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特開2022-64815可逆的な自己集合及び自己分解により有効成分送達速度を調整できる人体物質ベースの自己集合複合体、並びにこれを用いる有効成分送達システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064815
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】可逆的な自己集合及び自己分解により有効成分送達速度を調整できる人体物質ベースの自己集合複合体、並びにこれを用いる有効成分送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20220419BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/708 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/7072 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K47/02
A61K47/04
A61K31/7076
A61K31/708
A61K31/7072
A61K31/7068
A61K31/573
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021074175
(22)【出願日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】10-2020-0132898
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】カン,ヒ-ミン
(72)【発明者】
【氏名】ペ グンヒュ
(72)【発明者】
【氏名】タンガム ラマー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA95
4C076DD21
4C076DD22
4C076DD26
4C084AA17
4C084MA41
4C084NA13
4C086AA01
4C086AA10
4C086DA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA41
4C086NA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自己集合複合体の自己集合・自己分解を採用した、低毒性且つ人体に無害であり、より長く薬物を送達できる有効成分送達システムを提供する。
【解決手段】体内に存在する物質を含む自己集合複合体であって、一つ以上の金属イオンと、前記金属イオンとイオン結合をするリガンドを含み、可逆的に自己集合又は自己分解を起こし、前記金属イオン及びリガンドの濃度のうちいずれか一つ以上により自己集合が行われ、前記リガンドにより自己分解速度が制御され、第1放出時間において金属イオンとリガンドのうちいずれか一つ以上が持続的に放出される、自己集合複合体、および該自己集合複合体を用いた有効成分送達システムによる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に存在する物質を含む自己集合複合体であって、
一つ以上の金属イオンと、前記金属イオンとイオン結合をするリガンドを含み、
可逆的に自己集合又は自己分解を起こし、
前記金属イオン及びリガンドの濃度のうちいずれか一つ以上により自己集合が行われ、前記リガンドにより自己分解速度が制御され、第1放出時間において金属イオンとリガンドのうちいずれか一つ以上が持続的に放出される、自己集合複合体。
【請求項2】
前記リガンドにより前記自己集合複合体の自己分解速度が制御され、
前記自己組織複合体は、一つ以上の有効成分を更に含み、前記有効成分は、前記第1放出時間において持続的に放出される、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項3】
前記第1放出時間は20日以上である、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項4】
前記金属イオンは、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルのうちいずれか一つ以上のイオンを含んでいる、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項5】
前記自己集合複合体は、外部イオンを含む外部溶液により自己分解を起こし、前記外部イオンの種類により自己分解速度が制御される、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項6】
前記外部イオンは、カルシウム、ナトリウム、カリウム、リン酸塩、水素、水酸化物のうちいずれか一つ以上のイオンを含み、自己集合複合体を自己分解する、請求項5に記載の自己集合複合体。
