(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065029
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】治療的用途のためのフコシル化細胞の製造および凍結保存
(51)【国際特許分類】
A61K 35/12 20150101AFI20220419BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220419BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20220419BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20220419BHJP
【FI】
A61K35/12
A61P43/00 105
C12N1/00 N ZNA
C12N5/071
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017513
(22)【出願日】2022-02-07
(62)【分割の表示】P 2016576062の分割
【原出願日】2015-07-07
(31)【優先権主張番号】62/021,328
(32)【優先日】2014-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517002535
【氏名又は名称】ターガザイム,アイエヌシー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォルフ,ステファン,ディー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】治療的用途のためのフコシル化細胞の製造方法を提供する。
【解決手段】フコシル化治療用細胞を製造する方法であって、治療用細胞を単離する工程、当該治療用細胞を拡大する工程、および、当該治療用細胞を有効量のα1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーと接触させることにより、当該治療用細胞をフコシル化する工程、を有することを特徴とするフコシル化治療用細胞の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコシル化治療用細胞を製造する方法であって、
治療用細胞を単離する工程、
当該治療用細胞を拡大する工程、および、
当該治療用細胞を有効量のα1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーと接触させることにより、当該治療用細胞をフコシル化する工程、
を有することを特徴とするフコシル化治療用細胞の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照/関連による引用
本出願は、2014年7月7日に出願された米国シリアル番号第62/021,328号の35USC119(e)の下で利益を主張する。上記関連出願の全内容は関連により本明細書に明確に引用される。
【0002】
米国連邦政府によって寄託された研究または開発に関しての言明
適用なし。
【背景技術】
【0003】
背景
α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーでの細胞の処理は、セレクチンと呼ばれる接着タンパク質のクラスに結合するこれらの能力を増加する。炎症、虚血または組織損傷の間、P-セレクチンおよびE-セレクチンは、血管表面上での白血球のローリングおよび接着を協調的に媒介する(ザルボックら[Zarbock et al.]、(2011) Blood、118:6743-51に検討されている)。ほとんどの組織において、P-セレクチンおよびE-セレクチンは、アゴニストの刺激後に内皮細胞上で発現されるが、これらは、骨髄内皮細胞上で構成的に発現される。
【0004】
セレクチンは、例えば、リガンドとしての糖タンパク質または糖脂質上のシアリル ルイスX[sialyl Lewis X](sLeX)のようなα2,3-シアリル化およびα1,3-フコシル化されたグリカンを使用する。例えば、P-セレクチンは、P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)のN末端領域(これは、チロシン硫酸塩と、sLeXでキャップされたO-グリカンとを含む。)に結合する。E-セレクチンは、PSGL-1上の1つ以上の異なる部位に結合する。E-セレクチンと相互作用するために、PSGL-1はチロシン硫酸化を必要としないが、O-グリカン上でのsLeXの発現は結合を増強する。E-セレクチンはまた、他のリガンドと相互作用する。HSC群上のCD44のアイソフォームは、インビトロ(in vitro)でE-セレクチンに結合することが示されている(ディミトロフら[Dimitroff et al](2001) J. cell Biol、153:1277-1286)。HSC群上のE-セレクチンに関しての別の潜在的なリガンドは、E-セレクチンリガンド-1(ESL-1)(ワイルドら[Wild et al.] (2001)J. Biol Chem.、276:31602-31612)である。これらの糖タンパク質リガンドのそれぞれは、sLeX構造を担持すると考えられている。
【0005】
フコースは、sLeX中の末端炭水化物であり、エキソビボ(ex vivo)でのフコシル化は、細胞表面sLeXのレベルを増加させること、並びに、細胞の脈管構造から周囲組織へ管外遊出する細胞の能力を増加させることが示されている(キアら[Xia et al.] (2004) Blood、104:3091-6; サックステインら[Sackstain et al] (2008) Nat Med、14:181-7; サーカーら[Sarkar et al] (2011) Blood、118:el84-91; ロビンソンら[Robinson et al] (2012) Exp Hematol. (40):445-56; 米国特許第7,332,334号;US2006/0210558号、米国特許出願第12/948,489号)。
【0006】
今日までのエキソビボでのフコシル化の開示された方法は、動物またはヒトへの静脈内注射の直前に細胞を処理することを含んでいた。例えば、現在、臍帯血細胞を骨髄にホーミングさせ(homing:自分の本来の居場所である骨髄を認識させること)かつ生着する能力を改善するために、移植前に、臍帯血細胞をα1,3-フコシルトランスフェラーゼVIおよびGDP-フコースで処理する有用性を試験する臨床試験が行われている(“clincaltrials.gov”、識別子NTC01471067)。この適用において、臍帯血は、細胞集団を拡大することなく治療の時点でフコシル化される。この試験は、臍帯血バンクから移植受容者に遺伝的に適合した臍帯血を得ること、その細胞を解凍し、そしてそれを凍結保護剤を含まないように洗浄し、室温で30分間α1,3-フコシルトランスフェラーゼVIおよびGDP-フコースで処理し、細胞を再度洗浄し、そしてこれを静脈内経路を介して前記患者に注入すること、を含んでいる。
【0007】
しかしながら、多くの用途では、治療前に細胞の数を拡大することが有利である。例えば、臍帯血中の造血細胞の数は、移植後に子供に生着するのに十分ではあるものの、大人には十分ではない。このため、生着可能な細胞の数を拡大するために、移植前の種々の条件下で臍帯血細胞を培養することによる多くの試みがなされてきた(ダハロベルグら[dahlberg et al] (2011) Blood、117:6083-90;およびデラニーら[delaney et al] (2013) Biol Blood Marrow Transplant、19(1 補遺):S74-8に評論されている)。
【0008】
しかし、徹底した研究にもかかわらず、オリジナルの細胞集団の全ての特性を保持する造血細胞の増殖方法は現在のところ存在していない。当該細胞の細胞表面特性、ならびにそれらのインビトロおよびインビボ(in vivo)の効力の双方が変化できるものである。例えば、エキソビボでの拡大の間に、骨髄ニッチに存在するリガンド群であるN-カドヘリン、オステオポンチンおよび血管細胞接着性分子-1に対する接着は、急速に減少する。このことは、拡大された細胞が骨髄中へ生着することに関して減少した能力を示すことを、ある程度説明するものとなり得る(カリニコウら[kalinikou et al] (2012) Br J Haematol.、158:778-87)。したがって、拡大された造血細胞集団は、一次または拡大されていない細胞集団と異なることが明らかである。今日まで、エキソビボでの拡大の間での接着分子の損失が、フコシル化されるべき細胞の能力に影響を及ぼすか否か、または、エキソビボでの拡大よって生じる生着欠陥をフコシル化が救助することができるか否かに着目した研究は行われてこなかった。
【0009】
同様の状況が間葉系間質細胞(MSC)に存在する。MSCは、骨髄細胞のうちの小さな割合(総有核細胞の0.001-0.01%)占めるものである。しかしながら、現在の治療用量のMSCは、1~5×106MSC/kg体重の用量を必要とし、そしてさらにいくつかの適用においては有効とする上でより高い細胞用量(>5×106MSC/kg体重)を必要としており、そしてこれゆえ、一次材料の限られた出発容量から1~5×108MSCまでの生成を可能とするMSCの拡大プロトコルを開発することが必要である。
【0010】
しかし、MSCのエキソビボでの拡大は、使用される条件に応じて、それらの治療的特性を変容することができる(メナードら[Menard et al] (2013) Stem Cells dev.、22:1789-801)。さらに、多くの細胞表面抗原(インテグリンα6、インテグリンαv、CD71、CD140b、CCR4、CD200、CD271、CD349、およびCXCR7)は、5つのGMP準拠拡張条件群のいずれかの下での通過の間に、MSCの通過によって下方規制される(フェケテら[Fekete et al] (2012) PLoS One、7(8):e43255)。しかしながら、今日まで、エキソビボでの拡大の間でのこれらの細胞表面抗原の損失が、フコシル化されるべき細胞の能力に影響を及ぼすか否か、または、フコシル化が大規模拡大培養で製造されたMSCのホーミングおよび生着を改善することができるか否か、に着目した研究は行われてこなかった。
【0011】
治療用途のための細胞の製造は、多くの場合、組織培養において、生きているまたは死亡している供与者からの限られた数の一次細胞を拡大することを含む。このような細胞を得るために有用な組織には、骨髄、臍帯血、臍帯、ワルトン膠質、末梢血、リンパ組織、子宮内膜、栄養芽細胞由来組織、胎盤、羊水、脂肪組織、筋肉、肝臓、軟骨、神経組織、心臓組織、歯髄組織、剥離歯などから単離された細胞、または胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞に由来する細胞などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
固体組織由来の細胞を単離するための一般的な方法は、組織中の細胞を保持するマトリックスを破壊し、それらを組織培養培地中に放出するコラゲナーゼのようなタンパク質分解酵素で組織を処理することであり、あるいは、超音波処理などの機械的方法を使用することもできる。
【0013】
必要に応じて、細胞の集団は、抗CD34または抗STR01などのような細胞表面抗原に対する抗体の1つまたはそれ以上と当該細胞を接触させ、そして蛍光活性化セルソーティング(FACS)または磁気ビーズ単離のような当分野で公知の方法によって当該細胞を分離することによって、選択されることができる。好都合なことには、抗体は、直接的な分離を可能にする磁気ビーズ;支持体に結合したアビジンまたはストレプトアビジンで除去することができるビオチン;蛍光活性化セルソーター(FACS)とともに用いることができる、蛍光色素、などのような標識と結合され得るものであり、特定の細胞型の容易な分離を可能とする。残っている細胞の生存性に過度に有害でない、任意の技術を採用することができる。所望の細胞集団に結合する抗体を使用するのではなく、望ましくない細胞集団に結合する抗体を使用することによって、負に選択することが可能である。
【0014】
次いで、得られた細胞は、懸濁培地中で増殖される(造血、免疫またはリンパ細胞のような細胞に関しての典型的に望まれるの方法)、または付着した細胞として増殖される(MSC、脂肪幹細胞または神経幹細胞のような組織培養プラスチックに付着する細胞に関して典型的に望まれるの方法)。付着した細胞は、フラスコ、ローラーボトル、細胞工場内で増殖させることができる、またはマイクロキャリアビーズ上で増殖させ、その後、使い捨てバッグ中の懸濁液中に保持され、懸濁液バイオリアクターまたはウェーブバイオリアクターで攪拌されることができる。当該技術分野で知られている他の方法には、中空繊維装置内、硬質壁の攪拌タンク、回転壁、平行板、または固定式流動床反応器であり得るバイオリアクター内、または、Aastrom REPLYCELl(商標名) System(アアストロム バイオサイエンセス[Aastrom Biosciences]、ミシガン州アナーバー)などのような自動細胞処理ユニット内で細胞を増殖させることが含まれるが、これらに限定されるものではない(これらの異なる方法を検討するためには、ロドリギュースら[Rodrigues et al] (2011) Biotechnol Adv.、29:815-29を参照のこと。)。
【0015】
製造中に生成される細胞の性質は、使用される条件によって大きく異なることとなり得る。MSCの拡大のために、胎児ウシ血清(FBS)は、多くの場合、培養培地中に含まれる。全血の凝固および血小板および他の血球製品の放出後に得られる製品として、血清は、創傷条件を除いて身体に通常見られない病理学的流体である。結果として、血清の存在下で製造されたMSCまたは他の細胞は、正常な恒常性条件下ではこれらは通常インサイチュ(in situ: 生体内の本来の場所)では見ないであろう生物学的に活性な因子(例えば、、血小板由来サイトカインおよびその他の製品)を見る。これはまた、細胞がcGMPの条件下で製造された場合にFBSの代わりに使用することができる、ヒト血小板溶解液中で増殖させた細胞についても同様である。血清または血小板溶解物の存在下で増殖した細胞は、したがって、組織から得られた一次細胞とは異なる特性を有する。
【0016】
MSCおよび他の細胞型を増殖させるために無血清培地を開発する試みがなされてきたが、これらは異なる側面の問題を提示する。細胞は、通常、これらが常にこれらの環境からシグナルを受信する複雑な環境においてインビボで存在する。これらは、細胞外マトリックスに付着して、他の細胞型に密着して、および、複雑なタンパク質性流体、特にそれらが位置する器官、血液またはリンパ液に、浸されて、存在し得る。これに対して、既存の無血清培地は、タンパク質をほとんど有しておらず、インサイチュな環境を再現しない。さらにまた、付着した細胞のための基質、通常、組織培養プラスチック、ガラスなど、は、細胞が通常インサイチュで体験するものとは非常に異なる環境を提供する。多くの場合、細胞は、組織培養基質への付着を最大限にするために平坦化し、その結果として、細胞は、機能を維持するために重要であり、通常、インビボで有する立方構造を失う。
【0017】
製造プロセスにかかわらず、治療用細胞は、厳格な規制ガイドラインを満たす必要がある。細胞の拡大は最小操作よりも多いものであると考えられるゆえ、拡大された細胞は、単純に供与者より得られたものよりも厳密に規制され、そして最小限の操作のみで受容者に与えられる。米国においては、治療用細胞は、米国食品医薬品局(FDA)によって施行された現在の適正製造実施[Current Good Manufacturing Practice](cGMP)規則に従った方法で製造されなければならない。拡大された細胞は、ヒトの細胞、組織、または細胞および組織ベースの製品(HCT/Ps)の文脈において考慮される。そのため、細胞生産は、連邦規則集(CFR)タイトル21、パート1271[Code of Federal Regulation (CFR), Title 21, Part 1271]に準拠し、かつ、現在の適正製造実施(cGTP)およびヒト細胞、組織、または細胞および組織ベースの製品(HCT/Ps)の製造業者に対する追加要件に従ったものとする必要がある。欧州においては、欧州規制EC 1394/2007で定義されているように、拡大された細胞は、高度治療医薬品(ATMPs)として考えられている。供給源、製造プロセスおよび意図する適用に応じて、拡大された細胞は、体細胞療法製品または組織工学製品と考えられることができる。欧州規制EC 1394/2007は、欧州cGMPガイドラインを参照し、かつ、ヒト用医薬品における2003/94/EC指令ならびにヒト血液および血液成分の採集、試験、処理、保存および配布に関する品櫃および安全性の基準を規定する指令2002/98/ECに準拠するものである。
【0018】
cGMP準拠条件下で拡大させた細胞の性質は、実験室条件下で増殖させた細胞と実質的に異なり得る。実験室条件下では、通常、細胞は、5~10%二酸化炭素(CO2)中で、5~10%ウシ胎児血清を含有し、またインビボで非糖尿病個体において通常見られるものよりも高いグルコース濃度を有する組織培養培地において成長させられる。実験室条件下で使用される培地は、通常、ロズウェル パーク メモリアル インスティテュート[Roswell Park Memorial Institute](RPMI)1640、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などのような標準的な実験室培地の1つであり、細胞はこれらの標準培地の1つにおいて成長するように適合される。実験室条件下では、細胞は、これらが組織培養培地中において栄養物の排出をし始めるまでの期間の間成長させられ、そしてその後培地の50%~95%をそれぞれ交換することにより交換される。
【0019】
実験室条件で使用される高い酸素分圧は、細胞に酸化ストレスを引き起こす可能性がある。実験室条件下で広く変動し得る、栄養物および代謝物濃度もまた、細胞の挙動に影響を与え得る。
【0020】
対照的に、cGMPプロセス開発は、各細胞型に関して、これらのパラメータの各々、ならびにその他の多くのもの、を最適化する(検討のためにロドリギュースら[Rodrigueset al] (上記で引用)を参照のこと。)。cGMP製造に使用される培養容器は、実験質条件下で使用されるものとは非常に異なることが多く、そして組織培養フラスコとは対照的にバイオリアクターを含むことが多い。組織培養培地成分は、通常、1つの既製の組織培養培地を使用するのではなく、各細胞型に対して最適化されたものであり、成長因子およびその他の添加剤は、これら自体がcGMP条件下で製造されるものが用いられる。cGMP条件下で製造される製造業者は、実験室条件下で一般に使用されるFBSなどのような異種の添加物を排除することを一般に努力している。供給パラメータ、成長因子、および酸素化は、cGMPプロセス開発中に各細胞型に対して最適化され、そして栄養物および代謝物の濃度の変動が狭い限度内に保たれる。最終的に、cGMPプロセスに関する拡大のスケールは、多くの場合、通常の実験室条件下で起こる場合のものよりも大きなオーダーである。
