(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022064910
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】副腎脊髄ニューロパチーの治療のためのABCD1をコードする核酸配列の髄腔内送達
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20220419BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220419BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220419BHJP
A61P 5/38 20060101ALI20220419BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20220419BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220419BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220419BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/113 Z ZNA
A61P25/00
A61P5/38
A61K35/76
A61K48/00
A61K31/7105
A61K31/713
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022005016
(22)【出願日】2022-01-17
(62)【分割の表示】P 2018543041の分割
【原出願日】2016-11-03
(31)【優先権主張番号】62/251,208
(32)【優先日】2015-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/300,691
(32)【優先日】2016-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】マグワィア,ケーシー エー.
(72)【発明者】
【氏名】アイヒラー,フロリアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】培養下で増殖する形質移入産生細胞中のアデノ随伴ウイルス9(AAV9)ベクタータイターを増加させる方法を提供する。
【解決手段】一態様において、培養下で増殖する形質移入産生細胞中のAAV9ベクタータイターを増加させる方法であって、i)ATP結合カセットサブファミリーDメンバー1(ABCD1)をコードするmRNAに相補的な核酸配列を該細胞とインキュベートするステップ、およびii)ABCD1をコードするヌクレオチド配列を含むAAV9ベクターを該細胞中に形質移入するステップを含み、該AAV9ベクターから発現されるABCD1mRNAの量を減少させ、それにより細胞溶解物および/または培地中のAAV9-ABCD1ベクター収量を参照標準と比較して約1倍~約50倍だけ増加させる方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養下で増殖する形質移入産生細胞中のアデノ随伴ウイルス9(AAV9)ベクタータ
イターを増加させる方法であって、
i)ATP結合カセットサブファミリーDメンバー1(ABCD1)をコードするmRN
Aに相補的な核酸配列を前記細胞とインキュベートするステップ、および
ii)ABCD1をコードするヌクレオチド配列を含むAAV9ベクター(AAV9-A
BCD1ベクター)を前記細胞中に形質移入するステップ
を含み、前記AAV9ベクターから発現されるABCD1mRNAの量を減少させ、それ
により細胞溶解物および/または培地中のAAV9-ABCD1ベクター収量を参照標準
と比較して約1倍~約50倍だけ増加させる方法。
【請求項2】
ABCD1をコードするmRNAに相補的な前記核酸配列が、干渉RNAである、請求
項1に記載の方法。
【請求項3】
前記干渉RNAが、shRNAまたはsiRNAである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記siRNAが、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、またはそれら
の組合せを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記参照標準が、ABCD1をコードするmRNAに相補的な核酸配列とインキュベー
トしなかった産生細胞からの細胞溶解物および/または培地中のAAV9-ABCD1ベ
クター収量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)の治療が必要とされる対象におけるX
連鎖性副腎白質ジストロフィーを治療する方法であって、請求項1に記載の産生細胞から
得られた精製AAV9-ABCD1ベクターを含む組成物を前記対象に投与することを含
む方法。
【請求項7】
精製AAV9-ABCD1ベクターを含む前記組成物を、髄腔内投与により前記対象を
投与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)の治療が必要とされる対象におけるX
連鎖性副腎白質ジストロフィーを治療する方法であって、ATP結合カセットサブファミ
リーDメンバー1(ABCD1)をコードするアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを
前記対象に投与することを含み、前記ベクターを髄腔内投与により前記対象に投与する方
法。
【請求項9】
前記髄腔内投与が、浸透圧ポンプにより媒介される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ベクターの用量が、約1×1013GC~約10×1013GCである、請求項8に記
載の方法。
【請求項11】
前記AAVが、AAV9である、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)を有する対象にATP結合カセットサ
ブファミリーDメンバー1(ABCD1)を提供する方法であって、ABCD1をコード
するベクターを前記対象に投与することを含み、前記ベクターを髄腔内投与により前記対
象に投与し、中枢神経系中の前記ベクターからのABCD1発現は、末梢器官中の前記ベ
クターからのABCD1発現よりも少ない方法。
【請求項13】
前記中枢神経系中の前記ベクターからのABCD1発現が、X-ALDを有さない未治
療対象の中枢神経系中のABCD1の発現よりも約3倍多い、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
末梢器官中の前記ベクターからの前記ABCD1発現が、X-ALDを有さない未治療
対象の末梢器官中のABCD1の発現よりも約90%少ない、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年11月5日に出願された米国仮特許出願第62/251,208
号明細書および2016年2月26日に出願された米国仮特許出願第62/300,69
1号明細書の利益を主張する。上記出願の全開示は、参照により本明細書に組み込まれる
。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究または開発
本研究は、National Institutes of Healthにより授与
された助成金番号R21NS081374-01およびR01NS072446-01に
より支援を受けた。政府は本発明における一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
進行性遺伝障害のX連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)は、分解のためのペ
ルオキシソーム中へのCoA活性化超長鎖脂肪酸(VLCFA)の輸送を担うペルオキシ
ソームATP結合カセットトランスポーター(ABCD1)をコードするABCD1遺伝
子中の突然変異により引き起こされ、脳および副腎皮質の血漿および組織中の高レベルの
飽和超長鎖脂肪酸(VLCFA)の蓄積をもたらす。症状は、小児期または成人期におい
て始まり得る。成人ALD患者は、典型的には、衰弱性神経障害の副腎脊髄ニューロパチ
ー(AMN)を20歳代で発症する(Engelen et al.,Orphanet
J Rare Dis.2012;7:51)。Abcd1-/-マウスは、AMNと
類似する表現型を発症し、冒された後根神経節ニューロン(DRG)に起因して脊髄の軸
索変性および末梢ニューロパチーが顕在化する(Pujol et al.,Hum M
ol Genet.2002;11:499-505)。ヒトABCD1遺伝子の送達の
ための組換えアデノ随伴ウイルス血清型9(rAAV9)ベクターを使用するインビトロ
およびインビボでの中枢神経系細胞の伝達が、既に報告された。残念ながら、幼若マウス
における静脈内送達は、トランス遺伝子の過剰発現に起因して心毒性を伴う。X-ALD
またはAMNを罹患する患者における非毒性レベルのABCD1を提供する送達系が非常
に望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の他の特徴部および利点は、詳細な説明から、および特許請求の範囲から明らか
である。したがって、本発明の他の態様は以下の開示において記載され、本発明の範囲内
である。
【0005】
