IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 尾池工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図1
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図2
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図3
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図4
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図5
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図6
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図7
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図8
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図9
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図10
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図11
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図12
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図13
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図14
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図15
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図16
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図17
  • 特開-鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064710
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/06 20060101AFI20220419BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20220419BHJP
   C09D 5/33 20060101ALI20220419BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220419BHJP
【FI】
C09C3/06
C09D17/00
C09D5/33
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173504
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】亀井 明果
(72)【発明者】
【氏名】井上 咲良
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037CA03
4J037CA20
4J037CB04
4J037CB07
4J037DD09
4J037DD10
4J037DD23
4J037EE29
4J037EE33
4J037FF02
4J038HA066
4J038HA376
4J038JA17
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA12
4J038PB05
4J038PB07
4J038PC03
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れ、高い可視光透過性及び赤外線反射性を有する鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜の提供。
【解決手段】第1の硫化亜鉛層と、第2の硫化亜鉛層と、前記第1の硫化亜鉛層と前記第2の硫化亜鉛層の間に、銀を含有する金属層と、を有する鱗片状顔料である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の硫化亜鉛層と、
第2の硫化亜鉛層と、
前記第1の硫化亜鉛層と前記第2の硫化亜鉛層の間に、銀を含有する金属層と、
を有することを特徴とする鱗片状顔料。
【請求項2】
可視光を透過して赤外線を反射する、請求項1に記載の鱗片状顔料。
【請求項3】
前記銀を含有する金属層の平均厚みが9nm以上18nm以下である、請求項1から2のいずれかに記載の鱗片状顔料。
【請求項4】
前記第1の硫化亜鉛層及び前記第2の硫化亜鉛層の平均厚みが9nm以上50nm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の鱗片状顔料。
【請求項5】
波長900nm以上1100nm以下の間に赤外線反射率が45%以上となる領域を有する、請求項1から4のいずれかに記載の鱗片状顔料。
【請求項6】
波長550nmでの可視光透過率が70%以上である、請求項1から5のいずれかに記載の鱗片状顔料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の鱗片状顔料、及び有機溶剤を含有することを特徴とする分散液。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の鱗片状顔料、有機溶剤、及びバインダーを含有することを特徴とする塗料。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の鱗片状顔料及びバインダーを含むことを特徴とする塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車、建物等の窓に貼り付けて、断熱、遮光、破損時等の破片飛散防止、防汚、防塵、外傷防止、反射防止等を目的とした機能性を有するウィンドウフィルムが提案されている。