【0021】
これらの理由から、治療用細胞の製造は、単純に実験室ベースの方法をスケールアップする事柄ではない。その代わりに、プロセス開発の全ての段階で詳細な最適化研究を実施しなければならず、学術的な実験室条件下で行われた観察は、cGMP準拠条件下で増殖された細胞に必ずしも適用されないことがある。さらに、上述したように(例えば、カリニコウら[kalinikou et al]、メナードら[Menard et al]、およびフェケテら[Fekete et al](これら各々が上記で引用されている)、cGMP準拠条件下においてでも、細胞の性質が大規模な拡大によって変化する可能性があるが、これは、cGMP準拠条件が通常は細胞成長のために最適化され、機能のために最適化されていないためである。したがって、一次細胞でまたは実験条件下で増殖された細胞で得られた結果は、大規模cGMP製造プロセスで使用される条件下で、その規模まで拡大された細胞には適用され得ないことがある。
【0022】
拡大された細胞集団のフコシル化のための最適な方法は、今日まで、決定されていない。特に、cGMP条件下で成長させられた細胞に関してのフコシル化のための最適な方法は決定されていない。意図される用途に応じて、フコシル化の工程は、治療用細胞の製造の間の異なるポイントに組み込むことができる。いくつかの用途では、細胞を製造し、そしてこれら細胞を凍結保存せずに直接患者に供給することが有利である。そのような用途の例としては、造血幹細胞または免疫細胞、間葉系幹細胞、脂肪由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、筋肉細胞、羊膜細胞、子宮内膜細胞、神経幹細胞、および誘導多能性幹(iPS)由来の細胞のエキソビボ拡大が含まれるが、何らこれらに限定されるものではない。特に、患者に与えられている細胞が自己由来である場合(すなわち、細胞が、当該患者または遺伝的に同一の個体に由来するものである場合)である。
【0023】
場合によっては、中央処理センターで細胞を製造することが有利である。この方法は、インビトロで細胞の大量バッチを増殖させること、制御された条件下でそれらをフコシル化すること、そして、それらが投与される臨床センターへ供給するためのアリコートを凍結すること、を含む。そのような用途の例としては、間葉系間質細胞(MSC)、脂肪由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、筋肉細胞、羊膜細胞、子宮内膜細胞、並びに胚性幹(ES)細胞由来および誘導多能性幹(iPS)由来の細胞が含まれるが、これらに限定されるわけではない。特に、患者に与えられている細胞が同種異系である場合(すなわち、受容者とは遺伝的に異なる供与者からの)場合である。これらの場合においては、細胞の大量バッチを増殖させ、バルク中でそれらをフコシル化し、そして患者への投与のために医療センターに供給する前にそれらをアリコートにおいて凍結保存することができるように、経済的、品質管理、および供給上の利点がある。
細胞の凍結保存は、凍結保護剤を培地に添加し、制御された凍結速度を使用し、そして、通常は液体窒素冷凍庫で、低温で細胞を保存することを含む。凍結保護剤は、氷結晶の形成によって引き起こされる凍結損傷から生物学的組織を保護するために使用される物質である。凍結保護剤は、2つの一般的なカテゴリーに分類される:すなわち、細胞膜を通過することができる、浸透凍結保護剤、および、細胞膜を透過せず、凍結方法に存在する高浸透圧効果を減少させることにより作用する、非浸透凍結保護剤である。浸透性凍結保護剤の例としては、ジメチルスルホキシド(MeSO2またはDMSO)、グリセロール、ショ糖、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、およびこれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。非浸透性凍結保護剤の例としては、ヒドロキシエチルデンプン、アルブミン、ショ糖、トレハロース、デキストロース、ポリビニルピロリドン、およびこれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
最も広く使用されている浸透性凍結保護剤はDMSOであり、凍結中の氷結晶の形成を防止する吸湿性極性化合物である。DMSOは、しばしば、自己血漿、血清アルブミン、および/またはヒドロキシエチルデンプンなどの非浸透性薬剤と組み合わせて使用される。異なる凍結保護剤の混合物を使用することにより、溶液の毒性が低減する、それゆえ、溶液を単一の凍結保護剤よりもより効果的なものとならしめる。例えば、細胞に関して最も一般的に用いられる凍結保存方法であって、前記凍結保存方法は、前記細胞に最も一般的に用いられる凍結保存方法は、動物またはヒト血清のいずれかの存在下で5~20%DMSOからなる凍結媒体を含むものである。1~2℃/分での制御された速度および急速解凍の使用が、標準と考えられる。これは、その速度での温度を低下させる制御された速度の冷凍庫、または制御された速度凍結で採用されたものと同様の冷却速度を生成するために、一般に-80℃で細胞を冷却する(いわゆるダンプ-凍結[dump-freezing])、機械式冷蔵庫のような受動的な冷却装置を使用することを含み得るものである。
【0025】
ニューヨーク ブロッド センター[Newyork blood center]のルビンスタイン[rubinstein]と同僚たちは、DMSOを使用して臍帯血ユニットを凍結するための最適化されたプロトコルを開発した(ルビンスタインら、(1995) PNAS、92:10119-22)。ヘタスターチが当該ユニットに添加され、その後過剰な赤血球および決勝を除去するために遠心分離して、本質的にすべての幹細胞および前駆細胞を含有する20mlの均一な最終容量を得た(米国特許第5、789、147号))。臍帯血ユニットの減容化の後に、5mLの凍結保存溶液(0.85 NaCl、50%DMSO (クライオサルブ[Cryoserv]、リサーチ インダストリーズ、ユタ州ソルトレイクシティ)および5%デキストラン[Dextran] 40(バクスター ヘルスケア、イリノイ州ディアフィールド)が、細胞懸濁液に、ゆっくりと、連続的に混合しながら、添加された。液体窒素の液相内の極低温タンクに貯蔵された制御凍結を用いて、ユニットを凍結させた。同様の方法は、多種多様な細胞タイプに使用される(ハント[Hunt] (2011) Transfeus Med. Hemother、38:107-123において検討されている。)。
【0026】
しかしながら、細胞の生存性を維持するための低温保存方法のこのような詳細な研究にもかかわらず、凍結保存後の細胞表面フコシル化の保持を調査した研究はなかった。
【0027】
α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーを用いてのエキソビボでの処理後に、フコシル化された正確な細胞表面成分は、いずれの細胞型についても十分に特徴づけられていない。糖脂質および糖タンパク質の両方を含むいくつかの細胞、および例えばPSGL-1、CD44およびESL-1のようなフコシル化の主要な標的は、上述したように、同定されている。しかしながら、エキソビボでの処理後にフコシル化されるタンパク質および糖脂質の完全なスペクトルは、いずれの細胞型についても十分に定義さていない。
【0028】
ファイントら[Faint et al](J. Immunother. (2011) 34:588-96)は、リンパ球の凍結保存が細胞表面抗原に影響を及ぼすことを開示する。これらの著者は、組織からのリンパ球脱出に重要な役割を果たす膜貫通型タンパク質である、CD69、および、主要な化学誘引性レセプターである、ケモカインレセプターCXCR4の低下したレベルが、解凍後に増加したこと、一方、接着タンパク質であるCD62L、および別の化学誘引性レセプターであるCXCR3のレベルが低下したことを観察した。これらの変化は、組換えCXCL11およびCXCL12に向かって内皮のサイトカイン刺激された単分子膜を横切って移動するリンパ球の能力の調節に関連しているものであった。これゆえ、リンパ球の凍結保存および解凍は、それらの接着表現型における変化を誘発し、そして内皮単分子層を横切って移動するそれらの能力を変容するものであった。
【0029】
同様に、コーエニグスマンら[Koenigsmann et al](Bone Marrow Transplantation (1998) 22:1077-1085)は、凍結保存の前後でのcd34+細胞上の接着分子を研究し、凍結は、L-セレクチン(CD62L)発現を有するCD34+細胞の画分を62%から11%へと著しく減少させたこと、またインテグリンサブユニットCD29およびCD49dの蛍光強度を減少させたこと、を見出した。L-セレクチンにおける減少がまた、ハットリら[Hattori et al](Exp. Hemat. 29 (2001) 114-122)によって観察された。
【0030】
キャンプベルら[Campbell et al](Clin vaccine immunol. (2009) 16:1648-53)は、凍結保存は、PBMC由来CD3+/CD8+T細胞およびCD45+/CD14+単球におけるPD-1およびPD-L1の両方の発現を顕著に低下させたことを見出した。
【0031】
アオヤギら[Aoyagi et al](J. Craniofac Surg. (2010) 21:666-78)は、凍結保存後に、MSCにおける細胞表面タンパク質CD271の発現の顕著な変化を見出した。DMSOは、MSCにおける神経様形態、並びに、例えば、GFAP、ネスチン、神経核抗原(NeuN))およびニューロン特異性エノラーゼ(NSE)のようなニューロンマーカーの増大された発現、を迅速に誘導することができる(マレシら[Mareschi et al] (2006) Exp Hematol.、34(11):1563-72;およびニューヒューバーら[Neuhuber et al] (2004) J. Neurosci Res.、77:192-204)。
【発明の概要】
【0032】
これらの全ての研究は、凍結保存が接着特性および細胞表面抗原の発現を変化させ得ることを開示したが、細胞表面フコシル化のレベルに影響を与えたかどうかを見ているものは皆無である。凍結保存は、先験的に予測できない様式で種々の細胞型上における細胞表面接着および他の分子を変更し得るゆえ、および、α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーを用いての処理の後にフコシル化された細胞表面成分の状態は、十分に定義されていないゆえ、細胞表面フコシル化における凍結保存の効果は、経験的にのみ決定することができるものであった。今日まで、この問題に対処する研究は、科学文献または特許文献のいずれにおいても、発表されていない。
【0033】
エキソビボでの拡大後に異なる細胞型がフコシル化され得る程度、および、細胞表面フコシル化が凍結保存に対して安定である程度は、各細胞型それぞれに関して経験的に決定され得るのみである。前の議論によって示しているように、エキソビボでの拡大および凍結保存は、それぞれ、いくつかの細胞接着分子および他の細胞表面成分の発現および機能に影響を及ぼし得るものであり、これらの変化は、細胞型特異的であり、そして事前に予測することができないものである。L-セレクチンのようなタンパク質は、凍結保存および解凍による損失から、短期間のインキュベーション後に回復し得る(ハットリら、上記において引用)。しかしながら、このようなことは、エキソビボでのフコシル化後のフコシル化レベルでは起こりそうにない。これは、フコシル化タンパク質を、外因性酵素およびフコースドナーに曝されたものと置き換える内部保存がないゆえである。増加したフコシル化レベルを有する細胞の製造および凍結保存のための条件の同定が、本出願の課題である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】は、解凍されたヒト臍帯血からの単核細胞のFTVIまたはFTVIIによる細胞表面フコシル化の動態の比較分析をグラフで示すものである。
【0035】
【
図2】は、ヒト間葉系幹細胞(MSC)のFTVIまたはFTVIIによる細胞表面フコシル化の動態の比較分析をグラフで示すものである。
【0036】
【
図3】は、FTVIまたはFTVIIによる精製臍帯血由来CD34+細胞の細胞表面フコシル化の動態の比較分析をグラフで示すものである。
【0037】
【
図4】は、新鮮な培養神経幹細胞(NSC)のFTVIまたはFTVIIによる細胞表面フコシル化の動態の比較分析をグラフで示すものである。
【0038】
【
図6】は、FTVI(
図5)またはFTVII(
図6)によるヒト解凍臍帯血由来単核細胞の細胞表面フコシル化の動態の比較分析をグラフで示すものである。
【0039】
【
図7】は、ヒト内皮前駆細胞(EPC)のフコシル化におけるFTVI処理対偽処理の効果の分析をグラフで示すものである。
【0040】
【
図8】は、ヒト羊水幹細胞のフコシル化おけるFTVI処理の効果の分析をグラフで示すものである。
【0041】
【
図9】は、ヒト脂肪由来幹細胞のフコシル化おけるFTVI処理の効果の分析を示す図である。
【0042】
【
図10】は、トリプシン処理前または後でのヒトMSCのフコシル化の効果の分析を示すグラフで示すものである。
【0043】
【
図11】は、フコシル化のレベル(%)おける、様々な濃度のFTVIでhNK細胞をインキュベーションした効果を示す図である。hNK細胞は14日間拡大させ、採集し、洗浄し、そして、5μg/mL~25μg/mlの範囲で変化させた種々の濃度のFTVIとインキュベートされた。CDP-フコース(全試料中の1mMの最終濃度)の添加で、細胞は室温で30分間インキュベートされ、その後、CLA-FITC染色を用いてのフコシル化の程度の分析、並びにNK細胞のその他の細胞表面マーカー(CD62L、CD44、CD16、CD56、およびPSGL)特性の分析を行った。
【0044】
【
図12】は、E-セレクチンキメラへ結合する流体相におけるインキュベート比較対照およびTZ101処理ヒトNK細胞の効果を示すものである。拡大されたhNK細胞が室温にて、30分間、TZ101なしに、あるいは、2.5×10
6NK細胞/mlでのTZ101の5、10、25、および50μg/mlと共にインキュベートされ、洗浄され、再懸濁された。次いで、1μg/10
5NK細胞が、ヒトまたはマウスE-セレクチン/Fcキメラタンパク質と共に、4℃で30分間インキュベートされ、そしてCLA、CD44、ヒトIgG、およびアネキシンVで染色された。
【0045】
【
図13】は、TZ101による処理48時間後のフコシル化NK細胞の安定性の検査を示すものである。hNK細胞が18日間拡大され、収穫され、洗浄され、25μg/mlでFTVIと共にインキュベートされた。GDP-フコースの添加(最終濃度1mM)に続いて、細胞は室温にて30分間インキュベートされ、続いて、培養培地中に維持された後の1時間および48時間後に、CLA-FITC染色よりフコシル化の程度を分析した。
【0046】
【
図14】は、比較対照対フコシル化NK細胞の細胞毒性能の比較分析を示すものである。hNK細胞を14日間拡大させ、収穫し、洗浄し、そして示された細胞系統とインキュベートする前に、IL-2と共に24時間インキュベートされた。毒性は、K562細胞およびMM1S細胞を、比較対照またはTZ101-フコシル化hNK細胞とインキュベーションした後に測定された。細胞毒性は、クロム放出の測定によって、インキュベーションの4時間の終わりに監視された。
【0047】
【
図15】
図15Aは、調節T(T
reg)細胞のフコシル化を示すものである。各ドットプロットの左側は、アイソタイプ比較対照を示し、一方、右側はパーセントCLA陽性細胞の発現と一緒に染色を示すものである。TZ101(FTVI+GDP-フコース)での処理は、HECA-452抗CLA抗体染色で検出した際、細胞表面sLeXユニットの発現を8.8%から62%に増加させた。
図15Bは、フコシル化(FT)T
reg細胞が、それらの抑制機能を維持することを示すものである。2人の供与者からのPBMCを一緒に培養して、MLR(D1+D2)を生成した。このドナー混合物(D1+D2)へのT
reg細胞またはFT-T
reg細胞の1:1の割合での添加は、MLRを顕著に抑制した。Y軸は、のtreg細胞またはft-treg細胞の添加)mlrを有意に抑制する。Y軸は、毎分当たりのカウント数(CPM)(平均±SEM、n=3)を表す。
【0048】
【
図16】は、CGI(CG1-CTL)に対する細胞傷害性T細胞の拡大およびそのフコシル化を示すものである。フコシル化のレベルは、フローサイトメトリーおよび抗CLA FITCを用いて測定した。非処理細胞は4%フコシル化を示し、一方、TZ101で処理された細胞は100%フコシル化を示した。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明の概念(群)の少なくとも1つの実施形態を、例示的な図面、実験、結果、および実験室の手順によって詳細に説明するに先立ち、本発明の概念(群)は、以下の説明に記載しまたは図面、実験および/または結果に例示された構成の詳細および構成要素の配置にその適用が何ら限定されるものではないことが理解されるべきである。本発明の概念(群)は、その他の実施形態のものであり得、また種々の方法において実施ないし実行され得るものである。したがって、本明細書で使用される言語は、最も広い可能な範囲および意味を与えられることが意図されており、また実施形態は、例示的なものであって、網羅的でないことを意味する。また、本明細書で使用される表現および専門用語は、説明の目的のためのものであり、限定するものと見なされるべきではないことが理解されるべきである。
【0050】
