(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064821
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】歯周病の予防又は改善用食品組成物、歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化用食品組成物、骨吸収抑制用食品組成物、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20220419BHJP
A61K 36/05 20060101ALI20220419BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20220419BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20220419BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20220419BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220419BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220419BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220419BHJP
A61K 8/9722 20170101ALI20220419BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K36/05
A61P1/02
A61P19/08
A61P19/10
A61P19/02
A61P29/00 101
A61Q11/00
A61K8/9722
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089574
(22)【出願日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2020173402
(32)【優先日】2020-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】安田 光佑
(72)【発明者】
【氏名】中島 綾香
(72)【発明者】
【氏名】久野 斉
(72)【発明者】
【氏名】小松 さと子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LE01
4B018MD89
4B018ME05
4B018ME14
4B018MF06
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4B018MF13
4C083AA111
4C083AA112
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4C088NA14
4C088ZA67
4C088ZA96
4C088ZA97
4C088ZB15
(57)【要約】
【課題】歯周病や骨粗鬆症などの骨吸収性疾患を治療、予防、改善することが可能な食品組成物や医薬を提供する。
【解決手段】コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯周病の予防又は改善用食品組成物、歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化用食品組成物、骨吸収抑制用食品組成物、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤である。コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質としては、コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末が例示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯周病の予防又は改善用食品組成物。
【請求項2】
前記有効成分が、前記コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の歯周病の予防又は改善用食品組成物。
【請求項3】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯周病の予防又は治療剤。
【請求項4】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯周病菌に対する抗菌剤。
【請求項5】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物。
【請求項6】
前記骨吸収性疾患が、歯周病における歯槽骨吸収、抜歯後の歯槽骨吸収、歯槽骨増生術後の骨吸収、骨粗鬆症、骨減少症、関節リウマチにおける炎症性骨吸収、骨ページェット病、多発性骨髄腫における骨吸収、又はそれらの2以上の組み合わせであることを特徴とする請求項5に記載の骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物。
【請求項7】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収性疾患の予防又は治療剤。
【請求項8】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯強化用食品組成物。
【請求項9】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収抑制用食品組成物。
【請求項10】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収抑制剤。
【請求項11】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする破骨細胞分化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病の予防又は改善用食品組成物、歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化用食品組成物、骨吸収抑制用食品組成物、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
歯や骨の健康は、高齢化社会におけるQOLの観点から非常に重要である。歯周病は、歯周病菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患であり、歯と歯肉の境目に歯周病菌が停滞して歯垢が蓄積し、歯肉の辺縁が炎症を起こす。歯周病が進行すると、歯を支える歯槽骨が溶けてしまう。また、歯周病菌は、生体に様々な悪影響を及ぼすことが示唆されており、糖尿病を悪化させるほか、近年では認知症との関連も指摘されている。従って、歯周病は単に歯が抜けるというだけでなく、重大な疾患の発症に関与しているため、早期の診断および治療、並びに予防のための有効な手段が望まれている。
【0003】
また、近年、中高年層における骨粗鬆症の増加や、若年層における骨折率の増加など、各種骨疾患の増加が社会的な課題となっている。骨粗鬆症に起因する大腿骨頸部の骨折、脊椎の圧迫骨折などによって、寝たきりの状態となってしまうことがある。加齢とともに骨密度が低下して骨粗鬆症を発症することを予防する観点からも、骨を強化することや骨量を増加させることが重要である。
