】
第2旋回流Fa2の一部は、便鉢部16の後鉢領域46Bを経由して右鉢領域46Rを前向きに流れる。このとき、第2旋回流Fa2は、第2導水路36Bによって、第1吐水孔30Aの近傍まで導かれる。第2旋回流Fa2は、便鉢部16の後鉢領域46Bにおいて、第1旋回流Fa1と合流する。
図7では、第1旋回流Fa1と第2旋回流Fa2の主な合流位置Pm1を示す。これにより、第2旋回流Fa2の流量及び速度が増大することによって、第2旋回流Fa2の勢いが増幅される。
【0032】
第1の工夫点に関する説明に移る。
図4、
図7、
図8を参照する。便鉢部16は、第2旋回流Fa2が衝突することによって、第2旋回流Fa2の流れ方向を溜水部42側に転向させる転向部56を備える。本実施形態の転向部56は、リム部44の第2立ち面52Bとガイド面58(後述する)によって構成される。転向部56は、平面視において、左右中心線Lyに対して、第2吐水孔30Bとは反対側において便鉢部16の後部に形成される。転向部56は、平面視において、第2吐水孔30Bの中心線CL2の延長線Lc上に少なくとも設けられる。
【0033】
本明細書での「第2吐水孔30Bの中心線CL2」とは、第2吐水孔30Bの内幅が実質的に一定の場合、その実中心線CL0そのものをいう。一方、第2吐水孔30Bの内幅が連続的に変化する場合、第2吐水孔30Bの中心線CL2とは、第2吐水孔30Bにおいて最も内幅の狭い箇所での実中心線CL0の接線をいう。ここでの「最も内幅の狭い箇所」とは、実中心線CL0の接線の垂線のうち最も長さの短い垂線CL4の通る箇所をいう。ここでの垂線CL4は、一方の内側面30aから他方の内側面30bまで延びる線分をいう。本実施形態では、この垂線CL4に対応する接線が第2吐水孔30Bの中心線CL2となる。
【0034】
便鉢部16は、第2旋回流Fa2を上向きにガイドすることによって、汚物受け面40から跳ね上がる跳ね上げ水流Fb1、Fb2を形成するガイド面58を備える。ガイド面58は、汚物受け面40の外周端縁部40aにおいて、棚面34Bの一部、つまり、汚物受け面40の一部として設けられる。ガイド面58は、左右方向Yに沿った切断面において、左右方向Yの外側に向かうに連れて上昇する形状である。ここでの「左右方向Yの外側」とは、左右方向Yにおいて左右中心線Lyから遠ざかる側をいう。本実施形態のガイド面58は、左右方向Yに沿った切断面において、凹曲面状をなす。この他にも、ガイド面58は、凸曲面状及び平坦面状の何れかをなしていてもよい。
【0035】
ガイド面58は、第2立ち面52Bに設けられる鉛直面60と、汚物受け面40に設けられる下側水平面62とを接続する。
図4、
図8では、鉛直面60、下側水平面62の設けられる範囲を示す。これら鉛直面60及び下側水平面62は、平面視において、第2吐水孔30Bの中心線CL2の延長線Lc上に少なくとも設けられる。鉛直面60は、左右方向Yに沿った切断面において鉛直に設けられる。ここでの「鉛直」とは、幾何学的に厳密に鉛直な場合の他に、ほぼ鉛直な場合も含まれる。ここでの「ほぼ鉛直」とは、例えば、鉛直線に対してなす角度が0°超5°以下をなす場合をいう。下側水平面62は、左右方向Yに沿った切断面において水平に設けられる。ここでの「水平」とは、幾何学的に厳密に水平な場合の他に、ほぼ水平な場合も含まれる。ここでの「ほぼ水平」とは、例えば、水平線に対してなす角度が0°超10°以下をなす場合をいう。
【0036】
本実施形態のガイド面58は、転向部56の一部として転向部56に設けられる。ガイド面58は、転向部56に第2旋回流Fa2が衝突するときに、第2旋回流Fa2を上向きにガイドすることによって、跳ね上げ水流Fb1、Fb2を形成する。オーバーハング部54は、ガイド面58の上方に設けられ、後述のように跳ね上げ水流Fb1、Fb2をガイドする。
【0037】
図7、
図8、
図9を参照する。第2旋回流Fa2の一部は、転向部56と衝突することによって、流れ方向を溜水部42側に転向させられる。このとき、第2旋回流Fa2の一部は、ガイド面58によって上向きにガイドされることで、汚物受け面40から離れて跳ね上がる跳ね上げ水流Fb1、Fb2を形成する。跳ね上げ水流Fb1、Fb2は、転向部56の第2立ち面52Bを上向きかつ旋回方向Da1に伝いつつ、オーバーハング部54に達する。オーバーハング部54に達した跳ね上げ水流Fb1、Fb2は、オーバーハング部54によって、左右方向Yに折り返すようにガイドされる。オーバーハング部54は、第2旋回流Fa2が転向部56に衝突するときの流れ方向(
図7の右向き)に対して、跳ね上げ水流Fb1、Fb2の流れ方向(
図7の左向き)を左右方向Yに反転させるようにガイドすることになる。この結果、跳ね上げ水流Fb1、Fb2を形成する第2旋回流Fa2の一部は、全体として、前後方向X軸周りを回るように巻き上げられる。
【0038】
図7、
図9~
図11を参照する。跳ね上げ水流Fb1、Fb2の少なくとも一部Fb1は、汚物受け面40から離れた状態のまま、オーバーハング部54の内周端部54bを経由して、溜水部42に前向きに流れ込む流下水流Fc1を形成する。流下水流Fc1を形成する跳ね上げ水流Fb1は、オーバーハング部54の内周端部54bを離れるとき、その内周端部54bに沿った帯状をなしつつ放物線状に流れ落ちる。
図7では、この跳ね上げ水流Fb1の外形を模式的に示す。跳ね上げ水流Fb1は、後述する交差水流Fdと衝突することなく溜水部42に前向きに流れ込む。跳ね上げ水流Fb1は、側面視において溜水部42の後半領域42Bの上端縁42Baと重なる位置を通るように溜水部42に流れ込む(
図11参照)。
【0039】
第2旋回流Fa2の一部は、平面視において、汚物受け面40を流れる跳ね上げ水流Fbと交差する交差水流Fdとなる。交差水流Fdと跳ね上げ水流Fbの交差箇所は、右鉢領域46Rにおいて溜水面50の前後中心Cbよりも後方となる。交差水流Fdとなる第2旋回流Fa2の一部は、転向部56と衝突することなく、言い換えると、ガイド面58によってガイドされることなく。後鉢領域46Bから右鉢領域46Rに届くように流れる。
【0040】
流下水流Fc1を形成する跳ね上げ水流Fb1は、交差水流Fdと衝突することなく、汚物受け面40を流れる交差水流Fdの上方を通る。これに対して、一部の跳ね上げ水流Fb2は、汚物受け面40を流れる交差水流Fd上に落ちることで、交差水流Fdと合流する。
図7では、これらの主な合流位置Pm2を示す。このように、跳ね上げ水流Fb1、Fb2の少なくとも一部Fb1は、汚物受け面40を流れる交差水流Fdの上方を通ることができる。この条件に関して、本実施形態において、平面視において、跳ね上げ水流Fb1、Fb2と交差水流Fdが交差する周方向範囲のうちの一部の周方向範囲で満たされる。この他にも、跳ね上げ水流Fb1、Fb2の全部が、汚物受け面40を流れる交差水流Fdの上方を通っていてもよい。
【0041】
第2旋回流Fa2の一部となる交差水流Fdは、前述の通り、便鉢部16の右鉢領域46Rを前向きに流れる。交差水流Fdの一部は、右鉢領域46Rにおいて溜水部42側に下り傾斜となる勾配に従って流れることで、溜水部42の前半領域42Aに前向きに流れ込む流下水流Fc2を形成する。交差水流Fdの一部は、右鉢領域46Rを前向きに流れるとともに第1旋回流Fa1と合流する分流Feを形成する。
【0042】
便鉢部16の右鉢領域46Rには、第2導水路36Bの終端部36bから反旋回方向Da2に向かう一部の周方向範囲において、旋回方向Da1に向かって上り勾配となる上り勾配領域64(
図4も参照)が設けられる。交差水流Fdは、上り勾配領域64を前向きに流れる過程で前向きの速度成分が弱められることで、右鉢領域46Rから溜水部42側に流れ込み易くなる。この結果、溜水部42に流下水流Fc2として流れ込む交差水流Fdの水量を多くすることができる。
【0043】
以上のように第2旋回流Fa2は、溜水部42内に前向きに流れ込む流下水流Fc1、Fc2を形成する。流下水流Fc1、Fc2は、主に、前述した跳ね上げ水流Fb及び交差水流Fdによって形成される。流下水流Fc1と分流Fgは、平面視において、便器排水路24の入口24a上において合流し、その入口24a内に流れ込む(詳細は後述する)。
【0044】
図7、
