(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064672
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ロボット保護構造
(51)【国際特許分類】
B25J 19/00 20060101AFI20220419BHJP
B23Q 11/08 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
B25J19/00 H
B23Q11/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173429
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 万春
【テーマコード(参考)】
3C011
3C707
【Fターム(参考)】
3C011DD00
3C707AS05
3C707BS10
3C707CY29
3C707DS01
3C707ES19
(57)【要約】
【課題】サイズおよびコストの増加を抑えつつ、ロボットへの切粉の衝突を簡易に抑制できるロボット保護構造を提供する。
【解決手段】ロボット保護構造は、工作機械10の加工室16内に設けられるロボット30と、前記ロボット30に着脱可能な保護盾60と、前記ロボット30のアクセス可能範囲内に設けられ、前記ロボット30から取り外された前記保護盾60が保管される保管エリア80と、を備え、前記ロボット30は、その姿勢を変更することで、前記保護盾60を前記保管エリア80から取り出して前記ロボット30に装着させる装着処理、および、前記保護盾60を前記ロボット30から取り外して前記保管エリア80に保管する保管処理、を行い、前記ロボット30は、切粉の発生時には、装着された前記保護盾60を前記切粉の発生源に向ける保護姿勢をとる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の加工室内に設けられるロボットと、
前記ロボットに着脱可能な保護盾と、
前記ロボットのアクセス可能範囲内に設けられ、前記ロボットから取り外された前記保護盾が保管される保管エリアと、
を備え、前記ロボットは、その姿勢を変更することで、前記保護盾を前記保管エリアから取り出して前記ロボットに装着させる装着処理、および、前記保護盾を前記ロボットから取り外して前記保管エリアに保管する保管処理、を行い、
前記ロボットは、切粉の発生時には、装着された前記保護盾を前記切粉の発生源に向ける保護姿勢をとる、
ことを特徴とするロボット保護構造。
【請求項2】
請求項1に記載のロボット保護構造であって、
前記ロボットは、
関節を介して2以上のリンクが連結された多関節ロボットであるロボット本体と、
前記ロボット本体に着脱可能なエンドエフェクタと、
前記保護盾に連結される連結部と、
を備え、前記連結部は、前記エンドエフェクタが前記ロボット本体から離脱した際にも前記ロボット本体に残存する位置に設けられている、
ことを特徴とするロボット保護構造。
【請求項3】
請求項2に記載のロボット保護構造であって、
前記連結部と前記エンドエフェクタとの間には、1以上の関節が介在しており、
前記連結部と前記エンドエフェクタとの相対的な位置および姿勢が変更可能である、
ことを特徴とするロボット保護構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のロボット保護構造であって、
前記保護盾は、重力の向きに関わらず、前記連結部と前記保護盾との連結状態を維持するロック機構を備える、ことを特徴とするロボット保護構造。
【請求項5】
請求項4に記載のロボット保護構造であって、
前記ロック機構は、バネ力、磁力、摩擦力の少なくとも一つを利用して前記連結状態を維持する、ことを特徴とするロボット保護構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のロボット保護構造であって、
前記保護盾は、前記保護姿勢において、前記保護盾に衝突した切粉が、前記加工室の床面に落下可能な形状である、ことを特徴とするロボット保護構造。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のロボット保護構造であって、
