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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065258
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】細菌に抗菌薬を適用する装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20220420BHJP
   B01D 61/28 20060101ALI20220420BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20220420BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220420BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220420BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20220420BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220420BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C12M1/00 A
B01D61/28
B01D63/02
B01D69/02
B01D69/08
B01D61/14 500
C12M1/34 D
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173687
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(71)【出願人】
【識別番号】594152620
【氏名又は名称】ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 良和
(72)【発明者】
【氏名】舘田 一博
(72)【発明者】
【氏名】濱田 将風
(72)【発明者】
【氏名】中塚 修志
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4D006
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB02
4B029DG04
4B029FA01
4B029FA09
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QR68
4B063QR75
4B063QS39
4B063QX01
4D006GA06
4D006GA13
4D006HA02
4D006JA02Z
4D006JA25C
4D006JA57Z
4D006JA58Z
4D006JB01
4D006KA63
4D006KE02Q
4D006KE06P
4D006MA01
4D006MA31
4D006MA33
4D006MB05
4D006MC22
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC39
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA10
4D006PB12
4D006PB24
4D006PB70
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】少なくとも、生体内の薬物動態の再現性の低下が抑制された、細菌に抗菌薬を適用する装置の提供。
【解決手段】筒状ハウジングと前記筒状ハウジング内に収容された複数の中空糸膜とを含む、中空糸膜モジュールと、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗菌薬を含む溶液、及び、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記抗菌薬を含む溶液を含む溶液槽と、前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための第一の流路と、前記中空糸膜モジュール外に排出された前記溶液を前記溶液槽へ供給するための第二の流路と、を含み、前記中空糸膜モジュールは、所定の構造を含む、細菌に抗菌薬を適用する装置であって、前記中空糸膜は、その分画分子量が70kDa以上3000kDa以下である、装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ハウジングと前記筒状ハウジング内に収容された複数の中空糸膜とを含む、中空糸膜モジュールと、
前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗菌薬を含む溶液、及び、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記抗菌薬を含む溶液を含む溶液槽と、
前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための第一の流路と、
前記中空糸膜モジュール外に排出された前記溶液を前記溶液槽へ供給するための第二の流路と、
を含み、
前記中空糸膜モジュールは、
その一方の開口部を含む第一の端部に、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための溶液供給口を有し、他方の開口部を含む第二の端部に、前記複数の中空糸膜の内側から前記溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出するための溶液排出口を有する、
細菌に抗菌薬を適用する装置であって、
前記中空糸膜は、その分画分子量が70kDa以上3000kDa以下である、
装置。
【請求項2】
前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記抗菌薬がβ-ラクタム系抗菌薬又は抗体抗菌薬である、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記細菌がβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌であり、前記抗菌薬が分子量40kDa以上の抗菌薬であり、前記抗菌薬を含む溶液がβ-ラクタマーゼを含む、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置を用いて細菌に対する抗菌薬の抗菌能を測定する方法であって、
前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を播種する工程、
前記溶液供給口を通じて、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記抗菌薬を含む溶液を供給する工程、
前記溶液排出口を通じて、前記複数の中空糸膜の内側から前記抗菌薬を含む溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出する工程、及び
前記細菌の生細胞数を測定する工程
を含む、方法。
【請求項6】
前記抗菌薬がβ-ラクタム系抗菌薬又は抗体抗菌薬である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌がβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌であり、前記抗菌薬が分子量40kDa以上の抗菌薬であり、前記抗菌薬を含む溶液がβ-ラクタマーゼを含む、請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細菌に抗菌薬を適用する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌薬の開発に多大な費用を要すことは周知のとおりである。特に開発のための費用が嵩む原因の一つが、有効性と安全性を確認するための治験(臨床試験)にある。
ヒトの薬物動態パラメータをもとにin vitroの試験でヒトに対する薬剤の投与量や投与間隔を設定するための新たなモデルが構築され、実際に抗菌薬開発に応用されている。Hollow-Fiber Infection Model (HFIM)と呼ばれているこのシステムは、2週間程度の期間
