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特開2022-64660導電性ペースト用水系ビヒクル、水系導電性ペーストおよび導電膜の製造方法
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  • 特開-導電性ペースト用水系ビヒクル、水系導電性ペーストおよび導電膜の製造方法 図1
  • 特開-導電性ペースト用水系ビヒクル、水系導電性ペーストおよび導電膜の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064660
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】導電性ペースト用水系ビヒクル、水系導電性ペーストおよび導電膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/14 20060101AFI20220419BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220419BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C08L101/14
H01B1/22 A
H01B13/00 503C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173409
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】518107497
【氏名又は名称】東洋化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】特許業務法人IP-FOCUS
(72)【発明者】
【氏名】秋元 英樹
【テーマコード(参考)】
4J002
5G301
【Fターム(参考)】
4J002BE021
4J002DF036
4J002FD116
4J002GH01
4J002HA04
5G301DA03
5G301DA42
5G301DD01
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低抵抗な導電膜を形成可能であって、環境負荷が小さく基材適用性に優れる導電ペーストおよびこの導電ペーストに用いられるビヒクルを提供する。
【解決手段】易還元性金属イオンおよび水溶性有機造膜成分を含有する導電性ペースト用水系ビヒクルであって、前記易還元性金属イオンは銀イオンを含んでいてもよく、前記水溶性有機造膜成分は還元性を有してもよいし、還元性物質をさらに含有してもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
易還元性金属イオンおよび水溶性有機造膜成分を含有する導電性ペースト用水系ビヒクル。
【請求項2】
前記易還元性金属イオンは銀イオンを含む、請求項1に記載の導電性ペースト用水系ビヒクル。
【請求項3】
前記水溶性有機造膜成分は還元性を有する、請求項1または請求項2に記載の導電性ペースト用水系ビヒクル。
【請求項4】
前記易還元性金属イオンである銀イオンを硝酸銀換算で10質量%以上40質量%以下の範囲で含有する、請求項3に記載の導電性ペースト用水系ビヒクル。
【請求項5】
還元性物質をさらに含有する、請求項1または請求項2に記載の導電性ペースト用水系ビヒクル。
【請求項6】
前記易還元性金属イオンである銀イオンを硝酸銀換算で10質量%以上60質量%以下の範囲で含有する、請求項5に記載の導電性ペースト用水系ビヒクル。
【請求項7】
前記易還元性金属イオンの還元体を含有する、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の導電性ペースト用水系ビヒクル。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載される導電性ペースト用水系ビヒクルと、導電性粉体とを含有する水系導電性ペースト。
【請求項9】
導電剤の導電物質換算含有量が90質量%以上である、請求項8に記載の水系導電性ペースト。
【請求項10】