前記保護盾は、前記保護姿勢において前記ロボットの全体をカバーするサイズである、ことを特徴とするロボット保護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、工作機械の加工室内に設けられるロボットを、切粉から保護するロボット保護構造を開示する。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械の加工室内にロボットを設けることが提案されている。加工室内にロボットを設けることで、各種物理量の測定やワークの搬送等、様々な作業を自動的に行うことができ、ワークの加工の品質や効率をより向上できる。しかしながら、加工室内にロボットを設けた場合、切削加工に伴い飛散する切粉がロボットに衝突し、当該切粉によりロボットが傷付いたり、当該切粉がロボットの関節等の隙間に侵入したりする問題があった。
【0003】
そこで、切粉が飛散する期間中は、切粉が到達しないエリアまでロボットを退避させることが考えられる。また、別の形態として、特許文献1には、予めロボットに、当該ロボットの周面を覆って保護するハウジングを装着させることが開示されている。また、特許文献2には、略ドーム型のカバーをロボットに取り付け、このカバーで加工点の周囲を覆うことで、加工に伴い発生する研磨剤等の廃棄物の飛散を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-49549号公報
【特許文献2】特開2018-176403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした従来技術に基づけば、ロボットへの切粉の衝突を効果的に抑制できる。しかしながら、ロボットを退避させる技術の場合、ロボット全体を移動させるための移動機構および移動スペースが必要となるため、ロボットおよび工作機械の大型化やコストアップという新たな問題を招く。また、特許文献1では、予め、作業者がロボットにハウジングを装着する必要があり、手間であった。また、特許文献2の技術では、発生した廃棄物は、カバーの内部空間に蓄積される。この場合、廃棄物が研磨剤のように嵩の小さいものであれば問題はないが、廃棄物が切粉のように嵩の大きいものの場合、カバーの内部空間は、切粉ですぐに満杯になるため、加工を長時間連続して行うことができない、という問題が生じる。もちろん、カバーを大型にすれば、こうした問題は避けることができるが、その場合、大型化やサイズアップという、別の問題を招く。つまり、特許文献1の技術を切粉の飛散防止に適用しようとしても、様々な問題が生じる。
【0006】
そこで、本明細書では、サイズおよびコストの増加を抑えつつ、ロボットへの切粉の衝突を簡易に抑制できるロボット保護構造を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示するロボット保護構造は、工作機械の加工室内に設けられるロボットと、前記ロボットに着脱可能な保護盾と、前記ロボットのアクセス可能範囲内に設けられ、前記ロボットから取り外された前記保護盾が保管される保管エリアと、を備え、前記ロボットは、その姿勢を変更することで、前記保護盾を前記保管エリアから取り出して前記ロボットに装着させる装着処理、および、前記保護盾を前記ロボットから取り外して前記保管エリアに保管する保管処理、を行い、前記ロボットは、切粉の発生時には、装着された前記保護盾を前記切粉の発生源に向ける保護姿勢をとる、ことを特徴とする。
【0008】
かかる構成した場合、ロボットや加工室を大型化する必要がないため、サイズおよびコストの増加を効果的に抑制できる。また、切粉が発生する際には、保護盾をロボットに装着できるため、ロボットへの切粉の衝突を簡易に抑制できる。
【0009】
この場合、前記ロボットは、関節を介して2以上のリンクが連結された多関節ロボットであるロボット本体と、前記ロボット本体に着脱可能なエンドエフェクタと、前記保護盾に連結される連結部と、を備え、前記連結部は、前記エンドエフェクタが前記ロボット本体から離脱した際にも前記ロボット本体に残存する位置に設けられていてもよい。
【0010】
かかる構成とすることで、取り付けられているエンドエフェクタの種類に関わらず、ロボットに保護盾を装着できる。
【0011】
この場合、前記連結部と前記エンドエフェクタとの間には、1以上の関節が介在しており、前記連結部と前記エンドエフェクタとの相対的な位置および姿勢が変更可能であってもよい。
【0012】
かかる構成とすることで、エンドエフェクタを用いて作業を行う際には連結部を当該作業の邪魔にならない位置および姿勢に変更でき、連結部に保護盾を連結する際には、エンドエフェクタを、当該連結の邪魔にならない位置および姿勢に変更できる。
【0013】
また、前記保護盾は、重力の向きに関わらず、前記連結部と前記保護盾との連結状態を維持するロック機構を備えてもよい。
【0014】
かかる構成とすることで、ロボットに装着された保護盾が自重によりロボットから離脱することがない。その結果、保護盾の上下の向きを気にすることなく、保護盾を、比較的、自由に動かすことができる。
