(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064796
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】給水装置およびそれを用いた給水方法
(51)【国際特許分類】
A01G 24/60 20180101AFI20220419BHJP
A01G 24/30 20180101ALI20220419BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20220419BHJP
【FI】
A01G24/60
A01G24/30
A01G31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2020183208
(22)【出願日】2020-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000250753
【氏名又は名称】凌和電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 正美
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 圭建
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022BA22
2B022BB02
2B314PC09
2B314PC10
2B314PC24
2B314PC29
(57)【要約】
【課題】 簡略な構造で、水耕栽培の培地として用いるスポンジに、水を効率よく浸透させる装置とそれを用いた吸水方法を提供する。
【解決手段】 フレーム1と、平坦な加圧面5を備え、フレーム1に支持されて加圧面5に対して垂直方向に移動する加圧手段と、前記加圧手段の下部に、着脱可能に配されるトレイ8と、トレイ8に給水する給水手段6とで、給水装置を構成し、トレイ8に載置されたスポンジ9を加圧手段で圧縮し、トレイ8を水で満たした状態で、スポンジの圧縮状態を徐々に解除する。圧縮により、スポンジ9の内部の細孔から空気を排除した状態から、水をスポンジ9に内部に浸透させるので、高効率でスポンジ9に水を含ませることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、平坦な加圧面を備え、前記フレームに支持されて前記加圧面に対して垂直方向に移動する加圧手段と、前記加圧手段の下部に、着脱可能に配されるトレイと、前記トレイに給水する給水手段とを有することを特徴とする給水装置。
【請求項2】
前記加圧面の少なくとも一部は、メッシュ、多孔板から選ばれる少なくともいずれかからなることを特徴とする、請求項1に記載の給水装置。
【請求項3】
前記加圧面を振動させる起振機を備えてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の給水装置。
【請求項4】
前記加圧面の全面積に占める開口部の面積比は、20~75%であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の給水装置。
【請求項5】
前記トレイに柔軟な多孔質材料を有する水耕栽培用培地を載置する載置工程と、前記水耕栽培用培地に前記加圧面を当接して、前記水耕栽培用培地を、その体積が15~25%となるまで圧縮する圧縮工程と、前記トレイに注水した状態で、圧縮された前記水耕栽培用培地の体積が15~25%/秒の速度で、元の体積に戻るように圧縮状態を解除する圧縮解除工程を有することを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の給水装置を用いた、水耕栽培用培地への給水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばポリウレタンなどの、柔軟な多孔質材料に、水を含ませるための給水装置、特に水耕栽培用の培地として用いられる多孔質材料を対象とした、給水装置とその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
理科教育の教材や園芸の手法の一つとして、例えばヒヤシンスの球根を、水を満たした透明な容器を用いて、下部を水に漬けた状態で、発芽や根の生長を観察可能とする水栽培が行われている。この手法の野菜栽培への応用として検討された水耕栽培が、天候などの条件に左右されずに野菜を出荷できる、いわば野菜工場を実現する方法として実用化されている。
【0003】
