(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065048
(43)【公開日】2022-04-26
(54)【発明の名称】薬液注入装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/145 20060101AFI20220419BHJP
A61M 5/168 20060101ALI20220419BHJP
A61M 5/172 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
A61M5/145 506
A61M5/168 504
A61M5/172
A61M5/168 540
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018433
(22)【出願日】2022-02-09
(62)【分割の表示】P 2019512548の分割
【原出願日】2018-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2017079145
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 剛
(57)【要約】 (修正有)
【課題】撮像する部位や目的に応じた種々の注入条件を容易に設定することのできる薬液注入装置等を提供する。
【解決手段】薬液注入装置100は、それぞれ第1の薬液および第2の薬液が充填されたシリンジを操作する2つのピストン駆動機構130a、130bと、データの入力を受け付ける入力ユニット503と、ピストン駆動機構の動作を制御する注入制御ユニット101と、を有する。注入制御ユニットには複数の注入フェーズで注入動作を実行する多段注入モードが設定されている。多段注入モードでは、注入制御ユニットは、複数の注入フェーズのそれぞれについて、第1の薬液と第2の薬液との混合割合の入力を受け付け、受け付けた混合割合で第1の薬液および第2の薬液が注入されるように第1の薬液および第2の薬液の注入条件を設定し、設定した注入条件に従ってピストン駆動機構の動作を制御するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に充填された薬液を注入する薬液注入装置であって、
第1の薬液が充填されている第1容器から前記薬液を流出させるように構成された第1駆動機構と、
第2の薬液が充填されている第2容器から前記薬液を流出させるように構成された第2駆動機構と、
データの入力を受け付ける少なくとも1つのデータ入力インターフェースと、
少なくとも前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部と、
を有し、
前記注入制御部には、薬液の少なくとも1つの注入モードの1つとして、少なくとも、一連の注入動作を複数の注入フェーズで実行する多段注入モードが設定されており、
前記多段注入モードでは、前記注入制御部は、前記複数の注入フェーズのそれぞれについて、前記第1の薬液と前記第2の薬液との混合割合の入力を、前記データ入力インターフェースを通じて受け付け、受け付けた前記混合割合で前記第1の薬液および前記第2の薬液が注入されるように前記第1の薬液および前記第2の薬液の注入条件を設定し、設定した前記注入条件に従って前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するように構成されている薬液注入装置。
【請求項2】
前記混合割合は、第1の薬液の量/(第1の薬液の量+第2の薬液の量)で計算される値である請求項1に記載の薬液注入装置。
【請求項3】
前記注入制御部が受け付ける前記混合割合は0%から100%の範囲である請求項2に記載の薬液注入装置。
【請求項4】
前記第1の薬液は造影剤であり、前記第2の薬液は生理食塩水である、請求項1から3のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項5】
表示ユニットと前記データ入力インターフェースとを含むタッチパネルをさらに有し、
前記注入制御部は、前記タッチパネルに、前記データの入力を受け付ける少なくとも1つのアイコンを含む注入条件設定用画面を表示させる請求項1から4のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項6】
前記アイコンは、前記複数の注入フェーズのそれぞれについて前記混合割合の入力用のアイコンを含む請求項5に記載の薬液注入装置。
【請求項7】
前記第1の駆動機構および前記第2の駆動機構を搭載する単一の注入ヘッドを含む請求項1から6のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項8】
前記第1の駆動機構を搭載する第1の注入ヘッドおよび前記第2の駆動機構を搭載する第2の注入ヘッドを含む請求項1から6のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の薬液注入装置と、
前記薬液注入装置に着脱自在に装着される第1の容器および第2の容器と、
前記第1の容器および第2の容器に接続される注入回路と、
を有する薬液注入システム。
【請求項10】
前記第1の容器および第2の容器の少なくとも一方は、造影剤が充填された容器である請求項9に記載の薬液注入システム。
【請求項11】
前記注入回路は、末端側が前記第1の容器および第2の容器と接続されるように分岐した体外回路部を含む請求項9または10に記載の薬液注入システム。
【請求項12】
請求項9から11のいずれか一項に記載の薬液注入システムと、
前記薬液注入システムによって薬液が注入された被験者から医用画像を取得する透視撮像装置と、
を有する透視撮像システム。
【請求項13】
前記透視撮像装置は血管造影装置である請求項12に記載の透視撮像システム。
【請求項14】
第1の薬液が充填されている第1容器から前記薬液を流出させるように構成された第1駆動機構と、第2の薬液が充填されている第2容器から前記薬液を流出させるように構成された第2駆動機構と、少なくとも前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部と、を有し、前記前記注入制御部には、薬液の少なくとも1つの注入モードの1つとして、少なくとも、一連の注入動作を複数の注入フェーズで実行する多段注入モードが設定されている薬液注入装置の作動方法であって、
前記注入制御部が、前記多段注入モードにおいて、前記複数の注入フェーズのそれぞれについて、前記第1の薬液と前記第2の薬液との混合割合の入力を受け付けるステップと、
前記注入制御部が、受け付けた前記混合割合で前記第1の薬液および前記第2の薬液が注入されるように前記第1の薬液および前記第2の薬液の注入条件を設定するステップと、
前記注入制御部が、設定した前記注入条件に従って前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するステップと、
を含む薬液注入装置の作動方法。
【請求項15】
前記混合割合の入力を受け付けるステップは、前記注入制御部が、前記混合割合を、第1の薬液の量/(第1の薬液の量+第2の薬液の量)で計算することを含む請求項14に記載の薬液注入装置の作動方法。
【請求項16】
前記注入制御部が受け付ける前記混合割合は0%から100%の範囲である請求項15に記載の薬液注入装置の作動方法。
【請求項17】
前記薬液注入装置は、表示ユニットと前記データ入力インターフェースとを含むタッチパネルをさらに有し、
前記混合割合の入力を受け付けるステップは、前記注入制御部が、前記タッチパネルに、前記データの入力を受け付ける少なくとも1つのアイコンを含む注入条件設定用画面を表示させることを含む請求項14から16のいずれか一項に記載の薬液注入装置の作動方法。
【請求項18】
前記アイコンは、前記複数の注入フェーズのそれぞれについて前記混合割合の入力用のアイコンを含む請求項17に記載の薬液注入装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジなどの容器内に充填された薬液を注入する薬液注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療用の画像診断装置として、CT(Computed Tomography)スキャナ、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、超音波診断装置、血管造影装置(アンギオグラフィー)等が知られている。このような撮像装置を使用する際、薬液注入装置を用いて患者に造影剤や生理食塩水といった薬液を注入することがある。
【0003】
特に、近年の薬液注入装置を使用した血管造影技術においては、X線機器、カテーテル、造影剤などの開発によって、それまでの画像診断のみから、画像診断装置を利用した治療手技(IVR:Interventional Radiology)へと発展してきた。手技別に考えると、カテーテルを利用した局部への薬液の注入(動注)、血管の塞栓、血管の拡張および開通に分けられる。対象としては、腫瘍、出血、血管性病変等がある。腫瘍については、抗癌剤の動注や径カテーテル的動脈塞栓術(TAE:Transcatheter Arterial Embolization)がある。出血については、血管収縮剤の持続動注や動脈塞栓術があり、血管性病変については、血栓溶解術や経皮的血管形成術(PTA:Percutaneous Transluminal Angioplasty)がある。
【0004】
現在盛んに行われている経皮的血管形成術の中でも急速に発展しているのは、経皮経管冠状動脈形成術(PTCA:Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)であり、PTCAはバルーンカテーテル、アテレクトミー(冠動脈内粥種(じゅくしゅ)切除術)およびステントの埋め込み術に大別することができる。このような血管造影の進化の背景から、頭部、胸部(心臓含む)、腹部、下肢領域の臓器や病変部位に直結した様々な血管を選択的にまたは同じ血管を何度も造影し(複雑な血管走行の確認のため、血管の前後関係を知るため撮影角度を変更して、カテーテルが抜けない注入条件を微調整し、治療後の確認のため)画像診断と同時に確実に治療に繋げることが要求されている。
【0005】
また、このような背景のもと、CT装置と同様の断層画像を取得できる血管造影装置が実用化されている。これによって、血管造影装置による検査中にCT断層画像が必要となった場合であっても血管造影装置のみで所望の画像を撮像することができるので、このような血管造影と断層画像の撮像を組み合わせた検査および治療は、今後さらに増えていくと考えられる。
【0006】
上記のとおり、血管造影装置を用いた検査は、造影剤の濃度や注入速度を血管部位に応じて適宜調整し繰り返し造影剤の注入が行われる点が、静脈から造影剤を一度注入して撮像するCT検査やMR検査との一つの相違点となっている。
【0007】
