(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022065532
(43)【公開日】2022-04-27
(54)【発明の名称】変位計測ユニットと、それを使用する変位計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/00 20060101AFI20220420BHJP
【FI】
G01B7/00 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020174167
(22)【出願日】2020-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】397050707
【氏名又は名称】株式会社リニア・サーキット
(74)【代理人】
【識別番号】100090712
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 忠秋
(72)【発明者】
【氏名】尾野 弘明
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA02
2F063BA10
2F063BA11
2F063CA34
2F063DA01
2F063DD06
2F063GA52
2F063LA09
2F063NA02
(57)【要約】
【課題】ホールセンサHSi (i=1、2…N)の所要数が多くなっても実装上の問題を生じるおそれがない。
【解決手段】スケール部材11の長さ方向に配列するホールセンサHSi と、スケール部材11に近接して相対移動する磁石MGと、スケール部材11に組み込む電気回路ECとを設け、電気回路ECは、各ホールセンサHSi に対応する抵抗Ri (i=1、2…N)を含み、磁石MGを介して作動するホールセンサHSi の位置に応じて変化する検知電圧Vを出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケール部材の長さ方向に等間隔に配列して搭載するホールセンサと、前記スケール部材に近接して相対移動する磁石と、前記スケール部材に組み込む電気回路とを備えてなり、前記磁石は、前記ホールセンサを順に作動させ、前記電気回路は、前記各ホールセンサに対応する抵抗を含み、前記磁石を介して作動する前記ホールセンサの位置に応じて変化する検知電圧を出力することを特徴とする変位計測ユニット。
【請求項2】
前記電気回路は、前記抵抗の直列回路を含むことを特徴とする請求項1記載の変位計測ユニット。
【請求項3】
前記電気回路は、前記抵抗の選択回路を含むことを特徴とする請求項1記載の変位計測ユニット。
【請求項4】
前記ホールセンサは、前記スケール部材上に複数列に配置することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか記載の変位計測ユニット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか記載の変位計測ユニットと、前記電気回路に給電する電源回路と、AD変換器を介して前記電気回路の検知電圧を入力する演算ユニットとを備えてなる変位計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば鉄道架線の自動張力調整装置や、各種車両用のショックアブソーバなどの変位量を計測する用途に適用することができる変位計測ユニットと、それを使用する変位計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道架線のばね式の自動張力調整装置に適用する変位計測ユニットとして、ホールセンサ(ホール素子を利用する磁気センサをいう、以下同じ)を利用することが提案されている(たとえば特許文献1)。
【0003】
従来の変位計測ユニットは、スケール部材上に等間隔に配列するホールセンサと、スケール部材に近接して相対移動する磁石とを組み合わせ、磁石の移動によって順に作動するホールセンサの位置を検知するために、デマルチプレクサを介して各ホールセンサを選択して個別に給電している。すなわち、デマルチプレクサに供給する制御用のパルスを計数することにより給電中のホールセンサを特定し、給電中のセンサが磁石を介して現に作動中であることを検出することにより、磁石の位置を特定して計測対象の変位量を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術によるときは、スケール部材上のホールセンサは、デマルチプレクサを介して順次個別に選択して給電されるから、変位計測のストロークを大きくし、しかも計測分解能を高くしてホールセンサの所要数がたとえば100個以上と多くなると、幅狭のスケール部材上における配線が錯綜して実装が難しくなったり、全体サイズが過大になったりしがちであるという問題があった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、かかる従来技術の問題に鑑み、電気回路から出力される検知電圧の変化から作動中のホールセンサをアナログ的に特定することによって、ホールセンサの所要数が多くなっても実装上の問題を生じるおそれがなく、全体サイズをコンパクトに抑えることができる変位計測ユニットと、それを使用する変位計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためのこの出願の請求項1の発明の構成は、スケール部材の長さ方向に等間隔に配列して搭載するホールセンサと、スケール部材に近接して相対移動する磁石と、スケール部材に組み込む電気回路とを備えてなり、磁石は、ホールセンサを順に作動させ、電気回路は、各ホールセンサに対応する抵抗を含み、磁石を介して作動するホールセンサの位置に応じて変化する検知電圧を出力することをその要旨とする。
