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特開2022-65428ポリ塩化ビニルフィルム及び多層フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065428
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニルフィルム及び多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220420BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220420BHJP
   B32B 27/22 20060101ALI20220420BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220420BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20220420BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20220420BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20220420BHJP
【FI】
C08L27/06
B32B27/30 101
B32B27/22
B32B27/18 A
C08K5/3492
C08K5/10
C08L63/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174015
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀明
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AH02
4F100AH02C
4F100AH03
4F100AH03C
4F100AK01B
4F100AK15
4F100AK15C
4F100AK25
4F100AK53C
4F100AR00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA04
4F100CA04C
4F100CA07
4F100CA07C
4F100JL09
4F100JL11A
4F100JN01
4F100YY00C
4J002BD031
4J002BD041
4J002BD051
4J002BD061
4J002BD071
4J002BD081
4J002BD091
4J002BG072
4J002CD192
4J002CF033
4J002EH026
4J002EH096
4J002EH116
4J002EH136
4J002EU187
4J002FD010
4J002FD023
4J002FD026
4J002FD057
4J002FD060
4J002GF00
4J002GL00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】耐候性及び透明性に優れたポリ塩化ビニルフィルム、並びに、該ポリ塩化ビニルフィルムを用いた多層フィルムを提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビニル、可塑剤、及び、紫外線吸収剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムであって、厚さが50μm以上であり、上記可塑剤は、芳香族環を含まないエステル化合物であり、上記紫外線吸収剤は、2,4,6-トリフェニル-1,3,5-トリアジン骨格を含み、かつ上記骨格に水酸基が1つのみ結合した分子構造を有する20℃で固体の化合物であり、上記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、上記紫外線吸収剤が0.5重量部以上3重量部以下配合されているポリ塩化ビニルフィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル、可塑剤、及び、紫外線吸収剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムであって、
厚さが50μm以上であり、
前記可塑剤は、芳香族環を含まないエステル化合物であり、
前記紫外線吸収剤は、2,4,6-トリフェニル-1,3,5-トリアジン骨格を含み、かつ前記骨格に水酸基が1つのみ結合した分子構造を有する20℃で固体の化合物であり、
前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、前記紫外線吸収剤が0.5重量部以上3重量部以下配合されていることを特徴とするポリ塩化ビニルフィルム。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤は、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、又は、2-[4,6-ビス(1,1′-ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[(2-エチルヘキシル)オキシ]フェノールであることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニルフィルム。