また近年、省エネルギー対策への関心が高まってきており、冷房設備にかかる負荷を減らすなどの観点から、建物、自動車等の窓ガラスに装着させて、太陽光の熱線の透過を遮蔽できるウィンドウフィルムの開発が進められている。
【0003】
このようなウィンドウフィルムに用いられる赤外線反射顔料としては、例えば、銀を含有する第1の金属膜と、酸化チタン等を含有する第2の金属酸化物膜とが交互に積層された多層膜が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような多層膜の上面及び下面(最表面)には、いずれも第2の金属酸化物膜が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-85482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記提案のように多層膜の最表面に金属酸化物膜が配置されると、耐久性が低下し、多層膜を顔料として取扱うためには、表面処理が必要となる。また、金属酸化物膜の成膜条件として反応性の成膜を行うと金属膜が酸化されてしまい、狙いとする赤外線反射性が得られにくくなるため、金属酸化物膜の成膜にも課題がある。更に、前記提案ではシミュレーション値と実測値とが一致しにくく、顔料の設計が困難であるという課題がある。
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、耐久性に優れ、高い可視光透過性及び赤外線反射性を有する鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 第1の硫化亜鉛層と、
第2の硫化亜鉛層と、
前記第1の硫化亜鉛層と前記第2の硫化亜鉛層の間に、銀を含有する金属層と、
を有することを特徴とする鱗片状顔料である。
<2> 可視光を透過して赤外線を反射する、前記<1>に記載の鱗片状顔料である。
<3> 前記銀を含有する金属層の平均厚みが9nm以上18nm以下である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の鱗片状顔料である。
<4> 前記第1の硫化亜鉛層及び前記第2の硫化亜鉛層の平均厚みが9nm以上50nm以下である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の鱗片状顔料である。
<5> 波長900nm以上1100nm以下の間に赤外線反射率が45%以上となる領域を有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載の鱗片状顔料である。
<6> 波長550nmでの可視光透過率が70%以上である、前記<1>から<5>のいずれかに記載の鱗片状顔料である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の鱗片状顔料、及び有機溶剤を含有することを特徴とする分散液である。
<8> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の鱗片状顔料、有機溶剤、及びバインダーを含有することを特徴とする塗料である。
<9> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の鱗片状顔料及びバインダーを含むことを特徴とする塗膜である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、耐久性に優れ、高い可視光透過性及び赤外線反射性を有する鱗片状顔料、分散液、塗料、及び塗膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の鱗片状顔料の一例を示す概略図である。
図2図2は、実施例1で作製した成膜フィルムの透過率及び反射率を測定及びシミュレーションした結果を示すグラフである。
図3図3は、比較例1で作製した成膜フィルムの透過率及び反射率を測定及びシミュレーションした結果を示すグラフである。
図4図4は、比較例2で作製した成膜フィルムの透過率及び反射率を測定及びシミュレーションした結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1の鱗片状顔料のSEM写真である。
図6図6は、実施例1の鱗片状顔料の体積基準の粒度分布を示す図である。
図7図7は、実験例1~6の成膜フィルムについて、透過率を測定した結果を示すグラフである。
図8図8は、実験例1~6の成膜フィルムについて、反射率を測定した結果を示すグラフである。
図9図9は、図8の拡大図である。
図10図10は、ZnS/Ag/ZnSの層構成の成膜フィルムでZnS層の厚みを20nmに固定した場合に、反射率をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図11図11は、ZnS/Ag/ZnSの層構成の成膜フィルムでZnS層の厚みを20nmに固定した場合に、透過率をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図12図12は、ZnS/Ag/ZnSの層構成の成膜フィルムでAg層の厚みを14nmに固定した場合に、透過率をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図13図13は、ZnS/Ag/ZnSの層構成の成膜フィルムでAg層の厚みを14nmに固定した場合に、透過率をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図14図14は、実施例2~4における塗膜の透過率を測定した結果を示すグラフである。