、繰り返し抗菌薬が投与された状況をシミュレーションすることができるものである(例えば、非特許文献1)。そして、HFIMは、無菌的且つ継時的に抗菌薬に暴露された供試細菌を採取して供試細菌の消長を観察することができる。さらに、有効性の指標となるPK(薬物動態学)-PD(薬力学)パラメータ(Cmax/MICやAUC/MIC、time above MIC)を設定し、そのターゲット値を決定することが可能である。また、供試細菌の再増殖が認められない、即ち耐性菌が出ない薬物量を決定することが可能である。
【0003】
一方で、中空糸膜を用いた透析技術も開発されている。例えば、高性能な中空糸膜を用いて、血液中の酸化LDLなどの過酸化脂質を除去し、エンドトキシンの血液への流入が少ない中空糸膜型人工腎臓が開発されている(特許文献1)。
【0004】
現在、様々な抗菌薬が上市されている。ピペラシリン(合成ペニシリン)とタゾバクタム(β-ラクタマーゼ阻害剤)の配合剤もその一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-341087号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中空糸膜を使用したコンパクトで高密度な連続細胞培養システム、[online]、VERITAS、[令和2年1月23日検索]、インターネット<https://www.veritastk.co.jp/products/images/Fibercell%20system%20flyer%2020181120.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のHFIMは、中空糸膜の分画分子量が20kDa(50%阻止、50%透過)であるため、当該分画分子量よりも分子量の大きい成分が中空糸膜を通過しにくい。これに対して、本発明者らは、単純に中空糸膜の分画分子量を大きくすればよいと考えたが、実際にはそれにより生体内の薬物動態の再現性が大きく低下することを見出した。
本開示は、少なくとも生体内の薬物動態の再現性の低下が抑制された、細菌に抗菌薬を適用する装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、
筒状ハウジングと前記筒状ハウジング内に収容された複数の中空糸膜とを含む、中空糸膜モジュールと、
前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗菌薬を含む溶液、及び、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記抗
菌薬を含む溶液を含む溶液槽と、
前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための第一の流路と、
前記中空糸膜モジュール外に排出された前記溶液を前記溶液槽へ供給するための第二の流路と、
を含み、
前記中空糸膜モジュールは、
その一方の開口部を含む第一の端部に、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための溶液供給口を有し、他方の開口部を含む第二の端部に、前記複数の中空糸膜の内側から前記溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出するための溶液排出口を有する、
細菌に抗菌薬を適用する装置であって、
前記中空糸膜は、その分画分子量が70kDa以上3000kDa以下である、
装置を提供する。
【0009】
前記装置は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を含むことを好ましい態様としている。
前記装置はまた、前記抗菌薬がβ-ラクタム系抗菌薬又は抗体抗菌薬であることを好ましい態様としている。
前記装置はまた、前記細菌がβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌であり、前記抗菌薬が分子量40kDa以上の抗菌薬であり、前記抗菌薬を含む溶液がβ-ラクタマーゼを含むことを好ましい態様としている。
【0010】
本開示はまた、
前記装置を用いて細菌に対する抗菌薬の抗菌能を測定する方法であって、
前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を播種する工程、
前記溶液供給口を通じて、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記抗菌薬を含む溶液を供給する工程、
前記溶液排出口を通じて、前記複数の中空糸膜の内側から前記抗菌薬を含む溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出する工程、及び
前記細菌の生細胞数を測定する工程
を含む、方法を提供することができる。
【0011】
前記方法は、前記抗菌薬がβ-ラクタム系抗菌薬又は抗体抗菌薬であることを好ましい態様としている。
前記方法はまた、前記細菌がβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌であり、前記抗菌薬が分子量40kDa以上の抗菌薬であり、前記抗菌薬を含む溶液がβ-ラクタマーゼを含むことを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、少なくとも、生体内の薬物動態の再現性の低下が抑制された、細菌に抗菌薬を適用する装置を提供するという効果を奏し得る。より詳しくは、中空糸膜の分画分子量を大きくした場合であっても生体内の薬物動態の再現性の低下が抑制された、細菌に抗菌薬を適用する装置を提供するという効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示における一実施態様に係る装置の概略図。
図2】本開示における一実施態様に係る実験の結果を示す図。
図3】本開示における一実施態様に係る実験の結果を示す図。
図4】本開示における一実施態様に係る実験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。このことは、後述する実施例についても同様である。
【0015】
[1.細菌に抗菌薬を適用する装置]
本開示の一態様は、
筒状ハウジングと前記筒状ハウジング内に収容された複数の中空糸膜とを含む、中空糸膜モジュールと、
前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗菌薬を含む溶液、及び、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記抗菌薬を含む溶液を含む溶液槽と、
前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための第一の流路と、
前記中空糸膜モジュール外に排出された前記溶液を前記溶液槽へ供給するための第二の流路と、
を含み、
前記中空糸膜モジュールは、
その一方の開口部を含む第一の端部に、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための溶液供給口を有し、他方の開口部を含む第二の端部に、前記複数の中空糸膜の内側から前記溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出するための溶液排出口を有する、
細菌に抗菌薬を適用する装置であって、
前記中空糸膜は、その分画分子量が70kDa以上3000kDa以下である、
装置である。
【0016】
<中空糸膜モジュール>
前記装置が含む中空糸膜モジュールは、筒状ハウジング内に複数の中空糸膜を含む。
【0017】
(筒状ハウジング)
前記筒状ハウジングの構成としては、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられているハウジングの構成を用いることができる。前記装置が含む、前記溶液供給口、前記溶液排出口を有する筒状ハウジングも公知であり、例えば、特許文献1に記載の人工腎臓においては、それぞれ、血液側入口、血液側出口に相当する。
前記筒状ハウジングについては、例えば、その幅方向の断面形状は、円形、多角形(好ましくは円形に近い多角形)などにすることができる。
また、筒状ハウジングの材質は、金属、合成樹脂などにすることができる。
また、筒状ハウジングの大きさ(内容量の大きさ)は、その内に収容する中空糸膜の合計本数などに応じて決めることができる。
【0018】
(中空糸膜)
前記複数の中空糸膜の各中空糸膜は、同一の性質を有する中空糸膜でもよく、異なる性質を有する中空糸膜でもよいが、同一の性質を有する中空糸膜であることが好ましい。
【0019】
