(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065366
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/00 20060101AFI20220420BHJP
B60C 15/024 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
B60C15/00 L
B60C15/024 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173892
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】名塩 博史
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC25
3D131HA01
3D131HA03
3D131HA51
3D131LA28
(57)【要約】
【課題】リム組み性の悪化を抑制しながら、耐リム外れ性を向上させることができる、空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤ1は、ビード部4に埋設された環状のビードコア11と、ビードコア11のタイヤ径方向内側からタイヤ幅方向外側にわたって位置しており、タイヤ内表面のタイヤ径方向における内端点P0からタイヤ幅方向外側に延びて、タイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に湾曲する、ビードベース部20とを備えている。ビードベース部20は、タイヤ幅方向内側に位置する第1領域21と、タイヤ幅方向外側に位置する第2領域22とを有している。第1領域21の外表面は、ビード部4のうち第1領域21および第2領域22を除く一般領域25の外表面より滑らかである。第2領域22の外表面は、一般領域25の外表面より粗い。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部に埋設された環状のビードコアと、
前記ビードコアのタイヤ径方向内側からタイヤ幅方向外側にわたって位置しており、タイヤ内表面のタイヤ径方向における内端点からタイヤ幅方向外側に延びて、タイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に湾曲する、ビードベース部と
を備え、
前記ビードベース部は、タイヤ幅方向内側に位置する第1領域と、タイヤ幅方向外側に位置する第2領域とを有し、
前記第1領域の外表面は、前記ビード部のうち前記第1領域および前記第2領域を除く一般領域の外表面より滑らかであり、
前記第2領域の外表面は、前記一般領域の外表面より粗い、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1領域は、前記外表面の算術平均粗さRaが0.1μmより大きく1.0μmより小さい、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第2領域は、前記外表面の算術平均粗さRaが30μmより大きく300μmより小さい、
請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第2領域には、タイヤ周方向に延びる微細な凸条が複数形成されており、
前記複数の微細な突条は、前記第2領域の前記外表面を前記複数の微細な突条を横断してタイヤ幅方向に計測したときに、前記第2領域の前記算術平均粗さRaが実現されるように構成されている、
請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第1領域は、第1領域内端点からタイヤ幅方向外側に延びて第1領域外端点に至っており、
前記第1領域内端点は、前記タイヤ内表面の内端点に一致しており、
前記第1領域外端点は、前記ビードコアのタイヤ幅方向における中心位置から、前記ビードコアのタイヤ幅方向寸法の15%の長さだけ、タイヤ幅方向内側およびタイヤ幅方向外側に離れた位置においてそれぞれタイヤ径方向に延びる第1直線および第2直線の間のタイヤ幅方向範囲に位置している、