【請求項3】
前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、前記可塑剤が15重量部以上50重量部以下配合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリ塩化ビニルフィルム。
【請求項4】
更に、エポキシ基含有アクリル樹脂を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリ塩化ビニルフィルム。
【請求項5】
厚さが300μm以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のポリ塩化ビニルフィルム。
【請求項6】
粘接着層及び樹脂フィルムを含む多層フィルムであり、
請求項1~5のいずれかに記載のポリ塩化ビニルフィルムが最表面に配置されている
ことを特徴とする多層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニルフィルム及び多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装飾及び保護のために、基材の表面に化粧フィルムを貼り付けることが行われている。化粧フィルムとしては、少なくとも1つの樹脂フィルムと、意匠層と、粘着層又は接着層とを積層してなる多層フィルムが広く用いられており、多層フィルムの最表面に、意匠層を保護するための透明フィルムが配置されることがある。この透明フィルムとして、ポリ塩化ビニルフィルムが用いられることがある。
【0003】
ポリ塩化ビニルフィルムには、紫外線による劣化を防止するために紫外線吸収剤が配合されることがある(例えば、特許文献1~3参照)。
【0004】
特許文献1には、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、(A)成分として、有機酸亜鉛塩を0.01~10.0質量部、(B)成分として、β-ジケトン化合物を0.01~10.0質量部、及び(C)成分として、特定の分子構造を有するトリアジン系化合物の一種以上を0.01~20.0質量部含有する塩化ビニル系樹脂組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、基材層、金属薄膜層及び粘着剤層がこの順に積層一体化されてなる装飾シートであって、上記基材層は、塩化ビニル系樹脂100重量部、一個以上のトリアジン骨格と二個以上の特定のピペリジン環構造とを有し且つ数平均分子量が500以上であるヒンダードアミン系光安定剤0.02~5重量部及びトリアジン系紫外線吸収剤0.01~0.1重量部が含有されていることを特徴とする装飾シートが開示されている。
【0006】
特許文献3には、基材、粘着剤層、及び、トップフィルムが順に積層されてなる化粧材であって、前記基材は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂で構成され、前記粘着剤層は、アクリル系粘着剤及びエポキシ系硬化剤を含有する粘着剤組成物の硬化物であり、前記トップフィルムは、ポリ塩化ビニル及び紫外線吸収剤を含有し、前記紫外線吸収剤の含有量は、前記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、0.1~5重量部であることを特徴とする化粧材が開示されており、紫外線吸収剤として、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が例示されている。
【0007】
また、多層フィルムを構成する樹脂フィルムに紫外線吸収剤を配合することも行われている。特許文献4には、基材層、透明樹脂層及び表面保護層をこの順に有し、該基材層及び該透明樹脂層の少なくとも一方の層が、少なくとも360~380nmに紫外線の吸収波長を有する樹脂を含む樹脂組成物により構成され、JIS K0115:2004に準拠して測定される、該表面保護層の波長360~380nmにおける吸光度A11が0.1超であり、該透明樹脂層及び該表面保護層の波長360~380nmにおける吸光度A12が0.3超である、化粧シートが開示されており、透明性樹脂層及び表面保護層の少なくとも一方の層にトリアジン系紫外線吸収剤を含めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6626091号明細書
【特許文献2】特開2009-190355号公報
【特許文献3】特開2019-130802号公報