前記中空糸膜の分画分子量は、例えば、膜間差圧0.1MPa:90%阻止、10%透過である場合には、良好な生体内の薬物動態の再現性を得るために分子量の大きい成分も中空糸膜を通過しやすいことから、また、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に、抗菌薬が蓄積することや、好ましい態様において前記抗菌薬を含む溶液がβ-ラクタマーゼを含む場合に当該β-ラクタマーゼが蓄積するのを抑制できることから、通常70
kDa以上、好ましくは150kDa以上、より好ましくは300kDa以上、さらに好ましくは400kDa以上である。一方、細菌が中空糸膜を通過することを抑制できることから、通常3000kDa以下、好ましくは2000kDa以下、より好ましくは1500kDa以下、さらに好ましくは1000kDa以下である。
尚、従来のHFIMでの送液圧力においては、中空糸膜内外の膜間差圧が0.01 MPaを下回る程度であり、単純に中空糸膜の分画分子量を5万(膜間差圧0.1MPa:90%阻止、10%透過
)程度にしただけでは、分子量が4万を上回る成分は中空糸膜を殆ど通過できない。
【0020】
また、前記中空糸膜の膜厚は、生体内の薬物動態の再現性の低下を抑制できれば特に制限されないが、通常15μm以上、好ましくは20μm以上であり、一方、通常600μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0021】
また、前記中空糸膜の内径は、生体内の薬物動態の再現性の低下を抑制できれば特に制限されないが、通常150μm以上、好ましくは170μm以上、さらに好ましくは200μm以上であり、一方、通常700μm以下、より好ましくは600μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。
【0022】
また、前記中空糸膜の外径は、生体内の薬物動態の再現性の低下を抑制できれば特に制限されないが、通常180μm以上、好ましくは190μm以上、さらに好ましくは200μm以上であり、一方、通常900μm以下、より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは700μm以下である。
【0023】
また、前記中空糸膜の本数は、生体内の薬物動態の再現性の低下を抑制できれば特に制限されないが、通常100本以上、好ましくは200本以上、さらに好ましくは300本以上であり、一方、通常5000本以下、より好ましくは4000本以下、さらに好ましくは3000本以下である。
【0024】
また、前記中空糸膜の材質は、生体内の薬物動態の再現性の低下を抑制できれば特に制限されないが、例えば、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリアクリトニトリル、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース等が挙げられる。
【0025】
また、前記複数の中空糸膜の両端部はポッティング剤などの封止剤を用いて、前記筒状ハウジングに格納することができる。
【0026】
前記中空糸膜モジュールの有効膜面積は、生体分子の十分な通過が可能であることから、好ましくは0.03m以上、より好ましくは0.07m以上、さらに好ましくは0.10m以上、最も好ましくは0.15m以上である。
一方で、中空糸膜モジュール部分をインキュベーター等に収納し、装置を効率的に稼働しやすいことから、好ましくは0.5m以下、より好ましくは0.4m以下、さらに好ましくは0.3m以下である。
前記中空糸膜モジュールの有効膜面積は、中空糸膜の有効長さを大きくすること、中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の本数を多くすることなどによって任意に大きく調整できるが、中空糸膜モジュール部分をインキュベーター等に収納する上で中空糸膜モジュールの長さが問題となることがあり、その場合には前記中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の本数をより多くすることが好ましい。
尚、前記中空糸膜モジュールの有効膜面積とは、前記中空糸膜の内径と、封止剤で覆われていない部分の長さと、本数との積によって算出される。
【0027】
中空糸膜の具体例としては、中空糸膜モジュールとして市販されているか、又は試験開
発品として入手可能な、FUS-0721やFUS-1041、FUS1582(ポリエーテルサルホン製分画分
子量15万)、FUC1582(酢酸セルロース製分画分子量15万)、FUC1583、FUY15E1(ポリア
クリロニトリル製分画分子量15万)、FUS5021(ポリエーテルサルホン製分画分子量50万
)(いずれも、ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社製)が含む中空糸膜、及びその他分画分子量15万~300万の中空糸膜が挙げられる。一例として、FUS-0721の牛血清ア
ルブミン100 ppmリン酸緩衝水溶液を中空糸膜の入口圧力0.1MPaで送液した際の牛
血清アルブミン透過率は30±20 %であり、その溶質透過率曲線によれば45kDa以下の溶質を100 %透過し、80kDa以上の溶質を100%阻止する。また、FUS-1041のコンアル
ブミン透過率は25±20 %であり、その溶質透過率曲線によれば65kDa以下の溶質を100 %透過し、105kDa以上の溶質を100%阻止する。FUS-0353のトリプシンインヒビタ
ー透過率は10±8 %であり、その溶質透過率曲線によれば5kDa以下の溶質を100 %透過し、45kDa以上の溶質を100%阻止する。
【0028】
(溶液供給口)
前記中空糸膜モジュールは、その一方の開口部を含む第一の端部に、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための溶液供給口を有する。前記溶液供給口は、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている構成であってよい。
【0029】
(溶液排出口)
また、前記中空糸膜モジュールは、他方の開口部を含む第二の端部に、前記複数の中空糸膜の内側から前記溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出するための溶液排出口を有する。前記溶液排出口は、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている構成であってよい。
【0030】
(溶液循環流路口)
前記中空糸膜モジュールは、図1のポンプ11の流路に示すように、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する前記溶液が、前記中空糸膜モジュール外との間で循環するように長さ方向上であって、前記第一の端部側及び前記第二の端部側に、溶液循環流路口を有することが好ましい。
このような構成にすることで、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する溶液を均一にすることができ、また、溶液のサンプリングをすることができる。また、好ましい態様である、前記装置が前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を含む場合には、細菌のサンプリングをすることもできる。当該溶液を均一にでき、溶液のサンプリングや細菌のサンプリングをすることができる限り、循環の向きは制限されない。
前記溶液循環流路口は、公知の中空糸フィルタや人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている構成であってよい。
【0031】
(中空糸膜モジュールの製造方法)
前記複数の中空糸膜を前記筒状ハウジングに格納する方法は特に限定されないが、例えば、次の方法が挙げられる。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ハウジングに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤などの固化する封止剤を入れる。このとき、封止剤を均一に充填するため、遠心機で筒状ハウジングを回転させながら封止剤を入れることができる。封止剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、ヘッダーを取り付けることで中空糸膜モジュールが得られる。
【0032】
<溶液槽>
前記装置は、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗
菌薬を含む溶液、及び、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記抗菌薬を含む溶液を含む溶液槽を含む。