一般に植物の成長には、日光、水、空気と肥料と称される栄養分が、適度に供給されることが必要であるが、培地としての土壌は、必ずしも必要ではない。水耕栽培においては、これらの諸条件を人工的に制御することが容易であり、害虫や病原菌の侵入阻止も露地栽培に比較すると容易であり、さらに、連作障害がないなどの利点がある。
【0004】
水耕栽培においては、前記のように必ずしも土壌は必要ではないが、種子を一定間隔で保持する媒体、つまり代替培地として、ポリウレタンフォームのような、いわゆるスポンジが多用されている。スポンジは、多孔質であるため、軽量で一定量の水分を保持することが可能で、しかも安定した品質のものが工業的に生産、供給されているので、水耕栽培の代替培地として優れている。
【0005】
そして、実際に植物を栽培するにあたっては、スポンジに水を含ませる必要があるが、乾燥状態のスポンジに、吸水させるには、例えば、上方から注水するという方法では、水の吸収が困難である。これは、乾燥状態のスポンジが、内部の細孔に空気を含み、これが吸水の障害となる他、水の表面張力や粘性係数も阻害要因となっていることによると解される。
【0006】
これを解消するには、まずスポンジの柔軟性を利用して、全体を圧縮して、細孔内の空気を外部に排出し、周囲に水が存在する状態でスポンジを元の体積に戻すのが極めて効果的である。
【0007】
しかし、培地として用いるスポンジは、厚さが30mm、長辺が600mm、短辺が300mm程度の大きさなので、手で全体を一様に圧縮するのは困難である。また、水は空気よりも表面張力や粘性係数が大きいので、スポンジの細孔に効率的に浸透させるには、圧縮状態を徐々に解消する必要がある。
【0008】
スポンジを素材として用いた製品の製造工程で、吸水工程を含むものの代表的なものとして、電波吸収体がある。これは、カーボンブラックの微粒子を分散させた水を、スポンジの成形体に吸収させ、内部にカーボンブラックの微粒子が残留するように乾燥することで得られる。
【0009】
このような製品の製造方法として、特許文献1には、分散されたカーボンブラックを含むスポンジからなる電波吸収体の製造方法において、スポンジの表面からカーボンブラックを含む液体を滴下し、表面のカーボンブラックの濃度と内部のカーボンブラックの濃度に差がある状態で滴下を止め、そのスポンジを乾燥させて、カーボンブラックの濃度勾配を有するスポンジを形成することを特徴とする電波吸収体の製造方法が開示されている。しかし、ここには、前記の課題に対処するための技術が何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明の課題は、前記の問題点に鑑み、簡略な構造で、水耕栽培の培地として用いるスポンジに、水を効率よく浸透させる装置とそれを用いた吸水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、スポンジを圧縮した後、表面に水が接した状態で、圧縮前の体積に戻すことで、スポンジの細孔内に水を浸透する装置と、その操作条件を検討した結果、なされたものである。
【0013】
本発明によれば、フレームと、平坦な加圧面を備え、前記フレームに支持されて前記加圧面に対して垂直方向に移動する加圧手段と、前記加圧手段の下部に、着脱可能に配されるトレイと、前記トレイに給水する給水手段とを有することを特徴とする給水装置が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記加圧面の少なくとも一部が、メッシュ、多孔板から選ばれる少なくともいずれかからなることを特徴とする、前記の給水装置が得られる。
【0015】
また本発明によれば、前記加圧面を振動させる起振機を備えてなることを特徴とする、前記の給水装置が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記加圧面の全面積に占める開口部の面積比が、20~75%であることを特徴とする、前記の給水装置が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記トレイに柔軟な多孔質材料を有する水耕栽培用培地を載置する載置工程と、前記水耕栽培用培地に前記加圧面を当接して、前記水耕栽培用培地を、その体積が15~25%となるまで圧縮する圧縮工程と、前記トレイに注水した状態で、圧縮された前記水耕栽培用培地の体積が4.0~5.0秒で、元の体積に戻るように圧縮状態を解除する圧縮解除工程を有することを特徴とする、前記の給水装置を用いた、水耕栽培用培地への給水方法が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る給水機は、水耕栽培の培地として用いられるスポンジに水に浸透させる際に、スポンジを漲水可能なトレイに載置し、加圧して圧縮した後に、表面が水に接した状態で圧縮状態を解除する。圧縮でスポンジ内の細孔の空気を排除した後、圧縮状態を解除すると、細孔が弾性で元の大きさに膨張するので、水の細孔への浸透が加速される。
