(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065345
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20220420BHJP
C08K 5/41 20060101ALI20220420BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20220420BHJP
C08K 5/3477 20060101ALI20220420BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20220420BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K5/41
C08K5/06
C08K5/3477
C08K3/016
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173863
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000157717
【氏名又は名称】丸菱油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】上田 承平
(72)【発明者】
【氏名】石川 章
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB111
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB151
4J002DE127
4J002DE187
4J002DK007
4J002EB136
4J002ED076
4J002EU196
4J002EV226
4J002FD136
4J002FD137
4J002GB00
4J002GL00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】良好な難燃性とともに、ブルーミングが生じ難く、かつ、耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリプロピレン系樹脂:100重量部、(B)特定のビスフェノールS誘導体の混合物:2~50重量部、(C)(c1)テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル及び(c2)トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの少なくとも1種:0.2~20重量部及び(D)三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、モリブデン酸亜鉛、三酸化硼素及び硼酸亜鉛の少なくとも1種:1~20重量部を含むことを特徴とする難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物に係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D):
(A)ポリプロピレン系樹脂:100重量部
(B)下記一般式(1)
【化13】
〔式中、R
1及びR
2は、互いに同一又は異なって、水素又は置換基を有していても良い炭素数1~3のアルキル基を示す。m及びnは、互いに同一又は異なって、0~2の整数を示す。〕
で示されるビスフェノールS誘導体であって、m+nが4である前記誘導体b1とm+nが0~3である前記誘導体b2との混合物であって、液体クロマトグラフィーを用いた面積百分率法によるb1及びb2の比率[b1:b2]が92%:8%~70%:30%である混合物:2~50重量部、
(C)(c1)テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル及び(c2)トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの少なくとも1種:0.2~20重量部及び
(D)三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、モリブデン酸亜鉛、三酸化硼素及び硼酸亜鉛の少なくとも1種:1~20重量部
を含むことを特徴とする難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
R1及びR2が、互いに同一又は異なって、臭素置換プロピル基である、請求項1に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
