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特開2022-6529防災本管の板厚測定装置およびその方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022006529
(43)【公開日】2022-01-13
(54)【発明の名称】防災本管の板厚測定装置およびその方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/11 20060101AFI20220105BHJP
   G01N 29/38 20060101ALI20220105BHJP
   G01N 29/50 20060101ALI20220105BHJP
【FI】
G01N29/11
G01N29/38
G01N29/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020108804
(22)【出願日】2020-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000134925
【氏名又は名称】株式会社ニチゾウテック
(71)【出願人】
【識別番号】508337204
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ・エンジニアリング新潟
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】服部 洋
(72)【発明者】
【氏名】古田 久人
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】村上 丈一
(72)【発明者】
【氏名】小畠 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井上 正一
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA07
2G047AB01
2G047BA03
2G047BC11
2G047GG03
2G047GG05
2G047GG24
2G047GG36
(57)【要約】
【課題】防災本管の健全度診断方法において、より確実な、健全度診断方法を提供する。
【解決手段】鋳鉄管の内面側にモルタルライニングが施された防災本管の外面の腐食を検出する防災本管の板厚測定方法は、超音波探触子を用いて鋳鉄管の内部から超音波を放射して、鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から反射エコーを取得し(S11)、ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれのデータについて行い(S12~S14)、それぞれの信頼性の評価を決定木で行い(S15)。その結果に基づいて解の選定を行い(S16)、老朽化ランクの判定を行う(S17)。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄管の内面側にモルタルライニングが施された防災本管の外面の腐食を検出する防災本管の板厚測定方法であって、
超音波探触子を用いて鋳鉄管の内部から超音波を放射して、前記鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から、3つの反射エコーを取得するステップと、
取得した3つの反射エコーに、ゲート手法、相関処理、および深層学習を用いて反射エコーを検出し、老朽化の判定を行うステップと、
を含む、防災本管の板厚測定方法。
【請求項2】
老朽化の判定を行うステップは、ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれのデータについて行い、その結果に基づいて信頼性の評価を行う、請求項1に記載の防災本管の板厚測定方法。
【請求項3】
ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれのデータについて行い、その結果に基づいて信頼性の評価を行うステップは決定木を用いて行う、請求項2に記載の防災本管の板厚測定方法。
【請求項4】
ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれのデータについて行い、その結果に基づいて信頼性の評価を行うステップは深層学習を用いて行う、請求項2に記載の防災本管の板厚測定方法。
【請求項5】
老朽化の判定を行うステップは、取得した反射エコーに対して、個別に、ゲート手法、およびその信頼性評価、相関処理およびその信頼性評価、ならびに、深層学習およびその信頼性評価の3つの処理を行い、その結果に基づいて老朽化の判定を行う、請求項1に記載の防災本管の板厚測定方法。
