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  • 特開-車体側部構造の前面衝突試験方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065295
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】車体側部構造の前面衝突試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/08 20060101AFI20220420BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20220420BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
G01M7/08 A
B62D25/04 A
B62D25/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173774
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 俊治
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 孝信
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
(72)【発明者】
【氏名】玉井 良清
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB13
3D203BB54
(57)【要約】
【課題】試験車両を用いずに車体側部構造の前面衝突試験を行う車体側部構造の前面衝突試験方法を提供する。
【解決手段】本発明は車体側部構造21を模した試験体1の前面に衝突体11を衝突させる方法であって、試験体1は、ハット断面形状のサイドシルアウタ7とサイドシルインナ9が接合されたサイドシル模擬部3と、該サイドシル模擬部3の前端部における車体上下方向中央以上の高さにある外面の少なくとも一部を被って接合されるAピラーロア模擬部5と、を含んで構成され、衝突体11は、湾曲した衝突面11aを有し、衝突面11aの中心軸X1がサイドシル模擬部3の中心軸X2よりも車体上方側にずれて試験体1に衝突し、中心軸X1と中心軸X2とのずれ量をG、衝突面11aの湾曲の曲率半径をR、サイドシルアウタ7のハット底部7aの車体上下方向高さをHとしたとき、0.64≦G/H≦1.03、及び、1≦R/H≦5の関係を満たす。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延在するサイドシルと車体上下方向に延在してその下部が前記サイドシルに接合するAピラーロアとを備えてなる車体側部構造を模した試験体の前面に、該試験体の前後方向の中心軸に平行に衝突体を衝突させ、前記車体側部構造の前面衝突性能に関する衝突試験を行う車体側部構造の前面衝突試験方法であって、
前記試験体は、車体幅方向の車内側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルアウタと車体幅方向の車外側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルインナとが前記開口側を互いに向い合わせて接合されたサイドシル模擬部と、少なくとも前記サイドシルアウタの前端部における車体上下方向中央以上の高さにある外面の少なくとも一部を被って接合されるAピラーロア模擬部と、を含んで構成され、
前記衝突体は、側面視で弧状に湾曲した衝突面を有し、該衝突面の湾曲中心を通る衝突方向の中心軸が前記サイドシル模擬部の車体前後方向の中心軸よりも車体上方側にずれて前記試験体に衝突し、
前記衝突面の中心軸と前記サイドシル模擬部の中心軸とのずれ量をG、前記衝突面の湾曲の曲率半径をR、前記サイドシルアウタのハット底部の車体上下方向高さをHとしたとき、0.64≦G/H≦1.03、及び、1≦R/H≦5の関係を満たすことを特徴とする車体側部構造の前面衝突試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側部構造の前面衝突試験方法に関し、特に、自動車のサイドシルとAピラーロアとを備えた車体側部構造の前面衝突性能に関する衝突試験を行う車体側部構造の前面衝突試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の設計においては、各種衝突に対する車体構造部品の性能を評価することは不可欠である。自動車メーカーでは、試作車を用いた衝突試験によって車体構造部品の性能を評価する。しかし、試作車による試験は高価であることや試作車の作製期間も含め非常に時間がかかることが問題である。そのため、試作車を用いた衝突試験では車体構造部品の新規構造や新規材料の性能評価が容易ではなく、開発スピードは低下する。また、試作車の調達や試験設備等に制約があるため、自動車メーカー以外の素材メーカーや部品メーカー等が独自で試作車を用いた衝突試験を行うことは困難である。したがって、車体構造部品の衝突性能評価について、試作車を用いることなく車体構造部品のみで評価することができる衝突試験方法が強く望まれる。