図15図15は、実施例2~4における塗膜の反射率を測定した結果を示すグラフである。
図16図16は、実施例1で作製した成膜フィルムについて耐熱耐湿性試験の前後における透過率の結果を示すグラフである。
図17図17は、実施例1で作製した成膜フィルムについて耐水性試験の前後における透過率の結果を示すグラフである。
図18図18は、実施例1で作製した成膜フィルムについて耐塩水性試験の前後における透過率の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(鱗片状顔料)
本発明の鱗片状顔料は、第1の硫化亜鉛層と、第2の硫化亜鉛層と、前記第1の硫化亜鉛層と前記第2の硫化亜鉛層の間に、銀を含有する金属層と、を有し、更に必要に応じてその他の層を有する。
【0011】
本発明においては、前記第1の硫化亜鉛層と前記第2の硫化亜鉛層の間に前記銀を含有する金属層を有する構成、即ち、第1の硫化亜鉛層と、銀を含有する金属層と、第2の硫化亜鉛層とがこの順で積層された構成とすることによって、シンメトリー性を確保でき、顔料としての光学特性の均一化が図れる。
また、硫化亜鉛(ZnS)は屈折率が大きく(屈折率:2.36)、赤外線反射性及び可視光透過性が高い安定な材料であり、水に難溶であり優れた耐久性を有していることから、鱗片状顔料に優れた耐久性、可視光透過性、及び赤外線反射性を付与することができる。
【0012】
<銀を含有する金属層>
前記銀(Ag)を含有する金属層としては、可視光透過性の点から、銀の含有量は80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましい。なお、銀を含有する金属層は、銀(Ag)以外にパラジウム(Pd)、銅(Cu)、金(Au)、チタン(Ti)、又はビスマス(Bi)などを含有することができる。
金属層中の銀の含有量は、例えば、蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。
なお、本発明の目的及び効果が得られる場合には、前記金属層として、銀を含有する金属層以外に、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、錫(Sn)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ビスマス(Bi)、パラジウム(Pd)又はこれらの合金を含有する金属層を用いることもできる。
【0013】
前記銀を含有する金属層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、9nm以上18nm以下が好ましい。前記銀を含有する金属層の前記平均厚みが9nm未満であると、銀が酸化してしまい、赤外線反射性能が低下し、遮熱性が劣ることがある。一方、前記銀を含有する金属層の平均厚みが18nmを超えると、金属反射が目立ち、赤外線反射性能は高くなるが、可視光透過性能が得られなくなることがある。
前記銀を含有する金属層の前記平均厚みとしては、例えば、物理的気相法で製造された場合には、銀を含有する金属層に対して5~10箇所の前記厚みを測定し、平均した平均蒸着厚みと同じである。
前記平均厚みの測定方法としては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、蛍光X線分析法(XRF)、紫外可視分光法などが挙げられる。
前記走査型電子顕微鏡(SEM)観察により前記平均厚みを求める場合、前記走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、前記銀を含有する蒸着膜の断面観察を行い、5~10箇所の前記銀を含有する金属層の厚みを測定し、平均した前記平均蒸着厚みを前記平均厚みとすることができる。
前記蛍光X線分析法(XRF)により前記平均厚みを求める場合、定量分析により、5~10箇所の前記銀を含有する金属層の厚みを測定し、平均した値を前記平均厚みとすることができる。
前記紫外可視分光法により前記平均厚みを求める場合、紫外可視分光光度計により5~10箇所の前記銀を含有する金属層の反射率を測定し、得られた反射率のスペクトルから前記銀を含有する金属層の厚みを算出し、平均した値を前記平均厚みとすることができる。
【0014】
<第1及び第2の硫化亜鉛層>
前記第1及び第2の硫化亜鉛層における硫化亜鉛(ZnS)の含有量は98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上が更に好ましい。
前記第1及び第2の硫化亜鉛層における硫化亜鉛の含有量は、例えば、蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。
前記第1及び第2の硫化亜鉛層の平均厚みとしては、9nm以上50nm以下が好ましく、9nm以上30nm以下がより好ましい。前記第1及び第2の硫化亜鉛層の平均厚みが9nm未満であると、硫化亜鉛が不連続な膜となり、可視光透過率が低下してしまうことがある。一方、前記第1及び第2の硫化亜鉛層の平均厚みが50nmを超えると、硫化亜鉛層に起因する干渉色が生じてしまい、高い可視光透過性が得られないことがある。
【0015】
<その他の層>
前記その他の層としては、例えば、溶解することにより基材から前記第1及び第2の硫化亜鉛層及び前記銀を含有する金属層からなる積層物を剥離するための剥離層などが挙げられる。
【0016】
本発明の前記第1の硫化亜鉛層と前記第2の硫化亜鉛層の間に前記銀を含有する金属層を有する顔料は、鱗片状である。鱗片状顔料は、粒子状であることが好ましく、鱗片状粒子、薄片状粒子、平板状粒子、フレーク状粒子などと称されることもある。
本発明において、前記鱗片状顔料とは、略平坦な面を有し、かつ該略平坦な面に対して垂直方向の厚みが略均一である粒子を意味する。
