(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064658
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】バクテリアタブレット
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
C12N1/20 F
C12N1/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173405
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】393022746
【氏名又は名称】ジェックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514312402
【氏名又は名称】株式会社ビッグバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恵史郎
(72)【発明者】
【氏名】阪本 忠幸
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA15X
4B065AC20
4B065BD05
4B065BD22
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】 エアレーション装置による泡立ちへの影響が少ないバクテリアタブレットを提供する。
【解決手段】 バクテリアタブレットは、バチルス属バクテリアが担持されたバクテリア担持体と、硫酸ナトリウムが主成分である賦形剤と、を混合してタブレット状に形成されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属バクテリアが担持されたバクテリア担持体と、硫酸ナトリウムが主成分である賦形剤と、を混合してタブレット状に形成されている、バクテリアタブレット。
【請求項2】
前記バチルス属バクテリアは芽胞を形成している、請求項1に記載のバクテリアタブレット。
【請求項3】
前記バチルス属バクテリアはバチルスリケニフォルミスである、請求項1又は2に記載のバクテリアタブレット。
【請求項4】
硫酸マグネシウムを含有し、前記バクテリアタブレット全体での前記硫酸マグネシウムの重量比率が10%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバクテリアタブレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水槽内の水を浄化するバクテリアを担持させたタブレットに関する。
【背景技術】
【0002】
水槽生物を飼育する水槽では、水質悪化の原因となる排泄物や残餌などの有機物を分解するためにバクテリアが用いられている。水槽内にバクテリアを供給する方法としては、粉末又は液状のバクテリアを水中に投入する方法があるが、粉末又は液体を計量する手間、水槽外に落下させたときの掃除の手間や手に付着したときの不快感など、様々な問題があった。
【0003】
斯かる問題を解決するための方法として、バクテリアをタブレットに担持させ、斯かるタブレットを水中に直接投入する方法が提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】商品名「納豆菌タブレット」、株式会社イトスイ製、2020年8月7日検索、インターネット<URL:http://www.itosui.co.jp/series/505/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、斯かるタブレットを投入した水槽の中で水中に空気を溶かし込むエアレーション装置を稼働させると、水面が泡立つという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、エアレーション装置による泡立ちへの影響が少ないバクテリアタブレットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
バクテリアタブレットは、バチルス属バクテリアが担持されたバクテリア担持体と、硫酸ナトリウムが主成分である賦形剤と、を混合してタブレット状に形成されている。
【0008】
硫酸ナトリウムを賦形剤の主成分とすることにより、エアレーション装置による泡立ちへの影響が少ないバクテリアタブレットとすることができる。泡立ちは、界面活性物質又は界面活性剤の気・液界面への空気の吸着によって起こる現象である。硫酸ナトリウムは、無機物質であり、ポリエチレングリコールのような有機物質と水酸基を組み合わせた成分に比べて泡に対して影響を与えにくい物質であるためである。