一態様において、本発明は、培養下で増殖する形質移入産生細胞中のアデノ随伴ウイル
ス9(AAV9)ベクタータイターを増加させる方法であって、i)ATP結合カセット
サブファミリーDメンバー1(ABCD1)をコードするmRNAに相補的な核酸配列を
細胞とインキュベートするステップ、およびii)ABCD1をコードするヌクレオチド
配列を含むAAV9ベクター(AAV9-ABCD1ベクター)を細胞中に形質移入する
ステップを含み、AAV9ベクターから発現されるABCD1mRNAの量を減少させ、
それにより細胞溶解物および/または培地中のAAV9-ABCD1ベクター収量を参照
標準と比較して約1倍~約50倍だけ増加させる方法を提供する。
【0006】
一実施形態において、ABCD1をコードするmRNAに相補的な核酸配列は、干渉R
NAである。
【0007】
別の実施形態において、干渉RNAは、shRNAまたはsiRNAである。
【0008】
さらに別の実施形態において、siRNAは、配列番号4、配列番号5、配列番号6、
配列番号7またはそれらの組合せを含む。
【0009】
さらに別の実施形態において、参照標準は、ABCD1をコードするmRNAに相補的
な核酸配列とインキュベートしなかった産生細胞からの細胞溶解物および/または培地中
のAAV9-ABCD1ベクター収量を含む。
【0010】
さらに別の態様において、本発明は、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)
の治療が必要とされる対象におけるX連鎖性副腎白質ジストロフィーを治療する方法であ
って、参照標準と比較して増加したAAV9ベクタータイターを有する産生細胞から得ら
れた精製AAV9-ABCD1ベクターを含む組成物を対象に投与することを含む方法を
提供する。
【0011】
一実施形態において、精製AAV9-ABCD1ベクターを含む組成物を、髄腔内投与
により対象に投与する。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)
の治療が必要とされる対象におけるX連鎖性副腎白質ジストロフィーを治療する方法であ
って、ATP結合カセットサブファミリーDメンバー1(ABCD1)をコードするアデ
ノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを対象に投与することを含み、前記ベクターを髄腔内
投与により対象に投与する方法を提供する。
【0013】
一実施形態において、髄腔内投与は、浸透圧ポンプにより媒介される。
【0014】
別の実施形態において、ベクターの用量は、0.5×1011GCである。
【0015】
さらに別の実施形態において、AAVは、AAV9である。
【0016】
さらに別の態様において、本発明は、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)
を有する対象にATP結合カセットサブファミリーDメンバー1(ABCD1)を提供す
る方法であって、ABCD1をコードするベクターを対象に投与することを含み、前記ベ
クターを髄腔内投与により対象に投与し、中枢神経系中の前記ベクターからのABCD1
発現は、末梢器官中の前記ベクターからのABCD1発現よりも少ない方法を提供する。
【0017】
一実施形態において、髄腔内投与は、浸透圧ポンプにより媒介される。
【0018】
別の実施形態において、ベクターの用量は、約1×l013GC~約10×l013G
Cである。
【0019】
さらに別の実施形態において、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで
ある。
【0020】
特に定義のない限り、本明細書において使用される全ての技術および科学用語は、本発
明が属する分野の当業者により一般に理解される意味と同一の意味を有する。方法および
材料は、本発明における使用のために本明細書に記載され;当分野において公知の他の好
適な方法および材料を使用することもできる。材料、方法、および実施例は説明にすぎず
、限定的なものではない。本明細書において挙げられる全ての刊行物、特許出願、特許、
配列、データベースエントリー、および他の参照文献は、参照により全体として組み込ま
れる。矛盾する場合、本明細書が定義を含め優先される。
【0021】
以下の詳細な説明は例として挙げられるが、本発明を記載されるある実施形態に限定す
るものではなく、参照により本明細書に組み込まれる添付の図面とともに理解することが
できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ABCD1mRNAに特異的なsiRNAとインキュベートした形質移入293T細胞からの改善されたAAV9-ABCD1ベクタータイターを示す。
【
図2】ABCD1mRNAに特異的なsiRNAプールとインキュベートしたAAV-ABCD1形質移入細胞中の低減したABCD1タンパク質を示す。
【
図3】細胞溶解物および馴化培地中の両方におけるABCD1mRNAに特異的なsiRNAとインキュベートした形質移入293T細胞からの改善されたAAV9-ABCD1ベクタータイターを示す。
【
図4】2分間にわたる髄腔内ボーラス送達後のrAAV9-ABCD1の分布を示す。
【
図5】24時間にわたるrAAV9-ABCD1の髄腔内ポンプ注入後のrAAV9-ABCD1の分布を示す。
【
図6】AAV9-ABCD1の低用量(0.5×l0
11gc)のボーラスおよびポンプ送達を示す。
【
図7】AAV9-ABCD1のポンプ注入と比較した、AAV9-ABCD1のボーラス注射2週間後の末梢器官(CNS外)にわたるABCD1の多い発現を示す。
【
図8】AAV9-ABCD1のベクターマップを示す。
【
図9】様々な器官にわたる内在性ABCD1の分布を示す。
【
図10】様々な器官にわたる内在性ABCD1の分布を示す。
【
図11】Abcd1-/-マウスにおけるITポンプ後のABCD1の発現を示す。
【
図12】Abcd1-/-マウスにおけるITポンプ後のABCD1の発現を示す。
【
図13】ITポンプおよびPTボーラス注射15日後の脊髄C26:0レベルを示す。
【
図14】AAV9-hABCD1のITポンプ送達後の様々な細胞タイプにおけるABCD1発現を示す。SC:脊髄;DRG:後根神経節;CD31:内皮マーカー;GFAP:アストロサイトマーカー;IBA1:ミクログリアマーカー;TOPRO3:核対比染色;DRGは、ニューロン中で、およびより顕著にはニューロン周辺(サテライト細胞)で発現の斑紋パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
特に定義のない限り、本明細書において使用される全ての技術および科学用語は、本発
明が属する分野の当業者により一般に理解される意味と同一の意味を有する。矛盾する場
合、本出願が定義を含め優先される。
【0024】
「対象」は、脊椎動物、例として、哺乳綱の任意のメンバー、例として、ヒト、家畜お
よび農用動物、ならびに動物園用、競技用または愛玩動物、例えば、マウス、ウサギ、ブ
タ、ヒツジ、ヤギ、ウシおよび高等霊長類である。
【0025】
本明細書において使用される用語「治療する」、「治療すること」、「治療」などは、
X-ALD、例えば、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)、および/またはそれに伴う症
状を軽減し、または改善することを指す。X-ALDまたはAMNの治療は、それに伴う
障害、病態または症状が完全に排除されることを要求しないことが認識されるが、除外さ
れるものではない。
【0026】
特に記載のない限り、または文脈から明らかでない限り、本明細書において使用される
用語「約」は、当分野における通常の許容範囲内、例えば、平均から2標準偏差以内とし
て理解される。「約」は、記述値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%
、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%、または0.01%以内として理解され
る。特に文脈から明らかでない限り、本明細書において提供される全ての数値範囲は、約
という用語により修飾される。
【0027】
本明細書において使用される「発現の減少」は、本明細書に記載の方法に従ってABC
D1をコードするベクターが投与された対象の中枢神経系中のABCD1遺伝子発現また
はタンパク質発現の量よりも少なくとも約0.05倍少ない(例えば、0.1、0.2、
0.3、0.4、0.5、1、5、10、25、50、100、1000、10,000
倍以上少ない)、対象の末梢器官中のABCD1遺伝子発現またはタンパク質発現の量を
指す。対象の末梢器官中のABCD1遺伝子発現またはタンパク質発現に関する「減少し
た」は、本明細書に記載の方法に従ってABCD1をコードするベクターが投与された対
象の中枢神経系中のABCD1遺伝子発現またはタンパク質発現の量よりも少なくとも約
5%少ない(例えば、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40
、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、99または1
00%)ことも意味する。量は、遺伝子発現またはタンパク質発現の量を測定するための
当分野において公知の標準的方法に従って計測することができる。
【0028】
本明細書において使用される「ベクタータイターの増加」は、本明細書に記載の方法に
従ってABCD1をコードするmRNAに相補的な核酸配列とインキュベートしなかった
産生細胞からのタイターの量よりも少なくとも約0.05倍多い(例えば、0.1、0.