例えば、特許文献1には、血管造影用の薬液注入装置の一例が開示されている。この薬液注入装置は、例えばカテーテル法による血管造影に使用される。カテーテル法では、皮膚を切開することなく、カテーテルがガイドワイヤによって経皮的に血管(動脈)内に導入される。そして、目的血管の起始部付近にカテーテルの先端を位置させた後、薬液注入装置を動作させて所定の注入プロトコルで造影剤を注入するとともに、撮像装置を用いて連続撮影を行う。これにより、造影された血管を表す画像が所定のディスプレイに映し出され、医師はその画像を見ながら診断および治療を行う。
【0008】
なお、血管造影用の薬液注入装置としては、例えば特許文献1に開示されているように、注入ヘッドとコンソールとを備えたものが知られている。血管造影用の注入ヘッドは、CT検査やMR検査用の注入ヘッドと異なる、次のような特徴がある。すなわち、血管造影においては、血管内に導入される細長いカテーテルを通じて薬液が注入されるので、注入圧力が非常に高くなるという特徴がある。そのため、シリンジが保護カバー等に入れられた状態で注入ヘッドに装着される構成となっているものが多い。この点が、シリンジが直接装着される、または、シリンジの一部を保持するアダプタを介して装着されるCT検査やMR検査用の注入ヘッドとは異なっている。
【0009】
また、特許文献2には、2つのシリンジが装着でき、造影剤と生理食塩水とを同時に注入できる、血管造影用の薬液注入装置が開示されている。特許文献2に記載の薬液注入装置によれば、造影剤を生理食塩水で希釈して注入することができるので、血管部位に応じた造影剤の濃度の変更を、シリンジを交換することなく容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
特許文献1:国際公開第2006/068171号
特許文献2:国際公開第2016/208611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の血管造影用の薬液注入装置では、たとえ特許文献2に記載のもののように造影剤を生理食塩水で希釈可能であったとしても、1回の注入動作で注入される造影剤の濃度は変更できず、注入条件の設定には制限があった。そのため、例えば肝動脈造影において、血管の近位側と遠位側とで血管の太さが違いすぎるため、近位側は良好に描出されるが遠位側は描出されない、あるいは遠位側は良好に描出されるが近位側はアーチファクトが大きくなりすぎるといった問題が生じることがあった。また、例えば脳動脈奇形の検査において奇形の部位を知りたい場合、動脈と静脈とを区別できるようコントラストを付けて撮像できると好都合である。しかし、一定濃度での造影剤の注入では、そのようなことは難しかった。
【0012】
本発明は、撮像する部位や目的に応じた種々の注入条件を容易に設定することのできる薬液注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、容器内に充填された薬液を注入する薬液注入装置であって、
第1の薬液が充填されている第1容器から前記薬液を流出させるように構成された第1駆動機構と、
第2の薬液が充填されている第2容器から前記薬液を流出させるように構成された第2駆動機構と、
データの入力を受け付ける少なくとも1つのデータ入力インターフェースと、
少なくとも前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部と、
を有し、
前記注入制御部には、薬液の少なくとも1つの注入モードの1つとして、少なくとも、一連の注入動作を複数の注入フェーズで実行する多段注入モードが設定されており、
前記多段注入モードでは、前記注入制御部は、前記複数の注入フェーズのそれぞれについて、前記第1の薬液と前記第2の薬液との混合割合の入力を、前記データ入力インターフェースを通じて受け付け、受け付けた前記混合割合で前記第1の薬液および前記第2の薬液が注入されるように前記第1の薬液および前記第2の薬液の注入条件を設定し、設定した前記注入条件に従って前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するように構成されている薬液注入装置が提供される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、上記本発明のいずれかの薬液注入装置と、
前記薬液注入装置に着脱自在に装着される第1の容器および第2の容器と、
前記第1の容器および第2の容器に接続される注入回路と、
を有する薬液注入システムが提供される。
【0015】
本発明のさらに他の態様によれば、上記本発明のいずれかの薬液注入システムと、
前記薬液注入システムによって薬液が注入された被験者から医用画像を取得する透視撮像装置と、
を有する透視撮像システムが提供される。
【0016】
本発明のさらに他の態様によれば、第1の薬液が充填されている第1容器から前記薬液を流出させるように構成された第1駆動機構と、第2の薬液が充填されている第2容器から前記薬液を流出させるように構成された第2駆動機構と、少なくとも前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するように構成された注入制御部と、を有し、前記前記注入制御部には、薬液の少なくとも1つの注入モードの1つとして、少なくとも、一連の注入動作を複数の注入フェーズで実行する多段注入モードが設定されている薬液注入装置の作動方法であって、
前記注入制御部が、前記多段注入モードにおいて、前記複数の注入フェーズのそれぞれについて、前記第1の薬液と前記第2の薬液との混合割合の入力を受け付けるステップと、
前記注入制御部が、受け付けた前記混合割合で前記第1の薬液および前記第2の薬液が注入されるように前記第1の薬液および前記第2の薬液の注入条件を設定するステップと、
前記注入制御部が、設定した前記注入条件に従って前記第1駆動機構および前記第2駆動機構の動作を制御するステップと、
を含む薬液注入装置の作動方法が提供される。
【0017】
(本発明で用いる用語の定義)
「注入回路」とは、被験者の血管内への薬液の注入のためにシリンジなどの容器に接続される、薬液を流通させるための経路を意味し、被験者の血管内に挿入されるカテーテルまたは被験者の血管に穿刺される留置針を含む。また、複数の薬液を注入可能とする場合、注入回路は、容器に接続される末端側が複数に分岐した延長チューブをさらに含み、この延長チューブの先端が、上記カテーテルまたは留置針と接続される。さらに、延長チューブとカテーテルまたは留置針との間に、他のチューブなど少なくとも1つの部材が接続されていてもよい。注入回路は、使用時の配置によって、すべてが体外に位置する「体外回路部」と、少なくとも一部が体内に位置する「体内回路部」とに区分することができる。この区分に従えば、上記カテーテルまたは留置針は体内回路に属し、上記延長チューブなど、体内回路部の体外に位置する部分と容器とを接続する部材は体外回路部に属する。
【0018】
「パージ動作」とは、被験者への薬液の注入に先立って、注入回路の体外回路部を所望の薬液で満たすために容器から薬液を放出させる動作を意味する。容器内および/または体外回路部内のエアを排出する目的も兼ねる場合は「エア抜き」ということもある。このパージ動作では、被験者の体内に薬液は注入されない。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1フェーズおよび第2フェーズのそれぞれについて第1の薬液と第2の薬液との混合割合を入力できるようにしたことで、撮像する部位や目的などに応じて注入フェーズごとに薬液の混合割合を変更した種々の注入が、単一の注入モードで設定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態による透視撮像システムの概略ブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態による薬液注入装置の外観の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示す注入ヘッドを、それに装着されるシリンジアセンブリとともに示す斜視図である。
【
図4】シリンジに接続される延長チューブの一形態を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態において、注入条件を設定する際に表示される注入条件設定用画面の一例を示す図である。
【
図6】
図5に示す注入条件設定用画面において、混合割合を変更する場合に表示される画面の一例を示す図である。
【
図7A】
図5に示す注入条件設定用画面に表示させることができる薬液混合割合設定アイコンの他の例を示す図である。
【
図7B】混合割合の一例として希釈倍率を設定する場合に用いることのできる希釈倍率入力画面の一例を示す図である。
【
図7C】混合割合入力画面のさらに他の形態を示す図である。
【
図8】薬液注入装置がRFIDモジュールを備える場合の透視撮像システムの概略ブロック図である。
【
図9A】シリンジに接続される延長チューブの他の形態を模式的に示す図である。
【
図9B】
図9Aに示す延長チューブに備えられるミキシングデバイスの斜視図である。
【
図9C】
図9Aに示す延長チューブに備えられるミキシングデバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照すると、薬液注入装置100と透視撮像装置500とを有する、本発明の一実施形態による透視撮像システムのブロック図が示されている。薬液注入装置100と透視撮像装置500とは、相互間でデータの送受信を行うことができるように互いに接続されることができる。両者の接続は、有線接続とすることもできるし、無線接続とすることもできる。なお、以下に述べる説明では、透視撮像装置500がアンギオ装置であり、かつ、薬液注入装置100が、アンギオ検査において薬液として少なくとも造影剤を注入するのに適したアンギオ検査用注入装置である場合を例に挙げて説明する。ただし、本発明では、複数種の薬液を用いて検査等を実施できるシステムを構成するものであれば、透視撮像装置は、X線CT装置、MRI装置およびPET装置など任意の透視撮像装置であってよく、薬液注入装置も、それら透視撮像装置に適合する任意の注入装置であってよい。従って、以下に詳述する構成は、透視撮像装置および薬液注入装置の種類に応じた適宜の変更が可能である。
【0022】
透視撮像装置500は、撮像動作を実行する撮像動作ユニット520と、撮像動作ユニット520の動作を制御する撮像制御ユニット510と、を有しており、薬液注入装置100によって薬液が注入された被験者の断層画像および/または3D画像を含む医用画像を取得することができる。撮像動作ユニット520は、被験者用の寝台、寝台上の所定の空間に電磁波を照射する電磁波照射ユニット等を有する。撮像制御ユニット510は、撮像条件を決定したり、決定した撮像条件に従って撮像動作ユニット520の動作を制御したりする等、透視撮像装置全体の動作を制御する。撮像制御ユニット510は、いわゆるマイクロコンピュータで構成することができ、CPU、ROM、RAM、他の機器とのインターフェースを有することができる。ROMには、透視撮像装置500の制御用のコンピュータプログラムが実装されている。CPUは、このコンピュータプログラムに対応して各種機能を実行することで、透視撮像装置500の各部の動作を制御する。
