(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065415
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】赤外LED素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/30 20100101AFI20220420BHJP
H01L 33/22 20100101ALI20220420BHJP
H01L 33/36 20100101ALI20220420BHJP
【FI】
H01L33/30
H01L33/22
H01L33/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020173992
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 邦亮
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA34
5F241CA39
5F241CA53
5F241CA57
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA76
5F241CA85
5F241CA92
5F241CB11
5F241CB15
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】簡易な工程で製造が可能であって、高い光取り出し効率を示す、発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を実現する。
【解決手段】本発明に係る赤外LED素子は、ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下であって、半絶縁性のInP基板と、InP基板の上層に形成された、p型又はn型の第一半導体層と、第一半導体層の上層に形成された活性層と、活性層の上層に形成され第一半導体とは異なる導電型の第二半導体層と、活性層が形成されていない領域内において第一半導体層の上層に形成された第一電極と、第二半導体層の上層に形成されInP基板の面に平行な方向に関して第一電極から離間した位置に配置された第二電極とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である赤外LED素子であって、
半絶縁性のInP基板と、
前記InP基板の上層に形成された、p型又はn型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、
前記活性層が形成されていない領域内において、前記第一半導体層の上層に形成された第一電極と、
前記第二半導体層の上層に形成され、前記InP基板の面に平行な方向に関して前記第一電極から離間した位置に配置された、第二電極とを備えたことを特徴とする、赤外LED素子。
【請求項2】
前記InP基板は、前記第一半導体層が形成されている側とは反対側の面の少なくとも一部の領域に形成された凹凸部を有することを特徴とする、請求項1に記載の赤外LED素子。
【請求項3】
前記InP基板は、深い準位の形成が可能な遷移金属がドープされていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項4】
前記InP基板はFeがドープされていることを特徴とする、請求項3に記載の赤外LED素子。
【請求項5】
前記InP基板はアンドープであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の赤外LED素子。
【請求項6】
前記第一電極の上層に形成された第一パッド電極と、
前記第二電極の上層に形成された第二パッド電極とを有し、
前記第一パッド電極の前記InP基板とは反対側の面と、前記第二パッド電極の前記InP基板とは反対側の面とが実質的に同一の高さに位置していることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【請求項7】
前記第二電極は、前記InP基板の面に直交する方向から見て、前記第二半導体層の一部領域に形成された部分電極を形成しており、
前記第二電極が形成されていない領域内の前記第二半導体層の上層に形成され、前記活性層から出射される赤外光に対する透過性を示す材料からなる絶縁層と、
前記第二電極及び前記絶縁層の上層に、前記活性層から出射される赤外光に対する反射率が前記第二電極よりも高い材料からなる反射電極とを備えることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【請求項8】
前記第一半導体層は、前記InP基板との屈折率差が0.3未満の材料で構成されていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【請求項9】
前記InP基板の厚みが20μm以上であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【請求項10】
前記InP基板の、前記第一半導体層が形成されている側とは反対側の面上に、前記活性層から出射される赤外光に対する透過性を示し、屈折率が前記InP基板の構成材料と空気の間である材料からなる透光層を備えることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の赤外LED素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外LED素子に関し、特に発光波長が1000nm以上の赤外LED素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長1000nm以上の赤外領域を発光波長とする半導体発光素子は、防犯・監視カメラ、ガス検知器、医療用のセンサや産業機器等の用途で幅広く用いられている。
【0003】
発光波長が1000nm以上の半導体発光素子は、一般的に以下の手順で製造される。成長基板としてのInP基板上に、第一導電型の半導体層、活性層(「発光層」と称されることもある。)、及び第二導電型の半導体層を順次エピタキシャル成長させた後、半導体ウエハ上に電流注入のための電極が形成される。その後、チップ状に切断される。
【0004】
従来、発光波長が1000nm以上の半導体発光素子としては、半導体レーザ素子の開発が先行して進められてきた経緯がある。一方で、LED素子については、その用途があまりなかったこともあり、レーザ素子よりは開発が進んでいなかった。
【0005】
