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特開2022-64678硬化性樹脂の造形物、造形物を補強するポリマー溶液、造形物の補強方法および製造方法
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  • 特開-硬化性樹脂の造形物、造形物を補強するポリマー溶液、造形物の補強方法および製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064678
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】硬化性樹脂の造形物、造形物を補強するポリマー溶液、造形物の補強方法および製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/264 20170101AFI20220419BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220419BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220419BHJP
   B29C 64/30 20170101ALI20220419BHJP
   B29C 64/106 20170101ALN20220419BHJP
【FI】
B29C64/264
B33Y80/00
B33Y70/00
B29C64/30
B29C64/106
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173446
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 功治
(72)【発明者】
【氏名】渡海 達也
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA21
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL12
4F213WL34
(57)【要約】
【課題】光硬化性樹脂の積層造形物において、例えば薄肉に形成された部分を補強して造形物の寿命を長くする。
【解決手段】光硬化性樹脂の積層造形物であって、前記造形物は、第1部分と第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分とを具備し、前記ヒンジ部分に熱可塑性ポリマーが含浸されている造形物であり、前記ヒンジ部分の少なくとも一つの方向D1における寸法は、前記第1部分および前記第2部分の前記方向D1における寸法よりも小さくてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂の積層造形物であって、
前記造形物は、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備し、
前記ヒンジ部分に熱可塑性ポリマーが含浸されている、造形物。
【請求項2】
前記ヒンジ部分の少なくとも一つの方向D1における寸法が、前記第1部分および前記第2部分の前記方向D1における寸法よりも小さい、請求項1に記載の造形物。
【請求項3】
前記ヒンジ部分の内部で前記熱可塑性ポリマーが網目構造を形成している、請求項1または2に記載の造形物。
【請求項4】
前記ヒンジ部分が前記方向D1と交差する方向D2にストライプ状に延びており、
前記ヒンジ部分を回転軸として、前記第1部分と前記第2部分とが相対移動可能である、請求項1~3のいずれか1項に記載の造形物。
【請求項5】
前記ヒンジ部分の耐屈曲性が、前記第1部分および前記第2部分よりも高められている、請求項1~4のいずれか1項に記載の造形物。
【請求項6】
前記ヒンジ部分の比重が、前記第1部分および前記第2部分よりも高められている、請求項1~5のいずれか1項に記載の造形物。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリマーが、第1ブロックと、前記第1ブロックよりも柔軟な第2ブロックと、を含むブロック共重合体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の造形物。
【請求項8】
前記第1ブロックがメタクリレート単位を含み、前記第2ブロックがアクリレート単位を含む、請求項7に記載の造形物。
【請求項9】
前記造形物は、(メタ)アクリレート単位を含む重合体である、請求項1~8のいずれか1項に記載の造形物。
【請求項10】
光硬化性樹脂の積層造形物を補強するポリマー溶液であって、
前記造形物は、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備し、
前記ポリマー溶液は、溶媒と、前記溶媒に溶解している熱可塑性ポリマーと、を含み、少なくとも前記ヒンジ部分に塗布され、前記熱可塑性ポリマーが少なくとも前記ヒンジ部分に含浸される、ポリマー溶液。
【請求項11】
前記熱可塑性ポリマーが、第1ブロックと、前記第1ブロックよりも柔軟な第2ブロックと、を含むブロック共重合体である、請求項10に記載のポリマー溶液。
【請求項12】
前記第1ブロックがメタクリレート単位を含み、前記第2ブロックがアクリレート単位を含む、請求項10または11に記載のポリマー溶液。
【請求項13】
前記造形物は、(メタ)アクリレート単位を含む重合体である、請求項10~12のいずれか1項に記載のポリマー溶液。
【請求項14】
光硬化性樹脂の積層造形物であって、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備する造形物を準備する工程と、
請求項10に記載のポリマー溶液を準備する工程と、
少なくとも前記ヒンジ部分に前記ポリマー溶液を含浸させる工程と、を具備する造形物の補強方法。
【請求項15】
前記造形物は、(メタ)アクリレート単位を含む重合体である、請求項14に記載の造形物の補強方法。
【請求項16】
光硬化性樹脂の積層造形により、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備する造形物を得る工程と、
請求項10に記載のポリマー溶液を準備する工程と、
少なくとも前記ヒンジ部分に前記ポリマー溶液を含浸させる工程と、を具備する造形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂の造形物の少なくとも一部の補強に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンタなどを用いて硬化性樹脂の造形物を製造する技術の開発が進んでいる。