【0008】
なお、電気回路は、抵抗の直列回路を含むことができ、抵抗の選択回路を含むことができる。
【0009】
また、ホールセンサは、スケール部材上に複数列に配置してもよい。
【0010】
請求項5の発明の構成は、請求項1ないし請求項4のいずれかの発明の変位計測ユニットと、電気回路に給電する電源回路と、AD変換器を介して電気回路の検知電圧を入力する演算ユニットとを備えてなることをその要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
かかる請求項1の発明の構成によるときは、電気回路から出力される検知電圧は、磁石を介して作動するホールセンサの位置に応じて変化するから、電気回路からの検知電圧を外部から読み取ることにより、現に作動中のホールセンサの位置を特定し、そのホールセンサを作動させている磁石の位置を特定することができる。すなわち、たとえば鉄道架線の自動張力調整装置のような計測対象の変位部材に磁石を連結しておけば、磁石の位置に基づいて計測対象の変位量を計測することができる。なお、このときのホールセンサは、個別に選択して給電する必要がないから、その所要数がたとえば100個以上の多数個になったとしても、配線が錯綜して実装上の問題を生じたりすることがなく、コンパクトな全体サイズを容易に実現することができる。
【0012】
なお、ホールセンサの数Nとして、電気回路に含まれる抵抗Ri (i=1、2…N)は、各ホールセンサに対応している。そこで、n(n≦N)番目のホールセンサが作動するとき、電気回路内の抵抗Ri の直列回路のうち、1~n番目の抵抗Ri の合計抵抗値ra =r1 +r2 +…+rn は、作動中のホールセンサの位置を特定する指標として利用することができる。ただし、各抵抗Ri の抵抗値ri とし、このときの各抵抗Ri は、抵抗値ri =r(一定値)に揃えてもよい。また、電気回路内の抵抗Ri の選択回路では、n番目のホールセンサが作動するときに選択される抵抗Rn の抵抗値rn を作動中のホールセンサの位置を特定する指標として利用することができる。ただし、このときの各抵抗Ri は、それぞれの抵抗値ri が互いに異なり、同じ抵抗値ri が含まれないものとする。
【0013】
スケール部材上に複数列に配置するホールセンサは、計測分解能を容易に向上させることができる。一定間隔ごとに1列に配置するホールセンサは、たとえば同一間隔ごとの2列、3列に配置することにより、実質的にそれぞれ元の列の1/2、1/3の間隔を実現し、それぞれ2倍、3倍の計測分解能を実現することができるからである。
【0014】
請求項5の発明の構成によるときは、電源回路は、電気回路に電源電圧を供給する一方、演算ユニットは、AD変換器を介して電気回路の検知電圧を入力することにより、検知電圧に基づいて作動中のホールセンサを特定し、磁石の位置を特定して計測対象の変位量を計測することができ、請求項1の発明の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図6】他の実施の形態を示すホールセンサの配置説明図
【
図7】他の実施の形態を示す変位計測ユニットの模式斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を以って発明の実施の形態を説明する。
【0017】
変位計測ユニット10は、スケール部材11の長さ方向に等間隔に配列するN個のホールセンサHSi (i=1、2…N)と、支持部材12上の磁石MGとを備えてなる(
図1、
図2(A))。
【0018】
スケール部材11は、幅狭の絶縁基板であって、スケール部材11上には、ホールセンサHSi が搭載される他、コネクタCTと、抵抗Ro 、Ri (i=1、2…N)の直列回路とを含む電気回路ECが組み込まれている。各ホールセンサHSi には、コネクタCTのピン1からの電源電圧Vo が分岐して供給されており、各ホールセンサHSi の出力側は、対応する抵抗Ri の一端に接続されている。一方、抵抗Ro の一端は、コネクタCTのピン1に接続され、他端の抵抗R1 との接続点は、検知電圧VとしてコネクタCTのピン3に引き出されている。なお、各ホールセンサHSi の出力側の他端は、コネクタCTのピン2とともに接地されている。
【0019】
スケール部材11上の電気回路ECは、コネクタCTのピン1を介して電源回路13からの電源電圧Vo が供給されている(
図2(B))。また、電源回路13には、バッテリBの他、外部電源用のコネクタCVの各出力が入力されている。電気回路ECからの検知電圧Vは、コネクタCTのピン3を経て、AD変換器14を介して所定のビット数のディジタル信号として演算ユニット15に入力されている。
【0020】
磁石MG用の支持部材12は、スケール部材11に近接して配置されている(
図1(A))。支持部材12は、磁石MGをスケール部材11に近接させながらスケール部材11と平行に相対移動させ(
図1(B)の右向き白矢印方向)、磁石MGを介して、スケール部材11上の対応するホールセンサHSi を順に作動させることができる(
図1(A)、(B)の各下向き黒矢印)。
【0021】
そこで、各ホールセンサHSi は、たとえば磁石MGの磁束に反応する両極検出のスイッチタイプとすると、スケール部材11上の電気回路ECは、
図3の等価回路に書き換えることができる。すなわち、
図2(A)、