【0023】
透視撮像装置500は、撮像条件や取得した医用画像などを表示できる液晶ディスプレイなどの表示ユニット504、および撮像条件などを入力するための、キーボードおよび/またはマウスなどの入力ユニット503をさらに含むことができる。入力ユニット503から入力されたデータは撮像制御ユニット510に送信され、表示ユニット504に表示されるデータは撮像制御ユニット510から送信される。また、表示ユニットのディスプレイ上に入力ユニットとしてタッチスクリーンを配置したタッチパネルを入力ユニット503および表示ユニット504として用いることもできる。
【0024】
薬液注入装置100は、容器であるシリンジに充填された薬液を、注入回路を介して被験者の血管内に注入するのに使用される装置であり、複数のピストン駆動機構130a、130bと、入力ユニット103と、表示ユニット104と、注入制御ユニット101と、を有する。ピストン駆動機構130a、130bは、シリンジから薬液を放出させるようにシリンジのピストンを操作する機構であり、本形態では、2種類の薬液を別々にまたは同時に注入できるように、2つのシリンジについてそれぞれのピストンを独立して操作する2つのピストン駆動機構130a、130bを有している。しかし、一方の薬液注入のためのピストン駆動機構130aおよび他方の薬液注入のためのピストン駆動機構130bの少なくとも一方が複数であってもよい。
【0025】
注入制御ユニット101は、薬液の注入量および注入速度等の注入条件を決定したり、決定した注入条件に従ってシリンジから薬液が注入されるようにピストン駆動機構130a、130bの動作を制御したり、表示ユニット104の表示の制御をしたりする等、この薬液注入装置全体の動作を制御する。注入制御ユニット101は、いわゆるマイクロコンピュータで構成することができ、CPU、ROM、RAM、他の機器とのインターフェースを有することができる。ROMには、薬液注入装置100の制御用のコンピュータプログラムが実装されている。CPUは、このコンピュータプログラムに対応して各種機能を実行することで、薬液注入装置100の各部の動作を制御することができる。
【0026】
入力ユニット103は、注入制御ユニット101で薬液の注入条件を決定するのに必要なデータおよびその他のデータ等の入力を受け付けるユニットである。入力ユニット103としては、例えば、キーボードおよび/またはマウスなどの公知の入力デバイスであってよい。入力ユニット103から入力されたデータは注入制御ユニット101に送信され、注入制御ユニット101によって受信される。表示ユニット104は、注入制御ユニット101からデータが送信されるとともに注入制御ユニット101によって制御されて、薬液の注入条件の決定に必要なデータ等の表示、注入プロトコルの表示、注入動作の表示、各種警告の表示等を行う。表示ユニット104としては、例えば液晶ディスプレイ装置等、公知の表示装置であってよい。また、表示ユニットのディスプレイ上に入力ユニットとしてタッチスクリーンを配置することによって、データ入力インターフェースおよびディスプレイユニットとして機能するタッチパネルを入力ユニット103および表示ユニット104として用いることもできる。
【0027】
次に、上述した薬液注入装置100の外観および各要素の配置等の一例について
図2等を参照して説明する。
【0028】
図2に示す薬液注入装置100は、一例として。アンギオ装置(血管造影装置)用の注入装置を示しており、注入ヘッド110と、コンソール112と、メインユニット114と、を有する。注入ヘッド110とコンソール112とは、メインユニット114を介して電気的に接続される。注入ヘッド110は、図示した形態では、スタンド116の上部に旋回可能に支持されているが、天井に固定された旋回アームに支持されていてもよい。コンソール112は、上述した入力ユニット103および表示ユニット104を含むことができる。図示した形態では、コンソール112はタッチパネルを備えており、このタッチパネルが、上述した入力ユニット103および表示ユニット104に相当する。メインユニット114は、電源装置(不図示)を備えることができ、この電源装置から注入ヘッド110およびコンソール112に電力を供給することができる。
図1に示した注入制御ユニット101は、メインユニット114内に配置されてもよいし、コンソール112内に配置されてもよい。
【0029】
注入ヘッド110は、
図3に示すように、2組のシリンジアセンブリ200を着脱自在に装着できるように構成されている(
図3では、簡略化のために1組のシリンジアセンブリ200のみを示している)。
【0030】
シリンジアセンブリ200は、シリンジ220と、シリンジ220が挿入される保護カバー270とを有する。シリンジ220は、一般にロッドレスシリンジと呼ばれるものであり、末端にフランジ221aが形成されるとともに先端にノズル部221bが形成されたシリンダ221と、シリンダ221内に進退移動可能に挿入されたピストン222とを有している。
【0031】
ピストン222がシリンダ221の先端へ向けて移動することで、充填されている薬液が、ノズル部221bを通ってシリンジ220から押し出される。各シリンジ220の先端には、注入回路の体外回路部を構成する、例えば
図4に示すような延長チューブ300を接続することができる。延長チューブ300は、第1のチューブ301、第2のチューブ302、第3のチューブ303およびこれらを接続するT字コネクタ304を有しており、全体として、末端側が分岐した分岐チューブの形態をとっている。第1のチューブ301および第2のチューブ302は、それぞれシリンジ220のノズル部211bとの接続のためのコネクタ305、306をそれらの末端に有している。第3のチューブ303は、カテーテル等との接続のためのコネクタ307をその先端に有している。
【0032】
第1のチューブ301および第2のチューブ302にそれぞれ連結されたコネクタ305、306のうち少なくとも一つは、一方弁を備えていてもよい。一方弁は、流体の背圧によって作動して流路を閉鎖する弁体を有しており、延長チューブ300の先端側から末端側、すなわちカテーテル等が接続される側からシリンジ220が接続される側への流体の逆流を防止する働きをする。さらに、その一方弁の少なくとも一つは、所定の操作により任意に弁体を流路の開放位置に保持することのできるリリース機能を有していてもよい。一方弁がリリース機能を有することによって、通常は血液がシリンジ220側へ逆流することを防止できるが、カテーテル等の先端が正常に被験者の血管内に位置しているかどうかの確認のために血液を吸引する、いわゆるルートチェック等が可能となる。
【0033】
このような延長チューブ300を2組のシリンジアセンブリ200に接続した状態で、被験者の血管内に挿入されたカテーテル等の体内回路部の末端を第3のチューブ303と接続することにより、被験者へ薬液を注入できる状態となる。シリンジ220に充填される薬液としては、例えば、第1のチューブ301と接続されるシリンジ220に充填されるのが造影剤、第2のチューブ302と接続されるシリンジ220に充填されるのが生理食塩水とすることができる。あるいは、第1のチューブ301および第2のチューブ302にそれぞれ濃度の異なる造影剤が充填されたシリンジ220が接続されてもよい。
【0034】
医用画像の撮像に利用される造影剤は比較的粘度が高く、特にアンギオ装置での画像の撮像に用いる造影剤は他の種類の造影剤と比べて粘度が高い傾向がある。しかも、一般的にカテーテルは内径が2mm未満と極めて細い。よって、薬液として造影剤がシリンジ220に充填され、その造影剤を注入するためにピストン222を前進させると、シリンダ221には非常に高い内圧が発生する。この高い内圧は、シリンダ221を膨張させ、造影剤の注入に種々の不具合を生じさせることがある。
【0035】
保護カバー270は、薬液注入時のシリンダ221の内圧上昇による膨張や破損を抑制するものであり、シリンダ221が挿入されたとき、その外周面との間ですき間が殆ど生じないような寸法とされた円筒状の部材である。保護カバー270がこの役割を果たすために、保護カバー270は、薬液の注入中にシリンダ221に作用する内圧に十分に耐え得る機械的強度を有する肉厚で形成されることが好ましい。
【0036】
保護カバー270の先端には、シリンジ220のノズル部221bが通過する開口部が形成されており、シリンジ220は、この開口部からノズル部221bを突出させた状態で保持される。保護カバー270の末端には、シリンダ221のフランジ221aを受け入れるリング状の凹部が末端面に形成されたカバーフランジ271が形成されている。
【0037】
注入ヘッド110には、装着された2組のシリンジアセンブリ200のピストン222を前進および後退させるために互いに独立して駆動される第1および第2のピストン駆動機構130a、130b(
図1参照)が、各シリンジアセンブリ200が装着される位置に対応して配置されている。各ピストン駆動機構130a、130bはそれぞれ、ピストン222の末端に形成された凸部を保持するプレッサ131と、プレッサ131を前進および後退移動させるモータ等の駆動源と、これらを連結する動力伝達機構とを有する。
【0038】
注入ヘッド110に装着されたシリンジアセンブリ200は、ピストン駆動機構130a、130bによってピストン222が前進させられることによって、シリンジ220内に充填されている薬液を、別々に、または同時に被験者に注入することができる。ピストン駆動機構130については、この種の注入装置に一般に用いられている公知の機構を採用することができる。
【0039】
注入ヘッド110の先端部には、シリンジアセンブリ200が載せられるシリンジ載置部を構成するシリンジ受け120およびクランパ140が備えられている。シリンジ受け120は、クランパ140よりも先端側に位置しており、各シリンジアセンブリ200の外周面を個々に受け入れるように2つの凹部121を有している。クランパ140は、シリンジ受け120に対して開閉可能に支持されており、各シリンジアセンブリ200の保護カバー270のカバーフランジ271を個別に保持するように構成されている。各シリンジアセンブリ200は、ノズル部221bを先端側に向けた状態で凹部121内に位置され、クランパ140を閉じることによって、シリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に固定される。
【0040】
なお、本発明において保護カバー270は必須の構成ではなく、シリンジ220が直接、注入ヘッド110に装着されるようなものであってもよい。すなわち本発明は、シリンジ220が注入ヘッド110に直接装着されるもの、および他の部材を介して間接的に装着されるものの両方を含む。
【0041】
