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特開2022-64705光通信装置用防振ユニット、光通信装置および光空間通信システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064705
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】光通信装置用防振ユニット、光通信装置および光空間通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/11 20130101AFI20220419BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20220419BHJP
   G02B 5/04 20060101ALI20220419BHJP
   G03B 5/00 20210101ALI20220419BHJP
【FI】
H04B10/11
G02B26/08 D
G02B5/04
G02B5/04 G
G03B5/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173498
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 正光
【テーマコード(参考)】
2H042
2H141
2K005
5K102
【Fターム(参考)】
2H042CA12
2H141MA12
2H141MB39
2H141MC05
2H141MD12
2H141MD20
2H141MD22
2H141ME01
2H141ME24
2H141ME25
2H141MG01
2H141MZ13
2K005BA52
2K005BA53
2K005CA03
2K005CA13
2K005CA14
2K005CA23
2K005CA42
2K005CA53
5K102AA22
5K102AL23
5K102MD01
5K102MD03
5K102MH02
5K102MH03
5K102PB01
5K102PH31
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】光空間通信において、安定した光空間通信を実現可能に光軸のずれを解消することが可能な技術を実現する。
【解決手段】光空間通信システム(1)は送信装置(2)および受信装置(3)を備え、これらはいずれも防振ユニット(6)を備える。防振ユニット(6)は、第一、第二補正レンズ群とコントローラ(20)を有する。コントローラ(20)は、信号光を参照することなく送信装置(2)および受信装置(3)のそれぞれにおける向きおよび位置の変化を特定し、当該変化に基づいて第一、第二補正レンズ群を制御して、信号光の光軸(OA)の傾きを補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振レンズ群と、
光通信装置の少なくとも向きまたは位置の変化を、前記光通信装置から出力される、または、前記光通信装置に入力される信号光を参照することなく特定し、特定した向きまたは位置の変化に基づいて前記防振レンズ群を制御することによって、前記信号光の光軸の傾きを補正するコントローラと、
を有する光通信装置用防振ユニット。
【請求項2】
ジャイロセンサと加速度センサとを更に備え、前記コントローラが前記ジャイロセンサおよび前記加速度センサの出力信号を参照して前記光通信装置の向きまたは位置の変化を特定する、請求項1に記載の光通信装置用防振ユニット。
【請求項3】
前記防振レンズ群が二対のウェッジプリズムを含む、請求項1または2に記載の光通信装置用防振ユニット。
【請求項4】
前記防振レンズ群は、各ウェッジプリズムについて、前記ウェッジプリズムを保持する可動枠と、可動枠を回転可能に支持する固定枠と、前記可動枠または前記固定枠の一方または両方に設けられたコイルと、を含み、前記コイルが発生する磁力によって前記可動枠を前記固定枠に対して回転させる、請求項3に記載の光通信装置用防振ユニット。
【請求項5】
前記可動枠には、孤状のスリットが形成され、前記固定枠は、前記スリットを挿通する少なくとも2つのピンを有する、請求項4に記載の光通信装置用防振ユニット。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の光通信装置用防振ユニットを備える光通信装置。
【請求項7】
送信装置および受信装置を含み、前記送信装置および前記受信装置の一方または両方が請求項1~5のいずれか一項に記載の光通信装置用防振ユニットを備える、光空間通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信装置用防振ユニット、光通信装置および光空間通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