請求項1~4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第2領域は、第2領域内端点からタイヤ幅方向外側に延びてタイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に湾曲して第2領域外端点に至っており、
前記第2領域内端点は、前記ビードコアのタイヤ幅方向における中心位置から、前記ビードコアのタイヤ幅方向寸法の15%の長さだけ、タイヤ幅方向内側およびタイヤ幅方向外側に離れた位置においてそれぞれタイヤ径方向に延びる第1直線および第2直線の間のタイヤ幅方向範囲に位置しており、
前記第2領域外端点は、前記ビードコアのタイヤ径方向における中心位置から、前記ビードコアのタイヤ径方向寸法の5%の長さだけタイヤ径方向内側に離れた位置においてタイヤ幅方向に延びる第3直線と前記ビードコアのタイヤ径方向における外端部を通りタイヤ幅方向に延びる第4直線との間の径方向範囲に位置している、
請求項1~5のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記タイヤ内表面は、前記内端点からタイヤ径方向外側に延びる第3領域を有しており、
前記第3領域は、前記一般領域より滑らかである、
請求項1~6のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ビード部のうちホイールリムのリムシート面と接するビードベース面の全面に、段差が10~300μmの凹凸が形成された空気入りタイヤが開示されている。この空気入りタイヤでは、凹凸によって、リムシート面に対するビードベース面の摩擦力を高めることによって、ビード部のホイールリムに対するタイヤ周方向へのずれ(リムずれとも称する)を防止することが企図されている。また、凹凸の段差の最大値を300μmに制限することによって、エア漏れの防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の空気入りタイヤによれば、リムシート面に対するビードシート面の摩擦力を増大させるものであり、リム組み性が悪化しやすい。また、空気入りタイヤに過大な横力が作用したときに、ビードベース面がリムシート面からタイヤ幅方向内側に外れる、いわゆるリム外れを抑制することも望まれている。
【0005】
本発明は、リム組み性の悪化を抑制しながら、耐リム外れ性を向上させることができる、空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
ビード部に埋設された環状のビードコアと、
前記ビードコアのタイヤ径方向内側からタイヤ幅方向外側にわたって位置しており、タイヤ内表面のタイヤ径方向における内端点からタイヤ幅方向外側に延びて、タイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に湾曲する、ビードベース部と
を備え、
前記ビードベース部は、タイヤ幅方向内側に位置する第1領域と、タイヤ幅方向外側に位置する第2領域とを有し、
前記第1領域の外表面は、前記ビード部のうち前記第1領域および前記第2領域を除く一般領域の外表面より滑らかであり、
前記第2領域の外表面は、前記一般領域の外表面より粗い、空気入りタイヤを提供する。
【0007】
ホイールリムのうち空気入りタイヤのビードベース部が組み付けられるリムシート面には、タイヤ径方向内側に隆起するハンプが形成されている。空気入りタイヤがホイールリムに適正に組み付けられたとき、ビードベース部は第1領域がハンプのタイヤ幅方向外側に位置する状態でリムシート面に嵌合される。ハンプによって、ビード部のタイヤ幅方向内側への移動が抑制されており、これによってビード部のリムシート面からの脱落(リム外れ)が抑制されている。しかしながら、タイヤ幅方向への過大な横力が作用した場合、空気入りタイヤは、ビードベース部のうちタイヤ幅方向内側の端部がハンプに接触し、ハンプを起点としてタイヤ幅方向の内側に倒れつつハンプをタイヤ幅方向の内側に乗り越えることがある。この結果、ビード部のリムシート面からの脱落すなわちリム外れに至る。
【0008】
