(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065411
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/32 20060101AFI20220420BHJP
B41J 3/36 20060101ALI20220420BHJP
B41J 2/355 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
B41J2/32 Z
B41J3/36 Z
B41J2/355 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173984
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 武志
【テーマコード(参考)】
2C055
2C065
2C066
【Fターム(参考)】
2C055CC03
2C055CC05
2C065AA01
2C065AB01
2C065AD03
2C065CZ04
2C065CZ14
2C065CZ17
2C066AA08
2C066AB02
2C066CA07
2C066CA11
2C066CA13
2C066CA23
2C066CB01
2C066CB06
2C066CC03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電圧低下または温度低下時に印刷速度を低下させずに印刷を行う。
【解決手段】ライン上に配列された複数の発熱体を有するサーマルヘッド204と、装置に電源を供給するための電池210と、電池210の電圧を計測する電圧計測手段と、電池210の温度を計測する温度計測手段210tと、温度計測手段210tにより測定された温度に基づき、印刷可能とする印刷開始可能電圧を設定する電圧設定手段と、電圧計測手段により計測された電圧と印刷開始可能電圧を比較して印刷可能か判定する印刷可能判定手段と、同時に発熱させる発熱体の個数を設定する発熱体数設定手段とを備え、発熱体数設定手段は、印刷可能判定手段が印刷可能と判定した状態で温度計測手段により計測された温度に基づいて、同時に発熱させる前記発熱体の個数を設定することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン上に配列された複数の発熱体を有するサーマルヘッドと、
装置に電源を供給するための電池と、
前記電池の電圧を計測する電圧計測手段と、
前記電池の温度を計測する温度計測手段と、
前記温度計測手段により測定された温度に基づき、印刷可能とする印刷開始可能電圧を設定する電圧設定手段と、
前記電圧計測手段により計測された電圧と前記印刷開始可能電圧を比較して印刷可能か判定する印刷可能判定手段と、
同時に発熱させる前記発熱体の個数を設定する発熱体数設定手段と
を備え、
前記発熱体数設定手段は、前記印刷可能判定手段が印刷可能と判定した状態で前記温度計測手段により計測された温度に基づいて、同時に発熱させる前記発熱体の個数を設定することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記発熱体数設定手段が設定した個数の単位毎に印刷データを分割し、前記発熱体を前記個数ずつ発熱させる制御手段を備えることを特徴とする請求項1記載の印刷装置。
【請求項3】
前記電圧設定手段が印刷可能とする電圧を変更する温度は、前記発熱体数設定手段が前記発熱体の個数を変更する温度以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記温度計測手段は、前記装置における前記電池の収容部の内部に配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記温度計測手段は、前記サーマルヘッドの長手方向の一方側の端部付近において前記装置の動作を制御する制御基板に配置され、前記電池とは異なる電源を使用した印刷制御時に使用されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯可能かつサーマルヘッドを有する感熱式の印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電池で駆動され、無線通信が可能な携帯可能なプリンタは、領収書や注文書の印刷(印字)を行う業務などに広く用いられている。
【0003】
また、携帯可能なプリンタにおいては、サーマルヘッドで感熱紙を加熱することで印刷する方式が、比較的簡単な構造でプリンタエンジンを構成でき、小型・低コストを実現しやすいため、一般的に使用されている。
【0004】