【0033】
(前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗菌薬を含む溶液)
前記溶液槽が含む、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗菌薬を含む溶液としては、抗菌薬を含まない場合でも前記細菌が生存できる溶液であって、抗菌薬を含む限り特に制限されず、蛋白質等を含んでもよい。例えば、前記細菌の培養の際に用いられる溶液(培地)が挙げられる。好ましくは、抗生物質の感受性試験に使用される培地であり、具体例としては、ミューラー・ヒントン(Mueller-Hinton)培地やカチオン調整ミューラー・ヒントン(Cation-Adjusted Mueller Hinton Broth, CAMHB)培地等が挙げられる。
また、前記培地は、当該細菌の細胞の通常の培養に用いられる添加物を含んでよい。例えば、前記細菌の培養の際に用いられる血清が挙げられる。例えば、牛血清アルブミン分子量は66.5kDaである。
【0034】
前記溶液は、後述する第一の流路により、前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給される溶液である。前記溶液の組成は、後述する「送液系」欄の説明や実施例の説明に考慮して、前記細菌の種類や前記抗菌薬の種類などに応じて適宜設定することができる。
【0035】
(前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記抗菌薬を含む溶液)
前記溶液槽が含む、前記複数の中空糸膜の内側から前記中空糸膜モジュール外に排出された前記抗菌薬を含む溶液は、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に供給された前記抗菌薬を含む溶液が、前記複数の中空糸膜内を通過して排出される溶液である。この間、前記複数の中空糸膜の孔を通じて、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙との間で成分の交換等が行われる。
【0036】
<第一の流路>
前記装置は、前記溶液槽から前記複数の中空糸膜の内側に前記溶液を供給するための第一の流路を含む。
前記第一の流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、細菌の培養や抗菌薬の抗菌能を測定等する際に通常用いられる流路の構成であってよく、例えば、後述する「送液系」欄や実施例に記載する構成が挙げられる。
【0037】
<第二の流路>
前記装置は、前記中空糸膜モジュール外に排出された前記溶液を前記溶液槽へ供給するための第二の流路を含む。
前記第二の流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、細菌の培養や抗菌薬の抗菌能を測定等する際に通常用いられる流路の構成であってよく、例えば、後述する「送液系」欄や実施例に記載する構成が挙げられる。
【0038】
<溶液循環流路>
前記溶液循環流路は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する溶液を均一するための流路である。
前記溶液循環流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、細菌の培養や抗菌薬の抗菌能を測定等する際に通常用いられる流路の構成であってよく、例えば、後述する「送液系」欄や実施例に記載する構成が挙げられる。
【0039】
<送液系>
前記装置は、公知人工透析、人工腎臓、HFIMなどで用いられている必要な送液系を含んでよく、送液条件も適宜設定することができる。例えば、実施例に記載する送液系、送液条件が挙げられる。
【0040】
前記装置は、溶液槽の容量、第一の流路の容量、第二の流路の容量、溶液循環流路の容量、及び中空糸膜モジュール(ICS及びECSの両方を含む。)の容量の合計容量(本明細書では、「分布容積に相当する容量(ml)」と定義する。)が、例えば、100ml以上、110ml以上であり、一方で、次第に好ましくなる順に、200ml以下、160ml以下、140ml以下、120ml以下である。
前記分布容積に相当する容量は、生体内の薬物動態の再現性の低下を抑制するために通常の知識に基づいて設定することができる。分布容積などの薬物動態パラメータより、最大抗菌薬濃度Cmaxは、下記のようにして算出される。
【0041】
点滴静注中の抗菌薬量X (mg)の時間的変化は、下記の微分方程式(1)で表すことができ
る。
【数1】

式中、Xは抗菌薬量(mg)、tは点滴静注経過時間(h)、Kは注入速度定数(mg/h)、kelは消失速度定数(1/h)を示す。
前記微分方程式(1)は、下記式(2)に変換できる。
【数2】

式中、Cは抗菌薬濃度(mg/mL)、Vは分布容積(mL)を示す。
最大抗菌薬濃度Cmaxの場合、前記式(2)は、下記式(3)で表すことができる。
【数3】

式中、Cmaxは最大抗菌薬濃度(mg/mL)、Dは投与量(mg)、tmaxは点滴静注時間(h)
を示す。
前記式(3)は、分布容積V (mL)である場合に、投与量D (mg)を点滴静注するという状況
を示している。
この状況を分布容積に相当する容量VHFIM (mL)にスケールダウンした本態様に係る系で再現する場合、抗菌薬の投与量に相当する量をDHFIM (mg)とすると、前記式(3)は、
下記式(4)を前提として、下記式(5)で表すことができる。
【数4】

【数5】

式中、Cmax-HFIMはHFIMにおける最大抗菌薬濃度(mg/mL)を示す。
従って、HFIMで評価する抗菌薬の投与量を少なくするためには、HFIMにおける「分布容積に相当する容量(ml)」を少なくする必要がある。一方で、評価に用いる抗菌薬の投与量が少なすぎる場合は、投与量精度の調整が困難になったり、サンプリングによる投与量の誤差が無視できなくなったりするなどの不都合が生じる。そのため、「分布容積に相当する容量(ml)」は、評価の目的などに応じて、適宜設定することができる。
【0042】
前記装置は、前記「有効膜面積(m)」を、「分布容積に相当する容量(ml)」で除した値(m/ml)が、次第に好ましくなる順に、0.0001m/ml以上、0.0002m/ml以上、0.0003m/ml以上、0.0004m/ml以上、0.0005m/ml以上、0.0006m/ml以上、0.0010m/ml以上であり、一方で、例えば、0.0020m/ml以下、0.0018m/ml以下、0.0016m/ml以下、0.0014m/ml以下である。
有効膜面積(m)の大きい方が、溶液槽、第一の流路、第二の流路、溶液循環流路、及び中空糸膜モジュール(ICS及びECSの両方を含む。)における濃度均一性が高まり、生体内部位(血中や組織)における薬物動態の再現性が改善される。また、分布容積は小さい方が好ましいことから、分布容積に相当する容量(ml)の小さい方が好ましい。
【0043】
送液系の一例として図1の送液系について説明する。尚、次に記載する送液手段の具体例としては、例えばポンプが挙げられる。
本態様に係る装置は室温下で稼働してもよいが、細菌の生育のために、例えば、図1の破線枠内を35℃~38℃、好ましくは37℃に設定して稼働してもよい。
前記中空糸膜モジュール101外から前記複数の中空糸膜の内側に供給される抗菌薬を含む溶液は、例えば、前記溶液槽203から送液手段10により第一の流路301を通じて送液されてよい。
また、前記溶液排出口から前記中空糸膜モジュール101外に排出された溶液は、前記溶液槽203へ送液される。当該送液は送液手段10により第二の流路302を通じて行われてよい。
【0044】
前記装置は、例えば、溶液供給口の第一の流路301側、溶液排出口の第二の流路302側、及び2つの溶液循環口の溶液循環流路側の送液速度を調整でき、かつ、中空糸膜内外の膜間差圧を測定することができる。中空糸膜内外の膜間差圧については、例えば、実施例に記載の測定系により、通常の圧力計を用いて測定することができる。
中空糸膜内外の膜間差圧は特に制限されないが、0.001~0.02MPa程度にすることが好ましい。
これは従来のHFIMにおいて装置や流路の構成、例えば、材質や長さ、内径、外径等は、
細菌の培養や抗菌薬の抗菌能を測定等する際に通常用いられる構成(特に耐圧性)上の理由からである。
中空糸膜内外の膜間差圧を、0.05~0.2MPaに設定する場合には、分子量4万以上の抗菌薬、β-ラクタマーゼ、蛋白質を通過させるために中空糸膜の内外径を比較的小さくできる分画分子量70kDa未満の中空糸膜を使用でき、有効膜面積を大きくできる