【0015】
この場合、前記ロック機構は、バネ力、磁力、摩擦力の少なくとも一つを利用して前記連結状態を維持してもよい。
【0016】
かかる構成とすることで、保護盾に、動力源を設ける必要がない。その結果、保護盾を、軽量でシンプルな構成にすることができる。
【0017】
また、前記保護盾は、前記保護姿勢において、前記保護盾に衝突した切粉が、前記加工室の床面に落下可能な形状でもよい。
【0018】
かかる構成とすることで、多量の切粉が発生しても、保護盾に、切粉が蓄積されないため、ロボットを、長時間、切粉から保護し続けることが可能となる。
【0019】
また、前記保護盾は、前記保護姿勢において前記ロボットの全体をカバーするサイズであってもよい。
【0020】
かかる構成とすることで、ロボットをより確実に、切粉から保護できる。
【発明の効果】
【0021】
本明細書で開示するロボット保護構造によれば、サイズおよびコストの増加を抑えつつ、ロボットへの切粉の衝突を簡易に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図3】保護盾をロボットに装着する過程を示す図である。
【
図4】保護盾をロボットに装着する過程を示す図である。
【
図8】他のロボット保護構造の一例を示す図である。
【
図9】他のロボット保護構造の一例を示す図である。
【
図10】他のロボット保護構造の一例を示す図である。
【
図11】他のロボット保護構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、ロボット保護構造について図面を参照して説明する。
図1は、ロボット保護構造が組み込まれた工作機械10の概略側面図である。以下の説明では、ワーク主軸18の回転軸と平行な方向をZ軸、刃物台20のZ軸と直交する移動方向と平行な方向をX軸、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸と呼ぶ。また、Z軸においては、ワーク主軸18から刃物台20に近づく向きをプラス方向、X軸においては、ワーク主軸18から刃物台20に近づく向きをプラス方向、Y軸においては、ワーク主軸18から上に向かう向きをプラス方向とする。
【0024】
この工作機械10は、ワークを回転保持するワーク主軸18を有した旋盤である。より具体的には、本例の工作機械10は、複数種類の工具26を保持するタレット22を有したターニングセンタである。ただし、ここで例示する工作機械10は、一例であり、本明細書で開示する技術は、切削加工が実行できるのであれば、他の形態の工作機械に適用されてもよい。例えば、本明細書で開示するロボット保護構造は、工具を回転保持する工具主軸を有したマシニングセンタに搭載されてもよいし、旋盤とフライス盤を組み合わせた複合加工機に搭載されてもよい。なお、以下では、工作機械10は、ターニングセンタとして説明する。
【0025】
工作機械10の加工室16の周囲は、カバー12で覆われている。加工室16の前面には、大きな開口が形成されており、この開口は、ドア14により開閉される。オペレータは、この開口を介して、加工室16内の各部にアクセスする。加工中、開口に設けられたドア14は、閉鎖される。これは、安全性や環境性等を担保するためである。
【0026】
工作機械10は、ワークの一端を自転可能に保持するワーク主軸18と、工具26を保持する刃物台20と、を備えている。ワーク主軸18は、図示しないモータにより回転可能となっており、ワーク主軸18の端面には、ワークを着脱自在に保持するチャック24やコレットが設けられている。ワーク主軸18およびチャック24は、水平方向(Z軸方向)に延びる回転軸を中心として自転する。
【0027】
刃物台20は、工具26を保持する工具保持装置である。この刃物台20は、Z軸、すなわち、素材の軸と平行な方向に移動可能となっている。また、刃物台20は、X軸と平行な方向、すなわち、素材の径方向にも進退できるようになっている。なお、図から明らかな通り、X軸は、加工室16の開口からみて、奥側に進むにつれ上方に進むように、水平方向に対して傾いている。
【0028】
なお、
図1から明らかなとおり、刃物台20が設置されている床面28は、X軸と平行、すなわち、水平方向に対して傾いている。そのため、床面28に落下した切粉や切削油等は、重力により、床面28の手前側端部に滑り落ちていく。そして、最終的には、床面28の手前側に配置された切粉回収部29に落下し、回収される。
【0029】