R1及びR2が、互いに同一又は異なって、2,3-ジブロモプロピル基又は2-ヒドロキシ-3-ブロモプロピル基である、請求項1又は2に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)成分及び前記(C)成分が、両者の合計量100重量%とした場合、前記(B)成分:前記(C)成分=40重量%:60重量%~90重量%:10重量%の割合で含まれる、請求項1~3のいずれかに記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィンは、軽く、強度が大きく、耐水性、耐薬品性、電気絶縁性等が良好であり、そのうえ成形加工も容易であるため、例えば建築材料、電気器機用材料、車輌部品、自動車内装材料、電線被覆材等のほか、種々の工業用品、家庭用品等に広範囲に使用されている。しかし、ポリオレフィンは、燃焼し易いという欠点を有している。このため、ポリオレフィンを難燃化するための方法が多数提案されている。
【0003】
難燃化する方法として、樹脂に難燃剤を配合する方法が従前から採用されている。例えば臭素化合物とアンチモン化合物とを含む難燃剤があり、前記臭素化合物としては、臭素化ビスフェノールS誘導体が難燃性の高いものとして知られている。このため、これらの難燃剤を配合した樹脂組成物が種々提案されている。
【0004】
例えば、(A)ポリオレフィン系樹脂70~98重量%、及び(B)臭素含有難燃剤2~30重量%の比率を有する難燃性ポリオレフィン系樹脂組成物であり、前記臭素含有難燃剤して特定の化合物を含む組成物が開示されている(特許文献1)。また、特許文献1には、臭素含有難燃剤とともに、難燃助剤として三酸化アンチモンを併用しても良いことが記載されている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、特定の条件を満足するポリプロピレン系樹脂(A)と、フィラー(B)と、特定の条件を満足するハロゲン系難燃剤(C)と、難燃助剤(E)とを含有するポリプロピレン系樹脂組成物が知られている(特許文献2)。
【0006】
これらの難燃性樹脂組成物では、ある程度の難燃性が得られる一方、ポリオレフィン系樹脂と難燃剤等とを混練する際又はその混練後(成形後も含む)に樹脂表面に難燃剤等が染み出て白化する現象(ブルーミング)が生じやすい。
【0007】
そこで、本発明者らは、ブルーミングを抑制できる難燃剤を開発すべく、臭素化ビスフェノールS誘導体を含む臭素系難燃剤を先に提案している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-99780号公報
【特許文献2】特開2015-78276号公報
【特許文献3】特許第4817726号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に示すような臭素系難燃剤は、ブルーミングを抑制する効果に優れるものの、さらに改善の余地がある。すなわち、臭素化ビスフェノールS誘導体を含む臭素系難燃剤は、それを含む樹脂組成物の成形加工時等において熱分解するという問題がある。熱分解を起こした場合には、毒性の強いアクロレインのほか、ハロゲン系化合物等の分解生成物が発生し、作業環境中に放出されるおそれがある。このため、成形加工時等において、加熱下でも分解生成物が発生しにくい性質(以下「耐熱性」という。)も併せ有する難燃性樹脂組成物の開発が必要とされている。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、良好な難燃性とともに、ブルーミングが生じ難く、かつ、耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、難燃剤として特定の化合物の組み合わせを採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のポリプロピレン系樹脂組成物に係る。
1. 下記成分(A)~(D):
(A)ポリプロピレン系樹脂:100重量部
(B)下記一般式(1)
【化1】
〔式中、R
1及びR
2は、互いに同一又は異なって、水素又は置換基を有していても良い炭素数1~3のアルキル基を示す。m及びnは、互いに同一又は異なって、0~2の整数を示す。〕
で示されるビスフェノールS誘導体であって、m+nが4である前記誘導体b1とm+nが0~3である前記誘導体b2との混合物であって、液体クロマトグラフィーを用いた面積百分率法によるb1及びb2の比率[b1:b2]が92%:8%~70%:30%である混合物:2~50重量部、
(C)(c1)テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル及び(c2)トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの少なくとも1種:0.2~20重量部及び
(D)三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、モリブデン酸亜鉛、三酸化硼素及び硼酸亜鉛の少なくとも1種:1~20重量部