ので、中空糸膜モジュールをコンパクトに設計しやすくなり有利となる。一方で、装置や流路の耐圧性の確保と、筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙から溶液槽に至る、細菌流出防止のためのフィルター等の機能を有する弁を有した第三の流路を設けることが必要となる。
【0045】
前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する溶液は、前記溶液循環流路303を通じて循環されてよく、例えば、送液手段11により循環されてよい。
【0046】
前記装置は、培地を含む槽202(例えば、培地ボトル)を含んでよい。
当該培地を含む槽202は、バックアップ用培地を含む別の槽201(例えば、バックアップ用培地ボトル)から送液手段5によって送液されてよい。
【0047】
前記抗菌薬が2薬(ここでは抗菌薬A、抗菌薬Bとし、半減期の短い方を抗菌薬A、半減期の長い方を抗菌薬Bとする。)である場合、前記装置は、抗菌薬Aを含む溶液を含む槽を含んでよい。前記抗菌薬Aを含む溶液を含む槽からの抗菌薬Aを含む溶液は、例えば、送液手段1によって送液されてよい。また、このとき、前記装置は、抗菌薬Bを含む溶液を含む槽を含んでよい。前記抗菌薬Bを含む溶液を含む槽からの抗菌薬Bを含む溶液は、例えば、送液手段2によって送液されてよい。尚、前記抗菌薬Aを含む溶液を含む槽、及び前記抗菌薬Bを含む溶液を含む槽は、例えば、シリンジポンプであってよい。
前記抗菌薬Aを含む溶液を含む槽から送液された抗菌薬Aを含む溶液と、前記抗菌薬Bを含む溶液を含む槽からの抗菌薬Bを含む溶液とは混合され、混合液ABとされて後述するマニフォールド304に接続されてよいが、前記抗菌薬Aを含む溶液を含む槽から送液された抗菌薬Aを含む溶液と、前記抗菌薬Bを含む溶液を含む槽からの抗菌薬Bを含む溶液とは混合されずに、それぞれ独立してマニフォールド304に接続されてもよい。
【0048】
一方、前記装置は、抗菌薬Bを含む溶液を含む第二の槽208を含んでよく、前記抗菌薬Bを含む溶液を含む第二の槽208からの抗菌薬Bを含む溶液は、例えば、送液手段3によって送液されてよい。
【0049】
前記装置は、培地を含む槽207を含んでよい。前記培地を含む槽207は、バックアップ用培地を含む別の槽206(例えば、バックアップ用培地ボトル)を含んでよく、送液手段7によって送液されてよい。
【0050】
前記装置は、希釈槽205を含んでよい。当該希釈槽205は、前記抗菌薬Bを含む溶液を含む第二の槽208から前記抗菌薬Bを含む溶液が送液される流路と、例えば、マニフォールド305を介して接続されていてよい。また、前記マニフォールド305は、前記培地を含む槽207からの流路と、例えば送液手段6を通じて接続されていてよい。
【0051】
前記混合液ABが送液される流路は、マニフォールド304に接続されてよい。また、前記抗菌薬Aを含む溶液を含む槽から送液された抗菌薬Aを含む溶液と、前記抗菌薬Bを含む溶液を含む槽からの抗菌薬Bを含む溶液とは混合されない場合には、それぞれ独立してマニフォールド304に接続されてよい。
前記マニフォールド304は、前記培地を含む槽202からの流路と、例えば送液手段4を通じて接続されてよい。また、前記マニフォールド304は、前記希釈槽205からの流路と、例えば送液手段8を通じて接続されてよい。また、前記マニフォールド304
は、前記溶液槽203へ送液する流路と接続されてよい。
【0052】
前記装置は、廃液槽204を含んでよい。当該廃液槽204は、例えば、前記溶液槽203から送液される溶液と、前記希釈槽205から送液される溶液とが混合する流路との間で接続されていてよい。また、例えば、送液手段9を通じて廃液を行ってよい。また、前記廃液槽204は、前記溶液槽203から送液される溶液と、前記希釈槽205から送液される溶液とが混合せずに、それぞれ独立した流路との間で接続されていてもよく、いずれの流路についても、適当な送液手段を通じて廃液を行ってよい。
【0053】
前記抗菌薬が2薬(ここでは抗菌薬A、抗菌薬Bとし、半減期の短い方を抗菌薬A、半減期の長い方を抗菌薬Bとする。)である場合、前記式(5)は、下記式(6)で表すことができる。
【数6】

式中、Cmax-HFIM-BはHFIMにおける抗菌薬Bの最大濃度(mg/mL)、CBは抗菌薬Bの調製濃度(mg/mL)、F1は抗菌薬Aを送液する送液手段1の流量(mL/h)、F2は抗菌薬Bを送
液する送液手段2の流量(mL/h)、F4は前記培地を送液する送液手段4の流量(mL/h)を示す。
また、前記CBは下記式(7)で表される。
【数7】

式中、DHFIM-Bは抗菌薬Βの投与量に相当する量(mg)、DBは抗菌薬Bの投与量(mg)
、VBは抗菌薬Bの分布容積(mL)を示す。尚、後述する実施例のように疑似薬を用いる場合には、濃度測定の下限値の都合から、適当な補正係数を掛けて調製濃度を高くしてよい。
また、F1及びF2は任意の設定値であり、F1=F2である。
F4は、下記式(8)で表される。
【数8】

式中、kel-Aは抗菌薬Aの消失速度定数(1/h)、kel-Bは抗菌薬Bの消失速度定数(1/h)を示し、VHFIM及びtmaxは任意の設定値である。
【0054】
前記抗菌薬が1薬である場合、前記装置の送液系は、抗菌薬が2薬である場合の前記系において送液系を適宜変更して、例えば、送液手段1、培地を含む槽202、送液手段4、バックアップ用培地を含む別の槽201、送液手段5、マニフォールド304、溶液槽203、送液手段10、中空糸膜モジュール101、送液手段11、第一の流路301、
第二の流路302、溶液循環流路303、送液手段9、廃液槽204を用いた送液系とすることができる。
【0055】
前記抗菌薬が1薬である場合、前記式(5)は、下記式(9)で表すことができる。
【数9】

式中、Cmax-HFIM-AはHFIMにおける抗菌薬の最大濃度(mg/mL)、CAは抗菌薬の調製濃度(mg/mL)、F1は抗菌薬を送液する送液手段1の流量(mL/h)、F4は前記培地を送液する
送液手段4の流量(mL/h)を示す。
また、前記CAは下記式(10)で表される。
【数10】

式中、DHFIM-Aは抗菌薬の投与量に相当する量(mg)、DAは抗菌薬の投与量(mg)、VA
は抗菌薬の分布容積(mL)を示す。尚、抗菌薬として疑似薬を用いる場合には、濃度測定の下限値の都合から、適当な補正係数を掛けて調製濃度を高くしてよい。
また、F1は任意の設定値である。
F4は、下記式(11)で表される。
【数11】

式中、kel-Aは抗菌薬の消失速度定数(1/h)を示し、VHFIM及びtmaxは任意の設定値で
ある。
【0056】
<抗菌薬>
本明細書において抗菌薬とは、細菌の増殖を抑制する薬剤、及び/又は細菌を死滅させる薬剤をいうものとする。すなわち、前記抗菌薬とは、前記細菌の増殖を抑制する能力、及び/又は前記細菌を死滅させる能力を有する抗菌薬である。前記抗菌薬の種類は、前記細菌の種類によって適宜選択することができる。また、前記抗菌薬は、1種でも2種でもよく、3種以上でもよい。2種の場合、3種以上の場合は、混合抗菌薬の形態であってよい。
【0057】
前記抗菌薬としては、例えば、β-ラクタム系抗菌薬、抗体抗菌薬(すなわち、抗体の形態である抗菌薬)が挙げられる。
β-ラクタム系抗菌薬の具体例としては、
ペニシリン系:ペニシリンG、アンピシリン、バカンピシリン、レナンピシリン、シクラシリン、アモキシシリン、ピブメシリン、アスポキシシリン、クロキサシリン、ピペラシリン、メチシリン;
複合ペニシリン系:アンピシリン、クロキサシリン;
β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系:アンピシリン、スルバクタム、クラブラン酸、アモキシシリン、ピペラシリン、タゾバクタム;
セフェム系:セファゾリン、セファロンチン、セファレキシン、セファトリジン、セフロキサジン、セファクロル、セファドロキシル、セフォチアム、セフメタゾール、フロモキセフ、セフミノックス、セフブペラゾン、セフロキシム、アキセチル、セフジニル、セフジトレン、ピボキシル、セフテラム、ピボキシル、セフポドキシム、プロキセチル、セフカペン、ピボキシル、セフォタキシム、セフトリアキソン、セフォペラゾン、セフメノキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフィキシム、セフォジジム、ラタモキセフ、セフチゾキシム、セフピロム、セフォゾプラン、セフェピム;
β-ラクタマーゼ阻害剤配合セフェム系:セフォペラゾン、スルバクタム;
カルバペネム系:イミペネム、シラスタチン、パニペネム、ベタミプロン、メロペネム、ビアペネム、ドリペネム、テビペネム;
モノバクタム系:アズトレオナム、スルバクタム、タゾバクタム、カルモナム;
