(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064713
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】鉄道車両の横圧校正用装置及び横圧校正方法
(51)【国際特許分類】
G01L 5/20 20060101AFI20220419BHJP
B61K 9/08 20060101ALI20220419BHJP
G01L 25/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G01L5/20
B61K9/08
G01L25/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173507
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000182993
【氏名又は名称】日鉄レールウェイテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】特許業務法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】小村 吉史
(72)【発明者】
【氏名】岡野 真行
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AA02
2F051AB09
2F051DA02
2F051DB05
(57)【要約】
【課題】軌道側(地上側)で測定する鉄道車両の横圧を精度良く校正可能な横圧校正用装置等を提供する。
【解決手段】本発明に係る横圧校正用装置100は、レールRに取り付けられ、レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する装置本体1と、装置本体とレールとの間に配置される治具2と、を備える。装置本体は、レールに取り付けられるフレーム11と、フレームに取り付けられ、レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する負荷手段12と、を具備する。治具は、負荷手段の下部とレールの頭部の踏面との間に介挿され、踏面との接触箇所が断面視点状であり、負荷手段が付加する垂直荷重によって踏面を垂直に押圧する接触部21と、接触部が押圧する垂直荷重を測定する荷重測定手段22と、を具備する。接触部は、レールの幅方向に移動可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪と前記鉄道車両が走行する軌道のレールとの間に作用する横圧を校正するための校正用装置であって、
前記レールに取り付けられ、前記レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する装置本体と、
前記装置本体と前記レールとの間に配置される治具と、を備え、
前記装置本体は、前記レールに取り付けられるフレームと、前記フレームに取り付けられ、前記レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する負荷手段と、を具備し、
前記治具は、前記負荷手段の下部と前記レールの頭部の踏面との間に介挿され、前記踏面との接触箇所が断面視点状であり、前記負荷手段が付加する垂直荷重によって前記踏面を垂直に押圧する接触部と、前記接触部が押圧する垂直荷重を測定する荷重測定手段と、を具備し、
前記接触部は、前記レールの幅方向に移動可能である、
ことを特徴とする鉄道車両の横圧校正用装置。
【請求項2】
前記治具は、前記負荷手段の下部と前記接触部との間に介挿され、前記レールの幅方向に延びる介挿部と、前記介挿部の端部を下方から支持する支持部と、を具備し、
前記荷重測定手段は、前記介挿部と前記接触部との間に位置し、前記接触部と共に前記レールの幅方向に移動可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の横圧校正用装置。
【請求項3】
前記治具は、前記負荷手段の下部と前記接触部との間に介挿され、前記レールの幅方向に延びる介挿部と、前記介挿部の端部を下方から支持する支持部と、を具備し、
前記荷重測定手段は、前記負荷手段の下部と前記介挿部との間に位置し、前記負荷手段が付加する垂直荷重を測定する第1荷重測定手段と、前記支持部に取り付けられ、前記支持部に負荷される垂直荷重を測定する第2荷重測定手段と、を有し、前記第1荷重測定手段の測定値と前記第2荷重測定手段の測定値とに基づき、前記接触部が押圧する垂直荷重を演算する、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の横圧校正用装置。
【請求項4】
前記負荷手段は、シリンダと、前記シリンダに対して進退動するピストンロッドと、を有するシリンダ装置であり、
前記フレームは、前記レールの長手方向に沿った両端部に設けられ、前記レールをその幅方向からクランプするクランプ部と、前記レールの長手方向に沿った中央部に設けられ、前記負荷手段が挿入される貫通孔と、前記シリンダを前記フレームに固定するための固定部と、を有し、
前記クランプ部は、一対のクランプ片を有し、前記一対のクランプ片の間に前記レールの頭部を挟み込んで締結することで、前記レールをクランプする、
ことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の鉄道車両の横圧校正用装置。
【請求項5】
鉄道車両の車輪と前記鉄道車両が走行する軌道のレールとの間に作用する横圧を校正する方法であって、
請求項1から4の何れかに記載の横圧校正用装置における前記接触部を前記レールの幅方向に移動させることで、前記接触部の前記踏面との接触位置を変更し、各接触位置において前記負荷手段で垂直荷重を付加して、前記軌道側で輪重及び横圧を測定する輪重・横圧測定ステップと、
前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記各接触位置における前記輪重及び前記横圧に基づき、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重を接触位置、輪重及び横圧から算出するための校正関数を決定する校正関数決定ステップと、を含む、
ことを特徴とする鉄道車両の横圧校正方法。
【請求項6】
前記接触位置をXとし、前記輪重をP1とし、前記横圧をQ1とし、前記水平荷重をQ2とした場合、前記校正関数決定ステップにおいて、以下の式(a)に示す校正関数を決定する、