本明細書で特に定義されない限り、現在開示されたおよび/または特許請求された本発明の概念(群)に関連して使用される科学的および技術的用語は、当業者に一般的に理解される意味を有するものである。さらに、文脈によって特に要求されない限り、単数の用語は、複数の用語を含み、複数の用語は、単数を含むものとする。一般に、本明細書において述べる、細胞および組織培養、分子生物学、およびタンパク質およびオリゴまたはポリヌクレオチドの化学並びにハイブリダイゼーションに関連して用いられる、命名法、および技術は、周知であり、当分野において一般的に用いられている。標準的な技術が、組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、ならびに組織培養および形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)のために使用される。酵素反応および精製技術は、製造業者の仕様書に従って、または当該技術分野において一般的に行われているように、もしくは本明細書に記載のように行われる。前述の技術および手順は、当技術分野において周知である、および本明細書を通じて引用および議論される様々な一般的なおよびより具体的な参考文献において記載されているような従来の方法に従って一般的に行われる。例えば、サムブルックら、分子クローニング:実験マニュアル(第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー (1989)[Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)]、およびコリガンら、免疫学における最新プロトコル(カレント プロトコルス、ワイリーインターサイエンス (1994))[Coligan et al. Current Protocols in Immunology (Current Protocols, Wiley Interscience (1994)]を参照のこと。本明細書において記載される、分析化学、合成有機化学、並びに医薬および薬学的化学に、関連して用いられる命名法、並びにこれらの実験室手順および技術は、当該技術分野で周知であり、一般に使用されるものである。標準的な技術は、化学合成、化学分析、薬学的調製、製剤、および供給、ならびに患者の治療に関して用いられる。
【0051】
本明細書において記載された全ての特許、公開された特許出願および非特許文献は、ここに開示されたおよび/または特許請求された本発明の概念(群)が関係する当業者の技術レベルを示すものである。本出願の任意の箇所において引用された全ての特許、公開された特許出願および非特許文献は、これらそれぞれの特許または出版物が明確に個別的に関連により本明細書に組み込まれると示されているのと同じ程度をもって、関連によりこれらの完全性をもって本明細書中に明確に組み込まれるものである。
【0052】
本明細書に開示されたおよび/または特許請求された組成物および/または方法の全ては、本開示に照らして、過度の実験を行うことなく製造および実行することができる。本発明の概念(群)の組成物および方法は、特定の非限定的な実施形態に関して説明されているが、本明細書に記載される、組成物および/または方法に、並びに方法の各工程にまたは工程の順序に、ここに開示されたおよび/または特許請求された本発明の概念(群)のその概念、本質および範囲から逸脱することなく、変更を加えることができることは、当業者にとって、明白なことであろう。このような同様な代替および変更はすべて、当業者にとって明らかなように、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の概念(群)の本質、範囲およびその概念の範囲内のものであるとみなされるものである。
【0053】
本開示に従って利用される場合、以下の用語は、特に断らない限り、以下の意味を有するものと理解されるべきである。
【0054】
請求の範囲および/または明細書において「~から構成される」[comprising]という用語と共に用いられる単語"a"または"an"の使用は、「1つ」を意味するものであるかもしれないが、また、それは「1つまたはそれ以上」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは1以上」の意味と一致するものでもある。単数形"a"、"an"、"the"は、文脈がそうでないことを明確に示していない限り、複数の指示対象を含むものである。従って、例えば、「化合物」["a compound"]に関して、「1つまたはそれ以上」、「2つまたはそれ以上」、「3つまたはそれ以上」、「4つまたはそれ以上」あるいはそれ以上に大きい数の化合物を意味し得るものである。「複数」["plurality"]という用語は、「2つまたはそれ以上」を意味するものである。請求の範囲における用語「または」["or"]の使用は、代替手段のみに関することを明示的に示すまたは代替手段が相互に排他的である場合以外には、「および/または」["and/or"]を意味するために使用される。なお、開示は、代替手段および「および/または」["and/or"]である定義を支持するものではある。この出願全体を通じて、用語「約」["about"]は、ある値が、装置、ないし値を測定するために用いられる方法に関する誤差の固有の変動、または研究対象群の中に存在する変動を含むものであることを示すために用いられる。特に限定するものではないが、例えば、「約」という用語が利用される場合、指定された値は、±20%または±10%または±5%または±1%、または±0.1%で特定値から変動し得、このような変動は、開示された方法を実施するのに適しており、また、当業者には理解されるものである。「少なくとも1つ」["at least one"]という用語の使用は、1つ並びに、2、3、4、5、10、15、20、30、40、50、100などを含むがこれらに何ら限定されるわけではない、1つ以上の任意の量を包含するものであると理解されるべきである。「少なくとも1つ」という用語は、それが付されている用語に応じて、100あるいは1000ないしそれ以上まで広がり得、さらに、100または1000の量は、より高い限度もまた満足な結果を生じ得るゆえに、これらが限度であると考慮されるべきではない。さらに、「X,YおよびZの少なくとも1つ」["at least one of X, Y and Z"]という用語の使用は、Xのみ、Yのみ、およびZのみ、並びにX、YおよびZの任意の組合せを含むものであると理解されるべきである。順序番号用語(すなわち、、「第1」["first"]、「第2」["second"]、「第3」["third"]、「第4」["fourth"]等)の使用は、2つまたはそれ以上の項目を単に区別する目的のためのものであり、任意の順序または順番を意味することを意図するものではなく、また1つの項目の他に対する重要度、または追加の任意の順序を意図するものでもない。
【0055】
明細書および請求の範囲において用いられる場合、「~から構成される」["comprising"](および"comprise"および"comprises"のような、「~から構成される」["comprising"]の任意の形態)、「~を有する」["having"](および"have"および"has"のような、「~を有する」["having"]の任意の形態)、「~を含む」["including"](および"includes"および"include"のような、「~を含む」["including"]の任意の形態)、または「~を包含する」["containing"](および"contains"および"contain"のような、「~を包含する」["containing"]の任意の形態)の語群は、非排他的ないし解放端的なものであり、付加的な、言及されていない要素または方法工程を排除するものではない。
【0056】
本願において用いられる「またはそれらの組合わせ」["or combination thereof"]の用語は、この用語に先行する列挙された項目の全ての順列および組合わせを意味するものである。例えば、「A、B、C、またはそれらの組み合わせ」は、Aか、Bか、Cか、ABか、ACか、BCか、またはABCかの、少なくとも1つを含むことを意図するものであり、そしてある特定の文脈において順序が重要である場合には、さらにまたBA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、またはCABも含まれる。この実施例で続けると、明白に含まれているのは、1ないしそれ以上の項目ないし用語の反復を含む組合わせ、例えば、BB、AAA、MB、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなど、である。当業者は、文脈から明らかである場合以外では、どんな組み合わせにも項目ないし用語の数に何ら制限が通常ないことを理解するであろう。
【0057】
本願で使用される場合「実質的に」["substantially"]という用語は、その後に記述されていた出来事または事情が完全に発生する、またはその後記述されていた出来事または事情が大きな範囲または程度に発生することを意味するものである。たとえば、用語「実質的に」は、その後記述されていた出来事または事情が、時間の少なくとも90%で、あるいは時間の少なくとも95%で、あるいは時間の少なくとも98%で発生することを意味するものである。
【0058】
本願で使用される場合「現在の適正製造実施」[Current Good Manufacturing Practice]または「cGMP」は、米国食品医薬品局(FDA)によって、または、米国以外の国における同等の規制機関によって、施行された現在の適正製造実施[Current Good Manufacturing Practice]規則を意味するものである。cGMP規制は、製造プロセスおよび施設の適切な設計、監視、および制御を保証するシステムを提供するものである。cGMP規制の遵守は、薬剤の製造業者が製造作業を適切に制御することを要求することにより、薬剤製品の同一性、強度、品質および純度を保証するものである。これは、強力な品質管理システムを確立すること、適切な品質の原材料を得ること、強固な操作手順を確立すること、製品の品質偏差を検出し、調査すること、および信頼性のある試験実験室を維持することを含むものである。
【0059】
本願で使用される場合、用語「エキソビボでの拡大」["ex vivo expansion"]または「拡大」["expansion"]は、細胞集団中の細胞の数を増加させ、組織培養中の細胞集団を成長させる方法を意味するものである。エキソビボでの拡大を受けた細胞は、「拡大された」["expanded"]と呼ばれる。
【0060】
本願で使用される場合、用語「フコシル化」["fucosylation"]は、細胞がセレクチンに結合する能力を増加させるか、または、sLeXに結合するものとして当該技術分野で公知の抗体、特に限定されるわけではないが、例えば、HECA-452モノクローナル抗体など、との細胞の反王制を増加させる条件下において、細胞の集団を、α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーで処理することを意味するものである。α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーで処理され、そしてセレクチン対する、あるいは、HECA-452モノクローナル抗体ないしはsLeXに特異的なその他の抗体に対する、増加した結合力を示すものとなった細胞は、「フコシル化された」["fucosylated"]と呼ばれる。本願で使用される場合、「フコシル化」はまた、細胞集団上に存在するsLeXのレベルを指すことができる。
【0061】
本願で使用される場合、用語「造血幹および前駆細胞」または「HSPC」は、患者の造血系を再構築するために使用される、骨髄、臍帯血または動員された[mobilized]末梢血に由来する細胞集団を意味する。本願で使用される場合、用語「造血幹細および前駆細胞」または「HSPC」は、カルレコルテムセル-L[carleortemcel-L]を含むものである。
【0062】
本願で使用される場合、用語「間葉系間質細胞」または「MSC」は、細胞療法のための国際学会[The International Society for Cellular Therapy](ISCT)が2006年に設定された定義:(1)プラスチックへの接着性、(2)CD73、CD90およびCD105抗原の発現、一方で、CD14、CD34、CD45、およびHLA-DRは陰性であること、および(3)および骨形成、軟骨形成および脂肪生成系統に分化する能力、に合致する細胞を意味する(ドミニシら[Dominici et al] (2006) Cytotherapy、8:315-317)。本願で使用される場合、「間葉系間質細胞」または「MSC」は「間葉系幹細胞」と同義であり、したがってこれらの用語は、本明細書において相互に互換可能に使用されている。本願で使用される場合、「MSC」は、単数形または複数形のいずれかとしても使用することができる。本願で使用される場合、「間葉系間質細胞」または「MSC」は、任意の組織、何らこれらに限定されるものではないが、例えば、骨髄、脂肪組織、羊水、子宮内膜、栄養芽細胞由来組織、臍帯血、ワルトン膠質、および胎盤など、に由来し得るものである。本願で使用される場合、「間葉系間質細胞」または「MSC」は、組織からの最初の単離の際にCD34陽性であるが、拡大後ISCT基準を満たす細胞を含む。本願で使用される場合、「MSC」とは、NGF-R、PDGF-R、EGF-R、IGF-R、CD29、CD49a、CD56、CD63、CD73、CD105、CD106、CD140b、CD146、CD271、MSCA-1、SSEA4、STRO-1およびSTRO-3またはそれらの任意の組み合わせからなるリストから選択された細胞表面マーカーを使用して組織から単離され、かつ拡大の前または後のいずれかにおいてISCT基準を満たす、細胞を含むものである。本願で使用される場合、「間葉系間質細胞」または「MSC」は、骨髄間質幹細胞(BMSSC)、骨髄単離化成体多能誘導細胞(MIAMI)細胞、成体前駆細胞(MAPC)、間葉系成体幹細胞(MASCS))、MULTISTEM(登録商標)(アスレシス インコーポレーテッド[Athresys Inc.]、オハイオ州クリーブランド)、PROCHYMAL(登録商標)(オシリス セラピオティクス インコーポレーテッド[Osiris Therapeutics, Inc.]、メリーランド州コロンビア)、remestemcel-L、間葉系前駆細胞(MPC)、歯髄幹細胞(DPSC)、PLX細胞、PLX-PAD、ALLOSTEM (登録商標)(アロソース[Allosource]、コロラド州センテニアル)、ASTROSTEM (登録商標)(オシリス セラピオティクス インコーポレーテッド[Osiris Therapeutics, Inc.]、メリーランド州コロンビア)、Ixmyelocel-T、MSC-NTF、NurOwn(商標名)(ブレインストーム セル セラピオティクス インコーポレーテッド[Brainstorm Cell Therapeutics Inc.]、ニュージャージー州ハッケンサック)、STEMEDYNE(商標名)-MSC(ステメディカ セル テクノロジーズ インコーポレーテッド[Stemedica Cell Technologies Inc.]、カリフォルニア州サンディエゴ)、STEMPEUCEL (登録商標)(ステムピューディクス リサーチ[Stempeudics Research]、インド国バンガロール)、StempeucelCLI、StempeucelOA、HiQCell、Hearticellgram-AMI、REVASCOR (登録商標)(メソボラスト インコーポレーテッド[Mesoblast, Inc.]、オーストラリア国メルボルン)CARDIOREL (登録商標)(リライアンス ライフ サイエンス[Reliance Life Sciences]、インド国ナビムンバイ)、CARTISTEM (登録商標)(メディポスト[Medipost]、メリーランド州ロックビル)、PNEUMOSTEM (登録商標)(メディポスト[Medipost]、メリーランド州ロックビル)、PROMOSTEM (登録商標)(メディポスト[Medipost]、メリーランド州ロックビル)、Homeo-GH、AC607、PDA001、SB623、CX601、AC607、子宮内膜再生細胞(ERC)類、CELUTION (登録商標)システム(サイトリ セラピオテックス インコーポレーテッド[Cytori Therapeutics, Inc.]、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて得られた脂肪由来幹および再生細胞(ADRC)、血管周囲由来細胞、および周皮細胞由来細胞として、文献中に記載された細胞を含むものである。本願で使用される場合、「間葉系間質細胞」または「MSC」は、一組の条件下で培養された場合にはISCT基準の1つまたはそれ以上を満たすのみであるが、10%ウシ胎児血清を含む組織培養培地の存在下でプラスチック組織培養フラスコで培養された場合はISCT基準の全セットを満たすものである細胞を含むものである。
【0063】
本願で使用される場合、用語「筋幹細胞」は、筋肉由来の細胞集団を意味し、例えば、横紋筋、平滑筋、心筋、筋サテライト細胞または筋肉を形成するように再プログラムされた骨髄細胞を含むものである。本願で使用される場合、「筋幹細胞」は、MyoCell(登録商標)(バイオハート インコーポレーテッド[Bioheart, Inc.]、フロリダ州サンライズ)、MyoCell(登録商標) SDF-1、C3BS-CQR-1、およびCAP-1002を含む。
【0064】
本願で使用される場合、「ナチュラルキラー細胞」または「NK」細胞は、CD3を欠損しかつCD56および/なたはNKp46を発現する細胞集団を意味する。
【0065】
本願で使用される場合、「神経幹細胞」または「NSC」は、神経細胞またはグリア細胞に分化可能な細胞集団をいう。本明細書で使用される「神経幹細胞」という用語は、Q-cell(登録商標)(キュー セラピオティックス インコーポレーテッド[Q Therapeutics Inc.]、ユタ州ソルトレイクシティ)、NSI-566、HuCNS-SC(登録商標)(ステム セルズ インコーポレーテッド[Stem Cells, Inc.]、カリフォルニア州ニューアーク)、およびReN001を含む。
【0066】
本願で使用される場合、「患者」は、症状、疾患または障害を改善する治療用細胞を必要とする任意の動物を意味するように広義に用いられる。当該動物は、哺乳類、鳥類、魚類、爬虫類、または任意の他の動物であり得る。哺乳類のいくつかの非限定的な例としては、ヒトおよびその他の霊長類、ウマなどの馬科、雌ウシなどのウシ科、ヒツジなどのヒツジ科、ヤギなどのヤギ科、イヌなどのイヌ科、ネコなどのネコ科、例えば、マウスまたはラットのような齧歯属、およびウサギ、モルモットなどのような他の哺乳動物を含むものである。
【0067】
本願で使用される場合、「生理学的平衡塩溶液」は、塩分またはその他の成分が、溶液または溶媒がヒト細胞と等張であるように、モル浸透圧濃度約280-310mOsmol/Lで、そして生理的pHであるpH約7.3~7.4であるように調整された、溶液または溶媒を指す。生理学的平衡塩溶液の例としては、これらに限定されるものではないが、ハンクス塩基性塩溶液、アルファ最小必須培地(αMEM)、ダルベッコ最小必須培地(DMEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)およびPlasmaLyte AのようなPlasmaLyte溶液が含まれる。
