(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022006506
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】光学素子及びその製造方法並びに光アイソレータ、光伝送装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/28 20060101AFI20220105BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G02B27/28 A
C23C14/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020108758
(22)【出願日】2020-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】508377532
【氏名又は名称】株式会社SMMプレシジョン
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】山野辺 康徳
【テーマコード(参考)】
2H199
4K029
【Fターム(参考)】
2H199AA02
2H199AA06
2H199AA07
2H199AA13
2H199AA15
2H199AA19
2H199AA23
2H199AA53
2H199AA62
2H199AA64
2H199AA82
2H199AA90
2H199AA95
4K029AA04
4K029AA24
4K029BA43
4K029BA45
4K029BA48
4K029BA50
4K029BC09
4K029CA08
(57)【要約】
【課題】光アイソレータに使用される光学素子の表面がダストや水蒸気に晒されたとしても、光学素子の光軸が通る表面の清浄度低下を抑制する。
【解決手段】光学素子1として、磁界を作用させることで光Bmの偏光方向を予め決められた角度だけ回転させる一若しくは複数のファラデー回転子2と、ファラデー回転子2の光軸方向両側に配置されて光を偏光案内し、ファラデー回転子2と協働して光の順方向への通過を許容し、光の逆方向への通過を阻止する偏光案内要素3(具体的には3a,3b)と、が少なくとも含まれる光学要素を有し、これらの光学要素を積層して光学要素積層体5を構成し、光学要素積層体5の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の最外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面には、通過する光成分に対して透明な透明導電膜6を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光アイソレータに使用される光学素子であって、
磁界を作用させることで光の偏光方向を予め決められた角度だけ回転させる一若しくは複数のファラデー回転子と、
前記ファラデー回転子の光軸方向両側に配置されて光を偏光案内し、前記ファラデー回転子と協働して光の順方向への通過を許容し、光の逆方向への通過を阻止する偏光案内要素と、が少なくとも含まれる光学要素を有し、
これらの光学要素を積層して光学要素積層体を構成し、前記光学要素積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の最外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面には、通過する光成分に対して透明な透明導電膜を有することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、
前記光学素子積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の外表面に反射防止膜が形成され、前記透明導電膜は前記反射防止膜の最外表面に形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項2に記載の光学素子において、
前記透明導電膜は、前記反射防止膜の一部を兼用して形成されていることを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項2に記載の光学素子において、
前記透明導電膜は、光波長域が600乃至2000nm域にて透過率が80%以上であることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項2に記載の光学素子において、
前記透明導電膜は、体積抵抗率が1Ω・m以下であることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項3に記載の光学素子において、
前記透明導電膜は、屈折率が1.7以上で前記偏光案内要素の材料に対して屈折率差が0.2以上高いことを特徴とする光学素子。
【請求項7】
請求項2に記載の光学素子において、
前記透明導電膜は、ICO(Indium Celium Oxide)系、IWO(Indium Tungsten Oxide)系、ICWO(Indium Celium Tungsten Oxide)又はITiO(Indium Titanium Oxide)であることを特徴とする光学素子。
【請求項8】
光アイソレータに使用される光学素子であって、
磁界を作用させることで光の偏光方向を予め決められた角度だけ回転させる一若しくは複数のファラデー回転子と、
前記ファラデー回転子の光軸方向両側に配置されて光を偏光案内し、前記ファラデー回転子と協働して光の順方向への通過を許容し、光の逆方向への通過を阻止する偏光案内要素と、が少なくとも含まれる光学要素を有する光学素子を製造するに際し、
前記ファラデー回転子及び前記偏光案内要素を含む光学要素を積層して光学要素積層体を構成する光学要素積層工程と、
前記光学要素積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の外表面に反射防止膜を形成する反射防止処理工程と、
前記反射防止処理工程と共に実施され、前記光学要素積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の前記反射防止膜の最外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面に、通過する光成分に対して透明な透明導電膜を形成する表面導電処理工程と、を備えたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の光学素子の製造方法において、
前記表面導電処理工程は、不活性ガスをイオン化して成膜ターゲットにぶつけて成膜するイオンアシスト蒸着法を用いて実施することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光学素子と、