【請求項7】
前記自己集合複合体は、一つ以上の金属イオンと一つ以上のリガンドが含まれ凝集したものである、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項8】
前記リガンドは、リン酸塩(phosphate)とホスホネート(phosphonate)のうちいずれか一つ以上を含む、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項9】
前記リガンドは、アデノシンモノホスフェート(adenosine monophosphate)、アデノシンダイリン酸(adenosine diphosphate)、アデノシントリホスフェート(adenosine triphosphate)、2-アミノエチルホスホン酸(aminoethylphosphonic acid)のうちいずれか一つ以上を含む、請求項8に記載の自己集合複合体。
【請求項10】
前記リガンドにリン酸塩が二つ以上含まれている場合の自己分解速度に対して、前記リガンドにリン酸塩が一つである場合の自己分解速度が2倍~6倍ほど早く調整される、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項11】
前記有効成分は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、デキサメタゾンのうちいずれか一つ以上を含む、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項12】
前記自己集合複合体は、前記金属イオンの濃度が1~30mMである場合に自己集合を起こす、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項13】
前記自己集合複合体は、前記リガンドの濃度が10~70mMである場合に自己集合を起こす、請求項1に記載の自己集合複合体。
【請求項14】
請求項1~13のうちいずれか一項に記載の自己集合複合体を用いた有効成分送達システム。
【請求項15】
前記有効成分は、薬物、小分子、高分子、タンパク質のうちいずれか一つ以上を含む、請求項14に記載の有効成分送達システム。
【請求項16】
前記自己集合複合体に存在する金属イオンが外部溶液に含まれている外部イオンで置換されることにより、有効成分の放出を促進する、請求項14に記載の薬物送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆的な自己集合及び分解が可能な自己集合複合体に関し、具体的には、体内に存在する物質をベースとするリン酸塩やホスホネートを含むリガンドと金属イオンが自己集合を起こし、自己集合複合体に様々な有効成分が含有され、
金属イオンやリガンドを用いて自己分解速度を調整できる自己集合複合体、並びに、該自己集合複合体の自己集合・分解の特性を以って、有効成分を送達する有効成分送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物送達システム(DDS、drug delivery system)とは、既存の薬物の副作用を最小限に抑えながら、薬物が有する効能や効果を最適化させ、疾患の治療に必要な最小量の薬物を効果的に送達する剤形として定義できる。
【0003】
薬物送達システム分野は、低コストと短い開発期間で既存の薬物の新たな剤形を開発できるため、次世代バイオ産業の核心として注目を浴びている。薬物送達システムの分野では、様々な機能や性能を有する生体高分子と合成高分子を用いて、新しい薬物送達体を開発する研究が非常に活発である。
【0004】
従来の薬物伝達体は、人体に存在しない合成物質のビスホスホネートと第1金属イオンを用いた自己集合複合体を採用していた。
【0005】
従来の薬物送達システムは、人体に存在しない物質をベースとして用いられるナノ粒子などを担体(carrier)とするため、毒性の問題がある上、成長因子やタンパク質などの送達で価格競争力のない場合が多く、更には薬物の持続放出が制御されないので短期間に限られる短所がある。
【0006】
従って、体内に存在する物質を用いて、従来の技術に対して低毒性、無害、薬物・分子・有効成分などの持続放出を実現する、薬物送達システムを開発する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特公開許第2018/169141号明細書(公開日:2018年06月21日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、体内に存在する物質をベースとして、様々な有効成分を含有し得る、金属イオンとリガンドの種類を含む自己集合複合体の自己分解速度を調整できる自己集合複合体を用いて自己分解の速度を調整することにより、薬物を持続的に送達できる薬物送達システムを提供することでる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の技術的課題を解決すべく、本発明は自己集合複合体、並びにそれを用いた有効成分送達システムを提供する。