これら携帯可能なサーマルヘッドを有する感熱式のプリンタは、電池切れによる印刷の中断の回避、制御の工夫による電池の持続時間の向上、印刷速度の高速化などが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1では、電池の温度、電圧を計測し、これらの状況に適した同時駆動ドット数を制御することで、印刷速度の高速化と、電池持続時間の長期化の両立を図る技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の制御では、電圧低下または温度低下のいずれかの条件を満たすと必ず印刷速度を低下させてしまう。また、状況により様々な速度の印刷を行うことになり、印刷される画像にバラつきを生じさせてしまう。
【0008】
さらに、印刷速度を低下させると感熱紙を搬送するためのモータ駆動時間や感熱紙を加熱するためのサーマルヘッドの加熱時間も増える。これにより、印刷に使用する電池の消費電力が増えてしまい、電池が空になるまでに印刷できる印刷枚数も減ってしまう。
【0009】
加えて、近年、使用されているリチウムイオン電池の放電温度特性は放電終止電圧直前まで大きな出力を維持できる。そのため、放電終止電圧直前まで、印刷速度を低下させて瞬時電力を低減することなく印刷をすることが可能である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、電池を用いたサーマルヘッドを有する感熱式のプリンタにおいて、印刷速度を落とさずかつ電池の消費量を抑えて印刷枚数を確保できる印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を鑑み、本発明の印刷装置は、
ライン上に配列された複数の発熱体を有するサーマルヘッドと、
装置に電源を供給するための電池と、
前記電池の電圧を計測する電圧計測手段と、
前記電池の温度を計測する温度計測手段と、
前記温度計測手段により測定された温度に基づき、印刷可能とする印刷開始可能電圧を設定する電圧設定手段と、
前記電圧計測手段により計測された電圧と前記印刷開始可能電圧を比較して印刷可能か判定する印刷可能判定手段と、
同時に発熱させる前記発熱体の個数を設定する発熱体数設定手段と
を備え、
前記発熱体個数設定手段は、前記印刷可能判定手段が印刷可能と判定した状態で前記温度計測手段により計測された温度に基づいて、同時に発熱させる前記発熱体の個数を設定することを特徴とする。
【0012】
また、前記発熱体数設定手段が設定した個数の単位毎に印刷データを分割し、前記発熱体を前記個数ずつ発熱させる制御手段を備えることが好ましい。
【0013】
また、前記電圧設定手段が印刷可能とする電圧を変更する温度は、前記発熱体数設定手段が前記発熱体の個数を変更する温度以上であることが好ましい。
【0014】
また、前記温度計測手段は、前記装置における前記電池の収容部の内部に配置されていることが好ましい。
【0015】
また、前記温度計測手段は、前記サーマルヘッドの長手方向の一方側の端部付近において前記装置の動作を制御する制御基板に配置され、前記電池とは異なる電源を使用した印刷制御時に使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、計測した環境温度により印刷開始可能電圧を変更し、さらに計測した環境温度により発熱体の分割数を設定する。これにより、サーマルヘッドの発熱体が可能とする最大印字数の印字が可能になる。そのため、印刷速度が落とさずに印字することができる。
【0017】
また、測定した電池周辺の温度により、サーマルヘッドの発熱体の最大印字数を変更する。これにより、印刷時の最大電流を抑えることができ、低温環境下において、印刷中の中断を防ぐことができる。
【0018】
また、前記電圧設定手段が印刷可能とする電圧を変更する温度は、前記発熱体数設定手段が前記発熱体の個数を変更する温度以上であることにより、温度が許す限り、サーマルヘッドの発熱体の最大印字数で印刷が可能になる。これにより、通常温度の環境下では印刷速度が落ちず、低温環境下において、印刷中の中断を防ぐことができる。
【0019】
また、温度計測手段を電池の収容部の内部に収容することにより、正確に電池温度を測定することができる。これにより、印刷可能な電圧の閾値を正確に設定することが可能となり、通常温度の環境下では印刷速度が落ちず、低温環境下において、印刷中の中断を防ぐことができる。
【0020】
また、温度計測手段がサーマルヘッドの長手方向の一方側の端部に配置されていることにより、電池の収容部内部に温度計測手段を配置しなくても電池温度を計測することができる。また、端部に配置することで印刷装置が発生する熱の影響を避けることができる。これにより、印刷装置の小型化・低価格化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置の構成を正面側から見た斜視図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る印刷装置の構成を背面側から概略的に示す斜視図。