前記光学素子の周囲に配置された磁石と、
を備えたことを特徴とする光アイソレータ。
【請求項11】
請求項10に記載の光アイソレータと、
前記光アイソレータに対して光を入射する又は前記光アイソレータから出射された光を受け入れる光学部品と、
を備えたことを特徴とする光伝送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光アイソレータに使用される光学素子に係り、特に、小型の光アイソレータを製造する上で有効な光学素子及びその製造方法並びに光学素子を用いた光アイソレータ、光伝送装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
光アイソレータは、一般に、偏波依存型光アイソレータや、偏波無依存型光アイソレータに大別される。偏波依存型光アイソレータは、レーザ光源から出た光が光ファイバに導かれる順方向の損失が1dB以下と小さく、且つ、光ファイバからレーザ光源に導かれる逆方向の損失が20dB以上と大きい特徴を持っている。このような特性を実現するために、偏波依存型光アイソレータには、少なくとも入出力側に各一枚の偏光子とファラデー回転子が不可欠である。通常は、偏光子-ファラデー回転子-偏光子で構成される。また、高信頼性を要求される長距離伝送などの光信号の純度が高いエリアでは、レーザへの戻り光が更に抑えられている必要があり、40dBを超える要求がある。このような要求に対応するには、偏光子とファラデー回転子を更に一対追加した二段構成とすることがある。
【0003】
ここで、偏波依存型光アイソレータとしては例えば特許文献1に記載のものが挙げられる。
特許文献1には、円形磁石の内部にファラデー回転子を保持させ、ファラデー回転子を挟んで対構成の偏光子を配置した光アイソレータが開示されている。本例において、偏光子としては例えばガラスが標準的に使用されており、また、一般的に、ファラデー回転子は外部磁場による励磁が必要であり、外部に磁場を形成するための磁石を伴う構成が多く採用されている。
【0004】
また、光信号の中継や増幅器に使用される光アイソレータには偏波無依存型が求められる。偏波無依存型光アイソレータとしては例えば特許文献2に記載のものが挙げられる。特許文献2には、少なくとも二枚の複屈折結晶板の間に一枚のファラデー回転子、一枚の半波長板を並列配置した光アイソレータが開示されている。
このような光アイソレータは、一つ一つの光学要素を個別の金属ホルダに固定して、相互の回転方向を調整して組み立てる必要があり、一般的に通信用アイソレータに比べ高価なものとなる。
更に、偏波無依存型光アイソレータとしては、エルビウムドープファイバアンプ(EDFA)のような増幅器に使われる他に、半導体光増幅器用に使われることがある。この場合は、コスト的に一層安価なものが求められると同時に、実装密度の高い製品が必要となる。
【0005】
ところで、どちらの方式の光アイソレータについても、年々小型化が進んでおり、レーザ光等、光が通る光軸の面の清浄度が重要である。この特性は、偏光子や複屈折結晶板とその表面に付する反射防止膜としてのARコート(anti-reflective coating)の品質に大きく影響を受けるが、光トランシーバ等のモジュール内に実装されたあとでは、ARコート面のクリーニングは不可能であり、実装前はもとより、実装後に結露等により汚損されることに対して高い清浄度が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-142320号公報(上記問題点を解決するための手段,第1図)
【特許文献2】特開2004-029334号公報(実施例,
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする技術的課題は、光アイソレータに使用される光学素子の表面がダストや水蒸気に晒されたとしても、光学素子の光軸が通る表面の清浄度低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の技術的特徴は、光アイソレータに使用される光学素子であって、磁界を作用させることで光の偏光方向を予め決められた角度だけ回転させる一若しくは複数のファラデー回転子と、前記ファラデー回転子の光軸方向両側に配置されて光を偏光案内し、前記ファラデー回転子と協働して光の順方向への通過を許容し、光の逆方向への通過を阻止する偏光案内要素と、が少なくとも含まれる光学要素を有し、これらの光学要素を積層して光学要素積層体を構成し、前記光学要素積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の最外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面には、通過する光成分に対して透明な透明導電膜を有することを特徴とする光学素子である。
【0009】
本発明の第2の技術的特徴は、第1の技術的特徴を備えた光学素子において、前記光学素子積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の外表面に反射防止膜が形成され、前記透明導電膜は前記反射防止膜の最外表面に形成されていることを特徴とする光学素子である。
本発明の第3の技術的特徴は、第2の技術的特徴を備えた光学素子において、前記透明導電膜は、前記反射防止膜の一部を兼用して形成されていることを特徴とする光学素子である。
本発明の第4の技術的特徴は、第2の技術的特徴を備えた光学素子において、前記透明導電膜は、光波長域が600乃至2000nm域にて透過率が80%以上であることを特徴とする光学素子である。
本発明の第5の技術的特徴は、第2の技術的特徴を備えた光学素子において、前記透明導電膜は、体積抵抗率が1Ω・m以下であることを特徴とする光学素子である。
本発明の第6の技術的特徴は、第3の技術的特徴を備えた光学素子において、前記透明導電膜は、屈折率が1.7以上で前記偏光案内要素の材料に対して屈折率差が0.2以上高いことを特徴とする光学素子である。
本発明の第7の技術的特徴は、第2の技術的特徴を備えた光学素子において、前記透明導電膜は、ICO(Indium Celium Oxide)系、IWO(Indium Tungsten Oxide)系、ICWO(Indium Celium Tungsten Oxide)又はITiO(Indium Titanium Oxide)であることを特徴とする光学素子である。
【0010】