2、0.3、0.4、0.5、1、5、10、25、50、100、1000、10,0
00倍以上)、ABCD1をコードするベクターが形質移入された産生細胞からのタイタ
ーの量を指す。ABCD1をコードするベクターが形質移入された産生細胞からのタイタ
ーの量(AAVベクターの濃度、1ミリリットル当たりのゲノムコピー数で記載されるこ
とが多い)に関する「増加した」は、本明細書に記載の方法に従ってABCD1をコード
するmRNAに相補的な核酸配列とインキュベートしなかった産生細胞からのタイターの
量よりも少なくとも約5%多い(例えば、5、6、7、8、9、10、15、20、25
、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、
95、99または100%)ことも意味する。量は、AAVゲノム、トランス遺伝子発現
、またはタンパク質発現の量を測定するための当分野において公知の標準的方法に従って
計測することができる。
【0029】
本明細書において提供される範囲は、その範囲内の値の全てについての簡易表現と理解
される。例えば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11
、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、
25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、3
8、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50
(特に文脈が明らかに示さない限り、さらにそれらの分数)からなる群からの任意の数、
数の組合せ、または下位範囲を含むと理解される。
【0030】
本明細書において使用される用語「参照レベル」は、別の試験試料を比較する既知の試
料におけるタイターのレベルを指す。参照レベルは、例えば、ABCD1をコードするm
RNAに相補的な核酸配列と、または対照アンチセンスオリゴヌクレオチドもしくはsi
RNAとインキュベートしなかった産生細胞から得ることができる。参照レベルは、例え
ば、X-ALDを有さない未治療対象から得ることができる。「未治療」は、ABCD1
トランス遺伝子を発現するベクターの投与からの治療法の欠落を指す。
【0031】
本開示において、「含む(comprises)」、「含む(comprising)
」、「含有する」および「有する」などは、米国特許法においてそれらに帰属する意味を
有し得、「含む(includes)」、「含む(including)」などを意味し
得;「本質的に~からなる(consisting essentially)、または
「本質的に~からなる(consists essentially)」は、同様に米国
法において帰属する意味を有し、この用語は非限定的であり、引用されるものの基礎また
は新規特徴が引用されるものよりも多くの存在により変化しない限り引用されるものより
も多くの存在を許容するが、従来技術の実施形態を除外する。
【0032】
他の定義は、本開示全体にわたり文脈中に現れる。
【0033】
組成物および方法
本発明の組成物および方法は、X連鎖性副腎白質ジストロフィー(X-ALD)のため
の治療を提供する。X連鎖性副腎白質ジストロフィーは、主として男性において生じ、主
に神経系および副腎を冒すABCD1遺伝子中の突然変異により引き起こされる遺伝障害
である。脳および脊髄のミエリンが劣化し(脱髄)、それが神経の機能的能力を低減させ
る。さらに、副腎の外層(副腎皮質)への損傷は、あるホルモンの不足を引き起こす(副
腎皮質不全)。いくつかの区別されるタイプのX連鎖性副腎白質ジストロフィー、例とし
て、小児大脳型、副腎脊髄ニューロパチー(AMN)タイプ、およびアジソン病と呼ばれ
る型が存在する。本明細書において使用されるX-ALDは、ツェルウェーガースペクト
ル障害のペルオキシソーム生合成障害に属し、ABCD1中の突然変異に無関連の「新生
児副腎白質ジストロフィー」を含まない。X-ALDまたはAMNを有する対象を診断ま
たは同定する方法は当分野において公知であり、それとしては血漿超長鎖脂肪酸(VLC
FA)レベルの計測および/または遺伝子試験を挙げることができ;例えば、Engel
en et al,Orphanet J Rare Dis.2012;7:51;A
ubourg and Chaussain,Horm Res.2003;59 Su
ppl 1:104-5;Steinberg et al.,Curr Protoc
Hum Genet.2008 Chapter 17:Unit 17.6;Ste
inberg SJ,Moser AB,Raymond GV.X-Linked A
drenoleukodystrophy.1999 Mar 26[Updated
2015 Apr 9].In:Pagon RA,Adam MP,Ardinger
HH,et al.,editors.GeneReviews(登録商標)[Int
ernet].Seattle(WA):University of Washing
ton,Seattle;1993-2016参照。ncbi.nlm.nih.gov
/books/NBK1315/)から利用可能である。
【0034】
ABCD1遺伝子中の突然変異は、X連鎖性副腎白質ジストロフィーを引き起こす。A
BCD1遺伝子は、ペルオキシソーム中への超長鎖脂肪酸(VLCFA)の輸送に関与す
る副腎白質ジストロフィータンパク質(ALDP)をコードする。ABCD1遺伝子突然
変異は、ALDPの欠損をもたらす。このタンパク質が欠落している場合、VLCFAの
輸送および後続の分解が妨げられ、体内の異常に高レベルのそれらの脂肪を引き起こす。
VLCFAの蓄積は、副腎皮質およびミエリンに毒性であり得る。
【0035】
遺伝子療法による遺伝子欠陥の補正は、実現可能な治療法を表す。CNSへのABCD
1遺伝子の標的化特異的送達は、末梢器官における毒性を回避するために不可欠である。
これは、例えば、髄腔内投与を介してABCD1をコードするアデノ随伴ウイルス(AA
V)ベクターを投与することにより達成することができる。
【0036】
ABCD1cDNAおよびその発現タンパク質をコードする配列は周知であり、例えば
、Genbankアクセッション番号NG_009022.2およびNP_000024
.2において見出すことができる。
【0037】
「AAV」は、アデノ随伴ウイルスであり、組換えウイルスベクター自体またはその誘
導体を指すために使用することができる。この用語は、特に要求される場合を除き全ての
亜型、血清型および偽型、ならびに天然存在および組換え形態を包含する。本明細書にお
いて使用される用語「血清型」は、その血清学的検査により同定され、それに基づき他の
AAVから区別されるAAVを指し、例えば、AAVの11個の血清型、AAV1~AA
V11が存在し、この用語は、同一特性を有する偽型を包含する。これらの血清型の多く
は、他のAAV血清型からのユニークな生物学的特性(例えば、細胞表面受容体結合、細
胞内トラフィッキング)を有する。したがって、例えば、AAV5血清型としては、AA
V5の生物学的特性を有するAAV、例えば、AAV5カプシドと、AAV5に由来もせ
ず、それから得られもせず、またはゲノムがキメラであるAAVゲノムとを含む偽型AA
Vが挙げられる。
【0038】
「AAVベクター」は、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質およびカプシドに
包まれたポリヌクレオチドから構成されるウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオ
チド(すなわち、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド、例えば、哺乳動物細胞に
送達すべきトランス遺伝子)を含む場合、それは「rAAV(組換えAAV)」と称する
ことができる。AAV「カプシドタンパク質」としては、野生型AAVのカプシドタンパ
ク質、ならびにAAVゲノムを構造的およびまたは機能的にパッケージングし得、野生型
AAVにより用いられる受容体と異なり得る少なくとも1つの特異的細胞受容体に結合す
るAAVカプシドタンパク質の改変形態が挙げられる。改変AAVカプシドタンパク質と
しては、キメラAAVカプシドタンパク質、例えば、AAVの2つ以上の血清型からのア
ミノ酸配列を有するもの、例えば、AAV2からのカプシドタンパク質の一部に融合また
は結合しているAAV5からのカプシドタンパク質の一部から形成されるカプシドタンパ
