(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065482
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】薄膜熱電対素子、測温素子及び薄膜熱電対素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01K 7/02 20210101AFI20220420BHJP
【FI】
G01K7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174093
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】591124765
【氏名又は名称】ジオマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】宮武 正平
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056KA03
2F056KA14
2F056KA16
(57)【要約】
【課題】温度特性の差が小さく、コネクタに対して交換可能な薄膜熱電対素子を提供する。
【解決手段】基板10と、該基板10の上にクロメルからなる第1導電性薄膜11及びアルメルからなる第2導電性薄膜12により形成され、一端側に測温用接点18を有し、他端側に各薄膜の外部接続点20,21を備えた熱電対と、を備え、第1導電性薄膜11の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下であり、第2導電性薄膜12の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下であることを特徴とする薄膜熱電対素子により解決される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の上にクロメルからなる第1導電性薄膜及びアルメルからなる第2導電性薄膜により形成され、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対と、を備え、
前記第1導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下であり、
前記第2導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下であることを特徴とする薄膜熱電対素子。
【請求項2】
前記基板の他端側において、前記外部接続点とは反対側には、補強部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載の薄膜熱電対素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の薄膜熱電対素子と、
前記薄膜熱電対素子の外部接続点と接続された一対の補償導線と、
前記外部接続点と離間した近傍に接点を有する、一対の金属線からなる第2の熱電対と、を備え、
前記一対の補償導線と、前記第2の熱電対の一対の金属線は、同一組み合わせの材料により構成されており、
前記第1導電性薄膜及び前記第2導電性薄膜の材料は、前記薄膜熱電対素子の外部接続点と接続された一対の金属線と同一組み合わせの材料からなることを特徴とする測温素子。
【請求項4】
前記外部接続点と、
前記外部接続点で接続される前記一対の補償導線と、を内部に収容するコネクタを有し、
前記第2の熱電対の接点は、前記外部接続点のそれぞれを結ぶ同一線上に離間して、
前記コネクタ内に一体に配設されていることを特徴とする請求項3記載の測温素子。
【請求項5】
基板を用意する工程と、
前記基板の上に第1導電性薄膜及び第2導電性薄膜を成膜して、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対を形成する工程と、を行い、
前記熱電対を形成する工程では、前記基板を100℃よりも高い温度で加熱することを特徴とする薄膜熱電対素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1導電性薄膜はクロメルからなり、
前記第2導電性薄膜はアルメルからなることを特徴とする請求項5に記載の薄膜熱電対素子の製造方法。
【請求項7】
前記第1導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下であり、前記第2導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の薄膜熱電対素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜熱電対素子、測温素子及び薄膜熱電対素子の製造方法に係り、特に、交換可能な薄膜熱電対素子、該薄膜熱電対素子を利用した測温素子及び薄膜熱電対素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温度測定用に作られた二種類の金属の組み合わせからなる素子は熱電対と称され、ゼーベック効果を利用した温度測定素子として古くから利用されてきた技術である。薄型でフレキシブルな温度センサとして薄膜熱電対がある。薄膜熱電対素子は、耐熱フィルムと導電性薄膜で形成されており、小型で狭く入り組んだ場所の温度を測定することが可能である。
【0003】