【
図3】本発明の一実施形態に係る印刷装置の電気的接続を示すブロック図。
【
図4】本発明の一実施形態に係る印刷装置の内部構成を側面から見た断面図。
【
図5】本発明の一実施形態に係る印刷装置の内部構成を上面から見た断面図。
【
図6】本発明の一実施形態に係る印刷装置の印刷制御の処理手順を示すフローチャート。
【
図7】本発明の一実施形態に係るサーマルヘッドの構成図。
【
図8】本発明の一実施形態に係る印刷データを分割印刷する手順を説明する模式図。
【
図11】分割印刷時の電池電圧・電流値を示すグラフ。
【
図12】本発明の第2実施形態に係る印刷装置の印刷制御の処理手順の一部を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。しかしながら、以下の実施形態に記載されている構成はあくまで実施例に過ぎず、本発明の範囲は実施の形態に記載されている構成によって限定されることはない。
【0023】
(第1の実施形態)
<印刷装置の構成説明>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置100の構成を正面側から見た斜視図である。
【0024】
印刷装置100は、略直方体の筐体からなる本体101を備え、本体101は金属、例えば、アルミニウムや合成樹脂によって形成される。本体101には、図中矢印A方向から眺めたときの正面に、印刷用紙の排出口(以下、「プリンタ出口」という。)103が設けられる。
【0025】
更に、本体101には、図中矢印A方向から眺めたときの上面に、窪み部104が形成される。
【0026】
窪み部104には、
図4に示すように印刷用紙の挿入口(以下、「プリンタ入口」という。)106が設けられる。
【0027】
プリンタ出口103、プリンタ入口106は、本体101の長手方向に沿って開口している。なお、プリンタ入口106の開口位置は、後述の
図4において詳細に示す。
【0028】
本体101には、図中矢印A方向から眺めたときの上面左側に操作表示部221が設けられる。操作表示部221は、スイッチやタッチパネル等で構成され、ユーザーがプリンタの操作を行うことができる。また、LEDや液晶パネルなどでユーザーに対して情報を表示するようになっている。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態に係る印刷装置100の構成を背面側から概略的に示す斜視図である。
【0030】
本体101は、印刷動作を行うためのプリンタユニット101aとプリンタユニットへの電源を供給するための電池ユニット101bからなり、電池ユニット101bが取り外し可能な構成となっている。
【0031】
本体101には、図中矢印A方向から眺めたときの背面右側にUSB端子108、DC電源端子109が設けられる。USB端子108は印刷データを印刷装置100に送信する外部機器などとUSBケーブルを介して接続する際に用いられる接続端子である。
【0032】
DC電源端子109は、プリンタユニット101aや電池ユニット101bに内蔵された電池210(
図4参照)へ
図3に示す外部のDC電源機器283から電力を供給するための電源線が接続される接続端子である。
【0033】
<印刷装置の内部構成説明>
図4及び
図5は、本実施形態に係る印刷装置の内部構成を概略的に示す断面図である。
図4は側面側から見た断面図(
図1におけるB-B断面)であり、
図5は上面側から見た断面図(
図1におけるC-C断面)である。
【0034】
印刷装置100は、電池210及びプリンタ制御基板203を有する。電池210は、プリンタユニット101aに電池ユニット101bが取り付けられる際に、プリンタ制御基板203に接続されて印刷装置100の各構成要素へ電力を供給する。また、
図3に示すように、DC電源端子109を介して供給される電力によって充電制御部251の制御の元で電池210が充電される。
【0035】
また、電池サーミスタ210tが電池ユニット101b内の印刷装置100の長手方向における中央部付近に配置されており、筐体の下部でプリンタユニット101aと電池ユニット101bが接触している部分に沿って配置されている。なお、電池サーミスタ210tは電池ユニット101b内の電池210の上方で、プリンタユニット101aと電池ユニット101bとが接触している部分に沿って配置しても良い。また、電池ユニット101b内の電池210の下方で筐体の外壁側に配置しても良い。
【0036】
プリンタ制御基板203は、
図5に示すように、サーマルヘッド204の下方で、印刷装置100の長手方向の端部に電圧変換回路281が搭載されており、その近傍に電圧変換回路サーミスタ281tが配置されている。
【0037】