【請求項6】
取得した反射エコーに対して、個別に、ゲート手法、およびその信頼性評価、相関処理およびその信頼性評価、ならびに、深層学習およびその信頼性評価の3つの処理を行い、その結果に基づいて老朽化の判定を行うステップは、決定木を用いて行う、請求項5に記載の防災本管の板厚測定方法。
【請求項7】
取得した反射エコーに対して、個別に、ゲート手法、およびその信頼性評価、相関処理およびその信頼性評価、ならびに、深層学習およびその信頼性評価の3つの処理を行い、その結果に基づいて老朽化の判定を行うステップは、深層学習を用いて行う、請求項5に記載の防災本管の板厚測定方法。
【請求項8】
鋳鉄管の内面側にモルタルライニングが施された防災本管の外面の腐食を検出する防災本管の板厚測定装置であって、
前記鋳鉄管の内部に配置される超音波探触子と、
前記超音波探触子を用いて前記鋳鉄管の内部から超音波を放射して、前記鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から、3つの反射エコーを受信する受信部と、
前記受信部が受信した3つの反射エコーに、ゲート手法、相関処理、および深層学習を用いて老朽化の判定を行う判定部と、
前記判定部の判定した信頼性を判定する信頼性判定部と、
を含む、防災本管の板厚測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は防災本管の板厚測定装置およびその方法に関し、特に、防災本管の腐食を確実に検出できる、防災本管の板厚測定装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄管の内面にモルタルライニングが施された防災本管は、例えば、高速道路トンネルに設置されている防災本管として使用されている。防災本管は、トンネル内に埋設され、消火用の水が充填された配管のことである。このような防災本管の劣化は、管内面に挿入した回転式超音波システムによりその外面腐食を測定している。この状態を図19に示す。図19(A)は、外面腐食を測定している模式図であり、図19(B)は、測定された各反射エコーS,IおよびBの強度を示す図である。
【0003】
図19を参照して、回転式超音波システムは、モルタル内面からの反射エコー(モルタル表面エコーS)、モルタルと鋳鉄管の境界面からの反射エコー(モルタル-鋳鉄管の境界面エコーI)、鋳鉄管の外面からの反射エコー(鋳鉄管外面エコーB)を検出する。
【0004】
図20は、従来の回転式超音波システムによる厚さ測定を行う場合のエコー強度を示すグラフである。図20(A)は、IエコーとBエコーにゲートをかけ、その間隔を厚さとして読み取る方法を示す図であり、鋳鉄管外面が健全または腐食が軽微な場合を示す図である。図20(B)は、鋳鉄管外面の腐食が顕著な場合のIエコーとBエコーにゲートをかけ、その間隔を厚さとして読み取る方法を示す図である。
【0005】
なお、従来は、この方法に、ソフトウエア上で設定するゲート手法を用いている。
【0006】
ゲート手法においては、反射エコーは、ゲート設定後に閾値法またはピーク法によってエコーを抽出する(図21参照)。閾値法(図21(A))は、ゲート範囲内で最初に閾値を超えた位置を反射エコー位置とする。ピーク法(図21(B))は、ゲート範囲内の最大の位置を反射エコー位置とする。
【0007】
なお、ピーク法において、上側の閾値を越えた位置のみを検出する方法をピーク法(上、上)といい、上下の閾値を越えた位置を検出する方法をピーク法(上、下)という。
【0008】
しかし、閾値法、ピーク法において、それぞれ以下の問題がある。図22および図23はこれらの問題点を示す図である。
【0009】
図22を参照して、ここでは、SエコーとIエコーとは所定の閾値を越えているが、Bエコーとなるべきエコーは閾値より小さいため、検出できない。すなわち、閾値法では、図22のように、反射エコーが閾値より小さい場合に検出できない。
【0010】
図23は、ピーク法の問題点を示す図である。ピーク法では、本来のエコー位置に拘わらず、鋳鉄からの反射エコーがなくても、ゲート範囲内で一番高いエコーを検出するため、誤検出につながる。図23の波形では、Bエコーが存在しておらず、モルタルと鋳鉄が剥離していることが考えられる。実機でも剥離は想定され、その場合は剥離と判断する必要がある。以上のように、ゲート手法では、見落としや誤検出が発生する可能性がある。
【0011】