しかしながら、近年、アプリケーションの広がりを受け、赤外LED素子についても高効率化の製品の要求が高まっている。例えば特許文献1には、InP基板上にLED構造を結晶成長させたウエハの上下面に電極を形成し、両電極間に電圧を印加することで活性層に電流を注入して発光させる赤外LED素子が開示されている。例えば特許文献2及び特許文献3には、成長基板上にLED構造のエピタキシャル半導体膜を結晶成長させたウエハを、導電性の支持基板に接合した後、成長基板を除去することで光取り出し効率を向上した構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-282875号公報
【特許文献2】特開2013-30606号公報
【特許文献3】特開2012-129357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2や特許文献3に記載された構造のように、成長基板とは別の支持基板を貼り合わせてLED素子を実現した場合には、支持基板の貼り合わせ工程が必要となり、製造が複雑化してしまう。このため、簡易な方法でLED素子を実現するためには、例えば特許文献1に示されるように、成長基板をそのまま利用するのが好ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1の構造の場合には、InP基板のエピタキシャル層が形成されている側とは反対側の面(以下、「裏面」と呼ぶ。)に電極が配置されており、InP基板内に電流を流す必要がある。このため、InP基板はドーパントが高濃度にドープされることで導電性を示すように設計される。
【0009】
特許文献1の構造の場合、活性層から出射された赤外光をInP基板とは反対側に取り出すことが予定されている。しかし、活性層から出射された赤外光は、InP基板側にも進行する。InP基板が高濃度にドープされたドーパントを含む構成であると、InP基板内に存在するフリーキャリアによって赤外光が吸収されてしまう。このため、仮に、InP基板の裏面に設けられた電極が反射性を示す材料であったとしても、InP基板内を通過するたびにInP基板内で赤外光が吸収されてしまう。これにより、高い光取り出し効率が実現できない。
【0010】
InP系の赤外LED素子は、これまで光通信用として開発されてきた経緯があり、光ファイバに対して赤外光を導くことができれば通信機能が発揮されるため、赤外LED素子からの光取り出し効率を向上させたいという強い動機が存在しなかった。このことは、特許文献1には、InP基板側に進行した赤外光を取り出し面側に戻すことについての示唆がないことにも現れている。
【0011】
本発明は上記の課題に鑑み、簡易な工程で製造が可能であって、高い光取り出し効率を示す、発光波長が1000nm以上の赤外LED素子を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る赤外LED素子は、ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下であって、
半絶縁性のInP基板と、
前記InP基板の上層に形成された、p型又はn型の第一半導体層と、
前記第一半導体層の上層に形成された活性層と、
前記活性層の上層に形成され、前記第一半導体層とは異なる導電型の第二半導体層と、
前記活性層が形成されていない領域内において、前記第一半導体層の上層に形成された第一電極と、
前記第二半導体層の上層に形成され、前記InP基板の面に平行な方向に関して前記第一電極から離間した位置に配置された、第二電極とを備えたことを特徴とする。
【0013】
本明細書において、基板が「半絶縁性」であるとは、そのドーパント濃度が1×1017/cm3未満であることを意味する。このとき、抵抗率は0.1Ω・cm以上である。これに対し、導電性の基板は、ドナー又はアクセプタを形成するドーパント原子を用い、ドーパント濃度が1×1017/cm3以上であることを意味する。このとき、抵抗率は0.01Ω・cm未満である。
【0014】
上記の赤外LED素子によれば、InP基板が半絶縁性であるため通電時であってもフリーキャリアが殆ど存在しない。この結果、活性層から出射された赤外光がInP基板内を通過しても、当該InP基板内でフリーキャリアによる赤外光の吸収が生じにくい。この点は、実施例を参照して後述される。
【0015】
また、上記の赤外LED素子の場合、InP基板の同一面側に第一電極と第二電極とが形成されている。このため、通電時にInP基板を通じて活性層に対して電流を流す必要がない。これにより、InP基板を半絶縁性としても、活性層に対して電流を注入することが可能となる。
【0016】
このように、上記の赤外LED素子の場合には、InP基板内での赤外光の吸収が抑制されているため、InP基板の主面のうち、半導体層が形成されている側ではなく、その反対側を光取り出し面とすることができる。
【0017】
なお、上記の赤外LED素子は、InP基板の上層に半導体層が形成されてなる構造であるため、成長基板としてのInP基板とは別の支持基板を貼り合わせる工程を経ることなく製造できる。このため、簡易な方法で光取り出し効率の高い赤外LED素子が実現できる。
【0018】
InPは機械的な剛性が低いため、あまりに薄膜化すると割れや剥がれ等が生じるおそれがある。このため、前記InP基板の厚みは20μm以上とするのが好適である。ただし、あまりに厚くし過ぎると、赤外LED素子自体の厚み(高さ)が厚くなりすぎることから、1000μm以下とするのが好ましい。
【0019】
InP基板が20μm以上であっても、InP基板が半絶縁性材料で構成されており、InP基板内を赤外光が通過することによるフリーキャリアでの吸収が抑制されているため、高い取り出し効率が実現される。
【0020】
InPは、波長1000~2000nmの赤外光に対する屈折率が3.2程度であり、空気(屈折率が1)に比べて極めて高い。このため、InP基板側に進行した赤外光の一部は、InP基板と空気との界面において全反射してInP基板側に戻される。このため、赤外光は、赤外LED素子から外部に取り出される迄にInP基板内を複数回通過することが想定される。しかし、上述したように、赤外LED素子が半絶縁性を示すInP基板を備えることで、赤外光がInP基板内を複数回通過した後に取り出される場合であっても、InP基板内での吸収が抑制されているため、高い取り出し効率が実現される。
【0021】
しかしながら、InP基板内を複数回通過する間に、赤外光の吸収を完全にゼロにすることは技術的に困難である。このため、光取り出し効率を更に高める観点から、前記InP基板が、前記第一半導体層が形成されている側とは反対側の面の少なくとも一部の領域に形成された凹凸部を有するものとしても構わない。
【0022】