さらに、印刷装置100は、プラテンローラ300(搬送用ローラ)及びサーマルヘッド204を有する。サーマルヘッド204はプラテンローラ300の下方に配置され、サーマルヘッド204がプラテンローラ300との間に印刷用紙を挟んだ状態でその長手方向のライン上に配列された複数の発熱体を加熱することにより印刷が行われる。
【0038】
サーマルヘッド204は印刷装置100の長手方向に沿うように配置された平板状を呈し、サーマルヘッド204の搬送方向上流側(印刷装置100の中央側)の端部には、長手方向に沿うように配置された丸棒状の支持部304が設けられ、印刷装置100の側板と係合する。これにより、サーマルヘッド204は支持部304を中心として回転軸周りに回動可能となる。加えて、ヘッドサーミスタ204tが長手方向の中央部付近に配置されている。
【0039】
また、サーマルヘッド204の下方には弾性部材、例えば、コイルスプリング305が配置され、コイルスプリング305はサーマルヘッド204をプラテンローラ300へ向けて付勢する。
【0040】
プラテンローラ300は、その回転軸が印刷装置100の長手方向に沿うように配置され、モータ205は印刷装置100の長手方向の端部、かつ電圧変換回路281の反対側に配置される。プラテンローラ300はギア列によってモータ205から伝達された駆動力により、回転軸周りに回転する。
【0041】
窪み部104は、サーマルヘッド204へ向けて傾斜する斜面104aを有する。斜面104aと、サーマルヘッド204及びプラテンローラ300の間で搬送経路111を構成する(
図4中破線矢印参照)。
【0042】
印刷装置100では、印刷用紙が搬送経路111に沿って搬送される。具体的には、印刷用紙は、窪み部104の斜面104aへ向けて投入されると、プリンタ入口106を経て、サーマルヘッド204及びプラテンローラ300の間を通過し、プリンタ出口103から排出される。
【0043】
<印刷装置のブロック図>
【0044】
図3は、本実施形態に係る印刷装置100の電気的接続を示すブロック図である。印刷装置100は、プリンタユニット101a内に、プリンタ制御基板203、サーマルヘッド204、モータ205、無線モジュール206、操作表示部221を備える。
【0045】
また、プリンタ制御基板203には、USB端子108、DC電源端子109、制御部200、充電制御部251、電圧変換回路281、SW282が搭載されている。
【0046】
一方、電池ユニット101b内には、電池210、電池210の温度を検出するための電池サーミスタ210tを備えている。
【0047】
電池210は充電を行うことにより繰り返し使用することのできる二次電池である。また、電池210の電圧は、制御部200及び充電制御部251に入力され、制御部200による電池接続検知や、充電制御部251による充電電圧の制御や過電圧の検知などに使用される。このとき、制御部200や充電制御部251が電池210の電圧計測手段として機能することになる。
【0048】
電池サーミスタ210tの検出値(検出電圧)は、制御部200及び充電制御部251に入力され、充電時の外部短絡や、過充電によるリチウムイオン電池の熱暴走を検出するために使用される。また、電池210を使用した印刷時には、筐体内の環境温度を検出するために使用される。
【0049】
制御部200は、CPU、マイコン等で構成され、装置全体の制御、演算、情報転送を司る。制御部200内には通信部202とIO部207を備えている。
【0050】
通信部202は、外部機器と有線接続して情報通信を行う。通信規格としてはUSBやLAN、SCSIなどを挙げることができる。
【0051】
また、装置内にある無線モジュール206を介すことで、外部機器と無線での通信を行うこともできる。無線通信の規格としては、無線LAN、BLUETOOTH(登録商標)などを挙げることができる。
【0052】
IO部207は、信号の入力検知と出力制御を行う。入力検知されるものは、操作表示部221のボタンの入力、電池210の電池電圧、ヘッドサーミスタ204t、電池サーミスタ210t、電圧変換回路サーミスタ281tで検知した温度を変換した検出電圧などがある。また、出力制御するものは、サーマルヘッド204(加熱量制御)、モータ205(駆動制御)、充電制御部251(充電許可制御)、SW282(ON/OFF制御)、操作表示部221の表示用LEDの制御などがある。
【0053】
サーマルヘッド204は、微小発熱体を1ライン状に整列配置したものである。制御部200が印刷データに対応した通電時間を制御することで、サーマルヘッド204は選択的に発熱体が加熱され、所望する画像(印刷データ)を印刷することができる。また、サーマルヘッド204には温度を検出するためのヘッドサーミスタ204tが内蔵されている。
【0054】
ヘッドサーミスタ204tの検出電圧は、制御部200がサーマルヘッドの通電時間の調整に使用する。