【0068】
本願で使用される場合、「治療用細胞」とは、患者における、症状、疾患および/または障害を改善する状態を改善する拡大された細胞集団を指す。治療用細胞は、自己(すなわち、患者由来)、同種異系(すなわち、同じ種の患者とは異なる個体由来)または異種(すなわち、患者とは異なる種に由来)のものであり得る。治療用細胞は、均質性(すなわち、単一の細胞型からなる)または異種性(すなわち、複数の細胞型からなる)のものであり得る。用語「治療用細胞」は、治療的に活性な細胞ならびに治療的に活性な細胞に分化することができる前駆細胞の両方を含むものである。
【0069】
さて、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)に話を戻すと、その一実施形態は、一般に、α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーで処理され、そして、インビボで投与された場合にこれらの非フコシル化対応物と比較して、高められた移行および生着を示す、治療用細胞を製造するための組成物および方法に関するものである。
【0070】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の実施形態群は、米国食品医薬品局(FDA)によって、または、米国以外の国における同等の規制機関によって、施行された現在の適正製造実施(cGMP)規則の下に、治療用細胞を製造し、および必要に応じて凍結保存する可能性の商業的な提供に関するものである。本発明の治療用細胞は、種々の疾患および障害、これらに限定されるものではないが、例えば、虚血状態(例えば、肢虚血、うっ血性心不全、心筋虚血、腎臓虚血およびESRD、卒中および眼の虚血)、臓器または組織再生を必要とする症状(例えば、肝臓、膵臓、肺、唾液腺、血管、骨、皮膚、軟骨、腱、靭帯、脳、毛、腎臓、筋肉、心筋、神経、および肢の再生)、炎症性疾患(例えば、心臓病、糖尿病、脊髄損傷、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、人工股関節置換または再置換による炎症、クローン病、および移植片対宿主疾患)、自己免疫疾患(例えば、1型糖尿病、乾癬、全身性エリテマトーデス、および多発性硬化症)、変性疾患、先天性疾患、例えば貧血、好中球減少症、血小板増加症、骨髄増殖性疾患または白血病やリンパ腫などのような血液腫瘍や癌などの血液疾患等、の治療に有用である。
【0071】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の実施形態群は、一般に、フコシル化された細胞集団を製造および/または貯蔵するための組成物および方法に関するものであり、また、特に限定されるものではないが、とりわけ、骨髄、臍帯血、臍帯、ワルトン膠質、末梢血、リンパ組織、子宮内膜、栄養芽細胞由来組織、胎盤、羊水、脂肪組織、筋肉、肝臓、軟骨、神経組織、心臓組織、歯髄組織、剥離歯などから単離された治療用細胞、胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞に由来する細胞、またはそれらの任意の組み合わせに関するものである。
【0072】
特に、非限定的な一実施形態において、単離された治療用細胞は分化胚幹細胞および/または分化誘導多能性幹細胞である。
【0073】
特に、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の一実施形態は、そのような細胞をα1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナー(例えば、α1,3-フコシルトランスフェラーゼVIまたはα1,3-フコシルトランスフェラーゼVIIをフコースドナー GDP-フコースと共に)で処理し、次いで、必要に応じて、酵素処理で得られた細胞表面フコシル化の高められたレベルが細胞解凍後において保持されるような条件下で、凍結保存することでなる、そのような細胞の大量生産する方法に関するものである。
【0074】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、ヒトと動物との間において、セレクチンリガンドのフコシル化後にセレクチンへの高められた結合に関与する機構間に平行性が存在するので、獣医目的にも使用することが可能である。
【0075】
本願において意図される方法において、フコシルトランスフェラーゼは、α1,3-フコシルトランスフェラーゼIII、α1,3-フコシルトランスフェラーゼIV、α1,3-フコシルトランスフェラーゼV、α1,3-フコシルトランスフェラーゼVI、α1,3-フコシルトランスフェラーゼVII、α1,3-フコシルトランスフェラーゼIX、α1,3-フコシルトランスフェラーゼX、およびα1,3-フコシルトランスフェラーゼXIからなる群から選択されたもの、またはそれらの任意の組み合わせであり得る。フコースドナーは、例えば、GDP-フコースであり得る。
【0076】
一実施形態において本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、組織培養中の治療用細胞の所定量を用意し、または治療用細胞を単離し、当該治療用細胞を拡大し、そして当該治療用細胞の所定量または集団をインビトロにて有効量のα1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーと接触させることによって当該治療用細胞の所定量または集団をフコシル化する、工程を有する、フコシル化治療用細胞の製造方法を意図するものである。フコシル化治療用細胞は、P-セレクチンまたはE-セレクチンに対して高められた結合力を有する。必要に応じて、当該フコシル化治療用細胞は、細胞を解凍した後においてもP-セレクチンまたはE-セレクチンにするこの高められた結合力を保持する条件下において、p-セレクチンまたはE-セレクチンへの増強結合を保持する条件下で凍結保存され得る。
【0077】
また別の非限定的な一実施形態では、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、フコシル化治療用細胞を凍結保存する方法を含む。この方法では、治療用細胞は単離され、そして当該治療用細胞を有効量のα1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーと接触させることにより、フコシル化される。次いで、フコシル化治療用細胞は、生理学的平衡塩溶液および凍結保護剤とを含む治療用細胞凍結保存組成物中で凍結される。
【0078】
当該方法は、さらに、フコシル化の前に治療用細胞を拡大する工程をさらに含むことができる。細胞が拡大される場合、特定の非限定的な一実施形態においては、細胞が凍結される生理学的平衡塩溶液は、細胞を拡大させる組織培養培地であってもよい。加えてまた、前記生理学的平衡塩溶液は、さらにタンパク質を含有していてもよい。本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)によって利用可能なタンパク質の非限定的な例は、ウシ胎児血清、ウマ血清、ヒト血清、ヒト血小板溶解物、ウシアルブミン、ヒトアルブミン、およびこれらの任意の組合せを含むものである。
【0079】
特定の非限定的な一実施形態においては、凍結工程は、細胞凍結保存組成物中の治療用細胞を約37℃から約-80℃まで毎分約1℃/分の速度で冷却して、凍結細胞懸濁液を生成し、次いで凍結細胞懸濁液を液体窒素の存在下に貯蔵するために移送することを含む。加えてさらに、または(代替的に)、治療用細胞は、ガラス化法を用いて凍結され得る。
【0080】
特定の非限定的な一実施形態においては、最初に、接着細胞が、これらを成長させていた組織培養プラスチックまたはマイクロビーズまたはその他の基材から取り離され、α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーで処理され、次いで任意に凍結保存される。組織培養プラスチックおよびその他の基材から、細胞をトリプシンに暴露することにより取り離し、続いてフコシル化することは、組織培養プラスチックに付着した状態で細胞をフコシル化し、その後にトリプシンでこれらを取り離すことよりも、より効果的な方法であるということは、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の驚くべき発見である。
【0081】
特定の非限定的な一実施形態では、これらの方法はcGMP条件下で実施される。
【0082】
特定の非限定的な一実施形態では、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の治療用細胞は、骨髄、臍帯血、臍帯、ワルトン膠質、末梢血、リンパ組織、子宮内膜、栄養芽細胞由来組織、胎盤、羊水、脂肪組織、筋肉、肝臓、軟骨、神経組織、心臓組織、歯髄組織、剥離歯などから単離された細胞、胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞に由来する細胞、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0083】
特定の非限定的な一実施形態では、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の治療用細胞は、造血幹細胞、免疫細胞、間葉系幹細胞、筋細胞、羊膜細胞、子宮内膜細胞、神経幹細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、B細胞、またはそれらの任意の組み合わせから選択されたものである。例えば、特に限定されるものではないが、治療用細胞は、T細胞群(例えば、特に限定されるものではないが、制御性T細胞と細胞傷害性T細胞(例えば、特に限定されるものではないが、CD8 +細胞傷害性T細胞))、NK細胞、B細胞、CD38+細胞、神経幹細胞、またはそれらの任意の組み合わせ(但し、前記細胞は、フコシルトランスフェラーゼVII(FT VII)でフコシル化されたものである。)である。いくつかの細胞がFT VIよりもFT VIIで優先的にフコシル化されることは、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の驚くべき発見である。このことは、与えられた酵素のインビトロでのフコースドナー特性、すなわち、FucT-VIは、中性および3’-シアリル化フコースドナーの両方において活性であるのに反して、FucT-VIIは3’-シアリル化型2鎖のみに作用するということから、予測されないものである。これゆえ、先験的に、FTVIは、FTVIIとほぼ同じ程度に細胞をフコシル化することが期待されるが、これは、いくつかの細胞について観察されたが、他の細胞については観察されなかった。
【0084】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の一実施形態では、拡大された造血細胞は、非拡大のフコシル化造血細胞と混合される。フコシル化および非フコシル化造血細胞の混合物が、これらが単独で使用される集団よりもより効果的であることは、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の驚くべき発見である。
【0085】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の一実施形態では、ナチュラルキラー細胞が拡張され、次いでフコシル化される。本出願が出願されるまでは、ナチュラルキラー細胞がエキソビボでフコシル化され得るという記述も示唆も存在していない。
【0086】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)がなされるまでには、フコシル化された治療用細胞のための凍結保存方法の開発に向けた記載も示唆も存在していない。さらに、本発明者らは、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の凍結保護方法によって、フコシル化の高い保持率を有する治療用細胞が凍結保存後に回収されるということを驚くべきことに見出したものである。
【0087】
一実施形態において、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、治療用細胞の量または集団を提供し/単離し、当該治療用細胞を組織培養において拡大し、当該治療用細胞の量または集団をインビトロにて、α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーで処理して、前記処理された治療用細胞が、P-セレクチンまたはE-セレクチンに対する高められた結合力を有するものとし、次いで、任意に、当該細胞を凍結保存する、工程を有してなる、治療用細胞の処理方法を意図するものである。さらに、当該治療用細胞は、典型的には、P-セレクチン糖タンパク質リガンド-1(PSGL-1)、CD44、および/またはP-セレクチンまたはE-セレクチンに効果的に結合しないその他のセレクチンリガンドを有していることを特徴とする。当該治療用細胞は、本願に記載のフコシル化よりも前の未処理状態においては、炎症、虚血、または損傷した組織において低い保持性しか有していない。
【0088】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の特定の非限定的な一実施形態では、前記治療用細胞は、組織培養において成長させた細胞に由来のものとし得るあるいは胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞に由来する細胞であり得るものの、前記治療用細胞は、細胞骨髄、臍帯血、臍帯、ワルトン膠質、末梢血、リンパ組織、子宮内膜、栄養芽細胞由来組織、胎盤、羊水、脂肪組織、筋肉、肝臓、軟骨、神経組織、心臓組織、歯髄組織、剥離歯などを含むリストに由来のものである。前記治療用細胞は、また、上記のいずれかの任意の組み合わせであってもよい。
【0089】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の非限定的な特定の一実施形態では、前記治療用細胞はcGMP条件下で拡大されるものである。
【0090】
上述したように、本願に記載のフコシル化処理の後に、当該処理された治療用細胞は、未処理の治療用細胞と比較して、P-セレクチンまたはE-セレクチンに対して高められた結合力を有する。P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力は、治療用細胞の少なくとも10%が、P-セレクチン(またはE-セレクチン)結合アッセイにおいて所定の蛍光閾値(以下で定義される。)よりも大きい蛍光を有するものと定義される。別の一実施形態では、当該処理された治療用細胞の少なくとも25%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された治療用細胞の少なくとも50%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された治療用細胞の少なくとも75%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された治療用細胞の少なくとも90%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された治療用細胞の少なくとも95%が所定の蛍光閾値を超える。
【0091】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、さらに、細胞の量または集団を提供しし、当該細胞を組織培養において拡大し、当該細胞の量をインビトロにて、α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーで処理して、前記処理された治療用細胞の大部分が、本願において述べたようにP-セレクチン(またはE-セレクチン)に対する高められた結合力を有するものとし、次いで、任意に、当該細胞を凍結保存する、工程を有してなる方法によって生産された治療用細胞製品を意図するものである。前記細胞の量は、組織培養において成長させた細胞に由来のものとし得るあるいは胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞に由来する細胞であり得るものの、前記治療用細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、骨髄、臍帯血、臍帯、ワルトン膠質、末梢血、リンパ組織、子宮内膜、栄養芽細胞由来組織、胎盤、羊水、脂肪組織、筋肉、肝臓、軟骨、神経組織、心臓組織、歯髄組織、剥離歯などに由来のものとし得る。前記治療用細胞は、また、上記のいずれかの任意の組み合わせであってもよい。
【0092】
一実施態様において、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、表面タンパク質CD38を欠くないしは表面タンパク質CD38の低限された発現(CD38の発現の通常レベルより低い)を有する治療用細胞の量または集団を提供し、当該治療用細胞の量または集団をインビトロにて、α1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーで処理して、このように処理された治療用細胞がP-セレクチンまたはE-セレクチンに対して、未処理の治療用細胞よりも、高められた結合力を有するものとすることを、有してなる治療用細胞の処理方法を意図するものである。さらにまた、未処理の治療用細胞は、典型的には、PSG-1、CD44および/またはP-セレクチンまたはE-セレクチンに十分には結合しないその他のセレクチンリガンドを主として有してなるものとして特徴づけされる、または当該治療用細胞は、いずれのセレクチンリガンドの発現も欠いたものであり得る。PSGL-1や、治療用細胞上において生じるその他のセレクチンリガンドは、フルコシル化グルカン、例えば、O-グリカン、を欠いているかあるいは低減された数を有しており、また、例えば、NeuAcα2,3Galβ1,4GlcNAcを有するが、GlcNAcへのα1,3結合におけるフコースを欠く、コア2 O-グルカンを有するPSGL-1を有し得る。当該治療用細胞は、フコシル化前の未処理の状態において、骨髄に対してまたはセレクチンを発現する他の所望の部位に対しての低減されたホーミング能力しか有していない。特定の非限定的な一実施形態では、前記治療用細胞は、必要に応じて、あるいは恩恵を受けるように、これらの骨髄へのホーミング能力を高めるためにさらにフルコシル化されることに特徴づけられる限り、胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞に由来して成長させた細胞に由来するものであり得るものの、前記治療用細胞は、細胞骨髄、臍帯血、臍帯、ワルトン膠質、末梢血、リンパ組織、子宮内膜、栄養芽細胞由来組織、胎盤、羊水、脂肪組織、筋肉、肝臓、軟骨、神経組織、心臓組織、歯髄組織、剥離歯などを含むリストに由来のものである。本願において意図される方法において、α1,3-フコシルトランスフェラーゼは、例えば、α1,3-フコシルトランスフェラーゼIV、α1,3-フコシルトランスフェラーゼVI、α1,3-フコシルトランスフェラーゼVII、であり得る。フコースドナーは、例えば、GDP-フコースであり得る。