前記略平坦な面の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、略円形、略楕円形、略三角形、略四角形、略五角形、略六角形、略七角形、略八角形等の多角形、ランダムな不定形などが挙げられる。
【0017】
前記鱗片状顔料の累積50%体積粒子径D50としては、分散液及び塗料に分散させた際の分散性の点から、0.5μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上30μm以下がより好ましく、10μm以上30μm以下が更に好ましい。
累積50%体積粒子径D50が0.5μm未満であると、折角、塗膜としての優れた性能が生じているのに対して、サイズ効果が得られにくくなることがある。
前記累積50%体積粒子径D50は、レーザー回折法により得られる粒径分布曲線の体積分布累積量の50%に相当する粒径であり、非球形の前記鱗片状顔料を完全な球体と仮定して測定した場合の、前記鱗片状顔料の長径及び短径を平均化した長さである。しかし、実際の前記鱗片状顔料は、球形ではなく、長辺及び短辺を有する鱗片状である。したがって、前記D50は、前記鱗片状顔料の実際の長辺方向の長さ(長径)及び短辺方向の長さ(短径)とは異なる値である。
前記レーザー回折法を用いた手段としては、例えば、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器などが挙げられる。
【0018】
前記鱗片状顔料の平均厚みは、25nm以上が好ましく、40nm以上がより好ましい。前記鱗片状顔料の平均厚みの上限値は120nm以下が好ましい。
前記鱗片状顔料の比(累積50%体積粒子径D50/平均厚み)は、80以上が好ましく、300以上がより好ましい。
なお、本発明における「D50(nm)/平均厚さ(nm)」の比は、レーザー回折法を用いて測定したD50を、走査型電子顕微鏡(SEM)観察、又は蛍光X線分析から求めた平均厚さで除することにより算出した比率である。したがって、前記「D50(nm)/平均厚さ(nm)」の比は、一般的にアスペクト比と呼ばれるパラメーターとは異なる比である。
【0019】
前記鱗片状顔料は、可視光を透過して赤外線を反射することができる。
前記鱗片状顔料は、波長900nm以上1100nm以下の間に赤外線反射率が45%以上となる領域(点、範囲)を有することが好ましく、50%以上となる領域を有することがより好ましい。即ち、波長900nm以上1100nm以下の間に赤外線反射率が45%以上となる領域を少なくとも1つ有していればよい。なお、赤外線反射率は、波長の増加と共に増加するので、波長1100nmでの赤外線反射率は45%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
前記鱗片状顔料は、波長550nmでの可視光透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
前記赤外線反射率及び可視光透過率は、例えば、分光光度計(SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製)などを用いて測定することができる。
【0020】
ここで、前記鱗片状顔料は、前記第1の硫化亜鉛層と前記第2の硫化亜鉛層の間に前記銀を含有する金属層を有する構成を有し、具体的には、図1に示す態様を有する。この図1の鱗片状顔料10は、第1の硫化亜鉛層1と、銀を含有する金属層2と、第2の硫化亜鉛層3とがこの順で積層された構造を有している。
【0021】
(鱗片状顔料の製造方法)
本発明の鱗片状顔料の製造方法は、基材上に剥離層を形成し、前記剥離層上に気相法により第1の硫化亜鉛層を形成し、前記第1の硫化亜鉛層上に銀を含有する金属層を気相法により形成し、前記銀を含有する金属層上に気相法により第2の硫化亜鉛層を形成して積層物を得た後、前記基材から前記積層物を剥離し、前記積層物を粉砕するものであり、これにより、図1に示すような鱗片状顔料10を効率良く製造することができる。
【0022】
本発明の鱗片状顔料の製造方法は、より具体的には、剥離層形成工程と、第1の硫化亜鉛層形成工程と、銀を含有する金属層形成工程と、第2の硫化亜鉛層形成工程と、剥離工程と、粉砕工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0023】
<剥離層形成工程>
前記剥離層形成工程は、前記基材上に前記剥離層を設ける工程である。
【0024】
-基材-
前記基材としては、平滑な表面を有するものであれば特に制限はなく、各種のものを用いることができる。これらの中でも、可撓性、耐熱性、耐溶剤性、及び寸法安定性を有する樹脂フィルム、金属、金属と樹脂フィルムの複合フィルムを適宜使用できる。
前記樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。また、前記金属としては、銅箔、アルミニウム箔、ニッケル箔、鉄箔、合金箔などが挙げられる。また前記金属と樹脂フィルムの複合フィルムとしては、前記樹脂フィルムと前記金属をラミネートしたものが挙げられる。
【0025】
-剥離層-
前記剥離層としては、後の剥離工程で溶解可能な各種の有機物や水などの溶媒を用いることができる。また、前記剥離層を構成する有機物材料を適切に選択すれば、前記銀を含有する金属層又は前記第1、第2の硫化亜鉛層に付着乃至残留した有機物を、前記鱗片状顔料の保護層として機能させることができるので、好適である。
前記保護層とは、前記鱗片状顔料の凝集、酸化、溶媒への溶出等を抑制する機能を有する。特に、前記剥離層に用いた前記有機物を前記保護層として利用することにより、表面処理工程を別途設ける必要がなくなるので好ましい。
前記保護層として利用可能な前記剥離層を構成する前記有機物としては、例えば、セルロースアセテートブチレート(CAB)、その他のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、アクリル酸共重合体、変性ナイロン樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記保護層としての機能の高さの点から、セルロースアセテートブチレート(CAB)が好ましい。