【特許文献4】国際公開第2020/067469号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、屋外用途に化粧フィルムを活用するため、化粧フィルムに対して長期使用に耐え得る耐候性が求められるようになってきている。このため、多層フィルムの最表面に配置する透明フィルムとして用いられるポリ塩化ビニルフィルムについても、従来のものよりも優れた耐候性及び透明性を有するものが求められている。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、耐候性及び透明性に優れたポリ塩化ビニルフィルム、並びに、該ポリ塩化ビニルフィルムを用いた多層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、ポリ塩化ビニル、可塑剤、及び、紫外線吸収剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムであって、厚さが50μm以上であり、上記可塑剤は、芳香族環を含まないエステル化合物であり、上記紫外線吸収剤は、2,4,6-トリフェニル-1,3,5-トリアジン骨格を含み、かつ上記骨格に水酸基が1つのみ結合した分子構造を有する20℃で固体の化合物であり、上記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、上記紫外線吸収剤が0.5重量部以上3重量部以下配合されていることを特徴とする。
【0012】
上記紫外線吸収剤は、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、又は、2-[4,6-ビス(1,1′-ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[(2-エチルヘキシル)オキシ]フェノールであることが好ましい。
【0013】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、上記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、上記可塑剤が15重量部以上50重量部以下配合されていることが好ましい。
【0014】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、更に、エポキシ基含有アクリル樹脂を含有することが好ましい。
【0015】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、厚さが300μm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の多層フィルムは、粘接着層及び樹脂フィルムを含む多層フィルムであり、上記ポリ塩化ビニルフィルムが最表面に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐候性及び透明性に優れたポリ塩化ビニルフィルム、並びに、該ポリ塩化ビニルフィルムを用いた多層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の多層フィルムの一例を模式的に示した断面図である。
図2】本発明の多層フィルムの別の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、ポリ塩化ビニル、可塑剤、及び、紫外線吸収剤を含有するポリ塩化ビニルフィルムであって、厚さが50μm以上であり、上記可塑剤は、芳香族環を含まないエステル化合物であり、上記紫外線吸収剤は、2,4,6-トリフェニル-1,3,5-トリアジン骨格を含み、かつ上記骨格に水酸基が1つのみ結合した分子構造を有する20℃で固体の化合物であり、上記ポリ塩化ビニル100重量部に対して、上記紫外線吸収剤が0.5重量部以上3重量部以下配合されていることを特徴とする。
【0020】
<ポリ塩化ビニル(PVC)>
上記ポリ塩化ビニルとしては、例えば、塩化ビニルの単独重合体が好適に用いられ、塩化ビニルと他の単量体との共重合体であってもよい。
【0021】
上記他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、スチレン等のオレフィン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸ジエステル;フマル酸ジブチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸ジエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記他の単量体の共重合体における含有量は、通常、50重量%以下であり、好ましくは10重量%以下である。50重量%を超えると、ポリ塩化ビニルフィルムの耐屈曲性が低下するおそれがある。
【0022】
ポリ塩化ビニルの平均重合度は特に限定されず、求められるフィルムの硬さや、硬さの調整に用いられる可塑剤の量に応じて調整されるものであり、例えば、800~1300とされる。上記平均重合度の好ましい上限は1050である。平均重合度が800~1300の範囲内であると、比較的低温での成形性が特に良好である。これに対して、平均重合度が800未満では、成形時におけるエンボス形状を維持しにくくなるおそれがある。一方、平均重合度が1300を超えると、基材の表面形状への追従性が不充分となるおそれがある。