ことを特徴とする請求項5に記載の鉄道車両の横圧校正方法。
Q2=Q1-b・X・P1 ・・・(a)
上記式(a)において、bは、前記横圧Q1を前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重に掛かる係数を前記接触位置Xで除算した値を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪と鉄道車両が走行する軌道のレールとの間に作用する水平荷重である横圧を校正するための装置及びこれを用いた横圧の校正方法に関する。特に、本発明は、軌道側(地上側)で測定する鉄道車両の横圧を精度良く校正可能な横圧校正用装置及び横圧校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の脱線に対する指標を評価し、評価結果に応じた対策を施すことは、鉄道車両の走行安全性を向上させる上で重要である。
従来、脱線に対する指標として、鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する水平荷重である横圧Qを、鉄道車両の車輪とレールとの間に作用する垂直(鉛直)荷重である輪重Pで除した値である脱線係数Q/Pが広く用いられている。特に、鉄道車両が軌道の曲線区間を走行する際、鉄道車両の台車が具備する前側輪軸が有する外軌側車輪の脱線係数(外軌脱線係数)Q/Pが広く用いられている。
【0003】
脱線係数Q/Pを算出するための輪重P及び横圧Qの測定方法として、以下の2種類が知られている。
(1)車上測定:車輪に作用する力を検出することで輪重P及び横圧Qを測定可能なセンサが取り付けられたPQ輪軸を具備する台車やPQモニタリング台車によって、これらの台車が走行する曲線区間での輪重P及び横圧Qを測定する方法(例えば、特許文献1参照)。
(2)地上測定:レールに作用する力をひずみゲージ等で検出することで輪重P及び横圧Qを測定可能な測定装置を曲線区間に設置し、この測定装置によって、前記曲線区間を走行する台車の輪重P及び横圧Qを測定する方法(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
車上測定によれば、PQ輪軸を具備する台車やPQモニタリング台車が走行する全ての曲線区間での輪重P及び横圧Qを測定可能である。しかしながら、PQ輪軸を具備する台車やPQモニタリング台車以外の輪重及び横圧を測定不能な台車については輪重P及び横圧Qを測定できない。全ての台車にPQ輪軸を取り付けたり、全ての台車をPQモニタリング台車にすることは、コストが高騰すると共に、メンテナンスの手間が増大するため、現実的ではない。
【0005】
地上測定によれば、測定装置が設置された曲線区間を走行する全ての台車の輪重P及び横圧Qを測定可能であるという利点を有する。しかしながら、地上測定した横圧Qの測定結果は、輪重の影響を受け、地上測定した横圧Qの測定値が車上測定した横圧Qの測定値よりも低くなるという問題がある。
【0006】
なお、特許文献3、4には、鉄道車両の車輪と鉄道車両が走行する軌道のレールとの接触位置を測定する方法が提案されているが、何れも車上側で接触位置を測定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014-54881号公報
【特許文献2】特開平10-185666号公報
【特許文献3】特開2016-60317号公報
【特許文献4】特開2016-97868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、軌道側(地上側)で測定する鉄道車両の横圧を精度良く校正可能な横圧校正用装置及び横圧校正方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討した結果、地上測定において横圧の測定精度が悪化するのは、鉄道車両の車輪と鉄道車両が走行するレールとの接触位置がレールの中心軸(レールの幅方向中心)からずれて変動することが原因であることを見出した。そこで、本発明者らは更に鋭意検討した結果、車輪とレールとの接触位置と、従来と同様に地上測定した輪重及び横圧とに基づき、車輪とレールとの間に作用する水平荷重(真の横圧)を精度良く算出できることを見出した。したがい、軌道側(地上側)で測定する鉄道車両の横圧(真の横圧)を精度良く校正する(車輪とレールとの間に作用する水平荷重を接触位置、輪重及び横圧から算出するための校正関数を決定する)には、車輪とレールとの接触位置が変化することを模擬して、レールの頭部の踏面を垂直に押圧する位置をレールの幅方向に変更できる横圧校正用装置が必要であることに想到した。
なお、軌道側(地上側)で測定する鉄道車両の横圧(真の横圧)を校正した後、実際に走行する鉄道車両の横圧(真の横圧)を測定するには、車輪とレールとの接触位置を測定することが必要である。この際、横圧を地上測定する利点を活かすには、特許文献3、4のように車輪とレールとの接触位置を車上測定するのではなく、車輪とレールとの接触位置も地上測定することが望ましい。本発明者らは、この点についても鋭意検討した結果、輪重、横圧及びレールの小返り量を軌道側(地上側)で測定し、これらの測定値を用いることで、車輪とレールとの接触位置を算出可能であることに想到した。本明細書において、「小返り量」とは、小返り(所定以上の横圧がレールに作用することでレールが軌間の外方に傾く現象)によって生じる、レールの頭部側面の水平方向の変位とレールの底部側面の水平方向の変位との差の変動量(レールに荷重が付加されていないときの変位の差を基準とする変動量)を意味する。
【0010】
本発明は、上記本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、鉄道車両の車輪と前記鉄道車両が走行する軌道のレールとの間に作用する横圧を校正するための校正用装置であって、前記レールに取り付けられ、前記レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する装置本体と、前記装置本体と前記レールとの間に配置される治具と、を備え、前記装置本体は、前記レールに取り付けられるフレームと、前記フレームに取り付けられ、前記レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する負荷手段と、を具備し、前記治具は、前記負荷手段の下部と前記レールの頭部の踏面との間に介挿され、前記踏面との接触箇所が断面視点状であり、前記負荷手段が付加する垂直荷重によって前記踏面を垂直に押圧する接触部と、前記接触部が押圧する垂直荷重を測定する荷重測定手段と、を具備し、前記接触部は、前記レールの幅方向に移動可能である、ことを特徴とする鉄道車両の横圧校正用装置を提供する。