本発明の第8の技術的特徴は、光アイソレータに使用される光学素子であって、磁界を作用させることで光の偏光方向を予め決められた角度だけ回転させる一若しくは複数のファラデー回転子と、前記ファラデー回転子の光軸方向両側に配置されて光を偏光案内し、前記ファラデー回転子と協働して光の順方向への通過を許容し、光の逆方向への通過を阻止する偏光案内要素と、が少なくとも含まれる光学要素を有する光学素子を製造するに際し、前記ファラデー回転子及び前記偏光案内要素を含む光学要素を積層して光学要素積層体を構成する光学要素積層工程と、前記光学要素積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の外表面に反射防止膜を形成する反射防止処理工程と、前記反射防止処理工程と共に実施され、前記光学要素積層体の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の前記反射防止膜の最外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面に、通過する光成分に対して透明な透明導電膜を形成する表面導電処理工程と、を備えたことを特徴とする光学素子の製造方法である。
本発明の第9の技術的特徴は、第8の技術的特徴を備えた光学素子の製造方法において、前記表面導電処理工程は、不活性ガスをイオン化して成膜ターゲットにぶつけて成膜するイオンアシスト蒸着法を用いて実施することを特徴とする光学素子の製造方法である。
【0011】
本発明の第10の技術的特徴は、第1乃至第7のいずれかの技術的特徴を備えた光学素子と、前記光学素子の周囲に配置された磁石と、を備えたことを特徴とする光アイソレータである。
本発明の第11の技術的特徴は、第10の技術的特徴を備えた光アイソレータと、前記光アイソレータに対して光を入射する又は前記光アイソレータから出射された光を受け入れる光学部品と、を備えたことを特徴とする光伝送装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の技術的特徴によれば、光アイソレータに使用される光学素子の表面がダストや水蒸気に晒されたとしても、光学素子の光軸が通る表面の清浄度低下を抑制することができる。
本発明の第2の技術的特徴によれば、光学素子を通過する光の反射損失を抑制でき、光アイソレータに使用したときに高アイソレーションを実現する上で有効である。
本発明の第3の技術的特徴によれば、反射防止膜を兼用しないで透明導電膜を形成する場合に比べて、反射防止膜及び透明導電膜の合計膜厚を抑えた状態で反射防止機能、表面導電機能を具現化することができる。
本発明の第4の技術的特徴によれば、光波長域が600乃至2000nm域にて透過率が80%未満である場合に比べて、光アイソレータとして使用される光学素子として透過特性を良好に保つことができる。
本発明の第5の技術的特徴によれば、体積抵抗率が1Ω・mを超える場合に比べて、最外表面に導電性を持たせて帯電を抑制し、これにより、確実にダストや水分を付着しにくくする作用を奏することができる。
本発明の第6の技術的特徴によれば、本構成を有しない場合に比べて、膜厚を抑えた透明導電膜を具備させることができる。
本発明の第7の技術的特徴によれば、光アイソレータに使用される光学素子に対し、光学特性を損なわない透明導電膜を容易に形成することができる。
本発明の第8の技術的特徴によれば、光アイソレータに使用される光学素子の表面がダストや水蒸気に晒されたとしても、光学素子の光軸が通る表面の清浄度低下を抑制することが可能な光学素子を製造することができる。
本発明の第9の技術的特徴によれば、透明導電膜の成膜材料として融点の高い材料を選定したとしても、緻密性の高い剥離し難い透明導電膜を容易に形成することができる。
本発明の第10の技術的特徴によれば、光アイソレータに使用される光学素子の表面がダストや水蒸気に晒されたとしても、光学素子の光軸が通る表面の清浄度低下を抑制することが可能な光アイソレータを構築することができる。
本発明の第11の技術的特徴によれば、光アイソレータに使用される光学素子の表面がダストや水蒸気に晒されたとしても、光学素子の光軸が通る表面の清浄度低下を抑制することが可能な光アイソレータを含む光伝送装置を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は本発明が適用された光学素子を用いた光アイソレータ、光伝送装置の実施の形態の概要を示す説明図、(b)は(a)中B部分の断面説明図である。
【
図2】(a)は実施の形態1に係る光アイソレータ内蔵の光伝送装置としての光レセプタクルの全体構成を示す説明図、(b)は光アイソレータに使用される光学素子の基本構成を示す説明図である。
【
図3】(a)は
図2(b)に示す光学素子の光軸が通る表面部の構成例を示す説明図、(b)は同光学素子の光軸が通る表面部の他の構成例を示す説明図、(c)は同光学素子の光軸が通る表面部の別の構成例を示す説明図である。
【
図4】(a)~(c)は実施の形態1に係る光学素子の製造方法の一例を示す説明図である。
【
図5】(a)は光学要素積層基板を作成するために用意される各光学要素基板の初期状態を示す説明図、(b)は光学要素基板としての偏光子基板に反射防止処理を実施した反射防止処理工程を示す説明図、(c)は光学要素基板としての偏光子基板に表面導電処理を実施した表面導電処理工程を示す説明図、(d)は(c)に示す表面導電処理工程の一例を示す説明図である。
【
図6】(a)は比較の形態1に係る光学素子を示す説明図、(b)は(a)に示す光学素子表面部の構成例を示す説明図である。
【
図7】(a)は実施の形態2に係る光学素子を示す説明図、(b)は(a)に示す光学素子表面部の構成例を示す説明図である。
【
図8】(a)は実施の形態3に係る光学素子を示す説明図、(b)は(a)に示す光学素子表面部の構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
◎実施の形態の概要
図1(a)は本発明が適用された光学素子を用いた光アイソレータが組み込まれた光伝送装置の実施の形態の概要を示す。
同図において、光伝送装置12は、光アイソレータ10と、光アイソレータ10に対して光Bmを入射する光学部品13と、を備えたものである。
ここで、光アイソレータ10は、
図1(a)に示すように、所定構造を有する光学素子1と、光学素子1の周囲に配置される磁場形成用の磁石11と、を備えている。また、光学部品13としては、入射用のものに限定されるものではなく、光アイソレータ10から出射された光を受け入れる光学部品13も広く含み、この種の光伝送装置の代表例としては光レセプタクルが挙げられる。
【0015】
本実施の形態において、光学素子1の基本的構成は、磁界を作用させることで光の偏光方向を予め決められた角度だけ回転させる一若しくは複数のファラデー回転子(FR:Faraday Rotatorの略)2と、ファラデー回転子2の光軸方向両側に配置されて光を偏光案内し、ファラデー回転子2と協働して光の順方向への通過を許容し、光の逆方向への通過を阻止する偏光案内要素3(具体的には3a,3b)と、が少なくとも含まれる光学要素を有し、これらの光学要素を積層して光学要素積層体5を構成し、光学要素積層体5の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の最外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面には、通過する光成分に対して透明な透明導電膜6を有するものである。