【0023】
<可塑剤>
上記可塑剤は、芳香族環を含まないエステル化合物(脂肪族エステル)であれば特に限定されず、従来からポリ塩化ビニルに配合されているものを用いることができる。脂肪族エステルを配合することにより、耐候性を確保しつつ、伸びがよく破断し難い柔軟なフィルムとすることができる。その結果、フィルム状に成形することが容易であり、基材への貼り付け時においても、基材の表面形状への優れた追従性が得られる。一方、ベンゼン環を含むフタル酸エステル等の芳香族環を含むエステル化合物(芳香族エステル)を用いた場合には、共役二重結合の影響で光吸収が大きく、充分な耐候性が得られない。
【0024】
脂肪族エステルは、非環式の脂肪族エステルであってもよいし、環式の脂肪族エステル(脂環式エステル)であってもよい。非環式の脂肪族エステルとしては、例えば、アジピン酸エステル、アジピン酸とポリアルコールが結合したポリエステルが好適に用いられる。脂環式エステルとしては、例えば、シクロヘキサン系カルボン酸エステルが好適に用いられる。
【0025】
可塑剤の数平均分子量は、350~3000であることが好ましい。数平均分子量が350未満では、可塑剤がフィルム表面にブリードするおそれがある。一方、数平均分子量が3000を超えると、可塑剤の添加によりフィルムを柔軟にする効果が充分に得られず、ポリ塩化ビニルフィルムが硬くなり過ぎることで、施工性が低下するおそれがある。可塑剤の分子量は、420以上であることが好ましい。
【0026】
ポリ塩化ビニルフィルム中の可塑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、10~80重量部であることが好ましい。上記含有量が10重量部未満であると、ポリ塩化ビニルフィルムが硬くなり過ぎることで、施工性が低下するおそれがある。上記含有量が80重量部を超えると、可塑剤がフィルム表面にブリードする(浮き出る)おそれがある。含有量のより好ましい下限は、15重量部であり、含有量のより好ましい上限は、50重量部である。
【0027】
<紫外線吸収剤>
上記紫外線吸収剤は、2,4,6-トリフェニル-1,3,5-トリアジン骨格を含み、かつ上記骨格に水酸基が1つのみ結合した分子構造を有する20℃で固体の化合物である。2,4,6-トリフェニル-1,3,5-トリアジン骨格を含むことにより、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いた場合よりも耐候性を向上することが可能である。また、上記骨格に結合した水酸基が1つのみであることにより、立体障害が少なく、ポリ塩化ビニルに対する高い相溶性を確保することができる。ポリ塩化ビニルに対する相溶性が充分でないと、フィルムの透明性が低下したり、フィルム表面へのブリードアウト(析出)が発生し粘着特性やラミネート性の低下を引き起こしたりする。また、紫外線吸収剤として液体のものを用いると、ブリードアウトが発生するので、固体の化合物が用いられる。上記紫外線吸収剤の融点は、ポリ塩化ビニルフィルムの原料を溶融混練する際の温度よりも低いことが好ましく、具体的には、100~130℃であることが好ましい。また、上記紫外線吸収剤は、20℃で粉体状であることが好ましい。
【0028】
紫外線吸収剤の好ましい例としては、下記化学式(1)に示した2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノールや、下記化学式(2)に示した2-[4,6-ビス(1,1′-ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[(2-エチルヘキシル)オキシ]フェノールが挙げられる。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
ポリ塩化ビニルフィルム中の紫外線吸収剤の含有量は、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、0.5重量部以上3重量部以下である。上記含有量が0.5重量部未満であると、充分な耐候性が得られない。上記含有量が3重量部を超えると、紫外線吸収剤がポリ塩化ビニルフィルムの表面に移行し、ブリードアウトするおそれがある。ブリードアウトが生じると、ポリ塩化ビニルフィルムの透明性、及び、粘着特性が低下してしまう。
【0032】
<エポキシ基含有樹脂>
ポリ塩化ビニルフィルムは、更に、エポキシ基含有樹脂を含有してもよい。エポキシ基含有樹脂を配合することにより、ポリ塩化ビニルフィルムの加工性を向上することができる。エポキシ基含有樹脂としては、例えば、エポキシ基含有アクリル樹脂が好適に用いられる。なお、ポリ塩化ビニルフィルムは、エポキシ基含有大豆油(エポキシ化大豆油)を含有しないことが好ましく、エポキシ基含有大豆油を含有する場合には、ポリ塩化ビニル100重量部に対して、1重量部以下であることが好ましい。エポキシ基含有大豆油を含有させると、ポリ塩化ビニルフィルムの耐候性や粘着特性が低下するおそれがある。
【0033】