【0003】
ところで、自動車の衝突性能試験の一種として、スモールオーバーラップ(Small Over Lap、以下、「SOL」と略称する。)衝突試験がある。SOL衝突試験は、試作車等の試験車両の前部に対して車幅の車外側25%の部位を時速64kmで剛体壁に衝突させる試験である。SOL衝突の特徴は、衝突時の荷重を通常のフロントサイドメンバ等のクラッシャブルゾーンで衝撃吸収することが難しいため、キャビンへの衝撃が大きくなることや、タイヤや補機類がキャビンへ侵入してくる課題がある。特に、図2に示すようにホイール付きタイヤ27がサイドシル23に侵入することで、サイドシル23においては車体前後方向に圧縮される軸圧縮変形(軸圧壊)が生じる。また、多くの自動車、特に乗用車は、地面からのホイール付きタイヤ27の中心高さに比べて、サイドシル23の車体前後方向の中心軸の高さが低い位置にある。
【0004】
その結果、ホイール付きタイヤ27とサイドシル23の位置関係により、サイドシル23の車体前後方向の中心軸よりも車体上方側にずれた位置にホイール付きタイヤ27が侵入すると、サイドシル23においては前方で蛇腹状に軸圧縮変形するとともに、車体下方向に凸となる曲げ(折れ)変形が生じる。この時の曲げ変形の起点は、サイドシル23の前端部と該前端部の外面を被うように接合されたAピラーロア下部25aの後端との境界24付近となる。したがって、図2に例示するサイドシル23とAピラーロア25とを備えてなる車体側部構造21のSOL衝突性能評価には、上述したような、サイドシル23における車体前後方向の軸圧縮変形とAピラーロア下部25aの後端を起点とした曲げ変形とが複合した圧縮曲げ変形を再現することができる衝突試験方法を開発する必要がある。
【0005】
このような衝突試験方法の一例として、特許文献1には、柱状の試験体にその軸線方向に荷重を負荷する圧縮曲げ試験を行い、前記試験体における圧縮曲げ部の衝突性能を評価する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-85250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、柱状の試験体の圧縮曲げ試験における座屈発生部位を特定するため、圧縮曲げ試験を行う前に試験体を予備曲げしており、実際の車体構造と評価用の試験体の構造とが異なって、試験車両における車体構造部品の衝突性能を正しく評価できないことが問題であった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試験車両を用いずに車体側部構造の前面衝突性能に関する精度良い衝突試験を行うことができる車体側部構造の前面衝突試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る車体側部構造の前面衝突試験方法は、車体前後方向に延在するサイドシルと車体上下方向に延在してその下部が前記サイドシルに接合するAピラーロアとを備えてなる車体側部構造を模した試験体の前面に、該試験体の前後方向の中心軸に平行に衝突体を衝突させ、前記車体側部構造の前面衝突性能に関する衝突試験を行うものであって、
前記試験体は、車体幅方向の車内側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルアウタと車体幅方向の車外側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルインナとが前記開口側を互いに向い合わせて接合されたサイドシル模擬部と、少なくとも前記サイドシルアウタの前端部における車体上下方向中央以上の高さにある外面の少なくとも一部を被って接合されるAピラーロア模擬部と、を含んで構成され、
前記衝突体は、側面視で弧状に湾曲した衝突面を有し、該衝突面の湾曲中心を通る衝突方向の中心軸が前記サイドシル模擬部の車体前後方向の中心軸よりも車体上方側にずれて前記試験体に衝突し、