【0016】
このような技術的手段において、光アイソレータ10には偏波依存型、偏波無依存型があるが、本例の光学素子1はいずれにも適用可能である。また、光アイソレータ10の磁石11は、光学素子1に対して接触して配置されてもよいし、非接触に配置されてもよい。特に、磁石11に対して光学素子1を非接触に配置する態様では、光学素子1を小型化する上で、光学素子1と磁石11とを切り離して設計することが可能になり、小型化した光学素子1に対して必要な磁場を形成する磁石11を設置するようにすればよい。
また、ファラデー回転子2は一つに限られず、複数使用する態様も含む。
更に、偏光案内要素3(3a,3b)としては、偏波依存型光アイソレータに使用される光学素子1では偏光方向が予め決められた角度分異なる偏光子が挙げられ、また、偏波無依存型光アイソレータに使用される光学素子1では光の順方向入射側に複屈折結晶、光の順方向出射側に複屈折結晶及び1/2波長板が挙げられる。
また、本例の光学素子1としては、ファラデー回転子2と偏光案内要素3(3a,3b)との間に反射防止膜を介在させる、あるいは、複数のファラデー回転子2間に放熱要素を介在させる等の各種態様があるので、光学素子1を構成する光学要素については、ファラデー回転子2と偏光案内要素3(3a,3b)とを少なくとも含む態様であれば広く含まれる。
更に、本例の光学素子1は、各光学要素を積層して光学要素積層体5を構成するものであるから、光学素子1の中間に位置する光学要素が空気層に直接接触することはない。このため、中間に位置する光学要素については空気層に対する反射防止処理を施すことは必ずしも必要ではない。
【0017】
また、透明導電膜6については、通過する光成分(予め決められた波長域)に対して透明で、かつ、導電性を有するものであれば適宜選定して差し支えない。光通信に必要な波長域で透明な透明導電膜6であれば何でも適用可能である。例えば導電キャリア密度が高いITO等の膜では、光通信に必要な波長域では不透明であるため、使用材料としては不適切である。これに対し、少数キャリアで、かつ、キャリア移動度が高い材料を選定すれば、透明性、導電性を担保する透明導電膜6の候補材料になり得る。
更に、本例では、光学要素積層体5の光軸が通る最外表面に透明導電膜6を設けることで、光学要素積層体5の最外表面に導電性を持たせて帯電を抑制し、これにより、ダストや水分を付着しにくくする作用を奏する。
更にまた、透明導電膜6の形成箇所については、光学要素積層体5の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の最外表面のうち、少なくとも空気層に直接露出する面に形成すればよい。このため、例えば光学要素積層体5の光の順方向入射側又は出射側のいずれか一方の最外表面が他の光学部品13に接触固定される態様では、他方の最外表面にのみ透明導電膜6を形成するようにしてもよい。尚、他の光学部品13に接触固定される光学要素積層体5の最外表面に透明導電膜6を形成してもよいことは勿論である。
【0018】
次に、光学素子1の代表的態様又は好ましい態様について説明する。
先ず、光学素子1の好ましい態様としては、光学要素積層体5の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の外表面に反射防止膜7が形成され、透明導電膜6は反射防止膜7の最外表面に形成されている態様が挙げられる。本例は、光学要素積層体5の光軸が通る外表面に反射防止膜7を備え、光学素子1を通過する光の反射損失を抑制する態様である。一般に、光アイソレータ10の使用目的は光の入射側に対して光の戻りがないことを前提とするため、高アイソレーションを企図するには反射防止膜7を有する態様が好ましい。尚、高アイソレーションを更に高めるという観点からすれば、光学要素積層体5の光軸が通る外表面に限らず、積層された光学要素間、例えばファラデー回転子2と偏光案内要素3(3a,3b)との界面にも反射防止膜を設けることが好ましい。
【0019】
また、透明導電膜6の好ましい態様としては、反射防止膜7の一部を兼用して形成されている態様が挙げられる。例えば偏波無依存型光アイソレータでは偏光案内要素3として偏光子が必要になるが、ほとんどがガラスを母材にしてその中に一軸偏光性を持たせるために銀等の導電性粒子を櫛状に配列させた混ぜ物を入れたものが用いられている。よって、光学的にはガラスの屈折率(約1.5)付近となる。これを光アイソレータとして適切に使用するには、空気層(屈折率1)と偏光子材料としてのガラスとをマッチングするために反射防止膜7が必要になる。また、接着剤はガラスの屈折率とあまり差がないか、若干低い(例えば1.45程度)ことから、これを考慮することもある。また、ファラデー回転子2の屈折率は2.3~2.4と高いが、通常は偏光子(ガラス)上に貼り合わせることから、ここには1.5と2.3(あるいは2.4)との間でマッチングをとる。このため、ファラデー回転子2が最外表面に露出するような使用を想定する場合には、当該反射防止膜7の最外表面が透明導電膜6として機能するものであれば反射防止膜7の一部を兼用する態様が可能である。
【0020】
また、透明導電膜6の好ましい別の態様としては、光波長域が600乃至2000nm域にて透過率が80%以上である態様が挙げられる。本例は、反射防止膜7の外表面に形成される透明導電膜6として有効な透過率特性である。光伝送技術(光通信や光センサ、ファイバレーザ等)では光波長域が600乃至2000nmの範囲であり、この範囲の光成分に対して透過率が80%以上であればよく、好ましくは90%以上がよい。
更に、透明導電膜6の別の好ましい態様としては、体積抵抗率が1Ω・m以下である態様が挙げられる。本例は、反射防止膜7の外表面に形成される透明導電膜6として有効な導電特性であり、体積抵抗率が1Ω・m以下、好ましくは1×10-4Ω・m以下がよい。また、表面抵抗率に着目すると、109Ω/□以下であればよい。
【0021】
更に、透明導電膜6の好ましい別の態様としては、屈折率が1.7以上で偏光案内要素3(3a,3b)の材料に対して屈折率差が0.2以上高い態様が挙げられる。本例は、透明導電膜6が反射防止膜7の一部を兼用する場合において、反射防止膜7の外表面に形成される透明導電膜6として有効な屈折特性である。本例においては、透明導電膜6は反射防止膜7としての機能も具備することが必要になる。そして、反射防止膜7は、例えば光学干渉によって特定の光波長域の反射を防止するものである。よって、偏光案内要素3(3a,3b)の材料に対して屈折率差がないと、光学干渉をもたらせないことから、反射防止膜7としては少なくとも偏光案内要素3(3a,3b)の屈折率よりも高い屈折率の材料を含む構成であることが必要である。ここで、偏光案内要素3(3a,3b)の材料(例えばガラス)の屈折率を1.5とすると、反射防止膜7の低屈折率膜を同等の屈折率の材料(例えばSiO2)で形成したとすれば、反射防止機能を実現するには、高屈折率膜としては屈折率差が少なくとも0.2以上好ましくは0.3以上、つまり、1.7以上好ましくは1.8以上のものを選定する必要がある。このため、反射防止膜7の一部を兼用する透明導電膜6としては反射防止膜7の高屈折率膜の屈折特性を具備することが好ましい。