注入ヘッド110は、シリンジ受け120およびクランパ140を有する部分を除いて全体の機構を覆う外装カバー125を有することができる。この場合、外装カバー125は、各プレッサ131に対応する位置に、対応するプレッサ131を区別するための標識125aを有することができる。標識125aは、文字や記号など任意であってよく、本形態では、「A」および「B」の文字を用いている。この標識は、後述する注入条件設定用画面400(
図5参照)においてシリンジ220(薬液)を区別するのにも用いることができる。以下の説明では、この標識125aに対応して、それぞれシリンジ受け120に装着されたシリンジ220に充填されている薬液を、「薬液A」および「薬液B」と称することもある。
【0042】
再び
図2を参照すると、薬液注入装置100は、ハンドスイッチ118および/またはフットスイッチ119をオプションとしてさらに有していてもよい。ハンドスイッチ118は操作ボタンを有しており、この操作ボタンが押されている間だけ注入ヘッド110による薬液の注入動作が行われるように、注入動作の開始および停止を制御するのに用いることができる。フットスイッチ119は、例えばテスト注入を行う場合に、フットスイッチ119が踏まれている間だけ注入ヘッド110による薬液の注入動作が行われるように、注入動作の開始および停止を制御するのに用いることができる。
【0043】
「テスト注入」とは、造影効果の個人差を把握するため、かつ/または注入回路の先端位置を確認するためなどに、医用画像の取得のための撮像に先立って必要に応じて実行される薬液の注入である。医用画像の取得のための薬液の注入は、このテスト注入との区別のために「本注入」と呼ぶことがある。テスト注入では、通常、本注入よりも少ない量の薬液が注入される。また、テスト注入での薬液の注入速度は、通常、予め設定されているか、または本注入での薬液の注入速度と同じに設定される。このテスト注入は、ハンドスイッチ118の操作によって行うこともできる。この場合、薬液の注入プロトコルの設定が完了して注入準備が整った段階(スタンバイ状態)でハンドスイッチ118が操作されれば本注入が実行されるが、それ以前の段階でハンドスイッチ118が操作されればテスト注入が実行されるようにすることができる。
【0044】
次に、上述した透視撮像システムを用いた薬液の注入手順の一例を説明する。
【0045】
まず、操作者によって薬液注入装置100の電源が投入される。その後、被験者に注すべき薬液が充填されたシリンジアセンブリ200を注入ヘッド110に装着する。または、薬液が充填されていない空のシリンジアセンブリ200を注入ヘッド110に装着した後、そのノズル部221bに適宜のチューブを介して薬液容器(不図示)を接続し、その状態でピストン駆動機構によりピストン222を後退させてシリンジアセンブリ200に薬液を充填することで、薬液が充填されたシリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に装着された状態としてもよい。シリンジアセンブリ200の一部を構成するシリンジ220について、本明細書では、前者のように製造業者にて薬液が充填されたものをプレフィルドタイプといい、後者のように医療現場にて薬液が充填されるものを後充填タイプともいう。
【0046】
注入ヘッド110へのシリンジアセンブリ200の装着は、例えば、次に示す手順で行うことができる。まず、クランパ140を開放位置にした状態で、操作者は、シリンジアセンブリ200をシリンジ受け120の凹部121上に載せる。このとき、後端位置にあるピストン222の凸部がプレッサ131に保持されるようにする。シリンジアセンブリ200が凹部121上に載せられたら、操作者はクランパ140を閉じ、これによってシリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に保持される。
【0047】
注入ヘッド110は、クランパ140を閉止位置において開放可能にロックするロック機構(不図示)を有することが好ましい。ロック機構は、閉止位置でクランパ140をロックおよび開放することが可能であれば任意の機構であってよい。ロック機構を有することにより、注入ヘッド110に装着したシリンジアセンブリ200が注入ヘッド110から外れることを防止できる。
【0048】
ここで、注入ヘッド110は、シリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に装着されたことを検出する少なくとも1つの検出器を備えることが好ましい。注入ヘッド110にシリンジアセンブリ200が装着されたことは、例えば、シリンジアセンブリ200がシリンジ受け凹部121上に載せられたことを検出する第1の検出器、およびクランパ140が閉止位置にあることを検出する第2の検出器によって検出することができる。第1の検出器は、例えば、シリンジ受け凹部121に配置され、シリンジ受け凹部121内でのシリンジアセンブリ200を検出することができる検出器を用いることができる。第2の検出器は、例えば、注入ヘッド110に内蔵され、クランパ140が閉止位置にあるときにクランパ140の先端部を検出することができる検出器を用いることができる。
【0049】
これらの検出器はいずれも、シリンジアセンブリ200やクランパ140といった被検出物と検出器との距離が所定の距離以下になったとき(接触も含む)に被検出物を検出することができる検出器であってよく、具体的には、検出領域内での物体の有無を光学的に検出する光学センサや、磁気を検出媒体として物体の有無や位置を検出する近接センサや、被検出物の接触/非接触によってオン/オフが切り替わる機械的スイッチなどを用いることができる。機械的スイッチとしては、被検出物の接触/非接触によってオン/オフが切り替わるものであれば、例えばタクトスイッチおよびリミットスイッチなどを含む任意のスイッチが利用可能である。なお、注入ヘッド110は、シリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に装着されたことを検出するために、第1の検出器および第2の検出器の両方を備えている必要はなく、いずれか一方のみであってもよい。
【0050】
このように、シリンジアセンブリ200が注入ヘッド110に装着されたことを検出できるようにすることで、例えば、注入制御ユニット101は、シリンジアセンブリ200の装着が完了したことを表す情報を表示ユニット104に表示させて操作者に視覚的に知らせたり、さらには、薬液注入装置100の動作を次のステップへ移行したりすることができる。
【0051】
このとき表示ユニット104に表示される情報は、文字によるメッセージでもよいし、記号により表される情報であってもよい。また、表示ユニット104とは別に発光ランプ(不図示)を設け、注入制御ユニット101がこの発光ランプを点灯させることによって、シリンジアセンブリ200の装着が完了したことを操作者に視覚的に知らせることもできる。この場合、発光ランプは注入ヘッド110に設けることができる。注入ヘッド110に設けられる発光ランプの位置は任意であって良いが、シリンジアセンブリ200を装着する際に操作者が最後に操作する部位の近傍、例えばクランパ140の近傍とすることが好ましい。特に、
図3に示した形態のように、2つのピストン駆動機構130a、130bを特定できるようにするための標識125a(具体的には、「A」および「B」の文字)を注入ヘッド110が有する場合、これら標識の部分がそれぞれ発光部として発光するように2つの発光ランプを配置することが好ましい。発光ランプの点灯によって視認される色は任意であってよく、また、例えば青色と緑色など、対応する薬液ごとに異なる色であってもよい。注入ヘッド110は、前述したスタンバイ状態で発光するさらに別の発光ランプの点灯により発光する発光部126を有することもできる。
図3に示した形態では互いに離れた位置に配置された複数の発光部126を有しているが、こうすることにより、何れの方向からでもスタンバイ状態であることを視認することができる。
【0052】
以上のようにして注入ヘッド110へのシリンジアセンブリ200の装着が完了したら、注入制御ユニット101は、薬液の注入のための動作を実行する。この動作は、例えば、次に示す一連のステップを含むことができる。
(1)データ入力の受け付けおよび注入条件の設定
(2)設定された注入条件に従った注入動作の実行
(3)注入動作終了処理
以下に、これらの処理を順番に説明する。
【0053】
(1)データ入力の受け付けおよび注入条件の設定
このステップでは、注入制御ユニット101は、表示ユニット104に注入条件設定用の画面を表示させるとともに、入力ユニット103に対して注入条件設定のための入力を受け付ける。表示ユニット104および入力ユニット103でタッチパネルを構成する場合、注入制御ユニット101は、タッチパネルに、データの入力を受け付けるアイコンを含む注入条件設定用画面400を表示させることができる。
【0054】
図5に、注入条件設定用画面400の一例を示す。
図5に示すのは、注入制御ユニット101に設定されている1つまたは複数の注入モードのうちの1つである二段注入モードでの注入条件設定用画面400であり、注入モードアイコン401、確認アイコン403、速度設定アイコン404a、404b、注入量設定アイコン405a、405b、薬液混合割合設定アイコン407a、407b、シリンジ情報アイコン408a、408bおよび注入圧力リミット値設定アイコン409等を含むことができる。
【0055】
シリンジ情報アイコン408a、408bは、注入ヘッド110(
図3参照)に装着されている薬液A用および薬液B用のそれぞれのシリンジ220についての情報がグラフィック表示される。シリンジ情報アイコン408a、408bに表示される情報としては、装着されているシリンジ220に充填されている薬液の量を含むことができる。また、薬液の注入動作中は、この注入条件設定用画面400内、または他の画面において、任意のアニメーション表示によって、薬液の注入動作を操作者が視覚的に認識できるようにすることもできる。
【0056】
注入モードアイコン401は、注入制御ユニット101に設定されている1つまたは複数の注入モードのうち、どの注入モードで注入動作を実行するかを表すアイコンである。注入モードとしては、例えば、薬液Aのみで注入を行う「通常注入モード」、薬液Aの注入終了後、薬液Bの注入を行う「フラッシュモード」、薬液Aのみを複数のフェーズで注入する「マルチモード」、薬液Aおよび薬液Bを任意の混合割合で、かつ、第1フェーズの後に第2フェーズを実行する「二段注入モード」などが挙げられる。
図5は、「二段注入モード」が選択されている状態を示している。注入モードアイコン401を操作者がタップすると、注入制御ユニット101は注入モードアイコン401の表示を切り換え、これによって注入モードの切り換えを行うことができる。
【0057】
図5では、「二段注入モード」が選択された注入モードアイコン401の表示が「二段希釈」とされているが、「二段注入モード」であることをユーザが明確に認識できる表示であれば、これに限定されるものではない。
【0058】
また、注入制御ユニット101に設定される注入モードは、予め設定されているものであってもよいし、プログラムの実装などにより後から追加で設定されたものであってもよい。
【0059】