【0055】
モータ205は、後述の搬送用ローラ(搬送部)であるプラテンローラ300を回転させ、印刷用紙を搬送するための駆動源である。
【0056】
無線モジュール206は、無線通信を行うために無線チップと無線(アンテナ)回路が小型基板に実装されたものである。
【0057】
充電制御部251は、電池210の充電に必要な電圧、電流の制御を行う。また、電池210の電圧、電池サーミスタ210tの検出電圧を入力することにより、電池210の過電圧、過放電、電池温度超過や充電時間超過などを検出し、電池210への通電を遮断する安全機能も備えている。さらに、制御部200の指示により充電のオン/オフを行う。
【0058】
電圧変換回路281は、電池210より供給された電圧をサーマルヘッド204、モータ205を駆動するために必要な電池変換電圧Vbに変換するものである。変換にはDC/DCコンバータなどが用いられる。また、電圧変換回路281には温度を検出するための電圧変換回路サーミスタ281tが配置されている。
【0059】
電圧変換回路サーミスタ281tは、印刷時に、連続印刷などの高負荷により、電圧変換回路281が過熱しているのを検出するために使用される。また、DC電源機器283を使用した印刷時には筐体内の温度を検出するために使用される。
【0060】
SW282は、サーマルヘッド204、モータ205への電力の供給の切り替えを行うものである。SW282では、電池210から電圧変換回路281を介して供給された電力(電池変換電圧Vb)または、DC電源機器から供給された電力(DC電源電圧Vc)のどちらかを選択できる構成となっている。本実施形態においては、電池210の出力電圧が印刷に必要な電圧以上であれば電池変換電圧Vbを、そうでなければDC電源電圧Vcを使用して印刷を行うように設定されており、制御部200がその設定に従って判定し、SW282の切替処理を行う。
【0061】
また、制御部200を駆動するための電源として、電池210から供給された電力(バッテリー電圧Vd)、またはDC電源機器283から供給された電力(DC電源電圧Vc)のどちらかの電力から不図示の制御部用電圧変換回路で変換された電力を供給する。なお、どちらの電力を供給するかの選択は不図示のSWを使用すれば良い。
【0062】
DC電源機器283は、プリンタユニットを駆動するために必要な直流電圧(DC電源電圧Vc)を機器に供給する。DC電源機器283には、商用電源から直流電圧を供給するACアダプタや外部電池、モバイルバッテリーなどがある。
【0063】
<印刷制御の処理手順>
図6は本実施形態に係る印刷装置100の印刷制御の処理手順を示すフローチャートである。
【0064】
操作表示部221へのユーザー操作により、印刷装置100の電源が投入されると、制御部200は、電池サーミスタ210tの出力電圧に基づき、電池210の温度を検知する(ステップS601)。
【0065】
制御部200は、検知した温度により、印刷開始可能とする電圧の閾値を7.0V、6.8Vのいずれかから選択する。なお、以下に説明する本実施形態では、一例として電池210の検出電圧が、軽負荷時(印刷していないときの電圧)であるとする。
【0066】
ステップS601で検知した温度が10℃未満の場合、制御部200は、印刷開始可能とする印刷開始可能電圧の閾値を7.0Vに選択する(ステップS611)。この時、制御部200が印刷開始可能電圧を設定する電圧設定手段として機能しており、以下の説明においても同様である。
【0067】
ステップS601で検知した温度が10℃以上の場合、制御部200は、印刷開始可能とする印刷開始可能電圧の閾値を6.8Vに選択する(ステップS612)。
【0068】
次に制御部200は、外部機器、または、操作表示部221へのユーザー操作による画像の印刷指示を待つ(ステップS621)。
【0069】
ステップS621で印刷指示がない場合(ステップS621でNo)、そのままステップS621に留まり、画像の印刷指示を待つ。
【0070】
ステップS621で印刷指示を受けた場合(ステップS621でYes)、制御部200は、電池210の電圧を検知し、検知した電池電圧が印刷開始可能とする電圧の閾値以上であるかを比較し、印刷可能かどうかを判定する(ステップS631)。この時、制御部200は印刷可能判定手段として機能しており、以下の説明においても同様である。
【0071】
ステップS631で検知した電池210の電圧が印刷開始可能電圧未満であった場合(ステップS631でNo)、制御部は、操作表示部221や外部機器にエラー情報を送信するなどによってローバッテリーの警告を行い(ステップS632)、印刷処理を終了する。
【0072】
ステップS631で検知した電池210の電圧が印刷開始可能電圧以上であった場合(ステップS631でYes)、制御部200は、電池サーミスタ210tの出力電圧に基づき、電池210の温度を検知する(ステップS641)。