【0022】
また、透明導電膜6の好ましい別の態様としては、ICO(Indium Celium Oxide)系、IWO(Indium Tungsten Oxide)系、ICWO(Indium Celium Tungsten Oxide)又はITiO(Indium Titanium Oxide)である態様が挙げられる。本例は、高キャリア移動度特性により導電性を発現し、光伝送技術で使用される光波長域(赤外域)において透明な材料例である。
ここで、一般的には、同じ材料で屈折率を変えるということは難しいが、ICO、IWO又はITiOではその組成比を変えることでキャリア密度を変えることが可能になるので、屈折率を若干調整することは可能である。但し、組成比が変わることで透過率に影響することから、この点も含めて屈折率を調整することが必要である。
【0023】
また、光学素子1の製造方法の代表的態様としては、前述した光学素子1を製造するに際し、ファラデー回転子2及び偏光案内要素3(3a,3b)を含む光学要素を積層して光学要素積層体5を構成する光学要素積層工程と、光学要素積層体5の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の外表面に反射防止膜7を形成する反射防止処理工程と、反射防止処理工程と共に実施され、光学要素積層体5の光軸が通る光の順方向入射側及び出射側の反射防止膜7の最外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面に、通過する光成分に対して透明な透明導電膜6を形成する表面導電処理工程と、を備えたものが挙げられる。
本例においては、複数の光学素子1を加工する前の母材料について各光学要素基板を用意し、各光学要素基板に対して反射防止膜7、透明導電膜6を形成した後に、各光学要素基板を積層して光学要素基板積層体を構成し、しかる後に、各光学要素サイズに切断するようにする手法が主として採用される。
【0024】
また、表面導電処理工程としては適宜選定して差し支えないが、不活性ガスをイオン化して成膜ターゲットにぶつけて成膜するイオンアシスト蒸着法を用いて実施する態様が好ましい。
ここで、透明導電膜6の成膜として、ICO、IWO又はITiOを使用するに当たって、出発原料となるCeO2やTiO2、WO3は融点が高く、通常の蒸着法では組成ズレが生じ易いが、反応性プラズマ蒸着法(RPD法:Reactive Plasma Depositionの略)に代表されるイオンアシスト蒸着法が好ましい。つまり、イオンアシスト蒸着法は、Ar等の運動エネルギの大きい不活性ガスをイオン化して成膜ターゲットにぶつけ、反跳した被成膜粒子を成膜することから、通常の電子ビームを使う蒸着法では飛ばすことができない高融点の材料を成膜することが可能である。また、膜の緻密性が高く、運動エネルギも高いため、スパッタリングほどではないが、成膜対象基板側への食い込みが生じ、剥がれにくいという性質がある。
【0025】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて本発明をより詳細に説明する。
◎実施の形態1
-光レセプタクルの全体構成-
図2(a)は実施の形態1に係る光伝送装置としての光レセプタクル20の基本構成を示す。
本例において、光レセプタクル20は、光ファイバ21を接続部品25を介して光アイソレータ10に接続したものであり、光アイソレータ10によって光ファイバ21からの光(本例ではレーザ光)を一方向だけ伝送し、反射して戻ってくる光成分が光ファイバ21側へ逆光するのを阻止するものである。
【0026】
<接続部品>
ここで、接続部品25は、金属製(例えばステンレス製)のフェルール26の貫通孔27内に外被で保護された光ファイバ21を挿入装着し、このフェルール26の貫通孔27の出口側には段付き孔部28を形成すると共に、この段付き孔部28にはセラミックス製(例えばジルコニア製)の円筒状の小径フェルールからなるキャピラリ29を嵌め込んで保持し、更に、キャピラリ29の一端部をフェルール26の段付き孔部28から突出するように露呈させ、かつ、キャピラリ29の貫通孔30内には光ファイバ21の外被が取り除かれた光ファイバ素線部22を挿入保持するようにしたものである。
更に、キャピラリ29の露呈部端面は光ファイバ素線部22の光軸方向に直交する面でもよいが、本例では、アイソレーション機能を確保しつつ反射戻り光の影響を抑えるという観点から、直交する面に対して予め決められた角度θ(例えば0<θ≦8°)だけ傾斜した傾斜面31を有している。
【0027】
<光アイソレータ>
光アイソレータ10は、
図2(a)に示すように、接続部品25の傾斜面31に所定構造の光学素子1を図示外の接着剤を用いて直接的に貼り付けると共に、この光学素子1の周囲には磁石11(本例では永久磁石11a)を配置するようにしたものである。
【0028】
-光学素子の構成例-
図2(b)は本実施の形態で用いられる光学素子1の一例を示す。
同図において、光学素子1は、偏波依存型光アイソレータ10で使用されるものであって、ファラデー回転子2と、ファラデー回転子2の光軸方向両側に配置される二枚の偏光子40(具体的には40a,40b)とを含む光学要素からなっており、本例では、各光学要素が積層されて光学要素積層体5として構成され、光学要素積層体5のうち一方の偏光子40aが接続部品25の傾斜面31に接着固定されている。
本例において、ファラデー回転子2は例えば磁気光学結晶膜である磁性ガーネット結晶膜からなり、また、二枚の偏光子40(40a,40b)は本例では偏光ガラス板からなり、偏光方向が相互に予め決められた角度、例えば45°傾斜するように配置されている。そして、二枚の偏光子40(40a,40b)はファラデー回転子2を挟み込み、図示外の接着剤(例えばエポキシ接着剤)を介在して積層される。そして、光学素子1の周囲に配置された永久磁石11aによりファラデー回転子2には磁場が作用し、ファラデー回転子2を通過する光を偏光させるようになっている。
【0029】
そして、本実施の形態では、ファラデー回転子2の両面には、各偏光子40(40a,40b)との接合面での反射を防止するために対接着剤用に屈折率を調整したARコート60が形成される。また、二枚の偏光子40(40a,40b)のファラデー回転子2との接合面にも対接着剤用のARコート60が形成されている。