特許文献1では、インクジェット光造型法によりモデル材を造形するために使用され、かつ光硬化成分として単官能モノマー(A)とオリゴマー(B)とを含有するモデル材用組成物であって、樹脂組成物全体100重量部に対して、(A)成分として20~90重量部の特定の(メタ)アクリレートモノマーを含み、(B)成分として、5重量部以上の多官能オリゴマーを含む組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/222025号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、硬化物の柔軟性を高めることができても、造形物の薄肉部分では十分な強度を確保することが困難である。特に3Dプリンタなどを用いて光硬化性樹脂の積層造形により形成される3次元の造形物は、短時間で速硬化された材料の積層体であるため、脆くなりやすく、耐屈曲性が不十分となりやすい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、光硬化性樹脂の積層造形物であって、前記造形物は、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備し、前記ヒンジ部分に熱可塑性ポリマーが含浸されている、造形物に関する。
【0006】
本発明の他の側面は、光硬化性樹脂の積層造形物を補強するポリマー溶液であって、前記造形物は、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備し、前記ポリマー溶液は、溶媒と、前記溶媒に溶解している熱可塑性ポリマーと、を含み、少なくとも前記ヒンジ部分に塗布され、前記熱可塑性ポリマーが少なくとも前記ヒンジ部分に含浸される、ポリマー溶液に関する。
【0007】
本発明の更に他の側面は、光硬化性樹脂の積層造形物であって、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備する造形物を準備する工程と、上記ポリマー溶液を準備する工程と、少なくとも前記ヒンジ部分に前記ポリマー溶液を含浸させる工程と、を具備する造形物の補強方法に関する。
【0008】
本発明の更に他の側面は、光硬化性樹脂の積層造形により、第1部分と、第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを連結するヒンジ部分と、を具備する造形物を得る工程と、上記ポリマー溶液を準備する工程と、少なくとも前記ヒンジ部分に前記ポリマー溶液を含浸させる工程と、を具備する造形物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
光硬化性樹脂の積層造形物において、例えば薄肉に形成された部分が補強されるため、造形物の寿命が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】光硬化性樹脂の積層造形により3次元造形物を形成する工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
3Dプリンタの開発が進む中、光硬化性樹脂の積層造形物(以下、「光硬化3D造形物」もしくは単に「造形物」とも称する。)は、様々な用途で使用されている。このような造形物は、形状の自由度が高い点にメリットがある。従って、造形物にヒンジ部分が設けられることがある。
【0012】
本実施形態に係る造形物は、第1部分と、第2部分と、第1部分と第2部分とを連結するヒンジ部分とを具備する。ヒンジ部分には熱可塑性ポリマーが含浸されている。
【0013】
ヒンジ部分とは、一体成型物に設けられた薄肉部分もしくは括れ部分であり得る。換言すれば、ヒンジ部分とは、少なくとも一つの方向D1における寸法が、第1部分および第2部分の方向D1における寸法よりも小さい部分であってよい。薄肉部分もしくは括れ部分は、造形物に運動機能を付与する役割を果たす。例えば、ヒンジ部分は、当該ヒンジ部分を中心とする回転運動を造形物に許容する。よって、ヒンジ部分には高い耐屈曲性が求められる。
【0014】
換言すれば、本実施形態に係る造形物は、光硬化性樹脂の積層造形物であって、括れ部分もしくは薄肉部分を具備し、括れ部分もしくは薄肉部分に熱可塑性ポリマーが含浸されている造形物でもある。
【0015】
一方、光硬化3D造形物は、例えば、短時間で光照射により硬化させたフィルム状の材料の積層体で構成されている。そのため、理想的な架橋構造をとりにくく、時間をかけて硬化される熱硬化性樹脂の硬化物などに比べると脆く、耐屈曲性が不十分となりやすい。すなわち、光硬化3D造形物は、内部に歪を生じやすく、また、架橋密度が低くなりやすいものと考えられる。
【0016】
光硬化性樹脂(通常は複数成分を含む樹脂組成物)自体の改良により、造形物の耐屈曲性を向上させるアプローチは、造形物の硬度や機械的強度を低下させる結果に至ることがほとんどである。一方、造形物の硬度や機械的強度を確保することを主眼とするアプローチは、造形物の耐屈曲性を低下させる結果に至ることがほとんどである。つまり、造形物に必要な形状を保持しつつ、造形物の耐屈曲性を高めることは非常に困難である。
【0017】
以上の状況に鑑み、本実施形態では、第1部分と第2部分とヒンジ部分とを具備する光硬化性樹脂の積層造形物において、ヒンジ部分に熱可塑性ポリマーを含浸させるアプローチを提案する。第1部分と第2部分とヒンジ部分とは、光硬化性樹脂の積層造形(例えば、3Dプリンタ技術などの技術)で一体に形成されているため、連続した組織で互いに結合している。つまり、第1部分と第2部分とヒンジ部分とは、不連続な継ぎ目を有さない一体成型物であり得る。それにもかかわらず、ヒンジ部分に熱可塑性ポリマーを含浸させるアプローチによれば、ヒンジ部分が、第1部分および第2部分とは異なる物性を有することが許容される。
【0018】
方向D1におけるヒンジ部分の寸法T3は、ヒンジ部分の方向D1における最小寸法であってよい。方向D1における第1部分の寸法T1および第2部分の寸法T2は、それぞれ第1部分および第2部分の方向D1における最大寸法であってよい。
【0019】
T3は、例えばT1の90%以下であってもよく、T1の50%以下であってもよい。同様に、T3は、例えばT2の90%以下であってもよく、T2の50%以下であってもよい。
【0020】
熱可塑性ポリマーを含浸させる前において、ヒンジ部分は、光硬化性樹脂の積層造形により形成される造形物として一般的なレベルの耐屈曲性を有すればよい。その場合の耐屈曲性は、ヒンジ部分としては改善が要望されるレベルであってもよい。このようなヒンジ部分に熱可塑性ポリマーを含浸させることで、ヒンジ部分の強度、靭性、可塑性などの所望の物性が向上し、ヒンジ部分の耐屈曲性が高められる。ヒンジ部分に熱可塑性ポリマーを含浸させることは、ヒンジ部分を補強し、造形物の寿命を長期化することを意味する。
【0021】