【0093】
一実施形態において、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、cGMP対応条件下で成長させた細胞集団を含む、処理された治療用細胞の組成物を意図し、ここにおいて、当該処理された細胞はPSGL-1、または適切にフコシル化され (例えば、シアリル ルイス X[sialyl Lewis X]を含む)かつP-セレクチン(またはE-セレクチン)に結合することができるその他のセレクチンリガンドを有するものである。当該処理された治療用細胞は、保存または患者への投与のために、薬学的に許容される担体またはビヒクル中に配置され得る。必要に応じて、当該処理された治療用細胞は、患者への投与前に保存のために凍結保存されてもよい。
【0094】
特定の非限定的な一実施形態においては、前記治療用細胞は、cGMP対応条件下で拡大された臍帯血造血細胞、cGMP対応条件下で拡大された骨髄由来細胞、cGMP対応条件下で拡大された臍帯血由来細胞、cGMP対応条件下で増殖された間葉系幹細胞、cGMP対応条件下で拡大された神経幹細胞、cGMP対応条件下で拡大された肝細胞、cGMP対応条件下で拡大されたナチュラルキラー細胞およびcGMP対応条件下で拡大されたT細胞からなるリストから選択される。
【0095】
一実施形態においては、前記治療用細胞は、cGMP対応条件下で拡大され、最適レベルのフコシル化を維持する条件下で凍結保存され、次いで、患者への供給前に解凍され、フコシル化されるものである。
【0096】
特定の非限定的な一実施形態においては、前記治療用細胞は、cGMP対応条件下で拡大され、フコシル化され、次いで細胞が解凍された後のフコシル化の最適なレベルを維持する条件下で凍結保存されるものである。
【0097】
特定の非限定的な一実施形態においては、cGMP対応条件下で拡大された骨髄由来細胞は、AMR-001(登録商標)(アモルサイト インコーポレーテッド[Amorcyte Inc.]、ニュージャージー州アレンデール)ALD-301、ALD-201、ALD-401、およびノッチ リガンド デルタ1[Notch ligand Delta1]の存在下で拡大された骨髄由来細胞、およびMSCの存在下で拡大された骨髄由来細胞を含むリストから選択されたものである。
【0098】
特定の非限定的な一実施形態においては、cGMP対応条件下で拡大された臍帯血由来細胞は、Nicord(登録商標)(ガミダ セル リミテッド[Gamida Cell Ltd.] イスラエル国エルサレム)、Hamacord、ProHemam、ノッチ リガンド デルタ1[Notch ligand Delta1]の存在下で拡大された臍帯血由来細胞、およびMSCの存在下で拡大された臍帯血由来細胞を含むリストから選択されたものである。
【0099】
特定の非限定的な一実施形態においては、cGMP対応条件下で拡大された間葉系幹細胞は、MULTISTEM(登録商標)(アスレシス インコーポレーテッド[Athresys Inc.]、オハイオ州クリーブランド)、PROCHYMAL(登録商標)(オシリス セラピオティクス インコーポレーテッド[Osiris Therapeutics, Inc.]、メリーランド州コロンビア)、remestemcel-L、間葉系前駆細胞(MPC)、歯髄幹細胞(DPSC)、PLX細胞、PLX-PAD、ALLOSTEM (登録商標)(アロソース[Allosource]、コロラド州センテニアル)、ASTROSTEM (登録商標)(オシリス セラピオティクス インコーポレーテッド[Osiris Therapeutics, Inc.]、メリーランド州コロンビア)、Ixmyelocel-T、MSC-NTF、NurOwn(商標名)(ブレインストーム セル セラピオティクス インコーポレーテッド[Brainstorm Cell Therapeutics Inc.]、ニュージャージー州ハッケンサック)、STEMEDYNE(商標名)-MSC(ステメディカ セル テクノロジーズ インコーポレーテッド[Stemedica Cell Technologies Inc.]、カリフォルニア州サンディエゴ)、STEMPEUCEL (登録商標)(ステムピューディクス リサーチ[Stempeudics Research]、インド国バンガロール)、StempeucelCLI、StempeucelOA、HiQCell、Hearticellgram-AMI、REVASCOR (登録商標)(メソボラスト インコーポレーテッド[Mesoblast, Inc.]、オーストラリア国メルボルン)CARDIOREL (登録商標)(リライアンス ライフ サイエンス[Reliance Life Sciences]、インド国ナビムンバイ)、CARTISTEM (登録商標)(メディポスト[Medipost]、メリーランド州ロックビル)、PNEUMOSTEM (登録商標)(メディポスト[Medipost]、メリーランド州ロックビル)、PROMOSTEM (登録商標)(メディポスト[Medipost]、メリーランド州ロックビル)、Homeo-GH、AC607、PDA001、SB623、CX601、AC607、子宮内膜再生細胞(ERC)類、およびCELUTION (登録商標)システム(サイトリ セラピオテックス インコーポレーテッド[Cytori Therapeutics, Inc.]、カリフォルニア州サンディエゴ)を用いて得られた脂肪由来幹および再生細胞(ADRC)を含むリストから選択されたものである。
【0100】
特定の非限定的な一実施形態においては、cGMP対応条件下で拡大された神経幹細胞は、NSI-566からなるリストから選択される、HuCNS-SC(登録商標)(ステム セルズ インコーポレーテッド[Stem Cells, Inc.]、カリフォルニア州ニューアーク)、CTX0E03、ReN001、ReN009、STEMEDYNE(商標)-NSC(ステメディカ セル テクノロジーズ インコーポレーテッド[Stemedica Cell Technologies Inc.]、カリフォルニア州サンディエゴ)、Q-cell(登録商標)(キュー セラピオティックス インコーポレーテッド[Q Therapeutics Inc.]、ユタ州ソルトレークシティ)、TBX-01、TBX-02、RhinoCyte(商標)嗅覚幹細胞(リノサイト インコーポレーテッド[RhinoCyte Inc.]、 ケンタッキー州ルイスビル)、MOTORGRAFT(登録商標)(カリフォルニア ステム セル インコーポレーテッド[California Stem Cell, Inc.]、カリフォルニア州アービン、およびCellBeads(商標)Neuroを含むリストから選択されたものである。
【0101】
特定の非限定的な一実施形態においては、cGMP対応条件下で拡大された心臓由来細胞は、心臓由来幹細胞(CDC)である。
【0102】
特定の非限定的な一実施形態においては、cGMP対応条件下で拡大された肝細胞は、hpSC由来肝細胞、異種ヒト成体肝臓前駆細胞(HHALPC)、hLEC、およびPROMETHERA(登録商標)HepaStem(プロメセラ バイオサイエンセス SA/NV[Promethera Biosicences SA/NV]、ベルギー国)である。
【0103】
一実施形態においては、処理された治療用細胞の組成物は、cGMP対応条件下で拡大された、P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力を有するヒトHSPCの集団を有してなるものである。P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力は、処理されたHSPCの少なくとも10%が、P-セレクチン結合アッセイ(またはE-セレクチン結合アッセイ)において所定の蛍光閾値よりも大きい蛍光を有するものである、と定義される。別の一実施形態では、当該処理されたHSPCの少なくとも25%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたHSPCの少なくとも50%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたHSPCの少なくとも75%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたHSPCの少なくとも90%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたHSPCの少なくとも95%が所定の蛍光閾値を超える。ヒトHSPCの組成物は、保存または患者への投与のために、薬学的に許容される担体またはビヒクル中に配置され得る。
【0104】
一実施形態では、処理された治療用細胞の組成物は、cGMP対応条件下で拡大された、P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力を有する、ヒトMSCの集団を含む。P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力は、処理されたMSCの少なくとも10%が、P-セレクチン結合アッセイ(またはE-セレクチン結合アッセイ)において所定の蛍光閾値よりも大きい蛍光を有するものである、と定義される。別の一実施形態では、当該処理されたMSCの少なくとも25%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたMSCの少なくとも50%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたMSCの少なくとも75%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたMSCの少なくとも90%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたMSCの少なくとも95%が所定の蛍光閾値を超える。ヒトMSCの組成物は、保存または患者への投与のために、薬学的に許容される担体またはビヒクル中に配置され得る。
【0105】
一実施形態では、処理された治療用細胞の組成物は、cGMP対応条件下で拡大された、P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力を有する、ヒト神経幹細胞の集団を含む。P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力は、処理された神経幹細胞の少なくとも10%が、P-セレクチン結合アッセイ(またはE-セレクチン結合アッセイ)において所定の蛍光閾値よりも大きい蛍光を有するものである、と定義される。別の一実施形態では、当該処理された神経幹細胞の少なくとも25%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された神経幹細胞の少なくとも50%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された神経幹細胞の少なくとも75%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された神経幹細胞の少なくとも90%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された神経幹細胞の少なくとも95%が所定の蛍光閾値を超える。ヒト神経幹細胞の組成物は、保存または患者への投与のために、薬学的に許容される担体またはビヒクル中に配置され得る。
【0106】
一実施形態では、処理された治療用細胞の組成物は、cGMP対応条件下で拡大された、P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力を有する、ヒト肝細胞の集団を含む。P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力は、処理された肝細胞の少なくとも10%が、P-セレクチン結合アッセイ(またはE-セレクチン結合アッセイ)において所定の蛍光閾値よりも大きい蛍光を有するものである、と定義される。別の一実施形態では、当該処理された肝細胞の少なくとも25%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された肝細胞の少なくとも50%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された肝細胞の少なくとも75%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された肝細胞の少なくとも90%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理された肝細胞の少なくとも95%が所定の蛍光閾値を超える。ヒト肝細胞の組成物は、保存または患者への投与のために、薬学的に許容される担体またはビヒクル中に配置され得る。
【0107】
一実施形態では、処理された治療用細胞の組成物は、cGMP対応条件下で拡大された、P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力を有する、ヒトNK細胞の集団を含む。P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力は、処理されたNK細胞の少なくとも10%が、P-セレクチン結合アッセイ(またはE-セレクチン結合アッセイ)において所定の蛍光閾値よりも大きい蛍光を有するものである、と定義される。別の一実施形態では、当該処理されたNK細胞の少なくとも25%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたNK細胞の少なくとも50%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたNK細胞の少なくとも75%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたNK細胞の少なくとも90%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたNK細胞の少なくとも95%が所定の蛍光閾値を超える。ヒトNK細胞の組成物は、保存または患者への投与のために、薬学的に許容される担体またはビヒクル中に配置され得る。
【0108】
一実施形態では、処理された治療用細胞の組成物は、cGMP対応条件下で拡大された、P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力を有する、ヒトT細胞(特に限定されるわけではないが、例えば、制御性T細胞および細胞傷害性T細胞(例えば、特に限定されるものではないが、CD8 +細胞傷害性T細胞))の集団を含む。P-セレクチン(またはE-セレクチン)への高められた結合力は、処理されたTの少なくとも10%が、P-セレクチン結合アッセイ(またはE-セレクチン結合アッセイ)において所定の蛍光閾値よりも大きい蛍光を有するものである、と定義される。別の一実施形態では、当該処理されたTの少なくとも25%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたTの少なくとも50%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたTの少なくとも75%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたTの少なくとも90%が所定の蛍光閾値を超える。別の一実施形態では、当該処理されたTの少なくとも95%が所定の蛍光閾値を超える。ヒトT細胞の組成物は、保存または患者への投与のために、薬学的に許容される担体またはビヒクル中に配置され得る。
【0109】
一実施形態における所定の蛍光閾値は、治療用細胞のサンプルを最初に取得することによって決定される。治療用細胞のこの比較対照(ベースライン)サンプルが、本願の他の個所において記載されたP-セレクチン結合アッセイ(またはE-セレクチン結合アッセイ)を用いて検定される、または該技術分野で公知であるその他の任意のP-セレクチン蛍光結合アッセイ(またはE-セレクチン蛍光結合アッセイ)を用いて、またはHECA-452抗体で染色することにより、検定される。P-セレクチン(またはE-セレクチンまたはHECA-452))結合蛍光レベルが、比較対照(ベースライン)サンプル中の治療用細胞について測定される。一実施形態では、前記比較対照サンプル中の治療用細胞の少なくとも95%の蛍光レベルのP-セレクチン(またはE-セレクチンまたはHECA-452)を超える、蛍光値が選択される。選択された蛍光レベルが、前記所定の蛍光閾値として、指定され、この値に対して、処理された(すなわち、フコシル化された)治療用細胞のP-セレクチン(またはE-セレクチンまたはHECA-452)結合蛍光が比較されることとなる。
【0110】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)はさらに、治療用細胞の量または集団を提供しそしてこの治療用細胞の量をインビトロでα1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーを用いて処理することによって製造された、前記処理された治療用細胞の多くがP-セレクチン(またはE-セレクチンまたはHECA-452)に結合するものでる、治療用細胞製品を意図するものである。治療用細胞の量は、骨髄由来であってもよいが、臍帯血、臍帯、末梢血、リンパ組織、脂肪組織、神経組織、筋肉、胎盤、羊水、子宮内膜、肝臓に由来するものであってもよく、または、それらは胚性幹(ES)細胞もしくは誘導多能性幹(iPS)細胞に由来する細胞に由来するものであってもよい。
【0111】
概して、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、非機能的または最適以下で機能するPSGL-1または治療用細胞上に発現するその他のセレクチンリガンドがインビトロでα1,3-フコシル化技術によって、ホーミング欠陥を補正するように修飾される、cGMP条件下での治療用細胞の製造方法を意図するものであり、細胞療法におけるそれらの使用を改善するものである。
【0112】