特許文献1には、測温素子において、薄膜熱電対の信号取り出し用外部金属の接続部分の近傍に、薄膜熱電対と同じ構成材料により構成され、かつ同じ長さの外部金属線を接続した補正用熱電対を備える技術が記載されている。この技術では、測温素子を用い、所定の計算式で演算を行うことにより、薄膜熱電対をバルク材料と接続することに起因する温度測定時の誤差を軽減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、コネクタ付きの薄膜熱電対素子は高価であるが、コネクタと結合された薄膜熱電対素子が破損した場合には交換することが困難であった。そこで薄膜熱電対素子のみをコネクタに対して交換可能にすることが望まれていた。
【0006】
薄膜熱電対素子を交換型とするには、各素子間の温度特性のばらつきが小さいことが必須であるが、従来の技術では、各素子間の温度特性が許容範囲を超えており、薄膜熱電対素子を交換する毎に、温度計測器でキャリブレーションを行わなければならなかった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、温度特性の差が小さく、コネクタに対して交換可能な薄膜熱電対素子、該薄膜熱電対素子を用いた測温素子及び薄膜熱電対素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明の薄膜熱電対素子によれば、基板と、該基板の上にクロメルからなる第1導電性薄膜及びアルメルからなる第2導電性薄膜により形成され、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対と、を備え、前記第1導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下であり、前記第2導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下であること、により解決される。
上記構成により、異なる薄膜熱電対素子の間で温度特性の差が小さくなり、コネクタに対して交換可能な薄膜熱電対素子として利用することが可能となる。
【0009】
このとき、前記基板の他端側において、前記外部接続点とは反対側には、補強部材が設けられていると好適である。
このように、補強部材を設けることで、薄膜熱電対素子の接続部の強度が向上し、コネクタとの接続性が向上する。
【0010】
前記課題は、本発明の測温素子によれば、上記の薄膜熱電対素子と、前記薄膜熱電対素子の外部接続点と接続された一対の補償導線と、前記外部接続点と離間した近傍に接点を有する、一対の金属線からなる第2の熱電対と、を備え、前記一対の補償導線と、前記第2の熱電対の一対の金属線は、同一組み合わせの材料により構成されており、前記第1導電性薄膜及び前記第2導電性薄膜の材料は、前記薄膜熱電対素子の外部接続点と接続された一対の金属線と同一組み合わせの材料からなること、により解決される。
【0011】
このとき、前記外部接続点と、前記外部接続点で接続される前記一対の補償導線と、を内部に収容するコネクタを有し、前記第2の熱電対の接点は、前記外部接続点のそれぞれを結ぶ同一線上に離間して、前記コネクタ内に一体に配設されていると好適である。
【0012】
前記課題は、本発明の薄膜熱電対素子の製造方法によれば、基板を用意する工程と、前記基板の上にクロメルからなる第1導電性薄膜及びアルメルからなる第2導電性薄膜を成膜して、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた熱電対を形成する工程と、を行い、前記熱電対を形成する工程では、前記基板を100℃よりも高い温度で加熱すること、により解決される。
上記構成により、異なる薄膜熱電対素子の間で温度特性の差が小さく、コネクタに対して交換可能な薄膜熱電対素子を得ることが可能となる。
【0013】
このとき、前記第1導電性薄膜はクロメルからなり、前記第1導電性薄膜はアルメルからなると好適である。
このとき、前記第1導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下であり、前記第2導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下であると好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の薄膜熱電対素子、測温素子及び薄膜熱電対素子の製造方法によれば、異なる薄膜熱電対素子の間で温度特性の差が小さくなり、コネクタに対して交換可能な薄膜熱電対素子及び該薄膜熱電対素子を用いた測温素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る薄膜熱電対素子を示す概略模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る測温素子の概略図である。
【
図3】温度計測における熱起電力と温度差の概略図である。
【
図4】各サンプル(例1~4)の表面のAFM像である。
【
図5】各サンプル(例5~8)の表面のAFM像である。
【
図6】K型熱電対素子を基準とした各薄膜熱電対素子の温度特性値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態(本実施形態)に係る薄膜熱電対素子および測温素子を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0017】
<薄膜熱電対素子1>
図1は本発明の実施形態に係る薄膜熱電対素子1の概略図である。
図1において第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12はそれぞれ異種材料であり、薄膜熱電対素子1の測温接点18にて接合されている。薄膜熱電対素子1の測温接点18は、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12が重なるように接合されている。
【0018】