InP基板を半絶縁性にする方法の一例として、前記InP基板に、深い準位の形成が可能な遷移金属をドープする方法が採用できる。このような遷移金属としては、代表的にFeが挙げられる。Fe以外であっても、InP基板内に深い準位を形成できる金属であればよく、例えば、W等を利用しても構わない。
【0023】
前記InP基板はアンドープであっても構わない。アンドープのInP基板として入手した場合であっても、半導体結晶の製造の過程で炉壁等から意図しない不純物が混入してしまうのが一般的であり、1×1015/cm3~1×1016/cm3程度に不純物がドーピングされてしまう。このようなアンドープのInP基板であっても、半絶縁性を示すことから、赤外光の吸収が抑制される。
【0024】
前記赤外LED素子は、
前記第一電極の上層に形成された第一パッド電極と、
前記第二電極の上層に形成された第二パッド電極とを有し、
前記第一パッド電極の前記InP基板とは反対側の面と、前記第二パッド電極の前記InP基板とは反対側の面とが実質的に同一の高さに位置しているものとしても構わない。
【0025】
ここで、「実質的に同一の高さ」とは、フリップチップ実装が可能な程度に高さの差が抑制されていることを意味し、具体的には、高さの差が1μm以下に抑制されていることを意味する。
【0026】
上記赤外LED素子によれば、第一パッド電極と第二パッド電極を、例えばサブマウント上に形成されたパターン電極に接続することで、フリップチップ実装が可能となる。これにより、第一パッド電極や第二パッド電極に対して、ワイヤボンディングによって電気的に接続する必要がなくなる。これにより、光取り出し面側にワイヤの取り回し領域を確保する必要がなくなるため低背な赤外LED素子が実現でき、更には、パッド電極を光取り出し面側に形成する必要がなくなるため光取り出し面積が高められる。
【0027】
上述したように、従来のInP系の赤外LED素子は専ら光通信用として開発されてきた経緯があり、光ファイバへの結合効率が重要な要素であった。すなわち、このような赤外LED素子は、面発光の場合には光ファイバの外側に漏れ出す光が生じてしまうことから、できる限り点発光が好ましいとされていた。このため、光取り出し面積を拡大する強い動機が存在しなかった。
【0028】
これに対し、上記の構成によれば、InP基板の一方の主面を光取り出し面とし、その反対側の主面に形成された各電極をステムに実装された通電用のパターン電極に接続させることで、光取り出し面積を高めつつ取り出し効率を向上させたフリップチップ型の赤外LED素子が実現される。
【0029】
更に、近年では波長1000nm以上の赤外領域の用途が広がりを見せ始めており、これに伴って、発光効率が高く小型のLED素子が求められるようになってきている。例えば、ウェアラブルなLED素子を実現することを鑑みると、実装面積を小さくするだけでなく、素子の厚みを薄くする(低背にする)ことも重要となる。上記の構成によれば、ボンディングワイヤの取り回し領域や、ボンディングワイヤを接続させるためのボールが不要となるため、素子全体の厚みの薄い低背なLED素子が実現される。
【0030】
ところで、仮に、InP基板を備えた赤外LED素子においてフリップチップ実装を実現する動機が存在した場合には、InP基板を導電性基板で形成することを想定するのが通常である。なぜなら、InP基板を導電性基板とすることで、双方の電極間に電圧を印加した場合に電流がInP基板内に流れるため、電流が一部の領域に集中して流れることによる発光効率の低下が抑制できると考えられるためである。
【0031】
しかしながら、InP基板を導電性基板で構成した場合、InP基板内で赤外光が吸収されてしまい、高い光取り出し効率が得られない。電流の面方向への広がりが少し犠牲になったとしても、InP基板内において赤外光が吸収されることの方が光取り出し効率の観点からは顕著に影響することから、上記の構成では、InP基板内での赤外光の吸収を抑制すべくInP基板が半絶縁性とされている。
【0032】
前記第二電極は、前記InP基板の面に直交する方向から見て、前記第二半導体層の一部領域に形成された部分電極を形成しており、
前記赤外LED素子が、
前記第二電極が形成されていない領域内の前記第二半導体層の上層に形成され、前記活性層から出射される赤外光に対する透過性を示す材料からなる絶縁層と、
前記第二電極及び前記絶縁層の上層に、前記活性層から出射される赤外光に対する反射率が前記第二電極よりも高い材料からなる反射電極とを備えるものとしても構わない。
【0033】
第二電極は、第二半導体層との間でオーミック接触を実現することのできる材料であることが要求され、例えば、Au/Zn/Au、AuZn、AuBe等の材料が利用できる。このような材料は、波長1000nm~2000nmの赤外光に対する反射率が比較的低い。
【0034】
これに対し、上記構成のように、第二電極を部分的に形成した上で、第二電極が形成されていない領域に、赤外光に対する透過性を示す絶縁層を形成しつつ、これらの上層に反射電極を備えることで、活性層から出射してInP基板とは反対側に進行した赤外光を、光取り出し面であるInP基板側に高効率で戻すことができる。これにより、光取り出し効率が更に高められる。
【0035】
絶縁層は、赤外光に対する透過率が70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。このような材料としては、SiO2、SiN、Al2O3等を用いることができる。
【0036】
反射電極は、赤外光に対する反射率が70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。このような材料としては、Ag、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。
【0037】
前記第一半導体層は、前記InP基板との屈折率差が0.3未満の材料で構成されているものとしても構わない。
【0038】
かかる構成とすることで、活性層から出射して第一半導体層の側に進行した赤外光は、InP基板と第一半導体層との界面での全反射が抑制された状態で、InP基板内に進行し、光取り出し面から取り出される。InP基板を成長基板とし、第一半導体層をInP基板に対して格子整合可能な材料(InP、GaInAsP等)で構成することで、InP基板と第一半導体層との間での屈折率差を0.3未満に抑制でき、これらの界面での全反射が抑制される。
【0039】
なお、GaN系の紫外LED素子の場合、GaN系半導体層の成長基板としてはサファイア基板が利用される。この場合、サファイア基板とGaN系の半導体層との界面での屈折率差は0.8以上を示す。よって、GaN系の紫外LED素子の場合には、サファイア基板側から仮に光を取り出そうとしても、サファイア基板とGaN層との界面での全反射が多くなってしまう。