を含むことを特徴とする難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
2. R
1及びR
2が、同一又は異なって、臭素置換プロピル基である、前記項1に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
3. R
1及びR
2が、同一又は異なって、2,3-ジブロモプロピル基又は2-ヒドロキシ-3-ブロモプロピル基である、前記項1又は2に記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
4. 前記(B)成分及び前記(C)成分が、両者の合計量100重量%とした場合、前記(B)成分:前記(C)成分=40重量%:60重量%~90重量%:10重量%の割合で含まれる、前記項1~3のいずれかに記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物。
5. 前記項1~4のいずれかに記載の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な難燃性とともに、ブルーミングが生じ難く、かつ、耐熱性に優れた難燃性樹脂組成物を提供することができる。特に、本発明の組成物は、後記に示す第1難燃成分と第2難燃成分とを特定の含有量で併用するので、ブルーミングを効果的に抑制しつつ、高い耐熱性を得ることができる。すなわち、難燃剤が成形体表面に染み出たり、成形加工時に難燃剤が揮発するという問題を一挙に解消することができる。
【0014】
このような特徴をもつ本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物は、難燃性が要求されるポリプロピレン系製品の製造(成形)に好適に用いることができる。例えば、電子部品、家電製品、医療機器、建築材料等として幅広く利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物
(1)樹脂組成物の構成
本発明の難燃性ポリプロピレン系樹脂組成物(本発明組成物)は、下記に示す成分(A)~(D):
(A)ポリプロピレン系樹脂:100重量部
(B)下記一般式(1)
【化2】
〔式中、R
1及びR
2は、互いに同一又は異なって、水素又は置換基を有していても良い炭素数1~3のアルキル基を示す。m及びnは、互いに同一又は異なって、0~2の整数を示す。〕で示されるビスフェノールS誘導体であって、m+nが4である前記誘導体b1とm+nが0~3である前記誘導体b2との混合物であって、液体クロマトグラフィーを用いた面積百分率法によるb1及びb2の比率[b1:b2]が92%:8%~70%:30%である混合物:2~50重量部、
(C)(c1)テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル及び(c2)トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの少なくとも1種:0.2~20重量部及び
(D)三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、モリブデン酸亜鉛、三酸化硼素及び硼酸亜鉛の少なくとも1種:1~20重量部
を含むことを特徴とする。以下において、本発明組成物を構成する各成分等について説明する。
【0016】
(A)ポリプロピレン系樹脂
ポリプロピレン系樹脂は、[-CH(CH3)CH2-]を単量体として含むものであれば良く、ホモポリマー又はコポリマーのいずれであっても良い。また、ポリプロピレン樹脂を含むポリマーアロイであっても良い。これらのポリプロピレン系樹脂は、公知又は市販のものを使用することもできる。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂がホモポリマーである場合は、アイソタクチック又はシンジオタクチックのいずれでも良い。
【0018】
ポリプロピレン系樹脂がコポリマーである場合、他の単量体としては、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されず、例えばエチレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等の少なくとも1種を挙げることができる。他の単量体の含有割合は、用いる単量体の種類等にもよるが、通常は40モル%以下(特に30モル%以下)であることが好ましい。
【0019】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレン樹脂を含むポリマーアロイであっても良い。例えば、ポリアミド、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアクリレート、エチレンプロピレンゴム、ポリスチレン等の少なくとも1種を挙げることができる。ポリマーアロイの場合のポリプロピレンの含有量は、例えば60~90重量%と設定することができるが、これに限定されない。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂の重量平均分子量は、例えば10万~150万程度の範囲内で良いが、これに限定されない。