薄膜熱電対素子1は、交換型の素子であり、コネクタ2に対して着脱可能に構成されている。薄膜熱電対素子1をコネクタ2と組み合わせることで測温素子Hが構成されている(
図2)。薄膜熱電対素子1と組み合わせるコネクタ2は、薄膜熱電対素子1を着脱可能なものであれば、素子の取付の方式等について、特に限定されるものではない。
【0019】
また、
図3に示されるように、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12は、測温接点18とは反対側の接続端部10aに位置する外部接続点20及び21にて、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12と同一の金属線と接合される。そして、薄膜熱電対素子1においては、基板10上に第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12を有し、その一端に被対象物の測温用である測温接点18、および他端に開放端となる各薄膜パターンの外部接続点20及び21が設けられている。薄膜熱電対素子1の外部接続点20及び21において、第1補償導線13及び第2補償導線14が接続される。
【0020】
さらに、外部接続点20及び21の近傍に他の金属細線からなる補正用熱電対の測温接点19があり、薄膜熱電対素子1のそれぞれの第1補償導線13及び第2補償導線14は補正用熱電対のそれぞれの第1金属線15及び第2金属線16と同一材料である。またこの測温素子Hにおいて、薄膜熱電対素子1の第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の材料は第1補償導線13及び第2補償導線14とそれぞれ同一材料であり、外部接続点20及び21と補正用熱電対の測温接点19が一体のコネクタ2内に配置されていると好ましい(
図3)。この補正用熱電対の測温接点19を、薄膜熱電対素子1の外部接続点20及び21の近傍に設置することにより、単純な構成の測温素子となり、かつ正確な温度を測定することができる。このとき、各熱電対は第1補償導線13及び第2補償導線14、第1金属線15及び第2金属線16は、CPU(計算回路)を備えた演算部17a及び接続線17cにより接続された演算結果表示部17bに接続されている。
【0021】
薄膜熱電対素子1を形成する基板10として、ガラス、フィルム、金属などを用いることができる。但し、基板10を金属などの導電性のある材料とする場合には、予め金属表面にSiO2、Al2O3等の絶縁膜を形成した上で薄膜熱電対を形成する必要がある。
したがって、好ましくはフィルムを用いるのが良い。ガラス、フィルムは金属などの導電性のある基板のように、前処理を必要とすることがないため、操作が煩雑になることが無く、好適である。また、フィルムはその可撓性により、測温素子の強度を高めることができる。さらに好ましくは、ポリイミドフィルムを用いるのが良い。ポリイミドフィルムは、折り曲げることが可能で基板を数十ミクロンの厚さにしても壊れにくく取り扱いが容易である点と、200℃を超える温度でも比較的安定している点において、薄膜熱電対の基板として適した材料である。
【0022】
基板10の厚さは、1μm以上150μm以下とすることが好ましく、より好ましくは1μm以上50μm以下、特に好ましくは1μm以上18μm以下であるとよい。
【0023】
薄膜熱電対素子1の第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12を構成する異種金属の組み合わせとしては、クロメル-アルメル、PtRh-Pt、クロメル-コンスタンタン、ナイクロシル-ナイシル、Cu-コンスタンタン、Fe-コンスタンタン、Ir-IrRh、W-Re、Au-Pt、Pt-Pd、Bi-Sbなどを用いることができる。好ましくは、使用温度範囲が広く、温度と熱起電力の関係が直線的である、クロメル-アルメルの組み合わせを用いるのが良い(例えば、第1導電性薄膜11がクロメルであり、第2導電性薄膜12がアルメルである)。
【0024】
第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の厚さは、10nm以上1μm以下とすることが好ましく、より好ましくは100nm以上700nm以下、より好ましくは150nm以上550nm以下であるとよい。
【0025】
第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸着法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
【0026】
薄膜熱電対素子1は保護膜Pにより覆われていることが望ましい。保護膜Pは薄膜熱電対素子1の耐環境性を高めると共に、薄膜熱電対素子1が外力により変形した際に懸念されるクラックの発生を防ぐ効果もあるためである。適用可能な保護膜Pは、SiO2、Al2O3などを蒸着法、スパッタリング法、ディッピング法等により形成した絶縁膜、スクリーン印刷法によるポリイミドフィルムなどである。好ましくは、耐熱性および耐薬品性が高く、接着性の高いポリイミドフィルムを用いるのがよい。
【0027】
なお、基板10の接続端部10aにおいて、外部接続点20及び21は反対側には、補強部材Gが設けられていると好ましい。補強部材Gの材質は、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシガラスを用いることが可能である。補強部材Gによれば、薄膜熱電対素子1の強度が向上し、コネクタ2との接続性が向上する。
【0028】
図3は、薄膜熱電対素子1を用いる場合における各熱電対の熱起電力と温度差の概略図である。V