更に、本例では、光入射側に位置する一方の偏光子40aの光入射側面には、接合先の材料に合わせて、対接着剤用のARコート60が形成されており、また、光出射側に位置する他方の偏光子40bの光出射側面には、対空気層用に屈折率を調整したARコート60が形成されている。
本例において、ARコート60は反射防止膜7(
図1参照)に相当するものであり、例えば
図3(a)に示すように、通常は高屈折率膜60uと低屈折率膜60dとを重ねることで、光の干渉特性から反射率を抑える構成が用いられる。ここで、ARコート60の段数、膜厚、屈折率については接合条件を踏まえて適宜選定する必要があり、例えば
図3(a)では、高屈折率膜60u、低屈折率膜60dを二段構成(ここでいう段数は高屈折率膜と低屈折率膜とを一セットとした場合のセット数に相当)にしているが、これに限られるものではなく、例えば
図3(b)に示すように、高屈折率膜60u、低屈折率膜60dの段数を重ねる程、広い波長帯域での反射防止機能を実現することが可能である。
また、高屈折率膜60u、低屈折率膜60dの各膜厚に対して遮断特性が敏感であることから、通常は四段、五段構成で波長帯域幅に余裕を持たせたARコート60を使用するようにすればよい。但し、高屈折率膜60u、低屈折率膜60dの段数を増やせば、それだけ製造コストが上昇するため、過度に段数を上げることは得策ではない。
また、通常のARコート材料は所謂絶縁体である。このため、水に対する接触角を大きくする被膜を付すなど非常に薄い有機膜を塗布して帯電防止対策を行う場合がある。これについては対指紋性を高めるためにも役立っている。
【0030】
特に、本例では、
図2(b)及び
図3(a)(b)に示すように、光学要素積層体5の光軸が通る両側面のARコート60は、その最外表面を構成する高屈折率膜60uが透明導電膜70として兼用されている。
ここで、透明導電膜70として適用可能な材料について検討する。
材料として、絶縁材料であるSiO
2、TiO
2、Ta
2O
5、及び、導電材料であるITO(10wt.%SnO
2)、ITO(1wt.%SnO
2)、ICO(0.5wt.%CeO
2)、IWO(1.0wt.%WO
3)、ITiO(1.0wt.%TiO
2)について、評価したところ、以下に示す表1の結果が得られた。
【0031】
【0032】
評価方法として、各材料について、波長域λ=600~2000nm)において、透過率、体積抵抗率及び屈折率について測定した。
ここで、透過率については紫外可視赤外分光光度計V-570(日本分光(株)製)で測定した。また、体積抵抗率については、ロレスタAP((株)三菱化学アナリテック製)を用い四端子法で測定した。更に、屈折率については、エリプソメータM-240(日本分光(株)製)で測定した。
尚、透過率については90%以上を○、70~90%を△、70%未満を×とした。また、総合評価については、透過率、体積抵抗率及び屈折率を総合的に見て評価したものである。
表1によれば、透明導電膜としては、市場で最も有名かつ利用されているのはITO(Indium Tin Oxide)膜がある。これは、可視域が透明であり、結晶化することで90%以上の高い透過率を有している。しかしながら、光アイソレータで使用されるような波長域(赤外波長域)では不透明であるため、使われることはない。このため、透明導電膜70としては、ICOやIWO、ITiOといった高キャリア移動度特性を有する材料が適していることが理解される。これらの材料を用いた透明導電膜70は、赤外波長域まで透明であり、光通信用の波長域と合致する。
また、透明導電膜70の透明性は透過率で評価するようにすればよい。ARコート60は幾つもの光学膜(高屈折率膜60u、低屈折率膜60d)を積層してなるため、各層の透明度が重要である。ゆえに、透明導電膜70の透明性は、光通信や光センサ、ファイバレーザ等のアプリケーションで利用される波長域λが600~2000nm域の範囲で、透過率が80%以上であることが好ましく、特に透過率90%以上がより好ましい。
【0033】
また、透明導電膜70の導電性は体積抵抗率又は表面抵抗率で評価するようにすればよい。一般に、表面抵抗率が105Ω/□以下が導電膜、105~109Ω/□が帯電防止性が高いとされるが、ARコート60にする場合の膜厚はナノメートルオーダーとなることから、体積抵抗率が1Ω・m以下であることが好ましく、特に、体積抵抗率が1×10-4Ω・m以下であればより好ましい。
また、透明導電膜70の屈折率は、光アイソレータ用ARコート60の膜構成材料から、偏光子40(40a,40b)の母材であるSiO2と同等か、或いは比較して高屈折率であることが望まれる。前者には工業的に有望な材料はなく、後者には屈折率差が大きいほど膜厚を抑えることが可能であり有利である。そこで、屈折率は、1.7以上が好ましい。この屈折率は、偏光子40(40a,40b)の材料であるガラス(1.5)に対して屈折率差が0.2以上であるが、屈折率差が0.3以上確保できる1.8以上であれば、より好ましい。
【0034】
このように、本例の光学素子1によれば、光学素子1の光軸が通る最外表面に前述した透明導電膜70が形成されているため、光アイソレータ10の特性に影響を与えずに、空気層に直接露出する光学素子1の最外表面に導電性を具備させることが可能である。このため、光学素子1の最外表面が空気層に晒されたとしても、光学素子1の最外表面は帯電防止されていることから、ダストや水蒸気等は光学素子1の最外表面には付着し難い。このとき、透明導電膜70を形成することで、透明導電膜70を形成しない場合に比べて、光学素子1の光軸が通る最外表面では水に対する接触角を大きくすることが可能であり、その分、水分の付着は抑えられる。
【0035】
◎変形の形態1
実施の形態1では、透明導電膜70は、
図3(a)(b)に示すように、光学素子1の光軸が通る外表面に形成されたARコート60の最外表面に位置する高屈折率膜60uを兼用して構成されているが、これに限られるものではなく、例えば
図3(c)に示すように、ARコート60の外表面に別途透明導電膜70を形成するようにしてもよいことは勿論である。
本例では、透明導電膜70を成膜するに当たって、ARコート60と物理的に切り離して間に空気層を介在させると、ARコート60の干渉条件が狂うことから、ARコート60とは切り離さずにARコート60の高屈折率膜60uと同じ屈折率を持つ透明導電膜70を積層する等、ARコート60の反射防止機能を妨げない範囲で適宜構成することが必要である。
【0036】
-光学素子の製造方法-
次に、本実施の形態で用いられる光学素子1の製造方法について
図4及び
図5を用いて説明する。