【0021】
ポリプロピレン系樹脂のMFR(JIS K7210,測定温度230℃)は、例えば0.5~50程度の範囲内で良いが、これに限定されない。
【0022】
本発明組成物中におけるポリプロピレン系樹脂の含有量は、特に限定されないが、通常は80~100重量%の範囲内で適宜設定することができる。従って、例えば90~95重量%の範囲内とすることもできる。すなわち、本発明の効果を妨げない範囲内において、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂成分(例えばポリアミド、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリアクリレート、エチレンプロピレンゴム、ポリスチレン等)が含まれていても良い。この場合の前記樹脂成分の含有量は、ポリプロピレン系樹脂の含有量が上記の範囲内となるように設定すれば良い。
【0023】
(B)第1難燃成分
本発明組成物では、難燃成分の1つとして、下記一般式(1)
【化3】
〔式中、R
1及びR
2は、互いに同一又は異なって、水素又は置換基を有していても良い炭素数1~3のアルキル基を示す。m及びnは、互いに同一又は異なって、0~2の整数を示す。〕
で示されるビスフェノールS誘導体であって、m+nが4である前記誘導体b1とm+nが0~3である前記誘導体b2との混合物であって、液体クロマトグラフィーを用いた面積百分率法によるb1及びb2の比率[b1:b2]が92%:8%~70%:30%である混合物(以下「第1難燃成分」ともいう。)を用いる。
【0024】
第1難燃成分は、上記ビスフェノールS誘導体のうち、特にm+nが4である誘導体(すなわち、フェニル基に置換している臭素総数が4であるもの。以下「テトラ体」と称する。)とm+nが0~3である誘導体(すなわち、フェニル基に置換している臭素総数が0~3であるもの。以下「非テトラ体」と称する。)との混合物からなる。そして、上記混合物中における上記テトラ体及び非テトラ体との混合比は、92%:8%~70%:30%である。この混合比の範囲内である場合には、より優れたブルーミング抑制効果及び耐熱性を得ることができる。
【0025】
上記の混合比は、液体クロマトグラフィーを用いた面積百分率法による値である。すなわち、クロマトグラム中の検出されたピークの総面積を100%とし、テトラ体のピーク面積合計と非テトラ体のピーク面積合計との比率を求めて定量すれば良い。
【0026】
本発明で用いた液体クロマトグラフィーの装置及び操作条件を以下に示す。
a)使用装置:ACQUITY UPLC H-Class、カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、内径2.1mm×長さ100mm(Waters社製)
b)流速:0.35mL/分
c)カラム温度:40℃
d)分析時間:9分
e)移動相:アセトニトリル/0.1%ギ酸水溶液の混合液(体積比50%:50%)→アセトニトリル/0.1%ギ酸水溶液の混合液(体積比95%:5%)(5.5分)のリニアグラジエント→アセトニトリル/0.1%ギ酸水溶液(体積比95%:5%)(9分)
f)測定波長:UV210~410nm(分析UV254nm)。
【0027】
上記一般式(1)において、R1及びR2は、同一又は異なって、水素又は置換基を有していても良い炭素数1~3のアルキル基を示す。
【0028】
上記の置換基としては、例えばハロゲン基、水酸基等が挙げられる。置換基を有していても良い炭素数1~3のアルキル基としては限定的ではないが、臭素置換プロピル基が好ましい。なお、臭素置換プロピル基は、置換基の少なくとも1つが臭素であれば良く、全ての置換基が臭素であるものに限定されない。このような臭素置換プロピル基としては、特に2,3-ジブロモプロピル基又は2-ヒドロキシ-3-ブロモプロピル基がより好ましい。
【0029】
上記一般式(1)において、m及びnは、互いに同一又は異なって、0~2の整数を示す。このうち、m+nが4(テトラ体)の場合には、各フェニル基に2つずつ(総数4)の臭素原子が置換している。テトラ体の好適な具体例を以下に示す。
【化4】
【0030】
また、m+nが0~3(非テトラ体)の場合には、フェニル基に置換している臭素原子総数は3以下である。非テトラ体は、具体的には、m+nが3の「トリ体」、m+nが2の「ジ体」、m+nが1の「モノ体」及びm+nが0の「ゼロ体」に分類される。トリ体、ジ体、モノ体及びゼロ体の具体例を順に示す。
【0031】
トリ体としては、以下のようなものが例示される。
【化5】