本発明によれば、ビードベース部は、外表面が滑らかに構成された第1領域においてホイールリムのリムシート面との真実接触面積すなわち表面粗さの影響を含む厳密な接触面積が増大するので、リムシート面とビードベースとの間で発生する凝着力を増大させることができる。これによって、タイヤ幅方向への過大な横力が作用したとしても、ハンプに隣接する第1領域はリムシート面への凝着を維持しやすい。
【0009】
特に、上記過大な横力が作用したときにビード部はハンプ周りにタイヤ幅方向内側に倒れるように変形しやすく、この場合には第1領域のほうが第2領域よりもリムシート面に強く押し付けられる。このため、より強く押し付けられる第1領域を滑らかに構成することによって、ビードベース部とリムシート面の間に発生する凝着による摩擦力を効果的に増大させやすい。よって、ビードベース部のハンプの乗り越えが抑制されるので耐リム外れ性が向上する。
【0010】
一方、空気入りタイヤはホイールリムに組み付けられるとき、ビードベース部のうち第2領域を、まずハンプをタイヤ幅方向外側に乗り越えさせることを要する。第2領域は、外表面が粗く構成されているので、リムシート面に対する凝着が抑制される。よって、リム組み時に第2領域を容易に、ハンプを乗り越えさせやすく、これに続いてビードベース部の全体を、ハンプを容易に乗り越えさせやすい。よって、耐リム外れ性を向上させながらもリム組み性の悪化が抑制される。
【0011】
また、前記第1領域は、前記外表面の算術平均粗さRaが0.1μmより大きく1.0μmより小さくてもよい。
【0012】
本構成によれば、第1領域を、リムシート面に強固に凝着させやすい。第1領域の外表面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であると不必要に表面粗さが小さくなりすぎて製造が容易ではない。第1領域の外表面の算術平均粗さRaが1μmより大きくなると、第1領域におけるリムシート面に対する凝着力が不足し、耐リム外れ性の向上効果が損なわれる。
【0013】
また、前記第2領域は、前記外表面の算術平均粗さRaが30μmより大きく300μmより小さくてもよい。
【0014】
本構成によれば、第2領域のリムシート面に対する凝着を抑制させやすい。第2領域の外表面の算術平均粗さRaが30μm以下であるとリムシート面に対する凝着の抑制が不十分となるため、耐リム組み性が悪化する。第2領域の外表面の算術平均粗さRaが300μm以上になると第2領域におけるリムシート面に対する凝着性が過度に低下して耐リムずれ性が悪化しやすい。
【0015】
また、前記第2領域には、タイヤ周方向に延びる微細な凸条が複数形成されており、
前記複数の微細な突条は、前記第2領域の前記外表面を前記複数の微細な突条を横断してタイヤ幅方向に計測したときに、前記第2領域の前記算術平均粗さRaが実現されるように構成されてもよい。
【0016】
本構成によれば、第2領域の表面粗さに異方性を付与できる。すなわち、第2領域は、タイヤ幅方向には凸条の凹凸により表面粗さを粗く構成できる一方で、タイヤ周方向には凸条または凸条が形成されていない部分において凹凸がなく表面粗さを滑らかに構成できる。これにより、第2領域は、タイヤ幅方向に力が作用する場合は表面の凹凸の過大な変形により凝着が抑制されることによってリム組み性を容易にしながら、タイヤ周方向に力が作用する場合はタイヤ周方向に表面粗さが滑らかなことで表面の凹凸の変形が抑制されることで凝着が維持され、それによって耐リムずれ性の悪化が抑制される。すなわち、耐リムずれ性の悪化を抑制しながら、リム組み性を向上させることができる。
【0017】
また、前記第1領域は、第1領域内端点からタイヤ幅方向外側に延びて第1領域外端点に至っており、
前記第1領域内端点は、前記タイヤ内表面の内端点に一致しており、
前記第1領域外端点は、前記ビードコアのタイヤ幅方向における中心位置から、前記ビードコアのタイヤ幅方向寸法の15%の長さだけ、タイヤ幅方向内側およびタイヤ幅方向外側に離れた位置においてそれぞれタイヤ径方向に延びる第1直線および第2直線の間のタイヤ幅方向範囲に位置していてもよい。
【0018】
本構成によれば、第1領域を適度な大きさに構成でき、リム組み性の悪化を抑制しながら耐リム外れ性を向上させることができる。第1領域外端点の位置が第1直線よりタイヤ幅方向内側に位置する場合、第1領域の不足に起因して凝着力が不足しやすい。第1領域外端点が第2直線よりタイヤ幅方向外側に位置する場合、第1領域が過度に大きくなりすぎて、リム組み時に凝着力が高くなりリム組み性が悪化しやすい。