【0026】
前記剥離層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インクジェット法、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本ロールコート法、5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
<第1の硫化亜鉛層形成工程>
前記第1の硫化亜鉛層形成工程は、前記剥離層上に気相法により第1の硫化亜鉛層を形成する工程である。
【0028】
前記気相法としては、物理的気相法(Physical Vapor Deposition、PVD)と総称される蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0029】
<銀を含有する金属層形成工程>
前記銀を含有する金属層形成工程は、前記第1の硫化亜鉛層上に銀を含有する金属層を気相法により形成する工程である。
【0030】
前記気相法としては、物理的気相法(Physical Vapor Deposition、PVD)と総称される蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0031】
<第2の硫化亜鉛層形成工程>
前記第2の硫化亜鉛層形成工程は、前記銀を含有する金属層上に気相法により第2の硫化亜鉛層を形成する工程である。
以上により、基材の剥離層上に、第1の硫化亜鉛層と、銀を含有する金属層と、第2の硫化亜鉛層とがこの順で積層された積層物が形成される。
【0032】
前記気相法としては、物理的気相法(Physical Vapor Deposition、PVD)と総称される蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0033】
<剥離工程>
前記剥離工程は、前記剥離層を溶解することにより前記積層物を剥離する工程である。
前記剥離層を溶解可能な溶媒としては、前記剥離層を溶解可能な溶媒であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
前記剥離層を溶解可能な溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール、ドデカノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;テトラヒドロン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸フェニル等のエステル類;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチエレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類;フェノール、クレゾール等のフェノール類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、オクタデセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメシン、ニトロベンゼン、アニリン、メトキシベンゼン等の脂肪族もしくは芳香族炭化水素;ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の脂肪族もしくは芳香族塩化炭化水素;ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等の含窒素化合物、水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
<粉砕工程>
前記粉砕工程は、前記剥離工程で基材から剥離された前記積層物を粉砕する工程である。
【0036】
前記粉砕工程に用いる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、超音波ホモジナイザーなどが挙げられる。
更に必要に応じて、前記鱗片状顔料の回収や物性の調整のために種々の処理を行ってもよい。例えば、分級によって前記鱗片状顔料の粒度を調整してもよいし、遠心分離、吸引ろ過などの方法で前記鱗片状顔料を回収することや、分散液の固形分濃度を調整してもよい。また、溶媒置換を行ってもよいし、添加剤を用いて粘度調整などを行ってもよい。
【0037】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、例えば、粉砕した前記鱗片状顔料を分散液として取り出す工程、前記分散液から前記鱗片状顔料を回収する工程などが挙げられる。
【0038】
(分散液)
本発明の分散液は、本発明の鱗片状顔料及び有機溶剤を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
本発明の分散液は、水性及び溶剤性のいずれであってもよいが、環境性の点から水性が好ましい。
【0039】
前記鱗片状顔料の含有量は、分散液の全量に対して、0.1質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0040】
-有機溶剤-
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
前記多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
【0042】
前記多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。
【0043】
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
【0044】
前記含窒素複素環化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0045】