確認アイコン403は、この注入条件設定用画面400に表示された注入条件を操作者が承認する場合に操作され、この確認アイコン403がタップされると、注入制御ユニット101は、薬液注入装置100をスタンバイ状態とし、薬液注入手順の次のステップへの移行が可能となる。
【0060】
注入圧力リミット値設定アイコン409は、第1フェーズおよび第2フェーズにおける薬液の注入圧力リミット値の設定および入力に用いられるアイコンである。本形態では、表示された複数の値の中から1つを操作者がタップすることによって選択すると、選択された注入圧力リミット値が注入制御ユニット101に設定されるように構成されている。注入圧力リミット値が設定されると、注入制御ユニット101は、設定された注入圧力リミット値を超えないようにピストン駆動機構130a、130bの動作を制御する。注入圧力の検出については後述する。
【0061】
速度設定アイコン404a、404bおよび注入量設定アイコン405a、405bは、第1フェーズおよび第2フェーズのそれぞれについて薬液Aおよび薬液Bの注入速度および注入量の設定および入力に用いられる。
図5に示す注入条件設定用画面400では、上段の速度設定アイコン404aおよび注入量設定アイコン405aが、第1フェーズ用のアイコンであり、下段の速度設定アイコン404bおよび注入量設定アイコン405bが、第2フェーズ用のアイコンである。
【0062】
注入速度の設定および注入量の設定は、以下のようにして行うことができる。例えば、注入速度を設定する場合、操作者が速度設定アイコン404a、403bをタップすると、注入制御ユニット101は、注入条件設定用画面400上に、注入速度入力用のテンキーアイコン(不図示)をオーバーラップ表示させる。操作者がこのテンキー画面を通じて数値を入力し、確定することによって、注入速度を設定することができる。注入量についても、注入速度の設定と同様のやり方で設定することができる。上記のテンキーアイコンとしては、例えば、後述する比率設定画面430のテンキーアイコン431(
図6参照)と同様のものであってよい。また、「二段注入モード」においては、速度設定アイコン404a、404bおよび注入量設定アイコン405a、405bで設定されるのは、薬液Aと薬液Bの合計の注入速度および注入量である。なお、速度設定アイコン404a、404bおよび注入量設定アイコン405a、405bはそれぞれ、薬液Aおよび薬液Bの合計の注入速度および注入量の他に、薬液混合割合設定アイコン407a、407bで設定された混合割合に従った薬液Aの注入速度および注入量薬液Bの注入速度および注入速度を表示することもできる。
【0063】
薬液混合割合設定アイコン407a、407bは、第1フェーズおよび第2フェーズのそれぞれにおいて注入される薬液の、薬液Aと薬液Bとの混合割合の設定および入力に用いられるアイコンである。薬液の混合割合には幾つかの表し方があるが、本形態では、薬液Aと薬液Bの合計の量に対する薬液Aの量、すなわち、薬液Aの量/(薬液Aの量+薬液Bの量)で計算される混合比率で表している。このことは、例えば、薬液Aが造影剤、薬液Bが生理食塩水である場合、全体の量に対して造影剤がどれくらいの割合で含まれているかを意味する。混合比率は、例えば、デフォルト値として50%に設定されていてもよい。本形態の薬液混合割合設定アイコン407a、407bでは、混合比率0%~100%の範囲で設定が可能である。混合比率0%の場合は薬液Aのみが注入され、混合比率100%の場合は薬液Bのみが注入される。また、
図5に示す注入条件設定用画面400では、上段の薬液混合割合設定アイコン407aが第1フェーズ用のアイコンであり、下段の薬液混合割合設定アイコン407bが第2フェーズ用のアイコンである。
【0064】
上記では、薬液Aが造影剤、薬液Bが生理食塩水である場合について述べたが、薬液Aが生理食塩水、薬液Bが造影剤であってもよい。この場合、混合比率は、全体の量に対して生理食塩水がどれくらいの割合で含まれているかを意味する。
【0065】
混合比率の設定は、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0066】
操作者が薬液混合割合設定アイコン407a、407bをタップすると、注入制御ユニット101は、注入条件設定用画面400上に、
図6に示すような、混合割合入力画面の一形態である混合比率入力画面430をポップアップ表示させるか、または注入条件設定用画面400から混合比率入力画面430に表示を切り替える。混合比率入力画面430は、テンキーアイコン431および比率設定バー432を有することができる。テンキーアイコン431では、薬液Aおよび薬液Bの合計の量に対する薬液Aの量の比率を数値で設定することができる。操作者がテンキーアイコン431を操作して数値を入力すると、注入制御ユニット101は、入力された数値を混合比率として確定する。
【0067】
一方、比率設定バー432は、比率表示部432aとスライダアイコン432bとを有することができる。比率表示部432aは、薬液Aと薬液Bとの比率を帯グラフで示すものであり、スライダアイコン432bは、操作者がタッチしたまま比率表示部432aに沿って移動させることができるように表示位置が制御される。操作者によってスライダアイコン432bの位置が移動されると、注入制御ユニット101は、混合比率をスライダアイコン432bの位置に応じた比率に設定する。混合比率を視覚的に認識しやすくするために、比率表示部432aは、スライダアイコン432bの位置を境に薬液A側と薬液B側とが互いに異なる色で色分け表示されるようにしてもよい。
【0068】
混合比率は、これらテンキーアイコン431および比率バー432の何れからでも設定することができる。また、混合比率入力画面430は、テンキーアイコン431および比率バー432の何れか一方のみを有していてもよい。さらに、混合比率の入力は上記の方法に限定されるものではなく、任意の方法を用いることができる。
【0069】
混合比率が設定されると、注入制御ユニット101は、混合比率入力画面430の表示形態に応じて、注入条件設定用画面400から混合比率入力画面430のポップアップ表示を消すか、注入条件設定用画面400に表示を切り替え、注入条件設定用画面400の混合比率アイコン407a、407bに、設定された混合比率を表示させる。また、速度設定アイコン404a、404bおよび注入量設定アイコン405a、405bが、薬液Aおよび薬液Bのそれぞれの注入速度および注入量の表示を含む場合は、これらの表示も、設定された混合比率に従った注入速度および注入量の値に変更される。
【0070】
注入条件設定用画面400は、注入パターン表示部410を有することができる。注入パターン表示部410には、第1フェーズおよび第2フェーズにおいて設定された薬液Aと薬液Bとの混合割合に従って注入される薬液の注入パターンが表示される。注入パターン表示部410への注入パターンの表示形態は任意であり、
図5に示す例では、矢印の上段が第1フェーズでの注入、下段が第2フェーズでの注入を表しており、各フェーズでの「A+B」は、薬液Aと薬液Bを同時に注入することを意味する。
【0071】
二段注入モードにおいて設定できる注入パターンの例を以下に示す。
(a)「A+B→A+B」
第1フェーズ、第2フェーズともに、薬液Aと薬液Bとの混合割合が0以外に設定さているときの注入パターン
(b)「A→A+B」
第1フェーズでは薬液Bの混合割合が0に設定され、かつ、第2フェーズでは薬液Aと薬液Bの混合割合が0以外に設定されているときの注入パターン
(c)「A+B→A」
第1フェーズでは薬液Aと薬液Bとの混合割合が0以外に設定され、かつ、第2フェーズでは薬液Bの混合割合が0に設定されているときの注入パターン
(d)「A+B→B」
第1フェーズでは薬液Aと薬液Bとの混合割合が0以外に設定され、かつ、第2フェーズでは薬液Aの混合割合が0に設定されているときの注入パターン
(e)「B→A(またはA+B)」
第1フェーズでは薬液Aの混合割合が0に設定され、かつ、第2フェーズでは薬液Aの混合割合が0以外に設定されているときの注入パターン。
【0072】
上述したような注入パターンは、撮像部位や撮像目的などに応じて適宜使い分けることができる。以下、薬液Aが造影剤で薬液Bが生理食塩水である場合の、注入パターンのいくつかについて有効性を述べる。
【0073】
例えば、注入パターン(b)「A→A+B」では、第1フェーズにおいては希釈されない造影剤が注入され、その後の第2フェーズでは、生理食塩水で希釈された濃度の低い造影剤が注入される。その結果、造影剤が注入された血管は、第2フェーズで注入された部分と比べて第1フェーズで注入された部分の方が高い造影効果が得られる。このような注入パターンは、例えば肝動脈造影のように、先端側は血管が細くて描出されにくい場合の血管画像の撮像に適している。第1フェーズで注入される造影剤の濃度よりも第2フェーズで注入される造影剤の濃度を低くすることで、描出されにくい先端側には高濃度の造影剤が存在し、かつ、アーチファクトが大きくなりやすい根元側には低濃度の造影剤が存在するので、結果的に、根元側から先端側まで良好な血管画像を描出することができる。
【0074】
また、注入パターン(c)「A+B→A」では、第1フェーズにおいては生理食塩水で希釈された造影剤が注入され、第2フェーズでは希釈されない造影剤が注入される。その結果、造影剤が注入された血管は、第1フェーズで注入された部分と比べて第2フェーズで注入された部分の方が高い造影効果が得られる。このような注入パターンは、例えば脳動脈奇形の検査において奇形の部位を知るために動脈と静脈とを区別して撮像したい場合の血管画像の撮像に適している。第1フェーズで注入される造影剤の濃度を第2フェーズで注入される造影剤の濃度よりも低くすることで、第1フェーズで注入された大部分の造影剤が静脈に到達したとき、第2フェーズで注入された造影剤の大部分は静脈内に存在することになり、結果的に、動脈と静脈との造影剤の濃度の違いにより生じる血管画像のコントラストの違いで動脈と静脈を区別することが可能となる。
【0075】
注入パターン(e)「B→A(またはA+B)」では、第1フェーズにおいては生理食塩水が注入され、第2フェーズにおいては、希釈されないまたは希釈された造影剤が注入される。注入パターン(e)において第1フェーズで注入される薬液Bの注入量は、少なくとも体外回路部および体内回路部が薬液Bで満たされる量、例えば、3~6mlであることが好ましい。これにより、注入回路より下流側の血管の部分が生理食塩水で満たされた状態で造影剤が注入される。注入パターン(e)では、例えば以下に述べる効果が得られる。
【0076】
(i)生理食塩水は、造影剤および血液より粘稠度が低いため、生理食塩水で満たされている血管の部分に注入された造影剤は、血液で満たされている血管の部分に注入された場合と比べて、血管に拡散および浸透しやすい。その結果、造影剤を注入する前に生理食塩水を注入することによって、造影度向上効果が期待できる。
【0077】