【0040】
前記赤外LED素子は、前記InP基板の、前記第一半導体層が形成されている側とは反対側の面上に、前記活性層から出射される赤外光に対する透過性を示し、屈折率が前記InP基板の構成材料と空気の間である材料からなる透光層を備えるものとしても構わない。
【0041】
かかる構成によれば、InP基板から直接空気内に赤外光が取り出される場合と比べて、光取り出し面と空気との界面での屈折率差が低下できるため、InP基板内に全反射される割合が低下でき、光取り出し効率が更に高められる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、簡易な工程で製造が可能であって、高い光取り出し効率を示す、発光波長が1000nm以上の赤外LED素子が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の赤外LED素子の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
【
図2A】
図1に示す赤外LED素子から、一部の要素の図示を省略した断面図であって、
図1とは上下が反転されて図示されている。
【
図2B】
図2Aに示す赤外LED素子を上方から見たときの模式的な平面図である。
【
図3A】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3B】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3C】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3D】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3E】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3F】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3G】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図3H】赤外LED素子の製造方法を説明するための、一工程における断面図である。
【
図4】検証の際に利用されたステム構造を説明するための模式的な断面図である。
【
図5】実施例1と比較例1の赤外LED素子の電流-光出力特性を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明に係る赤外LED素子の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の図面は模式的に示されたものであり、図面上の寸法比と実際の寸法比とは必ずしも一致しない。また、図面間においても寸法比が一致していない場合がある。
【0045】
本明細書内において、「層Aの上層に層Bが形成されている」という表現は、層Aの面上に直接層Bが形成されている場合はもちろん、層Aの面上に薄膜を介して層Bが形成されている場合も含む意図である。なお、ここでいう「薄膜」とは、膜厚50nm以下の層を指し、好ましくは10nm以下の層を指すものとして構わない。
【0046】
図1は、本実施形態の赤外LED素子の構造を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、赤外LED素子1は、InP基板3と、InP基板3の上層に形成された半導体層10とを備える。
図1では、一例として赤外LED素子1がサブマウント35上にフリップチップ実装された状態が図示されている。
図1に示す例では、赤外LED素子1が、パターン電極37a及びパターン電極37bを介して、サブマウント35上に固定されている。
【0047】
図2Aは、
図1に示す状態からサブマウント35と、パターン電極(37a,37b)の図示を省略して図示した断面図であり、説明の都合上、上下が反転されている。また、
図2Bは、
図2Aの状態において、InP基板3とは反対側から見たときの平面図を模式的に示す図面である。
【0048】
図1に示す赤外LED素子1は、半導体層10内(より詳細には後述される活性層13内)で生成された赤外光L1が、サブマウント35とは反対側、すなわちInP基板3側から赤外光L1が取り出される。赤外光L1は、ピーク波長が1000nm以上、2000nm以下の光である。
【0049】
[素子構造]
以下、赤外LED素子1の構造について詳細に説明する。
【0050】
(InP基板3)
赤外LED素子1は、InP基板3を備える。InP基板3は、製造方法の説明の箇所で後述されるように、半導体層10を成長させる際の成長基板としても利用される。InP基板3は半絶縁性を示しており、抵抗率が1×106Ω・cm以上であって、ドーパント濃度が1×1017/cm3未満である。
【0051】
本実施形態では、InP基板3は、Feが1×1016/cm3以上、1×1017/cm3未満の範囲内のドーパント濃度でドープされている。Feは、InP内に深い準位を形成する遷移金属の一種であり、このような金属が極めて低くドープされることで、InP基板3が半絶縁性を示す。このように深い準位を形成する遷移金属としては、Feの他、W等を利用しても構わない。
【0052】
なお、InP基板3は、アンドープ基板としても構わない。アンドープ基板であっても基板の成長時において不可避的に不純物が混入されることで、1×1017/cm3未満のドーパント濃度で不純物がドープされる。
【0053】
InP基板3の厚みは、20μm以上、1000μm以下とするのが好ましく、50μm以上、700μm以下とするのがより好ましい。
【0054】
(半導体層10)
赤外LED素子1は、InP基板3の上層に形成された半導体層10を有する。半導体層10は、複数の層の積層体で構成される。具体的には、半導体層10は、第一半導体層11と、活性層13と、第二半導体層15とを含む。
【0055】
第一半導体層11は、InP基板3の上面に形成されている。本実施形態では、第一半導体層11はn型のInPで構成される。第一半導体層11の厚みは限定されないが、例えば、1000nm以上、20000nm以下であり、好ましくは3000nm以上、10000nm以下である。第一半導体層11のドーパント濃度は、好ましくは1×1017/cm3以上、5×1018/cm3以下であり、より好ましくは、5×1017/cm3以上、4×1018/cm3以下である。第一半導体層11に含まれるn型ドーパント材料としては、Sn、Si、S、Ge、Se等を利用することができ、Siが特に好ましい。
【0056】
図1及び
図2Aに示すように、第一半導体層11は、InP基板3のほぼ全面にわたって形成されている。