刃物台20のZ方向端面には、複数の工具26を保持可能なタレット22が設けられている。タレット22は、Z軸方向視で多角形をしており、Z軸に平行な軸を中心として回転可能となっている。このタレット22の周面には、工具26が装着できる工具装着部が複数設けられている。そして、タレット22を回転させることで、加工に使用する工具26を変更できるようになっている。
【0030】
加工室16内には、さらに、ロボット30が設けられている。ロボット30は、ワークの加工を補助する。例えば、ロボット30は、様々な物理量(例えば温度や距離等)をセンシングしたり、物品(例えばワークや工具26等)を搬送したり、ワークに対して追加の加工(例えば溶接や積層造形等)を施したりする。ロボット30の具体的構成は、後述するが、こうしたロボット30を加工室16内に設けることで、ワークの加工の品質や効率をより向上できる。
【0031】
しかしながら、ロボット30を加工室16内に設けた場合、ワークを切削加工している期間中も、ロボット30が加工点の近傍に位置することになる。この場合、切削加工に伴い、加工室16内に飛散する切粉が、ロボット30に衝突するおそれがあった。そして、ロボット30に、切粉が衝突することで、ロボット30が傷ついたり、ロボット30の関節46に切粉が侵入してロボット30の正常な駆動が阻害されたりするおそれがあった。
【0032】
そこで、本例の工作機械10には、ロボット30を切粉や切削油から保護するロボット保護構造を搭載している。以下、このロボット保護構造について説明する。
【0033】
図2は、ロボット30周辺の模式図である。ロボット保護構造の説明に先立って、保護対象であるロボット30について説明する。ロボット30は、
図2に示すように、多関節ロボットであるロボット本体40と、当該ロボット本体40に対して着脱可能なエンドエフェクタ42と、を有している。ロボット本体40は、複数のリンク44a~44dが、複数の関節46a~46dを介して一列に連結されたシリアルマニピュレータ型の多関節ロボットである。なお、以下では、特定のリンクを示す場合以外では、添え字アルファベットa~dを省略し、「リンク44」と呼ぶ。関節46についても同様である。
【0034】
ロボット本体40は、加工室16の壁面に固着されており、その位置は、不変となっている。一方で、ロボット30の姿勢は、関節46を駆動することで適宜、変更できる。本例において、ロボット本体40は、4つの関節を有しており、この4つの関節のうち、最も基端側の関節46aは、リンク44aの軸と平行な軸回りに自転する自転関節である。また、残りの三つの関節46b~46dは、リンク44b~44dの軸に対して直交する軸回りに回転する回転関節である。ただし、こうした関節46の構成や、関節46及びリンク44の個数は、適宜、変更されてもよい。各関節46には、モータ等を有したアクチュエータ(図示せず)が取り付けられており、このアクチュエータの駆動により、各関節46が自転または回転する。アクチュエータの駆動は、コントローラ32により制御される。コントローラ32は、各関節46に設けられたアクチュエータの駆動量から、後述するエンドエフェクタ42および連結部50の位置を算出する。
【0035】
ロボット本体40の先端には、接続部48が設けられている。エンドエフェクタ42は、この接続部48を介して、ロボット本体40に着脱される。エンドエフェクタ42は、対象物に働きかけるための要素であり、その具体的構成は、特に限定されない。したがって、エンドエフェクタ42は、機械的な作用を発揮するもの、例えば、対象物を機械的に保持するグリッパや吸着装置、対象物を押圧するローラ等でもよい。また、エンドエフェクタ42は、何かをセンシングするもの、例えば、対象物への接触の有無を検知する接触センサや、対象物の物理量(例えば温度や距離等)を計測するセンサでもよい。さらに、エンドエフェクタ42は、ワークに対して事前または追加の加工を施す補助加工装置、例えば、溶接ノズルや積層造形装置等でもよい。さらに、エンドエフェクタ42は、対象物を撮影するカメラでもよい。こうしたエンドエフェクタ42は、予め、複数種類が用意されており、加工の進捗に応じて、ロボット30に取り付けるエンドエフェクタ42が交換される。
【0036】
コントローラ32は、ロボット30の駆動を制御する。このコントローラ32は、物理的には、各種演算を行うプロセッサ32aと、各種制御プログラムや制御パラメータを記憶するメモリ32bと、を有したコンピュータである。このコントローラ32は、工作機械10のコントローラ、いわゆる、数値制御装置そのものでもよいし、数値制御装置とは、別に設けられたコンピュータでもよい。いずれにしても、コントローラ32は、工作機械10での加工の進捗を管理し、切粉が飛散する際には、ロボット30が後述する保護姿勢をとるように、当該ロボット30の駆動を制御する。
【0037】