(ii)造影剤を注入する前に生理食塩水を注入することによって、造影剤より下流側の注入回路および血管の部分が生理食塩水でフラッシュされる。これにより、前回の注入によって注入回路内に造影剤が残っていたとしても、注入回路内に残っていた造影剤の影響を受けることなく、所望の混合割合の造影剤を注入することができる。この場合、造影剤が注入される前に生理食塩水が注入されるので、注入を開始してから造影剤が所望の領域へ到達する時間に遅延が生じる。しかし、生理食塩水の注入量に応じて遅延時間を設定し、設定した遅延時間の経過後に撮像動作を実行するようにすることで、到達時間のずれを相殺することができる。
【0078】
(iii)生理食塩水で希釈された造影剤を注入する場合、生理食塩水と造影剤との比が極端に異なると、混合の初期の段階では両者が十分に混合されない可能性がある。そこで、希釈された造影剤を注入する前に生理食塩水を注入する。こうすることで、造影剤を生理食塩水と十分に混合させた状態で体内へ注入させることが可能となる。
【0079】
(iv)医用画像の生成では、サブトラクション処理を行う場合がある。サブトラクション処理とは、造影剤を注入する前に撮像して得られたプレーン画像データと、造影剤を注入した後に撮像して得られたコントラスト画像データとの差分処理によって、血管像のみが抽出された血管画像データを得るものである。この際、プレーン画像データとコントラスト画像データとの間で血管の位置にずれが生じていると、正確な血管画像データが得られない。血管の位置ずれは、その内部での液体(血液、造影剤、生理食塩水など)の流動状態の影響を受けると考えられる。そこで、第1フェーズにおいて注入された生理食塩水が血管内を流れている間にプレーン画像データを得るための撮像を行い、第2フェーズにおいて注入された造影剤が血管内を流れている間にコントラスト画像データを得るための撮像を行うようにする。こうすることにより、どちらも血管内を液体が流れているほぼ共通の条件でプレーン画像データおよびコントラスト画像データを得ることができる。結果的に、これら2つの画像データの間での血管の位置ずれが抑制され、より良好な血管画像データを得ることができる。このように、注入パターン(e)は、サブトラクション処理においても有効であると考えられる。
【0080】
以上、主な注入パターンの例を挙げたが、注入パターンは上述したものに限られるものではなく、必要に応じて様々な注入パターンを設定できるようにしてもよい。
【0081】
操作者は、注入条件設定用画面400の表示に従って、必要に応じてデータの入力操作を行う。注入条件設定用のすべてのデータの入力が終了し、操作者が確認アイコン403をタップすると、その表示が「スタートOK」に切り換えられ、薬液注入装置100は、薬液の注入が可能なスタンバイ状態となる。
【0082】
以上のように、第1フェーズおよび第2フェーズのそれぞれについて薬液の混合割合を設定できるようにすることで、撮像の部位および目的等に応じた様々な注入パターンを設定することができる。しかも、各種の注入パターンは、注入モードを変更することなく二段注入モードだけで設定できるので、データの入力を含む設定操作は極めて簡便である。
【0083】
(2)設定された注入条件に従った注入動作の実行
前述したように、確認アイコン403のタップにより表示が「スタートOK」に切り換えられた後、ハンドスイッチ118が操作され、これによって注入制御ユニット101はピストン駆動機構130a、130bを動作させ、薬液の注入動作が開始される。ハンドスイッチ118は、モーメンタリ動作型のスイッチであってよく、この場合、ハンドスイッチ118のボタンが押されている間だけピストン駆動機構130a、130bが動作する。薬液の注入動作は、連動されている透視撮像装置500からの指令によって開始させることもできる。例えば、操作者による透視撮像装置500の操作などによって透視撮像装置500から撮像動作開始信号が送信され、その撮像動作開始信号を注入制御ユニット101が受信すると、それをトリガーとして注入動作が実行されるようにすることができる。
【0084】
薬液の注入動作は、設定された注入条件(注入速度、注入量および注入時間など)で薬液が注入されるように、注入制御ユニット101がピストン駆動機構130a、130bの動作を制御することで行われる。また、薬液Aと薬液Bとの混合割合が0以外である場合は、設定された混合割合で薬液Aおよび薬液Bが同時に注入されるように、両方のピストン駆動機構130a、130bが同時に動作される。
【0085】
一方、透視撮像装置500は、薬液注入装置100による薬液注入動作に対応して撮像動作を開始する。透視撮像装置500による撮像動作は、操作者による透視撮像装置500の操作をトリガーとして実行されてもよいし、薬液注入装置100による注入動作に連動して自動的に実行されてもよい。注入動作と撮像動作を連動させる場合は、注入動作を開始した後、注入された薬液が目的の部位へ到達するのに要する所定時間経過後に撮像動作が開始されるように、例えば、注入動作の開始と同時に薬液注入装置100の注入制御ユニット101が注入開始信号を透視撮像装置500の撮像制御ユニット510に送信し、注入開始信号を受信した撮像制御ユニット510が上記所定時間経過後に撮像動作ユニット520を制御して撮像動作を開始させたり、注入動作を開始してから上記所定時間経過後に注入制御ユニット101が注入開始信号を撮像制御ユニット510に送信し、撮像制御ユニット510が、注入開始信号の受信後、直ちに撮像動作ユニット520を制御して撮像動作を開始させたりすることができる。
【0086】
撮像制御ユニット510は、撮像動作ユニット520の撮像動作により得られたデータを再構成して医用画像を取得し、取得した医用画像をリアルタイムで表示ユニット504に表示させることができる。また、薬液の注入速度、注入量、注入時間、注入圧力等の注入条件のデータが注入制御ユニット101から撮像制御ユニット510へ送信されるようにすれば、撮像制御ユニット510は、表示ユニット503に注入条件の一部または全部を、医用画像や撮像条件などと一緒にまたは別個にリアルタイムに表示させることもできる。
【0087】
注入条件の一部または全部をリアルタイムに表示させることで、例えば、肝臓の検査および治療において部位を変えながら画像の撮像と薬液の注入を複数回繰り返すような場合に、その撮像段階までの累積の注入量およびX線照射量などを表示させることができる。そのことにより、累積のX線照射量が基準値を超えていないかどうか、および肝機能が悪い被験者に対して造影剤の注入量が基準値を超えていないかどうかをその場で判断し、X線照射量および/または注入量が基準値を超えそうな場合に、X線照射量や造影剤の注入量を必要に応じて調整することが可能となる。
【0088】
(3)注入動作終了処理
注入動作の終了後、注入制御ユニット101は、注入動作終了処理の一つとして、注入結果を表示ユニット104に表示させることができる。表示される結果の一例としては、注入終了日時、注入モード、設定された撮像部位、注入速度、注入量、混合比率、注入に要した時間、注入時の最大圧力などが挙げられ、表示されるのは、これらの項目のうち少なくとも1つであってよい。また、注入制御ユニット101は、注入動作終了処理の一つとして、これらの注入結果を、薬液注入装置100の内部または外部の適宜メモリ装置に記録したり、透視撮像装置500へ送信したりすることができる。
【0089】
注入動作終了処理が終了すると、操作者による所定の操作により、注入制御ユニット101は、再び、注入条件設定用画面400を表示ユニット104に表示させることができる。次の検査または治療のために、異なる条件または同じ条件で再度薬液の注入を繰り返し行う場合は、この注入条件設定用画面400で注入条件を設定し、設定した注入条件で薬液を注入することができる。なお、薬液の注入を繰り返し行う場合、繰り返し行う各注入における注入条件を予め設定できるようにしておくこともできる。各注入における注入条件が予め設定されている場合は、注入の終了の都度、注入条件設定用画面400を表示させることなく、次の注入動作を開始することも可能である。
【0090】
以上、本発明について代表的な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上述した形態に限定されるものではない。
【0091】
(混合割合の別の表現)
上述した形態では、薬液の混合割合を混合比率で表した例を示した。しかし、混合割合を希釈倍率で表すこともできる。この場合も、前述した混合比率における考え方と同様、希釈倍率は、薬液Aの量に対する薬液Aと薬液Bの合計の量、すなわち、(薬液Aの量+薬液Bの量)/薬液Aの量で計算される。例えば、薬液A:薬液B=1:1である場合、前述した混合比率で表すと50%であるが、上記希釈倍率で表すと2倍である。これらは同じ混合割合を異なる表現方法で表したものである。
【0092】
混合割合を希釈倍率で表す場合、注入条件設定用画面等も必要に応じて変更される。例えば、注入条件設定用画面中に表示される薬液混合割合設定アイコン407は、
図7Aに示すように、現在設定されている希釈倍率が表示される。また、混合割合を変更する際に操作者が薬液混合割合設定アイコン407a、407bをタップすると、注入制御ユニット101は、例えば
図7Bに示すような、混合割合入力画面の他の形態である希釈倍率入力画面440を注入条件設定用画面上にポップアップ表示させる。
【0093】
希釈倍率入力画面440は、
図6に示した混合比率入力画面430と同様、テンキーアイコン441および倍率設定バー442の少なくとも一方を有することができる。テンキーアイコン441では、薬液Aの量に対する薬液Aおよび薬液Bの合計の量で表される希釈倍率を数値で設定することができる。操作者がテンキーアイコン441を操作して数値を入力すると、注入制御ユニット101は、入力された数値を希釈倍率として確定する。
【0094】
一方、倍率設定バー442は、倍率表示部442aと、スライダアイコン442bとを有することができる。倍率表示部442aは、一例として、設定される倍率を対数グラフ形式で示すことができる。倍率表示部442aを対数グラフ表示とすることで、操作者が薬液Aと薬液Bの比率を直感的に把握することができる。スライダアイコン442bは、操作者がタッチしたまま倍率表示部442aに沿って移動させることができるように表示位置が制御される。操作者によってスライダアイコン442bの位置が移動されると、注入制御ユニット101は、希釈倍率をスライダアイコン442bの位置に応じた倍率に設定する。また、混合比率入力画面430と同様、スライダアイコン442bの位置を境に薬液A側と薬液B側とが互いに異なる色で色分け表示されてもよい。
【0095】
(混合割合設定画面の他の形態)
図7Cに、混合割合入力画面のさらに他の形態を示す。
図7Cに示す混合割合入力画面450は、薬液Aおよび薬液Bのそれぞれについて、注入速度/注入量表示451a、451b、混合割合表示452a、452b、割合調整用アイコン453a、453bを有する。割合調整用アイコン453a、453bは、薬液の混合割合を変更するのに用いられ、それぞれタップするたびにタップした側の薬液の混合割合表示452a、452bが1%ずつ増加し、もう一方の混合割合表示452a、452bが1%ずつ減少するようにすることができる。また、混合割合を大きく変更する場合のために、スライドバーアイコン454を有することもできる。スライドバーアイコン454は、例えば、薬液Aと薬液Bとの混合比率を帯グラフ上に表した比率表示部と、その上に表示されたスライダアイコンとを有することができる。操作者がスライダアイコンをタッチしたまま薬液A側または薬液B側に移動させることで、薬液Aおよび薬液Bの混合割合の表示を例えば10%単位で変更することができる。このようにして混合割合の入力が完了したら、操作者がエンターアイコン455をタップすると、入力された混合割が注入制御ユニット101に設定される。