このような、配管内部を診断する診断装置が、例えば、特開2019-45710号公報(特許文献1)に開示されている。特許文献1によれば、配管内部を撮像して観察・診断する際に、配管の長短に関わらず、配管全長の観察・診断に適用でき、かつ、配管内部の撮像観察位置(例えば、劣化個所(腐食個所、損傷個所、欠陥個所等)の位置)を精度よく特定することができる配管内部診断装置開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2019-45710号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1は、ゲート手法についての問題点についての記載はない。
【0014】
この発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので、防災本管の健全度診断方法において、より確実な、診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明に係る、鋳鉄管の内面側にモルタルライニングが施された防災本管の外面の腐食を検出する防災本管の板厚測定方法は、超音波探触子を用いて鋳鉄管の内部から超音波を放射して、鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から、3つの反射エコーを取得するステップと、取得した3つの反射エコーに、ゲート手法、相関処理、および深層学習を用いて反射エコーを検出し、老朽化の判定を行うステップと、を含む。
【0016】
好ましくは、老朽化の判定を行うステップは、ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれのデータについて行い、その結果に基づいて信頼性の評価を行う。
【0017】
ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれのデータについて行い、その結果に基づいて信頼性の評価を行うステップは決定木を用いて行ってもよいし、深層学習を用いて行っても良い。
【0018】
この発明の一実施の形態においては、老朽化の判定を行うステップは、取得した反射エコーに対して、個別に、ゲート手法、およびその信頼性評価、相関処理およびその信頼性評価、ならびに、深層学習およびその信頼性評価の3つの処理を行い、その結果に基づいて老朽化の判定を行う。
【0019】
取得した反射エコーに対して、個別に、ゲート手法、およびその信頼性評価、相関処理およびその信頼性評価、ならびに、深層学習およびその信頼性評価の3つの処理を行い、その結果に基づいて老朽化の判定を行うステップは、決定木を用いて行ってもよいし、深層学習を用いて行ってもよい。
【0020】
この発明の他の局面においては、防災本管の板厚測定装置は、鋳鉄管の内面側にモルタルライニングが施された防災本管の外面の腐食を検出する。防災本管の板厚測定装置は、鋳鉄管の内部に配置される超音波探触子と、超音波探触子を用いて鋳鉄管の内部から超音波を放射して、鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から、3つの反射エコーを受信する受信部(入出力部)と、受信部が受信した3つの反射エコーに、ゲート手法、相関処理、および深層学習を用いて老朽化の判定を行う判定部と、判定部の判定した信頼性を判定する信頼性判定部と、を含む。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、超音波探触子を用いて防災本管の内部から超音波を放射して、鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から反射エコーを取得し、取得した反射エコーに、ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理を適用して老朽化の判定を行うため、より確実な、防災本管の健全度診断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】この発明の一実施の形態に係る管厚測定装置のブロック図である。
図2】この発明の一実施の形態に係る処理手順を示すフローチャートである。
図3】相関処理後データの生成方法を示す図である。
図4】相関処理による反射エコーの抽出手順を示す図である。
図5】相関処理と相関処理4乗とを示す図である。
図6】深層学習による反射エコーの抽出手順を示す図である。
図7】画像化による認識のイメージを示す図である。
図8】数値を用いた認識のイメージを示す図である。
図9】画像化した場合と画像化しない場合との実測値と計測値の比較を示す図である。
図10】画像化した場合と画像化しない場合との誤差の分布を示す図である。
図11】試験体の全体構成を示す図である。
図12】試験体を示す図である。
図13】試験体を示す図である。
図14】管厚マップを示す図である。
図15】各手法の管厚マップを示す図である。
図16図2に示した処理手順の詳細を示すフローチャートである。
図17】決定木のイメージを示す図である。