【0011】
本発明に係る横圧校正用装置は、装置本体が具備する負荷手段の下部とレールの頭部の踏面との間に介挿され、負荷手段が付加する垂直荷重によって踏面を垂直に押圧する接触部と、接触部が押圧する垂直荷重を測定する荷重測定手段と、を具備する治具を備えている。そして、接触部は、その踏面との接触箇所が断面視点状であると共に、レールの幅方向に移動可能である。このため、レールの頭部の踏面を垂直に押圧する位置をレールの幅方向に変更可能であり、且つ、その垂直荷重を測定可能である。したがい、車輪とレールとの接触位置が変化することを模擬可能で、軌道側(地上側)で測定する鉄道車両の横圧(真の横圧)を精度良く校正可能である。
なお、本発明において、「断面視点状」とは、レールの幅方向に沿った断面をレールの長手方向から見た場合に点状であることを意味する。また、本発明において、「点状」とは、幅方向の寸法が、10mm以下であることを意味する。
また、本発明に係る横圧校正用装置が備える装置本体としては、例えば、レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加するように構成された従来の輪重校正用装置と同様の構成を有する装置を用いることができる。従来の輪重校正用装置は、レールの幅方向中央に付加した垂直荷重と、レールに貼り付けたひずみゲージの出力との対応関係を取得し、ひずみゲージの出力から輪重を算出できるように校正するための装置である。
さらに、本発明に係る横圧校正用装置の治具が具備する荷重測定手段としては、例えば、ロードセルが挙げられる。
【0012】
好ましくは、前記治具は、前記負荷手段の下部と前記接触部との間に介挿され、前記レールの幅方向に延びる介挿部と、前記介挿部の端部を下方から支持する支持部と、を具備し、前記荷重測定手段は、前記介挿部と前記接触部との間に位置し、前記接触部と共に前記レールの幅方向に移動可能である。
【0013】
上記の好ましい構成によれば、荷重測定手段が、介挿部と接触部との間に位置し、接触部と共にレールの幅方向に移動可能であるため、接触部が押圧する垂直荷重を荷重測定手段で直接測定できる。このため、接触部が押圧する垂直荷重の測定精度が高まり、ひいては校正精度が高まるという利点が得られる。
【0014】
或いは、好ましくは、前記治具は、前記負荷手段の下部と前記接触部との間に介挿され、前記レールの幅方向に延びる介挿部と、前記介挿部の端部を下方から支持する支持部と、を具備し、前記荷重測定手段は、前記負荷手段の下部と前記介挿部との間に位置し、前記負荷手段が付加する垂直荷重を測定する第1荷重測定手段と、前記支持部に取り付けられ、前記支持部に負荷される垂直荷重を測定する第2荷重測定手段と、を有し、前記第1荷重測定手段の測定値と前記第2荷重測定手段の測定値とに基づき、前記接触部が押圧する垂直荷重を演算する。
【0015】
上記の好ましい構成によれば、荷重測定手段が、負荷手段が付加する垂直荷重(レールの幅方向中央に向けて付加する垂直荷重)を測定する第1荷重測定手段と、支持部に取り付けられ支持部に負荷される垂直荷重を測定する第2荷重測定手段とを有し、第1荷重測定手段の測定値と第2荷重測定手段の測定値とに基づき、接触部が押圧する垂直荷重を演算する。例えば、支持部が介挿部の両端部にそれぞれ設けられ(介挿部の両端部をそれぞれ下方から支持する一対の支持部が設けられ)、支持部毎に第2荷重測定手段が取り付けられている場合、第1荷重測定手段の測定値から、各第2荷重測定手段の測定値をそれぞれ減算することで、接触部が押圧する垂直荷重を演算可能である。また、例えば、支持部が介挿部の一方の端部にのみ設けられ(介挿部の一方の端部のみを下方から支持する支持部が設けられ)、その支持部に第2荷重測定手段が取り付けられている場合、第1荷重測定手段の測定値から、第2荷重測定手段の測定値を減算することで、接触部が押圧する垂直荷重を演算可能である。
上記の好ましい構成によれば、装置本体及び第1荷重測定手段として、例えば、レールの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加するように構成された従来の輪重校正用装置と同様の構成を有する装置を用いることができるため、装置の製造コストを抑制可能である。
【0016】
好ましくは、前記負荷手段は、シリンダと、前記シリンダに対して進退動するピストンロッドと、を有するシリンダ装置であり、前記フレームは、前記レールの長手方向に沿った両端部に設けられ、前記レールをその幅方向からクランプするクランプ部と、前記レールの長手方向に沿った中央部に設けられ、前記負荷手段が挿入される貫通孔と、前記シリンダを前記フレームに固定するための固定部と、を有し、前記クランプ部は、一対のクランプ片を有し、前記一対のクランプ片の間に前記レールの頭部を挟み込んで締結することで、前記レールをクランプする。
【0017】
上記の好ましい構成によれば、装置本体を比較的容易にレールに取り付けることができると共に、分解も容易でありメンテナンス性に優れる。
【0018】
また、前記課題を解決するため、本発明は、鉄道車両の車輪と前記鉄道車両が走行する軌道のレールとの間に作用する横圧を校正する方法であって、前記横圧校正用装置における前記接触部を前記レールの幅方向に移動させることで、前記接触部の前記踏面との接触位置を変更し、各接触位置において前記負荷手段で垂直荷重を付加して、前記軌道側で輪重及び横圧を測定する輪重・横圧測定ステップと、前記輪重・横圧測定ステップで測定した前記各接触位置における前記輪重及び前記横圧に基づき、前記車輪と前記レールとの間に作用する水平荷重を接触位置、輪重及び横圧から算出するための校正関数を決定する校正関数決定ステップと、を含む、ことを特徴とする鉄道車両の横圧校正方法としても提供される。
【0019】
本発明に係る横圧校正方法の輪重・横圧測定ステップでは、各接触位置において輪重及び横圧を測定するが、この輪重及び横圧は、従来と同様に、例えば、レールに貼り付けたひずみゲージを用いて測定すればよい。次に、校正関数決定ステップでは、輪重・横圧測定ステップで測定した各接触位置における輪重及び横圧に基づき、車輪とレールとの間に作用する水平荷重(真の横圧)を接触位置、輪重及び横圧から算出するための校正関数を決定する。
本発明に係る横圧校正方法で横圧(真の横圧)を校正した後、実際に走行する鉄道車両の横圧(真の横圧)を測定するには、従来と同様に輪重及び横圧を測定すると共に、車輪とレールとの接触位置を測定し、これら測定した輪重、横圧及び接触位置と、決定した校正関数とを用いて、水平荷重(真の横圧)を算出すればよい。