【0032】
ジ体としては、以下のようなものが例示される。
【化6】
【0033】
モノ体としては、以下のようなものが例示される。
【化7】
【0034】
ゼロ体としては、以下のようなものが例示される。
【化8】
【0035】
前記のとおり、第1難燃成分は、実質的にテトラ体70~92%及び非テトラ体8~30%の混合物である。かかる範囲内であれば含有割合は限定されないが、特にテトラ体:非テトラ体=92%:8%~75%:25%であることがより好ましい。テトラ体の割合が92%を超える場合には、ポリオレフィン系樹脂と混練後にブルーミングの発生を十分に抑制できないおそれがある。テトラ体の割合が70%未満の場合には、耐熱性が悪化するおそれがある。
【0036】
第1難燃成分自体は、公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法に従って製造されたものを使用することもできる。例えば、特許第4817726号に記載された方法によって好適に製造することができる。
【0037】
第1難燃成分の含有量は、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して通常は2~50重量部とし、特に3~20重量部とすることが好ましく、その中でも4~15重量部とすることがより好ましい。上記のような範囲内に設定することによって、難燃性、ブルーミング抑制効果及び耐熱性ともに優れた効果を得ることができる。
【0038】
(C)第2難燃成分
本発明組成物では、(c1)テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピル)エーテル及び(c2)トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートの少なくとも1種(以下「第2難燃成分」ともいう。)を用いる。第1難燃成分を第2難燃成分と本発明組成物中に併存させることにより、高いブリード抑制効果とともに優れた耐熱性を得ることができる。
【0039】
第2難燃成分の含有量は、上記のような作用効果の見地より、ポリプロピレン系樹脂100重量部に対して通常は0.2~20重量部とし、特に0.5~15重量部とすることが好ましい。
【0040】
また、第1難燃成分と第2難燃成分との重量比は、限定的ではないが、両者の合計を100重量%とした時、特に第1難燃成分:第2難燃成分=40重量%:60重量%~90重量%:10重量%の割合とすることが好ましい。このような重量比で両者を併用することによって、より優れたブリード抑制効果及び耐熱性を本発明組成物に付与することができる。
【0041】
(D)難燃助剤
本発明組成物は、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、モリブデン酸亜鉛、三酸化硼素及び硼酸亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種(以下「難燃助剤」ともいう。)を含む。これらの難燃助剤を含有する場合には、より良好な難燃性能を発揮することができる。上記の中でも、三酸化アンチモン及び五酸化アンチモンの少なくとも1種が好ましく、特に高度な難燃性を付与できるという点で三酸化アンチモンがより好ましい。また、難燃助剤の性状は、特に限定されず、例えば粉末状の形態のものを使用することができる。これら難燃助剤は、公知又は市販のものを使用することができる。
【0042】
本発明組成物中における難燃助剤の含有量は、通常は1~20重量部とし、特に2~15重量部とすることが好ましい。これによって、高い難燃性を得るとともに、高いブリード抑制効果及び優れた耐熱性を得ることができる。
【0043】
(E)その他の添加剤
本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて公知又は市販の樹脂組成物又はその成形体に配合されている各種添加剤を添加することができる。例えば、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂成分のほか、分散剤、界面活性剤、耐侯安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防曇剤、帯電防止剤、抗菌剤、耐衝撃剤、発泡剤、充填材(フィラー)、導電性粉末、核剤、架橋剤、着色剤、滑剤等が挙げられる。
【0044】
(2)本発明組成物の性状
本発明組成物の性状は、特に限定されず、常温・常圧下では固体(粉末状)であっても良いし、加熱下で溶融物の状態であっても良い。さらに、溶融物が固化した固形物の形態であっても良い。また、必要に応じて上記固体を溶媒に溶解又は分散させた液体であっても良い。
【0045】
(3)本発明組成物の調製