【0004】
例えば、特許文献1には、関節リウマチや歯周病等の炎症性骨破壊に起因する疾患や骨粗鬆症等の代謝性骨疾患の予防や治療に用いることが可能な破骨細胞形成抑制剤に関し、硫酸化グリコサミノグリカン又はその塩を有効成分として含有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
歯周病や骨粗鬆症などの骨吸収性疾患は、今後益々、大きな社会問題になっていくことが予想され、これらの症状を治療、予防、改善することが求められている。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、歯周病や骨粗鬆症などの骨吸収性疾患を治療、予防、改善することが可能な食品組成物や医薬等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末(藻体)が、歯周病菌に対して優れた増殖抑制作用を示すとともに、前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制する作用を示すことを見出した。
主として上記の成果及び考察に基づき、以下の発明が提供される。
[1]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯周病の予防又は改善用食品組成物。
[2]前記有効成分が、前記コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末から選択される少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の歯周病予防又は改善用食品組成物。
[3]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯周病の予防又は治療剤。
[4]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯周病菌に対する抗菌剤。
[5]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物。
[6]前記骨吸収性疾患が、歯周病における歯槽骨吸収、抜歯後の歯槽骨吸収、歯槽骨増生術後の骨吸収、骨粗鬆症、骨減少症、関節リウマチにおける炎症性骨吸収、骨ページェット病、多発性骨髄腫における骨吸収、又はそれらの2以上の組み合わせであることを特徴とする請求項[5]に記載の骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物。
[7]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収性疾患の予防又は治療剤。
[8]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする歯強化用食品組成物。
[9]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収抑制用食品組成物。
[10]コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする骨吸収抑制剤。
[11]
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有することを特徴とする破骨細胞分化抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食品としても利用されているコッコミクサ属に属する微細藻類を有効成分とし、歯周病や骨粗鬆症などの骨吸収性疾患を治療、予防、改善することが可能な食品組成物や医薬等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】破骨細胞分化抑制試験(試験1)の結果を示すグラフである。
【
図2】破骨細胞分化抑制試験(試験1)の結果を示す細胞のTRAP染色像である。
【
図4】歯茎のPg菌数測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、
図1乃至
図8、表1及び表2を参照しながら説明する。
本実施形態は、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有する歯周病の予防又は改善用食品組成物、歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化用食品組成物、骨吸収抑制用食品組成物、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤に関するものである。
【0012】
<歯周病>
歯周病は歯周疾患とも呼ばれ、歯肉病変と歯周炎とに大別される。歯周病は、非プラーク性歯肉疾患を除き、歯周病原細菌によって引き起こされる感染性炎症性疾患であり、歯肉、セメント質、歯根膜および歯槽骨よりなる歯周組織に起こる疾患をいう。歯周病は、口臭、歯肉の腫れ、歯肉の痛み、歯肉の発熱、くしゃみ、鼻水等の症状を発生させ、更に悪化すると、歯根膜疾患、歯肉のポケットの発生及び歯槽骨の減損を生じ、歯の動揺や脱落を発生させる。歯周病は、歯垢や歯石を放置しておくことにより発生する。
【0013】
歯石は、歯垢にカルシウムやリンなどの無機質が沈着した石灰化物で、歯の表面に極めて強固に付着している。また、歯石は歯垢の増加因子と考えられており、歯垢の付着を増進すると共に、歯垢の除去を困難にする。このように、歯垢と歯石が大量に沈着し、その中でポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)などの歯周病菌が慢性的に増殖する時、歯周病が発生する。
【0014】
また、後述するように、歯周病は、骨吸収性疾患の一種であるため、歯周病を治療、予防、改善等するためには、歯周病菌の増殖を抑制することや、骨吸収を防ぐこと(破骨細胞分化を抑制すること)が効果的である。
【0015】
(ポルフィロモナス・ジンジバリス)
歯周病の原因菌は10種以上存在するが、最も重要な病原菌はポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)である。ポルフィロモナス・ジンジバリスは、バクテロイデス門に属し、非運動性のグラム陰性偏性嫌気性で病原性の桿菌であり、歯肉溝、所謂、歯周ポケットに生息するコラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ等の分解酵素の発現誘導や、菌由来のリポポリサッカライドが炎症を引き起こすことが知られている。ポルフィロモナス・ジンジバリスは、歯垢の中に入り込み、自らの生存のためにプロテアーゼなどの酵素を放出する。この酵素により歯肉に炎症がおこり、歯周病の始まりである歯肉炎を発症する。
【0016】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、ポルフィロモナス・ジンジバリスなどの歯周病原菌に対して、増殖抑制作用を示すため、歯周病を治療、予防、改善等することが可能である。
【0017】
<破骨細胞による骨吸収>
骨組織は、骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨吸収とを繰り返すことで、骨及びカルシウムの代謝を調節して動的にリモデリングを行っており、通常は、骨形成と骨吸収のバランスが保たれて骨の新陳代謝が行われる。骨芽細胞と破骨細胞の機能バランスに異常が生じた場合、動的平衡状態が破綻し、骨密度が低下したり、骨密度が過剰に増加したりして、骨粗鬆症や骨大理石病などの代謝性骨疾患が生じる。