【0020】
具体的には、前記接触位置をXとし、前記輪重をP1とし、前記横圧をQ1とし、前記水平荷重をQ2とした場合、前記校正関数決定ステップにおいて、以下の式(a)に示す校正関数を決定することが好ましい。
Q2=Q1-b・X・P1 ・・・(a)
上記式(a)において、bは、前記横圧Q1を前記車輪と前記レールとの間に作用する垂直荷重と前記水平荷重との線形和で表した場合に、前記垂直荷重に掛かる係数を前記接触位置Xで除算した値を意味する。
【0021】
上記の好ましい方法によれば、式(a)に示す校正関数を決定(パラメータbを同定)しておくだけで、実際に走行する鉄道車両の横圧(真の横圧)Q2を測定する際に、輪重P1、横圧Q1を従来と同様に測定すると共に、接触位置Xを測定することで、容易に水平荷重(真の横圧)Q2を算出可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、軌道側(地上側)で測定する鉄道車両の横圧を精度良く校正可能である。この結果、実際に走行する鉄道車両の横圧(真の横圧)を測定する際に、輪重、横圧を従来と同様に測定すると共に、接触位置を測定し、決定した校正関数を用いることで、水平荷重(真の横圧)を精度良く算出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法を実行するための測定装置の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法の概略手順を示すフロー図である。
【
図3】本発明の第1態様に係る横圧校正用装置の概略構成を示す図である。
【
図4】
図3に示す治具のレールの長手方向から見た拡大断面図である。
【
図5】
図3に示す治具の変形例を示す拡大断面図である。
【
図6】
図3に示す治具の変形例を示す拡大断面図である。
【
図7】本発明の第2態様に係る横圧校正用装置の概略構成を示す図である。
【
図8】
図7に示す治具のレールの長手方向から見た拡大断面図である。
【
図9】
図7に示す治具の変形例を示す拡大断面図である。
【
図10】
図7に示す治具の変形例を示す拡大断面図である。
【
図11】従来の地上測定による輪重・横圧測定方法を模式的に説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る鉄道車両の横圧校正用装置及びこれを用いた横圧校正方法について説明する。具体的には、本実施形態では、鉄道車両の車輪とレールとの接触位置測定方法、及び、接触位置測定方法で測定した接触位置と横圧校正方法(横圧校正装置)で決定した校正関数とを用いた鉄道車両の横圧測定方法について説明し、その説明の一部として上記の横圧校正用装置及び横圧校正方法について述べる。
【0025】
<従来の横圧測定方法>
最初に、従来の横圧測定方法の問題点について説明する。
図11は、従来の地上測定による輪重・横圧測定方法を模式的に説明する説明図である。
図11(a)は、測定方法の概要を示す図である。
図11(b)は、測定結果の一例を示す図である。
図11(a)に示すように、従来の輪重・横圧測定方法では、レールRの腹部R2の内軌側側面及び外軌側側面にそれぞれ2枚(
図11(a)では1枚のみ図示)ずつ計4枚のひずみゲージ(直交型ひずみゲージ)3を貼り付け、このひずみゲージ3の出力に基づき輪重を測定している。また、レールRの底部R3の内軌側上面及び外軌側上面にそれぞれ2枚(
図11(a)では1枚のみ図示)ずつ計4枚のひずみゲージ(直交型ひずみゲージ)4を貼り付け、このひずみゲージ4の出力に基づき横圧を測定している。なお、この従来の輪重・横圧測定方法は、例えば、「在来鉄道運転速度向上試験マニュアル・解説」(鉄道総合技術研究所編、平成5年5月10日発行)等に記載のように公知であるため、ここでは、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0026】
ここで、
図11(a)に示すように、A点~J点の各接触位置において、図示を省略する負荷手段(シリンダ装置)を順次用いて、レールRの頭部R1に対して何れも10kNの荷重をA点~J点の各矢符で示す方向に付加した。
図11(b)は、各接触位置に荷重を付加したときの輪重・横圧をひずみゲージ3、4を用いて測定した結果である。
図11(a)に示すA点~E点では、垂直(鉛直)方向下方に荷重を付加した。F点では、垂直方向に対して20°の角度を成す方向から荷重を付加した。G点では、垂直方向に対して30°の角度を成す方向から荷重を付加した。H点では、垂直方向に対して45°の角度を成す方向から荷重を付加した。I点では、垂直方向に対して70°の角度を成す方向から荷重を付加した。J点では、垂直方向に対して90°の角度を成す方向、すなわち水平方向から荷重を付加した。
なお、C点は、レールRの中心軸(レールRの幅方向中心)CLを通る点であり、本明細書では、接触位置の水平方向(X方向)の座標(接触位置X)は、C点を基準(=0)として、この基準よりも内軌側の接触位置を正の値とし、この基準よりも外軌側の接触位置を負の値とする。
【0027】
図11(b)に示すように、輪重P
1については、A点~E点の何れの接触位置においても、垂直方向下方に付加した10kNの荷重が正しく測定されている。
一方、横圧Q
1については、C点において、正しい値である0kNの荷重が測定されているものの、接触位置が基準からずれたA点、B点、D点及びE点においては、横圧は本来0kNであるにも関わらず、見かけ上横圧が発生しており、正しい値が測定されていない。
このように、本発明者らは、地上測定において横圧Q
1の測定精度が悪化する原因が鉄道車両の車輪とレールRとの接触位置の変動にあることを見出した。
【0028】
<本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法>
そこで、本発明者らは、軌道側(地上側)で車輪とレールRとの接触位置を測定する方法を鋭意検討し、適切な測定方法を見出した。そして、この接触位置測定方法を用いた横圧測定方法を見出した。
図1は、本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法を実行するための測定装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る測定装置200は、従来と同様のひずみゲージ3、4と、非接触式変位計としてのレーザ変位計6、7と、演算手段5と、を備えている。