本発明組成物の調製方法は、各成分を均一に混合できる限り、特に限定されない。また、各成分を混合することにより未成形・未溶融の混合物(粉末状)を得る方法でも良いし、溶融させて固化することにより固形物を得る方法でも良い。例えば、本発明組成物を構成する各成分をヘンシェルミキサー、タンブラー型ミキサー、ローター型ミキサー等の混合機で予め混合した後、ポリプロピレン系樹脂の溶融温度にまで加熱した混練機に供給することにより、樹脂組成物ペレットを得る方法を採用することができる。
【0046】
また、各成分は、事前混合(予備混合)せずに、別々に定量フィーダーにより混練機に供給しても良い。各成分(例えば第1難燃成分、第2難燃成分、難燃助剤等)とポリプロピレン系樹脂とを別々に定量フィーダーにより混練機に供給しても良い。
【0047】
2.成形体
本発明は、本発明組成物を成形してなる成形体も包含する。この場合、成形体の大きさ、形状等は、成形体の用途、使用形態等に応じて適宜設定することができる。
【0048】
成形体の成形方法としては、本発明組成物の溶融物、本発明組成物のシート状物等から成形できる方法であれば限定されず、例えばプレス成形、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形等の各種の成形方法を採用することができる。従って、例えば加熱圧縮成形機、射出成型機等の公知又は市販の成形装置を用いることもできる。
【0049】
本発明の成形体の用途としては、少なくとも難燃性が要求される物品であれば特に限定されず、例えば洗濯機、冷蔵庫、食器乾燥機、炊飯器、扇風機、テレビ、パソコン、ステレオ、電子レンジ、暖房便器、アイロン等の部品及びカバー;携帯電話、パソコン、プリンター、ファクシミリ等の電子機器回路基盤;エアコン、ストーブ、コンロ、ファンヒーター、給湯器等の部品及びカバー;建築材料、自動車、船舶、航空機等の部品及び内装材等が挙げられる。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
1.出発原料について
(A)ポリプロピレン系樹脂
ポリプロピレン系樹脂としては、市販のポリプロピレン樹脂(製品名「プライムポリプロJ707G」(MFR:30g/10min,block-PP)、プライムポリマー製(PP))を用いた。
【0052】
(B)第1難燃成分
以下の方法によって第1難燃成分を製造した。
製造例1(本発明品)
撹拌装置、コンデンサー、温度計、滴下ロート及び加熱冷却装置を備えたガラス製の反応容器を用意した。反応容器に、水1000g及びビスフェノールS250g(1モル)を収容した。収容物を撹拌しながら臭素591g(3.7モル)を2時間かけて滴下することにより、フェニル基を臭素置換した。滴下により、収容物の温度は5℃から40℃まで上昇した。滴下終了後、さらに1時間反応を継続した。ここで、反応液が遊離臭素により赤味を帯びていたため、亜硫酸ナトリウム(還元剤)を赤味が消失するまで加えた。さらに、1時間かけて還元反応を完結させた。なお、製造例1で臭素量を591gとしたのは、置換反応後のテトラ体:非テトラ体の重量比を約9:1に設定するためである。
次いで、50%水酸化ナトリウム水溶液464g(水酸化ナトリウムとして5.8モル )を30分かけて反応液に添加した。添加後の反応液のpHは9以上であった。添加により、反応液の温度は5℃から40℃まで上昇した。この添加は、置換反応により生じた臭化水素を中和すること及び臭素置換ビスフェノールSを水溶性のアルカリ金属塩(Na塩)とすることを目的として行った。次いで、反応液にイソプロピルアルコール(IPA)(沸点82.5℃)400gと塩化アリル187.4g(2.45モル)とを添加しながら還流した。還流により、液温は40から83℃に上昇した。この操作は、臭素置換ビスフェノールSをアリルエーテル化するものである。なお、反応中に反応液のpHが酸性となった際には、アルカリ性を示すまで水酸化ナトリウム水溶液を添加した。当該反応の終点は、次の通りに判断した。すなわち、反応液を少量抜き取り、塩酸水溶液を添加して白濁~乳白色を示さなくなった時を終点とした。製造例1では、白濁~乳白色を示さなくなるまで8時間を要した。反応終了後の反応容器には、ジアリルエーテルの針状結晶が生成していた。
次に、反応容器から液体成分を除去後、反応容器に水を加えて容器及び反応生成物を洗浄し、不要なアルカリ塩、IPA、塩化アリル等を溶解・除去した。さらに反応生成物は、磁製の濾過器に移し替えた後、1000mlの水を注ぎ、不要なアルカリ塩、IPA、塩化アリル等を完全に溶解・除去した。洗浄後の反応生成物は、容量2リットルのガラス製ナスフラスコに移し替えた後、ナスフラスコを湯温(60℃)のエバポレーターに接続し、減圧度20Torrで減圧乾燥した。次いで、撹拌装置、コンデンサー、温度計、滴下ロート及び加熱冷却装置を備えたガラス製の反応容器を用意した。反応容器に乾燥後の反応生成物を収容し、さらに塩化メチレン(溶媒)600gを加えて完全に溶解させた。この溶液に臭素2モルを滴下ロートにより少量ずつ滴下した。この滴下により、臭素置換ビスフェノールS誘導体のアリル基の不飽和結合に臭素が付加される。この反応は急激な発熱を伴うため撹拌と冷却を十分に行った。反応中の液温は、40℃を超えないように制御した。臭素付加反応の終点は、所定量の臭素を滴下終了後、反応液が赤味を保持する状態となった時とした。製造例1では、臭素の滴下開始から2時間を要した。