【0019】
また、前記第2領域は、第2領域内端点からタイヤ幅方向外側に延びてタイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に湾曲して第2領域外端点に至っており、
前記第2領域内端点は、前記ビードコアのタイヤ幅方向における中心位置から、前記ビードコアのタイヤ幅方向寸法の15%の長さだけ、タイヤ幅方向内側およびタイヤ幅方向外側に離れた位置においてそれぞれタイヤ径方向に延びる第1直線および第2直線の間のタイヤ幅方向範囲に位置しており、
前記第2領域外端点は、前記ビードコアのタイヤ径方向における中心位置から、前記ビードコアのタイヤ径方向寸法の5%の長さだけタイヤ径方向内側に離れた位置においてタイヤ幅方向に延びる第3直線と前記ビードコアのタイヤ径方向における外端部を通りタイヤ幅方向に延びる第4直線との間の径方向範囲に位置していてもよい。
【0020】
本構成によれば、第2領域を適度な大きさに構成でき、耐リムずれ性の悪化を抑制しながらリム組み性を向上させることができる。第2領域内端点が第1直線よりタイヤ幅方向内側に位置する場合、第1領域が不足するため、耐リム外れ性の向上効果が損なわれる。第2領域内端点が第2直線よりタイヤ幅方向外側に位置する場合、第2領域が不足するため、リム組み性が悪化しやすい。
【0021】
第2領域外端点が第3直線よりタイヤ径方向内側に位置する場合、第2領域が不足するため、リム組み性が悪化しやすい。第2領域外端点が第4直線よりタイヤ径方向外側に位置する場合、第2領域が過度に大きくなりすぎ耐リムずれ性が悪化しやすい。
【0022】
また、前記タイヤ内表面は、前記内端点からタイヤ径方向外側に延びる第3領域を有しており、
前記第3領域は、前記一般領域より滑らかであってもよい。
【0023】
本構成によれば、第3領域において、ハンプに対する凝着力を高めることができる。これによって、耐リム外れ性がさらに向上する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、リム組み性の悪化を抑制しながら、耐リム外れ性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの子午線断面図。
【
図3】旋回時における空気入りタイヤの挙動を模式的に示す図。
【
図4】リム組み時における空気入りタイヤの挙動を模式的に示す図。
【
図5B】変形例に係る第2領域をタイヤ周方向に展開した図。
【
図5C】さらなる変形例に係る第2領域をタイヤ周方向に展開した図。
【
図5D】さらなる変形例に係る第2領域をタイヤ周方向に展開した図。
【
図5E】さらなる変形例に係る第2領域をタイヤ周方向に展開した図。
【
図5F】さらなる変形例に係る第2領域をタイヤ周方向に展開した図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ1の子午線断面図である。空気入りタイヤ1は、トレッド2と、トレッド2のタイヤ幅方向の両側部からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール3と、一対のサイドウォール3のそれぞれのタイヤ径方向の内側端部に位置する一対のビード部4とを備えている。
【0028】
図2は、
図1のビード部4の周辺を拡大して示している。
図2には、ホイールリム50が併せて示されている。ビード部4には環状のビード10が埋設されている。一対のビード10(
図2において一方側のみ示されている)にわたってタイヤ幅方向にカーカスプライ13が掛け渡されている。
【0029】
カーカスプライ13の外表面側およびタイヤ径方向内側には、ビード10の周囲にリムストリップゴム15もしくはチェーファ部材(不図示)が配置されている。また、カーカスプライ13の内表面側にはインナーライナ16が配置されている。ビード10は、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア11と、ビードコア11の外周面に貼り付けられた断面略三角形状をなす硬質ゴム製のビードフィラー12とを含んでいる。本明細書では、ビードフィラー12の先端12aより、タイヤ径方向の内側に位置する部分をビード部4と定義する。