ロボット30を切粉等から保護するために、加工室16には保護盾60が設けられており、ロボット30には、この保護盾60と連結可能な連結部50が固着されている。連結部50は、
図2に示すように、末端のリンク44dから当該リンク44dに略直交する方向に延びる根元部50aと、根元部50aの先端から当該根元部50aに略直交する方向に延びる中間部50bと、中間部50bの先端から当該中間部50bに略直交する方向に延びる返し部50cと、を有した断面略J字状の金具である。
【0038】
保護盾60は、ワークの切削加工に伴い切粉が発生する期間中、当該切粉の発生源(通常は、加工点)とロボット30との間に介在し、切粉のロボット30への到達を阻害する部材である。本例において、保護盾60は、十分な保形性を有した略プレート状の部材である。保護盾60は、切粉が衝突しても、孔が開かない程度の強度を有していれば、その素材は、特に限定されない。ただし、後述するように、ロボット30は、この保護盾60を大きく移動させる。そのため、保護盾60を、比較的、軽量な素材、例えば、樹脂で構成している。かかる構成とすることで、保護盾60を移動させる際のロボット30の負荷を軽減できる。
【0039】
保護盾60の本体62は、略プレート状であり、当該本体62の下端近傍には、連結部50が通過可能な通過孔66が形成されている。以下では、この本体62のうち、保管状態で壁面に面する面を「裏面」と呼び、ロボット30側に面する面を「表面」と呼ぶ。保護盾60の裏面のうち、通過孔66よりわずかに上方位置には、クリップ70が設けられている。このクリップ70は、連結部50と保護盾60との連結状態を、重力の向きに関わらず、維持するためのロック機構68として機能する。
【0040】
図6、
図7は、このクリップ70周辺の拡大図である。クリップ70は、揺動片72と、当該揺動片72を一方向に付勢するスプリング76と、を有している。揺動片72は、水平方向に平行な揺動軸74を中心として揺動可能である。この揺動片72の下端は、略円弧上に湾曲した円弧部72aとなっている。スプリング76は、その一端が本体62に、他端が揺動片72の上端に接続されており、円弧部72aが本体62に当接する方向に、揺動片72を付勢している。
【0041】
図7に示すように、この円弧部72aと本体62との間に、連結部50の返し部50cを差し込むと、返し部50cが、揺動片72と本体62とで挟持され、保持される。スプリング76の付勢力は、保護盾60および連結部50の向きが変更され、重力が
図7の紙面上方向に作用する場合でも、揺動片72と本体62で返し部50cを挟持できる程度の大きさとなっている。
【0042】
再び
図2を参照して説明を続ける。保護盾60は、ロボット30に装着されていない期間中、保管エリア80に保管される。保管エリア80は、ロボット30がアクセス可能範囲に設けられる。本例では、ロボット30が固着された壁面に形成された凹部が保管エリア80として機能している。換言すれば、保管エリア80は、加工室16内に設けられている。そのため、ロボット30が、保管エリア80に保管された保護盾60にアクセスする際、ドア14を開放する必要がなく、加工室16外のオペレータの安全をより確実に確保できる。
【0043】
保護盾60の上端には、略J字に折り返されたフック部64が形成されている。保管エリア80の壁面には、このフック部64が引っ掛けられる壁側フック82が設けられている。保護盾60は、この壁側フック82から吊り下げられた状態で保管される。また、壁側フック82の上側には、ストッパ84が設けられている。ストッパ84は、壁面から突出する固定部材で、保護盾60の一部が当接される部材である。
【0044】
次に、ロボット30を切粉から保護する際の動作について説明する。ロボット30を切粉からの保護する必要がない期間、すなわち、切削加工が実施されていない期間、保護盾60は、
図2に示すように、吊り下げられた状態で保管エリア80に保管されている。コントローラ32は、切削加工が開始される際には、ロボット30を駆動し、当該ロボット30に保護盾60を装着させる。
【0045】
保護盾60のロボット30への装着は、ロボット30の姿勢を変更し、連結部50を保護盾60に対して移動させることで実現される。具体的には、
図3に示すように、ロボット30の姿勢を変更して、連結部50を通過孔66に挿し込む。その後、返し部50cの上端が通過孔66の上縁より上になるまで連結部50を上方に移動させたうえで、返し部50cが保護盾60の本体62の裏面に接触するまで、連結部50を水平移動させる。返し部50cが本体62の裏面に接触すれば、その状態で、連結部50を上方に移動させる。これにより、返し部50cの上端が、クリップ70の揺動片72の下端に当接する。この状態で、さらに、連結部50を上方に移動させると、保護盾60が持ち上げられ、