離れた二地点間における通信装置には、対向して設置されて、自由空間中を伝搬する光ビームにより光信号を送り通信を行う光空間通信システムが知られている。当該光空間通信システムにおける送信側または受信側として当該システムを構成する光通信装置は、設置状態によりさまざまな振動を受けることがある。そして、この振動により、光空間通信システムにおいて、信号光が指定された受信装置に十分に届かない状態が発生することがある。
【0003】
この不具合を解決するための技術としては、光通信装置において、受信した信号光の位置の検出結果に基づいて、当該装置の振動による光軸のずれを補正する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、光線の軸を補正する技術には、ウェッジプリズムを使用して撮像装置における振動による視軸の傾きを補正する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、光線の軸を補正する技術には、カメラなどの撮像装置のブレによる光軸のずれを補正するために一対のウェッジプリズムを回転駆動させる機構が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、回転駆動する二対のウェッジプリズムを組み合わせて、光通信装置における光軸のずれを補正する技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-15135号公報
【特許文献2】特開2012-197010号公報
【特許文献3】特開2012-137734号公報
【特許文献4】特開2016-164548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のような従来技術では、光軸の傾きを制御する情報処理の負荷が大きいという問題がある。たとえば、特許文献1に記載の技術では、受信装置における受光素子を使用して信号光の光軸の補正を行う。この補正方法は、送信側では適用することができず、また、通信処理と防振処理とを同時に実行するために制御遅れが発生しやすい。このため、特に、光通信装置が高周波の振動で振動する場合の光軸の補正が不十分になり、光通信の安定性が不十分となることがある。
【0009】
本発明の一態様は、光空間通信において、安定した光空間通信を実現可能に光軸のずれを解消することが可能な技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光通信装置用防振ユニットは、防振レンズ群と、光通信装置の向きまたは位置の変化を、前記光通信装置から出力される、または、前記光通信装置に入力される信号光を参照することなく特定し、特定した向きまたは位置の変化に基づいて前記防振レンズ群を制御することによって、前記信号光の光軸の傾きを補正するコントローラと、を有する。
【0011】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光通信装置は、上記の光通信装置用防振ユニットを備える。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る光空間通信システムは、送信装置および受信装置を含み、前記送信装置および前記受信装置の一方または両方が上記の光通信装置用防振ユニットを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、光空間通信において、安定した光空間通信を実現可能に光軸のずれを解消することが可能な技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る光空間通信システムの構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る光空間通信システムの機能的な構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態における光軸調整ユニットの構造を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態におけるウェッジプリズムユニットの構成を模式的に示す図である。
図5】本発明の一実施形態におけるウェッジプリズムユニットの回転駆動を説明するための図である。
図6】本発明の一実施形態における防振ユニットの回路ブロック図である。
図7】本発明の一実施形態における第一補正レンズ群および第二補正レンズ群による光軸の調整を説明するための図である。
図8】本発明の一実施形態における第一補正レンズ群および第二補正レンズ群による回転駆動量と光軸の補正量との関係を模式的に示す図である。