その後、熟成のため、さらに1時間反応を継続した。次いで、反応液に1000mlの水を加えて強撹拌して不要な未反応の臭素を水相に溶解後、デカンテーションを繰り返して水相を除去した。次に、反応生成物を、強撹拌状態である2000mlのメタノール中に5分間かけて投入し、再沈殿させた。沈殿物は一旦粉砕し、さらにメタノール中で10時間静置して結晶化させた。続いて、濾過によってメタノールの大部分を除去した後、ガラス製2000mlのナスフラスコに移し替えた。ナスフラスコは、温湯(70℃)のエバポレーターに接続し、減圧度10Torrで不要な溶媒(メタノール、水等)を留去した。反応生成物(臭素系難燃剤)の収量は745gであった。
反応生成物のテトラ体:非テトラ体の面積百分率を液体クロマトグラフィーから同定した結果、89:11であった。また、反応生成物の融解吸熱ピーク温度を示差走査熱量計により測定した結果、122℃に融点ピークが確認された。得られた反応生成物の化学式を以下に示す。
【化9】
【0053】
製造例2(本発明品)
ビスフェノールSに臭素を559.3g(3.5モル)加えて、アリルエーテル化反応のために加える50%水酸化ナトリウム水溶液の量を448g(水酸化ナトリウムとして5.6モル)とした以外は、製造例1と同様にして臭素系難燃剤を得た。反応生成物(臭素系難燃剤)の収量は711gであった。
反応生成物のテトラ体:非テトラ体の面積百分率を液体クロマトグラフィーから同定した結果、73:27であった。また、反応生成物の融解吸熱ピーク温度を示差走査熱量計により測定した結果、105℃に融点ピークが確認された。得られた反応生成物の化学式を以下に示す。
【化10】
【0054】
製造例3(比較品)
臭素置換ビスフェノールSとして、臭素置換数が4(テトラ体)のビスフェノールSを95重量%以上含むテトラブロモビスフェノールS(TBS、商品名EB400S、マナック(株)製)をアリルエーテル化の出発原料とし、アリルエーテル化の反応触媒として臭化ナトリウム412g(4モル)を反応液に溶解させる以外は、製造例1と同様にして臭素系難燃剤を得た。反応生成物(臭素系難燃剤)の収量は765gであった。
反応生成物のテトラ体:非テトラ体の面積百分率を液体クロマトグラフィーから同定した結果、99:1であった。また、反応生成物の融解吸熱ピーク温度を示差走査熱量計により測定した結果、120℃に融点ピークが確認された。得られた反応生成物の化学式を以下に示す。
【化11】
【0055】
製造例4(比較品)
ビスフェノールSに臭素を527.3g(3.3モル)加えて、アリルエーテル化反応のために加える50%水酸化ナトリウム水溶液の量を432g(水酸化ナトリウムとして5.4モル)とした以外は、製造例1と同様にして臭素系難燃剤を得た。反応生成物(臭素系難燃剤)の収量は670gであった。
反応生成物のテトラ体:非テトラ体の面積百分率を液体クロマトグラフィーから同定した結果、65:35であった。また、反応生成物の融解吸熱ピーク温度を示差走査熱量計により測定した結果、98℃に融点ピークが確認された。得られた反応生成物の化学式を以下に示す。
【化12】
【0056】
(C)第2難燃成分
第2難燃成分として、下記の市販品を用いた。
・製品名「ピロガード SR720」(テトラブロモビスフェノールAビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、第一工業製薬製(以下「TBA-DBP」と表記する。)
・製品名「TAIC-6B」(トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレート)、日本化成製(以下「TBIC」と表記する。)
【0057】
(D)難燃助剤
難燃助剤としては、粉末状の三酸化アンチモン(平均粒径3μm)を用いた。
【0058】
2.樹脂組成物について
実施例1~6及び比較例1~10
前記1.で示した各成分を表1~表2に示す配合割合にて上記(A)~(D)をドライブレンドし、二軸混練機「KTX30型」(株式会社神戸製鋼所製)を用いて200~210℃の温度下で押出混練し、ストランドをカットしてペレット状難燃性樹脂組成物を得た。
得られたペレットを射出成型機(日精樹脂工業(株)製、FE80S 18ASE、シリンダー温度200℃、金型温度40℃)で成型し、UL94にて規定される垂直燃焼試験片(127mm×12.7mm、厚み;1/32inch)を作製した。
同様に射出成型機(日精樹脂工業(株)製、FE80S 18ASE、シリンダー温度200℃、金型温度40℃)で成型し、ブルーミング性評価用プレート(35mm×48mm×厚み1.5mm)を作製した。