【0009】
また、バクテリアタブレットにおいて、前記バチルス属バクテリアは芽胞を形成している。
【0010】
耐久性の高い芽胞が形成されることにより、バクテリアタブレットの保存性を高めることができる。
【0011】
また、バクテリアタブレットにおいて、前記バチルス属バクテリアはバチルスリケニフォルミスである。
【0012】
バチルス属バクテリアの中で有機物の分解力が優れているバチルスリケニフォルミスを用いることにより、バクテリアタブレットの有機物の分解効果を上げることができる。バチルスリケニフォルミスは、アルカリフォスファターゼ、エステラーゼ、エステラーゼリパーゼ、βガラクトシダーゼ、グルコシダーゼなどの多くの種類の酵素を有するためである。
【0013】
また、バクテリアタブレットは、硫酸マグネシウムを含有し、前記バクテリアタブレット全体での前記硫酸マグネシウムの重量比率が10%以下であってもよい。
【0014】
硫酸マグネシウムを含有させ、硫酸ナトリウムの割合を減らすことにより、ナトリウムの量を減らすことができ、水の塩分濃度の上昇を抑えることができる。また、硫酸マグネシウムの重量比率を10%以下とすることにより、水の硬度の上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、比較例のバクテリアタブレットにおけるエアレーション試験の結果を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例のバクテリアタブレットにおけるエアレーション試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<バクテリアタブレット>
本実施形態に係るバクテリアタブレットは、バチルス属バクテリアが担持されたバクテリア担持体と、硫酸ナトリウムを主成分とする賦形剤と、を混合してタブレット状に形成される。これにより、バクテリアタブレットを水中に直接投入することができ、粉末又は液体を計量する手間、水槽外に落下させたときの掃除の手間や手に付着したときの不快感などを減らすことができる。ここで、タブレット状とは、例えば、立方体、直方体、球体、円柱体、角柱体、円錐体、角錐体、楕円体、円筒体、又は、それらを組み合わせた錠剤形状である。特にバクテリアタブレットの成形性や使用性の観点から、略三角形の錠剤形状が好ましい。
【0017】
(バクテリア担持体)
本実施形態に係るバクテリア担持体は、担持基材とバチルス属バクテリアの芽胞液又は芽胞粉体とが用いられる。担持基材としては、成形性、保存性及び水溶性の観点から無機ミネラル塩が好ましい。無機ミネラル塩としては、水に溶けやすく、液性(pH)への影響が少ない硫酸ナトリウム又は硫酸マグネシウムが好ましい。特に、担持基材として、水の全硬度への影響がない硫酸ナトリウムが好ましい。なお、例えば、バクテリア担持体としては、バチルス属バクテリアを含む液又は粉(芽胞を形成されていない状態)が用いられてもよい。
【0018】
バクテリア担持体に担持されるバチルス属バクテリアは、耐久性の高い芽胞が形成される、バチルスフィルムス、バチルスプミルス、バチルスリケニフォルミス、バチルスアミロリケファシエンス、バチルスリケニフォルミスが好ましい。芽胞化によって、バクテリアタブレットの保存性(例えば、保存中のバクテリアの活動を抑える)を高めることができる。特に有機物の分解に優れているバチルスリケニフォルミスが好ましい。バチルスリケニフォルミスは、アルカリフォスファターゼ、エステラーゼ、エステラーゼリパーゼ、βガラクトシダーゼ、グルコシダーゼなどの多くの種類の酵素を有するためである。
【0019】
(賦形剤)
本実施形態に係る賦形剤は、起泡性がなく、水に溶けやすく、液性への影響が少ない硫酸ナトリウム又は硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムとの配合剤が用いられる。配合剤は、水の全硬度への影響を少なくする観点から、バクテリアタブレット全体での硫酸マグネシウムの重量比率を10%以下とすることが好ましい。これにより、水の全硬度の上昇を抑えることができる。また、硫酸マグネシウムを含有させることにより、ナトリウムの量を減らすことができ、水の塩分濃度の上昇を抑えることができる。
【0020】
以上の構成により、エアレーション装置による泡立ちへの影響が少ないバクテリアタブレットを提供することができる。
【0021】
<バクテリアタブレットの作製方法>
以下に、芽胞液、芽胞粉体、バクテリア担持体及びバクテリアタブレットの作製方法の一例について説明する。なお、芽胞液、芽胞粉体、バクテリア担持体及びバクテリアタブレットの作製方法を限定するものではなく、以下の方法や条件以外で作製されたバクテリアタブレットも本発明に含まれる。