図9】本発明の一実施形態における送信装置または受信装置の回転揺れによる光軸の傾きを説明するための図である。
図10】本発明の一実施形態における送信装置または受信装置のシフト揺れによる光軸の傾きを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、光通信装置の振動そのものを検知し、当該振動を相殺させるように防振レンズ群を、光通信の通信制御とは独立して迅速に制御することで、光空間通信における通信状態を安定させる。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る光空間通信システムの構成を模式的に示す図である。図1に示されるように、光空間通信システム1は、送信装置2および受信装置3を有する。送信装置2および受信装置3は、それぞれ雲台4に載置されている。送信装置2および受信装置3は、それぞれ光通信装置に該当する。
【0017】
送信装置2は、光源側からレーザ送信回路5および防振ユニット6をこの順で有している。受信装置3は、光源側から防振ユニット6およびレーザ受信回路7をこの順で有している。受信装置3は、レーザ送信回路5に代えてレーザ受信回路7を有する以外は、送信装置2と同様に構成されている。防振ユニット6は、後に詳述するが、防振ユニット6を通過するレーザ光の光軸の向きを調整可能なユニットである。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態に係る光空間通信システムの機能的な構成を模式的に示す図である。図2に示されるように、防振ユニット6は、光軸調整ユニット10、コントローラ20およびセンサユニット30とを有する。光軸調整ユニット10は、第一補正レンズ群11と、第二補正レンズ群12と、位置センサ13~16とを有する。第一補正レンズ群11および第二補正レンズ群12は、防振レンズ群に相当する。位置センサ13、14は、第一補正レンズ群11中の後述するウェッジプリズムP1、P2のそれぞれの回転方向における位置を検出するためのセンサである。同様に、位置センサ15、16は、第二補正レンズ群12中の後述するウェッジプリズムP4、P3のそれぞれの回転方向における位置を検出するためのセンサである。
【0019】
位置センサ15、16は、例えば、ホール素子とそれに対応して配置される磁石とによって構成することができる。ホール素子は、例えばウェッジプリズム側(例えば後述の枠板上)に固定され、磁石は、例えばホール素子に対向する位置に固定される。ホール素子は、「ホール効果」によって、磁石による磁界の強さに比例したホール出力(V)を出力する。ホール出力とホール素子の移動量(ウェッジプリズムの回転角)とは直線的に創刊するため、ホール出力の検出によりウェッジプリズムの回転方向の位置を容易に決定することが可能である。
【0020】
コントローラ20は、センサユニット30の信号を参照して送信装置2または受信装置3の傾きを特定し、特定した傾きに基づいて光軸調整ユニット10の駆動量を算出し、当該駆動量に応じた信号を出力する。コントローラ20は、例えば、入力部、演算部、制御部、記憶部、出力部を備える集積回路で構成される。コントローラ20は、位置センサ13~16およびセンサユニット30からの信号を受信し、第一補正レンズ群11および第二補正レンズ群12に信号を出力するように構成されている。
【0021】
センサユニット30は、送信装置2または受信装置3の傾きを検出するセンサを有する。たとえば、センサユニット30は、ジャイロセンサと加速度センサとを含む。
【0022】
図3は、本発明の実施形態における光軸調整ユニット10の構造を模式的に示す断面図である。図3に示されるように、光軸調整ユニット10は、基板101、カバー102、ピン103、磁石104、第一補正レンズ群11および第二補正レンズ群12を有している。
【0023】
基板101は、平面形状が円環状の板部材である。カバー102は、円筒状の周壁と、平面形状が円環状の頂板とを有し、基板101に固定されて円柱状の室を形成する。ピン103は、二本あり、それぞれカバー102の頂板から室内に延在している。磁石104は、基板101およびカバー102が形成する円柱状の室内の軸方向において断続的に配置されている。たとえば、磁石104は、基板101の内表面、カバー102の周壁の軸方向における中間部、および、カバー102の頂板の内表面、にそれぞれ配置されている。
【0024】
第一補正レンズ群11および第二補正レンズ群12は、それぞれ、一対のウェッジプリズムユニットを含む。このように、本実施形態は、防振レンズ群として二対のウェッジプリズムを含んでいる。第一補正レンズ群11は、ウェッジプリズムユニット110、210を有し、第二補正レンズ群12は、ウェッジプリズムユニット120、220を有している。ウェッジプリズムユニット110、210、120、220のそれぞれは、ピン103によって室内に支持されている。