本実施の形態において、光学素子1の製造方法は、光学素子1を細分化する上で必要な光学要素基板として、本例では、ファラデー回転子基板82と二枚の偏光子基板83(具体的には83a,83b)とを用意し、ファラデー回転子基板82とこれを挟む二枚の偏光子基板83(83a,83b)との間に接着剤85を塗布し、ファラデー回転子基板82が二枚の偏光子基板83(83a,83b)の間に挟み込まれるように接着剤85で接着し、ファラデー回転子基板82と偏光子基板83(83a,83b)とが貼り合わされた光学要素積層基板90を作製する積層基板作製工程(
図4(a)参照)と、積層基板作製工程で作製された光学要素積層基板90を第1の切断方向X及びこれに直交する第2の切断方向Yに沿って予め決められたサイズの光学要素積層体5として切断し、個別の光学素子1とする光学素子切断工程(
図4(b)参照)とを有している。
【0037】
そして、本例においては、積層基板作製工程は、各光学要素基板を積層する前の段階で、各光学要素基板(ファラデー回転子基板82、偏光子基板83(83a,83b))に対して反射防止処理、表面導電処理を実施するようにしたものである。
この点について補足すると、先ず、
図5(a)に示すように、各光学要素基板として、ファラデー回転子基板82と二枚の偏光子基板83(83a,83b)とを用意した後、
図5(b)に示すように、ファラデー回転子基板82の両面、及び、各偏光子基板83(83a,83b)の両面にARコート60を成膜し、更に、
図5(c)に示すように、偏光子基板83(83a,83b)のうちファラデー回転子基板82とは反対側に位置するARコート60の外表面に透明導電膜70を成膜するようにすればよい。
【0038】
本例において、ARコート60を成膜する方法としては、真空蒸着やスパッタリング、ウェットコーティングなど様々な手法があるが、光学要素基板(ファラデー回転子基板82、偏光子基板83)の種類や性能(低反射率)により適宜選択され、一般的には真空蒸着法が適用される。
そして、偏光子基板83(83a,83b)のARコート60の最表層に透明導電膜70を成膜する。この透明導電膜70の成膜方法としては適宜選定して差し支えないが、反応性プラズマ蒸着法、特にイオンアシスト蒸着法が好ましい。このイオンアシスト蒸着法は、
図5(d)に示すように、真空チャンバ100内の基板ホルダ101に透明導電膜70の成膜対象である偏光子基板83(83a,83b)を保持する一方、真空チャンバ100内にAr等の不活性ガスのイオン源102、及び、透明導電膜材料である成膜ターゲット104の蒸発源103を設置し、運動エネルギの大きい不活性ガスをイオン化して成膜ターゲット104にぶつけ、反跳した被成膜粒子から成膜ターゲット104の被成膜粒子を蒸発させ、偏光子基板83(83a,83b)のARコート60の最表層に透明導電膜70として成膜するようにしたものである。
【0039】
この種のイオンアシスト蒸着法によれば、成膜ターゲット104として高融点の材料を成膜することが可能になり、また、膜の緻密性が高く、運動エネルギが高いことから、被成膜粒子が偏光子基板83(83a,83b)側へと食い込んで剥がれ難いという性質が得られる。ゆえに、本手法は、酸化物を含む材料系における透明導電膜70(あるいはARコート60)の製法として適している。
このときの透明導電膜70の厚みは、各材料の屈折率により最低反射となる数値に調整されている。例えば、光通信1.3μm波長帯の光アイソレータに適用する場合には、偏光子へ例えば三層構成のARコート60を付与するが、光入射側が空気層(屈折率1)、光出射側に偏光子(ガラスが母材)となるARコート60であれば、ICOを適用する場合、屈折率は、1.8~2.2であり、光入射側のICO膜厚をおよそ50mmに調整する。また、ITiOの場合も、屈折率は、1.7~2.1であり、同様な厚み調整を行うようにすればよい。
【0040】
◎比較の形態1
次に、実施の形態1に係る光学素子1の性能を評価する上で、比較の形態1に係る光学素子1’について説明する。
図6(a)は比較の形態1に係る光学素子1’の要部を示す説明図である。
同図において、光学素子1’は、ファラデー回転子2(本例では磁性光学結晶膜である磁性ガーネット結晶膜)と、ファラデー回転子2の光軸方向両側に配置される二枚の偏光子40(40a,40b)とを接着剤で接合し、光学要素積層体として構成したものである。
そして、本例では、ファラデー回転子2の両面には、各偏光子40(40a,40b)との接合面での反射を防止するために対接着剤用に屈折率を調整したARコート60が形成される。また、二枚の偏光子40(40a,40b)のファラデー回転子2との接合面にも対接着剤用のARコート60が形成されている。
更に、本例では、光入射側に位置する一方の偏光子40aの光入射側面には、接合先の材料に合わせて、対接着剤用のARコート60が形成されており、また、光出射側に位置する他方の偏光子40bの光出射側面には、対空気層用に屈折率を調整したARコート60が形成されている。
本例において、ARコート60は、
図6(b)に示すように、通常は高屈折率膜60uと低屈折率膜60dとを重ねることで、光の干渉特性から反射率を抑える構成が用いられるが、実施の形態1とは異なり、光学素子1の光軸が通る両側に位置するARコート60の最表層は、透明導電膜を有しておらず、絶縁体からなる高屈折率膜60uで構成されている。
このような比較の形態1に係る光学素子1’によれば、光学素子1’の光軸が通る外表面のうち空気層に直接露出する面は、非導電性であることから、帯電によりダストや水蒸気が付着し易く、また、それを清掃する際に拭き取り難いという懸念がある。
【0041】
◎実施の形態2
図7(a)は実施の形態2に係る光学素子の要部を示す。
同図において、光学素子1は、実施の形態1と同様に、偏波依存型光アイソレータに使用されるものであって、二つのファラデー回転子2(具体的には2a,2b)と、各ファラデー回転子2(2a,2b)を挟むように配置される三つの偏光子40(具体的には40a~40c)とを図示外の接着剤を介して積層し、光学要素積層体5として構成したものである。
そして、本例では、ファラデー回転子2(2a,2b)と偏光子40(40a~40c)との接合面には夫々対接着剤用のARコート60が形成され、更に、光学要素積層体5の光軸が通る偏光子40(40a,40c)の外表面にはARコート60が形成されると共に、このARコート60の最表層には透明導電膜70が形成されている。
【0042】
本実施の形態に係る光学素子1によれば、偏光子40(40a~40c)の偏光方向及びファラデー回転子2(2a,2b)のファラデー角度を適切に選定することで、光アイソレータとして使用することが可能である。
このとき、実施の形態1と同様に、光学素子1の光軸が通る最外表面の少なくとも一方は空気層に直接露出することになるが、空気層に晒されている光学素子1の最外表面は透明導電膜70で被覆されていることから、空気中のダストや水蒸気が光学素子1の最外表面には付着し難く、空気層に直接露出する光学素子1の外表面がダストや水蒸気によって汚れる懸念は抑制される。
【0043】
◎実施の形態3