aは、第1補償導線13及び第2補償導線14と第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の外部接続点20及び21と、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12の外部接続点である薄膜熱電対素子1の測温接点18との二点間の温度差ΔT
aに対して発生する薄膜熱電対素子1の熱起電力である。ここで、外部接続点20及び21は近接していることと、外部接続点20及び21の環境の温度は安定していることを前提とする。
【0029】
Vbは、補正用熱電対である第1金属線15及び第2金属線16の測温接点19と、温度表示器17との間の温度差ΔTbに対して発生する熱起電力である。
【0030】
薄膜熱電対素子1に接続されている第1補償導線13及び第2補償導線14において、薄膜熱電対素子1との外部接続点20及び21と温度表示器17との間にもΔTbの温度差があるため、その第1補償導線13及び第2補償導線14では熱起電力Vbが発生する。温度表示器17の温度をTcとすると、薄膜熱電対素子1の測温接点18の温度Tは、T=ΔTa+ΔTb+Tcとなる。また、この時に薄膜熱電対素子1の測温接点18から温度表示器17の閉回路で発生する熱起電力Vは、V=Va+Vbのようになる。
【0031】
ここで注意するべき点は、薄膜熱電対素子1において、ある温度差ΔToに対し発生する熱起電力と、薄膜熱電対素子1と同一の材料の金属線で形成される熱電対において温度差ΔToに対し発生する熱起電力とは等しくないということである。よって温度計測器を用いて熱起電力Vを測定しても、得られた熱起電力から薄膜熱電対素子1の測温接点18の温度Tを一意的に決めることはできない。
【0032】
本実施形態においては、第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12と第1補償導線13及び第2補償導線14の外部接続点20及び21付近に、第1補償導線13及び第2補償導線14と同一の材料の金属線で構成される補正用熱電対の測温接点19を設置して、その補正用熱電対の熱起電力を測定する。そのことによりVbが得られ、薄膜熱電対素子1側の閉回路で発生する熱起電力VからVbを差し引くことにより、導電性薄膜で発生する熱起電力Vaを得ることが可能になる。
【0033】
なお、第1金属線15及び第2金属線16で、第1補償導線13及び第2補償導線14と異なる材料の組み合わせを使用した場合、熱起電力Vbを正しく評価できなくなり、正確な温度を算出することはできない。
【0034】
薄膜熱電対素子1の測温接点18の出力をV1、補正用熱電対の測温接点19の出力をV2、ゼロ点補償による計測器の温度をTcとしたときに、薄膜熱電対素子1の測温接点18の温度Tは、T=aV1+bV2+Tc(但し、パラメータa,bは温度差と発生する熱起電力との関係から求められる近似曲線により算出される値である。)
【0035】
このとき、異なる薄膜熱電対素子1の間で温度特性のばらつきが大きい場合、補正係数であるパラメータa,bの個体差が大きくなってしまい代用することができないことが判明した。
【0036】
本願発明者らが鋭意検討を重ねた結果、薄膜熱電対素子1の製造方法において、基板の上にクロメルからなる第1導電性薄膜及びアルメルからなる第2導電性薄膜を成膜して熱電対を形成する工程において、基板を100℃よりも高い温度、具体的には150℃で加熱すると、異なる薄膜熱電対素子1の間で温度特性のばらつきが小さくなることを見出した。
【0037】
このとき、温度特性のばらつきが小さくなった薄膜熱電対素子1については、その面粗さ(ISO 25178)のパラメータ一について、クロメルからなる第1導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下(好ましくは0.95nm以下、より好ましくは0.9nm以下)であり、アルメルからなる第2導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下(好ましくは1.9nm以下、より好ましくは1.8nm以下)となっていることが分かった。
【0038】
算術平均高さ(Sa)は、2次元の粗さパラメータである算術平均粗さ(Ra)を3次元に拡張したものであり、3次元粗さパラメータ(3次元高さ方向パラメータ)である。算術平均高さ(Sa)は、測定対象領域において、各点の高さの差の絶対値の平均を表す。算術平均高さ(Sa)は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、1μm×1μm又は3μm×3μmの観察領域の平均値として算出される値とすればよい。
【0039】
<薄膜熱電対素子の製造方法>
本実施形態に係る薄膜熱電対素子の製造方法は、基板10を用意する工程(ステップS1)と、基板10の上に第1導電性薄膜11及び第2導電性薄膜12を成膜して、一端側に測温接点18を有し、他端側に各薄膜の外部接続点20,21を備えた熱電対を形成する工程(ステップS2)と、を行い、熱電対を形成する工程では、基板10を100℃よりも高い温度で加熱することを特徴とする薄膜熱電対素子の製造方法である。
【0040】
熱電対を形成する工程(ステップS2)は、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法で行われることが好ましい。このとき、基板としてポリイミドフィルムを用いると好適であり、100℃よりも高い温度、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは140℃以上、特に好ましくは150℃以上で加熱するとよい。なお、基板の加熱温度の上限値は、基板の材質、成膜されるクロメル薄膜やアルメル薄膜の膜質にもよるが、250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下であるとよい。