ヒンジ部分に浸漬された熱可塑性ポリマーは、ヒンジ部分の内部で拡散し、ヒンジ部分の内部に熱可塑性ポリマーの網目構造もしくはマトリックスを形成してもよい。すなわち、ヒンジ部分は、光硬化性樹脂の硬化物と熱可塑性ポリマーとの複合材料で構成されてもよい。光硬化性樹脂の硬化物は、熱可塑性ポリマーと相互網目構造を構成していてもよい。その結果、ヒンジ部分は、熱可塑性ポリマーと同程度の耐屈曲性を発現し得る。また、仮に、光硬化性樹脂の硬化物自体が屈曲などの運動により損傷を受けたとしても、熱可塑性ポリマーのマトリックスが、ヒンジ部分に必要な機能を担保し得る。
【0022】
ヒンジ部分は、例えば、方向D1と交差する方向D2にストライプ状(もしくは線状、帯状)に延びている。この場合、ストライプ状のヒンジ部分を回転軸として、第1部分と第2部分とが角度方向に相対移動可能である。ヒンジ部分は、繰り返される屈曲運動の軸となる部位であり、高度な耐屈曲性を有することが求められる。このような要求は、ヒンジ部分に熱可塑性ポリマーを含浸させるアプローチにより満たされ得る。このアプローチによりヒンジ部分が熱可塑性ポリマーのマトリックスで補強される。
【0023】
端的に言えば、本実施形態の一態様は、ヒンジ部分の耐屈曲性が、第1部分および第2部分よりも高められた造形物である。
【0024】
ヒンジ部分の耐屈曲性は、ヒンジ部分が破断するまでの折り曲げ回数により評価する。具体的には、ヒンジ部分を回転軸として造形物を180°折り曲げ(1回目)、破断しない場合は、この状態から180°反対側に折り曲げ(2回目)、それでも破断しない場合は、180°の折り曲げをさらに繰り返す。
【0025】
一方、第1部分および第2部分の耐屈曲性は、第1部分および第2部分をヒンジ部分の寸法T3と同じ厚さを有するシートに切り出し、当該シートが破断するまでの折り曲げ回数により評価する。シートの厚さをT3とすること以外、シートの形状やサイズは限定されないが、例えば1mm×5mm以上のサイズであればよい。具体的には、当該シートを2つ折りに折り曲げ(1回目)、破断しない場合は、この状態から180°反対側に折り曲げ(2回目)、それでも破断しない場合は、180°の折り曲げをさらに繰り返す。
【0026】
ヒンジ部分の耐屈曲性(破断するまでの折り曲げ回数N3)が第1部分および第2部分の耐屈曲性(破断するまでの折り曲げ回数N1、N2)よりも多い場合(N1<N3かつN2<N3)には、ヒンジ部分の耐屈曲性が第1部分および第2部分よりも高められているといえる。N3/N1比およびN3/N2は、5以上が望ましく、10以上が更に望ましい。
【0027】
ヒンジ部分に選択的に熱可塑性ポリマーを含浸させる場合、ヒンジ部分の比重d3は、第1部分の比重d1および第2部分の比重d2よりも高められてもよい。その際、d3は、例えばd1の1.05倍以上であってもよく、d1の1.1倍以上であってもよい。同様に、d3は、例えばd2の1.05倍以上であってもよく、d2の1.1倍以上であってもよい。なお、第1部分(もしくは第2部分)のヒンジ部分との連結部分やその近傍には、熱可塑性ポリマーが拡散し、その部分の比重が高められ得る。その場合でも、少なくとも、第1部分および第2部分は、ヒンジ部分よりも比重の小さい部分を有し得る。この場合、比重の対比は、第1部分および第2部分のヒンジ部分よりも比重の小さい部分を用いて行う。
【0028】
<熱可塑性ポリマー>
熱可塑性ポリマーは、造形物に浸透し、造形物の内部で拡散し得る材料であれば特に限定されない。ヒンジ部分に高度な柔軟性が求められる場合、熱可塑性ポリマーがゴム弾性を有してもよい。熱可塑性ポリマーの種類は、造形物の用途に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
ヒンジ部分の耐屈曲性を顕著に向上させるために、熱可塑性ポリマーの単独での破断時伸びは、300%以上であることが望ましく、400%以上であってもよく、500%以上であってもよい。一方、ヒンジ部分の機械的強度を高める観点からは、破断時伸びが2000%以下であることが望ましい。
【0030】
破断時伸びは、熱可塑性ポリマーを厚み500μm、幅15mmのシートに成形し、当該シートを試験片として、ISO37に準拠して測定される。破断時伸びの測定は、23℃、チャック間距離20mm、引張速度200mm/分の条件で行われる。測定には、市販の引張試験機が使用される。破断時伸びは、破断時の試験片の長さL1と初期の試験片の長さL0との差(=L1-L0)のL0に対する比率(=(L1-L0)/L0×100(%))である。
【0031】
ISO37に準拠して測定される熱可塑性ポリマーの破断強度は、例えば3MPa以上であり、5MPa以上または7MPa以上であってもよい。破断強度の上限は、特に制限されないが、高い破断時伸びを確保しやすい点で、13MPa以下または10MPa以下が好ましい。なお、破断強度は、破断時伸びを測定する際に用いるのと同様の試験片を用いて測定される。測定条件も破断時伸びの測定と同じ条件でよい。複数(例えば5つ)の試験片について、各物性を測定し、平均化することにより平均値を求める。
【0032】
熱可塑性ポリマーは、単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、共重合体(コポリマー)であってもよい。
【0033】
熱可塑性ポリマーは、例えば、オレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体など)、芳香族ビニル樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂など)、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂(ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体など)またはそのケン化物(ポリビニルアルコールなど)、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンなど)、シリコーン樹脂、ゴム状弾性体(アクリルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴムなど)などが挙げられる。中でも、アクリル樹脂は、光硬化性樹脂の硬化物との相性がよく、造形物に浸透しやすく、拡散しやすい点で望ましい。
【0034】
熱可塑性ポリマーは、適度な機械的強度と十分な柔軟性とを兼ね備えることが望ましい。その場合、第1ブロックと、第1ブロックよりも柔軟な第2ブロックと、を含むブロック共重合体を用いてもよい。第1ブロックはハードセグメントとして機能し、第2ブロックはソフトセグメントとして機能する。ハードセグメントのガラス転移温度TgHは、例えば100~130℃であり、ソフトセグメントのガラス転移温度TgSは、例えば-30℃以下であってもよい。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)装置を用いて測定すればよい。