図8(a)は実施の形態3に係る光学素子の要部を示す。
同図において、光学素子1は、実施の形態1,2と異なり、偏波無依存型光アイソレータに使用されるものであって、ファラデー回転子2と、このファラデー回転子2の光軸方向両側に配置される二つの複屈折結晶板110(110a,110b)と、1/2波長板120とを図示外の接着剤を介して積層し、光学要素積層体5として構成したものである。
ここで、複屈折結晶板110(110a,110b)は例えばルチル(TiO
2)結晶で構成され、ファラデー回転子2は実施の形態1と同様に、磁気工学結晶膜(例えば磁性ガーネット結晶膜)で構成される。
そして、本例では、ファラデー回転子2とこれに隣接する複屈折結晶板110b及び1/2波長板120との接合面には対接着剤用のARコート60が形成され、更に、光学要素積層体5の光軸が通る複屈折結晶板110(110a,110b)の外表面にはARコート60が形成されると共に、このARコート60の最表層には透明導電膜70が形成されている。
【0044】
本例において、光入射側に位置する複屈折結晶板110aに入射した光は偏光面が90°異なる常光線と異常光線とに分かれ、これらの偏光はファラデー回転子2で45°、1/2波長板120で45°合わせて90°回転させられ、常光線は異常光線に、異常光線は常光線へと逆になって後段の複屈折結晶板110bに入射し、合波されて低損失で出射される。
一方、逆方向からの光については、順方向と同じく、光は、複屈折結晶板110bを通過するときに常光線と異常光線とに分かれて1/2波長板120とファラデー回転子2とを通過する。しかし、順方向の場合とは異なり、偏光面は元の状態のままであるため、後段に位置する複屈折結晶板110aで合波されることなく進み、光ファイバ側に再入射される懸念はない。
【0045】
本実施の形態によれば、光学素子1の光軸が通る最外表面が空気層に直接露出するとしても、空気層に晒されている光学素子1の最外表面は透明導電膜70で被覆されていることから、空気中のダストや水蒸気が光学素子1の最外表面には付着し難く、空気層に直接露出する光学素子1の外表面がダストや水蒸気によって汚れる懸念は抑制される。
【実施例0046】
◎実施例1
実施例1に係る光アイソレータは、実施の形態1に係る光学素子(
図2(b)による一枚のファラデー回転子、二枚の偏光子)を使用した偏波依存型光アイソレータであり、ARコートの最表層をICO(0.5wt.%CeO
2)の透明導電膜で構成した。
◎実施例2
実施例2に係る光アイソレータは、実施例1と略同様であるが、実施例1と異なり、ARコートの最表層をIWO(1.0wt.%WO
3)の透明導電膜で構成した。
◎実施例3
実施例3に係る光アイソレータは、実施例1と略同様であるが、実施例1と異なり、ARコートの最表層をITiO(1.0wt.%TiO
2)の透明導電膜で構成した。
◎実施例4
実施例4に係る光アイソレータは、実施の形態2に係る光学素子(
図7(a)による二枚のファラデー回転子、三枚の偏光子)を使用した偏波依存型光アイソレータであり、ARコートの最表層をICO(0.5wt.%CeO
2)の透明導電膜で構成した。
◎実施例5
実施例5に係る光アイソレータは、実施の形態3に係る光学素子(
図8(a)による一枚のファラデー回転子、二枚の複屈折結晶板、1/2波長板)を使用した偏波無依存型光アイソレータであり、ARコートの最表層をICO(0.5wt.%CeO
2)の透明導電膜で構成した。
【0047】
◎比較例1
比較例1に係る光アイソレータは、実施例1と略同様に、一枚のファラデー回転子、二枚の偏光子)を使用した偏波依存型光アイソレータであるが、ARコートの最表層をITO(1.0wt.%SnO
2)の透明導電膜で構成した。
◎比較例2
比較例2に係る光アイソレータは、実施例1と略同様に、一枚のファラデー回転子、二枚の偏光子)を使用した偏波依存型光アイソレータであるが、ARコートの最表層をITO(10wt.%SnO
2)の透明導電膜で構成した。
◎比較例3
比較例3に係る光アイソレータでは、比較の形態1に係る光学素子(
図6(a)による一枚のファラデー回転子、二枚の偏光子)を使用した偏波依存型光アイソレータであり、ARコートの最表層をTiO
2の透明導電膜で構成した。
【0048】
実施例1~5及び比較例1~3の光アイソレータについて性能評価する。
本例において、性能評価項目としては、以下の五項目で行った。
(1)表面抵抗率
表面抵抗率は、光アイソレータ用のチップ(光学素子)に加工する前の母材料(サイズ:11mm×11mm)で、四点接触式表面抵抗率測定器によって測定した。各材料の膜厚は、屈折率により最低反射となる数値に調整している。
(2)IL(Insertion lossの略)
ILは光学素子を通過する光量の挿入損失を示し、例えば指定波長のLED光源からのレーザ光を、光アイソレータ用のチップに透過させてパワーメータに入る光量と、光アイソレータ用のチップを通さず直接パワーメータに入った光量の差から算出した。光アイソレータとしては、少なくとも0.3dB未満に抑える必要がある。
(3)帯電防止
帯電防止は、表面抵抗計(ロレスタAP)で評価した。◎は105以下、〇は109以下、×は1012以上の基準で評価した。
(4)対潮解性
対潮解性は、高温高湿度環境での長期暴露による湿潤を評価するものである。◎は外観変化なし、〇は外観変化あるが、使用上問題なし、×は有効径範囲内に湿潤あり使用不可の基準で評価した。
(5)総合評価
総合評価は、前述した表1の評価及び上記四項目を考慮し評価した。◎は四項目全ての特性が適正で使用可、×は表1の評価及び四項目のいずれかが不適正で使用不可の基準で評価した。
評価結果を以下の表2に示す。
【0049】
【0050】
表2によれば、実施例1は、光学素子のARコートの最表層が導電性を有するために帯電防止効果が発現している。
実施例2~5は、実施例1と略同様に、帯電防止効果が発現している。
これに対し、比較例1は、実施例1と略同様に、帯電防止効果が発現しているが、IL(挿入損失)が許容範囲内ではあるものの、実施例1~3に比べて若干低下する。但し、比較例1は、表面抵抗が大きく、前述した表1に示すように、光通信で使用される波長域において透明性が悪いことから、光アイソレータとしての適用性が低い。
比較例2は、実施例1と略同様に、帯電防止効果が発現しているが、IL(挿入損失)が許容範囲外まで増加しており、適用不可となる。
比較例3は、ARコートの最表層が導電性を有しないため帯電防止効果が得られない。
本発明の光アイソレータは、光学素子の光軸が通る外表面のうち少なくとも空気層に直接露出する面に透明導電膜を形成することで、光学素子の光軸が通る外表面が空気中のダストや水蒸気に晒されたとしても、洗浄性や潤滑性を高めることが可能であり、超小型化が進む光アイソレータの分野において、光アイソレータに組み込まれた光学素子に対し、メンテナンスフリー化を実現する上で有効である。