【0030】
ビード部4は、ビードコア11のタイヤ径方向内側からタイヤ幅方向外側にわたって位置しており、タイヤ内表面のタイヤ径方向における内端点P0からタイヤ幅方向外側に延びて、タイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に湾曲する、ビードベース部20を備えている。
【0031】
ホイールリム50は、タイヤ幅方向に延びるリムシート面51と、リムシート面51からタイヤ径方向内側に隆起するハンプ52とを有している。空気入りタイヤ1は、ビードベース部20においてリムシート面51に嵌合されてホイールリム50に組み付けられる。空気入りタイヤ1がホイールリム50に適正に組み付けられた状態で、ビードベース部20はハンプ52のタイヤ幅方向外側に位置している。ハンプ52によって、ビード部4のタイヤ幅方向内側への移動が抑制されており、これによってビード部4のリムシート面51からの脱落(リム外れ)が抑制されている。
【0032】
ビードベース部20は、タイヤ幅方向内側に位置する第1領域21と、第1領域21よりもタイヤ幅方向外側に位置する第2領域22とを有している。換言すれば、ビードベース部20のうち、いわゆるトー側に第1領域21が位置しており、いわゆるヒール側に第2領域22が位置している。
【0033】
第1領域21は、外表面が、ビード部4の外表面のうち第1領域21および第2領域22を除く一般領域25よりも滑らかに形成されている。一方、第2領域22は、外表面が、一般領域25よりも粗く形成されている。すなわち、第1領域21は、第2領域22よりも滑らかに形成されている。
【0034】
具体的には、第1領域21は、外表面の算術平均粗さRaが0.1μmより大きく1.0μmより小さくなるように形成されている。第2領域22は、外表面の算術平均粗さRaが30μmより大きく300μmより小さくなるように形成されている。一般領域25は、外表面の算術平均粗さRaが1.0μm以上30μm以下となるように形成されている。算術平均粗さRaはJIS B0601:2013に規定され、その評価の方式及び手順はJIS B0633:2001の規定に準拠する。
【0035】
第1領域21、第2領域22、および一般領域25の外表面は、空気入りタイヤ1を加硫成型するためのタイヤ加硫金型のビード部4を成型する部位の表面形状が転写されることにより構成される。
【0036】
したがって、第1領域21を上述した粗さに形成するには、タイヤ加硫金型のうち第1領域21を加硫成型する成型面を、算術表面粗さRaが0.1μmより大きく1.0μmより小さくなるように、例えばダイヤモンドの粉末を含む研磨剤によって鏡面状に研磨すればよい。
【0037】
また、第2領域22を上述した粗さに形成するには、タイヤ加硫金型のうち第2領域22を加硫成型する成型面を、算術平均粗さRaが30μmより大きく300μmより小さくなるように、例えばタイヤ加硫金型の表面をショットブラストまたはエッチングなどの加工で梨地状に形成すればよい。
【0038】
さらにまた、一般領域25を上述した粗さに形成するには、タイヤ加硫金型のうち一般領域25を加硫成型する成型面を、算術平均粗さRaが1.0μm以上30μm以下となるように例えば、タイヤ加硫金型の表面をボールエンドミル等で機械加工すればよい。
【0039】
なお、加硫成型後に冷却された空気入りタイヤの熱変形を考慮して、タイヤ加硫金型の表面粗さを調整してもよい。例えば、加硫成型された空気入りタイヤが冷却時に熱収縮(例えば3%)することが見込まれる場合には、該熱収縮分を考慮して、タイヤ加硫金型の表面粗さを調整(例えば3%粗く)してもよい。
【0040】
第1領域21は、第1領域内端点P11からタイヤ幅方向外側に延びて第1領域外端点P12に至っている。
【0041】
第1領域内端点P11は、本実施形態では、タイヤ内表面の内端点P0に一致している。第1領域内端点P11は、内端点P0よりもタイヤ幅方向外側に位置していてもよいが、一致しているほうが、第1領域21がタイヤ幅方向に広く構成されるので好ましい。