【0010】
本発明の一実施例は、体内に存在する物質を含む自己集合複合体であって、
一つ以上の金属イオンと、前記金属イオンとイオン結合をするリガンドを含み、
可逆的に自己集合又は自己分解を起こし、前記金属イオン及びリガンドの濃度のうちいずれか一つ以上により自己集合が行われ、前記リガンドにより自己分解速度が制御され、第1放出時間において金属イオン、リガンド、有効成分のうちいずれか一つが持続的に放出される、自己集合複合体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による自己集合複合体は、体内に存在する物質で構成されているために毒性が少なく、人体に無害である上、リン酸又はホスホネートを含むリガンドを用いて自己分解速度と有効成分の放出速度を調整できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例による自己集合複合体の自己集合・自己分解のメカニズムを示す模式図
図2】本発明の一実施例による自己集合複合体の走査電子顕微鏡(EM)画像
図3】本発明の一実施例による自己集合複合体の走査電子顕微鏡(EM)画像
図4】本発明の一実施例による外部イオンの種類及び濃度が異なる溶液ごとの自己集合複合体からのマグネシウムの経時累積放出量を示すグラフ
図5】本発明の一実施例による外部イオンの種類及び濃度が異なる溶液ごとの自己集合複合体からのマグネシウムの経時累積放出量を示すグラフ
図6】本発明の一実施例による外部イオンの種類及び濃度が異なる溶液ごとの自己集合複合体からのアデノシンの経時累積放出量を示すグラフ
図7】本発明の一実施例による外部イオンの種類及び濃度が異なる溶液ごとの自己集合複合体からのアデノシンの経時累積放出量を示すグラフ
図8】本発明の一実施例による自己集合複合体の薬物放出より28日に撮像した後走査電子顕微鏡(SEM)画像
図9】本発明の一実施例による自己集合複合体の薬物放出より28日に撮像した後走査電子顕微鏡(SEM)画像
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより具体的に説明するために、本発明による好ましい実施例を、添付の図面を参照しながらより詳しく説明する。ただし本発明は、本願で説明している実施例に限られず、他の形態で具体化されてもよい。
【0014】
本発明は、体内に存在する物質を含む自己集合複合体であって、
体内に存在する物質を含む自己集合複合体であって、
一つ以上の金属イオンと、前記金属イオンとイオン結合をするリガンドを含み
可逆的に自己集合又は自己分解を起こし、
前記金属イオン及びリガンドの濃度のうちいずれか一つ以上により自己集合が行われ、前記リガンドにより自己分解速度が制御され、第1放出時間において金属イオン、リガンド、有効成分のいずれか一つ以上が持続的に放出される、自己集合複合体を提供する。
【0015】
図1は、本発明の一実施例による自己集合複合体の自己集合・自己分解のメカニズムを示す模式図である。図1によると、本発明の自己集合複合体は、一つ以上のリガンドと一つ以上の金属イオンとがイオン結合により自己集合を経て結合したもので、上記の自己集合複合体は一つ以上の有効成分を更に含んでもよい。更に、本発明の自己集合複合体に存在する金属イオンが外部溶液に存在する外部イオンで置換されることにより自己分解を起こし、金属イオン及び有効成分の長時間の持続放出を可能とする。
【0016】
上記の自己組織複合体に含まれる一つ以上の有効成分を更に含み、リガンドの種類によって自己分解速度が制御され、第1放出時間において一つ以上の有効成分が持続的に放出され得る。
【0017】
本明細書における「体内に存在する物質」とは、人為的に合成したものではない、体内に存在する構成成分からなる物質を指す。
【0018】
具体的には、自己集合複合体は、一つ以上の金属イオンと、一つ以上のリガンド、一つ以上の有効成分が含まれ凝集したものであってもよい。より具体的には、当該自己集合複合体は、単一の自己集合複合体に一つ以上の有効成分が含まれて凝集したものであってもよい。
【0019】
より具体的には、本発明の自己集合複合体の平均サイズは、0.2~5μm、0.5~3μm、又は0.5~2μmであってもよい。上記の大きさを有することで自己集合が更に容易となり、複合体に存在する物質の長時間の放出が可能となる。
【0020】
例えば、本発明の自己集合複合体は、自己分解の後20日以上、25日以上、或いは28日以上、第1金属イオンと有効成分のうちいずれか一つ以上を持続的に放出することができる。
【0021】
本発明の自己集合複合体は、金属イオンの濃度とリガンドの濃度のうちいずれか一つにより自己集合を起こし、当該外部イオンの種類により自己分解速度を制御することができる。自己集合複合体は、アデノシンを含んでもよい。
【0022】