先に説明したように、治療用細胞はPSGL-1または他のセレクチンリガンドを発現することができるが、しかし、その有意な量は、P-セレクチン(またはE-セレクチン)に結合しないか、あるいはごく低量のP-セレクチン(またはE-セレクチン)に結合だけである。PSGL-1は、CD34+細胞を含むほとんどすべての白血球で発現されるホモ二量体ムチンである。機能的であるものとする、すなわち、P-セレクチンまたはE-セレクチンに結合することができるものとするために、PSGL-1は、α1,3-フコシル化を含む、これらにおけるsLeX群の形成につながるいくつかの翻訳後修飾を必要とする。例えば、不十分なα1,3-フコシル化は、血管選択と相互作用するナイーブT細胞の減退された能力という結果をもたらす。本願で開示されたおよび/または請求された本発明の概念では、治療用細胞がP-セレクチンまたはE-セレクチン接着分子へ結合することができないという不能性が、凍結保存の前または後のいずれかにおいて、cGMP条件下での拡大後にエキソビボでフコシル化ことによって、補正することができることが見いだされたものである。このことは、接着分子の数は、拡大によって(例えば、カリニコウら[kalinikou et al]、メナードら[Menard et al]、およびフェケテら[Feketeet al](これら各々が上記で引用されている))、および凍結保存によって(例えば、ファイントら[Faint et al]、コーエニグスマンら[Koenigsmann et al]、ハットリら[Hattori et al]、キャンプベルら[Campbell et al]、アオヤギら[Aoyagi et al]、マレシら[Mareschi et al]、およびニューヒューバーら[Neuhuber et al] (これら各々が上記で引用されている))、下方規制されるという仮説からすれば、驚くべき発見である。
【0113】
したがって、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の根拠は、インビトロでの治療用細胞のα1,3-フコシルトランスフェラーゼおよびフコースドナーを用いて(例えば、FT-VIまたはFT-VIIをGDP-フコースと共に)処理する(これはまたsLeX構造の合成を触媒する)ことは、PSGL-1またはその他のセレクチンリガンドのフコシル化を増大し、そしてこれによって、cGMP培養における大規模拡大の後であっても、治療用細胞のホーミング欠陥を補正するであろうということである。本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の根拠は、さらに、フコシル化細胞が凍結保存されることができ、解凍後にそれらのフコシル化レベルを維持し得るということである。
【0114】
GlcNAcにαl,3結合でフコースを転移することができるフコシルトランスフェラーゼは、当技術分野において周知である。そのいくつかは、市販のものとして、例えば、例えば、アール アンド ディー システムス[R & D Systems](ミネソタ州ミネアポリス)などから、入手可能である。さらに、少なくとも8種類の異なるタイプのα1,3-フコシルトランスフェラーゼ(FT III~VII)が、ヒトゲノムによってコードされている。これらは、Galβ4GlcNAcまたはGalβ3GlcNAcにαl,3またはαl,4結合でそれぞれフコースを転移することができるルイス[Lewis]酵素(FT III)(クコウスカ-ラターロら[Kukowska-Latallo et al] (1990) Genes Dev., 4:1288); αl,3結合を形成する、シアリル化前駆体を好まないFT IV(ゴエルズら[Goelz et al] (1989) Cell、63:1349; ロウエら[Lowe et al] (1991) J. Biol. Chem., 266:17467); αl,3結合を形成し、シアリル化および非シアリル化前駆体のいずれをもフコシル化できる、FT V(ウェストンら[Weston et al] (1992) J. Biol. Chem., 267:4152)およびFT VI(ウェストンら[Weston et al] (1992) J. Biol. Chem., 267:24575); 並びに、シアリル化前駆体のみをフコシル化できる、FT VII(ササキら[Sasaki et al] (1994) J. Biol. Chem.,269:14730;ナツカら[Natsuka et al] (1994) J. Biol. Chem., 269:16789)を含むものである。FT IXは、ポリラクトサミン鎖の非還元末端のGlcNAc残基にフコースを優先的に転移させ、末端Lex構造をもたらすのに対し、その他のαl,3 FUTは、末位から二番目の位置で、GlcNAc残基にフコースを優先的に転移させ、内部Lex構造をもたらす(ニシムラら[Nishimura et al] (1999) FEBS Lett., 462:289-294)。 FT XおよびFT XIは、コンアルブミン グリコペプチドおよび二分岐N-グリカンアクセプター上にα-L-フコースを連結するが、古典的なモノエトキシ化α1,3-フルコシルトランスフェラーゼが行うような短いラクトソイル レセプター基材上には結合しない(モリコーンら[Molicone et al] (2009) J. Biol. Chem., 284:4723-38)。
【0115】
FT IIIに関する配列情報はGC19M005843に、FT IVに関する配列情報はGC11P094277に、FT Vに関する配列情報はGC19M005865に、FT VIに関する配列情報はGC19M005830に、FT VIIに関する配列情報はGC09M139924に、FT IXに関する配列情報はGC06P096463に、FT Xに関する配列情報はGC08M033286に、FT XIに関する配列情報は、GC10P075532にそれぞれ開示されている(GeneCards(登録商標)(ウェイズマン インスティテュート オブ サイエンス[Weizmann Institute of Science]、イスラエル国レホヴォト)は、ウェイズマン インスティテュート オブ サイエンスによって維持された、検索可能で統合されたヒト遺伝子のデータベースであり、全ての既知のおよび予測されたヒト遺伝子における簡潔なゲノム関連情報ならびに他のデータベースへのリンクを提供するものである)。本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、入手可能であり、当業者に公知のその他の、非ヒトα1,3-フコシルトランスフェラーゼ、例えば、米国特許第6,399,337号および同第6,461,835号に示されるようなもの、を用いることをさらに意図するものである。
【0116】
ヒトHSPCは、例えば、臍帯血、末梢血、または骨髄の源における他の細胞からの分離により、α1,3-フコシルトランスフェラーゼで処理するために、得られることができる。当該技術分野で周知の様々な技術を用いて、HSPCを得ることができ、特に限定されるものではないが、例えば、濃度勾配分離、赤血球の低張性溶解、蛍光活性化セルソーター(FACS)または磁気ビーズ分離装置を用いたモノクローナル抗体による遠心溶出または分離が含まれる。モノクローナル抗体は、特定の細胞系統および/または分化段階に関連する同定用標識(表面膜タンパク質)として特に有用である。抗CD34または抗CD133のような抗体は、FACSによって、あるいは例えばミルテニー バイオテック インコーポレーテッド[Miltenyi Biotec Inc.](ドイツ国ベルギッシュ・グラートバッハ)からのCliniMACS(登録商標)システムのような装置を用いての磁気ビーズによって、cGMP対応条件下でHSPCを単離することができる。あるいはまた、HSPCは、ALDEFLUOR(商標名)(ステムセル テクノロジーズ インコーポレーテッド[STEMCELL Technologies, Inc.]、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)のような試薬を使用して分離することができる。この試薬は、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって細胞内で酸化されて、荷電された蛍光物として細胞内に蓄積し、FACSによって、HSPSを含む明るく蛍光した細胞の分離を可能とするものである。使用される分離技術は、収集されるべき分画の生存度の保持を最大にすべきである。使用される特定の技術は、分離の効率、方法論の細胞毒性、性能の容易性および速度、ならびに高性能な機器および/または高度な技術的技能の必要性に依存するであろう。
【0117】
一旦単離されると、HSPCは、当該技術分野で公知の種々のcGMP拡大プロトコルを使用して拡大することができる(詳細についてはタンら[Tung et al] (2010) Best Pract Res Clin Haematol., 23:245-57を参照のこと。)細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、エリスロポエチン、キットリガンド、G-CSF、GM-CSF、IL-6、IL-11、トロンボポエチン、fltリガンド、FGF-1、アンジオポエチン様タンパク質-5、インスリン様成長因子結合タンパク質-2(IGFBP2)、ノッチリガンドδ1、PIXY321、プロスタグランジンE2、例えばSR1のような芳香族炭化水素核内受容体タンパク質アンタゴニスト、およびテトラエチレンペンタミン(TEPA)を含む因子のリストから選ばれた1またはそれ以上を含む、因子の混合物を含有する組織培養培地内で成長され得る。細胞はまた、HSPCの拡大のための好ましい環境を発揮すると考えられるMSCとの共培養においても細胞を拡大され得るものである。cGMP条件下での拡大は、FBSを含む組織培養培地で行うことができるが、異種血清をなくし、そして例えば、STEMLINE(登録商標)培地(ステムライン セラピオティクス、インコーポレーテッド[StemLine Therapeutics, Inc.]、ニューヨーク州ニューヨーク)、CellGro(登録商標)培地(メディアテック インコーポレーテッド[Media Tech Inc.] バージニア州マナサス)QBSF-60などのような無血清培地を用いることが好ましいものであり得る。細胞は、フコシル化および患者への注入の前に5-21日間拡大される。以下に、用いたフコシル化手順について説明する。
【0118】
ヒトMSCは、αl,3-フコシルトランスフェラーゼで処理するために、例えば、骨髄、臍帯血、ワルトン膠質、脂肪組織、月経液、羊水または胎盤の源中のその他の細胞から分離することによって、得られることができる。細胞の源は、自己、同種または異種であってよい。MSCは、胚幹細胞または誘導多能性幹細胞の培養物から得ることができる。源に応じて、当技術分野で公知の種々の技術を用いて、MSCを得ることができる。特に限定されるものではないが、例えば、ワルトン膠質、脂肪組織および胎盤が含まれる、MSCがマトリクス内に捕捉されている源から誘導されたMSCに関しては、当該MSCは、特に限定されるものではないが、例えば、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、トリプシンおよびディスパーが含まれる、タンパク質分解酵素を用いた処理によって、放出させられることができる。一旦、MSCが単細胞の混合物中で単離されると、それらは、特に限定されるものではないが、例えば、プラスチックへの付着、密度勾配分離、赤血球の低張性溶解、遠心溶出、カネカ[Kaneka]からの骨髄MSC分離装置におけるような不織繊維への結合、または蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いた、あるいはミルテニー バイオテック インコーポレーテッド[Miltenyi Biotec Inc.](ドイツ国ベルギッシュ・グラートバッハ)からのCliniMACS(登録商標)システムのような磁気ビーズ単離装置を用いたモノクローナル抗体での分離などが含まれる、当技術分野で公知の方法によってその他の細胞タイプから分離されることができる。このような分離のために有用なモノクローナル抗体としては、特に限定されるものではないが、例えば、抗NGF-R、抗PDGF-R、抗EGF-R、抗IGF-R、抗CD29、抗CD49a、抗CD56、抗CD63、抗CD73、抗CD105、抗CD106、抗CD140b、抗CD271、抗MSCA-1、抗SSEA4、抗STRO-1、および抗STRO-3が含まれる。採択される分離技術は、収集されるべき分画の生存率の保持を最大にすべきである。採択される特に好ましい技術は、使用される特定の技術は、分離の効率、方法論の細胞毒性、性能の容易性および速度、ならびに高性能な機器および/または高度な技術的技能の必要性に依存するであろう。
【0119】
一旦単離されると、MSCは、当該技術分野で公知の方法を用いてcGMP条件下で拡大培養において成長させられる。MSCは、FBSを含む培地中で成長させることができるが、FBSの代わりにヒト血小板溶解物を含む培地中、あるいは、例えば、STEMPRO(登録商標)MSC SFM(サーモ フィッシャー サインティフィック インコーポレーテッド[Thermo Fisher Scientific Inc.]、カリフォルニア州カールスバッド)、STEMLINE(登録商標)間葉系幹細胞拡大培地(ステムライン セラピオティクス、インコーポレーテッド[StemLine Therapeutics, Inc.]、ニューヨーク州ニューヨーク)、CellGro(登録商標)MSC培地(メディアテック インコーポレーテッド[Media Tech Inc.] バージニア州マナサス)などのような無血清培地中においても成長させ得る。細胞は5,000~5,000,000/cm2で播種され、そして非付着性細胞は洗浄により除去される。細胞は、典型的には、7~28日後に50~100%コンフルエンスで継代される。継代後、細胞は、細胞増殖用基材としてビーズ、多孔質構造、繊維、不織繊維または中空繊維を用いた充填床バイオリアクターを含んでいる、組織培養フラスコ、細胞工場、ローラーボトルまたはバイオリアクターにおいて拡大されることができる。MSCは、25回まで安全に継代させることができるが、いくつかの実施形態群では、6~8継代後に採取され、フコシル化され、患者に供給されるか、または凍結保存される。フコシル化および凍結保存のための方法は以下に説明する。
【0120】
ヒトNSCは、α1,3-フコシルトランスフェラーゼで処理するために、例えば、屍体の脳組織における他の細胞からの分離によって、得られることができる。細胞の源は、自己、同種または異種であってよい。NSCは、胚幹細胞または誘導多能性幹細胞の培養物から得ることができる。NSCを得るために、当該技術分野で知られている様々な技術を用いることができる。機械的離解が用いられ得るおよび/または細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼ、トリプシン、およびディスパーなどが含まれる、タンパク質分解酵素で処理することによって、放出され得る。一旦、NSCが単細胞の混合物中で単離されると、それらは、特に限定されるものではないが、例えば、プラスチックへの付着、密度勾配分離、遠心溶出、または、パンニングを用いた、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いた、あるいはミルテニー バイオテック インコーポレーテッド[Miltenyi Biotec Inc.](ドイツ国ベルギッシュ・グラートバッハ)からのCliniMACS(登録商標)システムのような磁気ビーズ単離装置を用いたモノクローナル抗体での分離などが含まれる、当技術分野で公知の方法によってその他の細胞タイプから分離されることができる。このような分離のための有用なモノクローナル抗体としては、特に限定されるものではないが、例えば、抗インテグリンα1β5、抗CD15、抗CD24、抗CD33、抗CXCR4、抗EGFR、抗Notch1および抗PSA-NCAMが含まれる。採択される分離技術は、収集されるべき分画の生存率の保持を最大にすべきである。採択される特に好ましい技術は、使用される特定の技術は、分離の効率、方法論の細胞毒性、性能の容易性および速度、ならびに高性能な機器および/または高度な技術的技能の必要性に依存するであろう。
【0121】
一旦単離されると、NSCは、当該技術分野で公知の方法を用いてcGMP条件下で拡大培養において成長させられる。NSCは、FBSを含む培地中で成長させることができるが、FBSの代わりにヒト血小板溶解物を含む培地中、あるいは、例えば、STEMPRO(登録商標)MSC SFM(サーモ フィッシャー サインティフィック インコーポレーテッド[Thermo Fisher Scientific Inc.]、カリフォルニア州カールスバッド)、STEMLINE(登録商標)間葉系幹細胞拡大培地(ステムライン セラピオティクス、インコーポレーテッド[StemLine Therapeutics, Inc.]、ニューヨーク州ニューヨーク)、CellGro(登録商標)MSC培地(メディアテック インコーポレーテッド[Media Tech Inc.] バージニア州マナサス)などのような無血清培地中においても成長させ得る。細胞は5,000~5,000,000/cm2で播種され、そして非付着性細胞は洗浄により除去される。細胞は、典型的には、7~28日後に50~100%コンフルエンスで継代される。継代後、細胞は、細胞増殖用基材としてビーズ、多孔質構造、繊維、不織繊維または中空繊維を用いた充填床バイオリアクターを含んでいる、組織培養フラスコ、細胞工場、ローラーボトルまたはバイオリアクターにおいて拡大されることができる。NCは、25回まで安全に継代させることができるが、いくつかの実施形態群では、6~8継代後に採取され、フコシル化され、患者に供給されるか、または凍結保存される。あるいはまた、NSCは、例えば、CTX0E03細胞中のc-mycER(商標名)導入遺伝子と、条件付き不死化されることができる。フコシル化および凍結保存のための方法は以下に説明する。
【0122】
フコシル化プロセスはcGMP条件下で行われる。これは、使用される全ての試薬がcGMP条件下で生成されることを必要とする。例えば、FT VIのためのcDNAは、当該技術分野で公知の方法によって得ることができ、例えば、Clontech Quick-Clone II ヒト肺cDNAライブラリーのようなcDNAライブラリーからの遺伝子を増幅するために使用するPCRを使用して、得ることができる。一旦得られると、cDNAは、例えば、インビトロジェン[Invitrogen]PCR-Blunt Topo PCRクローニングベクターなどのようなクローニングベクター中にクローニングされることができる。DNA配列決定は、得られた配列をDNAデータベースと比較することにより、正しい配列がクローニングされたことを確認するために使用することができる。次いで、cDNAは、HPC4エピトープを含むインビトロジェンからpCDNA3.1(+)のような親和性タグを含むベクター中にクローニングされることができ、そして次いで、Lonza pEE14.1発現ベクター(ロンザ ウォーカーズビル インコーポレーテッド[Lonza Walkersville, Inc.]、メリーランド州ウォーカーズビル)のような発現ベクター中にサブクローン化される。、Lonza pEE14.1は、高レベル遺伝子増幅のためのグルタミンシンテターゼ(GS)を使用するものであり、最大の表現レベルを達成するために、典型的には、増幅のために単一の選択のラウンドのみを必要とする。CHO-K1細胞(ATCC:CCL-61)のような細胞は、FT VI cDNAおよびHPC4タグをそのN末端に含む構築物でトランスフェクトすることができる。増幅後、FT-VI/HPC4を高レベルで発現するクローンを選択することができる。