ク質、およびAAVカプシドタンパク質に融合または結合しているタグまたは他の検出可
能な非AAVカプシドペプチドまたはタンパク質を有するAAVカプシドタンパク質が挙
げられ、例えば、トランスフェリン受容体に結合する抗体分子の一部をAAV-2カプシ
ドタンパク質に組換え融合させることができる。
【0039】
AAVを産生し得る細胞は、当分野において公知であり、それとしては、限定されるも
のではないが、293細胞、HeLa細胞および昆虫細胞が挙げられる。
【0040】
ある実施形態において、高いタイターのAAVを産生する方法を利用してABCD1の
投与を最大化することができる。培養下で増殖する形質移入産生細胞を、ATP結合カセ
ットサブファミリーDメンバー1(ABCD1)をコードするmRNAに相補的な核酸配
列とインキュベートし、ii)ABCD1をコードする核酸配列を含むAAVベクター(
例えば、AAV9-ABCD1ベクター)を細胞中に形質移入することができる。AAV
ベクターから発現されるABCD1mRNAの量を減少させ、それにより細胞溶解物およ
び/または培地中のAAV-ABCD1ベクター収量を参照標準と比較して約1倍~約5
0倍だけ増加させる。ある実施形態において、細胞溶解物および/または培地中のAAV
-ABCD1ベクター収量を、約4倍だけ増加させる。ベクタータイターは、当分野にお
いて周知の方法に従って測定することができる。典型的には、これは、ドットブロットま
たは定量的PCRを使用して実施してAAVゲノムを計測する。一般に、AAVベクター
収量は、細胞溶解物から、および培地からの約1×1010ゲノムコピー/ml(gc/
ml)~約1×l016gc/mlであり得る。
【0041】
具体的な実施形態において、参照標準は、ABCD1をコードするmRNAに相補的な
核酸配列とインキュベートしなかった産生細胞からの細胞溶解物および/または培地中の
AAV-ABCD1ベクター収量を含む。
【0042】
これは、例えば、ABCD1mRNAに相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを提
供することにより達成することができる。本発明の方法の実施において使用され、ABC
D1mRNAに相補的な他の核酸配列は、ABCD1の転写後プロセシングを阻害するも
の、例えば、干渉RNA、例として、限定されるものではないが、shRNAもしくはs
iRNA、またはアンタゴmirであり得る。
【0043】
ABCD1mRNAをコードする配列は周知であり、例えば、Genbankアクセッ
ション番号NM_000033.3において見出すことができる。
【0044】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、典型的には、標的に結合し、転写、翻訳、または
スプライシングのレベルにおいて発現を停止させることによりDNAまたはRNA標的の
発現を遮断するように設計される。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、ストリ
ンジェントな条件下でABCD1mRNAにハイブリダイズするように設計される相補的
核酸配列である。したがって、標的に十分に相補的な、すなわち、十分にハイブリダイズ
し、所望の効果を付与するために十分な特異性を有するオリゴヌクレオチドが選択される
。
【0045】
本発明に関して、ハイブリダイゼーションは、相補的ヌクレオシドまたはヌクレオチド
塩基間のワトソンクリック型、フーグスティーンまたは逆フーグスティーン型水素結合で
あり得る水素結合を意味する。例えば、アデニンおよびチミンは、水素結合の形成を介し
て対合する相補的核酸塩基である。本明細書において使用される相補的は、2つのヌクレ
オチド間で正確に対合する能力を指す。例えば、オリゴヌクレオチドのある位置における
ヌクレオチドは、DNAまたはRNA分子の同一位置におけるヌクレオチドと水素結合し
得、この場合、オリゴヌクレオチドおよびDNAまたはRNAは、その位置において互い
に相補的であるとみなされる。オリゴヌクレオチドおよびDNAまたはRNAは、それぞ
れの分子中の十分数の対応位置が互いと水素結合し得るヌクレオチドにより占有される場
合、互いに相補的である。したがって、「特異的にハイブリダイズ可能」および「相補的
」は、安定的および特異的結合がオリゴヌクレオチドおよびDNAまたはRNA標的間で
生じるような十分な相補性または正確な対合の程度を示すために使用される用語である。
【0046】
当分野において、相補的核酸配列は、特異的にハイブリダイズ可能であるべきその標的
核酸のものに100%相補的である必要はないことが理解される。本発明の相補的核酸配
列は、標的DNAまたはRNA分子へのその配列の結合がその標的DNAまたはRNAの
通常の機能を干渉して活性損失を引き起こし、特異的結合が望まれる条件下、すなわち、
インビボアッセイまたは治療的治療の場合には生理学的条件下で、およびインビトロアッ
セイの場合にはそのアッセイが好適なストリンジェンシー条件下で実施される条件下で、
非標的配列への配列の非特異的結合を回避するために十分な相補性の程度が存在する場合
、特異的にハイブリダイズ可能である。例えば、ストリンジェントな塩濃度は、通常、約
750mM未満のNaClおよび約75mM未満のクエン酸三ナトリウム、好ましくは、
約500mM未満のNaClおよび約50mM未満のクエン酸三ナトリウム、より好まし
くは、約250mM未満のNaClおよび約25mM未満のクエン酸三ナトリウムである
。低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、有機溶媒、例えば、ホルムアミドの
不存在下で得ることができる一方、高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、少
なくとも約35%のホルムアミド、より好ましくは、少なくとも約50%のホルムアミド
の存在下で得ることができる。ストリンジェントな温度条件としては、通常、少なくとも
約30℃、より好ましくは、少なくとも約37℃、最も好ましくは、少なくとも約42℃
の温度が挙げられる。変動する追加のパラメータ、例えば、ハイブリダイゼーション時間
、洗浄剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度およびキャリアDNAの包
含または排除は、当業者に周知である。種々のレベルのストリンジェンシーは、それらの
種々の条件を必要に応じて組み合わせることにより達成される。好ましい実施形態におい
て、ハイブリダイゼーションは、750mMのNaCl、75mMのクエン酸三ナトリウ
ム、および1%のSDS中で30℃において行う。より好ましい実施形態において、ハイ
ブリダイゼーションは、500mMのNaCl、50mMのクエン酸三ナトリウム、1%
のSDS、35%のホルムアミド、および100μg/mlの変性サケ精子DNA(ss
DNA)中で37℃において行う。最も好ましい実施形態において、ハイブリダイゼーシ
ョンは、250mMのNaCl、25mMのクエン酸三ナトリウム、1%のSDS、50
%のホルムアミド、および200μg/mlのssDNA中で42℃において行う。これ
らの条件に対する有用な変動は、当業者に容易に明らかとなる。
【0047】
ほとんどの用途について、ハイブリダイゼーションに続く洗浄ステップもストリンジェ
ンシーが変動する。洗浄ストリンジェンシー条件は、塩濃度により、および温度により定
義することができる。上記のとおり、洗浄ストリンジェンシーは、塩濃度を減少させるこ
とにより、または温度を増加させることにより増加させることができる。例えば、洗浄ス
テップについてのストリンジェントな塩濃度は、好ましくは、約30mM未満のNaCl
および約3mM未満のクエン酸三ナトリウム、および最も好ましくは、約15mM未満の
NaClおよび約1.5mM未満のクエン酸三ナトリウムである。洗浄ステップについて
のストリンジェントな温度条件としては、通常、少なくとも約25℃の、より好ましくは
、少なくとも約42℃の、いっそうより好ましくは、少なくとも約68℃の温度が挙げら
れる。好ましい実施形態において、洗浄ステップは、30mMのNaCl、3mMのクエ
ン酸三ナトリウム、および0.1%のSDS中で25℃において行う。より好ましい実施
形態において、洗浄ステップは、15mMのNaCl、1.5mMのクエン酸三ナトリウ
ム、および0.1%のSDS中で42℃において行う。より好ましい実施形態において、
洗浄ステップは、15mMのNaCl、1.5mMのクエン酸三ナトリウム、および0.