【0025】
図4は、本発明の実施形態におけるウェッジプリズムユニットの構成を模式的に示す図である。なお、ウェッジプリズムユニット110、210、120、220は、いずれも同じ構成を有するので、ウェッジプリズムユニット110の構成のみを説明する。
【0026】
図4に示されるように、ウェッジプリズムユニット110は、平面形状が円環状の枠板111、中央の開口に沿って枠板111に形成されているスリット112、枠板111に配置されるコイル113、および、枠板111の中央の開口に固定されるウェッジプリズムP1を有している。
【0027】
スリット112は、ウェッジプリズムP1を挟んで対向する位置に二本形成されている。それぞれのスリット112は、枠板111の平面形状の円弧に沿って湾曲する略円弧形状の開口形状を有している。
【0028】
コイル113は、二本のスリット112のそれぞれから等距離となる位置に、枠板111の円周の接線に平行な向きに配置されている。コイル113は、通電可能に、かつ通電方向を切り替え可能に、不図示の電源に接続されている。
【0029】
ウェッジプリズムユニット110は、スリット112にピン103が挿通されることによって、光軸調整ユニット10の室内において側方から回転可能に支持される。このように、本実施形態では、ウェッジプリズムユニット110は、カバー102に固定されているピン103をウェッジプリズムユニット110のスリット112に通してウェッジプリズムユニット110を支える構造を採用している。ピン103に支持されているウェッジプリズムユニット110のコイル113は、光軸調整ユニット10のいずれかの磁石104に対向する。このように、本実施形態では、ウェッジプリズムP1を保持する可動枠である枠板111と、枠板111を回転可能に支持するカバー102と、板枠に設けられたコイル113とを含んでいる。そして、枠板111には、孤状のスリット112が二つ形成され、カバー102は、二つのスリット112をそれぞれ挿通する二本のピン103を有している。
【0030】
図5は、本発明の実施形態におけるウェッジプリズムユニットの回転駆動を説明するための図である。コイル113に通電することによりコイル113に磁極が発生する。コイル113に発生した磁極に応じて、コイル113に対向する磁石104との間に吸引力または反発力が生じる。生じた吸引力または反発力に応じて、枠板111にその周方向に沿う力が発生する。発生した力に応じてスリット112がピン103に対して摺動し、当該力に応じた位置まで枠板111が移動する。したがって、ウェッジプリズムP1が矢印A1方向に回転駆動する。このように、本実施形態では、コイル113が発生する磁力によって枠板111をカバー102に対して回転させる。
【0031】
本実施形態では、前述したように、ウェッジプリズムユニット110は、ウェッジプリズムP1と、当該ユニットを回転駆動させるためのコイル113とを有している。一方で、ウェッジプリズムユニット110は、スリット112に挿通するピン103によって支えられる。このため、ウェッジプリズムユニット110では、その自重を支えるためのコイル113で生成する力を小さくすることができ、そのためコイル113の重量を軽減することが可能である。
【0032】
また、ウェッジプリズムユニット110がピン103によって側方から支持されることからコイル113の無通電時にもウェッジプリズムユニット110がピン103で支持される。よって、無通電時における当該ユニットの落下を防ぐ機構が不要であり、本実施形態では、当該機構を含まないことにより軽量化が実現されている。
【0033】
さらに、上記のように支持されているウェッジプリズムユニット110は、回転駆動による光軸補正が可能であるとともに、補正角も広くとれる。
【0034】
また、駆動部とも言えるコイル113の軽量化が可能であることから、ウェッジプリズムユニット110回転駆動における慣性力を低減することが可能となる。よって、ウェッジプリズムユニット110の上記の支持形態は、光通信装置に特有の、高周波数を有する振動に対応可能な高速な周波数駆動を実現させることを可能にしている。このような観点からも、ウェッジプリズムユニット110がピン103で支持されている本実施形態は、光通信装置における光軸の傾きの補正に好適と言える。
【0035】
ウェッジプリズムユニットの回転駆動量は、以下のようにして決められる。図6は、本発明の実施形態における防振ユニットの回路ブロック図である。
【0036】
センサユニット30のジャイロセンサは、送信装置2の傾きを検出する。センサユニット30の加速度センサは、送信装置2の鉛直方向における振動を検出する。センサユニット30は、これらのセンサの検出結果の信号をコントローラ20に送信する。
【0037】