【0057】
活性層13は、第一半導体層11の上層に形成された半導体層で構成される。より詳細には、
図1及び
図2Aに示すように、活性層13は、第一半導体層11の一部分の上層に形成されている。
【0058】
活性層13は、狙いとする波長の光を生成可能であり、且つ、InP基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。例えば、活性層13は、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsの単層構造としても構わないし、GaInAsP、AlGaInAs、又はInGaAsからなる井戸層と、井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きいGaInAsP、AlGaInAs、InGaAs、又はInPからなる障壁層とを含むMQW(Multiple Quantum Well:多重量子井戸)構造としても構わない。
【0059】
活性層13の膜厚は、活性層13が単層構造の場合は、50nm以上、2000nm以下であり、好ましくは、100nm以上、500nm以下である。また、活性層13がMQW構造の場合は、膜厚5nm以上20nm以下の井戸層及び障壁層が、2周期以上50周期以下の範囲で積層されて構成される。
【0060】
活性層13は、n型又はp型にドープされていても構わないし、アンドープでも構わない。n型にドープされる場合には、ドーパントとしては例えばSiを利用できる。
【0061】
第二半導体層15は、活性層13の上層に形成されている。本実施形態では、第二半導体層15はp型の半導体層で構成され、p型クラッド層とp型コンタクト層とを含む。
【0062】
第二半導体層15のうち、p型クラッド層はp型のInPで構成される。このp型クラッド層の厚みは限定されないが、例えば、1000nm以上、10000nm以下であり、好ましくは2000nm以上、5000nm以下である。p型クラッド層のp型ドーパント濃度は、活性層13から離れた位置において、好ましくは1×1017/cm3以上、3×1018/cm3以下であり、より好ましくは、5×1017/cm3以上、3×1018/cm3以下である。
【0063】
第二半導体層15のうち、p型コンタクト層はp型のGaInAsPで構成される。このp型コンタクト層の厚みは限定されないが、例えば、10nm以上、1000nm以下であり、好ましくは50nm以上、500nm以下である。また、p型コンタクト層のp型ドーパント濃度は、好ましくは5×1017/cm3以上、3×1019/cm3以下であり、より好ましくは、1×1018/cm3以上、2×1019/cm3以下である。
【0064】
第二半導体層15を構成するp型クラッド層及びp型コンタクト層に含まれるp型ドーパント材料としては、Zn、Mg、Be等を利用することができ、Zn又はMgが好ましく、Znが特に好ましい。
【0065】
第一半導体層11及び第二半導体層15は、活性層13で生成された赤外光L1を吸収しない材料であって、且つ、InP基板3と格子整合してエピタキシャル成長が可能な材料から適宜選択される。例えば、第一半導体層11及び第二半導体層15としては、InPの他、GaInAsP、AlGaInAs等の材料を利用することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、第二半導体層15がクラッド層とコンタクト層の積層構造である場合について説明したが、本発明は、クラッド層とコンタクト層の材料が共通である場合を排除しない。また、本発明は、第一半導体層11が、材料の異なるクラッド層とコンタクト層の積層体で構成される場合を排除しない。
【0067】
(第一電極21)
図1及び
図2Aに示すように、第一半導体層11の一部領域の上層には活性層13が形成されている。そして、赤外LED素子1は、活性層13が形成されていない領域内において、第一半導体層11の上層に形成された第一電極21を備える。
【0068】
第一電極21は、第一半導体層11との間でオーミック接続が形成されている。第一電極21は、一例として、Au/Ge/Au、Au/Ge/Ni/Au、AuGe、AuGeNi等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。この第一電極21の厚みは限定されないが、例えば、50nm以上、500nm以下であり、好ましくは100nm以上、300nm以下である。
【0069】
(絶縁層19)
図1及び
図2Aに示すように、赤外LED素子1は、半導体層10の側壁及び上面の一部を覆うように形成された絶縁層19を備える。絶縁層19は、電気的絶縁性を示し、且つ赤外光L1に対する透過性の高い材料で構成される。絶縁層19の赤外光L1に対する透過率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。赤外光L1のピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である場合においては、絶縁層19はSiO
2、SiN、Al
2O
3等の材料を用いることができる。
【0070】
絶縁層19の膜厚は任意であるが、例えば、50nm以上、5000nm以下であり、好ましくは、100nm以上、1000nm以下である。
【0071】
(第二電極22)
図1及び
図2Aに示すように、赤外LED素子1は、第二半導体層15の上層に形成された第二電極22を備える。この第二電極22は、InP基板3の面に平行な方向に関して、第一電極21から離間した位置に配置される(
図2Bも参照)。
【0072】
本実施形態では、第二電極22は、第二半導体層15の一部分の上層に離散的に配置された部分電極を構成する。
図2Bに示す例では、上方から見て第二電極22が平面上に離散的に複数配置されていることが示されている。なお、実際には、赤外LED素子1をInP基板3とは反対側から見た場合に、第二電極22は後述する第二パッド電極27に隠れて視認できないが、理解を容易化する観点で、
図2Bでは破線によって第二電極22が図示されている。
【0073】
第二電極22は、第二半導体層15との間でオーミック接触が可能な材料で構成される。第二電極22は、一例として、Au/Zn/Au、AuZn、AuBe等の材料で構成され、これらの材料を複数備えるものとしても構わない。上述したように、第二半導体層15がコンタクト層を備える場合には、このコンタクト層と第二電極22との間でオーミック接触が形成される。第二電極22の厚みは限定されないが、例えば、50nm以上、500nm以下であり、好ましくは100nm以上、300nm以下である。
【0074】
図1及び
図2Aに示すように、第二半導体層15の上層のうち、第二電極22が形成されていない領域には、絶縁層19が形成される。