1%のSDS中で68℃において行う。これらの条件に対する追加の変動は、当業者に容
易に明らかとなる。ハイブリダイゼーション技術は当業者に周知であり、例えば、Ben
ton and Davis(Science 196:180,1977);Grun
stein and Hogness(Proc.Natl.Acad.Sci.,US
A 72:3961,1975);Ausubel et al.(Current P
rotocols in Molecular Biology,Wiley Inte
rscience,New York,2001);Berger and Kimme
l(Guide to Molecular Cloning Techniques,
1987,Academic Press,New York);およびSambroo
k et al,Molecular Cloning:A Laboratory M
anual,Cold Spring Harbor Laboratory Pres
s,New Yorkに記載されている。
【0048】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的核酸内の標的領域に対して少なくと
も80%の配列相補性を含むことが好ましく、さらにそれらは、90%の配列相補性を含
むことが好ましく、それらが標的化される標的核酸配列内の標的領域に対して95%の配
列相補性を含むことがいっそうより好ましい。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド
の20個の核酸塩基の18個が相補的であり、したがって、標的領域に特異的にハイブリ
ダイズするアンチセンス化合物は、90パーセントの相補性を表す。標的核酸の領域との
アンチセンス化合物の相補性パーセントは、ベーシックローカルアラインメントサーチツ
ール(BLASTプログラム)(Altschul et al.,J.Mol.Bio
l.,1990,215,403-410;Zhang and Madden,Gen
ome Res.,1997,7,649-656)を使用して定型的に測定することが
できる。ABCD1mRNAにハイブリダイズする本発明のアンチセンスおよび他の化合
物は実験を介して同定され、それらの化合物の代表的な配列は、本発明の好ましい実施形
態として本明細書において以下に同定される。
【0049】
別の実施形態において、ABCD1mRNAに相補的な核酸配列は、干渉RNA、例と
して、限定されるものではないが、shRNAまたはsiRNAであり得る。干渉RNA
としては、限定されるものではないが、小分子干渉RNA(「siRNA」)および小分
子ヘアピンRNA(「shRNA」)が挙げられる。干渉RNAを構築する方法は、当分
野において周知である。例えば、干渉RNAは、一方の鎖がセンス鎖であり、他方がアン
チセンス鎖である2つの別個のオリゴヌクレオチドからアセンブルすることができ、その
アンチセンスおよびセンス鎖は自己相補的であり(すなわち、それぞれの鎖は、他方の鎖
中のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み;例えば、アンチセンス鎖およ
びセンス鎖がデュプレックスまたは二本鎖構造を形成する場合);アンチセンス鎖は、標
的核酸分子またはその一部(すなわち、不所望な遺伝子)中のヌクレオチド配列に相補的
なヌクレオチド配列を含み、センス鎖は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレ
オチド配列を含む。あるいは、干渉RNAは、自己相補的センスおよびアンチセンス領域
が核酸ベースまたは非核酸ベースリンカーにより結合される単一オリゴヌクレオチドから
アセンブルされる。干渉RNAは、デュプレックス、非対称デュプレックス、ヘアピンま
たは非対称ヘアピン二次構造を有し、自己相補的センスおよびアンチセンス領域を有する
ポリヌクレオチドであり得、アンチセンス領域は、別個の標的核酸分子またはその一部中
のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を含み、センス鎖は、標的核酸配列また
はその一部に対応するヌクレオチド配列を有する。干渉は、2つ以上のループ構造と、自
己相補的センスおよびアンチセンス領域を含むステムとを有する環状一本鎖ポリヌクレオ
チドであり得、アンチセンス領域は、標的核酸分子またはその一部中のヌクレオチド配列
に相補的なヌクレオチド配列を含み、センス領域は、標的核酸配列またはその一部に対応
するヌクレオチド配列を有し、環状ポリヌクレオチドをインビボまたはインビトロのいず
れかでプロセシングしてRNA干渉を媒介し得る活性siRNA分子を生成することがで
きる。
【0050】
本発明のある実施形態において、干渉RNAコード領域は、センス領域、アンチセンス
領域およびループ領域を有する自己相補的RNA分子をコードする。このようなRNA分
子は、発現時、所望の「ヘアピン」構造を形成し、本明細書において「shRNA」と称
される。ループ領域は、一般に、約2~約10ヌクレオチド長である。好ましい実施形態
において、ループ領域は、約6~約9ヌクレオチド長である。本発明の1つのそのような
実施形態において、センス領域およびアンチセンス領域は、約15~約20ヌクレオチド
長である。転写後プロセシング後、小分子ヘアピンRNAは、RNアーゼIIIファミリ
ーのメンバーである酵素Dicerにより媒介される開裂イベントによりsiRNAに変
換される。次いで、siRNAは、それが相同性を共有する遺伝子の発現を阻害し得る。
詳細については、Brummelkamp et al.,Science 296:5
50-553,(2002);Lee et al,Nature Biotechno
l.,20,500-505,(2002);Miyagishi and Taira
,Nature Biotechnol 20:497-500,(2002);Pad
dison et al.Genes & Dev.16:948-958,(2002
);Paul,Nature Biotechnol,20,505-508,(200
2);Sui,Proc.Natl.Acad.Sd.USA,99(6),5515-
5520,(2002);Yu et al.Proc NatlAcadSci US
A 99:6047-6052,(2002)参照。
【0051】
siRNAによりガイドされる標的RNA開裂反応は、高度に配列特異的である。一般
に、標的遺伝子(すなわち、ABCD1)の一部と同一のヌクレオチド配列を含有するs
iRNAが、阻害に好ましい。しかしながら、本発明を実施するためにsiRNAおよび
標的遺伝子間の100%の配列同一性は要求されない。したがって、本発明は、遺伝子変
異、株多型、または進化多様性に起因して予測され得る配列変動を許容し得る利点を有す
る。例えば、標的配列に対して挿入、欠失、および単一点突然変異を有するsiRNA配
列も、阻害に有効であることが見出されている。あるいは、ヌクレオチドアナログ置換ま
たは挿入を有するsiRNA配列が阻害に有効であり得る。
【0052】
さらに別の実施形態において、ABCD1mRNAに相補的な核酸配列は、アンタゴm
irである。アンタゴmirは、マイクロRNAを標的化する一本鎖、二本鎖、部分二本
鎖およびヘアピン構造化学修飾オリゴヌクレオチドである。好ましくは、本発明において
特記されるアンタゴmirとしては、約10~25ヌクレオチド、好ましくは、約15~
20ヌクレオチドのmiRNA標的配列にハイブリダイズするために十分に相補的なヌク
レオチド配列が挙げられる。
【0053】
ある実施形態において、アンタゴmirは、RNアーゼ保護および薬理学的特性につい
ての種々の改変、例えば、向上した組織および細胞取り込みを保有するRNA様オリゴヌ
クレオチドである。アンタゴmirは、糖の完全2’-O-メチル化、ホスホロチオエー
ト骨格および3’末端におけるコレステロール部分を有する点で通常のRNAと異なり得
る。ホスホロチオエート改変はRNアーゼ活性に対する保護を提供し、その新油性は向上
した組織取り込みに寄与する。好ましい実施形態において、アンタゴmirは、6つのホ
スホロチオエート骨格改変を含み;2つのホスホロチオエートが5’末端に局在し、4つ
が3’末端に局在する。本発明のアンタゴmirは、その長さまたはそうでなければアン
タゴmirを構成するヌクレオチドの数に関して改変することもできる。
【0054】
本発明を実施するために使用される核酸配列は、RNA、cDNA、ゲノムDNA、ベ
クター、ウイルスまたはそれらのハイブリッドに関係なく、種々の資源から単離し、遺伝
子操作し、増幅させ、および/または組換え発現させ/組換え生成することができる。組
換え核酸配列は、個々に単離し、またはクローニングし、所望の活性について試験するこ
とができる。任意の組換え発現系、例として、例えば、インビトロ、細菌、真菌、哺乳動
物、酵母、昆虫または植物細胞発現系を使用することができる。
【0055】
本発明の核酸配列は、送達ベクター中に挿入し、そのベクター(例えば、AAVベクタ
ー)内の転写単位から発現させることができる。組換えベクターは、DNAプラスミドま
たはウイルスベクターであり得る。ベクター構築物の生成は、当分野において周知の任意
の好適な遺伝子操作技術、例として、限定されるものではないが、例えば、Sambro
ok et al.Molecular Cloning:A Laboratory
Manual.(1989))、Coffin et al.(Retroviruse
s.(1997))および“RNA Viruses:A Practical App
roach”(Alan J.Cann,Ed.,Oxford University
Press,(2000))に記載のPCR、オリゴヌクレオチド合成、制限エンドヌ
クレアーゼ消化、ライゲーション、形質転換、プラスミド精製、およびDNAシーケンシ
ングの標準的技術を使用して達成することができる。当業者に明らかなとおり、種々の好
適なベクターが細胞中への本発明の核酸の移行に利用可能である。核酸を送達するための
適切なベクターの選択および細胞中への選択された発現ベクターの挿入のための条件の最
適化は、過度の実験を必要とせずに当業者の技能の範囲内である。ウイルスベクターは、
パッケージング細胞中の組換えウイルスの産生のための配列を有するヌクレオチド配列を
含む。本発明の核酸を発現するウイルスベクターは、ウイルス骨格、例として、限定され
るものではないが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイ
ルス、ポックスウイルスまたはアルファウイルスをベースとして構築することができる。
本発明の核酸を発現し得る組換えベクターは、本明細書に記載のとおり送達することがで
き、標的細胞中で留まる(例えば、安定形質転換体)。
【0056】
本発明を実施するために使用される核酸配列は、例えば、Adams(1983)J.