【0035】
熱可塑性ポリマーがアクリル樹脂(アクリル系ブロック共重合体)である場合、第1ブロックがメタクリレート単位を含み、第2ブロックがアクリレート単位を含んでもよい。アクリレート単位を構成するアクリレートモノマーとしては、例えばC1-6アルキルアクリレートを用いることができる。中でも、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレートなどが好ましく、例えばn-ブチルアクリレートが好適である。メタクリレート単位を構成するメタクリレートモノマーとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどを用い得る。熱可塑性ポリマーとして使用し得るアクリル樹脂の典型例として、例えば、メチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとのブロック共重合体が挙げられる。
【0036】
<光硬化性樹脂>
積層造形物の原料となる光硬化性樹脂について説明する。ここでは、光硬化性樹脂とは、複数成分を含む樹脂組成物(以下、光硬化性樹脂組成物とも称する。)を意味する。光硬化性樹脂組成物は、例えば、反応性モノマーと光重合開始剤とを含み、更に反応性オリゴマーを含んでもよい。
【0037】
反応性オリゴマーを含む場合、反応性モノマーと反応性オリゴマーとの質量比は、例えば、20/80~80/20が好ましい。この場合、造形物の高い強度を確保できるとともに、造形物に高いゴム弾性を付与することができる。
【0038】
光硬化性樹脂組成物の粘度は、25℃において、例えば、10mPa・s以上7000mPa・s以下である。高い光造形性を確保しやすい点で、光硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、3000mPa・s以下が好ましい。光硬化性樹脂組成物の25℃における粘度が200mPa・s以上3,000mPa・s以下であってもよい。なお、光硬化性樹脂組成物の粘度は、例えば、コーンプレート型のE型粘度計を用いて、20rpmの回転速度で測定したものとすることができる。
【0039】
反応性モノマーおよび反応性オリゴマーにおける「反応性」とは、光重合開始剤を利用する硬化反応に関与する反応性基を有するものであることを意味する。また、反応性オリゴマーとは、少なくとも、構成ユニットの繰り返し部分(繰り返し数は2以上)を含むものを言い、反応性モノマーと区別される。本明細書中、反応性モノマーおよび反応性オリゴマーを単に反応性化合物と称する場合がある。
【0040】
なお、光硬化性樹脂組成物からの反応性化合物の分離は、例えば、遠心分離、抽出、晶析、カラムクロマトグラフィー、および/または再結晶などの公知の分離法を利用して行うことができる。反応性化合物の同定は、例えば、光硬化性樹脂組成物を、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、および/またはマススペクトルなどを用いて分析することにより行うことができる。
【0041】
(反応性モノマー)
反応性モノマーは、例えば、単官能の反応性モノマーを含み、単官能の反応性モノマーと多官能の反応性モノマーとを含んでいてもよい。反応性モノマーが有する反応性基は、例えば、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合性炭素-炭素不飽和結合を有する基などが挙げられ、(メタ)アクリロイル基が好ましい。この場合、高い硬化速度が得られ、光造形などの造形用途に適している。
【0042】
単官能の反応性モノマー(以下、第1モノマーとも称する。)としては、例えば、ビニル系モノマー、アリル系モノマー、アクリル系モノマーなどが挙げられる。ビニル系モノマーとしては、ビニル基を有するモノマー、例えば、一価アルコールのビニルエーテル、芳香族ビニルモノマー(スチレンなど)、脂環族ビニルモノマー、ビニル基を有する複素環化合物(N-ビニルピロリドンなど)などが例示できる。アリル系モノマーとしては、アリル基を有するモノマー、例えば、一価アルコールのアリルエーテルなどが挙げられる。アクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー、例えば、一価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、窒素含有化合物と(メタ)アクリル酸との酸アミド(例えばアクリロイルモルフォリン)、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0043】
なお、アクリロイル基およびメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と総称する。アクリル酸およびメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と総称する。アクリル酸エステル(またはアクリレート)およびメタクリル酸(またはメタクリレート)を、(メタ)アクリル酸エステル(または(メタ)アクリレート)と総称する。
【0044】
一価アルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコールのいずれであってもよい。脂肪族アルコールは、芳香環、脂肪族環、または複素環を有してもよい。脂肪族環は、架橋環であってもよい。脂肪族アルコールとしては、例えば、アルキルアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、2-ヒドロキシプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコールなどのC1-20アルキルアルコールなど)、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、フタル酸とエチレングリコールとのモノエステル、フェノキシエチルアルコール、シクロヘキサンメタノールなどが挙げられる。脂環式アルコールとしては、シクロヘキサノール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール、ジシクロペンタニルアルコールなどの脂環式C5-20アルコール(脂環式C5-10アルコールなど)などが挙げられる。芳香族アルコールとしては、フェノール、ナフトールなどの芳香族C6-10アルコールなどが挙げられる。複素環式アルコールとしては、例えば、窒素、酸素、および/または硫黄などを環の構成原子として含む複素環基(4員~8員の複素環基など)を有する脂肪族アルコール(C1-4脂肪族アルコールなど)が挙げられる。複素環式アルコールとしては、例えば、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコールなどが例示できる。(メタ)アクリル酸と酸アミドを構成する窒素含有化合物としては、脂肪族アミン(トリエチルアミン、エタノールアミンなど)、脂環式アミン(シクロヘキシルアミンなど)、芳香族アミン(アニリンなど)、窒素含有環状化合物などが挙げられる。窒素含有環状化合物としては、ピロール、ピロリジン、ピペリジン、ピリミジン、モルホリン、チアジンなどが挙げられる。窒素含有環状化合物は、5員環~8員環が好ましく、5環や6員環であってもよい。