【0018】
骨粗鬆症では骨吸収が骨形成を大きく上回った結果骨量が減少するため、骨粗鬆症の治療においては、骨吸収を抑制することが重要となる。また、関節リウマチや歯周病等においても炎症反応に伴って骨吸収が生じることから、同様に骨吸収を抑制する必要がある。さらに、抜歯に起因する歯槽骨の吸収もあるが、いずれの疾患においても、骨吸収部位では活性化された破骨細胞が骨吸収を促進している。したがって、歯周病を含む骨吸収性疾患の予防や治療の観点から、骨吸収を防ぐために破骨細胞分化(つまり、破骨細胞形成)を抑制することが重要となる。
【0019】
本明細書において、「破骨細胞分化抑制」とは、前駆細胞から破骨細胞への分化を抑制することを意味する。コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、破骨細胞分化を抑制する作用を有するため、骨吸収性疾患の治療、予防、改善等に用いることができる。
【0020】
<骨吸収性疾患>
本明細書において、「骨吸収性疾患」とは、骨吸収が骨形成を上回ることに起因する疾患、症状又は状態を意味し、例えば、歯周病(歯周疾患)における歯槽骨吸収、抜歯後の歯槽骨吸収、歯槽骨増生術後の骨吸収、骨粗鬆症、骨減少症、関節リウマチにおける炎症性骨吸収、骨ページェット病、多発性骨髄腫における骨吸収等の1又は2以上の組み合わせが挙げられる。
【0021】
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、歯周病(歯周疾患)における歯槽骨吸収、抜歯後の歯槽骨吸収、歯槽骨増生術後の骨吸収、骨粗鬆症、関節リウマチ等の骨吸収性疾患に、より好適に適用され、歯周病(歯周疾患)における歯槽骨吸収に対して特に好適に適用される。
【0022】
[有効成分について]
本発明において、有効成分として用いられるコッコミクサ属に属する微細藻類の藻体又はその乾燥粉末から選択される少なくとも1種である。
【0023】
<コッコミクサ属微細藻類>
本発明において、有効成分として用いられるコッコミクサ属(Coccomyxa)微細藻類は、特に限定されるものではないが、好ましい例として、コッコミクサ sp. KJ株又はその変異株を挙げることができる。コッコミクサ sp. KJ株(KJデンソー)は、2013年6月4日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM P-22254として寄託され、2015年6月2日付でプタベスト条約の規定下で受託番号FERM BP-22254として国際寄託に移管されている。なお、以前のシュードココミクサ属(Pseudococcomyxa)は、最新の分類ではコッコミクサ属に含まれることになった(参考文献:PLoS One. 2015 Jun 16;10(6):e0127838. doi: 10.1371/journal.pone.0127838. eCollection 2015.)。
【0024】
コッコミクサ sp. KJ株の変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、変異原処理、重ビーム照射、遺伝子操作(外来遺伝子の導入、遺伝子破壊、ゲノム編集による遺伝子改変等)等によって得ることができる。有効成分として活性を示す変異株の取得方法、特性等は特に限定されない。
【0025】
コッコミクサ属微細藻類の培養方法は特に限定されない。コッコミクサ属微細藻類を培養するための培地としては、微細藻類の培養に通常使用されているものでよく、例えば、各種栄養塩、微量金属塩、ビタミン等を含む公知の淡水産微細藻類用の培地、海産微細藻類用の培地のいずれも使用可能である。培地としては、例えば、AF6培地が挙げられる。AF6培地の組成(100mlあたり)は以下のとおりである。
NaNO3 14mg
NH4NO3 2.2mg
MgSO4・7H2O 3mg
KH2PO4 1mg
K2HPO4 0.5mg
CaCl2・2H2O 1mg
CaCO3 1mg
Fe-citrate 0.2mg
Citric acid 0.2mg
Biotin 0.2μg
Thiamine HCl 1μg
Vitamin B6 0.1μg
Vitamin B12 0.1μg
Trace metals 0.5mL
Distilled water 99.5mL
【0026】
栄養塩としては、例えば、NaNO3、KNO3、NH4Cl、尿素などの窒素源、K2HPO4、KH2PO4、グリセロリン酸ナトリウムなどのリン源が挙げられる。また、微量金属としては、鉄、マグネシウム、マンガン、カルシウム、亜鉛等が挙げられ、ビタミンとしてはビタミンB1、ビタミンB12等が挙げられる。
【0027】
培養方法は、通気条件で二酸化炭素の供給とともに攪拌を行えばよい。その際、蛍光灯で12時間の光照射、12時間の暗条件などの明暗サイクルをつけた光照射、又は、連続光照射して培養する。培養条件も、コッコミクサ属微細藻類の増殖に悪影響を与えない範囲内であれば特に制限はされないが、例えば培養液のpHは3~9とし、培養温度は10~35℃にする。
【0028】
尚、コッコミクサ sp. KJ株の培養方法に関しては、特開2015-15918、WO2015/190116A1、Satoh, A. et al., Characterization of the Lipid Accumulation in a New Microalgal Species, Pseudochoricystis ellipsoidea (Trebouxiophyceae) J. Jpn. Inst. Energy (2010) 89:909-913.等が参考になる。
【0029】
有効成分として、藻体又はその乾燥粉末(第1態様)が用いられる。以下、態様について説明する。尚、通常は、藻体又はその乾燥粉末のいずれかが有効成分となるが、これら両者を有効成分として用いることを妨げるものではない。
【0030】
<藻体又はその乾燥粉末>
この態様では、藻体又はその乾燥粉末を有効成分として用いる。乾燥粉末は、回収した藻体を乾燥処理と破砕(粉砕)処理に供することによって調製することができる。乾燥処理としては例えば、ドラムドライ、スプレードライ、凍結乾燥等を採用することができる。破砕処理には、ビーズ式破砕装置、ホモジナイザー、フレンチプレス、ミキサー/ブレンダー、微粉砕機等を利用することができる。乾燥処理と破砕処理の順序は問わない。また、乾燥及び破砕の機能を備えた装置を利用し、乾燥処理と破砕処理を同時に行うことにしてもよい。
【0031】
乾燥粉末の粒子径は特に限定されない。例えば、平均粒子径が0.2μm~2mm、好ましくは0.4μm~400μmの乾燥粉末にする。
【0032】
[コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質の用途について]
コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、歯周病の予防又は改善用食品組成物、歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は改善用食品組成物、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化用食品組成物、骨吸収抑制用食品組成物、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤の有効成分として用いることが可能である。