【0029】
ひずみゲージ3、4の構成は、
図11を参照して説明したひずみゲージ3、4と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0030】
レーザ変位計6は、レールRの頭部R1の側面(本実施形態では外軌側側面)に対向配置され、頭部R1側面の水平方向(X方向)の変位である第1変位Xuを測定する。また、レーザ変位計7は、レールRの底部R3の側面(本実施形態では外軌側側面)に対向配置され、底部R3側面の水平方向(X方向)の変位である第2変位Xlを測定する。
【0031】
演算手段5には、ひずみゲージ3、4の出力と、レーザ変位計6、7の出力とが入力され、演算手段5は、これらの入力値を用いて、車輪(
図1には図示省略)とレールRとの接触位置X及び水平荷重(真の横圧)Q
2を演算するように構成されている。
【0032】
以下、上記の概略構成を有する測定装置200を用いた本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る接触位置測定方法及び横圧測定方法の概略手順を示すフロー図である。
図2に示すように、本実施形態に係る接触位置測定方法は、輪重・横圧測定ステップS1、小返り量測定ステップS2及び接触位置算出ステップS3を含んでいる。また、本実施形態に係る接触位置測定方法は、接触位置算出ステップS3を実行する際に用いるパラメータを予め算出するパラメータ算出ステップS4を含んでいる。パラメータ算出ステップS4において、本実施形態に係る横圧校正用装置が使用され、横圧校正方法が実行される。
本実施形態に係る横圧測定方法は、本実施形態に係る接触位置測定方法の各ステップ(輪重・横圧測定ステップS1、小返り量測定ステップS2、接触位置算出ステップS3及びパラメータ算出ステップS4)に加えて、水平荷重算出ステップS5を更に含んでいる。
以下、各ステップS1~S5について、順に説明する。
【0033】
[輪重・横圧測定ステップS1]
輪重・横圧測定ステップS1では、鉄道車両の車輪がレールR上を走行している際に、測定装置200を用いて、軌道側で輪重P1及び横圧Q1を測定する。具体的には、演算手段5が、ひずみゲージ3の出力を用いて輪重P1を演算し、ひずみゲージ4の出力を用いて横圧Q1を演算する。輪重P1及び横圧Q1の具体的な演算方法については公知であるため、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0034】
[小返り量測定ステップS2]
小返り量測定ステップS2では、鉄道車両の車輪がレールR上を走行している際に、測定装置200を用いて、軌道側でレールRの小返り量aを測定する。具体的には、演算手段5が、レーザ変位計6で測定した第1変位Xuと、レーザ変位計7で測定した第2変位Xlとに基づき、小返り量aを演算する。より具体的には、例えば、演算手段5には、レールRに荷重が付加されていないときに測定された第1変位Xu及び第2変位Xlが入力される。このレールRに荷重が付加されていないときに測定された第1変位Xuと第2変位Xlとの差Xu-XlをΔXとすると、このΔXが演算手段5に記憶されている。そして、レールRに荷重が付加されたとき(車輪がレールR上を走行したとき)に測定された第1変位Xuと第2変位Xlとを用いて、演算手段5は、以下の式(C)に基づき、小返り量aを演算する。
a=Xu-Xl-ΔX ・・・(C)
すなわち、演算手段5は、第1変位Xuと第2変位Xlとの差の変動量(レールRに荷重が付加されていないときの変位の差を基準とする変動量)を小返り量aとして演算する。
例えば、レールRの頭部R1が
図1に示す状態から外軌側に傾いたとすれば、第1変位Xuの値は
図1に示す状態よりも小さくなり、第2変位Xlの値は
図1に示す状態と同等になる。したがい、第1変位Xuと第2変位Xlとの差Xu-Xlは、レールRに荷重が付加されていないときのΔXよりも小さくなるため、式(C)で算出される小返り量は、負の値となる。
【0035】
[パラメータ算出ステップS4]
後述の接触位置算出ステップS3では、前述の輪重・横圧測定ステップS1で測定した輪重P1及び横圧Q1と、前述の小返り量測定ステップS2で測定したレールRの小返り量aとに基づき、演算手段5が鉄道車両の車輪とレールRとの接触位置Xを算出するが、この際、予め算出して演算手段5に記憶されたパラメータβ、α、bを用いる。
このため、説明の便宜上、接触位置算出ステップS3よりも先に、これらパラメータβ、α、bを算出するパラメータ算出ステップS4について説明する。
【0036】
本発明者らの知見によれば、車輪とレールRとの間に作用する垂直荷重(真の輪重)をP2とし、車輪とレールRとの間に作用する水平荷重(真の横圧)をQ2とした場合、以下の式(A)に示すように、小返り量aは、垂直荷重P2と接触位置(接触位置までの距離)Xとの積(モーメント)と、水平荷重Q2との線形和で表すことができる。
a=P2・α・X+Q2・β ・・・(A)
上記式(A)において、βは、水平荷重Q2に掛かる係数である。
上記式(A)において、αは、垂直荷重P2と接触位置Xとの積に掛かる係数である。
【0037】
ここで、前述の
図11(a)に示すF点及びI点に負荷手段(シリンダ装置)を順次用いて各点で荷重を付加し、各点で小返り量aを測定する試験を行った結果、垂直荷重P
2、水平荷重Q
2及び小返り量aが、以下の表1に示す値であった場合を考える。なお、接触位置Xは、F点及びI点の双方が23mmであったと考える。また、F点において20kNの荷重を付加したとすると、F点における垂直荷重P
2は理論的には20kN・cos20°で求められ、F点における水平荷重Q
2は理論的には20kN・sin20°で求められる。表1には、F点における垂直荷重P
2及び水平荷重Q
2の測定値を記載している。さらに、I点において10kNの荷重を付加したとすると、I点における垂直荷重P
2は理論的には10kN・cos70°で求められ、I点における水平荷重Q
2は理論的には10kN・sin70°で求められる。表1には、I点における垂直荷重P
2及び水平荷重Q
2の測定値を記載している。
【表1】
【0038】
上記式(A)のXに23mmを代入し、P2、Q2及びaに表1に示す値を代入して得られる、α及びβを変数とする連立方程式を解くと、α=0.000176174[1/kN]、β=-0.03368[mm/kN]が得られる。このようにして得られたα及びβが演算手段5に記憶される。
【0039】
また、本発明者らの知見によれば、以下の式(B)に示すように、横圧Q1は、垂直荷重P2と水平荷重Q2との線形和で表すことできる。