【0045】
第1モノマーは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。反応性モノマーは脂肪族環や窒素含有環などを有することが好ましい。この場合、硬化反応が効率よく進行しやすく、高強度の造形物が得られやすく、硬化の際の歪みが少なくなる。具体的には、脂環式アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルや、窒素含有環状化合物と(メタ)アクリル酸との酸アミドを反応性モノマーとして用いることが好ましい。
【0046】
光硬化性樹脂組成物中の第1モノマーの含有量は、例えば、10質量%以上であり、15質量%以上であることが好ましい。第1モノマーの含有量がこのような範囲である場合、硬化反応が進行しやすくなるとともに、硬化性樹脂組成物の粘度を低く保ちやすい。第1モノマーの含有量は、例えば、70質量%以下であり、60質量%以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0047】
第1モノマーのうち、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーの含有量は、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましく、反応性モノマーを(メタ)アクリロイル基を有するモノマーのみで構成してもよい。
【0048】
多官能の反応性モノマー(以下、第2モノマーとも称する。)を用いる場合、硬化により架橋構造が形成されるため、硬化物の強度をさらに高めやすくなる。第2モノマーとしては、反応性基を2個以上有するものが使用できる。反応性基の個数は、例えば、2~4個であり、2個または3個であってもよい。第2モノマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。複数種の第2モノマーを用いる場合、各第2モノマーにおける反応性基の種類は全て同じであってもよく、一部が同じであってもよく、全てが異なっていてもよい。
【0049】
第2モノマーとしては、例えば、ポリオールの少なくとも2つのヒドロキシ基が、ビニルエーテル基、アリルエーテル基、アクリロイルオキシ基、およびメタクリロイルオキシ基からなる群より選択される少なくとも一種で置き換わった化合物が挙げられる。ポリオールは、脂肪族ポリオール(アルキレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖アルコールなど)、脂環式ポリオール(ジヒドロキシシクロヘキサンなど)、芳香族ポリオール(ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレンなど)のいずれであってもよい。アルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ヘキサンジオールなどのC2-10アルキレングリコールが挙げられる。脂肪族ポリオールには、芳香環、脂肪族環、または複素環(酸素、窒素、および/または硫黄を環の構成元素として含む4員~8員の複素環など)を有するものも含まれる。このような脂肪族ポリオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ベンゼンジメタノール、ジオキサングリコールなどが挙げられる。第2モノマー(具体的には、第2モノマーを形成するポリオール)が脂肪族環、複素環(上記窒素含有環も含む)を有することが好ましい。この場合、硬化反応が効率よく進行しやすい。また、高い強度の造形物が得られやすく、硬化の際の歪みが少ない。より具体的には、ビニル基を有する複素環化合物、脂環式アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、複素環式アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例えばジオキサングリコールジアクリレート)、窒素含有環状化合物と(メタ)アクリル酸との酸アミドを第2モノマーとして用いることが好ましい。なお、芳香族環や脂肪族環には、酸素、窒素、および/または硫黄を環の構成元素として含む複素環も含まれる。
【0050】
また、第2モノマーとしては、少なくとも2つの反応性基を有するエーテルを用いてもよい。このようなエーテルとして、(株)日本触媒製のFX-AO-MAを用いてもよい。FX-AO-MAは、アリル基とアクリロイルオキシ基とを有する2官能のモノマーであり、環化重合によりテトラヒドロフラン環を形成可能である。FX-AO-MAのような、硬化により造形物に脂肪族環や複素環などの環構造を導入できるエーテルを第2モノマーに用いると、高い強度や硬化の際の歪みを低減できる。また、FX-AO-MAを用いると、造形物の靱性を高めることもできる。
【0051】
光硬化性樹脂組成物中の第2モノマーの含有量は、例えば、1質量%以上40質量%以下であり、10質量%以上35質量%以下であってもよい。第2モノマーの含有量がこのような範囲である場合、高い靱性と高い強度とのバランスを取りやすい。
【0052】
なお、第2モノマーのうち、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーの含有量は、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上であることが好ましく、第2モノマーを(メタ)アクリロイル基を有するモノマーのみで構成してもよい。
【0053】
(反応性オリゴマー)
反応性オリゴマーとは、少なくとも、構成ユニットの繰り返し部分(繰り返し数は2以上)を含むものを言い、反応性モノマーと区別される。
【0054】
反応性オリゴマーが有する反応性基は、反応性モノマーについて例示したものから選択できる。高い硬化速度が得られ易く、光造形などの造形用途に適している観点からは、(メタ)アクリロイル基が好ましい。反応性オリゴマーは、反応性基を1つ有する単官能のオリゴマーであってもよく、2つ以上の反応性基を有する多官能のオリゴマーであってもよい。多官能のオリゴマーにおいて、反応性基の個数は、例えば、2~8個であり、2~4個であってもよく、2個または3個であってもよい。