ポリ塩化ビニルフィルムは、必要に応じて、熱収縮防止剤、安定剤、着色剤(顔料)、発泡剤、滑剤、改質剤、充填剤、希釈剤等の他の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤としては、ポリ塩化ビニルに一般的に配合されるものを使用することができる。
【0034】
ポリ塩化ビニルフィルムは、例えば、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の従来公知の成形法によってフィルム状に成形することができる。ポリ塩化ビニルフィルムの厚さは、50μm以上とされる。上記厚さが50μm未満であると、フィルム自体の強度が不足し、充分な耐久性及び耐候性が得られない。上記ポリ塩化ビニルフィルムは、厚さが300μm以下であることが好ましい。上記厚さが300μmを超える場合には、フィルムのコシが強すぎて、基材への貼付けが困難になるおそれがある。また、上記厚さに合わせて紫外線吸収剤の量を多くしないと、耐候性を向上する効果が充分得られなくなるおそれがあるが、紫外線吸収剤の量が多くなることで、紫外線吸収剤がポリ塩化ビニルフィルムの表面に移行し、ブリードアウトするおそれがある。
【0035】
上記ポリ塩化ビニルフィルムは、表面にエンボス加工が施されたものであってもよい。エンボス加工は、フィルム表面に型を押し付けてエンボス形状(凹凸形状)を付与するものである。上記ポリ塩化ビニルフィルムは、比較的低温(約130℃)で良好な成形性を有することから、エンボス加工に適しており、エンボス加工によって耐候性等の品質が低下することもない。エンボス加工は、フィルム表面の全体に施されてもよく、部分的に施されてもよい。エンボスの仕様によって上記ポリ塩化ビニルフィルムの意匠性を変えることができる。
【0036】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、単層フィルムとして用いられてもよいし、多層フィルムの一部として用いられてもよい。本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、粘接着層を介して、又は、ラミネート加工により他のフィルムと一体化することが可能である。上記ポリ塩化ビニルフィルムを含む多層フィルムとしては、上記ポリ塩化ビニルフィルムが最表面に配置されたものが好適に用いられる。
【0037】
本発明の多層フィルムは、粘接着層及び樹脂フィルムを含む多層フィルムであり、上記ポリ塩化ビニルフィルムが最表面に配置されていることを特徴とする。本発明の多層フィルムによれば、耐候性及び透明性に優れたポリ塩化ビニルフィルムによって最表面が構成されることから、ポリ塩化ビニルフィルムよりも下層に設けた意匠層による色彩や模様を損なうことなく保護することができる。したがって、屋外用途に適用可能な耐候性に優れた高品位の化粧フィルムを実現することができる。
【0038】
図1は、本発明の多層フィルムの一例を模式的に示した断面図である。図1に示した多層フィルム21は、上記ポリ塩化ビニルフィルム(トップフィルム)10、粘接着層12、意匠層14、樹脂フィルム(ベースフィルム)16、粘接着層18が順に積層された構造を有し、粘接着層18によって基材50に取り付けられている。
【0039】
粘接着層12は、粘着剤で形成された粘着層であってもよいし、接着剤の硬化物で形成された接着層であってもよい。粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。
【0040】
意匠層14は、多層フィルムに付与する意匠が形成される層であれば特に限定されず、例えば、印刷により形成された印刷層であってもよいし、金属等を蒸着して形成された蒸着層であってもよい。意匠の種類は特に限定されず、任意の色、柄(模様)を付与することができる。
【0041】
印刷層を形成するための印刷方法としては特に限定されず、例えば、インクジェット印刷、グラビア印刷等が挙げられる。インクジェット印刷の具体例としては、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体・アクリル系インクを、インクジェットプリンタによりベースフィルム16上に吐出する方法が挙げられる。グラビア印刷の具体例としては、1液硬化型インク又は2液硬化型インクを使用する方法が挙げられる。
【0042】
意匠層14は、ベースフィルム16の表面全体を覆うものであってもよく、部分的に覆うものであってもよい。例えば、印刷層が、任意の図柄や情報等に対応する平面形状である場合には、ベースフィルム16の表面を部分的に覆うものとなる。また、ベースフィルム16の表面に、意匠の定着性を向上させるための表面処理が施されてもよい。
【0043】
樹脂フィルム(ベースフィルム)16は、意匠層14が形成される下地となる層である。ベースフィルム16は、ポリ塩化ビニルを含有するものであることが好ましい。ベースフィルム16中のポリ塩化ビニルは、組成及び平均分子量等の点で、トップフィルム10中の塩化ビニル樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