Q1=b・X・P2+Q2 ・・・(B)
上記式(B)において、bは、垂直荷重P2に掛かる係数b・Xを接触位置Xで除算した値である。
【0040】
ここで、前述の
図11(a)に示すA点~E点(A点はX=-20mm、B点はX=-10mm、C点はX=0mm、D点はX=10mm、E点はX=20mm)に負荷手段(シリンダ装置)を順次用いて、各点で垂直(鉛直)方向下方に10kNの荷重を付加して、各点で輪重P
1及び横圧Q
1を測定したときに、横圧Q
1が、
図11(b)に示すように、Q
1=-0.0361・Xの近似式で表される場合を考える。A点~E点では、輪重P
1=垂直荷重P
2=10kN、水平荷重Q
2=0kNであると考えられるため、
図11(b)に示す近似式から、b=-0.00361[1/mm]が得られる。このようにして得られたbが演算手段5に記憶される。
【0041】
以上のように、パラメータ算出ステップS4では、負荷手段(シリンダ装置)を用いてレールRの頭部R1の複数の接触位置Xに対し、既知の値である垂直荷重P2及び水平荷重Q2を付加する試験を行い、この際の小返り量a、輪重P1及び横圧Q1を測定することで、パラメータβ、α、bを同定し、これを演算手段5に記憶させる。
【0042】
本実施形態では、パラメータbを同定する際、横圧校正用装置を用いる。換言すれば、横圧校正用装置によって、レールRの頭部R1の踏面の複数箇所(上記の例では、A点~E点)に垂直荷重を付加する。
以下、本実施形態に係る横圧校正用装置について説明する。
【0043】
<第1態様>
図3は、本発明の第1態様に係る横圧校正用装置100の概略構成を示す図である。
図3(a)はレールRの幅方向から見た正面図であり、
図3(b)はレールRの長手方向から見た側面図である。
図3(a)において、装置本体1の負荷手段12及び貫通孔112、並びに、治具2の接触部21及び荷重測定手段22は断面で図示している。また、
図4は、レールRの長手方向から見た治具2の拡大断面図である。
図3に示すように、第1態様に係る横圧校正用装置100は、鉄道車両の車輪(図示せず)と鉄道車両が走行する軌道のレールRとの間に作用する横圧(真の横圧Q
2)を校正するための装置であって、レールRに取り付けられ、レールRの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する装置本体1と、装置本体1とレールRとの間に配置される治具2と、を備えている。また、横圧校正用装置100は、前述の測定装置200と同様に、ひずみゲージ3、4と、演算手段5と、を備えている。
【0044】
装置本体1は、レールRに取り付けられるフレーム11と、フレーム11に取り付けられ、レールの幅方向中央に向けて(レールRの中心軸CL付近に向けて)垂直荷重を付加する負荷手段12と、を具備する。
負荷手段12は、シリンダ121と、シリンダ121に対して進退動するピストンロッド122と、を有するシリンダ装置(具体的には、油圧シリンダ装置)である。ピストンロッド122の下端には、下端部にフランジが形成されたフランジ部材124が取り付けられている。実際には、負荷手段12のフランジ部材124が、後述する治具2の介挿部23に垂直荷重を付加することになる。
【0045】
フレーム11は、フレーム本体110と、レールRの長手方向に沿ったフレーム本体110の両端部に設けられ、レールRをその幅方向からクランプするクランプ部111を有する。クランプ部111は、その一部のみを図示するアイボルト114を介して、フレーム本体110の両端部に取り付けられている。また、フレーム11は、レールRの長手方向に沿った中央部に設けられ、負荷手段12が挿入される貫通孔112と、貫通孔112に挿入されたシリンダ121をフレーム11に固定するための固定部113と、を有する。
クランプ部111は、一対のクランプ片111a、111bを有し、一対のクランプ片111a、111bの間にレールRの頭部R1を挟み込んでボルト(図示せず)で締結することで、レールRをクランプするように構成されている。
【0046】
治具2は、負荷手段12の下部とレールRの頭部R1の踏面との間に介挿され、踏面との接触箇所が断面視点状(レールRの幅方向に沿った断面をレールRの長手方向から見た場合に点状)であり、負荷手段12が付加する垂直荷重によって踏面を垂直に押圧する金属製の接触部21を具備する。接触部21の踏面との接触箇所は、断面視点状であるがレールRの長手方向に延びる線状であってもよいし、実際に点状であってもよい。そして、接触部21は、
図4に破線で示す位置と実線で示す位置との間において、レールRの幅方向に移動可能に構成されている。
また、治具2は、接触部21が押圧する垂直荷重を測定する荷重測定手段22を具備する。荷重測定手段22としては、ロードセルが好適に用いられる。
【0047】
具体的には、治具2は、負荷手段12の下部と接触部21との間に介挿され、レールRの幅方向に延びる介挿部23と、介挿部23の端部(延設方向端部)を下方から支持する支持部24と、を具備する。
第1態様に係る横圧校正用装置100において、支持部24は、介挿部23の両端部にそれぞれ設けられている。すなわち、介挿部23の両端部をそれぞれ下方から支持する一対の支持部24が設けられている。支持部24の下部には、平板状の基台241が設けられ、この基台241が、例えば、軌道のバラスト上に設置される。
また、第1態様に係る横圧校正用装置100において、荷重測定手段22は、介挿部23と接触部21との間に位置し、接触部21と共にレールRの幅方向に移動可能である。具体的には、接触部21は、荷重測定手段22の下部に、ねじ留め等(図示せず)によって脱着自在に取り付けられている。そして、荷重測定手段22が一軸ステージ(図示せず)を介して介挿部23の延設方向(レールRの幅方向)に移動可能に取り付けられている。これにより、接触部21及び荷重測定手段22は、一体としてレールRの幅方向に移動可能である。なお、一軸ステージを用いずに荷重測定手段22を介挿部23に固定し、介挿部23及び支持部24の設置位置をレールRの幅方向にずらすことによって、接触部21及び荷重測定手段22を一体としてレールRの幅方向に移動させる態様を採用することも可能である。
【0048】
以上に説明した構成を有する第1態様に係る横圧校正用装置100を用いて横圧(水平荷重Q2)を校正する(パラメータbを同定する)場合には、接触部21をレールRの幅方向に移動させることで、接触部21の踏面との接触位置を変更し、各接触位置において負荷手段12で垂直荷重を付加して、軌道側で輪重P1及び横圧Q1を測定する。具体的には、輪重P1については垂直荷重P2と同じ値になると考えられるため、荷重測定手段22で測定した接触部21が押圧する垂直荷重P2を輪重P1の測定結果として用いる。また、輪重・横圧測定ステップS1と同様に、演算手段5が、ひずみゲージ4の出力を用いて横圧Q1を演算する。