図11を参照する。一部の流下水流Fc2は、溜水部42の底壁面42aに衝突しつつ各立壁面42b、42cによりガイドされることによって、溜水部42内において後向きかつ上向きに転向する。これにより、流下水流Fc2は、溜水部42内において上昇したうえで自重によって下降する。この結果、流下水流Fc2は、左右方向Yの軸周りに旋回するような後向きの誘導流Ffを形成する。誘導流Ffは、溜水部42内で下降することによって、便器排水路24の入口24aに汚物を押し込む流れとなる。このように、溜水部42は、流下水流Fc2によって、便器排水路24に汚物を押し込む誘導流Ffを形成するように構成される。
【0045】
一部の流下水流Fc1は、便器排水路24の入口24aに向けて直接に流れ込むことによって、その入口24aに汚物を押し込む流れとなる。ここでの「直接」とは、側面視において溜水部42の上端縁42Baと重なる位置から便器排水路24の入口24aまで下向きの速度を持ったまま流れ込むことをいう。誘導流Ffを形成する流下水流Fc2のように、溜水部42内において溜水部42の底壁面42aに衝突することによって、上向きに転向しないということである。
【0046】
以上の第1の工夫点に関する効果を説明する。便鉢部16は、汚物受け面40から跳ね上がる跳ね上げ水流Fb1、Fb2を形成するガイド面58を備える。跳ね上げ水流Fb1、Fb2の少なくとも一部Fb1は、溜水部42に前向きに流れ込む流下水流Fc1を形成する。この流下水流Fc1は、汚物受け面40から跳ね上がっているため、汚物受け面40よりも高い位置から溜水部42に流れ込む。よって、流下水流Fc1の鉛直下向きの速度を増大させることができる。これに伴い、流下水流Fc1によって、溜水部42内の汚物を便器排水路24に押し込み易くなる。ひいては、溜水部42内の汚物を排出し易くなり、汚物排出能力を高めることができる。
【0047】
跳ね上げ水流Fb1、Fb2の少なくとも一部Fb1は、汚物受け面40を流れる交差水流Fdの上方を通る。よって、交差水流Fdの上方を通ることなく跳ね上げ水流Fb1が交差水流Fdと衝突する場合と比べ、跳ね上げ水流Fb1の向きが変わり難くなる。ひいては、溜水部42における所望の箇所に大水量の跳ね上げ水流Fb1を流し易くなる。ここでの所望の箇所とは、例えば、溜水部42の後半領域42Bである。
【0048】
便鉢部16は、転向部56に設けられるガイド面58の上方に設けられ、跳ね上げ水流Fb1、Fb2を左右方向Yに折り返すようにガイドするオーバーハング部54を備える。よって、転向部56との衝突箇所から左右方向Yに離れた箇所に溜水部42があっても、その溜水部42まで届かせ易くなる。この他にも、オーバーハング部54によって、転向部56との衝突によって生じる飛沫の飛散を抑制できる。
【0049】
第1の工夫点に関する他の特徴を説明する。
図8を参照する。以下、第2吐水孔30Bを通るように第2吐水孔30Bの吐出方向Dbに沿った切断面での寸法を説明する。
図8は、この条件を満たす切断面である。この吐出方向Dbは、第2吐水孔30Bの中心線CL2(
図4参照)に沿った方向をいう。
【0050】
ガイド面58の高さ寸法をHa[mm]とし、ガイド面58の下端58aからオーバーハング部54までの高さ寸法をHb[mm]とする。ここでの高さ寸法とは上下方向Zに沿った寸法をいう。ガイド面58の下端58aは、下側水平面62との境界である下側変曲点となる。ガイド面58の上端58bは、ガイド面58に連続する鉛直面60及びオーバーハング部54の一方(本実施形態では鉛直面60)との境界である上側変曲点となる。ガイド面58の高さ寸法Haは、これら上側変曲点から下側変曲点までの高さ寸法として表すことができる。
【0051】
このとき、ガイド面58の高さ寸法Haは、高さ寸法Hbの1/3以上であると好ましい。この条件は、第2吐水孔30Bを通るように第2吐水孔30Bの吐出方向Dbに沿った切断面において満たしていればよい。ガイド面58の高さ寸法Haは、この条件を満たす切断面より前側において、前述の上り勾配領域64の設けられる範囲において、前側に向かうに連れて徐々に小さくなる。
【0052】
これにより、ガイド面58によって第2旋回流Fa2を上向きに効果的にガイドでき、跳ね上げ水流Fbの速度ベクトルの上向き成分を大きくできる。ひいては、跳ね上げ水流Fbを安定してオーバーハング部54まで届かせることができ、オーバーハング部54のガイドを伴い、跳ね上げ水流Fbを溜水部42まで安定して届かせ易くなる。これは、本願発明者の実験的な知見に基づき得られたものである。ここでの「上向き成分」とは、上下方向Zに沿った上向きの成分をいう。
【0053】
ガイド面58の下端58a上を通る第2旋回流Fa2の高さ寸法をHwという。この高さ寸法Hwは、一回の便器洗浄において達し得る最大の高さをいう。このとき、高さ寸法Hbは、第2旋回流Fa2の高さ寸法Hwの2倍以上であるとよい。この条件も、第2吐水孔30Bを通るように第2吐水孔30Bの吐出方向Dbに沿って切断した切断面において満たしていればよい。
【0054】
これにより、第2旋回流Fa2とオーバーハング部54との間に跳ね上げ水流Fbが通るスペースを確保できる。ひいては、第2旋回流Fa2の一部によって形成される交差水流Fdと跳ね上げ水流Fbの衝突を避け易くなる。この条件は、本願発明者の実験的な知見に基づき得られたものである。
【0055】
オーバーハング部54の上側凹曲面54cの高さ寸法をHc[mm]とする。上側凹曲面54cの下端54caは、上側凹曲面54cに連続する鉛直面60及びガイド面58の一方(本実施形態では鉛直面60)との境界となる下側変曲点となる。上側凹曲面54cの上端54cbは、上側水平面54aとの境界となる上側変曲点となる。このとき、高さ寸法Hcは、本実施形態において、高さ寸法Hbの1/4未満となる。
【0056】
図4を参照する。転向部56は、平面視において、前述の延長線Lcに対して垂直に設けられる。ここでの「垂直」とは、幾何学的に厳密に垂直となる他にも、ほぼ垂直な場合も含まれる。ここでの「ほぼ垂直」とは、延長線Lcに対してなす鋭角の角度が85°以上90°未満をなす場合をいう。
【0057】
第2吐水孔30Bから吐き出された洗浄水の多くは第2吐水孔30Bから延長線Lcに沿うように流れる。転向部56が延長線Lcに対して垂直に設けられる場合、垂直に設けられない場合と比べ、跳ね上げ水流Fbを高くまで跳ね上げ易くなる。ひいては、跳ね上げ水流Fb1を汚物受け面40から離れた状態のまま、ガイド面58から遠くまで届け易くなり、流下水流Fc1となる跳ね上げ水流Fb1の水量を多くすることができる。これは、本願発明者の実験的な知見に基づき得られたものである。
【0058】
第2の工夫点に関する説明に移る。一回の便器洗浄に用いられる、第1吐水部32Aから吐き出される全水量をWa1[ml]とし、第2吐水部32Bから吐き出される全水量をWa2[ml]とする。水量Wa1と水量Wa2の合計を合計水量Wa3[ml]という。
【0059】
一回の便器洗浄に用いられる、左鉢領域46Lを後向きに流れる第1旋回流Fa1の水量をWb1[ml]とする。この水量Wb1は、詳しくは、平面視において前鉢領域46Fと左鉢領域46Lとの境界となる境界線BL(
図5)上を通過する第1旋回流Fa1の水量をいう。この水量Wb1は、左鉢領域46Lを最初に通過する第1旋回流Fa1の水量をいい、便鉢部16内を周回した後に左鉢領域46Lを再通過する第1旋回流Fa1の水量は考慮しない。
【0060】
第1旋回流Fa1の水量Wb1は、全水量Wa1の半分以上となる。第1吐水部32Aを経由して左鉢領域46Lに最初に達するまでの間に溜水部42に後向きに流れ込む一部の第1旋回流Fa1の水量をWb2[ml]とする。このとき、水量Wb2は、全水量Wa1の半分未満になるということである。
【0061】
以上の全水量Wa1と第1旋回流Fa1の水量Wb1に関する条件を満たすうえでは、第1吐水部32Aから吐き出された洗浄水をできるだけ勢いを保ったまま左鉢領域46Lまで届かせることが望まれる。これを実現するため、本実施形態において、リム部44の前部は、次の条件を満たす形状を採用している。
【0062】
図12を参照する。
図12は、リム部44の内周面の前端44aにおける上下方向Zでの中央部を通る平面断面図である。以下、このような位置を通る平面視における断面形状に関するパラメータを説明する。リム部44の内周面において左右二点で接する最大径の内接円C1の直径をR0[mm]とする。内接円C1は、便鉢部16の各横鉢領域46L、46Rのそれぞれにおいてリム部44の内周面に接する。
【0063】
図13を参照する。直径R0の半円であって、リム部の内周面の前端44aに接する半円を基準半円C2とする。基準半円C2の面積をSa[mm