【0059】
試験例1
各実施例及び比較例で作製された試料を用い、以下の物性についてそれぞれ調べた。その結果も併せて表1に示す。
【0060】
(1)燃焼性
樹脂組成物の燃焼性評価は、米国Underwriter Laboratoriesの安全基準「UL-94燃焼試験」に従い、上記の垂直燃焼試験片を用いて垂直燃焼試験を行った。UL94燃焼試験は、水平試験(HB法)と垂直試験(V法)の2種類に大別される。燃焼性総合評価は、FAIL<HB<V-2<V-1<V-0の順に難燃性が高くなる。V-0が最も高い難燃性があることを示す。
【0061】
(2)ブルーミング性
前記のブルーミング性試験用プレートを80℃で48時間加熱し、試験前後の光沢度の差(グロス差)を堀場製作所のグロスチェッカーIG-320を用い、測定角60°で測定した。難燃剤のブルーミングによって成形品表面が白華し、光沢の低下が起こるが、一般的に目視で白華が観察されるグロス差が20以上であることから、グロス差20未満の場合は「ブルーミングなし」とし、グロス差20以上の場合は「ブルーミングあり」とした。
【0062】
(3)耐熱性
成形加工時に臭素系難燃剤が分解した場合は毒性の強いアクロレイン、ハロゲン系化合物等の分解生成物を生成し、作業環境中に放出されることになる。このような成形加工時の加熱状態を模して臭素系難燃剤0.1g(第2難燃成分を含む場合は第1難燃成分と第2難燃成分との合計量)を密閉容器中で230℃15分間加熱した後、アジレント・テクノロジー社製ヘッドスペースサンプラガスクロマトグラフ質量分析計を用いて総揮発性有機化合物(TVOC)の濃度を測定した。臭素系難燃剤に対するTVOC割合が1ppm以上の場合を「耐熱性不良」とし、1ppm未満の場合を「耐熱性良好」とした。
【0063】
【0064】
【0065】
表1~表2の結果からも明らかなように、本発明による成形品は、優れた難燃性を発揮するとともにブルーミングを起こすことなく、優れた外観を保持することがわかる。また同時に、TVOCの値が1ppm未満(特に0.70ppm以下)であることから、成形加工時に発生し得るガス(臭気のある有害ガス)を効果的に抑制し得る(すなわち耐熱性に優れている)ことがわかる。
【0066】
これに対し、比較例の成形品は、ブルーミング性又は耐熱性の少なくともいずれかの点で問題があることがわかる。
【0067】
より具体的には、表2に示すように、比較例1は、テトラ体と非テトラ体の混合割合が本発明の範囲内であるが、第2難燃成分が含まれていないので、第1難燃成分と第2難燃成分を併用した実施例4よりもTVOCの値が高くなっていることがわかる。同様に、比較例2は、テトラ体と非テトラ体の混合割合が本発明の範囲内であるが、第2難燃成分が含まれていないので、第1難燃成分と第2難燃成分を併用した実施例5又は実施例6よりもTVOCの値が高くなっていることがわかる。
【0068】
比較例3は、テトラ体と非テトラ体の混合割合が99:1の第1難燃成分を10重量部配合することによってガスの発生が抑制され、V-0レベルの高度な難燃性を付与することが可能であるが、ブルーミングが発生し、成形品外観が著しく悪化することからテトラ体にはブルーミング抑制の効果がないことがわかる。
【0069】
比較例4は、テトラ体と非テトラ体の混合割合が65:35と非テトラ体含有量の多い第1難燃成分を10重量部配合することによって高度な難燃性が付与され、優れた外観を保持するが、非テトラ体を多量に含むため、耐熱性が悪く、加工時にガスを発生し得ることがわかる。
【0070】
比較例5~6は、第2難燃成分であるTBA-DBP及びTBICをそれぞれ10重量部配合することによって高度な難燃性が付与され、ガスの発生が抑制されるが、第1難燃成分が全く含まれていないため、ブルーミングが発生し、成形品外観が著しく悪化することがわかる。
【0071】
比較例7は、非テトラ体を1%含有する第1難燃成分と第2難燃成分であるTBA-DBPが9:1の混合物を10重量部配合することによってガスの発生が抑制され、高度な難燃性を付与されるが、非テトラ体の含有量が少ないためブルーミングが発生し、成形品外観が著しく悪化することがわかる。
【0072】
比較例8は、非テトラ体を35%含有する第1難燃成分と第2難燃成分であるTBA-DBPが9:1の混合物を10重量部配合することによって高度な難燃性を付与され、優れた外観を保持するが、耐熱性が悪く、加工時にガスを発生し得ることがわかる。
【0073】
比較例9は、第1難燃成分と第2難燃成分を併用しているが、第1難燃成分におけるテトラ体と非テトラ体の混合割合が99:1であるため、ブルーミングが発生し、成形品外観が著しく悪化することがわかる。
【0074】
比較例10は、テトラ体と非テトラ体の混合割合が65:35と非テトラ体含有量の多い第1難燃成分を用いているため、耐熱性が悪く、加工時にガスを発生し得ることがわかる。