【0022】
(芽胞液の作製)
(1)バチルス属バクテリアの菌株を寒天培地によって、30℃で18~48時間培養する。
(2)上記(1)で培養した菌株を液体培地に植え継ぎ、30℃で18~24時間徐々にスケールアップする。
(3)上記(2)でスケールアップした培養液をジャーファーメンターによって30℃で120~168時間培養し、芽胞を形成させる。
(4)上記(3)の培養液に芽胞が形成されたことを確認し、冷却遠心機によって培養液から芽胞を遠心回収する。
(5)上記(4)で回収した芽胞を食塩水及び滅菌水で数回洗浄を行う。
(6)上記(5)で洗浄した芽胞を1Lの滅菌水に懸濁し、バチルス属バクテリアの菌数が1.0×109cfu/mL以上であることを確認することにより、高濃度の芽胞液を得ることができる。
【0023】
(バクテリア担持体の作製)
上記で得られた芽胞液または芽胞液を乾燥させた芽胞粉体を担持基材と任意の割合で混合することにより、担持基材にバチルス属バクテリアが担持される。そして、バチルス属バクテリアの菌数が1.0×108cfu/g以上であることを確認することにより、バクテリア担持体を得ることができる。なお、例えば、バチルス属バクテリアを含む液又は粉(芽胞を形成されていない状態)を担持基材と任意の割合で混合することにより、バクテリア担持体を作成してもよい。
【0024】
バクテリア担持体が大きい場合(例えば、1mm以上の大きさ)、後述する打錠性を高める観点から、ミキサー又は粉砕機でバクテリア担持体を粉砕することが好ましい。そして、バクテリアタブレットに高濃度のバチルス属バクテリアを配合するため、芽胞液又は芽胞粉体と担持基材とは、3対7~2対8の重量比で混合することが好ましい。
【0025】
(バクテリア担持体と賦形剤との混合)
上記で得られたバクテリア担持体と賦形剤とを0.1対9.9~2対8の重量比で厚めのビニール袋又は粉体混合器に入れ、それぞれを混合する。バクテリア担持体と賦形剤とは、バクテリアタブレットに高濃度のバチルス属バクテリアを配合し、十分な硬さのタブレットを成形するため、硫酸マグネシウムを担持基材とするバクテリア担持体を使用する場合は、1(以下)対9(以上)の重量比で混合することが好ましい。そして、硫酸ナトリウムを担持基材とするバクテリア担持体とする場合は、バクテリア担持体と賦形剤とを2対8の重量比で混合することが好ましい。また、バクテリア担持体と賦形剤とを混合することにより、それぞれの粉体が固結した場合、後述する打錠性を高める観点から、1mm目の網で固結した粉体を取り除くことが好ましい。
【0026】
(打錠)
上記で得られたバクテリア担持体と賦形剤との混合剤を打錠機で打錠し、バチルス属バクテリアの菌数が1.0×106cfu/g以上であることを確認する。これにより、バクテリアタブレット(例えば、1錠あたり0.5g)を得ることができる。そして、斯かるバクテリアタブレットは、例えば、水量が10Lの水槽に1錠が適量であり、湿気ることを防止する観点から、アルミニウム製の袋に入れて保管することが好ましい。
【0027】
なお、バクテリアタブレットは、10錠ずつ測定することが好ましい。バクテリアタブレットを1錠ずつ重量測定した場合、測定した値が誤差の範囲であるか判断が難しいためである。また、タブレット1錠の添加で水槽に高濃度のバチルス属バクテリアを含ませるため、10錠あたりバチルス属バクテリアの菌数を5.0×106cfu以上とする。
【実施例0028】
<賦形剤の選定試験>
下記表1に示す賦形剤を用いて、バクテリア担持体を硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム又は木片としたバチルスリケニフォルミスを含有するバクテリアタブレットを上記工程で作製した。なお、表1に記載の重量比率は、バクテリアタブレット全体での重量比率を示す。
【表1】
【0029】
水道水100mLを張ったビーカーに上記選定例のバクテリアタブレットを3粒投入して、賦形剤の選定試験を行った。選定試験では、タブレットの打錠性、タブレットの水への水溶性及び水の濁り、pH及び全硬度を評価した。タブレットの打錠性は、打錠機で問題なく打錠できるか評価し、水溶性は、タブレット投入後にタブレットが水に溶けるか否か評価した。また、観賞魚への影響を抑える観点から、水の濁りの有無、水のpHが0.5以上変動せず、全硬度が100mg/L以下であるか否か評価した。さらに、エアレーションをかけたときの泡立ちの有無を評価した。選定試験の評価結果を下記表2に示す。参考として、比較例(イトスイ製、商品名「納豆菌タブレット」)の評価結果も示す。
【0030】
【0031】