2]とする。基準半円C2の弧の両端部を結ぶ直線Leから前側における便鉢部16の内面の面積をSb[mm
2]とする。面積Sbは、
図13でハッチングを付した箇所の面積である。この基準半円C2の面積Saと便鉢部16の面積Sbとの差分値をSc[mm
2]とする。面積Scは、
図13でダブルハッチングを付した箇所の面積である。
【0064】
基準半円C2の面積Saに対する差分値Scの割合をPa(=Sc/Sa)とする。この割合Paは、直線Leから前側におけるリム部44の内周面の曲率を評価する指標となる。リム部44の内周面の曲率は、内接円C1の接する箇所44b(
図12参照)から前側に向かう途中で大きくなり、その前端44aにおいて最大となる。この割合Paが零値となるとき、リム部44の前部は、真円の一部となる基準半円C2の円弧を描くような曲線状をなす。この割合Paが大きくなるほど、リム部44の前部における内周面の曲率は、全体として、基準半円C2に対して急となる。言い換えると、割合Paが零値に近づくほど、リム部44の前部における内周面の曲率は、全体として、基準半円C2の曲率に近づくように緩やかになる。これに伴い、リム部44の前部を経由する過程で、周方向での速度成分を保ったまま左鉢領域46Lまで洗浄水を届かせ易くなる。
【0065】
図14、
図15を参照する。本願発明者は、この割合Paとの関係で、一般的なリム部44の前部の形状を整理した。この結果、この割合Paは、通常、0.12以上になるという知見を得た。
図14、
図15は、この割合Paが0.123である例を示す。この他に、この割合Paが0.09以下であれば、第1吐水部32Aから吐き出された洗浄水をできるだけ勢いを保ったまま左鉢領域46Lまで届かせ易くなるという知見を得た。これらの知見は、本願発明者の実験的な検討によって得られたものである。
【0066】
そこで、本実施形態において、リム部44の前部は、平面視において、この割合が0.09以下となる曲線状をなすことを条件としている。この条件は、リム部44の上下方向Zでの中央部において少なくとも満たされる。リム部44の上下方向Zでの全範囲において満たされてもよい。この条件を満たすうえで、リム部44の前部は、円弧線及び緩和曲線の少なくとも一方を用いた曲線状をなしていればよい。ここでの円弧線とは曲率が一定の曲線をいう。緩和曲線とは曲率が連続的に変化する曲線をいう。このように曲線状をなすうえで、円弧線及び緩和曲線の他に、直線を組み合わせてもよい。割合Paは、零値に近いほど好ましく、例えば、0以上0.05以下であると好ましい。本実施形態において割合Paは、0.011以上0.034以下となる。
【0067】
以上の第2工夫点に関する便器12の効果を説明する。左鉢領域46Lを伝わる第1旋回流Fa1の水量Wb1は、第1吐水部32Aから吐き出される全水量Wa1の半分以上である。よって、この条件を満たさない場合と比べ、第2旋回流Fa2と合流する第1旋回流Fa1の水量を増大できる。ひいては、第2旋回流Fa2によって形成される、溜水部42に前向きに流れ込む流下水流Fc1、Fc2の水量を増大できる。言い換えると、流下水流Fc1、Fc2に用いられることがない、溜水部42に後向きに流れ込む第1旋回流Fa1の水量を減少できる。よって、全水量Wa1に対する水量Wb1の割合を増やすことによって、溜水部42に前向きに流れ込む流下水流Fc1、Fc2の水量を増大できる。ひいては、流下水流Fc1、Fc2によって溜水部42内の汚物を排出し易くなり、汚物排出能力を高めることができる。特に、第1吐水部32Aから吐き出される全水量Wa1を増やすことなく、汚物排出能力を高めることができる点で有効である。
【0068】
第2工夫点に関する他の特徴を説明する。
図3を参照する。平面視において、最大前後寸法Laを四等分する等分線のうち、前後中心線Lxの両側に設けられる等分線をLd1、Ld2という。等分線Ld1には、前後中心線Lxよりも前側にある前側等分線Ld1と、前後中心線Lxよりも後側にある後側等分線Ld2とが含まれる。
【0069】
図1、
図3、
図16を参照する。第1立ち面52Aは、前鉢領域46Fに設けられる大曲率部80と、右鉢領域46Rに設けられる第1小曲率部82と、左鉢領域46Lに設けられる第2小曲率部84とを備える。大曲率部80は、リム部44の前端44aを含む周方向範囲において、前鉢領域46Fの少なくとも大部分に設けられる。ここでの「大部分」とは、言及している箇所の周方向の9割以上に亘る範囲をいう。第1小曲率部82は、第1吐水孔30Aから大曲率部80までの周方向範囲に設けられ、前後中心線Lxから大曲率部80までの周方向範囲で少なくとも連続している。第2小曲率部84は、大曲率部80から便鉢部16の前後中心線Lxまでの周方向範囲で少なくとも連続している。各小曲率部82、84は、平面視において、第1吐水孔30Aから前側等分線Ld1までの前後方向Xでの範囲に収まるように設けられる。
【0070】
小曲率部82、84の曲率範囲は、大曲率部80の曲率範囲よりも小さくなる。大曲率部80の曲率範囲は、例えば、0.006[mm-1]以上0.008[mm-1]以下である。小曲率部82、84の曲率範囲は、例えば、0.0001[mm-1]以上0.0060[mm-1]以下である。ここでの曲率とは平面視での曲率をいう。
【0071】
大曲率部80の鉛直面に対する傾斜角度θ1は、小曲率部82、84の鉛直面に対する傾斜角度θ2よりも緩やかとなる。ここでの鉛直面に対する傾斜角度とは、便鉢部16の中心Caを通る鉛直断面での鉛直面に対する鋭角での傾斜角度をいう。本実施形態の小曲率部82、84は、前側に向かうに連れて、徐々に傾斜角度θ2が緩やかとなるように形成される。
【0072】
これにより、大曲率部80の傾斜角度θ1を小曲率部82、84の傾斜角度θ2よりも急にする場合と比べ、大曲率部80を第1旋回流Fa1が経由するとき、遠心力の影響によって、上下方向の広い範囲に第1旋回流Fa1を届かせ易くなる。ひいては、大曲率部80の洗浄範囲を広範囲化できる。
【0073】
図17を参照する。第1導水路36Aの棚面34Aは、棚面34Aの外周端部を構成する凹曲面部34aと、凹曲面部34aに連続するとともに凹曲面部34aよりも内周側に設けられる平坦面部34bとを備える。
図17では、凹曲面部34aと平坦面部34bの境界Bcを示す。
【0074】
第1導水路36Aの終端部36aは、後述する第1内周壁部112の周方向端部112aに設けられる。第1内周壁部112の周方向端部112aは、第1内周壁部112の内周面を形成する内周面部112bと、周方向端部112aの先端面を形成する凸曲面状の先端面部112cと、を備える。
図17では、内周面部112bと先端面部112cとの境界Bdを示す。この境界Bdは、平面視において平坦面状及び凹曲面状の何れかを呈する内周面部112bと先端面部112cとの変曲点となる。
【0075】
第2吐水孔30Bの上下方向Zでの中央位置を中央高さ位置Pbという。中央高さ位置Pbは、第2吐水孔30Bの最大高さ寸法Hcを二等分する位置となる。第1旋回流Fa1は、第1導水路36Aの終端部36aにおいて、第2吐水孔30Bの中央高さ位置Pbよりも上方まで届く。これは、第1導水路36Aの終端部36aにおいて、第1旋回流Fa1の届き得る領域の上辺86が第2吐水孔30Bの中央高さ位置Pbよりも上方に位置することを意味する。この条件は、一回の便器洗浄において第1導水路36Aの終端部36aにおいて一時的に満たされていればよい。この条件は、第1導水路36Aの終端部36aに設けられる境界Bdから反旋回方向Da2に連続する範囲で満たされていてもよい。
【0076】
これにより、第2吐水孔30Bの中央高さ位置Pbよりも上方まで届かない場合と比べ、第2旋回流Fa2と合流する第1旋回流Fa1の水量を増大できる。ひいては、第2旋回流Fa2によって形成される流下水流Fc1、Fc2の流量を増大できる。
【0077】
この他に、便器12の前端から前方に400mm、床から上方に1400mmの位置にある視点から、後方かつ下方に向かって便器12を見る場合を考える。
図11では、オーバーハング部54の下方でオーバーハング部54と上下方向Zに重なる位置において、この視点から見える範囲Sdを示す。この場合に、前述の第2吐水孔30Bの中央高さ位置Pbに関する条件を満たすことで、このような視点から見て、オーバーハング部54と上下方向Zに重なる位置において見える便鉢部16の一部の箇所Peを洗浄できるようになる。これは、オーバーハング部54と上下方向Zに重なる位置の全域において満たされる。これにより、欧州規格であるEN997の5.2.2において要求される洗浄性能を達成し易くなる。ここでの要求される洗浄性能とは、便鉢部16内における所定の面積以上の範囲を洗浄することで達成されるものをいう。