ベースフィルム16は、可塑剤を含有することが好ましい。ベースフィルム16中の可塑剤は、組成、含有量及び数平均分子量等の点で、トップフィルム10中の可塑剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、トップフィルム10及びベースフィルム16は、積層されることから、基本的には同じ硬さであることが好ましい。そのため、トップフィルム10及びベースフィルム16は、厚さが同じであれば、可塑剤の含有量も同じであることが好ましい。
【0045】
ベースフィルム16は、必要に応じて、熱収縮防止剤、安定剤、着色剤(顔料)、発泡剤、滑剤、改質剤、充填剤、希釈剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤としては、ポリ塩化ビニルに一般的に配合されるものを使用することができ、トップフィルム10中の添加剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、ベースフィルム16は、トップフィルム10とは異なり、紫外線吸収材を含んでいなくてもよい。
【0046】
ベースフィルム16は、例えば、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の従来公知の成形法によってフィルム状に成形することができる。ベースフィルム16の厚さは特に限定されず、例えば、50~300μmとされる。
【0047】
粘接着層18は、粘接着層12と同様に、粘着剤で形成された粘着層であってもよいし、接着剤の硬化物で形成された接着層であってもよい。粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を用いることができる。
【0048】
基材50の材質は特に限定されず、例えば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等の樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);鉄、銅、アルミニウム等の金属;合金等が挙げられる。また、基材50の形状は特に限定されず、例えば、平板状であってもよいし、3次元曲面を有するものであってもよい。トップフィルム10及びベースフィルム16としてポリ塩化ビニルを用いることにより、柔軟で伸びによる破断の生じにくい被覆性に優れた多層フィルム21を作製することが可能である。
【0049】
また、図1は、多層フィルムを基材50に貼り付けた状態を示しており、基材50への取り付け前には、通常、粘接着層18の表面にセパレータが取り付けられている。セパレータは、基材50への貼付の直前に剥離すればよい。セパレータを設けることにより、多層フィルムの製造、運搬、保存中に粘接着層18が露出しないようにして、粘接着層18の劣化防止や、多層フィルムの取扱い性向上が可能となる。
【0050】
セパレータとしては特に限定されず、粘接着層18を損傷することなく容易に剥離できるものが好適であり、例えば、粘接着層18と接触する面にシリコーン樹脂、フッ素樹脂等を塗布することによって易剥離処理が施されたポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の樹脂フィルム(離型フィルム);上質紙、グラシン紙等の紙(離型紙);紙と被覆層との多層フィルム等が挙げられる。
【0051】
図2は、本発明の多層フィルムの別の一例を模式的に示した断面図である。図2に示した多層フィルム22は、上記ポリ塩化ビニルフィルム(トップフィルム)10、意匠層14、樹脂フィルム(ベースフィルム)16、粘接着層18が順に積層された構造を有し、粘接着層18によって基材50に取り付けられている。すなわち、図2の多層フィルム22は、トップフィルム10と意匠層14とは粘接着層12を介さずに積層されている点で、図1の多層フィルム21と異なっている。図2の多層フィルム22は、トップフィルム10を意匠層14上に熱ラミネートする方法等を用いて作製することができる。
【0052】
本発明の多層フィルムの用途としては特に限定されないが、トップフィルム10として本発明のポリ塩化ビニルを用いたことにより得られる優れた耐候性を生かす観点からは、屋外に設置される看板;鉄道、自動車等の車両の外装;玄関ドア、窓枠、軒天材等の建材;目隠し用のフェンス等の建築物の外構;等の屋外用途に好適である。また、本発明の多層フィルムによれば、塗装よりも簡易かつ安全な方法で、塗装品と同等の意匠性が得られる。
【実施例0053】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