Am.Chem.Soc.105:661;Belousov(1997)Nuclei
c Acids Res.25:3440-3444;Frenkel(1995)Fr
ee Radic.Biol.Med.19:373-380;Blommers(19
94)Biochemistry 33:7886-7896;Narang(1979
)Meth.Enzymol.68:90;Brown(1979)Meth.Enzy
mol.68:109;Beaucage(1981)Tetra.Lett.22:1
859;米国特許第4,458,066号明細書に記載のとおり周知の化学合成技術によ
りインビトロ合成することができる。
【0057】
本発明の核酸配列は、例えば、改変、例えば、ヌクレオチド改変の取り込みによる核酸
分解に対して安定化させることができる。例えば、本発明の核酸配列は、ヌクレオチド配
列の5’または3’末端における少なくとも第1、第2、または第3のヌクレオチド間結
合におけるホスホロチオエートを含む。別の例として、核酸配列は、2’-修飾ヌクレオ
チド、例えば、2’-デオキシ、2’-デオキシ-2’-フルオロ、2’-O-メチル、
2’-O-メトキシエチル(2’-O-MOE)、2’-O-アミノプロピル(2’-O
-AP)、2’-O-ジメチルアミノエチル(2’-O-DMAOE)、2’-O-ジメ
チルアミノプロピル(2’-O-DMAP)、2’-O-ジメチルアミノエチルオキシエ
チル(2’-O-DMAEOE)、または2’-O--N-メチルアセトアミド(2’-
O--NMA)を含み得る。別の例として、核酸配列は、少なくとも1つの2’-O-メ
チル修飾ヌクレオチドを含み得、一部の実施形態において、ヌクレオチドの全ては、2’
-O-メチル修飾を含む。
【0058】
本発明を実施するために使用される核酸の操作の技術、例えば、サブクローニング、標
識プローブ(例えば、クレノウポリメラーゼを使用するランダムプライマー標識、ニック
翻訳、増幅)、シーケンシング、ハイブリダイゼーションなどは、科学および特許文献に
十分に記載されており、例えば、Sambrook,ed.,MOLECULAR CL
ONING:A LABORATORY MANUAL(2ND ED.),Vols.
1-3,Cold Spring Harbor Laboratory,(1989)
;CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,
Ausubel,ed.John Wiley & Sons,Inc.,New Yo
rk(1997);LABORATORY TECHNIQUES IN BIOCHE
MISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY:HYBRIDIZATI
ON WITH NUCLEIC ACID PROBES,Part I.Theor
y and Nucleic Acid Preparation,Tijssen,e
d.Elsevier,N.Y.(1993)参照。
【0059】
静脈内(IV)または脳室内(ICV)投与により提供されるABCD1ベクター投与
は、近年、心毒性を引き起こすことが決定されている。髄腔内投与は、脊柱管のくも膜下
腔中への所望の薬剤の注射を含み、それによりその薬剤を脳脊髄液(CSF)中に提供す
る投与の経路である。髄腔内投与を使用すると、中枢神経系内のベクターからのABCD
1発現は、末梢器官、例えば、心臓内のベクターからのABCD1発現よりも少ない。末
梢器官中の過剰なABCD1発現は毒性をもたらし得、したがって、ABCD1ベクター
の髄腔内投与は、X-ALDのため、例えば、AMNのための治療の改善された方法を含
む。
【0060】
一部の実施形態において、髄腔内投与は、ポンプを介する。ポンプは、外科的に埋め込
まれた浸透圧ポンプであり得る。ある実施形態において、浸透圧ポンプを脊柱管のくも膜
下腔中に埋め込んで髄腔内投与を容易にする。
【0061】
ある実施形態において、ヒト対象は、約1×1013GC~約10×1013GCの量
のABCD1を含む髄腔内送達ベクター(例えば、AAV9)の1回の治療を約24時間
の期間にわたり受ける。
【0062】
AAV9-hABCD1の低速連続的髄腔内注入は、浸透圧駆動ポンプ、例えば、DU
ROS(登録商標)インプラント、ALZA Corporation(Mountai
n View,CA)を使用することによりヒトにスケールアップすることができる。例
えば、J.C.Wright,J.Culwell,Long-term contro
lled delivery of therapeutic agents by t
he osmotically driven DUROS(登録商標)implant
,in:M.J.Rathbone,J.Hadgraft,M.S.Roberts(
Eds.),Modified-Release Drug Delivery Tec
hnology,Informa Healthcare,New York,2008
,pp.143-149も参照。
【0063】
浸透圧送達デバイスおよびその構成部品は、例えば、米国特許第5,609,885号
明細書;同第5,728,396号明細書;同第5,985,305号明細書;同第5,
997,527号明細書;同第6,113,938号明細書;同第6,132,420号
明細書;同第6,156,331号明細書;同第6,217,906号明細書;同第6,
261,584号明細書;同第6,270,787号明細書;同第6,287,295号
明細書;同第6,375,978号明細書;同第6,395,292号明細書;同第6,
508,808号明細書;同第6,544,252号明細書;同第6,635,268号
明細書;同第6,682,522号明細書;同第6,923,800号明細書;同第6,
939,556号明細書;同第6,976,981号明細書;同第6,997,922号
明細書;同第7,014,636号明細書;同第7,207,982号明細書;同第7,
112,335号明細書;同第7,163,688号明細書;米国特許出願公開第200
5-0175701号明細書、同第2007-0281024号明細書、および同第20
08-0091176号明細書に記載されている。
【0064】
DUROS(登録商標)送達デバイスは、典型的には、浸透圧駆動部、ピストン、およ
び薬物配合物を含有する円筒状リザーバからなる。リザーバは、一端において速度制御透
水膜によりキャップされ、他端において薬物配合物が薬物リザーバから放出される拡散モ
デレータによりキャップされる。ピストンは、浸透圧駆動部から薬物配合物を分離し、シ
ール材を利用して浸透圧駆動部コンパートメント中の水が薬物リザーバに流入するのを防
止する。拡散モデレータは、薬物配合物とともに、体液がオリフィスを通り薬物リザーバ
に流入するのを防止するように設計される。
【0065】
DUROS(登録商標)デバイスは、浸透圧の原理に基づき治療薬剤を所定の速度にお
いて放出する。細胞外液は、半透過膜を通りDUROS(登録商標)デバイスに、ピスト
ンを低速で均等な送達速度において駆動させるように拡張する塩駆動部中に直接流入する