【0033】
<歯周病の予防又は治療剤>
本実施形態に係る歯周病の予防又は治療剤は、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分とする歯周病の予防又は治療剤である。本実施形態に係る歯周病の予防又は治療剤は、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質が有する、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)などの歯周病菌に対する増殖抑制作用及び/又は破骨細胞分化抑制作用によって、歯周病を予防したり、改善したり、治療するものである。
【0034】
<骨吸収性疾患の予防又は治療剤>
「骨吸収性疾患の予防又は治療剤」とは、骨粗鬆症を予防したり、改善したり、治療するための剤のことをいう。本実施形態に係る骨吸収性疾患の予防又は治療剤は、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質による破骨細胞分化抑制作用や、骨吸収抑制作用によって、骨吸収性疾患を予防したり、改善したり、治療するものである。
【0035】
<破骨細胞分化抑制剤>
本実施形態に係る破骨細胞分化抑制剤は、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分とする破骨細胞分化抑制剤である。本実施形態に係る破骨細胞分化抑制剤は、前駆細胞が破骨細胞へと分化することを抑制するものである。
【0036】
<骨吸収抑制剤>
「骨吸収抑制」とは、骨吸収速度を減少または停止させることを意味する。本実施形態に係る骨吸収抑制剤は、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分とする骨吸収抑制剤である。本実施形態に係る骨吸収抑制剤は、前駆細胞が破骨細胞へと分化することを抑制することにより、骨の吸収を抑制するものである。
【0037】
<歯強化剤>
「歯強化剤」とは、歯を強化する剤のことをいう。歯の強化は、例えば、歯の強度や歯の質などの指標によって評価することができるが、評価の基準は、これらの指標に限定されるものではない。本実施形態に係る歯強化剤は、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質による破骨細胞分化抑制や、骨吸収抑制作用によって、歯を強化するものである。
【0038】
[コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を含有する組成物について]
本実施形態に係るコッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含む歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化剤、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤は、薬理学的に許容され得る添加剤を加え、食品組成物、口腔組成物、医薬組成物、飼料組成物等の組成物等として用いることができる。
【0039】
(食品組成物、食品添加物及び飼料組成物)
本実施形態のコッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、食品組成物や食品添加物として用いることが可能である。本実施形態の食品組成物は、歯周病の予防又は改善作用、抗菌作用、骨吸収性疾患の予防又は改善作用、歯強化作用、骨吸収抑制作用及び破骨細胞分化抑制作用を有効に発揮できる量のコッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を食品素材として、各種食品に配合することにより、当該作用を有する食品組成物を提供することができる。
【0040】
すなわち、本発明は、食品や飼料(餌)の分野において、骨強化用等と表示された食品組成物や飼料組成物を提供することができる。当該食品組成物としては、一般の食品のほか、特定保健用食品、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等が挙げられる。また、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、食品添加物、飼料組成物(家畜の餌、ペットフード、愛玩動物用食品、愛玩動物用栄養補助食品)として用いることもできる。
【0041】
当該食品組成物としては、例えば、調味料、畜肉加工品、農産加工品、飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、濃縮飲料、菓子類(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル等が挙げられる。また、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等の場合、カプセル、チュアブル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末等の形状であっても良い。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。
【0042】
ここで、特定保健用食品とは、生理学的機能等に影響を与える保健機能成分を含む食品であって、消費者庁長官の許可を得て特定の保健の用途に適する旨を表示可能なものである。本発明においては、特定の保健用途として、「歯周病関連菌の増殖を抑制する」、「歯ぐきの状態を健康に保つ働きがある」、「歯を丈夫で健康にする」、「骨代謝の働きを助けることにより骨の健康維持に役立つ」、「骨の成分を維持する働きによって、骨の健康に役立つ」、「骨の成分の維持に役立つ」、「骨代謝のはたらきを助けることにより、骨の健康維持をサポートする」、などと表示して販売される食品となる。
【0043】
また、栄養機能食品とは、栄養成分(ビタミン、ミネラル)の補給のために利用される食品であって、栄養成分の機能を表示するものである。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が定められた上限値、下限値の範囲内にある必要があり、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等もする必要がある。
【0044】
また、機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品である。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものである。
【0045】
本実施形態に係る食品組成物、食品添加物及び飼料組成物には、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質に加え、通常食品組成物に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤、pH調整剤などの、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0046】
本実施形態に係る食品組成物には、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質以外に、歯周病の予防又は治療作用、抗菌作用、骨吸収性疾患の予防又は治療作用、歯強化作用、骨吸収抑制作用及び破骨細胞分化抑制作用があることが知られている物質を1種以上添加することも可能である。