図3において、n(n≦N)番目のホールセンサHSn が作動すると、検知電圧V=(ra /(ro +ra ))Vo (ただし、ra =r1 +r2 +…+rn )となり、検知電圧Vに基づいて作動中のホールセンサHSn を特定し、ホールセンサHSn の位置から磁石MGの位置を検知して支持部材12の変位量を計測することができる。ここで、ro 、ri (i=1、2…N)は、抵抗Ro 、Ri の抵抗値であり、1~n番目の抵抗Ri (i=1、2…n)の合計抵抗値ra は、作動中のホールセンサHSn を示す指標とすることができる。
【0022】
一方、
図2(B)の電源回路13は、スケール部材11上の電気回路ECに電源電圧Vo を供給する。また、演算ユニット15は、AD変換器14を介して電気回路ECからの検知電圧Vを読み取り、検知電圧Vに基づいて作動中のホールセンサHSn 、磁石MGの各位置を特定して支持部材12の変位量を計測する。そこで、電源回路13、演算ユニット15は、
図1、
図2(A)の変位計測ユニット10と組み合わせる変位計測装置を形成している。
【0023】
変位計測装置は、たとえば鉄道架線Wのばね式の自動張力調整装置20に適用して計測対象とすることができる(
図4(A))。
【0024】
自動張力調整装置20は、外筒21に対して中筒22、内筒23を軸方向に摺動自在に組み合わせ、外筒21、中筒22の間、中筒22、内筒23の間にそれぞれ図示しない圧縮ばねを内装して構成されている。自動張力調整装置20は、補強材21aとともに外筒21を支柱WMに水平に装着して内筒23の先端に鉄道架線Wを連結することにより、内蔵の圧縮ばねを介して鉄道架線Wの伸縮を吸収することができる。
【0025】
変位計測装置中の変位計測ユニット10のスケール部材11は、外筒21の外面に固定され、磁石MG用の支持部材12は、内筒23の先端に固定されている。そこで、鉄道架線Wが伸縮して内筒23が軸方向に変位すると、磁石MGを介してスケール部材11上のホールセンサHSi が順に作動し、図示しない演算ユニット15を介して内筒23の変位量を計測することができる。ただし、
図4(A)において、ホールセンサHSi は、共通の符号HSを付して表示されている。
【0026】
変位計測装置は、油圧ダンパ31、圧縮ばね32を組み合わせる車両用のショックアブソーバ30を計測対象としてもよい(
図4(B))。
【0027】
油圧ダンパ31の両端には、シリンダ側、ピストン側の環状の取付部31a、31bが形成されている。また、ピストン側の取付部31bの基部には、磁石MG用の支持部材12が固定され、ホールセンサHSi を搭載するスケール部材11は、磁石MGに近接するようにして、ショックアブソーバ30の伸縮方向に保持されている。
【0028】
ショックアブソーバ30が伸縮すると、磁石MGを介してスケール部材11上のホールセンサHSi が作動し、図示しない演算ユニット15を介してピストン側の取付部31bの変位量を計測することができる。なお、
図4(B)においても、ホールセンサHSi は、共通の符号HSを付して表示されている。
【他の実施の形態】
【0029】
スケール部材11上において、ホールセンサHSi と組み合わせる抵抗Ri の直列回路は、ホールセンサHSi による抵抗Ri の選択回路に代えることができる(
図5)。ただし、
図5は、
図3相当の電気回路ECの等価回路である。
【0030】
図5において、n番目のホールセンサHSn が作動すると、検知電圧V=(rn /(ro +rn ))Vo となり、抵抗Rn の抵抗値rn によって検知電圧Vが決まる。そこで、検知電圧Vに基づいて作動中のホールセンサHSn の位置、磁石MGの位置を特定し、計測対象の変位量を計測することができる。ただし、このときの各抵抗Ri は、それぞれの抵抗値ri がすべて異なるものとする。
【0031】
スケール部材11の長さ方向に配列するホールセンサHSi は、1列に配置してもよいが(
図1、
図6(A))、複数列に配置してもよい(
図6(B)、(C))。ただし、
図6(A)~(C)において、各図の左右方向がスケール部材11の長さ方向であり、ホールセンサHSi は、n=1から始まる所定個数だけが図示されている。
【0032】
スケール部材11の長さ方向に間隔dごとの1列に配置するホールセンサHSi は、間隔d相当の計測分解能を実現することができる(
図6(A))。これに対し、同一間隔dごとの2列、3列に配置するホールセンサHSi は、それぞれ実質的な間隔d/2、d/3を実現し(
図6(B)、(C))、間隔d/2、d/3相当の高い計測分解能を実現することができる。ただし、2列、3列に配置するとき、各列のホールセンサHSi は、それぞれ元の列の1/2ピッチ、1/3ピッチずつ列方向に偏移させて配置するものとする。なお、スケール部材11上にホールセンサHSi を3列に配置する場合の変位計測ユニット10の形態を模式的に示すと、
図7のとおりである。ただし、
図7において、スケール部材11上のホールセンサHSi 以外の部材は、図示が省略されている。
【産業上の利用可能性】
【0033】
この発明は、使用環境が苛酷になりがちな鉄道架線の自動張力調整装置や各種の車両用のショックアブソーバなどを含む任意の計測対象に対し、広く好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
V…検知電圧
MG…磁石
EC…電気回路
HSi (i=1、2…N)…ホールセンサ
Ri (i=1、2…N)…抵抗
10…変位計測ユニット
11…スケール部材
13…電源回路
14…AD変換器
15…演算ユニット
特許出願人 株式会社 リニア・サーキット