コントローラ20は、センサユニット30からの信号に基づいて、受信装置3に向かう光軸OAを適切な傾きに調整する各ウェッジプリズムユニットの回転角度(Act回転角)を算出する。このように、コントローラ20は、ジャイロセンサおよび加速度センサの出力信号を参照して光空間通信システム1における光通信装置(送信装置2、受信装置3)の向きおよび位置の変化を特定する。
【0038】
たとえば、各ウェッジプリズムユニットの回転角度は、光通信装置のシフト揺れ量と回転揺れ量とに基づいて算出し得る。シフト揺れ量および回転揺れ量は、加速度センサの検出信号とジャイロセンサの検出信号のそれぞれを適宜に調整し、合算することにより求めることが可能である。当該検出信号は、検出信号に含まれる光通信装置の運動の各種成分を抽出し、増幅し、除去し、時間積分し、あるいは適切なゲインを乗じることにより、適切に調整することが可能である。
【0039】
コントローラ20は、Act回転角の算出値に基づいて各ウェッジプリズムユニットのコイル113への通電のオンオフの間隔の信号を生成し、出力する。当該信号に応じたコイル113の通電により、各ウェッジプリズムユニットが所望の回転角度の位置まで回転駆動する。
【0040】
光軸調整ユニット10の位置センサは、ウェッジプリズムユニットの回転方向における位置を検出する。光軸調整ユニット10は、位置センサの検出結果の信号をコントローラ20に送信する。コントローラ20は、光軸調整ユニット10からの信号に基づいて、各ウェッジプリズムユニットの回転方向における位置の制御のフィードバック制御を行う。
【0041】
このように、本実施形態では、コントローラ20は、光通信装置の向きまたは位置の変化を、光通信装置から出力される、または、光通信装置に入力される信号光を参照することなく特定する。そして、特定した向きまたは位置の変化に基づいて第一補正レンズ群11および第二補正レンズ群12を制御することによって、信号光の光軸OAの傾きを補正する。より詳しくは、本実施形態では、各種センサの出力値からコントローラ20がウェッジプリズムの回転角を算出し、コイル113に対してPWM制御を行うことで、ウェッジプリズムを回転させる。そして、例えばコイル113への回転位置を位置センサによりコントローラ20に戻し、ウェッジプリズムの回転駆動の制御のフィードバック処理を行う。
【0042】
ウェッジプリズムユニットの回転駆動によって光軸の調整は以下のようにして行われる。図7は、本実施形態における第一補正レンズ群および第二補正レンズ群による光軸の調整を説明するための図である。図8は、本実施形態における第一補正レンズ群および第二補正レンズ群による回転駆動量と光軸の補正量との関係を模式的に示す図である。
【0043】
光軸調整ユニット10において、第一補正レンズ群11および第二補正レンズ群12は、光軸に直交する平面において互いに交差する方向へ光軸を傾けるように調整する。たとえば、第一補正レンズ群11は、光軸の傾きを鉛直方向(例えば矢印A11方向)に調整し、第二補正レンズ群12は、光軸の傾きを水平方向(例えば矢印A12方向)に調整する。
【0044】
第一補正レンズ群11では一対のウェッジプリズムのそれぞれを独立して回転駆動させる。第一補正レンズ群11における鉛直方向(上下方向)における光軸の傾きの大きさは、ウェッジプリズムの回転駆動の大きさと実質的に直線的な相関性を示す。同様に、第二補正レンズ群12では一対のウェッジプリズムのそれぞれを独立して回転駆動させる。第二補正レンズ群12における水平方向(左右方向)における光軸の傾きの大きさは、ウェッジプリズムの回転駆動の大きさと実質的に直線的な相関性を示す。このように、一対のウェッジプリズムを有する補正レンズ群では、ウェッジプリズムの回転量と光軸の偏向とを線形近似することが可能であり、また補正角を大きくすることが可能である。
【0045】
本実施形態では、上下の補正レンズ群に二つ、左右の補正レンズ群に二つ、の合計四つのウェッジプリズムを使用する。これらのウェッジプリズムの回転量は、例えば各ウェッジプリズムの頂角の位置で調整することが可能である。この調整によれば、上記のように線形近似式により回転量を算出することが可能となり、非線形となる状態補正を行う必要がなくなる。よって、光軸の傾きの制御に係る演算の負荷を軽減することが可能である。そのため、高速な制御演算が可能となり、制御周期の短縮が可能となり、制御能力の向上が可能となる。
【0046】
ここで、光軸の傾きを生じる光通信装置の挙動について説明する。図9は、本実施形態における送信装置または受信装置の回転揺れによる光軸の傾きを説明するための図である。図10は、本実施形態における送信装置または受信装置のシフト揺れによる光軸の傾きを説明するための図である。
【0047】