【0041】
本実施形態に係る薄膜熱電対素子の製造方法によれば、得られる薄膜熱電対素子の第1導電性薄膜(好ましくはクロメルからなる)の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下、好ましくは0.95nm以下、より好ましくは0.9nm以下であり、第2導電性薄膜(好ましくはアルメルからなる)の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下、好ましくは1.9nm以下、より好ましくは1.8nm以下となる。
【実施例0042】
以下、本発明の薄膜熱電対素子及び薄膜熱電対素子の製造方法の具体的実施例について説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0043】
<A.薄膜熱電対素子の作成>
以下の条件で、基板としてのポリイミド基材の上に、クロメル-アルメルの組み合わせで導電性薄膜を積層した。
スパッタ装置 :カルーセル型バッチ式スパッタ装置
ターゲット :5インチ×25インチ、クロメル-アルメル
スパッタ方式 :DCマグネトロンスパッタ
排気装置 :ターボ分子ポンプ
到達真空度 :2~5×10-4Pa
基材温度 :25°C(室温)又は150℃(設定値)
スパッタ電力 :7.5kW
導電性薄膜の膜厚:300~500±10nm
Ar流量 :250sccm
使用基材 :ポリイミド(PI)フィルム基材(50μm厚)
【0044】
<B.表面粗さの測定>
作成した各薄膜熱電対素子における導電性薄膜の表面粗さについて評価を行った。
具体的には、原子間力顕微鏡(AFM、Bruker AXS製、Innova)を用いて、各サンプル表面の面粗さ(ISO 25178)のパラメータ一として、算術平均高さ(Sa)、最大高さ(Sz)、クルトシス(尖り度、Sku)及びスキューネス(偏り度、Ssk)を以下の測定条件で測定した。結果を、
図4、
図5及び表1に示す。
測定モード:Tapping
Input Gain:×20
Target Tapping Signal:2V
Scan Rang e:3μm×3μm又は1μm×1μm
Scan Rate:0.3 Hz
Line:256
Closed Loop:ON
【0045】
【0046】
基板を150℃で加熱したサンプルについて、導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が、クロメル(例1及び例5)で1.0nm以下であり、アルメル(例3及び例7)で2.0nm以下であった。また、基板を加熱しなかったサンプル(室温、25℃)について、導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が、クロメル(例2及び例6)で1.3nm以上であり、アルメル(例4及び例8)で2.6nm以上であった。
【0047】
<C.温度特性の測定>
薄膜熱電対素子の導電性薄膜を構成する材料として、クロメル-アルメルを用い、基材温度を100℃又は150℃(設定値)として、上記の条件に基づいてスパッタリング法により、基板としてのポリイミドフィルム上に薄膜熱電対を形成した。さらに、形成した薄膜熱電対に基板とは異なるポリイミドフィルムを接着し、それを保護膜とした。
【0048】
図6に、通常のK型熱電対素子を基準とした各薄膜熱電対素子の温度特性値を示すグラフを示す。
図6に示すデータは、基材の加熱温100℃と150℃のそれぞれで2シート用意して測定をした結果である。薄膜熱電対素子の起電力は、バルクの熱電対素子7~8割であるため、正しい温度を求めるために補正が必要である。薄膜熱電対素子の測温接点と、コネクタ部(つまり、外部接続点)の温度を測定して、両測定値から真の温度を計算して求める。真の温度={T(薄膜)-T(コネクタ)}/a+T(コネクタ)としたときに、a=(薄膜熱電対の温度特性の傾き)/(K型熱電対の温度特性の傾き)である(温度特性の傾きは、起電力と温度の関係をプロットしたグラフから計算される傾きである)。
図6の縦軸はこのaの値に相当する。
【0049】
クロメル-アルメルの導電性薄膜をポリイミド基板の上に成膜する際に、基材温度が100℃以下である場合には各素子の間でその温度特性が大きくばらついていた。これに対して、導電性薄膜を成膜する際に、基材温度を100℃超、具体的には150℃以上とすることで、各素子の間で温度特性が略一致(
図6の縦軸で±0.0075、温度に換算して±1℃の範囲内)することがわかった。
【0050】
<D.まとめ>
以上の結果から、膜熱電対素子の製造方法に際し、基板の上にクロメルからなる第1導電性薄膜及びアルメルからなる第2導電性薄膜を成膜して熱電対を形成する工程において、基板を100℃よりも高い温度、具体的には150℃で加熱すると、異なる薄膜熱電対素子の間で温度特性のばらつきが小さくなることがわかった。
【0051】
このとき、薄膜熱電対素子において、クロメルからなる第1導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が1.0nm以下であり、アルメルからなる第2導電性薄膜の表面の算術平均高さ(Sa)が2.0nm以下となっており、クロメル薄膜やアルメル薄膜の膜質が安定化し、起電力のばらつきが低減したことが示唆された。
本発明の薄膜熱電対素子及び測温素子を用いることにより、薄膜熱電対素子を交換可能なものとすることができる。薄膜熱電対素子を用いた温度測定の利用分野は、特に限定されるものではないが、極小部の温度測定を好適に行うことが可能であり、例えば、燃料電池、加熱ローラー、熱プレス、電子回路部品発熱温度、化学反応温度、瞬間加熱温度などを測定することができる。