前記水系導電性ペーストから形成された塗膜を150℃で30分間加熱して得られた第1導電膜の体積抵抗率R1と、前記塗膜を150分で120分間加熱して得られた第2導電膜の体積抵抗率R2とが、R2/R1≦0.5を満たす、請求項8または請求項9に記載の水系導電性ペースト。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか一項に記載される水系導電性ペーストを塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させて導電膜を得る、導電膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系の導電性ペースト用ビヒクル、水系の導電性ペースト、および当該導電性ペーストを用いた導電膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ヘテロ原子P、S、OまたはNを有する反応性有機溶媒に溶解された金属溶液;金属粉末;バインダー;及び粘度調節用極性または非極性溶媒残量で構成される導電膜形成用ペーストが記載されている。また、特許文献1には、1~3のカルボキシル基を有する炭素数1~12の脂肪酸金属有効量と前記脂肪酸金属を溶解するための反応性有機溶媒で構成される金属溶液;金属粉末;バインダー;及び粘度調節用極性または非極性溶媒残量で構成される導電膜形成用ペーストも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5505695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される導電膜形成用ペーストは、有機溶媒を用いているため、環境保護の観点から改善の余地がある。また、有機溶媒を用いる導電膜形成用ペーストは、耐溶剤性の低い素材(アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル等)に使うことができないという制限がある。通常、このような素材に適用する場合には無溶剤型の導電性ペーストが使用されるが、無溶剤型は銀濃度を上げるとペーストの粘度が高くなってしまう。このため、無溶剤型の導電性ペーストからは低抵抗の導電膜が得られにくい。さらにいえば、無溶剤型のペーストは硬化型での運用になるため、取り扱い性が低下する傾向がある。それゆえ、環境・安全に優しく、かつ広範囲な基材に対応可能であって、低抵抗な導電膜を形成可能な導電ペーストが求められている。
【0005】
本発明は、低抵抗な導電膜を形成可能であって、環境負荷が小さく基材適用性に優れる導電ペーストに用いられるビヒクルを提供することを目的とする。また、このビヒクルを用いて、環境負荷が小さく、基材適用性に優れ、低抵抗な導電膜を形成可能な導電性ペーストを提供すること、およびかかる導電性ペーストを用いた導電膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、本発明の導電性ペースト用水系ビヒクルは、易還元性金属イオンおよび水溶性有機造膜成分を含有することを特徴とする。また、前記易還元性金属イオンは銀イオンを含むものであってもよい。また、前記水溶性有機造膜成分は還元性を有するものであってもよい。
【0007】
また、本発明の導電性ペースト用水系ビヒクルは、前記易還元性金属イオンである銀イオンを硝酸銀換算で10質量%以上40質量%以下の範囲で含有するものであってもよい。また、還元性物質をさらに含有してもよく、この場合は、前記易還元性金属イオンである銀イオンを硝酸銀換算で10質量%以上60質量%以下の範囲で含有するものであってもよい。なお、還元性物質は溶媒に可溶であってもよい。本発明の導電性ペースト用水系ビヒクルは、前記易還元性金属イオンの還元体を含有するものであってもよい。
【0008】
また、本発明の水系導電性ペーストは、上記各導電性ペースト用水系ビヒクルと、導電性粉体とを含有することを特徴とする。また、本発明の水系導電性ペーストは、導電剤の導電物質換算含有量が90質量%以上であってもよい。
【0009】
また、本発明の水系導電性ペーストは、当該水系導電性ペーストから形成された塗膜を150℃で30分間加熱して得られた第1導電膜の体積抵抗率R1と、塗膜を150分で120分間加熱して得られた第2導電膜の体積抵抗率R2とが、R2/R1≦0.5を満たしてもよい。
【0010】
また、本発明の導電膜の製造方法は、上記水系導電性ペーストを塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させて導電膜を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶媒として有機溶媒が不要となるため、環境負荷が緩和されたビヒクルが提供される。また、かかるビヒクルを用いた環境負荷が小さい導電性ペースト、およびかかる導電性ペーストを用いた導電膜の製造方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例における導電膜の体積抵抗率Vol-Rの測定結果を示すグラフである。