【0055】
反応性オリゴマーの重量平均分子量Mwは、例えば、40,000以下であり、30,000以下であってもよいが、10,000未満が好ましく、5,000以下または5,000未満がより好ましい。Mwがこのような範囲である場合、光硬化性樹脂組成物の粘度を低く保ちやすい。反応性オリゴマーのMwは、例えば、500以上であり、1,000以上であることが好ましい。Mwがこのような範囲である場合、硬化の際の歪みを抑制する効果を高めることができる。また、マトリックスの強度をさらに高めることができる。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。ここでも、Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより分析される標準ポリスチレン換算の値である。
【0056】
反応性オリゴマーは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、種類の異なるものを二種以上組み合わせてもよく、Mwの異なるものを二種以上組み合わせてもよい。Mwが異なるものを二種以上組み合わせる場合、マトリックスの強度をさらに高める観点からは、例えば、Mwが1000以上の反応性オリゴマーを少なくとも用いることが好ましい。
【0057】
反応性オリゴマーは、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー(アクリル系オリゴマー)を含むことが好ましい。反応性オリゴマーのうち、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーの含有量は、例えば、90質量%以上であり、95質量%以上でもよく、反応性オリゴマーを(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーのみで構成してもよい。
【0058】
反応性オリゴマーとしては、上述の反応性モノマー(具体的には、第1モノマーおよび/または第2モノマー)の多量体の他、ビスフェノール類の(メタ)アクリレート、水添ビスフェノール類の(メタ)アクリレート、オリゴマータイプのポリオールの(メタ)アクリレートなどが挙げられる。オリゴマータイプのポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリエステルウレタンポリオール、ポリエーテルウレタンポリオールなどが挙げられる。硬化反応が進行し易く、光硬化性樹脂組成物の粘度を低く保ちやすい観点からは、ポリオールは、非芳香族性のポリオールであることが好ましい。
【0059】
反応性オリゴマーとしては、ダイセル・オルネクス(株)製のEBECRYLシリーズ、例えば、EBECRYL4491、4859、8402、8411、8811などを使用してもよい。反応性オリゴマーとしては、日本合成化学工業(株)製のUV-3700B、日本化薬(株)製のUX6101、アルケマ社製のウレタンアクリレートオリゴマーであるCN983NSおよびCN9893NSなどを用いてもよい。
【0060】
光硬化性樹脂組成物の構成成分の高い相溶性を確保しやすい点で、反応性オリゴマーのうち、オリゴマータイプのポリオールの(メタ)アクリレートを用いてもよい。このような反応性オリゴマーは、高い硬化速度を確保しやすく、光造形などの造形用途にも適している。また、靱性と硬化物の強度とのバランスを取りやすい点で、ポリウレタンポリオールの(メタ)アクリレート、および/またはポリエーテルウレタンポリオールの(メタ)アクリレートを用いてもよい。また、ウレタン構造を有するポリオールの(メタ)アクリレートを用いることで、耐熱性を高めることもできる。
【0061】
光硬化性樹脂組成物中の反応性オリゴマーの含有量は、例えば10質量%以上であり、20質量%以上でもよく、30質量%以上でもよい。反応性オリゴマーの含有量がこのような範囲である場合、硬化時の歪みを抑制しながらも、高い硬化速度を確保することができる。また、マトリックスの強度をさらに高めることができる。光硬化性樹脂組成物中の反応性オリゴマーの含有量は、例えば、60質量%以下であり、50質量%以下であってもよい。反応性オリゴマーの含有量がこのような範囲である場合、光硬化性樹脂組成物の粘度を低く保ちやすい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0062】
(光重合開始剤)
光硬化性樹脂組成物に含まれる光重合開始剤は、光の作用により活性化して、光硬化性モノマーの硬化(具体的には重合)を開始させる。光重合開始剤としては、光の作用によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤のほか、光の作用により酸(またはカチオン)を生成するもの(具体的には、カチオン発生剤)が挙げられる。光重合開始剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。光重合開始剤は、重合性化合物のタイプ、例えば、ラジカル重合性であるか、カチオン重合性であるかなどに応じて選択される。ラジカル重合開始剤(ラジカル光重合開始剤)としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤などが挙げられる。
【0063】
(セラミックス粒子)
光硬化性樹脂組成物は、更にセラミックス粒子を含んでもよい。セラミックス粒子としては、例えば、シリカ粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子が挙げられる。光硬化性樹脂組成物は、これらのセラミックス粒子を一種含んでいてもよく、二種以上組み合わせて含んでいてもよい。高い透明性が得られやすい観点から、セラミックス粒子は、少なくともシリカ粒子を含むことが好ましい。
【0064】
セラミックス粒子の平均粒子径は、10μm以下であってもよく、1μm以下であってもよく、500nm以下であってもよい。光硬化性樹脂組成物中により均一に分散して、より高い伸び性および強度を確保し易い観点からは、セラミックス粒子の平均粒子径は、100nm以下が好ましい。セラミックス粒子の平均粒子径は、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。なお、本明細書中、平均粒子径は、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布の累計体積50%における粒子径(D50)として求められる。なお、平均粒子径が100nm以下の場合には、動的光散乱法による粒度分布測定装置を用いて平均粒子径を求めるものとする。
【0065】