光通信装置が設置される場所では、低周波で振幅が大きい揺れと高周波で振幅が小さい揺れが混在し得る。光通信装置の揺れの形態には、例えば、図9に示されるように、任意の場所を回転中心として送信装置または受信装置が矢印Sで示すような回転運動することによる回転揺れがある。また、当該揺れの形態には、図10に示されるように、送信装置または受信装置が基準の高さHに対して上下方向に移動するシフト揺れがある。回転揺れは、ジャイロセンサによってその大きさを検出することが可能であり、シフト揺れは、加速度センサによってその大きさを検出することが可能である。光通信装置の防振では、対応する揺れの周波数の範囲、揺れの種類などを加味すると、周波数で1~100Hz、光軸の補正可能な角度(補正角度)が5°程度の振動に対応可能であることが求められる。
【0048】
光軸の傾きは、光軸に直交する二方向のそれぞれの方向における距離で容易に表すことが可能である。そして、光軸調整ユニット10による光軸の傾きは、ウェッジプリズムの回転量に容易に置き換えることが可能である。したがって、本実施形態では、光軸の傾きの調整量を迅速に決定することが可能である。そして、ウェッジプリズムの回転駆動は、迅速に実現可能である。よって、本実施形態では、光軸の振動に応じた光軸の傾きの制御を迅速に実現することが可能である。
【0049】
ここで、従来から手振れ補正などでレンズに使用される防振技術は、光通信装置における振動に比べて、周波数の範囲が狭く(例えば1~20Hz程度)、また補正角度も明らかに小さい(例えば0.5°未満)。このため、光通信装置の防振へ適用しても十分な効果が得られるとは限らない。
【0050】
また、レーザ受信回路で受信した光に基づいて光軸の補正を行う場合では、光軸補正量の算出および補正レンズの駆動量の算出の情報処理における負荷が大きく、光通信装置における高周波の振動に対する光軸の傾きの補正は困難である。
【0051】
たとえば、特許文献1に記載の先行技術は、光通信装置における信号光の防振という枠組みは同じである。しかしながら、上記先行技術は、振動の小さい場合の防振と大きいときの防振とで、方法を変えて防振を実現する。すなわち、振動が小さい場合では、光通信装置における内部の光学系の一部でミラーを防振に使用する。そして、振動が大きい場合では、雲台などで光学系そのものを動かすことで防振を実現する。いずれの場合における振動の検知は、光通信装置における受信装置(撮像素子)により実施する。これに対して、本発明の実施形態では、振動の大小にかかわらず、光通信装置の光学系の一部によって光軸の防振を実現する。また、振動の検知には専用のセンサを用い、光通信装置そのものの振動を検知する。
【0052】
また、特許文献2に記載の先行技術は、撮像装置での防振技術であり、光空間通信における信号光の防振技術ではない。本発明の実施の形態は、光通信装置の光学系に信号光用の防振レンズとしてウェッジプリズムを使用し、撮影した像を防振するのでなく通信データとしての信号光を防振するシステムとなっている。また、本発明の実施形態は、特許文献2に記載の先行技術とはその使用環境も大きく異なる。本実施形態では、通常、屋外に固定、設置された光通信装置の振動に対する防振機能が発現される。また、本実施形態では、光通信装置の振動の検知にジャイロセンサと加速度センサとの組み合わせを用いることができ、その結果、より高い精度で検知することが可能である。
【0053】
本実施形態では、光通信装置の振動そのものを各種センサにより高精度に取得し、解析して、補正角度の大きい補正レンズを制御する。本実施形態では、光空間通信システムの通信機能とは独立して光通信における光軸の傾きを光通信装置の振動に合わせて補正可能である。よって、本実施形態における光通信装置用防振ユニットは、既存の光通信装置に追加で搭載することが可能である。
【0054】
このように本実施形態では、ウェッジプリズムの作動機構(アクチュエータ)に、光通信装置の振動における周波数特性に対応した好適な機構を採用している。当該アクチュエータは、慣性力が小さい回転動作により光軸の補正を可能としている。光軸の補正には、ウェッジプリズムを採用しており、回転駆動によって広範囲の補正角度を実現可能である。
【0055】
また、本実施形態は、光通信装置の振動を検知するセンサの検出値を参照して、光空間通信のための制御とは独立して光軸の補正を実行する構成である。したがって、光通信装置の設置場所に発生する振動を詳細に解析することができ、光空間通信の通信信号の解析により光軸を補正する従来の技術に比べて、光空間通信においてより精度の高い光軸の補正を実施することが可能である。
【0056】
また、本実施形態は、光空間通信システムにおける光空間通信に干渉することなく光軸の補正を実施可能なので、既存の光通信装置に新たに追加することが可能である。このように本実施形態によれば、既存の光通信装置に対して後付けで、高精度の光軸の補正機能を追加することが可能である。また、光空間通信に干渉せず、後付けが可能であることから、光空間通信での送受信装置の両方に組み込むことが可能であり、より一層高い精度での光軸の補正が可能となる。