【0047】
(医薬組成物)
本実施形態のコッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、医薬組成物として用いることが可能である。本実施形態の医薬組成物は、歯周病の予防又は治療作用、歯周病菌に対する抗菌作用、骨吸収性疾患の予防又は治療作用、歯強化作用、骨吸収抑制作用及び破骨細胞分化抑制作用を有効に発揮できる量のコッコミクサ属に属する微細藻類由来物質と共に、薬学的に許容される担体や添加剤を配合することにより、当該作用を有する医薬組成物が提供される。なお、当該医薬組成物は、医薬品であっても医薬部外品であってもよい。
【0048】
当該医薬組成物は、内用的に適用されても、また外用的に適用されても良く、製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤(軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、液剤、ゲル剤、パップ剤、プラスター剤、テープ剤、エアゾール剤等)、及び座剤である。医薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(患部への局所注入、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。また、全身的な投与と局所的な投与も対象により適応される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。
【0049】
本実施形態に係る医薬組成物には、薬学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、デキストリン、マルチトール等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0050】
本実施形態に係る医薬組成物には、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質以外に、歯周病の予防又は治療作用、抗菌作用、骨吸収性疾患の予防又は治療作用、歯強化作用、骨吸収抑制作用及び破骨細胞分化抑制作用があることが知られている物質を1種以上添加することも可能である。
【0051】
(口腔用組成物)
本実施形態のコッコミクサ属に属する微細藻類由来物質は、口腔用組成物として好適に用いることが可能である。本実施形態の口腔用組成物の使用形態としては、例えば、練り歯磨、液状歯磨、潤製歯磨等の歯磨類、洗口液(マウスウォッシュ)、うがい用錠剤、口腔用パスタ、トローチ、キャンディ、ガムなどとして好適に調製されるものである。
【0052】
また、本実施形態の口腔用組成物は、その剤型に応じ、上記必須成分に加えて、任意成分としてその他の添加剤を配合することができる。歯磨類の場合は、例えば、研磨剤、粘結剤、粘稠剤、界面活性剤、甘味剤、防腐剤、香料、着色剤、その他の抗菌剤など各種有効成分などを配合することができ、これらの成分を水と混合することにより製造することができる。
【0053】
<用法・用量、投与対象>
本実施形態の歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化剤、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤の用法としては、例えば、粉末剤、カプセル剤、錠剤、顆粒、液剤又はシロップ等によって経口投与すると良い。
【0054】
本発明の医薬や組成物等には、期待される効果を得るために必要な量(即ち治療又は予防上有効量)の有効成分が含有される。本発明における有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約99重量%の範囲内で設定する。
【0055】
本発明の医薬や組成物等の投与量は、期待される効果が得られるように設定される。治療又は予防上有効な投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与量の例を示すと、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が1mg~20mg、好ましくは2mg~10mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の状態や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【0056】
以上の記述から明らかな通り本願は、歯周病や骨吸収性疾患に罹患した対象又は罹患するおそれのある対象に対して、本発明の歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化剤、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤を含む医薬や組成物を、治療、改善、又は予防上有効量投与することを特徴とする、歯周病や骨吸収性疾患を治療、改善又は予防する方法も提供する。治療、改善又は予防の対象は典型的にはヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物(例えばサル、ウシ、ブタ、ヒツジ、ネコ、ウサギ、イルカ等)、鳥類、爬虫類等に適用することにしてもよい。
【0057】
また、歯周病の罹患率が高いことが報告されている女性、特に歯周病の悪化に関与する女性ホルモンのバランスが大きく変化する思春期、妊娠・出産期、更年期、閉経後の女性に対して、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含む治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化剤、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤を含む医薬や組成物を投与し、又は摂取させることができる。
【0058】
また、閉経後の女性においては、閉経による女性ホルモンの減少が骨吸収を促進させ、骨粗鬆症などの骨吸収性疾患の誘因となっているため、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質が備える、骨吸収抑制作用、破骨細胞分化抑制作用により、骨を強化したり、骨密度を増加させたりすることで骨吸収性疾患を予防することができる。
【0059】
さらに、40歳以降の年齢のヒトに、特に60歳または65歳以上の高齢者にコッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を有効成分として含有する本発明の歯周病の予防又は治療剤、歯周病菌に対する抗菌剤、骨吸収性疾患の予防又は治療剤、歯強化剤、骨吸収抑制剤及び破骨細胞分化抑制剤を含む医薬や組成物を投与することができる。40歳以上のヒト、特に60歳または65歳以上の高齢者は、加齢によって歯周病や骨吸収性疾患に罹患しやすい傾向があるが、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質が有する、各種作用により、歯周病や骨吸収性疾患に罹患することを抑制することができる。
【実施例0060】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例では、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質として、コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体の乾燥粉末(藻体)を用い、抗菌試験、破骨細胞分化抑制試験及び健常者の口腔環境に及ぼす影響について試験を行った。