図18】各手法の管厚マップに決定木と深層学習を適用した場合の結果を示す図である。
図19】外面腐食を測定している模式図および測定された各反射エコーS,IおよびBの強度を示す図である。
図20】従来の回転式超音波システムによる厚さ測定を行う場合のエコー強度を示すグラフである。
図21】ゲート手法にける反射エコーの抽出方法を示す図である。
図22】閾値法における問題点を示す図である。
図23】ピーク法における問題点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。この実施の形態においては、鋳鉄管の内面側にモルタルライニングが施された防災本管の外面の腐食を検出する防災本管の板厚測定装置および方法において、超音波探触子を用いて鋳鉄管の内部から超音波を放射して、鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から反射エコーを検出し、検出した反射エコーに、従来用いてきたゲート手法、相関処理、および深層学習を用いて老朽化の判定を行うシステムである。
【0024】
図1は、この発明の一実施の形態に係る、鋳鉄管の内面側にモルタルライニングが施された防災本管の外面の腐食を検出する、防災本管の板厚測定装置のブロック図である。
【0025】
図1を参照して、防災本管の板厚測定装置10は、防災本管の内部で板厚を測定するために、超音波を発信する探触子30と、探触子30に接続されたパソコンのような制御部20とを含む。制御部20は、制御部20全体を制御するCPU21と、CPU21に接続された、探触子30からのデータを入出力する、入出力部22と、判定部23と、表示部(ディスプレイ)24と、波形処理部25と、信頼性判定部26とを含む。
【0026】
なお、判定部23、波形処理部25、および信頼性判定部26は、パソコンで実行される、図示のないアプリケーションの機能で達成される。
【0027】
図2は、図1に示したCPU21の処理手順を示すフローチャートである。図2を参照して、CPU21は、超音波探触子を用いて防災本管の内部から超音波を放射して、防災本管の外面、内面、およびモルタルの内面から反射エコー(データ)を取得するステップ(S01)と、取得したデータに基づいて防災本管の老朽化の判定を行うステップ(S02)と、を含む。
【0028】
ここで、従来用いてきたゲート法以外のこの実施の形態に係る、各処理方法について説明する。まず相関処理について説明する。相関処理では、相関係数を用いる。相関係数は2つの確率変数の間にある線形関係の強弱を測る指標である。相関係数は、無次元量で、-1以上1以下の実数である。相関係数が正のとき確率変数には正の相関が、負のときは確率変数に負の相関があるという。又、相関係数が0のとき、確率変数は無相関であるという。長さnの時系列x,yがある場合の相関係数は数(1)で計算される。
【0029】
【数1】
【0030】
ここでは、xを計測データ、yを事前に獲得した反射エコーとし、その相関係数を計算することで、反射エコーを抽出する。どちらの場合も確率変数では無いが、相関係数は類似度を測定するための1つのパラメータとして、一般的に用いられているため、適用可能である。
【0031】
ここでは、相関係数とその位置のエコー高さの積を相関処理後データと呼び、相関処理後データ用いてエコー位置の抽出を試みる。相関処理後データの生成方法を図3に示す。
【0032】
図3(A)に示すように、最初に、各反射エコーの標本を準備する。ここでは、健全部1点から得られたIエコーを参照データとした。この参照データは、検査技術者による判断ならびに超音波による計測で得られた真値と一致していることが確認できた点での波形を抽出した。図3(B)に示すように、この参照データをずらしながら探傷波形との相関係数を算出し、その相関係数と探傷波形を掛け合わせで相関処理後データを得る。相関処理後データを用いたエコー抽出フローを図4に示す。
【0033】
図4を参照して、まず、上記したように、Sエコー、Iエコー、Bエコーの標本を準備する(図4(A))。次にSエコーを抽出する(図4(B))。Sエコーの想定範囲内で、相関処理後データが最も高いところをSエコー位置とする。同様に、IエコーおよびBエコーの想定範囲内で、相関処理後データが最も高いところを、それぞれ、Iエコー、Bエコー位置とする(図4(C)および図4(D))。このデータに基づいて、板厚を計算する(図4(E))。なお、IエコーとBエコーの位相が反転している場合は、剥離と見なす。
【0034】
相関処理を行うことで、それぞれの反射エコーが分離され、ピークが明瞭になり、精度が向上する。
【0035】