【0057】
よって、本実施形態は、レーザ光線の点滅を信号として、空間におけるその指向性により、対をなす装置間で情報を伝達する光空間通信システムにおいて、レーザ光線の振動ブレを補正するのに好適である。
【0058】
〔変形例〕
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
たとえば、コントローラ20の制御ブロックは、集積回路(ICチップ)などに形成された論理回路(ハードウェア)によって実現し得るが、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0060】
後者の場合、コントローラ20は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば一つ以上のプロセッサを備えているとともに、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。
【0061】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)などの他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。
【0062】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波など)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0063】
また、前述の実施形態では、センサユニット30は、ジャイロセンサと加速度センサとを備えている。しかしながら、本発明では、光通信装置の少なくとも向きまたは位置の変化のいずれかを特定可能な検出値が得られるセンサであれば、センサユニットを構成するセンサの種類は限定されない。前述したジャイロセンサおよび加速度センサ以外に本発明の実施形態に利用可能なセンサの例には、傾斜角度センサが含まれる。傾斜角度センサは、設置した場所(光通信装置)の傾斜を高い精度で検出することが可能である。このような傾斜角度センサを用いれば、当該センサの検出結果に基づいてウェッジプリズムの回転量を制御することが可能であり、光軸の傾きを適切に補正することが可能である。また、光通信装置の振動の種類および大きさが特定されている場合では、当該振動に対応するセンサのみ(例えば、光通信装置の向きのみであればジャイロセンサのみ、あるいは光通信装置の位置のみであれば加速度センサのみ)であってもよい。
【0064】
また、本発明では、防振レンズ群は、二対のウェッジプリズムに限定されず、光空間通信で出力される光の光軸の傾きを調整可能な他の光学素子であってもよい。また、ウェッジプリズムの個数は、本発明の実施形態における防振ユニットの用途に応じて適宜に決めることが可能である。前述の実施形態のように二対(四枚)のウェッジプリズムを用いると、光軸の傾きを高い精度で制御することが可能であるが、発生する振動が限定されるなどの光通信装置の設置状況次第では、用いられるウェッジプリズムは一枚であってもよい。
【0065】
また、前述の実施形態では、防振レンズ群による光軸の補正をウェッジプリズムの回転によって実現している。しかしながら、本発明では、光軸の補正のための防振レンズ群の作動形態は、採用する防振レンズ群に応じて適宜に決めることが可能である。本発明の実施形態では、たとえば、特開2013-178429号公報に記載されているような、一眼レフレンズなどで使用されているレンズシフトによる光軸補正を採用してもよい。このような光軸の方法によれば、光軸に対して直角に移動するレンズをレンズ群の一部に使用し、この動きにより光軸の傾きを制御することが可能である。上記のレンズシフトによる光軸補正の採用は、光軸のずれの防止においてより高い精度を実現する観点から有効である。
【0066】
また、前述の実施形態では、回転駆動させるウェッジプリズムを弧状のスリットとそれに挿通されるピンとによって支持している。しかしながら、本発明では、防振レンズ群の支持形態は、防振レンズ群の種類およびその求められる駆動距離に応じて適宜に決めることが可能である。たとえば、当該支持形態は、本実施形態における枠板およびカバーにおける当該枠板の主面に対向する部分とのそれぞれに対向して延在する長溝と、枠板およびカバーの合体した長溝に収容されたボールとを含む形態であってもよい。当該ボールの動作は、長溝で拘束されており、枠板(ウェッジプリズム)の回転動作を円滑に行うベアリングの機能を発現する。また、設置されたボールは、カバーに対して枠板(ウェッジプリズム)を回転可能に側方から支持する機能も発現し得る。さらに、複数のボールを長溝に収容することにより、ウェッジプリズムの重量を複数のボールで分散しつつ当該ウェッジプリズムを回転可能に支持することも可能である。このような形態によっても、防振レンズを、長溝によって回転移動の範囲が規定されるように、また防振レンズを側方から、さらに円滑な回転移動が可能なように、支持することが可能である。