【0073】
次に、制御部200は、検知した温度により、サーマルヘッドの印刷ドット数を、144ドット、288ドットの何れに設定するか判断する。
【0074】
ステップS641で検知した温度が5℃未満の場合、制御部200は、印刷ドット数を144ドットに選択する(ステップS651)。
【0075】
ステップS651で検知した温度が5℃以上の場合、制御部200は、印刷ドット数を288ドットに選択する(ステップS652)。
【0076】
次に、制御部200は、モータ205を駆動することでプラテンローラ300を回転させて印刷用紙の搬送を開始する(ステップS661)。
【0077】
次に、制御部200は、印刷データを用いて1ラインドット数をカウントする(ステップS671)。
【0078】
1ラインドット数のカウント数が0ドットであった場合(ステップ671で0ドット)、制御部200は、サーマルヘッド204の通電処理を行わず、印刷用紙の搬送処理のみを行う(ステップS681)。
【0079】
1ラインドット数のカウント数が0でなく、かつ最大印字数以下であった場合(ステップS671で最大印字数以下)、制御部200は、印刷データを分割しないで一括で印刷する(ステップS682)。
【0080】
1ラインドット数のカウント数が最大印字数より多い場合(ステップS671で最大印字数より多い)、制御部200は、印刷データを分割印刷する(ステップ683)。
【0081】
次に、制御部200は、残ライン数が無し(即ち、まだ印刷していない印刷データがない)か否かを確認し、残ライン数がある場合は(ステップS691でNo)、ステップS671に戻って印刷を続行する。
【0082】
一方、残ライン数が無い場合(ステップS691でYes)、制御部200は、印刷を終了する。
【0083】
<分割印刷の処理手順>
図7は、本発明の一実施形態に係るサーマルヘッドの外観を示した図である。サーマルヘッド204には、発熱体701が直線上に等間隔で配列されている。発熱体701の必要個数と間隔は印刷に必要な幅と解像度により決まる。例えば、必要な幅がA4サイズ(210mm)で、印字解像度が300dpiの場合、発熱体701の配列幅は紙セットのずれを想定して219.5[mm]とすれば、配列ピッチは0.0847[mm]であり、2592ドット分の(即ち2592個の)発熱体701が配置されている。
【0084】
図8は、本発明の一実施形態に係る印刷データを分割印刷する手順を説明するための模式図である。
【0085】
ここでは、説明を容易にするため不図示の外部装置から制御部200に4ドット設定の指定を含む制御指示が送信されたものとする。これは、4ドットずつの印刷を繰り返す設定である。
【0086】
制御部200は、不図示の外部装置から送信されてくる印刷データによって、発熱体701を発熱させるか否かをサーマルヘッドの一端側から判断し、発熱させる発熱体701が4個となったところでこれらを同時に発熱させる。
【0087】
制御部200は、この動作をサーマルヘッドの他端側まで繰り返し、他端側に4ドット未満の端数があった場合はこれを最後に同時に発熱させて1行分の印刷を完了する。このように、制御部200は、発熱体数設定手段(制御部200の機能)が設定した個数である4個を一単位として、印刷データの1ラインを単位毎に分割し、発熱体を4個ずつ発熱させることで印刷を1ラインの印刷を行う。
【0088】
図8の模式図では、制御部200が、N行目(Nは自然数)の印刷に対し、第1回目にサーマルヘッドの端部から4個分の発熱体701を発熱させ、第2回目に隣接する4個の発熱体701を発熱させ、同様に最終回目まで、発熱体701を4個ずつ、サーマルヘッドの他端側にかけて発熱させていく様子を示している。
【0089】
なお、発熱させる発熱体701の総個数が4で割り切れない場合、制御部200は、端数分の発熱体701を最終回に発熱させる。
【0090】
制御部200は、このようにしてN行目の印刷を終えると、N+1行目に対して、同様に4個ずつの発熱体701を順次発熱させていく。
【0091】
一般に、制御部200は、指定されたドット設定がMドットの場合(Mは自然数)、サーマルヘッドの一端側から他端側にかけて、発熱体701を発熱させるか否かを印刷データに従って判断し、発熱させる発熱体701の個数がM個に達すると、これらを同時に発熱させる。
【0092】
即ち、Mドットを超えない範囲で物理ブロックをまとめることで、物理ブロックごとに分割印刷する。このように、制御部200は、発熱体数設定手段(制御部200の機能)が設定した個数であるM個を一単位として、印刷データの1ラインを単位毎に分割し、発熱体をM個ずつ発熱させることで印刷を1ラインの印刷を行う。
【0093】
<温度・分割可能電圧・最大印字数の設定>
図9は電池の放電特性を示し、横軸を放電容量、縦軸を電圧とし温度一定の、放電電流をパラメータとしたグラフである。