平均重合度1000のポリ塩化ビニル100重量部に対して、可塑剤としての脂肪族直鎖高分子量ポリエステル(ADEKA社製、「PN-7535」)25重量部と、紫外線吸収剤としての2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール(ADEKA社製、「アデカスタブ LA-46」)1重量部と、エポキシ基含有アクリル樹脂(三菱ケミカル社製、「メタブレンP-1901」)3重量部と、シリカ化合物(トクヤマ社製、「ファインシールB」)0.1重量部と、ハイドロタルサイト(共和化学工業社製、「MAGCELER1」)0.1重量部と、アクリル系加工助剤(三菱ケミカル社製、「メタブレン P-530」)1.5重量部と、バリウム-亜鉛系の熱安定剤(ADEKA社製、「アデカスタブ AC-258」)4重量部とを添加し、PVCコンパウンドを得た。得られたPVCコンパウンドを2軸ロールで180℃で10分間、溶融混練した後、カレンダー成形を行って厚さ70μmのシート状に成形し、ポリ塩化ビニルフィルムを作製した。
【0055】
<実施例2~12>
下記表1に示すように、可塑剤、紫外線吸収剤及びエポキシ化合物(エポキシ基含有アクリル樹脂又はエポキシ化大豆油)の種類及び配合量を調整してPVCコンパウンドの組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリ塩化ビニルフィルムを作製した。
【0056】
<比較例1~11>
下記表2に示すように、PVCコンパウンドの組成又はポリ塩化ビニルフィルムの厚さを変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリ塩化ビニルフィルムを作製した。
【0057】
<評価試験>
実施例及び比較例で作製したポリ塩化ビニルフィルムについて、下記(1)~(3)の評価を行った。その結果を下記表1及び表2中に示した。
【0058】
(1)耐候性
ポリ塩化ビニルフィルムに対し、促進耐候性試験機(メタルウェザーメーター)に500時間投入し、光を照射した。照射前、300時間照射後及び500時間照射後のポリ塩化ビニルフィルムの色度を色差計により測定し、照射前との色差Δbに基づき変色度合いを判定した。
(判定基準)
◎ :Δb値が5以下
〇 :Δb値が5より大きく10以下
× :Δb値が10より大きく20以下
××:Δb値が20より大きい
【0059】
(2)透明性
ポリ塩化ビニルフィルムのヘイズ(黄色度:YI値)を測定した。
(判定基準)
〇:YI値が5未満
×:YI値が5以上
【0060】
(3)ブリードアウト
ポリ塩化ビニルフィルムを50℃、90%RHの環境下に1ヵ月間放置し、表面への噴き出し度合い(析出状態)を目視で確認した。
(判定基準)
〇:表面への噴き出しがなく、透明性が変わらなかった
×:表面への噴き出しが有り、透明性が低下した
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
上記表1及び2において、配合量の単位「PHR」は、ポリ塩化ビニル100重量部に対する重量部数を表している。また、上記表1及び2に示した可塑剤、紫外線吸収剤及びエポキシ化合物の詳細は、以下の通りである。
【0064】
<可塑剤>
PN-7535:ADEKA社製、「アデカサイザー PN-7535」(脂肪族直鎖高分子量ポリエステル)
DINCH:BASFジャパン社製、「Hexamoll(登録商標) DINCH(登録商標)」(脂環式エステル)
PN-7160:ADEKA社製、「アデカサイザー PN-7160」(脂肪族直鎖低分子量ポリエステル)
DINP:フタル酸ジイソノニル(ジェイ・プラス社製)
DOTP:テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(ジェイ・プラス社製)
【0065】
<紫外線吸収剤>
LA-46:ADEKA社製、「アデカスタブ LA-46」(上記化学式(1)の化合物、融点106~108℃)
1413:ADEKA社製、「アデカスタブ 1413」(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤)
チヌビン1600:BASFジャパン社製、「Tinuvin(登録商標)1600」(上記化学式(2)の化合物、融点120~130℃)
LA-29:ADEKA社製、「アデカスタブ LA-29」(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)
LAF-70:ADEKA社製、「アデカスタブ LAF-70」(2,4,6-トリフェニル-1,3,5-トリアジン骨格を含み、かつ上記骨格に水酸基が3つ結合した分子構造を有する)
【0066】
<エポキシ化合物>
P-1901:三菱ケミカル社製、「メタブレンP-1901」(エポキシ基含有アクリル樹脂)
G-0150M:日油社製、「マープルーフ(登録商標)G-0150M」(エポキシ基含有アクリル樹脂)
O-130P:ADEKA社製、「アデカサイザー O-130P」(エポキシ化大豆油)
【0067】
表1から分かるように、実施例1~12のポリ塩化ビニルフィルムは、耐候性及び透明性に優れ、高湿環境への放置後のブリードアウトによる透明性の低下も見られなかった。一方、比較例1~11のポリ塩化ビニルフィルムは、耐候性、透明性及びブリードアウトの評価結果のいずれか1つ以上で×評価又は××評価であり、充分な性能を有するものではなかった。
【符号の説明】
【0068】
10 ポリ塩化ビニルフィルム
12、18 粘接着層
14 意匠層
16 樹脂フィルム
21、22 多層フィルム
50 基材
図1
図2