図2】各実施例について、加熱時間が30分の条件の導電膜の体積抵抗率を基準として、他の加熱時間の条件の導電膜の体積抵抗率を規格化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の一実施形態に係る導電性ペースト用水系ビヒクルは、易還元性金属イオンおよび水溶性有機造膜成分を含有する。本明細書において、「水系ビヒクル」とは、溶媒として水が含まれるビヒクルを意味する。
【0014】
水系ビヒクルの溶媒は水以外の溶媒成分を含んでいてもよい。そのような溶媒の具体例として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど炭素数が6以下の低級アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、アセトンなど総炭素数が6以下の低級ケトンが例示される。環境負荷を考慮すると、水以外の溶媒はアルコールであることが好ましい。
【0015】
水系ビヒクルの溶媒における水の含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0016】
本実施形態に係る導電性ペースト用水系ビヒクルが含有する易還元性金属イオンとは、水素よりもイオン化傾向の大きな金属元素のイオンであり、容易に還元するイオンを意味する。そのような元素として、金、銀、銅、白金などが例示される。
【0017】
易還元性金属イオンに係る金属元素は、1種類から構成されていてもよいし、複数種類から構成されていてもよい。易還元性金属イオンに係る金属元素は、還元された金属または合金の状態で導電性に優れることが好ましい。
【0018】
易還元性金属イオンを導電性金属にする還元反応は、当該物質を還元させる機能を有する物質(還元剤)によって進行してもよいし、光、電子など電磁放射線が照射されることによって進行してもよい。以下、易還元性金属イオンが銀イオンである場合を具体例として説明を行う。
【0019】
易還元性金属イオンの含有量は、ビヒクルを含有する導電性ペーストから形成された導電膜の抵抗が適切に低下することを実現できる範囲で設定される。この観点では、易還元性金属イオンを還元させる物質(還元剤)の含有量との関係で、易還元性金属イオンの含有量は設定されることもある。
【0020】
易還元性金属イオンの含有量が過度に低い場合には、上記導電膜の抵抗が適切に低下しないことが懸念される。易還元性金属イオンの含有量が還元剤との関係で過度に高い場合には、易還元性金属イオンから導電性物質のみならず絶縁性物質が相当量生成し、この絶縁性物質が導電膜の抵抗低下を阻害してしまうことが懸念されることもある。
【0021】
限定されない例示を行えば、易還元性金属イオンが銀イオンである場合において、本実施形態に係るビヒクルは、銀イオンを硝酸銀換算で10質量%以上40質量%以下の範囲で含有することが好ましい場合がある。導電膜の抵抗低下をより安定的に実現させる観点から、本実施形態に係るビヒクルは、銀イオンを硝酸銀換算で15質量%以上40質量%以下の範囲で含有することがより好ましい。
【0022】
本実施形態に係る導電性ペースト用水系ビヒクルが含有する水溶性有機造膜成分は、ビヒクル内では水溶液の状態にあり、使用したとき(具体例として、ペーストの塗膜を加熱したときが挙げられる。)に皮膜を形成可能な成分である。
【0023】
水溶性有機造膜成分は、典型的には、水溶性樹脂であり、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、デキストリンなどが例示される。水溶性有機造膜成分は、エポキシ基のような重合性官能基を有する水溶性モノマーと水溶性の架橋剤(イソシアネートや金属アルコキシドなどが例示される。)とから構成されていてもよいし、ブロックイソシアネート基のような反応性官能基を重合性官能基とともに有した水溶性モノマーから構成されていてもよい。
【0024】
水溶性有機造膜成分は、構成成分の少なくとも一部が還元性を有していてもよい。例えば、水溶性有機造膜成分がポリビニルアルコールから構成される場合には、ポリビニルアルコールの水酸基が還元性を有するため、水溶性有機造膜成分は還元性を有する。
【0025】
水溶性有機造膜成分の含有量は、水溶性有機造膜成分の種類のみならず、ビヒクルが用いられてなる導電性ペーストから形成される導電膜に対する要請(抵抗、厚さ、強度、剥離しにくさ)を考慮して設定される。水溶性有機造膜成分が還元性を有する場合には、還元剤としての機能も考慮して水溶性有機造膜成分の含有量が設定されることもある。