ペネム系:ファロペネム
セファマイシン系:セフォキシチン、セフメタゾール、セフォテタン、セフブペラゾン、セフミノクス
等が挙げられる。
【0058】
前記抗体抗菌薬の具体例としては、ベズロトクスマブ等が挙げられる。
【0059】
近年、耐性菌の問題がクローズアップされてきているが、耐性菌の多くはβ-ラクタム系抗菌薬の分解酵素(β-ラクタマーゼ)を有することが知られており、治療としてβ-ラクタム系抗菌薬とβ-ラクタマーゼ阻害剤を併用することも多い。
更に、β-ラクタマーゼは、分子量20kDa~40kDaであり、耐性菌に有効な新規抗菌薬開発のためには、分子量40kDaを上回る成分が、HFIMの中空糸膜通過を容易にすることが重要である。
更に前記抗菌薬としては、分子量が40kDaを上回る抗体抗菌薬も挙げられる。
前記細菌が、β-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌である場合には、前記抗菌薬が分子量40kDa以上の抗菌薬であり、前記抗菌薬を含む溶液がβ-ラクタマーゼを含む態様も好ましい。また、当該分子量の上限は特に制限されないが、例えば、1000kDa以下である。
【0060】
前記抗菌薬は、また、製剤上、当該抗菌薬の通常の溶解に用いられる溶媒に溶解されたものであってよく、薬理的に許容され得る担体を含む溶液としてもよい。前記担体としては、例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、他の添加剤(例えば、防腐剤等)等が挙げられる。
【0061】
<細菌>
前記装置は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に前記細菌を含むことが好ましい。すなわち、前記装置の稼働前、稼働中、及び稼働後のいずれか一又はそれ以上の時期に、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に前記細菌を含むことが好ましい。
また、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に前記細菌を含むことは、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙で前記細菌を培養することであってよい。当該培養が前記装置の稼働前の培養である場合とは、いわゆる、前記細菌の前培養のことである。このとき、前記溶液は前記抗菌薬を含まない溶液として前記装置を稼働して前培養をしてもよい。
【0062】
前記細菌としては、前記抗菌薬により増殖が抑制される、及び/又は死滅する細菌であれば制限されない。好ましくは病原菌である。
具体例としては、ブドウ球菌属細菌(例えば、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)等)、レンサ球菌属細菌、肺炎球菌、腸球菌属細菌、モラクセラ(ブランハメラ)・
カタラーリス、大腸菌、シトロバクター属細菌、クレブシエラ属細菌、エンテロバクター属細菌、セラチア属細菌、プロテウス属細菌、プロビデンシア属細菌、インフルエンザ菌、緑膿菌、アシネトバクター属細菌、肺炎桿菌、モルガネラ・モルガニー、バクテロイデス属細菌、プレボテラ属細菌(但し、プレボテラ・ビビアを除く。)が挙げられる。
また、前記細菌が耐性菌である場合、該耐性菌は前記β-ラクタム系抗菌薬に対する耐性菌に限られず、他の耐性菌であってもよい。そのような場合、前記抗菌薬を含む溶液は、該耐性菌が耐性を有する抗菌剤を含んでよい。前記耐性菌の具体例としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メタロβ-ラクタマーゼ産生菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、β-lactamase非産生アンピシリン耐性インフ
ルエンザ菌(BLNAR)、多剤耐性緑膿菌(drug-resistant P.aeruginosa)、ESBL等が挙げられる。
【0063】
前記間隙における前記細菌の数は、細菌に対する抗菌薬の効果が判断できる数であれば特に制限されないが、好ましくは1×10cfu/ml以上、より好ましくは5×10cfu/ml、さらに好ましくは1×10cfu/ml以上である。一方で、前記中空糸膜モジュール内の溶液の循環を良好に保つことから、好ましくは1×10cfu/ml以下、より好ましくは5×10cfu/ml以下、さらに好ましくは1×10cfu/ml以下である。「cfu」は、colony forming unit(コロニー形成単位)であ
る。
【0064】
本明細書においては、一般的な定義とは異なるが、前記細菌はウイルスであってもよい。このとき、前記抗菌薬は抗ウイルス薬と読み替えるものとする。
【0065】
前記細菌がウイルスである場合、前記間隙におけるウイルスの数は、ウイルスに対する抗ウイルス薬の効果が判断できる数であれば特に制限されない。また、ウイルスの生育のために、通常のウイルスの培養に用いられる細胞等を共存させることができる。
【0066】
<顕微鏡観察>
前記装置の稼働前、稼働中、及び稼働後のいずれか一又はそれ以上の時期において、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する細菌を顕微鏡で観察するために、前記中空糸膜モジュールは、例えば、内部が観察できるように透明な材質で構成されてよい。また、観察時の対物レンズの作動距離が小さい場合には、内部が観察できるように一部の厚みが薄くされていてもよい。
前記顕微鏡は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する細菌が観察できれば特に制限されないが、例えば、共焦点顕微鏡が挙げられ、好ましくは正立顕微鏡である。また、観察には可視光や反射光を用いることが好ましい。
尚、ウイルスはその大きさが小さいため、顕微鏡を用いてウイルスを観察できない場合には、前記細菌はウイルスを含まなくてもよい。
【0067】
[2.細菌に対する抗菌薬の抗菌能を測定する方法]
本開示の他の態様は、
前記態様に係る装置を用いて細菌に対する抗菌薬の抗菌能を測定する方法であって、
前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を播種する工程、
前記溶液供給口を通じて、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記抗菌薬を含む溶液を供給する工程、
前記溶液排出口を通じて、前記複数の中空糸膜の内側から前記抗菌薬を含む溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出する工程、及び
前記細菌の生細胞数を測定する工程
を含む、方法である。
【0068】
前記細菌を播種する工程は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌を通常に播種できる限り、前記溶液を供給する工程及び前記溶液を排出する工程との間で順序は問わない。
【0069】
<細菌を播種する工程>
細菌の播種の方法は、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に細菌が播種され、前記装置が正常に稼働する限り特に制限されないが、例えば、溶液循環流路口から、例えばシリンジを用いて播種することができる。
【0070】
播種する細菌の数は、前記間隙における前記細菌の数と同様に設定できるが、前記装置の稼働日数と前記細菌の増殖速度との関係から適宜設定できる。例えば、予備的に、種々の細菌数で播種し、前記細菌の増殖速度を測定し、本試験の際の前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する細菌数が前記値の範囲内となるような条件を選択することによって、適宜設定することができる。
【0071】
前記細菌を播種する工程が、前記溶液を供給する工程及び前記溶液を排出する工程の前に行われる場合、前記細菌を播種した後、前記抗菌薬を含まない溶液を前記溶液として、前記装置を稼働して前培養をしてもよい。
【0072】
<溶液を供給する工程>
本方法は、前記溶液供給口を通じて、前記中空糸膜モジュール外から前記複数の中空糸膜の内側に前記抗菌薬を含む溶液を供給する工程を含む。当該工程の詳細については、前記態様の説明を援用する。
【0073】
<溶液を排出する工程>
本方法は、前記溶液排出口を通じて、前記複数の中空糸膜の内側から前記抗菌薬を含む溶液を前記中空糸膜モジュール外に排出する工程を含む。当該工程の詳細については、前記態様の説明を援用する。
【0074】