【0123】
CHO細胞がタンパク質産生のために選択される場合、当該技術分野で公知の方法が、タンパク質のcGMP産生のためのマスターおよび作動細胞バンクを作製するために利用されることができる。
【0124】
当該技術分野で知られているタンパク質産生の代替的な方法も、同様に使用することができ、特に限定されるものではないが、例えば、バクテリア様エシェリキア・コリ[E. coli]、酵母様ピキア・パストリス[Pichia pastoris]のような原核生物、バキュロウイルスを介した昆虫細胞等の昆虫細胞、および、NSO、HEKなどのその他の哺乳動物細胞系統、における発現などが含まれる。当技術分野で公知のその他の親和性タグを使用することができ、これには、特に限定されるものではないが、例えば、FLAG-タグ、V5-タグ、c-myc-タグ、His-タグ、HA-タグ等が含まれる。あるいはまた、タンパク質は、タグの非存在下で発現され得、当技術分野で公知の種々のクロマトグラフィー技術、特に限定されるものではないが、例えば、イオン交換、ゲル濾過、逆相HPLC等、を用いて精製される得る。親和性精製とクロマトグラフィーの組合せもまた使用可能である。同様の技術を、任意のα1,3-フコシルトランスフェラーゼのcGMP産生に用いることができる。全長α1,3-フコシルトランスフェラーゼタンパク質を発現させる必要はなく、トランケート型タンパク質並びに安定性、特異性または活性を改良するために当該技術分野で公知の方法によって操作されたタンパク質もまた、これらが酵素活性を保持している限り、治療用細胞のエキソビボでのフコシル化に使用することができる。α1,3-フコシルトランスフェラーゼタンパク質は、溶液中の遊離酵素として使用することができ、または治療用細胞からの酵素の除去を容易とするために、ビーズまたはカラムのような基材に固定化することもできる。
【実施例0125】
以下に実施例を示す。しかし、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、特定の実験、結果および実験室での手順にその適用を限定されるものではないことが理解されるべきである。むしろ、実施例は、種々の実施形態の一つとして単に提供され、そして、網羅的なものではなく、例示的なものであることを意味するものである。
【0126】
実施例1
異なる細胞型は、異なるフコシル化条件を必要とする。以下に示すように、神経幹細胞はFT VIではフコシル化されないが、FT VIIで完全にフコシル化された(実験D);同様に、B(CD19+)、T(CD3+またはCD4+)、およびCD38+細胞は、FT VIではなくFTVIIでフコシル化された(以下に記載の実施例5)。他の細胞型は、いずれ酵素でも等しくにフコシル化された。どの酵素がどの細胞型をフコシル化するかを先験的に決定することは不可能である。
【0127】
異なる細胞型におけるエキソビボでのフコシル化の効果を比較するために、CHO細胞で産生された組換えFT VIが、アラゲン バイオサイエンス [Arrgen Bioscience](カリフォルニア州モーガンヒル、最終濃度1100μg/mL)で製造され、そしてマウスリンパ球系統で産生されたFT VIIが協和発酵キリン株式会社(日本、最終濃度150μg/ml)から調達された。冷凍されたヒト臍帯血を、サンディエゴ血液バンクから購入した。ヒト間葉系幹細胞およびヒトcd34+臍帯血細胞をロンザ[Lonza](ロンザ ウォーカーズビル インコーポレーテッド[Lonza Walkersville, Inc.]、メリーランド州ウォーカーズビル)から購入した。新鮮ヒト神経幹細胞は、サンフォード/バーンハムにおけるエヴァン シンダァ[Evan Synder]の研究室から得られた。内皮前駆細胞(EPC)は、ドクター ジョイス ビスコフ[Dr. Joyce Bischoff](ハーバードメディカルスクール、小児病院、血管生物学プログラムおよび手術部門、マサチューセッツ州ボストン[Vascular BiologyProgram and Department of Surgery, Children's Hospital, HarvardMedical School, Boston,MA])から寄贈された。ヒト羊水幹細胞系統は、ウェークフォレストユニヴァーシティ[Wake Forest University]のシャイ ソーカー[Shay Soker]の研究室からのものであった。ヒト脂肪由来幹細胞は、インディアナユニヴァーシティ[Indiana University]のブライアン ジョンストーン[Brian Johnstone] の研究室からのものであった。これらの細胞は、EGM-2、20%熱不活性化ウシ胎児血清、1%GPS、およびロンザ[Lonza]からのEGM-2ビュレットキット(#CC-3162、ロンザ ウォーカーズビル インコーポレーテッド[Lonza Walkersville, Inc.]、メリーランド州ウォーカーズビル)中のヒドロコルチゾンを除いた全ての成長因子を含む、培地中において、5%C02中において、37℃のインキュベーター中で成長させた。細胞は、1mM GDPβ-フコース(イーエムディー バイオサイエンス[EMD Bioscience]、カリフォルニア州サンディエゴ)で、室温にて、106細胞/mlで30分間の間、1%ヒト血清アルブミン(HSA、バクスター ヘルスケア コーポレーション[Baxter Healthcare Corp.]、カリフォルニア州ウェストレイク ビレッジ)を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で、および100 MU/mL FT VIの予め最適化された濃度中、または75 MU/mL FT VIIの予め最適化された濃度中で、処理された。未処理の細胞が、酵素が何も添加されていない以外は上記と同様にしてインキュベートされた。フコシル化のレベルが、HECA-452抗体(ビーディー バイオサイエンシス[BD Biosciences])、すなわち、P-セクレチン糖タンパク質リガンドのフコシル化(シアリル ルイスX(sLex)-変性)形態(PSGL)-1 (CD162)に対して反応する、また皮膚リンパ球抗原(CLA)としても知られている、直接結合(FITC)、ラットIgM抗体によって測定された。CD抗原に対する他の抗体もまた、ビーディー バイオサイエンシス[BD Biosciences]から得られた。
【0128】
以下の実験の全ては、ほぼ同一の結果が反復試験において得られない場合には、同様に繰り返された。
【0129】
図1は、示した時間点の間インキュベートされた解凍ヒト臍帯血からの単核細胞を用いての、細胞表面フコシル化(%CLA-FITC)の動力学における、FT VI(10μl =11μg/mL)対FT VII(100μl=15μg/mL、200μl=30μg/mL、および400μl=60μg/ml)の比較分析を示すものである。
【0130】
実施例2
図2はヒト間葉系幹細胞(MSC)を用いての、フコシル化(%CLA-FITC)の動力学における、FT VI(11および1.1μg)対FT VII(15および60μg)の比較分析を示すものである。実施例1において述べたものと同様の条件を用いた。
【0131】
図2は、100μl(15μg)および400μl(60μg)の両方におけるFT VIIは、早い時点(15分)において間葉系幹細胞(MSC)の顕著なフコシル化を達成することができ、10μl(11μg)でのFT VIよりも、フコシル化およびCLA部位の生成において、FT VIIがより活性であることを示している。30分間で、FT VIIとFT VIとの差分効果はもはや観測されなくなった。反復試験結果は、MSCにおけるフコシル化の最大効果は、FTの2つのアイソフォーム間で有意に異なっておらず、最大に達成されるCLA発現は約70%~80%であったことを示した。
【0132】
図3は、精製臍帯血由来CD34+細胞を用いてのフコシル化(%CLA-FITC)の動力学における、FT VI(11および1.1μg)対FT VII(15および60μg)の比較分析を示すものである。実施例1において述べたものと同様の条件を用いた。
【0133】
精製臍帯血由来CD34+細胞を用いた場合、
図3の結果は、
図1のCB NMC調製で観察された結果と並行するものである、すなわち、フコシル化の最大%は、10μl(11μg)でのFT VIおよび400μl(60μg)でのFT VIIで観察され、それぞれのFTのより低い濃度での最大効果の時間依存性到達も観察されたものである。FT VIIのより低い投与量(100μl、15μg)は、15分である早い時間点で、
図1におけるMNC調製の同じ時間点で観測されるもの(30%)よりも、フコシル化のより大きなレベル(70%)で達成した。
【0134】
図4は、新鮮な培養神経幹細胞(NSC)を用いてのフコシル化(%CLA-FITC)の動力学における、FT VI(33、11および3.3μg)対FT VII(15、30および60μg)の比較分析を示すものである。実施例1において述べたものと同様の条件を用いた。
【0135】
図4の結果は、神経幹細胞(NSC)の精製集団のフコシル化のベースラインレベルがないことを示す。この図は、また、FT VIが10μl(11μg)および、CD34+細胞を完全にフコシル化するそれ以上(30μl、33μg)の量で、フコシル化のべースラインレベルを変更することができなかったことを示す。両方の濃度(100μlおよび400μl)でのFT VIIのみが、これらの細胞をフコシル化することができ、15分の最も早い時点で最大のフコシル化を達成することができた。
【0136】
図5および6は、ヒト解凍臍帯血由来単核細胞を用いたフコシル化の動力学における、のFT VI(11μg、
図5)対FT VII(60μg、
図6)の比較分析を示すものである。。実施例1において述べたものと同様の条件を用いた。
【0137】
上記の結果は、FT VI(
図5)が、臍帯血からの細胞の混合集団中の選択細胞だけをフコシル化できることを示している。CD34+、CD33+、およびCD56細胞を完全にフコシル化する投与量(10μg、11μg)でFT VIをインキュベーションした後に、BおよびTリンパ球(CD3、CD4、CD19)の両方は、穏当に影響されるのみであり、同様に、CD38+細胞はFT VIによってわずか最小限にフコシル化されたのみであった。これに対して、400μl(60μg、
図6)でのFT VIIは、臍帯血単核細胞(MNC)調製物中の種々のリンパ球亜集団を含む、調べた全ての細胞型においてほぼ100%のフコシル化を達成することができた。
【0138】
実施例3
図7は、ヒト内皮前駆細胞(EPC)を用いたフコシル化における、FT VI処理対偽処理の比較分析を示すものである。実施例1において述べたものと同様の条件を用いた。すべての細胞は、FT VIを用いたエキソビボでの処理によってフコシル化された。
【0139】
図8は、ヒト羊水幹細胞のフコシル化におけるFT VI処理の効果の分析を示す図である。37℃でのインキュベーション(青色ライン)もまた試験されたことを除いて、実施例1において述べたものと同様の条件を用いた。
【0140】
図9は、ヒト脂肪由来幹細胞のフコシル化に対するFT VI処理の効果の分析を示す図である。実施例1において述べたものと同様の条件を用いた。同図に示すように、脂肪由来幹細胞の90%超がFT VIによってフコシル化された。
【0141】
実施例4
本実施例における実験は、凍結保存後の間葉系幹細胞(MSC)のフコシル化の安定性を試験するために行った。MSCの凍結したアリコートは、ロンザ[Lonza](ロンザ ウォーカーズビル インコーポレーテッド[Lonza Walkersville, Inc.]、メリーランド州ウォーカーズビル)から得られ、解凍された。細胞は、凍結防止剤を除去するために洗浄され、次いでハンクス塩基性塩溶液(HBSS)+1%ヒト血清アルブミン(HSA)中に再懸濁された。1つのアリコートを比較対照として使用し、その他のアリコートは以下の手順に従ってフコシル化された:800μlのHBSS+1%HSA含有MSC中のMSCに、100μl HBSS+1%HAS、100μl GDP-フコース(10mM ストック)および10μl FT VIを添加して、反応を開始させ、30分後に洗浄することによって反応終了を終了させた。比較対照細胞は、酵素を添加されない以外は、同様のプロトコルで処理された。
【0142】
細胞は、穏やかに混合されながら室温で45分間インキュベートされ、次いで、遠心分離により洗浄した。得られたペレットをHBSS+1%HAS中に再懸濁させた。細胞のアリコートが、上記したCLA-FITCおよび特異的MSC細胞表面標識としての抗CD73を用いてのFACSによる分析のために、取り除いた。ヨウ化プロピジウムが生存度を測定するために用いられた。
【0143】
残りの細胞を、HBSS+1%HSA 2mLを添加して洗浄し、下記のプロトコルに従って凍結保存した:(1)ペレット化された細胞は、等容量(0.5ml)の100%FBSおよび20%DMSO中におかれ、(2)-70℃の冷凍庫中に2時間置いた後、液体窒素へと移された。
【0144】
翌日、細胞は解凍され、遠心分離により洗浄され、1.0mlHBSS+1%HSAに再懸濁され、上記したようなフローサイトメトリーにより検定された。アッセイの結果を表1に示す。
【0145】
表1に示されるように、細胞の生存度の損失はあるものの、フコシル化された細胞の百分率およびMFI(平均蛍光強度)の双方の観点において、フコシル化レベルが凍結乾燥後において維持されていた。
【0146】
【0147】
実施例5
トリプシン処理前またはトリプシン処理後のいずれかのヒトMSCのフコシル化の効果を比較するために、以下の実験を行った。ヒトMSCを無血清培地中で11日間拡大させ、6ウェルプレートにプレート付けし、そして数日間にわたって付着させた。プレート1~3中の無血清培地は、指示された培地(プレート1:培地+10%FBS、プレート2:無血清培地、プレート3:HBSS)で交換され、その後、細胞は、最大のフコシル化およびMFIを達成することが知られている条件下で、TZ101に暴露された。CLA-FITC %およびMFIの発現の最大レベルを得るために、プレート4からの細胞は、TZ101に暴露する前に、HBSS中に懸濁された。結果は、表2に、2つの別個のウェルからの値の平均として示される。
【0148】
図10に示すように、フコシル化前のトリプシン処理は、いずれの条件下での接着細胞のフコシル化よりも高いMFI値をもたらした。HBSS中の細胞のフコシル化は、無血清培地中の細胞のフコシル化よりもMFI値をもたらした。
【0149】
【0150】
実施例6
MSCは成長させられ、cGMP条件下でフコシル化される。供与者の書面での承諾の後、15mLの骨髄が腸骨稜から採取される。骨髄は、8% ヒト血小板溶解物(ミル クリーク ライフ サイエンシス[Mill Creek Life Sciences]、ミネソタ州ロチェスター)を補足された培養培地(αMEM(ライフ テクノロジーズ[Life Technologies]、ニューヨーク州グランドアイランド)300ml中の、2レベルのCellSTACK(登録商標)培養チャンバー(1272cm2、コーニング[Corning]、マサチューセッツ州アクトン)上に、105個の有核細胞/cm2で播種される。細胞がコンフルエンス(集密)に達するまで(P0の終点)、全培地が週2回更新される。次いで、細胞はトリプシン(Hyclone)を用いて脱離され、生存細胞が計数され、そして細胞は5つの2レベルのCellSTACK(登録商標)培養チャンバー上に、103個の細胞/cm2で再播種される。2週間後(P1の終点)、トリプシン処理により細胞が脱離され、生存細胞が計数され、そしてこの処理が2回繰り返される(P2およびP3)。
【0151】
P3の終点で、細胞はトリプシ処理で脱離され、トリプシン処理によって細胞を分離し、ハンクス塩基性塩溶液(HBSS)+1%組換えヒト血清アルブミン(HSA))(インヴィトリア[InVitria]、コロラド州フォートコリンズ)で洗浄され、そしてHBSS+1%HSA中に107/mlの濃度で再懸濁される。細胞は、組換えFT VI(0.01mg/mL)+1mM GDP-フコース(共に、アメリカ ステム セル[America Stem Cell]、カリフォルニア州サンディエゴから供給される)と、室温で30分間インキュベートされることでフコシル化され、洗浄され、凍結保存される。
【0152】
凍結保存のために、合計10mLの107細胞/ml濃度のMSCが、プラズマライトA[plasmalyte A]中の10%DMSO、12%ペンタスターチ、および8%ヒト血清アルブミン(HSA)からなる凍結用混合物10mLと混合され、カスタマイズされた20mL容FEP 凍結バッグ(AFC Kryosure VP-20f、メリーランド州ゲイザースバーグ)中に移される。細胞は、制御された速度の冷凍機(Kryosave、クリオ アソシエートス[Cryo Associates]、メリーランド州ゲイザースバーグ)を用いて凍結保存され、液体窒素タンクの気相中に収納される。
【0153】
実施例7
200万の100 Gy-照射され、そして洗浄されたエプスタイン-バーウイルス-形質転換リンパ芽球(EBV-LCL))細胞が、106磁気ビーズ精製ヒトナチュラルキラー(hNK)細胞と、直立75cm2組織培養フラスコ内で、10%熱不活性化ヒトAB血清(ジェミニ バイオブロダクツス[Gemini Bio-Products]、カリフォルニア州サクラメント)、500lU/ml rhIL-2(50ng/mL、Tecin(商標名)、ホフマン ラ ロシェ インコーポレーテッド[Hoffmann-La Roche Inc.]、ニュージャージー州ナットリー)および2mM GlutaMAX-1 (インビストロゲン[Invistrogen]、カリフォルニア州カールスバッド)を補足された、X-VIVO 20(ロンザ[Lonza]、メリーランド州ウォーカーズビル)の15ml中において、37℃で6.5%CO2にて共培養された。5日間の培養後、培地の半分を交換した。7日目に開始して、14日間の間24~72時間毎に、NK細胞はIL-2を含有する増殖培地で0.6×106細胞/mlに希釈された。
【0154】