【0026】
水溶性有機造膜成分がポリビニルアルコールから構成される場合を具体例とすると、水溶性有機造膜成分の含有量は、100g/L以上、500g/L以下であることが好ましい場合があり、200g/L以上400g/L以下であることがより好ましい場合がある。
【0027】
本実施形態に係るビヒクルは、還元性物質をさらに含有してもよい。還元性物質として、水素化ホウ素カリウム、クエン酸、ヒドラジン、アスコルビン酸などが例示される。還元性物質の含有量は、還元される易還元性金属イオンの含有量との関係で設定される。還元性物質と易還元性金属イオンとの当量が等しいことが好ましい場合がある。還元性物質は溶媒に可溶であってもよい。
【0028】
本実施形態に係るビヒクルが還元性物質を含有する場合には、含有しない場合に比べて易還元性金属イオンの含有量を増やすことができる場合もある。例えば、易還元性金属イオンが銀イオンである場合には、硝酸銀換算で10質量%以上60質量%以下の範囲で含有させることができる。
【0029】
本実施形態に係るビヒクルは、上記の易還元性金属イオンの一部がビヒクル内で還元析出して生じた還元体を含有していてもよい。例えば、易還元性金属イオンが銀イオンからなる場合には、その銀イオンが還元析出して生じた銀を含んでいてもよい。還元体の性状は限定されないが、ビヒクルとしての機能を適切に果たす観点から還元体は微小粉体として溶媒中に分散していることが好ましい場合がある。
【0030】
限定されない例示をすれば、微小粉体である還元体は1次粒径が1μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましい。易還元性金属イオンから還元体を生成する反応は、ビヒクル内の還元剤により進行してもよいし、ビヒクルに照射された電離放射線により進行してもよい。
【0031】
本発明の一実施形態に係る水系導電性ペーストは、上記の本実施形態に係るビヒクルと、導電性粉体とを含有する。導電性粉体は、典型的には銀粉である。導電性粉体の形状は特に限定されず、導電性ペーストに用いられる導電性粉体を適宜使用してよい。
【0032】
本実施形態に係る導電性ペーストにおける導電性粉体の含有量は、導電性ペーストから形成される導電膜に対する要請(抵抗、厚さ、強度、剥離しにくさ)を考慮して設定される。導電性粉体単独としての含有量よりも、導電性粉体に加えて、易還元性金属イオンの還元体を含む導電剤の含有量により、導電性ペーストの組成を管理してもよい。
【0033】
例えば、導電性粉体が銀粉であり、易還元性金属イオンが銀イオンである場合には、導電性ペーストにおける導電剤は銀粉および銀イオンの還元体としての銀であり、導電性ペーストの固形成分(導電性ペーストから揮発成分(水・溶剤)を除いた成分)における導電剤の銀換算の含有量により、導電性ペーストを管理することになる。この銀換算含有量は、例えば92質量%以上とすることが好ましい場合があり、94質量%以上とすることがより好ましい場合がある。
【0034】
一般的には、導電性ペーストにおける導電剤の導電物質換算含有量を導電性粉体のみで90質量%以上とすることは、ペーストの物性(粘度など)や導電膜の物性(強度など)の制御性の低下をもたらすが、ビヒクルに導電剤(易還元性金属イオン)が含まれているため、ペーストにおける導電性粉体の含有量を過度に高めることなく、導電膜の導電性を高めることが可能となる。
【0035】
本実施形態に係る導電膜の製造方法について説明すると、本実施形態に係る導電性ペーストを塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させて導電膜を得ることにより、導電膜を製造することができる。塗布方法は限定されない。ディスペンス法、スクリーン印刷法、スプレー法、スピンコート法などがある。塗膜の乾燥および/または硬化は、塗膜の組成などに応じて適宜設定される。例えば、塗膜に含まれる造膜成分がポリビニルアルコールからなる場合には、塗膜を乾燥させて溶剤を揮発させることによって導電膜を形成することができる。塗膜に含まれる造膜成分がモノマーおよび架橋剤を含有する場合には、加熱などによりこれらの成分の重合反応を進行させるとともに溶媒を揮発させることによって塗膜は硬化し、導電膜が得られる。
【0036】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0037】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