前記衝突面の中心軸と前記サイドシル模擬部の中心軸とのずれ量をG、前記衝突面の湾曲の曲率半径をR、前記サイドシルアウタのハット底部の車体上下方向高さをHとしたとき、0.64≦G/H≦1.03、及び、1≦R/H≦5の関係を満たすことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、ハット断面形状のサイドシルアウタとハット断面形状のサイドシルインナの開口側を互いに向い合わせて接合されたサイドシル模擬部と、少なくとも前記サイドシルアウタの前端部における車体上下方向中央以上の高さにある外面の少なくとも一部を被って接合されたAピラーロア模擬部と、を含んで構成された試験体の前面に、側面視で弧状に湾曲した衝突面を有する衝突体を、該衝突面の湾曲中心を通る衝突方向の中心軸を前記サイドシル模擬部の車体前後方向の中心軸よりも車体上方側にずらして、前記試験体の前後方向の中心軸に平行に前記試験体に衝突させ、前記衝突面の中心軸と前記サイドシル模擬部の中心軸とのずれ量をG、前記衝突面の湾曲の曲率半径をR、前記サイドシルアウタのハット底部の車体上下方向高さをHとしたとき、0.64≦G/H≦1.03、及び、1≦R/H≦5の関係を満たすことにより、サイドシル模擬部の軸圧縮と曲げの複合した圧縮曲げを生じさせることができ、試験車両における車体側部構造の前面衝突性能に関する衝突試験を容易に行うことができる。その結果、サイドシルやAピラーロアへの新たな構造や新たな材料の適用が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る車体側部構造の前面衝突試験方法を説明する図である((a)側面図、(b)斜視図)。
図2】試験車両を用いたSOL衝突試験においてサイドシルに生じる変形を説明する図である。
図3】実施例において、比較例であるフルビークルによる衝突試験におけるサイドシルの変形と、発明例である試験体を用いた衝突試験におけるサイドシル模擬部の変形を比較した一例を示す図である((a)フルビークルによる衝突試験、(b)試験体による衝突試験)。
図4】実施例において、試験体による衝突試験でG/Hを変更したときのサイドシル模擬部の変形を示す図である((a)G/H=0.50、(b)G/H=0.64、(c)G/H=1.03、(d)G/H=1.07)。
図5】実施例において、G/Hを0~1.2の範囲内で変更して試験体衝突試験を行ったときのサイドシル模擬部における圧縮曲げ変形の有無を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る車体側部構造の前面衝突試験方法について、図1及び図2を参照して、以下に説明する。
なお、本発明における「前面」、「前端部」、「上方向」、「側面」、「外側」、「内側」等の位置や方向を表す語句は、衝突試験で対象とする試験車両における配置を基準とした相対的な位置及び方向(車体上下方向、車体前後方向及び車体幅方向)を表すものであり、本発明における試験体を試験車両に組み込んだ場合を想定してその構成部材の姿勢及び配置も同様に表すものとする。
【0013】
本発明の実施の形態に係る車体側部構造の前面衝突試験方法は、車体前後方向に延在するサイドシル23(図2)と車体上下方向に延在してその下部がサイドシル23に接合するAピラーロア25(図2)とを備えてなる車体側部構造21を模した試験体1(図1)の前面に衝突体11(図1)を衝突させ、車体側部構造21の前面衝突性能に関する衝突試験を行うものである。
【0014】
試験体1は、図1に例示するように、サイドシル模擬部3と、Aピラーロア模擬部5と、を含んで構成されている。
サイドシル模擬部3は、試験車両のサイドシル23(図2)を模擬したものであり、本例では、図1(b)に示すように、車体幅方向の車内側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルアウタ7と車体幅方向の車外側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルインナ9とが前記開口側を互いに向い合わせて接合されたものである。
Aピラーロア模擬部5は、試験車両のAピラーロア25(図2)を模擬したものであり、本例では、サイドシル模擬部3の前端部におけるサイドシルアウタ7とサイドシルインナ9の外面の一部、より具体的にはサイドシルアウタ7及びサイドシルインナ9の車体上下方向中央以上の高さにある外面の全部を被って接合されている。
【0015】
衝突体11は、図2に示すホイール付きタイヤ27を模擬したものであり、側面視で弧状に湾曲した衝突面11aを有するものである。
さらに、衝突体11は、衝突面11aの湾曲中心Cを通る衝突方向の中心軸X1がサイドシル模擬部3の車体前後方向における中心軸X2よりも車体上方側にずれて、サイドシル模擬部3の車体前後方向に平行に試験体1に衝突する。
【0016】