表2から賦形剤として、タブレットの打錠性、タブレットの水への水溶性及び水の全硬度、pH、泡立ち、濁りの有無の全てが良好な硫酸ナトリウム(選定例19、20、22)又は硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウム(重量比率10%以下)との配合剤(選定例18、21)が、本発明のバクテリアタブレットに適していることを確認した。また、バクテリアタブレット全体での硫酸マグネシウムの重量比率が10%を超える場合(選定例6、7)、水の全硬度が100mg/Lを超えるので、本発明のバクテリアタブレットに適していないことを確認した。
【0032】
<エアレーション試験>
実施例として、賦形剤を硫酸ナトリウムとし、バクテリア担持体を硫酸マグネシウムとしたバチルスリケニフォルミス(菌数:1.0×106cfu/g)を含有するバクテリアタブレットを上記工程で作製した。そして、上記比較例及び実施例についてエアレーション試験を実施した。
【0033】
水道水100mLを張ったビーカーの中に比較例又は実施例のバクテリアタブレットを投入し、バクテリアタブレットを完全に溶解させた。そして、ビーカーの中にエアレーション装置(ジェックス製e~AIR1000)に取り付けられたエアストーン(ジェックス製丸ストン小)を入れ、エアレーション装置を稼働させ、水の泡立ちの確認を行った。また、バクテリアタブレットを投入していないブランクの状態での水の泡立ちの確認も行った。比較例の実験結果を
図1に示し、実施例の実験結果を
図2に示す。
【0034】
図1(a)は、比較例のバクテリアタブレットを投入し、エアレーション装置を稼働させた状態を示す図であり、
図1(b)は、ブランクとしてエアレーション装置を稼働させた状態を示す図である。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、比較例のバクテリアタブレットを投入したビーカーは、ブランクのビーカーと異なり、エアレーション装置による泡立ち(無数の小さい泡)が見られた。なお、比較例のバクテリアタブレットは、30分ほどで水に溶けた。
【0035】
図2(a)は、実施例のバクテリアタブレットを投入し、エアレーション装置を稼働させた状態を示す図であり、
図2(b)は、ブランクとしてエアレーション装置を稼働させた状態を示す図である。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、実施例のバクテリアタブレットを投入したビーカーは、ブランクのビーカーと同様、エアレーション装置による泡立ちが見られなかった。これより、実施例のバクテリアタブレットは、エアレーション装置による泡立ちへの影響が少ないことを確認した。なお、実施例のバクテリアタブレットは、60分ほどで水に溶けた。
【0036】
<塩分濃度試験>
上記実施例のバクテリアタブレットを用いて、塩分濃度試験を実施した。
【0037】
水道水3.5Lを張った水槽の中にソイル(ジェックス製ピュアソイルブラック)1kgと発酵式二酸化炭素(ジェックス製発酵式CO2スターターセット)を入れ、水草(グロッソスティグマ、ロタラ、ピンナティフィダ、ミリオフィラム)を植えた。そして、実施例のバクテリアタブレットを20粒(約10g)投入した状態と、ブランクとしてバクテリアタブレットを投入していない状態と、における15日経過後のそれぞれの塩分濃度の測定及び水草の状態の確認を行った。実験結果(塩分濃度)を下記表3に示す。
【0038】
【0039】
上記表3に示すように、実験開始から15日経過後、実施例のバクテリアタブレットを投入した水槽の中の水の塩分濃度が0.3%上がった。これより、淡水魚に影響を与える塩分濃度1.0%以下であるので、実施例のバクテリアタブレットが淡水魚に影響を与えないことを確認した。また、水草の状態も実験前後で変化がないことを確認した。
【0040】
<水質試験>
上記実施例のバクテリアタブレットを用いて、水質試験を実施した。
【0041】
滅菌した三角フラスコに滅菌水50mlとコイの餌(ハーツ製ポンドペレット)3粒とを入れる。そして、上記実施例のバクテリアタブレットを1錠投入した三角フラスコと、バクテリアタブレットを投入していないブランクの三角フラスコと、をそれぞれシェーカー(スピード:100min
-1)で1か月振とうする。その後、乾燥機でそれぞれの三角フラスコ内の水分を蒸発させ、残留物の重量をそれぞれ測定し、重量の減少率で比較した。実験結果を下記表4に示す。
【表4】
【0042】
上記表4に示すように、実施例のバクテリアタブレットを投入すると、ブランクの状態からさらに7%重量の減少率が上がっている。これより、実施例のバクテリアタブレットを投入することによって、コイの餌の分解が促進され、水質が改善されたことを確認した。