前記アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドなどが挙げられる。
【0046】
前記アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
前記含硫黄化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノールなどが挙げられる。
【0047】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、ポリマー、架橋剤、老化防止剤、充填剤、重合禁止剤、表面調整剤、帯電防止剤、消泡剤、粘度調整剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0048】
-水-
前記水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。
【0049】
(塗料)
本発明の塗料は、本発明の鱗片状顔料を含有し、有機溶剤及びバインダーを含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
本発明の塗料は、水性及び溶剤性のいずれであってもよい。
【0050】
-鱗片状顔料-
本発明の塗料は、必要に応じて、前記鱗片状顔料以外の他の光輝性顔料を含んでいてもよい。前記他の光輝性顔料としては、例えば、金属製の顔料(例えば、アルミニウム顔料)、天然マイカから得られる顔料(例えば、パール顔料)、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。
前記鱗片状顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0051】
-バインダー-
前記バインダーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、アクリル-シリコーン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエーテル樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルピロリドン、セルロースなどが挙げられる。
前記塗料が前記バインダーを含むと、定着性及び分散性に優れた塗料が得られる。
前記バインダーの含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0052】
前記塗料における有機溶剤及び水としては、前記分散液における有機溶剤及び水と同様なものを用いることができる。
【0053】
-その他の成分-
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤などが挙げられる。
【0054】
本発明の塗料は、例えば、インクジェット法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、スプレー塗装法、スピンコート法、ブレードコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本ロールコート法、5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法などの塗工方法に用いることができる。これらの中でも、バーコート法、スプレー塗装法が好ましい。
【0055】
(塗膜)
本発明の塗膜は、本発明の鱗片状顔料、及びバインダーを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
前記塗膜は、塗膜単独で使用することもできるが、基体上に本発明の塗料を用い、上述した塗工方法で形成した塗工物としてもよい。
前記基体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙、自動車の窓ガラス及びフィルム、建物の窓ガラス及びフィルム、農業用フィルムなどが挙げられる。
【0056】
<用途>
本発明の鱗片状顔料は、耐久性、可視光透過性、及び赤外線反射性に優れているので、各種分野に幅広く用いることができ、例えば、乗り物用ガラス及びフィルム、建材用ガラス及びフィルム、農業用フィルムなどに好適に用いられる。
【実施例0057】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
平均厚みが25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、5質量%のセルロースアセテートブチレート(CAB)を含む溶液をグラビアコート法により0.06g/m±0.01g/mの塗工量で塗工し、110℃以上120℃以下で乾燥して、剥離層を形成した。
次に、前記剥離層上に、電子ビーム加熱・真空蒸着法によって、硫化亜鉛を成膜レート40nm/min.で蒸着して、平均厚みが20nmの第1の硫化亜鉛層を形成した。前記第1の硫化亜鉛層の平均厚みは、蛍光X線分析法(XRF)を用いた定量分析により、5箇所の前記第1の硫化亜鉛層の厚みを測定し、平均した値である。
【0059】
次に、前記第1の硫化亜鉛層の上に、スパッタ法によって、銀を成膜レート3nm/min.で成膜して、平均厚みが12nmの銀を含有する金属層を形成した。蛍光X線分析法(XRF)により測定した金属層における銀の含有量は85質量%であった。
【0060】
次に、前記銀を含有する金属層上に、上記第1の硫化亜鉛層と同じ方法により平均厚みが20nmの第2の硫化亜鉛層を形成した。なお、銀を含有する金属層の平均厚みの求め方は、硫化亜鉛層の平均厚みの求め方と同様である。第1の硫化亜鉛層、第2の硫化亜鉛層、及び銀を含有する金属層の平均厚みの結果を表1に示す。
以上により、PETフィルム上に剥離層と、第1の硫化亜鉛と、銀を含有する金属層と第2の硫化亜鉛層とをこの順に積層した積層物(成膜フィルム)を得た。
【0061】
(比較例1)