相関処理では、相関係数と探傷波形を掛け合わせた相関処理後データを用いて探傷を行っているが、エコー高さによっては相関係数の影響が小さくなる。このことから、波形処理後データを相関係数の4乗と探傷波形の積とする方法を検討する。このことにより、相関係数の影響が大きくなり、波形の分離がより容易になると考えられる。相関係数をそのまま利用した場合と4乗した場合の比較を図5に示す。
【0036】
図5に示す通り、生波形ではIエコーの位置が不明瞭であるが、相関処理によってそれぞれの反射エコーの分離が可能となっている。しかしながら、相関処理では、Iエコーとみられる範囲が広くピークの位置が不明瞭であり、前半部と後半部に2つのピークがみられる。この時に、どちらの位置をピークとみなすかで板厚が大きく異なるため、精度のバラつきに繋がる。一方で、相関処理(4乗)であれば、Iエコーのピーク位置が明瞭になるため、誤差の発生を抑制できると考えられる。
【0037】
そこで、ここでは、相関処理を4乗した値、すなわち、相関処理(4乗)も同様に検討した。
【0038】
次に、深層学習による板厚測定について説明する。ここでは、反射エコーを識別するネットワークをひとつ構築し、S、I、Bそれぞれのエコーを抽出し、板厚測定を行う。深層学習を用いた板厚測定を図6に示す。図6(A)を参照して、最初に学習に必要な教師データを準備する。相関係数の際は、反射エコーのみで計算が可能であるが、深層学習では反射エコーの波形だけではなく、反射エコー以外の波形が必要となる。ここでは、S、I、Bそれぞれの反射エコーを教師データとして用いるが、抽出位置が真値と一致しているとみられるデータのみを使用した。非反射エコーについては、反射エコーが見られない波形を無作為に抽出した。
【0039】
相関処理では、事前に参照データとした反射エコーと相関の高い波形を探すため、比較的高いエコーがあれば相関係数が大きくなる傾向にあるが、パターン認識では、反射エコーと反射エコーではないものを提示、学習することでより精緻な判定が可能になると考えられる。すなわち、反射エコーと非反射エコーのどちらに近いかを判定するため、比較的反射エコーに形状が似ている非反射エコーを教師に入れることで、反射エコーのみを抽出することが可能になる。
【0040】
次に、学習のために写像変換パラメータの調整を行う(図6(B))。次に、Sエコー、Iエコー、Bエコーについてそれぞれのエコーの想定範囲内で各エコーを抽出する(図6(C)~図6(E))。ここでも、1データずつずらしながら反射エコーの判定を行い、最も確率の高い波形を反射エコーとみなすこととし、基本的な考え方は相関処理と同様である。その後、板厚の計算を行う(図6(F))。
【0041】
次に、時系列を対象とした深層学習について説明する。深層学習は画像認識が主であるが、本対象では波形を用いた手法を用いるほうが効率は良いと考えられる。
【0042】
そこで、(a)振動応答等を画像に変換して学習を行う方法と、(b)時系列波形をそのまま学習を行う2種類の検討を実施した。
【0043】
画像に変換した認識においては、数値データをグラフ化することで画像データとして扱う方法である。画像化による認識のイメージを図7に示す。
【0044】
この方法では、グラフの格子データも含めて入力するため、無駄な画像化が行われる。
【0045】
数値をそのまま入力する方法は、深層学習の基本処理を時系列に対して行うことで学習を行う。転移学習で使用しているネットワークは画像を対象としているため、転移学習は適用できず、ネットワークを一から構築する必要がある。数値を用いた認識のイメージを図8に示す。
【0046】
上記以外に、数値データをグラフによる画像化をせずに、数値のまま入力し、判定を実施することで数値データが持つ特徴を捉えることができる可能性がある。また、画像化の時間の削減も可能となる。
【0047】
この方法について、反射エコー500件、その他の波形500件を学習し、板厚を実測した225か所について板厚値の算定を実施することで検証を行った。図9に実測値と計算値の比較、図10に誤差のヒストグラムを示す。両図とも画像化による方法(図9(B),図10(B))と画像化しない方法(図9(A),図10(A))の比較として示している。225か所のうち、画像化しない方法では49か所、画像化による方法では21か所については、Bエコーが自動検出できなかったため、残りのデータを対象としている。検出不可の箇所は、剥離個所も含まれているが、反射エコーが小さく検出できないものや単純な検出漏れも含まれる。
【0048】
図9においては、カウント数を図の右に斜線のグラデーションで示しているが、黒丸で囲んだ箇所が概ね一致している個所であり、特に約6mmのところで濃い斜線で示す健全部での一致が非常に多い。一方で、点線で示す部分は剥離個所と考えられ、Iの繰り返しエコーをBエコーと認識している。誤差のヒストグラムを示す図10にあるように、画像化しない場合では、大半のデータは誤差0.25mm以下であり、誤差0.5mm以下を正解とした場合約67%、誤差1.0mm以下を正解とした場合約85%の正解率である。ただし、健全部が非常に多く、健全部以外での精度向上を目指す必要がある。