【0078】
次に、第1及び第2の工夫点に関する他の特徴を説明する。
図11を参照する。流下水流Fc1、Fc2は、溜水部42の後半領域42Bに前向きに流れ込む後方流下水流Fc1と、溜水部42の前半領域42Aに前向きに流れ込む前方流下水流Fc2と、を含む。前方流下水流Fc2は、跳ね上げ水流Fb及び交差水流Fdのうち、交差水流Fdによって主に形成される。後方流下水流Fc1は、跳ね上げ水流Fb及び交差水流Fdのうち、跳ね上げ水流Fbによって主に形成される。誘導流Ffは、前方流下水流Fc2及び後方流下水流Fc1のうち、前方流下水流Fc2によって主に形成される。便器排水路24の入口24aに向けて直接に流れ込む水流は、前方流下水流Fc2及び後方流下水流Fc1のうち、後方流下水流Fc1によって主に形成される。
【0079】
一回の便器洗浄に用いられる、後方流下水流Fc1の全水量をWc1[ml]とし、前方流下水流Fc2の全水量をWc2[ml]とする。溜水部42に前向きに流れ込む流下水流Fc1、Fc2の全水量をWc3とする。後方流下水流Fc1の全水量Wc1は、側面視において、溜水面50の前後中心Cbよりも後方において、最高水位の溜水面50と重なる位置を、前向きかつ下向きに通る後方流下水流Fc1の全水量によって表される。前方流下水流Fc2の全水量Wc2は、側面視において、溜水面50の前後中心Cbよりも前方において、最高水位の溜水面50と重なる位置を、前向きにかつ下向きに通る前方流下水流Fc2の全水量によって表される。全水量Wc1及びWc2は、溜水部42に溜め水48がないと仮定した条件のもと、前述の溜水面50と重なる位置を通る水流Fc1、Fc2の水量を測定することで特定すればよい。水量Wc3は、水量Wc1と水量Wc2の合計となる。
【0080】
このとき、流下水流Fc1、Fc2の全水量Wc3は、第1吐水部32Aと第2吐水部32Bから吐き出される合計水量Wa3の半分以上となる。流下水流Fc1、Fc2の全水流Wc3は、一回の便器洗浄に用いられる全水量(=Wa3)の半分以上になるということである。合計水量Wa1の半分未満の水量は、便鉢部16の溜水部42に前向きに流れ込む水流に用いられることになる。
【0081】
これにより、前述のWc3とWa3に関する条件を満たさない場合と比べ、溜水部42に前向きに流れ込む流下水流Fc1、Fc2の水量を更に増大できる。ひいては、汚物排出能力を更に高めることができる。
【0082】
後方流下水流Fc1の鉛直下向きの速度Vrは、前方流下水流Fc2の下向きの速度Vfよりも大きくなる。この条件は、本実施形態において、後方流下水流Fc1が跳ね上げ水流Fbによって主に形成され、前方流下水流Fc2が交差水流Fdによって主に形成されることで満たされる。ここでの速度とは、側面視において、最高水位の溜水面50と重なる位置を下向きに通るときの鉛直下向きの速度をいう。後方流下水流Fc1の速度Vrは、溜水面50の前後中心Cbよりも前方において、ここで言及する位置を通るときの速度をいい、前方流下水流Fc2は、溜水面50の前後中心Cbよりも後方において、ここで言及する位置を通るときの速度をいう。速度Vr、Vfも、全水量Wc1、Wc2と同様、溜水部42に溜め水48がないと仮定した条件のもと、前述の溜水面50と重なる位置を通る水流Fc1、Fc2の速度を測定することで特定すればよい。ここで言及する位置を下向きに流下水流Fc1、Fc2が通るとき、様々な方向の速度を持つ水流が下向きに流れている。よって、ここでの速度Vr、Vfは、側面視において、前後方向Xに等間隔を空けた箇所(例えば、2箇所)の速度測定値を取得し、その速度測定値を平均した平均値を用いてもよい。この他にも、この後方流下水流Fc1の水量Wc1は、前方流下水流Fc2の水量Wc2よりも大きくなる。
【0083】
これにより、この速度Vr、Vfに関する条件を満たさない場合と比べ、後方流下水流Fc1の勢いを強くでき、便器排水路24の入口24aに向けて溜水部42内の汚物を押し込み易くなる。ひいては、汚物排出能力を更に高めることができる。特に、後方流下水流Fc1の水量Wc1は、前方流下水流Fc2の水量Wc2よりも大きくなる。よって、この水量Wc1、Wc2に関する条件を満たさない場合と比べ、後方流下水流Fc1の勢いを更に強くでき、汚物排出能力を一層に高めることができる。
【0084】
溜水部42に流れ込む跳ね上げ水流Fb1、Fb2の水量をWd1という。この水量Wd1は、第1吐水部32A及び第2吐水部32Bのそれぞれから吐き出された洗浄水によって形成される跳ね上げ水流Fb1、Fb2の水量をいう。この水量Wd1は、「第1吐水部32Aのみから吐き出される洗浄水によって形成される跳ね上げ水流Fb1、Fb2の水量ではないということである。この跳ね上げ水流Fb1、Fb2の水量Wd1には、交差水流Fdの水量は含まれない。このとき、跳ね上げ水流Fb1、Fb2の水量Wd1は、第2吐水部32Bから吐き出される洗浄水の全水量Wa2の半分以上となる。
【0085】
これにより、この条件を満たさない場合と比べ、跳ね上げ水流Fb1、Fb2が形成する流下水流Fc1の水量を大きくできる。ひいては、跳ね上げ水流Fb1、Fb2によって汚物排出能力を更に高めることができる。特に、第2吐水部32Bから吐き出される全水量Wa2を増やすことなく、汚物排出能力を高めることができる点で有効である。
【0086】
図6を参照する。平面視において、溜水部42の前後中心Cbを通り、かつ、左右方向Yに沿って延びる線を区分線Leという。溜水部42に関して、平面視において、左右中心線Lyと区分線Leとで四つの分割領域Sr1~Sr4に区分けする。四つの分割領域Sr1~S4は、平面視において、左右中心線Lyと区分線Leを境界として分けられる溜水部42の別々の部位である。以下、四つの分割領域に関して、溜水部42の前端から旋回方向Da1に向かって順に、第1分割領域Sr1、第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3、第4分割領域Sr4という。各分割領域Sr1~Sr4に関して、ここでは便宜的に、図示の位置を基準として、左前領域Sr1、左後領域Sr2、右後領域Sr3、右前領域Sr4ともいう。溜水部42の前半領域42Aは、左前領域Sr1、右前領域Sr4によって構成され、その後半領域42Bは、左後領域Sr2、右後領域Sr3によって構成される。
【0087】
図18を参照する。前後中心Cbを原点とし、区分線Leを原点周りの両側に60°回転させた一対の線を基準線Lfという。一方の基準線Lfは他方の基準線Lfに対して120°の角度をなすことになる。
【0088】
溜水部42は、平面視において、左右方向Yの一方側(本実施形態では左側)に設けられる第1側方領域42C(以下、左側方領域42Cという)と、左右方向Yの他方側に設けられる第2側方領域42D(以下、右側方領域42Dという)とを備える。左側方領域42Cは、平面視において、前後中心Cbに対して左右方向Yの一方側(本実施形態では左側)において、一対の基準線Lfによって挟まれる領域である。右側方領域42Dは、平面視において、前後中心Cbに対して左右方向Yの他方側(本実施形態では右側)において、一対の基準線Lfによって挟まれる領域である。
【0089】
図19を参照する。便器洗浄時、左右方向Yの一方側(本実施形態では左側)から溜水部42に流れ込む少なくとも一つの一方側主流Fhと、左右方向Yの他方側(本実施形態では右側)から溜水部42に流れ込む少なくとも一つの他方側主流Fi1、Fi2とが形成される。一方側主流Fhは後向きの速度成分を持ち、他方側主流Fi1、Fi2は前向きの速度成分を持つ。本実施形態において、一方側主流Fhは、前述の分流Fgである。本実施形態において、他方側主流Fi1、Fi2は、流下水流Fc1である第1他方側主流Fi1と、流下水流Fc2である第2他方側主流Fi2である。いずれの主流Fh、Fi1、Fi2に関しても、第1吐水部32A及び第2吐水部32Bのいずれかから吐き出される洗浄水によって形成される。
【0090】
図19では、一方側主流Fh、他方側主流Fi1、Fi2に関して、それぞれの中心線方向そのものを示す。ここでの中心線方向とは、平面視において、主流Fh、Fi1、Fi2のなすすじ形状の中心線に沿った方向をいう。