具体的には、金属イオンの濃度が1~30mM、1~25mM、又は10~25mMである場合、金属イオン、リガンド、有効成分のうちいずれか2種以上が自己集合を起こし、自己集合複合体を形成し得る。具体的には、金属イオンとリガンドが自己集合を起こすか、金属イオン、リガンド、有効成分が自己集合を起こして自己集合複合体を形成してもよい。
【0023】
また、リガンドの濃度が10~70mM、20~60mM、又は25~55mMである場合には、金属イオン、リガンド、有効成分のうち2種以上が自己集合されて自己集合複合体を形成し得る。具体的には、金属イオンとリガンドが自己集合を起こすか、金属イオン、リガンド、有効成分が自己集合を起こして自己集合複合体を形成してもよい。
【0024】
金属イオンは、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルのうちいずれか一つ以上のイオンを含んでもよい。具体的には、金属イオンは、カルシウムやマグネシウムを含んでもよい。上記のような金属イオンを含むので、体内に容易に吸収され、生物学的機能を増加させることができ、人体に無害である。
【0025】
外部溶液に含まれた外部イオンは、カルシウム、ナトリウム、カリウム、リン酸塩、水素、水酸化物のうちいずれか一つ以上を含んでもよい。上記のような外部イオンを用いることで、自己集合複合体の金属イオンを放出することができる。当該溶液に含まれる水素イオンまたは水酸化物イオンは、自己組織複合体の自己分解を促進できる。当該溶液に存在する他の種類の外部イオンは必須要素であるが、自己分解時は、酸又は塩基ベースである場合、水素イオンや水酸化イオンの方が自己分解をより促進する。
【0026】
具体的には、本発明の自己集合複合体は、外部イオンを含む外部溶液によって自己分解を起こす。外部イオンの種類によって第1金属イオンの放出量が調整され得る。
【0027】
例えば、外部イオンがナトリウム、カリウム、リン酸塩のイオンである場合の金属イオンの放出量に対して、外部イオンがカルシウム、水素、又は水酸化物のイオンである場合の金属イオンの放出量は、1.5倍~3倍、1.5倍~2倍、又は2倍~3倍となる。
【0028】
リガンドは、リン酸塩(phosphate)とホスホネート(phosphonate)のうちいずれか一つ以上を含み、具体的には、当該リガンドは、アデノシンモノホスフェート(adenosine monophosphate)、アデノシンダイリン酸(adenosine diphosphate)、アデノシントリホスフェート(adenosine triphosphate)、2-アミノエチルホスホン酸(aminoethylphosphonic acid)のうちいずれか一つ以上を含んでもよい。具体的には、リガンドは、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、アデノシン三リン酸、或いは2-アミノエチルホスホン酸(aminoethylphosphonic acid)であってもよい。上記のようなリガンドを含むことにより、その外部イオンによって金属イオンを漸進的に放出することができ、更には、リガンドの種類によって自己集合複合体の自己分解速度を調整することができる。当該自己集合複合体は、複数のリガンドを含んでもよく、複数のリガンドを含む場合、各リガンドの種類によって金属イオンとの結合形態が異なるので、自己集合複合体の自己分解速度は複数のリガンドの混合比に基づいて比例的に変化し得る。
【0029】
リガンドにリン酸塩が二つ以上含まれている場合の自己分解速度に対して、リガンドにリン酸塩が一つのみ含まれている場合の自己分解速度は2倍~6倍、2倍~4倍、又は3倍~5倍となる。
【0030】
有効成分は、全ての薬物、小分子、高分子、タンパク質のうちいずれか一つ以上を含んでもよく、具体的に有効成分は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、デキサメタゾンのうちいずれか一つ以上を含んでもよい。有効成分は、体内に送達されるための物質であり、自己集合複合体が自己分解されるときに放出され、体内に供給される。
【0031】
更に本発明は、上述の自己集合複合体を用いた有効成分送達システムを提供する。
【0032】
本発明による有効成分送達システムは、体内に存在する物質をベースにした自己集合複合体を含むので、合成高分子などを使用する従来の技術よりも毒性が少なく、人体に無害な状態で物質を送達することができる。
【0033】
当該有効成分は、薬物、小分子、高分子、タンパク質のうちいずれか一つ以上を含んでもよく、具体的に有効成分は、アデノシン、グアノシン、ウリジン、シチジン、デキサメタゾンのうちいずれか一つ以上を含んでもよい。
【0034】
具体的には、本発明による自己集合複合体は、図1によると、リガンドの種類によって自己分解速度が調整され、自己集合複合体の金属イオンは、外部溶液に存在する外部金属イオンで置換され自己分解が促進される。自己集合複合体に存在する金属イオンの濃度とリガンドの濃度によって自己集合が生じる。外部溶液に存在する外部イオンは、自己分解時の金属イオンの放出量を調整する。更に、自己集合複合体のリガンドの種類及び外部イオンの種類によって自己集合複合体の自己分解速度を調整することができる。