【0049】
さらに、画像化しない場合の学習時間は1000データを300回学習したが、15分程度であり、画像化した場合の計算速度(2時間半程度)を大幅に下回っている。
【0050】
次に、この評価で使用した試験体について説明する。図11図13にここで使用した試験体を示す。図11は、ここで使用した試験体を示す図である。図11に示すように、A~Dの4つの試験体を用意した。それぞれの寸法は、径が150mで、長さが250mmであり、モルタルライニング厚さが4mmで、鋳鉄管厚さが6.5mmである。
【0051】
図12および図13は、試験体の探傷範囲と加工きず形状を示す図である。図12(A)および図12(B)が試験体AおよびBを示し、図13(A)および図13(B)が試験体CおよびDを示す。
【0052】
図12(A)に示すように、試験体Aは、長手方向において、端部から50mmの位置を測定の原点とし、そこから、10mm離れた位置、25mm離れた位置を中心として、直径10mm、深さ1.5mmの穴を設ける。その後、25mm離れた位置、およびさらに25mm離れた位置を中心として、直径7mm、深さ1.5mmの穴を設ける。その後、15mm離れた位置、およびさらに15mm離れた位置を中心として、直径5mm、深さ1.5mmの穴を設ける。その後、さらに、15mm離れた位置、およびさらに15mm離れた位置を中心として、直径3mm、深さ1.5mmの穴を設ける。
【0053】
なお、図中、深さとして示した数値は設計値であり、(1.6mm)等の括弧で囲んだ数値は、実測値である。
【0054】
図12(B)は、試験体Bを示す図12(A)と同様の図である。ここでは、深さの設計値が2.5mmの場合を示す。ここでも、括弧で囲んだ数値は、実測値である。
【0055】
図13(A)は、試験体Cを示す図12(A)と同様の図であり、ここでは、穴の深さは4mmである。また、括弧で囲んだ数値は、実測値である。
【0056】
図13(B)は、試験体Dを示す、12(A)と同様の図である。ここでは、直径10mmで深さが7mmの穴が100mmの間隔で設けられている。
【0057】
次に老朽化ランクについて説明する。老朽化ランクは、関連する各種の団体で異っており、絶対的なものは存在しないので、ここでは、表1に示す例で説明する。表1を参照して、残存板厚に応じてI~IV、およびV-1,V-2の6段階の老朽化ランクに区分されている。抽出した反射エコーの位置の差から老朽化ランクを算出する。
【0058】
【表1】
【0059】
次に、管厚マップについて説明する。管厚マップは、計測位置の鋳鉄管の残存板厚を図式的に示すものであり、図14にその一例を示す。ここでは、残存板厚をハッチングの太さや向きで表示している。細いハッチングは減肉がなく(厚さ6mm以上)、減肉が大きくなるほど太い右上(厚さ5~6mm)、黒(厚さ4~5mm)、太い右下(厚さ2.7~4mm)のハッチングになり、白は減肉が多い(厚さ2.7mm以下、これは検出不可も含む)場合を示す。
【0060】
図15に各手法の管厚マップの例を示す。図15は、管厚の元の状態を表す真値、ゲート法(ここでは、閾値法による場合とピーク法(上上)による場合、ピーク法(上下)による場合)、深層学習による場合、相関処理による場合(ここでは、相関処理と相関処理(4乗))、および深層学習による場合の3つの手法で得られた管厚マップを示す図である。
【0061】
真値において、背景のハッチングが健全部であり、白抜きで表示される部分がきずを示す。各手法において、健全部で背景のハッチングと異なれば、誤検出であり、きず部で背景のハッチングと同じであれば見落としであり、それ以外の表示(黒や、右上、右下の太いハッチングであれば、きずの過小評価であり、上記したように、太い右上、黒、太い右下の重で過小評価の度合いが小さくなる。
【0062】
上記を元にすると、図15より、次の知見が得られる。
【0063】
しきい値法は、全体的に精度が低く、反射エコーを検出できない事例が散見される。ピーク法(上上・上下)は、きず検出は可能であるが、きず深さは過小評価となる。深層学習や相関処理では、きず深さの過小評価は軽減されるが、健全部での誤検出が増加する。相関処理(4乗)は、剥離検知・きず深さ同定が可能であるが、きずの誤検出が増加している。
【0064】
次に、上記を考慮して、この実施の形態で用いた処理フローチャートについて説明する。
【0065】
図16は、図2のS02で説明した、老朽化判定を行うフローチャートを示す。ここでは、2つのフローチャートを示している。図16(A)は、第1の方法を示すフローチャートであり、図16(B)は、第2の方法を示すフローチャートである。