。ピストンの運動により、薬物配合物が所定の剪断速度においてオリフィスまたは出口ポ
ートを通り強制的に放出される。本発明の一実施形態において、DUROS(登録商標)
デバイスのリザーバに、例えば、1×1011gcのAAV9-hABCD1を含む本発
明の懸濁液配合物をロードし、デバイスは、懸濁液配合物を対象に所定の治療有効送達速
度において長期間にわたり送達し得る。
【0066】
他の埋込可能な薬物送達デバイスを本発明の実施において使用することができ、それと
しては一定の化合物流、調整可能な化合物流、またはプログラム可能な化合物流を提供す
るレギュレータタイプの埋込可能なポンプ、例えば、Codman & Shurtle
ff,Inc.(Raynham,Mass.)、Medtronic,Inc.(Mi
nneapolis,Minn.)、およびTricumed Medinzintec
hnik GmbH(Germany)から入手可能なものを挙げることができる。
【0067】
本発明の、およびその多くの利点のより良好な理解を提供する以下の説明としての非限
定的な実施例により本発明をさらに記載する。
【実施例0068】
以下の実施例は、本発明の一部の実施形態および態様を説明する。本発明の主旨も範囲
も変更せずに種々の改変、付加、置換などを実施することができ、そのような改変および
バリエーションが以下の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内に包含される
ことは関連分野の当業者に明らかである。以下の実施例は、決して本発明を限定するもの
ではない。
【0069】
実施例1:ABCD1mRNAに特異的なsiRNAの存在下のAAV9-ABCD1の
産生は、形質移入293T細胞からのAAVベクタータイターを改善する。
AAV9-ABCD1の産生の間の多量の細胞死/細胞変性効果は既に観察されており
、それらはおそらく産生細胞中のABCD1タンパク質の過剰発現に起因する。この毒性
は、AAVベクター収量を低減させた。毒性を緩和し、ベクター収量を改善するため、s
iRNAのプールを使用してABCDImRNAを標的化した。
【0070】
AAVパッキングを以下のとおり実施した。1~1.5×107個の293T細胞を1
5cmプレート上にプレーティングし、一晩培養した。
【0071】
【0072】
2日目、形質移入ミックスを以下のとおり調製した。
【0073】
【0074】
チューブAおよびチューブBを、ボルテックスに1分間供しながら滴下して合わせた。
ミックスを室温において20分間インキュベートした。15cmプレート当たり1.5m
lのウイルスミックスを添加し、プレートの表面上で滴下分配した。プレートを傾けて均
等に混合し、一晩インキュベートした。3日目、培地を2%のFBS 1%のp/sのD
MEMと交換した。5日目、プレート培地容量の半量をそれぞれのプレートから除去した
。残留培地を洗浄し、または細胞スクレーパを穏やかに使用することにより細胞をプレー
トから回収した。細胞を1300RPMにおいて5分間回転沈降させた。上清を除去した
。チューブの底部を軽打することにより細胞をほぐし、細胞のプレート当たり1mlのE
DTA PBS中で再懸濁させ、1300RPMにおいて5分間回転させた。細胞をプレ
ート当たり1mlの溶解緩衝液中で再懸濁させ、場合により-80Cにおいて貯蔵した。
勾配精製後、ウイルスをPBS中に緩衝液交換し、qPCRにより定量し、実験に使用し
た。
【0075】
293T細胞をプレーティングした日、細胞に、ABCD1mRNAに特異的なsiR
NAのプールまたは非標的化対照siRNAを形質移入した。別の対照は、ABCD1s
iRNAの存在下でGFPをコードするAAV9ベクター(AAV9-GFP)であった
。翌日、両方の試料にAAVプラスミドを形質移入してAAV9-ABCD1を産生した
。
【0076】
siRNAプロトコルは、複数のステップを有する:
1.5μMのプール(25%の4つのsiRNAのそれぞれ)siRNA溶液を、1×s
iRNA緩衝液(GE Healthcare)または原液からの別の適切なRNアーゼ
フリー溶液中で調製する。
2.別個のチューブ中で、siRNA(チューブ1中100ul)および適切なDhar
maFECT形質移入試薬(チューブ2中30ul)を、血清フリーDMEM培地により
2ml容量にそれぞれ希釈する。
3.それぞれのチューブの含有物を、上下に慎重にピペッティングすることにより穏やか
に混合する。室温において5分間インキュベートする。
4.チューブ1の含有物をチューブ2に添加し、総容量4mlとする。上下に慎重にピペ
ッティングすることにより混合し、室温において20分間インキュベートする。12ml
の完全DMEM(10%のFBS)をこの4mlに添加する。
5.3.75e6個の細胞/mlの濃度における完全培地中の4mlの再懸濁293T細
胞(合計1.5E7個の細胞)を、ステップ4からの16mlの形質移入混合物に添加す
る(25nMの最終siRNA濃度)。
6.15cmディッシュ中にプレーティングし、24時間インキュベートする。
7.AAVプラスミドのリン酸カルシウム形質移入の1時間前に培地を10%のFBSの
完全DMEMに交換する。
8.標準的AAV産生および精製プロトコルを進行させる。
【0077】
形質移入3日後に細胞を回収し、溶解させ、ベクター収量(ゲノムコピー数)を以下の
とおりqPCRにより測定した。
【0078】
【0079】
qPCRプロトコルは、複数のステップを有する:
1.ベクターを、ヌクレアーゼフリー水中で1:100~1:1000に希釈し、ボルテ
ックスに供する。qPCRにおいて使用する。
2.プラスミド675.5(5999bp)をゲノムコピー数(GC)標準として使用す
る。107~102gc/mLから標準を作出する。
3.標準および試料をトリプリケートで計測するために十分多い量でマスターミックスを
調製する。マスターミックスは、2ulのH2O、1.2ulのプライマーミックス(F
およびR=5ulのそれぞれの100umの原液、90ulの水中)、1ulのプライマ
ーミックス(FおよびR=6ulのそれぞれの100umの原液、88ulの水中)、0
.8ulのTM FAMプローブ2.5uM、1ulのTM FAMプローブ2uM(4
ulの100uMの原液+196ulの水)、および5ulのTaqMan Fastユ
ニバーサルPCRマスターミックス2×を含む。
4.混合し、プレートのウェル中9ulでアリコート化する。
5.水中で希釈した1ulのテンプレートを添加する。
6.ステージ1がサイクル数1、95℃:20秒を有し、ステージ2がサイクル数40、
95℃:03秒;60℃:30秒を有する熱サイクリングパラメータを有するように75
00装置をプログラムする。
7.データを分析する。標準についての傾きは、約-3.3であるべきである。
【0080】
収量は、AAV9-GFP試料を100%に任意に設定し、他の2つの試料をこの値に
対して正規化した相対タイターとして報告する。ABCD1mRNAに対するsiRNA
プールの存在下のAAV9-ABCD1の産生は、ベクタータイター(および収量)を対