なお、この際、荷重測定手段22で測定した垂直荷重P2と、ひずみゲージ3の出力を用いて演算した輪重P1とを対比し、両者が同一となるように(垂直荷重P2を真の値として)、ひずみゲージ3の出力から輪重P1を演算する校正関数を調整する(換言すれば、輪重P1を校正する)ことも可能である。
【0049】
次に、上記のようにして測定した各接触位置における輪重P1及び横圧Q1に基づき、車輪とレールRとの間に作用する水平荷重Q2を接触位置X、輪重P1及び横圧Q1から算出するための校正関数を決定する。具体的には、後述の式(a)におけるパラメータbを同定する。
【0050】
図5及び
図6は、
図3及び
図4を参照して説明した本発明の第1態様に係る横圧校正用装置100が具備する治具2の変形例を示す拡大断面図(レールRの長手方向から見た拡大断面図)である。
図5及び
図6に示すように、変形例の治具2Aは、支持部24が介挿部23の一方の端部にのみ設けられている点が
図4に示す治具2と異なり、その他の点については治具2と同様の構成である。
変形例の治具2Aを用いる場合も、前述の治具2を用いる場合と同様の手順で、横圧(水平荷重Q
2)を校正する(パラメータbを同定する)ことが可能である。
【0051】
ただし、変形例の治具2Aを用いる際、
図5に示すように、接触部21の踏面との接触位置を中心軸CLよりも内軌側で変更する場合には、支持部24が外軌側に位置するように治具2Aを設置することが好ましい。また、
図6に示すように、接触部21の踏面との接触位置を中心軸CLよりも外軌側で変更する場合には、支持部24が内軌側に位置するように治具2Aを設置することが好ましい。上記のように、接触部21の踏面との接触位置に応じて支持部24の位置を変更することで、負荷手段12(フランジ部材124)によってレールRの中心軸CL付近に付加された垂直荷重が、中心軸CLよりも内軌側に位置する接触部21と、中心軸CLよりも外軌側に位置する支持部24との双方で支持されるため、内軌側又は外軌側のうち一方の側のみで支持する場合に比べて、治具2Aの設置状態を安定化させることが可能である。
【0052】
<第2態様>
図7は、本発明の第2態様に係る横圧校正用装置100Aの概略構成を示す図である。
図7(a)はレールRの幅方向から見た正面図であり、
図7(b)はレールRの長手方向から見た側面図である。
図7(a)において、装置本体1の負荷手段12及び貫通孔112、並びに、治具2Bの接触部21及び荷重測定手段22は断面で図示している。また、
図8は、レールRの長手方向から見た治具2Bの拡大断面図である。
図7に示すように、第2態様に係る横圧校正用装置100Aも、第1態様に係る横圧校正用装置100と同様に、鉄道車両の車輪(図示せず)と鉄道車両が走行する軌道のレールRとの間に作用する横圧(真の横圧Q
2)を校正するための装置であって、レールRに取り付けられ、レールRの幅方向中央に向けて垂直荷重を付加する装置本体1と、装置本体1とレールRとの間に配置される治具2Bと、を備えている。また、横圧校正用装置100Aは、第1態様に係る横圧校正用装置100と同様に、ひずみゲージ3、4と、演算手段5と、を備えている。
【0053】
以下、第2態様に係る横圧校正用装置100Aについて、第1態様に係る横圧校正用装置100との相違点を主として説明し、同様の構成については、各構成要素に同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0054】
治具2Bは、治具2と同様に、負荷手段12の下部とレールRの頭部R1の踏面との間に介挿され、踏面との接触箇所が断面視点状(レールRの幅方向に沿った断面をレールRの長手方向から見た場合に点状)であり、負荷手段12が付加する垂直荷重によって踏面を垂直に押圧する金属製の接触部21を具備する。接触部21の踏面との接触箇所は、断面視点状であるがレールRの長手方向に延びる線状であってもよいし、実際に点状であってもよい。そして、接触部21は、
図8に破線で示す位置と実線で示す位置との間において、レールRの幅方向に移動可能に構成されている。
また、治具2Bは、治具2と同様に、接触部21が押圧する垂直荷重を測定する荷重測定手段22を具備する。荷重測定手段22としては、ロードセルが好適に用いられる。
【0055】
具体的には、治具2Bは、治具2と同様に、負荷手段12の下部と接触部21との間に介挿され、レールRの幅方向に延びる介挿部23と、介挿部23の端部(延設方向端部)を下方から支持する支持部24と、を具備する。
図7及び
図8に示す例では、接触部21は、介挿部23と一体形成されている。
第2態様に係る横圧校正用装置100Aにおいても、支持部24は、介挿部23の両端部にそれぞれ設けられている。すなわち、介挿部23の両端部をそれぞれ下方から支持する一対の支持部24が設けられている。ただし、第1態様に係る横圧校正用装置100と異なり、支持部24の下部には、後述の第2荷重測定手段222が取り付けられている。この第2荷重測定手段222の下方に、平板状の基台241が設けられ、この基台241が、例えば、軌道のバラスト上に設置される。
【0056】
第2態様に係る横圧校正用装置100Aにおいては、第1態様に係る横圧校正用装置100と異なり、荷重測定手段22が、負荷手段12の下部(フランジ部材124の下部)と介挿部23との間に位置し、負荷手段12が付加する垂直荷重を測定する第1荷重測定手段221と、支持部24に取り付けられ、支持部24に負荷される垂直荷重を測定する第2荷重測定手段222と、を有する。
【0057】
接触部21は、介挿部23と一体形成されているため、介挿部23及び支持部24の設置位置をレールRの幅方向にずらすことによって、接触部21も介挿部23と一体としてレールRの幅方向に移動可能である。ただし、接触部21を一軸ステージを介して介挿部23の延設方向(レールRの幅方向)に移動可能に取り付ける態様(この場合には、介挿部23及び支持部24の設置位置をずらす必要がない)を採用することも可能である。
【0058】