そして、衝突体11の中心軸X1とサイドシル模擬部3の中心軸X2との車体上下方向のずれ量(ギャップ)をG、衝突面11aの湾曲の曲率半径をR、サイドシルアウタ7のハット断面形状におけるハット底部7aの車体上下方向高さをHとしたとき、0.64≦G/H≦1.03、及び、1≦R/H≦5の関係を満たす。なお、サイドシルアウタ7のハット底部7aの車体上下方向高さHを用いた理由は、サイドシルアウタ7はサイドシルインナ9より高強度な材料が使用され、また、ハット断面形状では、ハット底部7a両側のR部が最も剛性が高く、これらが衝突特性に大きく影響するからである。
【0017】
衝突体11の衝突面11aを側面視で弧状に湾曲した形状とするのは、試験体1の前面に衝突したときにサイドシル模擬部3に対して偏心荷重を与えるためである。これにより、試験車両を用いたSOL衝突試験においてホイール付きタイヤ27がサイドシル23の前端に侵入する挙動を再現することができる。
【0018】
さらに、G/H及びR/Hをそれぞれ、上記の範囲内とすることで、衝突体11が試験体1の前面に衝突してサイドシル模擬部3に侵入する過程において、サイドシル模擬部3における軸圧縮変形とAピラーロア模擬部5の後端との境界4を起点とした曲げ変形とが複合した圧縮曲げが生じる。
【0019】
なお、G/Hを上記範囲内(0.64≦G/H≦1.03)に規定することでサイドシル模擬部3に圧縮曲げ変形が生じることについては、後述する実施例にて検証した。
また、R/Hを上記範囲内(1≦R/H≦5)で変更した場合、G/H及びR/Hそれぞれ上記範囲内であればサイドシル模擬部3に軸圧縮変形と曲げ変形とが複合した圧縮曲げ変形が生じることは確認できた。
【0020】
以上、本実施の形態に係る車体側部構造の前面衝突試験方法によれば、車体側部構造21を模した試験体1の前面に衝突体11を衝突させてサイドシル模擬部3における軸圧縮と曲げの複合した圧縮曲げを生じさせることができ、試験車両を用いた前面衝突試験においてホイール付きタイヤ27が侵入して生じるサイドシル23の圧縮曲げ変形を再現することができる。
これにより、試験車両を用いた前面衝突試験を行わずに車体側部構造21の前面衝突性能、例えばSOL衝突時におけるホイール付きタイヤ27のサイドシル23への侵入量等、を評価する衝突試験を容易に行うことができ、車体側部構造の新規構造や新規材料の衝突性能評価にかかる期間やコストを大幅に削減することが可能となる。
【0021】
上記の説明において、Aピラーロア模擬部5は、サイドシルアウタ7とサイドシルインナ9の双方の前端部の外面の一部、より具体的にはサイドシルアウタ7及びサイドシルインナ9の車体上下方向中央以上の高さにある外面の全部を被って接合されたものであった。もっとも、本発明において、Aピラーロア模擬部5は、少なくともサイドシルアウタ7の前端部における外面の一部、より具体的には車体上下方向中央以上の高さにある外面の少なくとも一部を被って接合されたものであればよい。
【0022】
また、本発明においては、衝突体11の形状、重量、衝突速度は、試験車両を用いた衝突試験等の結果を用いて適宜調整すればよい。もっとも、衝突体11を試験体1に衝突させる衝突速度に関しては、衝突面11aの中心軸X1とサイドシル模擬部3の中心軸X2とのずれ量Gとサイドシルアウタ7のハット底部7aの車体上下方向高さHとの比G/Hが上記の範囲であれば、高速の場合との程度の差はあっても、ごく低速(約0.36km/h)でサイドシル模擬部3に圧縮曲げ変形が生じた。そのため、衝突速度に関しては、本発明において特に制限はない。
【0023】
また、本発明において、サイドシル模擬部3の車体前後方向長さは、Aピラーロア模擬部5によりサイドシルアウタ7の外面の一部が被われている車体前後方向長さの2倍以上とすることが好ましい。
【0024】
さらに、図1に示すサイドシル模擬部3の例は、車体前後方向の後端を固定板13に溶接することで剛体拘束されたものであったが、本発明は、サイドシル模擬部3の後端の回転を許容して拘束してもよい。
【0025】
また、図1に示す試験体1は、図2に示す試験車両におけるサイドシル23とAピラーロア25とを備えた車体側部構造21を簡易化して模擬したものであるが、本発明は、試験車両で用いられる同じサイドシル23とAピラーロア25をそのまま含んで構成された試験体(図示なし)を用いて衝突試験を行うものであってもよい。
【実施例0026】
本発明に係る車体側部構造の前面衝突試験方法の作用効果を確認するための衝突試験を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0027】
実施例では、発明例として、図1に示す試験体1の前面に衝突体11を衝突させる衝突試験(試験体衝突試験)と、比較例として、図2に示す車体側部構造21を有するフルビークルモデルのSOL衝突試験(フルビークル衝突試験)を行った。