【0035】
本発明の有効成分送達システムでは、自己集合複合体に存在する金属イオンが外部溶液に存在する外部イオンで置換されて放出される。自己集合複合体の金属イオンが放出されることで、リガンドと有効成分の放出を促進させる。具体的には、外部溶液に存在する外部イオンの種類によって自己集合複合体の金属イオンの放出量を調整することができる。
【0036】
具体的には、外部イオンがナトリウム、カリウム、リン酸塩のイオンである場合の金属イオンの放出量に対して、外部イオンがカルシウム、水素、又は水酸化物のイオンである場合の第1金属イオンの放出量は1.5倍~3倍、1.5倍~2倍、又は2倍~3倍となる。
【0037】
また、本発明の自己集合複合体のリガンドの種類によって第1金属イオンとの結合形態が変わるので、自己集合複合体の自己分解速度や有効成分の放出速度を調整することができる。
【0038】
リガンドにリン酸塩が二つ以上含まれている場合の自己分解速度に対して、リガンドにリン酸塩が一つのみ含まれている場合の自己分解速度は2倍~6倍、2倍~4倍、又は3倍~5倍まで調整され得る。
【0039】
以下、本発明の実施例を説明する。しかしながら下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明の請求の範囲が下記の実施例に限られる訳ではない。
【0040】
1. 自己集合複合体の製造
実施例1(Mg-ATP-adenosine)
Mg-ATP-adenosine自己集合複合体を製造するために、アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate、ATP)25mmol/L(脱イオン水2mLにATP 27.6mg)、塩化マグネシウム7水和物(MgCl27H2O)25mmol/L(脱イオン水2mLにMg2+ 10.1mg)、並びにアデノシン25 mmol/L(脱イオン水2mLにアデノシン13.4mg)を混合し、アデノシン自己集合複合体を形成した。言い換えれば、アデノシン三リン酸2mLを塩化マグネシウム7水和物溶液と4:5の割合にて室温(25℃)で30秒間混合し、混合物を形成した。上記の混合物にアデノシン溶液を点滴し、Mg-ATP-adenosine自己集合複合体を製造した。
【0041】
実施例2(Mg-AMP-adenosine)
Mg-AMP-adenosine自己集合複合体を製造するために、アデニル酸(adenosine monophposphate、AMP)10mmol/L(脱イオン水2mLにAMP 6.9mg)、塩化マグネシウム7水和物(MgCl27H2O)10mmol/L(脱イオン水2mLにMg2+ 4mg)、アデノシン50mmol/L(脱イオン水2mLにアデノシン26.7mg)を混合し、アデノシン自己集合複合体を形成した。言い換えれば、アデノシン一リン酸2mLを塩化マグネシウム7水和物溶液と4:5の割合にて室温(25℃)で30秒間混合し、混合物を形成した。上記の混合物にアデノシン溶液を点滴し、Mg-AMP-adenosine自己集合複合体を製造した。
【0042】
[実験例]
本発明による自己集合複合体を観察するために、実施例1及び実施例2で製造したMg-ATPとMg-AMPをそれぞれ500μlずつアデノシン溶液と混合し、22X22mmサイズの6ウェルプレートを含むガラス基板上に置き、脱イオン水で繰り返し洗浄した。30分後に洗浄された溶液を塩酸(HCl)で処理し、37℃のオーブンで24時間乾燥させた。自己集合複合体の製造に先立って、当該ガラス基板を硫酸(H2SO4)に1時間浸した後、脱イオン水で再び洗浄してガラス基板上に水酸基を活性化させた。当該ガラス基板を、塩酸とメタノールが1:1で混合された混合溶液に浸し、脱イオン水で洗浄した。活性化されたガラス基板を、0.5mMのメルカプトプロフィールシラストレイン(mercaptosilatrane)を含有するメタノールに暗条件で1時間培養(incubation)してチオール化した後、メタノールで洗浄して使用した。製造した自己己集合複合体の形態を確認するため、走査電子顕微鏡(EM)で観察した。
【0043】
用意されガラス基板を6ウェルプレートに固定し、1xPBS溶液と塩化カルシウム溶液2mL(100mmol/L)をカバーガラスの全ウェルに添加した。次に、ガラス基板を配置して添加された溶液に浮かないようにし、プレートにパラフィルムで封止・コーティングを施し、37℃のインキュベーターに保管した。
【0044】
更に、放出分析のために、1日、3日、7日、14日、21日、28日ごとに1つ~6つのウェルからサンプル溶液(200μl)を採取し、抽出分を外部溶液で補充した。
【0045】
採取された溶液を、4℃で1.5mLのマイクロチューブに保存した。1日、3日、7日、14日、21日、28日までに全ての溶液を抽出した後、分光法でマグネシウム(Mg2+)、ATP/AMP、アデノシン(有効成分)の放出濃度を測定した。
【0046】