【0075】
(反射電極26)
図1及び
図2Aに示すように、本実施形態の赤外LED素子1は、第二電極22の上層に反射電極26を備える。反射電極26は、活性層13内で生成された赤外光L1のうち、第二半導体層15側に進行して絶縁層19内を通過した赤外光L1を、InP基板3側に戻す機能を奏する。反射電極26は、導電性材料であって、且つ赤外光L1に対して高い反射率を示す材料で構成される。反射電極26の赤外光L1に対する反射率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのが特に好ましい。赤外光L1のピーク波長が1000nm以上、2000nm以下である場合においては、反射電極26はAg、Ag合金、Au、Al、Cu等の金属材料を用いることができる。
【0076】
反射電極26の厚みは、特に限定されないが、例えば10nm以上、2000nm以下であり、好ましくは100nm以上、1000nm以下である。
【0077】
第二電極22は、第二半導体層15との間でオーミック接触を実現する必要があるため、第二半導体層15(より詳細にはコンタクト層)との間で容易に合金化して低い接触抵抗が実現できる材料で構成される。このため、上述したように、第二電極22は、AuZn、AuBe、Au/Zn/Au層構造等が用いられる。しかし、これらの材料は、赤外光L1に対する反射率が比較的低い。よって、仮に第二電極22を第二半導体層15の全面に形成した場合、活性層13内で生成されて第二半導体層15側に進行した赤外光L1のうち、第二電極22によって吸収される赤外光L1の割合が高くなってしまう。
【0078】
これに対し、上述したように、本実施形態の赤外LED素子1では、第二電極22を第二半導体層15の上層に離散的に配置しつつ、第二半導体層15の上層のうち第二電極22が形成されていない領域には赤外光L1に対して高い透過性を示す材料からなる絶縁層19が形成されている。そして、この絶縁層19の上層に、第二電極22よりも赤外光L1に対する反射率の高い材料からなる反射電極26が形成されている。これにより、活性層13内で生成されて第二半導体層15側に進行した赤外光L1の一部は、第二電極22で吸収されずに絶縁層19内を進行して反射電極26に入射した後、この反射電極26で反射してInP基板3側に導かれる。これにより、光取り出し効率が高められる。反射電極26は、第二半導体層15と接触しないため、第二半導体層15との間でオーミック接触を実現可能な材料である必要がないので、第二電極22よりも反射率の高い金属材料の中から選択して利用できる。具体的には、反射電極26の材料として、Al、Au、Al/Au等を利用できる。
【0079】
なお、反射電極26は、後述する第二パッド電極27と一体化して形成されていても構わない。
【0080】
(第一パッド電極25、第二パッド電極27)
図1~
図2Bに示すように、赤外LED素子1は、第一電極21の上層に形成された第一パッド電極25と、第二電極22の上層に形成された第二パッド電極27とを備える。なお、
図1及び
図2Aの例では、第二パッド電極27が反射電極26の上層に形成されている構造が図示されているが、第二パッド電極27が赤外光L1に対する高い反射率を示す場合には、第二パッド電極27が反射電極26を兼ねるものとしても構わない。
【0081】
第一パッド電極25及び第二パッド電極27は、それぞれボンディングワイヤを接続するための領域を形成する。第一パッド電極25及び第二パッド電極27は、例えば、Ti/Au、Ti/Pt/Auなどで構成される。第一パッド電極25及び第二パッド電極27の厚みは、特に限定されないが、例えば500nm以上、5000nm以下であり、好ましくは1000nm以上、4000nm以下である。
【0082】
(高さ調整用電極29)
図1~
図2Bに示すように、赤外LED素子1は、第一パッド電極25の上層に形成された高さ調整用電極29を備える。高さ調整用電極29は、赤外LED素子1を
図1に示すようなフリップチップ形式で実装するために設けられている。
図1及び
図2Aに示すように、第一パッド電極25は、第二パッド電極27よりもInP基板3に近い位置に形成されるため、第一パッド電極25と第二パッド電極27との間で高さ位置に差が生じている。そして、赤外LED素子1をフリップチップ実装する際には、
図1に示すように、サブマウント35上に形成されたパターン電極37bと第二パッド電極27との電気的接続を形成しつつ、サブマウント35上に形成されたパターン電極37aと第一パッド電極25の電気的接続を確保する必要がある。
【0083】
かかる観点から、高さ調整用電極29は、第一パッド電極25と第二パッド電極27との高さの差を補填する目的で形成されている。高さ調整用電極29の材料は限定されないが、例えば、Auめっき、Niめっき、Cuめっき等が利用でき、これらの材料が複数組み合わせられても構わない。ただし、耐酸化性の観点からは、少なくとも高さ調整用電極29の表面近傍の数十~数百nmの厚み領域については、Auめっきで形成されるのが好適である。
【0084】
(凹凸部6,透光層31)
本実施形態の赤外LED素子1は、InP基板3の光取り出し側の面に凹凸部6が形成されている。この凹凸部6は、好ましくは算術平均粗さRaが10nm以上であり、より好ましくは100nm以上である。このような凹凸部6が形成されることで、活性層13内で生成されてInP基板3側に進行した赤外光L1が、InP基板3の表面で全反射する割合が低下され、光取り出し効率が向上する。
【0085】
更に、本実施形態の赤外LED素子1は、InP基板3の主面のうち、半導体層10が形成されている側とは反対側の主面に、赤外光L1に対する透過率の高い材料からなる透光層31を備えている。この透光層31は、赤外光L1に対する透過率が80%以上であって、且つ、屈折率がInPと空気の間である材料から選択される。具体的には、透光層31は、SiOx、SiON、SiNx、TiOx、MgOxなどが利用でき、これらの材料が複数組み合わせられても構わない。
【0086】
赤外LED素子1が、空気とInPとの間の屈折率を示す透光層31を備えることで、InP基板3の表面で全反射される赤外光L1の割合が更に低下され、光取り出し効率が更に向上する。特に、1000nm~2000nmの波長の赤外光L1に対するInPの屈折率は3.2程度であって空気の屈折率(=1)との差が大きいことから、InP基板3の上層に透光層31を備えることで光取り出し効率を大きく高められる。
【0087】
本実施形態の赤外LED素子1によれば、InP基板3を半絶縁性の材料で構成したことで、光取り出し効率が高められる。この点については、検証結果を参照して後述される。
【0088】
[製造方法]