照siRNAと比較して約4倍だけ改善した(
図1)。
【0081】
【0082】
293T細胞に、対照siRNA(
図2、レーン1、2)、ABCD1mRNAに対す
るsiRNAプール(
図2、レーン3~6)を形質移入し、または形質移入しなかった(
図2、レーン7、「通常」は、293T細胞中のABCD1タンパク質の内在性レベルを
指す)。翌日、AAV-ABCD1プラスミド(
図2、レーン1~4)またはAAV-G
FPプラスミド(
図2、レーン5、6)を形質移入した。3日後、細胞溶解物をSDS
PAGEゲル上で電気泳動し、ABCD1タンパク質についてのイムノブロットを実施し
てsiRNAノックダウンを評価した。アクチンブロッティングをローディング対照のた
めに実施した。8sおよび1sは、X線撮影用フィルムの8秒および1秒間の曝露をそれ
ぞれ指す。ABCD1siRNAは、対照siRNAと比較して過剰発現ABCD1のレ
ベルを低減させる。
【0083】
293T細胞を形質移入のままとし(siRNAなし)、またはそれに対照siRNA
もしくはABCD1mRNAに対するsiRNAプールを形質移入した。翌日、細胞にA
AVプラスミドを形質移入してAAV9-ABCD1を産生した。AAVプラスミドの形
質移入3日後、qPCRを実施して形質移入細胞の細胞溶解物中および培地中のベクター
の量(g.c.)を測定した。細胞溶解物および培地中の両方でAAV9-ABCD1ベ
クター収量の約3~4倍の増加が観察された(
図3)。
【0084】
実施例2:副腎脊髄ニューロパチーのマウスモデルにおける浸透圧ポンプによるrAAV
9-ABCD1の髄腔内送達は、CNSへのより均一で広範な遺伝子送達をもたらす
自己相補的AAV9GFP(scAAV9GFP)およびABCD1をコードするrA
AV9(rAAV9-ABCD1)を、Abcd1-/-マウスに、2分間の持続時間に
わたるボーラスにより、または24時間の持続時間にわたる浸透圧ポンプにより髄腔内(
IT)送達し、偽対照としてPBS注射を用いた。注射の2週間後、マウスを安楽死させ
、マウスに4%のPFAを灌流させた。次いで、組織を回収し、切片化し、免疫蛍光分析
のために染色した。
【0085】
浸透圧ポンプによりIT送達されたscAAV9-GFPは、CNS関連細胞タイプお
よびDRGにわたる広範な発現を用量依存的にもたらした。脊髄およびDRGは脳と比較
して多い発現を有したが、GFP発現は末梢器官(肝臓、心臓および副腎)中でも検出さ
れ、最大発現は3×1011GCにおいて見られた。
【0086】
ABCD1タンパク質の類似の分布パターンは、rAAV9-ABCD1髄腔内ポンプ
送達後に検出された。一般に、高用量(2×10
11GCおよび1×10
11GC)は、
低用量(0.5×10
11GC)と比較してCNSおよび末梢器官中での多い発現をもた
らした。比較すると、2分間にわたる髄腔内ボーラス送達は胸部中の最大量のABCD1
発現をもたらしたが、高用量(1×10
11gc)でさえ、頸部および腰部においてより
広範な送達をもたらさなかった(
図4)。
【0087】
特に、CNSにわたるABCD1の広範な発現は、0.5×10
11GCの低用量の直
接髄腔内ボーラス注射後でさえ検出された(
図5)。例えば、0.5×10
11GCボー
ラスおよびポンプ送達は、頸髄中のABCD1の類似発現を示す一方、心臓組織は、ボー
ラス注射後のより多い発現を実証した(
図6)。ポンプにより送達される同一の用量は、
ボーラス注射と比較して注射部位から離れた脳および脊髄中のより多い発現および末梢器
官への比較的少ない漏出をもたらすことが結論付けられた(
図7)。脳室内投与による0
.5×10
11GCにおけるrAAV9-ABCD1の送達は、脳中の局在化発現にもか
かわらず、Abcd1-/-マウスにおける挙動改善をもたらす。したがって、概略され
た髄腔内ポンプ送達を使用してこの用量におけるいっそうより良好な性能を達成すること
ができる。髄腔内ポンプを介して投与される1×10
11GCの用量において、中枢神経
系中のABCD1発現は、X-ALDを有さない未治療対象(例えば、野生型)の中枢神
経系中のABCD1の発現よりも約3倍多かった。重要なことに、末梢器官中のABCD
1発現は、X-ALDを有さない未治療対象の末梢器官中のABCD1発現の発現よりも
約90%少なかった(
図11参照、ウエスタンブロットにおける様々な組織タイプ間のタ
ンパク質発現を内在性野生型レベルに正規化した)。
【0088】
まとめると、髄腔内浸透圧ポンプを介するrAAV9媒介ABCD1遺伝子導入は、髄
腔内ボーラス注射と比較してCNSへのより均一で広範な遺伝子送達をもたらしつつ、全
身循環中への漏出を低減させる。
【0089】
実施例3:髄腔内浸透圧ポンプを介するrAAV9媒介ABCD1遺伝子導入は、脊髄中
のC26:0レベルの低減をもたらす
C26:0は、副腎脊髄ニューロパチーの生化学的特徴である。AAV9遺伝子送達後
の遊離超長鎖脂肪酸(VLCFA)の存在を評価するため、脂質分解分析を脊髄試料に対
して実施した。C26:0およびC24:0の絶対値ならびにC26:0/C22:0の
比を報告する。髄腔内浸透圧ポンプ(1×10
11gc)を介するrAAV9媒介ABC
D1遺伝子導入は、脊髄中のC26:0レベルの20%低減をもたらすことが決定された
(
図13)。髄腔内浸透圧ポンプ送達後のレベルは、髄腔内ボーラス送達後のものと同等
であるが、全身漏出を回避する。
【0090】
免疫蛍光染色および共焦点顕微鏡イメージングをさらに実施した。組織切片イメージン
グのため、脊髄の切片(16μm)を、クリオスタット(Leica)を使用して-25
℃において切断し、-80℃において貯蔵した。切片をマウス抗ヒトABCD1抗体によ
り染色し、次いでウサギ抗GFAP(Dako,Carpinteria,CA)、ウサ
ギ抗IBA1(Wako,Richmond,VA)およびウサギ抗CD31(Abca
m)によりそれぞれ同時染色して細胞タイプを局在化させた。TOPRO-3(Ther
mo Fisher Scientific)を、核対比染色のための蛍光色素として使
用した。スライドを共焦点レーザー顕微鏡によりイメージングし、形質導入細胞を計数し
た。それぞれの細胞タイプのABCD1形質導入細胞の推定値を、20倍および40倍(
ミクログリア)の倍率の画像で報告した。髄腔内浸透圧ポンプを介するrAAV9媒介A
BCD1遺伝子導入(1×10
11gc)は、主として脊髄中のアストロサイト、内皮細
胞およびいくつかのニューロンを標的化する(
図14)。後根神経節内で、それはサテラ
イト細胞およびニューロンの両方を標的化する(
図14)。
【0091】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明とともに記載した一方、上記説明は、添付の特許請求の範囲の
範囲により定義される本発明を説明するものであり、その範囲を限定するものではないこ
とを理解すべきである。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲の範囲内
である。