【0067】
また、前述の実施形態では、弧状のスリットが二つ形成されており、二つのピンが各々別の弧状のスリットに挿通されているが、一つの弧状のスリットに二つのピンが挿通されていてもよい。この構成によっても、ウェッジプリズムの回転方向を規定しつつ回転可能に支持することができる。
【0068】
また、前述の実施形態では、光空間通信システム1における送信装置2および受信装置3の両方に防振ユニット6を搭載している。本発明では、光空間通信における通信信号の光の光軸を送信装置と受信装置との間で送受信可能に補正することができるのであれば、送信装置および受信装置の一方にのみに上記の防振ユニットが搭載されていてもよい。
【0069】
たとえば、光通信装置の向きまたは位置の変化の大きさが限定される場合には、上記のように、送受信装置の一方にのみ防振ユニットが搭載されていても、安定した光空間通信の実現が十分に可能である。この場合、本発明の光空間通信システムは、上記の防振ユニットを搭載する送信装置および受信装置の一方と、当該防振ユニットを有さない送信装置および受信装置の他方とによって構成され得る。
【0070】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態における光通信装置用防振ユニット(防振ユニット6)は、防振レンズ群(第一補正レンズ群11および第二補正レンズ群12)と、光通信装置(送信装置2、受信装置3)の少なくとも向きまたは位置の変化を、光通信装置から出力される、または、光通信装置に入力される信号光を参照することなく特定し、特定した向きまたは位置の変化に基づいて防振レンズ群を制御することによって、信号光の光軸(OA)の傾きを補正するコントローラ(20)とを有する。また、本発明の実施形態における光通信装置は、上記の光通信装置用防振ユニットを備える。さらに、本発明の実施形態における光空間通信システムは、送信装置および受信装置を含み、当該送信装置および受信装置の一方または両方が上記の光通信装置用防振ユニットを備える。よって、本発明の実施形態によれば、光空間通信において、安定した光空間通信を実現可能に光軸のずれを解消することができる。
【0071】
上記光通信装置用防振ユニットは、ジャイロセンサと加速度センサとをさらに備え、コントローラがジャイロセンサおよび加速度センサの出力信号を参照して光通信装置の向きまたは位置の変化を特定してもよい。このような構成は、光通信装置の向きまたは位置の変化を高い精度で特定する観点からより一層効果的である。
【0072】
また、上記防振レンズ群が二対のウェッジプリズム(P1~P4)を含むことは、光軸の傾きの補正角度を大きくし、また当該補正のための作動量を迅速に特定可能とする観点からより一層効果的である。
【0073】
また、本発明の実施形態では、上記防振レンズ群が、各ウェッジプリズムについて、ウェッジプリズムを保持する可動枠(枠板111)と、可動枠を回転可能に支持する固定枠(カバー102)と、可動枠または固定枠の一方または両方に設けられたコイル(113)と、を含み、コイルが発生する磁力によって可動枠を固定枠に対して回転させてもよい。このような構成によれば、ウェッジプリズムを迅速に回転させ、光通信装置の高周波の振動による光軸のずれを解消させる観点からより一層効果的である。
【0074】
また、上記の可動枠には孤状のスリット(112)が形成され、上記固定枠がスリットを挿通する少なくとも2つのピン(103)を有していてもよい。このような構成は、ウェッジプリズムを回転駆動するための構成の軽量化により、当該ウェッジプリズムを正確かつ迅速に回転方向における所望の位置に移動させる観点からより一層効果的である。
【符号の説明】
【0075】
1光空間通信システム
2 送信装置(光通信装置)
3 受信装置(光通信装置)
4 雲台
5 レーザ送信回路
6 防振ユニット(光通信装置用防振ユニット)
7 レーザ受信回路
10 光軸調整ユニット
11 第一補正レンズ群(防振レンズ群)
12 第二補正レンズ群(防振レンズ群)
13~16 位置センサ
20、200 コントローラ
30 センサユニット
101 基板
102 カバー
103 ピン
104 磁石
110、120、210、220 ウェッジプリズムユニット
111 枠板
112 スリット
113 コイル
A1、A11、A12、S 矢印
P1~P4 ウェッジプリズム
図1
図2
図3
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