図7では、平面視において、一方側主流Fh、第1他方側主流Fi1のなすすじ形状の中心線方向の両側にある一対の側辺も併せて示す。
【0091】
一方側主流Fhが溜水部42の上端縁Baを通るときの、その中心線の接線方向を流入方向De1という。同様に、他方側主流Fi1、Fi2が溜水部42の上端縁Baを通るときの、その中心線の接線方向を流入方向De2という。
【0092】
左右中心線Lyに対して一方側主流Fhの流入方向De1のなす角度を第1流入角度θa1という。左右中心線Lyに対して他方側主流Fi1、Fi2の流入方向Deのなす角度を第2流入角度θa2という。本図では、第1他方側主流Fi1と第2他方側主流Fi2の第2流入角度θa2が同一である。
【0093】
溜水部42の前後中心Cbを原点とし、P軸とQ軸とからなる直交座標系を想定する。P軸は、前方向を正とする。Q軸は、左右方向Yのうち、P軸の正方向軸に対して旋回方向Da1に隣り合う方向(本実施形態では左方向)を正とする。この直交座標系において、第1流入方向De1が原点から延びるとする。このとき、第1流入角度θa1は、P軸の正の部分を始線として、左右中心線Lyに対して第1流入方向De1のなす角度をいう。同様に、この直交座標系において、第2流入方向De2が原点から延びるとする。このとき、第2流入角度θa2は、P軸の負の部分を始線として、左右中心線Lyに対して第2流入方向De2のなす角度をいう。この他に、第1流入角度θa1と第2流入角度θa2の角度差をθd(不図示)という。この角度差θdは、第1流入角度θa1と第2流入角度θa2との差分絶対値である。
【0094】
一方側主流Fhは、便鉢部16の左鉢領域46Lから溜水部42の左側方領域42Cに向かうように形成される。便鉢部16の左鉢領域46L上には単数の太い一方側主流Fhが形成される。一方側主流Fhは、平面視において、左前領域Sr1及び左後領域Sr2の両方に流入する。一方側主流Fhは、左前領域Sr1と左後領域Sr2の境界(区分線Le)を前後方向Xにまたがるように溜水部42に流入することになる。
【0095】
他方側主流Fi1、Fi2は、便鉢部16の右鉢領域46Rから溜水部42の右側方領域42Dに向かうように形成される。他方側主流Fi1、Fi2は、平面視において、右後領域Sr3及び右前領域Sr4の両方に流入する。詳しくは、第1他方側主流Fi1は右後領域Sr3に流入する。第2他方側主流Fi2は右後領域Sr3、右前領域Sr4に流入する。一方側主流Fi1は、左側方領域42Cに流入し、他方側主流Fi1、Fi2は、右側方領域42Dに流入することになる。
【0096】
一方側主流Fhの第1流入角度θa1は、好ましくは、他方側主流Fi1、Fi2の第2流入角度θa2よりも大きくなる。一方側主流Fhの第1流入角度θa1は、好ましくは、45°以上90°以下の範囲である。他方側主流Fi1、Fi2の第2流入角度θa2は、好ましくは、30°以上75°以下の範囲である。この条件は、本実施形態では、第1他方側主流Fi1、第2他方側主流Fi2の何れに関しても満たされる。一方側主流Fhの第1流入角度θa1と第1他方側主流Fi1の第2流入角度θa2との角度差θdは、好ましくは、30°以内となる。
【0097】
図19、
図20を参照する。
図20では、便器排水路24の入口24aが設けられる前後方向Xでの範囲Saを示す。一方側主流Fhは、溜水部42の左側方領域42Cの上端縁Ba上から溜水部42に流れ込む。他方側主流Fi1、Fi2は、溜水部42の右側方領域42Dの上端縁Ba上から溜水部42に流れ込む。
【0098】
一方側主流Fhと第1他方側主流Fi1は、平面視において、溜水部42上において合流し、便器排水路24の入口24a内に流れ込む。詳しくは、前述の角度差θdをもつ一方側主流Fhの一部と第1他方側主流Fi1の一部が、ここで説明したように、便器排水路24の入口24a上において合流する。
図20では、これらの主な合流位置Pm3を示す。これら主流Fh、Fi1の一部は、この合流した勢いを持ったまま、溜水部42の底部に衝突することなく、便器排水路24の入口24aを通して便器排水路24内に流れ込むことになる。これら主流Fh、Fi1の主な合流位置Pm3は、静止状態にある溜水面50のある高さ位置よりも下方、かつ、溜水部42の底部よりも上方となる。このように溜水部42の底部に衝突することなく、便器排水路24内に流れ込む水流の流量は、主流Fh、Fi1の合流により形成される水流の流量の半分以上となる。
【0099】
これにより、一方側主流Fhと他方側主流Fi1との合流により大水量化した水流を用いて、合流したときの下向きの勢いをもったまま便器排水路24内に汚物を押し込むことができる。ひいては、効果的に汚物排出能力を高めることができる。
【0100】
このとき、平面視において、溜水部42上で合流する主流Fh、Fi1、Fi2の全水量をWe0とする。平面視において、便器排水路24の入口24a上で合流する主流Fh、Fi1の全水量をWe1とする。平面視において、便器排水路24の入口24aとは異なる箇所で溜水部42上で合流する主流Fh、Fi1、Fi2の全水量をWe2とする。We1とWe2の合計がWe0となる。このとき、汚物排出能力を高める観点から、全水量We1は、好ましくは、全水量We0の半分以上となる。
【0101】
平面視において、溜水部42内において便器排水路24の入口24aよりも前方には、浮遊性汚物等の浮遊物が残り得る。この溜水部42内に残る浮遊物は、前述の誘導流Ff(
図7参照)によって溜水部42内において後向きに押し流されることで、便器排水路24の入口24a内に流し込まれる。
【0102】
本実施形態の便器12は、以上の流れを便鉢部16内に形成するように構成される。これを実現するうえで、便鉢部16の形状、吐水部32A、32Bから吐き出される洗浄水の流量、洗浄水を吐き出す方向等が定められる。洗浄水の流量は、例えば、吐水部32A、32の吐水孔30A、30B、給水路38A、38Bの断面形状に応じて定められる。ここでの「便鉢部16の形状」には、例えば、リム部44の内周面、汚物受け面40、溜水部42が含まれる。
【0103】
本実施形態の便器12は、便鉢部16の底部及び便器排水路24の何れかに開口するジェット孔を備えていない。このジェット孔は、便器排水路24の下流側に向かって噴流を噴射することによって、汚物の排出を促進するジェット水流を便器排水路24内に形成可能である。
【0104】
第3の工夫点に関する説明に移る。
図2を参照する。第1吐水部32Aは、第1吐水孔30Aの他に、第1吐水孔30Aに連続する第1給水路38Aを備える。第2吐水部32Bは、第2吐水孔30Bの他に、第2吐水孔30Bに連続する第2給水路38Bを備える。第1給水路38Aは、便器12の後面部に開口する給水孔100から空洞部20の後方及び右側方を経由して、第1吐水孔30Aまで連続している。第2給水路38Bは、給水孔100から空洞部20の後方及び左側方を経由して、第2吐水孔30Bまで連続している。各給水路38A、38Bは、給水装置14から供給される水を吐水孔30A、30Bに導くことができる。
図2では、各給水路38A、38B内での水の主な流れ方向に矢印を付す。
【0105】
第2吐水孔30Bの開口面積は、第1吐水孔30Aの開口面積よりも大きい。ここでの開口面積とは、言及している吐水孔30A、30Bの中心線CL1、CL2に直交する断面での断面積をいう。
【0106】
図21を参照する。第3の工夫点は、主に、第2給水路38Bに関する。第2給水路38Bは、給水装置14から供給される洗浄水が流れる上流側水路102と、上流側水路102に対して下流側に連続する水室104と、を備える。
【0107】
上流側水路102の下流側部分は、左右中心線Lyに対して左右方向Yの一方側(本実施形態では左側)を経由するように設けられる。上流側水路102の下流側端部には下流端開口106が設けられる。水室104には、上流側水路102の下流端開口106から洗浄水が流入水流Fh(
図22参照)として流入する。
【0108】
下流端開口106の中心線CL3に沿った中心線方向Dcのうち、下流端開口106から水室104に洗浄水が流入する方向を流入方向Dc1といい、それとは反対方向を反流入方向Dc2という。平面視において、下流端開口106の中心線CL3を流入方向Dc1に延長した線を延長線Lfという。
【0109】