【0061】
<実施例1:コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末(藻体)の調製>
既報の方法に準じてコッコミクサ sp. KJ株を培養した。具体的には、AF6培地にコッコミクサ sp. KJ株を植藻した後、2%CO2(v/v)を通気し、光(300μmol/m2/s)を照射しながら室温(25℃)で48時間培養した。培養液から遠心分離により藻体を回収した。回収した藻体をドラムドライヤで乾燥させるとともに微粉砕機で粉砕し、粉末状とした(藻体の乾燥粉末)。
【0062】
<試験1:破骨細胞分化抑制試験>
(試験方法)
骨吸収の抑制を評価するin vitro試験法として、RAW264.7細胞株(マウスマクロファージ細胞、供給源:ATCC、カタログ番号:TIB-71)からの破骨細胞の初期分化阻害試験を行った。破骨細胞試験の評価は、初期分化マーカーである酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)活性の測定とTRAP染色とによって行った。
RAW264.7細胞株を増殖培地(10%ウシ胎児血清(FBS)、1%Penicillin-Streptomycinを添加したDMEM)を用いてT75フラスコに起眠し、CO2インキュベーター(5%CO2存在下、37℃、湿潤条件、以下、CO2インキュベーター条件は同じ)で培養した。培地は2日おきに交換した。80%コンフルエントに到達した時点で培養を終了し、セルスクレーパーを用いて細胞を剥離、回収、遠心(180g、5分、室温)後、新たな増殖培地に懸濁し、5,000cells/0.1mL/ウェルで96ウェルプレートに播種し、CO2インキュベーターで培養した。翌日、RANKL添加分化培地のみの培地、被験物質+RANKL添加分化培地、または陽性対照としてヘパリン+RANKL添加分化培地(分化培地は、10%charcoal stripped FBS、1%Penicillin-Streptomycin、50ng/mL RANKL添加MEMα)と交換し、CO2インキュベーターで3日日間培養した後、TRAP染色およびTRAP活性定量を行った。被験物質には、コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末を用いた。
【0063】
(TRAP染色)
各ウェルから培地を除去し、10%中性緩衝ホルマリン溶液(100μL)で細胞を5分間固定した。次に、各ウェルを超純水(100μL)で1回洗浄した後、TRAP染色液(TRAP染色キットの発色基質1vialに緩衝液5mLを加え溶解して調製)50μLに交換し、37℃で40分間インキュベートし、TRAP染色した。超純水(100μL)で1回洗浄した後、各ウェル中央部を1枚ずつ明視野撮影した。視野中の一定面積以上のTRAP陽性多核(3核以上)破骨細胞をカウントし、破骨細胞数を定量した。
【0064】
(TRAP活性測定)
各ウェルを0.9%塩化ナトリウム水溶液(100μL)で1回洗浄した後、TRAP反応基質液(TRAP&ALP活性測定キット附属のpNPP substrate 1vialに酸性ホスファターゼ用緩衝液5mLを加え溶解した後、酒石酸溶液0.5mLを添加して調製)50μLに交換し、37℃で30分間インキュベートした。各ウェルに0.5N水酸化ナトリウム水溶液を50μL添加して反応を停止した後、プレートリーダーで吸光度(測定波長405nm)を測定し、相対吸光度を相対TRAP活性とした。
【0065】
(試験1の結果)
結果を
図1及び
図2に示す。
図1にTRAP活性測定の結果を示す。RANKL(促進物質)のみを添加した場合のTRAP活性を100として相対的に比較した。その結果、コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末であるKJ乾燥粉末(実施例1)が破骨細胞の分化を抑制した。
図2の染色像では、促進物質のみの場合、巨大化した破骨細胞が確認されたが、乾燥粉末(実施例1)を添加した場合、破骨化が強力に抑制されており、既知の破骨細胞分化抑制物質であるヘパリンと比較しても遜色のない良好な破骨細胞に対する分化抑制作用を示すことが確認された。
【0066】
<試験1のまとめ>
試験1の結果から、コッコミクサ属に属する微細藻類の藻体が破骨細胞分化抑制作用を示すことが明らかとなった。したがって、コッコミクサ属に属する微細藻類由来物質を、歯周病や骨吸収性疾患に対する治療、予防、改善するために用いることができることがわかった。
【0067】
<試験2:歯周病モデルマウスを用いた歯周病軽減効果確認試験>
試験2では、予めコッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末(実施例1)を投与したマウスに歯周病菌を接種させた後、歯周組織を採取してPg菌及び破骨作用低減について検討を行った。本試験では、上顎後臼歯結紮およびPg菌塗布によって歯周病を惹起させたモデルマウスを用いた。
【0068】
(材料及び方法)
供試動物:C57BL/6Jオスマウス(約6週齢,日本SLC)
被験物質:コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末であるKJ乾燥粉末(実施例1)
投与量:15mg/day(150mgのKJ/ml-0.2%カルボキシメチルセルロース水溶液を0.1ml)
基礎飼料:MF(オリエンタル酵母)
使用菌株:Porphyromonas gingivalis 381株(Pg菌、日本大学歯学部細菌学教室から分与)を嫌気状態にしたGAMブイヨン(日水製薬)でプラトーまで培養した。菌体を遠心分離(3,000r.p.m.×5分)にて回収後、5%CMC添加GAMブイヨンで1×1010CFU/mLとなるように再懸濁した。なお、CFU測定はGAM寒天培地を用い、事前に1度だけ測定を行った。その後の菌液塗布時は同様の培養条件で培養を行った。なお、毎日顕微鏡観察による菌数測定を実施した。
【0069】
(試験設定)
試験群は、(1)無菌液塗布+プラセボ塗布対照群(HC群、8匹)、(2)Pg菌液塗布+プラセボ塗布対照群(IC群、10匹)、(3)Pg菌液塗布+被験物質塗布群(IO群、10匹)、(4)Pg菌液塗布+被験物質強制経口投与群(IG群、11匹)の計4群とした。
【0070】
(飼育)
スケジュールを
図3に示す。
6周齢マウスを導入後、4ケージに無作為に群分けし、プラスティックケージ内に群毎に収容した。4日間施設及び飼料馴化を行った。馴化終了後、(2)IC群、(3)IO群、(4)IG群には麻酔下で5-0絹糸を上顎第2後臼歯に巻き付け結紮して固定した。その後、麻酔下で上顎の糸が外れていないことを確認し,結紮マウスを平均体重が同等になるようにIC(10匹),IO(10匹)及びIG群(11匹)へと再度群分けし、試験を開始した。(3)IO群には被験物質の濃度が0.15g/mLとなるように2%カルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液で懸濁した懸濁液0.1mLを歯周組織周辺に塗布した。(4)IG群には同様に調製した被験物質0.1mLを胃ゾンデで胃内へ投与した。(1)HC群及び(2)IC群には基材(2%CMC水溶液)0.1mLを同様に塗布した。塗布または投与は1日1回とし、剖検日まで継続して毎朝10時に投与した。
【0071】