実施例1において、第1の硫化亜鉛層及び第2の硫化亜鉛層を形成する代わりに、酸素を導入しながらの反応性スパッタ法によって、酸化チタンを成膜レート2nm/min.で蒸着して、平均厚みが20nmの第1の酸化チタン層及び第2の酸化チタン層を形成し、成膜フィルムを得た。
得られた成膜フィルムについて、実施例1と同様にして、各層の平均厚みを測定した。結果を表1に示した。
【0062】
(比較例2)
実施例1において、第1の硫化亜鉛層及び第2の硫化亜鉛層を形成する代わりに、酸素を導入しながらの反応性スパッタ法によって、Nbを成膜レート2nm/min.で蒸着して、平均厚みが20nmの第1のNb層及び第2のNb層を形成し、成膜フィルムを得た。
得られた成膜フィルムについて、実施例1と同様にして、各層の平均厚みを測定した。結果を表1に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
次に、実施例1及び比較例1~2の成膜フィルムについて、以下のようにして、透過率及び反射率を測定し、透過率及び反射率のシミュレーション値と実測値とを比較した結果を図2図4に示した。
【0065】
<透過率及び反射率の測定>
各成膜フィルムについて、分光光度計(SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製)を用い、波長300nm以上2500nm以下の透過率及び反射率を実側した。
一方、シミュレーションソフトとしては、光学薄膜設計ソフトウエア(TFVver.3、ナリ―・ソフトウエア社製)を用い、透過率及び反射率のシミュレーション値を求めた。
透過率は、実測及びシミュレーションともに、Air(空気)、つまり、何もサンプルを置いていない状態を100%とした。
反射率は、実測及びシミュレーションともに、各成膜フィルムの法線方向から5°傾斜した角度から光を入射した際の、5°正反射方向の反射率である。また、反射率は、各成膜フィルムの代わりに鏡を設置した時の反射率を100%とした。反射率の実測では、材質がアルミニウムである鏡を用いた。
【0066】
図2の結果から、実施例1では、透過率及び反射率のシミュレーション値と実測値とが比較的一致しており、顔料(成膜フィルム)の設計がし易いことがわかった。これに対して、図3及び図4の結果から、比較例1及び2では、透過率及び反射率のシミュレーション値と実側値とが一致しておらず、顔料の設計が困難であることがわかった。比較例1及び2のように、金属酸化物層の単層の平均厚みを反応性スパッタ条件で積層するとシミュレーションどおりの分光スペクトルとならないことがわかった。これは、反応性スパッタをする時の酸素(O)が銀(Ag)を酸化させるためであると考えられる。
一方、実施例1では、硫化亜鉛(ZnS)層は酸素を導入して成膜する必要がないため、Agが酸化されることがなく、シミュレーション値と実測値が一致しており、優れた光学特性を実現できることがわかった。
【0067】
<鱗片状顔料の作製>
次に、実施例1において、前記剥離層及び前記積層物を形成したPETフィルム面に酢酸ブチルを噴霧して前記剥離層を溶解し、前記積層物をドクターブレードで掻き落とした。
次に、得られた積層物と酢酸ブチルの混合物に対して、粒子径を調整するため、超音波処理を行い、狙いの累積50%体積粒子径18μmになるまで粉砕した。以上により、実施例1の鱗片状顔料が得られた。なお、得られた実施例1の鱗片状顔料のSEM写真を図5に示した。図5のSEM写真から、実施例1の顔料は鱗片状を呈していることがわかった。
【0068】
<粒度分布の測定>
得られた実施例1の鱗片状顔料について、粒度分布をレーザー回折・散乱式粒度分布測定器(LSM-2000、セイシン企業株式会社製)を用いて測定し、累積50%体積粒子径D50を求めたところ18μmであった。実施例1の粒度分布の結果を図6に示した。
【0069】
(実験例1~6)
<銀を含有する金属層及び硫化亜鉛層の平均厚みの最適化>
実施例1と同様にして、表2に示す層構成及び平均厚みの銀を含有する金属層(Ag層)と硫化亜鉛層(ZnS層)を有する、実験例1~6の成膜フィルムを作製した。
【0070】
次に、得られた実験例1~6の成膜フィルムについて、実施例1と同様にして、透過率及び反射率を測定した。結果を図7図9に示した。
また、ZnS/Ag/ZnSの層構成の成膜フィルムで、ZnS層の厚みを20nmに固定した場合において、実施例1と同様にして、シミュレーションを行い反射率及び透過率を求めた。結果を図10及び図11に示した。
また、ZnS/Ag/ZnSの層構成の成膜フィルムで、Ag層の厚みを14nmに固定した場合において、実施例1と同様にして、シミュレーションを行い、透過率を求めた。結果を図12及び図13に示した。
なお、ここで、Ag層とは、銀を含有する金属層のことを、ZnS層とは、硫化亜鉛層のことを指す。
【0071】
次に、得られた実験例1~6の成膜フィルムについて、以下のようにして、可視光透過性、赤外線反射性、及び総合評価を行った。結果を表2に示した。
【0072】
<可視光透過性>
波長550nmでの可視光透過率が70%以上を充たしていれば「〇」、充たしていなければ「×」と評価した。
【0073】
<赤外線反射性>
波長900nm以上1100nm以下の間に赤外線反射率が45%以上となる領域を有していれば「〇」、有していなければ「×」と評価した。
【0074】
<総合評価>
波長550nmにおける可視光透過率が70%以上であること、及び波長900nm以上1100nm以下の間に赤外線反射率が45%以上となる領域を有していることの両方の条件を充たしていれば「〇」、いずれかの条件及び両方の条件を充たしていなければ「×」と評価した。
【0075】
【表2】
【0076】
表2、及び図7図9の実測結果から、Ag層の厚みは9nm以上となる。また、図10のシミュレーションの結果から、波長900nm以上1100nm以下の間に赤外線反射率が45%以上となる領域を有している条件に基づき、Ag層の厚みの下限値が9nmとなる。
【0077】