図4に示すように、保護盾60の上端がストッパ84に当接する。この状態でさらに、連結部50を上方に移動させると、返し部50cが、クリップ70の揺動片72と保護盾60の本体62との間に進入する。すなわち、返し部50cが、クリップ70により保持される。クリップ70のスプリング76の付勢力は、保護盾60に作用する重力の力より十分に大きいため、この状態になれば、重力の向きに関わらず、連結部50と保護盾60との連結が維持される。
【0046】
ここで、これまでの説明で明らかなとおり、保護盾60には、動力源を有するアクチュエータは設けられておらず、保護盾60をロボット30に装着させる装着処理は、ロボット30がその姿勢を変更することで実現されている。そのため、本例によれば、保護盾60に電気配線や電源を設ける必要がなく、保護盾60を、軽量で、簡易な構成にできる。
【0047】
連結部50と保護盾60が連結、すなわち、ロボット30に保護盾60が装着されれば、ロボット30は、当該保護盾60を切粉86の発生源に向ける保護姿勢をとる。具体的には、ロボット30は、装着処理が完了した
図4の状態から、末端の関節46dを180度回転させ、保護盾60を、切粉86の発生源、すなわち、加工点の方向に向ける保護姿勢をとる。
【0048】
ここで、保護盾60は、保護姿勢のロボット30の全体をカバーできるサイズに設定されている。具体的には、ロボット30が保護姿勢を取った際、保護盾60の上端は、ロボット30の上端より高く、保護盾60の下端は、ロボット30の下端より低い。また、保護盾60の幅は、ロボット30の幅より大きい。そのため、加工点から飛散した切粉86は、ロボット30に到達する前に、保護盾60に当接することとなる。結果として、ロボット30を切粉86から効果的に保護できる。
【0049】
また、
図5に示すように、本例では、ロボット30が保護姿勢を取った際、保護盾60は、略鉛直方向に立脚している。換言すれば、保護姿勢において、保護盾60は、水平に対して傾いている。そのため、保護盾60に当接した切粉86は、重力により、自然と下方に落下し、切粉回収部29に回収される。
【0050】
切粉86の発生が停止、すなわち、切削加工が停止すれば、ロボット30は、保護盾60を当該ロボット30から取り外して保管エリア80に保管する保管処理を実行する。具体的には、末端の関節46dを180度回転させて、保護盾60を保管エリア80に向ける。そして、保護盾60のフック部64を、壁側フック82に引っかけた状態で、連結部50を下方に移動させる。これにより、返し部50cが、クリップ70から滑り抜け、連結部50と保護盾60との連結が解除される。そして、最終的に、ロボット30は、連結部50を通過孔66から引き抜けば、保管処理が完了となる。
【0051】
以上の説明から明らかなとおり、本例では、保護盾60を、ロボット30に着脱可能とし、必要な場合にのみ、保護盾60をロボット30に装着している。かかる構成とすることで、切粉86の発生期間中は、ロボット30を切粉86から保護できる。また、保護盾60は、比較的大型であるため、装着した状態では、エンドエフェクタ42による各種作業を円滑に行うことが難しいが、本例によれば、保護盾60は、必要に応じて、保護盾60を離脱させることができる。そのため、本例によれば、エンドエフェクタ42による各種作業をより円滑に行うことができる。また、本例では、保護盾60にアクチュエータを設けず、ロボット30の姿勢変更を利用して、ロボット30と保護盾60とを連結している。その結果、保護盾60の構成を、軽量で、簡易なものにすることができる。
【0052】
なお、これまで説明した構成は一例であり、少なくとも、ロボット30に着脱可能な保護盾60を有し、ロボット30の姿勢を変更することで、装着処理、および、保管処理、が実現できるのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、
図2では、連結部50を、末端のリンク44dに固着しており、連結部50とエンドエフェクタ42との間に関節46が存在していなかった。しかし、
図8に示すように、エンドエフェクタ42と連結部50との間に、1以上の関節46eを介在させ、エンドエフェクタ42と連結部50との相対的な位置および姿勢の関係を変更できるようにしてもよい。かかる構成とすることで、保護盾60の着脱の際には、エンドエフェクタ42を、当該着脱の邪魔にならない位置および姿勢に変更でき、エンドエフェクタ42を用いて作業を行う際には、連結部50を当該作業の邪魔をしない位置および姿勢に変更できる。
【0053】
また、
図2では、連結部50の一つ手前の関節46dを、リンク44に略直交する軸周りに回転する回転関節としている。しかし、