【0096】
(容器および駆動機構)
上述した形態では、薬液が充填される容器がシリンジである場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明においては、容器はシリンジに限定されるものではなく、薬液ボトルや薬液バッグなどであってもよい。その場合、容器から薬液を流出させる駆動機構としては、チューブポンプ式の駆動機構など、容器の形態に応じた駆動機構を用いることができる。
【0097】
(多段注入フェーズ)
上述した形態では、注入モードとして第1注入フェーズと第2注入フェーズとを有する二段注入を例に挙げて説明した。しかし、注入モードは、一連の注入動作を3つ以上の注入フェーズで実行する多段注入モードであってもよい。この場合、注入制御ユニット101は、速度設定アイコン、注入量設定アイコンおよび薬液混合割合設定アイコンなど、注入フェーズごとに設定されるアイコンを同一の注入条件設定用画面に表示させ、各注入フェーズでの注入条件を同一の注入条件設定用画面で設定できるようにすることが好ましい。
【0098】
(パージ動作)
薬液の注入に先だってパージ動作を行うことができる。パージ動作は、シリンジアセンブリ200に注入回路の体外回路部(例えば延長チューブ)が連結された後であって、かつ、薬液の注入動作が開始される前に行われ、パージ動作では、シリンジ220内の薬液によって体外回路部内のエアおよび薬液を含む流体が注入回路から放出される。体外回路部内の流体を注入回路から放出するため、パージ動作は、体外回路部の先端が体内回路部の末端と連結されていない状態、または、体外回路部と体内回路部との間に三方活栓を介在させ、この三方活栓の残りのポートに接続された側管から薬液が放出されるように三方活栓を切り替えた状態で実行される。また、パージ動作は、基本的には体外回路部が薬液で満たされていない場合に体外回路部内を薬液で満たすために行うものであり、延長チューブ300が薬液で満たされている場合は行う必要はない。ただし、例えば、1回目の
注入に続いて2回目の注入を、1回目と異なる混合割合で行う場合など、混合割合が変更された場合は、体外回路部が薬液で満たされていたとしてもパージ動作を行うことが好ましい場合もある。
【0099】
パージ動作を行なえるようにするために、例えば、注入ヘッド110にパージボタン123(
図3参照)を有することができる。または、
図5に示した注入条件設定用画面400にパージアイコン(不図示)を表示させることもできる。さらには、これらの両方を有することもできる。操作者がパージボタン123を押下するか、パージアイコンをタップすることによって、注入制御ユニット101はパージ動作を実行する。
【0100】
パージ動作では、薬液Aおよび薬液Bをともに等しい速度および量でシリンジ220から放出させるように、ピストン駆動機構130a、130bの動作を制御するようにすることができる。または、薬液Aと薬液Bとの混合割合が設定されている場合には、設定されている混合割合で薬液Aと薬液Bを各シリンジ220から放出させるようにピストン駆動機構130a、130bの動作を制御することができる。これにより、体外回路部の合流部(例えば、
図4に示す延長チューブ300のT字コネクタ304)より先端側には、既に所望の混合割合で混合された状態で薬液が充填されているので、注入動作が開始されると、直ちに所望の混合割合で混合された薬液が注入される。よって、無駄な薬液の注入、および注入された薬液の混合割合が所望の比率になるまでのタイムラグが最小限に抑えられ、結果的に、より少ない薬液量、かつより短い時間で良好な画像を得ることができる。
【0101】
(ハンドスイッチおよび/またはフットスイッチを用いた混合注入)
図2に示したハンドスイッチ118およびフットスイッチ119は、少量の薬液の注入動作を行う場合に好適に使用される。少量の薬液の注入動作を行う場合としては、例えば、前述したテスト注入を行う場合、および体外回路部(例えば延長チューブ)と体内回路部(例えばカテーテル)とを接続する際に注入回路内に空気が混入しないようにするように注入動作を行う場合が挙げられる。
【0102】
テスト注入を行う場合、その後に行われる本注入との間で薬液の注入による効果(例えば造影効果)を等しくするために、注入量以外の注入条件は、テスト注入と本注入とで等しいことが好ましい。通常、ハンドスイッチ118またはフットスイッチ119によるテスト注入では、混合されない薬液(例えば造影剤)が注入される設定となっている。そこで、この後に行われる本注入条件がすでに設定されている場合は、本注入と等しい、注入速度および混合割合で薬液が注入されるように、注入制御ユニット101が各部の動作を制御するようにすることが好ましい。
【0103】
また、体外回路部と体内回路部との接続の際に注入回路内に空気が混入しないように注入動作を行う場合も、通常、混合されない薬液(例えば造影剤)の注入動作を行う。より詳しくは、操作者は、体外回路部および体内回路部の両者の接続部を持ちながら、フットスイッチ119の操作により薬液の注入動作を行っている状態で、体外回路部と体内回路部とを接続する。その間、体外回路部の先端からは薬液が溢れ出ており、したがって、空気を混入させることなく体外回路と体内回路とを接続することができる。この際、次回の注入における薬液の混合割合がすでに設定されている場合、設定されている混合割合で薬液の注入動作が行われるように、注入制御ユニット101が各部の動作を制御するようにする。
【0104】
これにより、注入回路内に空気が混入しないようにする注入動作時における無駄な薬液の消費を抑制することができる。また、この注入動作によって、少なくとも体外回路部は、次回の注入時の混合割合で混合された薬液で満たされるので、次回の注入時に効率よく所望の混合割合とされた薬液を注入することができる。
【0105】
(ユニット等の配置)
上述した形態では、
図1に示したように、注入制御ユニット101が薬液注入装置100に含まれ、撮像制御ユニット510が透視撮像装置500に含まれるものとして説明した。しかし、注入制御ユニット101および撮像制御ユニット510がともに薬液注入装置100に含まれていてもよいし、注入制御ユニット101および撮像制御ユニット510がともに透視撮像装置500に含まれていてもよい。あるいは、注入制御ユニット101および撮像制御ユニット510がともに、薬液注入装置100および透視撮像装置500とは別の、プログラム可能なコンピュータ装置(不図示)に含まれていてもよい。こうすることにより、薬液注入装置100および透視撮像装置500がそれぞれ個別にコンソールを持つ必要がなくなり、また、各制御ユニットの入力ユニットおよび表示ユニットを共通化することもできる。その結果、システム全体の構成を簡略化することができる。
【0106】
さらには、注入制御ユニット101の特定の機能を残りの他の機能とは別のユニットに組み込むこともできる。例えば、注入条件の決定(演算)機能を撮像制御ユニット510に組み込み、残りの他の機能を注入制御ユニット101に組み込むことができる。この場合は、撮像条件の決定および注入条件の決定に共通するデータ等を、薬液注入装置100および透視撮像装置500に重複して入力する必要がなくなる。注入条件の決定に際して不足するデータは、撮像制御ユニット510から入力できるようにしてもよいし、注入制御ユニット101から撮像制御ユニット510に送信するようにしてもよい。
【0107】
注入制御ユニット101の持つ機能および撮像制御ユニット510の持つ機能は、必要により各種ハードウェアを利用して実現し得るが、その主体はコンピュータプログラムに対応してCPUが機能することにより実現される。
【0108】
そのコンピュータプログラムは、上述した手順の少なくとも一部、例えば、
二段注入モードにおいて、第1注入フェーズおよび第2注入フェーズのそれぞれについて、第1の薬液と第2の薬液との混合割合の入力を受け付けるステップと、
受け付けた混合割合で第1の薬液および第2の薬液が注入されるように第1の薬液および第2の薬液の注入条件を設定するステップと、
設定した注入条件に従って第1駆動機構および第2駆動機構の動作を制御するステップと、
を、薬液注入装置100、透視撮像装置500またはこれら薬液注入装置100および透視撮像装置500を備えた透視撮像システムに実行させるためのコンピュータプログラムとして実装されることができる。
【0109】
また、構造的な点では、
図2に示す注入ヘッド110とコンソール112とを一体に構成することもできる。注入ヘッド110とコンソール112とが一体に構成された場合、コンソール112も検査室に配置されることになる。注入動作の開始および停止には、ハンドスイッチ118を用いることができるので、操作者は、このハンドスイッチ118により、操作室内での注入操作の開始および停止を制御することができる。
【0110】
また、上述した形態では、2つのピストン駆動機構130a、130bが共通の注入ヘッド110に搭載されていた。しかし、薬液注入装置は、それぞれ1つのピストン駆動機構を搭載する2つの注入ヘッドを有し、注入時には、注入制御ユニット101が各注入ヘッドを互いに連動させて複数の薬液を混合するようにすることもできる。
【0111】
(薬液注入装置が備えることができる他の構成)
(i)ロードセル
薬液注入装置100は、注入圧力を検出するロードセルをさらに有することができる。ロードセルは、例えば、プレッサ131(
図3参照)に備えることができる。
図3に示すように複数のプレッサ131を有する場合は、それらの中のいずれか少なくとも1つにロードセルを有していてもよい。注入圧力は、ピストン駆動機構130a、130bの駆動源であるモータの電流を測定することによって検出することもできる。プレッサ131に作用する負荷が大きくなると、その負荷に応じてモータ電流が大きくなる。モータ電流を利用した注入圧力の検出には、そのことが利用される。注入圧力の検出は、ロードセルを用いた検出およびモータ電流を利用した検出のいずれか一方のみであってもよいし、両者を併用してもよい。両者を併用する場合、通常はロードセルによって注入圧力を検出し、ロードセルが故障したときのみモータ電流の測定結果を利用して注入圧力を測定することができる。
【0112】
(ii)RFIDモジュール
図8に示すように、薬液注入装置100は、RFIDモジュール166をさらに有することができる。現在、シリンジや薬液ボトルなど薬液を収容した容器350の中には、収容されている薬液の情報が記録されたデータキャリアであるRFIDタグ352を備えたものがある。RFIDタグ352には通常、収容されている薬液に関する情報が記録されている。RFIDモジュール166は、このRFIDタグ352からデータを読み出すためおよび/またはRFIDタグ352にデータを記録するためのものである。薬液注入装置100がRFIDモジュール166を備えることによって、RFIDタグ352に記録されたデータを、注入制御ユニット101による薬液注入装置100の動作の制御に利用することができる。なお、