以上に説明した構成を有する第2態様に係る横圧校正用装置100Aを用いて横圧(水平荷重Q2)を校正する(パラメータbを同定する)場合には、接触部21をレールRの幅方向に移動させることで、接触部21の踏面との接触位置を変更し、各接触位置において負荷手段12で垂直荷重を付加して、軌道側で輪重P1及び横圧Q1を測定する。具体的には、輪重P1については垂直荷重P2と同じ値になると考えられるため、荷重測定手段22で測定した接触部21が押圧する垂直荷重P2を輪重P1の測定結果として用いる。具体的には、第2態様に係る横圧校正用装置100Aの荷重測定手段22としても機能する演算手段5に第1荷重測定手段221の測定値及び2つの第2荷重測定手段222の測定値が入力され、演算手段5が、これらの測定値に基づき、接触部21が押圧する垂直荷重P2を演算する。具体的には、第1荷重測定手段221の測定値から、各第2荷重測定手段222の測定値をそれぞれ減算することで、接触部21が押圧する垂直荷重P2を演算する。また、輪重・横圧測定ステップS1と同様に、演算手段5が、ひずみゲージ4の出力を用いて横圧Q1を演算する。
なお、この際、荷重測定手段22で測定(演算)した垂直荷重P2と、ひずみゲージ3の出力を用いて演算した輪重P1とを対比し、両者が同一となるように(垂直荷重P2を真の値として)、ひずみゲージ3の出力から輪重P1を演算する校正関数を調整する(換言すれば、輪重P1を校正する)ことも可能である。
【0059】
次に、上記のようにして測定した各接触位置における輪重P1及び横圧Q1に基づき、車輪とレールRとの間に作用する水平荷重Q2を接触位置X、輪重P1及び横圧Q1から算出するための校正関数を決定する。具体的には、後述の式(a)におけるパラメータbを同定する。
【0060】
図9及び
図10は、
図7及び
図8を参照して説明した本発明の第2態様に係る横圧校正用装置100Aが具備する治具2Bの変形例を示す拡大断面図である。
図9及び
図10に示すように、変形例の治具2Cは、支持部24が介挿部23の一方の端部にのみ設けられ、これに応じて1つの第2荷重測定手段222のみが設けられている点が
図8に示す治具2Bと異なり、その他の点については治具2Bと同様の構成である。
変形例の治具2Cを用いる場合も、前述の治具2Bを用いる場合と同様の手順で、横圧(水平荷重Q
2)を校正する(パラメータbを同定する)ことが可能である。ただし、演算手段5は、第1荷重測定手段221の測定値から、1つの第2荷重測定手段222の測定値を減算することで、接触部21が押圧する垂直荷重P
2を演算する。
【0061】
ただし、変形例の治具2Cを用いる際、
図9に示すように、接触部21の踏面との接触位置を中心軸CLよりも内軌側で変更する場合には、支持部24が外軌側に位置するように治具2Cを設置することが好ましい。また、
図10に示すように、接触部21の踏面との接触位置を中心軸CLよりも外軌側で変更する場合には、支持部24が内軌側に位置するように治具2Cを設置することが好ましい。上記のように、接触部21の踏面との接触位置に応じて支持部24の位置を変更することで、負荷手段12(
図9、
図10では図示省略)によってレールRの中心軸CL付近に付加された垂直荷重が、中心軸CLよりも内軌側に位置する接触部21と、中心軸CLよりも外軌側に位置する支持部24との双方で支持されるため、内軌側又は外軌側のうち一方の側のみで支持する場合に比べて、治具2Cの設置状態を安定化させることが可能である。
【0062】
以上に説明したように、横圧校正用装置100又は100Aを用いて、パラメータbが同定され、演算手段5に記憶される。
【0063】
[接触位置算出ステップS3]
接触位置算出ステップS3では、測定装置200を用いて、輪重・横圧測定ステップS1で測定した輪重P1及び横圧Q1と、小返り量測定ステップS2で測定したレールRの小返り量aとに基づき、鉄道車両の車輪とレールRとの接触位置Xを算出する。具体的には、演算手段5が、輪重P1、横圧Q1及び小返り量aと、パラメータ算出ステップS4で予め求めて記憶されているパラメータβ、α、bとを用いて、以下の式(1)に基づき、接触位置Xを演算する。
X=(a-Q1・β)/{P1(α-b・β)} ・・・(1)
なお、上記式(1)は、前述の式(A)及び式(B)と、P1=P2とから導き出すことができる。
【0064】
例えば、測定したQ1=17.2925[kN]、P1=30[kN]、a=-0.54156[mm]であり、予め求めたβ=-0.03368[mm/kN]、α=0.000176174[1/kN]、b=-0.00361[1/mm]であれば、上記式(1)より、接触位置X=24.9[mm]と演算される。すなわち、車輪とレールRとが、レールRの中心軸CLよりも24.9mmだけ内軌側で接触していると演算される。
【0065】
[水平荷重算出ステップS5]
水平荷重算出ステップS5では、測定装置200を用いて、輪重・横圧測定ステップS1で測定した輪重P1及び横圧Q1と、接触位置算出ステップS3で算出した接触位置Xとに基づき、車輪とレールRとの間に作用する水平荷重Q2を真の横圧として算出する。具体的には、演算手段5が、輪重P1、横圧Q1及び接触位置Xと、パラメータ算出ステップS4で予め求めて記憶されているパラメータbとを用いて、以下の式(a)に基づき、水平荷重Q2を演算する。
Q2=Q1-b・X・P1 ・・・(a)
なお、上記式(a)は、前述の式(B)と、P1=P2とから導き出すことができる。
【0066】
例えば、測定したQ1=17.2925[kN]、P1=30[kN]、X=24.9[mm]であり、予め求めたb=-0.00361[1/mm]であれば、上記式(a)より、水平荷重Q2=20[kN]と演算される。すなわち、従来の地上測定では、接触位置XがレールRの中心軸CLよりも内軌側に24.9mmだけずれていることに起因して横圧Q1=17.2925kNと小さく測定されていたものが、真の横圧(水平荷重Q2)は20kNであると正しく測定(校正)されることになる。
なお、本発明者らが本実施形態に係る横圧測定方法で測定した水平荷重Q2と、比較的精度良く横圧を測定可能なPQモニタリング台車を用いて車上測定した横圧とを比較したところ、両者の値が比較的良く合致することを確認できた。
【符号の説明】
【0067】
1・・・装置本体
2・・・治具
3、4・・・ひずみゲージ
5・・・演算手段
6、7・・・レーザ変位計
11・・・フレーム
12・・・負荷手段
21・・・接触部
22・・・荷重測定手段
23・・・介挿部
24・・・支持部
100・・・横圧校正用装置
200・・・測定装置
221・・・第1荷重測定手段
222・・・第2荷重測定手段
a・・・小返り量
P1・・・輪重
P2・・・垂直荷重
Q1・・・横圧
Q2・・・水平荷重
R・・・レール
R1・・・頭部
R2・・・腹部
R3・・・底部
X・・・接触位置
Xu・・・第1変位
Xl・・・第2変位