7日間にわたり被験物質を塗布または投与し、その後、6日間連続でPg菌液を塗布した。菌液は1×1010CFU/mLになるように使用直前に懸濁し、毎日11時を目途に100μL塗布した。なお、塗布は左右の上顎付近に均等に塗布した。
【0072】
(剖検)
6日間のPg菌液塗布終了後、22日間被験物質塗布を継続し、その翌日全頭剖検を行った。3種混合麻酔下(ドミトール、ドルミカム及びベトルファール)で放血致死させた後、上顎を採取した。右上顎はホルマリン固定した。左上顎は歯茎を採取し、RNA-laterに浸漬し、冷蔵保存した。左上顎骨は骨吸収を確認するため、10分間煮沸後に3%過酸化水素水中で一晩浸漬した。軟部組織を除去した後、1%メチレンブルー液に浸漬し、染色した。メチレンブルー染色した左上顎骨の頬側を写真撮影し歯槽骨の吸収評価に供した。
【0073】
Pg菌数測定:抽出・転写したcDNAを用いて、Pg菌数をreal-time PCRで測定した。測定法はAshimoto et al(1996)に準拠した。Pg菌の検出結果は検量線範囲内(検量線下限値は、19,000 cells/g)にPg菌が検出された個体を2、範囲外の個体を1、Pg菌を検出できなかった個体を0としてスコア化し、比較した。
【0074】
歯槽骨の吸収評価:メチレンブルー染色した左上顎骨の頬側を写真撮影し、歯槽骨吸収を計測した。臼歯のセメント質エナメル質境界から歯槽骨頂までの距離を、第1後臼歯については3箇所、第2後臼歯と第3後臼歯については2箇所計測し、それぞれ平均値を算出し、歯槽骨吸収の評価に用いた。
歯槽骨の吸収量(μm)=セメントエナメル境-歯槽骨頂部の距離とした。
また、被験物質を塗布または投与した群(IO群又はIG群)の歯槽骨吸収抑制率(%)=[(IC群の吸収量)-(IO群又はIG群)]/[(IC群の吸収量)-(HC群の吸収量)]×100とした。
【0075】
(試験2の結果)
図4は、歯茎のPg菌数測定の結果を示すグラフである。検量線範囲内にPg菌が検出された個体を2、範囲外の個体を1、検出できなかった個体を0としてPg菌の検出スコアを示した。検出スコアの平均は、(1)HC群で0.38、(2)IC群で1.20、(3)IO群で0.50、(4)IG群で0.36と(2)IC群が最も高値を示し、次に(3)IO群、HC群、IG群の順に低値を示し、特にIC群はIG群よりも有意な高値を示した。IO、IG群はPg菌を塗布していないHC群のスコアと同等程度であったことから、歯周組織周辺へ塗布、胃内投与のいずれの摂取方法においても、被験物質がPg菌減少に寄与することがわかった。
【0076】
表1は、歯槽骨の吸収量の平均値を示す結果である。
図5に、第1、第2、第3後臼歯の歯槽骨吸収量について群間比較をした結果を示す。第2、第3後臼歯では、(3)IO群は(2)IC群よりも有意に低かった。一方、(2)IC群と(4)IG群間では有意差は認められなかった(
図5)。このことから被験物質の口腔内塗布によって確認された歯槽骨の吸収抑制効果は、消化器系を介するものではなく、被験物質が歯周組織に直接作用してもたらされたことが推察された。
【0077】
【0078】
さらに、第2、第3後臼歯について(1)HC群を基準に、被験物質の摂取が歯槽骨の吸収抑制にどの程度寄与したかを歯槽骨吸収抑制率とした。表2は、歯槽骨(第2後臼歯、第3後臼歯)の歯槽骨吸収の抑制率を示す結果である。
【0079】
【0080】
第2、第3後臼歯共に(3)IO群の歯槽骨吸収抑制率が最も高かった。このことから、被験物質の摂取により歯周病を予防できる可能性が示唆され、キャンディ、チュアブル錠のように、被験物質が歯周組織へ直接作用できる方法で摂取すれば、さらに高い効果が期待できることが示唆された。ここで、絹糸の結紮を施した第2後臼歯だけでなく、第3後臼歯においても歯周病が惹起された理由は、歯が大きく、動きにくい第1後臼歯に比べ、第3後臼歯はかなり小さいため、第2後臼歯との歯間の絹糸から水平方向の力を受け、歯が動いたことによりPg菌の影響を受けやすくなったためと考えられる。
【0081】
<製造例1:チュアブル錠>
常法により、以下の成分を含有するチュアブル錠を製造した(1日摂取目安量:2粒)。
コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末(実施例1)
ラクトフェリン+ラクトパーオキシダーゼ
茶抽出物(カテキン含有)
ビタミンC
キシリトール
酸味料:リンゴ酸
風味剤:レモン果汁
滑沢剤:ステアリン酸カルシウム)
甘味料:イソマルツロース
【0082】
<試験3:被験食品の摂取が健常者の口腔環境に及ぼす影響:非盲検試験>
試験3では、コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末(実施例1、コッコミクサKJ)を含有する被験食品を健常な日本人成人男女に6週間摂取させ、口腔内環境に与える影響を検証した。
(介入)
(1)試験食品
・被験食品群:コッコミクサKJ含有食品
・被験食品(錠剤)の組成(1錠1,000mgあたり)は、コッコミクサ粉末100mg(実施例1)、デキストリン500mg、還元麦芽糖水飴385mg、ステアリン酸カルシウム15mgとした。
【0083】
(2)試験期間
介入期間:6週間
(3)用法・用量
被験食品群:1日1回1錠を、就寝前(歯磨きをする場合は歯磨き後)に口腔内でゆっくり溶かすように舐めて(噛まないで)摂取した。
【0084】
(4)摂取量・摂取方法・摂取期間の設定根拠
試験1の結果から、コッコミクサ sp. KJ株(コッコミクサKJ)はin vitroにおいて破骨細胞分化抑制効果を示すことが明らかであるため、口腔内でゆっくり溶かして摂取できるチュアブルタイプの形状(チュアブル錠)とした。さらに口腔内環境の改善効果検証の指標となる歯肉の状態変化には4~6週間を要することから、試験食品摂取期間を6週間と設定した。
【0085】
(測定項目)
(1)歯周病関連菌
・実施内容:各試験参加者から唾液を採集した。
・調査項目:P.gingivalis
・評価方法:スクリーニング兼摂取前検査時と摂取6週間後検査で測定した。
【0086】
(2)自覚症状
・実施内容:リッカートスケール法を用いて自覚症状を評価した。
・調査項目:「朝起きたとき、口の中がネバネバする」、「ブラッシング時に出血する」、「口臭が気になる又は人から口臭を指摘されたことがある」、「歯茎がむずがゆい又は痛い」、「歯茎が赤く腫れている」、「かたい物が噛みにくい」、「歯が長くなったような気がする」、「歯と歯の間に隙間がでてきた又は食べ物が挟まる」、「舌苔が気になる」
・評価方法:スクリーニング兼摂取前検査、摂取4週間後検査、摂取6週間後検査で測定する。摂取4週間後検査は自宅で実施した。
【0087】
(3)歯科検査
・調査項目:ジンジバルインデックス(Gingival Index:GI)、プラークインデックス(Plaque Index:PlI)、プロービング時の出血、歯周ポケットの深さ
・評価方法:GIは、各歯の辺縁歯肉を頬側、舌側、近心側、遠心側の4つに区分し、0(正常)、1(軽度の発赤:軽度の炎症)、2(発赤、腫脹:中等度の炎症)、3(強い炎症:強度の炎症)の4段階で評価する。GIは下記の式を用いて算出した。
GI=各歯面のスコアの合計/被験歯数
【0088】
PlIは各歯についてGIと同様の4歯面に区分し、4歯面について、0(プラークなし)、1(薄い被膜状のプラークが、歯面の遊離歯肉辺縁と歯間部に付着している。プラークは染色液やプローブを使用すると分かる。)、2(肉眼で見分けられる柔らかい付着物が中程度蓄積している。)、3(歯肉溝の中や歯面、歯肉辺縁部に多量の柔らかい付着物がある。)の4段階でスコア化する。4歯面のインデックスを合計し4で割ることで、その歯のインデックスを算出した。