【0094】
また、温度条件は10℃の場合であり、放電電流0.5Aは印刷開始前の待機状態の消費電流値、放電電流2.5Aは1回の印刷時の平均電流値、放電電流5.0Aは1回の印刷での最大消費電流値とする。
【0095】
図10は電池の放電温度特性を示し、横軸を放電容量、縦軸をセル電圧とし放電電流は2.5Aで一定の、放電中の環境温度をパラメータとしたグラフである。
【0096】
図11は分割印刷時の電池電圧・電流値を示したグラフであり、1ラインを9分割(288ドット×9=2592)して印刷したものを上段に示しており、その一部を拡大したものを下段に示している。最大消費電流値5.0Aは288ドットを加熱している状態のときである。
図11の下段に示すグラフにおいて、1ラインを分割した9つのブロックに対応する9つの電流ピークが現れている。ピークの高さはブロックごとの印字内容(ドット数)に起因する。
【0097】
本実施形態においては、
図9から
図11のグラフに示す特性を考慮して閾値温度、分割可能電圧、最大印字数を設定している。以下に概要を説明する。
【0098】
1回の印刷で電池切れによる印刷の中断を回避するためには、2つの条件を満たす必要がある。1つ目の条件は1回の印刷に必要な容量が確保できていることであり、2つ目の条件は1回の印刷の途中で消費する電流値が最大となる状態でも電池電圧が放電終止電圧以上の電圧を確保できていることである。
【0099】
最初に環境温度10℃での印刷開始可能電圧を求める。まず、
図11のように、1回の印刷で消費する電流値が最大となる状態でサーマルヘッド204を駆動して最大の消費電流値を測定し、最大の消費電流(5.0A)の放電特性から放電終止電圧となる放電容量のWminを求める。
図9において5.0Aのグラフが電圧5.0Vを示す横軸の位置である。
【0100】
次に1回の印刷に必要な容量が確保できる放電容量を求める。1回の印刷時に必要な電力を測定するなどして、1回の印刷に必要な放電容量ΔWを求める。
【0101】
次に、WminからΔWを減算した放電容量 Wdと印刷開始前に対応する0.5Aの放電カーブの交点から、10℃での印刷開始可能電圧Vd=6.8Vが求められる。
【0102】
次に10℃未満における印刷開始可能電圧を10℃で求めた方法と同様にして求める。一例として5℃における印刷開始可能電圧については、5℃での印刷は電池の内部抵抗が上がることで、放電容量Wminの値が低下する。また、印刷に必要な熱量も増えるため、1回に必要な放電容量ΔWも増加する。これにより、印刷開始可能電圧は10℃に比べて増加する。説明を省略するが、本実施形態においては、10℃未満での印刷開始可能電圧Vd=7.0Vとなっている。
【0103】
また、10℃未満の一例として説明した5℃よりさらに温度が低くなると、放電容量Wminの値が求められない場合や求められたとしても電圧Vdが満充電電圧(8.4V)に近い値となってしまい、最大印字数288ドットでは1回の印刷もできない状況が発生する。
【0104】
そのため、5℃より低い温度では最大印字数144ドットとして、最大の消費電流を削減する。144ドットでは一度に印加する量は半分となるため、最大消費電流もおおよそ半分の2.5Aとなる。
【0105】
なお、5℃より低い温度での最大印字ドット数は使用する温度範囲で最も低温の状態(本実施形態では-10℃)でも印字可能であるドット数で設定すれば良い。
【0106】
以上のように、閾値温度(10℃、5℃)に対し、印刷開始可能電圧および最大印字数のそれぞれが設定される。
【0107】
本実施形態では、電池サーミスタ210tにより測定した電池周辺の温度により印刷開始可能電圧(閾値電圧)を変更する。これにより、温度ごとに、サーマルヘッド204の発熱体701が可能とする最大印字数の印字が可能になる。
【0108】
そのため、必要以上に印刷速度が落ちず、速度が落ちないことで印字画像のバラつきを減らすことができる。また、電池の消費量が抑えられることで、総印刷枚数を確保することができる。
【0109】
また、制御部200は、電池サーミスタ210tが測定した温度により、サーマルヘッド204の発熱体701の最大印字ドット数を変更する発熱体数設定手段として機能する。これにより、印刷時の最大電流を抑えることができ、低温環境下において、印刷中の中断を防ぐことができる。
【0110】
また、印刷可能とする電圧値を変更する温度(本実施形態:10℃)は、同時に発熱させる発熱体の個数を変更する温度(本実施形態:5℃)以上とすることにより、温度が許す可能な限り、サーマルヘッドの発熱体の最大印字数で印刷が可能になる。これにより、通常温度の環境下では印刷速度が落ちず、低温環境下において、印刷中の中断を防ぐことができる。
【0111】