また、衝突試験後の部品を取り出して撮像するとともに、衝突試験中に高速度カメラを用いて部品の変形状態を撮像した。
【0028】
試験体衝突試験においては、前述した実施の形態のとおり、フルビークルモデルの車体側部構造21を模した試験体1の前面に衝突体11を時速24kmで衝突させた。
【0029】
試験体1は、サイドシル模擬部3とAピラーロア模擬部5とを含んで構成されたものであり、サイドシルアウタ7のハット底部7aの車体上下方向高さHは70mmとした。また、Aピラーロア模擬部5の下端は車体上側からH/2までとした。すなわち、Aピラーロア模擬部5がサイドシル模擬部3の前端部を覆う高さが車体上下方向中央以上の高さの全部とした。
また、衝突体11における衝突面11aの湾曲の曲率半径Rを100mm、衝突体11の重量を300kgとした。
【0030】
さらに、衝突体11の衝突面11aの中心軸X1とサイドシル模擬部3の中心軸X2との車体上下方向のずれ量Gは、サイドシルアウタ7のハット底部7aの車体上下方向高さHとの比G/Hが0~1.2の範囲となるように与えた。
また、衝突面11aの湾曲の曲率半径Rとハット底部7aの車体上下方向高さHの比はR/H=1.43であり、本発明の範囲内であった。
【0031】
一方、フルビークル衝突試験においては、フルビークルモデルの前部に対して車幅の車外側25%の部位を時速64kmでSOL衝突させた。
なお、試験体衝突試験における試験体の衝突速度(時速24km)は、衝突速度64km/hのフルビークル衝突試験において図2に示すようにホイール付きタイヤ27がサイドシル23に侵入するときの速度と等しくなるように設定した。
【0032】
また、試験体1におけるサイドシル模擬部3及びAピラーロア模擬部5の材料は、フルビークルモデルにおけるサイドシル23及びAピラーロア25(図2)の材料と同じものとした。
【0033】
図3に、フルビークル衝突試験における車体側部構造21の変形例(比較例)と、試験体衝突試験においてG/H=1.03としたときの試験体1の変形例(発明例)を示す。
フルビークル衝突試験では、図3(a)に示すように、サイドシル23におけるAピラーロア25の後端との境界24を起点として軸圧縮変形と曲げ変形とが複合した圧縮曲げ変形が生じた。
同様に、試験体衝突試験でも、図3(b)に示すように、サイドシル模擬部3におけるAピラーロア模擬部5の後端との境界4を起点として、圧縮曲げ変形が生じた。
これらより、本発明に係る試験体1を用いた衝突試験においても、フルビークルを用いた衝突試験で発生したサイドシル23の圧縮曲げ変形を再現できたことが分かる。
【0034】
図4に、試験体衝突試験において、高速度カメラを用いて撮像し、(a)G/H=0.5、(b)G/H=0.64、(c)G/H=1.03及び(d)G/H=1.07としたときの試験体1の変形を示す。なお、図4(a)~(d)は、いずれも、衝突開始からt=0.0168sec経過後の試験体1を示すものである。
【0035】
G/H=0.5(図4(a))の場合、試験体1のサイドシル模擬部3の車体前方において車体前後方向の軸圧縮変形は発生したが、Aピラーロア模擬部5との境界4を起点とした曲げ変形は生じなかった。
【0036】
G/H=0.64(図4(b))の場合、試験体1のサイドシル模擬部3においては、軸圧縮変形と曲げ変形が複合した圧縮曲げ変形が発生した。
【0037】
G/H=1.03(図4(c))の場合も同様に、試験体1のサイドシル模擬部3においては、軸圧縮変形と曲げ変形とが複合した圧縮曲げ変形が発生した。
【0038】
G/H=1.07(図4(d))の場合、試験体1のサイドシル模擬部3においては、Aピラーロア模擬部5との境界4ではなく、車体後端部付近での曲げ変形が発生し、軸圧縮変形は生じなかった。
【0039】
図5に、G/Hを0~1.2の範囲内として試験体衝突試験を行ったときのサイドシル模擬部3における圧縮曲げ変形の有無の結果を示す。
【0040】
図5より、0.64≦G/H≦1.03とした場合においては、試験体1のサイドシル模擬部3に圧縮曲げ変形が発生する結果が得られた。
これに対し、G/H<0.64、又は、G/H>1.03とした場合においては、試験体1のサイドシル模擬部3に圧縮曲げ変形が発生しない結果であった。
【符号の説明】
【0041】
1 試験体
3 サイドシル模擬部
4 境界
5 Aピラーロア模擬部
7 サイドシルアウタ
7a ハット底部
9 サイドシルインナ
11 衝突体
11a 衝突面
13 固定板
21 車体側部構造
23 サイドシル
24 境界
25 Aピラーロア
25a Aピラーロア下部
27 ホイール付きタイヤ
図1
図2
図3
図4
図5