水室104の流路断面積は、少なくとも、下流端開口106から行き止まり領域108(後述する)までの連続する範囲において、下流端開口106の流路断面積よりも大きくなる。ここでの流路断面積とは、軸線方向Dcに直交する断面での断面積をいう。
【0110】
第2吐水孔30Bは、水室104に対して下流側に連続しており、水室104において延長線Lfの途中位置Pcから見て軸線方向Dcと交差する方向Deに位置する。この方向Deは、本実施形態では、軸線方向Dcと直交する方向となる。第2吐水孔30Bは、便鉢部16に開口し、延長線Lfの途中位置Pcから方向Deに向かって開放する。第2吐水孔30Bは、水室104から供給される水の流れを絞ることができる形状である。
【0111】
水室104は、水室104において延長線Lfの途中位置Pcよりも流入方向Dc1に設けられる行き止まり領域108を備える。行き止まり領域108は、反流入方向Dc2側の端部を構成する入口側端部108aを備える。行き止まり領域108は、入口側端部108aよりも流入方向Dc1において、便器12の他の箇所には連通していない行き止まりとなる。
【0112】
便鉢部16は、便鉢部16の内周側に設けられる内周側空間110と行き止まり領域108とを隔てる第1内周壁部112を備える。第1内周壁部112は、リム部44の内周面を形成しており、平面視において曲線状をなす。便器12は、平面視において、延長線Lfに対して第2吐水孔30Bとは反対側に設けられる外壁部114を備える。行き止まり領域108は、第1内周壁部112と外壁部114との間に形成される。第1内周壁部112の周方向端部112aは第2吐水孔30Bを形成する。
【0113】
延長線Lfに直交する水平方向を幅方向Ddという。幅方向Ddにおいて、第2吐水孔30B側を内側とし、第2吐水孔30Bとは反対側を外側という。幅方向Ddに沿った寸法を幅寸法という。下流端開口106の幅寸法をa[mm]とする。中心線CL3から外壁部114の内面までの幅寸法をeとする。このとき、水室104には、下流端開口106よりも幅方向Dd外側に幅寸法を拡大させるような拡大空間116が設けられる。前述の幅寸法eは、拡大空間116の設けられている範囲において、下流端開口106の幅寸法a×0.5(=a/2)よりも大きくなるということである。拡大空間116は、水室104において下流端開口106から行き止まり領域108までの範囲に設けられる。
【0114】
図22を参照する。第2給水路38B内での洗浄水の流れ方を説明する。給水装置14から上流側水路102に洗浄水が供給されると、上流側水路102の下流端開口106から洗浄水が流入水流Fhとして流入する。流入水流Fhは、水室104内において流入方向Dc1に向かう途中で幅方向Ddに広がりつつ流れる。これにより、流入水流Fhは、水室104内において幅方向Dd外側の第1分流Fi1と幅方向Dd内側の第2分流Fi2に分かれるように流れる。第1分流Fi1は、水室104内において拡大空間116を通るように流れ、流入方向Dc1の速度成分を持つ。第1分流Fi1は、行き止まり領域108の入口側端部108aから行き止まり領域108内に流れ込む。第2分流Fi2は、水室104内において拡大空間116よりも延長線Lf側の空間を通るように流れ、流入方向Dc1の速度成分を持つ。
【0115】
行き止まり領域108は、第1分流Fi1を軸線方向Dcに折り返すように誘導することによって反流入方向Dc2に流れる戻り水流Fjを形成する。このとき、第1分流Fi1は、行き止まり領域108における外壁部114寄りの箇所を流入方向Dc1の速度成分を持って流れることで、折り返すように誘導される。戻り水流Fjは、行き止まり領域108において第1分流Fi1の流れる箇所よりも第1内周壁部112寄りの箇所を反流入方向Dc2の速度成分を持って流れる。
【0116】
第2分流Fi2の一部は、戻り水流Fjと衝突することによって、流れ方向を第2吐水孔30B側に転向する。
図22では、第2分流Fi2と戻り水流Fjの衝突箇所Pdを示す。本実施形態において、この衝突箇所Pdは、前述の途中位置Pcの周囲となる。戻り水流Fjの一部も、第2分流Fi2と衝突することによって、その流れ方向を第2吐水孔30B側に転向する。流れ方向を転向した第2分流Fi2及び戻り水流Fjの一部Fkは、そのまま第2吐水孔30Bを通るように流れることで、第2吐水孔30Bから便鉢部16内に吐き出される。
【0117】
この他にも、第2分流Fi2及び戻り水流Fjの一部は、互いに衝突することによって、外壁部114側に向かう水流Flを形成する。この水流Flは、外壁部114寄りの箇所を流れる第1分流Fi1と合流する。第1分流Fi1は、この水流Flと合流しつつ、行き止まり領域108を流れ続ける。この結果、行き止まり領域108において第1分流Fi1及び戻り水流Fjが回転するように流れ続け、戻り水流Fjが第2分流Fi2と継続的に衝突し続ける。
【0118】
第3の工夫点に関する効果を説明する。便器12は、流入水流Fhの一部となる第1分流Fi1を折り返すように誘導する行き止まり領域108を備える。この行き止まり領域108により第1分流Fi1を誘導することによって、反流入方向Dc2に戻るように流れる戻り水流Fjを形成できる。この戻り水流Fjを流入水流Fhの一部となる第2分流Fi2に衝突させることによって、第2分流Fi2の流れ方向を第2吐水孔30B側に転向させることができる。
【0119】
以上により、上流側水路102に高流速の洗浄水が供給された場合でも、第2分流Fi2と戻り水流Fjの衝突によって、洗浄水の流速を低減させることができる。これとともに、上流側水路102から水室104内に流入させるときに、水室104内において洗浄水を拡散させることで、その流速を更に低減させることができる。これらが相まって、給水装置14から上流側水路102に供給される洗浄水を低流速化したうえで第2吐水孔30Bまで流すことができる。上流側水路102の下流端開口106を流れる洗浄水の流速と比べて、第2吐水孔30Bから吐き出される洗浄水の流速が低くなるということである。
【0120】
よって、上流側水路102に高流速の洗浄水が供給された場合でも、増水段階にあるときの第2吐水孔30Bからの洗浄水の飛び出しを抑制できる。このような洗浄水の飛び出しを抑制することによって、便器12の上面部18に洗浄水が乗り上げる事態も抑制できる。ここでの「増水段階」とは、第2給水路38B内に洗浄水が徐々に溜まることで、その水位が徐々に高くなる段階をいう。
【0121】
この他にも、水室104において洗浄水を低流速化しつつも、第2吐水孔30Bの開口面積の大型化によって、第2吐水孔30Bから吐き出される洗浄水の流量を確保できる。これにより、給水装置14から高流速の洗浄水を供給することで、大流量の洗浄水を水室104まで供給したうえで、その洗浄水を水室104内において低流速化したとしても、第2吐水孔30Bから大流量の洗浄水を吐き出せるようになる。
【0122】
この他に、満水段階にあるときも、上流側水路102の下流端開口106を流れる洗浄水の流速と比べ、第2吐水孔30Bから吐き出される洗浄水の流速を低くすることができる。このように洗浄水の流速を意図的に低下させることで、便鉢部16内において洗浄水の届く範囲を狭めることができ、便鉢部16内での水の流れ方に関する設計上の自由度の向上を企図できる。例えば、第2吐水孔30Bから吐き出された洗浄水が主に届く範囲を後鉢領域46B、右鉢領域46Rに狭め、前鉢領域46Fまで届き難くするように設計できる。これにより、溜水部42に後向きに流れ込む流下水流の全水量を低減させつつ、溜水部42に前向きに流れ込む流下水流Fc1、Fc2の全水量を増大できる。ここでの「満水段階」とは、第2給水路38B内の洗浄水の水位が満水位になった段階、及び、満水位に近い水位で安定した段階の何れかをいう。
【0123】
次に、第3の工夫点に関する他の特徴を説明する。
図21を参照する。平面視において行き止まり領域108に内接する仮想的な半円領域117を想定する。半円領域117の円弧は、延長線Lfに対して幅方向Dd両側において行き止まり領域108の内壁面に内接する。半円領域117の弦は、延長線Lf(左右方向Y)に直交しており、その弦の延長線(不図示)は、行き止まり領域108の入口側端部108aにおける反流入方向Dc2の末端位置108cに接する。行き止まり領域108は、半円領域117の半径が幅寸法a以上となるように設けられる。
【0124】
行き止まり領域108の入口側端部108aにおける幅寸法をb[mm]とする。行き止まり領域108の流入方向Dc1に沿った水平寸法を奥行寸法c[mm]とする。奥行寸法cは、行き止まり領域108の入口側端部108aから奥側端部108bまでの寸法となる。