【0042】
第1領域外端点P12は、ビードコア11のタイヤ幅方向における中心を通りタイヤ径方向に延びる幅方向中心線Lvからビードコア11のタイヤ幅方向寸法Wの15%の長さAだけタイヤ幅方向内側およびタイヤ幅方向外側に離れた位置それぞれにおいてタイヤ径方向に延びる第1直線L1および第2直線L2の間のタイヤ幅方向範囲R1に位置している。
【0043】
第2領域22は、第2領域内端点P21からタイヤ幅方向外側に延びてタイヤ幅方向外側においてタイヤ径方向外側に湾曲して第2領域外端点P22に至っている。
【0044】
第2領域内端点P21は、第1領域外端点P12と同様にタイヤ幅方向範囲R1に位置している。本実施形態では、第2領域内端点P21は、第1領域外端点P12よりもタイヤ幅方向外側に位置している。具体的には、第1領域21と第2領域22とはタイヤ幅方向に離間しており、これらの間に一般領域25が位置している。
【0045】
なお、第2領域内端点P21は、第1領域外端点P12と一致してもよく、この場合にはビードベース部20において第1領域21と第2領域22とがタイヤ幅方向に連続している。第1領域21と第2領域22とがタイヤ幅方向に隣接するように構成すると、第1領域21および/または第2領域22をタイヤ幅方向に広く確保しやすい。
【0046】
第2領域外端点P22は、ビードコア11のタイヤ径方向における中心を通りタイヤ幅方向に延びる径方向中心線Lhからビードコア11のタイヤ径方向寸法Dの5%の長さBだけタイヤ径方向の内側に離れた位置においてタイヤ幅方向に延びる第3直線L3と、ビードコア11のタイヤ径方向における外端部を通りタイヤ幅方向に延びる第4直線L4との間のタイヤ径方向範囲R2に位置している。
【0047】
上述した直線Lv,Lh,L1~L4、第1領域21、および第2領域22は、空気入りタイヤをタイヤ周方向の所定範囲(例えばタイヤ周方向に20mmの範囲)においてタイヤ径方向にカットしたサンプルを、一対のビード部4間を標準リム幅にセットした状態で定義される。
【0048】
上記説明した空気入りタイヤ1によれば、次の効果を奏する。
【0049】
(1)
図3に示されるように、ホイールリム50に組み付けられた空気入りタイヤ1が車両に装着された状態で、例えば急旋回等でトレッド2にタイヤ幅方向(
図3において右側)に向かう過大な力が作用した場合、空気入りタイヤ1は、ビードベース部20のうち第1領域21がハンプ52に対してタイヤ幅方向外側から接触する。
【0050】
ここで、第1領域21は、外表面が第2領域22および一般領域25に比して滑らに構成されている。これによって、ビードベース部20は、外表面が滑らかに構成された第1領域21において、ホイールリム50のリムシート面51との真実接触面積すなわち表面粗さの影響を含む厳密な接触面積が増大するので、リムシート面51に凝着しやすく、リムシート面51に対する凝着力が増大する。この結果、タイヤ幅方向への過大な横力が作用したとしても、ハンプ52に隣接する第1領域21はリムシート面51への凝着を維持しやすい。
【0051】
特に、上記過大な横力が作用したときにビード部4はハンプ52周りにタイヤ幅方向内側に倒れるように変形しやすく、この場合には第1領域21のほうが第2領域22よりもリムシート面51に強く押し付けられる。このため、より強く押し付けられる第1領域21を滑らかに構成することによって、ビードベース部20のリムシート面51に対する凝着性を効果的に増大させやすい。よって、ビードベース部20のハンプ52の乗り越えが抑制されるので、耐リム外れ性が向上する。
【0052】
一方、
図4に示されるように、空気入りタイヤ1がホイールリム50に組み付けられるとき、ビードベース部20のうちタイヤ幅方向外側に位置する第2領域22を、まずハンプ52をタイヤ幅方向外側に乗り越えさせることを要する。第2領域22は、外表面が第1領域21および一般領域25に比して粗く構成されているので、リムシート面51に対する凝着が抑制される。よって、リム組み時に第2領域22を容易に、ハンプ52を乗り越えさせやすく、これに続いてビードベース部20の全体を、ハンプ52を容易に乗り越えさせやすい。よって、耐リム外れ性を向上させながらも、リム組み性の悪化が抑制される。
【0053】