<前記細菌の生細胞数を測定する工程>
本方法は、前記細菌の生細胞数を測定する工程を含む。
前記抗菌薬の効果(抗菌能)がある細菌は、増殖が抑制され、及び/又は死滅する。そのため、前記抗菌能は、前記細菌の生細胞数を測定することで評価することができる。前記細菌の生細胞数を測定する方法としては、例えば、採取した培養液を寒天培地に塗布し、培養後のコロニー数をカウントする方法が用いられる。また、前記顕微鏡観察により一定領域内の生細胞を計数する方法や、細胞の生死状態を判定するために通常用いられる蛍光色素やトリパンブルーなどを用いて生細胞を計数する方法などが挙げられる。また、前記細菌がウイルスである場合の生ウイルス数を測定する場合は、常法を用いることができる。
【0075】
<その他の工程>
(溶液循環工程)
本方法は、前記溶液循環流路口を通じて、前記筒状ハウジングの内壁と前記複数の中空糸膜との間隙に存在する前記溶液を、前記中空糸膜モジュール外との間で循環させる工程を含むことが好ましい。当該工程の詳細については、前記態様の説明を援用する。
【実施例0076】
以下に実施例を記載するが、いずれの実施例も、限定的な意味として解釈される実施例
ではない。
【0077】
(血中濃度曲線の理論曲線の設定)
市中肺炎患者を対象としたタゾバクタム/ピペラシリン(配合比1:8製剤)の臨床薬理試験で得られた薬物動態のパラメータ(日本化学療法学会雑誌VOL.58 S-1, pp.11-28、2010年3月発行の表2)(タゾバクタムの分布容積:14.5±0.566 L、ピペラシリンの分布容積:13.4±0.519 L、タゾバクタムの全身クリアランス:9.38+0.0720×(Ccr-82.6) L/hr、ピペラシリンの全身クリアランス:8.74+0.0472×(Ccr-82.6) L/hrであり、平均±標
準誤差を示す。)を用いて、半減期の異なる当該抗菌薬2剤の併用投与による生体内の薬物動態の再現性を確認するために血中濃度曲線の理論曲線を新たに設定した。
【0078】
尚、以下の実施例では、タゾバクタムの疑似薬としてL-トリプトファンを用い、ピペラシリンの疑似薬として食塩を用いた。
2種の疑似薬は、相互に濃度の影響を与えることなく、それぞれ独立して水溶液濃度を簡易な方法で精度よく測定できるものが適宜選択できる。
そのため、タゾバクタムの疑似薬としてのL-トリプトファンの投与量を12mg、シリンジポンプ2で送液されたL-トリプトファンの濃度を2mg/mL、シリンジポンプ2の流量を0.200ml/分、シリンジポンプ1の流量を0.200ml/分、ポンプ4の流量を0.955ml/分、分布容積に相当する容量を150ml、点滴時間を0.5時間に設定し、前記計算式に基づく、最大濃度Cmax=(シリンジポンプ2で送液されたL-トリプトファンの濃度×シリンジポンプ2の流量)/(シリンジポンプ1の流量+シリンジポンプ2の流量+ポンプ4の流量)×(1-EXP(-(シリンジポンプ1の流量+シリンジポンプ2の流量+ポンプ4の流量)/分布容積に相当する容量×点滴時間))の算出式で、L-トリプトファンの最大濃度Cmaxを0.07mg/mlと算出した。
【0079】
分布容積に相当する容量を150mlに設定した理由は、中空糸膜モジュールの空間容積との兼ね合いと、分布容積14.5Lの単純相似倍率の1/100量に近く、かつ、ポンプ
送液速度計算上の切りの良い数字だからである。
タゾバクタムとピペラシリンとは、分布容積、全身クリアランスとも近似した数値となり、その半減期もほぼ同様の値で1時間程度になる。
半減期の異なる当該抗菌薬2剤の併用投与による生体内の薬物動態の再現性を確認するために、抗菌薬の代謝分解を再現する際には、通常は抗菌薬を含まない精製水(実際に細菌を用いる場合には培地であるが。)を溶液槽へ送液し、溶液槽中の抗菌薬濃度の希釈を行うが、今回は、タゾバクタムの疑似薬としてのL-トリプトファンを含む溶液を用いて希釈することで、タゾバクタムの疑似薬の半減期を1.5倍長い1.5時間程度に設定した理論曲線を作成した。
なお、半減期t1/2は、簡略化すると、t1/2=0.693×分布容積/全身クリアランスから求められる。
シリンジポンプ1で送液される、ピペラシリンの疑似薬としての食塩の投与量は、タゾバクタムの分布容積とあまり変わらないことから、今回は、タゾバクタムの疑似薬としてのL-トリプトファンの投与量12mgの100倍量である1200mgとした。最大濃度Cmaxは7mg/mlとなる。
【0080】
〔実施例1〕
(送液前の準備)
表1に記載する条件(分画分子量:70kDa、有効膜面積:0.03m、分布容積に相当する容量:150ml)の装置を用いた。
分布容積に相当する容量は、溶液槽203の容量、第一の流路301の容量、第二の流路302の容量、溶液循環流路303の容量、及び中空糸膜モジュール101(ICS及びE
CSの両方を含む。)の容量の合計容量である。
装置は図1に記載するように設置した。
装置を25℃の室内の実験台に設置した。また、送液ラインには、シリコンチューブ(ヤマト科学株式会社製Masterflex)、ポンプ10とポンプ11には、スムーズフローポンプ(タクミナ社製、型式QI、機種100)を用いた。
溶液槽203には、予め精製水(MilliQ水)50mlを仕込んだ。
中空糸膜モジュール101の溶液供給口及び溶液排出口を通じて、常時60ml/分で中空糸膜モジュール101に溶液供給した。また、常時15ml/分で溶液循環をした。
希釈槽205にも予め精製水(MilliQ水)150mlを仕込んだ。
【0081】
(送液)
送液開始から0.5時間は、図1の装置を下に記載したように操作した。
200mg/mlの食塩水溶液、及び2mg/mlのL-トリプトファン水溶液を、それぞれシリンジポンプ1とシリンジポンプ2を用いて、0.200ml/分の流量で、溶液槽203へ送液した。
槽202からポンプ4を用いて、0.955ml/分の流量で、精製水を、溶液槽203へ送液した。
その間、別の槽201からポンプ5を用いて、0.955ml/分の流量で、補給のための精製水を槽202へ送液した。
溶液槽203からポンプ9を用いて、2.032ml/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
この操作で、食塩及びL-トリプトファンのそれぞれの水溶液濃度は、最大濃度Cmax
が、7mg/mlおよび0.07mg/mlの近傍の数値になる。
また、これと同時に別途、2mg/mlのL-トリプトファン水溶液を、シリンジポンプ3を用いて、0.200ml/分の流量で前記希釈槽205へ送液した。
槽207からポンプ6を用いて、1.155ml/分の流量で、精製水を、希釈槽205へ送液した。
その間、別の槽206からポンプ7を用いて、1.155ml/分の流量で、補給のための精製水を槽207へ送液した。
希釈槽205からポンプ9を用いて、2.032ml/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
これらの送液開始から0.5時間後からの3.5時間は、図1の装置を下に記載したように操作した。
前記希釈槽205から前記L-トリプトファン水溶液を、ポンプ8を用いて、0.552ml/分の流量で溶液槽203へ送液した。
また、これと並行して、槽202に仕込まれた精製水を、ポンプ4を用いて、1.078ml/分の流量で溶液槽203へ送液した。
さらに、これと並行して、溶液槽203からポンプ9を用いて、2.446ml/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
槽207に仕込まれた精製水を、ポンプ6を用いて、1.078ml/分の流量で希釈槽205へ送液した。
希釈槽205からポンプ9を用いて、2.446ml/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
この操作で、送液開始およそ1.5時間後に食塩水溶液濃度は最大濃度Cmaxの半分の
濃度である3.5mg/mlになり、送液開始およそ2時間後、L-トリプトファン水溶液濃度は、最大濃度Cmaxの半分の濃度である0.035mg/mlになる。
【0082】
中空糸膜内外の膜間差圧は次のようにして測定した。溶液供給口の第一の流路301側、溶液排出口の第二の流路302側、及び2つの溶液循環口の溶液循環流路側の合計4箇
所に、三方活栓と圧力計(長野汎用計器製作所製、JISブルトン管圧力計)とを10 cm
の接続チューブを介して接続した。試験は室温条件下で行い、精製水(MilliQ水)又はカチオン調整ミューラー・ヒントン(Cation-Adjusted Mueller Hinton Broth, CAMHB)培
地で測定した。尚、複数の中空糸膜内の流量は60 mL/min、溶液循環流路の流量は15 mL/minであった。系全体に精製水(MilliQ水)又はCAMHBを満たし運転開始後3分後の圧力を確認した。