【0125】
このとき、入口側端部108aの幅寸法bは、下流端開口106の幅寸法a×2以上であると好ましい。これにより、流入方向Dc1に向かう第1分流Fi1と、反流入方向Dc2に向かう戻り水流Fjとが入口側端部108aで大きく干渉する事態を避け易くなる。ひいては、行き止まり領域108において戻り水流Fjを安定して形成し易くなる。この結果、戻り水流Fjと第2分流Fi2を安定して衝突させることができ、第2分流Fi2の流速を安定して低減させることができる。この幅寸法bの上限値は特に限定されない。この上限値は、例えば、240mmである。これは、本願発明者の実験的な知見に基づき得られたものである。
【0126】
入口側端部108aの奥行寸法cは、下流端開口106の幅寸法a×2以上であると好ましい。これにより、行き止まり領域108において半径を幅寸法a以上とする半円領域117よりも広いスペースを確保し易くなる。ひいては、このスペースにおいて第1分流Fi1を安定して折り返すように誘導できるようになり、戻り水流Fjを安定して形成し易くなる。この結果、戻り水流Fjと第2分流Fi2を安定して衝突させることができ、第2分流Fi2の流速を安定して低減させることができる。この奥行寸法cの上限値は特に限定されない。この上限値は、例えば、240mmである。これは、本願発明者の実験的な知見に基づき得られたものである。
【0127】
幅寸法b及び奥行寸法cが前述の上限値以下の場合、第2旋回流Fa2と第1旋回流Fa1が合流する前に、第2給水路38Bを増水段階から満水段階に移行させ易くなる。これも、本願発明者の実験的な知見に基づき得られたものである。
【0128】
上流側水路102には下流端開口106の近傍にガイド部118が設けられる。ガイド部118は、上流側水路102の幅方向Ddの内側の内側面から突き出る突起状をなす。
【0129】
図22を参照する。ガイド部118は、上流側水路102の下流側部分において幅方向Ddの内側を流れる洗浄水の一部Fm1が衝突する。ガイド部118は、この洗浄水の一部Fm1と衝突することによって、幅方向Ddの外側かつ下流側に向かう流れFm2を形成するようにガイドする。この流れFm2は、幅方向Ddの外側の速度成分を持ったまま整流されることなく下流端開口106まで流れる。上流側水路102の下流側部分において幅方向Ddの外側を流れる洗浄水の一部Fm3は、ガイド部118と衝突することなく、下流側に向けて直進する。
【0130】
これら流れFm2、Fm3が合流しつつ下流端開口106から水室104に洗浄水が流入することで、水室104内には流入水流Fhとして第1分流Fi1と第2分流Fi2が形成される。流入水流Fhとなる流れFm2、Fm3には、前述の通り、幅方向Yの外側の速度成分を持った流れFm2が含まれる。よって、この流れFm2があることで、第1分流Fi1の水量を増大でき、戻り水流Fjを安定して形成できる。
【0131】
(第2実施形態)
図23を参照する。本実施形態は、第3の工夫点に関する点で、
図21の実施形態と比べて相違する。詳しくは、本実施形態の便器12は、第1内周壁部112の周方向端部112aから径方向外側に向けて延び、第2吐水孔30Bを形成する第1孔壁部120を備える。第1孔壁部120と第1内周壁部112とは、幅方向Dd外側に凸となる角部122を介して連続する。第1孔壁部120は、下流端開口106の中心線の延長線Lfとは重ならない位置に設けられる。第1孔壁部120は、第2吐水孔30Bと行き止まり領域108の間に設けられる。
【0132】
便器12は、第2吐水孔30Bを挟んで第1孔壁部120とは反対側に設けられ、第2吐水孔30Bを形成する第2孔壁部124を備える。第2孔壁部124は、リム部44の内周面を形成する第2内周壁部126の周方向端部に設けられる。第2内周壁部126は、第2孔壁部124から左右中心線Ly側に向かって直線状に延びている。
【0133】
図24を参照する。第2吐水孔30Bは、第1孔壁部120及び第2孔壁部124に沿うように吐出範囲Raに洗浄水を吐き出す。
図24では、吐出範囲Raの一部のみを示す。第2吐水孔30Bの吐出範囲Raは、第1内周壁部112の周方向端部112aから第1孔壁部120の延びる方向を変更することで設定できる。つまり、以上の構成によれば、第1内周壁部112の外周側に行き止まり領域108があるレイアウトでも、第1孔壁部120の形状を変更することで、吐出範囲Raを自由に設定できる。
【0134】
本実施形態における第2給水路38B内での洗浄水の流れ方は第1実施形態と同様である。以下、その概要を説明する。上流側水路102の下流端開口106から流入する流入水流Fhは、水室104内において第1分流Fi1と第2分流Fi2に分かれるように流れる。行き止まり領域108は、第1分流Fi1を軸線方向Dcに折り返すように誘導することによって戻り水流Fjを形成する。第2分流Fi2と戻り水流Fjは、互いに衝突することによって、流れ方向を第2吐水孔30B側に転向する。このように流れ方向を転向した第2分流Fi2及び戻り水流Fjの一部Fkは、第2吐水孔30Bから便鉢部16内に吐き出される。
【0135】
第1孔壁部120は、行き止まり領域108において戻り水流Fjの一部Fj1を径方向外側にガイドできる。これにより、外壁部114側に向かう水流Flの速度成分を増幅できる。この結果、行き止まり領域108において第1分流Fi1及び戻り水流Fjが回転するように流れるうえで、それらの流速を大きくできる。よって、流入水流Fhの一部となる第2分流Fi2に対して高流速の戻り水流Fjを衝突させることができ、上流側水路102に供給される洗浄水を更に低流速化させることができる。
【0136】
(第3実施形態)
図25を参照する。本実施形態は、第3の工夫点に関する点で、
図21の実施形態と比べて相違する。本実施形態の水室104には、下流端開口106よりも幅方向Dd外側に幅寸法を拡大させる拡大空間116が設けられない。行き止まり領域108は、半円領域117の半径が幅寸法a以上となるように設けられる。
【0137】
図26を参照する。第2給水路38B内での洗浄水の流れ方を説明する。下流端開口106から水室104内に流入した流入水流Fhは、第1実施形態と同様、水室104内において幅方向Dd外側の第1分流Fi1と幅方向Dd内側の第2分流Fi2に分かれるように流れる。本実施形態では、第1分流Fi1は、水室104内において流入方向Dc1に直進するように流れる。第2分流Fi2は、水室104内において延長線Lfよりも幅方向Dd内側に広がるように流入方向Dc1に流れる。
【0138】
行き止まり領域108は、第1実施形態と同様、第1分流Fi1を誘導することによって、反流入方向Dc2に流れる戻り水流Fjを形成する。第2分流Fi2及び戻り水流Fjは、第1実施形態と同様、互いに衝突することによって、流れ方向を第2吐水孔30B側に転向する。この衝突箇所Pdは、本実施形態において、前述の途中位置Pcよりも第2吐水孔30B寄りの箇所となる。これ以外の点では、第1実施形態と共通となるため、その説明を省略する。
【0139】
(第4実施形態)
図27を参照する。本実施形態は、第1の工夫点に関する点で、
図8の実施形態と比べて相違する。詳しくは、本実施形態のリム部44は、ガイド面58に連続する立ち面40(鉛直面60)を備えていない。この代わりに、リム部44のオーバーハング部54の上側凹曲面54cは、ガイド面58に連続する。この場合、ガイド面58の上端58bは、ガイド面58に連続するオーバーハング部54との境界である上側変曲点となる。ガイド面58の高さ寸法Haは、本実施形態において、高さ寸法Haの1/2以上となる。
【0140】
上側凹曲面54cの高さ寸法Hcが大きくなるほど、オーバーハング部54によって、跳ね上げ水流Fb1、Fb2を左右方向Yに折り返すように安定してガイドし易くなる。この効果との関係で、上側凹曲面54cの高さ寸法Hcは、本実施形態において、高さ寸法Hbの1/4以上としている。本実施形態では、この条件を満たしつつ、本実施形態のガイド面58の上端58bは上側凹曲面54cの下端54caに連続している。
【0141】
各構成要素の他の変形形態を説明する。
【0142】
便器装置10は、洗い落とし式以外の他の洗浄方式を用いて洗浄してもよい。この洗浄方式は、例えば、サイホン式である。
【0143】