更に、マグネシウム(Mg2+)の放出を評価して放出時間に伴うアデノシン(有効成分)の濃度の変化を測定するため、比色分析キット(colormetric assay kit、Biovision社)のプロトコルに従った。
【0047】
同様に、アデノシン放出の評価のために、アデノシン分析キット(abcam)を用いて、アデノシン濃度の経時変化を測定した。
【0048】
マルチウェルマイクロプレートリーダーとHidexの検出モデルを用いて603nm及び450nmの波長でマグネシウム(Mg2+)の吸収を測定し、アデノシンは、Ex/Em=535/575nmを用いて蛍光を測定した。
【0049】
28日後、ガラス基板を37℃で24時間、完全に乾燥させた後、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
【0050】
図2及び図3は、本発明の一実施例による自己集合複合体の走査電子顕微鏡(EM)画像である。図2は、実施例1の自己集合複合体の画像であり、図3は、実施例2の自己集合複合体の画像である。図2及び図3によると、自己集合複合体が0.5~1μmのサイズで形成されていることを確認できる。
【0051】
図4及び図5は、本発明の一実施例による外部イオンの種類及び濃度が異なる溶液ごとの自己集合複合体からのマグネシウムの経時累積放出量を示すグラフである。図4は、実施例1の自己集合複合体の外部溶液ごとのマグネシウムの経時累積放出量を示したグラフであり、図5は、実施例2の自己集合複合体の外部溶液ごとのマグネシウムの経時累積放出量を示したグラフである。図4及び図5は、PBSと塩化カルシウム外部溶液で培養された自己集合複合体から放出されるマグネシウムの量を測定したもので、実施例1及び実施例2の自己集合複合体の両方で28日間マグネシウムが持続的に放出されたことが分かる。また、PBS外部溶液と比べ、塩化カルシウム外部溶液からはるかに大量のマグネシウムが放出されたことを確認できる。塩化カルシウムからカルシウムイオンが提供され、マグネシウムイオンが放出されたのである。更に、ATPを含む自己集合複合体よりもAMPを含む自己集合複合体のマグネシウム放出量が高いことが分かる。
【0052】
これにより、薬物送達中に自己集合複合体からのマグネシウムイオン放出が必要であることが分かった。また、放出されたマグネシウムイオンは、組織に重要な要素であるので、人体に無害である。送達された部位でマグネシウムイオンの迅速に吸収されると、生物学的機能がより増加する。
【0053】
図6及び図7は、本発明の一実施例による外部イオンの種類及び濃度が異なる溶液ごとの自己集合複合体からのアデノシンの経時累積放出量を示すグラフである。図6は、実施例1の自己集合複合体の外部溶液ごとのアデノシンの経時累積放出量を示すグラフであり、図7は、実施例2の自己集合複合体の外部溶液ごとのアデノシンの経時累積放出量を示すグラフである。
【0054】
図6及び図7は、PBSと塩化カルシウム外部溶液で培養された自己集合複合体から放出される有効成分であるアデノシンの量を測定したもので、実施例1及び実施例2の自己集合複合体の両方で28日間有効成分(アデノシン)が持続的に放出されたことが分かる。PBSの下でアデノシンの放出が最小値を記録しているが、これはマグネシウムイオンの損失が増加したことを示す。それに対して、塩化カルシウムの下における自己集合複合体からのマグネシウムイオンとアデノシンのより速い放出は、複合体で発見されるイオンの安定化メカニズムが不足しているためと思われる。また、アデノシンは、骨形成分化を調整し、カルシウム依存性骨代謝に著しい影響を及ぼす一方、それを調整する。アデノシンのこのような長所を考慮し、マグネシウム系ATP/AMP依存性自己集合複合体は、生体医学応用分野において機能的担体の役割を担う。
【0055】
図8及び図9は、本発明の一実施例による自己集合複合体の薬物放出より28日に撮像した後走査電子顕微鏡(SEM)画像である。図8は、実施例1の自己集合複合体の画像であり、図9は、実施例2の自己集合複合体の画像である。
【0056】
図8及び図9によると、28日後に自己集合複合体が完全に放出された後、走査型電子顕微鏡を使用して複合体の解離度を確認することができる。これは、ATPやAMPとアデノシンと共にマグネシウムイオンの漸進的な放出を維持する自己集合複合体の潜在的な放出を示す。また、局所濃度のカルシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンの放出が全て増加すると、自己集合複合体からATP/AMPとアデノシンの放出が更に促進されて、天然分子の送達アプローチを誘導することができ、生物医学応用分野において、安全且つ非毒性であるため、物理的・生物学的機能を更に向上できる。
【0057】
結論として、本発明による自己集合複合体は安定的であり、放出時によく定義された構造を示すので、生物医学応用分野における機能的、或いは自然の分子送達システムの合成に有用なツールとなり得る。
図1
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図9