上述した赤外LED素子1の製造方法の一例について、
図3A~
図3Hの各図を参照して説明する。
図3A~
図3Hは、いずれも製造プロセス内における一工程における断面図である。
【0089】
(ステップS1)
半絶縁性を示すInP基板3を準備する。上述したように、InP基板3としては、Fe等の深い準位を形成する遷移金属が1×1016/cm3以上、1×1017/cm3未満の範囲内のドーパント濃度でドープされた基板としても構わないし、アンドープ基板を利用しても構わない。一例として、2インチで厚みが370μmのFeドープInP基板3が利用できる。
【0090】
(ステップS2)
図3Aに示すように、半絶縁性のInP基板3をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置内に搬送し、InP基板3上に、第一半導体層11,活性層13、第二半導体層15を順次エピタキシャル成長させて、半導体層10を形成する。本ステップS2において、成長させる層の材料や膜厚に応じて、原料ガスの種類及び流量、処理時間、環境温度等が適宜調整される。各半導体層10の材料例は上述した通りである。
【0091】
(ステップS3)
エピタキシャルウェハをMOCVD装置から取り出し、
図3Bに示すように、一部領域の第二半導体層15及び活性層13をエッチングによって除去して、第一半導体層11を露出させる。詳細には、例えば以下の手順で行うことができる。
【0092】
まず、半導体層10の最表面である第二半導体層15の上面に、プラズマCVD法によってマスク層(ここではSiO2層)を所定膜厚だけ成膜した後、フォトリソグラフィ法を用いてレジスト開口部を形成する。次に、バッファードフッ酸を用いて、レジスト開口部内のマスク層をエッチング除去した後、レジストを除去する。Cl2ガスによるドライエッチングによってマスク層をマスクとして半導体層10をエッチングすることで、一部領域内の第二半導体層15、活性層13、及び第一半導体層11の一部を除去する。その後、バッファードフッ酸を用いて、残存するマスク層を除去する。
【0093】
(ステップS4)
図3Cに示すように、半導体層10の全面にプラズマCVD法を用いて絶縁層19を成膜する。
【0094】
(ステップS5)
図3Dに示すように、第二半導体層15の一部領域に第二電極22を形成する。詳細には、例えば以下の手順で行うことができる。
【0095】
まず、フォトリソグラフィ法を用いて絶縁層19の一部箇所にレジスト開口部を形成した後、バッファードフッ酸を用いてレジスト開口部内の絶縁層19を除去する。次に、電子ビーム(EB)蒸着装置を用いて、第二電極22の材料膜を成膜した後、レジストを除去し、第二電極22の形成予定領域外の箇所に形成された材料膜をリフトオフする。
【0096】
その後、例えば450℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、第二半導体層15と第二電極22との間のオーミック接触が実現される。
【0097】
(ステップS6)
図3Eに示すように、第二電極22の上層に反射電極26を形成し、更に反射電極26の上層に第二パッド電極27を形成する。詳細には、例えば以下の手順で行うことができる。
【0098】
フォトリソグラフィ法を用いて第二電極22の上層にレジスト開口部を形成した後、EB蒸着装置を用いて、反射電極26の材料膜及び第二パッド電極27の材料膜を成膜する。反射電極26と第二パッド電極27の形成は、連続的に行うものとして構わない。例えば、Al/Au/Ti/Pt/Auの積層体を成膜することで、反射電極26と第二パッド電極27の積層構造が連続的に形成される。
【0099】
(ステップS7)
図3Fに示すように、活性層13が形成されていない領域の一部箇所において、第一半導体層11の上層に第一電極21を形成する。詳細には、例えば以下の手順で行うことができる。
【0100】
まず、フォトリソグラフィ法を用いて絶縁層19の一部箇所にレジスト開口部を形成した後、バッファードフッ酸を用いてレジスト開口部内の絶縁層19を除去する。次に、電子ビーム(EB)蒸着装置を用いて、第一電極21の材料膜を成膜した後、レジストを除去し、第一電極21の形成予定領域外の箇所に形成された材料膜をリフトオフする。
【0101】
その後、例えば350℃、10分間の加熱処理によってアロイ処理(アニール処理)が施されることで、第一半導体層11と第一電極21との間のオーミック接触が実現される。
【0102】
(ステップS8)
図3Gに示すように、第一電極21の上層に第一パッド電極25を形成し、更に第一パッド電極25の上層に高さ調整用電極29を形成する。詳細には、例えば以下の手順で行うことができる。
【0103】
フォトリソグラフィ法を用いて第一電極21の上層にレジスト開口部を形成した後、EB蒸着装置を用いて、第一パッド電極25の材料膜を成膜する。例えば、第一パッド電極25としてTi/Pt/Auが成膜される。
【0104】
次に、フォトリソグラフィ法を用いて第一電極21の上層にレジスト開口部を形成した後、無電解Auめっき法を用いてレジスト開口部内の第一パッド電極25の上層に、Auめっきからなる高さ調整用電極29を成長させる。これにより、高さ調整用電極29と第二パッド電極27が実質的に同一の高さに調整される。なお、電解めっき法やEB蒸着法を用いて高さ調整用電極29を成長させても構わない。
【0105】
(ステップS9)
図3Hに示すように、InP基板3の、半導体層10が形成されている側とは反対側の主面を薄膜化する。詳細には、例えば以下の手順で行うことができる。
【0106】
InP基板3の、半導体層10が形成されている側の面をワックスによって支持部材に固定した状態で、スラリー液とコロイダルシリカを用いた片面研磨機により所望の厚み(例えば150μm)まで研削する。研削後、アルカリ洗浄液で研磨砥粒を除去した後、支持部材からInP基板3を取り外し、ワックスを洗浄除去する。
【0107】
本ステップS9によって、InP基板3の、半導体層10が形成されている側とは反対側の主面には、凹凸部6が形成される。凹凸部6は、好ましくは算術平均粗さRaが10nm以上であり、より好ましくは100nm以上である。一例として、InP基板3には算術平均粗さRaが460nmの凹凸部6が形成される。
【0108】
(ステップS10)
次に、
図2Aに示すように、凹凸部6が形成されている側のInP基板3の主面上に、プラズマCVD法を用いて透光層31を成膜する。なお、
図2Aでは、透光層31が、InP基板3の主面に設けられた凹凸部6の形状に沿うように、表面に凹凸が形成されているように図示されているが、透光層31の表面は、InP基板3よりは平坦な面で構成されていても構わない。
【0109】
(ステップS11)