図8において、
図1に示した形態と同じ構成については
図1と同じ符号を付し、その説明はここでは省略する。
【0113】
RFIDモジュール166は、RFID制御回路164およびアンテナ165を有しており、RFIDタグ352に記録されたデータをアンテナ165によって読み出し、読み出したデータを注入制御ユニット101に伝送し、かつ/または注入制御ユニット101から伝送されたデータをRFIDタグ352に記録することができるように構成されている。RFID制御回路164は、RFIDモジュール166におけるデータの送受信動作を制御する。すなわち、RFIDモジュール166は、RFIDタグ352からデータを読み出すリーダ、または、さらにRFIDタグにデータを記録するリーダ/ライタとして機能する。
【0114】
また、RFIDモジュール166の少なくともアンテナ165は、注入ヘッド110(
図2参照)に内蔵され、薬液を収容した容器350が注入ヘッド110に適切に装着されることによってRFIDタグ352からデータを自動的に読み出すようにしてもよいし、あるいは、注入ヘッド110とは別の、例えばハンディタイプのユニットとし、操作者がこのユニットとRFIDタグ352とを相対的に接近させることによってRFIDタグ352からデータを読み出すようにしてもよい。
【0115】
RFIDタグ352に記録されるデータとしては、容器350に収容されている薬液に関する各種データ、例えば、製造メーカ、薬液の種類、品番、含有成分(特に、薬液が造影剤の場合はヨード含有濃度など)、収容されている薬液の量、ロット番号、消費期限などが挙げられる。また、容器350がシリンジ220である場合は、そのシリンジ220に関する各種データ、例えば、製造メーカ、品番といった固有識別番号、許容圧力値、シリンジの容量、ピストンストローク、必要な各部の寸法、ロット番号などを含むことができる。これらのデータの少なくとも一部は、透視撮像装置500へ伝送することができる。
【0116】
(iii)音声認識ユニット
薬液注入装置100は、データ入力インターフェースとして音声認識ユニット(不図示)をさらに有することができる。音声認識ユニットは、操作者が発生した音声を取得するマイクロフォンと、マイクロフォンが取得した音声を認識して薬液注入装置100の操作用信号に変換する音声認識装置と、を有することができる。音声認識装置の設置場所は任意であってよいが、マイクロフォンは、操作者の近く、例えば注入ヘッド110あるいはその近傍に設置することが好ましい。
【0117】
薬液注入装置100が音声認識ユニットを有することで、操作者は、注入ヘッド110およびコンソール112に触れることなく、薬液の注入条件を入力したり設定したりすることができる。
【0118】
(延長チューブの他の形態)
延長チューブは、造影剤と生理食塩水が良好に混合されるようにするミキシングデバイスを備えていることが好ましい。ミキシングデバイスを備えた延長チューブの一例を、
図9A、
図9Bおよび
図9Cを参照して説明する。
【0119】
この延長チューブは、造影剤が充填されるシリンジとミキシングデバイス241とを接続する第1のチューブ231aと、生理食塩水が充填されるシリンジとミキシングデバイス241とを接続する第2のチューブ231bと、ミキシングデバイス241の液体出口(詳細下記)に接続され患者側へと延びる第3のチューブ231cとを有している。特に限定されるものではないが、第1および第2のチューブ231a、231bはそれぞれコネクタ239a、239bを介してシリンジの導管部に接続されるようになっていてもよい。同様に、第3のチューブ231cも、コネクタ239cを介してカテーテル等に接続されるようになっていてもよい。第1のチューブ231aおよび第2のチューブ231bに接続されるコネクタ239a、239bは、
図4に示した延長チューブ300の場合と同様、少なくとも1つが一方弁を備えていてもよいし、さらにそのうちの少なくとも1つがリリース機能を有していてもよい。
【0120】
以下、ミキシングデバイス241について、詳しく説明する。ミキシングデバイス241は、
図9A、
図9Bに示すように、旋回流を生成する旋回流生成室242aである第1室と、旋回流を軸方向に集中させる狭窄室242bである第2室と有する本体部242を備えている。この例では、旋回流生成室242aは円柱状の内部空間を有し、狭窄室242bは旋回流生成室242aと共軸の円錐状の内部空間を有する。なお、旋回流生成室の短手方向の断面形状は、円、楕円、その他の曲線から形成される種々の形状が考えられる。また、旋回流生成室は、狭窄室に近づくにつれて先が狭まる狭窄形状を有するように構成することもできる。
【0121】
ミキシングデバイス241の本体部242の流れ上流側には第1のチューブ231aが接続される導管部243aが設けられ、下流側には第3のチューブ231cが接続される導管部243cが設けられている。第2のチューブ231bが接続される導管部243bは、旋回流生成室242aの中央から上流側の位置に配置されている(詳細下記)。
【0122】
この例では、導管部243aから造影剤が流入するとともに導管部243bから生理食塩水が流入し、ミキシングデバイス内で両薬液が混合される。その後、造影剤及び生理食塩水の混合薬液は、液体出口としての導管部243cから流出する。
【0123】
比重の大きい薬液が流入する導管部243aは、流れ方向の上流側において、旋回流生成室242a上流側壁面の中央部に設けられている。液体出口である導管部243cは、この導管部243cの中心線と導管部243aの中心線とが一致するように、すなわち両者が共軸となるように設けられている。各部が共軸を有するように配置することにより、ミキシングデバイス内において発生する渦の等方性を高めることができる。つまり、渦を空間内で淀みなく均一に発生させ,混合効率を向上させることができる。
【0124】
他方、比重の小さい薬液が流入する導管部243bは、旋回流生成室242aの側面に配置され、断面円形である旋回流生成室242aの円周の接線方向に延在する。別の言い方をすれば、導管部243bは、旋回流生成室242aが有する円柱状空間の中心軸線からの周縁側にずれた位置に設けられ、これにより、導管部243bから流入した比重の小さい薬液の旋回流が生成されるようになっている。より詳しくは、
図9Cに示すように、流路241fbが、旋回流生成室242aの湾曲した内面の円周接線方向に延在するように構成されており、これにより、この流路から流入した薬液が旋回流となる。さらに狭窄室242bは、図面からも明らかなように、流れ方向下流側に向かってすぼまる傾斜した内面を有しているので、発生した旋回流は、渦の中心軸方向に集中することになる。
【0125】
また、造影剤が流入する導管部243aは、流路241faを介して旋回流生成室242aと連通している。これにより、比重の大きい薬液を、比重の小さい薬液の旋回流の中心軸と平行な方向で旋回流生成室に導入することができる。つまり、比重の大きい薬液は、旋回流生成室が有する円柱状空間の中心軸線と平行な方向に導入される。また、生理食塩水が流入する導管部は、流路241fbを介して旋回流生成室と連通している。一例で、流路241fbの内径は、造影剤が流入する流路241faの内径よりも小さく形成されていてもよい。こうした構成によれば、所定の圧力で薬液を注入する場合、断面積が相対的に小さい流路241fbから流入する比重の小さい薬液の流速が、比重の大きい薬液の流速よりも速くなる。したがって、比重の小さい薬液の流速が遅い場合に生じうる、旋回流の慣性力の減衰やそれに伴う旋回強度の不足に起因する、薬液どうしの混合効率の低下を回避することができる。
【0126】
上記のように構成されたミキシングデバイス241では、例えば造影剤および生理食塩水を同デバイス内に流入させると、流路241faから旋回流生成室に流入した造影剤は軸方向下流側に向かう流れとなる。一方、流路241fbから旋回流生成室に流入した生理食塩水は、同室内の湾曲した内面に沿って旋回する旋回流となり、そして、生理食塩水の旋回流は、狭窄室に導かれて旋回流の中心軸方向に集中する。このような渦はランキン渦として知られ、旋回流のもつ慣性力を渦の回転軸の近傍に集中させることができる。
【0127】
そしてこのようなミキシングデバイス241を有する延長チューブで2つの薬液の同時注入を行う場合、両薬液が良好に混合されることとなる。すなわち、この例では、造影剤と生理食塩水とが良好に混合された希釈造影剤を得ることができ、その結果、造影剤の濃度のムラ等が無くなるので、T字コネクタを有する一般的な延長チューブの場合と比較して優れた造影効果が期待できる。
【0128】
(医療ネットワークとの連携)
少なくとも薬液注入装置100および透視撮像装置500が医療ネットワークに接続されていてもよい。これによって、薬液注入装置100により注入された薬液の注入速度、注入時間、注入量(1回の検査および/または治療において複数回の注入が実施された場合は、1回の注入ごとの注入量および一連の注入の総注入量)、注入グラフ、注入した薬液の種類、および、二段注入モードを実施した場合の混合割合等を含む注入結果、さらに、透視撮像装置500による撮像条件は、医療ネットワークを通じて透視撮像装置、RIS(放射線科情報システム)、PACS(医用画像保管管理システム)、HIS(病院情報システム)などに注入データとして保存できる。これにより、保存した注入データは、注入履歴の管理に利用される。特に注入量などは、使用済薬液としてカルテ情報に記録したり、会計処理に利用したりすることができる。また、被験者の体重等の身体的情報、ID、氏名、検査部位、検査手法を、RIS、PACS、HISなどから取得して薬液注入装置に表示し、それにあった注入を実施することもできる。これらの情報は、薬液注入装置100から透視撮像装置500を経由してRIS、PACKS、HISなどに送信されてもよいし、薬液注入装置100から直接、RIS、PACKS、HISなどに送信されてもよい。薬液注入装置100がRFIDモジュール166を備えている場合、RIS、PACKS、HISなどに送信されるデータは、RFIDモジュール166によってRFIDタグ352から取得したデータを含むことができる。
【符号の説明】
【0129】
100 薬液注入装置
101 注入制御ユニット
110 注入ヘッド
112 コンソール
114 メインユニット
120 シリンジ受け
123 パージボタン
130a、130b ピストン駆動機構
131 プレッサ
140 クランパ
164 RFID制御回路
165 アンテナ
166 RFIDモジュール
200 シリンジアセンブリ
220 シリンジ
270 保護カバー
300 延長チューブ
301 第1のチューブ
302 第2のチューブ
303 第3のチューブ
304 T字コネクタ
350 容器
352 RFIDタグ
400 注入条件設定用画面
500 透視撮像装置
510 撮像制御ユニット
520 撮像動作ユニット