図9に示すように、連結部50の一つ手前の関節46eを、リンク44と平行な軸周りに回転する自転関節にしてもよい。かかる構成とすることで、保護盾60の上下を反転させることなく、保護盾60を、保管エリア80に保管された状態から切粉86の発生源に向けた状態に変更できる。
【0054】
また、
図2では、連結部50を、接続部48より手前側に設けており、連結部50は、エンドエフェクタ42がロボット本体40から離脱した際にも、ロボット本体40に残存している。しかし、
図9に示すように、連結部50を、エンドエフェクタ42に固着してもよい。
【0055】
また、連結部50およびロック機構68の構成も適宜、変更されてもよい。例えば、
図2では、クリップ70を、保護盾60の裏面側に設けていたが、
図10に示すように、クリップ70を保護盾60の表面側に設けてもよい。かかる構成とした場合、保護盾60の通過孔66を無くすことができる。そして、通過孔66が無いことで、通過孔66を介してロボット30に到達する切粉86を無くすことができ、ロボット30をより確実に保護できる。
【0056】
また、ロック機構68は、スプリング76を利用したクリップ70に限らず、他の機構でもよい。例えば、ロック機構68は、磁力を利用したものでもよい。すなわち、
図8に示すように、連結部50に磁性体52を、保護盾60に磁石78を設け、両者の間に生じる磁気吸引力を利用して、連結部50と保護盾60との連結状態を維持してもよい。また、別の形態として、連結部50および保護盾60に、面ファスナを設け、この面ファスナの結合力を利用して、連結部50と保護盾60との連結状態を維持してもよい。さらに、別の形態として、摩擦力を利用して、連結部50と保護盾60との連結状態を維持してもよい。例えば、連結部50の先端に、先細り形状の突起を設けるとともに、保護盾60に、当該突起が圧入される孔を設け、この突起と孔との間に生じる摩擦力により、連結部50と保護盾60との連結状態を維持してもよい。この場合、突起の外周面および孔の内周面の少なくとも一方には、ゴム等の高摩擦素材を設けてもよい。
【0057】
また、保護盾60の形状や構成も適宜、変更されてもよい。例えば、保護盾60は、ロボット30の少なくとも一部を覆うことができるのであれば、ロボット30の全体をカバーできなくてもよい。また、保護盾60の一部は、保形性を有さない、可撓性シートで構成されてもよい。例えば、
図9に示すように、保護盾60は、保形性を有したプレート状の本体62と、当該本体62の下方に垂れ下がる可撓性のシート部81と、を有してもよい。
【0058】
また、これまでの説明では、ロボット30が設置される壁面と同じ壁面に保管エリア80を設けているが、保管エリア80は、ロボット30のアクセス可能範囲内であれば、他の場所に設けられてもよい。したがって、保管エリア80は、加工室16の外部に設けられてもよい。また、ロボット30が設置される壁面と、異なる壁面に保管エリア80を設けてもよい。例えば、
図11に示すように、ロボット30を加工室16の天面に固着し、保管エリア80を加工室16の側面に設けてもよい。この場合、切粉86の発生源は、ロボット30の下方に位置するため、ロボット30は、保護姿勢において、保護盾60を下方に向ける。
【0059】
また、保護盾60の保管形態も、適宜、変更してもよい。例えば、保護盾60は、吊り下げた状態で保管するのではなく、所定の載置台に載置した状態で保管してもよい。すなわち、
図11に示すように、保管エリア80に、保護盾60の載置台90を設けて置き、この載置台90に保護盾60を載置してもよい。また、これまでの説明では、ロボット30は、壁面に固定されているが、ロボット30は、移動可能であってもよい。例えば、ロボット30は、専用の移動機構を有してもよいし、他の移動体(例えば刃物台20等)に設置されてもよい。また、ロボット30の形態も適宜、変更してもよく、他の形態のロボット30、例えば、パラレルリンクロボット等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 工作機械、12 カバー、14 ドア、16 加工室、18 ワーク主軸、20 刃物台、22 タレット、24 チャック、26 工具、28 床面、29 切粉回収部、30 ロボット、32 コントローラ、40 ロボット本体、42 エンドエフェクタ、44 リンク、46 関節、48 接続部、50 連結部、52 磁性体、60 保護盾、62 本体、64 フック部、66 通過孔、68 ロック機構、70 クリップ、72 揺動片、74 揺動軸、76 スプリング、78 磁石、80 保管エリア、81 シート部、82 壁側フック、84 ストッパ、86 切粉、90 載置台。