次に、InP基板3をダイシングテープに貼り付けてブレードダイシングによってチップ化した後、
図1に示すようにサブマウント35上に実装する。より詳細には、上面にパターン電極37a及びパターン電極37bが形成されたサブマウント35を準備し、パターン電極37aと高さ調整用電極29、及び、パターン電極37bと第二パッド電極27を、それぞれ超音波接合する。これにより、フリップチップ実装された赤外LED素子1が製造される。
【0110】
[検証]
InP基板3のドーパントのみを異ならせ、他は上記ステップS1~S11と同じ方法で製造した赤外LED素子1を製造し、I-L特性(電流-光出力特性)を測定した。
【0111】
(実施例1)
Feが5×1016/cm3のドーパント濃度でドープされたInP基板3を用いてステップS1~S11を経て製造された赤外LED素子1を、実施例1とした。このとき、実施例1のInP基板3は、抵抗率が2×1017Ω・cmであった。すなわち、実施例1の赤外LED素子1は、半絶縁性のInP基板3を備える。なお、InP基板の抵抗率は、Van der Pauw法によって測定された。以下の比較例1においても同様の方法が用いられた。なお、抵抗率の測定方法は、Van der Pauw法以外にも、接触式4探針法や渦電流法等、公知の方法を採用することができる。
【0112】
(比較例1)
Snが3×1018/cm3のドーパント濃度でドープされたInP基板を用いた点を除いては、実施例1と同じ方法で製造された赤外LED素子1を、比較例1とした。このとき、比較例1のInP基板は、抵抗率が7×10-4Ω・cmであった。すなわち、比較例1の赤外LED素子は、導電性のInP基板を備える。
【0113】
(測定方法)
実施例1及び比較例1の各素子を、
図4に示すようなステム40上に搭載し、図示しない電源から電流を供給して、電流量と光出力の関係をプロットした。なお、光出力は、積分球方式を用いて、受光センサで受光された赤外光L1の光量に基づいて測定された。
【0114】
図4に示すステム40の具体的な構造について説明する。ステム40は、絶縁部材42によって相互に電気的に絶縁された一対の給電ピン(43a,43b)が挿通されている。赤外LED素子1のサブマウント35は、銀ペースト41によってステム40の上面に固定されている。給電ピン43aとパターン電極37aとがボンディングワイヤ44aで接続され、給電ピン43bとパターン電極37bとがボンディングワイヤ44bで接続される。
【0115】
(結果)
図5は、実施例1と比較例1の各素子の、I-L特性を示すグラフである。
図5において、横軸は供給電流量を示し、縦軸は光出力を示す。
図5に示すように、半絶縁性のInP基板3上に搭載された実施例1の赤外LED素子1は、導電性のInP基板上に搭載された比較例1の赤外LED素子と比べて、光出力が高いことが分かる。
【0116】
導電性のInP基板を含む比較例1の赤外LED素子の場合、通電時にInP基板内にフリーキャリアが多く存在することから、活性層13で生成され、InP基板側に進行した赤外光L1が、InP基板内に存在するフリーキャリアによって吸収された結果、光出力が低くなっているものと推察される。他方、半絶縁性のInP基板3を含む実施例1の赤外LED素子1の場合、通電時にInP基板3内に存在するフリーキャリアの量が比較例1よりも大幅に低下されているため、InP基板3内を通過する赤外光L1の吸収が抑制された結果、比較例1よりも光出力が上昇したものと推察される。
【0117】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0118】
〈1〉上記実施形態では、
図1を参照して、赤外LED素子1がフリップチップ実装されている場合について説明した。しかし、第一パッド電極25及び第二パッド電極27のそれぞれに対してボンディングワイヤが接続されることで、半導体層10に対して通電が形成される実装形式(いわゆるフェイスアップ実装)が採用された赤外LED素子1についても、本発明の範囲内である。この場合、赤外LED素子1は必ずしも高さ調整用電極29や反射電極26を備える必要がない。
【0119】
ただし、フェイスアップ実装の場合には、電極(21,22)側が光取り出し面となるため、電極(21,22)やボンディングワイヤによって、フリップチップ実装の場合と比べて光取り出し面積が低下する上、赤外LED素子1自体の厚みが厚くなってしまう。このため、より高い光取り出し効率を示し、且つ低背な素子を実現する観点からは、
図1に示したような、フリップチップ実装が予定されている赤外LED素子1の方が好ましい。
【0120】
〈2〉上記実施形態では、InP基板3が凹凸部6を備えるものとして説明したが、本発明においてInP基板3が凹凸部6を備えるか否かは任意である。ただし、光取り出し効率をより高める観点からは、InP基板3が凹凸部6を備える方が好適である。
【0121】
同様に、上記実施形態では、赤外LED素子1がInP基板3の光取り出し面側に透光層31を備えるものとして説明したが、本発明において赤外LED素子1が透光層31を備えるか否かは任意である。ただし、光取り出し効率をより高める観点からは、赤外LED素子1が透光層31を備える方が好適である。
【0122】
更に、上記実施形態では、第二電極22が部分電極を構成するものとして説明したが、本発明において第二電極22が部分電極であるか否かは任意である。ただし、光取り出し効率をより高める観点からは、第二電極22を部分電極とした上で、赤外LED素子1が第二電極22の上層に反射電極26を備える方が好適である。
【0123】
〈3〉上記実施形態では、第一半導体層11がn型であり、第二半導体層15がp型である場合について説明したが、これらの導電型が反転されていても構わない。
【0124】
〈4〉上述した製造方法を構成する各ステップのうち、一部のステップは順番が前後しても構わない。例えば、第二電極22を形成するステップS6と、第一電極21を形成するステップS7とは、順番が逆転しても構わない。また、例えば、InP基板3を薄膜化するステップS9は、電極(21,22)を形成するステップよりも先に行っても構わない。
【符号の説明】
【0125】
1 :赤外LED素子
3 :InP基板
6 :凹凸部
10 :半導体層
11 :第一半導体層
13 :活性層
15 :第二半導体層
19 :絶縁層
21 :第一電極
22 :第二電極
25 :第一パッド電極
26 :反射電極
27 :第二パッド電極
29 :高さ調整用電極
31 :透光層
35 :サブマウント
37a :パターン電極
37b :パターン電極
40 :ステム
41 :銀ペースト
42 :絶縁部材
43a :給電ピン
43b :給電ピン
44a :ボンディングワイヤ
44b :ボンディングワイヤ