(2)第1領域21は、外表面の算術平均粗さRaが0.1μmより大きく1.0μmより小さいので、第1領域21をリムシート面51に強固に凝着させやすい。第1領域21の外表面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であると製造が容易ではない。第1領域21の外表面の算術平均粗さRaが1μmより大きくなると、第1領域21におけるリムシート面51に対する凝着力が不足し、耐リム外れ性の向上効果が損なわれる。
【0054】
(3)第2領域22は、外表面の算術平均粗さRaが30μmより大きく300μmより小さいので、第2領域22のリムシート面51に対する凝着を抑制させやすい。第2領域22の外表面の算術平均粗さRaが30μ以下であるとリムシート面51に対する凝着の抑制が不十分となるため、耐リム組み性が悪化する。第2領域22の外表面の算術平均粗さRaが300μm以上になると第2領域22におけるリムシート面51に対する凝着性が過度に低下して耐リムずれ性が悪化しやすい。
【0055】
(4)第1領域21は、第1領域内端点P11がタイヤ内表面の内端点P0に一致しており、第1領域外端点P12がタイヤ幅方向範囲R1に位置しているので、第1領域21を適度な大きさに構成でき、リム組み性の悪化を抑制しながらタイリム外れ性を向上させることができる。第1領域外端点P12がタイヤ幅方向範囲R1よりもタイヤ幅方向内側に位置していると、第1領域21の不足に起因して凝着力が不足しやすい。第1領域外端点P12がタイヤ幅方向範囲R1よりもタイヤ幅方向外側に位置していると、第1領域21が過度に大きくなりすぎて、リム組み時に凝着力が高くなりリム組み性が悪化しやすい。
【0056】
(5)第2領域22は、第2領域内端点P21がタイヤ幅方向範囲R1に位置しており、第2領域外端点P22がタイヤ径方向範囲R2に位置しているので、第2領域22を適度な大きさに構成でき、耐リムずれ性の悪化を抑制しながらリム組み性を向上させることができる。第2領域内端点P21がタイヤ幅方向範囲R1よりもタイヤ幅方向内側に位置する場合、第1領域21が不足するため、耐リム外れ性の向上効果が損なわれる。第2領域内端点P21がタイヤ幅方向範囲R1よりもタイヤ幅方向外側に位置する場合、第2領域22が不足するため、リム組み性が悪化しやすい。
【0057】
第2領域外端点P22がタイヤ径方向範囲R2よりもタイヤ径方向内側に位置する場合、第2領域22が不足するため、リム組み性が悪化しやすい。第2領域外端点P22がタイヤ径方向範囲R2よりもタイヤ径方向外側に位置する場合、第2領域22が過度に大きくなりすぎ耐リムずれ性が悪化しやすい。
【0058】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0059】
上記実施形態では、耐リム外れ性を向上させるために、ビードベース部20に第1領域21を構成したが、これに加えて、
図2において破線で示すように、タイヤ内表面に、内端点P0からタイヤ径方向外側に延びる第3領域23を構成してもよい。第3領域23は、外表面の算術平均粗さRaが、第2領域22および一般領域25よりも滑らかに構成されている。第3領域23の外表面の算術平均粗さRaを、第1領域21の外表面と同様に、0.1μmより大きく1.0μmより小さく構成してもよい。
【0060】
第3領域23は、内端点P0から第3領域外端点P32に至っている。第3領域外端点P32は、P0からタイヤ径方向外側に2~4mmの範囲(タイヤ径方向範囲R3)に位置している。
【0061】
図3に示されるように、第3領域23は、タイヤ幅方向に過度の力が作用したとき、ハンプ52に対してタイヤ幅方向に当接する。よって、第3領域23においてハンプ52に対する凝着力を高めることができるので、耐リム外れ性がさらに向上する。
【0062】
なお、タイヤ内表面は、タイヤ加硫金型によって成型されるのではなく、加硫成型されるグリーンタイヤの内側において膨出して内表面を支持するブラダの外表面が転写されることによって成型される。したがって、第3領域23を滑らかに形成するには、ブラダの対応する部位の表面の算術平均粗さRaを0.1μmより大きく1.0μmより小さくなるように構成すればよい。
【0063】