【0089】
プロービング時の出血は、なし(-)、あり(+)で示し、GIと同様に各歯を4歯面に分け、プローブを用いた歯肉溝の深さの測定と併せて実施した。なお、プロービング前に出血が確認された場合は(++)で示す。スクリーニング兼摂取前検査時と摂取6週間後検査で測定した。
【0090】
(アウトカム:有効性評価項目)
(1)主要アウトカム
・摂取6週間後におけるP.gingivalisの実測値
・摂取6週間後におけるP.gingivalisの対数変換値
【0091】
(2)副次的アウトカム
・摂取4週間後および摂取6週間後における「朝起きたとき、口の中がネバネバする」、「ブラッシング時に出血する」、「口臭が気になる又は人から口臭を指摘されたことがある」、「歯茎がむずがゆい又は痛い」、「歯茎が赤く腫れている」、「かたい物が噛みにくい」、「歯が長くなったような気がする」、「歯と歯の間に隙間がでてきた又は食べ物が挟まる」、「舌苔が気になる」の実測値
・摂取6週間後におけるGI、PlIの実測値
・摂取6週間後におけるプロービング時の出血の実測値
・摂取6週間後における歯周ポケットの深さの実測値
【0092】
(サンプルサイズ)
・スクリーニング症例数:18名
・目標症例数:12名
・実施症例数:14名
・例数設計の根拠:試験の予算で実現可能な最大限の人数として、12名を目標症例数とする。また、試験期間中の脱落を考慮し、2名多く参加することとし、実施症例数は14名とした。
【0093】
(試験結果)
試験結果を以下に示す。
(1)試験参加者
試験3では健常な日本人成人男女を対象とした。試験参加に同意した20名のうち、適格基準を満たす14名を本試験に組み入れた。全員が試験を完遂し、遵守事項を違反した者や試験食品の摂取率が90%未満の者はいなかった。解析データセットは解析計画時に定めたPer protocol setおよびSafety analysis populationとし、計14名(男性5名、女性9名、52.6±9.9歳)であった。
【0094】
(2)歯周病関連菌
歯周病関連菌の各項目の平均値(Mean)と標準偏差(SD)、統計解析結果を
図6に示した。
図6では、各項目を平均値(Mean)と標準偏差(SD)で示し、対応のあるt検定を用いて群内比較した。対数値:有意差あり(P<0.001)、実数値:有意差あり(P<0.01)。有意差が認められた項目は、P.gingivalis(実数値)(Mean:4241.4→1716.6copies/10μL、P<0.010)、P.gingivalis(対数値)(Mean:3.4→3.0Log copies/10μL、P<0.001)であった。
【0095】
(3)自覚症状
自覚症状の各項目の中央値(Median)と四分位範囲(Q1:第1四分位数、Q3:第3四分位数)、統計解析結果を
図7に示した。
図7では、中央値(Median)、第1四分位数(Q1)、第3四分位数(Q3)で示し、Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて群内比較した。1:まったくあてはまらない、2:ほとんどあてはまらない、3:あまりあてはまらない、4:少しあてはまる、5:かなりあてはまる、6:非常にあてはまる。
摂取前(Scr)vs摂取6週間後(6w)
有意差が認められた項目(P<0.01)は、「朝起きたとき、口の中がネバネバする」(Median:4.0→3.0、Q1:4.0→3.0、Q3:5.0→4.0、P=0.008)であった。
【0096】
(4)歯科検査
歯科検査の各項目のMeanとSD、統計解析結果を
図8に示した。
図8では、平均値(Mean)と標準偏差(SD)で示し、対応のあるt検定を用いて群内比較した。
ジンジバルインデックス(GI)について、有意差が認められた項目は、GI(Mean:3.9→1.9、P<0.001)であった。
プラークインデックス(PlI)について、有意差が認められた項目は、下顎右側中切歯(Mean:1.1→0.8、P<0.010)、下顎右側第2小臼歯(Mean:1.1→0.8、P=0.018)、下顎右側第1大臼歯(Mean:1.2→0.9、P=0.020)、下顎左側中切歯(Mean:1.1→0.8、P=0.025)、下顎左側第1大臼歯(Mean:1.2→0.8、P=0.012)であった。
プロービング時の出血について、有意差が認められた項目は、プロービング前の出血(Mean:4.9→0.4面、P=0.035)であった。
【0097】
(考察)
試験3で設定した主要アウトカムの摂取6週間後におけるP.gingivalisの実測値および摂取6週間後におけるP.gingivalisの対数変換値は、摂取前よりも有意に低値を示した(P.gingivalisの実測値,P<0.010;P.gingivalisの対数変換値,P<0.001、
図6)。
【0098】
本試験の自覚症状の項目の「朝起きたとき、口の中がネバネバする」は、摂取前よりも摂取6週間後で有意に低値を示すことが確認された(P=0.008、
図7)。唾液の粘度は、歯周病患者の病態と関連することが報告されており、症状の悪化に伴い粘度が高くなることが分かっている。被験食品はP.gingivalisの減少により歯周組織の状態を改善したことで、口腔内の粘性が減少した可能性がある。つまり、コッコミクサ属微細藻類の乾燥粉末を含有するチュアブル錠などの食品組成物、口腔用組成物によれば、朝起きたときの口内のネバ付きを抑制するために用いることが可能である。
【0099】
また、本試験の歯科検査の各項目のジンジバルインデックス(GI)、プラークインデックス(PlI)は、摂取前よりも摂取6週間後で有意に低値を示すことが確認された(GI,P<0.001;PlI,P<0.010,P=0.018,P=0.020,P=0.025,P=0.012,P=0.035、
図8)。歯肉炎患者および健常者を対象とした先行研究において、P.gingivalisの菌数はGI、PlIなどと正の相関を示したことが報告されていることから、コッコミクサKJはP.gingivalisを減少させたことで、GI、PlIを改善した可能性がある。
【0100】
本試験の結果より、歯周病関連菌であるP.gingivalisの減少、GI、PlIの改善が確認されたことから、コッコミクサKJの摂取は健常者の口腔環境の向上に寄与したことが示唆された。
【0101】
また、被験食品は骨密度の上昇または維持に寄与する可能性がある。P.gingivalisなどのグラム陰性菌は、細胞壁外膜にあるリポ多糖(LPS)を口腔内に産生することで、炎症性サイトカインが発現される。LPSは炎症性サイトカインの産生に寄与するNF-κBを活性化させることで、骨の吸収に寄与する破骨細胞の分化を調整させることが知られており、破骨細胞は歯槽骨の吸収を高めること分かっている。
【0102】
歯周病モデルマウスにコッコミクサKJを胃内投与した試験2ではコッコミクサKJが歯槽骨吸収を抑制することが明らかにされており、またコッコミクサKJは破骨細胞の分化を抑制することも試験1で示されている。よって、コッコミクサKJの摂取は骨代謝に影響を与えることも十分に考えられる。
【0103】
(まとめ)
試験3では、健常な日本人成人男女を対象に、被験食品を6週間継続摂取させた際の口腔環境に及ぼす影響について検証した。被験食品の摂取により、P.gingivalisの有意な減少、GI、PlIの改善が確認されたことから、被験食品の経口摂取は口腔内環境向上に寄与することが示唆された。