溶液供給口の第一の流路301側の圧力は、精製水(MilliQ水)を用いた場合は0.01 MPaであり、CAMHBを用いた場合は約0.005 MPaであった。溶液排出口の第二の流路302側、及び2つの溶液循環口の溶液循環流路側の圧力は値が小さすぎて測定できなかった。
【0083】
(サンプリング)
送液開始から0.5、1、2、3、及び4時間後、中空糸膜モジュール101の溶液循環口から溶液をサンプリングし、前記両疑似薬の濃度を、吸光度又は電気伝導率から測定した。
溶液中の成分が中空糸膜の内外を十分に通過する場合、溶液槽203中の溶液組成と中空糸膜モジュール101の溶液循環口からのサンプリング溶液組成が一致することになり、生体内の薬物動態の再現性を評価できる。
【0084】
(照合)
前記実施例1の操作による前記両疑似薬濃度の理論曲線と、前記両疑似薬の中空糸膜モジュール101内濃度の推移曲線とを照合した。
【0085】
〔実施例2~5〕
表1に記載するように条件を変更した以外は、実施例1と同様にした。
実施例3~5では、評価系をできるだけ小さくするために分布容積に相当する容量を、第一の流路301と第二の流路302を短くし、溶液槽203内の溶液量を減らすことで、115mlとした。
【0086】
〔比較例1〕
表1に記載するように条件を変更した以外は、実施例1と同様にした。
【0087】
〔参考例1〕
表1に記載するような条件であるFiber Cell Systems FCS-C2011(株式会社ベリタス)を用い、そのマニュアルに従って行った。
実施例1に記載した方法と同様にして送液圧力を測定したところ、溶液供給口の第一の流路301側の圧力は、精製水(MilliQ水)を用いた場合は目盛り0-約0.005 MPaを針が
往復する圧力であった。CAMHBを用いた場合も目盛り0-約0.005 MPaを針が往復する圧力であったが、精製水(MilliQ水)を用いた場合よりもその振幅は小さかった。溶液排出口の第二の流路302側、及び2つの溶液循環口の溶液循環流路側の圧力は値が小さすぎて測定できなかった。
【0088】
〔結果〕
前記理論曲線の0.5時間後における理論値(Cmaxに相当する)に対する、送液開始から0.5時間後におけるサンプルの濃度の相対誤差は、表1の通りである。当該相対誤差は、その値の絶対値が小さい方(すなわち、0に近い方)が、生体内での薬物動態をより良好に再現しているといえるものである。
【0089】
【表1】
【0090】
〔実施例6-1〕
(送液前の準備)
前記疑似薬の代わりにcefoxitin(分子量427.45)を用い、装置を下記のようにしたこ
と以外は実施例5と同様にした。
装置は図1に記載するように設置した。
送液ラインには、シリコンチューブ(ヤマト科学株式会社製Masterflex)、ポンプ10とポンプ11には、スムーズフローポンプ(タクミナ社製、型式QI、機種100)を用いた

溶液槽203には、予め精製水(MilliQ水)38mlを仕込んだ。
中空糸膜モジュール101の溶液供給口及び溶液排出口を通じて、常時60ml/分で中空糸膜モジュール101に溶液を供給した。また、常時100ml/分で溶液循環をした。
尚、希釈槽205、槽206、槽207、槽208、マニフォールド305、及びそれらに必要な送液手段はない系として実施した。
【0091】
(送液)
送液開始から0.5時間までは、図1の装置を下に記載したように操作した。
4mg/mLのcefoxitin水溶液を、シリンジポンプ1を用いて、0.2ml/分の流
量で、溶液槽203へ送液した。
槽202からポンプ4を用いて、1.05ml/分の流量で、精製水を、溶液槽203へ送液した。
その間、別の槽201からポンプ5を用いて、1.05ml/分の流量で、補給のための精製水を槽202へ送液した。
溶液槽203からポンプ9を用いて、1.875ml/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
これらの送液開始から0.5時間後からの3.5時間は、図1の装置を下に記載したように操作した。
槽202に仕込まれた精製水を、ポンプ4を用いて、1.25ml/分の流量で溶液槽203へ送液した。
さらに、これと並行して、溶液槽203からポンプ9を用いて、1.875ml/分の流量で、廃液槽204へ送液した。
【0092】
(サンプリング)
送液開始から0.5、1、2、3、及び4時間後において、溶液槽203中のcefoxitin濃度と中空糸膜モジュール101の左右の溶液循環口からのサンプリング溶液それぞれ
のcefoxitin濃度を、波長235nmでの吸光度から測定した。
【0093】
(結果)
実施例5と同様にして、前記理論曲線の0.5時間後における理論値(Cmaxに相当する)に対する、送液開始から0.5時間後におけるcefoxitin濃度の相対誤差を算出し
たところ、-25.34であった。本系において使用した装置で生体内の薬物動態の再現性が確認できた。
【0094】
〔実施例6-2〕
分画分子量を70kDaとしたこと以外は、実施例6-1と同様にした。
前記理論曲線の0.5時間後における理論値(Cmaxに相当する)に対する、送液開始から0.5時間後におけるcefoxitin濃度の相対誤差は、-29.67であった。本系におい
て使用した装置で生体内の薬物動態の再現性が確認できた。
【0095】
〔実施例7〕
実施例5と同じ中空糸膜モジュール101を用い、図1における溶液槽203、ポンプ10、ポンプ11、およびそれらをつなぐ第一の流路301、第二の流路302、溶液循環流路303のみを用いて、疑似物質としてオボアルブミン(44kDa)の中空糸膜通
過性能を確認した。
中空糸膜モジュール101の筒状ハウジングの内壁と複数の中空糸膜との間隙へ、オボアルブミン20mgを接種し、溶液槽203に仕込まれたオボアルブミンを安定分散させるための精製水を38ml仕込み、中空糸膜モジュール101の溶液供給口及び溶液排出口を通じて、常時60ml/分で中空糸膜モジュール101に溶液供給した。また、常時100ml/分で溶液循環をした。
運転開始の5分後と30分後に、溶液槽203、中空糸膜モジュール101の溶液循環口からサンプリングを実施し、トリフェニルメタン系色素であるCoomassie Brilliant Blue G-250(CBB G-250)を用いたタンパク質定量方法であるBradford法により、オボアル
ブミン濃度を定量した。
結果を図2へ記載した。尚、図2において、「ICS」とは溶液槽203からのサンプル
を示し、「ECS」とは中空糸膜モジュール101の溶液循環口からのサンプルを示し、「OVA」はオボアルブミンを示す。
5分後(ICS: 150 μg/ml、ECS: 178 μg/ml)、30分後(ICS: 170 μg/ml、ECS: 114 μg/ml)とも、溶液槽203と中空糸膜モジュール101の溶液循環口とで同じ程度の濃度のオボアルブミンが得られ、オボアルブミンが十分に中空糸膜を通過していることが確認できた。
【0096】
〔実施例8〕
分画分子量を70kDaとしたこと以外は実施例7と同様にして、オボアルブミン(44kDa)の中空糸膜通過性能を確認した。
結果を図3へ記載した。尚、図3において、「ICS」とは溶液槽203からのサンプル
を示し、「ECS」とは中空糸膜モジュール101の溶液循環口からのサンプルを示し、「OVA」はオボアルブミンを示す。
5分後(ICS: 12 μg/ml、ECS: 310 μg/ml)、30分後(ICS: 88 μg/ml、ECS: 136 μg/ml)とも、後述する比較例2の結果よりも、オボアルブミンが中空糸膜を通過したことが確認できた。
【0097】
〔比較例2〕
オボアルブミン(44kDa)を用いたこと以外は参考例1と同様にして、オボアルブ
ミン(44kDa)の中空糸膜通過性能を確認した。
結果を図4へ記載した。尚、図4において、「ICS」とは溶液槽からのサンプルを示し
、「ECS」とは中空糸膜モジュール101の溶液循環口からのサンプルを示し、「OVA」はオボアルブミンを示す。
5分後(ICS: 0、ECS: 304 μg/ml)、30分後(ICS: 0、ECS: 221 μg/ml)とも、オボアルブミンは、全く中空糸膜を通過しなかった。
【符号の説明】
【0098】
1~11 送液手段
101 中空糸膜モジュール
201 バックアップ用培地を含む別の槽
202 培地を含む槽
203 溶液槽
204 廃液槽
205 希釈槽
206 バックアップ用培地を含む別の槽
207 培地を含む槽
208 抗菌薬Bを含む溶液を含む第二の槽
301 第一の流路
302 第二の流路
303 溶液循環流路
304、305 マニフォールド
図1
図2
図3
図4