また、上記実施形態では、第2領域22の外表面を、梨地状に加工することを例示した。この他、変形例に係る第2領域22をタイヤ周方向に展開して示す
図5Aを参照して、第2領域22に、タイヤ周方向に直線状に互いに平行に延びる、複数の微細な周方向凸条60を形成することによって、第2領域22を上述した粗さに形成してもよい。
【0064】
この場合、第2領域22の外表面の算術平均粗さRaは、第2領域22を、周方向凸条60を横断するようにタイヤ幅方向に沿って断面曲線を計測して算出される。周方向凸条60の幅、突出高さ、および形成ピッチは、複数の周方向凸条60をタイヤ幅方向に横断して計測されて算出される算術平均粗さRaが、所望の値になるように適宜設定すればよい。
【0065】
例えば、タイヤ加硫金型の対応する部位に微小レーザー加工により微細な周方向溝を形成することによって、加硫成型された空気入りタイヤにおいて微細な周方向凸条60を形成できる。
【0066】
第2領域22に周方向凸条60を構成することによって、第2領域22の表面粗さに異方性を付与できる。すなわち、第2領域22は、タイヤ幅方向に沿った表面粗さが凸条の凹凸により粗く構成される一方で、タイヤ周方向に沿った表面粗さが凸条または凸条が形成されていない部分において凹凸がなく滑らかに構成される。
【0067】
これにより、第2領域22は、タイヤ幅方向に力が作用する場合は表面の凹凸の過大な変形により凝着が抑制されることによってリム組み性を容易にしながら、タイヤ周方向に力が作用する場合はタイヤ周方向に表面粗さが滑らかなことで表面の凹凸の変形が抑制されることで凝着が維持され、それによって耐リムずれ性の悪化が抑制される。すなわち、リム組み性を向上させながらも、耐リムずれ性も向上させることができる。
【0068】
図5B~
図5Fには、さらなる変形例に係る周方向凸条61~65が示されている。
図5Bに示されるように、周方向凸条61をタイヤ周方向に対して傾斜させるように構成してもよい。また、
図5Cに示されるように、周方向凸条62を、互いにタイヤ周方向に対する傾斜角度が異なる2組の周方向凸条62A,62Bにより格子状に交差させて構成してもよい。また、
図5D~
図5Fに示されるように、周方向凸条63~65を、周方向凸条60~62に対してタイヤ周方向に向かってタイヤ幅方向に振幅を有するように構成してもよい。
【0069】
これによって、
図5A~
図5Fに示されるように、周方向凸条60~65のように、突条のタイヤ周方向成分およびタイヤ幅方向成分を種々組み合わせることによって、第2領域22のタイヤ幅方向に沿った表面粗さと、タイヤ幅方向の任意の位置におけるタイヤ周方向に沿った表面粗さとを調整しやすい。
【0070】
また、上記実施形態では、第1領域21および第2領域22ともに、外表面の粗さがタイヤ幅方向に一定になるように構成したが、タイヤ幅方向に異ならせてもよい。例えば、第1領域21のなかでも、タイヤ幅方向において、ハンプ52に近接するほど、すなわち第1領域内端点P11に向かうほど、外表面がより滑らかになるように構成してもよい。これによって、タイヤ幅方向に過度な力が作用したときにリムシート面51に対してより面圧が高くなりやすいタイヤ幅方向内側部分の凝着力を効果的に増大させることができ、耐リム外れ性を効率的に向上させやすい。
【0071】
また、第2領域22のなかでも、リム組み時に最初にハンプ52に接触する部分(例えばビードコア11のタイヤ幅方向外側かつタイヤ径方向内側に位置する部分、さらに例えばビードコア11の幅方向中心線Lvと径方向中心線Lhとの交点から、タイヤ径方向内側に向かってタイヤ幅方向外側へ、タイヤ径方向に対して45°で傾斜した方向に位置する部分)を粗くして、この部分からタイヤ幅方向内側およびタイヤ径方向外側に離れるほど、滑らかにしてもよい。これによって、リム組み時に第2領域22を、最初にハンプ52に当接する部分の、ハンプ52に対する凝着力をより低減することができ、ハンプ52をより容易に乗り越えさせやすい。よって、リム組み性を効率的に向上させやすい。
【符号の説明】
【0072】
1 空気入りタイヤ
4 ビード部
10 ビード
11 ビードコア
20 ビードベース部
21 第1領域
22 第2領域
25 一般領域
50 ホイールリム
51 リムシート面
52 ハンプ