【0066】
なお、ここで示す、超音波探触子30を用いて鋳鉄管の内部から超音波を放射して、鋳鉄管の外面、内面、およびモルタルの内面から、3つの反射エコーを取得し、取得した3つの反射エコーに、ゲート手法、相関処理、および深層学習を用いて老朽化の判定を行う処理は、上記したように、探触子30に接続されたパソコンのような制御部20で実行される、図示のないアプリケーションの機能で達成される。
【0067】
まず、第1の方法について説明する。
【0068】
図16(A)を参照して、まず、図1に示した探触子30から制御部20の入出力部を介してデータを取得し(S11)、波形処理部25がゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれのデータについて行う(S12~S14)。それぞれの信頼性の評価を信頼性判定部26が決定木で行う(S15)。その結果に基づいて判定部23が解の選定を行い(S16)、老朽化ランクの判定を行う(S17)。
【0069】
取得した反射エコーに、ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理を適用して老朽化の判定を行うため、それぞれの処理方法の特性を生かして老朽化の判定をすることができる。その結果、より確実な、防災本管の健全度診断方法を提供できる。
【0070】
なお、それぞれの処理方法の具体的な特性は後述する。
【0071】
第1の方法では、決定木を用いた。決定木とは、木構造を用いて分類等を行う機械学習のひとつである。決定木のイメージを図17に示す。図17を参照して、決定木は入力ベクトルx(1,…,n)と出力クラスからなる複数の教師のペアを与え、その誤差が最小になる要因、入力ベクトルから出力ベクトルの関係を導出するルールを作成する。
【0072】
図17に示すように、入力値の値の大小で遷移するため、ルールが明確であり、ブラックボックス化されないという利点がある。
【0073】
ここでは、各手法で判定されたBエコーのエコー高さと板厚の12個のデータと、相関係数および相関係数(4乗)の相関係数、深層学習によるBエコーの尤度の計15のデータを入力し(図17におけるxi)、出力をその時に誤差の最も小さかった手法(図17におけるクラス)とした。なお、実際に用いた決定木の詳細は省略するが、一つの例では、誤差の小さかった手法としては、ピーク法上上、ピーク法下下、深層学習、相関処理、相関処理(4乗)、および閾値法の6つであった。
【0074】
また、試験体は○穴で、画像の真値が矩形で表されているのは、らせん状に探傷しているものを、断面で探傷しているように図示していることから、若干横方向に圧縮されるためである。
【0075】
次に、第2の方法について説明する。第2の方法は、取得したデータ(S21)に対して、ゲート手法、相関処理、および深層学習の3つの処理をそれぞれ、信頼性の評価のデータについて同時に試行し(S22~S27)、解の選定を行って(S28)、老朽化の判定を行う(S29)。それぞれの処理を行う図1の部分は、第1の方法と同様である。
【0076】
この信頼性の評価においては、深層学習を用いた。それぞれの手法において、抽出されたBエコーを入力、出力をその判断(板厚)の信頼性とした。信頼性は、既知のデータに対して誤差が0.5mm下であれば「1:信頼あり」、それ以外であれば「0:信頼なし」として値が1に近いほど信頼できると評価した。最終判断は、信頼性が最も高かった手法が判断した板厚値をシステムの解とした。
【0077】
この評価においては、各手法において抽出したBエコーの波形を入力、出力をその時の誤差の大きさ(1:0.5mm未満、0:0.5mm以上の2値)とし、学習を行った。すなわち、過去に正解しているか、不正解になっているかの2クラス問題として学習した。Bエコーのイメージは、図6に示したとおりで、エコー高さや減衰などが異なっており、どのような波形をBエコーと判断した場合に、誤差が小さいかを判定することが可能となる。なお、この深層学習は手法毎に作成するため、今回は6つ作成した。
【0078】
誤差が小さかったBエコーであると判定される確率を信頼度とすることで、過去に誤差が小さかったBエコーに似ている場合に1、過去に誤差が大きかったBエコーに似ている場合に0となる。
【0079】
なお、ここでは、実際に用いた手法ごとの具体的な信頼性のデータは省略している。
【0080】
図18に、上記した2つの方法によって得られた結果を示す。ここで、上の各手法は図16と同じデータであり、決定木と深層学習による選定のみが異なる。
【0081】
図18を参照して、結果の判定方法について説明する。画像において、「真値」で示した矩形状の白抜き部分をその下方にそのままたどって、そこに白い部分があれば、正確に判定されている、と判断できる。