実施形態では、少なくとも一つの吐水部として二つの吐水部32A、32Bを備える便器12を説明した。少なくとも一つの吐水部の数は特に限定されない。この吐水部の数は単数でもよいし、三つ以上でもよい。第1及び第3の工夫点に関する特徴との関係で、便器12は、少なくとも一つの吐水部を備えていればよい。この関係で、便器12は、例えば、第1吐水部32A及び第2吐水部32Bの何れか一方を備えていてもよい。
【0144】
吐水部32A、32Bの吐出方向は反時計回りである例を説明した。これとは異なり、吐水部32A、32Bの吐出方向は時計回りでもよい。旋回流Fa1、Fa2の旋回方向Da1も同様である。
【0145】
左右方向Yの一方側は左側、他方側は右側である例を説明した。これとは異なり、左右方向Yの一方側は右側、他方側は左側であってもよい。実施形態の「左」の文言は「右」、「右」の文言は「左」に置き換えて捉えてもよいということである。これは、旋回流Fa1、Fa2の旋回方向が時計回りである場合を想定している。
【0146】
便器12は、給水路38A、38B内の洗浄水を便器排水路24に排出する水抜き水路を備えていてもよい。この水抜き水路は、ジェット水流とは異なり、汚物の排出に影響しない程度の勢いで便器排水路24に洗浄水を排出可能である。
【0147】
各工夫点で説明した効果を得るうえで、他の工夫点で説明した構成は必須とはならない。例えば、第1の工夫点に関する効果を得るうえで、第2の工夫点で説明した、第1吐水部32Aの全水量Wa1と第1旋回流Fa1の水量Wb1の関係は特に問わない。同様に、第1の工夫点に関する効果を得るうえで、便器12は行き止まり領域108を備えなくともよい。第2の工夫点に関する効果を得るうえで、便器12は転向部56、行き止まり領域108を備えなくともよい。第3の工夫点に関する効果を得るうえで、便器12の便鉢部16内での洗浄水の流れ方は特に限定されない。
【0148】
第1、第2の工夫点で説明した洗浄水の流れ方を実現するうえで、便器12の具体的な構造は特に限定されない。例えば、跳ね上げ水流Fb、交差水流Fdを形成するうえで、便器12は少なくとも一つの吐水部32Bを備えていればよい。この少なくとも一つの吐水部32Bの吐水孔30Bは、実施形態において、便鉢部16の後部に開口する例を説明した。この他にも、この少なくとも一つの吐水部32Bの吐水孔30Bは、便鉢部16の前部に開口していてもよい。ここでの便鉢部16の後部とは、便鉢部16において前後中心線Lxよりも後方の部分をいい、その前部とは、前後中心線Lxよりも前方の部分をいう。
【0149】
(第1の工夫点に関して)便鉢部16はオーバーハング部54を備えていなくともよい。便鉢部16がオーバーハング部54を備える場合、オーバーハング部54は、ガイド面58の上方に設けられていなくともよい。いずれにしても、ガイド面58は、オーバーハング部54と協働することなく、溜水部42に前向きに流れ込む跳ね上げ水流Fbを形成してもよい。これは、例えば、溜水部42に対して前後方向Xに重なる位置にガイド面58を設け、跳ね上げ水流Fb1、Fb2を折り返すことなく溜水部42に流れ込ませる場合を想定している。
【0150】
ガイド面58の高さ寸法Haは、高さ寸法Hbと無関係に設定されていてもよい。高さ寸法Hbは、第2旋回流Fa2の高さ寸法Hwと無関係に設定されていてもよい。
【0151】
転向部56は延長線Lcに対して垂直に設けられなくともよい。転向部56は、前方に向かうに連れて左右方向外側に向かうように延長線Lcに対して傾斜してもよい。このとき、延長線Lcに対して転向部56のなす鋭角の角度が小さくなるほど、跳ね上げ水流Fbの溜水部42に対して流れ込む位置が前側となるように変えることができる。この他にも、転向部56は、前方に向かうに連れて左右方向内側に向かうように延長線Lcに対して傾斜してもよい。
【0152】
跳ね上げ水流の水量Wd1は、第2吐水部32Bから吐き出される全水量Wa2とは無関係に設定されてもよい。
【0153】
(第2の工夫点に関して)第2の工夫点に関する効果を得るうえで、第1吐水孔30Aは、前鉢領域46Fにおいて、便鉢部16の左右中心線Lyに対して左右方向Yの一方側に設けられてもよい。
【0154】
リム部44の前部は、平面視において、割合Paが0.09超となる曲線状をなしてもよい。
【0155】
大曲率部80の傾斜角度θ1は、小曲率部82、84の傾斜角度θ2よりも急にしてもよい。
【0156】
第1導水路36Aの棚面34Aは、第1吐水孔30Aから終端部36aまでの範囲で連続する例を説明した。この他にも、第1吐水孔30Aから終端部36aまでの範囲の途中において分断されていてもよい。導水路36A、36Bは、便鉢部16の全周に亘る範囲で設けられていなくともよいということである。
【0157】
第1旋回流Fa1は、第1導水路36Aの終端部36aにおいて、第2吐水孔30Bの中央高さ位置Pbよりも上方まで届かなくともよい。
【0158】
後方流下水流Fc1の速度Vrは、前方流下水流Fc2の速度Vfよりも小さくともよい。後方流下水流Fc1の速度Vrを前方流下水流Fc2の速度Vfよりも大きくするうえで、便器12に転向部56がなくともよい。例えば、溜水部42よりも後方において便鉢部16に凹部を設け、その凹部によって溜水部42に後方から洗浄水を流入させ易くすることによって、速度Vr、Vfに関する条件を満たしてもよい。
【0159】
溜水部42に後方から流れ込む流下水流Fc1、Fc2の全水量Wc3は、合計水量Wa3の半分未満でもよい。後方流入水流Fhの水量Wc1は、前方流下水流Fc2の水量Wc2よりも小さくともよい。
【0160】
便鉢部16の前鉢領域46Fを第1旋回流Fa1が経由するとき、その前鉢領域46Fにおいて主流が形成されていなくともよい。
【0161】
一方側主流Fhと他方側主流Fi1、Fi2とは、平面視において、第1側方領域42C、第2側方領域42Dとは異なる箇所に流れ込むことで、便器排水路24の入口24a上において合流してもよい。一方側主流Fhと第1他方側主流Fi1、Fi2は、平面視において、便器排水路24の入口24a上とは異なる箇所において合流してもよい。
【0162】
(第3の工夫点に関して)第3の工夫点で説明したレイアウトは、実施形態とは異なり、第1給水路38Aに適用されてもよいし、第1給水路38A及び第2給水路38Bの両方に適用されてもよい。第3の工夫点に関する効果を得るうえで、行き止まり領域108の設けられる位置は特に限定されない。行き止まり領域108は、実施形態とは異なり、前後中心線Lxに対して前側に設けられてもよい。
【0163】
行き止まり領域108は、流入水流Fhの一部を折り返すことで戻り水流Fjを形成できればよく、その具体的な形状は特に限定されない。
【0164】
行き止まり領域108の幅寸法b、奥行寸法cは、下流端開口106の幅寸法aと無関係に設定されてもよい。
【0165】
第1孔壁部120は、戻り水流Fjをガイドできなくともよい。
【0166】
以上の実施形態及び変形例は例示に過ぎない。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形例の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形例の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形例において言及している構造には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができる誤差の分だけずれた構造も当然に含まれる。
【符号の説明】
【0167】
C1…内接円、C2…基準半円、Fa1…第1旋回流、Fa2…第2旋回流、Fc1…後方流下水流、Fc2…前方流下水流、Fi1…第1分流、Fi2…第2分流、Fj…戻り水流、Lf…延長線、12…水洗大便器、14…給水装置、16…便鉢部、30A…第1吐水孔、30B…第2吐水孔、32A…第1吐水部、32B…第2吐水部、34A,34B…棚面、36A…導水路、40…汚物受け面、40a…外周端縁部、42…溜水部、42A…前半領域、42B…後半領域、44…リム部、46F…前鉢領域、46L、46R…横鉢領域、48…溜め水、50…溜水面、52A,52B…立ち面、54…オーバーハング部、56…転向部、58…ガイド面、60…鉛直面、62…下側水平面、80…大曲率部、82…小曲率部、102…上流側水路、104…水室、106…下流端開口、108…行き止まり領域、110…内周側空間、112…内周壁部、120…孔壁部。