図11の可視光透過率のシミュレーションの結果から、波長700nmでの可視光透過率が50%以上になる条件に基づき、Ag層の厚みの上限値が18nmとなる。
図12の可視光透過率のシミュレーションの結果から、波長700nmでの可視光透過率が45%以上になる条件に基づき、ZnS層の厚みの下限値が9nmとなる。
図13の可視光透過率のシミュレーションの結果から、可視光波長領域において、干渉色が激しくなる限界に基づき、ZnS層の厚みの上限値が50nmとなる。
【0078】
(実施例2~4)
<顔料分散液の調製>
実施例1で作製した鱗片状顔料を有機溶剤(酢酸ブチル)で分散して、表3に示す顔料濃度の実施例2~4の顔料分散液を調製した。
【0079】
<塗料の調製>
下記の表3に記載の組成を混合して、実施例2~4の塗料を調製した。
【0080】
【表3】
*バインダー:ブチラール樹脂(商品名エスレック、積水化学株式会社製):酢酸ブチル=20:80(ブチラール樹脂20質量%溶解品)
*有機溶剤:酢酸ブチル:シクロヘキサノン=1:1
【0081】
<塗膜形成>
次に、調製した各塗料を用い、基材として平均厚み125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にバーコート法で塗布し、120℃で10分間乾燥し、塗膜を形成した。
次に、得られた各塗膜について、実施例1と同様にして、透過率及び赤外線反射率を測定した。結果を図14及び図15に示した。
図14及び図15の結果から、赤外線反射率及び透過率で設計した積層物を顔料として含む塗膜を用いることによって、赤外線領域では反射性が高く、可視光領域では透過性が高くなる塗膜を作製できることがわかった。
【0082】
(実施例5)
<耐久性試験>
実施例1で作製した成膜フィルムについて、以下のようにして、耐熱耐湿性試験、耐水性試験、及び耐塩水性試験を行った。
【0083】
-耐熱耐湿性試験-
条件(1):実施例1で作製した成膜フィルムを、乾燥機を用いて90℃で30分間処理する耐熱耐湿性試験の前後の成膜フィルムを、分光光度計(SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製)を用いて波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図16に示した。
【0084】
条件(2):実施例1で作製した成膜フィルムを、恒温恒湿機(60℃で90%RH)を用いて30分間処理する耐熱耐湿性試験の前後の成膜フィルムについて、上記条件(1)と同様にして、波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図16に示した。
【0085】
条件(3):実施例1で作製した成膜フィルムを、乾燥機を用いて90℃で1,000時間処理する耐熱耐湿性試験の前後の成膜フィルムについて、上記条件(1)と同様にして、波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図16に示した。
【0086】
条件(4):実施例1で作製した成膜フィルムを、恒温恒湿機(60℃で90%RHの条件)を用いて1,000時間処理する耐熱耐湿性試験の前後の成膜フィルムについて、上記条件(1)と同様にして、波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図16に示した。
【0087】
図16の結果から、上記条件(1)から条件(4)において、透過率の変化はほとんど見られず、実施例1で作製した成膜フィルムは耐熱耐湿性に優れていることがわかった。
【0088】
-耐水性試験-
条件(1):実施例1で作製した成膜フィルムを常温(25℃)の水中に浸漬して30分間処理する耐水性試験の前後の成膜フィルムを、分光光度計(SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製)を用いて、波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図17に示した。
【0089】
条件(2):実施例1で作製した成膜フィルムを冷水(5℃)中に浸漬して30分間処理する耐水性試験の前後の成膜フィルムについて、上記条件(1)と同様にして、波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図17に示した。
【0090】
図17の結果から、上記条件(1)及び条件(2)において、透過率の変化はほとんど見られず、実施例1で作製した成膜フィルムは耐水性に優れていることがわかった。
【0091】
-耐塩水性試験-
条件(1):実施例1で作製した成膜フィルムを塩水(NaCl濃度:5質量%)中に8時間浸漬処理した。なお、容器は40℃のウォーターバスで保温した。浸漬後の成膜フィルムを純水で洗い流し、水をふき取った。この耐塩水性試験の前後の成膜フィルムを、分光光度計(SolidSpec-3700、株式会社島津製作所製)を用いて、波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図18に示した。
【0092】
条件(2):実施例1で作製した成膜フィルムを塩水(NaCl濃度:5質量%)中に24時間浸漬処理した。なお、容器は40℃のウォーターバスで保温した。浸漬後の成膜フィルムを純水で洗い流し、水をふき取った。この耐塩水性試験の前後の成膜フィルムについて、上記条件(1)と同様にして、波長300nm以上2500nm以下の透過率を測定した。結果を図18に示した。
【0093】
図18の結果から、上記条件(1)及び条件(2)において、透過率が若干低下する傾向は認められるが、腐食は見られず、実施例1で作製した成膜フィルムは耐塩水性が良好であることがわかった。
【符号の説明】
【0094】
1 第1の硫化亜鉛層
2 銀を含有する金属層
3 第2の硫化亜鉛層
10 鱗片状顔料

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18