また、電池サーミスタ210tが電池210の収容部としての電池ユニット101b内に収容されていることにより、正確に電池温度を測定することができる。これにより、印刷可能な電圧の閾値を正確に設定することが可能となり、通常温度の環境下では印刷速度が落ちず、低温環境下において、印刷中の中断を防ぐことができる。
【0112】
なお、本実施形態では、印刷開始可能電圧とサーマルヘッドの発熱体の最大印字数の設定を電池ユニット101b内に収容されている電池サーミスタ210tを用いたが、これは、原理的には電池210そのものの温度を検知することが好ましく、最も適しているのが、電池サーミスタ210tであることに依る。但し、電池210の温度は、印刷装置100内部の環境温度に依存するため、DC電源機器283を使用した印刷時に電圧変換回路サーミスタ281tを利用するなど、他の環境温度を計測する温度センサを用いても良い。
【0113】
これにより、電池に温度計測手段がなくても電池温度の計測が行うことができ、印刷装置の小型化・低価格化を図ることができる。
【0114】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る印刷装置は、印刷開始可能電圧と最大印字数の設定を多段階にしたものである。本実施形態における印刷装置の構成および電気的接続をブロック図は、第1の実施形態と同様である。
【0115】
以下、第1の実施形態と異なる印刷制御の処理手順について異なる部分についてのみ説明する。
【0116】
図12は、本発明の第2実施形態に係る印刷装置の印刷制御の処理手順の一部を示すフローチャートである。
【0117】
制御部200は、ステップS601にて検知した温度により、印刷開始可能とする電圧の閾値を7.0V、6.8V、6.6V、6.4Vとする。
【0118】
10℃未満の場合、印刷開始可能とする電圧の閾値を7.0Vに選択する(ステップS1211)
【0119】
10℃以上かつ25℃未満の場合、印刷開始可能とする電圧の閾値を6.8Vに選択する(ステップS1212)。
【0120】
25℃以上かつ40℃未満の場合、印刷開始可能とする電圧の閾値を6.6Vに選択する(ステップS1213)。
【0121】
40℃以上の場合、印刷開始可能とする電圧の閾値を6.4Vに選択する(ステップS1214)。
【0122】
次に制御部200は、外部機器、または、操作表示部221へのユーザー操作による画像の印刷指示を待つ。
【0123】
ステップS621からステップS641は第1の実施形態と同じため図示および説明を省略する。
【0124】
制御部200は、ステップS641にて検知した温度により、サーマルヘッドの印刷ドット数を、144ドット、192ドット、240ドット、288ドットの何れに設定するか判断する。
【0125】
-5℃未満の場合、印刷ドット数を144ドットに選択する。(ステップS1221)
【0126】
-5℃以上0℃未満の場合、印刷ドット数を192ドットに選択する。(ステップS1222)
【0127】
0℃以上5℃未満の場合、印刷ドット数を240ドットに選択する。(ステップS1223)
【0128】
5℃以上の場合、印刷ドット数を288ドットに選択する。(ステップS1224)
【0129】
次に、制御部200は、モータ205を駆動することでプラテンローラ300を回転させて印刷用紙の搬送を開始する。(ステップS661)
【0130】
ステップS661からエンドまでは、第1の実施形態と同じため図示及び説明を省略する。
【0131】
以上のように、本実施形態では、電池サーミスタ210tにより測定した電池周辺の温度により印刷開始可能電圧の閾値を段階的に変更する。これにより、温度によらず、サーマルヘッド204の発熱体701が可能とする最大印字数(288ドット)の印字が可能になり、各温度条件で印字速度を落とさずに電池容量を使い切ることができる。
【0132】
また、電池サーミスタ210tの測定した温度により、サーマルヘッド204の発熱体701の最大印字数を段階的に変更する。これにより、印刷時の最大電流を抑えることができ、低温環境下の各温度において、最速の速度でかつ印刷中の中断を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0133】
100 印刷装置
101 本体
101a プリンタユニット
101b 電池ユニット
103 プリンタ出口
104 窪み部
104a 斜面
106 プリンタ入口
108 USB端子
109 DC電源端子
111 搬送経路
200 制御部
202 通信部
203 プリンタ制御基板
204 サーマルヘッド
204t ヘッドサーミスタ
205 モータ
206 無線モジュール
207 IO部
210 バッテリー
210t 電池サーミスタ
221 操作表示部
251 充電制御部
281 電圧変換回路
281t 電圧変換回路サーミスタ
282 SW
283 DC電源機器
300 プラテンローラ
304 支持部
305 コイルスプリング
701 発熱体