【0019】
そして、水は空気よりも表面張力や粘性係数が空気より大きいので、スポンジの圧縮状態を解除する速度を、水がスポンジの細孔に浸透する速度と合わせる、つまり、一定以上の時間をかけて、徐々に圧縮を解除するのが望ましい。
【0020】
また、培地に用いるスポンジの大きさは、厚さが30mm、長辺が600mm、短辺が300mm程度の大きさで、厚さ方向から加圧するので、加圧面からも水が浸透可能な構造にしないと。スポンジの吸水速度が著しく低下するので、加圧面には、メッシュや多孔板を用いる必要がある。さらにトレイの底面にもハニカムなどの構造の台板を設置しておくことで、水が浸透する面積の増加が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】 スポンジの圧縮状態を解除する時間と吸水完了時間の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について。具体的な図を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る給水装置の一例を示す図である。
【0023】
ここ示した給水装置は、4本の支柱を有するフレーム1、空圧シリンダーなどの加圧手段を備えた加圧装置2、フレーム1の支柱に沿って、図における上下方向に移動する加圧板3に取り付けられてなる加圧板フレーム4、加圧面5、注水手段6を主な構成要素とし、加圧面5の下部に、スポンジ9を載置するトレイ8を設置する。また、スポンジ9の下面からも水が浸透できるように、ハニカムなどの構造を有する台座10を、スポンジ9の下に配してもよい。
【0024】
加圧板フレーム4は、注水手段6から供給される水が、加圧面5の全体に満遍なく行き渡るような構造を有し、加圧面5は、スポンジ9の表面に水が接するように、通水が可能な多孔板やメッシュを有する構成である。具体的には、パンチングメタル、金属の線材を平織りにした金網、エクスパンドメタルなどが用いられるが、取り扱いの容易性を考慮すると、金網を用いることが望ましい。
【0025】
注水手段6の構成は特に限定されるものではなく、図に示した例は、図示していないホースと、貯水槽、注水ポンプを備えたものであり、加圧フレーム4の上から散水可能となっている。また、加圧面5の面積は、スポンジ9の上面と同一にする必要はないが、円滑な圧縮を行うには、95%以上とするのが望ましく、スポンジ9の圧縮は、スポンジの体積、つまり図における高さが、圧縮していない状態の15~25%とする必要がある。
【0026】
スポンジ9の圧縮後は、トレイ8に水を満たした状態で、圧縮状態を徐々に解除する。
図2は、加圧を解除して、スポンジ9の体積が元に戻るまでの時間、つまり、加圧面5の上昇速度を調整した場合の、スポンジ9の吸水が完了するまでの時間の関係を示したグラフである。
【0027】
ここでは、厚さが27mmのスポンジ9を、6mmの厚さになるまで圧縮し、スポンジ9が元の厚さに戻るまでの圧縮解除時間を0秒~10秒の間で調整した。吸水完了はスポンジの重量変化で確認した。
図2に示したように、圧縮解除時間の増加に伴って、吸水完了時間が短縮され、圧縮解除時間が5秒以上の領域では、吸水完了時間の変化が見られなくなる。よって、圧縮解除時間の最適範囲は、4秒~5秒程度と考えられる。
【0028】
さらに、
図1に示した例においては、加圧板3に起振機7が取り付けられている。本発明に係る給水装置を使用するにあたっては、水耕栽培用の培地であるスポンジ9の所要の位置に播種した後に、水を浸透させるのが望ましいが、スポンジ9を圧縮した際に、加圧面5に種子が付着し、圧縮解除後も種子が加圧面から脱落しない場合がある。
【0029】
このような場合、加圧解除後に、スポンジ9の上面と加圧面5との距離を5mm前後に保持した状態で、起振機7により加圧面5を振動させると、種子を加圧面4から脱落させ、スポンジ9表面の所要の位置に落下させることができる。起振機7には、一般的な圧電材料などを用いた装置を適用でき、振動数は50~60Hzで使用できる。
【0030】
以上に説明したように、本発明によれば、簡略な構造で、水耕栽培の培地として用いられるスポンジに、迅速に給水できる装置が提供できる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 ・・・ フレーム 2 ・・・ 加圧装置
3 ・・・ 加圧板 4 ・・・ 加圧板フレーム
5 ・・・ 加圧面 6 ・・・ 注水手段
7 ・・・ 起振機 8 ・・・ トレイ
9 ・・・ スポンジ 10 ・・・ 台座