NK細胞の表現型を、FACSCalibur(商標名)フローサイトメーター(ビーディー バイオサネンシス[BD Biosciences]、カリフォルニア州サンジョゼ)においてフローサイトメトリーにより、以下の抗ヒトモノクローナル抗体を用いて評価した:抗CD56-APC(クローンB159))、抗CD16-FITC(クローン3G8)、抗CD3-PE(クローンUCHT1))、抗CD25-PE(クローンM-A251)、抗NKG2D-APC(クローン1D11))、抗CD244-PE(2B4、クローン2 69)、抗CD48-FITC(クローンTU145)、抗CD11a/LFA-1-PE(クローンG43-25B)、抗FasL-ビオチン(クローンNOK-1)、抗パーホリン-FITC(クローンδG9)、CD158b-PE(KIR2DL2/3、クローンCH-L)および抗CLA(HECA))-FITC抗体。細胞生存率は、Via-Probe(登録商標)(ビーディー バイオサネンシス[BD Biosciences]、カリフォルニア州サンジョゼ)(7AAD)を用いて染色することにより測定した。細胞内染色は、ビーディー バイオサネンシスのCytofix/Cytoperm(商標名)を用いて透過性化および固定化された細胞において行われた。上記抗体および試薬は、ビーディー バイオサネンシス[BD Biosciences](カリフォルニア州サンジョゼ)から購入し、そして製造者の仕様に従って使用した。抗グラザイムA-FITC(クローンCB9)、抗グラザイムB-PE(クローンGB11)、および抗TRAIL-PE(クローンRIK-2)は、アバカム インコーポレーテッド[Abeam Inc.](マサチューセッツ州ケンブリッジ)から購入した。抗NKG2A-APC(CD94/CD159a、クローン131411)および抗NKG2C-PE(CD94/CD159c、クローン134591)は、アール アンド ディー システムス[R&G Systems](ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。KIR3DL1-PE(クローンDX9)は、バイオレジェンド インコーポレーテッド[BioLegend Inc.](カリフォルニア州サンディエゴ)から得た。細胞はまた、これらの対応するアイソタイプ一致対照モノクローナル抗体で染色された。
【0155】
図11における結果は、様々な濃度のFT VIでの、TZ101とのインキュベーション後のヒト拡大hNK細胞のフコシル化レベルを示す。フコシル化を達成した細胞の最大%(CLA-FITCとの反応性により反映される))が、試験されたFT VIの最低投与量(5μg/mL)で観察された一方で、最大MFIは、より高いFT VI用量である20-25g/mLで達成された(比較対照に関するMFI=36、5μg/mLでのFT VI=2033、10μg/mLでのFT VI=2097、15μg/mLでのFT VI=1943、20μg/mLでのFT VI=2205、25μg/mLでのFT VI=2116)。本実施例からのその他の観察項目は、CD16およびCD56染色の安定なレベルによって反映されるように、表現型に変化がないこと、L-セレクチンのほとんど検出できないレベル、およびNK細胞上でのCD44およびPSGLの高いベースラインレベル、を含むものであった。
【0156】
NK細胞のE-セレクチンへの液相結合は、TZ101とのNK細胞のプレインキュベーションによって増強される。E-セレクチンキメラへの液相結合における、拡大hNK細胞のTZ101での前処理の効果を調べた。
図12は、NK細胞へのE-セレクチンの結合におけるFT VIの用量応答効果を示すものであり、25μg/mLのFT VI投与量でのインキュベーション後に達成される最大結合が、MFIの結果と相関する。これゆえ、さらなる研究は、全て25μg/mlのFT VIを用いて行った。
【0157】
室温でのインキュベーション後に達成されるフコシル化の安定性。
図13の結果は、hNK細胞が、組織培養(25μg/mlのFT VIおよび1mMのGDP-フコース)で48時間インキュベートした後にそのフコシル化レベルを維持することを示している。さらに、データは、NK細胞上のCD44が、この細胞表面糖タンパク質を修飾する、四糖、siLeX部分へのフコースの酵素的に媒介された転移におけるFT VIの作用の主要な部位であり得ることを示している。
【0158】
フコシル化後に維持されるNK細胞の細胞毒性能。
図14の結果は、フコシル化されたhNK細胞が、比較対照細胞で観察されたものと同様のインビトロでの細胞毒性プロフィールを発揮することを示すものである。特に、比較対照またはTZ101処理(10μg/mLまたは25μg/mL FT VI)されたNK細胞でのインキュベーション、IL-2への暴露による事前の活性化、は、K562およびMM1S(多発性骨髄腫)細胞の双方に対する強力な細胞毒性効果を示した。
【0159】
実施例8
NK細胞は、現在の適正製造実施(cGMP)条件下で製造され、フコシル化された。使用された、FT VIを含む全ての試薬は、cGMP級である。12~24×106磁気ビーズ精製NK細胞が、バクスター[Baxter] 180cm2 300mLバッグ(Fenwal Lifecell、バクスター ヘルスケア コーポレーション[Baxter Healthcare Corporation]、イリノイ州ディアフィールド)中にセルジェニックス インコーポレーテッド[CellGenix Inc.](ニューハンプシャー州ポーツマス)から得られたrhIL-2を含有する100~140mLの媒体中の120~240×106照射EBV-TM-LCL細胞と組み合わされた。培養の開始から4、5日後、培地の半分が交換される。その2日後に、NK細胞の濃度が、IL-2を含有する成長培地を用いて106細胞/mLに調節された。拡大される細胞は、そして28日まで毎24時間~72時間ごとに、計数され、希釈された。細胞の一部が、4%ヒト血清アルブミン(HSA、タレクリス バイオセラピオテックス インコーポレーテッド[Talecris Biotherapeutics, Inc.]、ノースカロライナ州リサーチ トライアングル パーク)、6%ペンタスターチ(ハイポキシエチルターチ、NIH PDS)、10μg/mL DNase I(Pulmozyme、ジェネンテック インコーポレーテッド[Genentech Inc.]、カリフォルニア州サウス サンフランシスコ)、15 U/mL ヘパリン(アブラキス ファルマシューティカル プロダクツ[Abraxis Pharmaceutical Products]、イリノイ州)、および5% DMSOを補足されたプラズマライトA[plasmalyte A]中に、各小瓶毎に20~50×106細胞/mLにて、制御された速度の冷凍機を使用して凍結保存され、次いで液体窒素タンクの気相中に移された。2週間後、X-VIVO 20、10%ヒトAB血清、4%HSAおよび10U/mlヘパリンを含む解凍媒体を用いて、細胞を解凍した。細胞は、37℃で解凍され、10mLの解凍媒体でゆっくりと希釈され、細胞の破壊を回避するため遠心分離される前に室温で1-2時間放置された。解凍された細胞は、解凍後2時間のフコシル化レベルについて試験され、7AAD染色を用いて生存細胞のゲーティングを行った。フコシル化レベル(MFIにより測定される)は、凍結保存前に観察されたレベルの±10%であることが観察されるべきである。
【0160】
実施例9
制御性T細胞(Treg)は、臍帯血(CB)から拡大された。凍結保存されたCBユニットを解凍し、0.5%HSA(バクスター ヘルスケア [Baxter Healthcare]、カリフォルニア州ウエストレイクビレッジ)を含む)CliniMACSバッファー(ミルテニー バイオテック [Miltenyi Biotec]、ドイツ国ベルギッシュ・グラートバッハ)中で洗浄し、CB単核細胞(MNC)を得た。CB MNCは次いで、製造者の指示(ミルテニー バイオテック [Miltenyi Biotec]、ドイツ国ベルギッシュ・グラートバッハ)に従って、磁気活性化細胞選別(MACS)を用いたCD25+細胞富化に供された。陽性に選択された細胞を、CD3/28共発現Dynabeads(登録商標)(ClinoExVivo(商標名)CD3/CD28、インビトロジェン ディナール エイエス[Invitrogen Dynal AS]、ノルウェー国オスロ)と細胞 1:ビーズ 3の比率で共培養され、そして、組織培養フラスコ中において37℃で空気中5%CO2の雰囲気下に、10%ヒトAB血清(ジェミニ バイオブロダクツス[Gemini Bio-Products]、カリフォルニア州サクラメント)、2mM L-グルタミン(シグマ[Sigma]、ミズーリ州セントルイス)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ギブコ/インビトロジェン[Gibco/lnvitrogen]、ニューヨーク州グランドアイランド)および200IU/mL インターロイキン(IL)-2(チロン コーポレーション[CHIRON Corporation]、カリフォルニア州エメリービル)を補足されたX-VIVO15培地(カンブレックス バイオサイエンス[CambrexBioScience]、メリーランド州ウォーカーズビル)中に1×106細胞/mLにて再懸濁された。
【0161】
CB由来CD25+富化T細胞は、48~72時間毎に新鮮な培地およびIL-2(200IU/mlに維持されている)の添加により1×106細胞/mLに維持された。1つのCBから単離されたCD25+細胞の平均数は0.78×106であった;2週間の拡大後、最大400×106Treg細胞を得ることができた。
【0162】
フコシル化は、抗体HECA-452(ビーディー バイオサイエンシス[BD Biosciences]、カリフォルニア州サンジョゼ)を用いたフローサイトメトリーにより評価して、sLex残基の存在によって特徴付けられた。細胞の一部を、CLA、CD4、CD127、およびCD25抗体を用いたフロー染色[flow staining]のために、フコシル化前およ
びフコシル化後に取り除いた。
【0163】
拡大されたT
reg細胞のエキソビボでのフコシル化は、培養細胞を採取し、PBS 1%HSA中で洗浄した11日目に行われた。次いで、細胞はTZ101(10μg/mL FT VI + 1mM GDP-フコース)と共に、時々混合しながら室温で30分間インキュベートされ、その後、洗浄し、PBS中に再懸濁された。細胞の一部は、CLA、CD4、CD127、およびCD25抗体を用いたフロー染色[flow staining]のために、フコシル化前およびフコシル化後に取り除いた。結果は、
図15Aに示されており、FT VIがT
reg細胞におけるフコシル化のレベルを8.8%から62%に増加したことを示した。加えて、フコシル化されたT
regは、インビトロにおいてのアロ-混合リンパ球反応[allo-mixed lymphocyte reaction](MLR)(
図15B)を抑制することができた。
【0164】
実施例10
制御性T細胞(Treg)は、全てcGMP条件下で、臍帯血(CB)から拡大され、その後フコシル化された。凍結保存されたCBユニットを、洗浄溶液として10%デキストラン40/5%ヒト血清アルブミンを使用して、37℃の無菌生理食塩水浴中で解凍した。MgCl2/rHuDNA/クエン酸ナトリウムカクテルが、免疫磁気選択の前に凝集を防止するために用いられた。CD25+Treg細胞の富化は、直接結合抗CD25磁性マイクロビーズ(ミルテニー バイオテック インコーポレーテッド[Miltenyi Biotec Inc.](ドイツ国ベルギッシュ・グラートバッハ)およびCliniMACS装置(ミルテニー)を用いての陽性選択によって行われた。カラム選択の後、CD25+細胞は、組織培養フラスコ中において(37℃、5%CO2)、10%ヒトAB血清、熱不活性化L-グルタミン(2mM バレー バイオメディカル プロダクツ アンド サービス インコーポレーテッド[Valley Biomedical Products and Services, Inc.]、バージニア州ウィンチェスター)、および 2.5mL ペニシリン/ゲンタマイシン (10mg/mL)を補足されたX-VIVO15培地(カンブレックス バイオサイエンス[Cambrex BioScience]、メリーランド州ウォーカーズビル)中に約1×106細胞/mLの濃度にて再懸濁された。得られた集団はフローサイトメトリーを用いて純度に関して特徴づけられた。単離された細胞は、続いて抗CD3/抗CD28モノクローナル抗体(mAb)で被覆されたDynabeads(インビトロジェン)を3:1のビーズ対細胞比で用いて、14±1日間培養された。0日目に、培養物に200lU/mLのIL-2(Proleukin、(チロン コーポレーション[CHIRON Corporation]、カリフォルニア州エメリービル)を補足された。細胞は、収集するまで14日間の間48~72時間毎に分割することにより1.0×106の生存有核細胞/mLの密度で維持された。ロット放出基準を通過した全ての製品は、7AAD生存率≧70%、CD4+CD25+純度≧60%、10%未満のCD4-/CD8+細胞、抗CD3/抗CD28mABビーズ数<100(3×106細胞当り)、“有機体なし”でのグラム染色、および内毒素<5EU/kg。フコシル化は、室温で30分間、1mMでcGMP拡大Treg+GDP-フコースに最適であることが示された濃度でFT VIを用いて行われた。細胞の一部は、ピルビン酸塩(0.02 mM)、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100mg/mL)、20%ヒトプール血清(HPS))、および15%のジメチルスルホキシドを補足されたRPMI1640中に懸濁され、制御された速度の冷凍機を用いて凍結保存した後、液体窒素タンクの気相に移された。2週間後、細胞を37℃の水浴中で急速解凍され、使用前に2回洗浄された。解凍2時間後のフコシル化レベルについて解凍した細胞を試験し、7AAD染色を用いて生存細胞のゲーティングを行った。フコシル化レベル(MFIにより測定される)は、凍結保存前に観察されたレベルの±10%であることが観察されるべきである。
【0165】
実施例11
細胞傷害性T細胞を、HLA-A2に結合するCG1ペプチド(アミノ酸配列FLLPTGAEA;配列番号1)に対して拡大させた。付着および免疫刺激によりHLA-A*0201健康ドナー単球から樹状細胞(DC)が生成され、次いで同じ健康ドナーからのPBMCと共培養された。37℃での付着工程の後、懸濁液に残存する細胞(リンパ球)を除去し、40μg/mLのCG1ペプチドでパルスし、続いてIL-7(10ng/mL)およびIL-2(10ng/mL)で5日間刺激した。初期工程からの付着細胞を、GM-CSF(100ng/mL)、IL-4(50ng/mL)、およびTNF-α(25ng/mL)の添加によって、単球由来DCに成熟させた。5日後、DCを取り外し、適切なペプチドで40μg/mLでパルスし、その後、自己リンパ球集団の残りと組み合わせた。次いで、共培養物をIL-7(10ng/mL)およびIL-2(25ng/mL)を用いて7日間再刺激して、CTL増殖を可能とした。12日目に、細胞を採取し、デキストロマー染色およびインビトロ細胞毒性アッセイにより分析し、CTL拡大および特異性を確認した。次いで、細胞は、TZ102(1mM GDP-フコース+75μg/mL FT VII)を用いて、室温で30分間インキュベートし、次いで洗浄することによりフコシル化される("FT VII処理")か、またはFT VII酵素の非存在下での偽インキュベーションを与えられる("未処理")かのいずれかをなされた。フコシル化レベルは、HECA-452抗体(ビーディー バイオサイエンシス[BD Biosciences])自己リンパ球集団を用いたフローサイトメトリーによって測定された。次いで、共培養物をIL-7(10ng/mL)およびIL-2(25ng/mL)を用いて7日間再刺激して、CTL増殖を可能とした。12日目に、細胞を採取し、デキストロマー染色およびインビトロ細胞毒性アッセイにより分析し、CTL拡大および特異性を確認した。次いで、細胞は、TZ102(1mM GDP-フコース+75μg/mL FT VII)を用いて、室温で30分間インキュベートし、次いで洗浄することによりフコシル化される("FT VII処理")か、またはFT VII酵素の非存在下での偽インキュベーションを与えられる("未処理")かのいずれかをなされた。フコシル化レベルは、抗CLA-FITC(HECA-452)抗体(ビーディー バイオサイエンシス[BD Biosciences])を用いたフローサイトメトリーによって測定された。
図16に示されるように、実質的に100%の細胞は、TZ102で処理することによってフコシル化された。
【0166】
実施例12
実施例11に記載の方法を用いて、cGMP条件下で細胞傷害性T細胞を調製し、フコシル化した。全ての試薬は、CG1ペプチドおよびFTVIIを含み、cGMPグレードであった。実施例11で説明したものと同様にして、抗CLA-FITCを用いてフコシル化レベルを測定した。細胞の一部が、ピルビン酸塩(0.02 mM)、ペニシリン(100U/mL)、ストレプトマイシン(100mg/mL)、20%ヒトプール血清(HPS))、および15%のジメチルスルホキシドを補足されたRPMI1640中に懸濁され、制御された速度の冷凍機を用いて凍結保存した後、液体窒素タンクの気相に移された。2週間後、細胞を37℃の水浴中で急速解凍され、使用前に2回洗浄された。解凍2時間後のフコシル化レベルについて解凍した細胞を試験し、7AAD染色を用いて生存細胞のゲーティングを行った。MFIにより測定されるフコシル化レベルは、凍結保存前に観察されたレベルの±10%であることが観察されるべきである。
【0167】
本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)およびその利点を詳細に説明したが、様々な変更、置換および代替が、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)の精神および範囲から逸脱することなく、可能であることが理解されるべきである。さらに、本出願の範囲は、本願明細書に記載された、プロセス、物質の組成、手段、方法、および工程に関する、特定の非限定的な実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者であれば、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)、プロセス、物質の組成、手段、方法、および工程から、現在存在しているまたは実質的に同じ機能を実施するまたは本願明細書に記載の対応する実施形態と実質的に同じ結果を達成するように後に開発されるものが、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)に従って利用可能であることが容易に理解できるであろう。したがって、本願で開示されているおよび/または請求の範囲に記載されている本発明の概念(群)は、その範囲内に、そのようなプロセス、物質の組成、手段、方法、または工程を含むことを意図するものである。