【0082】
そうでなければ(ここが「真値」における白抜きでない「ハッチング」であれば)「見落とし」となり、「太い右上のハッチング」、「黒」、「太い右下ハッチング」であればきずの過小評価といえる。一方で、「真値」で示した矩形状の白抜き部分をその下方にそのままたどった部分以外はきずが無いはずなので、ここが「ハッチング等でない」場合は誤検出となる。
【0083】
この誤検出が目立つ箇所には、各手法の画像の上下の対応する箇所に「×」の印を入れた。なお、上下の両方に「×」があるのは、その範囲全体に誤検出が目立つことを示す。
【0084】
図18を参照して、閾値法は、きず位置と健全部の他の区別が全くついていないことから、精度が低い。
【0085】
ピーク法は、「真値」で示した矩形状の白抜き部分をその下方にそのままたどった部分において、「太い右上のハッチング」や「黒」が固まりとして確認でき、きずを検出できていると言えるが、過小評価となっており、真値のきず範囲と比べて狭い。また、右側の小さいきずでは、本来、存在する部分でもきず検出が確認できない。一方で、一部「×」で示した誤検出がある。したがって、見落とし、過小評価あり、誤検出が少ないと、判定できる。
【0086】
なお、ここに説明した閾値法、ピーク法上上、ピーク法上下による板厚計算が、図16(A)に示したS12、および図16(B)に示したS22の処理に該当する。
【0087】
一方、深層学習・相関処理では、「真値」で示した矩形状の白抜き部分をその下方にそのままたどった位置のほとんどで、「太い右下ハッチング」となっており、右側の一番小さいきずでも同様である。
【0088】
一方で、一部「×」で示した誤検出があり、きず深さも「太い右下ハッチング」となっており、誤差が大きい。したがって、見落としなし、過小評価少、誤検出やや多いと判定できる。ピーク法に比べて過小評価が軽減され、また、相関係数に比べて誤検出が軽減されている。
【0089】
相関処理(4乗)では、「真値」で示した矩形状の白抜き部分をその下方にそのままたどった部分での白部分が多くなっており、正確に評価できている個所が多い。一方で、「×」部分は多く、広くなっており、また、誤検出箇所で白色や「太い右下ハッチング」が目立っている。したがって、見落とし、過小評価なし、誤検出多いと判定できる。
【0090】
ここに説明した深層学習が、図16(A)に示したS14、および図16(B)に示したS26の処理に該当し、ここに説明した相関処理が、図16(A)に示したS13、および図16(B)に示したS24の処理に該当する。
【0091】
決定木・深層学習による選定は、「真値」で示した矩形状の白抜き部分をその下方にそのままたどった部分での「太い右下ハッチング」が目立っており、一部白色となっている。一方で、「×」部分の数は少なめになっている。したがって、見落としなし、過小評価少、誤検出少と判定できる。
【0092】
以上から、深層学習での選定機構を構築し、改善の余地があるものの、それぞれの手法の長所を生かし、精度向上に寄与している。すなわち、ピーク法の誤検出が多いという課題を、相関処理・深層学習の「見落としなし、過小評価少、誤検出少」という効果で解消している。
【0093】
表2に各手法での平均誤差(単位mm)を示す。
【0094】
【表2】
【0095】
なお、上記実施の形態においては、第1の方法で決定木を用い(図16(A)のS15、S16に対応)、第2の方法で深層学習を用いたが(図16(B)のS23~S28)、これに限らず、第1の方法で深層学習を用い、第2の方法で決定木を用いてもよい。
【0096】
また、上記実施の形態においては、防災本管の板厚測定方法として、その外面の腐食を検出する場合について説明したが、これに限らず、防災本管と同様の構成を有する、農業用水配管や、下水道用配管や、融水配管の板厚測定方法に利用しても良い。
【0097】
図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態に限定されるものではない。本発明と同一の範囲内において、または均等の範囲内において、図示した実施形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
この発明によれば、防災本管の健全度診断方法において、より確実な、健全度診断方法を提供できるため、防災本管の健全度診断方法として有利に利用される。
【符号の説明】
【0099】
10 板厚測定装置、20 制御部、21 CPU、22 入出力部、23 判定部、24 表示部、25 波形処理部、26 信頼性判定部、30 探触子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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