光硬化性樹脂組成物中のセラミックス粒子の含有量は、例えば、0.1質量%以上である。より高い伸び性および強度を確保し易い観点からは、セラミックス粒子の含有量は、1質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよい。硬化物のより高い柔軟性を確保し易い観点からは、セラミックス粒子の含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下であってもよい。
【0066】
<ポリマー溶液>
熱可塑性ポリマーを造形物の少なくともヒンジ部分に含浸させる際、熱可塑性ポリマーを含むポリマー溶液を利用することが望ましい。ポリマー溶液は、溶媒と、溶媒に溶解している熱可塑性ポリマーとを含む。光硬化性樹脂の積層造形物は溶媒によって膨潤しやすいため、このようなポリマー溶液を用いることで、熱可塑性ポリマーの造形物もしくはヒンジ部分への浸透と拡散を促進することができる。
【0067】
溶媒の種類は、熱可塑性ポリマーを溶解でき、かつ造形物に浸透する溶媒であればよい。
【0068】
第1モノマーとしてアクリル系モノマーを用い、反応性オリゴマーとしてアクリル系オリゴマーを用い、熱可塑性ポリマーとしてアクリル樹脂を用いる場合、溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4-ジオキサン、N-メチルピロリドン、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトン、ジアセトニトリル、メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、イソプロピレン、エタノールなどが挙げられる。
【0069】
ポリマー溶液における熱可塑性ポリマーの含有量は、ポリマー溶液の粘度を考慮して適宜決定すればよい。ポリマー溶液の粘度は、25℃において、例えば、0.1Pa・s以上であり、100Pa・s以下であってもよい。ポリマー溶液の粘度は、例えば、コーンプレート型のE型粘度計を用いて、5rpmの回転速度で測定したものとすることができる。ポリマー溶液の粘度は、小さいほど望ましいが、熱可塑性ポリマーを造形物に効率よく含浸させるには、ポリマー溶液における熱可塑性ポリマーの含有量を5質量%以上とすることが望ましく、10質量%以上とすることがより望ましい。なお、ポリマー溶液における熱可塑性ポリマーの含有量の上限は、例えば80質量%であり、50質量%以下が望ましい。
【0070】
<造形物の補強方法>
次に、ポリマー溶液による造形物の補強方法について説明する。補強方法は、(a)光硬化性樹脂の積層造形物であって、第1部分と第2部分と、第1部分と第2部分とを連結するヒンジ部分とを具備する造形物を準備する工程と、(b)上記ポリマー溶液を準備する工程と、(c)少なくともヒンジ部分にポリマー溶液を含浸させる工程と、を具備する。
【0071】
ポリマー溶液は、少なくともヒンジ部分に含浸させればよく、更に第1部分の少なくとも一部および/または第2部分の少なくとも一部にも含浸させてもよい。また、ポリマー溶液は、必要な程度にヒンジ部分に含浸させればよく、ヒンジ部分の一部に含浸させてもよく、ヒンジ部分の全体に含浸させてもよい。
【0072】
ポリマー溶液を少なくともヒンジ部分に含浸させる方法は、特に限定されないが、ポリマー溶液をヒンジ部分に選択的に塗布してもよく、造形物のヒンジ部分を含む部分もしくは全体をポリマー溶液に浸漬してもよい。ポリマー溶液を含浸させた造形物には、熱可塑性ポリマーとともに溶媒が含まれている。溶媒は揮発させて除去する。溶媒を揮発させる方法は、特に限定されないが、自然乾燥でもよく、必要に応じて加熱してもよい。
【0073】
<造形物の製造方法>
次に、熱可塑性ポリマーで補強された造形物の製造方法について説明する。製造方法は、(a)光硬化性樹脂の積層造形により、第1部分と第2部分と、第1部分と第2部分とを連結するヒンジ部分とを具備する造形物を得る工程と、(b)上記ポリマー溶液を準備する工程と、(c)少なくともヒンジ部分にポリマー溶液を含浸させる工程と、を具備する。工程(b)と工程(c)は、補強方法と同様である。
【0074】
以下、3次元造形物を得る工程(a)の一例について説明する。3次元造形物は、例えば、光硬化性樹脂組成物の液膜を形成し、液膜を硬化させてパターンを形成する工程(i)と、パターンに接するように別の液膜を形成する工程(ii)と、パターン上の別の液膜を硬化させて別のパターンを積層する工程(iii)と、を含む製造方法により製造できる。
【0075】
以下にバット式の光造形の手順について例示する。図1は、樹脂槽(バット)を備える光造形装置(パターニング装置)を用いて3次元造形物を形成する場合の一例である。図示例では、吊り下げ方式の造形について示したが、光硬化性樹脂組成物を用いて3次元光造形することができる方法であれば特に制限されない。また、光照射(露光)の方式についても特に制限されず、点露光でも、面露光でもよい。
【0076】
パターニング装置1は、パターン形成面2aを備えるプラットフォーム2、光硬化性樹脂組成物5を収容した樹脂槽3、面露光方式の光源としてのプロジェクタ4を備える。
【0077】
(i)液膜を形成し、硬化させてパターンを形成する工程
工程(i)では、(a)に示すように、まず、樹脂槽3に収容された光硬化性樹脂組成物5に、プラットフォーム2のパターン形成面2aを、プロジェクタ4(つまり、樹脂槽3の底面)に向けた状態で浸漬させる。このときに、パターン形成面2aとプロジェクタ4(または樹脂槽3の底面)との間に液膜7a(液膜a)が形成されるように、パターン形成面2a(またはプラットフォーム2)の高さを調整する。次いで、(b)に示すように、プロジェクタ4から液膜7aに向けて、光Lを照射(面露光)することで、液膜7aを光硬化させてパターン8a(パターンa)を形成する。
【0078】
パターニング装置1では、樹脂槽3が、光硬化性樹脂組成物5の供給ユニットとしての役割を有する。液膜に光源から光が照射されるように、樹脂槽の少なくとも、液膜とプロジェクタ4との間に存在する部分(図示例では、底面)は露光波長に対して透明であることが望ましい。プラットフォーム2の形状、材質、およびサイズなどは特に制限されない。
【0079】
液膜aを形成した後、光源から液膜aに向かって光照射することにより、液膜aを光硬化させる。光照射は、公知の方法で行うことができる。露光方式は、特に制限されず、点露光でも面露光でもよい。光源としては、光硬化に使用される公知の光源が使用できる。点露光方式の場合には、例えば、プロッター式、ガルバノレーザ(またはガルバノスキャナ)方式、SLA(ステレオリソグラフィー)方式などが挙げられる。面露光方式の場合には、光源としてプロジェクタを用いると簡便である。プロジェクタとしては、LCD(透過型液晶)方式、LCoS(反射型液晶)方式、およびDLP(登録商標、Digital Light Processing)方式などが例示できる。露光波長は、光硬化性樹脂組成物の構成成分(特に、開始剤の種類)に応じて適宜選択できる。