次の原料成分を混合して、30質量%PVA溶液(30%PVA)を調製した。
(1)ポリビニルアルコール(PVA,関東化学社製「PVA500」) 300g
(2)イオン交換水 530g
(3)エチレングリコール 170g
イオン交換水530gをホットプレート上で80℃に加熱し、攪拌しながらPVA300gを少しずつ加えた。ポリビニルアルコールが均一に溶解していることを目視で確認した後、更に1時間加熱を続けて、PVA溶液を得た。加熱を止め、エチレングリコール170gをPVA溶液に加え攪拌しながら室温になるまで放置した。
【0039】
調製した30質量%PVA溶液と硝酸銀とを表1に示される比率で混合してビヒクル(PVA00~PVA16)を得た。なお、PVA00以外のビヒクルについては、調製の際に50℃に加熱して硝酸銀を溶解した。
【0040】
【表1】
【0041】
上記のビヒクルと銀粉(球状銀粉、平均粒径(D50)2.2μm、東洋化学工業社製「SBF05M」)とを、銀粉94質量部に対してビヒクルのPVAが6質量部となるように混合した後、自公転式ミキサーで充分に攪拌し銀ペースト(Paste00~Paste16)を調製した。
【0042】
【表2】
【0043】
得られた銀ペーストを印刷して、ガラス板に、幅1mm、長さ40mmの塗膜を形成した。印刷後のガラス板を、100℃に加熱したホットプレートに載置して、60分間乾燥させて、乾燥塗膜を形成した。
【0044】
乾燥塗膜が形成されたガラス基板を、150℃に加熱したホットプレートに所定時間載置して、導電膜を得た。各導電膜の組成を表3にまとめた。表3において、「銀粉」の列には、各ペーストにおける銀粉の配合比率を示した。「PVA」の列には、各ペーストにおけるポリビニルアルコールの配合比率を示した。「硝酸銀」の列には、各ペーストにおける硝酸銀の配合比率を示した。「銀比率」の列には、(銀粉配合量+硝酸銀中銀含有量)/(銀粉配合量+ポリビニルアルコール配合量+硝酸銀中銀含有量)×100の値を示した。
【0045】
【表3】
【0046】
各実施例に係る導電膜の抵抗値(単位:Ω)を測定した。測定方法は、抵抗計(日置電機社製「RM3544」)を用いて四端子測定で行った。導電膜の幅・長さ・平均厚さから体積抵抗率(単位:μΩ・cm)を計算で求めた。なお、導電膜の平均厚さは、接触式段差計を用いて、導電膜の任意の位置の段差を12箇所測定することにより求めた。150℃での加熱時間と体積抵抗率の測定結果とを表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
導電膜の体積抵抗率Vol-Rの測定結果を図1に示した。図1では、平均値を「×」で示し、最大値および最小値を高低線により示した。実施例1の加熱時間240分における体積抵抗率の結果(27μΩ・cm)を太破線で示している。この太破線より体積抵抗率が低い導電膜は、硝酸銀を含む水系ビヒクルを用いた効果が確実に得られたことになる。図1に示されるように、硝酸銀を含有しない実施例1に比べて、硝酸銀を含有する実施例2および実施例3では体積抵抗率の低下が確認された。
【0049】
各ペーストの導電膜形成機能を対比するために、加熱時間が30分の条件の導電膜の体積抵抗率を基準として、他の加熱時間(60分など)の条件の導電膜の体積抵抗率を規格化した。その結果を表5および図2に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
表5および図2に示されるように、実施例2は、実施例1に比べて、加熱時間が増えたときの体積抵抗率の減少率(抵抗減少率)が大きくなった。具体的には、実施例1では、加熱時間が30分間のときの導電膜(第1導電膜)の体積抵抗率R1と、加熱時間が30分間のときの導電膜(第2導電膜)の体積抵抗率R2とが、R2/R1=0.87となり、R2/R1≦0.5を満たさなかった。これに対し、実施例2では、加熱時間が30分間のときの導電膜(第1導電膜)の体積抵抗率R1と、加熱時間が30分間のときの導電膜(第2導電膜)の体積抵抗率R2とが、R2/R1=0.47となり、R2/R1≦0.5を満たした。これらの結果は、加熱により導電性物質が形成されるメカニズムが、ビヒクルに硝酸銀が含まれない場合(実施例1)とビヒクルに硝酸銀が含まれる場合(実施例2)とでは異なっていることを示している。
【0052】
また、実施例4では、体積抵抗率の値そのものは、実施例1よりもむしろ高くなったが、加熱時間を増やしたときの抵抗率減少の傾向は、実施例2や実施例3と同様のメカニズムで、導電性物質が形成されていることが確認された。

図1
図2