【0080】
(ii)パターンaと光源との間に液膜を形成する工程
工程(ii)では、工程(i)で得られたパターンaと、光源との間に、光硬化性樹脂組成物を供給して、液膜(液膜b)を形成する。つまり、パターン形成面に形成されたパターンa上に液膜bを形成する。光硬化性樹脂組成物の供給は、工程(i)についての説明が参照できる。
【0081】
例えば、工程(ii)では、図1の(c)に示すように、二次元パターン8a(二次元パターンa)を形成した後、パターン形成面2aをプラットフォーム2ごと上昇させてもよい。そして、二次元パターン8aと樹脂槽3の底面との間に光硬化性樹脂組成物5を供給することにより、液膜7b(液膜b)を形成することができる。
【0082】
(iii)パターンa上に別のパターンbを積層する工程
工程(iii)では、工程(ii)で形成した液膜bに対して、光源から露光して、液膜bを光硬化させ、パターンaに別のパターン(液膜bの光硬化により得られるパターンb)を積層する。このようにパターンが厚み方向に積層されることで、3次元造形パターンを形成することができる。
【0083】
例えば、図1の(d)に示すように、パターン8a(パターンa)と樹脂槽3の底面との間に形成された液膜7b(液膜b)に、プロジェクタ4から露光して、液膜7bを光硬化させる。この光硬化により、液膜7bがパターン8b(パターンb)に変換される。このようにして、パターン8aにパターン8bを積層することができる。光源や露光波長などは、工程(i)についての記載を参照できる。
【0084】
(iv)工程(ii)と工程(iii)とを繰り返す工程
第1工程は、工程(ii)と工程(iii)とを複数回繰り返す工程(iv)を含むことができる。この工程(iv)により、複数のパターンbが厚み方向に積層されることになり、さらに立体的な造形パターンが得られる。繰り返し回数は、所望する3次元造形物(3次元造形パターン)の形状やサイズなどに応じて適宜決定できる。
【0085】
例えば、図1の(e)に示すように、パターン形成面2a上にパターン8a(パターンa)およびパターン8b(パターンb)が積層された状態のプラットフォーム2を上昇させる。このとき、パターン8bと樹脂槽3の底面との間に液膜7b(液膜b)が形成される。そして、図1の(f)に示すように、プロジェクタ4から液膜7bに対して露光し、液膜7bを光硬化させる。これにより、パターン8b上に別のパターン8b(パターンb)が形成される。そして、(e)と(f)とを交互に繰り返すことで、複数のパターン8b(二次元パターンb)を積層させることができる。
【0086】
工程(iii)や工程(iv)で得られた3次元造形物には、未硬化の光硬化性樹脂組成物が付着しているため、通常、溶剤による洗浄処理が施される。
【0087】
工程(iii)や工程(iv)で得られた3次元造形物には、必要に応じて、後硬化を施してもよい。後硬化は、造形物に光照射することで行うことができる。光照射の条件は、光硬化性樹脂組成物の種類や得られた造形物の硬化の程度などに応じて適宜調節できる。後硬化は、造形物の一部に対して行ってもよく、全体に対して行ってもよい。
【0088】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
(ポリマー溶液Aの調製)
熱可塑性ポリマー(アクリル樹脂)として、アクリル系ブロック共重合体(株式会社クラレ製、クラリティLA2140e(メチルメタクリレートとn-ブチルアクリレートとのブロック共重合体、破断時伸び:570%、破断強度:8MPa)を用いた。熱可塑性ポリマーをMEKに溶解させて熱可塑性ポリマーの含有量が50質量%のポリマー溶液Aを調製した。
【0090】
(ポリマー溶液Bの調製)
熱可塑性ポリマー(アクリル樹脂)として、アクリル系ブロック共重合体(株式会社クラレ製、クラリティLA3320、破断時伸び:540%、破断強度:3.6MPa)を用いた。熱可塑性ポリマーをMEKに溶解させて熱可塑性ポリマーの含有量が50質量%のポリマー溶液Bを調製した。
【0091】
コーンプレート型のE型粘度計(TVE-20H、東機産業(株))を用いて、25℃にて、5rpmの回転速度でポリマー溶液A、Bの粘度を測定したところ、それぞれ1.48Pa・sと6.11Pa・sであった。
【0092】
(造形物の製造)
表1に示す成分を表1に示す質量比で混合し、攪拌しながら80℃のオーブンで加熱して、固形成分を溶解させることにより均一な液状の光硬化性樹脂組成物を調製した。
【0093】
【表1】
【0094】
コーンプレート型のE型粘度計(TVE-20H、東機産業(株))を用いて、25℃にて、20rpmの回転速度で光硬化性樹脂組成物の粘度を測定したところ、1180mPa・sであった。
【0095】
厚み0.5mmの光硬化性樹脂組成物の層を一対のガラス板で挟み、両面から7mW/cm2のUV光を60秒間ずつ照射し、半径10mm以上の円形の厚み0.5mmのサンプル(造形物)を作製した。
【0096】
(造形物の補強)
サンプル(造形物Xと称する。)を9個作製し、そのうち3個の造形物Xの一方の面にポリマー溶液Aを厚み0.4μmの液膜が形成されるように塗布し、室温で30分間放置後、60℃で30分間乾燥させ、その後、他方の面にも同様の処理を行い、造形物XAを得た。また、別の3個の造形物Xにポリマー溶液Bを用いて同様の処理を行い、造形物XBを得た。
【0097】
[耐屈曲性の評価]
造形物X、XA、XBを、180°折り曲げ(1回目)、破断しない場合は、この状態から180°反対側に折り曲げ(2回目)、それでも破断しない場合は、180°の折り曲げをさらに繰り返した(3回目以降)。折り曲げ部分(ヒンジ部分)に亀裂が入るまでの回数を求めた。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2の結果から、造形物のヒンジ部分にポリマー溶液を塗布することで、ヒンジ部分の耐屈曲性が顕著に向上することが理解できる。なお、造形物XA、XBでは、それぞれ平均21回目および平均24回目の折り曲げでヒンジ部分に亀裂が入ったがヒンジ部分の機能はその後も保持された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、光硬化性樹脂の積層造形により形成される3次元の造形物(例えば、人工臓器や組織、フィギュアなど)の簡易な補強や、造形物の長寿命化に利用できる。
【符号の説明】
【0101】
1:光造形装置、2:プラットフォーム、2a:パターン形成面、3:樹脂槽、4:プロジェクタ、5:光硬化性樹脂組成物、6:離型剤層、7a:液膜a、7b:液膜b、8a:二次元パターンa、8b:二次元パターンb、L:光
図1